(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161894
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】全固体電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20231031BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20231031BHJP
H01M 50/117 20210101ALI20231031BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231031BHJP
H01M 50/145 20210101ALI20231031BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M50/117
H01M10/052
H01M50/145
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072527
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】織茂 洋子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大悟
【テーマコード(参考)】
5H011
5H029
【Fターム(参考)】
5H011AA09
5H011AA10
5H011CC05
5H011DD09
5H011KK01
5H011KK02
5H011KK04
5H029AJ13
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AM12
5H029BJ04
5H029BJ12
5H029CJ02
5H029DJ02
5H029DJ12
5H029DJ16
5H029DJ17
5H029EJ05
5H029EJ06
5H029EJ08
5H029HJ04
5H029HJ05
5H029HJ07
5H029HJ12
5H029HJ14
5H029HJ20
(57)【要約】
【課題】 防湿性を有するカバー層を備えた全固体電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 全固体電池は、イオン伝導性を有する酸化物系固体電解質層と、電極活物質を含む電極層とが交互に積層された積層体と、前記積層体の積層方向の上面および下面の少なくともいずれか一方に設けられたカバー層と、を備え、前記カバー層は、絶縁性を有しかつ板状形態を有するフィラー材を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性を有する酸化物系固体電解質層と、電極活物質を含む電極層とが交互に積層された積層体と、
前記積層体の積層方向の上面および下面の少なくともいずれか一方に設けられたカバー層と、を備え、
前記カバー層は、絶縁性を有しかつ板状形態を有するフィラー材を含む全固体電池。
【請求項2】
複数の前記フィラー材について、平均厚みが0.05μm以上1μm以下であり、D50%径が1μm以上50μm以下であり、平均アスペクト比が3以上500以下である、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記フィラー材は、前記カバー層の面内方向に配向している、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記フィラー材の電子伝導性およびイオン伝導性を含む導電率は、10-8S/cm以下である、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記フィラー材は、アルミナまたは窒化ホウ素である、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項6】
前記カバー層は、前記フィラー材よりも低い焼結温度を有するガラス材料を含む、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項7】
前記カバー層は、NASICON型結晶構造を有する酸化物系固体電解質であるガラス材料を含む、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項8】
前記カバー層は、500℃以上、700℃以下の融点を有するガラス材料を含む、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項9】
前記カバー層は、ガラス材料を含み、
前記カバー層において、前記フィラー材は、前記ガラス材料に対して、5vol%以上、60vol%以下の体積比率を有する、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項10】
前記カバー層は、前記酸化物系固体電解質層の主成分と同じ組成を有するガラス材料を含む、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項11】
前記電極層は、酸化物系固体電解質を含み、
前記カバー層は、前記電極層に含まれる前記酸化物系固体電解質と同じ組成を有するガラス材料を含む、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項12】
イオン伝導性を有する酸化物系固体電解質粉末を含む固体電解質グリーンシートと、電極活物質粉末を含む内部電極パターンと、が交互に積層された積層体の積層方向の上面および下面の少なくともいずれか一方に、絶縁性を有しかつ板状形態を有するフィラー材を含むカバーシートが積層されたセラミック積層体を準備する準備工程と、
前記セラミック積層体を焼成する焼成工程と、を含む全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池の需要が急速に拡大しており、電解質に有機電解液を使用したリチウムイオン二次電池が実用化されている。しかしながら、電解液の液漏れなどの点から、より安全性の高い酸化物系固体電解質への期待が高まり、酸化物系固体電解質を用いた全固体電池の開発が盛んに進められている。また、容量密度向上のため、電池単位を多積層化することが望まれている。多積層化の際に、全固体電池の積層方向の上下にカバー層を設ける技術が開示されている(例えば、特許文献1,2参照)。特許文献3では、電極層に含有される活物質と水分との反応による電池容量の低下を抑制するため、積層体に接した防湿層を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-82522号公報
【特許文献2】特開2020-149782号公報
【特許文献3】国際公開第2018/181545号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献3では積層体を焼成した後にスプレーコートやディップコートなどの方法を用いて防湿層を設けており、防湿層形成前の積層体での防湿性が担保されていない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、防湿性を有するカバー層を備えた全固体電池およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る全固体電池は、イオン伝導性を有する酸化物系固体電解質層と、電極活物質を含む電極層とが交互に積層された積層体と、前記積層体の積層方向の上面および下面の少なくともいずれか一方に設けられたカバー層と、を備え、前記カバー層は、絶縁性を有しかつ板状形態を有するフィラー材を含む。
【0007】
上記全固体電池において、複数の前記フィラー材について、平均厚みが0.05μm以上1μm以下であり、D50%径が1μm以上50μm以下であり、平均アスペクト比が3以上500以下であってもよい。
【0008】
上記全固体電池において、前記フィラー材は、前記カバー層の面内方向に配向していてもよい。
【0009】
上記全固体電池において、前記フィラー材の電子伝導性およびイオン伝導性を含む導電率は、10-8S/cm以下であってもよい。
【0010】
上記全固体電池において、前記フィラー材は、アルミナまたは窒化ホウ素であってもよい。
【0011】
上記全固体電池において、前記カバー層は、前記フィラー材よりも低い焼結温度を有するガラス材料を含んでいてもよい。
【0012】
上記全固体電池において、前記カバー層は、NASICON型結晶構造を有する酸化物系固体電解質であるガラス材料を含んでいてもよい。
【0013】
上記全固体電池において、前記カバー層は、500℃以上、700℃以下の融点を有するガラス材料を含んでいてもよい。
【0014】
上記全固体電池において、前記カバー層は、ガラス材料を含み、前記カバー層において、前記フィラー材は、前記ガラス材料に対して、5vol%以上、60vol%以下の体積比率を有していてもよい。
【0015】
上記全固体電池において、前記カバー層は、前記酸化物系固体電解質層の主成分と同じ組成を有するガラス材料を含んでいてもよい。
【0016】
上記全固体電池において、前記電極層は、酸化物系固体電解質を含み、前記カバー層は、前記電極層に含まれる前記酸化物系固体電解質と同じ組成を有するガラス材料を含んでいてもよい。
【0017】
本発明に係る全固体電池の製造方法は、イオン伝導性を有する酸化物系固体電解質粉末を含む固体電解質グリーンシートと、電極活物質粉末を含む内部電極パターンと、が交互に積層された積層体の積層方向の上面および下面の少なくともいずれか一方に、絶縁性を有しかつ板状形態を有するフィラー材を含むカバーシートが積層されたセラミック積層体を準備する準備工程と、前記セラミック積層体を焼成する焼成工程と、を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、防湿性を有するカバー層を備えた全固体電池およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】全固体電池の基本構造を示す模式的断面図である。
【
図3】積層型の他の全固体電池の模式的断面図である。
【
図4】(a)はカバー層の断面を模式的に表した図であり、(b)はフィラー材の拡大図である。
【
図5】全固体電池の製造方法のフローを例示する図である。
【
図6】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0021】
(実施形態)
図1は、全固体電池100の基本構造を示す模式的断面図である。
図1で例示するように、全固体電池100は、第1内部電極10(第1電極層)と第2内部電極20(第2電極層)とによって、固体電解質層30が挟持された構造を有する。第1内部電極10は、固体電解質層30の第1主面上に形成されている。第2内部電極20は、固体電解質層30の第2主面上に形成されている。例えば、第1内部電極10、第2内部電極20、および固体電解質層30は、粉末材料を焼結させることによって得られる焼結体である。
【0022】
全固体電池100を二次電池として用いる場合には、第1内部電極10および第2内部電極20の一方を正極として用い、他方を負極として用いる。本実施形態においては、一例として、第1内部電極10を正極層として用い、第2内部電極20を負極層として用いるものとする。
【0023】
固体電解質層30は、NASICON型の結晶構造を有し、イオン伝導性を有する酸化物系固体電解質を主成分とする。固体電解質層30の固体電解質は、例えばリチウムイオン伝導性を有する酸化物系固体電解質である。当該固体電解質は、例えば、リン酸塩系固体電解質である。NASICON型の結晶構造を有するリン酸塩系固体電解質は、高い導電率を有するとともに、大気中で安定しているという性質を有している。リン酸塩系固体電解質は、例えば、リチウムを含んだリン酸塩である。当該リン酸塩は、特に限定されるものではないが、例えば、Tiとの複合リン酸リチウム塩(例えば、LiTi2(PO4)3)などが挙げられる。または、TiをGe,Sn,Hf,Zrなどといった4価の遷移金属に一部あるいは全部置換することもできる。また、Li含有量を増加させるために、Al,Ga,In,Y,Laなどの3価の遷移金属に一部置換してもよい。より具体的には、例えば、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3や、Li1+xAlxZr2-x(PO4)3、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3などが挙げられる。例えば、第1内部電極10および第2内部電極20に含有されるオリビン型結晶構造をもつリン酸塩が含む遷移金属と同じ遷移金属を予め添加させたLi-Al-Ge-PO4系材料が好ましい。例えば、第1内部電極10および第2内部電極20にCoおよびLiを含むリン酸塩が含有される場合には、Coを予め添加したLi-Al-Ge-PO4系材料が固体電解質層30に含まれることが好ましい。この場合、電極活物質が含む遷移金属の電解質への溶出を抑制する効果が得られる。第1内部電極10および第2内部電極20にCo以外の遷移元素およびLiを含むリン酸塩が含有される場合には、当該遷移金属を予め添加したLi-Al-Ge-PO4系材料が固体電解質層30に含まれることが好ましい。
【0024】
正極として用いられる第1内部電極10は、オリビン型結晶構造をもつ物質を電極活物質として含有する。第2内部電極20も、当該電極活物質を含有していることが好ましい。このような電極活物質として、遷移金属とリチウムとを含むリン酸塩が挙げられる。オリビン型結晶構造は、天然のカンラン石(olivine)が有する結晶であり、X線回折において判別することができる。
【0025】
オリビン型結晶構造をもつ電極活物質の典型例として、Coを含むLiCoPO4などを用いることができる。この化学式において遷移金属のCoが置き換わったリン酸塩などを用いることもできる。ここで、価数に応じてLiやPO4の比率は変動し得る。なお、遷移金属として、Co,Mn,Fe,Niなどを用いることが好ましい。
【0026】
オリビン型結晶構造をもつ電極活物質は、正極として作用する第1内部電極10においては、正極活物質として作用する。例えば、第1内部電極10にのみオリビン型結晶構造をもつ電極活物質が含まれる場合には、当該電極活物質が正極活物質として作用する。第2内部電極20にもオリビン型結晶構造をもつ電極活物質が含まれる場合に、負極として作用する第2内部電極20においては、その作用メカニズムは完全には判明してはいないものの、負極活物質との部分的な固溶状態の形成に基づくと推察される、放電容量の増大、ならびに、放電に伴う動作電位の上昇という効果が発揮される。
【0027】
第1内部電極10および第2内部電極20の両方ともオリビン型結晶構造をもつ電極活物質を含有する場合に、それぞれの電極活物質には、好ましくは、互いに同一であっても異なっていてもよい遷移金属が含まれる。「互いに同一であっても異なっていてもよい」ということは、第1内部電極10および第2内部電極20が含有する電極活物質が同種の遷移金属を含んでいてもよいし、互いに異なる種類の遷移金属が含まれていてもよい、ということである。第1内部電極10および第2内部電極20には一種だけの遷移金属が含まれていてもよいし、二種以上の遷移金属が含まれていてもよい。好ましくは、第1内部電極10および第2内部電極20には同種の遷移金属が含まれる。より好ましくは、両電極が含有する電極活物質は化学組成が同一である。第1内部電極10および第2内部電極20に同種の遷移金属が含まれていたり、同組成の電極活物質が含まれていたりすることにより、両内部電極層の組成の類似性が高まるので、全固体電池100の端子の取り付けを正負逆にしてしまった場合であっても、用途によっては誤作動せずに実使用に耐えられるという効果を有する。
【0028】
第2内部電極20は、負極活物質を含んでいる。一方の電極だけに負極活物質を含有させることによって、当該一方の電極は負極として作用し、他方の電極が正極として作用することが明確になる。なお、両方の電極に負極活物質として公知である物質を含有させてもよい。電極の負極活物質については、二次電池における従来技術を適宜参照することができ、例えば、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、リチウムチタン複合リン酸塩、カーボン、リン酸バナジウムリチウムなどの化合物が挙げられる。
【0029】
第1内部電極10および第2内部電極20の作製においては、これら電極活物質に加えて、イオン電導性を有する固体電解質や、導電性材料(導電助剤)などが添加されている。これらの部材については、バインダと可塑剤を水あるいは有機溶剤に均一分散させることで内部電極用ペーストを得ることができる。導電助剤として、カーボン材料などが含まれていてもよい。導電助剤として、金属が含まれていてもよい。導電助剤の金属としては、Pd、Ni、Cu、Fe、これらを含む合金などが挙げられる。第1内部電極10および第2内部電極20に含まれる固体電解質は、例えば、固体電解質層30の主成分固体電解質と同じとすることができる。
【0030】
固体電解質層30の厚さは、例えば、5μm以上30μm以下であり、7μm以上25μm以下であり、10μm以上20μm以下である。第1内部電極10および第2内部電極20の厚さは、例えば、5μm以上50μm以下であり、7μm以上45μm以下であり、10μm以上40μm以下である。各層の厚さは、例えば、1層の異なる10点の厚さの平均値として測定することができる。
【0031】
図2は、複数の電池単位が積層された積層型の全固体電池100aの模式的断面図である。全固体電池100aは、略直方体形状を有する積層チップ60を備える。積層チップ60において、積層方向端の上面および下面以外の4面のうちの2面である2側面に接するように、第1外部電極40aおよび第2外部電極40bが設けられている。当該2側面は、隣接する2側面であってもよく、互いに対向する2側面であってもよい。本実施形態においては、互いに対向する2側面(以下、2端面と称する)に接するように第1外部電極40aおよび第2外部電極40bが設けられているものとする。
【0032】
以下の説明において、全固体電池100と同一の組成範囲、同一の厚み範囲、および同一の粒度分布範囲を有するものについては、同一符号を付すことで詳細な説明を省略する。
【0033】
全固体電池100aにおいては、複数の第1内部電極10と複数の第2内部電極20とが、固体電解質層30を介して交互に積層されている。複数の第1内部電極10の端縁は、積層チップ60の第1端面に露出し、第2端面には露出していない。複数の第2内部電極20の端縁は、積層チップ60の第2端面に露出し、第1端面には露出していない。それにより、第1内部電極10および第2内部電極20は、第1外部電極40aと第2外部電極40bとに、交互に導通している。なお、固体電解質層30は、第1外部電極40aから第2外部電極40bにかけて延在している。このように、全固体電池100aは、複数の電池単位が積層された構造を有している。
【0034】
第1内部電極10、固体電解質層30および第2内部電極20の積層体の上面に、カバー層50が積層されている。当該カバー層50は、最上層の内部電極(第1内部電極10および第2内部電極20のいずれか一方)に接するとともに、固体電解質層30の一部に接している。当該積層体の下面にも、カバー層50が積層されている。当該カバー層50は、最下層の内部電極(第1内部電極10および第2内部電極20のいずれか一方)に接するとともに、固体電解質層30の一部に接している。例えば、カバー層50は、粉末材料を焼結させることによって得られる焼結体である。
【0035】
第1内部電極10および第2内部電極20は、集電体層を備えていてもよい。例えば、
図3で例示するように、第1内部電極10内に第1集電体層11が設けられていてもよい。また、第2内部電極20内に第2集電体層21が設けられていてもよい。第1集電体層11および第2集電体層21は、導電性材料を主成分とする。例えば、第1集電体層11および第2集電体層21の導電性材料として、金属、カーボンなどを用いることができる。第1集電体層11を第1外部電極40aに接続し、第2集電体層21を第2外部電極40bに接続することで、集電効率が向上する。
【0036】
図2や
図3の全固体電池100aのような積層型全固体電池では、電極層に含有される電極活物質と水分との反応に起因する電池容量低下を抑制するために、積層型全固体電池に防湿性を備えさせることが求められる。そこで、本実施形態に係るカバー層50は、防湿性を備えた構成を有している。
【0037】
図4(a)は、カバー層50の断面を模式的に表した図である。
図4(a)では、ガラス材料50aおよび第1内部電極10のハッチを省略している。また、フィラー材50bについては、黒塗りで描かれている。カバー層50は、
図4(a)で例示するように、ガラス材料50aと、絶縁性を有するフィラー材50bとを含んでいる。例えば、各フィラー材50bがガラス材料50a内でランダムに分散して配置されている。フィラー材50bは、板状形態を有している。
【0038】
フィラー材50bが略円形の粒状ではなく板状形態を有していることから、カバー層50の焼成前のシートの形成から焼成工程を通して各フィラー材50bが配向されるようになる。それにより、カバー層50は、第1内部電極10、第2内部電極20、および固体電解質層30の焼成時の収縮に対して形態保持が可能となる。その結果、カバー層50自体が防湿性を備えるようになる。なお、棒状のフィラー材を用いても配向されるようになるが、板状形態の方が形態保持に有利である。また、水分の侵入に対しても板状形態の方が面で水分侵入を抑制できるため、有利である。
【0039】
図4(b)は、フィラー材50bの拡大図である。
図4(b)で例示するように、各層の積層方向に沿った断面において、板の面方向の最大長さを、長さLとする。最大長さに垂直な方向における最大厚みを、厚みtとする。例えば、各層の積層方向に沿った断面であって、5000倍の視野のSEM画像を取得する。このSEM画像から各フィラー材50bを抽出し、各フィラー材50bの長さLおよび厚みtを測定する。例えば、各フィラー材50bの厚みtの平均値(平均厚み)が0.05μm以上1μm以下となり、長さLの平均値(D50%径)が1μm以上50μm以下となり、長さLと厚みtとのアスペクト比の平均値(平均アスペクト比)が3以上500以下となる。また、当該断面と異なる位置でかつ平行な断面を観察することによって、各フィラー材50bの最大幅wを測定することができる。各フィラー材50bが有する最大幅wの平均値は、1μm以上50μm以下となる。
【0040】
各フィラー材50bは、カバー層50の面内方向に配向していることが好ましい。これは、第1内部電極10、第2内部電極20、および固体電解質層30が焼成時に収縮しても、カバー層50の面内方向の形態保持が可能となり、カバー層50の防湿性が高くなるからである。ここで、各フィラー材50bがカバー層50の面内方向に配向しているとは、上記SEM画像において、各フィラー材50bの粒径dの方向とカバー層50の面内方向とがなす角度を測定した場合に、各フィラー材50bの角度の平均値が0°~45°となることを意味する。この角度は、面内方向に対して右肩上がり、左肩上がりのいずれも含んでいる。
【0041】
カバー層50に十分な絶縁性を持たせる観点から、フィラー材50bは十分な絶縁性を有していることが好ましい。例えば、各フィラー材50bの電子伝導性およびイオン伝導性を含む導電率は、10-8S/cm以下であることが好ましく、10-12S/cm以下であることがより好ましく、10-14S/cm以下であることがさらに好ましい。例えば、フィラー材50bとして、アルミナ、窒化ホウ素、シリカ、マグネシア、チタニアなどを用いることができる。
【0042】
ガラス材料50aをSEM写真などで観察すると、非晶質状となっていることが確認される。
【0043】
ガラス材料50aは、フィラー材50bよりも低い焼結温度を有していることが好ましい。この場合、カバー層50全体として、焼成時の焼結が促進され、焼成後のカバー層50が高い緻密性を有するようになる。それにより、カバー層50と他層との間で高い密着性が得られるようになる。また、フィラー材50bの焼結温度が高いことで、一括焼成時にフィラー材50bの焼結が抑制され、フィラー材50bの形態が保持され、カバー層50の形態保持が可能となる。
【0044】
カバー層50の密着性向上の観点から、ガラス材料50aは、固体電解質層30の主成分の酸化物系固体電解質、第1内部電極10に含まれる酸化物系固体電解質、第2内部電極20に含まれる酸化物系固体電解質と共通の構造を有していることが好ましい。例えば、ガラス材料50aは、NASICON型結晶構造を有していることが好ましい。また、ガラス材料50aは、固体電解質層30の主成分の酸化物系固体電解質と同じ組成を有していることが好ましい。また、ガラス材料50aは、第1内部電極10に含まれる固体電解質と同じ組成を有していることが好ましい。また、ガラス材料50aは、第2内部電極20に含まれる固体電解質と同じ組成を有していることが好ましい。ガラス材料50aとして、例えば、Li-Al-Ge-PO4系材料(LAGP)、Li-Al-Zr-PO4系材料、Li-Al-Ti-PO4系材料などを用いることができる。例えば、ガラス材料50aは、500℃以上、700℃以下の融点を有している。
【0045】
カバー層50において、フィラー材50bの比率が小さいと、カバー層50が十分な防湿性を実現しないおそれがある。そこで、カバー層50において、フィラー材50bの比率に下限を設けることが好ましい。例えば、ガラス材料50aおよびフィラー材50aの合計体積に対して、フィラー材50bの体積比率は、5vol%以上であることが好ましく、10vol%以上であることが好ましく、20vol%以上であることがより好ましく、30vol%以上であることがさらに好ましい。なお、体積比率については、全固体電池100の断面をFIB加工したのちSEM観察し、FIB加工、SEM観察を繰り返すことで全固体電池100のカバー層50全体の断面像を入手したのち、これらを画像処理して立体構造を構築する。フィラー材50bとガラス材料50aとはSEM画像におけるコントラスト比が明確に生じるため、明暗にてフィラー材50bの体積比率を算出することができる。
【0046】
一方、カバー層50において、フィラー材50bの比率が大きいと、カバー層50に十分な密着性が得られないおそれがある。そこで、カバー層50において、フィラー材50bの比率に上限を設けることが好ましい。例えば、ガラス材料50aおよびフィラー材50aの合計体積に対して、フィラー材50bの体積比率は、70vol%以下であることが好ましく、60vol%以下であることがより好ましく、50vol%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
カバー層50の厚さは、例えば、5μm以上500μm以下であり、10μm以上400μm以下であり、15μm以上300μm以下である。カバー層50の厚さは、例えば、1層の異なる10点の厚さの平均値として測定することができる。
【0048】
続いて、
図2で例示した全固体電池100aの製造方法について説明する。
図5は、全固体電池100aの製造方法のフローを例示する図である。
【0049】
(固体電解質層用の原料粉末作製工程)
まず、上述の固体電解質層30を構成する固体電解質層用の原料粉末を作製する。例えば、原料、添加物などを混合し、固相合成法などを用いることで、酸化物系固体電解質の原料粉末を作製することができる。得られた原料粉末を乾式粉砕することで、所望の平均粒径に調整することができる。例えば、5mmφのZrO2ボールを用いた遊星ボールミルで、所望の平均粒径に調整する。
【0050】
(カバー層用の原料粉末作製工程)
まず、上述のカバー層50を構成するセラミックスの原料粉末を作製する。例えば、原料、添加物などを混合し、固相合成法などを用いることで、カバー層用の原料粉末を作製することができる。原料粉末は、ガラス材料50aの原料粉末およびフィラー材50bの原料粉末を含む。
【0051】
(電極層用ペースト作製工程)
次に、上述の第1内部電極10および第2内部電極20の作製用の内部電極用ペーストを個別に作製する。例えば、導電助剤、電極活物質、固体電解質材料、焼結助剤、バインダ、可塑剤などを水あるいは有機溶剤に均一分散させることで内部電極用ペーストを得ることができる。固体電解質材料として、上述した固体電解質ペーストを用いてもよい。導電助剤として、カーボン材料などを用いる。導電助剤として、金属を用いてもよい。導電助剤の金属としては、Pd、Ni、Cu、Fe、これらを含む合金などが挙げられる。Pd、Ni、Cu、Fe、これらを含む合金や各種カーボン材料などをさらに用いてもよい。
【0052】
内部電極用ペーストの焼結助剤として、例えば、Li-B-O系化合物、Li-Si-O系化合物、Li-C-O系化合物、Li-S-O系化合物,Li-P-O系化合物などのガラス成分のどれか1つあるいは複数などのガラス成分が含まれている。
【0053】
(外部電極用ペースト作製工程)
次に、上述の第1外部電極40aおよび第2外部電極40bの作製用の外部電極用ペーストを作製する。例えば、導電性材料、ガラスフリット、バインダ、可塑剤などを水あるいは有機溶剤に均一分散させることで外部電極用ペーストを得ることができる。
【0054】
(固体電解質グリーンシート作製工程)
固体電解質層用の原料粉末を、結着材、分散剤、可塑剤などとともに、水性溶媒あるいは有機溶媒に均一に分散させて、湿式粉砕を行うことで、所望の平均粒径を有する固体電解質スラリを得る。このとき、ビーズミル、湿式ジェットミル、各種混練機、高圧ホモジナイザーなどを用いることができ、粒度分布の調整と分散とを同時に行うことができる観点からビーズミルを用いることが好ましい。得られた固体電解質スラリにバインダを添加して固体電解質ペーストを得る。得られた固体電解質ペーストを塗工することで、固体電解質グリーンシート51を作製することができる。塗工方法は、特に限定されるものではなく、スロットダイ方式、リバースコート方式、グラビアコート方式、バーコート方式、ドクターブレード方式などを用いることができる。湿式粉砕後の粒度分布は、例えば、レーザ回折散乱法を用いたレーザ回折測定装置を用いて測定することができる。
【0055】
(積層工程)
図6(a)で例示するように、固体電解質グリーンシート51の一面に、内部電極用ペースト52を印刷する。固体電解質グリーンシート51上で内部電極用ペースト52が印刷されていない領域には、逆パターン53を印刷する。逆パターン53として、固体電解質グリーンシート51と同様のものを用いることができる。印刷後の複数の固体電解質グリーンシート51を、交互にずらして積層する。
図6(b)で例示するように、積層方向の上下から、カバーシート54を圧着することで、積層体を得る。この場合、当該積層体において、一方の端面に第1内部電極10用の内部電極用ペースト52が露出し、他方の端面に第2内部電極20用の内部電極用ペースト52が露出するように、略直方体形状の積層体を得る。カバーシート54は、固体電解質グリーンシート作製工程と同様の手法でカバー層用の原料粉末を塗工することで形成することができる。カバーシート54は、固体電解質グリーンシート51よりも厚く形成しておく。塗工時に厚くしてもよく、塗工したシートを複数枚重ねることで厚くしてもよい。
【0056】
次に、2端面のそれぞれに、ディップ法等で外部電極用ペースト55を塗布して乾燥させる。これにより、全固体電池100aを形成するための成型体が得られる。
【0057】
(焼成工程)
次に、得られたセラミック積層体を焼成する。焼成の条件は酸化性雰囲気下あるいは非酸化性雰囲気下で、最高温度を好ましくは400℃~1000℃、より好ましくは500℃~900℃などとすることが特に限定なく挙げられる。最高温度に達するまでにバインダを十分に除去するために酸化性雰囲気において最高温度より低い温度で保持する工程を設けてもよい。プロセスコストを低減するためにはできるだけ低温で焼成することが望ましい。焼成後に、再酸化処理を施してもよい。以上の工程により、全固体電池100aが生成される。
【0058】
なお、内部電極用ペーストと、導電性材料を含む集電体用ペーストと、内部電極用ペーストとを順に積層することで、第1内部電極10および第2内部電極20内に集電体層を形成することができる。
【0059】
本実施形態に係る製造方法によれば、フィラー材50bが略円形の粒状ではなく板状形態を有していることから、カバー層50の焼成時に各フィラー材50bが配向されるようになる。それにより、カバー層50は、第1内部電極10、第2内部電極20、および固体電解質層30の焼成時の収縮に対して形態保持が可能となる。また、フィラー材50bは絶縁性を有している。以上のことから、カバー層50自体が防湿性を備えるようになる。
【実施例0060】
(実施例1)
板状形態を有し、厚みtの平均値が0.5μmであり、D50%径が10μmであり、アスペクト比の平均値が20であり、最大幅wが50μmのアルミナをフィラー材に用いた。Li-Al-Ge-P-O系ガラスを湿式ボールミルでD50%径が1.5μmになるまで粉砕処理し、ガラス材料として用いた。フィラー材とガラス材料とを体積比30:70で混合し、結着材、分散剤、可塑剤などとともに、水あるいは有機溶剤に均一分散させることで、スラリを得た。得られたスラリを塗工して所望の厚さを有するグリーンシートを作製した。各電極が印刷された固体電解質シートの積層体の最上層と最下層とにカバーシートを配置し、圧着することで、セラミック積層体を得た。このセラミック積層体を熱処理により脱脂して焼成した。
【0061】
いずれの層においても熱処理による層間?離は見られなかった。熱処理後の断面SEM像を観察すると、板状形態のアルミナフィラー粒子が、カバー層の面内方向に配向した状態で分散して存在し、表面でLAGPが焼結し、アルミナフィラー同士の接着材として機能していた。また、カバー層中のLAGPが、各電極層および固体電解質層のLAGPと焼結し、カバー層と電極層、および、カバー層と固体電解質層との密着性を向上させていた。さらに、フィラー材量を30vol%とガラス材料より少量混合することで、LAGPがアルミナフィラー周辺で頻度高く焼結し、緻密性が高いカバー層として形成された。
【0062】
(実施例2)
板状形態を有し、厚みtの平均値が0.5μmであり、D50%径が7μmであり、アスペクト比の平均値が14であり、最大幅wが50μmの窒化ホウ素をフィラー材に用いた。Li-Al-Ge-P-O系ガラスを湿式ボールミルでD50%径が1.5μmになるまで粉砕処理し、ガラス材料として用いた。フィラー材とガラス材とを体積比30:70で混合し、結着材、分散剤、可塑剤などとともに、水あるいは有機溶剤に均一分散させることで、スラリを得た。得られたスラリを塗工して所望の厚さを有するグリーンシートを作製した。各電極が印刷された固体電解質シートの積層体の最上層と最下層とにカバーシートを配置し、圧着することで、セラミック積層体を得た。このセラミック積層体を熱処理により脱脂して焼成した。
【0063】
いずれの層においても熱処理による層間?離は見られなかった。熱処理後の断面SEM像を観察すると、板状形態の窒化ホウ素フィラー粒子は、カバー層の面内方向に配向した状態で分散して存在し、表面でLAGPが焼結し、窒化ホウ素フィラー同士の接着材として機能していた。また、カバー層中のLAGPが、各電極層および固体電解質層のLAGPと焼結し、カバー層と電極層、および、カバー層と固体電解質層との密着性を向上させていた。さらに、フィラー材量を30vol%とガラス材料より少量混合することで、LAGPがアルミナフィラー周辺で頻度高く焼結し、緻密性が高いカバー層として形成された。
【0064】
(実施例3)
板状形態を有し、厚みtの平均値が0.5μmであり、D50%径が10μmであり、アスペクト比の平均値が20であり、最大幅wが50μmの窒化ホウ素をフィラー材に用いた。Li-Al-Ge-P-O系ガラスを湿式ボールミルでD50%径が1.5μmになるまで粉砕処理し、ガラス材料として用いた。フィラー材とガラス材とを体積比70:30で混合し、結着材、分散剤、可塑剤などとともに、水あるいは有機溶剤に均一分散させることで、スラリを得た。得られたスラリを塗工して所望の厚さを有するグリーンシートを作製した。各電極が印刷された固体電解質シートの積層体の最上層と最下層とにカバーシートを配置し、圧着することで、セラミック積層体を得た。このセラミック積層体を熱処理により脱脂して焼成した。
【0065】
いずれの層においても熱処理による層間?離は見られなかった。熱処理後の断面SEM像を観察すると、板状形態の窒化ホウ素フィラー粒子は、カバー層の面内方向に配向した状態で分散して存在し、表面でLAGPが焼結し、窒化ホウ素フィラー同士の接着材として機能していた。また、カバー層中のLAGPが、各電極層および固体電解質層のLAGPと焼結し、カバー層と電極層、および、カバー層と固体電解質層との密着性を向上させていた。
【0066】
(比較例1)
板形状ではない不定形状を有し、D50%径が3μmのアルミナをフィラー材に用いた。Li-Al-Ge-P-O系ガラスを湿式ボールミルでD50%径が1.5μmになるまで粉砕処理し、ガラス材料として用いた。フィラー材とガラス材とを体積比30:70で混合し、結着材、分散剤、可塑剤などとともに、水あるいは有機溶剤に均一分散させることで、スラリを得た。得られたスラリを塗工して所望の厚さを有するグリーンシートを作製した。各電極が印刷された固体電解質シートの積層体の最上層と最下層とにカバーシートを配置し、圧着することで、セラミック積層体を得た。このセラミック積層体を熱処理により脱脂して焼成した。
【0067】
(防湿性試験)
実施例1~3および比較例1について、カバー層の防湿性について判定した。具体的には、カバー層の防湿性を判定するために、85℃の恒温槽を湿度85%に設定し、全固体電池を1週間恒温恒湿槽内に静置して防湿試験を行なった。その結果、形状が全く変化ない場合を、防湿性が良好「〇」であると判定した。形状保持が困難となっていれば、防湿性が不良「×」であると判定した。結果を表1に示す。
【表1】
【0068】
表1に示すように、実施例1~3では、防湿性が良好「〇」であると判定された。これは、板状形態のフィラー材を用いたことで、カバー層の焼成時に各フィラー材が配向され、カバー層の形態が保持されたからであると考えられる。一方、比較例1では、防湿性が不良「×」と判定された。これは、不定形のフィラー材を用いたことで各フィラー材が配向せず、カバー層の形態が保持されなかったからであると考えられる。
【0069】
(密着性試験)
実施例1~3および比較例1について、カバー層の密着性について判定した。具体的には、カバー層の密着性を判定するために、耐剥離試験を行なった。耐剥離試験は、カバー層に粘着性のあるテープを貼り付け、これを急速に強く引き剥がすことで行った。その結果、テープに付着物が無ければ、密着性が良好「〇」であると判定した。テープに付着物が少量付着した状態となっていれば、密着性がやや良好「△」であると判定した。大部分がテープに付着した場合は、密着性が不良「×」であると判定した。結果を表1に示す。
【0070】
実施例1,2については密着性が良好「〇」であると判定された。これは、カバー層にガラス材料を多く含ませたからであると考えられる。実施例3については密着性がやや良好「△」と判定された。これは、カバー層におけるガラス材料が少なくなったからであると考えられる。
【0071】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。