(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161877
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】配線修復材、配線修復方法、及び自己修復型配線
(51)【国際特許分類】
H05K 1/09 20060101AFI20231031BHJP
H05K 3/24 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
H05K1/09 A
H05K3/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072496
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(71)【出願人】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 英治
(72)【発明者】
【氏名】末次 尚貴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 千里
(72)【発明者】
【氏名】石田 怜司
【テーマコード(参考)】
4E351
5E343
【Fターム(参考)】
4E351AA01
4E351AA16
4E351DD04
4E351DD05
4E351DD06
4E351DD10
4E351DD52
4E351EE30
4E351GG13
5E343AA12
5E343AA33
5E343BB23
5E343BB24
5E343BB25
5E343BB28
5E343BB72
5E343DD01
5E343ER51
(57)【要約】
【課題】配線修復材を用いて配線の断線部を修復する場合において、配線を修復した状態をある程度の期間維持できるようにする。
【解決手段】媒質と、前記媒質に添加された導電粒子と、を有し、前記導電粒子が添加された状態の前記媒質の粘度は0.5mPaS以上であり、前記導電粒子は、粒径が20nm以上10μm以下であり、断線部を有する配線を覆った場合に、当該断線部の通電を可能にする配線修復材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒質と、
前記媒質に添加された導電粒子と、
を有し、
前記導電粒子が添加された状態の前記媒質の粘度は0.5mPaS以上であり、
前記導電粒子は、粒径が20nm以上10μm以下であり、
断線部を有する配線を覆った場合に、当該断線部の通電を可能にする配線修復材。
【請求項2】
請求項1に記載の配線修復材であって、
前記断線部に前記導電粒子の凝集体が位置することにより、当該断線部の通電を可能にする配線修復材。
【請求項3】
媒質と、
前記媒質に添加された複数の導電粒子と、
を有し、
前記複数の導電粒子の一部は凝集し、円相当径が1μm以上の凝集体を形成しており、
断線部を有する配線を覆った場合に、前記凝集体が移動して当該断線部を短絡し、通電を可能にする配線修復材。
【請求項4】
請求項1又は3に記載の配線修復材であって、
前記媒質は、シリコーンを含む配線修復材。
【請求項5】
請求項1又は3に記載の配線修復材であって、
前記導電粒子は、金属粒子を含む配線修復材。
【請求項6】
請求項5に記載の配線修復材であって、
前記金属粒子は、銅、金、銀およびアルミニウムからなる群より選択される1種または2種以上の金属を含む配線修復材。
【請求項7】
請求項1又は3に記載の配線修復材であって、
当該配線修復材全体に対する前記導電粒子の重量比率が、0.01%以上30%以下である配線修復材。
【請求項8】
断線部を有する配線を、請求項1又は3に記載の配線修復材にて覆い、前記断線部の通電を可能にする配線修復方法。
【請求項9】
配線が、請求項1又は3に記載の配線修復材にて覆われている自己修復型配線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線修復材、配線修復方法、及び自己修復型配線に関する。
【背景技術】
【0002】
電気配線に断線部が生じた場合に、自己修復を可能とする技術の検討が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、金属ナノ粒子を分散させた液体で金属配線を覆う構造を備えた自己修復型配線が記載されている。この自己修復型配線においては、電気配線の一部に断線部が発生したとしても、電圧を印加することにより、金属ナノ粒子が断線部を架橋し、断線部が修復される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自己修復型配線に用いられる配線修復材は、配線を修復した状態をある程度の期間維持できることが好ましい。
【0006】
本発明が解決しようとする課題の一例は、配線修復材を用いて配線の断線部を修復する場合において、配線を修復した状態をある程度の期間維持できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下に示す配線修復材、配線修復方法、及び自己修復型配線が提供される。
【0008】
[1]
媒質と、
前記媒質に添加された導電粒子と、
を有し、
前記導電粒子が添加された状態の前記媒質の粘度は0.5mPaS以上であり、
前記導電粒子は、粒径が20nm以上10μm以下であり、
断線部を有する配線を覆った場合に、当該断線部の通電を可能にする配線修復材。
[2]
上記[1]に記載の配線修復材であって、
前記断線部に前記導電粒子の凝集体が位置することにより、当該断線部の通電を可能にする配線修復材。
[3]
媒質と、
前記媒質に添加された複数の導電粒子と、
を有し、
前記複数の導電粒子の一部は凝集しており、円相当径が1μm以上の凝集体を含んでおり、
断線部を有する配線を覆った場合に、前記導電粒子の凝集体が移動して当該断線部を短絡し、通電を可能にする配線修復材。
[4]
上記[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の配線修復材であって、
前記媒質は、シリコーンを含む配線修復材。
[5]
上記[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の配線修復材であって、
前記導電粒子は、金属粒子を含む配線修復材。
[6]
上記[5]に記載の配線修復材であって、
前記金属粒子は、銅、金、銀およびアルミニウムからなる群より選択される1種または2種以上の金属を含む配線修復材。
[7]
上記[1]乃至[6]のいずれか1つに記載の配線修復材であって、
当該配線修復材全体に対する前記導電粒子の重量比率が、0.01%以上30%以下である配線修復材。
[8]
断線部を有する配線を、上記[1]乃至[7]のいずれか1つに記載の配線修復材にて覆い、前記断線部の通電を可能にする配線修復方法。
[9]
配線が、上記[1]乃至[7]のいずれか1つに記載の配線修復材にて覆われている自己修復型配線。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、配線修復材を用いて配線の断線部を修復する場合において、配線を修復した状態をある程度の期間維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】自己修復型配線の一例を模式的に表した図である。
【
図2】断線部における導電粒子の動きを模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。また、全ての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0012】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。
【0013】
〈自己修復型配線100〉
図1は、本実施形態の自己修復型配線100を模式的に示した図である。自己修復型配線100は、配線22に断線部200が生じた場合に、配線修復材10によってそれが修復される。以下、各部材について詳細に説明する。
【0014】
〈配線修復材10〉
配線修復材10は、媒質11及び導電粒子12を有している。導電粒子12は、媒質11の中に分散している。断線部200を配線修復材10で覆った場合、一部の導電粒子12が断線部200を短絡することにより、断線部200は通電する。ここで、導電粒子12の一部は凝集し、円相当径が1μm以上の凝集体を形成していることがある。この場合、凝集体が断線部200に位置することにより、断線部200は早期に通電する。なお、上記円相当径は、例えば、断線部200を上方から撮影した画像を用いて算出される。
【0015】
図2は、一部の導電粒子12が断線部200を短絡する動きを模式的に表した図である。
【0016】
〈媒質11〉
媒質11は、絶縁性を有する。また、媒質11は、粘度が0.5mPaS以上であることが好ましく、粘度が1000mPaS以下であることがより好ましい。また、媒質11は、粘度が0.5mPaS以上100mPaS以下であることが最もより好ましい。媒質11の粘度が0.5mPaS以上であることにより、配線修復材10は、基板20上に十分保持され、配線修復材10が配線22をある程度の期間修復できる。また、媒質11の粘度が1000mPaS以下であることにより、導電粒子12は、媒質11の中に分散しやすくなり、断線部200へ移動しやすくなる。なお、本明細書において、媒質11の粘度は、特に断りがない限りは、導電粒子12が添加された状態において、レオメータを用い、室温、回転数5rpmで測定した結果を指す。
【0017】
以上の条件から、媒質11として好ましく用いられる材料は、シリコーンである。媒質11として、シリコーンを用いた場合、導電粒子12の流動性が高くなる。また、シリコーンは電子部品として既に多く使用されていることから、媒質11としてシリコーンを用いた配線修復材10の信頼性は高い。媒質11がシリコーンを含む際に、媒質11全体に対するシリコーンの重量比は特に限定されない。シリコーンの重量比は、組成物中の元素の含有量を測定できるものであれば公知の装置のいずれによっても測定することができ、例えばSEM-EDSで測定することができる。
【0018】
〈導電粒子12〉
導電粒子12は、断線部200を短絡するために十分な導電性を有する限り特に限定されない。導電粒子12は、粒子径D50が20nm以上10μm以下であることが好ましく、粒子径D50が20nm以上5μm以下であることがより好ましい。導電粒子12の粒子径D50が上記範囲内であることにより、導電粒子12は、媒質11の中を十分に分散し、かつ断線部200を早期に短絡させることができる。なお、本明細書において、導電粒子12の粒子径D50は、特に断りがない限りは、レーザー回折・散乱法により求められるメジアン径を指す。
【0019】
導電粒子12は、金属粒子を含んでもよい。また、上記の金属粒子は、銅、金、銀およびアルミニウムからなる群より選択される1種または2種以上の金属を含む。また、上記の金属粒子は、その表面のみが上記の群から選択される金属で構成されていてもよい。
【0020】
導電粒子12は、親水性を有するための処理が行われたものでもよいし、親油性を有するための処理が行われたものでもよい。上記の処理の一例は、表面に親水性の膜又は親油性の膜を形成することである。
【0021】
配線修復材10は、当該配線修復材10全体に対する導電粒子12の重量比率が、0.01%以上30%以下であることが好ましく、0.01%以上10%以下であることがより好ましい。配線修復材10は、当該配線修復材10全体に対する導電粒子12の重量比率が0.01%以上であることにより断線部200を早期に短絡させることができる。また、配線修復材10は、当該配線修復材10全体に対する導電粒子12の重量比率が30%以下であることにより複数の配線22が隣り合っている場合に、配線22同士の短絡を発生させなくなる。なお、当該配線修復材10全体に対する導電粒子12の重量比率は、例えば、無機元素の多元素同時測定法により測定される。
【0022】
〈基板20〉
基板20は、例えばプリント配線基板であり、絶縁材料からなる基材21に複数の配線22を設けた構成を有している。基材21は、例えば樹脂から構成されているが、他の絶縁材料により構成されていてもよい。そして、配線22の少なくとも一部は、基材21の一面上に位置している。なお、基板20は、可撓性を有していてもよいし、伸縮性を有してもよい。
【0023】
配線22は、例えば、金、銅、銅合金などの金属配線である。配線22は、例えば基材21の上に形成された金属膜を部分的に除去することにより、形成される。
【0024】
〈配線修復材10の製造方法〉
配線修復材10は、例えば以下のような手順で製造することができる。
(1):まず、媒質11と導電粒子12を混合する。媒質11としては、前述のシリコーンを用いることができる。また、導電粒子12としては、前述の銅粉を用いることができる。
(2):(1)で得られた混合液を攪拌する。
【0025】
〈自己修復型配線100の製造方法〉
例えば、電気配線が形成された基板20の、少なくとも配線22が存在する箇所に、上記のようにして得られた配線修復材10を載置することで、自己修復型配線100を得ることができる。
【0026】
〈配線修復材10の使用方法〉
配線修復材10は、例えば以下のような手順で使用される。
(1):テスター等を用いて、配線22の断線部200のおおよその位置を特定する。
(2):配線22の少なくとも断線部200がある可能性のある部分を、配線修復材10で覆う。このとき、導電粒子12が沈降している可能性があるため、配線修復材10を、断線部200を覆う前に攪拌することが好ましい。
(3):配線22に電圧を印加する。この電圧により、導電粒子12が電界トラップし、断線部200を短絡する。電界トラップとは、断線部200で生じる電界により導電粒子12が、この断線部200に捕捉されることを指す。なお、印加する電圧の大きさは導電粒子12が電界トラップされる限り、特に限定されない。典型的には、0.1~400Vの間で適宜調整される。なお、誘電泳動の理論に基づけば、印加する電圧は、直流電圧であっても交流電圧であってもよい。印加する電圧が交流電圧である場合、電圧V=Vampsin(2πft)(f:周波数、t:時間)の三角関数で表される交流において、正弦曲線の振幅Vampが14~300Vであることが好ましい。また、印加する電圧が交流電圧の場合には、印加する周波数によって導電粒子12の移動性が影響される場合がある。印加周波数fは、典型的には、0.1~500kHzである。
【0027】
本実施形態に係る配線修復材10が、断線部200を通電可能にする理由の一つは、断線部200に導電粒子12の凝集体が位置するためである。
【0028】
以上、本実施形態に係る自己修復型配線100は、媒質11と導電粒子12とを含む配線修復材10を備える。さらに、媒質11の粘度は、0.5mPaS以上である。このことにより、自己修復型配線100は、配線を修復した状態をある程度の期間維持できる。
【実施例0029】
本発明の実施態様を、実施例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例のみに限定されない。
【0030】
〈配線修復材10の作成〉
まず、実施例で用いた材料の製品名を以下に示す。表1に実施例毎に用いた、材料、及び分量を記載する。シリコーンオイルの物性を表2に、銅粉の物性を表3に示す。
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
〈媒質11〉
(シリコーンオイル)
(A)KF-96-10CS(信越化学工業社製)
(B)KF-96-30CS(信越化学工業社製)
(C)KF-96-50CS(信越化学工業社製)
〈導電粒子12〉
(銅粉)
(D)FMC-SB(古河ケミカルズ社製)
(E)FMC-30C(古河ケミカルズ社製)
【0035】
実施例毎にシリコーンオイルと銅粉とを混合して混合液を得た。その後、それらの混合液をそれぞれ十分に攪拌し、配線修復材10を得た。
【0036】
〈粘度〉
配線修復材10の実施例毎に、レオメータを用いて、室温、回転数5rpmで測定した粘度[mPaS]を表1に記載する。
【0037】
〈平均粒径〉
配線修復材10の実施例毎に、用いた銅粉の平均粒径[μm]を表1に記載する。
【0038】
〈銅粒子濃度〉
配線修復材10の実施例毎に、配線修復材10全体に対する銅粒子濃度[%]を表1に記載する。
【0039】
〈配線修復材10の効果の評価〉
次に、配線修復材10の実施例毎に、配線修復の効果の確認を行った。
【0040】
まず、配線幅20μm、配線厚み500nmの配線22に、断線幅12μmの断線部200が設けられた基板20を準備した。なお、配線22には、金配線を使用した。
【0041】
そして、基板20の少なくとも断線部200を覆うように、配線修復材10を載置した。次に、配線22に交流電圧を600秒印加した。配線修復材10の実施例毎に、印加した上記交流電圧の条件(印加電圧、印加周波数)を表1に記載する。
【0042】
配線修復材10の実施例毎に、交流電圧印加後の自己修復の結果を表1に記載する。いずれの実施例においても、断線部200が修復され(表1において「OK」と記載)、さらに十分な期間その状態が維持されることが確認された。