(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162116
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】時相決定装置及び時相決定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
A61B6/03 360Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035605
(22)【出願日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】202210446901.8
(32)【優先日】2022-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン チュンチ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ホン
(72)【発明者】
【氏名】寳珠山 裕
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093AA24
4C093CA15
4C093DA02
4C093FF16
4C093FF24
(57)【要約】
【課題】最適なコントラストの時相の範囲を特定すること。
【解決手段】実施形態に係る時相決定装置は、造影画像における特定の時相の範囲を決定するための時相決定装置であって、取得部と、対象抽出部と、生成部と、時相決定部とを備える。取得部は、複数の異なるタイミングでの医用画像を取得する。対象抽出部は、前記複数の異なるタイミングでの医用画像に基づき、複数の関心対象を抽出する。生成部は、前記複数の関心対象それぞれに対応する信号強度曲線である複数の信号強度曲線をそれぞれ生成する。時相決定部は、前記複数の信号強度曲線に基づき、前記特定の時相の範囲を決定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造影画像における特定の時相の範囲を決定するための時相決定装置であって、
複数の異なるタイミングでの医用画像を取得する取得部と、
前記複数の異なるタイミングでの医用画像に基づき、複数の関心対象を抽出する対象抽出部と、
前記複数の関心対象それぞれに対応する信号強度曲線である複数の信号強度曲線をそれぞれ生成する生成部と、
前記複数の信号強度曲線に基づき、前記特定の時相の範囲を決定する時相決定部と
を備える、時相決定装置。
【請求項2】
前記対象抽出部は、第1関心対象と、前記第1関心対象より早く造影剤によって強調される第2関心対象とを抽出し、
前記時相決定部は、前記第2関心対象に対応する前記信号強度曲線に基づき、前記特定の時相の範囲における開始時相を決定し、前記第1関心対象に対応する前記信号強度曲線に基づき、前記特定の時相の範囲における終了時相を決定する、
請求項1に記載の時相決定装置。
【請求項3】
前記対象抽出部は、肝臓領域を第1関心対象として抽出し、腹部大動脈領域を第2関心対象として抽出する、
請求項2に記載の時相決定装置。
【請求項4】
前記対象抽出部は、第1関心対象と、前記第1関心対象より早く造影剤によって強調される第2関心対象とを抽出し、
前記生成部は、前記第1関心対象と前記第2関心対象との間の輝度差に対する信号強度曲線を生成し、
前記時相決定部は、前記輝度差に対応する信号強度曲線に基づき、前記特定の時相の範囲を決定する、
請求項1に記載の時相決定装置。
【請求項5】
前記対象抽出部は、肝臓領域を前記第1関心対象として抽出、肝臓に関連する関連臓器領域を前記第2関心対象として抽出する、
請求項4に記載の時相決定装置。
【請求項6】
前記対象抽出部は、前記複数の関心対象のうち少なくとも1つの関心対象について、
(i)前記複数の異なるタイミングでの医用画像に基づき、前記関心対象の領域全体の剛体運動を追跡し、
(ii)前記複数の異なるタイミングでの医用画像それぞれについて、前記領域全体に対する前記関心対象の変位を計算する
ことによって、前記関心対象を抽出する、
請求項1に記載の時相決定装置。
【請求項7】
前記対象抽出部は、前記(i)において、1つの医用画像から前記領域全体を抽出し、前記領域全体における局所対象の二値化テンプレートを作成し、他の医用画像において前記二値化テンプレートを用いたテンプレートマッチングを行って前記局所対象の変位量を得ることによって、前記領域全体の剛体運動を追跡し、
前記対象抽出部は、前記(ii)において、前記領域全体における複数の局所対象を抽出し、回帰モデルを用いて、前記局所対象それぞれの変位を予測することで、前記領域全体に対する前記関心対象の変位を計算する、
請求項6に記載の時相決定装置。
【請求項8】
前記対象抽出部は、前記複数の異なるタイミングでの医用画像の画像解像度に基づき、前記複数の関心対象を選択する、
請求項1に記載の時相決定装置。
【請求項9】
画像解像度が所定の閾値より高い前記特定の時相の範囲内にある医用画像を再構成する画像再構成部をさらに備える、
請求項1~8のいずれか1つに記載の時相決定装置。
【請求項10】
造影画像における特定の時相の範囲を決定するための時相決定方法であって、
複数の異なるタイミングでの医用画像を取得する取得ステップと、
前記複数の異なるタイミングでの医用画像に基づき、複数の関心対象を抽出する対象抽出ステップと、
前記複数の関心対象それぞれに対応する信号強度曲線である複数の信号強度曲線をそれぞれ生成する生成ステップと、
前記複数の信号強度曲線に基づき、前記特定の時相の範囲を決定する時相決定ステップと
を含む、時相決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、時相決定装置及び時相決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、疾患の検査及び診断において、ダイナミック造影磁気共鳴イメージングが広く用いられている。ダイナミック造影磁気共鳴イメージングを用いた診断では、動脈相(Arterial Phase:AP)画像等のような、造影剤の到達時間に関連する時相の画像を取得することが不可欠であるため、動脈相の範囲を特定する技術が広く求められている。
【0003】
これに対し、従来の既存の臨床スキャンのワークフローでは、造影剤を注入した後に、一定の時間間隔でスキャンを開始するため、動脈強調のピーク到達時間の個人差が考慮されず、最適な動脈相を特定することが困難である。
【0004】
一方、被検者ごとに最適な動脈相を特定するために、時間分解能の高い高速再構成の技術が提案されている。この技術では、高速に再構成された一連の低品質画像で動脈相の範囲を検出し、この範囲内で細かく高品質画像を再構成することにより、高効率で高精度なスキャン及び再構成のワークフローが実現される。
【0005】
しかしながら、時間分解能の高い高速画像再構成では、大量のデータが必要であり、手動で動脈相を選別することは困難である。また、高速画像再構成によって得られる画像は診断画像の画質と比べて臓器や血管等の構造が不明瞭であり、ノイズやアーチファクトが大きいため、肝動脈や門脈を正確に検出することが困難である。
【0006】
したがって、高速画像再構成に適する自動的動脈相範囲検出アルゴリズムは非常に重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Pascal S,Nanda D T,Bo X,et al.,”Automated Detection of the Optimal Arterial Phase in Dynamic 3D Contrast Enhanced Imaging of the Liver”,ISMRM,Salt Lake City,USA,2013,1536
【非特許文献2】Jma B,Ldb C,Pl B,et al.,”Automated Identification of Optimal Portal Venous Phase Timing with Convolutional Neural Networks”,Academic Radiology,2020,27(2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の1つは、最適なコントラストの時相の範囲を特定することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置付けることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態に係る時相決定装置は、造影画像における特定の時相の範囲を決定するための時相決定装置であって、取得部と、対象抽出部と、生成部と、時相決定部とを備える。取得部は、複数の異なるタイミングでの医用画像を取得する。対象抽出部は、前記複数の異なるタイミングでの医用画像に基づき、複数の関心対象を抽出する。生成部は、前記複数の関心対象それぞれに対応する信号強度曲線である複数の信号強度曲線をそれぞれ生成する。時相決定部は、前記複数の信号強度曲線に基づき、前記特定の時相の範囲を決定する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る時相決定装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る時相決定装置により実施される時相決定方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、第2の実施形態に係る時相決定装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、対象抽出部が肝臓領域を抽出する過程を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、肝臓領域の領域全体の剛体運動を追跡する一具体例のフローチャートである。
【
図6】
図6は、二値化テンプレートマッチングを示す例示図である。
【
図7】
図7は、領域全体に対する肝臓領域の変位を計算する一具体例のフローチャートである。
【
図8】
図8は、回帰モデルを用いて肝臓の実際の領域を計算する例示図である。
【
図9】
図9は、腹部大動脈領域に対応するTICの一具体例の曲線図である。
【
図10】
図10は、肝臓領域に対応するTICの一具体例の曲線図である。
【
図11】
図11は、関心対象である臓器の強調順を示す例示図である。
【
図12】
図12は、腎臓領域‐肝臓領域の輝度差に対応するTICの一具体例の曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、時相決定装置及び時相決定方法の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
通常、既存技術では、単一の臓器組織又は血管を分析して、信号強度曲線(Time Intensity Curve:TIC)のピーク時相又は造影剤の流入及び流出の時相を検出するだけである。例えば、動脈のTICのみが分析され、門脈又は肝臓の強調状態は分析されない。しかし、被検者ごとの個人差によって、動脈のTICがピーク値に達した時に、肝臓が強調され始める場合もあれば、まだ未強調の場合もあり得る。その一方で、肝臓の悪性腫瘍組織等は主に動脈から供血されるため、動脈のTICのみに注目すると、最適な組織間のコントラストを見逃す可能性がある。
【0014】
また、既存技術では、臓器組織又は血管の局所関心対象(Region Of Interest:ROI)だけを分析し、血管や臓器内の造影剤の分布が不均一になる可能性は考慮されない。また、時間分解能の高い高速画像再構成では、画像の画質が低いため、正確な局所ROIを安定して検出することは困難である。
【0015】
また、既存技術文献では、息を止めていることを前提としたものが一般的であり、呼吸運動の場合における各時刻のスキャン画像間の臓器組織の位置ずれによる測定誤差は考慮されない。
【0016】
例えば、特許文献1では、TICをシグモイド関数に近似して分析することで、造影剤の流入及び流出の時相を検出しているが、実際のTICはシグモイド関数とのギャップが大きい。また、特許文献1では、単一の血管のみを分析し、他の組織の強調状態を無視している。また、特許文献1では、画像の画質が低く、画像を高速で再構成する状況及び自由呼吸の状況は考慮されていない。
【0017】
また、非特許文献1では、AX平面における画像の最大値投影(Maximum Intensity Projection:MIP)画像及びピクセルのTICに基づいて動脈のピクセルを抽出している。しかしながら、非特許文献1では、単一の血管のTICのうち一番早くピーク値に達する曲線のみを利用し、他の組織の強調状態は無視している。また、非特許文献1では、画像の画質が低く、画像を高速で再構成する状況及び自由呼吸の状況は考慮されない。
【0018】
また、非特許文献2では、単一の時相を分類することによって最適時相を識別している。しかしながら、非特許文献2では、最適時相の検出精度は画像シーケンスの時間分解能に依存し、局所ROIのみを対象としているため、造影剤の不均一によって検出精度に影響が出る可能性がある。また、非特許文献2では、画像の画質が低く、画像を高速で再構成する状況及び自由呼吸の状況は考慮されていない。
【0019】
これに対し、本願が開示する技術は、時相決定装置及び時相決定方法を提供する。
【0020】
一態様に係る時相決定装置は、造影画像における特定の時相の範囲を決定するための時相決定装置であって、複数の異なるタイミングでの医用画像を取得する取得部と、前記複数の異なるタイミングでの医用画像に基づき、複数の関心対象を抽出する対象抽出部と、前記複数の関心対象それぞれに対応する信号強度曲線である複数の信号強度曲線をそれぞれ生成する生成部と、前記複数の信号強度曲線に基づき、前記特定の時相の範囲を決定する時相決定部とを備える。
【0021】
これにより、個人差に応じて、複数の関心対象を総合的に分析して最適なコントラストの時相の範囲を特定することができる。
【0022】
また、一態様に係る時相決定装置では、前記対象抽出部は、第1関心対象と、前記第1関心対象より早く造影剤によって強調される第2関心対象とを抽出し、前記時相決定部は、前記第2関心対象に対応する前記信号強度曲線に基づき、前記特定の時相の範囲における開始時相を決定し、前記第1関心対象に対応する前記信号強度曲線に基づき、前記特定の時相の範囲における終了時相を決定してもよい。
【0023】
これにより、互いに異なる時間で造影剤に強調される複数の関心対象を総合的に分析し、最適なコントラストの時相の範囲を特定することができる。
【0024】
また、一態様に係る時相決定装置では、前記対象抽出部は、肝臓領域を第1関心対象として抽出し、腹部大動脈領域を第2関心対象として抽出してもよい。
【0025】
これにより、最適な血管セグメント及び臓器領域を検出対象とする可能となり、適切な時相の範囲を確実に特定することができる。
【0026】
また、一態様に係る時相決定装置では、前記対象抽出部は、第1関心対象と、前記第1関心対象より早く造影剤によって強調される第2関心対象とを抽出し、前記生成部は、前記第1関心対象と前記第2関心対象との間の輝度差に対する信号強度曲線を生成し、前記時相決定部は、前記輝度差に対応する信号強度曲線に基づき、前記特定の時相の範囲を決定してもよい。
【0027】
これにより、互いに異なる時間で造影剤に強調される複数の関心対象を総合的に分析し、正確なTICに基づき、適切な時相の範囲を抽出することができる。
【0028】
また、一態様に係る時相決定装置では、前記対象抽出部は、肝臓領域を前記第1関心対象として抽出、肝臓に関連する関連臓器領域を前記第2関心対象として抽出してもよい。
【0029】
これにより、最適な血管セグメントの検出が困難である場合に対応し、複数の臓器領域を検出対象とする可能となり、適切な時相の範囲を確実に決定することができる。
【0030】
また、一態様に係る時相決定装置では、前記対象抽出部は、前記複数の関心対象のうち少なくとも1つの関心対象について、(i)前記複数の異なるタイミングでの医用画像に基づき、前記関心対象の領域全体の剛体運動を追跡し、(ii)前記複数の異なるタイミングでの医用画像それぞれについて、前記領域全体に対する前記関心対象の変位を計算することによって、前記関心対象を抽出してもよい。
【0031】
これにより、関心対象全体を粗から細へのアプローチで追跡し、呼吸運動及び造影剤の不均一による誤差を低減することができる。
【0032】
また、一態様に係る時相決定装置では、前記対象抽出部は、前記(i)において、1つの医用画像から前記領域全体を抽出し、前記領域全体における局所対象の二値化テンプレートを作成し、他の医用画像において前記二値化テンプレートを用いたテンプレートマッチングを行って前記局所対象の変位量を得ることによって、前記領域全体の剛体運動を追跡し、前記対象抽出部は、前記(ii)において、前記領域全体における複数の局所対象を抽出し、回帰モデルを用いて、前記局所対象それぞれの変位を予測することで、前記領域全体に対する前記関心対象の変位を計算してもよい。
【0033】
これにより、関心対象全体を粗から細へのアプローチで追跡することの実行可能性を向上することができる。
【0034】
また、一態様に係る時相決定装置では、前記対象抽出部は、前記複数の異なるタイミングでの医用画像の画像解像度に基づき、前記複数の関心対象を選択してもよい。
【0035】
これにより、画像の画質の違いに応じて、適切な関心対象を選択することができる。
【0036】
また、一態様に係る時相決定装置は、画像解像度が所定の閾値より高い前記特定の時相の範囲内にある医用画像を再構成する画像再構成部をさらに備えてもよい。
【0037】
これにより、相応した疾患診断を施しやすくなるように、適切な時相の範囲に対して高画質画像を再構成することができる。
【0038】
また、一態様に係る時相決定方法は、造影画像における特定の時相の範囲を決定するための時相決定方法であって、複数の異なるタイミングでの医用画像を取得する取得ステップと、前記複数の異なるタイミングでの医用画像に基づき、複数の関心対象を抽出する対象抽出ステップと、前記複数の関心対象それぞれに対応する信号強度曲線である複数の信号強度曲線をそれぞれ生成する生成ステップと、前記複数の信号強度曲線に基づき、前記特定の時相の範囲を決定する時相決定ステップとを含む。
【0039】
これにより、個人差に応じて、複数の関心対象を総合的に分析して最適なコントラストの時相の範囲を特定することができる。
【0040】
以下、図面、実施形態及び具体例を組み合わせて、本願が開示する技術をより詳しく説明する。なお、下記の実施形態及び具体例は、本願が開示する技術を分かりやすく理解するために挙げられた例であり、本願が開示する技術を限定するものではない。また、具体的な実施形態において、装置に備えられる部材は、実際の状況に応じて、変更、合併、削除又は追加することができ、方法のステップも実際の状況に応じて、変更、合併、削除、追加又は順序変換することができる。また、図面における大きさや方向等は、例示的なものであり、実際の状況に応じて変更することができる。
【0041】
本願が開示する技術に係る時相決定装置は、例えば、複数の機能部によって構成され、ソフトウェアとして、独立したコンピュータ等のCPU(Central Processing Unit)及びメモリを備えるデバイスに実装されるか、又は、複数のデバイスに散在して実装されて、いずれかのプロセッサにより、メモリに記憶されている時相決定装置の各機能部を実行させることで実現される。または、本願が開示する技術に係る時相決定装置は、時相決定装置の各機能を実行可能な回路としてハードウェアの形で実現される。ここで、時相決定装置を実現する回路は、インターネット等のネットワークを介してデータの受送信又はデータの収集を行うことができる。または、本願が開示する技術に係る時相決定装置は、コンピュータのプロセッサにより、記憶媒体に予め記憶されたプログラムを実行することで、時相決定装置の各部の機能を実現するものであってもよい。
【0042】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る時相決定装置100の機能構成を示すブロック図である。
図1に示すように、時相決定装置100は、取得部101と、対象抽出部102と、生成部103と、時相決定部104とを備える。時相決定装置100は、造影画像における特定の時相の範囲を決定することに用いられる。ここで、いわゆる時相とは、造影剤の到達状況を表す技術用語であり、時相の範囲は、少なくとも1つのタイミングで撮像される造影画像に対応している。
【0043】
取得部101は、複数の異なるタイミングでの医用画像を取得する。例えば、取得部101は、有線又は無線の通信リンクを介して、コンピュータ断層撮影(Computed Tomography:CT装置又は磁気共鳴イメージング(Magnetic Resonance Imaging:MRI)装置等の医用画像収集装置から医用画像を収集する。また、取得部101は、外部と通信する機能を有する医用画像収集装置そのものであってもよい。また、取得部101は、医用画像収集装置によって収集された撮影範囲から医用画像の領域を決定してもよい。
【0044】
ここで、取得部101によって取得される複数の異なるタイミングでの医用画像は、例えば、疾患検査又は診断対象である被検者(例えば、患者)の所定の領域に造影剤が到達する前後における複数の医用画像に対応している。即ち、医用画像は、造影画像を含む。広い意味では、取得部101は、造影剤を用いて得られた組織又は臓器の強調画像(造影画像)さえ取得すればよく、強調画像の収集原理及び造影剤の種類は限定されない。
【0045】
また、取得部101によって取得される医用画像は、例えば、三次元画像であるが、画像の収集原理の違いによっては、二次元画像であってもよい。また、MRI装置から医用画像が取得される場合には、医用画像は、例えば、CO(冠状面)画像、SG(矢状面)画像及びAX(軸方向面)画像に分解することが可能な三次元画像である。
【0046】
また、取得部101が医用画像を取得するタイミングは、例えば、所定の時間間隔ごとのタイミングである。後述する特定の時相の範囲を取得する正確性からみれば、高周波数即ち高時間分解能で取得された医用画像が好ましい。また、処理量及びデータ量の低減を考慮すれば、画像解像度が低い医用画像を取得する必要がある。例えば、取得部101は、時間分解能が高く、かつ、画像解像度が低い高速再構成画像を取得する。
【0047】
対象抽出部102は、取得部101によって取得された複数の異なるタイミングでの医用画像に基づき、複数の関心対象を抽出する。ここで、いわゆる関心対象は、例えば、医用画像に含まれる血管セグメント領域、組織領域又は臓器領域である。また、関心対象は、血管セグメント領域全体又は臓器領域全体であってもよいし、血管セグメント、組織及び臓器における局所領域(局所ROI)であってもよい。ここで、複数の関心対象は、医用画像における異なる領域に対応しており、血流等による影響のため、各関心対象は異なるタイミングで造影剤によって強調され、例えば、複数の異なるタイミングでの医用画像における複数の関心対象は輝度がそれぞれ異なっている。
【0048】
具体的には、対象抽出部102は、複数の関心対象それぞれを、画像処理技術を用いて抽出する。ここで、画像処理の方法は限定されず、例えば、機械学習や深層学習による分割又は従来の画像処理等の方法が用いられてもよい。また、対象抽出部102は、ある関心対象が造影剤によって強調されるときに表わされた、例えば、輝度特徴等の画像特徴に基づき当該関心対象を抽出してもよいし、造影剤による強調とは無関係な、ある関心対象自体の形状特徴等の画像特徴に基づき当該関心対象を抽出してもよい。ここで、ある関心対象は、複数の医用画像の各フレーム内でそれぞれ取得されてもよいし、フレーム間の変化を分析することで動的に取得されてもよい。また、ある関心対象が位置している箇所は、複数の医用画像の各フレームによって異なってもよい。
【0049】
例えば、対象抽出部102は、複数の異なるタイミングでの医用画像の画像解像度に基づき、複数の関心対象を選択する。例えば、対象抽出部102は、画像解像度が一定のレベルより低い場合に、門脈又は肝動脈等の血管セグメントを正確に分割することが難しいため、より広い範囲、例えば、肝臓、腎臓、膵臓等の画像特徴を有する臓器領域を関心対象として抽出する。また、例えば、対象抽出部102は、画像解像度が一定のレベルを有する場合に、具体的な血管セグメントを正確に分割することができないが、例えば、大動脈等の、当該具体的な血管セグメントより上位的な血管セグメント領域を関心対象の領域として抽出する。即ち、対象抽出部102は、画像解像度の向上に伴い、より細かい範囲にある血管セグメント、組織又は臓器を関心対象として抽出する。これにより、画像の画質の違いに対応して適切な関心対象を選択することができる。
【0050】
また、例えば、対象抽出部102は、造影剤によって強調されたタイミングが異なる複数の関心対象を抽出する。ここで、造影剤により強調されたタイミングが異なることとは、例えば、造影剤のために、関心対象の輝度がある所定の閾値を超えたタイミングが異なることである。例えば、対象抽出部102は、第1関心対象と、前記第1関心対象より早く造影剤によって強調される第2関心対象とを抽出する。なお、複数の関心対象の数は、2つ以上であるが、その数は具体的に限定されない。
【0051】
また、例えば、対象抽出部102は、後続の時相決定部104が決定する必要がある特定の時相の範囲に基づき、複数の関心対象を選択してもよい。
【0052】
生成部103は、複数の関心対象それぞれに対応するTICである複数のTICをそれぞれ生成する。例えば、生成部103は、まず、各関心対象に対して、医用画像ごとに関心対象における各ピクセルの代表値をそれぞれ計算する。ここで、代表値は、例えば、関心対象における各ピクセルの輝度の平均値である。これにより、生成部103は、医用画像の撮影タイミングに伴う当該代表値の変化を、当該関心対象の初期TICとする。その後、生成部103は、得られた初期TICに対して、正規化、補間、平滑化等の所定の前処理を行い、前処理が実施された曲線をTICとする。
【0053】
なお、生成部103がTICを生成する方法は限定されない。例えば、生成部103は、前記前処理を行わず、関心対象における複数のピクセルの代表値に対応する折れ線グラフである初期TICを、TICとしてもよい。
【0054】
時相決定部104は、生成部103によって生成された複数のTICに基づいて、特定の時相の範囲を決定する。ここで、いわゆる特定の時相の範囲は、造影画像の使用シーンに対応する時相の範囲であって、異なる疾患の診断の必要等の用途に応じた、例えば、動脈相(Arterial Phase:AP)又は門脈相(Portal Venous Phase:PVP)等である。
【0055】
また、肝臓疾患の検査・診断を例に、いわゆる動脈相とは、肝動脈及びその分枝が完全に強調されるが、肝静脈が順行性(antegrade flow)に強調されない期間である。ここで、動脈相には、早期動脈相(Early AP)と後期動脈相(Late AP)とが含まれる。このうち、早期動脈相では、門脈がまだ強調されていない。一方、後期動脈相では、門脈が強調されている。臨床応用では、最適な動脈相を選択する際、病変組織の血行動態を分析するために、異なる組織間で良好なコントラストが望ましいため、少なくとも早期動脈相の期間を特定の時相の範囲として取得する必要がある。また、いわゆる門脈相とは、門脈が完全に強調されるが、肝静脈が順行性血流に強調されない期間であり、動脈相の範囲の所定時間後にある。従って、動脈相を検出する範囲は、門脈相を検出する範囲の基礎ともなる。
【0056】
ここで、最適な動脈相の範囲又は門脈相の範囲等は、個人差があるため、ある血管セグメントが強調された後の一定の時間に等しいわけではない。
【0057】
例えば、時相決定部104は、特定の時相の範囲の強調状態の特徴に基づき、複数のTICのうち少なくとも1つの関心対象に対応するTICを用いて、特定の時相の範囲における開始時相を決定し、複数のTICのうち前記少なくとも1つの関心対象とは異なる少なくとも1つの関心対象に対応するTICを用いて、特定の時相の範囲における終了時相を決定する。例えば、複数の関心対象が第1関心対象と第1関心対象より早く造影剤によって強調される第2関心対象とを含む場合、時相決定部104は、第2関心対象に対応するTICに基づき、特定の時相の範囲における開始時相を決定し、第1関心対象に対応するTICに基づき、特定の時相の範囲における終了時相を決定する。これにより、互いに異なる時間で造影剤に強調される複数の関心対象を総合的に分析し、最適なコントラストの時相の範囲を特定することができる。
【0058】
また、時相決定部104は、複数の造影画像の撮影タイミングに対応する時相の範囲に限らず、1つの造影画像の撮影タイミングに対応する時相の範囲を決定してもよい。この場合、開始時相は終了時相である。また、時相決定部104は、連続的な時間枠に対応する時相の範囲に限らず、例えば、早期動脈相及び後期動脈相に対応する時相の範囲等の、複数の断続的な時相の範囲を決定してもよい。
【0059】
ここで、時相決定部104によって決定される特定の時相の範囲は、少なくとも1つの医用画像(造影画像)に対応しているため、特定の医用画像を検出しやすくなり、特定の疾患の検査又は診断に用いることができる。
【0060】
これにより、第1の実施形態に係る時相決定装置100によれば、複数の関心対象に対応する複数のTICそれぞれを用いて特定の時相の範囲を決定するため、個人差に応じて、複数の関心対象を総合に分析して最適なコントラストの時相の範囲を特定することができる。
【0061】
以下、
図2を参照して、第1の実施形態に係る時相決定装置100により実施される時相決定方法を説明する。
図2は、第1の実施形態に係る時相決定装置100により実施される時相決定方法を示すフローチャートである。
【0062】
図2に示す時相決定方法は、造影画像における特定の時相の範囲を決定することに用いられる。まず、ステップS101では、取得部101が、複数の異なるタイミングでの医用画像を取得する。次に、ステップS102では、対象抽出部102が、取得された複数の異なるタイミングでの医用画像に基づき、複数の関心対象を抽出する。次に、ステップS103では、生成部103が、複数の関心対象それぞれに対応するTICである複数のTICをそれぞれ生成する。次に、ステップS104では、時相決定部104が、生成された複数のTICに基づいて、特定の時相の範囲を決定する。
【0063】
これにより、前記時相決定方法によれば、前記時相決定装置100と同一の効果を奏することができる。
【0064】
(第2の実施形態)
以下、
図3を参照して、本願の第2の実施形態を説明する。
図3は、第2の実施形態に係る時相決定装置110の機能構成を示すブロック図である。なお、ここでは、時相決定装置110において、第1の実施形態で説明した機能構成と同一の機能部については、同一の図面符号を付与して具体的な説明を省略する。
図3に示すように、本実施形態では、時相決定装置110が、画像再構成部105をさらに備える点で、第1の実施形態と異なっている。
【0065】
画像再構成部105は、画像解像度が所定の閾値より高い、時相決定部104に決定された特定の時相の範囲内にある医用画像を再構成する。
【0066】
即ち、第1の実施形態に係る時相決定装置100では、時相決定部104が特定の時相の範囲を決定することによって当該特定の時相の範囲内の医用画像を関係用途に用いるようにすることができるが、当該医用画像は、取得部101によって取得された医用画像のそのままの画像である。取得部101によって取得される医用画像は、特定の時相の範囲を決定するための画像であり、デバイスの実際の計算能力及び計算速度に応じて、時間分解能は高いが画像解像度が低いという特徴を有する可能性がある。例えば、取得部101によって取得される医用画像は、高速再構成に基づき得られた、継続して変化する画像である。従って、取得部101によって取得された医用画像をそのまま使用した場合、ノイズやアーチファクトが大きく、疾患の診断等の用途のニーズを満たすことができない可能性がある。
【0067】
これに対し、第2の実施形態では、時相決定部104が特定の時相の範囲を決定した後に、画像再構成部105が、特定の時相の範囲内で、画像が疾患の診断等の様々な用途のニーズを満すように、画像解像度が所定の閾値よりも高い医用画像を再構成する。
【0068】
ここで、画像再構成部105によって再構成される画像は、取得部101によって取得された複数の医用画像のうちの特定の時相の範囲内にあるそれぞれの医用画像であってもよいし、そのうちの一部の医用画像であってもよい。また、取得部101によって取得された複数の医用画像とは異なる方法で、特定の時相の範囲内にある少なくとも1つの高画像分解度の医用画像が再構成されてもよい。
【0069】
これにより、第1の実施形態と同一の効果を奏することができ、相応した疾患を診断しやすくなるように、適切な時相の範囲に対して画質の高い画像を再構成することができる。
【0070】
以下、MRI装置によって取得された三次元医用画像から検出された肝臓の動脈相を特定の時相とする様態を例にして、実施形態の具体例を説明する。
【0071】
肝臓の動脈相の検出では、上述したように、肝動脈が完全に強調されるが、門脈が強調されない時間枠を得ることが望ましい。また、個人差のために、肝動脈がピークに到達した時に、門脈が強調され始める場合もあれば、まだ未強調の場合もあり得る。また、高速再構成等による異なる画像解像度に応じて、肝動脈及び門脈を正確に抽出できない場合があり、この場合には、肝動脈及び門脈の代わりに、他の臓器又は血管セグメントが抽出される。
【0072】
(第1の具体例)
第1の具体例では、対象抽出部102は、肝臓領域を第1関心対象として抽出し、腹部大動脈領域を第1関心対象より早く造影剤によって強調される第2関心対象として抽出する。
【0073】
まず、取得部101によって複数の医用画像が取得された後に、対象抽出部102が肝臓領域を第1関心対象として抽出する処理を説明する。
【0074】
図4は、対象抽出部102が肝臓領域を抽出する過程を示すフローチャートである。
図4に示すように、ステップS210では、対象抽出部102は、自由呼吸等による影響での肝臓位置の経時変化に応じて、取得部101によって取得された複数の異なるタイミングでの医用画像に基づき、肝臓領域の領域全体の剛体運動を追跡する。
【0075】
具体的には、対象抽出部102は、例えば、
図5に示すフローに従って、肝臓領域の領域全体の剛体運動を追跡する。
図5は、肝臓領域の領域全体の剛体運動を追跡する一具体例のフローチャートである。
【0076】
図5に示すように、ステップS211では、対象抽出部102は、複数の医用画像から1つの医用画像を選択する。例えば、対象抽出部102は、画像における肝臓領域の輝度特徴に基づき、いずれか1つの医用画像を選択してもよい。例えば、対象抽出部102は、造影前の状態に対応する1つ目の医用画像を選択してもよい。また、例えば、対象抽出部102は、画像における肝臓領域の輝度特徴に基づき、所定のルールに従って1つの医用画像を選択してもよい。
【0077】
ステップS212では、対象抽出部102は、ステップS211で選択された1つの医用画像から肝臓領域の領域全体を抽出する。例えば、対象抽出部102は、画像における肝臓領域の輝度特徴に基づき、肝臓領域の領域全体を従来の画像処理方法で抽出してもよい。また、対象抽出部102は、機械学習又は深層学習で得られた分割アルゴリズムに基づき、肝臓領域の領域全体を抽出してもよい。また、例えば、対象抽出部102は、CO画像、SG画像及びAX画像それぞれから肝臓領域の領域全体を抽出することで、三次元空間における肝臓領域の領域全体を抽出してもよい。
【0078】
ステップS213では、対象抽出部102は、肝臓領域の領域全体における局所対象の二値化テンプレートを作成する。ここで、肝臓領域の領域全体における局所対象は、例えば、肝臓領域の縁にあるパッチ(patch)であり、パッチの一部が肝臓領域の領域全体に位置している。
【0079】
図6は、二値化テンプレートマッチングを示す例示図である。例えば、
図6の(a)に示すように、対象抽出部102は、CO画像における破線枠内の領域を局所対象とする。当該局所対象は、肝臓領域の縁に位置する頂点パッチである。
【0080】
そして、例えば、
図6の(b)に示すように、対象抽出部102は、頂点パッチの輝度図を二値化することで、当該頂点パッチの二値化テンプレートを作成し、肝臓領域の部分を区分けする。他の医用画像では造影剤の影響によって頂点パッチの輝度が変わるが、二値化テンプレートを用いることで、造影剤の変化に対するアルゴリズムのロバスト性が向上する。
【0081】
なお、
図6では、CO画像の例を例示的に示したが、対象抽出部102は、CO画像及びSG画像等について、二値化テンプレートを作成する。
【0082】
ステップS214では、対象抽出部102は、他の医用画像の有無を判断する。ここで、他の医用画像がある場合(ステップS214,YES)、ステップS215では、対象抽出部102は、他の医用画像を選択する。例えば、対象抽出部102は、ステップS211で造影前の状態に対応する1つ目の医用画像を選択した場合には、ステップS215で時間順に次の医用画像を選択する。
【0083】
ステップS216では、対象抽出部102は、ステップS215で選択された他の医用画像において局所対象の二値化テンプレートを用いたテンプレートマッチングを行って局所対象の変位量を得る。例えば、対象抽出部102は、他の医用画像において頂点パッチに一致する位置を検索することによって、頂点パッチの動きを追跡し、頂点パッチの変位(x,y,z)を取得する。ここで、X方向の変位は、CO画像によって決定される。また、Y方向の変位は、SG画像によって決定される。また、Z方向の変位は、CO画像とSG画像とを組み合わせて決定される。
図6の(c)に、3つの直交方向上のテンプレートマッチングを例示的に示し、テンプレートマッチングの検索の範囲を破線枠で示す。
【0084】
なお、テンプレートマッチングのアルゴリズムは限定されず、例えば、二乗差マッチング法又は関係係数マッチング法によって実現されてもよい。
【0085】
ステップS217では、対象抽出部102は、肝臓領域の領域全体の位置を更新する。具体的には、対象抽出部102は、ステップS216で得られた局所対象の変位量を全体の変位量とし、ステップS212で抽出された領域全体を相応した量で移動させる。
図6の(d)に、肝臓領域の領域全体を剛体変位させた後の状態を例示的に示す。
【0086】
その後、ステップS214に戻り、対象抽出部102は、全ての医用画像に対して領域全体の位置を更新した後に(ステップS214,NO)、ステップS220に進む。
【0087】
なお、
図5に示すフローは、ステップS210の追跡処理の1つの例であり、任意の他の方法で追跡処理が行われてもよい。ただし、三次元画像のデータ量及び造影剤の影響を考慮すると、二値化テンプレートのテンプレートマッチングは処理量を効率的に低減させつつ、ロバストネスを向上することが望ましい。
【0088】
図4に戻り、ステップS220では、対象抽出部102は、複数の異なるタイミングでの医用画像それぞれについて、肝臓領域の領域全体に対する肝臓領域の変位を計算する。即ち、対象抽出部102は、医用画像それぞれにおける肝臓の実際の領域を更新する。
【0089】
具体的には、対象抽出部102は、例えば、
図7に示すフローに従って、それぞれの医用画像における肝臓の実際の領域を更新する。
図7は、領域全体に対する肝臓領域の変位を計算する一具体例のフローチャートである。
【0090】
図7に示すように、ステップS221では、対象抽出部102は、ステップS210で抽出された医用画像内の肝臓領域の領域全体について、当該肝臓領域の領域全体における極点(extreme point)で複数の局所対象を抽出する。ここで、局所対象は、例えば、三次元パッチ(3D patch)又はスーパーボクセル(Super voxel)である。また、極点は、肝臓領域の頂点とみなされる位置に対応する位置であり、頂点の位置は肝臓の最も上にある点ではなく、広い意味での形状の頂点(vertex)を指す。
【0091】
図8は、回帰モデルを用いて肝臓の実際の領域を計算する例示図である。ここで、
図8は、CO画像の様態を示している。また、
図8の(a)に、3つの極点にある局所対象を太い枠で例示的に示す。
【0092】
ステップS222では、対象抽出部102は、極点に位置する複数の局所対象に基づき、他の位置における複数の局所対象を収集する。例えば、極点に位置する2つの局所対象の間でサンプリングを行うことで、肝臓領域の領域全体の境界に位置しているいくつかの局所対象を均一に抽出する。
図8の(a)に、他の位置における3つの局所対象を細い枠で例示的に示す。
【0093】
このように、複数の局所対象を収集することによって、肝臓領域のダウンサンプリングが実現される。
【0094】
なお、ステップS221及びステップS222の処理は合わせて行われてもよいし、複数の局所対象は他の方法で抽出されてもよい。
【0095】
ステップS223では、対象抽出部102は、回帰モデルを用いて、ステップS221及びステップS222で抽出された局所対象それぞれの変位を予測する。なお、回帰モデルのアルゴリズムを実現する方法は限定されず、例えば、機械学習又は深層学習に基づく訓練済みの回帰モデルが用いられてもよい。
【0096】
回帰モデルにおいて、毎回の予測では、隣接する複数の局所対象の変位を同時に更新することができる。また、局所対象の曲率変化を制限することによって、ノイズの影響が軽減され、効率を向上できる。また、
図5のステップS211及びS212で造影前の1つ目の画像から肝臓領域の領域全体を抽出した場合には、造影前の画像において肝臓領域の分割に誤分割が生じる可能があるが、肝臓よりも造影剤による強調が早い臓器付近の局所対象を分析することで、曲率の変化を制限することなく、誤分割を効率的に修正することができる。また、複数の医用画像間における各ピクセルの輝度強調特徴を追加することで、変位の測定精度を向上することができる。
【0097】
図8の(b)に、回帰モデルを用いた、局所対象それぞれの予測の様態を例示的に示す。ここでは、ステップS221及びS222で収集された複数の局所対象の初期位置を実線枠で示し、回帰モデルによって修正された局所対象の位置を破線枠で示している。また、矢印で強調されている局所対象は変位が大きいが、当該局所対象は肝臓よりも造影剤による強調が早い腎臓に隣接するため、その曲率変化が制限されない。
【0098】
ステップS224では、対象抽出部102は、局所対象それぞれの変位に基づき、変形後の肝臓領域を計算する。例えば、対象抽出部102は、修正後の局所対象を補間することで、変形後の肝臓領域を取得する。
図8の(c)に、変形後の肝臓領域を例示的に示す。
【0099】
なお、
図7に示すフローは、ステップS220の変位計算処理の一例であるが、他の任意の画像処理方法で実際の肝臓領域が計算されてもよい。ただし、三次元画像のデータ量及び造影剤の影響を考慮すると、複数の局所対象を抽出してダウンサンプリングすることによって、処理量を効率的に低減することが望ましい。
【0100】
以上により、
図4に示すフローが完了することによって、関心対象(肝臓)全体を粗から細へのアプローチで追跡し、呼吸運動及び造影剤分布のバラツキによる誤差を低減させることができる。
【0101】
次に、取得部101によって複数の医用画像が取得された後に、対象抽出部102が腹部大動脈領域を第2関心対象として抽出する処理の様態を説明する。なお、腹部大動脈は肝臓より早く造影剤によって強調されるが、腹部大動脈領域及び肝臓領域の抽出順は限定されない。
【0102】
ここで、対象抽出部102は、
図4に示すフローと同一の方法に従って腹部大動脈領域を抽出して追跡を行った場合には、上記と同様に呼吸運動の影響が考慮されることになる。しかし、動脈相の継続時間が短いことを考慮すると、腹部大動脈は当該時間範囲内に呼吸運動の影響が小さいため、追跡の処理は行われなくてもよい。
【0103】
一具体例として、対象抽出部102は、腹部大動脈の肝動脈に隣接する最適な血管セグメントを第2関心対象として、当該血管セグメントの強調状態を分析することにより、肝動脈の強調状態をほぼ反映する。例えば、対象抽出部102は、複数の医用画像のうち、造影剤が腹部大動脈に到達する前の画像と到達した後の画像とを比較することで、造影剤が到達した後の少なくとも1つの画像で腹部大動脈に対応する領域(肝動脈に隣接する領域)を検出し、そのピクセル領域を第2関心対象の領域とする。また、対象抽出部102は、他の医用画像でも、当該ピクセル領域をそのまま第2関心対象の領域とみなす。
【0104】
これにより、追跡の処理が不要になるため、処理量を軽減することができる。また、これにより、画像解像度の影響のために肝動脈を正確に分割することが難しい場合に、腹部大動脈領域を分析対象とすることができる。また、磁気共鳴画像のスキャン領域が限られており、かつ、医用画像に肝臓及びその周辺だけが含まれる場合に、肝臓領域及び腹部大動脈領域を関心対象とすることで、安定した検出結果を得ることができる。
【0105】
生成部103は、腹部大動脈領域(第2関心対象)及び肝臓領域(第1関心対象)内のピクセルの輝度平均値をそれぞれ計算することで、2つの初期TICを生成する。ここで、初期TICは、信号強度(領域内の輝度平均値)と医用画像の撮影タイミングとの関係を示す折れ線グラフである。
【0106】
その後、生成部103は、初期TICに対して正規化と補間とを含む前処理を実行する。ここで、平滑化処理は、行われてもよいし、行われなくてもよい。
【0107】
まず、生成部103は、式(SIn-SI0)/SI0によって、正規化処理を実行する。
【0108】
ここで、SInは、n番目のタイミングでの医用画像における関心対象の領域内の輝度平均値を表し、SI0は、0番目のタイミングでの医用画像(初期の医用画像)における関心対象の領域内の輝度平均値を表す(nは0~Nの整数であり、Nは画像の総数である。)。
【0109】
次に、生成部103は、TICの隣接データの間に、いくつかの浮動小数点型のデータを挿入する。そして、生成部103は、補間及びフィッティングを行うことにより、TICの経時変化の傾向を推定する。
【0110】
時相決定部104は、腹部大動脈領域に対応するTICを用いて、肝臓の動脈相の範囲における開始時相を決定する。例えば、時相決定部104は、腹部大動脈領域に対応するTICの最大勾配の時相を、動脈相の範囲における開始時相とする。また、時相決定部104は、腹部大動脈領域に対応するTICが所定の閾値を超えた時相を、肝臓の動脈相の範囲における開始時相としてもよい。
【0111】
図9は、腹部大動脈領域に対応するTICの一具体例の曲線図である。
図9に、最大勾配の時相を動脈相の範囲における開始時相とする場合の例を示す。
【0112】
また、時相決定部104は、肝臓領域に対応するTICを用いて、肝臓の動脈相の範囲における終了時相を決定する。例えば、時相決定部104は、肝臓領域に対応するTICの値が所定の閾値まで増加した時相を、肝臓の動脈相の範囲における終了時相とする。
【0113】
図10は、肝臓領域に対応するTICの一具体例の曲線図である。
図10に、数値が所定の閾値まで増加した時相を動脈相の範囲における終了時相とする場合の例を示す。
【0114】
これにより、最適な血管セグメント及び臓器の領域全体を検出目標とすることができ、適切な肝臓の動脈相の範囲を決定することができる。
【0115】
(第2の具体例)
次に、MRI装置によって取得された三次元医用画像から肝臓の動脈相を検出する他の具体例を第2の具体例として説明する。なお、ここでは、第1の具体例と同一の処理については具体的な説明を省略する。
【0116】
例えば、高速再構成される画像解像度及び造影剤等の影響によって、第1の具体例のように腹部大動脈領域を抽出することが難い場合がある。このように、腹部大動脈領域の抽出が難しい場合には、肝臓に関連する関連臓器を第2関心対象として抽出してもよい。ここで、関連臓器領域は、例えば、肝臓より早く造影剤によって強調される臓器(例えば、腎臓、膵臓)である。
【0117】
対象抽出部102は、肝臓に関連する関連臓器(例えば、腎臓)領域を第2関心対象として抽出する。
【0118】
図11は、関心対象である臓器の強調順を示す例示図である。
図11の(a)~(d)に、造影増強前(Pre-contrast)の状態から、肝臓が完全に強調されるまでの順序を示す。
図11に示すように、造影剤の作用によって、腎臓の強調は、腹部大動脈より遅いが、肝臓よりは早いため、腎臓領域の強調も肝動脈相の参照として使用することができる。
【0119】
ここで、対象抽出部102が腎臓領域を抽出する方法は、例えば、肝臓領域を抽出する方法と同じである。例えば、対象抽出部102は、機械学習や深層学習による分割又は従来の画像処理方法等の方法に基づき、腎臓領域の変位を粗から細へのアプローチで追跡する。
【0120】
生成部103は、肝臓領域と腎臓領域との間の輝度差に対応するTICを生成する。
【0121】
時相決定部104は、肝臓領域と腎臓領域との間(以下、腎臓領域-肝臓領域)の輝度差に対応するTICに基づき、肝臓の動脈相の範囲を決定する。ここで、例えば、時相決定部104は、腎臓領域-肝臓領域の輝度差に対応するTICを分析して、肝臓の動脈相の範囲を決定する。
【0122】
図12は、腎臓領域-肝臓領域の輝度差に対応するTICの一具体例の曲線図である。
図12に示すように、時相決定部104は、輝度差に対応するTICが第1閾値まで増加した時相を動脈相の範囲における開始時相とし、輝度差に対応するTICのピーク値に対応する時相(両者のコントラストが低下する前)を動脈相の範囲における終了時相とする。また、時相決定部104は、輝度差に対応するTICが第2閾値まで増加した時相を動脈相の範囲における終了時相としてもよい。
【0123】
これにより、最適な血管セグメントが検出され難い状況に対応することができ、複数の臓器領域を検出目標として、適切な時相範囲を確実に決定することができる。
【0124】
(他の実施形態)
なお、上述した2つの具体例を組み合わせて、肝臓領域と腎臓領域(又は膵臓等)との輝度差に対応するTICの分析結果を、腹部大動脈領域のTICの分析結果と組み合わせることで、高精度の候補時相が得られるようにしてもよい。また、複数の(差分)輝度曲線分析によって得られた開始時相及び終了時相を複数の候補値としてもよい。また、訓練データの各候補値の統計的パフォーマンスに基づき、各候補値の信頼性をスコアリングし、最適な開始/終了時相を選択して検出結果としてもよいし、複数の候補値の加重平均値を検出結果としてもよい。
【0125】
また、上述した実施形態及び具体例では、例えば、高速再構成画像等の画像解像度が足りない場合の例を説明した。しかしながら、本願が開示する技術で用いられる医用画像は高速再構成画像に限定されず、画像の画質が十分に高い、又は、十分なイメージング特性を有する場合には、門脈領域及び肝動脈領域が関心対象とされてもよい。門脈と肝動脈とを安定かつ正確に分割できれば、2つの分割結果に基づき、TICを分析して、より正確な動脈相検出を実現することができる。例えば、開始時相は肝動脈のTICにより直接に決定され、終了時相は門脈のTICにより決定される。
【0126】
また、上述した実施形態及び具体例では、対象抽出部102が複数の関心対象を抽出する場合の例を説明した。しかしながら、対象抽出部102は、1つの関心対象(例えば、第1関心対象)から複数の局所関心対象を抽出し(局所ROI)、生成部103が複数の局所関心対象に対応する複数のTICを生成することで、時相決定部104が必要に応じて特定の時相を決定してもよい。例えば、対象抽出部102は、腎臓内部から腎皮質、腎髄質等の複数の局所関心対象を抽出し、各局所関心対象の領域の輝度及び異なる領域間の輝度コントラストの経時変化を分析することで、動脈相、腎皮質相(corticomedullary phase)、腎髄質相(nephrographic phase)等の特定の時相を特定してもよい。
【0127】
また、上述した実施形態及び具体例では、自由呼吸の影響について説明した。しかしながら、本願が開示する技術は、被検者が息を凝らしている場合にも適用することができる。その場合には、臓器の追跡処理が不要になるため、処理量を軽減することができる。
【0128】
なお、上述した実施形態及び具体例において、例えば、取得部101、対象抽出部102、生成部103、時相決定部104及び画像再構成部105の各処理部は、それぞれ、時相決定装置100又は110に備えられた処理回路の処理機能によって実現される。
【0129】
ここで、処理回路は、例えば、プロセッサによって実現される。その場合に、上述した各処理部を実現する処理機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶回路に記憶される。そして、処理回路は、記憶回路に記憶された各プログラムを読み出して実行することで、各プログラムに対応する処理機能を実現する。換言すると、処理回路143は、各プログラムを読み出した状態で、
図1又は
図3に示した各処理部を有することになる。
【0130】
また、ここでは、処理回路が単一のプロセッサによって実現される場合の例を説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、処理回路は、複数の独立したプロセッサを組み合わせて構成され、各プロセッサがプログラムを実行することによって各処理機能を実現するものとしてもよい。また、処理回路が有する各処理機能は、単一又は複数の処理回路に適宜に分散又は統合されて実現されてもよい。また、処理回路が有する各処理機能は、回路等のハードウェアとソフトウェアとの混合によって実現されてもよい。また、ここでは、各処理機能に対応するプログラムが単一の記憶回路に記憶される場合の例を説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、各処理機能に対応するプログラムが複数の記憶回路が分散して記憶され、処理回路が、各記憶回路から各プログラムを読み出して実行する構成としても構わない。
【0131】
また、上述した実施形態の説明で用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、又は、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。ここで、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むように構成しても構わない。この場合には、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。また、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて一つのプロセッサとして構成され、その機能を実現するようにしてもよい。
【0132】
ここで、プロセッサによって実行されるプログラムは、ROM(Read Only Memory)や記憶回路等に予め組み込まれて提供される。なお、このプログラムは、これらの装置にインストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD(Compact Disk)-ROM、FD(Flexible Disk)、CD-R(Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記録されて提供されてもよい。また、このプログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納され、ネットワーク経由でダウンロードされることによって提供又は配布されてもよい。例えば、このプログラムは、上述した各処理機能を含むモジュールで構成される。実際のハードウェアとしては、CPUが、ROM等の記憶媒体からプログラムを読み出して実行することにより、各モジュールが主記憶装置上にロードされて、主記憶装置上に生成される。
【0133】
また、上述した実施形態及び変形例において、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散又は統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散又は統合して構成することができる。更に、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部又は任意の一部が、CPU及び当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、或いは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0134】
また、上述した実施形態及び変形例において説明した各処理のうち、自動的に行なわれるものとして説明した処理の全部又は一部を手動的に行なうこともでき、或いは、手動的に行なわれるものとして説明した処理の全部又は一部を公知の方法で自動的に行なうこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0135】
なお、本明細書において扱う各種データは、典型的にはデジタルデータである。
【0136】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、最適なコントラストの時相の範囲を特定することができる。
【0137】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0138】
100,110 時相決定装置
101 取得部
102 対象抽出部
103 生成部
104 時相決定部
105 画像再構成部