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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161732
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】検出キット及び検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
G01N33/543 521
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072253
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(71)【出願人】
【識別番号】505089614
【氏名又は名称】国立大学法人福島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001793
【氏名又は名称】弁理士法人パテントボックス
(72)【発明者】
【氏名】山内 紀子
(72)【発明者】
【氏名】小林 芳男
(72)【発明者】
【氏名】永塚 実稚
(72)【発明者】
【氏名】内野 七海
(72)【発明者】
【氏名】伊東 美咲
(72)【発明者】
【氏名】尾形 慎
(57)【要約】
【課題】本発明の実施形態によれば、1つの側面では、ウイルスの変異による影響を受けず、優れた感度を有する検出キット及び検出方法を提供する。
【解決手段】 試料中に含まれるアナライトを検出するラテラルフロー型のテストストリップを有する検出キットであって、前記テストストリップは、メンブレンと、前記メンブレン上に設けられ、前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖及び標識を含む第1のリガンドを含むコンジュゲートパッドと、前記メンブレン上に設けられ、前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖を含む第2のリガンドが固定されているテストラインと、を有する、検出キット。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に含まれるアナライトを検出するラテラルフロー型のテストストリップを有する検出キットであって、前記テストストリップは、
メンブレンと、
前記メンブレン上に設けられ、前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖及び標識を含む第1のリガンドを含むコンジュゲートパッドと、
前記メンブレン上に設けられ、前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖を含む第2のリガンドが固定されているテストラインと、
を有する、検出キット。
【請求項2】
試料中に含まれるアナライトを検出するラテラルフロー型のテストストリップを有する検出キットであって、前記テストストリップは、
メンブレンと、
前記メンブレン上に設けられ、前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖を含む第2のリガンドが固定されているテストラインと、
を有し、
前記試料は、前記アナライトと、前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖及び標識を含む第1のリガンドとを含む、
検出キット。
【請求項3】
前記テストラインには、前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖を含む前記第2のリガンドが固定されている第1の領域と、前記アナライトと特異的に結合する抗体又は糖鎖が固定されている第2の領域とが設けられている、
請求項1又は2に記載の検出キット。
【請求項4】
前記第1のリガンドは、
ポリマー粒子の異なる複数の位置で前記ポリマー粒子の表面から内部に向けて各々埋め込まれる疎水基を介して前記ポリマー粒子と非共有結合的に固定される糖鎖を有する糖鎖固定化ポリマー粒子、
1分子中に複数の糖鎖及び複数の疎水基を側鎖に有し、ポリマー粒子の異なる複数の位置で前記ポリマー粒子の表面に吸着した前記疎水基を介して前記ポリマー粒子に疎水性相互作用により固定されるポリペプチドを有する糖鎖固定化ポリマー粒子、及び/又は、
ポリマー粒子と、1分子中に複数の糖鎖及び複数の疎水基を側鎖に持ち、前記ポリマー粒子の異なる複数の位置で前記ポリマー粒子の表面から内部に向けてそれぞれ個別に埋め込まれる前記複数の疎水基を介して前記ポリマー粒子と非共有結合的に固定される疎水化糖鎖ポリペプチドを有する糖鎖固定化ポリマー粒子、
を含む、請求項1又は2に記載の検出キット。
【請求項5】
前記糖鎖は、α‐2,3型シアロ糖鎖及び/又はα‐2,6型シアロ糖鎖である、請求項1又は2に記載の検出キット。
【請求項6】
前記標識は、蛍光色素である、請求項1又は2に記載の検出キット。
【請求項7】
メンブレンと、コンジュゲートパッド及びテストラインを有するラテラルフロー型のテストストリップを用いて、試料中に含まれるアナライトを検出する検出方法であって、前記検出方法は、
前記コンジュゲードパッドにおいて、前記アナライトと、前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖及び標識を含む第1のリガンドとを接触させることで、前記アナライト及び前記第1のリガンドを含む複合体を形成する工程と、
前記テストラインにおいて、前記複合体と、前記テストライン上に固定された前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖を含む第2のリガンドとを接触させる工程と、
を含む、検出方法。
【請求項8】
メンブレン及びテストラインを有するラテラルフロー型のテストストリップを用いて、試料中に含まれるアナライトを検出する検出方法であって、前記検出方法は、
前記アナライトが含まれる試料と、前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖及び標識を含む第1のリガンドと、を接触させることで前記アナライト及び前記第1のリガンドを含む複合体を形成する工程と、
前記テストラインにおいて、前記複合体と、前記テストライン上に固定された前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖を含む第2のリガンドとを接触させる工程と、
を含む、検出方法。
【請求項9】
メンブレン及びテストラインを有するラテラルフロー型のテストストリップを用いて、試料中に含まれるアナライトを検出する検出方法であって、前記検出方法は、
前記テストラインにおいて、前記アナライトが含まれる試料と、前記テストライン上に固定された前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖を含む第2のリガンドとを接触させる工程と、
前記テストラインにおいて、前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖及び標識を含む第1のリガンドと、前記第2のリガンドに吸着した前記アナライトとを接触させる工程と、
を含む、検出方法。
【請求項10】
前記テストラインは、前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖を含む前記第2のリガンドが固定されている第1の領域と、前記アナライトと特異的に結合する抗体又は糖鎖が固定されている第2の領域と、を有する、
請求項7乃至9のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項11】
前記第1のリガンドは、
ポリマー粒子の異なる複数の位置で前記ポリマー粒子の表面から内部に向けて各々埋め込まれる疎水基を介して前記ポリマー粒子と非共有結合的に固定される糖鎖を有する糖鎖固定化ポリマー粒子、
1分子中に複数の糖鎖及び複数の疎水基を側鎖に有し、ポリマー粒子の異なる複数の位置で前記ポリマー粒子の表面に吸着した前記疎水基を介して前記ポリマー粒子に疎水性相互作用により固定されるポリペプチドを有する糖鎖固定化ポリマー粒子、及び/又は、
ポリマー粒子と、1分子中に複数の糖鎖及び複数の疎水基を側鎖に持ち、前記ポリマー粒子の異なる複数の位置で前記ポリマー粒子の表面から内部に向けてそれぞれ個別に埋め込まれる前記複数の疎水基を介して前記ポリマー粒子と非共有結合的に固定される疎水化糖鎖ポリペプチドを有する糖鎖固定化ポリマー粒子、
を含む、請求項7乃至9のいずれか一項に記載の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖固定化ポリマー粒子、特に、疎水化糖鎖ポリペプチドを固定化したポリマー粒子を標識化リガンドとして使用したウイルス及び/又は細菌等のアナライトの検出キット及びその検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液、尿、唾液などの生体試料を含む測定試料中に含まれるウイルス等の被検出物質(アナライト)を検出する方法として、抗原-抗体反応を利用したイムノクロマト法(イムノクロマトグラフィ)を用いた検出方法が既に知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
イムノクロマト法による検出キットは、一般的に、メンブレンと、当該メンブレン上に、アナライトを含む測定試料が流れる方向に向かって、試料添加部(サンプルパッド)、反応部(コンジュゲートパッド)、検出部(テストライン)、コントロール部(コントロールライン)、及び、吸収パッドを備えている。そして、サンプルパッドにアナライトを含む測定試料を添加すると、測定試料は毛細管現象によりメンブレン上をサンプルパッド側から吸収パッド側へと移動する。反応部では、アナライトと特異的に結合する標識化リガンドを含んでおり、アナライトは、抗原抗体反応を介して標識化リガンドと結合して複合体を形成する。テストラインでは、複合体中のアナライトと特異的に結合するリガンド(固定化リガンド)が固定されており、複合体中のアナライトと固定化リガンドとの結合反応を介して、複合体がテストラインにて捕捉されることで、アナライトを検出することができる。
【0004】
イムノクロマト法による検出方法は、検出及び定量が迅速であり、大型の設備を必要としないため、各種臨床検査や検定試験において広く利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-61910号公報
【特許文献2】特開平09-227600号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】N.Yamauchi, et al.”One-pot formation of sugarimmobilized monodisperse polymethylmethacrylate particles by soap-free emulsion polymerization “ Colloids and Surfaces A 580(2019)123754.
【非特許文献2】M.Ogata, et al.”Application of Novel Sialoglyco Particulates Enhances the Detection Sensitivity of the Equine Infuenza Virus by Real-Time Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction,”3 ACS Appl. Bio Mater. 2019, 2, pp.1255-1261.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、イムノクロマト法を利用して、アナライトとしてウイルスを検出する場合、ウイルスが変異した場合に、現行の検出キットで使用される抗体では検出できない可能性があるため、ウイルスの変異に応じてテストラインに用いる抗体を作り直す必要がある。この変更作業には例えば数か月の日時を要することもあり、ウイルスの変異に対しても何ら変更を要さず即座に対応可能であり、高感度でアナライトを検出できる検出キットの開発が望まれている。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑み提案されたものであり、その目的として、1つの側面では、ウイルスの変異による影響を受けず、優れた感度を有する検出キット及び検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
試料中に含まれるアナライトを検出するラテラルフロー型のテストストリップを有する検出キットであって、前記テストストリップは、
メンブレンと、
前記メンブレン上に設けられ、前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖及び標識を含む第1のリガンドを含むコンジュゲートパッドと、
前記メンブレン上に設けられ、前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖を含む第2のリガンドが固定されているテストラインと、
を有する、検出キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、1つの側面では、ウイルスの変異による影響を受けず、優れた感度を有する検出キット及び検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】イムノクロマト法の検出キットの構成例を説明するための概略図である。
図2】疎水化糖鎖配糖体の前駆体を製造するときの製造例を模式的に示す図である。
図3】低分子量の糖鎖から高分子量のオリゴ糖鎖を合成するときの合成例を模式的に示す図である。
図4】実施例1のテストストリップの構成例を説明するための概略図である。
図5】実施例2のテストストリップの構成例を説明するための概略図である。
図6】実施例3のテストストリップの構成例を説明するための概略図である。
図7】実施例4のテストストリップの構成例を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態に係る検出キット及び検出方法では、標識化リガンドとして、アナライトと特異的に吸着する糖鎖を含むことで、検出対象の1つであるウイルスが変異した場合であっても当該ウイルスを確実に検出できる。しかしながら、糖鎖を標識化リガンドとして使用する場合、単一の糖鎖分子と、糖鎖受容体(タンパク質やウイルス等)との相互作用は非常に弱く、検出感度が不十分という問題点を有していた。そのため、本実施形態に係る好ましい検出キット及び検出方法では、糖鎖を複数分子集めてクラスターとし(以後、糖鎖クラスターと呼ぶ)、これを標識化リガントとして使用することで、高い検出感度を有する検出キット及び検出方法とすることができる。以下、本実施形態に係る検出キット及び検出方法について、詳細に説明する。なお、本実施形態に係る検出キット及び検出方法は、一例としてウイルスの検出キット及び検出方法について具体例を示して説明するが、本発明はこの点において限定されず、細菌、たんぱく質等の検出キット及び検出方法等にも応用可能である。
【0013】
(検出キット)
先ず、図1を参照して本実施形態に係る検出キットにおける、テストストリップの構成例について説明する。図1に、イムノクロマト法の検出キットの構成例を説明するための概略図を示す。
【0014】
図1に示す検出キット100のテストストリップは、メンブレン10と、このメンブレン10上に、アナライトを含む測定試料が流れる方向に向かって、サンプルパッド20、コンジュゲートパッド30、テストライン40、コントロールライン50、及び、吸収パッド60を備えている。本実施形態に係る検出キットのテストストリップにおいて、上記の構成要素は、後述する実施例で説明するように、任意の構成要素も含んでいる。
【0015】
図1に示すテストストリップのサンプルパッド20にアナライトを含む測定試料を添加すると、測定試料は、サンプルパッドの位置から毛細管現象により、コンジュゲートパッド30、テストライン40、コントロールライン50、及び、吸収パッド60の順に展開する。以下、本実施形態に係る各々の構成要素について、説明する。
【0016】
(測定試料及びアナライト)
本実施形態に係る検出キットに提供される測定試料としては、例えば、目的のアナライトを含み得る生体試料(例えば、全血、血清、血漿、尿、唾液、喀痰、鼻腔又は咽頭拭い液、髄液、羊水、乳頭分泌液、涙、汗、皮膚からの浸出液、組織や細胞および便からの抽出液等)や食品の抽出液等が挙げられる。
【0017】
本実施形態に係る検出キットのアナライトとしては、糖鎖と特異的に吸着する物質を含むものである限り特に限定されない。アナライトの具体例としては、腫瘍マーカー、シグナル伝達物質、ホルモン、微生物毒素等のタンパク質、核酸(一本鎖または二本鎖の、DNA、RNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、PNA(ペプチド核酸)等を含む)または核酸を有する物質、及び、その他の分子が挙げられる。別の言い方をすると、所望のタンパク質やウイルスの種類に応じて、それらと特異吸着する糖鎖の種類(及び数)を変える必要がある。例えば、検出対象のアナライトとしてインフルエンザウイルスを選択する場合、インフルエンザウイルスと特異吸着する糖鎖は、α-2,3型シアロ糖鎖及び/又はα-2,6型シアロ糖鎖などのシアロ糖鎖を選択することが好ましい。
【0018】
(メンブレン)
本実施形態に係る検出キットに使用されるメンブレンは、公知のテストストリップで使用されるメンブレンを使用することができ、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン、ニトロセルロース又は酢酸セルロース等のセルロース誘導体等で構成される繊維状又は不織繊維状マトリクス、膜、濾紙、ガラス繊維濾紙、布、綿等が挙げられる。
【0019】
(サンプルパッド)
サンプルパッドは、本実施形態に係る検出キットに測定試料を受け入れる領域であり、メンブレンに直接形成されているものでもよいし、セルロース濾紙、ガラス繊維、ポリウレタン、ポリアセテート、酢酸セルロース、ナイロン、及び、綿布等の公知の材料をメンブレンの一部に配置することで形成しても良い。
【0020】
(コンジュゲートパッド)
コンジュゲートパッドは、前述したアナライトと特異的に吸着(結合)する糖鎖を標識化リガンド(第1のリガンド)として含む反応部であり、ここでアナライトと標識化リガンドを含む複合体を形成する領域である。即ち、コンジュゲートパッドを設けることにより、アナライトを含む測定試料を、サンプルパッド又はコンジュゲートパッドに提供することで、このコンジュゲートパッドにて測定試料に含まれるアナライトを標識化リガンドに接触させることができる。コンジュゲートパッドは、本実施形態に係る検出キットにおいて必須の構成要素ではなく、例えば、予め測定試料に含まれるアナライトを標識化リガンドと接触させた後に、テストストリップに提供することで、コンジュゲートパッドを設けない検出キットとすることができる。
【0021】
コンジュゲートパッドの材料としては、公知のものを使用することができ、例えば、セルロース濾紙、グラスファイバー、および不織布等を使用することができ、このコンジュゲートパッドに標識化リガンドを含浸させてメンブレン上に固定して形成することができる。
【0022】
従来のイムノクロマト法では、抗原抗体反応を利用して、標識化リガンドとしてアナライトと特異的に結合する抗体を使用していた。そのため、検出対象の1つであるウイルスが変異した場合、従来の(変異前ウイルス用の)抗体では検出できない可能性があった(変異ウイルスであっても、従来の抗体で検出できる場合もある)。一方、本実施形態に係る標識化リガンドは、アナライトと特異的に吸着する糖鎖を含む。アナライトがウイルスである場合で、標識化リガンドとして抗体を使用する場合は、ウイルスの変異によって、その抗体との抗原抗体反応が起こらなくなる可能性があった。しかし、標識化リガンドとして糖鎖を用いる場合は、ウイルスの変異によってその吸着性は影響を受けない。そのため、検出対象の1つであるウイルスが変異した場合であっても、当該ウイルスを検出することができる。
【0023】
例えば、鳥の中で感染が流行する鳥型インフルエンザウイルス等の鳥型ウイルスが、ヒトに感染する形に変異した場合について説明する。変異したインフルエンザウイルスは、既存のインフルエンザウイルスと比較して強毒性となり得、また、新型インフルエンザ等の新型ウイルス疾患のパンデミックが起きる危険性がある。ここで、鳥型インフルエンザウイルスはα‐2,3型シアロ糖鎖を特異的に認識し、ヒト型インフルエンザウイルスはα‐2,6型シアロ糖鎖を特異的に認識する。そして、鳥インフルエンザウイルスがヒトにも感染する形に変異した場合、α‐2,6型シアロ糖鎖に対しても結合親和性を有するようになることから、α‐2,6型シアロ糖鎖をリガンドとした検出キットによって、鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染可能な変異を起こしたことを迅速に検出できる。このように鳥型ウイルスが変異したウイルスに対して、本発明の(ヒト型ウイルスを認識する)糖鎖をリガンドとしたウイルス検出キットを用いることにより、鳥型ウイルスがヒトに感染可能な変異を起こしたことを迅速に検出することができる。
【0024】
しかしながら、糖鎖を標識化リガンドとして使用する場合、単一の糖鎖分子と、糖鎖受容体(タンパク質やウイルス等)との相互作用は非常に弱く、検出感度が不十分という問題点を有していた。そのため、本実施形態に係る検出キットでは、糖鎖を複数分子集めてクラスターとし(以後、糖鎖クラスターと呼ぶ)、これを標識化リガントとして使用することが、検出感度の観点から好ましい。さらに、本実施形態に係る糖鎖を含む標識化リガンドは、蛍光標識した糖鎖クラスターを使用することで、蛍光検出によって感度を向上することができるため好ましい。以下に、標識化リガンドとして好適に使用できる糖鎖クラスターについて説明する。
【0025】
<標識化リガンド(第1のリガンド)>
本実施形態に係る検出キットにおける標識化リガンドに関して、上述したように、単一の糖鎖分子は、タンパク質やウイルスとの結合親和性が非常に弱いため、タンパク質やウイルスに対する特異的相互作用が十分でなく、所望の特異吸着性を発現することができない場合がある。そのため、本実施形態に係る標識化リガンドは、糖鎖を複数分子集めてクラスターとすることが好ましい。糖鎖クラスターの製造方法としては、微粒子(例えばサブミクロン粒子やナノ粒子)を担体(キャリア)として使用して、キャリアの表面上に多くの糖鎖分子を固定化する方法が挙げられる。
【0026】
ここで、微粒子としてはポリマー粒子(磁性粒子が含まれる場合もある)、又はガラス若しくは二酸化チタン等の金属酸化物複合体等の無機粒子が使用されるが、糖鎖の固定化方法を含め、製造が容易であること、特異吸着性等の機能付与が広範囲に行うことが出来ること等から、糖鎖固定化ポリマー粒子を好ましく使用することができる。
【0027】
糖鎖固定化ポリマー粒子の具体例としては、例えば、非特許文献1に記載されるような、ポリマー粒子の異なる複数の位置で前記ポリマー粒子の表面から内部に向けて各々埋め込まれる疎水基を介して前記ポリマー粒子と非共有結合的に固定される糖鎖を有する糖鎖固定化ポリマー粒子、非特許文献2に記載されるような、1分子中に複数の糖鎖及び複数の疎水基を側鎖に有し、ポリマー粒子の異なる複数の位置で前記ポリマー粒子の表面に吸着した前記疎水基を介して前記ポリマー粒子に疎水性相互作用により固定されるポリペプチドを有する糖鎖固定化ポリマー粒子などが挙げられる。
【0028】
また、糖鎖固定化ポリマー粒子の別の例として、ポリマー粒子と、1分子中に複数の糖鎖及び複数の疎水基を側鎖に持ち、前記ポリマー粒子の異なる複数の位置で前記ポリマー粒子の表面から内部に向けてそれぞれ個別に埋め込まれる前記複数の疎水基を介して前記ポリマー粒子と非共有結合的に固定される疎水化糖鎖ポリペプチドを有する糖鎖固定化ポリマー粒子も好ましく使用することができる。下記に、疎水化糖鎖ポリペプチドを有する糖鎖固定化ポリマー粒子について詳細に説明する。
【0029】
<疎水化糖鎖ポリペプチドを有する糖鎖固定化ポリマー粒子>
本実施形態において、ポリマー粒子は疎水性モノマーの重合体であり、疎水性モノマーとしては、スチレンとその誘導体、ビニルエステル、及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる1種以上のモノマー、より好ましくは、ソープフリー乳化重合の容易性と適用実績の点から、スチレンとその誘導体、及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる1種以上のモノマーである。これらの疎水性モノマーは、本発明の製造方法として後述するソープフリー乳化重合において一般的に使用されるモノマーである。
【0030】
疎水性モノマーとして用いられるスチレン及びその誘導体としては、スチレン、α-メチルスチレン、メチルスチレン、ブチルスチレン、t-ブチルスチレン、ジメチルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。上記の中でも、ポリマーエマルションの製造におけるソープフリー乳化重合の容易性、入手性及び経済性の観点から、スチレンが好ましい。
【0031】
疎水性モノマーとして用いられるビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、オクタン酸ビニル、デカン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等の、アルキル基又はアルケニル基を有するビニルエステルが挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。上記の中でも、ポリマーエマルションの製造におけるソープフリー乳化重合の容易性、入手性及び経済性の観点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0032】
疎水性アクリル系モノマーとして用いられる(メタ)アクリル酸エステルとしては、ポリマーエマルションの製造におけるソープフリー乳化重合の容易性、入手性及び経済性の観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、そのホモポリマーの20℃の水への溶解量が1質量%以下であるものが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキルの炭素数は、好ましくは1以上24以下、より好ましくは1以上12以下、更に好ましくは1以上8以下、より更に好ましくは1以上6以下である。なお本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸又はアクリル酸を意味する。
【0033】
メタクリル酸エステルの具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸n-デシル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、及びメタクリル酸イソボルニル等が挙げられる。
【0034】
これらのうち、ポリマーエマルションの製造におけるソープフリー乳化重合の容易性、入手性及び経済性の観点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸n-デシル、メタクリル酸イソデシル、及びメタクリル酸ラウリルからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、及びメタクリル酸イソオクチルからなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、及びメタクリル酸n-ヘキシルからなる群から選ばれる1種以上が更に好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、及びメタクリル酸n-ブチルからなる群から選ばれる1種以上がより更に好ましく、メタクリル酸メチルがより更に好ましい。
【0035】
アクリル酸エステルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸n-デシル、アクリル酸イソデシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、及びアクリル酸イソボルニル等が挙げられる。
【0036】
これらのうち、ポリマーエマルションの製造におけるソープフリー乳化重合の容易性、入手性及び経済性の観点から、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸n-デシル、アクリル酸イソデシル、及びアクリル酸ラウリルからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸n-ヘキシル、及びアクリル酸イソオクチルからなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸tert-ブチル、及びアクリル酸n-ヘキシルからなる群から選ばれる1種以上が更に好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、及びアクリル酸n-ブチルからなる群から選ばれる1種以上がより更に好ましく、アクリル酸n-ブチルがより更に好ましい。
【0037】
<1分子中に複数の糖鎖及び複数の疎水基を側鎖に持つ疎水化糖鎖ポリペプチド>
本実施形態においては、ポリマー粒子に固定化される疎水化糖鎖ポリペプチドとして、1分子中に複数の糖鎖及び複数の疎水基を側鎖に持つ疎水化糖鎖ポリペプチドが用いられる。この疎水化糖鎖ポリペプチドは、下記(1)式又は下記(2)式で表されるアミノ酸残基を持つポリペプチドを主鎖とし、前記主鎖にアミド結合を介して単糖又はオリゴ糖の構造を含有する配糖体を結合してなる側鎖、及び前記主鎖にアミド結合を介して疎水基を結合してなる側鎖、をそれぞれ複数で有するものである。
【0038】
【化1】
上記(1)式で表されるアミノ酸残基は、アミノ酸の一種であるグルタミン酸からなるポリペプチドを構成するγグルタミン酸残基である。γグルタミン酸残基を主鎖に有するポリγグルタミン酸(γ―PGA)は納豆菌等を培養することにより得られるバイオポリマーである。ポリγグルタミン酸(γ―PGA)は、バイオポリマーを利用するだけでなく、人工合成によって得ることができる。また、上記(2)式で表されるアミノ酸残基は、アスパラギン酸からなるポリペプチドを構成するアスパラギン酸残基である。アスパラギン酸残基を主鎖に有するポリアスパラギン酸は、自然界には存在しないため人工合成によって得られる。
【0039】
1分子中に複数の糖鎖及び複数の疎水基を側鎖に持つ疎水化糖鎖ポリペプチドとしては、合成の容易性、原料の入手性及び経済性の観点から下記(3)式で表されるポリペプチドを用いることが好ましい。
【0040】
【化2】
ここで、R1は水素、アルキル基又は一価の陽イオン金属で、R2は単糖配糖体又はオリゴ糖配糖体で、R3が疎水基であり、aは0又は1以上の整数で、b及びcはそれぞれ独立に2以上の整数である。
【0041】
上記(3)式に表されるように、ポリグルタミン酸残基を主鎖に有するポリペプチドは、バイオポリマーでもあるポリγグルタミン酸を原料として用いて公知の方法に従って合成できるため、ポリγグルタミン酸の入手の容易さ及びコスト低減の観点から、本発明において好適である。
【0042】
また、ポリγグルタミン酸を原料として用いる場合、上記R1は水素、アルキル基又は一価の陽イオン金属で、それぞれ-COOH、-COOX(ここで、Xはアルキル基である。)又は-COO(ここで、Mは一価の陽イオン金属である。)で表される置換基である。本発明においてポリγグルタミン酸を原料として用いる場合は、上記式(3)で表されるポリペプチドの合成を水溶媒中で容易に行うため、ポリγグルタミン酸の水溶性化合物として市販されているポリγグルタミン酸ソーダ又はポリγグルタミン酸カリウムが容易に入手できることから、上記R1は、前記-COONa、又は-COOを形成するナトリウム又はカリウムの陽イオン金属であることが好ましい。
【0043】
上記(3)式で表されるポリペプチドにおいて、疎水化糖鎖ポリペプチドの合成の容易性、ソープフリー乳化重合時における水系溶媒中での分散性、ポリマー粒子の固定性、及びポリマー粒子表面上に配列される糖鎖の高密度化の観点から、上記式(3)中のb及びcは、独立に500~3000であることが好ましく、さらに、1000~2500がより好ましい。また、上記(3)式で表されるポリペプチド中において、前記a、b及びcは、(a+b+c)に対して、それぞれ0.05~0.9、0.05~0.5及び0.05~0.6の比率で含まれることが好ましい。それによりポリペプチドの合成を一般的に採用される条件で容易に行うことができる。前記a、b及びcが前記の範囲から外れた比率で含まれるポリペプチドを合成する場合は、脱水縮合反応をさらに進める必要があるため、反応形態や反応条件等を最適化することが困難である。また、ポリペプチド中に含まれる糖鎖配糖体及び疎水基の含有比率に大きな偏りが生まれるため、本願発明の効果が十分に得られない。
【0044】
上記(3)式で表されるポリペプチドにおいて、R2は単糖及び2~7糖からなる群から選ばれる少なくともいずれかの糖の構造を含有する配糖体であり、さらに、特異吸着性の向上の観点から、前記R2が下記(4)式又は下記(5)式で表される配糖体であることが好ましい。
【0045】
【化3】
ここで、Y1及びY2は、それぞれ独立にスペーサー基として3~15のメチレン基が共有結合した構造を有する有機基、すなわち、鎖長が-(CH-から-(CH15-までのいずれかの基であり、m及びnは、それぞれ独立に0~2の整数であり、Zは単糖及び2~7糖からなる群から選ばれる少なくともいずれかの糖の構造を有する糖鎖である。
【0046】
単糖及び2~7糖からなる群から選ばれる少なくともいずれかの糖の構造を含有する糖鎖としては、例えば、下記表1~表4に記載される糖鎖構造(Z-)を有するものが挙げられる。下記表1~表4に挙げた糖鎖構造例は、本発明者等によって既に合成された化合物である(例えば、Bioorganic & Medical Chemistry, 15, 1383-1393 (2007)、Bioconjugate Chemistry, vol. 20, No. 3, 538-549 (2009)、Bioorganic & Medical Chemistry, 18, 621-629 (2007)、Journal of Applied Glycoscience, 61, 1-7 (2014)、Journal of Biotechnology, 209,50-57(2015)、Bioscience Biotechnology and Biochemistry 81, 1520-1528 (2017)を参照)。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
なお、上記表1~表4に示す糖鎖の中で、No.5、6、27、28及び29の5種類については、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の受容体となる可能性がある糖鎖である。したがって、それらの糖鎖が含まれる本発明の糖鎖固定化ポリマー粒子は、新型コロナウイルスのバイオセンサーとして適用できることが期待される。また、No.5と6、15、及び19は、それぞれJCウイルス、デングウイルス、及びパラインフルエンザに対して特異吸着性を示すことが知られている。また、 No.3と5、7、9、11、13、19及び27は、それぞれトリ型インフルエンザウイルスに対して、No.4と6、8、10、12、14、20及び27は、それぞれヒト型インフルエンザウイルスに対して、No.22及び24は、それぞれウマ型インフルエンザウイルスに対して特異吸着性を示すことが知られている。
【0051】
上記(3)式で表されるポリペプチドはポリマー粒子に固定化されるとき、糖鎖を前記ポリマー粒子の表面から離れた高い位置に配列することにより、タンパク質やウイルスへの感受性を高め、それらに対する特異吸着性を向上させることができる。そのとき、上記(4)式又は上記(5)式で表される糖鎖配糖体は、Y1及びY2の有機基が糖鎖の配列位置を高めるためのスペーサー基として機能する。この機能は、結合するメチレン基の数が3~15において最も効果的に発現し、ポリマー粒子の表面上における糖鎖の高密度配列と合わせて、タンパク質やウイルスに対する特異吸着性を大幅に向上することができる。Y1及びY2に含まれるメチレン基の数が2以下ではこの効果が得られず、また、15を超えると疎水化糖鎖ポリペプチドの合成や取扱いが難しくなる。スペーサー基を長くしたい場合には、上記(4)式又は上記(5)式に示すm又はnの数を1又は2に設定してもよい。しかしながら、前記m又はnが3以上でスペーサー基を長くし過ぎると、逆に、前記ポリマー粒子の表面から離れた高い位置に存在する糖鎖の運動性が増大し、自由に動けるようになるため、前記ポリマー粒子への糖鎖固定化によって特異吸着性を向上させるという技術的意義が無くなる。そのため、本発明においては、前記m又はnは0又は1が好ましい。なお、Y1及びY2に含まれるメチレン基は、少なくともどちらかの水素がメチル基又はエチル基などの鎖長の短いアルキル基で置換されたものを本発明の実施形態において使用してもよい。
【0052】
一方、前記特許文献2には、主鎖がメチレン基の2個と結合した疎水基を介してポリペプチド主鎖をアミド結合する開示される糖鎖高分子が開示されている。しかしながら、鎖長が短い疎水基(-CHCH-)はスペーサー基として機能するには不十分であり、本願発明と同じ効果を得ることが困難であった。それに対して、本発明はスペーサー基の長さを最適化した糖鎖配糖体の合成方法を採用することにより、この技術課題を解決することができる。
【0053】
上記(3)式で表される疎水化糖鎖ポリペプチドの前駆体の例として、R2が上記(4)式で表される配糖体の製造例を図2に模式的に示す(例えば、Bioconjugate Chem, Vol. 20, No.3, pp538-549を参照)。図2に示すように、Z-OHで表される糖鎖化合物(I)と、トリフルオロアセトアミドが末端に結合した長鎖アルコール(II)との酵素的縮合反応によって化合物(III)が合成される。図2には、化合物(II)の例として、トリフルオロアセトアミドペンタノールを示しているが、本発明においてはこの化合物に限定されない。加水分解反応は、触媒としてセルラーゼ from Trichoderma reesei 等の加水分解酵素が使用される。化合物(III)よりも長鎖の糖鎖配糖体を合成する場合は、化合物(III)と、アルカリ溶液中でトリフルオロアセトアミドが末端に結合した長鎖カルボン酸との脱水縮合による脱アシル化反応とを行い、化合物(IV)が合成される。ここで、脱水縮合反応には、カルボジイミド系等の脱水縮合剤が使用される。さらに、同様の脱アシル化反応を繰り返すことにより長鎖の化合物(V)が合成される。化合物(III)、(IV)及び(V)は、上記式(4)において、それぞれm=0、1及び2に相当する化合物である。
【0054】
本発明の実施形態においては、Z-OHで表される糖鎖化合物は、糖鎖(Z-)として単糖及び2~7糖からなる群から選ばれる少なくともいずれかの糖の構造を含有するが、前記糖鎖化合物の合成は図3に示す合成方法に従って行ってもよい。図3は、低分子の糖鎖から、より鎖長の長い高分子量のオリゴ糖鎖を合成するときの合成例を示す図である。図3に示すように、図2に示す化合物(IV)の例として、Z1-が表1に示すNo.1又はNo.2の化学構造を有する2糖グリコシド[化合物(VI)]を用いて、Z1-OHの付加反応によって4糖グリコシド[化合物(VII)]、さらに付加反応を進めて6糖グリコシド[化合物(VII)]がそれぞれ合成される。詳細は、前記の文献(Bioconjugate Chem, Vol. 20, No.3, pp. 539-549)に開示されているが、Z1-OHとして2糖グリコシドに代えて、1糖グリコシドを使用することにより、奇数の糖を有する任意のグリコシドを選択して合成してもよい。
【0055】
また、疎水化糖鎖ポリペプチドの前駆体としてR2が上記(5)式で表される配糖体の合成方法(不図示)は、例えば、Z-NHで表される糖鎖化合物と、トリフルオロアセトアミドが末端に結合した長鎖カルボン酸との脱水縮合反応によって合成される。脱水縮合反応の触媒としては、カルボジイミド系等の脱水縮合剤が使用される。このようにして合成された化合物は、図2の中段以降に示す脱水縮合反応と基本的に同じ方法に従って、アルカリ溶液中でトリフルオロアセトアミドが末端に結合した長鎖カルボン酸との脱水縮合による脱アシル化反応とを行い、さらに、同様の脱アシル化反応を繰り返すことにより、R2が上記(5)式で表される配糖体である疎水化糖鎖ポリペプチドの前駆体として、n=1又は2である長鎖の化合物が合成される。ここで、上記(5)式に示すnは、上記(4)式で示すmと同じように0~2の整数である。また、Z-NHで表される化合物に含まれるZ-の糖鎖構造も、基本的に上記表1~表4に示すものと同じものである。
【0056】
上記式(3)で表されるポリペプチドのR3は、前記R3が炭素数3~15の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であれば、ポリマー粒子の異なる複数位置の内部で疎水相互作用が十分に得られ、非共有結合的に糖鎖の固定化を強固に行うことができる。前記アルキル基の炭素数が2以下ではポリマー粒子に対する疎水相互作用が期待できず、また、炭素数が15を超えると、ポリペプチド主鎖がポリマー粒子の表面から高い位置に浮き上がる状態で固定化されるため、固定化の強度が大幅に減少する。本発明の実施形態においては、炭素数3~15のアルキル基として直鎖状及び分岐鎖状のどちらも使用できるが、ポリマー粒子の内部への浸透性の点から、置換基による立体障害を考慮しないでもよい直鎖状のアルキル基が好ましい。
【0057】
また、上述した糖鎖ポリマー粒子は、アナライトに特異的に吸着する糖鎖に、公知の方法によって、容易に検出のための標識物質を担持するように調製して標識化リガンドとすることができる。標識物質としては、特に限定されないが、例えば、蛍光色素等が好ましく使用される。
【0058】
また、上述したように、コンジュゲードパットを設ける代わりに、予め測定試料と、上述の糖鎖ポリマー粒子を含む溶液とを混合して複合体を形成させ、これを測定試料として検出キットに導入する方式であっても良い。
【0059】
(テストライン)
本実施形態に係る検出キットにおけるテストラインは、前述したアナライトと特異的に吸着(結合)する糖鎖が捕捉リガンド(第2のリガンド)として固定されている領域である。本実施形態に係る検出キットにおけるテストラインは、例えば、メンブレンの長さ方向における一領域に形成され、その一領域におけるメンブレンの幅方向及び厚さ方向の全体に亘って第2のリガンドを固定して形成することができる。なお、捕捉リガンド(第2のリガンド)に用いる糖鎖は、標識化リガンド(第1のリガンド)に用いる糖鎖と同じ糖鎖を用いても良いし、別の糖鎖を用いても良い。
【0060】
本実施形態に係る検出方法は、前記アナライトが実質的に第2のリガンドに接触して捕捉されればよく、例えば、測定試料中に含まれるアナライトと、前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖を含む第1のリガンドとを含む複合体が、このテストラインで捕捉される構成であっても良いし、予めアナライトが本実施形態に係る検出キットに供されてテストラインで第2のリガンドにより捕捉され、その後、前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖を含む第1のリガンドを含む溶液が本実施形態に係る検出キットに供されてテストラインでアナライトによって第1のリガンドが捕捉される構成であっても良い。
【0061】
また、本実施形態において、第2のリガンドが固定されたテストラインとは、テストストリップに測定試料を供した場合において、第2のリガンドがテストラインから移動しないように、メンブレン上に直接又は間接的に、物理的又は化学的に固定されている状態を意味する。
【0062】
直接的に固定する方法としては、物理吸着を利用する方法や、共有結合を利用する方法等が挙げられる。また、間接的に固定する方法としては、不溶性微粒子に第2のリガンドを結合した後に、メンブレンに固定する方法等が挙げられる。
【0063】
また、テストラインは、メンブレン上に複数の領域で設けても良い。その場合、前述したアナライトと特異的に吸着(結合)する糖鎖が捕捉リガンド(第2のリガンド)として固定されている領域が設けられていれば、その他の領域には、従来のリガンド(例えば、抗体やレクチン)が設けられていても良いし、その他の領域にも、アナライトと特異的に吸着(結合)する糖鎖が設けられていても良い。なお、ここで言う抗体とは、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体、遺伝子組換えにより得られる抗体及び抗体断片を含む。
【0064】
(コントロールライン)
本実施形態に係る検出キットにおけるコントロールラインは、メンブレン上に、標識化リガンドと特異的に結合する第3のリガンドが固定されている領域である。コントロールラインは必須の構成要素ではないが、コントロールラインを設けることで、テストストリップに供した試料が展開して、コントロールラインに到達し、検査が正常に行われたことを保証することができる。
【0065】
コントロールラインに使用する第3のリガントの種類及び固定化方法としては、アナライトの種類に応じて、従来のコントロールラインに使用するリガンド及びその固定化方法を採用することができる。
【0066】
(吸水パッド)
本実施形態における検出キットは、メンブレン上に、アナライトを含む測定試料が流れる方向の出口側に、吸水パッドを形成しても良い。吸水パッドは、例えば、セルロ-ス濾紙、不織布、布、セルロースアセテート等の公知の吸水性材料から形成される。添加された測定試料が展開して吸水パッドに届いてからの試料の移動速度は、吸水パッドの材質、大きさ等に依存するため、アナライトの検出・定量に合った速度に応じて吸水パッドの材質を選択することが好ましい。
【0067】
(実施例)
実施例を参照することにより、本実施形態に係る検出キット及びこの検出キットを使用したアナライトの検出方法について、更に詳細に説明する。なお、下記の実施例においては、アナライトとしてウイルスを選択し、捕捉リガンドとして前記ウイルスと特異的に吸着(結合)する糖鎖が固定化されたナノ粒子を選択した場合の例について説明する。
【0068】
(実施例1)
図4に、実施例1のテストストリップの構成例を説明するための概略図を示す。図4に示すように、実施例1の検出キット100aは、メンブレン10を有し、このメンブレン10上に、サンプルパッド20、コンジュゲートパッド30、テストライン40、コントロールライン50、及び、吸収パッド60が形成されている。
【0069】
実施例1の検出キット100aを用いたアナライト(ウイルス)の検出方法においては、先ず、測定試料70(ここでは、説明のためにアナライト80を含む測定試料70とする)がサンプルパッド20に供されると、測定試料70は、サンプルパッド20の位置から毛細管現象により、コンジュゲートパッド30へと展開する。
【0070】
ここで、実施例1のコンジュゲートパッド30には、標識化リガンド32(第1のリガンド)として蛍光色素を担持する糖鎖固定化ポリマー粒子が設けられている。そのため、コンジュゲートパッド30に展開した測定試料70中のアナライト80は、糖鎖固定化ポリマー粒子に吸着(結合)され、糖鎖固定化ポリマー粒子とアナライトとの複合体90が形成される。
【0071】
複合体90は、その後、メンブレンを介してテストライン40へと展開する。ここで、テストライン40には、捕捉リガンド42(第2のリガンド)として、アナライトと特異的に吸着(結合)する糖鎖が固定化されているため、複合体90はこの補捉リガンド42に捕捉される。
【0072】
この際、アナライトと複合体を形成していない糖鎖固定化ポリマー粒子もテストライン40へと展開するが、この糖鎖固定化ポリマー粒子は補捉リガンド42には捕捉されずテストライン40を通過してコントロールライン50へと展開する。
【0073】
コントロールライン50では、標識化リガンド32である糖鎖固定化ポリマー粒子と特異的に結合する第3のリガンド52が固定されている。そのため、糖鎖固定化ポリマー粒子がこのコントロールライン50で捕捉され、検査が正常に行われたことが保証される。
【0074】
最後に、測定試料の残部は吸収パッド60へと展開して、この吸収パッド60で吸収される。
【0075】
即ち、実施例1に係る検出方法は、コンジュゲードパッドにおいて、アナライトと、アナライトと特異的に吸着する糖鎖及び標識を含む第1のリガンドとを接触させることで、アナライト及び第1のリガンドを含む複合体を形成する工程と、テストラインにおいて、複合体と、テストライン上に固定されたアナライトと特異的に吸着する糖鎖を含む第2のリガンドとを接触させる工程と、を含む。
【0076】
実施例1に係る検出キット及び検出方法は、糖鎖を標識化リガンドとして利用している。そのため、アナライトとしてウイルスを選択し、そのウイルスが変異した場合であっても、確実にアナライトを検出することが可能である。また、本実施形態に係る検出キット及び検出方法では、糖鎖を複数分子集めてクラスターとした糖鎖固定化ポリマー粒子を標識化リガンドとして使用している。そのため、本実施形態に係る検出キット及び検出方法は、アナライトを高感度で検出することができる。
【0077】
(実施例2)
図5に、実施例2のテストストリップの構成例を説明するための概略図を示す。図5に示すように、実施例2の検出キット100bは、コンジュゲードパッドを有さない以外は、実施例1と同様の構成を有する。即ち、実施例2の検出キット100bは、メンブレン10を有し、このメンブレン10上に、サンプルパッド20、テストライン40、コントロールライン50、及び、吸収パッド60が形成されている。
【0078】
実施例2の検出キット100aを用いたアナライト(ウイルス)の検出方法においては、図5の上図に示すように、先ず、測定試料70を、予めアナライト80と特異的に吸着(結合)する糖鎖及び蛍光色素を担持する糖鎖固定化ポリマー粒子溶液(標識化リガンド32)に混合して、糖鎖固定化ポリマー粒子とアナライトとの複合体90を形成する。
【0079】
そして、複合体90を含む測定試料がサンプルパッド20に供されると、測定試料70は、サンプルパッド20の位置から毛細管現象により、テストライン40へと展開する。ここで、テストライン40には、捕捉リガンド42として、アナライトと特異的に吸着(結合)する糖鎖が固定化されているため、複合体90はこの補捉リガンド42に捕捉される。
【0080】
この際、アナライトと複合体を形成していない糖鎖固定化ポリマー粒子もテストライン40へと展開するが、この糖鎖固定化ポリマー粒子は補捉リガンド42には捕捉されずテストライン40を通過してコントロールライン50へと展開する。
【0081】
コントロールライン50では、標識化リガンド32である糖鎖固定化ポリマー粒子と特異的に結合する第3のリガンド52が固定されている。そのため、糖鎖固定化ポリマー粒子がこのコントロールライン50で捕捉され、検査が正常に行われたことが保証される。
【0082】
最後に、測定試料の残部は吸収パッド60へと展開して、この吸収パッド60で吸収される。
【0083】
即ち、実施例2に係る検出方法は、アナライトが含まれる試料と、アナライトと特異的に吸着する糖鎖及び標識を含む第1のリガンドと、を接触させることでアナライト及び前記第1のリガンドを含む複合体を形成する工程と、テストラインにおいて、複合体と、テストライン上に固定されたアナライトと特異的に吸着する糖鎖を含む第2のリガンドとを接触させる工程と、を含む。
【0084】
実施例2に係る検出キット及び検出方法は、糖鎖を標識化リガンドとして利用している。そのため、アナライトとしてウイルスを選択し、そのウイルスが変異した場合であっても、確実にアナライトを検出することが可能である。また、本実施形態に係る検出キット及び検出方法では、糖鎖を複数分子集めてクラスターとした糖鎖固定化ポリマー粒子を標識化リガンドとして使用している。そのため、本実施形態に係る検出キット及び検出方法は、アナライトを高感度で検出することができる。さらに、実施例2に係る検出キットは、予め測定試料と糖鎖固定化ポリマー粒子溶液とを混合して複合体を形成し、これを測定試料として使用している。そのため、実施例2に係る検出キット及び検出方法では、コンジュゲートパッドを必要としない。
【0085】
(実施例3)
図6に、実施例3のテストストリップの構成例を説明するための概略図を示す。図6に示すように、実施例3の検出キット100cは、コンジュゲードパッドを有さない以外は、実施例1と同様の構成を有する。即ち、実施例3の検出キット100bは、メンブレン10を有し、このメンブレン10上に、サンプルパッド20、テストライン40、コントロールライン50、及び、吸収パッド60が形成されている。
【0086】
実施例3の検出キット100cを用いたアナライト(ウイルス)の検出方法においては、先ず、図6の上図に示すように、測定試料70がサンプルパッド20に供されると、測定試料70は、サンプルパッド20の位置から毛細管現象により、テストライン40へと展開する。ここで、テストライン40には、捕捉リガンド42として、アナライトと特異的に吸着(結合)する糖鎖が固定化されているため、アナライト80はこの補捉リガンド42に捕捉される。
【0087】
実施例3においては、測定試料70は、糖鎖固定化ポリマー粒子を含んでいないため、コントロールライン50の第3のリガンド52では何も捕捉されず、測定試料70の残部は、吸収パッド60まで展開し、これに吸収される。
【0088】
その後、図6の下図に示すように、標識化リガンド32として蛍光色素を担持する糖鎖固定化ポリマー粒子を含む溶液をサンプルパッド20に供する。標識化リガンド32を含む溶液も、サンプルパッド20の位置から毛細管現象により、テストライン40へと展開する。ここで、図6の上図で説明したように、テストライン40には、捕捉リガンド42に捕捉されたアナライトが存在するため、蛍光色素を担持する糖鎖固定化ポリマー粒子を含む標識化リガンド32は、このアナライトに特異的に吸着(結合)する。
【0089】
この際、テストライン40のアナライトに吸着しなかった糖鎖固定化ポリマー粒子は、糖鎖固定化ポリマー粒子と特異的に結合する第3のリガンド52が固定されているコントロールライン50で捕捉され、検査が正常に行われたことが保証される。
【0090】
即ち、実施例3に係る検出方法は、テストラインにおいて、アナライトが含まれる試料と、テストライン上に固定された前記アナライトと特異的に吸着する糖鎖を含む第2のリガンドとを接触させる工程と、テストラインにおいて、アナライトと特異的に吸着する糖鎖及び標識を含む第1のリガンドと、前記第2のリガンドと吸着したアナライトとを接触させる工程と、を含む。
【0091】
実施例3に係る検出キット及び検出方法は、糖鎖を標識化リガンドとして利用している。そのため、アナライトとしてウイルスを選択し、そのウイルスが変異した場合であっても、確実にアナライトを検出することが可能である。また、本実施形態に係る検出キット及び検出方法では、糖鎖を複数分子集めてクラスターとした糖鎖固定化ポリマー粒子を標識化リガンドとして使用している。そのため、本実施形態に係る検出キット及び検出方法は、アナライトを高感度で検出することができる。さらに、実施例3に係る検出方法は、測定試料と、糖鎖固定化ポリマー粒子溶液とを別ステップに分けて検出キットに供している。そのため、実施例3に係る検出キット及び検出方法では、コンジュゲートパッドを必要としない。
【0092】
(実施例4)
図7に、実施例4のテストストリップの構成例を説明するための概略図を示す。図7に示すように、実施例4の検出キット100dは、メンブレン10を有し、このメンブレン10上に、サンプルパッド20、コンジュゲートパッド30、テストライン40、コントロールライン50、及び、吸収パッド60が形成されている。
【0093】
そして、実施例4の検出キット100dは、テストライン40において、糖鎖を含む捕捉リガンド42が固定されている領域44に加え、一例として第1の抗体45が固定されている領域46、及び、第2の抗体47が固定されている領域48が設けられている点で、実施例1の検出キット100aとは異なる。なお、図7に示す検出キット100dにおいては、1つのテストライン40上に捕捉リガンド42と抗体45、47を配置しているが、本発明はこの点において限定されない。例えば、他の構成として、2以上のメンブレンをサンプルパッドから下流側に分岐するように配置し、各々のメンブレン上にテストラインを設け、捕捉リガンドと抗体を相異なるテストライン上に配置しても良い。他にも、メンブレン上に隔壁や間隙を設けることによりメンブレン上のサンプルが流れる流路が複数になるようにして各々の流路上にテストラインを設け、捕捉リガンドと抗体を相異なるテストライン上に配置する構成であっても良い。
【0094】
また、図7を参照して説明した実施例4の検出キット100dでは、テストライン40上にアナライトと特異的に吸着(結合)する糖鎖を含む捕捉リガンド42が固定されている領域44に加え、第1の抗体45が固定されている領域46及び第2の抗体47が固定されている領域48が設けられている構成について例示したが、本発明はこの点において限定されない。例えば、領域44に、アナライトと特異的に吸着(結合)する糖鎖が固定され、領域46にアナライトと特異的に吸着(結合)する糖鎖(前記糖鎖と異なる糖鎖)が固定され、領域48に従来の抗体が固定されている構成であっても良い。また、図7では、領域が複数設けられ、その領域数が3である場合について説明したが、本発明はこの点においても限定されず、領域の数は2であってもよいし、4以上であっても良い。なお、当然ではあるが、図4乃至図6を参照して説明した実施例1乃至実施例3で示した検出キットにおいても、テストライン上に複数の領域を設ける構成を採用することができる。
【0095】
実施例4の検出キット100dを用いたアナライト80の検出方法においては、先ず、測定試料70がサンプルパッド20に供されると、測定試料70は、サンプルパッド20の位置から毛細管現象により、コンジュゲートパッド30へと展開する。
【0096】
ここで、実施例4のコンジュゲートパッド30には、標識化リガンド32(第1のリガンド)として蛍光色素を担持する糖鎖固定化ポリマー粒子が設けられている。そのため、コンジュゲートパッド30に展開した測定試料70中のアナライト80は、糖鎖固定化ポリマー粒子に吸着(結合)され、糖鎖固定化ポリマー粒子とアナライトとの複合体90が形成される。
【0097】
複合体90は、その後、メンブレンを介してテストライン40へと展開する。ここで、テストライン40には、アナライトと特異的に吸着する第1の抗体、及び、第2の抗体、並びに、捕捉リガンド42(第2のリガンド)として、アナライトと特異的に吸着(結合)する糖鎖が固定化されている。そのため、もし、アナライトがウイルス、特に従来の抗体(第1の抗体及び第2の抗体)には捕捉されない変異型ウイルスであった場合でも、捕捉リガンド42でアナライトを捕捉することができる。そのため、例えば、第1の抗体及び第2の抗体などのテストラインで捕捉されず、捕捉リガンド42でアナライトが捕捉された場合に、アナライトが変異型ウイルスであると判定することができる。ここで、変異型ウイルスであっても従来の抗体で捕捉され得ることも留意すべきである。しかしながら、従来の抗体で捕捉されず、捕捉リガンド42捕捉された場合には、アナライトのウイルスは変異型ウイルスであると判定することができる。
【0098】
この際、アナライトと複合体を形成していない糖鎖固定化ポリマー粒子もテストライン40へと展開するが、この糖鎖固定化ポリマー粒子は補捉リガンド42には捕捉されずテストライン40を通過してコントロールライン50へと展開する。
【0099】
コントロールライン50では、標識化リガンド32である糖鎖固定化ポリマー粒子と特異的に結合する第3のリガンド52が固定されている。そのため、糖鎖固定化ポリマー粒子がこのコントロールライン50で捕捉され、検査が正常に行われたことが保証される。
【0100】
最後に、測定試料の残部は吸収パッド60へと展開して、この吸収パッド60で吸収される。
【0101】
即ち、実施例4に係る検出方法は、テストラインは、コンジュゲードパッドにおいて、アナライトと、アナライトと特異的に吸着する糖鎖及び標識を含む第1のリガンドとを接触させることで、アナライト及び第1のリガンドを含む複合体を形成する工程と、テストラインにおいて、複合体と、第2のリガンドと前記抗体とを接触させる工程と、を含む。
【0102】
実施例4に係る検出キット及び検出方法は、糖鎖を標識化リガンドとして利用している。そのため、アナライトとしてウイルスを選択し、そのウイルスが変異した場合であっても、確実にアナライトを検出することが可能である。また、実施例4に係る検出キット及び検出方法では、アナライトが変異型ウイルスであるかどうかについても判定可能な場合がある。さらに、本実施形態に係る検出キット及び検出方法では、糖鎖を複数分子集めてクラスターとした糖鎖固定化ポリマー粒子を標識化リガンドとして使用している。そのため、本実施形態に係る検出キット及び検出方法は、アナライトを高感度で検出することができる。なお、実施例4に係る検出キットにおいてテストライン40には、アナライトと特異的に吸着(結合)する糖鎖を含む捕捉リガンド42(第2のリガンド)に加え、アナライトと特異的に吸着する第1の抗体、及び、第2の抗体を有する構成について説明したが、このテストラインに抗体を追加する構成は、実施例1乃至実施例3で説明した検出キットにおいても適用可能である。
【符号の説明】
【0103】
100 検出キット
10 メンブレン
20 サンプルパッド
30 コンジュゲートパッド
32 標識化リガンド(第1のリガンド)
40 テストライン
42 捕捉リガンド(第2のリガンド)
44 領域
45 第1の抗体
46 領域
47 第2の抗体
48 領域
50 コントロールライン
52 第3のリガンド
60 吸収パッド
70 測定試料
80 アナライト
90 複合体

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7