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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161780
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】スクリューの補強材のインサーター
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/88 20060101AFI20231031BHJP
   A61B 17/70 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
A61B17/88
A61B17/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072330
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅野 晴夫
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL24
4C160LL53
4C160LL56
(57)【要約】
【課題】
経皮的スクリューの補強材の挿入装置(インサーター)でありながら、棒状のハイドロキシアパタイトの挿入を可能とするインサーターを提供することを目的とする。
【解決手段】
スクリューを骨孔内まで案内する案内部材を挿通するための案内部材挿通用の内腔と、骨孔内に補強材を挿通するための補強材挿通用の内腔とを別個に有するスクリューの補強材のインサーター本体と、補強材を骨孔内まで押し込むためのピストンとを備えることを特徴とするスクリューの補強材のインサーター。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリューを骨孔内まで案内する案内部材を挿通するための案内部材挿通用の内腔と、骨孔内に補強材を挿通するための補強材挿通用の内腔とを別個に有するスクリューの補強材のインサーター本体と、補強材を骨孔内まで押し込むためのピストンとを備えることを特徴とするスクリューの補強材のインサーター。
【請求項2】
スクリューを骨孔内まで案内する案内部材を挿通するための案内部材挿通用の内腔と、骨孔内に補強材を挿通するための補強材挿通用の内腔とを別個に有するスクリューの補強材のインサーター本体と、ペースト状の補強材を前記インサーター本体に導くノズルを有する充填器と、を備え、
前記充填器のノズルは、前記案内部材と干渉しない構造又は特性を有していることを特徴とするスクリューの補強材のインサーター。
【請求項3】
スクリューを骨孔内まで案内する案内部材を挿通するための案内部材挿通用の内腔と、骨孔内に補強材を挿通するための補強材挿通用の内腔とを別個に有することを特徴とするスクリューの補強材のインサーター本体。
【請求項4】
筒部と、前記筒部の術者近位端側に設けられたフランジ部と、前記筒部の術者遠位端側に設けられた窄み部とを備え、
前記筒部は、大小2つの内腔を有することを特徴とするスクリューの補強材のインサーター本体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脊椎固定術等において、スクリューの固定を補強するために、スクリュー刺入孔からスクリュー孔内に人工骨等の補強材を挿入するインサーターに関する。
【背景技術】
【0002】
脊椎固定術において、スクリューによる脊椎の固定が標準的な手術手技として知られているが、スクリュー固定は手術侵襲性が高いため、脊椎周囲の筋や靱帯等の組織侵害が大きく、術中の出血量の増加や術後の創痛の増悪をもたらす。図8(a)は、従来の典型的な脊椎固定術におけるスクリュー固定の様子を示している。図示されるように、切開創Aを大きく展開して脊椎を広く露出するため、術者が骨形態を直視下に確認しつつ骨孔を作成した後に、スクリュー固定の人工骨として知られる棒状のハイドロキシアパタイトをスクリュー孔に確実に挿入することが可能である。
【0003】
一方、近年の低侵襲な脊椎固定術の要求から、MISt(Minimally Invasive spine Stabilization(最小侵襲脊椎安定術))が、脊椎不安定性や脊椎変形によるインバランスなどの様々な病態に対して、低侵襲に固定、制動することによって脊椎の安定性を図る手技として普及するようになった。それに伴って、従来のスクリューと比べて患者への負担が少ない低侵襲で経皮的な刺入が可能な経皮的スクリューによる固定が普及している。
【0004】
しかし、経皮的スクリューの刺入時には、手術創が小さいため骨表面のスクリュー刺入孔を直視下に確認することが困難で、さらに、スクリュー孔に挿入されているガイドワイヤー等が障害となって、棒状の人工骨をスクリュー孔に挿入することができない。そのため、従来から行われている棒状の人工骨を用いたスクリュー固定の補強を、そのまま経皮的スクリュー固定に適用することはできない。
【0005】
このような状況の下、本発明者は、スクリュー刺入孔の直視の困難性や、スクリュー孔に配置された案内部材による補強材の挿入阻害に関わらず、スクリュー孔への補強材の挿入を確実に且つ容易に行うことができる経皮的スクリューの補強材の挿入装置(インサーター)を開発した(特許文献1)。経皮的スクリューの補強材の挿入装置は、概略、図8(b)に示されるように、スクリューを案内可能な案内部材102と内筒103と外筒101とが互いに差し入れた状態で各々が相互にスライド可能とされ、外筒101は補強材104を投入するための漏斗状の投入口を備えるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-027264
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示の経皮的スクリューの補強材の挿入装置においては、図9(a)~図9(j)に示すように、以下の手順でスクリューの挿入及び補強を行う。
(a) ニードル等(図示していない)を用いて刺入点Bにガイドワイヤー102を挿入し、位置決めする。
(b) ガイドワイヤー102を差し入れた後、スクリュー挿入孔Eを起点にタッピングにより軟部組織C及び骨組織Dを順次拡径させて、スクリュー孔Fを形成する。
(c) ガイドワイヤー102に沿って外筒101を挿入し、スクリュー孔Fに外筒101の遠位端を設置する。
(d) 外筒101の近位端の人工骨投入口から、顆粒状の人工骨104を外筒101の内腔に導入し、スクリュー孔Fに向けて人工骨104を送り込む。
(e) 外筒101の近位端の人工骨投入口から、ガイドワイヤー102に沿って内筒103の遠位端を挿入し、内筒103を外筒101の内腔内でスライドさせる。
(f) 内筒103の遠位端の押圧面を挿入した人工骨104に当接させ、内筒103を遠位方向へ押し込み、人工骨104をスクリュー孔F内へ押圧する。
(g) 内筒103を、ガイドワイヤー102に沿って外筒101の内腔内でスライドさせて取り出す。さらに外筒101もガイドワイヤー102に沿って取り出す。なお、内筒103と外筒101を同時に取り出しても良い。
(h) ガイドワイヤー102に沿ってスクリュー106をスクリュー孔Fに挿入する。
(i) スクリュー106をドライバ(図示していない)でねじ込む。これによって、スクリュー106が人工骨104と共にスクリュー孔F内に取り付けられる。
(j) ガイドワイヤー102を引き抜く。このとき、スクリュー106は人工骨104と共にスクリュー孔F内に保持される。
【0008】
このような経皮的スクリューの補強材の挿入装置によれば、外筒101はスクリュー孔Fへの人工骨104の導入を容易にし、さらに、内筒103の押圧面はスクリュー孔Fへ向けて導入された外筒101の内腔に配置される人工骨104を押圧して、スクリュー孔F内に人工骨104をより効率的に挿入する。一方、本発明者は、顆粒状の人工骨104とは別の態様として、中空部を備えるリング状や竹輪状、一部に切り欠き部を備えるC字状や軸方向に溝を備える柱状等、ガイドワイヤー102との干渉を避けた形状に成形された塊状の補強材も提案した。
【0009】
しかしながら、これらのガイドワイヤー102との干渉を避けた特殊な形状の人工骨を製造するのは、効率性やコストの面で現実的ではなく、特許文献1に開示の経皮的スクリューの補強材の挿入装置においては、実際として顆粒状の人工骨104が広く用いられている。
【0010】
そして、特許文献1に開示の経皮的スクリューの補強材の挿入装置では、挿入用デバイス内の同一の中空構造内にガイドワイヤー102と顆粒状の人工骨104が共に入るため、挿入時に顆粒状の人工骨104とガイドワイヤー102の間に摩擦が生じて、スムーズな人工骨104の挿入が妨げられたり、ガイドワイヤー102の位置のズレや抜けが生じたりする問題があった。スムーズな人工骨104の挿入ができないと、手術中にデバイスや骨に過剰な力を加える必要が生じて、骨折や神経・血管損傷のリスクが発生する。またガイドワイヤー102のズレや抜けは、ガイドワイヤー102による血管・組織損傷や、スクリューの誤刺入などの問題を起こすリスクが生じる。
【0011】
そこで、本発明は前記した従来の問題点を解決し、経皮的スクリューの補強材の挿入装置(インサーター)でありながら、棒状のハイドロキシアパタイトの挿入を可能とするインサーターを提供することを目的とする。
【0012】
また、スクリュー案内部材によるスクリュー刺入孔の直視困難性や、スクリュー孔に設置されたガイドワイヤーによるスクリューの補強材の挿入阻害に関わらず、補強材(人工骨)をスクリュー孔の適切な位置へ、容易に挿入できるインサーターを提供することを目的とする。
【0013】
そして、究極的には、低侵襲な経皮的スクリュー固定に対して、低侵襲性を損なわずに経皮的な手技で補強を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のスクリューの補強材のインサーターは、スクリューを骨孔内まで案内する案内部材を挿通するための案内部材挿通用の内腔と、骨孔内に補強材を挿通するための補強材挿通用の内腔とを別個に有するスクリューの補強材のインサーター本体と、補強材を骨孔内まで押し込むためのピストンとを備えることを特徴とする。案内部材としては、ガイドワイヤーの他、鋼線等を用いることができる。また、補強材としては、人工骨の他、患者本人から採取した自家骨や、患者以外のヒトから採取した同種骨、挿入後に硬化する骨セメント等の材料を用いることができる。
【0015】
また、本発明のスクリューの補強材のインサーターは、スクリューを骨孔内まで案内する案内部材を挿通するための案内部材挿通用の内腔と、骨孔内に補強材を挿通するための補強材挿通用の内腔とを別個に有するスクリューの補強材のインサーター本体と、ペースト状の補強材を前記インサーター本体に導くノズルを有する充填器と、を備え、前記充填器のノズルは、前記案内部材と干渉しない構造又は特性を有していることを特徴とする。案内部材としては、ガイドワイヤーの他、鋼線等を用いることができる。また、補強材としては、元々ペースト状であるものや、粉剤と液剤を注射器の中で練和してペースト状とするタイプのものを用いることができる。
【0016】
さらに、本発明のスクリューの補強材のインサーターのインサーター本体は、スクリューを骨孔内まで案内する案内部材を挿通するための案内部材挿通用の内腔と、骨孔内に補強材を挿通するための補強材挿通用の内腔とを別個に有することを特徴とする。
【0017】
本発明は、上記の基本構成に基づく第1の形態~第3の形態を備える。
【0018】
(第1の形態)
第1の形態において、筒型のインサーター本体は術者の近位端側にフランジ部を備え、ピストンは術者の近位端側に膨出部を備える。
【0019】
フランジ部は、術者がその手を患者の体表に固定しつつ、インサーター本体の筒部を把持する際に、術者の手の甲に係るようにされることによって、インサーター本体の安定姿勢を保つようになる。
【0020】
(第2の形態)
第2の形態において、筒型のインサーター本体は術者の遠位端側に窄み部を備える。
【0021】
窄み部は、軟部組織内へのインサーター本体の挿入を円滑としつつも、インサーター本体が骨組織に到達した際には、術者の手にその旨の感覚を与える。また、補強材の種類や材質によっては、インサーター先端が骨孔内の深部まで入り込んだ方が良い場合もあるところ、窄む部は、インサーター先端が骨孔の入口部分へ入り易くすることにも寄与する。
【0022】
(第3の形態)
第3の形態において、案内部材挿通用の内腔と補強材挿通用の内腔とは、筒型のインサーター本体の径方向逆側にそれぞれ偏倚して設けられている。ただし、筒型のインサーター本体の中心は、補強材挿通用の内腔の中に位置する関係とされている。
【0023】
これらのインサーター本体、案内部材挿通用の内腔及び補強材挿通用の内腔の位置関係によって、案内部材は、ピストンを叩くスライドハンマーを案内し得るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態に係るスクリューの補強材のインサーターの構成を説明するための図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るスクリューの補強材のインサーターの動作例の前半工程を説明するための図である。
図3】本発明の第1実施形態に係るスクリューの補強材のインサーターの動作例の後半工程を説明するための図である。
図4】本発明の第2実施形態に係るスクリューの補強材のインサーターの構成を説明するための図である。
図5】本発明の第2実施形態に係るスクリューの補強材のインサーターの変形例の構成を説明するための図である。
図6】本発明の第2実施形態に係るスクリューの補強材のインサーターの動作例の前半工程を説明するための図である。
図7】本発明の第2実施形態に係るスクリューの補強材のインサーターの動作例の後半工程を説明するための図である。
図8】従来の脊椎固定術におけるスクリュー補強の様子を示す図であり、(a)は通常の切開による術式を示すものであり、(b)は経皮的スクリューにおいて本発明者が先に発明した術式を示すものである。
図9】経皮的スクリューにおいて本発明者が先に発明したスクリューの補強材の挿入装置の動作例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。以下、図1図2及び図3を用いて第1実施形態に係るスクリューの補強材のインサーターの概略構成及び動作例を説明し、図4図5及び図6を用いて本発明の第2実施形態に係るスクリューの補強材のインサーターの概略構成及び動作例を説明する。なお、以下の各構成例では、補強材として人工骨を例として説明するが、補強材は、人工骨に限らず、患者本人から採取した自家骨、患者以外のヒトから採取した同種骨、挿入後に硬化する骨セメント等の材料を用いることができる。
なお、以下の各構成例は、案内部材としてガイドワイヤーを用いるものとして説明されているが、挿入に際して直進性を維持できるものであれば少々の可撓性を有するものでも良く(換言すれば、曲線に柔軟に追従してしまう程の軟性を有するものは不適である)、また、鋼線等の硬質なものであっても良い。
【0026】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係るスクリューの補強材のインサーターの構成の概略を説明する図であり、図2及び図3は本発明の第1実施形態に係るスクリューの補強材のインサーターの動作例を説明するための図である。
【0027】
なお、第1実施形態では、補強材として用いる人工骨として、棒状のハイドロキシアパタイト(以下、「HAスティック」という。)を用いるものとして説明するが、これ以外の人工骨を用いることを妨げるものではない。患者の状態によって、最良と思われる形状や状態の人工骨を用いることは当然のことであり、例えば、顆粒状、粉末状、ペースト状、液状等の人工骨を使用することも可能である。
【0028】
図1は第1実施形態の構成例の概略である。図1において、主要な構成は、インサーター本体1と、ガイドワイヤー2と、ピストン3である。
【0029】
第1実施形態において用いられる人工骨は、先述したようにHAスティック4である。従来からの切開法によるスクリュー固定の補強に広く用いられている人工骨と同じものを使用することが可能である。
【0030】
インサーター本体1は、筒部11、案内部材挿通用の内腔12、補強材挿通用の内腔13、フランジ部14、窄み部15から成る。第1実施形態において、筒部11は円筒状であるが、正六角形や正八角形等の角形状とすることも可能である。ただし、角形状とする際には、面取りを施すのがよい。
【0031】
筒部11の長さは、標準的な成人の患者について、脊椎に設けた骨孔入口から患者の体表から、術者が手の一握り分位が延長された長さとなるように設定され、かつ、インサーター本体1の術者近位端側には、フランジ部14が設けられている。手術体位としては、術中X線透視で手術部位の脊椎正面像と側面像を確認できるようにするため、通常、伏臥位で手術が行われるのであるが、その際、術者が筒部11を把持して、その手を患者の体表に固定することで、インサーター本体1が安定し手技がやりやすくなる。筒部11の長さが上記したように設定されていると、インサーター本体1の挿入完了時に術者の手の甲に丁度フランジ部14が係るようになることから、インサーター本体1の安定姿勢をより良好に保つことが可能となる(図2(b)も参照)。
【0032】
インサーター本体1の術者遠位端側にはテーパー状の窄み部15が設けられている。第1実施形態において、窄み部15は円筒状の筒部11から延長されているので、円錐台形状となっているが、筒部11が角形の場合にはそれに応じた角錐台とされる。窄み部15は、軟部組織内へのインサーター本体の挿入を円滑としつつも、インサーター先端が骨孔の入口部分へ入り易くすることにも寄与する。すなわち、インサーター本体が骨組織に到達した際には、術者の手にその旨の感覚を与えるものであるし、X線透視で手術部位の脊椎側面像を確認しつつ手術を行う際には、窄み部15の形状としての特徴点により挿入深度を確認できる。なお、インサーター先端が骨孔内の深部まで入り込むことを要求しない種類や材質の補強材に対してのものであれば、窄み部が無くてもよいことは当然のことであり、窄み部は必要に応じて設ければ足りるものである。
【0033】
筒部11には、案内部材挿通用の内腔12と補強材挿通用の内腔13という小さい穴と大きい穴が別個2つ設けられている。それぞれの穴を通じて、ガイドワイヤー2とHAスティック4をそれぞれ経皮的に挿入できる。
【0034】
ガイドワイヤー2はスクリュー6を案内する線状の部材であるが、術者の近位端に術者が把持し易いように鉤部を設けても良い。この機能については後述する。ピストン3は、その外径が補強材挿通用の内腔13の内径よりもやや小さく設定されているが、術者の近位端には膨出部(不図示)が設けられており、必要以上に補強材挿通用の内腔13に入り込まないように、ピストン3を規制する役目を果たす。
【0035】
本発明者が先に発明した経皮的スクリューの補強材の挿入装置は、案内部材102と内筒103と外筒101とを互いに差し入れる構造となっている(図8,9参照)。この挿入装置(特許文献1)の実際の手術での使用経験に基づいた検証結果から、本発明の第1実施形態のインサーターの各要素の寸法を検討すると、次のような範囲で設定することが可能である。
HAスティック:直径2mm~3mm
ガイドワイヤー:直径約1.5mm
骨孔(=スクリュー太さ):直径4.5~7.0mm
このようにして定まるインサーター本体の直径は4.0~6.5mm
【0036】
案内部材挿通用の内腔12と補強材挿通用の内腔13とは、筒型のインサーター本体1の径方向逆側にそれぞれ偏倚して設けられている。ただし、筒型のインサーター本体1の中心は、補強材挿通用の内腔13の中に位置する関係とされている。このような各要素の配置関係によって、ガイドワイヤー2は、ピストン3を後述するスライドハンマー5で叩く際に、スライドハンマー5の案内部材としても機能する。
【0037】
(第1実施形態の動作例)
図2,3を用いて、本発明の第1実施形態に係るスクリューの補強材のインサーターの動作例を説明する。
【0038】
図2(a)において、ニードル等(図示していない)を用いて刺入点にガイドワイヤー2を挿入する。その際、必要に応じてX線透視下で骨孔を作成すべき位置を確認しつつ、位置決めする。ガイドワイヤー2の挿入後、タッピングにより軟部組織及び骨組織を順次拡径させて、スクリュー孔を形成する。
【0039】
スクリュー孔が形成されたならば、図2(b)に示すように、インサーター本体1をガイドワイヤー2に沿って挿入する。この際、術者はその手を患者の体表に固定したままで、筒部11を把持して、インサーター本体1を送り込むようにする。
【0040】
図2(b)に示されるように、インサーター本体1の挿入完了時に術者の手の甲に丁度フランジ部14が係ることによって、挿入完了を意識できるようになるが、より正確には、インサーター本体1の遠位端側に設けられた窄み部15が骨孔の入り口に設置されていることを手の感触やX線透視の側面像で確認するようにして、挿入を完了する。
【0041】
次いで、図2(c)に示されるように、インサーター本体1に設けられたもう一つの穴である補強材挿通用の内腔13にHAスティック4を挿入する。この際、ガイドワイヤー2は、案内部材挿通用の内腔12に挿入されたままである。
【0042】
特許文献1に開示の経皮的スクリューの補強材の挿入装置では、顆粒状とはいえ、それでも人工骨104とガイドワイヤー102の間には、図8(d)に示されるように、摩擦が生じて、スムーズな人工骨104の挿入が妨げられることがあった。しかし、本発明の第1実施形態に係るスクリューの補強材のインサーターでは、HAスティック4は専用の穴を通じて挿入されるため、ガイドワイヤー2との摩擦が生じる余地はない。当然ながら、ガイドワイヤー2のズレや抜けが生じることを心配する必要もない。
【0043】
インサーター本体1に適宜の振動を与えることによって、HAスティック4が適当な深さまで侵入したならば、図3(a)に示すように、補強材挿通用の内腔13にピストン3を挿入し、さらに、その後、スライドハンマー5でピストン3を叩くことによって、HAスティック4を骨孔内に押し込む。スライドハンマー5には、一部に切り欠きが設けられており、ガイドワイヤー2によって案内され得るように構成されている。
【0044】
この際、スライドハンマー5の切り欠きとガイドワイヤー2には必要以上の摩擦が生じないようにすると良い。特許文献1に開示の経皮的スクリューの補強材の挿入装置では、本発明のピストン3に対応する内筒103内にガイドワイヤーが挿通されたままで、内筒103を叩くことになるところ、内筒103とガイドワイヤーには相応の摩擦力が働くことから、誤ってガイドワイヤーが椎骨を貫通して、患者の内蔵組織を傷つけてしまうリスクがあった。第1実施形態では、そのようなリスクが回避できる。
【0045】
HAスティック4を骨孔内に適切に配置することができたならば、図3(b)に示すように、ピストン3を、インサーター本体1の補強材挿通用の内腔13内でスライドさせて取り出す。さらにインサーター本体1をガイドワイヤー2に沿って取り出す。なお、ピストン3とインサーター本体1を同時に取り出しても良い。
【0046】
その後、図3(c)に示すように、ガイドワイヤー2に沿ってスクリュー6をスクリュー孔に挿入したならば、スクリュー6をドライバ(図示していない)でねじ込む。これによって、スクリュー6がHAスティック4と共にスクリュー孔内に取り付けられる。
【0047】
図示は割愛するが、最後に、ガイドワイヤー2を引き抜くが、スクリュー6はHAスティック4と共にスクリュー孔内に保持される。
【0048】
以上、第1の実施形態について説明したが、各部の形状や機能などの仔細は、これに限定されるものではない。例えば、フランジ部14に代わる形状として、顆粒状の人工骨に対応し易くするように漏斗状の形状を採用しても良いし、これらの膨出部を設けないことも可能である。HAスティック4を扱える構成を得ることが、第1実施形態の目的の1ではあるのだが、先述したように、顆粒状、粉末状、ペースト状、液状等の人工骨を使用することも可能である。患者の体形や症状によって、スクリュー孔の内径サイズを適宜変更して術式が決定されるのは普通であるところ、スクリュー孔の内径サイズに応じて挿入されるべき人工骨の量も調整されることになる。
【0049】
(第2実施形態)
図4は本発明の第2実施形態に係るスクリューの補強材のインサーターの構成の概略を説明する図である。図4は、HAスティック4以外の人工骨を用いる態様について、説明するものである。
【0050】
図4において、主要な構成は、インサーター本体1’と、ガイドワイヤー2と、充填器7である。
【0051】
第2実施形態において用いられる人工骨は、元々ペースト状とされているものや、粉剤と液剤を練和してペースト状とするタイプの人工骨である。
【0052】
インサーター本体1’は、筒部11、案内部材挿通用の内腔12、ペースト状の補強材を骨孔内まで導入するための内腔13’、フランジ部14、窄み部15から成る。ただし、ペースト状の補強材を骨孔内まで導入するための内腔13’は、第1実施形態における補強材挿通用の内腔13と実質的には同じである。
【0053】
図4に示されるように、ペースト状の補強材を骨孔内まで導入するための内腔13’には、充填器7のノズル71が挿入されている。通常の注射器であれば、ノズルが注射器本体の中心に位置することから、これを内腔13’に差し込もうとしても、ガイドワイヤー2が邪魔となり、差し込むことができない。第2実施形態において用いられる充填器7は、ノズル71が充填器7本体に対して径方向の一方側に偏倚して設けられているため、図示されるように、ガイドワイヤー2と干渉することなく、ノズル71を内腔13’に差し込むことが可能とされている。
【0054】
ガイドワイヤー2と干渉させないことを実現する態様としては別のタイプも用意されている。図5は、充填器の先端に細長い軟性のノズル71をつけて、内腔13’をノズルが挿通するようにされている。図5からは、内腔13’よりもノズル71の方が長くなるように設定されていることを確認できる。この場合、内腔13’は、ノズル71を介在されることにはなるものの、ペースト状の補強材を骨孔内まで導入するための内腔であることには変わりがない。
【0055】
さらに、ノズルだけでなく、充填器本体のタイプとしても様々なタイプを用いることが可能である。図4図5に示されているのは、ピストンを指で押し込む通常タイプの充填器であるが、引鉄部を有するガンタイプの充填器を用いることもできる。この場合も、ノズル自体を軟質な材料としても良いし、ノズルが内腔13’を貫通する程の長さとしても良い。さらに、充填器7として補助シリンジを備えていて、シリンジと補助シリンジを連結させて、ペースト状の人工骨4’の元となる粉剤と液剤を2つのシリンジ間で移動させて練和できるタイプの充填器を使用することも可能である。
【0056】
(第2実施形態の動作例)
図6,7を用いて、本発明の第1実施形態に係るスクリューの補強材のインサーターの動作例を説明する。
【0057】
図6(a)において、ニードル等(図示していない)を用いて刺入点にガイドワイヤー2を挿入する。その際、必要に応じてX線透視下で骨孔を作成すべき位置を確認しつつ、位置決めする。ガイドワイヤー2の挿入後、タッピングにより軟部組織及び骨組織を順次拡径させて、スクリュー孔を形成する。
【0058】
スクリュー孔が形成されたならば、図6(b)に示すように、インサーター本体1’をガイドワイヤー2に沿って挿入する。この際、術者はその手を患者の体表に固定したままで、筒部11を把持して、インサーター本体1’を送り込むようにする。ここまでは、第1実施形態に係るスクリューの補強材のインサーターの動作例と同じである。また、図6(a)及び(b)の操作を行うことに並行して、ペースト状の人工骨4’を充填器7内に注入しておく。
【0059】
第2実施形態では、HAスティック4の挿入を行う代わりに、図6(c)に示すように、充填器7のノズル71をインサーター本体1’に設けられた内腔13’に挿入し、充填器7を操作して、人工骨を内腔13’に注入する。
【0060】
内腔13’に配置されたペースト状の人工骨4’は自重により落下していく。この際、必要に応じて、インサーター本体1’を軽く叩く等して、人工骨の落下を促す。さらに、落下が十分でなければ、充填器7のノズル71を取り外して、ピストン3を内腔13’に挿入し、ピストン3によって人工骨をスクリュー孔に送り込んでも良い。図7(a)は、充填器7を取り外して、ピストン3を取付けた様子を示している。ペースト状の人工骨4’は手の操作で押し込むこともできる。
【0061】
人工骨がスクリュー孔に到達した後の操作は、第1実施形態と同様である。すなわち、図7(b)に示すように、ピストン3が配置されている状態であれば、これを、インサーター本体1’の内腔13’内でスライドさせて取り出す。さらにインサーター本体1’をガイドワイヤー2に沿って取り出す。なお、ピストン3とインサーター本体1’を同時に取り出しても良い。
【0062】
その後、図7(c)に示すように、ガイドワイヤー2に沿ってスクリュー6をスクリュー孔に挿入したならば、スクリュー6をドライバ(図示していない)でねじ込む。これによって、スクリュー6がペースト状の人工骨4’と共にスクリュー孔内に取り付けられる。
【0063】
図示は割愛するが、最後に、ガイドワイヤー2を引き抜くが、スクリュー6はペースト状の人工骨4’と共にスクリュー孔内に保持される。
【0064】
以上、本発明の実施形態に係るスクリューの補強材のインサーターについて、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は、これらの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、案内部材としては、ガイドワイヤーの他に、鋼線であっても構わないし、インサーター本体の形状は先述したように、円筒状でなく角筒状であってもよい。同様に、ピストン及び補強材挿通用の内腔の形状も円形ではなく、角形状とすることが可能である。インサーター本体のサイズは、先に説明したように、6.0mm程度であっても、経皮的な手術は十分に可能なのであるが、小さくした方が好ましいことは疑うべくもなく、その意味では、ピストン及び補強材挿通用の内腔の形状を半円形とすることも有効である。
案内部材挿通用の内腔と補強材挿通用の内腔とが別個に用意されて、人工骨の挿入とガイドワイヤー等の案内部材とが完全に独立した動きを実現することによって、スムーズな人工骨の挿入が妨げられることなく、かつ、案内部材の位置ズレや抜けが生じないという点に、本発明の基本的な技術思想の重要な意義が存するということが良く理解されるべきである。
【符号の説明】
【0065】
1 インサーター本体
1’ インサーター本体
11 筒部
12 案内部材挿通用の内腔
13 補強材挿通用の内腔
13’ ペースト状の補強材を骨孔内まで導入するための内腔
14 フランジ部
15 窄み部
2 ガイドワイヤー(案内部材)
3 ピストン
4 HAスティック(補強材=人工骨)
4’ ペースト状の人工骨
5 スライドハンマー
6 スクリュー
7 充填器
71 ノズル
101 外筒
102 ガイドワイヤー(案内部材)
103 内筒
104 顆粒状の人工骨(補強材)
106 スクリュー
A 切開創
B 刺入点
C 軟部組織
D 骨組織
E スクリュー挿入孔
F スクリュー孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9