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特開2023-161974Li含有CHA型ゼオライト及びLi含有CHA型ゼオライトの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161974
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】Li含有CHA型ゼオライト及びLi含有CHA型ゼオライトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/48 20060101AFI20231031BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20231031BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C01B39/48
B01J20/18 D
B01J20/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072646
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 怜史
(72)【発明者】
【氏名】窪田 好浩
(72)【発明者】
【氏名】林 雅斗
【テーマコード(参考)】
4G066
4G073
【Fターム(参考)】
4G066AA13D
4G066AA33D
4G066AA62B
4G066AB13D
4G066BA36
4G066CA27
4G066DA03
4G066FA03
4G066FA11
4G066FA21
4G073BA02
4G073BA03
4G073BA04
4G073BA05
4G073BA69
4G073BA75
4G073BA81
4G073BB03
4G073BB14
4G073BB48
4G073BD21
4G073CZ03
4G073CZ17
4G073FA12
4G073FB30
4G073FB36
4G073FC19
4G073FC30
4G073FD09
4G073FF06
4G073GA01
4G073GA03
4G073GA19
4G073UA06
4G073UB60
(57)【要約】
【課題】Li含有量が低減され、且つ、良好なN2/O2分離能を発揮し得るLi含有CHA型ゼオライト及びLi含有CHA型ゼオライトの製造方法を提供する。
【解決手段】それぞれモル比でSi/Alが2.0~6.5、Li/Alが0.40~0.69である、Li含有CHA型ゼオライト。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれモル比でSi/Alが2.0~6.5、Li/Alが0.40~0.69である、Li含有CHA型ゼオライト。
【請求項2】
それぞれモル比でSi/Alが2.0~6.1、Li/Alが0.40~0.65である、請求項1に記載のLi含有CHA型ゼオライト。
【請求項3】
278体積%及びO221体積%を含み、水蒸気含有量が0体積%であるガスを25℃で前記Li含有CHA型ゼオライトに流通させたときに吸着したN2と、前記Li含有CHA型ゼオライトにおけるLiとのモル比:N2/Liが0.30以上である、請求項1または2に記載のLi含有CHA型ゼオライト。
【請求項4】
FAU型ゼオライトとアルカリ金属塩を含む水溶液とを混合することで原料混合物を作製する工程と、
前記原料混合物を加熱することで水熱合成を行い、その後、ろ過及び乾燥を行うことでCHA型ゼオライトを作製する工程と、
前記CHA型ゼオライトにイオン交換処理を行い、NH4 +交換型またはNa+交換型のCHA型ゼオライトを作製する工程と、
前記NH4 +交換型またはNa+交換型のCHA型ゼオライトにイオン交換処理を行い、Li含有CHA型ゼオライトを作製する工程と、
を含む、Li含有CHA型ゼオライトの製造方法。
【請求項5】
前記Li含有CHA型ゼオライトを作製する工程において、前記NH4 +交換型またはNa+交換型のCHA型ゼオライトに、リチウム塩を含む水溶液を用いてイオン交換処理を行う、請求項4に記載のLi含有CHA型ゼオライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Li含有CHA型ゼオライト及びLi含有CHA型ゼオライトの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気からのN2の吸着分離によるO2の濃縮には、圧力スウィング吸着(PSA:Pressure Swing Adsorption)法が実用化されている。非特許文献1には、当該PSA法で用いる吸着材として、Liを含む、Si/Al比=1のFAU(フォージャサイト、faujasite)型ゼオライト(以下、Li-LSXとも言う)を用いたN2/O2の吸着分離プロセスが開示されている。なお、ゼオライト中のLiイオンは、N2分子の四重極子モーメントとの相互作用により、O2分子よりもN2分子を優先的に吸着させることができる。
【0003】
また、特許文献1には、Liを含むCHA(チャバザイト、chabazite)型ゼオライト(以下、Li-CHAとも言う)を用いたN2/O2の吸着分離プロセスが開示されている。
【0004】
特許文献1及び非特許文献1には、それぞれ、Li含有FAU型ゼオライト、または、Li含有CHA型ゼオライトを吸着材として用いることで、高いN2/O2分離能が発揮されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4925460号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】平野、Adsorption News Letter、27(4)、p6~10(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来、高いN2/O2分離能を発揮し得るLi含有FAU型ゼオライト、または、Li含有CHA型ゼオライトは、当該ゼオライトに含まれるLiとAlとのモル比:Li/Alが高く、Li含有量が多くなり、製造コストに課題がある。
【0008】
本発明は、このような問題を解決すべく、Li含有量が低減され、且つ、良好なN2/O2分離能を発揮し得るLi含有CHA型ゼオライト及びLi含有CHA型ゼオライトの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下のように特定される本発明によって解決される。
1.それぞれモル比でSi/Alが2.0~6.5、Li/Alが0.40~0.69である、Li含有CHA型ゼオライト。
2.それぞれモル比でSi/Alが2.0~6.1、Li/Alが0.40~0.65である、前記1に記載のLi含有CHA型ゼオライト。
3.N278体積%及びO221体積%を含み、水蒸気含有量が0体積%であるガスを25℃で前記Li含有CHA型ゼオライトに流通させたときに吸着したN2と、前記Li含有CHA型ゼオライトにおけるLiとのモル比:N2/Liが0.30以上である、前記1または2に記載のLi含有CHA型ゼオライト。
4.FAU型ゼオライトとアルカリ金属塩を含む水溶液とを混合することで原料混合物を作製する工程と、
前記原料混合物を加熱することで水熱合成を行い、その後、ろ過及び乾燥を行うことでCHA型ゼオライトを作製する工程と、
前記CHA型ゼオライトにイオン交換処理を行い、NH4 +交換型またはNa+交換型のCHA型ゼオライトを作製する工程と、
前記NH4 +交換型またはNa+交換型のCHA型ゼオライトにイオン交換処理を行い、Li含有CHA型ゼオライトを作製する工程と、
を含む、Li含有CHA型ゼオライトの製造方法。
5.前記Li含有CHA型ゼオライトを作製する工程において、前記NH4 +交換型またはNa+交換型のCHA型ゼオライトに、リチウム塩を含む水溶液を用いてイオン交換処理を行う、前記4に記載のLi含有CHA型ゼオライトの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、Li含有量が低減され、且つ、良好なN2/O2分離能を発揮し得るLi含有CHA型ゼオライト及びLi含有CHA型ゼオライトの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】CHA型ゼオライトの結晶構造である。
図2】実施例1のサンプルCHA(6.1)[0.69]のXRD回析チャートである。
図3】実施例1のサンプルCHA(4.3)[0.66]のLiイオン交換(1回)後のXRD回析チャートである。
図4】実施例2のサンプルCHA(2.4)[0.65]のXRD回析チャートである。
図5】実施例2のサンプルCHA(2.2)[0.44]のXRD回析チャートである。
図6】実施例2のサンプルCHA(2.2)[0.52]のXRD回析チャートである。
図7】実施例2のサンプルCHA(2.4)[0.59]のXRD回析チャートである。
図8】比較例1のサンプルLSX(1.03)[0.93]のXRD回析チャートである。
図9】比較例1のサンプルLSX(1.00)[0.79]のXRD回析チャートである。
図10】サンプルCHA(6.1)[0.69]に係るN2、O2吸着等温線のグラフである。
図11】サンプルCHA(4.3)[0.66]に係るN2、O2吸着等温線のグラフである。
図12】サンプルCHA(2.4)[0.65]に係るN2、O2吸着等温線のグラフである。
図13】サンプルCHA(2.2)[0.44]に係るN2、O2吸着等温線のグラフである。
図14】サンプルCHA(2.2)[0.52]に係るN2、O2吸着等温線のグラフである。
図15】サンプルCHA(2.4)[0.59]に係るN2、O2吸着等温線のグラフである。
図16】サンプルLSX(1.03)[0.93]に係るN2、O2吸着等温線のグラフである。
図17】サンプルLSX(1.00)[0.79]に係るN2、O2吸着等温線のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0013】
<Li含有CHA型ゼオライト>
本願発明の実施形態に係るLi含有CHA型ゼオライトは、CHA型ゼオライト内のイオン交換サイトの一部にLiイオンが位置している構造を有している。ここで、イオン交換サイトとは、四面体ケイ酸ユニット(SiO4)と四面体アルミン酸ユニット((AlO4-)との結合酸素上に生じる負電荷を補償するための近接する陽イオンが位置する場所を指す。CHA型ゼオライトは、酸素8員環の入口からアクセス可能な内部空洞(ケージ)が三次元的に配列した構造をもつアルミノシリケートである。ユニットセル(単位胞)は、組成式がRnSi36-nAln72(Rは陽イオンを表す。nは自然数を表し、モル比:Si/Alで定まる。)で表される三方晶(菱面体晶)系である。
【0014】
図1に、CHA型ゼオライトの結晶構造を示す。CHA骨格構造は対称性が非常に高い構造であるため、骨格構造を構成するT原子(骨格原子)が入るサイトは一種類に帰属される。同じ骨格トポロジーでも物質により原子間距離にわずかな変化があるものの、格子定数はそれぞれa=13.6±0.1Å、b=13.6±0.1Å、c=14.8±0.1Å、α=90°、β=90°、γ=120°で表すことができる。CHA骨格構造の共通の特徴は、単位格子中にTサイトを36個含み、骨格密度は15.1T-atoms/nm3であり、酸素6員環を2つ重ねたdouble 6 ring(D6R)と呼ばれる部分構造が積み重なるように骨格が形成されて、酸素8員環(0.38nm×0.38nm)を介して内部空洞(Chabazite cage、高さ1.09nm×直径0.93nm)が規則的に配列した三次元細孔構造となっていることである。さらにCHA型骨格は酸素6員環の積層様式がABCスタッキングであるという構造的特徴をもつ。
【0015】
前述の規則的に配列したゼオライトの三次元細孔構造は、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association)のStructure Commissionが定めている構造コードで特定される。CHA構造は当該構造コードにおいて「CHA」として特定された骨格構造である。
【0016】
本願発明の実施形態に係るLi含有CHA型ゼオライトは、モル比でSi/Alが2.0~6.5である。Li含有CHA型ゼオライトのSi/Alが6.5以下であるため、Siに対するAl含有量が少なく、CHA型ゼオライトを構成するchaケージ内に1個以上のLiを配置することができる。Li含有CHA型ゼオライトは、モル比でSi/Alが2.0~6.1であるのが好ましく、2.0~5.0であるのがより好ましい。
【0017】
本願発明の実施形態に係るLi含有CHA型ゼオライトは、モル比でLi/Alが0.40~0.69である。Li含有CHA型ゼオライトのLi/Alが0.69以下であるため、Liに対するAl含有量が少なくなり、製造コストが良好となる。Li含有CHA型ゼオライトは、モル比でLi/Alが0.40~0.65であるのが好ましく、0.40~0.60であるのがより好ましい。
【0018】
本願発明の実施形態に係るLi含有CHA型ゼオライトは、N278体積%及びO221体積%を含み、水蒸気含有量が0体積%であるガスを25℃でLi含有CHA型ゼオライトに流通させたときに吸着したN2と、Li含有CHA型ゼオライトにおけるLiとのモル比:N2/Liが0.30以上であるのが好ましい。このような構成によれば、少ないLi含有量で効率良くN2の吸着分離をすることができる。当該モル比:N2/Liは、0.35以上であるのがより好ましく、0.40以上であるのが更により好ましい。
【0019】
本願発明の実施形態に係るLi含有CHA型ゼオライトは、N278体積%及びO221体積%を含み、水蒸気含有量が0体積%であるガスを25℃でLi含有CHA型ゼオライトに流通させたときに吸着したN2とO2とのモル比:N2/O2が2.3以上であるのが好ましい。このような構成によれば、少ないLi含有量で効率良くN2の吸着分離をすることができる。当該モル比:N2/O2は、2.5以上であるのがより好ましく、2.8以上であるのが更により好ましい。
【0020】
本願発明の実施形態に係るLi含有CHA型ゼオライトは、N278体積%及びO221体積%を含み、水蒸気含有量が0体積%であるガスを25℃でLi含有CHA型ゼオライトに流通させたときの、Li含有CHA型ゼオライトの単位質量当たりのN2吸着量が、0.40mmol/g以上であるのが好ましい。このような構成によれば、所定量のLi含有CHA型ゼオライトで効率良くN2の吸着分離をすることができる。当該Li含有CHA型ゼオライトの単位質量当たりのN2吸着量は、0.60mmol/g以上であるのがより好ましく、0.80mmol/g以上であるのが更により好ましい。
【0021】
本願発明の実施形態に係るLi含有CHA型ゼオライトは、高いN2/O2分離能を発揮するため、空気からのN2の吸着分離プロセス、特にO2の濃縮プロセスに用いる吸着材として極めて有用である。
【0022】
<Li含有CHA型ゼオライトの製造方法>
次に、本発明の実施形態に係るLi含有CHA型ゼオライトの製造方法について詳述する。まず、FAU型ゼオライトとアルカリ金属塩を含む水溶液とを混合することで原料混合物を作製する。FAU型ゼオライトとしては、モル比でSi/Alが1.5~6.0であるアルミノシリケートを用いる。アルカリ金属塩を含む水溶液は、NaOH水溶液、KOH水溶液、LiOH水溶液、N,N,N-トリメチルアダマンタン-1-アンモニウムヒドロキシド(TMAda+OH-)水溶液、及び、その他公知のアルカリ金属塩を含む水溶液を用いることができる。
【0023】
次に、原料混合物を加熱することで水熱合成を行う。水熱合成は、100℃以上で、水を媒介とする無機材料の合成系を意味する。100℃を超えると合成容器内で水蒸気の自己圧が生じ、1気圧以上となる。本発明の実施形態において、水熱合成の加熱温度は150~180℃とし、加熱時間は72~120時間とすることが好ましい。水熱合成後、ろ過及び乾燥を経て、固体生成物であるCHA型ゼオライトを得る。また、当該ろ過・乾燥後の固体生成物を焼成することで細孔内の有機物を除去しておくことが好ましい。
【0024】
次に、CHA型ゼオライトを硝酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどのアンモニウム塩を含む水溶液に混合し、60~90℃で12~24時間の加熱処理を施すことで、イオン交換処理を行い、NH4 +交換型のCHA型ゼオライトを作製する。または、CHA型ゼオライトを塩化ナトリウム、硝酸ナトリウムなどのナトリウム塩を含む水溶液に混合し、60~90℃で12~24時間の加熱処理を施すことで、イオン交換処理を行い、Na+交換型のCHA型ゼオライトを作製する。イオン交換処理後、NH4 +交換型のCHA型ゼオライトまたはNa+交換型のCHA型ゼオライトをろ過して回収する。また、このイオン交換処理の操作はイオン交換が平衡に達するまで所定回数繰り返すことが好ましい。
【0025】
次に、NH4 +交換型またはNa+交換型のCHA型ゼオライトを塩化リチウム、硝酸リチウムなどのリチウム塩を含む水溶液に混合し、60~90℃で12~24時間の加熱処理を施すことで、イオン交換処理を行い、Li含有CHA型ゼオライトを作製する。なお、リチウム塩を含む水溶液には、さらにLiOH水溶液を混合してもよい。イオン交換処理後、Li含有CHA型ゼオライトをろ過して回収する。また、このイオン交換処理の操作はイオン交換が平衡に達するまで所定回数繰り返すことが好ましい。以上により、本発明の実施形態に係るLi含有CHA型ゼオライトを作製することができる。
【実施例0026】
以下に本発明を実施例でさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
<実施例1>
1.CHA型ゼオライト(Si/Al=6.1)の合成
容積150mLのPFA容器にN,N,N-トリメチルアダマンタン-1-アンモニウムヒドロキシド(TMAda+OH-)水溶液(1.1512mmol/g)を17.3810g、NaOH水溶液(9.120mmol/g)を1.1220g、KOH水溶液(6.070mmol/g)を1.6583g、順次加えて混合した。
さらに蒸留水を19.4152g加えてから、FAU型ゼオライト(東ソー株式会社製、型番HSZ-350HUA、モル比:Si/Al=5.55)を8.6876g加えて室温で2時間撹拌した。このときの原料混合物のモル組成は1.0(SiO2FAU-0.0941(Al23FAU-0.20TMAda+OH--0.10NaOH-0.10KOH-20H2Oとした。
次に、この混合物を容積125mLのテフロン(登録商標)内筒ステンレス製オートクレーブに移してから、170℃のオーブンで20rpmの回転下で4日間水熱合成を行った。その後、ろ過・乾燥を経て固体生成物(8.5612g)を回収した。
また、当該固体生成物(7.4527g)を焼成することで細孔内の有機物を除去した。焼成時の温度制御は、室温から600℃まで6時間かけて昇温し、600℃に達したところで6時間保持した。その後、室温まで放冷した。焼成後の試料(CHA型ゼオライト)の回収量は7.2193gであった。
【0028】
2.Li含有CHA型ゼオライト(Si/Al=6.1)の合成
(実施例1A)
初めにCHA型ゼオライトをNH4 +型へとイオン交換してから、Li+型へのイオン交換を実施した。すなわち、まず、容積100mLのポリプロピレン製キャップ付きボトルに、焼成処理後のCHA型ゼオライトを1.4630g、硝酸アンモニウム(NH4NO3)を8.0g、蒸留水を200g順次加えて混合し、80℃のオーブン内に12~16時間静置してイオン交換を進めた。処理後に固体試料をろ過して回収した。この操作を3回繰り返して、NH4 +型のCHA型ゼオライトを得た。この試料の組成はSi/Al=6.1、Na/Al=0.01、K/Al=0.03であり、十分NH4 +にイオン交換されていることを確かめた。
次に、容積100mLのポリプロピレン製ボトルに、NH4 +型CHA(6.1)を1.4630g、塩化リチウム(LiCl)を4.0081g、蒸留水を45.5454g順次加えて混合し、80℃のオーブン内に12~16時間静置してイオン交換を進めた。この操作を5回繰り返した。操作を一度行うたびに所定量の試料を抜き取り、Li含有量の異なる試料を得た。ここで、2回目以降のイオン交換操作では、ゼオライト:LiCl:H2Oの重量比を3.0:8.5:94に固定したまま、ゼオライトの質量を徐々に減らして実施した。
所定の操作を5回繰り返して回収した試料の組成は以下の通りであった。
サンプルCHA(6.1)[0.69]:Si/Al=6.1、Li/Al=0.69、Na/Al=0.01、K/Al=0.03
【0029】
(実施例1B)
初めにCHA型ゼオライトをNa+型へとイオン交換してから、Li+型へのイオン交換を実施した。すなわち、まず、容積500mLのポリプロピレン製キャップ付きボトルに、焼成処理後のCHA型ゼオライトを3.0877g、塩化ナトリウム(NaCl)を10.1732g、蒸留水を100.2363g、NaOH水溶液(0.01527mmol/g)を1.0062g順次加えて混合し、80℃のオイルバス内で12~16時間撹拌してイオン交換を進めた。処理後に固体試料をろ過して回収した。この操作を3回繰り返して、Na+型CHA(6.1)を得た。この試料の組成はSi/Al=6.1、Na/Al=0.098、K/Al=0.02であり、十分Na+にイオン交換されていることを確かめた。
次に、容積500mLのポリプロピレン製キャップ付きボトルに、Na+型のCHA型ゼオライトを2.5499g、塩化リチウム(LiCl)を7.0208g、蒸留水を77.2397g、LiOH水溶液(0.03650mmol/g)を1.0138g順次加えて混合し、80℃のオイルバス内で12~16時間撹拌してイオン交換を進めた。この操作を3回繰り返した。操作を一度行うたびに所定量の試料を抜き取り、Li含有量の異なる試料を得た。ここで、2回目以降のイオン交換操作では、ゼオライト:LiCl:H2Oの質量比を3.0:8.3:92に固定したまま、ゼオライトの質量を徐々に減らして実施した。
所定の操作を5回繰り返して回収した試料の組成は以下の通りであった。
サンプルCHA(4.3)[0.66]:Si/Al=4.3、Li/Al=0.66、Na/Al=0.16、K/Al=0.03
【0030】
<実施例2>
1.CHA型ゼオライト(Si/Al=2.4)の合成
容積500mLのポリプロピレン製ボトルに蒸留水362.38gを入れてから、KOHペレット19.76gを加えて溶解させた。別の容積500mLのポリプロピレン製ボトルにFAU型ゼオライト(東ソー株式会社製、型番HSZ-331HSA、モル比:Si/Al=2.85)を40.24g入れた。次に、前述の調製したKOH水溶液を加え、30分間撹拌した。このときの原料混合物のモル組成は1.0SiO2-0.351-Al23-0.72KOH-40.5H2Oとした。
次に、この混合物を100℃のオーブンに入れ、静置条件で5日間水熱合成を行った。その後、ろ過・乾燥を経て固体生成物(CHA型ゼオライト:27.59g)を回収した。
【0031】
2.Li含有CHA型ゼオライト(Si/Al=2.4)の合成
(実施例2A)
初めにCHA型ゼオライトをNH4 +型へとイオン交換してから、Li+型へのイオン交換を実施した。ただし、LiClのみをLi源として使用した。すなわち、まず、容積100mLのポリプロピレン製キャップ付きボトルに、前述の調製直後のCHA型ゼオライトを2.0279g、硝酸アンモニウム(NH4NO3)を3.9973g、蒸留水を100.4018g順次加えて混合し、80℃のオーブン内に12~16時間静置してイオン交換を進めた。イオン交換処理後に固体試料をろ過して回収した。この操作を3回繰り返して、NH4 +型のCHA型ゼオライトを得た。この試料の組成はSi/Al=2.5、Na/Al=0.004、K/Al=0.058であり、十分NH4 +にイオン交換されていることを確かめた。
次に、容積100mLのポリプロピレン製キャップ付きボトルに、NH4 +型のCHA型ゼオライトを0.9308g、塩化リチウム(LiCl)を2.6095g、蒸留水を30.1032g順次加えて混合し、80℃のオーブン内に12~16時間静置してイオン交換を進めた。この操作を4回繰り返した。操作を一度行うたびに所定量の試料を抜き取り、Li含有量の異なる試料を得た。ここで、2回目以降のイオン交換操作では、ゼオライト:LiCl:H2Oの質量比を3.0:8.5:94に固定したまま、ゼオライトの質量を徐々に減らして実施した。
所定の操作を4回繰り返して回収した試料の組成は以下の通りであった。
サンプルCHA(2.4)[0.65]:Si/Al=2.4、Li/Al=0.65、Na/Al=0.010、K/Al=0.038
【0032】
(実施例2B)
初めにCHA型ゼオライトをNH4 +型へとイオン交換してから、Li+型へのイオン交換を実施した。ただし、LiClに加えてLiOH水溶液もLi源として使用した。すなわち、まず、容積100mLのポリプロピレン製キャップ付きボトルに、前述の調製直後のCHA型ゼオライトを9.3820g、硝酸アンモニウム(NH4NO3)を18.0132g、蒸留水を106.1254g順次加えて混合し、80℃のオーブン内に12~16時間静置してイオン交換を進めた。処理後に固体試料をろ過して回収した。この操作を3回繰り返して、NH4 +型のCHA型ゼオライトを得た。この試料の組成はSi/Al=2.2、Na/Al=0.048、K/Al=0.150であり、十分NH4 +にイオン交換されていることを確かめた。
次に、容積500mLのポリプロピレン製キャップ付きボトルに、NH4 +型のCHA型ゼオライトを3.0452g、塩化リチウム(LiCl)を8.5491g、LiOH水溶液(0.03650mmol/g)を1.0024g、蒸留水を94.9163g順次加えて混合し、80℃のオイルバス内で12~16時間撹拌してイオン交換を進めた。イオン交換処理後に固体試料をろ過して回収した。この操作を4回繰り返した。操作を一度行うたびに所定量の試料を抜き取り、Li含有量の異なる試料を得た。ここで2回目以降のイオン交換操作では、ゼオライト:LiCl:LiOH:H2Oの質量比をおおよそ3:8.5:1:94に固定したまま、ゼオライトの質量を徐々に減らして実施した。
所定の操作を2回繰り返して回収した試料の組成は以下の通りであった。
サンプルCHA(2.2)[0.44]:Si/Al=2.2、Li/Al=0.44、K/Al=0.126
また、所定の操作を3回繰り返して回収した試料の組成は、以下の通りであった。
サンプルCHA(2.2)[0.52]:Si/Al=2.2、Li/Al=0.52、K/Al=0.123
また、所定の操作を4回繰り返して回収した試料の組成は、以下の通りであった。
サンプルCHA(2.4)[0.59]:Si/Al=2.4、Li/Al=0.59、K/Al=0.117
【0033】
<比較例1>
1.FAU型ゼオライト(Si/Al=1.0)の合成
容積150mLのPFA容器に蒸留水を9.6453g、NaOH水溶液(9.120mmol/g)を18.0479g、KOH水溶液(6.070mmol/g)を12.3574g順次加えて混合した。
別の容積150mLのPFA容器に蒸留水を4.1347g入れてから、アルミン酸ナトリウム4.2772gを混合して溶解させた。次に、前述の調製したアルカリ水酸化物の水溶液を加えて混合した。さらに蒸留水を9.8958g、水ガラス(SiO2:29%、Na2O:9.5%、H2O:61.5%)を10.3671g加えて混合した。このときの原料混合物のモル組成は1.0SiO2-0.455Al23-3.292NaOH-1.50KOH-55.45H2Oとした。
次に、この混合物を70℃で3時間静置した後で、容積125mLのテフロン(登録商標)内筒ステンレス製オートクレーブに移してから、100℃のオーブン内で静置条件下、38時間水熱合成を行った。その後、ろ過・乾燥を経て固体生成物(FAU型ゼオライト:7.7605g)を回収した。
【0034】
2.Li含有FAU型ゼオライト(Si/Al=1.0)の合成
初めからFAU型ゼオライトにLi+型へのイオン交換を実施した。すなわち、まず、容積100mLのポリプロピレン製キャップ付きボトルに、FAU型ゼオライトを2.5042g、LiClを2.1273g、蒸留水を23.9071g順次加えて混合し、30℃のオーブン内に12~16時間静置してイオン交換を進めた。イオン交換処理後に固体試料をろ過して回収した。この操作を6回繰り返した。操作を一度行うたびに所定量の試料を抜き取り、Li含有量の異なる試料を得た。
所定の操作を6回繰り返して回収した試料の組成は、以下の通りであった。
サンプルLSX(1.03)[0.93]:Si/Al=1.03、Li/Al=0.93、Na/Al=0.03、K/Al=0.01
所定の操作を2回繰り返して回収した試料の組成は、以下の通りであった。
サンプルLSX(1.00)[0.79]:Si/Al=1.00、Li/Al=0.79、Na/Al=0.12、K/Al=0.03
【0035】
なお、実施例1、2及び比較例1において、モル比:Si/Al、Li/Al、Na/Al、K/Alは、それぞれ誘導結合プラズマ発光分析計(ICP発光分光分析計:島津製作所製ICP-9000E)を用いて定性・定量した。その際、ゼオライト粉末をフッ化水素酸で溶解してから定容した溶液を調製して、当該溶液における各濃度を測定した。また、試料中のAl含有量(mmol/g)及びLi含有量(mmol/g)についても規定重量の粉末試料を溶解した水溶液をICP発光分光分析計にて定量分析した。
【0036】
実施例1、2及び比較例1の各サンプルについて、それぞれX線回析を行った。その結果、実施例1、2はLi含有CHA型ゼオライトであり、比較例1はLi含有FAU型ゼオライトであることを確認した。
当該X線回折は以下の条件で測定した。
使用装置:リガク社製Ultima IV粉末X線解析装置
X線源:CuKα=1.5405Å、印加電圧:40kV、管電流:20mA
測定範囲:2θ=2.000~52.000deg
スキャン速度:2.000deg/min、サンプリング間隔:0.040deg
発散スリット:1.00deg、散乱スリット:1.00deg、受光スリット:0.30mm
縦型ゴニオメータ、モノクロメータ使用
測定方法:連続法、通常法
【0037】
また、得られたXRD回析チャートを、図2~9に示す。図2は実施例1のサンプルCHA(6.1)[0.69]のXRD回析チャートである。図3は実施例1のサンプルCHA(4.3)[0.66]のLiイオン交換(1回)後のXRD回析チャートである。図4は実施例2のサンプルCHA(2.4)[0.65]のXRD回析チャートである。図5は実施例2のサンプルCHA(2.2)[0.44]のXRD回析チャートである。図6は実施例2のサンプルCHA(2.2)[0.52]のXRD回析チャートである。図7は実施例2のサンプルCHA(2.4)[0.59]のXRD回析チャートである。図8は比較例1のサンプルLSX(1.03)[0.93]のXRD回析チャートである。図9は比較例1のサンプルLSX(1.00)[0.79]のXRD回析チャートである。
図2~7より、実施例1及び2のサンプルはいずれもCHA型ゼオライトの結晶構造を有していることが確認できる。なお、図3はLiイオン交換を1回行った後のXRD回析チャートであるが、CHA型ゼオライトの結晶構造を保っていることが確認できる。また、図8~9より、比較例1のサンプルはいずれもFAU型ゼオライトの結晶構造を有していることが確認できる。
【0038】
<N2、O2吸着量の評価>
実施例1、2及び比較例1で作製したLi含有CHA型ゼオライト及びLi含有FAU型ゼオライトの各サンプルを吸着材として使用し、以下の方法によりN2、O2吸着量の評価を行った。
まず、吸着測定に先立ち、各サンプルの前処理を行い、既に吸着している不純物を除去した。具体的には、吸着測定用のガラスセルに所定量のサンプルを入れ、0.3Pa以下の減圧下、400℃で12時間の加熱処理を行った。その後、減圧雰囲気のまま室温まで放冷した。前処理を行ったサンプルについてN2の単成分での吸着等温線の測定とO2の炭素成分で吸着等温線の測定をそれぞれ独立して実施した。
各サンプルに流通させるガスは、N278体積%及びO221体積%を含み、水蒸気含有量が0体積%であるガスとし、測定温度は25℃とした。測定には比表面積/細孔分布測定装置(BELMax、マイクロトラック・ベル社製)を用いた。
【0039】
実施例1、2及び比較例1で作製したLi含有CHA型ゼオライト及びLi含有FAU型ゼオライトの各サンプルについて、上述のN2、O2吸着量の評価によって得られたN2、O2吸着等温線のグラフを図10~17に示す。図10~17の横軸は、相対圧力(平衡圧力Pを飽和蒸気圧P0で割った数値)を示している。
また、上述のN2、O2吸着量の評価によって得られた、ゼオライトの単位質量当たりのN2、O2吸着量(mmol/g)、N2とO2との吸着量のモル比:N2/O2、吸着したN2とゼオライトにおけるLiとのモル比:N2/Li、さらにゼオライトの単位質量当たりのLi含有量(mmol/g)をそれぞれ表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
<評価結果>
実施例1、2に係るLi含有CHA型ゼオライトは、それぞれモル比でSi/Alが2.0~6.5、Li/Alが0.40~0.69であり、Li含有量が低減され、且つ、良好なN2/O2分離能を有していた。
図1
図2
図3
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図5
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