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特開2023-161933バイオフィルム剥離剤、及び、バイオフィルムの剥離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161933
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】バイオフィルム剥離剤、及び、バイオフィルムの剥離方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 35/04 20060101AFI20231031BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20231031BHJP
   A01N 33/18 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
A01N35/04
A01P3/00
A01N33/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072594
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000101042
【氏名又は名称】アクアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110733
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥野 正司
(74)【代理人】
【識別番号】100120846
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 雅也
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅代
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 順子
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BA06
4H011BB04
4H011BB05
4H011DA13
4H011DD05
(57)【要約】
【課題】水系内の金属腐食が抑制され、より低濃度で効果的にバイオフィルムを剥離除去することができるバイオフィルム剥離剤、及び、バイオフィルムの剥離方法を提供すること。
【解決手段】本発明のバイオフィルム剥離剤は、系内にバイオフィルムが付着している水系水に添加して、前記バイオフィルムを剥離するためのバイオフィルム剥離剤であって、(A)オルトフタルアルデヒド、及び、(B)有機臭素化合物を含有している。また、本発明のバイオフィルムの剥離方法は、系内にバイオフィルムが付着している水系水に、(A)オルトフタルアルデヒド、及び、(B)有機臭素化合物を添加する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
系内にバイオフィルムが付着している水系水に添加して、前記バイオフィルムを剥離するためのバイオフィルム剥離剤であって、
(A)オルトフタルアルデヒド、及び、(B)有機臭素化合物を含有している、バイオフィルム剥離剤。
【請求項2】
前記(B)有機臭素化合物が、2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノールである、請求項1に記載のバイオフィルム剥離剤。
【請求項3】
前記(A)オルトフタルアルデヒドと、前記(B)有機臭素化合物の質量比率(A:B)が、10:0.5~0.5:10の範囲内である、請求項1または請求項2に記載のバイオフィルム剥離剤。
【請求項4】
系内にバイオフィルムが付着している水系水に、(A)オルトフタルアルデヒド、及び、(B)有機臭素化合物を添加する、バイオフィルムの剥離方法。
【請求項5】
系内にバイオフィルムが付着している水系水に、請求項1に記載のバイオフィルム剥離剤を添加する、バイオフィルムの剥離方法。
【請求項6】
前記水系水における、前記(A)オルトフタルアルデヒドと、前記(B)有機臭素化合物の合計(A+B)の添加濃度が、0.5mg/L~800mg/Lの範囲内になるように、前記バイオフィルム剥離剤を前記水系水へ添加する、請求項4または請求項5に記載のバイオフィルムの剥離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造業やサービス業等の産業用水系に添加使用されるバイオフィルム剥離剤、及び、バイオフィルムの剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空調用や冷凍用の水系、あるいは、紙パルプ分野を含む各種製造業や各種プラントの工業用水系等の産業用水系では、経時により、細菌、糸状菌、藻類等によるバイオフィルムが系内の配管や機器に付着してくる。この系内へのバイオフィルムの付着は、熱効率の低下、配管の閉塞や流量低下、金属材部分の腐食等の各種障害を引き起こす原因となる。
【0003】
このようなバイオフィルムによる障害を予防乃至防止するためには、従来、薬剤を用いる方法が一般的に行われている。バイオフィルム対策として用いられる薬剤としては、付着したバイオフィルムを剥離乃至洗浄するバイオフィルム剥離剤、あるいは、バイオフィルムの付着を防止するスライムコントロール剤や殺菌剤(以下、「スライムコントロール剤等」と称する。)などが挙げられる。
【0004】
これらの薬剤の中で、スライムコントロール剤等は、水中の微生物濃度を低く保つことにより、スライムの付着ポテンシャルを低減させている。一般的に、スライムコントロール剤等は、菌の酵素反応の阻害作用や細胞膜の変性作用により、殺菌、又は細菌の増殖を抑制している。
【0005】
一方、バイオフィルム剥離剤は、主に菌体外の粘着物質(一般的には多糖類)の粘性を低下させることにより、細菌の集合体を分散させ、付着面からバイオフィルムを剥離している。従って、スライムコントロール剤として有効な薬剤であっても、バイオフィルム剥離剤としては有効でない場合があり、また、バイオフィルム剥離剤として有効であっても、スライムコントロール剤として有効でない場合がある。
【0006】
ここで、バイオフィルム剥離剤としては、特許文献1などで提案されているイソチアゾリン系などの有機系殺菌剤、あるいは、特許文献2などで提案されている塩素化スルファミン酸系化合物、特許文献3や特許文献4などで提案されているピリジン系化合物、特許文献5などで提案されているピリジニウム系化合物とフタルアルデヒドの併用、特許文献6などで提案されているポリオキシエチレン系化合物とイソチアゾリン系化合物の併用などが挙げられる。しかし、これらのバイオフィルム剥離剤は、その剥離力や防食性等の性能の改善が求められている。
【0007】
また、強力な塩素系の薬剤や過酸化水素等の酸化剤を用いて、一挙にバイオフィルムを剥離させる方法もしばしば行われる。しかし、この場合、薬剤自体の毒性や危険性が高いので、薬剤の取り扱いに注意が必要で、かつ、処理後に中和処理を行う必要が生ずる。そのため、これら薬剤を用いた場合に、作業が繁雑になる上に、配管や機器などの金属を腐食させてしまう懸念もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5-157719号公報
【特許文献2】特開2003-267811号公報
【特許文献3】特開2005-325036号公報
【特許文献4】特開2006-21105号公報
【特許文献5】特開2009-215271号公報
【特許文献6】特開2012-214388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決することを目的とする。即ち、本発明は、既にバイオフィルムが付着している産業用水系に添加使用されるバイオフィルム剥離剤、及び、バイオフィルムの剥離方法であって、水系内の金属腐食が抑制され、より低濃度で効果的にバイオフィルムを剥離除去することができるバイオフィルム剥離剤、及び、バイオフィルムの剥離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、オルトフタルアルデヒドと有機臭素化合物とを併用することにより、より低濃度で効果的にバイオフィルムを除去できることを見出し、本発明を見出した。
【0011】
即ち、本発明のバイオフィルム剥離剤は、系内にバイオフィルムが付着している水系水に添加して、前記バイオフィルムを剥離するためのバイオフィルム剥離剤であって、(A)オルトフタルアルデヒド、及び、(B)有機臭素化合物を含有している。
【0012】
前記(B)有機臭素化合物としては、2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノールであることが好ましい。
【0013】
また、前記(A)オルトフタルアルデヒドと、前記(B)有機臭素化合物の質量比率(A:B)としては、10:0.5~0.5:10の範囲内であることが好ましい。
【0014】
一方、本発明のバイオフィルムの剥離方法の一態様は、系内にバイオフィルムが付着している水系水に、(A)オルトフタルアルデヒド、及び、(B)有機臭素化合物を添加する方法である。
【0015】
また、本発明のバイオフィルムの剥離方法の他の一態様は、系内にバイオフィルムが付着している水系水に、上記本発明のバイオフィルム剥離剤を添加する方法である。
【0016】
このとき、前記水系水における前記(A)オルトフタルアルデヒドと、前記(B)有機臭素化合物の合計(A+B)の添加濃度が、1mg/L~500mg/Lの範囲内になるように、前記バイオフィルム剥離剤を前記水系水へ添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、既にバイオフィルムが付着している産業用水系において使用されている金属材料の腐食が抑制され、水系への少ない添加量で優れたバイオフィルム剥離効果を示すバイオフィルム剥離剤を提供することができる。
【0018】
また、本発明のバイオフィルムの剥離方法によれば、(A)オルトフタルアルデヒド、及び、(B)有機臭素化合物、あるいは、本発明のバイオフィルム剥離剤を用いることで、既にバイオフィルムが付着している産業用水系において使用されている金属材料の腐食が抑制され、水系への少ない添加量で優れたバイオフィルムの剥離効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、バイオフィルム剥離剤と、バイオフィルムの剥離方法とに分けて、本発明について詳細に説明する。
【0020】
[バイオフィルム剥離剤]
本発明のバイオフィルム剥離剤は、系内にバイオフィルムが付着している水系水に添加して、バイオフィルムを剥離するためのバイオフィルム剥離剤であって、必須成分として(A)オルトフタルアルデヒド及び(B)有機臭素化合物を含有している。また、本発明のバイオフィルム剥離剤には、任意成分として、従来公知の金属防食剤やスケール防止剤、その他の各種添加剤を添加しても構わない。
【0021】
本発明のバイオフィルム剥離剤は、これら成分を水に溶解乃至分散することによって調製される。
以下、これら各成分ごとに詳しく説明する。
【0022】
<必須成分>
(A)オルトフタルアルデヒド
本発明に用いるオルトフタルアルデヒドは、フタラールとも称され、化学式としてC(CHO)で表される。詳しくは、2つのアルデヒド基がベンゼン環のオルト位に付いた芳香族化合物である。
【0023】
オルトフタルアルデヒドは、医療機器等の消毒薬として、市場から容易に入手することができる。オルトフタルアルデヒドの具体的な商品としては、例えば、「ディスオーパ(登録商標)」(ジョンソン・エンド・ジョンソン社製)などを挙げることができる。
【0024】
(B)有機臭素化合物
本発明に用いる有機臭素化合物としては、特に制限されず、炭素-臭素結合のある有機化合物であれば、何れも使用することができる。本発明において、好ましい有機臭素化合物としては、例えば、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3ジオール、2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノールなどのブロモニトロアルコール系化合物及びこれらのエステル類;N-ブロモアセトアミド、2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミドなどのブロモアミド系化合物;1,2-ビス(ブロモアセトキシ)エタン、1,2-ビス(ブロモアセトキシ)プロパン、1,4-ビス(ブロモアセトキシ)-2-ブテンなどのブロモ酢酸エステル系化合物;ヘキサブロモジメチルスルホンなどのブロモスルホン系化合物;ブロモニトロスチレンなどのブロモニトロ化合物;などを挙げることができる。
【0025】
本発明に用いる有機臭素化合物としては、これらの中でも、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3ジオール、2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール、2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミドがより好ましく、2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノールが特に好ましい。
【0026】
<任意成分>
・金属防食剤
本発明のバイオフィルム剥離剤には、配管や機器などの金属の腐食をより一層抑制するために、任意成分として金属防食剤を添加することができる。本発明のバイオフィルム剥離剤で使用可能な金属防食剤としては、アゾール系化合物が好適である。金属防食剤として使用可能なアゾール系化合物としては、例えば、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、テトラゾールなどの単環式アゾール系化合物;ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾール、メルカプトベンゾイミダゾール、メルカプトメチルベンゾイミダゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、インダゾール、プリン、イミダゾチアゾール、ピラゾロオキサゾールなどの縮合多環式アゾール系化合物など;を挙げることができる。さらに、アゾール系化合物の中で塩を形成する化合物にあっては、それらの塩などを挙げることができる。
【0027】
本発明のバイオフィルム剥離剤において、金属防食剤として好ましいアゾール系化合物としては、金属腐食の進行に結び付く酸化性物質分解を抑制する効果が高い点で、ベンゾトリアゾールあるいはトリルトリアゾールを特に好ましいものとして挙げることができる。
【0028】
・スケール防止剤
本発明のバイオフィルム剥離剤で任意成分として使用可能なスケール防止剤としては、例えば、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸やこれらの水溶性塩などのホスホン酸類;アクリル酸系、マレイン酸系、メタクリル酸系、スルホン酸系、イタコン酸系、または、イソブチレン系の各重合体やこれらの共重合体等のポリマー類;アクリル酸系重合体の次亜リン酸付加物等のホスフィノカルボン酸類;等を挙げることができる。
【0029】
これらの中でも、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸またはその水溶性塩;マレイン酸、アクリル酸アルキル、ビニルアセテートの三元共重合体;ポリアクリル酸の次亜リン酸付加物;アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合体の次亜リン酸付加物;からなる群より選択される少なくとも1種のスケール防止剤を配合することが、配合したスケール防止剤による酸化性物質の分解がはとんど生じないので好ましい。
【0030】
・その他の各種添加剤
本発明のバイオフィルム剥離剤には、上記必須成分や任意成分の他に、その他の各種添加剤を任意成分として添加することができる。添加可能なその他の添加剤としては、例えば、着色剤、分散剤、香料、蛍光物質(1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸ナトリウム塩(PTSA)、ウラニンなど)等を挙げることができる。
【0031】
<水>
本発明のバイオフィルム剥離剤に使用可能な水としては、特に制限はなく、一般的な工業用水、井戸水、市水、水道水、工業用水、河川水、脱イオン水、RO水、純水等を適宜用いることができる。用いる水としては、殺菌処理あるいは滅菌処理してからバイオフィルム剥離剤の調製に供することが好ましい。なお、ここでいう「滅菌」とは、すべての生物を完全に死滅させることを指すのではなく、微生物の存在確率を著しく低下させることを指すものとする(以下の説明において同様)。
【0032】
<成分の配合割合>
(必須成分)
(A)オルトフタルアルデヒドと(B)有機臭素化合物の質量比率(A:B)としては、好ましくは10:0.5~0.5~10であり、より好ましくは10:1~1:10である。(A)オルトフタルアルデヒドが多過ぎると、コスト的に不利であるばかりか、化学的酸素要求量(COD)の上昇等、環境負荷への影響が懸念されるため好ましくない。一方、(A)オルトフタルアルデヒドが少な過ぎると、充分なバイオフィルム剥離効果を得にくくなるため好ましくない。
【0033】
バイオフィルム剥離剤における(A)オルトフタルアルデヒドと(B)有機臭素化合物の合計(A+B)の水溶液濃度としては、後述する「バイオフィルムの剥離方法」において、当該バイオフィルム剥離剤を水系水に添加した際に、適切な水系水中の濃度(添加濃度)となり得るとともに、溶液としての安定性を維持できる範囲であることが望ましい。合計(A+B)の水溶液濃度としては、具体的には、1mg/L~500mg/Lの範囲内であることが好ましい。
【0034】
(任意成分)
バイオフィルム剥離剤における、金属防食剤やスケール防止剤、その他の各種添加剤等の任意成分の濃度としては、バイオフィルム剥離剤としての機能を損なわない程度であれば、特に制限は無い。
【0035】
勿論、バイオフィルム剥離剤における、金属防食剤の濃度としては、金属防食剤の添加効果を奏する量以上とすることが望ましい。また、バイオフィルム剥離剤における、スケール防止剤の濃度としては、スケール防止剤の添加効果を奏する量以上とすることが望ましい。
【0036】
[バイオフィルムの剥離方法]
本発明のバイオフィルムの剥離方法は、系内にバイオフィルムが付着している水系水に、(A)オルトフタルアルデヒド、及び、(B)有機臭素化合物を添加する方法である。(A)オルトフタルアルデヒド、及び、(B)有機臭素化合物を別々に添加してもよいが、上記本発明のバイオフィルム剥離剤を添加することにより、これらを添加することとしてもよい。
【0037】
以下、上記本発明のバイオフィルム剥離剤を添加する態様を中心に説明するが、当該説明は、(A)オルトフタルアルデヒド、及び、(B)有機臭素化合物を別々に添加する態様にもそのまま適用される。
【0038】
バイオフィルム剥離剤を前記水系水へ添加する際、この水系水における(A)オルトフタルアルデヒドと(B)有機臭素化合物の合計(A+B)の添加濃度が、0.5mg/L~800mg/Lの範囲内になるようにすることが好ましく、1mg/L~500mg/Lの範囲内になるようにすることがより好ましく、1mg/L~300mg/Lの範囲内になるようにすることがさらに好ましい。
【0039】
(A)オルトフタルアルデヒドと(B)有機臭素化合物の合計(A+B)の添加濃度が少な過ぎると、バイオフィルムの剥離効果が不十分になる場合がある。一方、合計(A+B)の添加濃度が過剰であっても、性能上の不具合は特に無いが、更なるバイオフィルムの剥離効果の向上は得られない。
【0040】
本発明において、バイオフィルムが付着している水系とは、当該水系内における機器の熱交換効率の低下、配管の通水性低下、装置や配管の触感や視覚による変化、機材表面親水性増加の評価、ATP(アデノシン三リン酸)分析や染色法などにより、バイオフィルムの付着が確認された産業用水系を指す。
【0041】
本発明のバイオフィルムの剥離方法において、水系水へのバイオフィルム剥離剤の添加方法としては、当該水系における流水路中に直接、連続的及び/または断続的に添加したり、当該水系における水系水の滞留箇所に直接、連続的及び/または断続的に添加したり、当該水系における流水路から分岐させた水路中に、連続的及び/または断続的に添加したり、当該水系における流水路から採取して水系水を貯めたピットにバッチで添加及び拡販した後に流水路へ戻したり、等の方法が挙げられるが、特に制限は無い。
【0042】
また、バイオフィルムが付着した箇所に、吹き付け、流しかけ、注液、塗布、浸漬等の方法により、直接本発明のバイオフィルム剥離剤を供給することによってバイオフィルムを剥離しても構わない。
【0043】
以上、本発明のバイオフィルム剥離剤、及び、バイオフィルムの剥離方法について、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明のバイオフィルム剥離剤、及び、バイオフィルムの剥離方法は、上記の実施形態の構成に限定されるものではない。
その他、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明のバイオフィルム剥離剤、及び、バイオフィルムの剥離方法を適宜改変することができる。かかる改変によってもなお本発明の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【実施例0044】
以下に、本発明のバイオフィルム剥離剤、及び、バイオフィルムの剥離方法について、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0045】
<試験例1>
試験薬品として、以下の(1)~(6)の薬品を用意した。
[試験薬品]
(1)オルトフタルアルデヒド(OPA)…(A)オルトフタルアルデヒド
(2)2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール(DBNE)…(B)有機臭素化合物
(3)2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3ジオール(ブロノポール)…(B)有機臭素化合物
(4)5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(CMI)…比較用
(5)1,4-ビス(3、3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド(BDPMOB)…比較用
(6)ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン(ジメチルイミニオ)エチレン]ジクロライド(POD)…比較用
【0046】
[バイオフィルム剥離剤の調製]
試験薬品(1)~(6)を用い、下記表1に示す試験薬品を同表に示す配合になるように滅菌済みつくば市水で希釈して、実施例1~6及び比較例1~8のバイオフィルム剥離剤をそれぞれ調製した。なお、比較例1は、バイオフィルムの剥離剤成分が無添加となっているブランクの試験体(即ち、水そのもの)であるが、便宜上「バイオフィルム剥離剤」と称する。
【0047】
【表1】
【0048】
[試験方法]
1) MHB(ミュラーヒントン寒天培地)にて前培養したP.aeruginosaをATP濃度で10nM程度となるように新しいMHBに接種した。
2) 1)を24穴マイクロプレートに1ウェルあたり1mLずつ分注し、30℃にて48時間静置して培養させた。
3) 静置後に培養液を捨て、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)を1ウェルあたり1.2mLずつ分注して洗浄を行った。この洗浄は、3回実施した。
4) 実施例1~6及び比較例1~8のバイオフィルム剥離剤をそれぞれ、3)で得られた24穴マイクロプレートに1ウェルあたり1.2mLずつ分注し、3時間室温にて静置した。
5) 3時間静置後にバイオフィルム剥離剤を捨て、PBSにて3)と同様に洗浄を行った(3回実施)。
【0049】
[評価]
(ATP濃度及び除去率)
5)で得られた24穴マイクロプレート(以下、それぞれのウェルを「試験体」と称する。)について、ウェルの壁面および底面を滅菌済み綿棒で拭き取り、1mLの滅菌水に懸濁してATP濃度を測定した。
【0050】
ブランクの試験体である比較例1のATP濃度に対する、各バイオフィルム剥離剤使用時の試験体である他の比較例並びに実施例のATP濃度の比率を「除去率(%)」とした。以降の試験例における「除去率」も同様である。
ATP濃度の測定結果及び除去率の計算結果は、既出の表1にまとめて示してある。
【0051】
表1に示す結果より、(A)オルトフタルアルデヒド及び(B)有機臭素化合物を併用した本発明のバイオフィルム剥離剤を用いた実施例1~6においては、低濃度での使用でもバイオフィルムの除去率が高く、本発明のバイオフィルム剥離剤に基づく効果が明白である。
【0052】
<試験例2>
試験薬品として、以下の(1)、(2)、(5)、(7)、(8)の薬品を用意した。
[試験薬品]
(1)オルトフタルアルデヒドOPA…(A)オルトフタルアルデヒド
(2)2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール(DBNE)…(B)有機臭素化合物
(5)1,4-ビス(3、3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド(BDPMOB)…比較用
(7)グルタルアルデヒド…比較用
(8)過酸化水素…比較用
【0053】
[バイオフィルム剥離剤の調製]
試験薬品(1)、(2)、(5)、(7)、(8)を用い、下記表2に示す試験薬品を同表に示す配合になるように滅菌済みつくば市水で希釈して、実施例7~9及び比較例1、9~13のバイオフィルム剥離剤をそれぞれ調製した。
【0054】
【表2】
【0055】
[試験方法]
試験例1における[試験方法]において、2)中の静置して培養する時間を48時間から24時間に変更したことを除き、当該[試験方法]と同様にして、それぞれのバイオフィルム剥離剤による試験体を得た。
【0056】
[評価]
試験例1における[評価]の(ATP濃度及び除去率)と同様にして、それぞれの試験体について、「ATP濃度」及び「除去率(%)」を求めた。
ATP濃度の測定結果及び除去率の計算結果は、既出の表2にまとめて示してある。
【0057】
表2に示す結果より、(A)オルトフタルアルデヒド及び(B)有機臭素化合物を併用した本発明のバイオフィルム剥離剤を用いた実施例7~9においては、低濃度での使用でもATP濃度が低く、本発明のバイオフィルム剥離剤に基づく効果が明白である。比較例9のグルタルアルデヒドを用いた場合や、比較例13の過酸化水素を用いた場合は、100%近い除去率を達成するのに、それぞれ2000mg/L以上、10000mg/L以上の高濃度が必要であった。
【0058】
<試験例3>
試験薬品として、以下の(1)~(3)、(7)の薬品を用意した。
[試験薬品]
(1)オルトフタルアルデヒド(OPA)…(A)オルトフタルアルデヒド
(2)2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール(DBNE)…(B)有機臭素化合物
(3)2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3ジオール(ブロノポール)…(B)有機臭素化合物
(7)グルタルアルデヒド…比較用
【0059】
[バイオフィルム剥離剤の調製]
試験薬品(1)~(3)、(7)を用い、下記表3に示す試験薬品を同表に示す配合になるように滅菌済みつくば市水で希釈して、実施例2、4、10~12及び比較例1、14~17のバイオフィルム剥離剤をそれぞれ調製した。
【0060】
【表3】
【0061】
[試験方法]
実際に稼働している冷却塔水系水に、塩化ビニル製の試験片(25mm×75mm×1mm)を10枚浸漬し、14日間放置して、表面にバイオフィルムを付着させた。
【0062】
実施例2、4、10~12及び比較例1、14~17のバイオフィルム剥離剤をそれぞれ500mLずつガラス製容器に入れ、バイオフィルムが付着した上記試験片を、面積が最大となる平面が垂直になる様に浸漬し、60rpm(回転/分)で攪拌しながら室温で5時間放置した。
【0063】
[評価]
5時間放置後に各試験片を取り出し、付着物を滅菌した綿棒で拭い取って10mLの滅菌イオン交換水に再懸濁し、ATP濃度を測定した。この時、ATP濃度が低いほど付着微生物量が少ないことになる。
ATP濃度の測定結果及び除去率の計算結果は、既出の表3にまとめて示してある。
【0064】
表3に示す結果より、実際の稼働の現場において、(A)オルトフタルアルデヒド及び(B)有機臭素化合物を併用した本発明のバイオフィルム剥離剤を用いた実施例2、4、10~12の場合、ATP濃度が低く、本発明のバイオフィルム剥離剤に基づく効果が明白である。
【0065】
<試験例4>
試験薬品として、以下の(1)、(2)、(9)、(10)の薬品を用意した。
[試験薬品]
(1)オルトフタルアルデヒド(OPA)…(A)オルトフタルアルデヒド
(2)2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール(DBNE)…(B)有機臭素化合物
(9)次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸ナトリウム12質量%水溶液)…比較用
(10)過酸化水素水(過酸化水素35質量%水溶液)…比較用
【0066】
[バイオフィルム剥離剤の調製]
試験薬品(1)、(2)、(9)、(10)を用い、下記表4に示す試験薬品を同表に示す配合になるように滅菌済みつくば市水で希釈して、実施例7、8及び比較例18、19のバイオフィルム剥離剤をそれぞれ調製した。
【0067】
【表4】
【0068】
※(9)次亜塩素酸ナトリウムの濃度は、水溶液中の次亜塩素酸ナトリウムの濃度が上記濃度になるように、試験薬品としての(9)次亜塩素酸ナトリウム水溶液を希釈した。
※(10)同様に、過酸化水素の濃度は、水溶液中の過酸化水素の濃度が上記濃度になるように、試験薬品としての(10)過酸化水素水を希釈した。
【0069】
[評価]
実施例7、8及び比較例18、19の各バイオフィルム剥離剤を1000mLずつガラス製容器に入れ、20mm×60mm×2mmの大きさの研磨銅試験片(C1220P)を3個浸漬して、300rpm(回転/分)で攪拌しながら35℃で2日間の腐食試験を行った。腐食試験後に銅板の腐食減量を測定して、腐食速度(mg/dm/日(mdd))を算出した。
腐食試験(腐食速度)の結果は、既出の表4にまとめて示してある。
【0070】
表4に示す結果より、(A)オルトフタルアルデヒド及び(B)有機臭素化合物を併用した本発明のバイオフィルム剥離剤を用いた実施例7及び6においては、腐食が抑制されていることがわかる。特に、実施例7及び6においては、バイオフィルム剥離効果が得られる次亜塩素酸ナトリウム濃度や過酸化水素の濃度に相当する比較例18や19よりも腐食速度が大幅に遅いことが示されており、本発明の効果が明白である。