(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162115
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】車両制動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/40 20060101AFI20231031BHJP
B60T 13/20 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
B60T8/40
B60T13/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028198
(22)【出願日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2022072465
(32)【優先日】2022-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】安間 善貞
(72)【発明者】
【氏名】山北 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】長江 大地
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB31
3D048BB41
3D048CC54
3D048HH15
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3D048QQ07
3D048RR06
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3D048RR35
3D246BA02
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3D246GB37
3D246GC14
3D246HA03A
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3D246LA15Z
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3D246LA40A
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3D246LA73Z
(57)【要約】
【課題】モータ装置の温度が高くなりすぎることを抑制しつつ、制動装置によって車両に制動力を発生させることができるようにすること。
【解決手段】制御装置100は、モータ角センサ151の検出値に基づいて電気モータの磁束との相関性が高い電流の指令値及び電気モータの機械出力への相関性が高い電流の指令値を導出する同期駆動処理、拡張誘起電圧に基づいて両指令値を導出する拡張誘起駆動処理、及び制限処理を実行するモータ制御部M15を備える。モータ制御部M15は、モータ装置の温度が第1判定温度以上であると判定した場合には制限処理を実行する。モータ制御部M15は、騒音抑制条件が成立している状況下において、モータ装置の温度が第2判定温度未満であると判定した場合には同期駆動処理を実行し、当該温度が第2判定温度未満ではないと判定し、且つ当該温度が第1判定温度以上ではないと判定した場合には拡張誘起駆動処理を実行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータと当該電気モータの駆動回路とを含むモータ装置、及び前記電気モータの回転角を検出する回転角センサを有し、前記電気モータを駆動させることによって車両に制動力を発生させる制動装置を制御対象とし、
ベクトル制御の回転座標における前記電気モータの磁束との相関性が高い電流の指令値、及び前記電気モータの機械出力への相関性が高い電流の指令値に基づいて前記駆動回路を動作させることにより、前記電気モータを駆動させる車両制動制御装置であって、
所定周期毎に前記回転角センサの検出値を取得し、当該検出値に基づいて前記電気モータの磁束との相関性が高い電流の指令値、及び前記電気モータの機械出力への相関性が高い電流の指令値を導出する同期駆動処理、拡張誘起電圧に基づいて前記電気モータの磁束との相関性が高い電流の指令値、及び前記電気モータの機械出力への相関性が高い電流の指令値を導出する拡張誘起駆動処理、及び、前記電気モータの駆動を制限する制限処理を実行するモータ制御部と、
前記モータ装置の温度を取得する取得部と、を備え、
前記モータ制御部は、
前記モータ装置の温度が第1判定温度以上であると判定した場合には前記制限処理を実行し、
前記電気モータの駆動に起因する騒音を抑えることの優先度が高い条件である騒音抑制条件が成立している状況下において、前記モータ装置の温度が、前記第1判定温度よりも低い第2判定温度未満であると判定した場合には前記同期駆動処理を実行し、前記モータ装置の温度が前記第2判定温度未満ではないと判定し、且つ前記モータ装置の温度が前記第1判定温度以上ではないと判定した場合には前記拡張誘起駆動処理を実行する
車両制動制御装置。
【請求項2】
前記モータ制御部は、
前記騒音抑制条件が成立している状況下において、
前記車両に対する制動要求があった時点の前記モータ装置の温度が前記第2判定温度未満であると判定した場合には前記同期駆動処理を実行する一方、
前記車両に対する制動要求があった時点の前記モータ装置の温度が前記第2判定温度未満ではないと判定し、且つ当該時点の前記モータ装置の温度が前記第1判定温度以上ではないと判定した場合には前記拡張誘起駆動処理を実行する
請求項1に記載の車両制動制御装置。
【請求項3】
前記モータ制御部は、前記同期駆動処理を実行している場合には、前記モータ装置の温度が前記第2判定温度未満ではないと判定するようになっても前記同期駆動処理の実行を継続する
請求項2に記載の車両制動制御装置。
【請求項4】
前記制動装置を第1制動装置としたとき、
前記車両は、当該車両に制動力を発生させる第2制動装置を備えるものであり、
前記第2制動装置を制御する助勢制御部を備え、
前記助勢制御部は、前記制限処理が実行されている場合には、前記第2制動装置によって前記車両に発生させる制動力を増大させる助勢処理を実行する
請求項1~請求項3のうち何れか一項に記載の車両制動制御装置。
【請求項5】
前記制動装置を第1制動装置とし、前記第1制動装置によって前記車両に発生させる制動力を基礎制動力としたとき、
前記車両は、当該車両に制動力を発生させる第2制動装置を備えるものであり、
前記第2制動装置を制御する助勢制御部を備え、
前記助勢制御部は、
前記車両に発生させる制動力の要求値である要求制動力よりも前記基礎制動力を大きくできない場合、前記要求制動力と前記基礎制動力との差分が大きいほど、前記第2制動装置によって前記車両に発生させる制動力を大きくする
請求項1~請求項3のうち何れか一項に記載の車両制動制御装置。
【請求項6】
前記電気モータの磁束との相関性が高い電流の指令値は、前記回転座標におけるd軸成分の電流の指令値であるd軸電流指令値であり、
前記電気モータの機械出力への相関性が高い電流の指令値は、前記回転座標におけるq軸成分の電流の指令値であるq軸電流指令値である
請求項1~請求項3のうち何れか一項に記載の車両制動制御装置。
【請求項7】
電気モータと当該電気モータの駆動回路とを含むモータ装置、及び前記電気モータの回転角を検出する回転角センサを有し、前記電気モータを駆動させることによって車両に制動力を発生させる制動装置を制御対象とし、
ベクトル制御の回転座標における前記電気モータの磁束との相関性が高い電流の指令値、及び前記電気モータの機械出力への相関性が高い電流の指令値に基づいて前記駆動回路を動作させることにより、前記電気モータを駆動させる車両制動制御装置であって、
所定周期毎に前記回転角センサの検出値を取得し、当該検出値に基づいて前記電気モータの磁束との相関性が高い電流の指令値、及び前記電気モータの機械出力への相関性が高い電流の指令値を導出する同期駆動処理、拡張誘起電圧に基づいて前記電気モータの磁束との相関性が高い電流の指令値、及び前記電気モータの機械出力への相関性が高い電流の指令値を導出する拡張誘起駆動処理、及び、前記制動装置の作動によって前記車両に発生させる制動力の大きさに制限を設ける制限処理を実行する制動制御部と、
前記モータ装置の温度を取得する取得部と、を備え、
前記制動制御部は、
前記モータ装置の温度が第1判定温度以上であると判定した場合には前記制限処理を実行し、
前記モータ装置の温度が、前記第1判定温度よりも低い第2判定温度未満であると判定した場合には前記同期駆動処理を実行し、
前記モータ装置の温度が前記第2判定温度未満ではないと判定し、且つ前記モータ装置の温度が前記第1判定温度以上ではないと判定した場合には前記拡張誘起駆動処理を実行する
車両制動制御装置。
【請求項8】
前記制動装置を第1制動装置としたとき、
前記車両は、当該車両に制動力を発生させる第2制動装置を備えるものであり、
前記車両制動制御装置は、前記第2制動装置に異常が発生しているか否かを判定する異常判定部を備え、
前記制動制御部は、
前記第2制動装置に異常が発生していると判定されている状況下において、
前記モータ装置の温度が前記第2判定温度未満であると判定した場合には前記同期駆動処理を実行し、
前記モータ装置の温度が前記第2判定温度未満ではないと判定し、且つ前記モータ装置の温度が前記第1判定温度以上ではないと判定した場合には前記拡張誘起駆動処理を実行する
請求項7に記載の車両制動制御装置。
【請求項9】
前記制動制御部は、
前記車両の走行モードとして自動運転モードが選択されており、且つ前記第2制動装置に異常が発生していると判定されている状況下において、
前記モータ装置の温度が前記第2判定温度未満であると判定した場合には前記同期駆動処理を実行し、
前記モータ装置の温度が前記第2判定温度未満ではないと判定し、且つ前記モータ装置の温度が前記第1判定温度以上ではないと判定した場合には前記拡張誘起駆動処理を実行する
請求項8に記載の車両制動制御装置。
【請求項10】
前記車両は、ホイールシリンダの液圧に応じた制動力を車輪で発生させる摩擦ブレーキを備えるものであり、
前記制動装置は、前記電気モータを動力源とするポンプと、前記ポンプから吐出されたブレーキ液が流れる吐出流路と、前記吐出流路のブレーキ液圧であるサーボ圧を調整する液圧調整部と、を備えるとともに、前記サーボ圧に応じた液圧を前記ホイールシリンダに発生させるように構成されており、
前記制動制御部は、前記制限処理において、当該制限処理の開始前よりも前記サーボ圧の上限を低くすることにより、前記車両に発生させる制動力の大きさに制限を設ける
請求項7に記載の車両制動制御装置。
【請求項11】
前記電気モータの磁束との相関性が高い電流の指令値は、前記回転座標におけるd軸成分の電流の指令値であるd軸電流指令値であり、
前記電気モータの機械出力への相関性が高い電流の指令値は、前記回転座標におけるq軸成分の電流の指令値であるq軸電流指令値である
請求項7~請求項9のうち何れか一項に記載の車両制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に制動力を発生させる制動装置を制御対象とする車両制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されている制動システムは、車両に制動力を発生させることのできる装置として電気的液圧発生部及び車両挙動安定化装置を備えるとともに、これらを制御する制御装置を備えている。電気的液圧発生部は、電気モータを駆動させることによって車両に制動力を発生させるものである。制御装置は、電気的液圧発生部の電気モータの温度が所定温度以上である場合には当該電気モータの出力を制限し、車両挙動安定化装置を作動させることによって車両に制動力を発生させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気的液圧発生部によって車両に発生させる制動力を基礎制動力としたとき、電気的液圧発生部の電気モータの出力を制限すると、電気的液圧発生部によって車両に発生させることのできる基礎制動力の上限値が小さくなる。その結果、車両に対する制動力の要求値が大きいと、基礎制動力の上限値が小さいため、車両挙動安定化装置を作動させても、車両で発生する制動力の総和が制動力の要求値を大きく下回ってしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための車両制動制御装置の第1態様は、電気モータと当該電気モータの駆動回路とを含むモータ装置、及び前記電気モータの回転角を検出する回転角センサを有し、前記電気モータを駆動させることによって車両に制動力を発生させる制動装置を制御対象とする。この車両制動制御装置は、ベクトル制御の回転座標における前記電気モータの磁束との相関性が高い電流の指令値、及び前記電気モータの機械出力への相関性が高い電流の指令値に基づいて前記駆動回路を動作させることにより、前記電気モータを駆動させる。車両制動制御装置は、所定周期毎に前記回転角センサの検出値を取得し、当該検出値に基づいて前記電気モータの磁束との相関性が高い電流の指令値、及び前記電気モータの機械出力への相関性が高い電流の指令値を導出する同期駆動処理、拡張誘起電圧に基づいて前記電気モータの磁束との相関性が高い電流の指令値、及び前記電気モータの機械出力への相関性が高い電流の指令値を導出する拡張誘起駆動処理、及び、前記電気モータの駆動を制限する制限処理を実行するモータ制御部と、前記モータ装置の温度を取得する取得部と、を備えている。前記モータ制御部は、前記モータ装置の駆動に起因する温度が第1判定温度以上であると判定した場合には制限処理を実行し、前記電気モータの騒音を抑えることの優先度が高い条件である騒音抑制条件が成立している状況下において、前記モータ装置の温度が、前記第1判定温度よりも低い第2判定温度未満であると判定した場合には前記同期駆動処理を実行し、前記モータ装置の温度が前記第2判定温度未満ではないと判定し、且つ前記モータ装置の温度が前記第1判定温度以上ではないと判定した場合には前記拡張誘起駆動処理を実行する。
【0006】
同期駆動処理によって導出した両指令値に基づいて電気モータを駆動させる場合、拡張誘起駆動処理によって導出した両指令値に基づいて電気モータを駆動させる場合と比較し、電気モータの駆動に伴う騒音は小さいものの、モータ装置での発熱量が多くなりやすい。そのため、モータ装置の発熱を抑えることよりも電気モータの騒音を抑えることを優先させたい場合には、同期駆動処理で導出した両指令値に基づいて電気モータを駆動させることが好ましい。一方、電気モータの騒音を抑えることよりもモータ装置の発熱を抑えることを優先させたい場合には、拡張誘起駆動処理で導出した両指令値に基づいて電気モータを駆動させることが好ましい。
【0007】
上記車両制動制御装置では、騒音抑制条件が成立している状況下においてモータ装置の温度が第2判定温度未満であると判定される場合には、同期駆動処理で導出した両指令値に基づいて電気モータが駆動される。一方、騒音抑制条件が成立している状況下であってもモータ装置の温度が第2判定温度未満ではないと判定されるとともに当該温度が第1判定温度以上ではないと判定される場合には、モータ装置の保護が必要と判断できるため、拡張誘起駆動処理で導出した両指令値に基づいて電気モータが駆動される。拡張誘起駆動処理で導出した両指令値に基づいて電気モータを駆動させることにより、同期駆動処理で導出した両指令値に基づいて電気モータを駆動させる場合と比較し、モータ装置の発熱を抑えられる。これにより、モータ装置の温度の上昇速度を遅くできるため、当該温度が第1判定温度以上であると判定されにくくなる。その結果、制限処理が実行される機会を減らすことができる。
【0008】
したがって、上記車両制動制御装置は、モータ装置の温度が高くなりすぎることを抑制しつつ、制動装置によって車両に制動力を発生させることができる。
上記課題を解決するための車両制動制御装置の第2態様は、電気モータと当該電気モータの駆動回路とを含むモータ装置、及び前記電気モータの回転角を検出する回転角センサを有し、前記電気モータを駆動させることによって車両に制動力を発生させる制動装置を制御対象とする。この車両制動制御装置は、ベクトル制御の回転座標における前記電気モータの磁束との相関性が高い電流の指令値、及び前記電気モータの機械出力への相関性が高い電流の指令値に基づいて前記駆動回路を動作させることにより、前記電気モータを駆動させる。この車両制動制御装置は、所定周期毎に前記回転角センサの検出値を取得し、当該検出値に基づいて前記電気モータの磁束との相関性が高い電流の指令値、及び前記電気モータの機械出力への相関性が高い電流の指令値を導出する同期駆動処理、拡張誘起電圧に基づいて前記電気モータの磁束との相関性が高い電流の指令値、及び前記電気モータの機械出力への相関性が高い電流の指令値を導出する拡張誘起駆動処理、及び、前記制動装置の作動によって前記車両に発生させる制動力の大きさに制限を設ける制限処理を実行する制動制御部と、前記モータ装置の温度を取得する取得部と、を備えている。前記制動制御部は、前記モータ装置の温度が第1判定温度以上であると判定した場合には前記制限処理を実行し、前記モータ装置の温度が、前記第1判定温度よりも低い第2判定温度未満であると判定した場合には前記同期駆動処理を実行し、前記モータ装置の温度が前記第2判定温度未満ではないと判定し、且つ前記モータ装置の温度が前記第1判定温度以上ではないと判定した場合には前記拡張誘起駆動処理を実行する。
【0009】
上記車両制動制御装置では、モータ装置の温度が第2判定温度未満であると判定される場合には、同期駆動処理で導出した両指令値に基づいて電気モータが駆動される。一方、モータ装置の温度が第2判定温度未満ではないと判定されるとともに当該温度が第1判定温度以上ではないと判定される場合には、モータ装置の保護が必要と判断できるため、拡張誘起駆動処理で導出した両指令値に基づいて電気モータが駆動される。拡張誘起駆動処理で導出した両指令値に基づいて電気モータを駆動させることにより、同期駆動処理で導出した両指令値に基づいて電気モータを駆動させる場合と比較し、モータ装置の発熱を抑えられる。これにより、モータ装置の温度の上昇速度を遅くできるため、当該温度が第1判定温度以上であると判定されにくくなる。その結果、制限処理が実行される機会を減らすことができる。
【0010】
したがって、上記車両制動制御装置は、モータ装置の温度が高くなりすぎることを抑制しつつ、制動装置によって車両に制動力を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1実施形態の車両制動制御装置を備える車両の概略を示す構成図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態の車両制動制御装置を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、ベクトル制御の回転座標を示すグラフである。
【
図4】
図4は、第1実施形態の車両制動制御装置で実行される処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、第1実施形態の車両制動制御装置で実行される処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、比較例において、車両制動時における各種のパラメータの推移を示すタイムチャートである。
【
図7】
図7は、第1実施形態の車両制動制御装置において、車両制動時における各種のパラメータの推移を示すタイムチャートである。
【
図8】
図8は、第2実施形態の車両制動制御装置で実行される処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、第3実施形態の車両制動制御装置を示すブロック図である。
【
図10】
図10は、第3実施形態の車両制動制御装置で実行される処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、第3実施形態の車両制動制御装置において、車両制動時における各種のパラメータの推移を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、車両制動制御装置の第1実施形態を
図1~
図7に従って説明する。
図1は、制動システム200を備える車両を示している。車両は、車輪として4つの車輪FL,FR,RL,RRを備えるとともに、車輪FL,FR,RL,RRと同数の摩擦ブレーキ10を備えている。
【0013】
<摩擦ブレーキ>
複数の摩擦ブレーキ10は、対応する車輪FL,FR,RL,RRで摩擦制動力を発生させるものである。以降の記載では、摩擦ブレーキ10の作動によって車輪FL,FR,RL,RRで発生する摩擦制動力を、単に「制動力」という。摩擦ブレーキ10は、ホイールシリンダ11と回転体12と摩擦部13とを有している。回転体12は車輪FL,FR,RL,RRと共に回転するため、摩擦部13を回転体12に押し付けることにより、車輪FL,FR,RL,RRで制動力が発生する。回転体12に摩擦部13を押し付ける力は、ホイールシリンダ11内の液圧であるWC圧が高いほど大きくなる。そのため、摩擦ブレーキ10は、WC圧が高いほど大きい制動力を車輪FL,FR,RL,RRで発生させることができる。
【0014】
<制動システム>
制動システム200は、複数のホイールシリンダ11のWC圧を調整することによって、車両で発生する制動力を制御する。制動システム200は、制動操作部材21と上流制動装置22と下流制動装置23と制御装置100とを備えている。制動操作部材21は、例えば、ブレーキペダル又はブレーキレバーである。上流制動装置22及び下流制動装置23は、複数のホイールシリンダ11のWC圧を調整できるようにそれぞれ構成されている。なお、制御装置100が「車両制動制御装置」に対応する。上流制動装置22及び下流制動装置23が、制御装置100の制御対象となる「制動装置」に対応する。本実施形態では、上流制動装置22が「第1制動装置」に対応するとともに、下流制動装置23が「第2制動装置」に対応する。
【0015】
<上流制動装置>
上流制動装置22は、マスタ装置30と加圧ユニット50とを有している。車両の運転者によって制動操作部材21が操作されている場合、上流制動装置22は、制動操作部材21の操作量に応じたWC圧を複数のホイールシリンダ11に発生させることができる。上流制動装置22の作動によって発生したWC圧に応じた制動力を「基礎制動力」という。詳しくは後述するが、加圧ユニット50は、マスタ装置30及び下流制動装置23にブレーキ液を供給できる。
【0016】
<マスタ装置>
マスタ装置30は、マスタシリンダ31と、ストロークシミュレータ32と、マスタシリンダ31に繋がる複数の流路331,332,333と、ブレーキ液の流れを制御する複数の制御弁341,342とを備えている。マスタ装置30は、液圧を検出する複数の液圧センサ351,352,353を備えている。
【0017】
ストロークシミュレータ32は、制動操作部材21の操作量に応じた反力を発生させることができる。
マスタシリンダ31は、メインシリンダ41とカバーシリンダ42とを備えている。マスタシリンダ31は、マスタピストン43と入力ピストン44とを備えている。マスタシリンダ31は、マスタピストン43を付勢するマスタスプリング45と、入力ピストン44を付勢する入力スプリング46とを備えている。マスタピストン43及び入力ピストン44は、メインシリンダ41及びカバーシリンダ42に対して相対移動することができる。以降の説明では、マスタシリンダ31において、
図1における左方を「前方」といい、
図1における右方を「後方」という。
【0018】
メインシリンダ41は、底壁411と、底壁411から底壁411の軸線に沿って延びる第1周壁412とを有している。メインシリンダ41は、第1周壁412の後端から第1周壁412の軸線に沿って延びる第2周壁413と、第2周壁413の後端から第2周壁413の軸線に向かって延びる第1環状壁414とを有している。第1周壁412及び第2周壁413は筒状をなしている。第1環状壁414は、後述するマスタピストン43の後端部が挿し込まれている孔を備えている。第1周壁412の内径は第2周壁413の内径よりも小さくなっている。
【0019】
メインシリンダ41には、底壁411と第1周壁412とマスタピストン43とによって区画されるマスタ室Rmが形成されている。メインシリンダ41には、第2周壁413とマスタピストン43とによって区画される第1液室R1と、第2周壁413と第1環状壁414とマスタピストン43とによって区画されるサーボ室Rsとが形成されている。マスタ室Rmはマスタシリンダ31の前端寄りの位置に形成され、第1液室R1はマスタ室Rmよりも後方に形成され、サーボ室Rsは第1液室R1よりも後方に形成されている。メインシリンダ41の内部において、マスタ室Rm、第1液室R1及びサーボ室Rsは、互いに接続していない。
【0020】
カバーシリンダ42は、筒状をなす第3周壁421と、第3周壁421の後端から第3周壁421の軸線に向かって延びる第2環状壁422とを有している。第3周壁421は、メインシリンダ41の第2周壁413と軸線が一致するように、第1環状壁414に取り付けられている。第2環状壁422は、後述する入力ピストン44の後端部が挿し込まれている孔を備えている。
【0021】
カバーシリンダ42には、メインシリンダ41の第1環状壁414と第3周壁421と入力ピストン44とによって区画される第2液室R2と、第3周壁421と第2環状壁422と入力ピストン44とによって区画される第3液室R3とが形成されている。マスタシリンダ31において、第2液室R2はサーボ室Rsよりも後方に形成され、第3液室R3は第2液室R2よりも後方に形成されている。カバーシリンダ42の内部において、第2液室R2及び第3液室R3は、互いに接続していない。
【0022】
マスタピストン43は、メインシリンダ41の第1周壁412の内周面、第2周壁413の内周面及び第1環状壁414の内周面にシール部材を挟んだ状態で、マスタシリンダ31に収容されている。このため、マスタピストン43が軸方向に移動する場合、マスタピストン43は、第1周壁412の内周面、第2周壁413の内周面及び第1環状壁414の内周面とシール部材を挟んで摺動する。マスタピストン43の後端部は、第1環状壁414よりも後方に突出して、第2液室R2内に位置している。
【0023】
入力ピストン44は、カバーシリンダ42の第3周壁421の内周面及び第2環状壁422の内周面にシール部材を挟んだ状態で、マスタシリンダ31に収容されている。このため、入力ピストン44が軸方向に移動する場合、入力ピストン44は、第3周壁421の内周面及び第2環状壁422の内周面とシール部材を挟んで摺動する。入力ピストン44の後端部は、第2環状壁422よりも後方に突出しているとともに、制動操作部材21に連結されている。入力ピストン44は、制動操作部材21の操作量に応じて、マスタピストン43に接近する方向に移動する。また、第2液室R2において、入力ピストン44とマスタピストン43との間には隙間が形成されている。
【0024】
マスタスプリング45は、メインシリンダ41の底壁411とマスタピストン43との間に配置されている。マスタスプリング45はマスタピストン43を後方に付勢するため、マスタピストン43が前方に移動すると、マスタスプリング45は弾性的に圧縮される。
【0025】
入力スプリング46は、メインシリンダ41の第1環状壁414と入力ピストン44との間に配置されている。入力スプリング46は入力ピストン44を後方に付勢するため、入力ピストン44が前方に移動すると、入力スプリング46は弾性的に圧縮される。
【0026】
マスタシリンダ31において、マスタ室Rmは、リザーバタンク24と接続されている。詳しくは、マスタ室Rmの後端寄りの部分がメインシリンダ41の第1周壁412に形成されるポートを介してリザーバタンク24と接続されている。このため、マスタピストン43が
図1に示す初期位置から前方に移動する場合には、マスタ室Rmとリザーバタンク24とが接続しなくなる。その結果、マスタピストン43の前方への移動に伴い、マスタ室Rmの液圧が増大する。
【0027】
第3液室R3は、後述する第3流路333を介して、リザーバタンク24と接続されている。このため、入力ピストン44が前方に移動する場合には、リザーバタンク24から第3液室R3にブレーキ液が供給される。一方、入力ピストン44が後方に移動する場合には、第3液室R3からリザーバタンク24にブレーキ液が排出される。
【0028】
第1流路331は、マスタ室Rmと下流制動装置23とを接続している。第2流路332は、第1液室R1及び第2液室R2を接続している。第3流路333は、リザーバタンク24と第2流路332とを接続している。
【0029】
第1制御弁341は常閉型の電磁弁であり、第2制御弁342は常開型の電磁弁である。第1制御弁341は、第2流路332における第3流路333との接続点よりも第2液室R2側に設けられている。第2制御弁342は、第3流路333における第2流路332との接続点の近くに設けられている。制御装置100が稼働している場合には、第1制御弁341は開弁され、第2制御弁342は閉弁される。
【0030】
マスタ液圧センサ351は、第1流路331に設けられているとともに、マスタ室Rm内の液圧を検出する。入力液圧センサ352は、第2流路332において、第1制御弁341より第2液室R2側に設けられているとともに、第2液室R2内の液圧を検出する。シミュレータ液圧センサ353は、第2流路332における第3流路333との接続点よりも第1液室R1側に設けられているとともに、ストロークシミュレータ32が接続される第2流路332内の液圧を検出する。以降の説明では、マスタ液圧センサ351が検出する液圧を「マスタ圧」といい、入力液圧センサ352が検出する液圧を「入力液圧」といい、シミュレータ液圧センサ353が検出する液圧を「シミュレータ液圧」という。
【0031】
<加圧ユニット>
加圧ユニット50は加圧部54を有している。加圧部54は、ポンプ541と逆止弁545と第1モータ装置542とを有している。第1モータ装置542は、ポンプ541の動力源である第1電気モータ543と、第1電気モータ543の駆動回路544とによって構成されている。例えば、第1電気モータ543は同期モータである。加圧ユニット50は、第1電気モータ543の駆動量に応じたWC圧を複数のホイールシリンダ11で発生させることができる。
【0032】
加圧ユニット50は、第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52と、逆止弁53と、第1液圧調整弁51と加圧部54との間の液圧を検出するサーボ液圧センサ55とをさらに有している。加圧ユニット50は、下流制動装置23とリザーバタンク24とを接続する第4流路56と、リザーバタンク24と第4流路56とを接続する第5流路57と、サーボ室Rsと第4流路56とを接続する第6流路58とを有している。加圧ユニット50は、第4流路56と第6流路58とを接続する第7流路59を有している。
【0033】
第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52は、常開型のリニア電磁弁である。第1液圧調整弁51は、第4流路56における第6流路58との接続点及び第7流路59との接続点の間に設けられている。第2液圧調整弁52は、第4流路56における第6流路58との接続点及び第7流路59との接続点の間に設けられている。
【0034】
逆止弁53は、第2液圧調整弁52と並列するように、第6流路58に設けられている。逆止弁53は、リザーバタンク24からサーボ室Rsに向かうブレーキ液の流れを許容する一方、サーボ室Rsからリザーバタンク24に向かうブレーキ液の流れを規制するものである。
【0035】
加圧部54のポンプ541は、第5流路57に設けられている。そのため、ポンプ541は、リザーバタンク24から汲み上げたブレーキ液を第4流路56に向けて吐出できる。ポンプ541のブレーキ液の吐出量は、その動力源である第1電気モータ543の回転速度である第1電気モータ543の回転数が高いほど多い。ポンプ541の吐出側に逆止弁545が設けられている。そして、逆止弁545は、ポンプ541から第4流路56に向かう吐出方向へのブレーキ液の流れを許容する一方、吐出方向とは逆方向へのブレーキ液の流れを規制する。
【0036】
サーボ液圧センサ55は、第5流路57における第4流路56との接続点と加圧部54との間に設けられている。以降の説明では、サーボ液圧センサ55が検出する液圧を「サーボ圧Psev」という。また、第5流路57のうち、第4流路56との接続点と加圧部54との間の部分を、加圧部54のポンプ541から吐出されたブレーキ液が流れる「吐出流路571」という。
【0037】
加圧ユニット50は、加圧部54を作動させた状況下において、第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52の開度を調整することによって、下流制動装置23及びマスタシリンダ31に調圧したブレーキ液を供給することができる。第1液圧調整弁51によって調圧されたブレーキ液は、下流制動装置23における後述する第2液圧回路612に供給される。すると、複数のホイールシリンダ11のうち、第2液圧回路612に接続されている2つのホイールシリンダ11にブレーキ液が供給される。加圧部54は、ポンプ541によってホイールシリンダ11内にブレーキ液を供給することでWC圧を増大させるものである。第2液圧調整弁52によって調圧されたブレーキ液は、マスタシリンダ31のサーボ室Rsに供給される。すると、サーボ室Rsの液圧が高くなるため、マスタピストン43が前方に移動する。これにより、マスタ室Rmの液圧が高くなるので、マスタ室Rmから下流制動装置23における後述する第1液圧回路611にブレーキ液が供給される。すると、複数のホイールシリンダ11のうち、第1液圧回路611に接続されている2つのホイールシリンダ11にブレーキ液が供給される。こうして基礎制動力を車両に発生させることができる。
【0038】
<下流制動装置>
下流制動装置23は、第2モータ装置64を備えている。第2モータ装置64は、第2電気モータと、第2電気モータの駆動回路とによって構成されている。下流制動装置23は、第2電気モータの駆動量に応じて複数のホイールシリンダ11内のWC圧を調整することができる。下流制動装置23の作動によって発生したWC圧に応じた制動力を「助勢制動力」という。
【0039】
下流制動装置23は、複数のホイールシリンダ11内のWC圧を個別に調整することができる。下流制動装置23は、ブレーキ液を吐出するポンプ631,632を備えている。ポンプ631,632は、第2モータ装置64によって駆動される。
【0040】
下流制動装置23は、加圧ユニット50が作動していない場合でもWC圧を増大させることができる。すなわち、制動システム200は冗長構成を有している。
下流制動装置23は、2系統の液圧回路611,612を有している。第1液圧回路611には、前輪FL,FR用の2つのホイールシリンダ11が接続されている。また、第2液圧回路612には、後輪RL,RR用の2つのホイールシリンダ11が接続されている。
【0041】
第1液圧回路611は、第1流路331及びマスタ室Rmを介してリザーバタンク24に接続されている。第1液圧回路611において、第1流路331との接続点とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路には、常開型のリニア電磁弁である第1差圧調整弁621が設けられている。第2液圧回路612は、第4流路56を介してリザーバタンク24に接続されている。第2液圧回路612において、第4流路56との接続点とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路には、常開型のリニア電磁弁である第2差圧調整弁622が設けられている。
【0042】
ポンプ631は、第1液圧回路611に設けられている。ポンプ631は、第1差圧調整弁621とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路にブレーキ液を供給する。ポンプ632は、第2液圧回路612に設けられている。ポンプ632は、第2差圧調整弁622とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路にブレーキ液を供給する。
【0043】
第1液圧回路611において第1差圧調整弁621よりもホイールシリンダ11側には、第1液圧回路611に接続されるホイールシリンダ11と同数の経路65a,65bが設けられている。同様に、第2液圧回路612において第2差圧調整弁622よりもホイールシリンダ11側には、第2液圧回路612に接続されるホイールシリンダ11と同数の経路65c,65dが設けられている。そして、複数の経路65a~65dには、WC圧の増大を規制する際に閉弁される保持弁66と、WC圧を減少させる際に開弁される減圧弁67とが設けられている。すなわち、差圧調整弁621,622よりもホイールシリンダ11側の液路に保持弁66が配置されている。なお、複数の保持弁66は常開型の電磁弁であり、複数の減圧弁67は常閉型の電磁弁である。
【0044】
両液圧回路611,612には、減圧弁67が開弁しているときにホイールシリンダ11から減圧弁67を介して流出したブレーキ液を一時的に貯留するリザーバ681,682がそれぞれ接続されている。リザーバ681,682は、吸入用流路691,692を介してポンプ631,632に接続されている。
【0045】
リザーバ681は、タンク側流路701を介して差圧調整弁621とマスタ室Rmとを繋ぐ液路に接続されている。リザーバ682は、タンク側流路702を介して、第2液圧回路612における第4流路56との接続点と差圧調整弁622とを繋ぐ液路に接続されている。
【0046】
複数のポンプ631,632は、リザーバタンク24内のブレーキ液をリザーバ681,682を介して汲み取り、当該ブレーキ液を差圧調整弁621,622と保持弁66との間の液路に吐出する。当該液路とポンプ631,632との間の液路を「中間液路711,712」という。
【0047】
<検出系>
図1及び
図2に示すように、制動システム200の検出系は、上記の複数の液圧センサ351,352,353及びサーボ液圧センサ55に加え、モータ角センサ151、ストロークセンサ152、第1温度センサ153、第2温度センサ154及び第3温度センサ155を有している。
図2に示すように、これら各種のセンサの検出信号は制御装置100に入力される。
【0048】
モータ角センサ151は、第1電気モータ543の回転角を検出する。本実施形態では、モータ角センサ151はホールセンサである。モータ角センサ151が検出する第1電気モータ543の回転角を「第1モータ回転角θmt」という。本実施形態では、モータ角センサ151が「回転角センサ」に対応する。
【0049】
ストロークセンサ152は、制動操作部材21の操作量を検出する。ストロークセンサ152が検出する操作量を「制動操作量Boa」という。
第1温度センサ153及び第2温度センサ154は、第1モータ装置542の温度を検出する。第1温度センサ153は、第1モータ装置542の第1電気モータ543の温度を検出する。第2温度センサ154は、第1モータ装置542の駆動回路544の温度を検出する。具体的には、第1温度センサ153は、第1電気モータ543のコイルの温度を検出する。第2温度センサ154は、駆動回路544の半導体素子の温度を検出する。半導体素子の一例は、FETである。第1温度センサ153が検出する第1電気モータ543の温度を「第1温度TPmt1」といい、第2温度センサ154が検出する駆動回路544の温度を「第2温度TPdv1」という。
【0050】
第3温度センサ155は、第2モータ装置64の温度を検出する。具体的には、第3温度センサ155は、第2モータ装置64の第2電気モータのコイルの温度を検出する。第3温度センサ155が検出する第2電気モータの温度を「第3温度TP3」という。第2モータ装置64における駆動回路の半導体素子の温度を検出するセンサとして、第4温度センサをさらに備えていてもよい。あるいは、第3温度センサ155が、第2モータ装置64における駆動回路の半導体素子の温度を検出することができるセンサであってもよい。
【0051】
<制御装置>
図2に示すように、制御装置100は、第1制御ユニット110と第2制御ユニット120とを有している。第1制御ユニット110及び第2制御ユニット120は、互いに情報の送受信が可能に構成されている。第1制御ユニット110は上流制動装置22を制御し、第2制御ユニット120は下流制動装置23を制御する。
【0052】
第1制御ユニット110は処理回路111を有している。処理回路111はCPU112及びメモリ113を含んでいる。メモリ113には、CPU112によって実行される各種の制御プログラムが記憶されている。
【0053】
第2制御ユニット120は処理回路121を有している。処理回路121はCPU122及びメモリ123を含んでいる。メモリ123には、CPU122によって実行される各種の制御プログラムが記憶されている。
【0054】
第1制御ユニット110のCPU112は、メモリ113に記憶されている制御プログラムを実行することにより、取得部M11、要求制動力導出部M13、モータ制御部M15及びバルブ制御部M17として機能する。第2制御ユニット120のCPU122は、メモリ123に記憶されている制御プログラムを実行することにより、助勢制御部M21として機能する。すなわち、制御装置100は、機能部として、取得部M11、要求制動力導出部M13、モータ制御部M15、バルブ制御部M17及び助勢制御部M21を備えている。
【0055】
なお、制御装置100は、CANなどにより他の制御装置と情報の伝達が可能に構成されている。CANとは、「Controller Area Network」の略記である。
<機能部>
取得部M11は、各種のセンサ351~353,55,151~155の検出信号を基に、センサの検出値、及び当該検出値を加工した値である加工値を取得する。具体的には、取得部M11は、マスタ液圧センサ351の検出値としてマスタ圧Pmcを取得する。取得部M11は、入力液圧センサ352の検出値として入力液圧Pinpを取得する。取得部M11は、シミュレータ液圧センサ353の検出値としてシミュレータ圧Psimを取得する。取得部M11は、サーボ液圧センサ55の検出値としてサーボ圧Psevを取得する。取得部M11は、モータ角センサ151の検出値として第1モータ回転角θmtを取得する。さらに、取得部M11は、モータ角センサ151の検出信号を基に、第1電気モータ543の回転速度であるモータ回転数Nmtを取得する。取得部M11は、ストロークセンサ152の検出値として制動操作部材21の制動操作量Boaを取得する。取得部M11は、第1温度センサ153の検出値として第1電気モータ543の第1温度TPmt1を取得する。取得部M11は、第2温度センサ154の検出値として第1電気モータ543の駆動回路544の第2温度TPdv1を取得する。本実施形態では、第1温度TPmt1及び第2温度TPdv1が、「第1モータ装置542の温度」に対応する。
【0056】
なお、取得部M11は、第3温度センサ155の検出値として、第2モータ装置64の温度を検出してもよい。第2モータ装置64の温度は、第2電気モータの温度、及び、第2電気モータの駆動回路の温度のうちの少なくとも一方を含んでいる。なお、取得部M11は、第3温度センサ155の検出信号と第2モータ装置64の駆動関連情報とに基づいて、第2モータ装置64の温度を導出してもよい。第2モータ装置64の駆動関連情報は、例えば、駆動時の電圧、駆動時の電流、モータ駆動時間、モータ停止時間及び駆動周波数などがある。
【0057】
要求制動力導出部M13は、制動システム200が車両に発生させる制動力の要求値である要求制動力BPRqを導出する。運転者が制動操作部材21を操作している場合、要求制動力導出部M13は、制動操作量Boaが大きいほど大きい値を要求制動力BPRqとして導出する。また、他の制御装置から制動要求がある場合、要求制動力導出部M13は、他の制御装置からの要求に応じた値を要求制動力BPRqとして導出する。なお、要求制動力BPRqが0(零)よりも大きい場合は、制動システム200に対して制動要求があると見なす。一方、要求制動力BPRqが0(零)である場合は、制動システム200に対して制動要求がないと見なす。
【0058】
要求制動力導出部M13は、そのときの基礎制動力BPbの上限である基礎制動力上限値BPbLを把握している。要求制動力導出部M13は、基礎制動力上限値BPbLをWC圧に換算した値である基礎液圧上限値を、基礎制動力上限値BPbLの代わりに把握するようにしてもよい。そして、要求制動力導出部M13は、基礎制動力上限値BPbLが要求制動力BPRq以上である場合、上流制動装置22に対する指令値である上流指令値として、要求制動力BPRqを設定する。一方、要求制動力導出部M13は、基礎制動力上限値BPbLが要求制動力BPRq未満である場合、基礎制動力上限値BPbLを上流指令値として設定する。このように基礎制動力上限値BPbLが要求制動力BPRq未満である場合、要求制動力導出部M13は、下流制動装置23の作動を助勢制御部M21に要求する。この際、要求制動力導出部M13は、基礎制動力上限値BPbLと要求制動力BPRqとの差分ΔBPを、下流制動装置23に対する指令値である下流指令値として設定する。
【0059】
モータ制御部M15は、第1電気モータ543の駆動回路544を動作させることによって第1電気モータ543を駆動させる。モータ制御部M15による第1電気モータ543の駆動制御については後述する。
【0060】
バルブ制御部M17は、上流制動装置22が備える複数の制御弁341,342、第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52を制御する。すなわち、バルブ制御部M17は、第1制御ユニット110が稼動している場合、第1制御弁341を開弁させ、且つ第2制御弁342を閉弁させる。また、バルブ制御部M17は、第1制御弁341を開弁させ、且つ第2制御弁342を閉弁させた状況下で制動要求がある場合、上記上流指令値に基づいて第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52の開度を制御する。
【0061】
ここで、加圧ユニット50のポンプ541のブレーキ液の吐出量は、第1電気モータ543の回転数が高いほど多くなる。そして、加圧ユニット50は、ポンプ541のブレーキ液の吐出量が多いほど、複数のホイールシリンダ11のWC圧を高くできる。そのため、バルブ制御部M17は、モータ回転数Nmtも考慮して第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52の開度を制御する。これにより、ポンプ541のブレーキ液の吐出量が変化しても、WC圧が変化することを抑制できる。
【0062】
助勢制御部M21は、下流制動装置23の第2モータ装置64、複数の差圧調整弁621,622、複数の保持弁66及び複数の減圧弁67を制御することにより、複数のホイールシリンダ11のWC圧を調整する。助勢制御部M21は、以下の条件(A1)~(A3)のうち、少なくとも1つが成立している場合、下流制動装置23を作動させる。
(A1)複数のホイールシリンダ11のWC圧を個別に調整する必要のあるブレーキ制御を実施する場合。
(A2)緊急制動時などのような急制動が必要な場合。
(A3)基礎制動力上限値BPbLが要求制動力BPRq未満であるために要求制動力導出部M13によって下流指令値が設定された場合。
【0063】
複数のホイールシリンダ11のWC圧を個別に調整する必要のあるブレーキ制御としては、例えば、アンチロックブレーキ制御、横滑り抑制制御及びトラクション制御などがある。これは、上流制動装置22では複数のホイールシリンダ11のWC圧を個別に調整できないのに対し、下流制動装置23では複数のホイールシリンダ11のWC圧を個別に調整できるためである。
【0064】
急制動が必要な場合では、基礎制動力上限値BPbLよりも大きい値が要求制動力BPRqとして設定されることがある。そのため、急制動時には、上流制動装置22及び下流制動装置23の双方を作動させることが好ましい。
【0065】
<第1電気モータの駆動制御>
次に、
図3を参照し、モータ制御部M15による第1電気モータ543の駆動制御について説明する。
図3はベクトル制御の回転座標を示している。この回転座標において互いに直交する2つの制御軸のうち、一方の制御軸がd軸であり、他方の制御軸がq軸である。d軸は電気モータの永久磁石の磁束軸の方向に延びる制御軸であるとともに、q軸はトルクの方向に延びる制御軸である。なお、d軸成分の電流を「d軸電流Id」といい、q軸成分の電流を「q軸電流Iq」という。なお、
図3における二点鎖線は、最大トルク曲線LTmaxである。最大トルク曲線LTmaxは、第1電気モータ543の電力消費を最小にしつつトルクを第1電気モータ543から出力させるためのd軸電流Id及びq軸電流Iqの組み合わせを示す点の集合体である。
【0066】
モータ制御部M15は、ベクトル制御によって第1電気モータ543を駆動させる。すなわち、モータ制御部M15は、ベクトル制御の回転座標のうち、第1電気モータ543の磁束との相関性が高い電流の指令値、及び第1電気モータ543の機械出力との相関性が高い電流の指令値を導出する。そして、モータ制御部M15は、導出した両指令値に基づいて駆動回路544を動作させることにより、第1電気モータ543を駆動させる。本実施形態では、モータ制御部M15は、第1電気モータ543の磁束との相関性が高い電流の指令値として、d軸電流Idの指令値であるd軸電流指令値IdCを導出し、第1電気モータ543の機械出力との相関性が高い電流の指令値として、q軸電流Iqの指令値であるq軸電流指令値IqCを導出する。
【0067】
続いて、モータ制御部M15は、d軸成分の電圧の指令値であるd軸電圧指令値と、q軸成分の電圧の指令値であるq軸電圧指令値とを導出する。すなわち、モータ制御部M15は、d軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCと、d軸電流Id及びq軸電流Iqと、第1電気モータ543の角速度とに基づいて、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を導出する。第1電気モータ543の角速度として、例えば、第1電気モータ543の電気角の変化速度である電気角速を用いることができる。
【0068】
なお、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値の導出に用いたd軸電流Id及びq軸電流Iqは、第1電気モータ543の複数のコイルに流れた電流を、第1電気モータ543の電気角に基づいてd軸成分の電流及びq軸成分の電流に変換したものである。
【0069】
そして、モータ制御部M15は、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値に基づいて駆動回路544を動作させることにより、第1電気モータ543を駆動させる。以降の記載では、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値に基づいて駆動回路544を動作させることによって第1電気モータ543を駆動させることを、「d軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCに基づいて第1電気モータ543を駆動させる」という。
【0070】
モータ制御部M15は、d軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCを導出する処理として、同期駆動処理、拡張誘起駆動処理及び制限処理を実行する。
同期駆動処理について説明する。d軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCで示す電流ベクトルを「指示電流ベクトルVCI」とし、第1電気モータ543に対するトルクの指令値を「トルク指令値」とする。このとき、同期駆動処理において、モータ制御部M15は、モータ角センサ151の検出値である第1モータ回転角θmtを所定周期毎に取得する。そして、モータ制御部M15は、当該第1モータ回転角θmt及びトルク指令値に基づいて指示電流ベクトルVCIの大きさ及び向きを設定する。
【0071】
なお、モータ制御部M15は、同期駆動処理でd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCを導出する場合、モータ角センサ151による位置取得間隔の粗さや制御タイミングの遅れを補償するため、後述する拡張誘起駆動処理でd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCを導出する場合と比較し、指示電流ベクトルVCIの大きさを大きくする。具体的には、モータ制御部M15は、同期駆動処理において、トルク指令値と所定のトルク補正値との和に基づいて指示電流ベクトルVCIを設定する。
【0072】
ここで、同期駆動処理による指示電流ベクトルVCIの設定について詳述する。
図3には、トルク指令値の等トルク線LTq1、及び、トルク指令値と所定のトルク補正値との和の等トルク線LTq2が図示されている。モータ制御部M15は、
図3に示す回転座標において、最大トルク曲線LTmaxと等トルク線LTq2との交点を通過する半円Laと、等トルク線LTq1との交点を指す電流ベクトルを、指示電流ベクトルVCIとして設定する。当該指示電流ベクトルVCIが示すd軸電流Id及びq軸電流が、それぞれd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCとなる。
【0073】
拡張誘起駆動処理について説明する。拡張誘起駆動処理において、モータ制御部M15は、公知の拡張誘起電圧方式によって軸位相偏差Δθを導出する。この際、モータ制御部M15は、d軸電流Id及びq軸電流Iqとd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値とに基づいて、拡張誘起電圧を導出する。続いて、モータ制御部M15は、拡張誘起電圧に基づいて軸位相偏差Δθを導出する。軸位相偏差Δθとは、d軸の実際の方向とd軸の推定方向との偏差である。そして、モータ制御部M15は、当該軸位相偏差Δθ及びトルク指令値に基づいて、指示電流ベクトルVCIの大きさ及び向きを設定する。この場合、モータ制御部M15は、回転座標におけるトルク指令値の等トルク線LTq1と最大トルク曲線LTmaxとの交点を指す電流ベクトルを指示電流ベクトルVCIとして設定できる。当該指示電流ベクトルVCIが示すd軸電流Id及びq軸電流Iqが、それぞれd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCとなる。
【0074】
図3に示すように、拡張誘起駆動処理で設定する指示電流ベクトルVCIの大きさは、同期駆動処理で設定する指示電流ベクトルVCIの大きさよりも小さい。そのため、拡張誘起駆動処理で導出したd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCに基づいて第1電気モータ543を駆動させることにより、第1電気モータ543及び駆動回路544での発熱が抑えられる。
【0075】
拡張誘起電圧に基づいて軸位相偏差Δθを導出する場合、同期駆動処理で導出したd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCに基づいて第1電気モータ543を駆動させる場合と比較し、第1電気モータ543の回転数を高くする必要がある。このように第1電気モータ543の回転速度を高くした状態で拡張誘起電圧を取得することにより、モータ制御部M15は、軸位相偏差Δθを精度良く導出できる。そして、モータ制御部M15は、当該軸位相偏差Δθを用いて導出したd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCに基づいて第1電気モータ543を駆動させることにより、第1電気モータ543の回転速度を精度良く制御できる。
【0076】
なお、拡張誘起駆動処理によってd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCを導出する場合、同期駆動処理によってd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCを導出する場合と比較し、d軸電流指令値IdCの大きさが小さくなることが多い。そのため、拡張誘起駆動処理は、同期駆動処理よりもd軸電流指令値IdCの大きさを小さくできる処理であるとも云える。なお、
図3に示す例では、モータ制御部M15は、拡張誘起駆動処理において、d軸電流指令値IdCとして負の電流値が導出する。つまり、拡張誘起駆動処理によって導出したd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCに基づいて第1電気モータ543を駆動させる場合、弱め界磁制御によって第1電気モータ543を駆動させることがある。
【0077】
制限処理について説明する。制限処理において、モータ制御部M15は、第1電気モータ543の駆動を制限する。本実施形態において、モータ制御部M15は、駆動回路544を動作させないことにより、第1電気モータ543の出力を停止させる。具体的には、モータ制御部M15は、制限処理において、d軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCとして0(零)をそれぞれ導出する。
【0078】
本実施形態では、モータ制御部M15は、後述する騒音抑制条件が成立しているか否か、及び、第1モータ装置542の温度TPmu1によって、同期駆動処理、拡張誘起駆動処理及び制限処理の中から1つの処理を選択する。そして、モータ制御部M15は、選択した処理で導出したd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCに基づいて第1電気モータ543を駆動させる。ここで、第1電気モータ543のモータ回転数Nmtが低いほど第1電気モータ543の作動音は低くなる。一方、モータ回転数Nmtが低い状態で制御するにはモータ角センサ151でモータ角を検出して制御する同期駆動処理を選択することが好ましい。したがって、少なくとも後述する騒音抑制条件が成立している状況下で第1電気モータ543を駆動させる場合には、同期駆動処理を選択できるようにすることで、作動音の低減を図ることができる。
【0079】
騒音抑制条件は、第1電気モータ543の騒音を抑えることの優先度が高い条件である。モータ制御部M15は、以下に示す複数の条件(B1)及び(B2)の何れもが成立している場合、騒音抑制条件が成立していると判定する。一方、モータ制御部M15は、複数の条件(B1)及び(B2)のうち少なくとも1つが成立していない場合、騒音抑制条件が成立していないと判定する。
(B1)サービスブレーキによって車両に制動力を発生させる場合。
(B2)下流制動装置23の作動が不要である場合。
【0080】
モータ制御部M15は、制動操作部材21が操作されている場合、条件(B1)が成立していると判定する。また、モータ制御部M15は、他の制御装置から制動要求に基づいた車両の減速度の要求値が急制動判定減速度以下である場合も、条件(B1)が成立していると判定する。なお、車両の減速度が急制動判定減速度よりも高い場合は、車両に急制動が要求されていると見なす。一方、車両の減速度が急制動判定減速度以下である場合は、車両に急制動が要求されていないと見なす。そのため、車両に急制動が要求されていない場合は、騒音抑制条件が成立している可能性があると見なせる。
【0081】
下流制動装置23の作動が不要な場合とは、上記の条件(A1)~(A3)の何れもが成立していない場合である。
モータ制御部M15は、騒音抑制条件が成立していない場合、拡張誘起駆動処理を選択する。一方、モータ制御部M15は、騒音抑制条件が成立している場合、第1モータ装置542の温度TPmu1によって同期駆動処理又は拡張誘起駆動処理を選択する。すなわち、モータ制御部M15は、第1モータ装置542の温度TPmu1が第2判定温度TPmuth2未満であると判定した場合、同期駆動処理を選択する。一方、モータ制御部M15は、第1モータ装置542の温度TPmu1が第2判定温度TPmuth2未満ではないと判定し、且つ当該温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上ではないと判定した場合、拡張誘起駆動処理を選択する。第1判定温度TPmuth1として、第2判定温度TPmuth2よりも高い温度が設定されている。
【0082】
モータ制御部M15は、下記の条件(C1)~(C4)のうち、条件(C1)及び(C2)の何れもが成立している場合、第1モータ装置542の温度TPmu1が第2判定温度TPmuth2未満であると判定する。モータ制御部M15は、条件(C1)及び(C2)のうち少なくとも1つが成立していない場合、温度TPmu1が第2判定温度TPmuth2未満ではないと判定する。モータ制御部M15は、条件(C3)及び(C4)が共に成立していない場合、温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上ではないと判定する。モータ制御部M15は、条件(C3)及び(C4)のうち少なくとも1つが成立している場合、温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上であると判定する。
(C1)第1電気モータ543の第1温度TPmt1が第2モータ用判定温度TPmtth2未満であること。
(C2)駆動回路544の第2温度TPdv1が第2駆動回路用判定温度TPdvth2未満であること。
(C3)第1温度TPmt1が第1モータ用判定温度TPmtth1以上であること。
(C4)第2温度TPdv1が第1駆動回路用判定温度TPdvth1以上であること。
【0083】
第1モータ用判定温度TPmtth1及び第2モータ用判定温度TPmtth2として、第1電気モータ543のモータ許容温度TPmtLよりも低い温度が設定されている。さらに、第2モータ用判定温度TPmtth2として、第1モータ用判定温度TPmtth1よりも低い温度が設定されている。第1駆動回路用判定温度TPdvth1及び第2駆動回路用判定温度TPdvth2として、駆動回路544の駆動回路許容温度TPdvLよりも低い温度が設定されている。さらに、第2駆動回路用判定温度TPdvth2として、第1駆動回路用判定温度TPdvth1よりも低い温度が設定されている。
【0084】
第1温度TPmt1がモータ許容温度TPmtLを越えると、第1電気モータ543が過熱状態となるため、第1電気モータ543の出力を制限する必要がある。第2温度TPdv1が駆動回路許容温度TPdvLを越えると、駆動回路544が過熱状態となるため、駆動回路544への通電を制限する必要がある。よって、第1判定温度TPmuth1は、第1モータ装置542の許容温度TPmuLよりも低い温度であると云える。
【0085】
なお、モータ制御部M15は、第1モータ装置542の温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上であると判定した場合、騒音抑制条件が成立しているか否かに拘わらず、制限処理を選択する。
【0086】
本実施形態において、同期駆動処理で導出したd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCに基づいて第1電気モータ543を制御することを「同期制御」という。拡張誘起駆動処理で導出したd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCに基づいて第1電気モータ543を制御することを「拡張誘起制御」という。制限処理で導出したd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCに基づいて第1電気モータ543を制御することを「制限制御」という。
【0087】
<第1制御ユニットで実行される処理ルーチン>
図4を参照し、第1制御ユニット110のCPU112が実行する処理ルーチンについて説明する。本処理ルーチンを実行することにより、同期駆動処理、拡張誘起駆動処理及び制限処理の何れか1つの処理が選択される。メモリ113に記憶されている制御プログラムをCPU112が繰り返し実行することにより、本処理ルーチンが所定の制御サイクル毎に実行される。なお、本処理ルーチンを構成する複数のステップS11~S29は、CPU112がモータ制御部M15として機能することによって実行される。
【0088】
本処理ルーチンにおいてステップS11では、CPU112は、要求制動力BPRqが0(零)よりも大きいか否かを判定する。要求制動力BPRqが0(零)よりも大きい場合(S11:YES)、制動システム200に対して制動要求があるため、CPU112は処理をステップS13に移行する。一方、要求制動力BPRqが0(零)である場合(S11:NO)、制動システム200に対して制動要求がないため、CPU112は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0089】
ステップS13において、CPU112は、第1モータ装置542の温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上であるか否かを判定する。温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上であると判定した場合(S13:YES)、CPU112は処理をステップS15に移行する。一方、温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上ではないと判定した場合(S13:NO)、CPU112は処理をステップS19に移行する。
【0090】
ステップS15において、CPU112は、制限処理を実行する旨及び要求制動力BPRqを第2制御ユニット120に送信する。この際、CPU112は、要求制動力BPRqを上記の下流指令値として第2制御ユニット120に送信する。続いてステップS17において、CPU112は、第1電気モータ543を駆動させるための処理として制限処理を選択する。その後、CPU112は本処理ルーチンを一旦終了する。この場合、CPU112は制限制御を実施する。
【0091】
ステップS19において、CPU112は、上記の基礎制動力上限値BPbLが要求制動力BPRq以上であるか否かを判定する。基礎制動力上限値BPbLが要求制動力BPRq以上である場合(S19:YES)、CPU112は処理をステップS23に移行する。一方、基礎制動力上限値BPbLが要求制動力BPRq未満である場合(S19:NO)、CPU112は処理をステップS21に移行する。
【0092】
ステップS21において、CPU112は、基礎制動力上限値BPbLと要求制動力BPRqとの差分ΔBPを導出する。そして、CPU112は、差分ΔBPを下流指令値として第2制御ユニット120に送信する。その後、CPU112は処理をステップS23に移行する。
【0093】
ステップS23において、CPU112は上記の騒音抑制条件が成立しているか否かを判定する。騒音抑制条件が成立していると判定した場合(S23:YES)、CPU112は処理をステップS25に移行する。一方、騒音抑制条件が成立していないと判定した場合(S23:NO)、CPU112は処理をステップS29に移行する。
【0094】
ステップS25において、CPU112は、第1モータ装置542の温度TPmu1が第2判定温度TPmuth2未満であるか否かを判定する。温度TPmu1が第2判定温度TPmuth2未満であると判定した場合(S25:YES)、CPU112は処理をステップS27に移行する。一方、温度TPmu1が第2判定温度TPmuth2未満ではないと判定した場合(S25:NO)、CPU112は処理をステップS29に移行する。
【0095】
ステップS27において、CPU112は、第1電気モータ543を駆動させるための処理として同期駆動処理を選択する。そして、CPU112は本処理ルーチンを一旦終了する。このように同期駆動処理を選択した場合、CPU112は、同期制御を実施する。
【0096】
ステップS29において、CPU112は、第1電気モータ543を駆動させるための処理として拡張誘起駆動処理を選択する。そして、CPU112は本処理ルーチンを一旦終了する。このように拡張誘起駆動処理を選択した場合、CPU112は、拡張誘起制御を実施する。
【0097】
<第2制御ユニットで実行される処理ルーチン>
図5を参照し、下流制動装置23を作動させるために第2制御ユニット120のCPU122が実行する処理ルーチンについて説明する。メモリ123に記憶されている制御プログラムをCPU122が繰り返し実行することにより、本処理ルーチンが所定の制御サイクル毎に実行される。なお、本処理ルーチンを構成する複数のステップS51~S57は、CPU122が助勢制御部M21として機能することによって実行される。
【0098】
本処理ルーチンにおいてステップS51では、CPU122は、上記の差分ΔBPを下流指示値として第1制御ユニット110から受信しているか否かを判定する。差分ΔBPを受信している場合(S51:YES)、CPU122は処理をステップS53に移行する。一方、差分ΔBPを受信していない場合(S51:NO)、CPU122は処理をステップS55に移行する。
【0099】
ステップS53において、CPU122は第1助勢処理を実行する。具体的には、CPU122は、第2モータ装置64を駆動させることによって両ポンプ631,632からブレーキ液を吐出させつつ、両差圧調整弁621,622の指示開度を調整する。このとき、CPU122は、下流指示値として受信した差分ΔBPに応じた開度を両差圧調整弁621,622の指示開度として設定する。このように差分ΔBPに応じて下流制動装置23を作動させると、CPU122は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0100】
ステップS55において、CPU122は、制限処理を実行する旨を第1制御ユニット110から受信したか否かを判定する。制限処理を実行する旨を受信している場合(S55:YES)、CPU122は処理をステップS57に移行する。一方、制限処理を実行する旨を受信していない場合(S55:NO)、CPU122は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0101】
ステップS57において、CPU122は第2助勢処理を実行する。具体的には、CPU122は、第2モータ装置64を駆動させることによって両ポンプ631,632からブレーキ液を吐出させつつ、両差圧調整弁621,622の指示開度を調整する。このとき、CPU122は、下流指示値として受信した要求制動力BPRqに基づいて両差圧調整弁621,622の指示開度を設定する。下流制動装置23の性能上、助勢制動力の上限値は、基礎制動力上限値BPbLよりも小さい。そのため、CPU122は、助勢制動力の上限値と要求制動力BPRqとのうち小さい方に応じた開度を両差圧調整弁621,622の指示開度として設定する。このように下流制動装置23を作動させると、CPU122は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0102】
<本実施形態の作用及び効果>
図6及び
図7を参照し、騒音抑制条件が成立していると判定されている場合における作用及び効果を説明する。
図6は比較例におけるタイムチャートであり、
図7は本実施形態におけるタイムチャートである。
【0103】
はじめに、
図6を参照して比較例について説明する。
比較例では、第1モータ装置542の温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1未満であると判定している場合には同期制御が実施される。その後に温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1未満ではないと判定されるようになると、制御が同期制御から制限制御に切り替わる。すなわち、比較例では、拡張誘起制御が実施されない。
【0104】
図6の(A)、(B)、(C)及び(D)に示すように、騒音抑制条件が成立していると判定されている状況下のタイミングt11で制動要求が制御装置100に入力される。すると、上流制動装置22では第1電気モータ543の駆動が開始される。タイミングt11では第1モータ装置542の温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1未満であると判定されているため、同期制御が開始される。すると、同期駆動処理によって導出されたd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCに基づいて第1電気モータ543が駆動する。この場合、モータ回転数Nmtが第1モータ回転数Nmt1となるように、第1電気モータ543が駆動する。こうした第1電気モータ543の駆動によってポンプ541からブレーキ液が吐出されるため、サーボ圧Psevが発生する。これにより、サーボ圧Psevに応じたブレーキ液が複数のホイールシリンダ11に供給される。その結果、サーボ圧Psevに応じた基礎制動力BPbが車両に発生する。
【0105】
第1電気モータ543が駆動していると、第1モータ装置542の温度TPmu1が上昇する。具体的には、第1電気モータ543の第1温度TPmt1及び駆動回路544の第2温度TPdv1の何れもが上昇する。
【0106】
そして、タイミングt12で第2温度TPdv1が第1駆動回路用判定温度TPdvth1に達するため、第1制御ユニット110では、第1モータ装置542の温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1未満ではないと判定される。すると、同期制御が終了して制限制御が開始される。
【0107】
制限制御では、d軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCとして0(零)が設定されるため、第1電気モータ543の駆動が停止される。すなわち、モータ回転数Nmtが0(零)となるため、制限制御の開始前よりもサーボ圧Psevが大幅に減少する。これにより、上流制動装置22の作動によって車両に発生させる基礎制動力が大幅に減少する。
【0108】
制限制御が実施されている場合、比較例でも、下流制動装置23を作動させることにより、車両に助勢制動力を発生させることはできる。しかし、要求制動力BPRqが大きいと、車両に発生させる制動力、すなわち基礎制動力と助勢制動力との和が要求制動力BPRqを下回ってしまうおそれがある。
【0109】
次に、
図7を参照して本実施形態について説明する。
図7の(A)、(B)、(C)及び(D)に示すように、騒音抑制条件が成立していると判定されている状況下のタイミングt21で制動要求が制御装置100に入力される。すると、上流制動装置22では第1電気モータ543の駆動が開始される。タイミングt21では第1モータ装置542の温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1未満であると判定されているため、同期制御が開始される。すると、同期駆動処理によって導出されたd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCに基づいて第1電気モータ543が駆動する。この場合、モータ回転数Nmtが第1モータ回転数Nmt1となるように、第1電気モータ543が駆動する。こうした第1電気モータ543の駆動によってポンプ541からブレーキ液が吐出されるため、サーボ圧Psevが発生する。これにより、サーボ圧Psevに応じたブレーキ液が複数のホイールシリンダ11に供給される。その結果、サーボ圧Psevに応じた基礎制動力BPbが車両に発生する。
【0110】
第1電気モータ543の第1温度TPmt1及び駆動回路544の第2温度TPdv1の何れもが上昇していくと、タイミングt22で第2温度TPdv1が第2駆動回路用判定温度TPdvth2に達する。そのため、第1制御ユニット110では、第1モータ装置542の温度TPmu1が第2判定温度TPmuth2未満ではないと判定されるようになる。その結果、同期制御が終了して拡張誘起制御が開始される。
【0111】
拡張誘起制御が開始されると、同期制御の実施時とは異なる値がd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCとしてそれぞれ設定されるようになる。拡張誘起制御では、モータ回転数Nmtが第2モータ回転数Nmt2に設定される。第2モータ回転数Nmt2は、第1モータ回転数Nmt1よりも高い。すなわち、制御が同期制御から拡張誘起制御に切り替わると、モータ回転数Nmtが高くなる。
【0112】
拡張誘起制御では、同期制御と比較してd軸電流指令値IdCの大きさ及びq軸電流指令値IqCの大きさを小さくできる。さらに、
図3に示した指示電流ベクトルVCIの大きさが小さくなる。そのため、制御が同期制御から拡張誘起制御に切り替わると、第1電気モータ543及び駆動回路544の発熱量が少なくなる。その結果、タイミングt22以降では、タイミングt22以前と比較し、第1電気モータ543の第1温度TPmt1の上昇速度及び駆動回路544の第2温度TPdv1の上昇速度がそれぞれ低くなる。これにより、第1モータ装置542の温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上であると判定されにくくなる。
図7に示す例では、タイミングt24で温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上であると判定されるようになる。すると、拡張誘起制御が終了されて制限制御が開始される。
【0113】
なお、
図7におけるタイミングt23は、第1モータ装置542の温度TPmu1が第2判定温度TPmuth2未満ではないと判定されるようになっても同期制御を継続した場合に、温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上であると判定されるようになるタイミングである。すなわち、タイミングt23は、
図6におけるタイミングt12に相当するタイミングである。
図7でも明らかなように、制御が同期制御から拡張誘起制御に切り替わるようにしたことにより、制限制御の開始タイミングを遅らせることができる。すなわち、本実施形態では、拡張誘起制御を実施することにより、温度TPmu1の上昇速度を遅くできるため、制限制御の実施機会を減らすことができる。
【0114】
また、制御が同期制御から拡張誘起制御に切り替わっても、上流制動装置22の第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52の開度を調整することにより、サーボ圧Psevを保持できる。そのため、制御が同期制御から拡張誘起制御に切り替わっても基礎制動力を保持できる。
【0115】
したがって、本実施形態では、第1モータ装置542の温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上であると判定されることを抑制しつつ、上流制動装置22によって車両に基礎制動力BPbを発生させることができる。
【0116】
本実施形態では、以下に示す効果をさらに得ることができる。
(1-1)騒音抑制条件が成立していないと判定している場合には、第1モータ装置542の温度TPmu1が第2判定温度TPmuth2未満であると判定されても拡張誘起制御が実施される。そのため、第1電気モータ543及び駆動回路544の発熱を抑えつつ、車両に基礎制動力BPbを発生させることができる。
【0117】
(1-2)制限制御が実施されるようになると、車両に発生させることのできる基礎制動力BPbが極端に小さくなる。そこで、本実施形態では、制限制御が実施される場合には第2助勢処理が実行される。すなわち、下流制動装置23の作動によって車両に助勢制動力を発生させることができる。これにより、制限制御によって第1モータ装置542を保護しつつ、車両に制動力を発生させることができる。
【0118】
(1-3)制限制御が実施されていない場合であっても、基礎制動力上限値BPbLが要求制動力BPRqを下回っているときには、第1助勢処理が実行される。第1助勢処理では、基礎制動力上限値BPbLと要求制動力BPRqとの差分ΔBPに基づいて下流制動装置23が作動する。そのため、車両に実際に発生する制動力が要求制動力BPRqと乖離することを抑制できる。
【0119】
(1-4)制限制御として、第1電気モータ543からトルクの出力を継続させるものの、トルクの上限を低く処理を実行する場合を考える。この場合、制限処理では、d軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCのうちの少なくともq軸電流指令値IqCが、0(零)とは異なる値になる。そのため、制限制御を実施しない場合よりも、第1電気モータ543及び駆動回路544での発熱を抑えることはできるものの、第1電気モータ543の駆動を継続することに起因した熱負荷が第1電気モータ543及び駆動回路544に加わり続ける。これに対し、本実施形態で実行される制限制御では、駆動回路544への電流の入力が停止される。そのため、第1電気モータ543及び駆動回路544での発熱の抑制効果を高くできる。
【0120】
(第2実施形態)
車両制動制御装置の第2実施形態を
図8に従って説明する。なお、第2実施形態では、第1電気モータの起動時における第1モータ装置の温度によって、同期駆動処理又は拡張誘起駆動処理を選択する点などが第1実施形態と異なっている。以下の説明においては、第1実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1実施形態と同一の部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0121】
<第1制御ユニットで実行される処理ルーチン>
図8を参照し、第1制御ユニット110のCPU112が実行する処理ルーチンについて説明する。本処理ルーチンを実行することにより、同期駆動処理、拡張誘起駆動処理及び制限処理の何れか1つの処理が選択される。メモリ113に記憶されている制御プログラムをCPU112が繰り返し実行することにより、本処理ルーチンが所定の制御サイクル毎に実行される。なお、本処理ルーチンを構成する複数のステップS71~S99は、CPU112がモータ制御部M15として機能することによって実行される。
【0122】
本処理ルーチンにおいてステップS71では、CPU112は、要求制動力BPRqが0(零)よりも大きいか否かを判定する。要求制動力BPRqが0(零)よりも大きい場合(S71:YES)、制動システム200に対して制動要求があるため、CPU112は処理をステップS75に移行する。一方、要求制動力BPRqが0(零)である場合(S71:NO)、制動システム200に対して制動要求がないため、CPU112はステップS73に移行する。
【0123】
ステップS73において、CPU112は選択完了フラグFLG1にオフをセットする。選択完了フラグFLG1は、第1電気モータ543を起動させるに際して同期駆動処理及び拡張誘起駆動処理の中から何れかを選択することが完了している場合にはオンがセットされるフラグである。その後、CPU112は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0124】
ステップS75において、CPU112は、上記ステップS13と同様に、第1モータ装置542の温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上であるか否かを判定する。温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上であると判定した場合(S75:YES)、CPU112は処理をステップS77に移行する。一方、温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上ではないと判定した場合(S75:NO)、CPU112は処理をステップS81に移行する。
【0125】
ステップS77において、CPU112は、上記ステップS15と同様に、制限処理を実行する旨及び要求制動力BPRqを第2制御ユニット120に送信する。続いてステップS79において、CPU112は、上記ステップS17と同様に、第1電気モータ543を駆動させるための処理として制限処理を選択する。その後、CPU112は本処理ルーチンを一旦終了する。この場合、CPU112は制限制御を実施する。
【0126】
ステップS81において、CPU112は、上記の基礎制動力上限値BPbLが要求制動力BPRq以上であるか否かを判定する。基礎制動力上限値BPbLが要求制動力BPRq以上である場合(S81:YES)、CPU112は処理をステップS85に移行する。一方、基礎制動力上限値BPbLが要求制動力BPRq未満である場合(S81:NO)、CPU112は処理をステップS83に移行する。
【0127】
ステップS83において、CPU112は、上記ステップS21と同様に、基礎制動力上限値BPbLと要求制動力BPRqとの差分ΔBPを下流指令値として第2制御ユニット120に送信する。その後、CPU112は処理をステップS85に移行する。
【0128】
ステップS85において、CPU112は、選択完了フラグFLG1にオフがセットされているか否かを判定する。ここで選択完了フラグFLG1にオフがセットされている場合は、第1電気モータ543を未だ起動させていないと見なせる。一方、選択完了フラグFLG1にオンがセットされている場合は、第1電気モータ543を既に起動させたと見なせる。選択完了フラグFLG1にオフがセットされている場合(S85:YES)、CPU112は処理をステップS89に移行する。一方、選択完了フラグFLG1にオンがセットされている場合(S85:NO)、CPU112は処理をステップS87に移行する。
【0129】
ステップS87において、CPU112は、選択フラグFLG2にオンがセットされているか否かを判定する。選択フラグFLG2は、拡張誘起駆動処理が選択されている場合にはオンがセットされる一方で、同期駆動処理が選択されている場合にはオフがセットされるフラグである。選択フラグFLG2にオンがセットされている場合(S87:YES)、CPU112は処理をステップS97に移行する。一方、選択フラグFLG2にオフがセットされている場合(S87:NO)、CPU112は処理をステップS93に移行する。
【0130】
ステップS89において、CPU112は、上記ステップS23と同様に、上記の騒音抑制条件が成立しているか否かを判定する。騒音抑制条件が成立していると判定した場合(S89:YES)、CPU112は処理をステップS91に移行する。一方、騒音抑制条件が成立していないと判定した場合(S89:NO)、CPU112は処理をステップS97に移行する。
【0131】
ステップS91において、CPU112は、上記ステップS25と同様に、第1モータ装置542の温度TPmu1が第2判定温度TPmuth2未満であるか否かを判定する。温度TPmu1が第2判定温度TPmuth2未満であると判定した場合(S91:YES)、CPU112は処理をステップS93に移行する。一方、温度TPmu1が第2判定温度TPmuth2未満ではないと判定した場合(S91:NO)、CPU112は処理をステップS97に移行する。
【0132】
ステップS93において、CPU112は、d軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCを導出する処理として同期駆動処理を選択する。続いてステップS95において、CPU112は、選択完了フラグFLG1にオンをセットし、選択フラグFLG2にオフをセットする。その後、CPU112は本処理ルーチンを一旦終了する。この場合、CPU112は同期制御を実施する。
【0133】
ステップS97において、CPU112は、d軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCを導出する処理として拡張誘起駆動処理を選択する。続いてステップS99において、CPU112は、選択完了フラグFLG1及び選択フラグFLG2の両方にオンをセットする。その後、CPU112は本処理ルーチンを一旦終了する。この場合、CPU112は拡張誘起制御を実施する。
【0134】
<本実施形態の作用及び効果>
制動要求が制御装置100に入力されると、上流制動装置22が作動する。このとき、騒音抑制条件が成立していると判定されている場合には、第1モータ装置542の温度TPmu1によって、処理が選択される。具体的には、温度TPmu1が第2判定温度TPmuth2未満であると判定されている場合には、同期駆動処理が選択される。同期駆動処理が選択されると、同期制御が開始される。この場合、同期駆動処理によって導出されたd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCに基づいて第1電気モータ543が駆動する。これにより、第1電気モータ543及び駆動回路544の発熱量は比較的多いものの、第1モータ装置542の騒音レベルを低くできる。したがって、車両制動時の静粛性を確保できる。
【0135】
なお、本実施形態では、温度TPmu1が第2判定温度TPmuth2未満ではないと判定されるようになっても同期制御が継続される。そして、温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上であると判定されるようになると、制御が同期制御から制限制御に切り替わる。
【0136】
その一方で、第1電気モータ543を起動させる際において、第1モータ装置542の温度TPmu1が第2判定温度TPmuth2未満ではないと判定されているとともに、温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上ではないと判定されている場合には、拡張誘起駆動処理が選択される。拡張誘起駆動処理が選択されると、拡張誘起制御が開始される。この場合、拡張誘起駆動処理によって導出されたd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCに基づいて第1電気モータ543が駆動する。これにより、第1モータ装置542の騒音レベルが多少大きくなるものの、第1電気モータ543及び駆動回路544の発熱は抑えられる。すなわち、温度TPmu1の上昇速度を低くできるため、温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上であると判定されにくくなる。したがって、温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上であると判定されることを抑制しつつ、上流制動装置22によって車両に基礎制動力を発生させることができる。
【0137】
なお、本実施形態でも温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上であると判定されるようになると、制御が拡張誘起制御から制限制御に切り替わる。
本実施形態では、上記第1実施形態における効果(1-1)~(1-4)と同等の効果に加え、以下の効果をさらに得ることができる。
【0138】
(2-1)第1電気モータ543を駆動させて基礎制動力BPbを車両に発生されている最中に、制御が同期制御から拡張誘起制御に切り替えられることはない。そのため、同期制御から拡張誘起制御への切り替えに起因する基礎制動力BPbの変動が発生しない。
【0139】
(第3実施形態)
車両制動制御装置の第3実施形態を
図9~
図11に従って説明する。以下の説明においては、上記複数の実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、上記複数の実施形態と同一の部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0140】
<制御装置>
図9を参照し、本実施形態の制御装置100について説明する。
制御装置100は、第1制御ユニット110と第2制御ユニット120とを有している。第1制御ユニット110及び第2制御ユニット120は、互いに情報の送受信が可能に構成されている。第1制御ユニット110は上流制動装置22を制御し、第2制御ユニット120は下流制動装置23を制御する。本実施形態では、制御装置100が「車両制動制御装置」に対応する。上流制動装置22及び下流制動装置23が、制御装置100の制御対象となる「制動装置」に対応する。特に、上流制動装置22が「第1制動装置」に対応するとともに、下流制動装置23が「第2制動装置」に対応する。
【0141】
第2制御ユニット120は処理回路121を有している。処理回路121はCPU122及びメモリ123を含んでいる。CPU122は、メモリ123の制御プログラムを実行することにより、助勢制御部M21として機能する。
【0142】
第1制御ユニット110は処理回路111を有している。処理回路111はCPU112及びメモリ113を含んでいる。CPU112は、メモリ113の制御プログラムを実行することにより、取得部M11、制動制御部M12及び異常判定部M19として機能する。制動制御部M12は、要求制動力導出部M13A、モータ制御部M15及びバルブ制御部M17を含んでいる。
【0143】
すなわち、制御装置100は、機能部として、取得部M11、制動制御部M12、異常判定部M19及び助勢制御部M21を備えている。
<機能部>
異常判定部M19は、下流制動装置23に異常が発生しているか否かを判定する。ここでいう「下流制動装置23の異常」とは、下流制動装置23を作動させることによって車両に制動力を発生させることのできないことである。例えば、異常判定部M19は、以下の複数の条件(D1)及び(D2)のうち少なくとも一方が成立している場合、下流制動装置23に異常が発生していると判定する。
(D1)下流制動装置23の構成部品が故障していること。
(D2)第2制御ユニット120に異常が発生しているため、第2制御ユニット120が下流制動装置23を制御できないこと。
【0144】
制動制御部M12は、上流制動装置22を作動させることによって基礎制動力BPbを制御する。制動制御部M12は、同期駆動処理、拡張誘起駆動処理及び制限処理の中から1つの処理を選択する。本実施形態では、制動制御部M12は、車両の走行モードとして自動運転モードが選択されており、且つ下流制動装置23に異常が発生していると判定されている状況下において、同期駆動処理、拡張誘起駆動処理及び制限処理の中から1つの処理を選択する。
【0145】
自動運転モードとは、アクセル操作、ブレーキ操作及びステアリング操作の何れをも運転者が行っていなくても車両を走行させるモードである。アクセル操作、ブレーキ操作及びステアリング操作を運転者が行うことによって車両を走行させるモードを「手動走行モード」という。
【0146】
上記の同期駆動処理、拡張誘起駆動処理及び制限処理のうちの制限処理について説明する。
制限処理は、上流制動装置22を作動させることによって車両に発生させる制動力の大きさに制限を設ける処理である。例えば、制限処理において、制動制御部M12は、ポンプ541から吐出されたブレーキ液が流れる吐出流路571の液圧であるサーボ圧Psevの上限を制限処理の開始前よりも低くすることによって、車両に発生させる制動力の大きさに制限を設ける。
【0147】
要求制動力導出部M13Aは、上記第1実施形態の要求制動力導出部M13と同様に、要求制動力BPRqと、上流制動装置22に対する上流指令値と、下流制動装置23に対する下流指令値とを導出する。
【0148】
制動制御部M12が制限処理を選択した場合、要求制動力導出部M13Aは、制限処理が選択されていない場合と比較して小さい値を基礎制動力上限値BPbLとして設定する。上流指令値は、基礎制動力上限値BPbL以下となるように導出される。そのため、制限処理が選択されている場合、要求制動力導出部M13Aは、制限処理が選択されていない場合よりも上流指令値を大きくしにくい。
【0149】
なお、制限処理が選択されている場合、要求制動力導出部M13Aは、運転者がブレーキ操作を行った場合に車両で発生させる減速度の最大値相当の制動力を基礎制動力上限値BPbLとして設定する。
【0150】
モータ制御部M15は、上記第1実施形態と同様に、ベクトル制御によって第1電気モータ543を駆動させる。制動制御部M12が同期駆動処理を選択した場合、モータ制御部M15は、同期駆動処理を実行することによってd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCを導出する。そして、モータ制御部M15は、当該d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値に基づいて駆動回路544を動作させることにより、第1電気モータ543を駆動させる。
【0151】
制動制御部M12が拡張誘起駆動処理を選択した場合、モータ制御部M15は、拡張誘起駆動処理を実行することによってd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCを導出する。そして、モータ制御部M15は、当該d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値に基づいて駆動回路544を動作させることにより、第1電気モータ543を駆動させる。
【0152】
制動制御部M12が制限処理を選択した場合、モータ制御部M15は、拡張誘起駆動処理を実行することによってd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCを導出する。そして、モータ制御部M15は、当該d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値に基づいて駆動回路544を動作させることにより、第1電気モータ543を駆動させる。
【0153】
バルブ制御部M17は、上記第1実施形態と同様に、上流制動装置22が備える複数の制御弁341,342、第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52を制御する。具体的には、バルブ制御部M17は、上流指令値に基づいて第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52の開度を制御する。
【0154】
例えば制動制御部M12が制限処理を選択していると、要求制動力導出部M13によって導出される上流指令値が、制限処理が選択されていない場合と比較して小さくなることがある。このように上流指令値が小さくなると、バルブ制御部M17は、当該上流指令値に基づいて第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52の開度を制御することにより、サーボ圧Psevを低くする。すなわち、バルブ制御部M17は、サーボ圧Psevを制限処理の開始前よりも低くできる。この点で、第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52が、吐出流路571のブレーキ液圧であるサーボ圧を調整する「液圧調整部」に対応する。
【0155】
このようにサーボ圧Psevが低くなると、ポンプ541の動力源である第1電気モータ543の負荷が小さくなる。そのため、第1電気モータ543のモータ回転数Nmtが制限処理の開始前と同じであっても、第1電気モータ543に流れる電流が低くなる。その結果、第1モータ装置542の温度が上昇しにくくなる。
【0156】
<第1制御ユニットで実行される処理ルーチン>
図10を参照し、第1制御ユニット110のCPU112が実行する処理ルーチンについて説明する。本処理ルーチンを実行することにより、同期駆動処理、拡張誘起駆動処理及び制限処理の何れか1つの処理が選択される。メモリ113の制御プログラムをCPU112が繰り返し実行することにより、本処理ルーチンが所定の制御サイクル毎に実行される。
【0157】
本処理ルーチンにおいてステップS101では、CPU112は、異常判定部M19として機能することにより、下流制動装置23に異常が発生しているか否かを判定する。CPU112は、下流制動装置23に異常が発生していると判定した場合(S101:YES)、処理をステップS103に移行する。一方、CPU112は、下流制動装置23に異常が発生していないと判定した場合(S101:NO)、処理をステップS105に移行する。
【0158】
ステップS103において、CPU112は、車両の走行モードとして自動運転モードが選択されているか否かを判定する。CPU112は、自動運転モードが選択されている場合(S103:YES)、処理をステップS109に移行する。一方、CPU112は、自動運転モードが選択されていない場合(S103:NO)、処理をステップS105に移行する。
【0159】
ステップS105において、CPU112は、第1モータ装置542の温度TPmu1が第3判定温度TPmuth31以上であるか否かを判定する。温度TPmu1の更なる上昇を規制する必要があるか否かの判断基準となる温度が第3判定温度TPmuth31として設定されている。第1モータ装置542の駆動を許可する温度の上限が許容温度TPmuLである(
図11の(A)参照)。例えば、許容温度TPmuLよりも僅かに低い温度が第3判定温度TPmuth31として設定されている。CPU112は、温度TPmu1が第3判定温度TPmuth31以上であると判定した場合(S105:YES)、処理をステップS107に移行する。一方、温度TPmu1が第3判定温度TPmuth31以上ではないと判定した場合(S105:NO)、処理をステップS113に移行する。
【0160】
CPU112は、下記の条件(E1)及び(E2)の何れもが成立している場合、第1モータ装置542の温度TPmu1が第3判定温度TPmuth31以上であると判定する。CPU112は、条件(E1)及び(E2)のうち少なくとも1つが成立していない場合、温度TPmu1が第3判定温度TPmuth31以上ではないと判定する。第1電気モータ543の更なる温度上昇を規制する必要があるか否かの判断基準となる温度が第3モータ用判定温度TPmtth3として設定されている。すなわち、第1モータ用判定温度TPmtth1よりも高い温度が第3モータ用判定温度TPmtth3として設定されている。駆動回路544の更なる温度上昇を規制する必要があるか否かの判断基準となる温度が第3駆動回路用判定温度TPdvth3として設定されている。すなわち、第1駆動回路用判定温度TPdvth1よりも高い温度が第3駆動回路用判定温度TPdvth3として設定されている。
(E1)第1電気モータ543の第1温度TPmt1が第3モータ用判定温度TPmtth3以上であること。
(E2)駆動回路544の第2温度TPdv1が第3駆動回路用判定温度TPdvth3以上であること。
【0161】
ステップS107において、CPU112はモータ停止処理を選択する。モータ停止処理は、第1電気モータ543の駆動を停止させるための処理である。その後、CPU112は本処理ルーチンを一旦終了する。この場合、CPU112は、d軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCとして0(零)をそれぞれ導出することによって、第1電気モータ543の駆動を停止させる。
【0162】
ステップS109において、CPU112は、第1モータ装置542の温度TPmu1が第1判定温度TPmuth11以上であるか否かを判定する。第1判定温度TPmuth11として、第3判定温度TPmuth31よりも低い温度が設定されている。CPU112は、温度TPmu1が第1判定温度TPmuth11以上であると判定した場合(S109:YES)、処理をステップS117に移行する。一方、CPU112は、温度TPmu1が第1判定温度TPmuth11以上ではないと判定した場合(S109:NO)、処理をステップS111に移行する。
【0163】
例えば、CPU112は、下記の条件(E3)及び(E4)の何れもが成立している場合、第1モータ装置542の温度TPmu1が第1判定温度TPmuth11以上であると判定する。CPU112は、条件(E3)及び(E4)のうち少なくとも1つが成立していない場合、温度TPmu1が第1判定温度TPmuth11以上ではないと判定する。
(E3)第1電気モータ543の第1温度TPmt1が第1モータ用判定温度TPmtth1以上であること。
(E4)駆動回路544の第2温度TPdv1が第1駆動回路用判定温度TPdvth1以上であること。
【0164】
ステップS111において、CPU112は、第1モータ装置542の温度TPmu1が第2判定温度TPmuth21未満であるか否かを判定する。第2判定温度TPmuth21として、第1判定温度TPmuth11よりも低い温度が設定されている。CPU112は、温度TPmu1が第2判定温度TPmuth21未満であると判定した場合(S111:YES)、処理をステップS113に移行する。一方、CPU112は、温度TPmu1が第2判定温度TPmuth21未満ではないと判定した場合(S111:NO)、処理をステップS115に移行する。
【0165】
例えば、CPU112は、下記の条件(E5)及び(E6)の何れもが成立している場合、第1モータ装置542の温度TPmu1が第2判定温度TPmuth21未満であると判定する。CPU112は、条件(E5)及び(E6)のうち少なくとも1つが成立していない場合、温度TPmu1が第2判定温度TPmuth21未満ではないと判定する。
(E5)第1電気モータ543の第1温度TPmt1が第2モータ用判定温度TPmtth2未満であること。
(E6)駆動回路544の第2温度TPdv1が第2駆動回路用判定温度TPdvth2未満であること。
【0166】
ステップS113において、CPU112は、制動制御部M12として機能することにより、同期駆動処理を選択する。そして、CPU112は本処理ルーチンを一旦終了する。このように同期駆動処理を選択した場合、CPU112は、モータ制御部M15として機能することにより、上記同期制御を実施する。
【0167】
ステップS115において、CPU112は、制動制御部M12として機能することにより、拡張誘起駆動処理を選択する。そして、CPU112は本処理ルーチンを一旦終了する。このように拡張誘起駆動処理を選択した場合、CPU112は、モータ制御部M15として機能することにより、上記拡張誘起制御を実施する。
【0168】
ステップS117において、CPU112は、制動制御部M12として機能することにより、制限処理を選択する。そして、CPU112は本処理ルーチンを一旦終了する。このように制限処理を選択した場合、CPU112は、モータ制御部M15として機能することにより、拡張誘起制御を実施する。CPU112は、要求制動力導出部M13Aとして機能することにより、制限処理が選択されていない場合と比較して小さい値を基礎制動力上限値BPbLとして設定する。CPU112は、要求制動力導出部M13Aとして機能することにより、当該基礎制動力上限値BPbLに基づいて上流指令値を導出する。そして、CPU112は、バルブ制御部M17として機能することにより、当該上流指令値に基づいて第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52を制御する。
【0169】
<本実施形態の作用及び効果>
図11を参照し、車両の走行モードとして自動運転モードが選択されており、且つ下流制動装置23に異常が発生していると判定されている状況下における作用及び効果を説明する。
【0170】
図11の(A)、(B)及び(C)に示すように、自動運転モードが選択されており、且つ下流制動装置23に異常が発生していると判定されている場合、第1モータ装置542の温度TPmu1に応じて、同期駆動処理、拡張誘起駆動処理及び制限処理のうちの何れが選択される。例えばタイミングt31以前のように温度TPmu1が第2判定温度TPmuth21未満であると判定された場合には、同期駆動処理が選択される。同期駆動処理が実行されると、同期駆動処理によって導出されたd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCに基づいて第1電気モータ543が駆動する。この場合、モータ回転数Nmtが第1モータ回転数Nmt1となるように、第1電気モータ543が駆動する。こうした第1電気モータ543の駆動によってポンプ541からブレーキ液が吐出されるため、サーボ圧Psevが発生する。これにより、サーボ圧Psevに応じたブレーキ液が複数のホイールシリンダ11に供給される。その結果、サーボ圧Psevに応じた基礎制動力BPbが車両に発生する。
【0171】
第1電気モータ543が駆動していると、第1モータ装置542の温度TPmu1が上昇する。タイミングt31で温度TPmu1が第2判定温度TPmuth21に達する。タイミングt31からタイミングt32の期間では、温度TPmu1が第2判定温度TPmuth21未満ではないと判定され、且つ温度TPmu1が第1判定温度TPmuth11以上ではないと判定される。そのため、タイミングt31からタイミングt32までの期間では、拡張誘起駆動処理が選択される。
【0172】
拡張誘起駆動処理でd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCが導出される場合、同期駆動処理が実行されている場合よりもモータ回転数Nmtが高くなる。すなわち、モータ回転数Nmtが第2モータ回転数Nmt2に設定される。拡張誘起駆動処理が実行されるようになると、同期駆動処理が実行されていた場合と比較してd軸電流指令値IdCの大きさ及びq軸電流指令値IqCの大きさが小さくなる。そのため、第1電気モータ543及び駆動回路544の発熱量が少なくなる。その結果、タイミングt31以降では、タイミングt31以前と比較し、第1モータ装置542の温度TPmu1の上昇速度がそれぞれ低くなる。すなわち、温度TPmu1が第1判定温度TPmuth11以上であると判定されにくくなる。その結果、制限処理が実行される機会を減らすことができる。したがって、制御装置100は、第1モータ装置542の温度が高くなりすぎることを抑制しつつ、上流制動装置22によって車両に制動力を発生させることができる。
【0173】
なお、拡張誘起駆動処理で導出されたd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCに基づいて第1電気モータ543を駆動させても、第1モータ装置542の温度TPmu1は徐々に高くなる。
図11に示す例では、タイミングt32で、当該温度TPmu1が第1判定温度TPmuth11以上になる。温度TPmu1が第1判定温度TPmuth11以上であると判定されると、制限処理が選択される。制限処理が実行される場合、拡張誘起駆動処理で導出されたd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCに基づいた第1電気モータ543の制御が継続される。この場合、モータ回転数Nmtが第2モータ回転数Nmt2で保持される。
【0174】
しかし、制限処理が実行されると、サーボ圧Psevの上限として、制限処理の実行前よりも小さい液圧が設定されるようになる。サーボ圧Psevが高いほど、第1電気モータ543に加わる負荷が大きくなることで、第1電気モータ543に流れる電流が大きくなりやすい。そこで、制限処理によってサーボ圧Psevの上限が低くなることにより、第1電気モータ543に加わる負荷が大きくなりにくくなる。その結果、第1電気モータ543に流れる電流が小さくなりやすくなるため、第1電気モータ543及び駆動回路544の発熱量が少なくなる。その結果、タイミングt32以降では、タイミングt32以前と比較し、第1モータ装置542の温度TPmu1の上昇速度がそれぞれ低くなる。
【0175】
本実施形態では、以下の効果をさらに得ることができる。
(3-1)自動運転モードが選択されており、且つ下流制動装置23に異常が発生している場合において、制限処理が実行されにくくなる。その結果、制御装置100は、自動運転モードで車両が走行している場合に、車両の減速度の上限が低くなることを抑制できる。
【0176】
(3-2)制限処理が実行されると、サーボ圧Psevの上限が低くなるため、第1電気モータ543に加わる負荷が小さくなる。第1電気モータ543に加わる負荷が小さくなると、第1電気モータ543に流れる電流が小さくなる。そのため、第1電気モータ543及び駆動回路544の発熱が抑えられる。その結果、制御装置100は、拡張誘起駆動処理で導出されたd軸電流指令値IdC及びq軸電流指令値IqCに基づいた第1電気モータ543の駆動を継続しつつ、第1モータ装置542の温度上昇を抑えることができる。
【0177】
(変更例)
上記複数の実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記複数の実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0178】
・上記第1実施形態及び第2実施形態において、制限処理は、制限処理が選択されない場合よりも第1電気モータ543の出力トルクを小さくするのであれば、第1電気モータ543の駆動を停止させる処理ではなくてもよい。この場合、制限制御の実施に伴う基礎制動力BPbの減少を抑制できる。こうした制限制御を実施する場合には、上記複数の実施形態の場合と比較して小さい値を第1判定温度TPmuth1として設定するとよい。
【0179】
・上記第1実施形態及び第2実施形態において、第1モータ装置542の温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上ではないと判定している場合、基礎制動力上限値BPbLが要求制動力BPRq未満であっても第2助勢処理を実行しなくてもよい。
【0180】
・上記第1実施形態及び第2実施形態において、上記の条件(C1)及び(C2)のうち少なくとも一方が成立している場合、第1モータ装置542の温度TPmu1が第2判定温度TPmuth2未満であると判定するようにしてもよい。この場合、条件(C1)及び(C2)の何れもが成立していない場合には、第1モータ装置542の温度TPmu1が第2判定温度TPmuth2未満ではないと判定すればよい。
【0181】
・上記第1実施形態及び第2実施形態において、上記の条件(C3)及び(C4)が共に成立している場合、第1モータ装置542の温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上であると判定してもよい。この場合、条件(C3)及び(C4)のうち少なくとも一方が成立していない場合には、第1モータ装置542の温度TPmu1が第1判定温度TPmuth1以上ではないと判定すればよい。
【0182】
・上記第1実施形態及び第2実施形態では、上流制動装置22を第1制動装置とし、下流制動装置23を第2制動装置としているが、これに限らない。例えば、下流制動装置23を第1制動装置とみなし、下流制動装置23の第2モータ装置64を駆動させる際に、同期駆動処理又は拡張誘起駆動処理を選択するようにしてもよい。すなわち、騒音抑制条件が成立していると判定している状況下で第2モータ装置64の温度が第2判定温度未満であると判定した場合には、同期制御によって第2モータ装置64の第2電気モータを駆動させてもよい。また、騒音抑制条件が成立していると判定している状況下で第2モータ装置64の温度が第2判定温度未満ではないと判定し、且つ当該温度が第1判定温度以上ではないと判定した場合には、拡張誘起制御によって第2電気モータを駆動させてもよい。ただし、この場合であっても、第2モータ装置64の温度が第1判定温度以上であると判定した場合には、制限制御によって第2電気モータを駆動させる。
【0183】
・上記第1実施形態及び第2実施形態において、車両制動制御装置を備える制動システムは、上流制動装置22に相当する制動装置と、下流制動装置23に相当する制動装置とのうち一方の制動装置のみを備えるものであってもよい。
【0184】
・上記第3実施形態において、上記の条件(E1)及び(E2)のうち少なくとも一方が成立している場合、第1モータ装置542の温度TPmu1が第3判定温度TPmuth31以上であると判定するようにしてもよい。この場合、条件(E1)及び(E2)の何れもが成立していない場合には、温度TPmu1が第3判定温度TPmuth31以上ではないと判定すればよい。
【0185】
・上記第3実施形態において、上記の条件(E3)及び(E4)のうち少なくとも一方が成立している場合、第1モータ装置542の温度TPmu1が第1判定温度TPmuth11以上であると判定するようにしてもよい。この場合、条件(E3)及び(E4)の何れもが成立していない場合には、温度TPmu1が第1判定温度TPmuth11以上ではないと判定すればよい。
【0186】
・上記第3実施形態において、上記の条件(E5)及び(E6)のうち少なくとも一方が成立している場合、第1モータ装置542の温度TPmu1が第2判定温度TPmuth21未満であると判定するようにしてもよい。この場合、条件(E5)及び(E6)の何れもが成立していない場合には、温度TPmu1が第2判定温度TPmuth21未満ではないと判定すればよい。
【0187】
・上記第3実施形態において、下流制動装置23に異常が発生していると判定している場合には、走行モードとして手動走行モードが選択されていても、第1モータ装置542の温度TPmu1に応じて、同期駆動処理、拡張誘起駆動処理及び制限処理を選択するようにしてもよい。すなわち、
図10に示した処理ルーチンにおいて、ステップS103の判定を省略してもよい。
【0188】
・上記第3実施形態において、下流制動装置23に異常が発生していないと判定している場合でも、第1モータ装置542の温度TPmu1に応じて、同期駆動処理、拡張誘起駆動処理及び制限処理を選択するようにしてもよい。すなわち、
図10に示した処理ルーチンにおいて、ステップS101、S105、S107の処理を省略してもよい。
【0189】
・上記第3実施形態において、自動運転モードが選択されており、且つ下流制動装置23に異常が発生していると判定されている場合には、第1モータ装置542の温度TPmu1が第2判定温度TPmuth21以上であると判定されたことを契機に、走行モードを手動走行モードに切り替えることを車両の乗員に提案してもよい。
【0190】
・上記第3実施形態において、自動運転モードが選択されており、且つ下流制動装置23に異常が発生していると判定されている場合には、第1モータ装置542の温度TPmu1が第1判定温度TPmuth11以上であると判定されたことを契機に、走行モードを手動走行モードに切り替えることを車両の乗員に提案してもよい。
【0191】
・上記第3実施形態において、騒音抑制条件が成立している場合には、下流制動装置23に異常が発生していないと判定していても、第1モータ装置542の温度TPmu1に応じて、同期駆動処理、拡張誘起駆動処理及び制限処理を選択するようにしてもよい。
【0192】
・上記第3実施形態において、制限処理では、サーボ圧Psevの上限を、車両の走行状況に応じて可変させてもよい。例えば、車両の走行する路面の勾配及び路面のμ値などに応じて、サーボ圧Psevの上限を可変させてもよい。
【0193】
・制動装置は、モータ装置と、当該モータ装置の電気モータの駆動によってブレーキ液を吐出できるポンプとを備えるものであれば、上記複数の実施形態で説明した制動装置とは異なる構成のものであってもよい。
【0194】
・制動装置は、動力源としてモータ装置を備えるものであれば、上記複数の実施形態で説明した制動装置とは異なる構成のものであってもよい。例えば、上流制動装置は、電気モータを動力源とする電動シリンダを備えるものであってもよい。
【0195】
・下流制動装置23は、上流制動装置22によってブレーキ液が加圧された場合にリザーバ681,682にブレーキ液が不要に流入しないように構成されることが好ましい。例えば、リザーバ681,682は、リザーバ681,682が空の状態ではタンク側流路701,702からのブレーキ液の流入が許容される一方、リザーバに所定量以上のブレーキ液が貯留され、且つタンク側流路701,702のブレーキ液圧が所定圧以上である状態ではタンク側流路701,702からリザーバ681,682へのブレーキ液の流入が遮断される調圧リザーバであってもよい。
【0196】
・モータ角センサ151として、ホールセンサ以外のセンサを採用してもよい。例えば、MRセンサをモータ角センサ151として採用してもよい。
・マスタ液圧センサ351は、下流制動装置23内の第1流路331に設けられていてもよいし、上流制動装置22と下流制動装置23との間の第1流路331に設けられていてもよい。
【0197】
・上記複数の実施形態では、温度センサの検出値を、第1電気モータ543の第1温度TPmt1及び駆動回路544の第2温度TPdv1として取得していたが、これに限らない。例えば、第1電気モータ543の駆動態様、駆動回路544に印加される電圧の大きさなどに基づいた推定温度を、第1電気モータ543の第1温度TPmt1及び駆動回路544の第2温度TPdv1として取得してもよい。
【0198】
・上記複数の実施形態では、制御軸としてd軸及びq軸を有する回転座標を用いたベクトル制御によって第1電気モータ543を駆動させているが、これに限らない。例えば、制御軸としてγ軸及びδ軸を有する回転座標を用いたベクトル制御によって第1電気モータ543を駆動させてもよい。この場合、γ軸成分の電流の指令値が、第1電気モータ543の磁束との相関性が高い電流の指令値に相当し、δ軸成分の電流の指令値が、第1電気モータ543の機械出力への相関性が高い電流の指令値に相当する。
【0199】
・第1制御ユニット110と第2制御ユニット120とはそれぞれ別体として構成されていてもよい。この場合、第1制御ユニット110と第2制御ユニット120とは、CANなどの通信によって互いに情報を伝達するように構成される。例えば、第1制御ユニット110は上流制動装置22に設けられ、第2制御ユニット120は下流制動装置23に設けられ、第1制御ユニット110と第2制御ユニット120とはCANなどの通信線で接続される構成としてもよい。また、検出系の各センサは、第1制御ユニット110及び第2制御ユニット120の双方に接続されていてもよい。また、各センサは、第1制御ユニット110及び第2制御ユニット120の一方にのみ接続されていてもよい。この場合、センサが接続された一方の制御ユニットは、当該センサのうち所定のセンサの検出値、又は当該センサの検出値に基づいたデータを、通信で他方の制御ユニットに伝達するようにしてもよい。
【0200】
・制御装置100は、CPUとROMとを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。すなわち、制御装置100は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
【0201】
(a)コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えていること。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
【0202】
(b)各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えていること。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記である。FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
【0203】
(c)各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えていること。
<他の技術的思想>
次に、上記複数の実施形態及び複数の変更例から把握できる技術的思想について記載する。
【0204】
(イ)前記モータ制御部は、前記制限処理において、前記電気モータの駆動を停止させることが好ましい。
(ロ)前記回転角センサは、ホールセンサであり、
前記回転座標で前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値とで示す電流ベクトルを指示電流ベクトルとしたとき、
前記モータ制御部は、前記同期駆動処理において、前記指示電流ベクトルの大きさが、前記拡張誘起駆動処理によって導出される前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値とで示す前記指示電流ベクトルの大きさよりも大きくなるように、前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値を導出することが好ましい。
【0205】
(ハ)前記モータ制御部は、
サービスブレーキ時には前記騒音抑制条件が成立していると見なし、
緊急制動が要求されている場合には前記騒音抑制条件が成立していないと見なし、
前記要求制動力よりも前記基礎制動力を大きくできない場合には前記騒音抑制条件が成立していないと見なし、
前記車両の複数の車輪で発生させる制動力を個別に調整するブレーキ制御を実施する場合には前記騒音抑制条件が成立していないと見なすことが好ましい。
【0206】
なお、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、所望の選択肢の「1つ以上」を意味する。一例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が2つであれば「1つの選択肢のみ」又は「2つの選択肢の双方」を意味する。他の例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が3つ以上であれば「1つの選択肢のみ」又は「2つ以上の任意の選択肢の組み合わせ」を意味する。
【符号の説明】
【0207】
10…摩擦ブレーキ
11…ホイールシリンダ
22…上流制動装置
23…下流制動装置
541…ポンプ
542…第1モータ装置
543…第1電気モータ
544…駆動回路
571…吐出流路
64…第2モータ装置
100…制御装置(制動制御装置の一例)
151…モータ角センサ(回転角センサの一例)
200…制動システム
M11…取得部
M12…制動制御部
M15…モータ制御部
M19…異常判定部
M21…助勢制御部
FL,FR,RL,RR…車輪