(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162106
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】水系塗膜剥離剤組成物と、これを用いた既存塗膜の除去方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20231031BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007725
(22)【出願日】2023-01-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2022072488
(32)【優先日】2022-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000251277
【氏名又は名称】スズカファイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136113
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寿浩
(72)【発明者】
【氏名】中西 功
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐介
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038BA022
4J038CG002
4J038EA011
4J038JA17
4J038JA25
4J038JA34
4J038KA06
4J038NA10
4J038NA27
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】ベンジルアルコールを使用した従来の水系塗膜剥離剤組成物に替わる水系塗膜剥離剤組成物であって、危険有害性が低く、且つ従来の水系塗膜剥離剤組成物と同等以上の塗膜剥離性を有する水系塗膜剥離剤組成物を提供する。
【解決手段】二液反応硬化型塗料に対する塗膜剥離性を有する剥離溶剤(A)として、p-メチルアセトフェノン、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートのうち、いずれか一方又は双方を10~50重量%含有し、その他の剥離溶剤(A)を実質的に含有していない。必要に応じて、二液反応硬化型塗料に対する塗膜剥離性を有しない塗膜非剥離性の水溶性補助溶剤(B)として、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを5~65重量%混合することもできる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水をベースとする水系の塗膜剥離剤組成物であって、
二液反応硬化型塗料に対する塗膜剥離性を有する剥離溶剤(A)として、p-メチルアセトフェノン、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートのうち、いずれか一方又は双方を含有し、
その他の剥離溶剤(A)を実質的に含有しておらず、
前記剥離溶剤(A)を10~50重量%含有する、水系塗膜剥離剤組成物。
【請求項2】
二液反応硬化型塗料に対する塗膜剥離性を有しない塗膜非剥離性の水溶性補助溶剤(B)として、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを5~65重量%含有する、請求項1に記載の水系塗膜剥離剤組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水系塗膜剥離剤組成物を、二液反応硬化型塗料からなる既存塗膜に塗布して該既存塗膜を膨潤軟化させた後、ケレン工具により前記水系塗膜剥離剤組成物と共に前記既存塗膜を掻き落とす、既存塗膜の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離溶剤としてベンジルアルコールを使用した従来の水系塗膜剥離剤組成物(以下、適宜「水系塗膜剥離剤」とも称す)に替わる水系塗膜剥離剤組成物であって、危険有害性が低く、且つ従来の水系塗膜剥離剤組成物と同等以上の塗膜剥離性を有する水系塗膜剥離剤組成物と、これを用いた二液反応硬化型塗料からなる既存塗膜の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄鋼製の建造物や構造物などには、美粧化、表面保護、特殊機能付与などを目的として表面に塗料を塗布し、塗膜が形成されている。しかしながら、塗膜は自然環境や使用環境に晒されることで経時劣化し、本来の目的を徐々に維持できなくなる。そのため、塗膜の機能を回復させる手段として塗替えを実施するが、その際、劣化した既存塗膜を除去しなければならない場合がある。既存塗膜の除去方法としては、動力工具等のケレン工具を用いた物理的ケレンと、補助的に塗膜剥離剤を用いる化学的ケレンとがあり、後者にはケレン時に発生する塗膜粉塵を抑制できる長所がある。
【0003】
ここで、かつての塗膜には、鉛化合物、クロム化合物およびPCBなどの人体に対する有害物質が含まれていた。このため、現在ではこのような鉛など有害物質を含有する既存塗膜の剥離や掻き落とし作業(ケレン作業)を行う場合は、必ず既存塗膜を湿潤化する、もしくは、湿潤化した場合と同じ程度の粉塵濃度まで低減させる方策を講じた上で作業を実施することが定められている。
【0004】
この湿潤化によるケレン作業の代表的なものが、前述の塗膜剥離剤を用いる化学的ケレンであり、過去より、塩化メチレン系の剥離溶剤(塗膜剥離性成分)を有効成分とする塗膜剥離剤が長年使用されていた。しかしながら、塩化メチレン系の塗膜剥離剤は既存塗膜の剥離性能に優れる反面、人体に対する有害性が高い。そのため、近年では塩化メチレン系よりも剥離性能は劣るが、危険有害性の低い水系塗膜剥離剤が多用されている。水系塗膜剥離剤の有効成分は、既存塗膜を形成する有機樹脂との親和性の高い有機溶剤からなる剥離溶剤であり、このような剥離溶剤が既存塗膜に浸透し、既存塗膜を膨潤軟化させ、既存塗膜の付着力を低下させることで、既存塗膜の除去を容易とするものである。しかし、塩化メチレン系と比べれば安全性が高いとしても、有機溶剤が人体や環境に対して有害であることには変わりがない。このため、有機溶剤を剥離溶剤として使用する場合は、危険有害性がより低いものを選定する必要がある。
【0005】
日本のGHS(The Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)において、化学製品の危険有害性は、製品のラベル表示および製品の譲渡時に交付されるSDS(SAFTY DATA SHEET)により評価することができる。また、「労働安全衛生法」、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」および「毒物及び劇物取締法」(以下、「労働安全衛生法など」と称す)では、危険有害性に留意する物質をそれぞれ個別に指定して表示・通知義務の対象物質としており、これに該当する有機溶剤の含有の有無についても、製品のラベル表示やSDSで確認することができる。
【0006】
また、有機溶剤は引火性を有し、火災を引き起こす危険性があるため、塗膜剥離剤用の剥離溶剤として使用する場合はできるだけ沸点が高いものを選択し、さらに水を混合して引火点が生じないようにして、非危険物化することができる。ところが、塗膜剥離性が良好な有機溶剤は一般的に水に難溶なものが多く、水と相溶せずに液相分離するため、均質な液状の塗膜剥離剤を形成できない。このため、既存の水系塗膜剥離剤では、水に難溶な有機溶剤を水に乳化分散させてエマルション状にするか、あるいは、水溶性溶剤を併用することで水に難溶な有機溶剤を水溶液状にすることで、水を含有させている。
【0007】
塩化メチレン系に比べて危険有害性の低い有機溶剤を剥離溶剤(塗膜剥離性成分)として使用し、エマルション化または水溶液化した水系塗膜剥離剤の中でも、剥離溶剤としてベンジルアルコールを用いた水系塗膜剥離剤が特に多数開示されている。このような技術としては、例えば下記特許文献1、特許文献2および特許文献3などを例示できる。
【0008】
他に、ジメチルホルムアミドなどのアミド系物質を剥離溶剤として含有する水溶性剥離剤組成物が特許文献4に、環状ケトンなどを剥離溶剤として使用する酸性マイクロエマルジョン剥離調合物が特許文献5に、N-メチル-2-ピロリドンなどを剥離溶剤として使用する塗膜剥離剤が特許文献6に、それぞれ開示されている。
【0009】
さらに、アルコール系の水溶性有機溶剤を使用する樹脂ワックス膜用の剥離剤組成物が特許文献7に、水溶性有機溶剤を使用するフロアーポリッシュ組成物からなる床皮膜用の剥離剤組成物が特許文献8に、それぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10-168363号公報
【特許文献2】特開平9-241687号公報
【特許文献3】特開平10-292138号公報
【特許文献4】特開平7-316534号公報
【特許文献5】特表2014-503642号公報
【特許文献6】特開2018-70725号公報
【特許文献7】特開昭63-221179号公報
【特許文献8】特開2005-2173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
現在、鉄鋼製の構造物や建造物などの塗り替え改修時の塗膜剥離には水系塗膜剥離剤が多用されているが、その実質的な有効成分となる剥離溶剤としては、ベンジルアルコールを使用するものが殆どである。ベンジルアルコールは、エポキシ樹脂塗料やポリウレタン樹脂塗料のように、塗料の中でも架橋度が高く、剥離が困難な部類の二液反応硬化形塗料に対して塗膜剥離性が良好である。また、臭気が少ないため作業環境面でも好ましい。さらに、比較的安価で入手も容易であるため、これまで代替となる剥離溶剤は見出されていなかった。しかし、最近になり、道路鋼橋の改修時に溶剤中毒や化学火傷の事故が頻発したことを契機に、2021年1月より労働安全衛生法が規定する表示・通知義務の対象物質としてベンジルアルコールが追加指定された。したがって、特許文献1~3に記載の水系塗膜剥離剤は、従来は比較的危険有害性の低い水系塗膜剥離剤として扱われていたが、現在の安全性基準では危険有害性の低いものとは見なせない。
【0012】
特許文献4~6に記載の水系塗膜剥離剤は、労働安全衛生法が規定する危険有害性に留意する物質として従来から表示・通知義務のある剥離溶剤を使用しており、元々危険有害性の高いものである。
【0013】
特許文献7~8に記載の水系塗膜剥離剤は、水溶性溶剤を剥離溶剤として使用しているが、水溶性溶剤では二液反応硬化型塗料のような架橋度の高い既存塗膜に対して剥離効果(塗膜剥離性)が弱く、実用的ではない。
【0014】
水系塗膜剥離剤の危険有害性を低減するには、危険有害性の低い有機溶剤を剥離溶剤として使用することが必要である。その指標としては、労働安全衛生法などによる表示・通知義務の対象物質に該当しない有機溶剤を使用する必要がある。同時に、剥離が困難な部類の二液反応硬化形塗料からなる既存塗膜に対して、少なくともベンジルアルコールを有効成分とする水系塗膜剥離剤と同等の塗膜剥離性が担保されている必要もある。
【0015】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、剥離溶剤としてベンジルアルコールを使用した従来の水系塗膜剥離剤組成物に替わる水系塗膜剥離剤組成物であって、危険有害性が低く、且つ従来の水系塗膜剥離剤組成物と同等以上の塗膜剥離性を有する水系塗膜剥離剤組成物と、これを用いた二液反応硬化型塗料からなる既存塗膜の除去方法を提供することを目的とする。
【0016】
なお、本発明において、剥離溶剤(有機溶剤)の「危険有害性が低い」とは、労働安全衛生法などによる表示・通知義務の対象物質(以下、単に「表示・通知義務の対象物質」と称す)に該当しないことを意味する。また、水系塗膜剥離剤の「危険有害性が低い」とは、製品のラベル表示およびSDSにおいて、危険有害性区分の絵表示がないか、感嘆符だけとなり、かつ、消防法の危険物に該当しないことを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そのための手段として、本発明は次の手段を採る。
(1)水をベースとする水系の塗膜剥離剤組成物であって、
二液反応硬化型塗料に対する塗膜剥離性を有する剥離溶剤(A)として、p-メチルアセトフェノン、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートのうち、いずれか一方又は双方を含有し、その他の剥離溶剤(A)を実質的に含有しておらず、
前記剥離溶剤(A)を10~50重量%含有する、水系塗膜剥離剤組成物。
(2)二液反応硬化型塗料に対する塗膜剥離性を有しない塗膜非剥離性の水溶性補助溶剤(B)として、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを5~65重量%含有する、(1)に記載の水系塗膜剥離剤組成物。
(3)(1)または(2)に記載の水系塗膜剥離剤組成物を、二液反応硬化型塗料からなる既存塗膜に塗布して該既存塗膜を膨潤軟化させた後、ケレン工具により前記水系塗膜剥離剤組成物と共に前記既存塗膜を掻き落とす、既存塗膜の除去方法。
【0018】
剥離溶剤(A)であるジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートは水に若干可溶である(20℃における水への溶解度は6.5g/100ml程度)が、水系塗膜剥離剤に有効成分として使用するには溶解度が十分でない。一方、剥離溶剤(A)であるp-メチルアセトフェノンは水に殆ど溶けない。本発明では、消防法で規定されている非水溶性に該当するものを「水に難溶」と表現する。消防法では、『危険物第四類における水溶性液体とは、1気圧の下で、温度20℃で同じ容量の純水と緩やかに混合したときに、流動が収まった後も、外観上、均一な状態を維持することができる液体を「水溶性」、そうでない液体を「非水溶性」』と定義されている。
【0019】
また、本発明において「その他の剥離溶剤(A)を実質的に含有していない」とは、本来的にはその他の剥離溶剤(A)を含有していないことを意味するが、ここでは、その他の剥離溶剤(A)を意図的には混用していないことを意味する。例えば、塗膜剥離剤組成物の調製時などに微量のその他の剥離溶剤(A)が不可避的又は不用意に混入したとしても、その混入量は実質的に無視できる程度であって、水系塗膜剥離剤全体としては、製品ラベル表示およびSDSにおいて危険有害性区分の絵表示がないか、感嘆符だけとなり、かつ、消防法の危険物にも該当しない非危険物として扱うことができる程度の量であることを意味する。「実質的に無視できる混入量」とは、具体的には1重量%未満である。これは、労働安全衛生法による表示・通知義務の対象物質において、表示・通知の裾切値が一般的に1重量%未満であることによる。
【0020】
また、本発明において「塗膜剥離性」とは、既存塗膜を形成する有機樹脂との親和性が高く、水系塗膜剥離剤を既存塗膜へ塗布することで剥離溶剤が既存塗膜に浸透して膨潤軟化させ、既存塗膜の付着力を低下させることで、既存塗膜の除去を容易とする性質を意味する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の水系塗膜剥離剤は、剥離溶剤(A)としてp-メチルアセトフェノン及び/又はジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを使用しており、この剥離溶剤(A)は、表示・通知義務のない物質である。また、その他の剥離溶剤(A)を実質的に含有していない。したがって、本発明の水系塗膜剥離剤は、製品ラベル表示およびSDSにおいて、危険有害性区分の絵表示がないか、感嘆符だけとなり、かつ、消防法の危険物に該当せずに非危険物として取り扱うことができる、危険有害性の低い水系塗膜剥離剤となる。また、本発明で使用する剥離溶剤(A)は、二液反応硬化型塗料からなる既存塗膜に対して良好な塗膜剥離性を有するため、これを有効成分とする水系塗膜剥離剤は、ベンジルアルコールを有効成分とする水系塗膜剥離剤と同等以上の塗膜剥離性を有している。
【0022】
剥離溶剤(A)をエマルション化した水系塗膜剥離剤(以下、「エマルション型の水系塗膜剥離剤」と称す)に、粘性を付与するために増粘剤を使用した場合、水系塗膜剥離剤を塗布した後、増粘剤の不溶化によって皮膜化が進行してしまい、これに伴う液相分離と粘度低下を生じることがある。そこで、剥離溶剤(A)との相溶性が良好な水溶性補助溶剤(B)として、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを併用していれば、上記問題を抑制することができる。特に、増粘剤としてアルカリ増粘型の水分散アクリル酸エステル共重合体(以下、「アクリル系増粘剤」と称す)を用いた場合、本発明で使用する水溶性補助溶剤(B)は、アクリル系増粘剤を適度に溶解する特性を有し、より抑制効果が高くなる。3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールも危険有害性の低い有機溶剤である。
【0023】
また、水溶性補助溶剤(B)である3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールは、剥離溶剤(A)と水の双方に対して相溶性が良好なので、その配合量によって透明ないし半透明な液状の水系塗膜剥離剤(以下、「水溶液型の水系塗膜剥離剤」と称す)を調製することもできる。この場合、粘性付与のためアクリル系増粘剤を使用した場合、水溶性補助溶剤(B)はアクリル系増粘剤を適度に溶解し、塩基による中和を要さずに増粘させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
≪水系塗膜剥離剤組成物≫
本発明の水系塗膜剥離剤組成物は、橋梁や鉄塔など鉄鋼製の構造物や建造物などの表面に形成された既存の保護塗膜(既存塗膜)を定期的に塗り替え改修する際に、既存塗膜の除去を化学的に容易にする化学ケレンとして使用されるものである。
【0025】
このとき、塗膜剥離剤には次のような性能が要求される。
1.塗膜剥離性が良好である
2.危険有害性が低い(表示・通知義務の対象物質を実質的に含有しない)
3.低臭気である(作業環境・周辺環境への配慮)
4.引火性が低い(非危険物)
【0026】
また、必須性能ではないが、作業効率やコストなどの点において、次のような付随性能も有していることが好ましい。
ア.乾燥が遅い(剥離作用時間を長く確保)
イ.塗布作業性が良好(施工作業性が良好)
ウ.塗れ広がったり、非水平面で垂れ下がったりしない(作業面が限定されない)
エ.材料コストが低廉である(経済性に優れる)
【0027】
本発明の水系塗膜剥離剤は、水と剥離溶剤(A)とを必須の有効成分として含有し、特定の剥離溶剤(A)以外の剥離溶剤は実質的に含有しない。ここで、剥離溶剤(A)は水に難溶なため、水に対して剥離溶剤(A)の混和安定性を向上するため、もしくは水溶液化するため、任意成分として水溶性補助溶剤(B)を含有することが好ましい。剥離溶剤(A)に対する水溶性補助溶剤(B)の含有量に応じて、エマルション型の水系塗膜剥離剤となるか水溶液型の水系塗膜剥離剤となる。
【0028】
<水>
水系塗膜剥離剤は、水をベースとして一定量含有することにより、引火点を有する有機溶剤を含有しても、引火点測定により引火点を生じず、非危険物として取り扱うことができる。
【0029】
水系塗膜剥離剤に対して後述する添加剤を必要に応じて添加する場合、当該添加剤をエマルションの状態で添加する場合は、ベースとする水を積極的に配合せずとも、添加するエマルション中の水をベースとして使用することもできる。例えば、エマルション状のアクリル系増粘剤を添加する場合は、当該エマルション状のアクリル系増粘剤に含まれている水の量も考慮して、水系塗膜剥離剤全体の水の含有量を調整する。なお、水はベース成分であるが、必ずしも最大含有量成分ではない。
【0030】
<剥離溶剤(A)>
剥離溶剤(A)は、既存塗膜を形成する有機樹脂との親和性の高い有機溶剤であり、既存塗膜に浸透して膨潤軟化させ、その付着力を低下させることで、既存塗膜の除去を容易ならしめるものである。特に、塗料の中でも剥離が困難な部類の二液反応硬化形塗料に対して、現在多用されているベンジルアルコールと同等以上の塗膜剥離性を有する有機溶剤が好ましい。そのうえで、危険有害性が低いことの指標として、表示・通知義務の対象物質ではないことが必要である。また、剥離作用時間を長く確保できる観点から、蒸発が遅いほうが良く、その指標として沸点150℃以上であるものが好ましい。さらに、水の共存下で引火点を生じず、その指標として引火点60℃以上であるものが好ましい。なお、剥離溶剤(A)は有機樹脂との親和性が高いため水には難溶であるが、逆に、そのほうが水に乳化させやすく、エマルション状に調製するには適している。このため、剥離溶剤(A)は、消防法における危険物第四類の非水溶性液体であるものがより好ましい。
【0031】
本発明では、このような剥離溶剤(A)として、p-メチルアセトフェノン及びジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BDGAc)のみが適していることを、数多くある有機溶剤の中から見出した。中でも、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートは極めて低臭気であるため、より好ましい。これらの剥離溶剤(A)は、いずれか一方を単独で使用してもよいし、両者を併用してもよい。
【0032】
水系塗膜剥離剤中における剥離溶剤(A)の含有量は10~50重量%、好ましくは15~45重量%とする。剥離溶剤(A)の含有量が10重量%未満の場合は塗膜剥離性に課題を有する可能性があり、50重量%を超えると水系塗膜剥離剤の調製が困難となり、安定性も損なわれる可能性がある。
【0033】
<水溶性補助溶剤(B)>
水溶性補助溶剤(B)は、エマルション型および水溶液型のいずれの水系塗膜剥離剤においても有用な成分である。エマルション型では、水系塗膜剥離剤の塗付後、経時的な水の蒸発に伴い、増粘剤の不溶化による皮膜化が進行し、粘度低下を生じる。これにより、混和安定性が損なわれ、剥離溶剤(A)と水の液相分離を生じるおそれがある。水溶性補助溶剤(B)は、エマルション型の水系塗膜剥離剤に含有することで、剥離溶剤(A)と水の液相分離を抑制するものである。
【0034】
また、乳化分散と粘性付与のためにアクリル系増粘剤を使用した場合、水溶性補助溶剤(B)は適度にアクリル系増粘剤を溶解するものであり、アクリル系増粘剤の不溶化による粘度低下を抑制できる。
【0035】
また、水溶性補助溶剤(B)は、水に難溶な剥離溶剤(A)を水溶液化して水溶液型の水系塗膜剥離剤として調整することもできる。特に増粘剤としてアクリル系増粘剤を使用した場合、水溶性補助溶剤(B)はアクリル系増粘剤を適度に溶解し、塩基による中和を要さずに増粘させる特性を有する。これにより、水溶液型の水系塗膜剥離剤に粘性を付与することができる。
【0036】
水溶性補助溶剤(B)は、消防法における危険物第四類の水溶性液体であり、剥離溶剤(A)との相溶性が良好なものである。また、水溶性補助溶剤(B)は、水系塗膜剥離剤の剥離作用時間を長く確保できる指標として、沸点150℃以上であり、蒸発が遅いものが好ましい。さらに、水溶性補助溶剤(B)は、危険有害性が低いことの指標として、表示・通知義務の対象物質ではないものが好ましい。加えて、水溶性補助溶剤(B)は、一定量の水の共存下で引火点を生じず、その指標として引火点60℃以上であるものがより好ましい。なお、水溶性補助溶剤(B)は、既存塗膜を形成する有機樹脂との親和性が低いため、二液反応硬化形塗料に対する塗膜剥離性は有しない(塗膜非剥離性)。
【0037】
本発明では、このような水溶性補助溶剤(B)として、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールが最も適していることを、数多くある有機溶剤の中から見出した。
【0038】
水系塗膜剥離剤中における水溶性補助溶剤(B)の含有量は5~65重量%、好ましくは10~60重量%とする。水溶性補助溶剤(B)の含有量が25重量%以下(好ましくは20重量%以下)の範囲では水系塗膜剥離剤はエマルション型となり、40重量%以上(好ましくは45重量%以上)の範囲では水溶液型となり、25重量%を超え40重量%未満では、水や剥離溶剤(A)等の含有量によってエマルション型となったり水溶液型となったりする。なお、剥離溶剤(A)と水溶性補助溶剤(B)との合計含有量は、85重量%以下が好ましく、80重量%以下がより好ましい。
【0039】
<添加剤>
(増粘剤)
本発明の水系塗膜剥離剤には、粘性付与を目的として、有機系および無機系の増粘剤を添加することもできる。有機系増粘剤としては、アクリル系増粘剤のほか、カルボキメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、グアーガム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、コーンスターチ、キサンタンガム、カチオン化グアーガム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、及びポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0040】
アクリル系増粘剤としては、アルカリ増粘型のアクリル酸エステル共重合体を挙げることができる。アクリル系増粘剤は、通常エマルション状で市販されている。市販品としては、ダウ・ケミカル日本(株)製の「プライマルASE-60」や、中部サイデン(株)製の「バンスターS100」などが好適である。
【0041】
無機系増粘剤としては、カオリナイト、スメクタイト、シリカ、雲母、及びセピオライトなどが挙げられる。上記各増粘剤は、単独で使用しても複数を混用しても良い。
【0042】
中でも、アクリル系増粘剤が好ましい。エマルション型の水系塗膜剥離剤では、アクリル系増粘剤を使用した場合、塩基による中和により剥離溶剤(A)の乳化を伴いながらアクリル系増粘剤が水溶化するため、乳化剤を必要とせずに安定なエマルションを容易に形成しながら増粘することができる。これにより、ローラー塗り、はけ塗り、吹付塗りなどの塗布作業性に優れ、塗れ広がりにくく、非水平面でも塗布直後に垂れにくい粘性の水系塗膜剥離剤が得られる。
【0043】
増粘剤を添加する場合、水系塗膜剥離剤中における増粘剤の含有量は、固形分換算で0.5~8重量%が好ましく、1~7重量%がより好ましく、2~6重量%がさらに好ましい。増粘剤の含有量が固形分換算で0.5重量%未満の場合は、水系塗膜剥離剤の増粘が不十分となる可能性がある。また、固形分換算で8重量%を超えると、水系塗膜剥離剤の調製が困難となる可能性がある。
【0044】
水溶液型の水系塗膜剥離剤では、エマルション状のアクリル系増粘剤を使用した場合、アクリル系増粘剤が剥離溶剤(A)に適度に溶解するため、塩基を使用しなくても増粘する。一方、エマルション型の水系塗膜剥離剤においては、アクリル系増粘剤を用いた場合、塩基が必須成分となる。
【0045】
塩基としては、アルカリ性を示す水溶性塩基性物質を挙げることができる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物/炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩/アンモニア/モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類/アミノメチルプロパノール(2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール)、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸/アミノエチルプロパノールアミン、アミノメチルプロパンジオール、アミノエチルプロパンジオール等を挙げることができる。これら塩基は、単独で使用しても複数を混用しても良く、水系塗膜剥離剤の危険有害性を損なわない限度で使用できる。中でも、微量で中和作用を有し、残留性のないアンモニア水が好ましい。
【0046】
塩基を添加する場合は、アクリル系増粘剤を含有する水系塗膜剥離剤組成物100重量部に対して0.1~1.0重量部が好ましい。
【0047】
(乾燥遅延剤)
本発明による水系塗膜剥離剤は、水系塗膜剥離剤の乾燥を遅延させ、剥離作用時間をより長く確保するための乾燥遅延剤を添加することもできる。乾燥遅延剤は、乾燥遅延効果の指標として沸点150℃以上であり、蒸発が遅いものが好ましい。同時に、危険有害性が低いことの指標として、表示・通知義務の対象物質ではないものとする。加えて、一定量の水の共存下で引火点を生じず、その指標として引火点60℃以上であるものが好ましい。
【0048】
このような乾燥遅延剤としては、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、グリセロール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、3-フェニル-1-プロパノール、1-フェニル-1-プロパノール、1-フェニル-2-プロパノール、フェノキシエタノール、1-フェノキシ-2-プロパノール、2-フェノキシプロパノール、3-フェノキシ-1-プロパノール、1-ブトキシ-2-プロパノール、酢酸3-メトキシ-3-メチルブチル、DBE二塩基酸エステル(混合物)、こはく酸ジエチル、多価アルコールにプロピレンオキサイドやエチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加重合させたポリオール類などが挙げられる。これらの乾燥遅延剤は単独で使用することができ、複数を併用しても良い。なお、これらの乾燥遅延剤は、既存塗膜を形成する有機樹脂との親和性が低いため、二液反応硬化形塗料に対する塗膜剥離性は有しない(塗膜非剥離性)。
【0049】
乾燥遅延剤を添加する場合、水系塗膜剥離剤組成物100重量部に対して1~10重量部が好ましく、2~8重量部がより好ましい。乾燥遅延剤の含有量が1重量部未満の場合は、乾燥遅延効果が不十分となる可能性がある。また、10重量部を超えると、剥離溶剤(A)の含有量が相対的に減少し、水系塗膜剥離剤の塗膜剥離性が低下する可能性がある。
【0050】
(その他の添加剤)
本発明の水系塗膜剥離剤には、水系塗膜剥離剤の作用効果を著しく阻害せず、かつ、危険有害性を損なわない限度で、乳化剤、分散剤、湿潤剤、着色顔料、体質顔料、防錆顔料、染料、防腐剤、防カビ剤、消泡剤、初期防錆剤、芳香剤、および蛍光増白剤などの添加剤を、必要に応じて添加することができる。
【0051】
≪水系塗膜剥離剤の調製方法≫
本発明の水性塗膜剥離剤の調製方法は特に限定されず、公知の各種混合機を用い、撹拌混合することにより調製できる。例えば、水系塗膜剥離剤をエマルション型とする場合、水と剥離溶剤(A)との混合液に、必要に応じて水溶性補助溶剤(B)や添加剤を加えて撹拌混合し、剥離溶剤(A)が微粒子となるように乳化分散させればよい。アクリル系増粘剤を添加した場合は、塩基を加えてアクリル系増粘剤を中和し、溶解増粘させながらさらに撹拌混合する。一方、水系塗膜剥離剤を水溶液型とする場合、剥離溶剤(A)を撹拌しながら水及び水溶性補助溶剤(B)を加えて溶解させ、さらに必要に応じて添加剤を加えて撹拌混合することで、透明液状または半透明液状の水性塗膜剥離剤が調製される。
【0052】
≪既存塗膜の除去方法≫
最初に、水系塗膜剥離剤を剥離対象となる既存塗膜上に塗布する。塗布方法は特に限定されず、代表的には植毛ローラーや多孔質スポンジローラーなどを用いたローラー塗布のほか、刷毛塗り、およびスプレーや噴射機などを用いた噴射塗布などを例示できる。このとき、水系塗膜剥離剤は適度に流動性が抑制された粘度を有するため、塗布面に付着したまま留まる。水系塗膜剥離剤の塗布量は0.3~1.2kg/m2 を目安とすればよく、通常は0.5~1.0kg/m2 とすることが好ましい。塗布量が0.3kg/m2未満では剥離作用が不十分となり、1.2kg/m2超では非水平面での水系塗膜剥離剤の垂れ下がりを生じやすくなる傾向がある。
【0053】
水系塗膜剥離剤による剥離作用は、塗膜剥離性を有する剥離溶剤(A)が既存塗膜の表面に接触し、さらに既存塗膜中に浸透して膨潤軟化させ、既存塗膜の付着力を低下させる。本発明による水系塗膜剥離剤は、有効成分の蒸発が著しく遅いため、標準的な作業環境下では、剥離作用時間を長く確保できる。ただし、作業環境が高温、低湿度または通風過多などのため、水系塗膜剥離剤中の成分が急速に蒸発し、剥離作用時間を十分確保できない場合は、塗布面にビニルシートなどの乾燥防止シートを覆い被せることで、水性湿潤剤中の成分蒸発を抑制できる。水系塗膜剥離剤による剥離作用時間は、既存塗膜の種類、膜厚および作業環境などに応じて適宜調整すればよく、エポキシ樹脂塗料やポリウレタン樹脂塗料のような二液反応硬化形塗料の場合、23℃の標準温度であれば4~16時間を目安とする。
【0054】
最後に塗膜の掻き落とし作業を実施する。水系塗膜剥離剤の剥離作用によって膨潤軟化し付着力の低下した既存塗膜を、スクレーパー、ヘラ、皮スキなどのケレン工具を使用して掻き落とし、除去する。膜厚が厚いために水系塗膜剥離剤の剥離作用が深部まで届かず、掻き落とすのが困難な残存塗膜は、無理やり掻き落とさなくとも、再度、水系塗膜剥離剤を塗布し、掻き落としが容易となってから実施すればよい。
【0055】
本発明による既存塗膜の除去方法は、エポキシ樹脂塗料やポリウレタン樹脂塗料のように、塗料の中でも特に剥離が困難な部類の二液反応硬化形塗料に対して特に有効なものであるが、これに限られるものではなく、一液型か二液型を問わず他の樹脂系塗料からなる塗膜に対しても有効なものである。
【実施例0056】
以下に、本発明を具体化した実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
≪水系塗膜剥離剤の調製≫
本発明による水系塗膜剥離剤の諸特性を評価するため、実施例及び比較例に用いた剥離溶剤(A)及び水溶性補助溶剤(B)を表1に示す。剥離溶剤(A)としては、非水溶性液体で、沸点150℃以上かつ引火点60℃以上のものとし、さらにベンジルアルコール以外は表示・通知義務の対象物質ではないものを選定した。水溶性補助溶剤(B)としては、水溶性液体で、沸点150℃以上かつ引火点60℃以上のものとし、さらに表示・通知義務の対象物質ではないものを選定した。
【0057】
【表1】
※1:表示・通知義務の対象物質への該非
※2:消防法が規定する危険物第四類における水溶性液体への該非
【0058】
表1の溶剤を用い、表2及び表3に示す組成(配合量の数値は重量部)で、容器に順次添加しながら撹拌機により混合し、実施例1~11及び比較例1~9の水系塗膜剥離剤を調製した。なお、表2及び表3において、増粘剤aの含有量はエマルションとしての配合量を記載している。
【0059】
表2及び表3に示す溶剤以外の各材料としては、次のものを使用した。
増粘剤a:アクリル系増粘剤エマルションである中部サイデン株式会社製「バンスターS100」(固形分30%)
増粘剤b:セルロース系増粘剤であるアシュランド・ジャパン株式会社製「ナトロゾール 250HR ヒドロキシエチルセルロース」(固形分100%)
塩基:後藤化学株式会社製「25%アンモニア水」
【0060】
【0061】
【0062】
<評価方法>
実施例及び比較例の評価結果も表2及び表3に示す。各評価項目における評価方法を以下に示す。
(GHSによる危険有害性区分の絵表示)
GHSの分類基準に従って危険有害性区分を決定する。それらの区分を象徴する絵表示(呼び名)は、以下のアルファベット記号で代用する。
健康有害性:H
感嘆符:E
なし:N
【0063】
(引火点)
セタ密閉式引火点試験器を用い、93℃まで昇温させて引火点を測定し、引火しない場合は「なし」、引火する場合は「あり」と表記する。
【0064】
(塗膜剥離性)
基材としてJIS G 3141に規定するSPCC-SB鋼板(厚さ1mm)を使用した。これに弱溶剤2液形エポキシ樹脂系さび止め塗料である「ワイドラスノンEPO」(グレー色、スズカファイン株式会社製)をスプレー塗りにより1回塗布し(0.20kg/m2/回)、23℃で24時間乾燥した。さらに、弱溶剤2液形エポキシ変性ポリウレタン樹脂系塗料である「ワイドエポーレU」(白色、スズカファイン株式会社製)をスプレー塗りにより2回塗布し(0.15kg/m2/回、塗装間隔4時間)、23℃で7日間乾燥したものを試験体とした。
【0065】
試験体を水平に設置し、試験体の一部分に、実施例及び比較例の水系塗膜剥離剤を刷毛で塗布し(1.0kg/m2)、23℃で24時間放置した後、試験体塗膜の浮き上がりによる自発的な剥離が生じていることと、これが生じていない場合は鋭利な皮すきの角で水系塗膜剥離剤の塗布部を基材に届くように3回突くことで、30分以内に試験体塗膜の浮き上がりによる剥離が生じることを、以下の基準で評価する。
○:試験体塗膜の浮き上がりによる剥離が生じる。
×:試験体塗膜の浮き上がりによる剥離が生じない。
【0066】
表2の結果から、本発明が規定する条件を満たす実施例1~11では、表示・通知義務の対象物質を含有しておらず、GHSによる危険有害性区分の絵表示はないか、感嘆符だけとなり、人体や環境に対して有害性が低い。また、引火点もないことから、火災を引き起こす危険性も低く、実施例1~11は危険有害性の低い水系塗膜剥離剤である。さらに、実施例1~11は、エポキシ樹脂塗料やポリウレタン樹脂塗料のように、塗料の中でも架橋度が高く、剥離が困難な部類の二液反応硬化形塗料に対して塗膜剥離性が良好であるため、ベンジルアルコールを有効成分とする水系塗膜剥離剤と遜色のない実用性を有する。
【0067】
一方、表3の比較例1~5および比較例8は塗膜剥離性が不十分であり、比較例6と比較例7は均質な水系塗膜剥離剤を調製できなかったため、各項目の評価は実施しなかった。また、ベンジルアルコールを有効成分とする比較例4、9は、GHSによる危険有害性区分の絵表示が、感嘆符に加えて健康有害性の表記が必要となり、使用が制限される。
二液反応硬化型塗料に対する塗膜剥離性を有しない塗膜非剥離性の水溶性補助溶剤(B)として、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを5~65重量%含有する、請求項1に記載の水系塗膜剥離剤組成物。
請求項1または請求項2に記載の水系塗膜剥離剤組成物を、二液反応硬化型塗料からなる既存塗膜に塗布して該既存塗膜を膨潤軟化させた後、ケレン工具により前記水系塗膜剥離剤組成物と共に前記既存塗膜を掻き落とす、既存塗膜の除去方法。