(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016174
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】ハードキャンディ
(51)【国際特許分類】
A23G 3/00 20060101AFI20230126BHJP
A23G 3/48 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
A23G3/00
A23G3/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120316
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】321006774
【氏名又は名称】DM三井製糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】塩見 和世
(72)【発明者】
【氏名】大田 和香奈
【テーマコード(参考)】
4B014
【Fターム(参考)】
4B014GB06
4B014GK12
4B014GL10
(57)【要約】
【課題】口内滞留時間及び保形性が改善したハードキャンディを提供すること
【解決手段】糖質と、セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有する、ハードキャンディ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質と、セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有する、ハードキャンディ。
【請求項2】
前記イネ科植物が竹である、請求項1に記載のハードキャンディ。
【請求項3】
前記糖質が、イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載のハードキャンディ。
【請求項4】
前記糖質が、還元イソマルツロースを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のハードキャンディ。
【請求項5】
口腔ケア用である、請求項1~4のいずれか一項に記載のハードキャンディ。
【請求項6】
セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、ハードキャンディの保形性改善剤。
【請求項7】
前記イネ科植物が竹である、請求項6に記載のハードキャンディの保形性改善剤。
【請求項8】
セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、ハードキャンディの口内滞留時間改善剤。
【請求項9】
前記イネ科植物が竹である、請求項8に記載のハードキャンディの口内滞留時間改善剤。
【請求項10】
セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、ハードキャンディの食感改良剤。
【請求項11】
前記イネ科植物が竹である、請求項10に記載のハードキャンディの食感改良剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードキャンディに関する。
【背景技術】
【0002】
キャンディは菓子の中でも比較的水分量が少なく、賞味期限が長い食品である。キャンディに関しては、近年健康志向の高まりにより、口腔ケア、抗肥満等の機能性を謳う種々の健康食品への利用が検討されている。また、感染症対策の一環でマスクを装着した際に、自らの口臭を気にする消費者が増えている。口臭の原因の一つに舌苔がある。舌苔とは口腔内の汚れが付着してできる白色の舌沈着物であり、口臭の原因になることが知られている(非特許文献1)。そのため、満遍なく舌を清掃して舌苔を除去することで口臭抑制効果が期待できる。キャンディによる舌苔除去方法として、緑茶抽出物を消臭素材、ゆず粉末を舌苔除去素材として配合したキャンディが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日歯周誌 47(1):36-43,2005
【非特許文献2】日歯周誌 48(3):182-191,2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
口腔ケア等の用途に用いられるキャンディは、口の中でくっつきにくく、口の中での滞留時間が長いことが望ましい。加えて、キャンディの種類、原料配合、形状等によっては運搬又は長期間の保菅において何らかの衝撃や湿度にさらされることで、破損及び溶解が生じて商品価値が低下する、または、破損もしくは溶解した商品が包材に付着して開封時の利便性が低下する恐れがあるため、耐久性・耐湿性を高めることでキャンディの保形性が向上していることが望ましい。さらに、キャンディに使用する原料は、キャンディ自体の風味や外観を損なわないよう、無味・無臭、または無色あることが望ましい。
【0005】
本発明の一側面は、口内滞留時間及び保形性が改善したキャンディを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、糖質と、セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有する、キャンディを提供する。当該キャンディは、糖質と、セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有するため、口内滞留時間及び保形性が改善している。
【0007】
本発明のキャンディにおいて、イネ科植物は、竹であってよい。この場合、口内滞留時間及び保形性を更に改善することができる。
【0008】
糖質は、イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてよく、還元イソマルツロースを含んでいてよい。この場合、本発明による効果が更に優れたものとなる。
【0009】
本発明のキャンディは、口腔ケア用であってよい。
【0010】
本発明は、セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、キャンディの保形性改善剤を提供する。
【0011】
本発明は、セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、キャンディの口内滞留時間改善剤を提供する。
【0012】
本発明は、セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、キャンディの食感改良剤を提供する。
【0013】
キャンディの保形性改善剤、キャンディの口内滞留時間改善剤及びキャンディの食感改良剤において、イネ科植物は竹であってよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、口内滞留時間及び保形性が改善したキャンディを提供することができる。本発明によれば、口内滞留時間及び保形性が改善していることに加えて、食感が改良されたキャンディを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】常温の水での溶解時間(撹拌有)の確認試験結果を示すグラフである。
【
図2】温水での溶解時間(撹拌有)の確認試験結果を示すグラフである。
【
図3】温水での溶解時間(静置)の確認試験結果を示すグラフであり、(a)、(b)及び(c)はそれぞれ1回目、2回目及び3回目の試験結果を示すグラフである。
【
図5】パラチニット(PN)及び竹由来食物繊維(BF)を含むハードキャンディの吸湿性確認試験の結果を示すグラフである。
【
図6】パラチノース(PST-N)及びBFを含むハードキャンディの吸湿性確認試験の結果を示すグラフである。
【
図7】PN、還元水飴及びBFを含むハードキャンディの吸湿性確認試験の結果を示すグラフである。
【
図8】PST-N、水飴及びBFを含むハードキャンディの吸湿性確認試験の結果を示すグラフである。
【
図9】グラニュ糖(GN)、水飴及びBFを含むハードキャンディの吸湿性確認試験の結果を示すグラフである。
【
図10】各種繊維を含むキャンディの溶解速度の確認試験を示すグラフである。
【
図11】各種繊維を含むキャンディの溶解速度の確認試験を示すグラフである。
【
図12】セルロース又はイネ科植物由来の食物繊維を含むハードキャンディの溶解速度の確認試験を示すグラフである。
【
図13】セルロース又はイネ科植物由来の食物繊維を含むハードキャンディの溶解速度の確認試験を示すグラフである。
【
図14】イネ科植物由来の食物繊維を含むハードキャンディの溶解速度の確認試験を示すグラフである。
【
図15】イネ科植物由来の食物繊維を含むハードキャンディの溶解速度の確認試験を示すグラフである。
【
図16】竹由来の食物繊維を含むハードキャンディの溶解速度の確認試験を示すグラフである。
【
図17】竹由来の食物繊維を含むハードキャンディの溶解速度の確認試験を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
<キャンディ>
本実施形態に係るキャンディは、糖質と、セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有する。
【0018】
「キャンディ」は、糖質を煮詰めて製造される飴菓子である。キャンディは、煮詰めるときの温度によって、ハードキャンディ及びソフトキャンディに分類される。ハードキャンディは、高温(例えば、130℃以上)で煮詰めることによって製造されるキャンディである。ハードキャンディの水分量は、例えば、ハードキャンディの全質量を基準として、10質量%以下、5質量%以下、又は3質量%以下であってよく、0.1質量%以上、0.5質量%以上、又は1質量%以上であってよい。
【0019】
キャンディは糖質を含む。糖質は、糖及び糖アルコールからなる群より選択される少なくとも1種であってよく、例えば、単糖、二糖、オリゴ糖(三糖から10糖)、多糖(10糖以上の糖質)及びこれらの糖アルコールからなる群より選択される少なくとも1種であってよい。糖質は、糖質を2種以上含む糖質混合物であってよい。糖質混合物として、例えば、水飴を用いることができる。糖アルコールとして、例えば、還元水飴を用いることができる。
【0020】
糖質には栄養源となる4kcal/gの一般的な糖質と、カロリーがこれより低い難消化性糖質がある。難消化性糖質には、一部のオリゴ糖及び糖アルコールが挙げられる。一般的にシュガーレスキャンディには糖アルコールが用いられる。
【0021】
キャンディは、4kcal/gの糖質及び糖アルコールの一方を含むものであってよく、4kcal/gの糖質及び糖アルコールの両方を含むものであってよい。4kcal/gの糖質及び糖アルコールを含む場合、4kcal/gの糖質の質量と糖アルコールの質量との比(4kcal/gの糖質/糖アルコール)は、1/9~9/1、又は6/4~8/2であってよい。
【0022】
単糖としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、アロース、アルロース等が挙げられる。二糖としては、イソマルツロース、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース等が挙げられる。オリゴ糖としては、ニゲロトリオース、マルトトリオース、ラフィノース等が挙げられる。多糖としては水飴が挙げられる。イソマルツロースは、「パラチノース」として三井製糖(株)が商標登録している二糖である。
【0023】
糖アルコールとしては、還元イソマルツロース、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、マンニトール、α-グルコピラノシル-1,1-マンニトール、α-グルコピラノシル-1,6-ソルビトール、還元麦芽糖水飴、還元水飴等が挙げられる。還元イソマルツロースは、「パラチニット」として三井製糖(株)が商標登録している糖アルコールである。
【0024】
糖質は、キャンディの吸湿がより抑制される観点、溶けにくさの観点、及び保形性が更に向上する観点から、イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてよく、還元イソマルツロースを含んでいてよい。
【0025】
糖質の含有量は、例えば、キャンディの全質量を基準として、例えば、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよく、99質量%以下、98質量%以下、又は97質量%以下であってよい。
【0026】
本実施形態に係るキャンディは、セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種を含む。イネ科植物は、例えば、竹及びササ等のイネ科タケ亜科植物、イネ科カラスムギ属植物、イネ科コムギ属植物、イネ科サトウキビ属植物、イネ科オオムギ属植物、イネ科ライムギ属植物、イネ科トウモロコシ属植物であってよい。イネ科カラスムギ属植物としては、例えば、オート麦(エンバク)が挙げられる。セルロースは、例えば、木質性セルロース、粉末セルロース、結晶セルロースであってよい。
【0027】
イネ科植物は、本発明の効果に更に優れる観点から、イネ科タケ亜科植物及びイネ科カラスムギ属植物(例えば、オート麦)からなる群より選択される少なくとも1種であってよく、イネ科タケ亜科植物であってよく、竹であってよい。
【0028】
イネ科植物由来の食物繊維は、イネ科植物を原料として製造される食物繊維である。イネ科植物由来の食物繊維は、例えば、イネ科植物の原料をパルプ化し、パルプ化した原料を粉砕し、その後分級することによって得ることができる。イネ科植物由来の食物繊維は、不溶性食物繊維を含む。不溶性食物繊維としては、例えば、セルロース、ヘミセルロース、リグニンが挙げられる。竹由来の食物繊維は、通常、セルロース及びヘミセルロースを含む。竹由来の食物繊維のセルロースの含有量は、竹由来の食物繊維全量に対して、65~85質量%であってよい。竹由来の食物繊維のヘミセルロースの含有量が15~35質量%であってよい。竹由来の食物繊維のリグニンの含有量は竹由来の食物繊維全量に対して、5質量%以下であってよい。竹由来の食物繊維は、通常、無味・無臭であり、白色であってよい。
【0029】
イネ科植物由来の食物繊維としては、UNICELL BF30、UNICELL BF75、UNICELL BF90、UNICELL BF200、及び、UNICELL BF500(いずれも三井製糖社製であり、UNICELは登録商標である。)、UNICELL WF30、UNICELL WF75、UNICELL WF90、UNICELL WF200、UNICELL WF500、UNICELL OF75、UNICELL OF90、UNICELL OF200(いずれもインターファイバー社製である。)、ビタセルHF600/30、ビタセルHF600、ビタセルHF200、ビタセルWF200、ビタセルWF600、及びビタセルWF600/30(いずれもレッテンマイヤー社製である。)等が挙げられる。
【0030】
セルロースは、木材パルプ等を原料として製造される不溶性食物繊維である。セルロースは例えば、木材パルプを、加水分解又は粉砕等をして得たセルロースを、その後分級することによって得ることができる。セルロースの純度は、80~100質量%であってよい。セルロースは、通常、無味・無臭であり、白色であってよい。
【0031】
セルロースとしては、UNICELL PF30、UNICELL PF75、UNICELL PF90、UNICELL PF200、及び、UNICELL PF500(いずれもインターファイバー社製であり、UNICELは登録商標である。)、ハンフロックHL200/30、ビタセルL00、ビタセルL600、ビタセルL600/30、VIVAPUR101,VIVAPUR102、ARBOCEL BE600-10、ARBOCEL BE600-20PU、ARBOCEL BE600-30、ARBOCEL BE800、ARBOCEL BWW40、ARBOCEL BC200、ARBOCEL B400、ARBOCEL FIF400(いずれもレッテンマイヤー社製である。)等が挙げられる。
【0032】
セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維の粒度は、例えば、本発明の効果に更に優れる観点から、10μm以上、50μm以上、100μm以上、150μm以上、200μm以上、250μm以上、300μm以上、350μm以上、400μm以上、又は450μm以上であってよい。セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維の粒度は、例えば、本発明の効果に更に優れる観点から、1000μm以下、900μm以下、800μm以下、700μm以下、600μm以下、又は550μm以下であってよい。セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維の粒度は、例えば、吸引機能付き篩振とう機(例えば、Retsch製のエアジェットシーブAS200jet)の篩上にサンプルを一定量置き、吸引しながら篩を振とうさせ、篩上のサンプル重量より粒度を測定する方法によって測定される粒度を意味する。
【0033】
セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維の粒度が大きくなるほど、溶解速度がより遅くなり、口内滞留時間の改善効果がより高まる傾向がある。
【0034】
セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種の含有量は、本発明の効果に更に優れる観点から、糖質と、セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種との合計質量100質量部に対して、0.1質量部以上、0.5質量部以上、1.0質量部以上、1.5質量部以上、2.0質量部以上、2.5質量部以上、3.0質量部以上、3.5質量部以上、4.0質量部以上、又は4.5質量部以上であってよく、10質量部以下、9質量部以下、8質量部以下、7質量部以下、又は6質量部以下であってよい。
【0035】
本実施形態に係るキャンディは、糖質、セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維以外のその他の成分を更に含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、塩類(食塩など)、上記糖質以外の甘味料(オリゴ糖、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アドバンテーム、ネオテーム、プシコースなど)、酸味料(酢酸、グルコン酸、コハク酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、アスコルビン酸、リン酸など)、香料、着色料、保存料、酸化防止剤、安定剤、ミネラル類、ビタミン類、アミノ酸及びその塩類、生薬、生薬抽出物、カフェイン、ローヤルゼリー、セルロース及びイネ植物由来以外の食物繊維、野菜汁・果汁、ポリフェノール等が挙げられる。
【0036】
その他の成分の含有量は、糖質、セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維の合計質量100質量部に対して、0.1質量部以上、又は0.5質量部以上であってよく、10質量部以下、又は5質量部以下であってよい。
【0037】
本実施形態に係るキャンディは、キャンディ原料と、水と、を煮詰め、その後、冷却することによって、キャンディを形成する工程を含む方法によって製造することができる。キャンディ原料は、糖質、及びセルロース又はイネ科植物由来の食物繊維を含む。キャンディ原料は、上述したその他の成分を更に含んでいてもよい。煮詰めた後の飴生地は、冷却する前に型に流し込み、所定の形状に成形してもよく、所定の形状に成形しやすい温度まで冷却しロープ状等にしたものを型押しや球断により、成形してもよい。
【0038】
キャンディ原料を煮詰める際の温度は、例えば、常圧加熱であれば130℃以上、140℃以上、又は150℃以上であってよく、糖質の分解をより抑制できる観点、吸湿がより抑制される観点、及び、保形性を更に改善する観点から、190℃未満、又は185℃以下であってよい。分解・着色しやすい原料を使用する場合や連続的に製造する場合等は真空釜を使用するが、その場合は130℃以下で濃縮してもよい。煮詰めた後の飴生地を冷却する際の温度は、例えば、5~30℃であってよい。
【0039】
本実施形態に係るキャンディは、糖質と、セルロース又はイネ科植物由来の食物繊維とを含むことによって、口内滞留時間が改善している。口内滞留時間は、具体的には、キャンディの溶解時間を測定することによって評価される。口内滞留時間が改善していることは、例えば、後述する実施例の方法によって評価される。本実施形態に係るキャンディは、溶解時間が遅く、口内滞留時間がより長くなっているため、口腔ケア用として好適である。口腔ケア用として用いる場合、本実施形態に係るキャンディの口内滞留時間が長い(つまり、長時間形状が維持される)という特徴によって、空腹感を抑制しつつ、口腔内をケアすることができる。
【0040】
本実施形態に係るキャンディは、保形性が改善している。保形性は、吸湿性及び/又は衝撃を与えたときの割れにくさによって評価される。
【0041】
本実施形態に係るキャンディは、吸湿が抑えられているため、長期間にわたって保存してもキャンディの形が保ちやすいものである。本実施形態に係るキャンディによる吸湿が抑制されている理由が定かではないが、一要因として、例えば、セルロース又はイネ科植物由来の食物繊維が水と糖質との接触を物理的に抑制することが考えられる。
【0042】
本実施形態に係るキャンディは、運搬及び長期保存の際に衝撃が与えられた場合でも割れにくいため、運搬及び長期保存する際の商品価値の低下を生じさせにくいものである。本実施形態に係るキャンディが衝撃を与えたときでも割れにくい理由は定かではないが、一要因として、例えば、セルロース又はイネ科植物由来の食物繊維は様々な方向に物理的に絡み合うことができるため、これによってキャンディの構造が強化されていることが考えられる。
【0043】
本実施形態に係るキャンディは、糖質、及びセルロース又はイネ科植物由来の食物繊維を含むことによって、食感が改良されている。具体的には、本実施形態に係るキャンディは、舐めたときのざらざら感(ざらつき)が付与されている。当該キャンディは、舐めたときにざらざらしているため、舐めることによって舌表面の汚れを除去することができる。本実施形態に係るキャンディによれば、セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維が無味・無臭・白色であるため、キャンディ自体の風味・外観を損なうことなく、食感を改良することができる。
【0044】
本実施形態に係るキャンディは、ざらざら感が付与され、かつ、口腔内滞留時間が長くなっているため、空腹感を抑制しつつ、舌表面の汚れを満遍なくケアできる効果も期待できる。
【0045】
本実施形態に係るキャンディは、上述した効果を有することに加えて、歯への付着も抑制されている。
【0046】
<キャンディの保形性改善剤>
本実施形態に係るキャンディの保形性改善剤は、セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する。キャンディの保形性改善剤によれば、当該保形性改善剤を含有しない場合と比べて、キャンディの保形性を改善することができる。キャンディの保形性改善剤については、上述した態様を際限なく適用することができる。
【0047】
<キャンディの口内滞留時間改善剤>
本実施形態に係るキャンディの口内滞留時間改善剤は、セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する。キャンディの口内滞留時間改善剤によれば、当該口内滞留時間改善剤を含有しない場合と比べて、キャンディの口内滞留時間を改善することができる。キャンディの口内滞留時間改善剤については、上述した態様を際限なく適用することができる。
【0048】
<キャンディの食感改良剤>
本実施形態に係るキャンディの食感改良剤は、セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する。キャンディの食感改良剤によれば、当該食感改良材を含有しない場合と比べて、キャンディの食感を改善することができる。キャンディの食感改良剤については、上述した態様を際限なく適用することができる。
【実施例0049】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0050】
次に示す材料を使用した。
【0051】
<還元イソマルツロース>
・パラチニットPN(登録商標、三井製糖社製)
【0052】
<イソマルツロース>
・パラチノースPST―N(登録商標、三井製糖社製)
【0053】
<イネ科植物由来の食物繊維>
竹由来食物繊維(バンブーファイバー):
・UNICELL(登録商標) BF30(BF30、三井製糖社製、粒度30μm)
・UNICELL(登録商標) BF90(BF90、三井製糖社製、粒度90μm)
・UNICELL(登録商標) BF500(BF500、三井製糖社製、粒度500μm)
オート麦由来食物繊維:
・オート麦ファイバー(ビタセルHF600、レッテンマイヤー社製、繊維長80μm)
・オート麦ファイバー(ビタセルHF200、レッテンマイヤー社製、繊維長250μm)
【0054】
<セルロース>
・粉末セルロース(PF90、インターファイバー社製、粒度90μm)
・粉末セルロース(ハンフロックHL200/30、レッテンマイヤー社製、繊維長23μm)
・粉末セルロース(ビタセルL00、レッテンマイヤー社製、繊維長120μm)
・粉末セルロース(ビタセルL600、レッテンマイヤー社製、繊維長60μm)
【0055】
<セルロース及びイネ科植物由来の食物繊維以外の食物繊維>
・アップルファイバー(アップルファイバー、ヘルシーカンパニー社製)
【0056】
バンブーファイバーと糖アルコール(パラチニット)を混合したキャンディを以下のように作製し、評価を行った。
【0057】
1.ハードキャンディ作製方法
(方法)
パラチニット(PN)と水とを重量比(PN:水)100:30で鍋にいれ、160℃で煮詰めた後、型に入れて常温で冷却した。型からキャンディを取り出し、1時間デシケータ内で静置した後、乾燥剤(シリカゲル)とともにチャック付ポリ袋に入れ、常温で保管した。これをブランク(以下、BLK)とした。バンブーファイバー(以下、「BF」ともいう。)又はその他の繊維を配合する場合、糖アルコールの一部を繊維で置き換えた以外は同様の方法でキャンディを作製した。例えば、BF90を含むハードキャンディは表1に示す組成で作製した。
【0058】
【0059】
キャンディ作製用の型は、下記2~5、8の試験で使用する場合は、2cm×2cm正方形型キャンディ用デポジットを、下記6の試験で使用する場合は、底面直径4cmのアルミカップ6号を、下記7の試験で使用する場合は、2cm×2.9cm長方形型キャンディ用デポジットを用いた。
【0060】
2.常温水での溶解時間
(方法)
常温の純水を2L入れたフラスコにBLKまたはBF90(粒度90μm)(パラチニット3%置換)のサンプルを1つずつ入れ、回転子で水を攪拌し(攪拌回転数:430rpm)、キャンディを入れてからキャンディが目視でなくなるまでの時間を計測した。
【0061】
(結果)
試験は3回実施した。
図1は、常温水での溶解時間の測定試験結果を示す。3回の試験における水温とキャンディの試験前の重量は表2に示すとおりであった。
【0062】
【0063】
3回試験を行った結果、キャンディが溶け切るまでに、BLKでは平均32分、BF90では平均39.7分かかり、BFを添加することでキャンディの溶解時間は長くなった。
【0064】
3.温水での溶解時間
(方法)
40℃の純水を2L入れたフラスコに、BLKまたはBF90(パラチニット3%置換)のキャンディを1つずつ入れ、回転子で水を攪拌し(攪拌回転数:430rpm)、キャンディを入れてからキャンディが目視でなくなるまでの時間を計測した。
【0065】
(結果)
試験は3回実施した。
図2は温水での溶解時間の測定結果を示す。3回の試験における水温とキャンディの試験前の重量は表3に示すとおりであった。
【0066】
【0067】
3回試験を行った結果、キャンディが溶け切るまでに、BLKでは平均22.7分、BF90では平均29.4分かかり、BFを添加することでキャンディの溶解時間は長くなった。
【0068】
4.温水での溶解時間(静置)
(方法)
40℃の純水を400mL入れたフラスコに、BLKまたはBF90(パラチニット3%置換)のキャンディを1つずつ入れ、40℃の恒温器に静置し、10分毎にフラスコを取り出しキャンディの重量を測定した。
【0069】
(結果)
試験は3回実施した。
図3は温水での溶解時間(静置)の測定結果を示す。3回の試験におけるキャンディの試験前の重量は表4に示すとおりであった。
【0070】
【0071】
3回試験を行った結果、キャンディが溶け切るまでにかかる時間は、全てBFを添加したサンプルの方が長くなった。
【0072】
5.人が舐めたときの溶解時間
(方法)
社内パネラー7名がBLKまたはBF90(パラチニット3%置換)のサンプルをそれぞれ舐め、キャンディを口に入れてからキャンディが口からなくなるまでの時間を測定した。
【0073】
(結果)
試験結果を表5に示す。7名中6名について、BLKよりBFを添加した方が、舐め終わるまでの時間が有意に長かった(平均時間:BLK 12分53秒、BF90 19分13秒。t検定)。また、BFを添加したサンプルについて、社内パネラーから「ざらつきを感じる」「歯にくっつかない」「溶けにくい」といったコメントがあった。
※有意差検定:t検定、両側検定、対応有。
【0074】
【0075】
6.衝撃を与えたときの割れやすさ
(方法)
アルミカップ6号(底面直径約4cm)にうすく流し固めることによって、キャンディを準備した(5~6g/枚)。BLKまたはBF90(パラチニット3%置換)のサンプルをそれぞれ3枚ずつ、茶筒(底面約6.5cm、高さ約10.5cm、ABS樹脂製)に入れ、上下半回転して戻す動作を50回行った後のキャンディの外観を目視で観察した。
【0076】
(結果)
図4は試験後の外観の観察結果を示し、表6は試験後の状態、試験前後のキャンディ(飴)の重量を示す。2回試験を行った結果、BLKでは両試験ともキャンディが3枚中1枚割れ、茶筒の中に欠けたキャンディの粉末がたくさん付着していた。一方、BF90ではキャンディは割れず、キャンディの粉末の付着も見られなかった。したがって、BFを添加することで割れにくさが向上し、保形性及び外観が改善された。
【0077】
【0078】
7.キャンディの吸湿性
次の(1)~(5)のハードキャンディを試作し、高温多湿下で保存したときの重量増加により、吸湿性を評価した。
(1)パラチニット(PN)+バンブーファイバー(BF)のハードキャンディ
(2)パラチノース(PST-N)+BFのハードキャンディ
(3)PN+還元水飴+BFのハードキャンディ
(4)PST-N+水飴+BFのハードキャンディ
(5)グラニュ糖(GN)+水飴+BFのハードキャンディ
【0079】
次に示す表の配合で、ハードキャンディを試作した。還元水飴又は水飴は、固形分換算で30質量%になるように配合した。
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【0080】
【0081】
<キャンディ試作手順>
材料を鍋に入れ160℃まで煮詰め、型に流し、約30分後型から出し、1時間放置後、シリカゲル入りチャック付PP袋に入れ、吸湿性試験まで室温で保管した。
【0082】
(3)PN+還元水飴+BFを試作時は、湿度が高かったため、型に流してからデシケーターに入れ、30分後型から出し、再びデシケーター内で1時間放置した。
【0083】
<吸湿性試験方法>
PP袋からキャンディ(飴)を出し、アルミ皿に載せ、温湿度を設定したドゥコンディショナー((株)戸倉商事)で保存したときの、経時による重量増加(%)を下式より算出した。また、各飴は3個ずつ試験を行い、その平均値を算出した。
重量増加(%)={(保存後の飴の重量(g))―(吸湿性試験開始前の飴の重量(g))}/(吸湿性試験開始前の飴の重量(g))×100
【0084】
【0085】
<結果>
各試験区での結果を
図5~
図9に示す。
図5は、(1)PN+BFのハードキャンディの35℃85%RHでの重量増加、
図6は(2)PST-N+BFのハードキャンディの35℃85%RHでの重量増加、
図7は(3)PN+還元水飴+BFのハードキャンディの30℃75%RHでの重量増加、
図8は、(4)PST-N+水飴+BFのハードキャンディの30℃75%RHでの重量増加、
図9は、(5)グラニュ糖(GN)+水飴+BFのハードキャンディの30℃75%RHでの重量増加を示す。
【0086】
図5~9より、(1)~(5)の何れの試験でも、糖質にBFを添加した系では、重量増加が小さく、吸湿が抑えられることが確認できた。BF90の添加量は大きい程、吸湿性が抑えられる傾向であった。
図5及び
図6よりBF90とBF500では、同じ添加量のときBF500の方が吸湿は抑えられた。これはBFの保水力、保油力の傾向と同じである。
【0087】
図5及び
図6よりPN単品とPST-N単品では、PST-N単品の方が吸湿性は低く、BFを配合したときもPST-Nを含むキャンディの方が吸湿性は低かった。
【0088】
水飴を配合したキャンディ((3)~(5))と比較して、水飴を配合していないキャンディの方がBF添加による吸湿抑制効果はより高かった。
【0089】
BFの添加により吸湿が抑えられるのは、繊維が水と糖質の接触を物理的に抑制していることが考えられる。
【0090】
BFを添加することでキャンディの吸湿性が低くなり、添加量が増えるほど、またBFの粒度が高くなるほど、吸湿抑制効果は高くなった。したがって、BFを添加することで、保存時に湿度変化の影響を受けにくいキャンディになった。
【0091】
8.キャンディの溶解速度
<キャンディの配合>
以下の表に示す配合でハードキャンディを試作し、下表の配合毎に試験を行った。
【表14】
【表15】
【表16】
【表17】
【0092】
<キャンディ試作条件>
キャンディ試作条件
【表18】
【0093】
<キャンディ試作手順>
1.表14から表17に示す配合で材料を鍋に入れ160℃まで煮詰め、型に流し、デシケーターに入れ約30分後型から出し、再びデシケーター内で1時間放置した。室内湿度が高い(60%以上)ため、デシケーター内で凝固、乾燥した。
2.シリカゲル入りチャック付PP袋に入れ室温保管した。
各試験の試験開始前の飴の重量は、表19~表22のとおりであった。
【表19】
【表20】
【表21】
【表22】
【0094】
<吸湿性試験方法>
1.40℃の純水を400ml入れたフラスコを6個準備し、各キャンディ(飴)のサンプルを1つずつ別々のフラスコに入れた。
2.40℃の恒温器に1のフラスコを静置保存し、10分毎にフラスコを取り出し、飴の重量を測定した。
3.下式より飴の残存重量(%)を算出した。また、各試験は3回ずつ試験を行い、その平均値を算出した。
飴の残存重量(%)=(保存後の飴の重量(g))/(試験開始前の飴の重量(g))×100
【0095】
<結果>
各試験での時間による飴の残存重量(%)および飴が溶け切るまでにかかった時間(分)の3回試験の平均値を
図10~
図17に示す。
【0096】
図10及び
図11のとおり、PN+PF90 3%、PN+BF5003%は、他のファイバー(アップルファイバー)と比べて、溶解速度が遅かった。
【0097】
図12及び
図13のとおり、セルロース又はイネ科植物由来の食物繊維を用いた場合には、キャンディの溶解時間が遅くなることが示された。
【0098】
図14より50分までの傾斜をみると、PN+BF500 0.5%は、PNのみより20分~40分の間でやや飴の残存重量が大きかった。PN+BF90 2%、PN+HF200 2%はPN+BF90 3%同程度であった。PN+BF500 2%は、PN+BF90 3%よりも溶解速度が遅かった。
【0099】
図15より溶け切るまでの時間は、PNのみ≦PN+BF500 0.5%≦PN+HF200 2%≒PN+BF90 3%≒PN+BF90 2%<PN+BF500 2%の順に遅くなった。
【0100】
図16より50分までの傾斜をみるとPST-NのみはPNのみよりも溶解速度が速かった。PST-N+BF90 3%は、PST-Nのみよりも30分以降の残存重量が大きかった。PN+BF30 6%は、PNのみと50分まで同程度であったが、溶け切るまでの時間は長かった。GN+水飴は、最も溶解速度が速かった。この回の試験では、PNとPN+BF90 3%の差が小さかった。
【0101】
図17より溶け切るまでの時間は、PST-Nのみ≦GN+水飴<PNのみ≦PST-N+BF90 3%<PN+BF90 3%≦PN+BF30 6%の順に遅くなった。
【0102】
時間による飴の残存量(%)のグラフ傾斜からは、繊維添加品が繊維無品と同程度、またはやや溶解速度が速くなるものもあったが、飴が溶け切るまでの時間で比較すると、繊維添加品は繊維無品よりも溶け切るまでの時間は遅かった。BFに関しては、粒度(繊維長)が大きいタイプの方が、溶解速度は遅くなった。
【0103】
パラチノース(PST-N)のキャンディはパラチニットよりも溶解速度が速かったが、BF90 3%の添加で溶解速度は遅くなった。
【0104】
上記8の試験において、3%の添加では、BF500を含む飴生地を用いた場合と比べて、BF90を含む飴生地を用いた場合の方が粘度がより低く、作業性は良好であった。一方、アップルファイバーの飴生地は、泡立ちが激しく、型に細かいエアが入った。
【0105】
9.キャンディの味質評価
溶解速度試験用の飴(パラチニット(PN)に各繊維を3%添加したもの)を割り、3名で各キャンディ片の味を評価した。
【表23】
【0106】
キャンディにBFを添加することでザラザラ感が付与された。特にBFを添加することで割れにくさ、溶けにくさが向上し、さらに歯に付着しにくいキャンディを作成することができた。また、BFは無味・無臭・白色であり、食品の風味・外観を損なわずに添加することができる。