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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162008
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び自動車用部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20231031BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C08L23/00
C08L21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072709
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】荒井 貴大
(72)【発明者】
【氏名】高森 義久
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB01Y
4J002AB02Y
4J002AH00Y
4J002BB03W
4J002BB04W
4J002BB05W
4J002BB05X
4J002BB06W
4J002BB07X
4J002BB08X
4J002BB12W
4J002BB14W
4J002BB14X
4J002BB15W
4J002BD05X
4J002BP01X
4J002CF10X
4J002CK03X
4J002CK04X
4J002CL08X
4J002DE056
4J002DE076
4J002DE086
4J002DE116
4J002DE226
4J002DE236
4J002EN026
4J002EN036
4J002EN106
4J002EU076
4J002EV236
4J002FD01Y
4J002FD206
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】バイオマス由来のフィラーを含む樹脂組成物において、臭気の発生及びこれに起因するフォギングを抑制すること、及び、このような樹脂組成物を備えた自動車用部材を提供すること。
【解決手段】樹脂組成物は、オレフィン系熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーと、バイオマス由来のフィラーと、前記フィラーから発生する揮発性有機化合物(VOC)を化学的に吸着させるための化学吸着剤とを含む。前記フィラーの平均粒径は、1μm以上500μm以下が好ましい。自動車用部材は、本発明に係る樹脂組成物を備えている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーと、
バイオマス由来のフィラーと、
前記フィラーから発生する揮発性有機化合物(VOC)を化学的に吸着させるための化学吸着剤と
を含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記フィラーの平均粒径は、1μm以上500μm以下である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
次の式(1)を満たす請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
0<X≦60mass% …(1)
但し、X(mass%)は、前記樹脂組成物の総質量に対する、前記フィラーの質量の割合。
【請求項4】
次の式(2)を満たす請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
0.1≦Y≦15mass% …(2)
但し、Y(mass%)は、前記樹脂組成物の総質量に対する、前記化学吸着剤の質量の割合。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を備える自動車用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び自動車用部材に関し、さらに詳しくは、オレフィン系熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマー内にバイオマス由来のフィラーが分散している樹脂組成物、及び、これを備えた自動車用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンに代表されるオレフィン系熱可塑性樹脂は、強度、耐衝撃性、耐熱性等に優れているため、各種の用途に用いられている。特に、ポリプロピレンにフィラーを分散させたフィラー強化ポリプロピレン(PPF)は、剛性が高く、耐衝撃性にも優れているため、自動車用内装部品の材料として賞用されている。PPFのようなフィラー強化プラスチックは、一般に、樹脂とフィラーの混合物を高温で成形加工することにより製造されている。
【0003】
近年、地球環境の保全のために、持続可能な開発が求められている。フィラー強化プラスチックにおいても、樹脂だけでなく、フィラーに対してもバイオマス資源を活用することが望まれている。バイオマス由来のフィラーとしては、例えば、ホタテ貝殻、卵殻、木、パルプ、竹、バガス、もみ殻などがある。しかしながら、バイオマス由来のフィラーを樹脂と共に高温で混練した場合、バイオマス由来のフィラー(特に、セルロースを含有するフィラー)から著しい臭気が発生し、作業環境が悪化する場合があった。
【0004】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、融点が150℃以上のポリプロピレン樹脂(A)と、融点が110℃以上150℃未満のポリプロピレン樹脂(B)と、バイオマス材料(C)とを含むポリプロピレン樹脂組成物が開示されている。
同文献には、
(a)ポリプロピレン樹脂(B)の融点を150℃未満にすることにより、ポリプロピレン樹脂組成物を成形するときの温度を比較的低くすることができる点、及び、
(b)これによって臭気の発生を抑制し、かつ、成形性や製品の品質を確保することができる点
が記載されている。
【0005】
特許文献1には、バイオマス由来のフィラーを含むフィラー強化樹脂を成形する場合において、成形温度を低くすると、臭気の発生を抑制できる点が記載されている。しかしながら、成形温度の低下のみで臭気の発生を完全に抑制するのは難しい。さらに、成形後においても、成形体から臭気成分が発生し、フォギングの原因となる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-050270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、バイオマス由来のフィラーを含む樹脂組成物において、臭気の発生及びこれに起因するフォギングを抑制することにある。
本発明が解決しようとする他の課題は、このような樹脂組成物を備えた自動車用部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係る樹脂組成物は、
オレフィン系熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーと、
バイオマス由来のフィラーと、
前記フィラーから発生する揮発性有機化合物(VOC)を化学的に吸着させるための化学吸着剤と
を含む。
【0009】
本発明に係る自動車用部材は、本発明に係る樹脂組成物を備えている。
【発明の効果】
【0010】
オレフィン系熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマー内にバイオマス由来のフィラーを分散させる場合において、原料中に化学吸着剤をさらに添加すると、加熱された原料又は成形体から揮発性有機化合物(VOC)が発生した場合であっても、化学吸着剤がVOCをトラップする。その結果、VOCに起因する臭気の発生及びこれに起因するフォギングを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 樹脂組成物]
本発明に係る樹脂組成物は、
オレフィン系熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーと、
バイオマス由来のフィラーと、
前記フィラーから発生する揮発性有機化合物(VOC)を化学的に吸着させるための化学吸着剤と
を含む。
【0012】
[1.1. 主成分]
[1.1.1. オレフィン系熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマー]
樹脂組成物のマトリックスは、オレフィン系熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーで構成される。樹脂組成物は、オレフィン系熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーのいずれか一方を含むものでも良く、あるいは、双方を含むものでも良い。
【0013】
本発明において、オレフィン系熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーの種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。オレフィン系熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーとしては、具体的には、以下のようなものがある。樹脂組成物は、以下のいずれか1種のオレフィン系熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーを含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
さらに、以下に示すオレフィン系熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーは、それぞれ、化石燃料由来オレフィンを原料に用いて合成されたものでも良く、あるいは、バイオマス由来オレフィンを原料に用いて合成されたものでも良い。
【0014】
[1.1.1.1. オレフィン系熱可塑性樹脂の具体例]
(A)ポリエチレン樹脂:
ポリエチレン樹脂としては、例えば、
(a)高密度ポリエチレン、
(b)直鎖状低密度ポリエチレン、
(c)低密度ポリエチレン
などがある。
直鎖状低密度ポリエチレンは、エチレンと、少量のα-オレフィンとを共重合させることにより得られる。α-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテンなどがある。
【0015】
(B)ポリプロピレン樹脂:
ポリプロピレン樹脂としては、例えば、
(a)ホモポリプロピレン(H-PP)、
(b)H-PPとポリエチレン(PE)との界面に相溶化剤(例えば、エチレンプロピレンラバー(EPR))が存在するブロックポリプロピレン(B-PP)、
(c)プロピレン-α-オレフィン共重合体(R-PP)
などがある。
プロピレン-α-オレフィン共重合体を構成するα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンなどがある。
【0016】
(C)エチレン-酢酸ビニル共重合体。
エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)は、エチレンと、酢酸ビニルとの共重合体である。EVA中の酢酸ビニルの含有量は、通常、10~40mass%である。
【0017】
[1.1.1.2. 熱可塑性エラストマーの具体例]
(D)オレフィン系熱可塑性エラストマー:
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、
(a)エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとの共重合体、
(b)エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、
(c)スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の各種ビニル化合物をコモノマーとするエチレン系共重合体、
(d)プロピレンと炭素数4~20のα-オレフィンとの共重合体、
(e)プロピレンと炭素数4~20のα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、
(f)スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の各種ビニル化合物をコモノマーとするプロピレン系共重合体、
(g)ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群から選ばれる少なくとも1つと、ポリブタジエン、水素添加ポリブタジエン、ポリイソプレン、水素添加ポリイソプレン、ポリイソブチレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、水素添加スチレンブタジエン、α-オレフィン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1つとの混合物
などがある。
【0018】
オレフィン系熱可塑性エラストマーが共重合体である場合、共重合の形態は、ブロック共重合、グラフト共重合のいずれでも良い。
また、オレフィン系熱可塑性エラストマーは、酸無水物基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、アルコキシシリル基、シラノール基、シリルエーテル基、ヒドロキシル基、及び、エポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基で変性されていても良い。
【0019】
(E)スチレン系熱可塑性エラストマー:
スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレンの重合体又は共重合体のブロックと、共役ジエン化合物の重合体又は共重合体ブロックとを有するブロックコポリマーである。共役ジエン化合物としては、例えば、イソプレン、ブタジエンなどがある。さらに、スチレン系熱可塑性エラストマーは、二重結合部分に水素添加されているものでも良い。
【0020】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、
(a)スチレン-イソプレンブロック共重合体、
(b)スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、
(c)スチレン-ブタジエンブロック共重合体、
(d)スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、
(e)スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、
(f)スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、
(g)スチレン-エチレン/ブチレンブロック共重合体(SEB)、
(h)スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)、
(i)スチレン-エチレン/ブチレン-結晶性オレフィンブロック共重合体(SEBC)
などがある。
【0021】
(F)塩化ビニル系熱可塑性エラストマー:
塩化ビニル系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメント及びソフトセグメントの双方がポリ塩化ビニルからなるエラストマーである。
【0022】
(G)ポリウレタン系熱可塑性エラストマー:
ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントがポリウレタンからなり、ソフトセグメントがポリエーテル、ポリエステル等からなるエラストマーである。
【0023】
(H)ポリエステル系熱可塑性エラストマー:
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントがポリエステルからなり、ソフトセグメントがポリエーテルからなるエラストマーである。
【0024】
(I)ポリアミド系熱可塑性エラストマー:
ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントがポリアミドからなり、ソフトセグメントがポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)などからなるエラストマーである。
【0025】
[1.1.2. フィラー]
[A. 材料]
フィラーは、オレフィン系熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーからなるマトリックス内に分散している。本発明において、「フィラー」とは、バイオマス由来のフィラーをいう。
フィラーは、特に、セルロースを含有するフィラー、換言すれば、植物由来(リグノセルロース系バイオマス由来、又は、セルロース系バイオマス由来)のフィラーが好ましい。セルロースを含有するフィラーとしては、具体的には、以下のようなものがある。樹脂組成物は、以下のいずれか1種のフィラーを含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0026】
セルロース系バイオマス由来のフィラーとしては、例えば、
(a)木材パルプをアルカリ処理し、機械的に細断したアルファ繊維フロック、
(b)綿実から得られるコットンリンター、コットンフロック、
(c)人絹を細断した人絹フロック
などがある。
【0027】
リグノセルロース系バイオマス由来のフィラーとしては、例えば、
(a)木材パルプ、リファイナー・グラフト・パルプ(RGP)、製紙パルプ、古紙、
(b)粉砕処理した木片、
(c)松、モミ、ポプラ、竹、バガス、オイルパームの樹幹などの粉砕物、鋸屑、カンナ屑などからなる木粉、
(d)クルミ、ピーナッツ、ヤシ等の果実の粉砕物からなる果実穀粉
(e)もみ殻の粉末、
などがある。
【0028】
さらに、フィラーは、
(a)セルロース系バイオマスの水酸基に、多塩基酸無水物が付加されたエステル化セルロース系バイオマス、
(b)リグノセルロース系バイオマスの水酸基に、多塩基酸無水物が付加されたエステル化リグノセルロース系バイオマス、
(c)セルロース系バイオマスの水酸基に、多塩基酸無水物とモノエポキシ化合物とが付加されたオリゴエステル化セルロース系バイオマス、
(d)リグノセルロース系バイオマスの水酸基に、多塩基酸無水物とモノエポキシ化合物とが付加されたオリゴエステル化リグノセルロース系バイオマス、
(e)セルロース系バイオマスの水酸基に、多塩基酸無水物と多価アルコールとが付加されたオリゴエステル化セルロース系バイオマス、又は、
(f)リグノセルロース系バイオマスの水酸基に、多塩基酸無水物と多価アルコールとが付加されたオリゴエステル化リグノセルロース系バイオマス
に由来するものでも良い。
【0029】
[B. 形状]
本発明において、フィラーの形状は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な形状を選択することができる。フィラーの形状としては、例えば、球状、針状、板状などがある。
【0030】
[C. 平均粒径]
「フィラーの平均粒径」とは、レーザー回折散乱法により測定されたメディアン径(D50)をいう。
本発明において、フィラーの平均粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。
【0031】
一般に、フィラーの平均粒径が小さくなりすぎると、フィラーの均一分散が困難になる場合がある。従って、フィラーの平均粒径は、1μm以上が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、5μm以上、さらに好ましくは、10μm以上である。
一方、フィラーの平均粒径が大きくなりすぎると、樹脂組成物の機械物性が低下する場合がある。従って、フィラーの平均粒径は、500μm以下が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、350μm以下、さらに好ましくは、200μm以下である。
【0032】
[1.1.3. 化学吸着剤]
「化学吸着剤」とは、樹脂組成物又はこれを製造するための原料混合物に対して加熱、光照射等を行った時に、主としてフィラーから発生する揮発性有機化合物(VOC)を化学的に吸着することが可能な反応性を備えた化合物(添加剤)をいう。VOCとしては、例えば、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類などがある。化学吸着剤としては、具体的には、以下のようなものがある。樹脂組成物は、以下のいずれか1種の化学吸着剤を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0033】
(A)アミノ基又はアミド基を有する有機化合物からなる化学吸着剤:
アミノ基を有する有機化合物からなる化学吸着剤としては、例えば、アルキルアミン、テトラメチレンジアミン、エタノールアミン、ピペリジンなどがある。
アミド基を有する化合物からなる化学吸着剤としては、例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などがある。
【0034】
(B)塩基性の無機化合物からなる化学吸着剤:
塩基性の無機化合物からなる化学吸着剤としては、例えば、
(a)水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化鉄などの水酸化物、
(b)酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウムなどの塩基性酸化物、
(c)炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウムなどの炭酸塩若しくは炭酸水素塩
などがある。
【0035】
これらの中でも、酸化カルシウムは、VOC及びガラス曇り成分の吸着効果に優れているので、化学吸着剤として好適である。例えば、熱や光などでアルデヒドが酸化されてカルボン酸になると、速やかに酸化カルシウムがカルボン酸を吸着する。酸化カルシウムは、鉱物由来のものでも良く、あるいは、生物由来のもの(例えば、ホタテ貝殻や卵殻の焼成品)でも良い。
フィラーの中でも木粉は、吸湿性が高いため、熱をかけると油脂の分解が起きやすく、高級脂肪酸が遊離する。その影響で油脂分解物が揮発すると考えられる。これに対し、フィラーとして木粉を含む樹脂組成物に対し、酸化カルシウムをさらに添加すると、酸化カルシウムが油脂分解物を化学的に吸着する。その結果、臭気やガラスの曇りが抑制されると考えられる。
【0036】
化学吸着剤は、樹脂組成物に直接、添加されていても良い。あるいは、化学吸着剤を無機多孔体の表面に担持させ、これを樹脂組成物に添加しても良い。
無機多孔体は、その表面に多数の細孔を有する無機化合物である限りにおいて、特に限定されない。無機多孔体の材料としては、例えば、ゼオライト、二酸化ケイ素、活性炭、チタニア、リン酸カルシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどがある。また、無機多孔体の形状としては、例えば、球状、棒状、楕円状などがある。
【0037】
[1.2. 副成分]
本発明に係る樹脂組成物は、上述した主成分及び不可避的不純物のみからなるものでも良く、あるいは、これらに加えて、各種の副成分が含まれていても良い。副成分としては、具体的には、以下のようなものがある。
【0038】
[1.2.1. 相溶化剤]
本発明に係る樹脂組成物は、相溶化剤を含んでいても良い。
「相溶化剤」とは、オレフィン系熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーとフィラーとを相溶させるための添加剤をいう。本発明において、相溶化剤は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。相溶化剤としては、具体的には、以下のようなものがある。樹脂組成物は、これらのいずれか1種の相溶化剤を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0039】
(A)飽和カルボン酸系相溶化剤:
飽和カルボン酸系相溶化剤としては、例えば、飽和カルボン酸、飽和カルボン酸の誘導体などがある。
飽和カルボン酸としては、例えば、無水コハク酸、コハク酸、無水フタル酸、フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水アジピン酸などがある。
飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば、飽和カルボン酸の金属塩、アミド、イミド、エステルなどがある。
【0040】
(B)不飽和カルボン酸系相溶化剤:
不飽和カルボン酸系相溶化剤としては、例えば、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体、不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂などがある。
不飽和カルボン酸としては、例えば、無水マレイン酸、マレイン酸、無水ナジック酸、無水イタコン酸、イタコン酸、無水シトラコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸、ソルビン酸、アクリル酸などがある。
不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば、不飽和カルボン酸の金属塩、アミド、イミド、エステルなどがある。
【0041】
[1.2.2. 酸化防止剤]
本発明に係る樹脂組成物は、酸化防止剤を含んでいても良い。
「酸化防止剤」とは、ラジカルによる樹脂組成物の酸化を抑制するための添加剤をいう。酸化防止剤としては、例えば、ラジカルを捕捉する機能を有するフェノール系酸化防止剤、過酸化水素を分解する機能を有するリン系酸化防止剤などがある。本発明に係る樹脂組成物は、これらのいずれか1種の酸化防止剤を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0042】
[1.2.3. 耐候剤]
本発明に係る樹脂組成物は、耐候剤を含んでいても良い。
「耐候剤」とは、太陽光、温度、湿度、雨等の屋外の自然環境による樹脂組成物の劣化を抑制するための添加剤をいう。耐候剤としては、例えば、紫外線を吸収するための紫外線吸収剤、紫外線により発生したラジカルを安定化させるための光安定剤などがある。本発明に係る樹脂組成物は、これらのいずれか1種の耐候剤を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0043】
[1.2.4. その他の副成分]
本発明に係る樹脂組成物は、上記以外の副成分をさらに含んでいても良い。
その他の副成分としては、例えば、造核剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、スリップ剤、抗ブロッキング剤、防曇剤、中和剤、金属不活性剤、界面活性剤、着色剤、抗菌・防カビ剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、充填剤、発泡剤、架橋剤、導電剤、防腐剤、芳香剤、消臭剤、防虫剤などがある。樹脂組成物は、これらのいずれか1種の副成分をさらに含むものでも良く、あるいは、2種以上をさらに含むものでも良い。
【0044】
[1.3. 組成]
[1.3.1. フィラーの含有量]
本発明に係る樹脂組成物は、次の式(1)を満たすものが好ましい。
0<X≦60mass% …(1)
但し、X(mass%)は、前記樹脂組成物の総質量に対する、前記フィラーの質量の割合。
【0045】
一般に、Xが小さくなりすぎると、機械物性が低下する場合がある。従って、Xは、0超が好ましい。Xは、さらに好ましくは、5mass%以上、さらに好ましくは、10mass%以上である。
一方、Xが大きくなりすぎると、オレフィン系熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマー内にフィラーを均一に分散させるのが困難となる場合がある。従って、Xは、60mass%以下が好ましい。Xは、さらに好ましくは、50%以下、40%以下、あるいは、30%以下である。
【0046】
[1.3.2. 化学吸着剤の含有量]
本発明に係る樹脂組成物は、次の式(2)を満たすものが好ましい。
0.1≦Y≦15mass% …(2)
但し、Y(mass%)は、前記樹脂組成物の総質量に対する、前記化学吸着剤の質量の割合。
【0047】
Yが小さくなりすぎると、臭気の発生やフォギングを抑制するのが困難となる場合がある。従って、Yは、0.1mass%以上が好ましい。Zは、さらに好ましくは、0.3mass%以上、0.5mass%以上、あるいは、1.0mass%以上である。
一方、Yが大きくなりすぎると、化学吸着剤としての効果が飽和するだけでなく、機械物性が低下する場合がある。従って、Yは、15mass%以下が好ましい。Yは、さらに好ましくは、10mass%以下、9mass%以下、8mass%以下、7mass%以下、6mass%以下、5mass%以下、4mass%以下、あるいは、3mass%以下である。
【0048】
[1.3.2. 副成分の含有量]
本発明に係る樹脂組成物は、フィラー及び化学吸着剤を含み、残部がオレフィン系熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマー、並びに、不可避的不純物からなるものでも良い。あるいは、本発明に係る樹脂組成物は、フィラー、化学吸着剤、及び、1種又は2種以上の副成分を含み、残部がオレフィン系熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマー、並びに、不可避的不純物からなるものでも良い。
樹脂組成物が副成分を含む場合、副成分の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な含有量を選択することができる。
【0049】
[1.4. 用途]
本発明に係る樹脂組成物は、各種の用途に用いることができる。本発明に係る樹脂組成物の用途としては、例えば、
(a)自動車用部材、
(b)射出成形体を製造するための原料となるペレット、
(c)フィラーを高濃度に分散させたマスターバッチ
などがある。
【0050】
本発明に係る樹脂組成物を備えた自動車用部材としては、例えば、
(a-1)インストルメントパネル、トリム、デッキボード、ピラー、エンジンカバーなどの内装部材、
(a-2)バンパー、モール、フェンダー、スパッツ、ウェザーストリップ、ガラスラン、ワイパーなどの外装部材
などがある。
【0051】
[2. 樹脂組成物の製造方法]
本発明に係る樹脂組成物は、
(a)所定の比率となるように主成分、及び、必要に応じて副成分を配合し、
(b)原料混合物を所定の温度で加熱しながら混練し、混練物を所定の形状に成形する
ことにより得られる。
【0052】
原料の加熱温度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な温度を選択することができる。一般に、加熱温度が高くなるほど、フィラーを均一分散しやすくなる。一方、加熱温度が高くなりすぎると、樹脂が変色したり、あるいは、フィラーから揮発性有機化合物(VOC)が発生しやすくなる。樹脂の変色やVOCの発生を抑制するためには、加熱温度は、200℃以下が好ましい。
【0053】
[3. 作用]
オレフィン系熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマー内にバイオマス由来のフィラーを分散させる場合において、原料中に化学吸着剤をさらに添加すると、加熱された原料又は成形体から揮発性有機化合物(VOC)が発生した場合であっても、化学吸着剤がVOCをトラップする。その結果、VOCに起因する臭気の発生及びこれに起因するフォギングを抑制することができる。
【実施例0054】
(実施例1~5、比較例1~3、参考例1~3)
[1. 試料の作製]
表1に示す原料を表1に示す割合となるように配合し、原料混合物を得た。原料混合物を二軸押出機で溶融混練し、ペレットを作製した。成形温度は、170℃とした。
次に、ペレットを射出成形機に投入し、試験片素材の射出成形を行った。射出成形温度は、180℃とした。得られた試験片素材から所定の大きさの試験片を切り出し、各種試験を実施した。
【0055】
なお、オレフィン系熱可塑性樹脂には、ブロックポリプロピレン(B-PP)(日本ポリプロ(株)製、BC04ASW)を用い、熱可塑性エラストマーには、エチレンオクテンラバー(EOR)(ダウ・ケミカル日本(株)製、ENGAGE8180)を用いた。
フィラーには、
(a)平均粒子径:70~150μmの木粉(実施例1~2、比較例1~3)(レッテンマイヤージャパン(株)製、ARBOCEL C-100)、
(b)平均粒子径:20~40μmの木粉(実施例3~5)(レッテンマイヤージャパン(株)製、ARBOCEL CW630PU)、又は、
(c)タルク(参考例1)(海城社製、SK-7800)
を用いた。
【0056】
相溶化剤には、無水マレイン酸系変性ポリプロピレン(ビックケミー・ジャパン(株)製、PRIEX 20097)を用いた。
化学吸着剤には、
(a)CaO系化学吸着剤(ビックケミー・ジャパン(株)製、BYK-MAX OR 4206、CaO含有量:10~20%)、
(b)CaO系化学吸着剤(ビックケミー・ジャパン(株)製、RECYCLOBYK 4371、CaO含有量:30~40%)、又は、
(c)アミン系化学吸着剤(大塚化学(株)製、H-6000HS)、
を用いた。
【0057】
さらに、その他の添加剤として、
(a)フェノール系酸化防止剤((株)ADEKA製、AO-60)、
(b)リン系酸化防止剤((株)ADEKA製、2112)、及び、
(c)耐候剤(BASF(株)製、XT-855)
を用いた。
【0058】
【表1】
【0059】
[2. 試験方法]
[2.1. 機械物性]
[2.1.1. 比重]
JIS K 7112に準拠して、試験片の比重を測定した。
【0060】
[2.1.2. 曲げ強度]
ISO 178に準拠して、曲げ強度及び弾性率を測定した。
なお、曲げ強度は、20MPa以上が好ましい。曲げ強度は、より好ましくは、23MPa以上、さらに好ましくは、25MPa以上である。曲げ強度の上限は特にないが、通常は、80MPa以下である。
また、曲げ弾性率は、1000MPa以上が好ましい。曲げ弾性率は、より好ましくは、1200MPa以上、さらに好ましくは、1400MPa以上である。曲げ弾性率の上限は特にないが、通常は、8000MPa以下である。
【0061】
[2.1.3. 衝撃値]
ISO 179/1eAに準拠して、シャルピー衝撃試験を行った。試験条件は、23℃・ノッチ付き、又は、-30℃・ノッチ付きとした。
なお、23℃での衝撃値は、2.0kJ/m2以上が好ましい。23℃での衝撃値は、より好ましくは、3.0kJ/m2以上、さらに好ましくは、5.0kJ/m2以上である。23℃での衝撃値は、大きいほど良い。
また、-30℃での衝撃値は、1.2kJ/m2以上が好ましい。-30℃での衝撃値は、より好ましくは、1.5kJ/m2以上、さらに好ましくは、2.0kJ/m2以上である。-30℃での衝撃値は、大きいほど良い。
【0062】
[2.1.4. 荷重たわみ温度(HDT)]
ISO 75-2に準拠して、荷重たわみ温度(HDT)を測定した。曲げ応力(荷重)は、0.45MPaとした。
なお、HDTは、90℃以上が好ましい。HDTは、より好ましくは、100℃以上、さらに好ましくは、110℃以上である。HDTの上限は特にないが、通常は、200℃以下である。
【0063】
[2.2. 臭気特性]
[2.2.1. VOC]
揮発性有機化合物(VOC)の測定は、温度:23±2℃、湿度:50±5%RHの室内条件で実施した。試験片を作製してから14日以内に分析を行った。
10Lのテドラー(登録商標)バッグ内を純窒素ガスで3回充満させることで、バッグ内のガス置換を行った。試験片(100mm×80mm×t2mm)をバッグ内に投入して密封した。熱風式乾燥機でバッグを65℃で2時間加熱した後、バッグ内の揮発成分をシリカゲルに吸着させた。さらに、シリカゲルに吸着させた揮発成分を溶剤で抽出し、高速液体クロマトグラフ(HPLC)により分析した。標準試料との比較により、揮発成分(アルデヒド類)の総量を測定した。
【0064】
なお、VOCがHCHOである場合、揮発量は、1.0μg/個以下が好ましい。揮発量は、より好ましくは、0.5μg/個以下、さらに好ましくは、0.1μg/個以下である。HCHOの揮発量は、少ないほど良い。
また、VOCがCH3CHOである場合、揮発量は、1.6μg/個以下が好ましい。揮発量は、より好ましくは、1.0μg/個以下、さらに好ましくは、0.5μg/個以下である。CH3CHOの揮発量は、少ないほど良い。
【0065】
[2.2.2. ガラス霞み(フォギング)]
ガラス霞みの測定は、温度:23℃±2℃、湿度:50±5%RHの室温条件で実施した。試験片を作製してから14日以内に分析を行った。
ガラスプレートには、□47mm×t3mm(ガラス霞み度≦0.5%)のものを使用した。ガラス瓶内に試験片(100mm×25mm×t2mmを計2枚)を入れ、ガラスプレートで蓋をした。この状態で、ガラス瓶をオイルバスで80±2℃で20時間加熱した。試験終了から1時間後に、積分球式光線透過率測定装置にてガラスプレートのガラス霞み度(%)を測定した。
【0066】
なお、ガラス霞みは、5%以下が好ましい。ガラス霞みは、より好ましくは、3%以下、さらに好ましくは、1.5%以下である。ガラス霞みは、小さいほど良い。
【0067】
[3. 結果]
[3.1. 機械物性]
表2に、結果を示す。表2より、以下のことが分かる。
(1)参考例1は、機械的特性及び臭気特性ともに良好であったが、比重が1.0を超えた。これは、フィラーとして、タルクを用いているためと考えられる。
(2)参考例2、3は、臭気特性は良好であったが、弾性率が1400MPa未満となり、かつ、荷重たわみ温度も100℃未満に低下した。これは、フィラーを含まないためと考えられる。さらに、参考例3は、曲げ強度が25MPa未満に低下した。これは、エラストマー量を増加させたためと考えられる。
【0068】
(3)比較例1は、曲げ強度が25MPa以上、弾性率が1400MPa以上、-30℃における衝撃値が2.0kJ/m2以上を示した。しかしながら、比較例1は、室温における衝撃値が5kJ/m2未満に低下した。これは、相溶化剤を含まないために、フィラーが均一に分散しなかったためと考えられる。
また、比較例1は、CH3CHOの揮発量が1.60μg/個を超え、ガラス霞み度が5%を超えた。これは、化学吸着剤を含まないためと考えられる。
(4)比較例2~3は、フィラー及び相溶化剤を含むために、機械的特性は良好であった。しかしながら、比較例2~3は、臭気特性が悪化した。特に、比較例2は、HCHOの揮発量が1.00μg/個を超えた。これは、化学吸着剤を含まないためと考えられる。
【0069】
(5)比較例1~3のガラス霞み試験の際にガラスプレートに付着した成分を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)で分析した。その結果、比較例1~3のガラス霞みの由来は、主として脂肪酸エステルであることが分かった。
(6)実施例1~5は、機械的特性及び臭気特性がともに良好であった。但し、実施例3~5は、比重が1.0を超えた。これは、木粉の配合量が多いためである。
(7)CaO配合量が多くなるほど、CH3CHOの発生量が抑制される傾向が見られた。また、CaO系化学吸着剤とアミン系化学吸着剤とを併用すると、さらにCH3CHO発生量が抑制される傾向が見られた。
【0070】
【表2】
【0071】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る樹脂組成物は、射出成形体、射出成形体を製造するための原料となるペレット、フィラーを高濃度に分散させたマスターバッチなどに用いることができる。