(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161804
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】等速自在継手のシール構造、及びこのシール構造を備えた等速自在継手
(51)【国際特許分類】
F16D 3/84 20060101AFI20231031BHJP
F16J 3/04 20060101ALI20231031BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
F16D3/84 R
F16D3/84 J
F16J3/04 C
F16J15/52 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072380
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】五十公野 純一
(72)【発明者】
【氏名】此本 武美
(72)【発明者】
【氏名】近藤 里奈
【テーマコード(参考)】
3J043
3J045
【Fターム(参考)】
3J043AA03
3J043BA01
3J043CA12
3J043CB13
3J043FA04
3J043FB04
3J045AA10
3J045CB15
3J045CB16
3J045CB17
3J045EA03
(57)【要約】
【課題】等速自在継手のブーツが繰り返し曲げ伸ばされることにより継手内部のグリースが継手外部に漏洩する事態を防止する。
【解決手段】シール構造30は、外側継手部材15と、ブーツ22のうちブーツバンド23の装着により外側継手部材15に取付けられる部分26との間をシール可能に構成されている。外側継手部材15とブーツ22との間に、少なくとも環状溝31の内側空間31aからベローズ内空間25aに向けたグリースの流通を可能とする流通路33(34)が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
等速自在継手の外側継手部材又は前記等速自在継手の内側継手部材と連結されるシャフトと、前記外側継手部材又は前記シャフトの外周を覆うブーツと、前記ブーツの外周に装着することにより前記ブーツを前記外側継手部材又は前記シャフトに取付けるブーツバンドとを備え、
前記外側継手部材又は前記シャフトの外周面のうちブーツバンドの装着により前記ブーツが取付けられる部分に環状溝が設けられ、
前記外側継手部材又は前記シャフトと、前記ブーツのうちブーツバンドの装着により前記外側継手部材又は前記シャフトに取付けられる部分との間をシール可能なシール構造において、
前記外側継手部材又は前記シャフトと前記ブーツのうち少なくとも一方の側に、前記環状溝の内側空間から前記ブーツのベローズ内空間に向けた前記グリースの流通を可能とする流通路が設けられていることを特徴とする等速自在継手のシール構造。
【請求項2】
複数の前記流通路が前記外側継手又は前記シャフトに設けられ、かつ前記全ての流通路が前記等速自在継手の軸線に対して回転対称となるように配設されている請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
前記流通路は、前記外側継手部材の外周面のうち、前記外側継手部材の内周に設けられた複数のトラック溝の何れとも円周方向で異なる位置に設けられる請求項1に記載のシール構造。
【請求項4】
前記流通路は、前記等速自在継手の軸方向に沿って延びる軸方向溝で構成されている請求項1又は2に記載のシール構造。
【請求項5】
前記流通路は、前記外側継手部材又は前記シャフトの外周面に対する塑性加工で形成されたものである請求項1又は2に記載のシール構造。
【請求項6】
前記塑性加工としての転造加工により、前記流通路が形成されている請求項5に記載のシール構造。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のシール構造を備えた等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手のシール構造、及びこのシール構造を備えた等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸間で回転動力を等速で伝達可能とするものであり、自動車や各種産業機械などの動力伝達系に組み込まれて使用されている。この等速自在継手は、通常、カップ部を有する外側継手部材と、外側継手部材(カップ部)の内側空間に配置された内側継手部材とを備え、外側継手部材の内側空間にグリース等の潤滑剤を充填した状態で使用される。また、この潤滑剤の外部漏洩や等速自在継手内部への異物侵入を防止するため、外側継手部材の開口部が、ゴムや樹脂等の弾性材料で形成された筒状のブーツで覆われる。ブーツの一端はブーツバンドにより外側継手部材に固定され、ブーツの他端は同じくブーツバンドにより内側継手部材に連結されたシャフトに固定される。これにより、ブーツの外側継手部材に対する固定部分と、ブーツのシャフトに対する固定部分がともに密着状態となり、当該固定部分がシールされ得る。
【0003】
ところで、この種の等速自在継手においては、等速自在継手が作動角をとった状態で回転(動力伝達)する際に、ブーツのベローズ(蛇腹部)とブーツのブーツバンド装着部(バンド装着部)との間の部分が繰返し曲げ伸ばしされることによって、ベローズの内側空間(以下、ベローズ内空間と称する。)のグリースにいわゆる「ポンプ作用」が生じることがある(例えば、特許文献1の
図10~
図13を参照)。この場合、グリースはブーツのバンド装着部と例えばシャフトとの間(密着領域)に徐々に入り込んでいく。そのため、バンド装着部の半径方向内側に位置するシャフトの溝部にまでグリースが浸入し、溝部がグリースで満たされると、溝部から継手外部へのグリースの漏れ出しが起こり得る。上述した現象は、バンド装着部と外側継手部材との間(密着領域)にも同様に起こり得る。
【0004】
そこで、特許文献1では、ブーツのバンド装着部の軸方向一端部よりもベローズに近い側に、ベローズの曲げ伸ばしによってもシャフトの外周面とブーツの内周面とが接しない非接触領域(隙間)を設けることが提案されている(特許文献1の
図2を参照)。
【0005】
また、特許文献1では、等速自在継手のバンド装着部の軸方向一端部からベローズ側に離れた箇所に突起を設けて、バンド装着部の軸方向一端部よりもベローズに近い側にシャフトとブーツとの非接触領域を設けると共に、この非接触領域よりもベローズに近い側にシャフトとブーツの接触領域を設けることが提案されている(特許文献1の
図4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の
図2に示すように非接触領域を設けることで、グリースに対するポンプ作用の抑制効果が期待される。また、特許文献1の
図4に示すようにバンド装着部とベローズとの間に非接触領域と接触領域とを設けた場合、接触領域では突起の食い込みによりベローズの繰り返しの曲げ伸ばしの動きが抑制されることで、ポンプ作用の抑制効果が期待される。また、仮に突起とブーツとの間にグリースが入り込んでバンド装着部の側にグリースが浸入した場合であっても、バンド装着部の手前(ベローズ側)に設けられた非接触領域がグリース溜りとして作用することで、グリースの更なる浸入が抑制される効果が期待される。
【0008】
しかしながら、特許文献1の
図2に示すように非接触領域を設けただけでは、グリースの浸入を遅らせる効果はあるものの、ポンプ作用によるグリースの浸入を防止する効果が十分にあるとまでは言い難い。また、特許文献1の
図4に示すように非接触領域と接触領域とを設けた場合であっても、ポンプ作用を十分に抑制できる訳ではないため、非接触領域へのグリースの浸入が継続的に生じた結果、非接触領域がグリースで満たされ、最終的にグリースがバンド装着部側に浸入する事態を招き得る。
【0009】
以上の実情に鑑み、本発明により解決すべき技術課題は、等速自在継手のブーツが繰り返し曲げ伸ばされることにより継手内部のグリースが継手外部に漏洩する事態を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題の解決は、本発明に係る等速自在継手のシール構造によって達成される。すなわち、このシール構造は、等速自在継手の外側継手部材又は等速自在継手の内側継手部材と連結されるシャフトと、外側継手部材又はシャフトの外周を覆うブーツと、ブーツの外周に装着することによりブーツを外側継手部材又はシャフトに取付けるブーツバンドとを備え、外側継手部材又はシャフトの外周面のうちブーツバンドの装着によりブーツが取付けられる部分に環状溝が設けられ、外側継手部材又はシャフトと、ブーツのうちブーツバンドの装着により外側継手部材又はシャフトに取付けられる部分との間をシール可能なシール構造において、外側継手部材又はシャフトとブーツのうち少なくとも一方の側に、環状溝の内側空間からブーツのベローズ内空間に向けたグリースの流通を可能とする流通路が設けられている点をもって特徴付けられる。
【0011】
このように、本発明に係るシール構造では、外側継手部材又はシャフトの外周面のうちブーツバンドの装着によりブーツが取付けられる部分に環状溝が設けられる場合に、環状溝の内側空間からブーツのベローズ内空間に向けてグリースの流通を可能とする流通路を設けるようにした。このように構成することによって、上述の如きポンプ作用によりグリースが環状溝内に浸入する場合であっても、当該グリースを、流通路を介して、ベローズ内空間へと逃がすことができる。よって、環状溝がグリースで満たされて、当該グリースが等速自在継手の外部空間に漏洩する事態を防止することが可能となる。
【0012】
また、本発明に係るシール構造において、複数の流通路が外側継手部材又はシャフトに設けられてもよい。また、この場合、全ての流通路が等速自在継手の軸線に対して回転対称となるように配設されてもよい。
【0013】
環状溝からグリースを効果的に排出することを考慮した場合、複数の流通路を設けることが望ましい。一方で、等速自在継手は回転体であるため、流通路を数多く設けるほど、等速自在継手の回転バランスが崩れるおそれがある。この点、上述のように、全ての流通路が回転対称となるように複数の流通路を外側継手部材又はシャフトに設けることで、等速自在継手の回転バランスを維持することが可能となる。
【0014】
また、本発明に係るシール構造において、流通路は、等速自在継手の軸方向に沿って延びる軸方向溝で構成されてもよい。
【0015】
このように、等速自在継手の軸方向に延びるように流通路を設けることによって、環状溝の内側空間とベローズ内空間とを最短距離でつなぐことができる。よって、グリースを環状溝から円滑に排出することが可能となる。また、流通路を溝形状とする場合、例えば深さ寸法や幅方向寸法などの断面寸法を適宜設定するだけで、グリースの流通量と外側継手部材又はシャフトの強度の双方を容易に調整できる。
【0016】
また、本発明に係るシール構造において、流通路は、外側継手部材の外周面のうち、外側継手部材の内周に設けられた複数のトラック溝の何れとも円周方向で異なる位置に設けられてもよい。
【0017】
このように、流通路を外側継手部材の外周面に設ける場合、外側継手部材の内周に設けられた複数のトラック溝の何れとも円周方向で異なる位置に流通路を設けることで、外側継手部材のうち相対的に薄肉となる部分を避けて流通路を設けることができる。よって、流通路を設けたことによる外側継手部材の強度低下を抑えて、必要な強度を確保することが可能となる。
【0018】
また、本発明に係るシール構造において、流通路は、外側継手部材又はシャフトの外周面に対する塑性加工で形成されたものであってもよい。また、この場合、塑性加工としての転造加工により、流通路が形成されていてもよい。
【0019】
外側継手部材の外周面に上述した環状溝を形成する場合、当該環状溝は、通常、外側継手部材又はシャフトの外周面に旋削加工を施す際に、当該旋削加工により外周面と同一の工程内で形成される。ところが、上記構成の流通路はどうしても環状溝とは異なる向きに延びる形状とせざるを得ないため、この流通路を外側継手部材又はシャフトに形成しようとすると、外側継手部材又はシャフトの外周面に対する旋削加工とは別に、ミーリング加工など追加の工程が必要となる。これでは、生産効率の低下や加工コストの増加を招く。
【0020】
ここで、流通路を、外側継手部材又はシャフトの外周面に対する塑性加工で形成することによって、塑性加工が必要な外側継手部材又はシャフトの外周部位と同時に流通路を形成することができる。よって、工程数ひいては加工コストの増加を招くことなく流通路を外側継手部材又はシャフトに形成することが可能となる。また、外側継手部材のステム部外周にスプライン又は雄ねじが設けられる場合、スプライン又は雄ねじは転造加工で形成されることが一般的であるから、この転造工程の中に流通路(例えば軸方向溝)の転造加工を組み込むことで、効率よくかつ低コストに流通路を有する外側継手部材又はシャフトを製造することが可能となる。
【0021】
また、以上の説明に係るシール構造は、等速自在継手のブーツが繰り返し曲げ伸ばされることにより等速自在継手内部のグリースが外部に漏洩する事態を防止可能とするものであるから、上記構成のシール構造を備えた等速自在継手として好適に提供可能である。
【発明の効果】
【0022】
以上より、本発明に係るシール構造及びこのシール構造を備えた等速自在継手によれば、等速自在継手のブーツが繰り返し曲げ伸ばされることにより等速自在継手内部のグリースが外部に漏洩する事態を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る固定式等速自在継手の断面図である。
【
図2】
図1に示す外側継手部材とブーツとのシール構造の拡大断面図である。
【
図3】
図2に示す環状溝及び流通路を矢印Aの向きから見た図である。
【
図4】
図3に示す外側継手部材のB-B断面図である。
【
図5】本発明の第二実施形態に係るシール構造の拡大断面図である。
【
図6】
図5に示す環状溝及び流通路を矢印Cの向きから見た図である。
【
図7】本発明の第三実施形態に係るシール構造の拡大断面図である。
【
図8】
図7に示す環状溝及び流通路を矢印Dの向きから見た図である。
【
図9】本発明の第四実施形態に係るシール構造の拡大断面図である。
【
図10】
図9に示す環状溝を矢印Eの向きから見た図である。
【
図12】他の発明の一実施形態に係るシール構造の拡大断面図である。
【
図13】
図12に示す環状溝及び軸方向溝を矢印Gの向きから見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の第一実施形態を図面に基づき説明する。
【0025】
なお、以下の実施形態において本発明に係るシール構造を適用する等速自在継手としては、自動車のドライブシャフトに組み込まれ、駆動側と従動側の二軸を連結してその二軸が如何なる作動角をとっても等速で回転トルクを伝達する構造を備えた固定式等速自在継手を例示する。本発明に係るシール構造は任意の形態の固定式等速自在継手に適用可能であり、その具体例としてツェッパ型等速自在継手や、アンダーカットフリー型等速自在継手を挙げることができる。もちろん、本発明に係るシール構造は、固定式に限らず、ダブルオフセット型等速自在継手、クロスグルーブ型等速自在継手やトリポード型等速自在継手などの摺動式等速自在継手にも適用可能である。
【0026】
図1は、本発明の第一実施形態に係る等速自在継手10の断面図を示している。この等速自在継手10は、例えばドライブシャフトのアウトボード側(車輪側)に配設され、軸方向に延びる円弧状のトラック溝11が球面状内周面12の円周方向複数箇所に形成されたカップ部13及びステム部14を有する外側継手部材15と、外側継手部材15のトラック溝11と対をなして軸方向に延びる円弧状のトラック溝16が球面状外周面17の円周方向複数箇所に形成された内側継手部材18と、外側継手部材15のトラック溝11と内側継手部材18のトラック溝16との間に介在してトルクを伝達する複数個のボール19と、外側継手部材15の球面状内周面12と内側継手部材18の球面状外周面17との間に配されてボール19を保持するケージ20とを主に備える。
【0027】
内側継手部材18には、回転軸(ここでは中間軸)21の一端が例えばスプライン嵌合により連結されている。この回転軸21の他端には、摺動式等速自在継手(図示は省略)の内側継手部材が例えばスプライン嵌合により連結されている。
【0028】
また、等速自在継手10は、外側継手部材15及び回転軸21の外周を覆うブーツ22と、ブーツ22の所定箇所に装着されるブーツバンド23,24とをさらに備える。
【0029】
ブーツ22は、蛇腹形状をなすベローズ25と、ブーツ22の大径側端部に位置する第一バンド装着部26と、ブーツ22の小径側端部に位置する第二バンド装着部27とを一体に有する。ベローズ25の内部空間(ベローズ内空間25a)には、潤滑剤としてのグリース(図示は省略)が充填される。これにより、外側継手部材15に対して回転軸21が所定の範囲内で作動角をとりながら回転する際、等速自在継手10の摺動部における所要の潤滑性を確保可能としている。
【0030】
第一バンド装着部26は、対応するブーツバンド(第一ブーツバンド23)の第一装着用凹部28を外周に有し、第一ブーツバンド23の装着(締め付け動作)により外側継手部材15(カップ部13)の外周面15aに取付けられる。同様に、第二バンド装着部27は、対応するブーツバンド(第二ブーツバンド24)の第二装着用凹部29を外周に有し、第二ブーツバンド24の装着(締め付け動作)により回転軸21の外周面21aに取付けられる。
【0031】
ここで、ブーツ22は、装着対象となる等速自在継手(本実施形態では
図1に示す固定式の等速自在継手10)が作動角をとりながら回転する機能を備える限りにおいて、任意の形態をとることができる。例えばブーツ22が
図1に示すようにベローズ25を有する場合、等速自在継手10の上述した挙動に追従できる柔軟性を確保可能なように、ベローズ25の形態、材質が設定されていればよく、例えばゴム又は樹脂でベローズ25を有するブーツ22が一体に形成される。この際、ブーツ22に使用可能なゴムとして、表面硬さがHs50以上でかつHs70以下を示すゴムが好適である。具体例として、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、あるいはHNBRを挙げることができる。又は、ブーツ22に使用可能な樹脂として、表面硬さがHD38以上でかつHD50以下を示す樹脂が好適である。具体例として、熱可塑性ポリエステル系エラストマーあるいは熱可塑性ポリエステル系エラストマーを含む組成物を挙げることができる。もちろんこれらは一例に過ぎず、ブーツ22(ベローズ25)として機能し得る限りにおいて任意の材質を採用し得る。
【0032】
ブーツバンド(第一及び第二ブーツバンド)23,24についても、締め付けによりブーツ22を外側継手部材15又は回転軸21に固定し得る限りにおいて任意の構成をとることができ、具体例としてロープロファイルバンド、オメガバンド、あるいはワンタッチバンドを挙げることができる。
【0033】
次に、外側継手部材15とブーツ22との間のシール構造(第一シール構造30)について詳述する。
【0034】
外側継手部材15の外周面15aのうち第一バンド装着部26が取付けられる部分には、
図2に示すように、外側継手部材15の円周方向に延びる環状溝31が設けられている。本実施形態では、カップ部13の外周面15aの開口側に環状溝31が設けられると共に、この環状溝31の軸方向両端に環状の突起部32a,32bが設けられている。これら突起部32a,32bは第一ブーツバンド23の装着により第一バンド装着部26に食い込むことで、外側継手部材15に対する第一バンド装着部26の固定力を高めている。この場合、少なくとも第一バンド装着部26の内周面26aと各突起部32a,32bの外周面とが密着することにより、外側継手部材15とブーツ22との間がシールされた状態となる。もちろん、外側継手部材15の外周面15aのうち各突起部32a,32bの外周面以外の部分と第一バンド装着部26の内周面26aとがさらに密着するようにしてもよい。
【0035】
外側継手部材15とブーツ22のうち少なくとも一方の側には、
図2及び
図3に示すように、環状溝31の内側空間31aからベローズ内空間25aに向けたグリースの流通を可能とする流通路33が設けられている。この場合、外側継手部材15と、ブーツ22の第一バンド装着部26及び第一装着用凹部28と、第一ブーツバンド23と、環状溝31と、突起部32a,32bと、流通路33とで、第一シール構造30が構成される。なお、
図3においては、環状溝31及び流通路33の視認性向上のため、ブーツ22(第一バンド装着部26)及び第一ブーツバンド23を二点鎖線で描いている。
【0036】
本実施形態では、流通路33としての複数の軸方向溝34が、外側継手部材15の外周面15aに設けられている。この場合、各軸方向溝34は、外側継手部材15の強度確保の観点から、外側継手部材15の外周面15aのうち、外側継手部材15の内周に設けられた複数のトラック溝11の何れとも円周方向で異なる位置に設けられるのがよく、より好ましくは複数のトラック溝11のうち互いに隣り合う一対のトラック溝11,11の円周方向中間位置に対応する外周面15a上の所定位置に設けられるのがよい(何れも図示は省略)。また、回転バランスの観点から、複数の軸方向溝34全てが、等速自在継手10の軸線に対して回転対称となるように配設されるのがよい(図示は省略)。具体的には、各軸方向溝34が、同一の形状、寸法で形成されかつ同じ向きに延びると共に、これら全ての軸方向溝34が円周方向で隣接する軸方向溝34との間に円周方向で同じ間隔を空けて配設されている。
【0037】
各軸方向溝34は、本実施形態では、
図2に示すように、環状溝31の側面31cから外側継手部材15の開口側端面15bまでの間、外側継手部材15を貫通するように、外周面15aの所定位置に形成されている。
【0038】
また、各軸方向溝34は、本実施形態では、等速自在継手10の軸線方向に沿った向きに延びている。言い換えると、複数の軸方向溝34は何れも環状溝31と直交する向きに延びている(
図3を参照)。本実施形態では、各軸方向溝34の底面34bと環状溝31の底面31bとが同一の外径寸法となるように、各軸方向溝34が外周面15aに形成されている。この場合、環状溝31及び各軸方向溝34の底面31b,34bの外径寸法は外側継手部材15の外周面15aよりも小さく、突起部32a,32bの外径寸法は外側継手部材15の外周面15aの外径寸法よりも大きい(
図2を参照)。また、各軸方向溝34の長手方向に直交する向きの断面は矩形形状をなしている。すなわち、
図4に示すように、軸方向溝34の底面34bは平坦な形状をなし、かつ底面34bの円周方向両端から軸方向溝34の側面34aが底面34bに対して直交する向きに延びている。
【0039】
具体的に、各軸方向溝34の深さ寸法H1(ここでは軸方向溝34の底面34bから外側継手部材15の外周面15aまでの継手半径方向距離)は0.1mm以上に設定され、好ましくは0.5mm以上に設定される。一方で、各軸方向溝34の深さ寸法H1があまりに大きいと、外側継手部材15の強度が低下する事態が懸念される。この点を鑑み、各軸方向溝34の深さ寸法H1は、例えば5.0mm以下とするのがよい。好適な範囲の一例として、深さ寸法H1が1.0mm以上でかつ1.5mm以下の軸方向溝34が挙げられる。本実施形態では、各軸方向溝34の深さ寸法H1を長手方向で一定としている(
図2を参照)。
【0040】
各軸方向溝34の幅方向寸法W1(外側継手部材15の円周方向に沿った向きの寸法)は0.5mm以上に設定され、好ましくは1.0mm以上に設定される。また、外側継手部材15の強度確保の観点から、各軸方向溝34の幅方向寸法W1は5.0mm以下に設定されるのがよい。好適な範囲の一例として、幅方向寸法W1が2.0mm以上でかつ2.5mm以下の軸方向溝34が挙げられる。本実施形態では、各軸方向溝34の幅方向寸法W1を長手方向で一定としている(
図3を参照)。
【0041】
なお、軸方向溝34の上記各寸法H1,W1は上記例示の範囲には限定されない。例えば、第一ブーツバンド23の装着によりブーツ22の第一バンド装着部26が外側継手部材15の外周に取付けられた状態で、軸方向溝34が変形した第一バンド装着部26により閉塞されない程度の大きさであれば、軸方向溝34の上記各寸法H1,W1を任意の大きさに設定してもよい。また、等速自在継手10の種類、用途によって、ブーツ22内に充填されるグリースの量が異なることを考慮した場合、ブーツ22内に充填されるグリースの量に応じて、流通路33(軸方向溝34)の断面形状ないし断面寸法(深さ寸法H1及び幅方向寸法W1、すなわち断面積)を設定してもよい。
【0042】
上記構成の軸方向溝34は、任意の加工手段で形成することが可能であり、加工効率(生産効率)や加工コストを考慮した場合、塑性加工で形成することが望ましい。特に、塑性加工としての転造加工により軸方向溝34を形成することで、例えば外側継手部材15のステム部14外周に設けられるスプライン(図示は省略)の転造加工の際、スプラインと同じ工程で軸方向溝34を形成することができるので、工程数及び加工コストの増加を避けて軸方向溝34を形成することができる。
【0043】
回転軸21とブーツ22の第二バンド装着部27との間についても、第一シール構造30と同様に、環状溝35と、突起部36a,36bと、流通路としての軸方向溝37とを回転軸21に設けてもよい(
図1を参照)。この場合、回転軸21と、ブーツ22の第二バンド装着部27及び第二装着用凹部29と、第二ブーツバンド24と、環状溝35と、突起部36a,36bと、軸方向溝37とで、回転軸21とブーツ22との間のシール構造(第二シール構造38)が構成される。軸方向溝37の採り得る形態、数、配置態様、各種寸法、及び加工手段は、第一シール構造30の軸方向溝34と同じである。
【0044】
以下、本実施形態に係るシール構造(ここでは第一シール構造30)の作用効果を説明する。
【0045】
図2に示す第一シール構造30を備えた等速自在継手10の動作時、ブーツ22のベローズ25と第一バンド装着部26との間の部分が等速自在継手10の半径方向に繰返し曲げ伸ばしされることによって、ベローズ内空間25aのグリースにいわゆる「ポンプ作用」が生じることがある。この場合、グリースはブーツ22の第一バンド装着部26と外側継手部材15との密着領域、
図2に示す形態でいえば、第一バンド装着部26の内周面26aとベローズ側突起部32bの外周面との間に徐々に入り込んでいく(
図2及び
図3中の破線矢印d1で示す位置及び向きのグリースの移動が生じる)。そのため、第一バンド装着部26の半径方向内側に位置する環状溝31にまでグリースが浸入する事態が起こり得る。
【0046】
ここで、本実施形態に係るシール構造(第一シール構造30)では、外側継手部材15とブーツ22(の第一バンド装着部26)のうち何れか一方の側に、環状溝31の内側空間31aからブーツ22のベローズ内空間25aに向けてグリースの流通を可能とする流通路33を設けるようにした。このように流通路33を設けることによって、上述の如きポンプ作用によりグリースが環状溝31内に浸入する場合であっても、当該グリースを、流通路33を介して、ベローズ内空間25aへと逃がすことができる(
図2及び
図3中の破線矢印d2で示す位置及び向きのグリースの移動が生じ得る)。特に、
図2に示すように環状溝31が流通路33(軸方向溝34)を除いて第一バンド装着部26により完全に閉塞された状態となっている場合、環状溝31がグリースで満たされるほどに側面31cに開口した流通路33の軸方向一端部からグリースの排出圧が高まるので、環状溝31がグリースで完全に満たされる事態を高確率で防止できる。以上の作用より、本実施形態に係る第一シール構造30によれば、第一バンド装着部26と外側継手部材15との間からグリースが等速自在継手10の外部空間に漏洩する事態を防止することが可能となる。
【0047】
また、本実施形態のように、流通路33として軸方向溝34を外側継手部材15の外周面15aに設けることで、ブーツ22と外側継手部材15の双方に加工を施すことなく流通路33を設けることができるので、加工効率及び加工コストの両面で好適である。また、この際、各軸方向溝34を塑性加工、特に転造加工で形成するようにすれば、外側継手部材15の他の部位(例えばステム部14外周のスプライン)の転造加工と同時に又は同じ工程で軸方向溝34を形成することができるので、加工効率及び加工コストの更なる改善が可能となる。
【0048】
また、本実施形態のように、複数の軸方向溝34を設けることで、軸方向溝34一つ当たりのグリース排出能力を下げることができるので、各軸方向溝34の深さ寸法H1ないし幅方向寸法W1(
図2及び
図3を参照)を小さくでき、これにより軸方向溝34を設けたことによる外側継手部材15の強度低下を最小限に抑えることが可能となる。加えて、これら複数の軸方向溝34を、トラック溝11とは異なる円周方向位置(ここでは隣り合うトラック溝11間の円周方向中間位置)に対応する外周面15a上の所定位置に設けるようにしたので、相対的に肉厚な部分に軸方向溝34を設けることができる。これによっても、軸方向溝34を設けたことによる外側継手部材15の強度低下を最小限に抑えることが可能となる。
【0049】
また、詳細な説明は割愛するが、回転軸21とブーツ22との間に形成される第二シール構造38においても、第一シール構造30と同じ流通路(軸方向溝37)が設けられることから、第一シール構造30と同じ作用効果を享受し得る。
【0050】
以上、本発明の第一実施形態を説明したが、本発明に係るシール構造及びこのシール構造を備えた等速自在継手は上記例示の形態に限定されることなく、本発明の範囲内において任意の形態を採り得る。
【0051】
図5は、本発明の第二実施形態に係る第一シール構造40の断面図を示している。
図5に示すように、本実施形態における第一シール構造40は、流通路33の形態において、第一実施形態に係る第一シール構造30と相違する。詳述すると、本実施形態に係る第一シール構造40では、環状溝31の軸方向両端に位置する突起部32a,32bのうちベローズ25側の突起部32bの一部を切り欠いてなる切り欠き部41が設けられている。この切り欠き部41により、環状溝31の内側空間31aと、外側継手部材15の外周面15aとこれに対向する第一バンド装着部26の内周面26aとの間の空間とがつながった状態となる(
図5を参照)。よって、この切り欠き部41の区画面(ここでは底面41aと側面41b)と第一バンド装着部26の内周面26aとで囲まれた空間が、本発明に係る流通路33として機能し得る。
【0052】
このように本実施形態に係る第一シール構造30によれば、ベローズ25側の突起部32bのうち外周面15aより径方向外側に突出している部分のみを切り欠くだけで流通路33を形成できるので、第一実施形態に係る第一シール構造30よりも外側継手部材15の加工量を減らすことができる。また、外側継手部材15の強度低下をより効果的に抑制することができる。また、切り欠き部41のように小さな凹部であれば、トラック溝11の位置を考慮することなく突起部32bの全周にわたって数多く設けることができるので、これによっても加工効率の向上を図ることが可能となる。
【0053】
なお、この場合も、切り欠き部41の深さ寸法H2(
図5を参照)及び幅方向寸法W2(
図6を参照)は、外側継手部材15の強度に及ぼす影響、第一ブーツバンド23の装着に伴う第一バンド装着部26の変形が切り欠き部41の流路断面積に及ぼす影響、ブーツ22内に充填されるグリースの量、あるいは塑性加工(転造加工)による切り欠き部41の加工のし易さなどを考慮して適宜の大きさに設定することが望ましい。
【0054】
なお、図面を用いた詳細な説明は割愛するが、回転軸21とブーツ22との間の第二シール構造38についても、第一シール構造40と同様に、ベローズ25側の突起部36bに切り欠き部を設けることで、環状溝35の内側空間からベローズ内空間25aへと向かうグリースの流通を可能とする流通路を設けてもよい。
【0055】
図7は、本発明の第三実施形態に係る第一シール構造50の断面図を示している。
図7に示すように、本実施形態における第一シール構造50は、環状溝31の形態及び外側継手部材15と第一バンド装着部26との密着態様において、第一及び第二実施形態に係る第一シール構造30,40と相違する。詳述すると、本実施形態に係る第一シール構造50では、環状溝31の軸方向両端に突起部32a,32bがなく、故に環状溝31の軸方向両側に位置する外径寸法が一定の外周面15a,15aと第一バンド装着部26の内周面26aとがそれぞれ面接触で密着した状態にある。また、この環状溝31の底部31dと外径寸法を同一とする軸方向溝51が、環状溝31の側面部から開口側端面15bまでの間、外側継手部材15を貫通するように外周面15aに設けられている。この軸方向溝51により、環状溝31の内側空間31aと、外側継手部材15の外周面15aとこれに対向する第一バンド装着部26の内周面26aとの間の空間とがつながった状態となる(
図7を参照)。よって、この軸方向溝51の区画面(ここでは側面51aと底面51b)と第一バンド装着部26の内周面26aとで囲まれた空間が、本発明に係る流通路33として機能し得る。
【0056】
このように、本実施形態に係る第一シール構造50によれば、環状溝31をその軸方向両側に突起部32a,32bを設けない形態とした場合においても、環状溝31内に浸入したグリースを、流通路33を介して、ベローズ内空間25aへと逃がすことができる。すなわち、本実施形態のように環状溝31のベローズ25側で第一バンド装着部26と外側継手部材15との密着領域が軸方向に増大する場合であっても、環状溝31から外側継手部材15の開口側端面15bまで外側継手部材15を貫通する軸方向溝51を設けることによって、流通路33による十分なグリースの排出効果を得ることができる。よって、第一バンド装着部26と外側継手部材15との間からグリースが等速自在継手10の外部空間に漏洩する事態を防止することが可能となる。
【0057】
なお、この場合も、軸方向溝51の深さ寸法H3(
図7を参照)及び幅方向寸法W3(
図8を参照)は、外側継手部材15の強度に及ぼす影響、第一ブーツバンド23の装着に伴う第一バンド装着部26の変形が軸方向溝51の流路断面積に及ぼす影響、ブーツ22内に充填されるグリースの量、あるいは塑性加工(転造加工)による軸方向溝51の加工のし易さなどを考慮して適宜の大きさに設定することが望ましい。
【0058】
なお、図面を用いた詳細な説明は割愛するが、回転軸21とブーツ22との間の第二シール構造38についても、第一シール構造50と同様に、軸方向両側に突起部36a,36bのない環状溝35とベローズ内空間25aとをつなぐ軸方向溝を形成することで、環状溝35の内側空間からベローズ内空間25aへと向かうグリースの流通を可能とする流通路を設けてもよい。
【0059】
また、上述した実施形態においては、外径寸法が一定の外周面15aの円周方向の複数箇所に流通路33としての軸方向溝34,51を設けた場合を例示したが(
図2及び
図7を参照)、流通路33は上記以外の形態をとることも可能である。
図9はその一例(本発明の第四実施形態)に係る第一シール構造60の断面図を示している。
図9に示すように、本実施形態に係る第一シール構造60は、外側継手部材15と、ブーツ22の第一バンド装着部26及び第一装着用凹部28と、第一ブーツバンド23と、環状溝31、及びスプライン61とで構成される。
【0060】
ここで、スプライン61は、複数の歯部62と、円周方向で隣り合う歯部62の間に設けられる複数の溝部63とで構成される。本実施形態では、これら複数の歯部62と複数の溝部63とが外側継手部材15の外周に交互に設けられている。また、これら複数の歯部62と溝部63は外側継手部材15の全周にわたって設けられている(ともに
図11を参照)。
【0061】
これら複数の溝部63の軸方向一端は、環状溝31のベローズ25側の側面31cに開口し、溝部63の軸方向他端は外側継手部材15の開口側端面15bに開口している。すなわち、各溝部63は、環状溝31のベローズ25側の側面31cから開口側端面15bまでの間、外側継手部材15を貫通している。そして、スプライン61をなす複数の歯部62及び溝部63の表面は、スプライン61とブーツ22との間の空間、すなわちベローズ内空間25aに面している(ともに
図9を参照)。よって、これら複数の溝部63の区画面(底面及び内側面)と、第一バンド装着部26の内周面26aとで囲まれた空間が、環状溝31の内側空間31aからベローズ内空間25aに向けたグリースの流通を可能とする流通路64として機能する。
【0062】
このようにスプライン61の溝部63で流通路64を構成することにより、複数の流通路64が非常に短いピッチで外側継手部材15の外周面15a上に配設される。そのため、環状溝31がグリースのバッファとして機能し得る程度にその深さ寸法並びに幅方向寸法を大きく設定しておけば、環状溝31が如何なる円周方向位置でグリースを捕捉した場合であっても、全周にわたってかつ短いピッチで設けられた多数の溝部63(流通路64)によってグリースをベローズ内空間25aに逃がすことができる。よって、本実施形態に係る第一シール構造60においても、環状溝31がグリースで完全に満たされる事態を回避して、グリースが等速自在継手10の外部空間に漏れ出す事態を防止することが可能となる。
【0063】
また、第一及び第三実施形態に係る軸方向溝34,51よりも軸方向溝(溝部63)の本数を増やすことができるので、溝部63一つ当たりの深さ寸法H4(
図9を参照)を小さくすることができる。よって、外側継手部材15の全周にわたってスプライン61(溝部63)を形成した場合であっても、外側継手部材15の強度低下を最小限に抑えることが可能となる。
【0064】
また、スプライン61であれば、転造加工で外側継手部材15の外周に容易に形成できるので、加工コストの面でも好適である。
【0065】
なお、この場合も、溝部63の深さ寸法H4及び幅方向寸法W4(
図10を参照)は、外側継手部材15の強度に及ぼす影響、第一ブーツバンド23の装着に伴う第一バンド装着部26の変形が溝部63の流路断面積に及ぼす影響、ブーツ22内に充填されるグリースの量、あるいは塑性加工(転造加工)による溝部63の加工のし易さなどを考慮して適宜の大きさに設定することが望ましい。
【0066】
なお、本実施形態では、スプライン61をなす歯部62の頂部の外径寸法と、外側継手部材15の外周面15aの外径寸法とを一致させているが(
図9を参照)、必ずしも一致させる必要はない。上述した影響を考慮する限りにおいて、歯部62の頂部の外径寸法と、外側継手部材15の外周面15aの外径寸法を異ならせてもよい。同様に、本実施形態では、スプライン61をなす溝部63の底部の外径寸法を、環状溝31の底面31bの外径寸法よりも大きくしているが、上述した影響を考慮する限りにおいて、
図9とは異なる大小関係としてもよい。
【0067】
なお、図面を用いた詳細な説明は割愛するが、回転軸21とブーツ22との間の第二シール構造38についても、第一シール構造60と同様に、多数の歯部及び溝部からなるスプラインを、突起部36a,36bのない環状溝35と連続するように外周面21aに設けることで、上述したグリースのベローズ内空間25a側への排出効果を享受することが可能となる。
【0068】
また、
図9~
図11に係る実施形態(本発明の第四実施形態)では、シール構造(第一シール構造60)として、環状溝31にベローズ25側で開口するようにスプライン61を外周面15aに設けたものを例示したが、もちろん、これには限られない。例えば図示は省略するが、スプライン61に代えてローレットを設けてもよい。この場合、ローレットの溝部の長手方向一端が環状溝31にベローズ25側で開口していればよい。また、ローレットの種類は特に限定されず、例えば平目タイプや綾目タイプなど公知のタイプのローレットが適用可能である。
【0069】
また、上述した実施形態においては、軸方向溝34,51又は溝部63の断面形状をその長手方向で一定とした場合を例示したが、もちろんこれには限定されない。例えば環状溝31側からベローズ25側に向かうにつれて軸方向溝34,51又は溝部63の幅方向寸法W1,W3,W4又は深さ寸法H1,H3,H4が増加又は縮小する形状としてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、外側継手部材15に設けられた複数の軸方向溝34,51又は溝部63が何れも同一の形態、配置態様(延伸方向など)、及びサイズである場合を例示したが、もちろんこれには限られない。例えば等速自在継手10の回転バランスを確保可能な範囲において、一部の軸方向溝34,51又は溝部63の形態、配置態様、及びサイズを異ならせてもよい。
【0071】
また、以上の説明では、流通路33,64として、環状溝31と連続しかつ等速自在継手10の軸方向に伸びる軸方向溝34,51又は溝部63を設けた場合を例示したが、もちろんこれには限られない。例えば図示は省略するが、環状溝31と軸方向一端で連続しかつ等速自在継手10の軸方向に対して所定角度傾斜した傾斜溝を外側継手部材15の外周面15aに設けてもよい。溝部63についても同様に、環状溝31と軸方向一端で連続しかつ等速自在継手10の軸方向に対して溝部63を所定角度傾斜させた形態(傾斜溝部)としてもよい。
【0072】
また、以上の説明では、外側継手部材15の側に流通路33としての軸方向溝34,51、傾斜溝、切り欠き部41、又は溝部63を設けた場合を例示したが、もちろんこれには限られない。例えば図示は省略するが、環状溝31に対して少なくとも長手方向の一部が半径方向内側に開口するように、ブーツ22の側に流通路33としての軸方向溝又は傾斜溝を設けてもよい。あるいは、環状溝31に軸方向一端が開口すると共に、ブーツ22と外側継手部材15とに跨るように、流通路33としての軸方向溝又は傾斜溝を設けてもよい。
【0073】
図12は、本願の他の発明の一実施形態に係る第一シール構造80の断面図を示している。この第一シール構造80は、本発明の第一実施形態から第四実施形態に係る第一シール構造30,40,50,60と同様に、
図1に示す固定式等速自在継手10に適用し得る。もちろん、第一シール構造80の適用範囲は、
図1に示す固定式等速自在継手10に限らず、既述した他の形態の固定式等速自在継手及び摺動式等速自在継手に及び得る。
【0074】
以下、第一シール構造80について詳述する。この第一シール構造80は、外側継手部材15と、ブーツ22の第一バンド装着部26及び第一装着用凹部28と、第一ブーツバンド23と、環状溝31と、スプライン61とで構成される。
【0075】
ここで、スプライン61は、本発明の第四実施形態と同様に、複数の歯部62と、円周方向で隣り合う歯部62の間に設けられる複数の溝部63とで構成されており、これら複数の歯部62と複数の溝部63とが外側継手部材15の外周に交互に設けられている。また、これら複数の歯部62と溝部63は外側継手部材15の全周にわたって設けられている(ともに
図11を参照)。
【0076】
上記構成のスプライン61は、環状溝31の軸方向一端からベローズ25側に離れた位置に設けられている。すなわち、環状溝31の内側空間31aと溝部63の内側空間とは遮断された状態にある(
図12及び
図13)。そのため、
図12に示す溝部63には、軸方向溝34,51や切り欠き部41、又は
図9に示す溝部63のように、環状溝31に浸入したグリースをベローズ内空間25aに向けて排出する機能を有しない。
【0077】
一方で、上述した複数の歯部62及び溝部63はスプライン61を構成し、外側継手部材15の外周面15aのうち第一バンド装着部26との密着領域に形成されている(
図12を参照)。また、これら複数の歯部62及び溝部63は外側継手部材15の全周にわたって形成されている(
図10を参照)。よって、グリースがポンプ作用により第一バンド装着部26と外側継手部材15との間に円周方向何れの側から入り込んだ場合であっても、当該グリースは、短いピッチで外周面15a上に漏れなく形成されるスプライン61の複数の溝部63のうち少なくとも何れか一つの溝部63によって高確率で捕捉される。ここで、各溝部63の大部分はベローズ内空間25aに対して半径方向外側に開口している(
図12を参照)。これにより、溝部63に捕捉されたグリースは円滑にベローズ内空間25aへと排出され得る。以上より、本実施形態に係る第一シール構造80によれば、本発明の第一実施形態から第四実施形態に係る第一シール構造30,40,50,60と同様に、第一バンド装着部26と外側継手部材15との間からグリースが等速自在継手10の外部空間に漏洩する事態を防止することが可能となる。
【0078】
また、スプライン61であれば、転造加工で外側継手部材15の外周に容易に形成できるので、加工コストの面でも好適である。
【0079】
なお、この場合も、溝部63の深さ寸法H5(
図12を参照)及び幅方向寸法W5(
図13を参照)は、外側継手部材15の強度に及ぼす影響、第一ブーツバンド23の装着に伴う第一バンド装着部26の変形が溝部63の流路断面積に及ぼす影響、ブーツ22内に充填されるグリースの量、あるいは塑性加工(転造加工)による溝部63の加工のし易さなどを考慮して適宜の大きさに設定することが望ましい。
【0080】
なお、図面を用いた詳細な説明は割愛するが、回転軸21とブーツ22との間の第二シール構造38についても、第一シール構造80と同様に、複数の歯部及び溝部からなるスプラインを環状溝35からベローズ25側に離れた位置に設けることで、上述したグリースのベローズ内空間25a側への排出効果を享受することが可能となる。
【0081】
以上、他の発明の一実施形態を説明したが、他の発明に係るシール構造及びこのシール構造を備えた等速自在継手は上記例示の形態に限定されることなく、他の発明の範囲内において任意の形態を採り得る。
【0082】
例えば、
図12及び
図13に係る実施形態では、他の発明に係るシール構造(第一シール構造80)として、複数の歯部62と溝部63とが交互にかつ軸方向に延びるスプライン61を外側継手部材15の外周面15aに設けたものを例示したが、もちろん適用可能なスプライン61はこれには限定されない。例えば図示は省略するが、外側継手部材15の軸方向に対して所定の角度だけ傾斜した向きに延びる複数の傾斜歯部及び傾斜溝部からなるスプラインを設けてもよい。
【0083】
また、
図12及び
図13に係る実施形態では、シール構造(第一シール構造80)として、環状溝31からベローズ25側に離れた位置にスプライン61を設けたものを例示したが、もちろん、これには限られない。例えば図示は省略するが、スプライン61に代えてローレットを設けてもよい。この場合、ローレットの種類は特に限定されず、例えば平目タイプや綾目タイプなど公知のタイプのローレットが適用可能である。
【符号の説明】
【0084】
10 等速自在継手
11 トラック溝
12 球面状内周面
13 カップ部
14 ステム部
15 外側継手部材
15a,15a1,15a2 外周面
15b 開口側端面
16 トラック溝
17 球面状外周面
18 内側継手部材
19 ボール
20 ケージ
21 回転軸
21a 外周面
22 ブーツ
23,24 ブーツバンド
25 ベローズ
25a ベローズ内空間
26 第一バンド装着部
26a 内周面
27 第二バンド装着部
28 第一装着用凹部
29 第二装着用凹部
30,40,50,60 第一シール構造
31 環状溝
31a 内側空間
31b 底面
31c 側面
31d 底部
32a,32b 突起部
33,64 流通路
34,51 軸方向溝
34a,51a 側面
34b,51b 底面
35 環状溝
36a,36b 突起部
37 軸方向溝
38 第二シール構造
41 切り欠き部
41a 底面
41b 側面
61 スプライン
62 歯部
63 溝部
80 第一シール構造
H1,H2,H3,H4,H5 深さ寸法
W1,W2,W3,W4,W5 幅方向寸法