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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162000
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】ダム操作の訓練システム
(51)【国際特許分類】
   G09B 9/00 20060101AFI20231031BHJP
   E02B 7/20 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
G09B9/00 K
E02B7/20 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072689
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】藤本 久貴
【テーマコード(参考)】
2D019
【Fターム(参考)】
2D019AA43
(57)【要約】
【課題】複数のダムを対象としてダム操作の訓練を行う。
【解決手段】上流のダムからの放流量が下流のダムへの流入量に影響を与える関係にある上流側ダム9Aと下流側ダム9Bとのそれぞれに対応して設けられる、各々が表示部23および入力部24を備える複数の訓練用演算装置2A,2Bと、複数の訓練用演算装置2A,2Bと通信可能であるように接続される訓練装置3と、を有し、訓練用演算装置2A,2Bの表示部23が、上流側ダム9Aと下流側ダム9Bとのそれぞれの情報を表示し、訓練装置3が、訓練用演算装置2A,2Bの入力部24を介して入力されるダムの放流設備の操作内容に応じた上流側ダム9Aからの放流量に基づいて下流側ダム9Bへの流入量を計算する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流のダムからの放流量が下流のダムへの流入量に影響を与える前記上流のダムと前記下流のダムとの組み合わせを少なくとも一つ含む複数のダムのそれぞれに対応して設けられる、各々が表示部および入力部を備える複数の訓練用演算装置と、
前記複数の訓練用演算装置と通信可能であるように接続される訓練装置と、を有し、
前記訓練用演算装置の前記表示部が、前記複数のダムそれぞれの情報を表示し、
前記訓練装置が、前記訓練用演算装置の前記入力部を介して入力されるダムの放流設備の操作内容に応じた前記上流のダムからの放流量に基づいて前記下流のダムへの流入量を計算する、
ことを特徴とするダム操作の訓練システム。
【請求項2】
前記訓練用演算装置の前記表示部がスマートグラスである、
ことを特徴とする請求項1に記載のダム操作の訓練システム。
【請求項3】
訓練において条件設定として使用する訓練用データに記録されている時系列の雨量と川からダム貯水池への流入量とのうちの少なくとも一方が、任意の倍率で調整される、または、任意の値に設定される、
ことを特徴とする請求項1に記載のダム操作の訓練システム。
【請求項4】
前記複数のダムのうちの一部のダムについて、
前記訓練用演算装置の前記入力部を介して前記ダムの放流設備の操作内容が入力される代わりに、
現時点のダムの貯水位と雨量とダムへの流入量と前記ダムの放流設備のゲート・バルブ開度との組み合わせが入力されると前記ダムの放流設備の次時点の操作内容としての前記ダムからの放流量または前記ダムの放流設備のゲート・バルブ開度が出力されるように実績データに基づいて機械学習された学習済みモデルによって前記ダムの放流設備の操作内容を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のダム操作の訓練システム。
【請求項5】
訓練終了後に、前記複数のダムそれぞれについて、前記ダムの貯水位が最高になった時点と前記ダムからの放流量が最大になった時点とのうちの少なくとも一方の時点から所定時間分過去の前記ダムの放流設備の操作内容を前記表示部に表示する、
ことを特徴とする請求項1から4のうちのいずれか1項に記載のダム操作の訓練システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダムの操作を訓練するためのダム操作の訓練システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ダムの放流設備を操作規則等に基づき確実かつ容易に操作するためにダムの流水管理に関わる演算処理や放流設備の操作ならびに操作の支援を行うための設備として、種々の計測機器などが収集した情報を用いてダム水文量の演算を行うダム管理用制御処理設備が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】国土交通省「ダム管理用制御処理設備 標準設計仕様書」,平成28年8月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ダム管理用制御処理設備を介して行うダム操作(具体的には、ダムの放流設備の操作)の従来の訓練では単一のダムの操作を対象として訓練が行われているが、例えば同一の水系における上流側ダムの操作は下流側ダムの状況(例えば、貯水位)に影響を与えて延いては下流側ダムの操作に影響を与えることが想定される。また、豪雨災害などの水害に対する流域防災への取り組みが重要となっており、上流側ダムと下流側ダムとの間の連動/連携が重要視されている。したがって、同一水系に複数のダム(言い換えると、或るダムの操作が他のダムの状況/操作に影響を与える関係にある複数のダム)が設けられている場合に、前記複数のダムのうちの特定のダムを独立して運用することを前提として単一のダムの操作を対象として訓練を行うことは適切とは言えない、という問題がある。
【0005】
そこでこの発明は、複数のダムを対象としてダム操作の訓練を行うことを可能にする、ダム操作の訓練システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明に係るダム操作の訓練システムは、上流のダムからの放流量が下流のダムへの流入量に影響を与える前記上流のダムと前記下流のダムとの組み合わせを少なくとも一つ含む複数のダムのそれぞれに対応して設けられる、各々が表示部および入力部を備える複数の訓練用演算装置と、前記複数の訓練用演算装置と通信可能であるように接続される訓練装置と、を有し、前記訓練用演算装置の前記表示部が、前記複数のダムそれぞれの情報を表示し、前記訓練装置が、前記訓練用演算装置の前記入力部を介して入力されるダムの放流設備の操作内容に応じた前記上流のダムからの放流量に基づいて前記下流のダムへの流入量を計算する、ことを特徴とする。
【0007】
この発明に係るダム操作の訓練システムは、前記訓練用演算装置の前記表示部がスマートグラスである、ようにしてもよい。
【0008】
この発明に係るダム操作の訓練システムは、訓練において条件設定として使用する訓練用データに記録されている時系列の雨量と川からダム貯水池への流入量とのうちの少なくとも一方が、任意の倍率で調整される、または、任意の値に設定される、ようにしてもよい。
【0009】
この発明に係るダム操作の訓練システムは、前記複数のダムのうちの一部のダムについて、前記訓練用演算装置の前記入力部を介して前記ダムの放流設備の操作内容が入力される代わりに、現時点のダムの貯水位と雨量とダムへの流入量と前記ダムの放流設備のゲート・バルブ開度との組み合わせが入力されると前記ダムの放流設備の次時点の操作内容としての前記ダムからの放流量または前記ダムの放流設備のゲート・バルブ開度が出力されるように実績データに基づいて機械学習された学習済みモデルによって前記ダムの放流設備の操作内容を推定する、ようにしてもよい。
【0010】
この発明に係るダム操作の訓練システムは、訓練終了後に、前記複数のダムそれぞれについて、前記ダムの貯水位が最高になった時点と前記ダムからの放流量が最大になった時点とのうちの少なくとも一方の時点から所定時間分過去の前記ダムの放流設備の操作内容を前記表示部に表示する、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係るダム操作の訓練システムによれば、訓練用演算装置の表示部に複数のダムそれぞれの情報が表示され且つ上流のダムからの放流量に基づく下流のダムへの流入量が反映される状況で訓練が行われるので、同一水系に設けられている複数のダムそれぞれの情報/状況を確認して前記複数のダムの間の連動/連携を含むダム操作の訓練を行うことが可能となる。
【0012】
この発明に係るダム操作の訓練システムによれば、訓練用データに記録されている時系列の雨量や川からダム貯水池への流入量が任意の倍率で調整されたり任意の値に設定されたりするようにした場合には、非常に厳しい状況を含む様々な状況を想定したうえで複数のダムを対象としてダム操作の訓練を行うことが可能となる。
【0013】
この発明に係るダム操作の訓練システムによれば、訓練用演算装置の入力部を介してダムの放流設備の操作内容が入力される代わりに実績データに基づいて機械学習された学習済みモデルによってダムの放流設備の操作内容を推定するようにした場合には、同一水系に設けられているダムの数と同じ人数の訓練対象者が揃わなくても複数のダムを対象としてダム操作の訓練を行うことが可能となる。
【0014】
この発明に係るダム操作の訓練システムによれば、訓練終了後にダムの貯水位が最高になった時点やダムからの放流量が最大になった時点から所定時間分過去のダムの放流設備の操作内容を表示部に表示するようにした場合には、ダムの放流設備の操作内容が適切であったか否かを検証したり、ダムの放流設備の適切な操作内容を検討したりすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の実施の形態に係るダム操作の訓練システムの概略構成を示す機能ブロック図である。
図2】実施の形態において想定する複数のダムの関係を示す図である。
図3図1のダム操作の訓練システムにおける処理手順を示すフローチャートである。
図4】この発明に係るダム操作の訓練システムの他の概略構成を示す機能ブロック図である。
図5図4のダム操作の訓練システムの学習済みモデルの例を説明する図である。
図6】この発明に係るダム操作の訓練システムが対象とし得る複数のダムの関係の例を示す図である。
図7】この発明に係るダム操作の訓練システムが対象とし得る複数のダムの関係の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。この実施の形態では、図2に示すような、同一水系に設けられている上流側ダム9Aおよび下流側ダム9B(即ち、上流側ダム9Aの放流設備の操作に伴う当該上流側ダム9Aからの放流量が下流側ダム9Bへの流入量に影響を与えて延いては下流側ダム9Bの放流設備の操作に影響を与える関係にある複数のダム)を対象として訓練を行う場合のダム操作の訓練システム1を例に挙げて説明する。ダムの放流設備は、具体的には例えば、1つ若しくは複数のゲートやバルブである。
【0017】
(ダム操作の訓練システムの全体構成)
図1は、この発明の実施の形態に係るダム操作の訓練システム1の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0018】
実施の形態に係るダム操作の訓練システム1は、ダムの操作を訓練するための機序であり、上流のダムからの放流量が下流のダムへの流入量に影響を与える関係にある上流側ダム9Aと下流側ダム9Bとのそれぞれに対応して設けられる、各々が表示部23および入力部24を備える複数の訓練用演算装置2A,2Bと、複数の訓練用演算装置2A,2Bと通信可能であるように接続される訓練装置3と、を有し、訓練用演算装置2A,2Bの表示部23が、上流側ダム9Aと下流側ダム9Bとのそれぞれの情報を表示し、訓練装置3が、訓練用演算装置2A,2Bの入力部24を介して入力されるダムの放流設備の操作内容に応じた上流側ダム9Aからの放流量に基づいて下流側ダム9Bへの流入量を計算する、ようにしている。
【0019】
ダム操作の訓練システム1は、主に、複数の訓練用演算装置2A,2Bと、訓練装置3と、を有する。ダム操作の訓練システム1を構成する各装置は、LAN(Local Area Network の略)を介して信号の送受を行って相互に情報伝達可能/通信可能であるように接続される。
【0020】
訓練用演算装置は、ダム操作の訓練システム1が対象とする複数のダムのそれぞれに対応して設けられ、この実施の形態では、上流側ダム9Aに対応して第1の訓練用演算装置2Aが設けられるとともに下流側ダム9Bに対応して第2の訓練用演算装置2Bが設けられる。
【0021】
第1/第2の訓練用演算装置2A,2Bは、ダムの放流設備を操作する際のダムの流水管理に関わる演算処理や放流設備の操作ならびに操作の支援を行うためにダムに実際に設置される設備を模擬する機序であり、例えば、「ダム管理用制御処理設備 標準設計仕様書(国土交通省,平成28年8月)」および「ダム管理用制御処理設備 標準設計仕様書・同解説(国土交通省,平成28年8月)」(前記2つをまとめて「標準設計仕様書等」と呼ぶ)に規定されている設計仕様に従う構成や機能を備える設備を模擬する機序である。
【0022】
第1の訓練用演算装置2Aは、具体的には例えば、中央処理装置(CPU:Central Processing Unit の略)を含むコンピュータに上流側ダム9A用のダム操作の訓練プログラム25Aがインストールされて実行されることによって実現される。第2の訓練用演算装置2Bは、具体的には例えば、中央処理装置(CPU)を含むコンピュータに下流側ダム9B用のダム操作の訓練プログラム25Bがインストールされて実行されることによって実現される。
【0023】
第1/第2の訓練用演算装置2A,2Bは、記憶部21と、表示部23と、入力部24と、を有する。また、ダム操作の訓練プログラム25A,25Bが実行されることにより、第1/第2の訓練用演算装置2A,2B内に、演算部22が形成される。
【0024】
記憶部21は、第1/第2の訓練用演算装置2A,2Bの中央処理装置がダム操作の訓練に纏わる演算処理を行う際に利用する各種のプログラム,データ,および情報などを記憶して格納などするための記憶領域となったり前記演算処理を行う際に生成されるデータや情報などを一時的に記憶などするための作業領域となったりする機能を備え、例えば、HDD(Hard Disk Drive の略),ROM(Read Only Memory の略),RAM(Random Access Memory の略)などの記憶媒体によって構成される。
【0025】
記憶部21に、ダム操作の訓練プログラム25A,25Bが格納される。
【0026】
ダム操作の訓練プログラム25Aは、特にダム水文量演算処理や操作演算処理に必要とされる上流側ダム9Aに固有の情報を含んで構成され、例えば、上流側ダム9Aについての仕様に関する情報や貯水位~総貯水量対応表および貯水位~ゲート・バルブ開度~放流量対応表を含んで構成される。ダム操作の訓練プログラム25Bは、特にダム水文量演算処理や操作演算処理に必要とされる下流側ダム9Bに固有の情報を含んで構成され、例えば、下流側ダム9Bについての仕様に関する情報や貯水位~総貯水量対応表および貯水位~ゲート・バルブ開度~放流量対応表を含んで構成される。
【0027】
第1の訓練用演算装置2Aの演算部22は、上流側ダム9Aの構造などに合わせて、標準設計仕様書等に規定されている設計仕様に従って例えば下記の処理を行い、また、第2の訓練用演算装置2Bの演算部22は、下流側ダム9Bの構造などに合わせて、標準設計仕様書等に規定されている設計仕様に従って例えば下記の処理を行う。
【0028】
1)ダム水文量演算処理
連続する各時点において、或る時点の(例えば、現在の,現時点の)ダム貯水池の貯水位およびダム貯水池からの全放流量ならびに時系列的なダム貯水池への全流入量をもとに各種の演算処理を行い、その後の(例えば、今後の,次時点の)貯水池諸量(別言すると、ダム諸量)として、ダム貯水池の貯水位および放流量に纏わる諸量を計算する。
【0029】
2)操作演算処理
連続する各時点において、或る時点の(例えば、現在の,現時点の)ダムの状況に基づいて、ダムの放流設備のその後の(例えば、今後の,次時点の)操作内容に纏わる下記の諸量を計算する。
ア)各ダムの操作規則等に従い、ダムから放流を行うための放流方式(例えば、定水位放流方式,設定流量放流方式,一定率一定量放流方式,一定量放流方式,定開度放流方式など)に基づいてダムから放流すべき水量の目標値(「目標全放流量」と呼ぶ)を算出する。
イ)目標全放流量を当該操作時において使用する放流設備に配分し、放流設備1門ごとの目標放流量を算出する。
ウ)各ゲート・バルブに配分された放流設備1門ごとの目標放流量を現在の貯水位で放流するためのゲート・バルブ開度(「ゲート・バルブ目標開度」と呼ぶ)を計算する。
【0030】
3)流域水文量演算処理
時系列的な雨量をもとに各種の演算処理を行って河川諸量(具体的には、河川水位,河川流量)を計算する。なお、この流域水文量演算処理は、この発明において必須の処理ではない。
【0031】
表示部23は、演算部22によるダム水文量演算処理の結果や操作演算処理の結果を含む上流側ダム9Aおよび下流側ダム9Bに関する各種の情報を表示する機能を備え、例えば、液晶ディスプレイやスマートグラスなどによって構成される。
【0032】
表示部23は、一覧表,グラフ,および模式図などにより下記の情報を表示する。
1)ダム状況に関する情報
現在のダムの状況を把握するためのダム貯水池の貯水位,(全)流入量,および(全)放流量などのダム水文量情報。
2)流域状況に関する情報
現在の流域の状況を把握するための雨量,河川水位,および河川流量などの流域水文量情報。
3)操作に関する情報
ダムの放流設備(例えば、1つ若しくは複数のゲートやバルブ)を操作するために必要となる現在の全放流量,現在の放流設備1門ごとの放流量および開度,目標全放流量,ならびに放流設備1門ごとの目標放流量およびゲート・バルブ目標開度の情報。
【0033】
入力部24は、訓練対象者などによる操作を受けて演算部22へと各種の情報や指示などを入力する機能を備えるインターフェースであり、例えば、キーボードやマウスなどによって構成される。
【0034】
訓練装置3は、例えば、中央処理装置(CPU)を含むコンピュータに訓練装置用のダム操作の訓練プログラム33がインストールされて実行されることによって実現される。
【0035】
訓練装置3は、記憶部31を有する。記憶部31は、訓練装置3の中央処理装置がダム操作の訓練に纏わる演算処理を行う際に利用する各種のプログラム,データ,および情報などを記憶して格納などするための記憶領域となったり前記演算処理を行う際に生成されるデータや情報などを一時的に記憶などするための作業領域となったりする機能を備え、例えば、HDD,ROM,RAMなどの記憶媒体によって構成される。
【0036】
記憶部31に、訓練装置用のダム操作の訓練プログラム33が格納されるとともに、上流側ダム9Aについての訓練用データ34Aと下流側ダム9Bについての訓練用データ34Bとが記憶されて格納される。
【0037】
各訓練用データ34A,34Bは、ダムごとの、特にダム水文量演算処理や操作演算処理に必要とされる種々の情報が設定/記録されているデータファイルであり、第1/第2の訓練用演算装置2A,2Bが特にダム水文量演算処理や操作演算処理を行う際に必要とされる情報の項目が適宜選択/抽出されて格納される。
【0038】
各訓練用データ34A,34Bに、具体的には例えば、ダムごとの、訓練開始時におけるダム貯水池の初期貯水位や放流設備1門ごとの初期ゲート・バルブ開度、ならびに、訓練期間に対応する時系列の雨量(具体的には例えば、当該のダムへの流入量に影響を与えると考えられる地域に関する流域平均時間雨量)やダム貯水池への流入量などが設定/記録される。各訓練用データ34A,34Bに、訓練開始時における初期放流方式が設定/記録されるようにしてもよい。
【0039】
訓練期間は、特定の時間長さには限定されないものの、例えば10~48時間程度の範囲のうちのいずれかの時間長さに設定されることが考えられる。
【0040】
訓練用データ34A,34Bに設定/記録される時系列の雨量やダム貯水池への流入量は、例えば、5分ごとや10分ごとや60分ごとの(即ち、5分間や10分間や60分間における)雨量やダム貯水池への流入量である。
【0041】
訓練用データ34A,34Bに設定/記録される時系列のダム貯水池への流入量は、無降雨時の低水量時の流量であって普段流れている川の水の量、つまり降雨に起因しない流量である基底流量などを内容とする流量であり、或るダム(この例では、上流側ダム9A)の放流による他のダム(この例では、下流側ダム9B)への影響を含まない、ダム貯水池への流入量である。
【0042】
訓練用データ34A,34Bは、当該データに設定/記録される例えば時系列の雨量の設定を含めて、平常時における状況を想定した内容や激性豪雨(即ち、短時間の局地的大雨)・長大豪雨(即ち、長時間におよぶ広域の大雨)など非常時(言い換えると、洪水時)における状況を想定した内容など、複数種類が設定されるようにしてもよい。
【0043】
訓練装置用のダム操作の訓練プログラム33が実行されることにより、訓練装置3内に、ダム間流量計算部32が形成される。
【0044】
ダム間流量計算部32は、上流側ダム9Aの操作が下流側ダム9Bの状況/操作に与える影響として、上流側ダム9Aからの放流量に起因する下流側ダム9Bへの流入量を計算する。
【0045】
上流側ダム9Aからの放流量に起因する下流側ダム9Bへの流入量の計算の仕法は、特定の手法/手順には限定されないものの、例えば、上流側ダム9Aからの放流量のうちの所定の割合の流量が下流側ダム9Bへの流入量とされるようにすることが考えられる。
【0046】
ダム間流量計算部32は、上流側ダム9Aと下流側ダム9Bとの間の距離や上流側ダム9Aと下流側ダム9Bとの間の河川の流量(即ち、河川の或る横断面を単位時間に流過する水の体積)などに基づいて上流側ダム9Aからの放流量が下流側ダム9Bへの流入量として反映されるタイムラグを考慮したうえで、上流側ダム9Aからの放流量に起因する下流側ダム9Bへの時系列での流入量を計算するようにしてもよい。
【0047】
(ダム操作の訓練システムの動作)
図3は、実施の形態に係るダム操作の訓練システム1における処理手順を示すフローチャートである。
【0048】
訓練対象者により、第1/第2の訓練用演算装置2A,2Bの入力部24を介して、ダム操作の訓練の開始が指示される(START)。
【0049】
このとき、複数種類の訓練用データ34A,34Bが設定されている場合は、前記複数種類の訓練用データ34A,34Bの中から、訓練において上流側ダム9Aの条件設定として使用/適用する上流側ダム9Aについての訓練用データ34Aが選択されたり、訓練において下流側ダム9Bの条件設定として使用/適用する下流側ダム9Bについての訓練用データ34Bが選択されたりする。
【0050】
このとき、また、訓練用データ34A,34Bに設定/記録されている時系列の雨量とダム貯水池への流入量(即ち、基底流量などを内容とする、川からダム貯水池への流入量)とのうちの少なくとも一方が、任意の倍率(例えば、訓練対象者によって第1/第2の訓練用演算装置2A,2Bの入力部24を介して入力される倍率)で調整されたり、または、任意の値(例えば、訓練対象者によって第1/第2の訓練用演算装置2A,2Bの入力部24を介して入力される値)に設定されたりするようにしてもよい。
【0051】
ダム操作の訓練として、まず、第1の訓練用演算装置2Aの演算部22により、上流側ダム9Aについての訓練用データ34Aが訓練装置3の記憶部31から読み込まれ、前記上流側ダム9Aについての訓練用データ34Aに設定/記録されている訓練開始時におけるダム貯水池の初期貯水位や放流設備1門ごとの初期ゲート・バルブ開度ならびに時系列の雨量やダム貯水池への流入量などが用いられてダム水文量演算処理が行われ、上流側ダム9Aのダム貯水池の貯水位が計算される(ステップS1)。
【0052】
第1の訓練用演算装置2Aの演算部22により、また、操作演算処理が行われて上流側ダム9Aからの目標全放流量が算出されるとともに放流設備1門ごとの目標放流量が算出され、さらに、上流側ダム9Aの放流設備1門ごとのゲート・バルブ目標開度が計算される(ステップS2)。
【0053】
次に、上流側ダム9Aに関するダム水文量演算処理の結果や操作演算処理の結果を含む上流側ダム9Aに関する各種の情報が、第1の訓練用演算装置2Aの表示部23に表示されるとともに、第1の訓練用演算装置2Aから訓練装置3へと伝送される。
【0054】
このとき、下流側ダム9Bに関する各種の情報として、ダム水文量演算処理の結果や操作演算処理の結果に対応する情報が、訓練装置3の記憶部31に格納されている下流側ダム9Bについての訓練用データ34Bが参照されて第1の訓練用演算装置2Aの表示部23に表示される。
【0055】
そして、第1の訓練用演算装置2Aの表示部23に表示される現在の(言い換えると、現時点の)上流側ダム9Aおよび下流側ダム9Bに関する各種の情報を確認した訓練対象者により、入力部24を介して、ダムの放流設備の今後の(言い換えると、次時点の)操作内容として、上流側ダム9Aから放流すべき水量の値(「上流側ダム9Aからの全放流量の入力値」と呼ぶ)、または、上流側ダム9Aの放流設備1門ごとのゲート・バルブ開度(「上流側ダム9Aのゲート・バルブ開度の入力値」と呼ぶ)が入力される(ステップS3)。
【0056】
上流側ダム9Aからの全放流量の入力値は、第1の訓練用演算装置2Aの演算部22によって計算される上流側ダム9Aからの目標全放流量と同じでもよく、或いは、前記上流側ダム9Aからの目標全放流量とは異なる、訓練対象者が適切であると考える全放流量でもよい。上流側ダム9Aのゲート・バルブ開度の入力値は、第1の訓練用演算装置2Aの演算部22によって計算される上流側ダム9Aの放流設備1門ごとのゲート・バルブ目標開度と同じでもよく、或いは、前記上流側ダム9Aの放流設備1門ごとのゲート・バルブ目標開度とは異なる、訓練対象者が適切であると考えるゲート・バルブ開度でもよい。
【0057】
ステップS3の処理において、上流側ダム9Aの今後の(言い換えると、次時点の)放流方式が選択されるようにしてもよく、具体的には例えば、定水位放流方式,設定流量放流方式,一定率一定量放流方式,一定量放流方式,および定開度放流方式のうちのいずれかの放流方式から他の放流方式への変更が行われるようにしてもよい。
【0058】
第1の訓練用演算装置2Aの入力部24を介して訓練対象者によって入力される、上流側ダム9Aからの全放流量の入力値または上流側ダム9Aのゲート・バルブ開度の入力値は、訓練装置3へと伝送される。
【0059】
次に、訓練装置3のダム間流量計算部32により、上流側ダム9Aからの全放流量の入力値に基づいて、或いは、上流側ダム9Aのゲート・バルブ開度の入力値に基づいて計算される上流側ダム9Aからの全放流量に基づいて、上流側ダム9Aの操作が下流側ダム9Bの状況/操作に与える影響として、上流側ダム9Aからの放流量に起因する下流側ダム9Bへの流入量(「放流起因流入量」と呼ぶ)が計算される(ステップS4)。
【0060】
次に、第2の訓練用演算装置2Bの演算部22により、下流側ダム9Bについての訓練用データ34Bが訓練装置3の記憶部31から読み込まれる。また、下流側ダム9Bへの放流起因流入量が、訓練装置3から第2の訓練用演算装置2Bへと伝送される。
【0061】
そして、第2の訓練用演算装置2Bの演算部22により、下流側ダム9Bについての訓練用データ34Bに設定/記録されている訓練開始時におけるダム貯水池の初期貯水位や放流設備1門ごとの初期ゲート・バルブ開度ならびに時系列の雨量やダム貯水池への流入量など、さらに、下流側ダム9Bへの放流起因流入量が用いられてダム水文量演算処理が行われ、下流側ダム9Bのダム貯水池の貯水位が計算される(ステップS5)。
【0062】
第2の訓練用演算装置2Bの演算部22により、また、操作演算処理が行われて下流側ダム9Bからの目標全放流量が算出されるとともに放流設備1門ごとの目標放流量が算出され、さらに、下流側ダム9Bの放流設備1門ごとのゲート・バルブ目標開度が計算される(ステップS6)。
【0063】
次に、下流側ダム9Bに関するダム水文量演算処理の結果や操作演算処理の結果を含む下流側ダム9Bに関する各種の情報が、第2の訓練用演算装置2Bの表示部23に表示されるとともに、第2の訓練用演算装置2Bから訓練装置3へと伝送される。
【0064】
このとき、ステップS1の処理およびステップS2の処理において計算されて第1の訓練用演算装置2Aから訓練装置3へと伝送された、上流側ダム9Aに関するダム水文量演算処理の結果や操作演算処理の結果を含む上流側ダム9Aに関する各種の情報が訓練装置3から取得されて第2の訓練用演算装置2Bの表示部23に表示される。
【0065】
そして、第2の訓練用演算装置2Bの表示部23に表示される現在の(言い換えると、現時点の)上流側ダム9Aおよび下流側ダム9Bに関する各種の情報を確認した訓練対象者により、入力部24を介して、ダムの放流設備の今後の(言い換えると、次時点の)操作内容として、下流側ダム9Bから放流すべき水量の値(「下流側ダム9Bからの全放流量の入力値」と呼ぶ)、または、下流側ダム9Bの放流設備1門ごとのゲート・バルブ開度(「下流側ダム9Bのゲート・バルブ開度の入力値」と呼ぶ)が入力される(ステップS7)。
【0066】
下流側ダム9Bからの全放流量の入力値は、第2の訓練用演算装置2Bの演算部22によって計算される下流側ダム9Bからの目標全放流量と同じでもよく、或いは、前記下流側ダム9Bからの目標全放流量とは異なる、訓練対象者が適切であると考える全放流量でもよい。下流側ダム9Bのゲート・バルブ開度の入力値は、第2の訓練用演算装置2Bの演算部22によって計算される下流側ダム9Bの放流設備1門ごとのゲート・バルブ目標開度と同じでもよく、或いは、前記下流側ダム9Bの放流設備1門ごとのゲート・バルブ目標開度とは異なる、訓練対象者が適切であると考えるゲート・バルブ開度でもよい。
【0067】
ステップS7の処理において、下流側ダム9Bの今後の(言い換えると、次時点の)放流方式が選択されるようにしてもよく、具体的には例えば、定水位放流方式,設定流量放流方式,一定率一定量放流方式,一定量放流方式,および定開度放流方式のうちのいずれかの放流方式から他の放流方式への変更が行われるようにしてもよい。
【0068】
上記のステップS1からステップS7までの処理を一纏まりのターンとして、訓練期間が終了するまで上記のステップS1からステップS7までの処理が繰り返し行われる。
【0069】
なお、2ターン目以降では、ステップS1およびステップS2の処理において、上流側ダム9Aについての訓練用データ34Aに設定/記録されている時系列の雨量やダム貯水池への流入量など、ならびに、前回のターンにおけるステップS1の処理の結果としての上流側ダム9Aのダム貯水池の貯水位およびステップS3の処理の結果としての上流側ダム9Aからの全放流量の入力値または上流側ダム9Aのゲート・バルブ開度の入力値が用いられて、ダム水文量演算処理が行われて上流側ダム9Aのダム貯水池の貯水位が計算され、また、操作演算処理が行われて上流側ダム9Aからの目標全放流量が算出されるとともに放流設備1門ごとの目標放流量が算出され、さらに、上流側ダム9Aの放流設備1門ごとのゲート・バルブ目標開度が計算される。
【0070】
2ターン目以降では、ステップS3の処理において、当該のターンにおいて第1の訓練用演算装置2Aの演算部22によって計算される上流側ダム9Aに関するダム水文量演算処理の結果や操作演算処理の結果を含む上流側ダム9Aに関する各種の情報と、前回のターンにおいて第2の訓練用演算装置2Bの演算部22によって計算されて訓練装置3へと伝送された下流側ダム9Bに関するダム水文量演算処理の結果や操作演算処理の結果を含む下流側ダム9Bに関する各種の情報が第1の訓練用演算装置2Aの表示部23に表示される。
【0071】
2ターン目以降では、ステップS5およびステップS6の処理において、下流側ダム9Bについての訓練用データ34Bに設定/記録されている時系列の雨量やダム貯水池への流入量など、ならびに、前回のターンにおけるステップS5の処理の結果としての下流側ダム9Bのダム貯水池の貯水位およびステップS7の処理の結果としての下流側ダム9Bからの全放流量の入力値または下流側ダム9Bのゲート・バルブ開度の入力値が用いられて、ダム水文量演算処理が行われて下流側ダム9Bのダム貯水池の貯水位が計算され、また、操作演算処理が行われて下流側ダム9Bからの目標全放流量が算出されるとともに放流設備1門ごとの目標放流量が算出され、さらに、下流側ダム9Bの放流設備1門ごとのゲート・バルブ目標開度が計算される。
【0072】
訓練終了後に、上流側ダム9Aと下流側ダム9Bとのそれぞれについて、ダム貯水池の貯水位が最高になった時点とダム貯水池からの全放流量が最大になった時点とのうちの少なくとも一方の時点から所定時間分過去の放流設備の操作内容(具体的には、全放流量の入力値またはゲート・バルブ開度の入力値)が第1/第2の訓練用演算装置2A,2Bの表示部23に表示されるようにしてもよい。これにより、訓練期間におけるダムの放流設備の操作内容が適切であったか否かを検証することができ、また、仮にダム貯水池の貯水位が高過ぎたりダム貯水池からの全放流量が過大であったりした場合にはそのような事態を回避するためのダムの放流設備の操作内容を検討することができる。
【0073】
ダム操作の訓練における時系列の進みの速さは、実際の時間と同じ速さとする(即ち、実際の1時間で訓練上の時間が1時間だけ進む)ようにしてもよく、或いは、実際の時間よりも速くする(例えば、実際の1時間で訓練上の時間が3~6時間程度進む)ようにしてもよい。
【0074】
複数の訓練用演算装置のうちの一部が教官用とされるようにしてもよい。例えば、第1の訓練用演算装置2Aを用いて教官が上流側ダム9Aの放流設備の操作を行い、第2の訓練用演算装置2Bを用いて訓練対象者が下流側ダム9Bの放流設備の操作の訓練を行うようにしてもよい。この場合、上流側ダム9Aを担当する教官が例えば下流側ダム9Bへの負荷が大きくなるように上流側ダム9Aの放流設備の操作を行い、下流側ダム9Bを担当する訓練対象者をトレーニングすることが考えられる。
【0075】
(ダムの放流設備の操作内容の推定)
ダム操作の訓練システム1が対象とする複数のダムのうちの一部のダムについて、前記一部のダムの訓練用演算装置の入力部24が用いられて訓練対象者によって放流設備の操作内容が入力される代わりに、機械学習された学習済みモデルによって放流設備の操作内容が推定されるようにしてもよい。学習済みモデルによって放流設備の操作内容が推定されるダムのことを「モデル操作ダム」と呼ぶ。
【0076】
この場合は、訓練装置用のダム操作の訓練プログラム33が実行されることにより、図4に示すように、訓練装置3内に、操作内容推定部35および学習部36がさらに形成される。
【0077】
操作内容推定部35は、現在の(言い換えると、現時点の)ダムの状況に基づいて、ダムの放流設備の今後の(言い換えると、次時点の)操作内容としての、ダムから放流すべき水量の値またはダムの放流設備1門ごとのゲート・バルブ開度の値を推定する。
【0078】
操作内容推定部35は、時点ごとのダム貯水池の貯水位と雨量(具体的には例えば、当該のダムへの流入量に影響を与えると考えられる地域に関する流域平均時間雨量)とダム貯水池への流入量と放流設備1門ごとのゲート・バルブ開度との組み合わせが入力されるとダムの放流設備の今後の(即ち、前記時点より後の)操作内容としてのダムから放流すべき水量の値またはダムの放流設備1門ごとのゲート・バルブ開度の値を出力するように過去の実績データに基づいて機械学習された学習済みモデル38を用いて、ダムの放流設備の今後の(言い換えると、次時点の)操作内容として、上流/下流側ダム9A,9Bから放流すべき水量の値、または、上流/下流側ダム9A,9Bの放流設備1門ごとのゲート・バルブ開度の値を推定する。
【0079】
学習済みモデル38は、学習部36によって作成されて、記憶部31に記憶されて格納される。
【0080】
学習部36は、ダム操作実績データベース37に記録・蓄積されている過去の実績データを用いて、ニューラルネットワークなどの公知の機械学習アルゴリズムによって学習済みモデル38を作成する。ダム操作実績データベース37は、記憶部31に記憶されて格納される。
【0081】
ダム操作実績データベース37は、学習用データとして、モデル操作ダムにおける過去の放流設備の操作に関する(言い換えると、過去における放流設備の操作において収集された)、時点ごとの、ダム貯水池の貯水位,雨量(具体的には例えば、当該のダムへの流入量に影響を与えると考えられる地域に関する流域平均時間雨量),ダム貯水池への流入量,および放流設備1門ごとのゲート・バルブ開度,ならびにダムの放流設備の今後の(即ち、前記時点より後の)操作内容としてのダムから放流すべき水量の値(「全放流量の実績値」と呼ぶ)またはダムの放流設備1門ごとのゲート・バルブ開度の値(「ゲート・バルブ開度の実績値」と呼ぶ)の組み合わせを含む実績データ群が記録・蓄積されているデータベースである。
【0082】
実績データ群を構成する上記の項目のうち、ダム貯水池の貯水位,雨量,ダム貯水池への流入量,および放流設備1門ごとのゲート・バルブ開度は入力データとして利用され、全放流量の実績値またはゲート・バルブ開度の実績値は教師データとして利用される。
【0083】
ダム操作実績データベース37は、複数時点のそれぞれにおける(言い換えると、過去における複数回の放流設備の操作ごとの)ダム貯水池の貯水位,雨量,ダム貯水池への流入量,放流設備1門ごとのゲート・バルブ開度,ならびにダムの放流設備の今後の操作内容としての全放流量の実績値またはゲート・バルブ開度の実績値の組み合わせを含む実績データの集合であり、つまり、ダム貯水池の貯水位,雨量,ダム貯水池への流入量,放流設備1門ごとのゲート・バルブ開度,ならびに全放流量の実績値またはゲート・バルブ開度の実績値が時系列的に対応づけられている時系列データとして構成される。
【0084】
学習部36は、現在の(言い換えると、現時点の)ダム貯水池の貯水位,雨量,ダム貯水池への流入量,および放流設備1門ごとのゲート・バルブ開度の組み合わせが入力されると、ダムの放流設備の今後の(言い換えると、次時点の)操作内容としての、ダムから放流すべき水量の値(「全放流量の推定値」と呼ぶ)またはダムの放流設備1門ごとのゲート・バルブ開度の値(「ゲート・バルブ開度の推定値」と呼ぶ)を出力するようにし、出力される全放流量の推定値またはゲート・バルブ開度の推定値と教師データとを比較することによって学習済みモデル38を学習させる。
【0085】
学習部36は、例えば、ニューラルネットワークを利用した機械学習・深層学習によってモデルの作成を行い、これにより、学習済みモデル38は、ニューラルネットワークによって構成される。
【0086】
ニューラルネットワークNは、図5に示すように、入力層,中間層(「隠れ層」とも呼ばれる),および出力層を有する。入力層は複数個のノードx1,x2,x3,x4,・・・を有し、中間層は複数個のノードy11,y12,y13,・・・およびノードy21,y22,y23,・・・を有し、出力層は複数個のノードz1,z2,・・・を有する。なお、図5に示す例における入力層,中間層,および出力層はあくまでも例(さらに言えば、概念図)であり、ニューラルネットワークNを構成する入力層,中間層,および出力層は種々の態様があり得る。例えば、中間層は、図5に示す例では2層(即ち、ノードy11,y12,y13,・・・によって構成される層およびノードy21,y22,y23,・・・によって構成される層)から構成されるようにしているが、これに限られず、1層から構成されるようにしてもよく、或いは、3層以上から構成されるようにしてもよい。また、出力層は、図5に示す例では複数個のノードz1,z2,・・・を有するようにしているが、1個のノードから構成されるようにしてもよい。
【0087】
入力層と中間層との間にあるノード間(図5に示す例では、ノードx1,x2,x3,x4,・・・とノードy11,y12,y13,・・・との間)の結合は各々が重みを持っており、また、中間層を構成する層別のノード間(図5に示す例では、ノードy11,y12,y13,・・・とノードy21,y22,y23,・・・との間)の結合は各々が重みを持っており、さらに、中間層と出力層との間にあるノード間(図5に示す例では、ノードy21,y22,y23,・・・とノードz1,z2,・・・との間)の結合は各々が重みを持っている。
【0088】
学習部36は、例えば、ダム貯水池の貯水位,雨量,ダム貯水池への流入量,および放流設備1門ごとのゲート・バルブ開度を入力層とするとともに全放流量の実績値/推定値またはゲート・バルブ開度の実績値/推定値を出力層とし、ダム操作実績データベース37に記録・蓄積されている実績データを学習用データとして用いて中間層に関する各種パラメータ(尚、ノード間の結合それぞれの重みを含む)について学習を行ってニューラルネットワークNを作成する。学習部36は、すなわち、ダム貯水池の貯水位と雨量とダム貯水池への流入量と放流設備1門ごとのゲート・バルブ開度との組み合わせに基づいて全放流量の推定値またはゲート・バルブ開度の推定値が教師データに倣って計算されるように中間層に関する各種パラメータの学習を行って学習済みモデル38を作成する。
【0089】
上流側ダム9Aについて学習済みモデル38によってダムの放流設備の操作内容が推定されるようにする場合は、1ターン目では、操作内容推定部35は、記憶部31に格納されている上流側ダム9Aについての訓練用データ34Aに設定/記録されている訓練開始時におけるダム貯水池の初期貯水位,雨量,ダム貯水池への流入量,および放流設備1門ごとの初期ゲート・バルブ開度の組み合わせデータを用いるとともに、記憶部31に記憶されている学習済みモデル38を用いて、上流側ダム9Aからの全放流量の推定値または上流側ダム9Aのゲート・バルブ開度の推定値を計算する。
【0090】
2ターン目以降では、操作内容推定部35は、前回のターンにおけるダムの状況および処理の結果に基づいて第1の訓練用演算装置2Aの演算部22によってダム水文量演算処理が行われて計算される上流側ダム9Aのダム貯水池の貯水位、ならびに、記憶部31に格納されている上流側ダム9Aについての訓練用データ34Aに設定/記録されている雨量およびダム貯水池への流入量、さらに、前回のターンにおける推定処理の結果としての上流側ダム9Aからの全放流量の推定値(具体的には、当該全放流量の推定値に基づくゲート・バルブ開度)または上流側ダム9Aのゲート・バルブ開度の推定値の組み合わせデータを用いるとともに、記憶部31に記憶されている学習済みモデル38を用いて、上流側ダム9Aからの全放流量の推定値または上流側ダム9Aのゲート・バルブ開度の推定値を計算する。
【0091】
操作内容推定部35によるこれらの処理は、上記のステップS2およびステップS3の処理に対応する処理であり、第1の訓練用演算装置2Aの演算部22や入力部24による処理の代わりに行われる。
【0092】
そして、ダム間流量計算部32により、上流側ダム9Aからの全放流量の推定値に基づいて、或いは、上流側ダム9Aのゲート・バルブ開度の推定値に基づいて計算される上流側ダム9Aからの全放流量に基づいて、上流側ダム9Aの操作が下流側ダム9Bの状況/操作に与える影響として、上流側ダム9Aからの放流量に起因する下流側ダム9Bへの流入量(即ち、放流起因流入量)が計算される。ダム間流量計算部32によるこの処理は、上記のステップS4の処理に対応する処理として行われる。
【0093】
また、下流側ダム9Bについて学習済みモデル38によってダムの放流設備の操作内容が推定されるようにする場合は、1ターン目では、操作内容推定部35は、記憶部31に格納されている下流側ダム9Bについての訓練用データ34Bに設定/記録されている訓練開始時におけるダム貯水池の初期貯水位,雨量,ダム貯水池への流入量,および放流設備1門ごとの初期ゲート・バルブ開度の組み合わせデータ、ならびに、下流側ダム9Bへの放流起因流入量を用いるとともに、記憶部31に記憶されている学習済みモデル38を用いて、下流側ダム9Bからの全放流量の推定値または下流側ダム9Bのゲート・バルブ開度の推定値を計算する。この際、下流側ダム9Bについての訓練用データ34Bに設定/記録されているダム貯水池への流入量に下流側ダム9Bへの放流起因流入量が加えられた流入量が学習済みモデル38へと入力されるダム貯水池への流入量として用いられる。
【0094】
2ターン目以降では、操作内容推定部35は、前回のターンにおけるダムの状況および処理の結果に基づいて第2の訓練用演算装置2Bの演算部22によってダム水文量演算処理が行われて計算される下流側ダム9Bのダム貯水池の貯水位、ならびに、記憶部31に格納されている下流側ダム9Bについての訓練用データ34Bに設定/記録されている雨量およびダム貯水池への流入量、また、下流側ダム9Bへの放流起因流入量、さらに、前回のターンにおける推定処理の結果としての下流側ダム9Bからの全放流量の推定値(具体的には、当該全放流量の推定値に基づくゲート・バルブ開度)または下流側ダム9Bのゲート・バルブ開度の推定値の組み合わせデータを用いるとともに、記憶部31に記憶されている学習済みモデル38を用いて、下流側ダム9Bからの全放流量の推定値または下流側ダム9Bのゲート・バルブ開度の推定値を計算する。この際、下流側ダム9Bについての訓練用データ34Bに設定/記録されているダム貯水池への流入量に下流側ダム9Bへの放流起因流入量が加えられた流入量が学習済みモデル38へと入力されるダム貯水池への流入量として用いられる。
【0095】
操作内容推定部35によるこれらの処理は、上記のステップS6およびステップS7の処理に対応する処理であり、第2の訓練用演算装置2Bの演算部22や入力部24による処理の代わりに行われる。
【0096】
実施の形態に係るダム操作の訓練システム1によれば、第1/第2の訓練用演算装置2A,2Bの表示部23に上流側ダム9Aと下流側ダム9Bとのそれぞれに関する各種の情報が表示され且つ上流側ダム9Aからの放流量に基づく下流側ダム9Bへの流入量(即ち、放流起因流入量)が反映される状況で訓練が行われるので、同一水系に設けられている複数のダムそれぞれの情報/状況を確認して前記複数のダムの間の連動/連携を含むダム操作の訓練を行うことが可能となる。
【0097】
実施の形態に係るダム操作の訓練システム1によれば、訓練用データ34A,34Bに記録されている時系列の雨量や川からダム貯水池への流入量が任意の倍率で調整されたり任意の値に設定されたりするようにした場合には、非常に厳しい状況を含む様々な状況を想定したうえで複数のダムを対象としてダム操作の訓練を行うことが可能となる。
【0098】
実施の形態に係るダム操作の訓練システム1によれば、第1/第2の訓練用演算装置2A,2Bの入力部24を介してダムの放流設備の操作内容が入力される代わりに実績データに基づいて機械学習された学習済みモデル38によってダムの放流設備の操作内容を推定するようにした場合には、同一水系に設けられているダムの数と同じ人数の訓練対象者が揃わなくても複数のダムを対象としてダム操作の訓練を行うことが可能となる。
【0099】
実施の形態に係るダム操作の訓練システム1によれば、訓練終了後にダムの貯水位が最高になった時点やダムからの放流量が最大になった時点から所定時間分過去のダムの放流設備の操作内容を表示部に表示するようにした場合には、ダムの放流設備の操作内容が適切であったか否かを検証したり、ダムの放流設備の適切な操作内容を検討したりすることが可能となる。
【0100】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0101】
具体的には、上記の実施の形態では図2に示すような同一水系に設けられている上流側ダム9Aおよび下流側ダム9Bの操作を対象として訓練を行う場合を例に挙げているが、この発明に係るダム操作の訓練システムが対象とし得る複数のダムは、図2に示す例に限定されるものではなく、例えば、図6に示すような第1の上流側ダム91Aおよび第2の上流側ダム91Bならびに下流側ダム91C(即ち、第1の上流側ダム91Aの放流設備の操作に伴う当該第1の上流側ダム91Aからの放流量および第2の上流側ダム91Bの放流設備の操作に伴う当該第2の上流側ダム91Bからの放流量が下流側ダム91Cへの流入量に影響を与えて延いては下流側ダム91Cの放流設備の操作に影響を与える関係にある複数のダム)でもよく、また、図7に示すような第1の上流側ダム92Aおよび第1の下流側ダム92Bならびに第2の上流側ダム92Cおよび第2の下流側ダム92Dならびに第3の下流側ダム92E(即ち、第1の上流側ダム92Aの放流設備の操作に伴う当該第1の上流側ダム92Aからの放流量が第1の下流側ダム92Bへの流入量に影響を与えて延いては第1の下流側ダム92Bの放流設備の操作に影響を与え、また、第2の上流側ダム92Cの放流設備の操作に伴う当該第2の上流側ダム92Cからの放流量が第2の下流側ダム92Dへの流入量に影響を与えて延いては第2の下流側ダム92Dの放流設備の操作に影響を与え、さらに、第1の下流側ダム92Bの放流設備の操作に伴う当該第1の下流側ダム92Bからの放流量および第2の下流側ダム92Dの放流設備の操作に伴う当該第2の下流側ダム92Dからの放流量が第3の下流側ダム92Eへの流入量に影響を与えて延いては第3の下流側ダム92Eの放流設備の操作に影響を与える関係にある複数のダム)でもよい。この発明に係るダム操作の訓練システムは、すなわち、上流のダムからの放流量が下流のダムへの流入量に影響を与えるような上流のダムと下流のダムとの組み合わせを少なくとも一つ含む複数のダムを対象とし得る。
【符号の説明】
【0102】
1 ダム操作の訓練システム
2A 第1の訓練用演算装置
2B 第2の訓練用演算装置
21 記憶部
22 演算部
23 表示部
24 入力部
25A 上流側ダム用のダム操作の訓練プログラム
25B 下流側ダム用のダム操作の訓練プログラム
3 訓練装置
31 記憶部
32 ダム間流量計算部
33 訓練装置用のダム操作の訓練プログラム
34A 上流側ダムについての訓練用データ
34B 下流側ダムについての訓練用データ
35 操作内容推定部
36 学習部
37 ダム操作実績データベース
38 学習済みモデル
9A 上流側ダム
9B 下流側ダム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7