(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161907
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】クエン酸および塩酸を含有する水溶液およびそれを用いたpH調整剤
(51)【国際特許分類】
C02F 1/66 20230101AFI20231031BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C02F1/66 522F
C09K3/00 K
C02F1/66 510Z
C02F1/66 522A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072549
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】598174130
【氏名又は名称】株式会社ユニフィードエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】薄井 啓
(72)【発明者】
【氏名】薄井 陸
(72)【発明者】
【氏名】茂木 淳子
(57)【要約】 (修正有)
【課題】クエン酸濃度50質量%のクエン酸水溶液の中和能を維持しながら、クエン酸濃度50質量%のクエン酸水溶液以上の耐凍結性を有し、かつ金属非腐食性の観点からの問題もないpH調整用水溶液等を提供する。
【解決手段】45~55質量%のクエン酸水溶液と等力価であるクエン酸および塩酸を含有するpH調整用の水溶液であって、前記水溶液中の前記クエン酸の濃度が前記塩酸の濃度以上であることを特徴とするクエン酸および塩酸を含有する水溶液等である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
45~55質量%のクエン酸水溶液と等力価であるクエン酸および塩酸を含有するpH調整用の水溶液であって、前記水溶液中の前記クエン酸の濃度が前記塩酸の濃度以上であることを特徴とするクエン酸および塩酸を含有する水溶液。
【請求項2】
前記水溶液中の前記クエン酸の濃度が18質量%以上である請求項1に記載のクエン酸および塩酸を含有する水溶液。
【請求項3】
前記水溶液中の前記塩酸の濃度が3.5質量%以上である請求項1に記載のクエン酸および塩酸を含有する水溶液。
【請求項4】
前記水溶液中の前記塩酸の濃度が18質量%以下である請求項1に記載のクエン酸および塩酸を含有する水溶液。
【請求項5】
さらに、ポリアクリル酸ナトリウムを前記水溶液中に0.001質量%以上含有する請求項1に記載のクエン酸および塩酸を含有する水溶液。
【請求項6】
前記水溶液中の前記クエン酸の濃度が18~29質量%である請求項1に記載のクエン酸および塩酸を含有する水溶液。
【請求項7】
前記水溶液中の前記クエン酸の濃度が37~44質量%である請求項1に記載のクエン酸および塩酸を含有する水溶液。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のクエン酸および塩酸を含有する水溶液を用いたことを特徴とするpH調整剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クエン酸および塩酸を含有する水溶液およびそれを用いたpH調整剤に関する。
【背景技術】
【0002】
消費者に安全な食品を提供するためには、食材やその製造、加工に用いられる装置、器具を殺菌消毒しなければならない。この殺菌消毒用の薬剤としては、安価に入手可能であり、取り扱いが容易であることから、次亜塩素酸水溶液が多く用いられている。次亜塩素酸ナトリウム水溶液に酢酸などの酸性水溶液を添加・混合することにより水中に殺菌力の強い次亜塩素酸(HClO)を発生させた殺菌水、すなわちpH次亜水を製造することができる。pH次亜水において酸はアルカリ分を中和し、pHを下げることで、殺菌力を向上させることができる。
【0003】
pH次亜水において、pH調整剤として添加される酸性水溶液には、食品に用いて安全性が高い、酢酸やクエン酸等が挙げられる。クエン酸は酢酸のような刺激臭がなく、食品添加物やサプリメントに使用される程に安全性が高く、また、プラスチックに対する腐食性が小さいことから食材やその製造、加工に用いられる装置、器具の殺菌消毒剤のpH調整剤に、広く使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
pH次亜水供給装置の一例においては、次亜塩素酸ナトリウム水溶液とクエン酸水溶液とをそれぞれ用意して、当該装置内で両者を混合してpH次亜水を製造している。このようなpH次亜供給装置に供給されるpH調整剤のクエン酸溶液は、輸送コストの抑制や装置内でのタンク容量の制限、詰め替え頻度の抑制の観点からできるだけ高濃度のものを用意することが好ましい。しかしながら、クエン酸水溶液のクエン酸濃度が、50質量%を超えると、クエン酸が再結晶し易く、pH次亜水供給装置内でクエン酸が再結晶化し析出すると配管やポンプを詰まらせるおそれがあり、機器の故障になりかねなかった。そのため、pH次亜水供給装置に供給される市販のクエン酸水溶液は、50質量%が濃度の上限とされていた。しかしながら、50質量%のものであっても長期間の低温下において再結晶する問題の発生が見受けられた。
【0005】
そこで本発明の目的は、クエン酸濃度50質量%のクエン酸水溶液の中和能を維持しながら、クエン酸濃度50質量%のクエン酸水溶液以上の耐凍結性を有し、かつ金属非腐食性の観点からの問題もないpH調整用水溶液と、それを用いたpH調整剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題に鑑みて鋭意検討し、クエン酸と塩酸を組み合わせ含有するクエン酸および塩酸を含有する水溶液をpH調整剤として使用することにより、長期間の低温下においてもクエン酸の再結晶を抑制し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明のクエン酸および塩酸を含有する水溶液は、45~55質量%のクエン酸水溶液と等力価であるクエン酸および塩酸を含有するpH調整用の水溶液であって、水溶液中のクエン酸の濃度が塩酸の濃度以上であることを特徴とする。
【0007】
本発明のクエン酸および塩酸を含有する水溶液は、クエン酸の濃度が18質量%以上であることが好ましく、また、塩酸の濃度が3.5質量%以上が好ましく、また18質量%以下であることが好ましく、また、さらに、ポリアクリル酸ナトリウムを水溶液中に0.001質量%以上含有することが好ましい。さらにまた、水溶液中の前記クエン酸の濃度は18~29質量%、または37~44質量%であることが好ましい。
【0008】
また、本発明のpH調整剤は、本発明のクエン酸および塩酸を含有する水溶液を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、クエン酸濃度50質量%のクエン酸水溶液の中和能を維持しながら、クエン酸濃度50質量%のクエン酸水溶液以上の耐凍結性を有し、かつ金属非腐食性の観点からの問題もないpH調整用水溶液と、それを用いたpH調整剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例の各サンプルA、K、L、MおよびNの中和能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のクエン酸および塩酸を含有する水溶液は、45~55質量%のクエン酸水溶液と等力価であるクエン酸および塩酸を含有するpH調整用の水溶液であって、前記水溶液中の前記クエン酸の濃度が前記塩酸の濃度以上であることを特徴とする。すなわち、クエン酸50質量%を含有するpH調整剤としての中和能(プロトン数/力価)と同等の中和能を有することを条件に、クエン酸と塩酸とを含有することを特徴とするものである。
【0012】
クエン酸(分子量192g/mol)はトリプロトン酸であり、例えば1kgのクエン酸50質量%水溶液は、中和能として、(1000g×0.5/192g/mol)×3=7.813molの力価を有する。本発明においては、力価を同じくすることで、すなわち中和能を同じくすることで従来品のpH調整剤との互換性に優れ、かつ、クエン酸の有する利点である金属や樹脂に対する腐食性の小ささを維持しながら、耐凍結性を向上させることができる。
【0013】
クエン酸の腐食性の小ささは、その水溶液電離度の小ささにあるが、水分子との分子間力の小ささがその耐凍結性を低下せしめるものと考えられることから、本発明においては電離度の極めて大きな塩酸を組み合わせた。クエン酸と比較して塩酸は、高濃度では発煙するなどの性質に加え、特にステンレス、鉄等の金属への腐食性が著しく高いものであるが、クエン酸との混合により適合する添加量においてはその腐食性が小さくなる。
【0014】
クエン酸は、工業用グレード、食品添加物グレード、局方グレード等があり、いずれも本発明のクエン酸水溶液に使用可能であるが、クエン酸水溶液が、食材等の殺菌消毒剤向けのpH調整剤として使用されることを考慮すると、かかる食材等の殺菌消毒剤の用途に
は、食品添加物グレードであることが好ましい。クエン酸水溶液に用いる原料としてのクエン酸はクエン酸(結晶)やクエン酸(無水)のような固体物でもよいし、50%水溶液のような液体物でもよく、50%水溶液に、固形物のクエン酸を加えて高濃度化したものでもよい。
【0015】
また、塩酸は、食品中のPPO(ポリフェノールオキシターゼ)等の酵素に作用し変色などの原因になる場合もあるため、できる限り鉄分などの不純物を含有しない純度の高いものが好ましい。
【0016】
本発明の、クエン酸および塩酸を含有する水溶液は、前記の、現状一般的に使用されているクエン酸50質量%水溶液に対して高い耐凍結性を有する。この理由は以下の通りであると推察される。前述したように、塩酸はその電離度の高さから、解離定数pKa=-7でその水溶液中には塩酸分子はほとんど存在せず共役塩基Cl-に変化している。さらにCl-はプロトンを受け取る傾向が小さく、プロトンはほとんどH3O+として存在するため、水分子は本来の形態を取れない。つまり、水の双極子モーメントによる本来の結晶化(氷化)ができず、結果として凍結防止が可能となるものと推察される。それに対して、クエン酸の場合、その電離度は小さくpKa1=3.08で、水分子に対してプロトンを与える作用は小さく、pKa1に対応するモノクエン酸基C(OH)(CH2COOH)2COO-と水分子の分子間力が小さければ、水分子との結合が外れ、クエン酸として結晶化する一方、水分子は低温により結晶化(氷化)するものと推察される。
【0017】
本発明の、クエン酸および塩酸を含有する水溶液は、また、クエン酸の濃度が塩酸の濃度以上であり、この場合、金属非腐食性の観点からも問題はない。クエン酸および塩酸を含有する水溶液は、同水溶液と同濃度の塩酸のみを含む塩酸水溶液よりも高い金属非腐食性を有する。この理由としては、耐凍結性と同様に、塩酸とクエン酸の電離度の違いに起因することに加え、クエン酸のキレート効果による金属イオンの封鎖剤としての側面も関係していることが想定される。つまり、一般的に、例えば酸溶解により生成する鉄イオンがクエン酸によりマスキングされれば、それに起因する電触作用を阻害して、その腐食速度を低下させることが推察される。具体的には、クエン酸の濃度は18質量%以上であることが好ましく、また、塩酸の濃度は3.5質量%以上であることが好ましく、また18質量%以下であることが好ましい。耐凍結性の観点から、クエン酸濃度は18~29質量%あるいは37~44質量%が特に好ましい。
【0018】
さらに、本発明のクエン酸および塩酸を含有する水溶液、特に、50質量%のクエン酸水溶液と等力価な本発明のクエン酸および塩酸を含有する水溶液は、pH6に至るまでは、現状一般的に使用されているクエン酸50質量%水溶液とほぼ同一の中和曲線を示す。そして、pH次亜水の製造においてのpHは通常6以上あることから、pH次亜水供給装置の再調整不要との観点から、50質量%のクエン酸水溶液と等力価であるクエン酸および塩酸を含有する水溶液が好ましい。また、pHを6以下の領域でも使用する際には、クエン酸および塩酸の総力価を維持したうえで、塩酸濃度を高くすることでクエン酸および塩酸を含有する水溶液の使用量を少なくし、コストを低下することができる。
【0019】
クエン酸および塩酸を含有する水溶液は、さらにポリアクリル酸ナトリウムを添加することにより、耐凍結性が向上する。食品添加物「糊料」に指定されるポリアクリル酸ナトリウムは、極めて少量の添加で大量の水分子を捕捉でき、それゆえ、ポリアクリル酸ナトリウムを添加することで、その増粘作用の原因である分子内カルボキシル基部分の親水性は、結果として水分子の自由度を低下させて、その結晶化が防止され、耐凍結性が向上するためと推察される。
【0020】
また、ポリアクリル酸ナトリウムは、その分子量において、例えば1000万以下の増粘剤としての特性を有する領域のもので、かつ、食品添加物規格に合致するものを選ぶのが好ましい。
【0021】
ポリアクリル酸ナトリウムは、クエン酸および塩酸を含有する水溶液中に0.001質量%以上含有することが好ましく、0.001~0.005質量%が含有することがさらに好ましく、0.001~0.003質量%が含有することが特に好ましい。ポリアクリル酸ナトリウムの含有量は、この範囲で、かつ高いほど耐凍結性の効果が上がるものの、コストの観点から、希望する耐凍結性が得られる範囲で、できる限り少なくすることが好ましい。
【0022】
本発明のクエン酸および塩酸を含有する水溶液は、一例では上述した原料を適当量で水に溶解し、または混合することで得ることができる。
【0023】
本発明のクエン酸および塩酸を含有する水溶液は、必要に応じて着色剤等を含有することができる。クエン酸および塩酸を含有する水溶液において、水の含有量の質量%は、上述したクエン酸、塩酸、ポリアクリル酸ナトリウム、必要に応じて添加される着色剤等の合計の含有量の残余の値である。
【0024】
本発明のクエン酸および塩酸を含有する水溶液の製造方法は特に限定されない。水に溶かす順番は、いずれの原料からでもよく、同時でもよい。
【0025】
本発明のクエン酸および塩酸を含有する水溶液は、pH調整剤として用いて好適である。特に、食品向けの殺菌剤、消毒剤として好適な次亜塩素酸水溶液のpH調整用に適している。もっとも、pH調整剤に限られず、他の用途の酸性、塩基性水溶液のpH調整用に使用することができる。使用形態としては、pH次亜水供給装置において、ポリ容器等の容器に充填しておき、当該装置内のタンクや、配管中にて酸性、塩基性水溶液と混合されるといった形態が挙げられる。
【実施例0026】
クエン酸および塩酸を含有する水溶液を調製し、耐凍結性、金属非腐食性の評価と、中和能の確認を行った。
【0027】
(試料の調製)
クエン酸(扶桑化学工業(株)製の食品添加物グレード)、ポリアクリル酸ナトリウム(Sigma-Aldrich Co.製 商品名:Poly acrylic acid sodium salt)および塩酸(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)を表1中に示す割合で配合し、サンプルA~Mの各試料を調製した。なお、表1中に示すクエン酸、ポリアクリル酸ナトリウムおよび塩酸の各濃度は、試料中の質量%ベースの数値である。また、本発明においては、表1中に示すように、例えばクエン酸を20質量%、塩酸を17.1質量%含有し、さらにポリアクリル酸ナトリウムを各0質量%、0.001質量%、0.002質量%および0.003質量%含有する試料を総称してサンプルMと記載する。
具体的には、まず、ビーカー内の水に、クエン酸、およびポリアクリル酸ナトリウムを所定量で加えたうえで、加熱しながら攪拌し、更に70~80℃で20分程撹拌し、クエン酸(扶桑化学工業(株)の食品添加物グレード)、ポリアクリル酸ナトリウムが完全に溶解した水溶液を得た。さらに室温で所定量の塩酸を加えてサンプルA~Mの各試料を調製した。
併せて、表1中に、各サンプルと等力価で、クエン酸のみを含むクエン酸水溶液(以下、単にクエン酸水溶液と略す)の濃度を示す。サンプルA、B、D、EおよびG~Mは50質量%のクエン酸水溶液と等力価であり、サンプルCは51.8質量%のクエン酸水溶液と等力価であり、サンプルFは53.5質量%のクエン酸水溶液と等力価である。
また、比較用に、上記調製方法により、ポリアクリル酸ナトリウムと塩酸のみを含有するサンプルNの各試料を調製した。サンプルNは、25質量%のクエン酸水溶液と等力価である。
【0028】
(耐凍結性の評価)
各試料を-25℃で保たれた恒温槽内に保存し、3日、21日、28日および31日経過後の試料中の凍結の有無を確認し、評価した。結果を表1中に記載する。耐凍結性の評価基準は以下の通りとした。
○:試料中に凍結が確認されなかった。
×:試料中に凍結が確認された。
【0029】
(金属非腐食性の評価)
金属非腐食性は、ステンレス板に滴下した際の、接液部の光沢の消失度によって評価した。A、D、G、I、KおよびN各サンプルのポリアクリル酸ナトリウム0~0.003質量%含有の試料を、10cm×15cmのステンレス板上に0.05ml滴下し、30℃送風恒温器内に12時間静置し評価用サンプル板を作成し、同評価用サンプル板を水洗、乾燥後、同評価用サンプル板を鏡面として使用し、同評価用サンプル板に映る活字が判読できるかどうかを確認し、評価した。結果を表2中に記載する。金属非腐食性の評価基準は以下の通りとした。
◎+:全く問題なく確認できた。
◎ :明確に判読可能であった。
〇 :判読可能であった。
× :判読困難または判読不可であった。
【0030】
(中和能の確認)
次亜塩素酸ソーダ(関東電化工業(株)製の食品添加グレード、有効塩素12%)を蒸留水で希釈し、濃度50質量ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液を調製した。この次亜塩素酸ナトリウム水溶液1kgに対する中和能を、代表的な例として、サンプルAのポリアクリル酸ナトリウムを0質量%含有する試料、サンプルKのポリアクリル酸ナトリウムを0.002質量%含有する試料、サンプルLのポリアクリル酸ナトリウムを0.003質量%含有する試料、サンプルMのポリアクリル酸ナトリウムを0.001質量%含有する試料およびサンプルNのポリアクリル酸ナトリウムを0質量%含有する試料の各試料を用いて、確認した。結果を
図1に示す。
【0031】
【0032】
【0033】
サンプルAの、ポリアクリル酸ナトリウム各0質量%含有の試料が、現状一般的に使用されているクエン酸50質量%水溶液に相当するが、-25℃で保たれた恒温槽内では、3日経過後に試料中に凍結が確認され、ポリアクリル酸ナトリウムを0.001~0.003質量%添加しても結果は変わらなかった。
これに対し、サンプルAと等力価であっても、クエン酸とともに、塩酸を含有するサンプルD、EおよびG~Mは、少なくともいずれかの試料の3日経過後に凍結が確認されておらず、現状一般的に使用されているクエン酸50質量%水溶液に対して高い耐凍結性を有する。
また、51.8質量%のクエン酸水溶液と等力価なサンプルCおよび53.5質量%のクエン酸水溶液と等力価なサンプルFも、少なくともいずれかの試料の3日経過後に凍結が確認されておらず、現状一般的に使用されているクエン酸50質量%水溶液に対して高い耐凍結性を有し、45~55質量%のクエン酸水溶液と等力価であるクエン酸および塩酸を含有する水溶液が現状一般的に使用されているクエン酸50質量%水溶液に対して高い耐凍結性を有することが分かる。
【0034】
また、クエン酸の濃度が塩酸の濃度以上の場合、金属非腐食性の観点からも問題はないことも分かる。クエン酸50質量%水溶液に相当するクエン酸および塩酸を等濃度で含有する水溶液のクエン酸および塩酸は、各18質量%であることから、この場合、クエン酸の濃度が、塩酸の濃度以上の場合とは、具体的に、クエン酸の濃度が18質量%以上、塩酸の濃度が18質量%以下となるが、この濃度要件を満足するサンプルA~Mは、塩酸を14.3質量%含有するサンプルNよりも高い金属非腐食性を有する。また、サンプルKおよびNの試験結果から、クエン酸および塩酸を含有する水溶液は、同水溶液と同濃度の塩酸のみを含む塩酸水溶液よりも高い金属非腐食性を有することが分かる。
【0035】
サンプルC~Mの結果から、サンプルBについても、少なくとも、サンプルAと同等以上の耐凍結性を有すると考えられるものの、今回の評価内容、評価基準においては、サンプルBの、サンプルAに対する耐凍結性の優位性は明確に確認されるには至っていない。今回の評価内容、評価基準からは、クエン酸および塩酸を含有する水溶液において、塩酸濃度が3.5質量%以上であれば、現状一般的に使用されているクエン酸50質量%水溶液に対しての優位性が明確であると言えるものと考えられる。以上の観点から、クエン酸の濃度は18質量%以上が好ましく、また、塩酸の濃度は3.5質量%以上が好ましく、また18質量%以下が好ましいと言える。
【0036】
さらに、各サンプルC~Mにおいて、ポリアクリル酸ナトリウムを0.001質量%以上含有すると、耐凍結性がさらに高くなり、かつ、ポリアクリル酸ナトリウムの含有量は、この範囲で、かつ高いほど耐凍結性の効果が上がることが分かる。
【0037】
また、表1から、31日経過後も凍結が確認されなかった試料が含まれるサンプルJ~MおよびサンプルC~Eが特に好ましく、すなわちクエン酸濃度としては18~29質量% あるいは37~44質量%が特に好ましいことが分かる。
【0038】
さらにまた、
図1に示す各サンプルA、K、LおよびMの中和能試験から、サンプルK、L、Mは、次亜塩素酸ナトリウム水溶液が中和後pH6に至るまでは、サンプルAとほぼ同一の中和曲線を示すことが分かる。前述の通り、サンプルAが、現状一般的に使用されているクエン酸50質量%水溶液に相当し、かつ、pH次亜水の製造においてのpHは通常6以上あることから、pH次亜水供給装置の再調整不要との観点から、50質量%のクエン酸水溶液と等力価であるクエン酸および塩酸を含有する水溶液が好ましい。また、pHを6以下の領域でも使用する際には、クエン酸と塩酸の総力価を維持したうえで、塩酸濃度を高くすることでクエン酸および塩酸を含有する水溶液量を少なくし、コストを低下することができる。
【0039】
以上のように、本発明によれば、クエン酸濃度50質量%のクエン酸水溶液の中和能を維持しながら、クエン酸濃度50質量%のクエン酸水溶液以上の耐凍結性を有し、かつ金属非腐食性の観点からの問題もないpH調整用水溶液と、それを用いたpH調整剤を提供することができる。