特開 2023-162078 歯科用ハンドピース

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2023162078

(43)【公開日】2023-11-08

(54)【発明の名称】歯科用ハンドピース

(51)【国際特許分類】

   A61C 1/07 20060101AFI20231031BHJP

   A61C 1/05 20060101ALI20231031BHJP

   A61C 1/12 20060101ALI20231031BHJP

【ＦＩ】

A61C1/07 Z

A61C1/05 A

A61C1/12

【審査請求】未請求

【請求項の数】7

【出願形態】書面

(21)【出願番号】P 2022081912

(22)【出願日】2022-04-26

(71)【出願人】

【識別番号】504230246

【氏名又は名称】鈴木 計芳

(72)【発明者】

【氏名】鈴木 計芳

【テーマコード（参考）】

4C052

【Ｆターム（参考）】

4C052AA06

4C052AA20

4C052BB03

4C052CC02

4C052CC06

4C052CC13

4C052CC30

(57)【要約】

【課題】 歯科用ハンドピースと、痛みを力学的に軽減するためのエイクレス装置と、を一体化する。
【解決手段】 歯科用ハンドピース１は、歯の切削用刃具２を回転させるためのエアタービン３を備えた筐体１０と、この筐体に取り付けられた、エアタービン３のための給気通路１４を内蔵するハンドル側筐体１１とから成り、エアタービン３が回転バランスを壊すことで超音波振動を発するように設けられた羽車３０を備えている。羽車３０の回転バランスを壊すために、羽車３０の１０枚のブレードを回転対称に設けるのであるが、９枚のブレード３３の中に、１枚のより軽量なブレード３４を混在させた。
【選択図】図１

【特許請求の範囲】

【請求項1】

歯の切削用刃具を回転させるためのエアタービンを備えた筐体と、この筐体に取り付けられた、前記エアタービンのための給気通路を内蔵するハンドル側筐体とから成り、前記エアタービンが、回転バランスを壊すことで超音波振動を発するように設けられた羽車を備えている、歯科用ハンドピース。

【請求項2】

回転バランスを壊すべく前記羽車を構成する複数枚のブレードの中に他のブレードとは重さの異なるブレードが取り付けられている、請求項１に記載の歯科用ハンドピース。

【請求項3】

回転バランスを壊すべく前記羽車のブレード以外の回転部位に他の部位とは重さの異なる部位が設けられている、請求項１に記載の歯科用ハンドピース。

【請求項4】

回転バランスを壊すべく前記羽車を構成する複数枚のブレードの中に他のブレードとは空気抵抗の異なるブレードが設けられている、請求項１に記載の歯科用ハンドピース。

【請求項5】

回転バランスを壊すべく前記羽車の回転シャフトに偏心錘が取り付けられている、請求項１に記載の歯科用ハンドピース。

【請求項6】

回転バランスを壊すべく前記羽車を構成する複数枚のブレードが回転対称ではないように配設されている、請求項１に記載の歯科用ハンドピース。

【請求項7】

回転バランスを壊すべく前記エアタービンの前記羽車とこれを納めるタービンルームとが、一方の少なくとも一部が磁性体で、他方の一部が前記磁性体を吸引する磁石であるように構成されている、請求項１に記載の歯科用ハンドピース。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

この発明は切削用刃具に超音波振動を加えるようにしたエアタービン式の歯科用ハンドピースに関する。

【背景技術】

【0002】

エアタービン式の歯科用ハンドピースは、コンプレッサからの圧搾空気によりエアタービン内部の羽車を高速回転させて、この羽車に一般的には同軸で取り付けられている切削用刃具によって、虫歯の切削や除去を行う器具である。より詳しくは、筐体と、該筐体に内蔵された、歯の切削用刃具が設けられたエアタービンと、この筐体に取り付けた、エアタービンのための給気通路や排気通路などを内蔵するハンドル側筐体と、から成るものが一般的である。さらに洗浄水の噴霧口への洗浄水路や噴霧気路が設けられているものもある。なお噴霧気路に排気通路が接続される構成とする場合もある。なおコンプレッサからの圧搾空気は、チェアユニットのペダル等を含んで給気量を制御するための給気回路の、供給口に接続された給気チューブを介して供給される。

【0003】

歯科医師はこのような歯科用ハンドピースを用いて、チェアユニットのペダルを操作しつつ、高速回転させた切削用刃具で虫歯の切削を行うのである。この際に歯科治療の痛みを力学的に軽減する、エイクレス（登録商標、以下同様）と称呼される装置が併用されている。このものはおよそ６０ＫＨｚの超音波振動を発する一種のアクチュエータであり、プローブすなわちホーン部を切削する歯の側面に軽く当てるようにすることによって患者に与える痛みやストレスを少なくして治療することが可能となる。また治療に当たる歯科医師にとっては、リーミングやファイリングそのものが軽くなったり、切削用刃具からの騒音や発熱が少なくなったり、切削用刃具の寿命が延びたり、治療に要する時間が短縮したりするなどの利点がある。

【0004】

歯科治療の痛みを力学的に軽減する仕組みすなわち力学的麻酔法に付いては特開昭５８－０３６５４０号に詳しく開示されている。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0005】

【特許文献1】特開昭５８－０３６５４０号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0006】

このような利点があるにも拘らず、別々の装置である歯科用ハンドピースとエイクレス装置とを、同時に扱わなければならなかったり、患者の口腔内に一緒に入れなければならない制約があったりするなどの、煩雑な問題をなお抱えている。この発明の課題は上記のような問題点の解決にある。

【課題を解決するための手段】

【0007】

上記課題の解決に先立ち当発明者は、歯科用ハンドピースとエイクレス装置とを一体化することは出来ないものか、と思考した。

【0008】

鋭意研究開発の結果、この発明では、歯の切削用刃具を回転させるためのエアタービンを備えた筐体と、この筐体に取り付けられた、前記エアタービンのための給気通路を内蔵するハンドル側筐体とから成り、前記エアタービンが回転バランスを壊すことにより超音波振動を発するように設けられた羽車を備えている、歯科用ハンドピースを提供する。

【0009】

そもそもエアタービンの羽車というものは回転軸回りに回転対称に設けられているものである。それと言うのも羽車には何よりも円滑に回転することが求められているからである。この常識を破ったのがこの発明であり、敢えて回転バランスを壊すように設けられた羽車を備えている点に特徴を有する。円滑回転に対して回転バランスが壊れることによって、およそ６０ＫＨｚの超音波振動を発するように構成することが出来る。

【0010】

この超音波振動は、羽車に同軸で取り付けられている切削用刃具に伝えられ、回転する切削用刃具が超音波のホーン部となり、このホーン部に接触する歯に直に加えられることになる。すなわち切削用刃具を虫歯の切削を行うべく歯に接触させることで、虫歯に超音波振動が伝わり、患者に痛みを感じ難くさせることが出来るのである。従来のエイクレスはホーン部を切削する歯の側面に当てていたが、この発明では切削を行う虫歯の中に当てる点で大きく異なっている。従って、別々の装置である歯科用ハンドピースとエイクレス装置とを、同時に扱う必要もなければ患者の口腔内に一緒に入れる必要もなくなり、装置の取り回しが極めて楽なものとなっている。

【0011】

なお従来のエイクレスがホーン部を切削する歯の側面に当てるのに対して、この発明の歯科用ハンドピースが切削用刃具をホーン部として切削を行う虫歯の中に直接当てていることから、この方が痛みの軽減に関する効果がより高くなるのは明らかであろう。

【0012】

次に請求項１に記載の歯科用ハンドピースに於いて、回転バランスを壊すべく前記羽車を構成する複数枚のブレードの中に他のブレードとは重さの異なるブレードが取り付けられているものとすることが出来る。

【0013】

エアタービン内部の羽車には、比重が２．６～２．８のアルミニウム合金などの軽金属製のものが使用されている。あるいは比重が３．０～６．０のセラミックス製の羽車や、比重が７．９～８．９と言った重金属製の羽車も使用することが可能である。そこで例えば羽車が８枚のものであれば、７枚が軽金属製のものであり、１枚がセラミックス製のものであるような羽車を作るのである。これによって回転バランスが所望の程度に壊されており、回転軸が超音波振動を発生するような羽車を提供することが出来る。

【0014】

次に請求項１に記載の歯科用ハンドピースに於いて、回転バランスを壊すべく前記羽車のブレード以外の回転部位に他の部位とは重さの異なる部位が設けられているものとすることが出来る。

【0015】

羽車のブレード以外の回転部位には、複数枚のブレードを挟むように設けられた天板や底板が該当する。この天板や底板の一部に開孔すれば、その部位がある辺りは他の部位よりも軽くなり、あるいはその開孔部分に、より重い素材を嵌め込めば、そこの当りは他の部位よりも重くなる。この結果、所望の程度に回転バランスが壊されて超音波振動を回転軸から発生するような羽車を提供することが出来る。

【0016】

次に請求項１に記載の歯科用ハンドピースに於いて、回転バランスを壊すべく前記羽車を構成する複数枚のブレードの中に他のブレードとは空気抵抗の異なるブレードが設けられているものとすることが出来る。

【0017】

例えば羽車が８枚のブレードから成るものであれば、内７枚が従来通りのものであり、残りの１枚のブレードが他の７枚よりも風当りに対する面積が小さいものとなるような、そうした羽車を作るのである。あるいは例えば１枚のブレードが、空気抵抗がより大きくなるようなカーブを有するものとなるように設計するのである。これにより回転バランスが所望の程度に壊されており、回転軸が超音波振動を発生するような羽車を提供することが出来るのである。

【0018】

次に請求項１に記載の歯科用ハンドピースに於いて、回転バランスを壊すべく前記羽車の回転シャフトに偏心錘が取り付けられているものとすることが出来る。

【0019】

電動のバイブレータでは電動モータの回転軸に偏心錘が取り付けられている。このように回転軸に偏心錘を取り付けることにより、回転バランスが所望の程度に壊されており、回転軸が超音波振動を発生するような羽車を提供することが出来る。

【0020】

次に請求項１に記載の歯科用ハンドピースに於いて、回転バランスを壊すべく前記羽車を構成する複数枚のブレードが回転対称ではないように配設されているものとすることが出来る。

【0021】

例えば羽車が８枚のブレードから成るものは、羽車を右半分と左半分とに分けて見ればどちらも４枚ずつである。これを例えば右半分のブレードが４枚であり左半分のブレードが３枚であるように配設するのである。あるいは８枚のブレードの内の１枚のブレードを欠いたものとするのである。この構成により回転バランスが所望の程度に壊されており、回転軸が超音波振動を発生するような羽車を提供することが出来る。

【0022】

次に請求項１に記載の歯科用ハンドピースに於いて、回転バランスを壊すべく前記エアタービンの前記羽車とこれを納めるタービンルームとが、一方の少なくとも一部が磁性体で、他方の一部が前記磁性体を吸引する磁石であるように構成されているものとすることが出来る。

【0023】

このような構成でタービンの羽車が回転すると、磁石が磁性体との間で相対的な回転が生じることになる。そして磁石が磁性体の部位を通過する際には、磁石と磁性体との間で磁力による吸引力が発生する。この際に回転バランスが所望の程度に壊されており、回転軸が超音波振動を発生するような羽車を提供することが出来る。

【発明の効果】

【0024】

この発明の歯科用ハンドピースでは、切削用刃具を回転させるためのエアタービンが、回転バランスを壊すことにより超音波振動を発するように設けられた羽車を備えている点が特徴であり、歯科用ハンドピースとエイクレス装置との一体化に成功している。切削用刃具を虫歯に接触させると、超音波振動が切削用刃具を介して虫歯に伝わり、患者に痛みを感じ難くした状態で治療を行うことが出来る。

【0025】

なおこの他の作用効果として、切削用刃具で根管壁を切削する際に、切削用刃具に超音波振動が印加されている場合では、印加されていない場合と比較して、軽く楽に根管壁を切削することが出来ることが分かった。また高機能な切削用刃具ではないスチール製などの普通の切削用刃具の切削能力が高まることも分かった。これは正に超音波振動の賜物である。従ってこのような作用効果を欲するのであれば、エアタービンに、回転バランスを壊すことで超音波振動を発するように設けられた羽車を備えさせるようにした、この発明の構成をそのまま採用すれば良い。

【図面の簡単な説明】

【0026】

【図1】実施例１の歯科用ハンドピースの説明図である。

【図2】実施例１の羽車の説明図である。

【図3】実施例２の羽車を底面視した説明図である。

【図4】実施例３の羽車の説明図である。

【図5】実施例４の羽車の説明図である。

【図6】実施例４の羽車を底面視した説明図である。

【図7】実施例５の羽車の説明図である。

【図8】実施例６の歯科用ハンドピースの説明図である。

【発明を実施するための形態】

【0027】

以下ではこの発明の実施例を図面に基づいて説明するが、この発明はこれ等に限定されるものではない。

【実施例0028】

図１に表した歯科用ハンドピース１は、切削用刃具２を回転させるためのエアタービン３を備えた筐体１０と、この筐体に取り付けたエアタービン３のための給気通路１４や、給水通路１５を内蔵するハンドル側筐体１１とから成る。筐体１０に於いて、切削用刃具２が一体的に設けられたセラミックス製の羽車３０は、ボールベアリング１２によって、回転軸３１から回転自在であるように支持されている。切削用刃具２と羽車３０との境は段部３２となっている。切削用刃具２は、筐体１０の底部の開口部１３から筐体１０外に突出している。符号２０は切削用刃具２の先端部のやすり部を指す。

【0029】

ハンドル側筐体１１では、給気パイプ１７が接続された給気通路１４が、エアタービン３の羽車３０に向けて設けられている。エアタービン３は排気のために噴霧口１６に通じているが、この噴霧口１６には、歯の冷却のための水を通す給水通路１５が接続され、またこの給水通路１５には給水パイプ１８が接続されている。すなわちエアタービン３からの排気が給水通路１５からの水に合流して、噴霧口１６からは霧状の冷却水が放出されるように構成されている。

【0030】

エアタービン３の羽車３０は、給気通路１４からの圧搾空気により高速回転を行って、パワフルな駆動力を発揮する。なおエアタービン３の排気のための排気専用通路を、ハンドル側筐体１１の給気パイプ１７に添設するような構成も可能である。

【0031】

この羽車３０は１０枚のブレードが回転対称に設けられている。羽車３０は全体が比重３．０のセラミックス製に成るものであるが、１０枚の内１枚分だけ比重２．６のアルミニウム合金製のブレードが固着されている。すなわち９枚のブレード３３の中に、１枚のより軽量なブレード３４が混在したものとなっている。なおこれ等のブレード３３，３４は天板３５と底板３６とにより挟まれた構造を呈している。

【0032】

この構成によればエアタービン３は、１枚のブレード３４の混在によって回転時に都合良く超音波振動を発するように回転バランスが壊された羽車３０を備えていることになるのである。

【実施例0033】

図３はこの実施例の歯科用ハンドピース用の羽車４０を底面視にて表したものである。先端部にやすり部２０のある切削用刃具２は回転軸４１と同軸に設けられており、切削用刃具２と回転軸４１との境は段部４２となっている。図示しないブレードが回転軸４１と同軸の天板４３と底板４４との間に設けられている。

【0034】

そして回転バランスを壊すことにより超音波振動を発する羽車４０は、上記底板４４の一部に開孔した部位に錘４５を嵌め込むことによって実現されている。羽車４０の全体はアルミニウム製であるが、これよりも比重が大きなステンレススチールが上記錘４５として用いられている。