(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162149
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】金属溶湯処理装置、金属溶湯処理方法
(51)【国際特許分類】
C22B 9/02 20060101AFI20231031BHJP
C22B 21/06 20060101ALI20231031BHJP
B22D 11/11 20060101ALN20231031BHJP
【FI】
C22B9/02
C22B21/06
B22D11/11 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071142
(22)【出願日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2022072247
(32)【優先日】2022-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】山本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】東 健之輔
(72)【発明者】
【氏名】コマロフ セルゲイ
【テーマコード(参考)】
4E004
4K001
【Fターム(参考)】
4E004MB20
4E004NC08
4K001AA02
4K001AA10
4K001AA16
4K001AA23
4K001AA27
4K001AA31
4K001AA38
4K001BA22
4K001EA13
4K001GA13
4K001GB05
(57)【要約】
【課題】金属溶湯に含まれる金属間化合物の微細化処理を、簡易な構成で低コストに行い、機械的強度と延性の高い金属鋳塊を得ることが可能な金属溶湯処理装置、およびこれを用いた金属溶湯処理方法を提供する。
【解決手段】金属溶湯を収容する坩堝と、前記坩堝の内部に配された円板状の回転体と、前記回転体を回転させるモータと、前記モータの回転を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、前記坩堝に収容された前記金属溶湯にキャビテーションを生じさせる回転数で前記回転体が回転するように、前記モータを制御することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属溶湯を収容する坩堝と、
前記坩堝の内部に配された回転体と、
前記回転体を回転させるモータと、
前記モータの回転を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記坩堝に収容された前記金属溶湯にキャビテーションを生じさせる回転数で前記回転体が回転するように、前記モータを制御することを特徴とする金属溶湯処理装置。
【請求項2】
前記制御部は、式(1)において、キャビテーション定数Caが1未満となるように、前記モータの回転を制御することを特徴とする請求項1に記載の金属溶湯処理装置。
Ca=(p-pv)/(2ρπ2×n2×r2)・・・(1)
但し、p:絶対圧力(Pa)、pv:蒸気圧(Pa)、ρ:金属溶湯の密度(kgm-3)、n:回転体の回転数(s-1)、r:回転体の半径(m)
【請求項3】
前記回転体の表面には、複数の凹凸が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の金属溶湯処理装置。
【請求項4】
前記坩堝の内部で、前記回転体よりも上側に、更に円板状の巻込防止板が配されることを特徴とする請求項1または2に記載の金属溶湯処理装置。
【請求項5】
前記金属溶湯は、主成分がAlであり、少なくともAlを含む金属間化合物を有するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の金属溶湯処理装置。
【請求項6】
前記金属間化合物は、Al-Fe金属間化合物、またはAl-Zr金属間化合物を含むことを特徴とする請求項5に記載の金属溶湯処理装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載の金属溶湯処理装置を用いた金属溶湯処理方法であって、
前記坩堝に収容された前記金属溶湯内で前記回転体を回転して、前記金属溶湯にキャビテーションを生じさせ、前記金属溶湯に含まれる不純物である金属間化合物の粒子サイズを小さくする工程を有することを特徴とする金属溶湯処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶湯に含まれる金属間化合物を微細化させる金属溶湯処理装置、金属溶湯処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
持続可能な開発目標(SDGs)をはじめとした環境問題への意識が近年高まっている 。例えば、飲料容器の材料として幅広く用いられているアルミニウムにおいては、アルミニウム展伸材の循環使用率を50%程度に引き上げることが望まれている。しかしながら、アルミニウム展伸材のリサイクル率の向上を阻害する要因として、リサイクル過程で混入する鉄等の不純物への許容度が鋳造材と比較して低いことが挙げられる。
【0003】
具体的には、アルミニウム展伸材が凝固する際に、不純物として鉄が含まれていると、針状の金属間化合物(主にAl3Fe)が生成される。こうした金属間化合物がサイズの大きな結晶の状態で存在すると、得られたアルミニウム材の機械的な強度が低下してしまう。
【0004】
こうした不純物として含まれる金属間化合物による金属の機械的な強度の低下を防止するために、例えば、特許文献1では、アルミニウム系鋳造合金の溶湯に超音波振動を付与することによって、溶湯に生じた金属間化合物を微細粒状化する方法が開示されている。アルミニウム系鋳造合金に含まれる金属間化合物の結晶を微細粒状化することによって、得られたアルミニウム系鋳造合金の機械的な強度の低下を防止することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたアルミニウム系鋳造、展伸材合金の製造方法は、工業レベルの大きな容量の金属溶湯全体に渡って、一定の強度で超音波を印加することが困難である。また、超音波を生じさせる超音波発信器は、構造が複雑で、特に高出力のものは高価であり、合金の製造コストが高くなるという課題があった。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みて提案されたものであり、金属溶湯に含まれる金属間化合物の微細化処理を、簡易な構成で低コストに行い、機械的強度と延性の高い金属鋳塊を得ることが可能な金属溶湯処理装置、およびこれを用いた金属溶湯処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態の金属溶湯処理装置は、以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1は、金属溶湯を収容する坩堝と、前記坩堝の内部に配された円板状の回転体と、前記回転体を回転させるモータと、前記モータの回転を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、前記坩堝に収容された前記金属溶湯にキャビテーションを生じさせる回転数で前記回転体が回転するように、前記モータを制御することを特徴とする。
【0009】
態様1の金属溶湯処理装置によれば、金属溶湯内で回転体を回転させて、キャビテーションを生じさせることによって、金属溶湯内に含まれるサイズの大きな金属間化合物の針状結晶を、容易に微細化させることが可能になる。そして、これにより機械的強度と延性を高めた金属鋳塊を得ることが可能になる。
【0010】
(2)本発明の態様2は、態様1の金属溶湯処理装置において、前記制御部は、式(1)において、キャビテーション定数Caが1未満となるように、前記モータの回転を制御することを特徴とする。
Ca=(p-pv)/(2ρπ2×n2×r2)・・・(1)
但し、p:絶対圧力(Pa)、pv:蒸気圧(Pa)、ρ:金属溶湯の密度(kgm-3)、n:回転体の回転数(s-1)、r:回転体の半径(m)
【0011】
(3)本発明の態様3は、態様1または2の金属溶湯処理装置において、前記回転体の表面には、複数の凹凸が形成されていることを特徴とする。
【0012】
(4)本発明の態様4は、態様1から3のいずれか一つの金属溶湯処理装置において、前記坩堝の内部で、前記回転体よりも上側に、更に円板状の巻込防止板が配されることを特徴とする。
【0013】
(5)本発明の態様5は、態様1から4のいずれか一つの金属溶湯処理装置において、前記金属溶湯は、主成分がAlであり、不純物として、少なくともAlを含む金属間化合物を有するものであることを特徴とする。
【0014】
(6)本発明の態様6は、態様5の金属溶湯処理装置において、前記金属間化合物は、Al-Fe金属間化合物、またはAl-Zr金属間化合物を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の一実施形態の金属溶湯処理方法は、以下の手段を提案している。
(7)本発明の態様7は、態様1から6のいずれか一つの金属溶湯処理装置を用いた金属溶湯処理方法であって、前記坩堝に収容された前記金属溶湯内で前記回転体を回転して、前記金属溶湯にキャビテーションを生じさせ、前記金属溶湯に含まれる不純物である金属間化合物の粒子サイズを小さくする工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属溶湯に含まれる金属間化合物の微細化処理を、簡易な構成で低コストに行い、機械的強度と延性の高い金属鋳塊を得ることが可能な金属溶湯処理装置、およびこれを用いた金属溶湯処理方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態の金属溶湯処理装置を示す模式断面図である。
【
図2】キャビテーションによる金属間化合物の微細化を示す模式説明図である。
【
図3】本発明の他の実施形態の金属溶湯処理装置を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の金属溶湯処理装置、およびこれを用いた金属溶湯処理方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0019】
本発明の一実施形態の金属溶湯処理装置の構成例を説明する。
最初に、本実施形態の金属溶湯処理装置を用いて処理を行う金属溶湯について説明する。本実施形態では、金属溶湯の一例として、リサイクル回収されたアルミニウム展伸材を融解したアルミニウム溶湯(約660℃~800℃)を用いている。こうしたリサイクル回収されたアルミニウム展伸材は、不純物として鉄を含んでおり、アルミニウム溶湯を形成した際に、アルミニウムが不純物である鉄と反応し、アルミニウム-鉄化合物(Al3Fe)の金属間化合物が生じる。こうした金属間化合物は、針状結晶であり、結晶サイズが大きいままで固化すると、得られたアルミニウム鋳塊の機械的な強度が低下する原因となる。
【0020】
なお、本実施形態では、処理を行う金属溶湯として、不純物として鉄を含むアルミニウム展伸材の溶湯を例示しているが、本実施形態の金属溶湯処理装置や金属溶湯処理方法に適用可能な金属溶湯は、これに限定されるものではない。例えば、アルミニウム-ジルコニウム化合物の結晶を不純物として含むアルミニウム溶湯など、任意の金属間化合物を不純物として含む金属溶湯の処理に適用することができる。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態の金属溶湯処理装置を示す模式断面図である。
本実施形態の金属溶湯処理装置10は、金属溶湯Mを収容する坩堝11と、この坩堝11の収容部(内部)11aに配された回転体の一例である円板状の回転板(回転体)12と、この回転板12を回転させるモータ13と、このモータ13の回転を制御する制御手段14と、を有している。また、坩堝11の収容部11aにおいて、回転板12の上部には、更に巻込防止板16が配されている。また、坩堝11の上部には、坩堝11の収容部11a内の温度を検出する温度検出手段17が形成されている。
【0022】
坩堝11は、例えば、上面が開放面とされた有底円筒形の耐熱性容器であればよい。坩堝11は、収容部11aに収容される金属溶湯Mの温度以上の耐熱温度を有し、かつ、金属溶湯Mの主成分の金属に対して化学反応や腐食が生じにくい材料、例えば、石英、セラミックス、グラファイト、金属などを構成材料として用いることができる。本実施形態では、坩堝11として、アルミニウム溶湯(約660℃~800℃)に対して耐熱性を有し、アルミニウムとの化学反応や腐食が生じにくい、グラファイト製の坩堝を例示している。
【0023】
このような坩堝11は、例えば、電気炉18に設置されていればよい。電気炉18によって坩堝11を加熱して、収容部11aに収容したアルミニウム展伸材を融解することによって、金属溶湯Mを形成することができる。
【0024】
なお、坩堝11は、電気炉18に設置する形態以外にも、例えば、坩堝11の周囲に断熱材等を設け、予め外部でアルミニウム展伸材を融解させた金属溶湯Mを坩堝11の収容部11aに注入する構成であってもよい。
【0025】
回転体の一例である回転板12は、円板状に形成された部材であり、中心から上方に向けて回転軸12sが一体に形成されている。こうした回転板12は、その一面12aおよび他面12bが回転軸12sの延長方向に対して直角に広がるにように、坩堝11の収容部11aに配されている。回転軸12sは、後述するモータ13のモータ回転軸13aに結合されている。
【0026】
回転板12は、アルミニウム溶湯に対して耐熱性を有し、かつ、アルミニウムとの化学反応や腐食が生じにくい材料から形成されている。回転板12の構成材料の具体例としては、例えば、グラファイト、窒化ケイ素などのセラミックス、超耐熱材料としてニオブ-モリブデン合金などが挙げられる。本実施形態では、回転板12は、アルミニウム溶湯に対して金属間化合物を形成しにくい金属ニオブから形成されている。
【0027】
このような構成の回転板12は、金属溶湯Mを収容した坩堝11の収容部11a内において、後述するモータ13によって所定範囲の回転数で回転させられ、金属溶湯Mにキャビテーションを生じさせる。
【0028】
なお、本実施形態の回転板12は、一面12aおよび他面12bが平滑面とされているが、回転板12の一面12a、または他面12bのうち、少なくとも一方に、任意の形状の突起を配列したり、表面を凹凸面や粗面にしたりすることもできる。
また、本実施形態の回転板12は、回転体の一例であり、回転体としては、例えば、円筒形の部材、スクリュー状の部材など、各種形状の回転体を用いることができる。
【0029】
モータ13は、直流モータや交流モータなど任意の電気モータから構成され、モータ回転軸13aが回転板12の回転軸12sに直結されていればよい。なお、モータ13のモータ回転軸13aと、回転板12の回転軸12sとは、本実施形態のように直結する構成以外にも、任意のギア比で回転数を変換する回転数変換手段、例えばギアボックスを介して結合される構成であってもよい。
また、モータ13を坩堝11の上部に配置する場合には、耐熱性を有するモータを用いることも好ましい。
【0030】
制御手段14は、モータ13の動作、例えば回転軸12sの回転数を制御する部材であり、例えば、モータ駆動回路、モータ制御回路などを有するモータコントロール装置であればよい。
【0031】
こうした制御手段14は、モータ13を介して、回転板12を所定範囲の回転数となるように回転させる。回転板12の回転数は、金属溶湯M内で回転板12を回転させた際に、回転板12の回転によって金属溶湯M内でキャビテーションが発生する範囲の回転数とされる。
【0032】
キャビテーションは、金属溶湯M内で回転板12を所定範囲の回転数で回転させた際に、圧力差によって短時間に気泡の発生と消滅が起きる空洞現象である。こうしたキャビテーションによって、気泡から衝撃波が生じ、金属溶湯M内に含まれるサイズの大きな金属間化合物の結晶を、この衝撃波によって破壊して、金属間化合物の結晶サイズを微細化させることができる。
【0033】
制御手段14によって制御される回転板12の、金属溶湯M内にキャビテーションを生じさせることが可能な回転数の範囲は、以下の式(1)において、キャビテーション定数Caが1未満となるようにすることで達成される。
Ca=(p-pv)/(2ρπ2×n2×r2)・・・(1)
但し、p:絶対圧力(Pa)、pv:蒸気圧(Pa)、ρ:金属溶湯の密度(kgm-3)、n:回転板の回転数(s-1)、r:回転板の半径(m)
上述した式1で、Ca<1になるように、回転板12の半径を選択し、回転板12の回転数n(s-1)を制御することによって、金属溶湯M内にキャビテーションを生じさせることが可能になる。
【0034】
巻込防止板16は、金属溶湯Mの外気や溶融金属表面に形成した酸化皮膜の巻き込み防止、および保温のために、金属溶湯Mの上部に形成される円板状の部材である。本実施形態の巻込防止板16は、例えば、ケイ酸カルシウム(Ca2O4Si)製の円板を3枚、互いに離間させて積層したものから構成されている。
【0035】
それぞれの巻込防止板16は、中心から外縁まで延びる長穴状の切り欠き16aが形成され、この切り欠き16aの中心には、回転板12の回転軸12sが貫通している。また、巻込防止板16の切り欠き16aの外縁側には、坩堝11の上部から収容部11aに向けて延びるロッド19が貫通している。こうしたロッド19は、回転板12の回転によって金属溶湯Mが流動した際に、巻込防止板16が回転することを抑制する。なお、こうした切り欠き16aは必須ではなく、特に形成しなくてもよい。
【0036】
温度検出手段17は、坩堝11の収容部11a内の温度を検出するものであり、熱電対や、非接触の放射温度計などを用いることができる。
【0037】
次に、上述した金属溶湯処理装置の作用、および本実施形態の金属溶湯処理方法について説明する。
本実施形態の金属溶湯処理方法は、上述した金属溶湯処理装置10を用いて、金属溶湯Mを処理することで行う。
まず、例えば、リサイクル回収されたアルミニウム展伸材をチップ状にして、金属溶湯処理装置10の坩堝11の収容部11aに入れる。次に、電気炉18を動作させて坩堝11をアルミニウムの融点以上、例えば、660℃~800℃程度に加熱する。
【0038】
これにより、坩堝11の収容部11a内には、アルミニウム展伸材が融解された金属溶湯Mが形成される。こうした金属溶湯Mには、アルミニウムとともに、不純物である鉄とアルミニウムとが反応して形成されたAl-Fe等の金属間化合物(主にAl3Fe)のサイズの大きな針状結晶が含まれている。
【0039】
次に、制御手段14によって、モータ13を動作させる。モータ13を動作によって、金属溶湯M内で回転板12が回転する。この時、制御手段14は、回転板12の回転によって金属溶湯M内でキャビテーションが発生する回転数で回転板12を回転させる。具体的には、例えば、以下の式(1)において、キャビテーション定数Caが1未満となるように、回転板12の回転数n(s-1)を制御する。
Ca=(p-pv)/(2ρπ2×n2×r2)・・・(1)
但し、p:絶対圧力(Pa)、pv:蒸気圧(Pa)、ρ:金属溶湯の密度(kgm-3)、n:回転板の回転数(s-1)、r:回転板の半径(m)
【0040】
このように、金属溶湯M内でキャビテーションが発生すると、例えば、
図2に示す模式図のように、発生したキャビテーション気泡が、サイズの大きな金属間化合物の針状結晶を破断させ、よりサイズの小さな金属間化合物の結晶を生成させる。また、キャビテーション気泡の発生~消滅に伴い生じる衝撃波によっても、サイズの大きな金属間化合物の針状結晶を破断させ、よりサイズの小さな金属間化合物の結晶を生成させる。
【0041】
なお、こうしたキャビテーションを発生させる際の金属溶湯Mの温度は、金属間化合物がAl-Fe金属間化合物である場合、このAl-Fe金属間化合物の状態図において、固液共存領域で行うことが好ましい。固液共存領域でキャビテーションを発生させることにより、金属間化合物を微細化、ブロック化し、サイズの小さな結晶粒子数を増加させることができる。
【0042】
このように、金属溶湯M内で回転板12を回転させて、キャビテーションを生じさせることによって、金属溶湯Mに含まれるサイズの大きな金属間化合物の針状結晶を、容易に微細化させることができる。
【0043】
以上のようにして得られた、金属間化合物の針状結晶を微細化させた金属溶湯Mを冷却した、リサイクルアルミニウム鋳塊は、飲料容器や機械部品等の素材として用いた場合に、不純物の鉄とアルミニウムとの金属間化合物(主にAl3Fe)の針状結晶が生成時よりも微細化されているため、機械的特性が、新規に製造されたアルミニウムに比較しても同程度まで保たれている。
【0044】
なお、本実施形態では、少なくともアルミニウムを含む金属間化合物として、Al-Feを例示しているが、これ以外にも、金属間化合物として、Al-Zr,Al-Fe-Si,Al-Mn,Al-Ti,Mg-Siなどが挙げられる。また、Si単体が含まれている場合もある。
【0045】
以上のように、本実施形態の金属溶湯処理装置を用いた金属溶湯処理方法によれば、金属溶湯に含まれる金属間化合物の微細化処理を、金属溶湯内で回転板を回転させるといった簡易な構成で低コストに行うことが可能になる。また、こうして得られた金属鋳塊は、上述した処理を行わないものと比較して、機械的強度と延性を高めることができる。
【0046】
なお、上述した実施形態では、坩堝を用いてバッチ処理で金属溶湯の処理を行う例を示しているが、これ以外にも、例えば、連続して流れる金属溶湯に対して処理を行うこともできる。
【0047】
例えば、
図3に示すように、リサイクルアルミニウムの半連続鋳造装置(金属溶湯処理装置)20において、金属溶湯Mの流路(坩堝)21内に回転体22を配置して、こうした回転体22によって連続して流れる金属溶湯Mにキャビテーションを発生させることもできる。本実施形態の回転体22は、例えば、円筒形の部材とされている。こうした回転体22の回転によるキャビテーションの発生によって、金属溶湯Mに含まれるサイズの大きな金属間化合物を、連続して効率よく微細化することが可能になる。
【0048】
以上、本発明の実施形態を説明したが、こうした実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。こうした実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0049】
本発明の効果を検証した。
(検証例1)
検証にあたっては、
図1に示す金属溶湯処理装置10を用いて、不純物として鉄を含むリサイクルアルミニウムを坩堝11に投入し融解し金属溶湯Mを形成した。
(本発明例1)金属溶湯Mの液温が683℃(Al-Fe金属間化合物の状態図の液相線以下(固液共存領域内の温度))で回転板12を上述した式(1)を満たすように回転させて、金属溶湯Mにキャビテーションを発生させた。その後、冷却して本発明例1の試料を得た。
(比較例1)金属溶湯Mを形成した後、そのまま冷却して比較例1の試料を得た。
【0050】
このようにして得た本発明例1および比較例1の試料を、それぞれ電子顕微鏡(SEM)で観察した。この結果を
図4にSEM写真として示す。
図4によれば、回転板12を回転させて金属溶湯Mにキャビテーションを発生させた本発明例1は、キャビテーションを発生させない比較例1に対して、金属間化合物の結晶サイズが微細化されていることが確認できた。
【0051】
次に、
図5に示す手順に基づいて、二値化、楕円近似といった画像解析によって、金属間化合物の結晶の定量評価を行った。この時、針状結晶の最大長と長軸が30%以上異なるものは除外した。また、面積が200μm
2以下または5000μm
2以上のものは除外した。画像処理は60枚行い、針状結晶の長軸/短軸でアスペクト比を測定した。
【0052】
以上の定量評価の結晶面積の結果を
図6に、結晶アスペクト比の結果を
図7に、それぞれ棒グラフで示す。
図6に示す結果によれば、金属溶湯にキャビテーションを発生させた「処理あり」は、キャビテーションを発生させない「処理なし」と比較して、結晶の面積が大幅に低下していた。また、
図7に示す結果によれば、「処理あり」は、「処理なし」と比較して、結晶のアスペクト比が大幅に低下していた。
【0053】
これらの結果から、金属溶湯にキャビテーションを発生させることで、金属間化合物の針状結晶が微細化されて小さく、かつ短くなり、ブロック状に変化して、結晶粒子数が増加したことが確認された。よって、金属溶湯にキャビテーションを発生させることにより、金属間化合物の針状結晶の微細化効果を確認することができた。
【0054】
(検証例2)
検証にあたっては、
図1に示す金属溶湯処理装置10を用いて、不純物として鉄を含むリサイクルアルミニウムを坩堝11に投入し融解し金属溶湯Mを形成した。
(比較例2)金属溶湯Mの液温が683℃(Al-Fe金属間化合物の状態図の液相線以下(固液共存領域内の温度))で回転板12を、式1のCaの値が1以上となる100rpmで回転させ、冷却して比較例2の試料を得た。
(本発明例2)金属溶湯Mの液温が683℃(Al-Fe金属間化合物の状態図の液相線以下(固液共存領域内の温度))で回転板12を、式1のCaの値が1未満となる2500rpmで回転させて、金属溶湯Mにキャビテーションを発生させた。その後、冷却して本発明例2の試料を得た。
【0055】
引張試験装置を用いて、上述した比較例2、本発明例2の引張強度、および破断伸びをそれぞれ測定した。引張強度(MPa)および試験前の試料長さに対する破断伸び(%)を表1に示す。
【0056】
【0057】
表1に示す結果によれば、金属溶湯処理時に回転板12の回転数を、式1のCaの値が1未満となるように大きく設定すると、引張強度、破断伸びがそれぞれ高くなることが確認できた。
【0058】
(検証例3)
検証にあたっては、
図1に示す金属溶湯処理装置10を用いて、ジルコニウムを0.4質量%含むようにアルミニウムを坩堝11に投入して融解し金属溶湯Mを形成した。
(本発明例3)金属溶湯Mの液温が986K(Al-Zr金属間化合物の状態図の液相線以下(固液共存領域内の温度))で回転板12の回転数を式1のCaの値が0.50となるように回転させて、金属溶湯Mにキャビテーションを発生させた。その後、冷却速度13.2K/sで冷却して本発明例3の試料を得た。
(本発明例4)回転板12の回転数を式1のCaの値が0.78となるように回転させた以外は本発明例3と同じ条件とした。
(本発明例5)回転板12の回転数を式1のCaの値が1.22となるように回転させた以外は本発明例3と同じ条件とした。
【0059】
このようにして得た本発明例3~5の試料を、
図5に示す手順に基づいて、二値化、楕円近似といった画像解析によって、金属間化合物の結晶の定量評価を行った。
【0060】
以上の定量評価の金属間化合物面積の結果を
図8に、金属間化合物のアスペクト比の結果を
図9に、それぞれ棒グラフで示す。
図8に示す結果によれば、金属溶湯にキャビテーションを発生させることにより、面積が小さい化合物ほど数が多く、晶出物量が増加することが確認された。また、
図9に示す結果によれば、結晶のアスペクト比の大きいものが減少することが確認された。
【0061】
よって、Al-Zr金属間化合物を含む金属溶湯であっても、Al-Fe金属間化合物と同様に、キャビテーションを生じさせることによって、金属溶湯Mに含まれるサイズの大きな金属間化合物の針状結晶を、容易に微細化し、さらに晶出物量が増加することが確認された。
【0062】
(検証例4)
検証にあたっては、
図1に示す金属溶湯処理装置10を用いて、不純物としてジルコニウムを0.4質量%含むリサイクルアルミニウムを坩堝11に投入して融解し金属溶湯Mを形成した。
【0063】
金属溶湯Mの液温が1012K(Al-Zr金属間化合物の状態図の液相線以下(固液共存領域内の温度))で式1のCaの値が0.50、回転板12の回転速度を100、1600、2000、2500(min-1)、および回転無しにそれぞれ設定して、金属溶湯Mにキャビテーションを発生させた(回転無しを除く)。その後、冷却速度13.2K/sで冷却して、それぞれの回転速度の試料を得た。
【0064】
これら各試料の処理時間とIACS導電率(%)との関係を
図10に示す。
なお、IACS導電率は、IACS(International Annealed Copper Standard)が、焼鈍標準軟銅の体積抵抗率(1.7241×10
-2μΩmを100%として、導電率を比率で表現した値である。
図10に示す結果によれば、Al-Zr金属間化合物を含む金属では、回転板12の回転速度が高いほど、得られた金属のIACS導電率(%)が高く、かつ、処理時間が長くなる程、IACS導電率(%)が高まることが確認された。
本発明の金属溶湯処理装置、金属溶湯処理方法は、持続可能な開発目標(SDGs)をはじめとした環境問題に対応して、アルミニウム展伸材の循環使用率を引き上げることに寄与する。従って、産業上の利用可能性を有する。