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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161936
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】絶縁層形成用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20231031BHJP
   C09D 5/25 20060101ALI20231031BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231031BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20231031BHJP
   C09D 127/12 20060101ALI20231031BHJP
   C09D 179/08 20060101ALI20231031BHJP
   C09D 127/16 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/25
C09D7/61
C09D7/20
C09D127/12
C09D179/08 A
C09D179/08 B
C09D127/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072600
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健太
(72)【発明者】
【氏名】久米 哲也
(72)【発明者】
【氏名】黒木 崇伸
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CD101
4J038CD111
4J038DJ021
4J038DJ051
4J038HA556
4J038JA20
4J038JB14
4J038JB27
4J038JC11
4J038KA06
4J038KA08
4J038LA06
4J038MA09
4J038NA21
4J038NA26
4J038PB09
4J038PC01
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】高度の保存安定性を有し、安価に製造できる、絶縁膜形成用の塗料組成物を提供すること。
【解決手段】ベーマイト、バインダー、及び有機溶媒を含有する、絶縁層形成用組成物であって、前記有機溶媒が、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、及びジメチルスルホキシドから選択される第1溶媒と、炭素数2以上8以下のジオールから選択される第2溶媒とを含み、かつ、前記第1溶媒及び前記第2溶媒の合計質量に対する前記第2溶媒の質量割合が、2質量%以上40質量%以下である、
絶縁層形成用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーマイト、バインダー、及び有機溶媒を含有する、絶縁層形成用組成物であって、
前記有機溶媒が、
N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、及びジメチルスルホキシドから選択される第1溶媒と、
炭素数2以上8以下のジオールから選択される第2溶媒と
を含み、かつ、
前記第1溶媒及び前記第2溶媒の合計質量に対する前記第2溶媒の質量割合が、2質量%以上40質量%以下である、
絶縁層形成用組成物。
【請求項2】
前記第2溶媒が、メチル基を有するジオールを含む、請求項1に記載の絶縁層形成用組成物。
【請求項3】
前記第2溶媒が、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール、及び3-メチル-1,5-ペンタンジオールから選択される、請求項1に記載の絶縁層形成用組成物。
【請求項4】
前記バインダーが、フッ素樹脂、ポリイミド、及びポリアミドイミドより成る群から選択される1種以上である、請求項1に記載の絶縁層形成用組成物。
【請求項5】
前記バインダーがポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含む、請求項4に記載の絶縁層形成用組成物。
【請求項6】
前記ベーマイト及び前記バインダーの合計質量に対する前記バインダーの質量の割合が、1質量%以上45質量%以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物。
【請求項7】
前記絶縁層形成用組成物中の前記有機溶媒の量が、前記ベーマイト及び前記バインダーの合計100質量部に対して、50質量部以上500質量部以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物。
【請求項8】
電池の絶縁層を形成するための組成物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物。
【請求項9】
ベーマイト、バインダー、及び有機溶媒を含有する、絶縁層形成用組成物の保存方法であって、
前記有機溶媒を、
N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、及びジメチルスルホキシドから選択される第1溶媒と、
炭素数2以上8以下のジオールから選択される第2溶媒と
を含むものとし、かつ、
前記第1溶媒及び前記第2溶媒の合計質量に対する前記第2溶媒の質量割合を、2質量%以上40質量%以下に調節する、
保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁層形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の安全性を高めるために、電極に絶縁層が設けられることがある。例えば、非水電解質を用いる二次電池において、電極を構成する集電体と、活物質層との接合部分を覆うように、絶縁層を形成することにより、短絡防止を図ることが知られている(特許文献1)。
【0003】
この絶縁層は、無機粒子と、バインダー又はその前駆体と、溶媒とを含有する塗料ペーストを用いて形成することができる。例えば、特許文献1には、γ-アルミナ粒子、バインダー樹脂、及び有機溶媒を含有する、絶縁層形成用の塗料ペーストが記載されている。また、特許文献2には、ベーマイト、炭酸水素塩、架橋樹脂前駆体、及び有機溶媒を含有する、絶縁層形成用の塗料溶液が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-074359号公報
【特許文献2】国際公開第2013/136441号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
絶縁層を形成するためのものとして公知の塗料ペースト又は塗料溶液は、経時的に品質が劣化する、塗料粘度が変化する、等の問題が生じることがある。或いは、公知の塗料ペースト又は塗料溶液は、塗料の安定性を高めるための添加剤を含有しており、コスト上の問題を有するものがある。
【0006】
本発明の目的は、高度の保存安定性を有し、安価に製造できる、絶縁膜形成用の塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のとおりである。
《態様1》ベーマイト、バインダー、及び有機溶媒を含有する、絶縁層形成用組成物であって、
前記有機溶媒が、
N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、及びジメチルスルホキシドから選択される第1溶媒と、
炭素数2以上8以下のジオールから選択される第2溶媒と
を含み、かつ、
前記第1溶媒及び前記第2溶媒の合計質量に対する前記第2溶媒の質量割合が、2質量%以上40質量%以下である、
絶縁層形成用組成物。
《態様2》前記第2溶媒が、メチル基を有するジオールを含む、態様1に記載の絶縁層形成用組成物。
《態様3》前記第2溶媒が、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール、及び3-メチル-1,5-ペンタンジオールから選択される、態様1に記載の絶縁層形成用組成物。
《態様4》前記バインダーが、フッ素樹脂、ポリイミド、及びポリアミドイミドより成る群から選択される1種以上である、態様1~3のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物。
《態様5》
前記バインダーがポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含む、態様4に記載の絶縁層形成用組成物。
《態様6》
前記ベーマイト及び前記バインダーの合計質量に対する前記バインダーの質量の割合が、1質量%以上45質量%以下である、態様1~5のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物。
《態様7》
前記絶縁層形成用組成物中の前記有機溶媒の量が、前記ベーマイト及び前記バインダーの合計100質量部に対して、50質量部以上500質量部以下である、態様1~6のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物。
《態様8》
電池の絶縁層を形成するための組成物である、態様1~7のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物。
《態様9》
ベーマイト、バインダー、及び有機溶媒を含有する、絶縁層形成用組成物の保存方法であって、
前記有機溶媒を、
N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、及びジメチルスルホキシドから選択される第1溶媒と、
炭素数2以上8以下のジオールから選択される第2溶媒と
を含むものとし、かつ、
前記第1溶媒及び前記第2溶媒の合計質量に対する前記第2溶媒の質量割合を、2質量%以上40質量%以下に調節する、
保存方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、高度の保存安定性を有し、安価に製造できる、絶縁膜形成用の塗料組成物が提供される。本発明の絶縁膜形成用組成物は、長期間保存した後でも組成物粘度の変化率が少なく、保存安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《絶縁膜形成用組成物》
本発明の絶縁膜形成用組成物は、
ベーマイト、バインダー、及び有機溶媒を含有する、絶縁層形成用組成物であって、
有機溶媒が、
N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、及びジメチルスルホキシドから選択される第1溶媒と、
炭素数2以上8以下のジオールから選択される第2溶媒と
を含み、かつ、
第1溶媒及び第2溶媒の合計質量に対する第2溶媒の質量割合が、2質量%以上40質量%以下の、
絶縁層形成用組成物である。
【0010】
本発明の絶縁膜形成用組成物は、絶縁膜形成用組成物に含まれるバインダーの良溶媒である第1溶媒と、一般にバインダーの貧溶媒と考えられている第2溶媒とを、所定の割合で含む。
【0011】
本発明者らは、ベーマイト、バインダー、及び有機溶媒を含有する絶縁層形成用組成物が、一般に保存安定性に劣り、経時的に粘度変化(多くの場合は粘度低下)が起こる原因について、詳細に検討した。その結果、ベーマイト由来の水酸化物イオンによって、バインダーの分子鎖が開裂して分子量が下がることにより、絶縁膜形成用組成物の粘度が経時的に低下することを見出した。
【0012】
本発明は、上記の知見に基づいて成されたものである。本発明の絶縁層形成用組成物では、これに含まれるプロトン性の第2溶媒(ジオール)によって、ベーマイト由来の水酸化物イオンをトラップすることができる。このことにより、本発明の絶縁層形成用組成物では、バインダーの分子量低下が抑制されているため、経時的な粘度変化が起こり難く、したがって、保存安定性に優れるのである。
【0013】
〈ベーマイト〉
ベーマイトは、一般的には、組成式AlOOHで表されるアルミナ1水和物である。しかしながら、本発明におけるベーマイトは、AlOOHの組成よりも水和の程度が高いもの、及び低いものも包含してよい。
【0014】
本発明の絶縁層形成用組成物に含まれているベーマイトの結晶子径(020)は、100nm以上750nm以下であってよい。ベーマイトの結晶子径(020)が100nm以上750nm以下であると、絶縁膜形成用組成物の経時的安定性が向上し、特に、組成物粘度の経時的な低下が効果的に抑制される。
【0015】
ベーマイトの結晶子径(020)は、200nm以上、300nm以上、400nm以上、500nm以上、又は600nm以上であってよく、700nm以下、650nm以下、600nm以下、550nm以下、又は500nm以下であってよい。
【0016】
(平均粒径D50)
本発明の絶縁層形成用組成物に含まれているベーマイトの平均粒径D50は、得られる絶縁層の電気絶縁性を高くする観点からは、大きい方が好ましく、絶縁層形成用組成物中のベーマイトの分散性を高くする観点からは、小さい方が好ましい。
【0017】
上記の2つの観点を考慮すると、絶縁層形成用組成物中のベーマイトの平均粒径D50は、0.1μm以上、0.2μm以上、0.3μm以上、0.4μm以上、0.5μm以上、0.6μm以上、0.7μm以上、又は0.8μm以上であってよく、4.0μm以下、3.0μm以下、2.5μm以下、2.0μm以下、1.5μm以下、又は1.0μm以下であってよい。
【0018】
本明細書において、平均粒径D50は、レーザー光を用いた光散乱法によって得られた粒径分布において、累積体積分率が50%のときの粒径として求められてよい。絶縁層形成用組成物は、適当な溶媒(例えばNMP等)によって希釈したうえで、この粒径分布測定に供してよい。
【0019】
(比表面積)
本発明の絶縁層形成用組成物に含まれているベーマイトの比表面積は、得られる絶縁層の電気絶縁性と、絶縁層形成用組成物中のベーマイトの分散性とを両立する観点から、適宜に設定されてよい。このような観点から、本発明の絶縁層形成用組成物中ベーマイトの比表面積は、1m/g以上、3m/g以上、5m/g以上、7m/g以上、10m/g以上、15m/g以上、又は20m/g以上であってよく、150m/g以下、100m/g以下、80m/g以下、50m/g以下、30m/g以下、20m/g以下、15m/g以下、10m/g以下、又は8m/g以下であってよい。
【0020】
本発明の絶縁層形成用組成物に含まれているベーマイトの比表面積は、吸着質として窒素を用いたBET法によって測定された値であってよい。
【0021】
〈バインダー〉
本発明の絶縁層形成用組成物は、バインダーを含有する。
【0022】
本発明の絶縁層形成用組成物に含有されるバインダーとしては、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等が例示でき、これらより成る群から選択される1種以上であってよい。
【0023】
フッ素樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等から選択されてよい。
【0024】
バインダーは、フッ素樹脂を含むものであってよく、PVDFを含むものであってよく、特に、PVDFから成るものであってよい。
【0025】
本発明の絶縁層形成用組成物中のバインダーの割合は、組成物の経時的安定性、得られる絶縁層の電気絶縁性、得られる絶縁層の機械的強度等を総合考慮したうえで、適宜に設定されてよい。絶縁層形成用組成物中のバインダーの割合は、ベーマイト及びバインダーの合計質量に対するバインダーの質量の割合として、1質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、又は20質量%以上であってよく、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、又は25質量%以下であってよい。
【0026】
本発明の絶縁層形成用組成物中のバインダーの割合は、典型的には、ベーマイト及びバインダーの合計質量に対するバインダーの質量の割合として、1質量%以上45質量%以下であってよい。
【0027】
〈有機溶媒〉
本発明の絶縁膜形成用組成物に含まれる有機溶媒は、
N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、及びジメチルスルホキシドから選択される第1溶媒と、
炭素数2以上8以下のジオールから選択される第2溶媒と
を含み、かつ、
第1溶媒及び第2溶媒の合計質量に対する第2溶媒の質量割合が、2質量%以上40質量%以下である。
【0028】
(第1溶媒)
第1溶媒は、バインダーの良溶媒である、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、及びジメチルスルホキシドから選択される1種又は2種以上である。
【0029】
第1溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン及びジメチルホルムアミドから選択される1種又は2種であってよく、特に、N-メチル-2-ピロリドンであってよい。
【0030】
(第2溶媒)
第2溶媒は、炭素数2以上8以下のジオールから選択される1種又は2種以上である。
【0031】
第2溶媒の炭素数は、3以上、4以上、又は5以上であってよく、6以下、5以下、又は4以下であってよい。
【0032】
第2溶媒は、上記の炭素数を有し、かつメチル基を有するジオールであってよい。
【0033】
第2溶媒は、具体的には、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール、及び3-メチル-1,5-ペンタンジオールから選択される1種又は2種以上であってよい。第2溶媒は、特に、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、へキシレングリコール(別名「2-メチル-2,4-ペンタンジオール」)、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール、及び3-メチル-1,5-ペンタンジオールから選択される1種又は2種以上であってよく、とりわけ、1,3-ブタンジオール及び2-メチル-2,4-ペンタンジオールから選ばれる1種又は2種であってよい。
【0034】
(第1溶媒及び第2溶媒の使用割合)
本発明の絶縁層形成用組成物では、第1溶媒及び第2溶媒の合計質量に対する第2溶媒の質量割合が、2質量%以上40質量%以下である。
【0035】
第1溶媒及び第2溶媒の合計質量に対する第2溶媒の質量割合は、ベーマイト由来の水酸化物イオンを効果的にトラップして、バインダーの分子量低下を防ぎ、絶縁層形成用組成物の粘度低下を抑制する観点から、2質量%以上であり、5質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、又は20質量%以上であってよい。
【0036】
第1溶媒及び第2溶媒の合計質量に対する第2溶媒の質量割合は、一方で、バインダーの析出を防ぎ、ゲル化による粘度上昇を回避する観点から、40質量%以下であり、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下であってよい。
【0037】
(その他の溶媒)
本発明の絶縁層形成用組成物における有機溶媒は、第1溶媒及び第2溶媒のみから構成されていてよく、又はこれら以外に他の溶媒を含んでいてもよい。しかしながら、本発明の効果を有効に発現する観点からは、他の溶媒の割合は、少なくてもよい。
【0038】
本発明の絶縁層形成用組成物における他の溶媒の割合は、有機溶媒の全質量に対して、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、若しくは0.1質量%以下であってよく、又は他の溶媒を全く含まなくてよい。
【0039】
なお、本発明の絶縁層形成用組成物は、水を含まなくてよい。
【0040】
(有機溶媒の使用割合)
本発明の絶縁層形成用組成物中の有機溶媒の量は、組成物の塗工性、保存安定性、所望の絶縁膜の膜厚、形成される絶縁膜の性能等を考慮して適宜に設定されてよい。
【0041】
絶縁層形成用組成物中の有機溶媒の量は、ベーマイト及びバインダーの合計100質量部に対して、50質量部以上、100質量部以上、150質量部以上、200質量部以上、250質量部以上、又は300質量部以上であってよく、500質量部以下、450質量部以下、400質量部以下、350質量部以下、又は300質量部以下であってよい。
【0042】
絶縁層形成用組成物中の有機溶媒の量は、典型的には、ベーマイト及び前記バインダーの合計100質量部に対して、50質量部以上500質量部以下であってよい。
【0043】
〈任意成分〉
本発明の絶縁層形成用組成物は、上記のベーマイト、バインダー、及び有機溶媒のみから構成されていてもよいし、これら以外の任意成分を含有していてもよい。このような任意成分としては、例えば、界面活性剤、粘度調整剤、分散剤、着色剤、消泡剤等が挙げられる。
【0044】
しかしながら、本発明の絶縁層形成用組成物は、このような任意成分を含有していなくても、本発明が所期する効果が発現する。したがって、本発明の絶縁層形成用組成物は、ベーマイト、バインダー、及び有機溶媒以外の任意成分を、実質的に含有していなくてよい。絶縁層形成用組成物が任意成分を実質的に含有しないとは、絶縁層形成用組成物の全質量に対する任意成分の質量の割合が、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、0.3質量%以下、若しくは0.1質量%以下であることをいい、又はこれらの任意成分を全く含まなくてよい。
【0045】
〈用途〉
本発明の絶縁層形成用組成物は、プリント基板、多層配線基板、半導体装置、表示装置、電池等の絶縁層を形成するために好適である。本発明の絶縁層形成用組成物は、特に、電池の絶縁層を形成するための組成物として好適であり、とりわけ、二次電池の絶縁層を形成するための組成物として最適である。
【0046】
《絶縁層形成用組成物の製造方法》
本発明の絶縁層形成用組成物は、例えば、所定のベーマイト、所定のバインダー、及び所定の有機溶媒を混合し、必要に応じて適当な分散機を用い、湿式分散しながら混合することにより、製造されてよい。
【0047】
湿式分散のための分散機は、公知のものから適宜選択して使用してよい。分散機としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、プラネタリミキサ、撹拌羽根等を使用してよい。
【0048】
《絶縁層形成用組成物の保存方法》
本発明の別の観点によると、ベーマイト、バインダー、及び有機溶媒を含有する、絶縁層形成用組成物の保存方法が提供される。
【0049】
本発明の絶縁層形成用組成物の保存方法は、
ベーマイト、バインダー、及び有機溶媒を含有する、絶縁層形成用組成物の保存方法であって、
有機溶媒を、
N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、及びジメチルスルホキシドから選択される第1溶媒と、
炭素数2以上8以下のジオールから選択される第2溶媒と
を含むものとし、かつ、
第1溶媒及び第2溶媒の合計質量に対する第2溶媒の質量割合を、2質量%以上40質量%以下に調節する、
保存方法である。
【0050】
本発明の絶縁層形成用組成物の保存方法の各要件については、本発明の絶縁層形成用組成物についての説明を援用してよい。
【実施例0051】
《実施例1》
平均粒径D50が1.0μmの市販のベーマイト21.92質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)5.48質量部、並びに第1溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)65.34質量部、及び第2溶媒として1,3-ブタンジオール(BDO)7.26質量部を混合し、分散機としてビーズミルを使用して湿式分散することにより、固形分率27.4質量%の絶縁層形成用組成物を得た。この絶縁層形成用組成物において、溶媒の全質量に占める第2溶媒の割合は、10質量%であった。
【0052】
組成物の調製直後の初期粘度、及び組成物をサンプル瓶中に密閉して、貯蔵温度60℃にて3日間貯蔵した後の貯蔵後粘度を、それぞれ、E型粘度計によって測定した。測定条件は、以下のとおりとした。なお、60℃3日間の貯蔵は、室温約70日間の貯蔵に相当する加速試験である。
測定装置:東機産業(株)製、型式名「TVE-33H」
コーン・ロータの種類:1°34’×R24
ペースト投入量:約1mL
ずり速度:21.5S-1
測定温度:20℃
【0053】
実施例1の絶縁層形成用組成物は、初期粘度が4,470mPa・sであり、貯蔵後粘度が4,600mPa・sであり、下記数式で求められる粘度変化率は、-3.0%であった。
粘度変化率(%)={(初期粘度-貯蔵後粘度)/初期粘度}×100
【0054】
なお、上記数式によると、貯蔵後粘度が初期粘度よりも小さくなった場合、粘度変化率は正の数値となり、貯蔵後粘度が初期粘度よりも大きくなった場合、粘度変化率は負の数となる。
【0055】
《実施例2~5及び比較例1~4》
組成物の組成、及び調製時に使用する分散機を、それぞれ、表1に記載のとおりに変更した他は実施例1と同様にして、絶縁層形成用組成物を調製し、その初期粘度及び貯蔵後粘度を測定した。比較例1及び4では、第2溶媒を配合せずに絶縁層形成用組成物を調製した。比較例3では、第1溶媒として、NMP65.34質量部及びDMF7.26質量部の混合物を用い、第2溶媒を配合せずに絶縁層形成用組成物を調製した。
【0056】
これらの実施例及び比較例の結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1中の成分の略称は、それぞれ、以下の意味である。
PVDF:ポリフッ化ビニリデン樹脂
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
DMF:ジメチルホルムアミド
BDO:1,3-ブタンジオール
EG:エチレングリコール
PG:プロピレングリコール
HG:へキシレングリコール(2-メチル-2,4-ペンタンジオール)
【0059】
表1によると、溶媒として第1溶媒のみを使用した比較例1、3、及び4の絶縁層形成用組成物は、初期粘度に比べて、60℃3日間の貯蔵後の貯蔵後粘度が著しく低下した。また、溶媒として、第1溶媒と多量の第2溶媒とを併用した比較例2の絶縁層形成用組成物では、初期粘度に比べて、貯蔵後粘度が著しく増大した。
【0060】
これらに対して、溶媒として、第1溶媒及び第2溶媒とを所定の割合で混合して使用した、実施例1~5の絶縁層形成用組成物では、初期粘度に対する貯蔵後粘度の変化率が小さく、優れた保存安定性を示すことが検証された。特に、第2溶媒として、メチル基を有するジオールを用いた実施例1及び2の絶縁層形成用組成物では、初期粘度に対する貯蔵後粘度の変化率が極めて小さかった。