(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161983
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】サポニンを含む酪酸産生菌増殖能向上組成物、腸内常在菌増殖能向上組成物、乳酸菌増殖能向上組成物及びビフィズス菌増殖能向上組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072662
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】511169999
【氏名又は名称】石川県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】長野 隆男
(72)【発明者】
【氏名】栗原 新
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065BB27
4B065CA43
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】サポニンの新たな有効利用をすることである。
【課題手段】サポニンの各菌株の増殖能及び該菌株の有用成分の産出能に対する効果を検討した。サポニンは、酪酸産生菌増殖能向上効果、腸内常在菌増殖能向上効果、乳酸菌増殖能向上効果及びビフィズス菌増殖能向上効果を有することを確認して、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サポニンを含む、Rosebria intestinaliの増殖能及び酪酸産生能向上組成物。
【請求項2】
サポニンを含む、Eubacteriumventriosumの増殖能、酢酸産生能及び酪酸産生能向上組成物。
【請求項3】
サポニンを含む、酪酸産生菌増殖能向上組成物。
【請求項4】
前記酪酸産生菌の菌株は、以下のいずれか1以上ある請求項3に記載の組成物。
1)Clostridium ramosum
2)Clostridium indolis
3)Clostridium bolteae
【請求項5】
サポニンを含む、腸内常在菌増殖能向上組成物。
【請求項6】
前記腸内常在菌の菌株は、以下のいずれか1以上ある請求項5に記載の組成物。
1)Eubacterium ventriosum
2)Clostridium asparagiforme
3)Bacteroides uniformis
4)Bacteroides dorei
5)Bacteroides fragilis
6)Ruminococcus torques
7)Ruminococcus gnavus
8)Eubacterium siraeum
9)Clostridium nexile
10)Rosebria intestinalis
11)Anaerotruncus colihominis
【請求項7】
前記腸内常在菌の菌株は、Anaerotruncus colihominisである請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
サポニンを含む、乳酸菌増殖能向上組成物。
【請求項9】
前記乳酸菌の菌株は、以下のいずれか1以上ある請求項8に記載の組成物。
1)Lactobacillus casei subsp. rhamnosus
2)Lactobacillus gasseri
3)Lactobacillus johnsonii
4)Lactobacillus plantarum
5)Lactobacillus curvatus
【請求項10】
サポニンを含む、ビフィズス菌増殖能向上組成物。
【請求項11】
前記ビフィズス菌は、以下のいずれか1以上ある請求項10に記載の組成物。
1)Bifidobacterium adolescentis
2)Bifidobacterium animalis subsp. lactis
3)Bifidobacterium bifidum
4)Bifidobacterium breve
5)Bifidobacterium longum
6)Bifidobacterium pseudolongum
【請求項12】
サポニンを含む培地を使用して、酪酸産生菌、腸内常在菌、乳酸菌、及び/又はビフィズス菌の増殖方法。
【請求項13】
前記サポニンは、培地中に0.02~0.7重量%含有する、請求項12に記載の増殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サポニンを含む酪酸産生菌増殖能向上組成物、腸内常在菌増殖能向上組成物、乳酸菌増殖能向上組成物及びビフィズス菌増殖能向上組成物に関する。
【0002】
(サポニン)
食品中の機能性成分は、老化防止や癌の発生抑制、高血圧予防、免疫力の向上などの保健効果が期待されている。
機能性成分の一種であるサポニンは、サポゲニンと糖から構成される配糖体の総称である。サポニンは、大豆やオリーブなどの植物中に含まれ、経口摂取によりマウスの血液中のコレステロールを減少させる、また、経口摂取によるマウスのIL-1β、TNF-α、PGE2といった炎症性因子の減少などの機能が報告されている。
【0003】
(腸内細菌叢)
ヒトは腸管内に自らの10倍の細胞数、150菌種以上の細菌からなる複雑な腸内細菌叢を保持しており、アレルギーの発症と腸内細菌叢の組成が関連していることがこれまでに報告されている。例えば、無菌マウスに牛乳アレルギーではない健康な乳児の糞便を定着させたところ牛乳のアレルゲンへのアナフィラキシー反応を抑制され、また、乳幼児期のマウスに対して特定の微生物に曝露することで、アレルギーの感受性を制御できる腸内細菌叢を構築することで、アトピーや喘息といった炎症を抑制できたことが報告されている。 制御性T細胞(Treg)は、自己に対する免疫応答の抑制を司っている細胞で、健康人のCD4+T細胞の約5%を占めている。腸内細菌の一種である酪酸産生菌によって腸内に産生された酪酸が、Treg産生に関わる遺伝子が格納されているヒストンのアセチル化を通じて組織中のTreg数を増加させ、アレルギーの原因となる過度な免疫反応を抑制することが知られている。
【0004】
本発明者らは、特許文献1により、「大豆サポニンを含む、アレルギー性接触皮膚炎を抑制する食品添加用組成物、皮膚への外用や経口摂取することでアレルギー性接触皮膚炎を抑制する製剤、食品、飲料並びに皮膚外用剤」を開示している。
しかし、特許文献1は、本発明の「サポニンを含む酪酸産生菌増殖能向上組成物、腸内常在菌増殖能向上組成物、乳酸菌増殖能向上組成物及びビフィズス菌増殖能向上組成物」を開示又は示唆をしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、サポニンの新たな有効利用を課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、サポニンの新たな有効利用を検討するために、サポニンの各菌株の増殖能及び該菌株の有用成分の産出能に対する効果を検討した。
サポニンは、酪酸産生菌増殖能向上効果、腸内常在菌増殖能向上効果、乳酸菌増殖能向上効果及びビフィズス菌増殖能向上効果を有することを確認して、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
1.サポニンを含む、Rosebria intestinaliの増殖能及び酪酸産生能向上組成物。
2.サポニンを含む、Eubacteriumventriosumの増殖能、酢酸産生能及び酪酸産生能向上組成物。
3.サポニンを含む、酪酸産生菌増殖能向上組成物。
4.前記酪酸産生菌の菌株は、以下のいずれか1以上ある前項3に記載の組成物。
1)Clostridium ramosum
2)Clostridium indolis
3)Clostridium bolteae
5.サポニンを含む、腸内常在菌増殖能向上組成物。
6.前記腸内常在菌の菌株は、以下のいずれか1以上ある前項5に記載の組成物。
1)Eubacterium ventriosum
2)Clostridium asparagiforme
3)Bacteroides uniformis
4)Bacteroides dorei
5)Bacteroides fragilis
6)Ruminococcus torques
7)Ruminococcus gnavus
8)Eubacterium siraeum
9)Clostridium nexile
10)Rosebria intestinalis
11)Anaerotruncus colihominis
7.前記腸内常在菌の菌株は、Anaerotruncus colihominisである前項6に記載の組成物。
8.サポニンを含む、乳酸菌増殖能向上組成物。
9.前記乳酸菌の菌株は、以下のいずれか1以上ある前項8に記載の組成物。
1)Lactobacillus casei subsp. rhamnosus
2)Lactobacillus gasseri
3)Lactobacillus johnsonii
4)Lactobacillus plantarum
5)Lactobacillus curvatus
10.サポニンを含む、ビフィズス菌増殖能向上組成物。
11.前記ビフィズス菌は、以下のいずれか1以上ある前項10に記載の組成物。
1)Bifidobacterium adolescentis
2)Bifidobacterium animalis subsp. lactis
3)Bifidobacterium bifidum
4)Bifidobacterium breve
5)Bifidobacterium longum
6)Bifidobacterium pseudolongum
12.サポニンを含む培地を使用して、酪酸産生菌、腸内常在菌、乳酸菌、及び/又はビフィズス菌の増殖方法。
13.前記サポニンは、培地中に0.02~0.7重量%含有する、前項12に記載の増殖方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、サポニンを含む酪酸産生菌増殖能向上組成物、腸内常在菌増殖能向上組成物、乳酸菌増殖能向上組成物及びビフィズス菌増殖能向上組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】GAM培地あるいは終濃度0.5%(w/v)サポニンを添加したGAM培地に腸内細菌を植菌し、培養開始24時間後の生育度を測定した。GAM培養液の濁度を100とした場合のサポニン添加培養液の濁度の相対値を示す。なお、相対値は以下のように算出した。 相対増殖値(%)=0.5%サポニン添加培地における細菌の生育度/サポニン無添加培地における細菌の生育度×100 また、生育度についてtwo-sample t-testを用いて有意差を検出し、p<0.05の場合は「*」、p<0.01の場合は「**」で示した。 乳酸菌は
Lactobacillus casei subsp. casei~
Leuconostoc mesenteroides subsp. mesenteroidesであり、ビフィズス菌は
Bifidobacterium adolescentis~
Bifidobacteriumpseudolongumであり、ヒト腸内常在菌叢最優勢種は
Eubacteriumventriosum~
Enterococcusfaecalisであり、酪酸産出菌は
Clostridium ramosum~
Clostridium bolteaeであり、並びに、悪玉菌は
Clostridiumperfringens~
Fusobacterium nucleatum subsp.nucleatumである。
【0011】
(本発明の対象)
本発明は、サポニンを含む酪酸産生菌増殖能向上組成物、腸内常在菌増殖能向上組成物、乳酸菌増殖能向上組成物及びビフィズス菌増殖能向上組成物に関する。さらに、サポニンを含む、Rosebria intestinaliの増殖能及び酪酸産生能向上組成物、並びに、サポニンを含む、Eubacterium ventriosumの増殖能、酢酸産生能及び酪酸産生能向上組成物に関する。
【0012】
(サポニン)
本発明の「サポニン」は、公知のサポニン含有植物由来であれば特に限定されないが、大豆、エンドウ、テンサイ等を例示することができ、大豆サポニンが好ましい。
大豆サポニンの製造例として、以下を例示することができるが、特に限定されない。
大豆生胚軸1kgに75容量%の含水エタノール4Lを加え、抽出を行う。抽出液をろ過により分離した後、該抽出液を減圧下、濃縮を行う。このようにして得られた抽出物を水に溶解し、吸着樹脂ダイアイオンHP-20(三菱化学(株)製)を充填したカラム(200 mL)にSV1にて負荷する。
次に、水(200 mL)、および25容量%の含水エタノール(200 mL)で洗浄後、60容量%の含水エタノール(400 mL)で溶出させた画分を減圧下で濃縮し、乾燥粉末化して大豆サポニン抽出素材を得る。素材中の重量あたりの総サポニン含量は約55%になる。またサポニン総量に対して、グループAサポニンが64重量%、グループBサポニンが36重量%になる。
また、市販の大豆サポニン(例:ソイヘルスSA(不二製油))等を使用することもできる。
【0013】
(Rosebria intestinaliの増殖能及び酪酸産生能向上組成物)
本実施例では、サポニンはヒト腸内常在菌叢最優勢種であるRosebriaintestinaliの増殖能だけでなく酪酸産生能も向上させることを確認している。
増殖能は3.3倍であり、酪酸産生能は4.4倍であった。
【0014】
(Eubacteriumventriosumの増殖能、酢酸産生能及び酪酸産生能向上組成物)
本実施例では、サポニンはヒト腸内常在菌叢最優勢種であるEubacterium ventriosumの増殖能だけでなく酢酸産生能及び酪酸産生能も向上させることを確認している。
【0015】
(酪酸産生菌増殖能向上組成物)
本実施例では、サポニンは酪酸産生菌(特に、Clostridiumramosum、Clostridium indolis、Clostridium bolteae)の増殖能を向上させることを確認している。
【0016】
(腸内常在菌増殖能向上組成物)
本実施例では、サポニンは腸内常在菌(特に、ヒト腸内常在菌叢最優勢種のEubacteriumventriosum、Clostridium asparagiforme、Bacteroides uniformis、Bacteroidesdorei、Bacteroides fragilis、Ruminococcus torques、Ruminococcus gnavus、Eubacterium siraeum、Clostridium nexile、Rosebria intestinalis、Anaerotruncus colihominis)の増殖能を向上させることを確認している。
特に、Anaerotruncus colihominisの増殖能は15倍であった。
【0017】
(乳酸菌増殖能向上組成物)
本実施例では、サポニンは乳酸菌(特に、Lactobacillus caseisubsp. rhamnosus、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus johnsonii、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus curvatus、Leuconostoc mesenteroides subsp. mesenteroides)の増殖能を向上させることを確認している。
特に、Lactobacillus gasseriの増殖能は約4.5倍であった。
【0018】
(ビフィズス菌増殖能向上組成物)
本実施例では、サポニンはビフィズス菌(特に、Bifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium animalis subsp.lactis、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium breve、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium pseudolongum)の増殖能を向上させることを確認している。
【0019】
(組成物の使用例・使用態様)
上記述べた各組成物は、組成物としてそのまま使用しても良いが、食品、飲料、健康食品、医薬品及び医薬部外品等として使用又は該品の有効成分として使用することもできる。
例えば、上記組成物を以下のように使用することができる。本発明の各組成物は、以下の態様も含む。
酪酸産生菌増殖能向上食品、飲料、健康食品、医薬品又は医薬部外品
腸内常在菌増殖能向上食品、飲料、健康食品、医薬品又は医薬部外品
乳酸菌増殖能向上食品、飲料、健康食品、医薬品又は医薬部外品
ビフィズス菌増殖能向上食品、飲料、健康食品、医薬品又は医薬部外品
【0020】
(組成物の摂取・投与例)
本発明の組成物の摂取・投与例は、各効果(増殖能向上)を得ることができれば得に限定されないが、大豆サポニン素材の乾燥物重量として、被投与個体の体重1kgあたり0.001 g/日以上が好ましく、0.05 g/日以上がより好ましい。
【0021】
(酪酸産生菌、腸内常在菌、乳酸菌、及び/又はビフィズス菌の増殖方法)
本発明の酪酸産生菌、腸内常在菌、乳酸菌、及び/又はビフィズス菌の増殖方法では、自体公知の酪酸産生菌、腸内常在菌、乳酸菌、及び/又はビフィズス菌で使用する培地に、サポニン、好ましくは0.02~0.7%のサポニンを含有することにより、各菌の増殖能、さらには、酢酸産生能及び酪酸産生能を向上させることができる。
培地は、特に限定されないが、GAM培地が好ましい。
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例0023】
実施例で使用した材料、菌株及び該菌株の培養方法は以下の通りである。
【0024】
(大豆サポニン)
市販のソイヘルスSA(不二製油)を使用した。
【0025】
(使用菌株)
本実施例では、デンマークとスペインの健常成人と肥満成人からなる124人の糞便中の細菌における培養を介さない方法で解析した結果から推測されたヒト腸内常在菌叢最優勢種における上位56種のうち入手可能な45種から、GAM培地で生育可能な32 種腸内細菌(表1)を用いて実験を行った。
また菌株収集にあたっては、それぞれの菌種の基準種(タイプストレイン)を選定し、菌株保存・分譲機関(ATCC(American Type Culture Collection)、JCM(Japan Collection of Microorganisms)、DSMZ(Deutsche SammLung von Mikroorganismenund Zellkulturen GmbH))から購入した。また、本研究で使用したGAM培地で生育可能な重要腸内細菌24種(乳酸菌とビフィズス菌、酪酸産生菌)を表2に示した。
【0026】
【0027】
【0028】
(培養方法)
〇GAM培地
200 mL容ビーカーにスターラーバーと約130 mLのElix水を入れ、GAMブイヨン(日水製薬株式会社; 製品番号, 65422)8.49 gを加え、攪拌して完全に溶解させた。溶解させたものを200 mL容メスシリンダーに移し、Elix水で144 mLにメスアップした後に、200 mL容耐熱性瓶に入れた。オートクレーブ(TOMY; 製品番号, LSX-500)(115℃, 15 min)し、オートクレーブ内の温度が97℃まで下がったら直ちに、アネロパック(三菱ガス化学株式会社; 製品番号, A-03)と共に密封容器(三菱ガス化学株式会社; 製品番号, A-110)に入れ、常温で保存した。一晩以上脱気処理した後、試験に使用した。
〇GAM+0.5%(w/v)サポニン培地
200 mL容ビーカーにスターラーバーと約130 mLのElix水を入れ、GAMブイヨン8.49 gとサポニン0.72 g を加え、攪拌して完全に溶解させた。溶解させたものを200 mL容メスシリンダーに移し、Elix水で144 mLにメスアップした後に、200 mL容耐熱性瓶に入れた。オートクレーブ(115℃, 15 min)し、オートクレーブ内の温度が97℃まで下がったら直ちに、アネロパックと共に密封容器に入れ、常温で保存した。一晩以上脱気処理した後、試験に使用した。なお、0.5% サポニンはGAM培地中で完全に溶解した。