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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016175
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】廃棄副産物焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/40 20220101AFI20230126BHJP
   B09B 3/00 20220101ALI20230126BHJP
【FI】
B09B3/00 303Z
B09B3/00 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120321
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594127330
【氏名又は名称】中国高圧コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】弁理士法人小竹アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】樫村 京一郎
(72)【発明者】
【氏名】余川 弘至
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆司
(72)【発明者】
【氏名】大下 瞭雄
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA16
4D004AA36
4D004AA37
4D004BA10
4D004CA30
4D004CB33
4D004CC11
4D004DA03
4D004DA06
4D004DA10
(57)【要約】
【課題】火力発電所で生成される石炭灰と、廃棄副産物としてのFe源を同時に再利用して、発泡剤や構造材等へのリサイクルを促進することが可能な廃棄副産物焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】石炭灰(例えば、フライアッシュ)に対して廃棄副産物としてのFe源(例えば、産業廃棄物としてのガーネット)と焼結助剤としてのNa源(例えば、NaCl)を混合させた混合物に、マイクロ波を照射させて焼結温度以上に昇温させることで廃棄副産物焼結体を焼成する。発泡材として機能すると共に強度の高い廃棄副産物焼結体を得ることができる
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭灰に対して廃棄副産物としてのFe源と焼結助剤としてのNa源を混合させた混合物に、マイクロ波を照射させて焼結温度以上に昇温させることで焼結させたことを特徴とする廃棄副産物焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記石炭灰は、炭素含有量が異なる複数の石炭灰を混合して用いることを特徴とする請求項1記載の廃棄副産物焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記混合物に前記マイクロ波を照射して800~1200℃となるように加熱したことを特徴とする請求項1又は2記載の廃棄副産物焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記マイクロ波の周波数は、約2.45GHzであり、前記混合物に照射されるマイクロ波は、電界成分であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の廃棄副産物焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記石炭灰はフライアッシュであり、前記Fe源は廃棄物としてのガーネットであり、Na源は塩化ナトリウムであり、Fe源は、前記塩化ナトリウム当量に対して10/6当量までを含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の廃棄副産物焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの廃棄副産物を利用して有用な特性を備えた焼結体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所の持続可能性を改善するためには、副産物の実行可能な処理や用途を確認する必要がある。
フライアッシュは、火力発電所で化石燃料を燃焼させた場合の主な副産物であり、世界中で年間約5億トンが生成されている。このフライアッシュには、約20質量%の未燃炭素が含まれている。したがって、多くの研究者は、生成されるフライアッシュの量を減らす方法、または残留炭素を除去して変換する方法を模索してきている(非特許文献1~3参照)。
また、ガーネット(柘榴石)は、ダイヤモンドの次に硬い鉱石であり、比重が重いことから水流処理用の研削材として広く使用されており、削りくずとして大量のガーネット粉末が産業廃棄物として生成される。このため、ガーネット粉末の再利用についても大きな関心が寄せられている(非特許文献4,5参照)。
【0003】
したがって、火力発電所で生成される石炭灰や、廃棄副産物としてのガーネット等のFe源を同時に再利用できれば、効率的な再利用が可能となり、再利用の選択肢が広がることとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Miyake M, Kimura Y, Ohashi T, Matsuda M. Preparation of activated carbon-zeolite composite materials from coal fly ash. Microporous Mesoporous Mater 2008;112:170-7. https://doi.org/10.1016/j.micromeso.2007.09.028.
【非特許文献2】Yang L, Li D, Zhu Z, Xu M, Yan X, Zhang H. Effect of the intensification of preconditioning on the separation of unburned carbon from coal fly ash. Fuel 2019;242:174-83. https://doi.org/10.1016/j.fuel.2019.01.038.
【非特許文献3】Murayama N, Yamamoto H, Shibata J. Zeolite synthesis from coal fly ash by hydrothermal reaction using various alkali sources. J Chem Technol Biotechnol 2002;77:280-6. https://doi.org/10.1002/jctb.604.
【非特許文献4】Babu MK, Chetty OVK. A study on recycling of abrasives in abrasive water jet machining. Wear 2003;254:763-73. https://doi.org/10.1016/S0043-1648(03)00256-4.
【非特許文献5】Zhou X, Tan H. A study on recycling of supreme garnet in abrasive waterjet machining. Appl Mech Mater 2012;248:499-503. https://doi.org/10.4028/www.scientific.net/AMM.248.499.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、フライアッシュとガーネット粉末は、焼結に長時間と高温を必要とする。フライアッシュは主にSiOとAlを含むため、溶融温度が高くなる。このため、材料科学の観点から、焼結はタンマン温度(固相反応が発生するための最低温度、通常は材料の融点の約3分の2)で進行する。しかし、熱力学の観点から、フライアッシュのような材料の中心でタンマン温度に到達することは困難である。これは、ボイドの少ない焼結体内の熱交換が熱伝導率によって制限されるためである。
その結果、急速な焼結には大きな温度勾配が必要になり、コストが高くなる不都合がある。したがって、熱伝導率の低い物質の中心を素早く加熱できる技術の開発は、焼結コストを削減し、フライアッシュやガーネット粉末などの廃棄物の構造材等へのリサイクルを促進することが期待される。
【0006】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、火力発電所で生成される石炭灰と、研磨工程の廃棄物として発生するガーネット粉末等の廃棄副産物としてのFe源とを同時に再利用して、発泡剤や構造材等へのリサイクルを促進することが可能な廃棄副産物焼結体の製造方法を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために、本発明に係る廃棄副産物焼結体の製造方法は、石炭灰(例えば、フライアッシュ)に対して廃棄副産物としてのFe源(例えば、産業廃棄物としてのガーネット)と焼結助剤としてのNa源(例えば、NaCl)を混合させた混合物を、マイクロ波を照射させて焼結温度以上に昇温させることで焼結させることを特徴としている。
これにより、焼結混合物は、微細な気泡が全体的に生成され(ポーラス構造に形成され)、Fe源を含まない焼結混合物よりも強度が大幅に増加する。
【0008】
ここで、石炭灰は、炭素含有量が異なる複数の石炭灰を混合して用いることが望ましい。このような操作は、発電所によって石炭灰の炭素含有量(未燃炭素の量)が異なるので、融点を調整するため(融点を降下させるため)に有用である。
【0009】
また、混合物は、マイクロ波を照射して800~1200℃となるように加熱するとよい。温度が高くなるほど、気泡も大きくなるため、見かけ上の体積減少化率は低下するが、マイクロ波吸収は、温度の上昇とともに増加し、Na源の分解と石炭灰中の炭素の燃焼反応が温度の上昇とともに促進される。
この際、混合物に照射されるマイクロ波は、周波数を約2.45GHzとし、電界成分であることが望ましい。
【0010】
また、石炭灰をフライアッシュとし、Fe源を廃棄副産物としてのガーネットとし、Na源を塩化ナトリウムとする場合には、Fe源は、Na源の当量に対して10/6当量までを添加することが望ましい。この範囲でFe源を添加すれば、Fe源を添加した効果が確実に得られる。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、本発明によれば、石炭灰に対して廃棄副産物としてのFe源と焼結助剤としてのNa源とを混合させた混合物をマイクロ波にて加熱して焼結することで、発泡材として機能すると共に強度の高い廃棄副産物焼結体を得ることができる。したがって、2つの廃棄副産物を同時に再利用できるだけでなく、構造材等に適した特性を有する焼結体を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、さまざまな温度(800~1200℃、保持時間:10分)でのガーネットを含む1.5gのフライアッシュをマイクロ波加熱した場合の時間と温度との関係を示す特性線図である。
図2図2は、さまざまな温度(25~700°C)でのガーネットを混合させたフライアッシュの比誘電率(実部と虚部)と温度の関係を示す特性線図である。
図3図3は、さまざまな保持時間(1、5、及び10分)で800~1200℃に加熱した混合フライアッシュの温度と体積減少率を示す線図である。
図4図4は、800~1200℃にマイクロ波加熱されたフライアッシュのSEM画像(15kV)を示す図である。
図5図5(a)は、1200℃に加熱した場合の残留炭素と塩素濃度の時間的変化を示す図であり、図5(b)は、10分間の加熱での残留炭素と塩素濃度の温度依存性を示す図である。
図6図6(a)は、試験片の応力-ひずみ曲線と、圧縮試験機の画像と圧縮試験中のサンプルを示す挿入図であり、図6(b)は、ガーネットを混在したフライアッシュのマイクロ波加熱後の焼結体を示す図、図6(c)は、ガーネットを混合させないフライアッシュのマイクロ波加熱後の焼結体を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面に基づき説明する。
本発明に係る廃棄副産物焼結体の製造方法は、石炭灰(フライアッシュ)に鉄源(例えば、産業廃棄物としてのガーネット粉末)と、焼結助剤としてのNa源(例えば、NaCl)とを添加した混合物を、マイクロ波を利用して焼結することで、ポーラス構造の強度の高い焼結体を形成する方法である。
【0014】
以下、本発明に係る廃棄副産物焼結体の製造方法を詳述する。
1.材料と焼結方法
石炭灰(フライアッシュ)のマイクロ波吸収は、炭素濃度に大きく依存している。ただし、フライアッシュの未燃炭素の量は、発電所によって大きく異なる。そこで、融点を調整するために(融点を降下させるために)、2つの発電所(S及びMと表記)からフライアッシュのサンプルを入手して用いることにした。S-フライアッシュとM-フライアッシュは、表1に示されるような炭素含有量である。この2種類のフライアッシュを産業廃棄物であるガーネット(ここでは、炭素繊維を切断した際に発生する砥石の産業廃棄物としてのガーネット粉体)と混合し、サンプルを作成した。また、焼結助剤としてNaClを使用した。
【表1】
【0015】
サンプルは、S-フライアッシュ40g、M-フライアッシュ8g、NaCl粉末0.65g、ガーネット0.65gを5分間混合して調製した。
混合物(重量:1.5g;標準偏差:0.001g)を石英の試料容器に入れ、体積変化を抑えるため、試料容器を100回タップした後に、空洞共振器内にセットした。
【0016】
加熱方法としては、周波数2.45GHzの分離されたマイクロ波場を採用した。このシステムは、マグネトロン発振器、E-Hチューナー、プランジャー、およびダミーロードを組み合わせた6つの導波管(109.1×56.4×149.3±5 mm)を備え、マイクロ波を絞りによって集束し、空洞内にTE103波を形成した。マグネトロンより発振されたマイクロ波は、E-Hチューナーにより最も照射効率のよい波に調整され、空洞共振器内部に導入される。絞りには、電界の方向に平行な52mmのスリットを用いた。プランジャーは導波管の端に配置した。このシステムにより、マイクロ波の電場と磁場を空間的に分離することが可能となる。
【0017】
そして、サンプルを電場ノード(磁場を排除し、電場が最大となる点(Emax))に配置し、電場のみが資料に照射されるようにした。放射温度計(FTZ6-R220-5S22、ジャパンセンサー株式会社)を使用して反応物の温度を監視した。加熱挙動を理解するために、誘電率をキャビティ摂動法によってさまざまな温度で調査した。
【0018】
加熱後、フライアッシュサンプルの体積減少率、残留炭素、及び強度を調査した。これらのパラメータは、フライアッシュの利用に重要な役割を果たしている。モデルサンプルの加熱特性を確認するために、摂動法により加熱挙動と誘電率を調べた。体積減少率と残留炭素量は、それぞれアルキメデス法とXRFを用いて測定した。最後に、サンプルの強度を測定するために、一軸圧縮試験を実施した。直径約42mm、高さ30mmのサンプルを石英の試料容器から切り出した。
【0019】
2.結果と評価
マイクロ波照射は、すべての温度範囲で石炭フライアッシュを迅速に加熱することができるが、フライアッシュのマイクロ波吸収は温度に依存し、温度が高いほど大きな吸収を示した。
【0020】
図1は、1.5gのフライアッシュ+ガーネット+NaClの混合物を10分間の保持時間で、800、1000、又は1200℃まで加熱したときの温度の経時変化を示している。この図は、比較的低出力の電子レンジ照射(電子レンジの5分の1の出力)を使用すると、混合物を400秒で指定の温度に加熱できることを示している。
【0021】
さらに、この図において、曲線の傾きは、マイクロ波吸収の温度依存性を示している。勾配は、フライアッシュのマイクロ波吸収と熱除去の差に比例している。温度が400℃に達すると傾斜が大幅に変化し、フライアッシュのマイクロ波吸収がこの温度で大幅に向上することを示唆している。
【0022】
石炭フライアッシュのマイクロ波吸収は、温度の上昇とともに増加する。 マイクロ波吸収と熱除去の差が材料の温度を左右している。材料のマイクロ波吸収は、次の式で決定される。
【数1】
ここで、Vはフライアッシュの体積です。εr''とμr''は、それぞれ透電率と透磁率の虚部であり、EとHは、それぞれ電界と磁界の強さである。
【0023】
したがって、誘電率を測定することにより、フライアッシュのマイクロ波強度を直接評価することができる。図2は、混合物の比誘電率(実部と虚部)の温度依存性を示している。比誘電率の実部は、フライアッシュを通過する際にマイクロ波の波長がどれだけ短くなるかの指標であり、虚部は、単位体積あたりのフライアッシュによるマイクロ波吸収の指標である。室温では比誘電率の虚部は約0.1であるが、700℃では約7.3に増加している。これは、マイクロ波吸収が温度の上昇とともに約100倍に増加することを意味している。
【0024】
混合物は約400℃で加熱挙動に変曲点を示し(図1)、マイクロ波吸収は約500℃で変曲点を示している(図2)。これは、マイクロ波で加熱すると、混合物の中心部の温度が高くなることを示している。
【0025】
図3は、1、5、または10分の保持時間で、800、1000、又は1200℃にマイクロ波加熱した後の混合フライアッシュサンプルの体積減少率を示している。体積は、アルキメデス法で加熱の前後に測定した。フライアッシュの量は、マイクロ波加熱によって約15~35%までに減少した。しかし、体積減少率をガーネットを混合させない場合と比較すると、ガーネットを混合させない場合(図示せず)よりも約5~10%小さくなった(ガーネトを添加すると容積があまり減らなかった)。この体積減少率が低い理由を特定するために、各温度(800~1200°C)での焼結体の断面をSEMで調べた(図4)。すべての石炭灰(フライアッシュ)とガーネットの混合物の焼結体において、内部に微細な気泡が見られた。したがって、ガーネットの添加は、焼結中に混合物の内部に閉じた細孔を作成する反応を引き起こし、それにより、焼結中の体積減少率が低下していることが分かった。
【0026】
800℃で焼結した後の混合物では直径20~50μmの気泡が観察されたが、1200℃で焼結した後は直径300μmの閉じた細孔が観察された。これは、閉じた細孔が温度の上昇とともに成長することを示している。気泡の成長の時間依存性は確認されなかった。
【0027】
今回は、焼結助剤としてNaClを使用したので、焼結サンプル中の残留塩素の量を調査した。図5(a)と(b)は、マイクロ波焼結材料の残留炭素と塩素の保持時間と焼結温度の依存性をそれぞれ示している。焼結材料中の残留炭素と塩素の量は、保持時間に関係なくほぼ一定であった。これに対して、残留炭素と塩素の量は、焼結温度が上昇するにつれて減少した。これは、NaClの分解と炭素の燃焼反応が温度の上昇とともにさらに進行していることを示している。さらに、この反応は約1分後に定常状態に達している。
【0028】
図5は、NaClが急速に分解することを示している。この結果は、熱力学的計算によっても裏付けられる。ギブズの自由エネルギーデータに基づく熱力学的平衡によれば、NaClは石炭灰中のFeおよびAlと反応して塩素ガスを生成する。塩化アルミニウムと塩化鉄の分圧は、NaClと平衡状態にある酸化ナトリウムは純粋なNa2OではなくNa2O・2SiO2であり、炭素燃焼によるCO分圧は1気圧であることを考慮すると、熱力学的にそれぞれ6.1×10-3atmと383atmと計算できる。
【0029】
したがって、NaClの分解について次の式を提案することができる。
(化1)
6NaCl + 10Fe2O3 + 3C → 3Na2O + 6Fe3O4 + 2FeCl3(gas) + 3CO(gas)
【0030】
この化学式は、焼結材料のSEM画像での気泡の観察、XRF分析での塩素の減少、およびガーネットを添加したマイクロ波焼結中の石炭灰の体積減少率の減少とも一致している。
Fe源(Fe2O3)は、NaClのCl量に対して規定され、NaCl当量に対して10/6当量まで添加すると効果がある。例えば、NaCl:xgは、x/58molのCl当量なので、x/58*10/6=0.028xmolがFe2O3の効果がでる。これは、質量に換算すると、4.6xgのFe2O3(鉄に換算した場合3.2xg)である。
【0031】
ガーネットを使用した場合と使用しない場合のマイクロ波焼結体を図6で示す一軸圧縮試験にかけた。その結果、ガーネットを使用した試験片は、ガーネットを使用しない試験片よりも強度と剛性が高いことがわかった。図6(a)に示すように、1000℃(800~1200の中間である代表温度)で10分間マイクロ波加熱した場合には、ガーネットを含む試験片(焼結体)の平均強度は5.475N / mm2であったが、ガーネットを含まない試験片の平均強度は0.3375 N / mm2であった。また、ガーネットを含む試験片は元の形状を保っていたが、ガーネットを含まない試験片は試験中に破壊された。この現象の原因は、試験片の製造工程にあると考えられる。ガーネットを含む試験片には細かい気泡が含まれていたが(図4および6(b))、ガーネットを含まない試験片には内部に大きな空洞ができていた(図6(c))。 この大きな空洞は、ガーネットを含まない試験片の強度低下の原因として特定された。
【0032】
ガーネットは、加熱すると塩化鉄の泡が発生する原料である。したがって、グラムスケールのデスクトップテストでは、1000℃で加熱した後、ガーネットを含む焼結体に気泡が観察された。対照的に、ガーネットを含まない試験片では、1000℃まで小さな気泡が観察されなかった。大きなフライアッシュサンプル(100g)をマイクロ波照射で加熱すると、断熱性が高いため、サンプルの中心が外側よりも高温になる。ガーネットを含まないとフライアッシュに気泡が発生しにくいため、この内部加熱により焼結時に一気に気泡が発生し、空洞が大きくなる。対照的に、ガーネットを含む焼結体では全体に気泡が形成され、比較的高い強度が与えられた。
【0033】
以上述べたように、NaClとガーネットを含む石炭灰(フライアッシュ)は、マイクロ波照射を使用して焼結することができた。空洞共振器制御マイクロ波場(TE103)を適用し、空洞摂動法を使用して、25~700℃の範囲の温度でフライアッシュの誘電率を測定した。フライアッシュの温度は400℃で急速に上昇した。高温誘電定数測定の結果は、これがマイクロ波吸収の強化によるものであることを示した。ガーネットを混在させたフライアッシュサンプルは、1000℃で焼結した後に小さな気泡が含まれており、XRFの結果から、この温度で炭素と塩素の含有量が減少することが明らかになった。したがって、平衡熱力学によって予測されるように、炭素および酸化鉄によるNaClの分解が石炭フライアッシュのマイクロ波加熱中に発生し、ガーネットは、焼結プロセスで発泡剤として機能することが分かった。そして、ガーネットを使用した場合の焼結石炭灰サンプルの圧縮強度は、ガーネットを使用しない場合の約10倍であった。
【0034】
したがって、マイクロ波を照射して形成された上述の焼結体を用いれば、火力発電所で生成されるフライアッシュと、研磨工程の廃棄物として発生するガーネット粉末との2つの廃棄副産物を同時に利用することができ、また、発泡剤や構造材等へのリサイクルが可能となるので、リサイクルが促進される。
【0035】
なお、上述の例では、廃棄副産物であるFe源として、産業廃棄物としてのガーネットを用いる例を示したが、製鋼や製品加工の過程から発生するスクラップ鉄を用いても、鉄鋼製造工程において副産物として発生する鉄鋼スラグなどを用いてもよい。また、Na源としてNaClを用いた例を示したが、Na源は、NaOを用いてもよい。これらのFe源、Na源を用いても、同様の焼結体の生成が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6