(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162213
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】がん併用療法における使用のためのSUV39H1ヒストンメチルトランスフェラーゼの阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20231031BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231031BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231031BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231031BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231031BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20231031BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20231031BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20231031BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231031BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231031BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20231031BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20231031BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20231031BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20231031BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20231031BHJP
A61P 11/04 20060101ALI20231031BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20231031BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20231031BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20231031BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20231031BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231031BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20231031BHJP
A61P 5/14 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P35/00
A61K39/395 G
A61K39/395 E
A61K39/395 U
A61K39/395 T
A61K48/00
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K31/711
A61P35/02
A61P17/00
A61P1/00
A61P1/16
A61P27/02
A61P15/00
A61P11/00
A61P11/04
A61P19/08
A61P13/10
A61P1/18
A61P35/04
A61P25/00
A61P13/08
A61P5/14
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023127173
(22)【出願日】2023-08-03
(62)【分割の表示】P 2019570112の分割
【原出願日】2018-06-20
(31)【優先権主張番号】17305755.5
(32)【優先日】2017-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】506413937
【氏名又は名称】アンスティテュート キュリー
(71)【出願人】
【識別番号】511074305
【氏名又は名称】インセルム(インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ リシェルシェ メディカル)
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】アミゴレナ, セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ピアッジョ, エリアーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ニボルスキ, レティシア
(57)【要約】 (修正有)
【課題】有害副作用が限定的な、がん免疫療法の有効性を改善し得る医薬組成物を提供する。
【解決手段】H3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1遺伝子発現の阻害剤を含む、がんを処置するための医薬組成物であって、前記阻害剤は、がんの処置において、少なくとも1種の阻害性免疫チェックポイント分子と組み合わせて使用され、前記阻害性免疫チェックポイント分子が抗PD-1抗体若しくは抗PD-L1抗体又はそれらの抗原結合性断片である、医薬組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんの処置における、免疫チェックポイント分子/タンパク質の少なくとも1種のモジュレーターと組み合わせた使用のためのH3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤。
【請求項2】
前記H3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤が、有機小分子、アプタマー、イントラボディ、ポリペプチド、又はH3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1遺伝子発現の阻害剤から選択される、請求項1に記載の使用のためのH3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤。
【請求項3】
前記H3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤が、ケトシンである、請求項1又は2に記載の使用のためのH3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤。
【請求項4】
前記H3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1遺伝子発現の阻害剤が、アンチセンスオリゴヌクレオチド構築物、siRNA、shRNA及びリボザイムから選択される、請求項1に記載の使用のためのH3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤。
【請求項5】
前記少なくとも1種の免疫チェックポイント分子が、阻害性免疫チェックポイント分子及び/又は刺激性免疫チェックポイントである、請求項1~4のいずれか一項に記載の少なくとも1種の免疫チェックポイント調節因子と組み合わせた使用のためのH3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤。
【請求項6】
前記阻害性免疫チェックポイントタンパク質が、PD-L1、PD1、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CTLA-4、CD277、IDO、KIR、LAG-3、TIM-3 TIGIT、VISTA、CD96、CD112R、CD160、CD244(又は2B4)DCIR(C型レクチン表面受容体)、ILT3、ILT4(免疫グロブリン様転写物)、CD31(PECAM-1)(Ig様Rファミリー)、CD39、CD73、CD94/NKG2、GP49b(免疫グロブリンスーパーファミリー)、KLRG1、LAIR-1(白血球関連免疫グロブリン様受容体1)CD305、PD-L2及びSIRPαから選択される、請求項5に記載の少なくとも1種の免疫チェックポイント調節因子と組み合わせた使用のためのH3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤。
【請求項7】
前記刺激性免疫チェックポイントアゴニストが、CD27、CD40、OX40、GITR、ICOS、TNFRSF25、41BB、HVEM、CD28、TMIGD2、CD226、2B4(CD244)及びリガンドCD48、B7-H6 Brandt(NKリガンド)、LIGHT(CD258、TNFSF14)及びCD28Hから選択される、請求項5又は6に記載の少なくとも1種の免疫チェックポイント調節因子と組み合わせた使用のためのH3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤。
【請求項8】
前記H3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤が、少なくとも1種の阻害性免疫チェックポイントモジュレーター及び少なくとも1種の刺激性免疫チェックポイントモジュレーターと組み合わせて使用される、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のためのH3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤。
【請求項9】
前記免疫チェックポイントモジュレーターが、抗体又は融合タンパク質である、請求項1~8のいずれか一項に記載の少なくとも1種の免疫チェックポイントモジュレーターと組み合わせた使用のためのH3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤。
【請求項10】
前記免疫チェックポイントモジュレーターが、抗PD-1又は抗PD-L1抗体である、請求項1~9のいずれか一項に記載の少なくとも1種の免疫チェックポイントモジュレーターと組み合わせた使用のためのH3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤。
【請求項11】
がんの処置における同時、別々の又は逐次使用のための併用調製物としての、H3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤及び少なくとも1種の免疫チェックポイントモジュレーターを含有する製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの処置に関し、特に、免疫チェックポイント療法と組み合わせたSUV39H1の阻害剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫チェックポイントは、付帯的組織損傷を最小化するための、自己寛容の維持並びに末梢組織における生理的免疫応答の持続時間及び振幅のモジュレートに重大な、免疫系に本来備わっている過多の阻害性及び刺激性経路を指す。実際に、阻害性及び刺激性シグナルの間のバランスは、リンパ球活性化を決定し、結果的に、免疫応答を調節する(Pardoll DM、Nat Rev Cancer.2012年3月22日;12(4):252~64)。
【0003】
現在、腫瘍が、特に、腫瘍抗原に特異的なT細胞に対する免疫抵抗性の主要機構としてある特定の免疫チェックポイント経路を取り入れることが明らかである。免疫チェックポイントの多くは、リガンド-受容体相互作用によって惹起されるため、抗体によって容易に遮断され得る、又はリガンド若しくは受容体の組換え型によってモジュレートされ得る。よって、両者共に抗原特異的T細胞応答の増幅をもたらす、共刺激性受容体のアゴニスト又は阻害性シグナルのアンタゴニストは、現在の臨床試験における主要薬剤である。
【0004】
これに関して、がん免疫療法は、腫瘍の標的化から免疫系の標的化へとスイッチする、がん処置の分野におけるブレークスルーとして考慮された(Couzin-Frankel J.Science.2013年12月20日;342(6165):1432~3)。抗体、抗CTLA-4、PD1及びPD-L1による免疫チェックポイントの遮断は、印象的な臨床結果及び管理可能な安全性プロファイルをもたらした。
【0005】
しかし、ごく少ない割合の患者が、これらの治療法に応答することから、新たなアプローチによって、及び/又は抗チェックポイント抗体を他の処置と組み合わせることにより、がん免疫療法を改善する必要がある。更に、投与される用量及び結果的に有害事象の低減に役立ち得る併用療法の実行が、非常に有益な医学的な助けであり続けるように、抗チェックポイント抗体は、副作用、主に自己免疫を誘導する場合がある。
【0006】
エピジェネティック因子も、がん、炎症性及び自己免疫性疾患に関係付けられており、過去数年間、薬物開発のための有望な標的として認識されてきた。DNAメチルトランスフェラーゼ(methytransferase)(DNMT)又はヒストンデアセチラーゼ(HDAC)の阻害剤は、血液学的悪性疾患の処置における臨床使用に対して現在承認されている。ヒストンメチルトランスフェラーゼEZH2の阻害剤はまた、再発性又は難治性B細胞リンパ腫患者の処置に提案された(Nature.2012年12月6日;492(7427):108~12)。DNMT又はHDACの阻害剤の使用はまた、免疫療法等、他のがん治療法と組み合わせて近年提案された(国際公開第2015035112号、Chiapinelli KBら、Cell.2015年8月27日;162(5):974~86;Licht JD Cell.2015年8月27日;162(5):938~9)。しかし、がん免疫学及び免疫療法におけるかかるエピジェネティックモジュレーターの役割は、依然として不明で、理解が不十分である。実際に、脱メチル化剤の効果は多様であり、その再活性化が応答を予測又は媒介する遺伝子の同定は、依然として分かりにくい。典型的に、DNMTである5-アザシチジンによる処置の免疫モジュレート効果は複雑で、臨床状況及び患者の種類に依存する(Frosig TM及びHadrup SR、Mediators Inflamm.2015;2015:871641を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、依然として、有害副作用が限定的な、がん免疫療法の有効性を改善し得る併用療法を実行する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、初めて、免疫チェックポイントモジュレーターの抗腫瘍効果が、SUV39H1の非存在下で大いに増強されることを実証した。特に、本発明者らは、驚いたことに、抗PD1処置、又はSUV39H1の抑制は、別々では中程度の抗腫瘍効果しかないが、これらの組合せが、大規模且つ持続性な腫瘍成長阻害をもたらすことを示す。
【0009】
更に、Suv39h1ノックアウトマウスの相対的に軽度な表現型は、この経路の遮断が、DNAメチルトランスフェラーゼの阻害剤又はEZH2の阻害剤等、他のエピジェネティック処置よりも低い付帯的毒性をもたらすであろうことを示唆する。
【0010】
よって、本発明は、患者におけるがんの処置における、免疫チェックポイントタンパク質の少なくとも1種のモジュレーターと組み合わせた使用のためのH3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】Suv39h1-WT対Suv39h1-KOマウスにおける、腫瘍成長における抗PD-1処置の効果。抗PD-1処置あり(C)又はなし(A)の同腹仔WIマウス、及び抗PD-1処置あり(D)又はなし(E)のSuv39h1 KOマウスにおける腫瘍成長曲線。
【
図2】抗PD-1免疫療法で処置した又は処置しなかったWT及びSuv39h1 KOマウスにおける細胞性免疫応答。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔定義〕
「処置」又は「処置すること」は、本明細書において、がん又はがんのいずれかの症状を治癒する、治す、軽減する、緩和する、変更する、是正する、寛解する、改善する、又は影響を与える目的での、がんを有する患者への治療剤若しくは治療剤の組合せ(例えば、SUV39H1の阻害剤及び/又は免疫チェックポイントモジュレーター)の適用若しくは投与、又は患者から単離された組織若しくは細胞株への前記治療剤の適用若しくは投与として定義されている。特に、用語「処置する」又は「処置」は、がんに関連する少なくとも1種の有害臨床症状、例えば、疼痛、腫大、低血球数等を低下又は軽減することを指す。
【0013】
別の実施形態では、用語「処置する」又は「処置」は、新生物的な制御されない細胞の増殖の進行を遅くする又は反転すること、即ち、現存する腫瘍を縮小する及び/又は腫瘍成長を停止することを指す。
【0014】
用語「処置する」又は「処置」はまた、対象におけるがん又は腫瘍細胞におけるアポトーシスを誘導することを指す。
【0015】
用語「処置」又は「処置すること」はまた、予防的に治療剤を投与する文脈において、本明細書で使用されている。
【0016】
用語「有効用量」又は「有効投薬量」は、所望の効果を達成する、又は少なくとも部分的に達成するのに十分な量として定義される。用語「治療有効用量」は、疾患を既に患う患者における疾患及びその合併症を治癒する又は少なくとも部分的に抑止するのに十分な量として定義される。用語「患者」は、予防的又は治療的処置のいずれかを受けるヒト及び他の哺乳動物対象を含む。
【0017】
本明細書において、用語「治療有効レジメン」は、がん又はその症状の処置及び/又は管理のための、本発明に係る1種又は複数の治療法(即ち、SUV39H1の阻害剤、及び少なくとも1種の免疫チェックポイントモジュレーター)の投与の投薬、タイミング、頻度及び持続時間のためのレジメンを指す。特異的な実施形態では、レジメンは、次の結果のうちの1つ、2つ、3つ以上を達成する:(1)がん細胞集団の安定化、低下又は排除;(2)腫瘍又は新生物の成長の安定化又は低下;(3)腫瘍形成の損傷;(4)原発性、領域性及び/又は転移性がんの根絶、除去又は制御;(5)死亡率の低下;(6)無病、無再発、無進行及び/又は全生存、持続時間又は率の増加;(7)奏効率、応答の耐久性、又は応答する若しくは緩解した患者の数の増加;(8)入院率の減少、(9)入院の長さの減少、(10)腫瘍のサイズが維持され、増加しないこと、又は10%未満、好ましくは5%未満、好ましくは4%未満、好ましくは2%未満増加すること、並びに(11)緩解した患者の数の増加。
【0018】
本明細書において、用語「組み合わせた」又は「併用投与」は、本発明の文脈において、がん治療利益のための、患者へのSUV39H1の阻害剤及び少なくとも1種の免疫チェックポイントモジュレーターの投与を指す。用語「組み合わせた」は、投与の文脈において、少なくとも1種の免疫チェックポイントモジュレーターと共に使用される場合の、SUV39H1阻害剤の予防的使用を指すこともできる。
【0019】
用語「組み合わせた」の使用は、治療法(例えば、SUV39H1及び少なくとも1種の免疫チェックポイントモジュレーター)が対象に投与される順序を制限しない。治療法は、がんを有していた、がんを有する又はがんに罹り易い患者への第2の治療法の投与に先立ち(例えば、1分間、5分間、15分間、30分間、45分間、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間又は12週間前に)、それに付随して、又はその後に(例えば、1分間、5分間、15分間、30分間、45分間、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間又は12週間後に)投与することができる。治療法が一緒に作用することができるように、治療法は、順次に且つ時間間隔内に患者に投与される。特定の実施形態では、治療法は、他の形で投与された場合よりも増加した利益をもたらすように、順次に且つ時間間隔内に対象に投与される。いずれか追加的な治療法を、他の追加的な治療法と共に、いずれかの順序で投与することができる。
【0020】
本発明のこれらの結果は、SUV39H1の阻害剤、及び抗PD-1抗体等の少なくとも1種の免疫チェックポイントモジュレーターによる患者の二重処置のための基盤を確立した。これら2種の治療法は、同時発生的に与えられる必要はないが、逐次に与えることもでき、例えば、SUV39H1阻害剤から始め、続いて免疫チェックポイントモジュレーションを与えることができる。従って、本明細書において、表現「がんの処置における少なくとも1種の免疫チェックポイントモジュレーターと組み合わせた使用のためのH3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤」は、表現「がんの処置におけるH3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤と組み合わせた使用のための少なくとも1種の免疫チェックポイントモジュレーターSUV39H1」と互換的に使用することができる。
【0021】
用語「相乗作用」、「相乗的」又は「相乗的効果」は、本明細書において、個々の効果の和よりも大きい規模を有する効果を言う。本発明の一部の実施形態では、SUV39H1阻害剤及び免疫チェックポイントモジュレーターの両方の協調した使用は、患者における新生物状態及び/又は細胞の成長に相乗的治療効果をもたらす。例えば、SUV39H1阻害剤の使用により腫瘍成長が10%低下し、免疫チェックポイントモジュレーター単独の使用により腫瘍成長が20%低下する場合、新生物又は腫瘍成長を低下させるための相加的効果は、30%低下となる。そのため、比較により、SUV39H1の阻害剤及び免疫チェックポイントモジュレーターの両方を使用する場合の相乗的効果は、30%低下を超えるいずれかの程度での、腫瘍又は新生物成長の低下となるであろう。
【0022】
本明細書において、用語「抗体」は、少なくとも1個の免疫グロブリン可変領域、例えば、免疫グロブリン可変ドメイン又は免疫グロブリン可変ドメイン配列をもたらすアミノ酸配列を含むタンパク質を指す。例えば、抗体は、重(H)鎖可変領域(本明細書において、VHと略される)及び軽(L)鎖可変領域(本明細書において、VLと略される)を含むことができる。別の例では、抗体は、2個の重(H)鎖可変領域及び2個の軽(L)鎖可変領域を含む。用語「抗体」は、抗体の抗原結合性断片(例えば、単鎖抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、Fd断片、Fv断片及びdAb断片)と共に、完全抗体、例えば、IgA、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgE、IgD、IgM(及びこれらの亜型)型のインタクト及び/又は全長免疫グロブリンを包含する。免疫グロブリンの軽鎖は、カッパ又はラムダ型のものであり得る。一実施形態では、抗体は、グリコシル化されている。抗体は、抗体依存性細胞傷害及び/又は補体媒介性細胞傷害に関して機能的であり得る、或いはこれらの活性のうち一方又は両方に関して非機能的となり得る。
【0023】
SUV39H1の阻害剤
本明細書において、用語「SUV39H1」又は「H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1」は、当技術分野におけるその通常の意義を有し、基質としてモノメチル化H3-Lys-9を使用してヒストンH3のLys-9残基を特異的にトリメチル化する、ヒストンメチルトランスフェラーゼ「多様化サプレッサー(suppressor of variegation)3-9ホモログ1(ショウジョウバエ(Drosophila))」を指す(Aagaard L、Laible G、Selenko P、Schmid M、Dorn R、Schotta G、Kuhfittig S、Wolf A、Lebersorger A、Singh PB、Reuter G、Jenuwein T(1999年6月)「Functional mammalian homologues of the Drosophila PEV-modifier Su(var)3-9 encode centromere-associated proteins which complex with the heterochromatin component M3 1」EMBO J 1 8(7):1923~38も参照されたい)。前記ヒストンメチルトランスフェラーゼは、MG44、KMT1A、SUV39H、ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼSUV39H1、H3-K9-HMTase 1、OTTHUMP00000024298、Su(var)3-9ホモログ1、リシンN-メチルトランスフェラーゼ1A、ヒストンH3-K9メチルトランスフェラーゼ1、位置効果(position-effect variegation)3-9ホモログ、ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼ又はH3リシン-9特異的1としても知られている。ヒトSUV39H1メチルトランスフェラーゼは、UNIPROTにおいてO43463と参照されている。用語SUV39H1は、SU(VAR)3-9等、SUV39H1の全オルソログも包含する。
【0024】
SUV39H1は、遺伝子サイレンシングに重大な役割を持つ因子であるが、遺伝子サイレンシングに向かうその経路は、EZH2等、他の典型的ヒストンメチルトランスフェラーゼとは完全に別個且つ非依存的である。実際に、EZH2-KOマウスは、生存不可能であるが(O’Carroll Dら、Mol Cell Biol.2001年7月;21(13):4330~6)、Suv39h1 KOマウスは、対照的に、ごく軽度の表現型を呈する。従って、免疫応答におけるSUV39H1及びEZH2の役割もまた、別個のものである。リンパ球におけるEZH2のコンディショナルKOは、リンパ球発生に深刻な欠損を引き起こす。反対に、Suv39h1 KOマウスの免疫系は、影響を受けない。従って、SUV39H1は、免疫操作のための予測可能な関連性のある標的ではなかった。これに関して、本発明の結果は、非常に予想外である。
【0025】
本発明において、SUV39H1の阻害剤は、H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼによるヒストンH3のLys-9のメチル化を阻害する能力を有する、又はH3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1遺伝子発現を阻害する、いずれかの天然化合物の中から選択することができる。
【0026】
化合物の阻害活性は、Greiner D.ら、Nat Chem Biol.2005年8月;l(3):143~5又はEskeland、R.ら、Biochemistry 43、3740~3749(2004)に記載されている様々な方法を使用して決定することができる。
【0027】
H3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤は、有機小分子、アプタマー、イントラボディ、ポリペプチド、又はH3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1遺伝子発現の阻害剤から選択することができる。
【0028】
典型的に、H3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤は、有機小分子である。用語「有機小分子」は、医薬品において一般に使用される有機分子に匹敵するサイズの分子を指す。この用語は、生物学的高分子(例えば、タンパク質、核酸等)を除外する。好まれる有機小分子は、サイズが、最大約5000Da、より好ましくは最大2000Da、最も好ましくは最大約1000Daに及ぶ。
【0029】
特定の実施形態では、H3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤は、Greiner D、Bonaldi T、Eskeland R、Roemer E、Imhof A.「Identification of a specific inhibitor of the histone methyltransferase SU(VAR)3-9」、Nat Chem Biol.2005年8月;l(3):143~5.;Weber、H.P.ら「The molecular structure and absolute configuration of chaetocin」、Acta Cryst、B28、2945~2951(1972);Udagawa、S.ら「The production of chaetoglobosins,sterigmatocystin,O-methylsterigmatocystin,and chaetocin by Chaetomium spp. and related fungi」、Can.J.microbiol、25、170~177(1979);及びGardiner、D.M.ら「The epipolythiodioxopiperazine(ETP)class of fungal toxins:distribution,mode of action,functions and biosynthesis」、Microbiol、151、1021~1032(2005)に記載されている通り、ケトシン(chaetocin)(CAS 28097-03-2)である。例えば、ケトシンは、Sigma Aldrichから市販されている。
【0030】
SUV39H1の阻害剤は、ETP69(Rac-(3S,6S,7S,8aS)-6-(ベンゾ[d][1,3]ジオキソール-5-イル)-2,3,7-トリメチル-1,4-ジオキソヘキサヒドロ-6H-3,8a-エピジチオピロロ[1,2-a]ピラジン-7-カルボニトリル)、エピジチオジケトピペラジンアルカロイドケトシンAのラセミアナログ(国際公開第2014066435号を参照、また、Baumann M、Dieskau AP、Loertscher BMら、Tricyclic Analogues of Epidithiodioxopiperazine Alkaloids with Promising In Vitro and In Vivo Antitumor Activity.Chemical science(Royal Society of Chemistry:2010).2015;6:4451~4457及びSnigdha S、Prieto GA、Petrosyan Aら、H3K9me3 Inhibition Improves Memory, Promotes Spine Formation,and Increases BDNF Levels in the Aged Hippocampus.The Journal of Neuroscience.2016;36(12):3611~3622も参照されたい)となることもできる。
【0031】
新たな小分子阻害剤の同定は、本分野における古典的技法に従って達成することができる。ヒット化合物を同定するための現在有力なアプローチは、ハイスループットスクリーニング(HTS)の使用によりなされる。
【0032】
別の実施形態では、H3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤は、アプタマーである。アプタマーは、分子認識の観点から抗体の代替を表す分子のクラスである。アプタマーは、高い親和性及び特異性で、標的分子の実質的にいかなるクラスも認識する能力を有するオリゴヌクレオチド又はオリゴペプチド配列である。かかるリガンドは、Tuerk C.及びGold L.1990に記載されている通り、ランダム配列ライブラリーの試験管内進化法(SELEX)により単離することができる。ランダム配列ライブラリーは、DNAのコンビナトリアル化学合成によって得ることができる。このライブラリーにおいて、各メンバーは、任意選択で化学修飾されている特有の配列の直鎖状オリゴマーである。分子のこのクラスの可能な修飾、使用及び利点は、Jayasena S.D.1999に概説されている。ペプチドアプタマーは、ツーハイブリッド方法によってコンビナトリアルライブラリーから選択される大腸菌(E.coli)チオレドキシンA等、プラットフォームタンパク質によってディスプレイされる立体構造的に制約された抗体可変領域からなる(Colas P、Cohen B、Jessen T、Grishina I、McCoy J、Brent R.「Genetic selection of peptide aptamers that recognize and inhibit cyclin-dependent kinase 2」、Nature.1996年4月11日;380(6574):548~50)。
【0033】
本発明に従った細胞におけるSuv39h1の阻害は、イントラボディにより達成することができる。イントラボディは、同じ細胞において産生された後に、その抗原に細胞内で結合する抗体である(概説については、例えば、Marschall AL、Dubel S及びBoldicke T「Specific in vivo knockdown of protein function by intrabodies」、MAbs.2015;7(6):1010~35を参照、また、Van Impe K、Bethuyne J、Cool S、Impens F、Ruano-Gallego D、De Wever O、Vanloo B、Van Troys M、Lambein K、Boucherie Cら「A nanobody targeting the F-actin capping protein CapG restrains breast cancer metastasis」、Breast Cancer Res 2013;15:R116;Hyland S、Beerli RR、Barbas CF、Hynes NE、Wels W.「Generation and functional characterization of intracellular antibodies interacting with the kinase domain of human EGF receptor」、Oncogene 2003;22:1557~67;Lobato MN、Rabbitts TH.「Intracellular antibodies and challenges facing their use as therapeutic agents」、Trends Mol Med 2003;9:390~6、並びにDonini M、Morea V、Desiderio A、Pashkoulov D、Villani ME、Tramontano A、Benvenuto E.「Engineering stable cytoplasmic intrabodies with designed specificity」、J Mol Biol.2003年7月4日;330(2):323~32も参照されたい)。
【0034】
イントラボディは、現存するハイブリドーマクローンからそれぞれのcDNAをクローニングすることにより作製することができる、又はより簡便には、新たなscFv/Fabを、始めから抗体をコードする必要な遺伝子をもたらすファージディスプレイ等、in vitroディスプレイ技法から選択し、抗体の精細な特異性をより詳細に予め設計すること(predesign)を可能にすることができる。加えて、細菌、酵母、哺乳動物細胞表面ディスプレイ及びリボソームディスプレイを用いることができる。しかし、特異的抗体の選択のための最も一般的に使用されるin vitroディスプレイ系は、ファージディスプレイである。パニング(親和性選択)と呼ばれる手順において、組換え抗体ファージが、抗原と抗体ファージレパートリーとのインキュベーションによって選択される。このプロセスは、数回反復され、ほぼ全ての可能な標的に対する特異的抗原結合剤を含む濃縮された抗体レパートリーをもたらす。現在まで、in vitroアセンブルされた組換えヒト抗体ライブラリーは、既に、数千種の新規組換え抗体断片を生じた。細胞質のイントラボディによる特異的タンパク質ノックダウンのための必要条件は、抗原が、抗体結合により中和/不活性化されることであることに留意されたい。適した抗体を作製するための5種の異なるアプローチが出現した:1)酵母等の真核生物及び大腸菌等の原核生物における機能的イントラボディのIn vivo選択(抗原依存的及び非依存的);2)サイトゾル安定性を改善するための抗体融合タンパク質の作製;3)サイトゾル安定性を改善するための特殊フレームワークの使用(例えば、安定抗体フレームワークにおけるCDRのグラフト又は合成CDRの導入による);4)サイトゾル安定性改善のためのシングルドメイン抗体の使用;並びに5)ジスルフィド結合不含安定イントラボディの選択。これらのアプローチは、上述されているMarschall、A.Lら、mAbs 2015にとりわけ詳述されている。
【0035】
イントラボディに最も一般的に使用されるフォーマットは、完全IgG又はFab分子の2本の抗体鎖を別々に発現及びアセンブリする必要を回避するための、短い可動性リンカー配列(しばしば(Gly4Ser)3)によって一体に保持されるH及びL鎖可変抗体ドメイン(VH及びVL)からなるscFvである。或いは、重鎖のC1ドメイン及び軽鎖の定常領域を更に含むFabフォーマットが使用されてきた。近年、イントラボディの新たな可能なフォーマットであるscFabについて記載された。scFabフォーマットは、細胞内発現ベクターへの利用できるFab遺伝子のより容易なサブクローニングの見込みがあるが、今後の課題としては、十分に確立されたscFvフォーマットを上回る何らかの利点をもたらすものであるかが挙げられる。scFv及びFabに加えて、イントラボディとして二特異性フォーマットが使用されてきた。ERに標的化された二特異性Tie-2×VEGFR-2抗体は、単一特異性抗体対応物と比較して延長された半減期を実証した。関連する単一特異性抗体の別個の特色、即ち、自己リン酸化及びリガンド結合の阻害を組み合わせる、上皮増殖因子の細胞内及び細胞外エピトープを同時に認識するための特殊フォーマットとして、二特異性膜貫通イントラボディが開発された。
【0036】
細胞質発現に特に適した別のイントラボディフォーマットは、ラクダに由来する、又は1個のヒトVHドメイン又はヒトVLドメインからなる、シングルドメイン抗体(ナノボディとも呼ばれる)である。このようなシングルドメイン抗体は多くの場合、有利な特性、例えば、高い安定性;優れた溶解性;ライブラリークローニング及び選択の容易さ;大腸菌及び酵母における高い発現収率を有する。
【0037】
イントラボディ遺伝子は、発現プラスミドによるトランスフェクション又は組換えウイルスによるウイルス形質導入後に、標的細胞の内側で発現され得る。典型的に、選択は、最適なイントラボディトランスフェクション及び産生レベルの達成を目標とする。トランスフェクション及びその後のイントラボディ産生の成功は、産生された抗体のイムノブロット検出によって解析することができるが、正確なイントラボディ/抗原相互作用の評価のため、対応する抗原及びイントラボディ発現プラスミドを一過的にコトランスフェクトされたHEK293細胞抽出物の共免疫沈降を使用することができる。
【0038】
H3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1遺伝子発現の阻害剤は、アンチセンスオリゴヌクレオチド構築物、siRNA、shRNA及びリボザイムから選択することができる。
【0039】
アンチセンスRNA分子及びアンチセンスDNA分子を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドは、H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の翻訳を直接的に遮断するように作用し、よって、タンパク質翻訳を防止し又はmRNA分解を増加させ、よって、H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1のレベル、よって、細胞におけるその活性を減少させるであろう。例えば、少なくとも約15塩基の、H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1をコードするmRNA転写物配列の特有の領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを、例えば、従来ホスホジエステル技法により合成し、例えば、静脈内注射又は注入により投与することができる。その配列が公知である遺伝子の遺伝子発現を特異的に阻害するためのアンチセンス技法を使用するための方法は、当技術分野で周知である(例えば、米国特許第6,566,135号;同第6,566,131号;同第6,365,354号;同第6,410,323号;同第6,107,091号;同第6,046,321号;及び同第5,981,732号を参照)。
【0040】
低分子阻害性RNA(siRNA)も、本発明における使用のための発現の阻害剤として機能することができる。H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1遺伝子発現が特異的に阻害されるように、低分子二本鎖RNA(dsRNA)又は低分子二本鎖RNAの産生を引き起こすベクター若しくは構築物と対象又は細胞を接触させることにより、H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1遺伝子発現を低下させることができる(即ち、RNA干渉又はRNAi)。適切なdsRNA又はdsRNAコードベクターを選択するための方法は、その配列が公知である遺伝子に関して、当技術分野で周知である(例えば、Tuschl、T.ら(1999);Elbashir、S.M.ら(2001);Hannon、GJ.(2002);McManus、MT.ら(2002);Brummelkamp、TR.ら(2002);米国特許第6,573,099号及び同第6,506,559号;並びに国際特許公開番号、国際公開第01/36646号、国際公開第99/32619号及び国際公開第01/68836号を参照)。本発明のsiRNAのホスホジエステル結合の全体又は部分は、有利に保護される。この保護は一般に、当技術分野で公知の方法を使用した化学的経路により実行される。ホスホジエステル結合は、例えば、チオール若しくはアミン官能基により又はフェニル基により保護され得る。本発明のsiRNAの5’及び/又は3’端も、例えば、ホスホジエステル結合を保護するための上述の技法を使用して、有利に保護される。siRNA配列は、少なくとも12個の近接ジヌクレオチド又はその誘導体を有利に含む。
【0041】
本明細書において、本核酸配列に関する用語「siRNA誘導体」は、エリスロポエチン又はその断片と少なくとも90%、好ましくは、少なくとも95%、例として、少なくとも98%、より好ましくは、少なくとも98%の同一性のパーセンテージを有するいずれかの核酸を指す。
【0042】
本明細書において、2種の核酸配列の間の表現「同一性のパーセンテージ」は、前記配列の最良のアライメントにより得られる、比較されるべき2種の配列の間の同一核酸のパーセンテージを意味し、このパーセンテージは、純粋に統計的であり、これら2種の配列の間の差は、核酸配列にわたってランダムに拡散される。本明細書において、「最良のアライメント」又は「最適なアライメント」は、決定される同一性のパーセンテージ(後述を参照)が最高であるアライメントを意味する。2種の核酸配列の間の配列比較は通常、最良のアライメントに従って以前に整列されたこれらの配列を比較することにより実現される;この比較は、類似性の局所的領域を同定及び比較するために、比較のセグメントにおいて実現される。比較を行うための最良の配列アライメントは、手作業の他に、SMITH及びWATERMAN(Ad.App.Math.2巻、482頁、1981年)によって開発された全般的相同性アルゴリズムを使用することにより、NEDDLEMAN及びWUNSCH(J.Mol.Biol、48巻、443頁、1970年)によって開発された局所的相同性アルゴリズムを使用することにより、PEARSON及びLIPMAN(Proc.Natl.Acd.Sci.USA、85巻、2444頁、1988年)によって開発された類似性の方法を使用することにより、かかるアルゴリズム(Wisconsin Geneticsソフトウェアパッケージ、Genetics Computer Group、575 Science Dr.Madison、WI USAにおけるGAP、BESTFIT、BLAST P、BLAST N、FASTA、TFASTA)を使用したコンピュータソフトウェアを使用することにより、MUSCLE多重アライメントアルゴリズム(Edgar、Robert C、Nucleic Acids Research、32巻、1792頁、2004年)を使用することにより、実現することができる。最良の局所的アライメントを得るために、BLASTソフトウェアを使用し得ることが好ましい。核酸の2種の配列の間の同一性パーセンテージは、最適に整列されたこれら2種の配列を比較することにより決定され、これら2種の配列の間の最適なアライメントを得るために、核酸配列は、参照配列に対する付加又は欠失を含むことができる。同一性のパーセンテージは、これら2種の配列の間の同一位置の数を決定し、この数を比較される位置総数で割り、得られた結果に100を掛けて、これら2種の配列の間の同一性のパーセンテージを得ることにより計算される。
【0043】
shRNA(低分子ヘアピン型RNA)も、本発明における使用のための発現の阻害剤として機能することができる。
【0044】
リボザイムも、本発明における使用のための発現の阻害剤として機能することができる。リボザイムは、RNAの特異的切断を触媒することができる酵素的RNA分子である。リボザイム作用の機構は、相補的標的RNAへのリボザイム分子の配列特異的ハイブリダイゼーションと、それに続くヌクレオチド鎖切断が関与する。H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1 mRNA配列のヌクレオチド鎖切断を特異的に且つ効率的に触媒する、操作されたヘアピン又はハンマーヘッド型モチーフリボザイム分子は、これにより、本発明の範囲内で有用である。いずれかの潜在的RNA標的内の特異的リボザイム切断部位は、最初に、次の配列、GUA、GUU及びGUCを典型的に含むリボザイム切断部位に関して標的分子をスキャンすることにより同定される。同定されると、切断部位を含有する標的遺伝子の領域に対応する約15~20個のリボヌクレオチドの間の短いRNA配列は、オリゴヌクレオチド配列を不適なものとし得る二次構造等の予測される構造的特色に関して評価することができる。
【0045】
発現の阻害剤として有用なアンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイムの両方は、公知方法によって調製することができる。そのようなものは、例えば、固相ホスホラミダイト(phosphoramadite)化学合成による等、化学合成のための技法を含む。或いは、アンチセンスRNA分子は、RNA分子をコードするDNA配列のin vitro又はin vivo転写によって作製することができる。かかるDNA配列は、T7又はSP6ポリメラーゼプロモーター等の適したRNAポリメラーゼプロモーターを取り込む多種多様なベクターに取り込むことができる。本発明のオリゴヌクレオチドに対する様々な修飾は、細胞内安定性及び半減期を増加させる手段として導入することができる。可能な修飾として、分子の5’及び/又は3’端へのリボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドの隣接配列の付加、又はオリゴヌクレオチド骨格内のホスホジエステラーゼ連結ではなくホスホロチオエート又は2’-0-メチルの使用が挙げられるがこれらに限定されない。
【0046】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA及びリボザイムは、単独で、又はベクターと関連させてin vivoで送達することができる。その最も広い意味では、「ベクター」は、細胞、好ましくは、H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1を発現する細胞へのアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA又はリボザイム核酸の移入を容易にすることができるいずれかの媒体である。好ましくは、ベクターは、ベクターの非存在下で生じるであろう分解の程度と比べて低下した分解で、細胞に核酸を輸送する。一般に、本発明において有用なベクターとして、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA又はリボザイム核酸配列の挿入又は取り込みによって操作された、プラスミド、ファージミド、ウイルス、ウイルス又は細菌供給源に由来する他の媒体が挙げられるがこれらに限定されない。ウイルスベクターは、好まれる型のベクターであり、そのようなものとして、次のウイルス由来の核酸配列が挙げられるがこれらに限定されない:モロニーマウス白血病ウイルス、ハーベイマウス肉腫ウイルス、マウス乳房腫瘍ウイルス及びラウス肉腫ウイルス等のレトロウイルス;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス;SV40型ウイルス;ポリオーマウイルス;エプスタイン・バーウイルス;パピローマウイルス;ヘルペスウイルス;ワクシニアウイルス;ポリオウイルス;並びにレトロウイルス等のRAウイルス。名を挙げられていないが当技術分野で公知の他のベクターを容易に用いることができる。
【0047】
好まれるウイルスベクターは、非必須遺伝子が目的の遺伝子に置き換えられた、非細胞壊死性真核生物ウイルスに基づく。非細胞壊死性ウイルスは、レトロウイルス(例えば、レンチウイルス)を含み、その生活環は、ゲノムウイルスRNAからDNAへの逆転写と、宿主細胞DNAへのその後のプロウイルス組み込みが関与する。レトロウイルスは、ヒト遺伝子療法治験に承認されている。複製欠損(即ち、所望のタンパク質の合成を方向付けることができるが、感染粒子を製造することができない)であるレトロウイルスが最も有用である。かかる遺伝的に変更されたレトロウイルス発現ベクターは、in vivoでの遺伝子の高効率形質導入のための一般用途を有する。複製欠損レトロウイルスを産生するための標準プロトコール(プラスミドへの外因的遺伝的材料の取り込み、プラスミドによるパッケージング細胞株のトランスフェクション、パッケージング細胞株による組換えレトロウイルスの産生、組織培養培地からのウイルス粒子の収集、及びウイルス粒子による標的細胞の感染のステップを含む)は、Kriegler、1990及びMurry、1991)に提供されている。
【0048】
ある特定の適用に好まれるウイルスは、遺伝子療法におけるヒト使用に既に承認された二本鎖DNAウイルスである、アデノウイルス及びアデノ随伴(AAV)ウイルスである。現在、それぞれ異なる組織指向性を有する、12種の異なるAAV血清型(AAV1~12)が公知である(Wu、Z Mol Ther 2006;14:316~27)。組換えAAVは、依存性パルボウイルスAAV2に由来する(Choi、VW J Virol 2005;79:6801~07)。アデノ随伴ウイルス1~12型は、複製欠損となるように操作することができ、広範囲の細胞型及び種に感染することができる(Wu、Z Mol Ther 2006;14:316~27)。これは、熱及び脂質溶媒安定性;造血細胞を含む多様な系列の細胞における高い形質導入頻度;並びに重感染阻害の欠如、よって、複数系列の形質導入を可能にすること等の利点を更に有する。報告によれば、アデノ随伴ウイルスは、部位特異的方法でヒト細胞DNAに組み込み、これにより、レトロウイルス感染に特徴的な挿入突然変異誘発の可能性及び挿入遺伝子発現の可変性を最小化することができる。加えて、野生型アデノ随伴ウイルス感染は、選択圧の非存在下で100を超える継代の間、組織培養において追跡され、アデノ随伴ウイルスゲノム組み込みが、相対的に安定な事象であることを暗示する。アデノ随伴ウイルスは、染色体外方法で機能することもできる。
【0049】
他のベクターは、プラスミドベクターを含む。プラスミドベクターは、当技術分野で広範に記載されており、当業者にとって周知である。例えば、Sambrookら、1989を参照されたい。ここ数年間、プラスミドベクターは、in vivoで細胞に抗原コード遺伝子を送達するためのDNAワクチンとして使用されてきた。プラスミドベクターは、ウイルスベクターの多くの場合と同じ安全性懸念がないため、この用途に特に有利である。しかし、宿主細胞と適合性のプロモーターを有するこのようなプラスミドは、プラスミド内に作動可能にコードされる遺伝子からペプチドを発現することができる。一部の一般的に使用されるプラスミドは、pBR322、pUC18、pUC19、pRC/CMV、SV40及びpBlueScriptを含む。他のプラスミドは、当業者にとって周知である。その上、プラスミドは、DNAの特異的断片を除去及び付加するための制限酵素及びライゲーション反応を使用して注文設計することができる。プラスミドは、種々の非経口的、粘膜及び外用経路によって送達することができる。例えば、DNAプラスミドは、筋肉内、皮内、皮下又は他の経路によって注射することができる。これは、鼻腔内スプレー又は液滴、直腸坐薬及び経口によって投与することもできる。これは、遺伝子銃を使用して上皮又は粘膜表面に投与することもできる。プラスミドは、水溶液中で、乾燥させて金粒子表面に、又はリポソーム、デンドリマー、渦巻形(cochleate)送達媒体及びマイクロカプセル化が挙げられるがこれらに限定されない、別のDNA送達系と関連させて与えることができる。
【0050】
本発明に係るアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA又はリボザイム核酸配列は一般に、異種調節性領域、例えば、異種プロモーターの制御下に置かれる。プロモーターは、ミュラーグリア細胞、マイクログリア細胞、内皮細胞、ペリサイト細胞及びアストロサイトに特異的であり得る。例えば、ミュラーグリア細胞における特異的発現は、適したグルタミンシンテターゼ遺伝子のプロモーターにより得ることができる。プロモーターは、例として、CMVプロモーター等のウイルスプロモーター、又はいずれかの合成プロモーターとなることもできる。
【0051】
本発明の文脈において、本発明に係るH3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤は、EZH2、G9A又はSetdb1等、他のヒストンメチルトランスフェラーゼと比較して、H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1に対して選択的であることが好ましい。SUV39H1の阻害剤は、ヒストンメチルトランスフェラーゼSuv39H2と比較して、SUV39H1に対して選択的となることもできる。「選択的」とは、阻害剤の親和性が、他のヒストンメチルトランスフェラーゼに対する親和性よりも少なくとも10倍、好ましくは25倍、より好ましくは100倍、なお好ましくは500倍高いことを意味するものである。
【0052】
典型的に、本発明のSUV39H1の阻害剤は、20μM未満、好ましくは10μM未満、より好ましくは5μM未満、更により好ましくは1μM未満又は0.5μM未満のIC50を有する。典型的にまた、SUV39H1の阻害剤は、例えば、EZH2、G9A又はSetbd1等、他のメチルトランスフェラーゼに対する、10μM超、好ましくは20μM超、より好ましくは50μM超のIC50を有する。
【0053】
本発明に係るSUV39H1の阻害剤は、トリプトライドではないことが好ましい。
【0054】
HP1αへのH3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の結合の阻害剤は、以前に定義された通り、有機小分子、アプタマー、イントラボディ又はポリペプチドから選択することもできる。
【0055】
免疫チェックポイントモジュレーター
本明細書において、用語「免疫チェックポイントタンパク質」は、当技術分野におけるその一般の意義を有し、T細胞及び/又はNK細胞によって発現され、シグナルを上向きにする(刺激性チェックポイント分子)又はシグナルを下向きにする(阻害性チェックポイント分子)分子を指す。本発明において、免疫チェックポイント分子は、T細胞によって少なくとも発現されることが最も好ましい。
【0056】
免疫チェックポイント分子は、CTLA-4及びPD-1依存性経路と同様の免疫チェックポイント経路を構成すると当技術分野で認識される。本発明に係る免疫チェックポイント分子は、とりわけ、Pardoll、2012.Nature Rev Cancer 12:252~264;Mellmanら、2011.Nature 480:480~489;Chen L&Flies DB、Nat.Rev.Immunol.2013年4月;13(4):227~242、及びKemal Catakovic、Eckhard Klieserら「T cell exhaustion: from pathophysiological basics to tumor immunotherapy」Cell Communication and Signaling 2017、15:1)に記載されている。免疫チェックポイント分子の例は、CD27、CD40、OX40、GITR、ICOS、TNFRSF25、41BB、HVEM、CD28、TMIGD2、CD226、2B4(CD244)及びリガンドCD48、B7-H6 Brandt(NKリガンド)、LIGHT(CD258、TNFSF14)、CD28H、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CTLA-4、CD277、IDO、KIR、PD-1、LAG-3、TIM-3 TIGIT、VISTA、CD96、CD112R、CD160、CD244(又は2B4)DCIR(C型レクチン表面受容体)、ILT3、ILT4(免疫グロブリン様転写物)、CD31(PECAM-1)(Ig様Rファミリー)、CD39、CD73、CD94/NKG2、GP49b(免疫グロブリンスーパーファミリー)、KLRG1、LAIR-1(白血球関連免疫グロブリン様受容体1)CD305、PD-L1及びPD-L2及びSIRPαをとりわけ包含する。
【0057】
阻害性チェックポイント分子の非限定的な例として、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CTLA-4、CD277、IDO、KIR、PD-1、LAG-3、TIM-3 TIGIT、VISTA、CD96、CD112R、CD160、DCIR(C型レクチン表面受容体)、ILT3、ILT4(免疫グロブリン様転写物)、CD31(PECAM-1)(Ig様Rファミリー)、CD39、CD73、CD94/NKG2、GP49b(免疫グロブリンスーパーファミリー)、KLRG1、LAIR-1(白血球関連免疫グロブリン様受容体1)、CD305、PD-L1及びPD-L2が挙げられる。
【0058】
A2a受容体の活性化をもたらす免疫微小環境におけるアデノシンは、負の免疫フィードバックループであり、腫瘍微小環境は、相対的に高濃度のアデノシンを有するため、そのリガンドがアデノシンであるアデノシンA2a受容体(A2aR)は、がん治療法における重要なチェックポイントとして考慮される。A2aRは、アデノシン結合を遮断する抗体、又はその一部がA2aRに極めて特異的なアデノシンアナログによって阻害され得る。これらの薬物は、パーキンソン病の臨床治験において使用された。
【0059】
B7ファミリーは、共刺激性及び阻害性受容体に結合する膜結合型リガンドの重要なファミリーである。B7ファミリーメンバー及びその公知リガンドは全て、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する。多くの受容体は未だ同定されていない。CD276とも呼ばれるB7-H3は、本来、共刺激性分子であると理解されていたが、現在、共阻害性として考慮されている。VTCN1とも呼ばれるB7-H4は、腫瘍細胞及び腫瘍関連マクロファージによって発現され、腫瘍エスケープにおける役割を果たす。
【0060】
CD160は、CD56dim CD16+NK細胞、NKT細胞、γδ T細胞、CD28の発現を欠く細胞傷害性CD8+T細胞、CD4+T細胞の僅かな部分、及び全ての上皮内リンパ球に限定される制限された発現プロファイルを有する、Igスーパーファミリーのグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型タンパク質メンバーである。古典的及び非古典的MHC Iの両方へのCD160の結合は、NK及びCD8+CTL機能を増強する。しかし、ヘルペスウイルス侵入メディエーター(HVEM/TNFRSF14)によるCD160の係合は、CD4+T細胞増殖及びTCR媒介性シグナル伝達の阻害を媒介することが示された。
【0061】
HVEM(ヘルペスウイルス侵入メディエーター)タンパク質は、共刺激性LT-α/LIGHT及び共阻害性受容体BTLA/CD160の両方に結合する二分子スイッチである。T細胞表面における共阻害性受容体BTLA及び/又はCD160と、DC又はTreg表面に発現されたHVEMとのライゲーションは、T細胞に負のシグナルを伝達し、このシグナルは、DC又は更には他の活性化T細胞(T-T細胞協力)表面に発現されたLIGHTによるT細胞表面のHVEMの直接係合後に送達される共刺激性シグナルによって相殺される。HVEM/LIGHT経路を上回るBTLA及びCD160とHVEMとの相互作用の優勢(又はその逆もまた同じ)は、リガンド/受容体親和性の差、及び細胞分化の異なるステージにおける細胞型表面におけるこれらの分子の差次的発現パターンの結果となり得る。LIGHT、BTLA及びCD160は、実質的に異なる結合親和性を有し、HVEM受容体との相互作用後に空間的に別個の部位を占有し、これは、HVEMが、分子スイッチとして機能することを可能にする。LIGHT/HVEM及びHVEM/BTLA/CD160相互作用の正味の効果は、これらの異なる受容体及びリガンドが同時に存在する場合、応答の成績を決定する(M.L.del Rio.「HVEM/LIGHT/BTLA/CD160 cosignaling pathways as targets for immune regulation」Journal of Leukocyte Biology.2010;87を参照)。
【0062】
CD272とも呼ばれるB及びTリンパ球アテニュエーター(BTLA)も、そのリガンドとしてHVEMを有する。BTLA T細胞は、そのリガンド、HVEMの存在下で阻害される。BTLAの表面発現は、ヒトCD8+T細胞の、ナイーブからエフェクター細胞表現型への分化において徐々に下方調節されるが、腫瘍特異的ヒトCD8+T細胞は、高レベルのBTLAを発現する(Kenneth M.Murphyら、Balancing co-stimulation and inhibition with BTLA and HVEM.Nature Reviews Immunology 2006、6、671~681)。
【0063】
CD152とも呼ばれるCTLA-4、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4は、臨床的に標的化されるべき最初の免疫チェックポイントであった。これは、T細胞表面に排他的に発現される。T細胞の表面におけるその発現が、CD80及びCD86の結合においてCD28を打ち負かし、T細胞に阻害性シグナルを活発に送達することにより、T細胞の活性化を弱めることが提案された。Treg細胞表面におけるCTLA-4の発現は、T細胞増殖を制御するように機能する。
【0064】
Ig様転写物-3及び-4(ILT3及びILT4)は、両者共に単球、マクロファージ及びDCによって発現される阻害性受容体である。対応するILT3リガンドは、未だ不明であるが、ILT3がTリンパ球機能を直接的に抑制することができるため、ILT3リガンドは、T細胞表面に発現される可能性がある。いくつかのがんにおいて、ILT3は、T細胞応答を損なうことにより、免疫エスケープ機構を媒介することが判明した。更に、ILT4発現DCは、腫瘍によって使用される機構である、効率的なCTL分化を遮断し、これは、ILT4を上方調節して免疫系を逃れる(Vasaturo Aら、Front Immunol.2013;4:417)。
【0065】
CD31としても公知の血小板内皮(endotheial)細胞接着分子-1(PECAM-1)は、6個の細胞外Igドメイン及び2個の細胞質免疫受容阻害性チロシンモチーフ(ITIM)を含有する、免疫グロブリン(Ig)遺伝子スーパーファミリーのI型膜貫通糖タンパク質メンバーである。PECAM-1は、内皮細胞及び造血系の細胞に制限される(Newman DK、Fu G、Adams Tら、The adhesion molecule PECAM-1 enhances the TGFβ-mediated inhibition of T cell function.Science signaling.2016;9(418):ra27を参照)。
【0066】
LAIR-1は、ナイーブT細胞において非常に高く相対的に均質なレベルで発現されるが、メモリーT細胞においてより低くより不均一なレベルで発現される。LAIR-1は、単一の細胞外C2型Ig様ドメイン、及び2個のITIMモチーフを有する細胞質ドメインを有する、287アミノ酸のI型膜貫通糖タンパク質からなる。LAIR-1は、おそらく、C末端Cskと、ホスファターゼSHIP、SHP-1又はSHP-2のうちの1種又は複数の動員によりTCR媒介性シグナルを、並びにある程度まで、p38 MAPキナーゼを介したシグナル伝達及びERKシグナル伝達を阻害することができる(Thaventhiran Tら(2012)J Clin Cell Immunol S12:004)。
【0067】
IDO1、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ1は、トリプトファン異化酵素である。関連する免疫阻害性酵素である。別の重要な分子は、TDO、トリプトファン2,3-ジオキシゲナーゼである。IDO1は、T及びNK細胞を抑制し、Treg及び骨髄系由来サプレッサー細胞を作製及び活性化し、腫瘍血管新生を促進することが公知である。
【0068】
KIR、キラー細胞免疫グロブリン様受容体は、構造に基づき2クラス:キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)及びC型レクチン受容体に分けることができる阻害性受容体のブレイズ(braid)カテゴリーであり、これは、II型膜貫通受容体である。このような受容体は、NK細胞の死滅活性(acitivity)の調節因子として本来記載されたが、多くは、T細胞及びAPC表面に発現される。KIRの多くは、サブセットMHCクラスI分子に特異的(soecufuc)であり、アレル特異性を保有する。
【0069】
LAG3、リンパ球活性化遺伝子-3は、そのリガンドとして、MHCクラスII分子を有し、これは、一部の上皮がんにおいて上方調節されるが、腫瘍浸潤マクロファージ及び樹状細胞においても発現される。この免疫チェックポイントは、Treg細胞に対する作用と共にCD8+T細胞における直接効果によって免疫応答を抑制するように機能する。
【0070】
PD-1、プログラム死1(PD-1)受容体は、2種のリガンドPD-L1及びPD-L2を有する。このチェックポイントは、2014年9月にFDA承認を得たMerck&Co.のメラノーマ薬キイトルーダ(Keytruda)の標的である。PD-1標的化の利点は、腫瘍微小環境における免疫機能を回復することができることである。
【0071】
T細胞免疫グロブリンドメイン及びムチンドメイン3(B7H5とも命名)の省略であるTIM-3、並びにそのリガンド、ガレクチン(galacting)9は、活性化ヒトCD4+T細胞表面に発現され、Th1及びTh17サイトカインを調節する。TIM-3は、そのリガンド、ガレクチン-9との相互作用後に細胞死の引き金を引くことにより、Th1/Tc1機能の負の調節因子として作用する。
【0072】
VISTA(T細胞活性化のVドメインIgサプレッサーの省略である)、c10orf54、PD-1H、DD1α、Gi24、Dies1及びSISP1としても公知のVISTAは、NCRのB7ファミリーのメンバーであり、免疫療法のための新たな標的を表す。マウスVISTAは、そのB7類縁体に対して配列相同性を有する単一のIgVドメインを有するI型膜貫通タンパク質であり、保存されたセグメントは、IgV安定性に重大な意味を持つと考えられる。VISTAは、ナイーブT細胞上に発現される一方、PD-1及びCTLA-4は発現されず、このことは、VISTAが、T細胞プライミングにおけるより初期ステージでもT細胞活性を制約するように機能することを示唆し得る。VISTAは、T細胞及びAPCの両方の表面に発現され、骨髄系細胞上に非常に高い発現がなされる。VISTAは、造血性に制限され、複数のがんモデルにおいて、VISTAは、腫瘍浸潤白血球表面でのみ検出され、腫瘍細胞表面では検出されなかった。この特有の表面発現パターンは、VISTAが、異なるステージでT細胞免疫を制限するように機能し得ることを示唆する。VISTAは、リガンド及び受容体機能の両方を発揮することが実証された。第一に、VISTAは、リガンドとして機能して、T細胞活性化を負に調節することができる。第二に、VISTAは、その活性を負に調節するT細胞表面の受容体として機能することが実証された。VISTA-/-CD4+T細胞は、ポリクローナル及び抗原特異的刺激の両方に対して、野生型(WT)CD4+T細胞よりも活発に応答し、増殖増加、並びにIFNγ、TNFα及びIL-17Aの産生増加をもたらす。抗VISTA単独療法は、複数の前臨床モデル、B16OVAメラノーマ、B16-BL6メラノーマ、MB49膀胱癌及びPTEN/BRAF誘導性メラノーマにおいて腫瘍成長を低下させた(Deng J、Le Mercier I、Kuta A、Noelle RJ.「A New VISTA on combination therapy for negative checkpoint regulator blockade.J Immunother Cancer.2016年12月20日;4:86.doi:10.1186/s40425-016-0190-5.eCollection 2016を参照し、概説;Kathleen M.Mahoneyら「Combination cancer immunotherapy and new immunomodulatory targets」Nature Reviews Drug Discovery 2015;14:561~584も参照されたい)。
【0073】
CD96、CD226(DNAM-1)及びTIGITは、ネクチン及びネクチン様タンパク質と相互作用する受容体の新興ファミリーに属する。CD226は、ナチュラルキラー(NK)細胞媒介性細胞傷害を活性化する一方、TIGITは、報告によれば、CD226を相殺する。
【0074】
CD96は、CD155結合に関してCD226と競合し、直接的阻害によってNK細胞機能を限定する(Christopher J Chanら「The receptors CD96 and CD226 oppose each other in the regulation of natural killer cell functions」Nature Immunology 2014 15、431~438)。
【0075】
TIGIT(Ig及びITIMドメインを有するT細胞免疫受容体、又はVSTM3とも呼ばれる);TIGIT/VSTM3は、活性化T細胞、調節性T(Treg)細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞によって正常に発現される。ポリオウイルス受容体(CD155/PVR)及びネクチン-2(CD112)並びにCD113は、関連性のあるリガンドとして同定された。TIGIT/VSTM3は、それぞれCD155/PVR及びCD112への結合に関して分子CD226及びCD96と競合するが、あらゆるそれぞれの受容体-リガンド組合せの中でも、TIGIT/VSTM3は、CD155/PVRに対する最も強い親和性を示す。TIGITは、in vivoでT細胞活性化を阻害する(Karsten Mahnkeら、TIGIT-CD155 Interactions in Melanoma: A Novel Co-Inhibitory Pathway with Potential for Clinical Intervention.Journal of Investigative Dermatology.2016;136:9~11を参照)。
【0076】
そのリガンドがPVRL2であるCD112R(PVRIG)は、T細胞表面に優先的に発現され、T細胞受容体媒介性シグナルを阻害する、ポリオウイルス受容体様タンパク質のメンバーである。
【0077】
刺激性チェックポイント分子の非限定的な例として、CD27、CD40L、OX40、GITR、ICOS、TNFRSF25、41BB、HVEM、CD28、TMIGD2及びCD226、2B4(CD244)及びそのリガンドCD48、B7-H6 Brandt(NKリガンド)、CD28H及びLIGHT(CD258、TNFSF14)が挙げられる。
【0078】
CD27、CD40L、OX40、GITR、ICOS、HVEM、2B4(CD244)及びそのリガンドCD48、B7-H6 Brandt(NKリガンド)、LIGHT(CD258、TNFSF14)、CD28H及びTNFSF25は、腫瘍壊死因子(TNF)受容体スーパーファミリー(TNFSF)のメンバーである刺激性チェックポイント分子である。TNFRSFタンパク質は、B及びT細胞発生、生存並びに抗腫瘍免疫応答における重要な役割を果たす。加えて、一部のTNFRSFは、Treg細胞の非活性化に関与する。従って、TNFRSFアゴニストは、腫瘍免疫を活性化し、それと免疫チェックポイント療法との組合せは有望である。TNFRSFアゴニストとして作用するいくつかの抗体は、臨床治験において評価された(Shiro Kimbara及びShunsuke Kondo「Immune checkpoint and inflammation as therapeutic targets in pancreatic carcinoma」World J Gastroenterol.2016年9月7日;22(33):7440~7452、概説については、Watts TH.TNF/TNFR family members in costimulation of T cell responses.Annu Rev Immunol.2005;23:23~68も参照されたい)。
【0079】
CD27は、ナイーブT細胞の抗原特異的増大化を支持し、T細胞メモリーの作製に重要である。CD27はまた、B細胞のメモリーマーカーである。CD27の活性は、リンパ球及び樹状細胞表面のそのリガンドCD70の一過的利用能によって決定される。CD27共刺激は、Th17エフェクター細胞機能を抑制することが公知である。
【0080】
CD40:CD40L経路は、液性及び細胞媒介性免疫の両方に影響を与える共刺激性経路である。CD40L(CD154としても公知)は、活性化後直ちにヘルパーT細胞表面に主に発現される。受容体2B4(CD244)は、免疫グロブリンスーパーファミリー(IgSV)内のシグナル伝達リンパ球活性化分子(SLAM)サブファミリーに属する。このファミリーの全メンバーは、その細胞質テイルに2個以上の免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM)を含有し、これは、受容体CD229、CS1、NTB-A及びCD84[92]を含む。2B4は、CD8+T細胞表面における活性化後に、NK細胞、γδ T細胞、好塩基球及び単球によって発現され、リンパ系及び骨髄系細胞表面のCD48に高い親和性で結合する(Kemal Catakovicら、Cell Communication and Signaling 2017 15:1)。
【0081】
TNFSF14/LIGHT/CD258は、誘導性発現を示し、Tリンパ球によって発現される受容体であるヘルペスウイルス侵入メディエーター(HVEM/TNFRSF14)に関して単純ヘルペスウイルス(HSV)糖タンパク質Dと競合し、ヒト及びマウスTNFスーパーファミリーの近年同定されたメンバーである。TNFSF14/LIGHT/CD258は、活性化T細胞並びに単球及び顆粒球及び未成熟DCによって産生される29kDのII型膜貫通タンパク質である。In vitroでは、HVEM/LIGHT免疫チェックポイント経路は、強力なCD28非依存的共刺激性活性を誘導し、NF-κB活性化、IFN-γ及び他のサイトカインの産生、並びに同種異系間DCに応答したT細胞増殖をもたらす。In vivo遮断研究は、HVEM/LIGHT免疫チェックポイント経路が、腫瘍に対する細胞溶解性T細胞応答の促進、及びGVHDの発症に関与することを示し、T細胞内でのTNFSF14/LIGHT/CD258のトランスジェニック過剰発現は、T細胞増大化をもたらし、様々な重症自己免疫性疾患を引き起こす(Qunrui Yeら、J Exp Med.2002年3月18日;195(6):795~800)。
【0082】
CD28Hは、全てのナイーブT細胞表面に構成的に発現される。B7ホモログ5(B7-H5)は、CD28Hの特異的リガンドとして同定された。B7-H5は、マクロファージに構成的に見出され、樹状細胞表面に誘導され得る。B7-H5/CD28H相互作用は、AKT依存性シグナル伝達カスケードを介してヒトT細胞成長及びサイトカイン産生を選択的に共刺激する(Zhu Yら、Nat Commun.2013;4:204)。
【0083】
CD134とも呼ばれるOX40は、そのリガンドとしてOX40L又はCD252を有する。CD27と同様に、OX40は、エフェクター及びメモリーT細胞の増大化を促進するが、調節性T細胞の分化及び活性を抑制するその能力、また、そのサイトカイン産生調節にも留意されたい。薬物標的としてのOX40の価値は、主として、T細胞受容体係合後に一過的に発現されると、炎症性病変内のつい先ほど抗原活性化されたT細胞表面でのみ上方調節されるという事実にある。抗OX40モノクローナル抗体は、進行型がんにおける臨床有用性を有することが示された(Weinberg AD、Morris NP、Kovacsovics-Bankowski M、Urba WJ、Curti BD(2011年11月1日)「Science gone translational: the OX40 agonist story」Immunol Rev.244(1):218~31)。
【0084】
グルココルチコイド誘導性TNFRファミリー関連遺伝子の省略であるGITRは、Treg増大化を含むT細胞増大化を促す。GITRのリガンド(GITRL)は、抗原提示細胞表面に主に発現される。GITRに対する抗体は、Treg系列安定性の損失により抗腫瘍応答を促進することが示された(Nocentini G、Ronchetti S、Cuzzocrea S、Riccardi C(2007年5月1日)「GITR/GITRL: more than an effector T cell co-stimulatory system」Eur J Immunol.37(5):1165~9を参照)。
【0085】
誘導性T細胞共刺激因子の省略であり、CD278とも呼ばれるICOSは、活性化T細胞表面に発現される。そのリガンドは、ICOSLであり、B細胞及び樹状細胞表面に主に発現される。この分子は、T細胞エフェクター機能において重要であると思われる(Burmeister Y、Lischke T、Dahler AC、Mages HW、Lam KP、Coyle AJ、Kroczek RA、Hutloff A(2008年1月15日)「ICOS controls the pool size of effector-memory and regulatory T cells」J Immunol.180(2):774~782)。
【0086】
B7-CD28スーパーファミリーに属する別の刺激性チェックポイント分子は、とりわけCD28それ自体及びTGMID2である。
【0087】
CD28は、ほぼ全てのヒトCD4+T細胞、及び全てのCD8 T細胞の約半分の表面に構成的に発現される。その2種のリガンド(樹状細胞表面に発現されたCD80及びCD86)との結合は、T細胞増大化を促す。
【0088】
TMIGD2(CD28ホモログとも呼ばれる)は、そのリガンドHHLA2;新たに同定されたB7ファミリーメンバーとの相互作用によりT細胞機能をモジュレートする。TMIGD2タンパク質は、全てのナイーブT細胞及び大部分のナチュラルキラー(NK)細胞表面に構成的に発現されるが、T調節性細胞又はB細胞表面には発現されない(see Yanping Xiao及びGordon J.Freeman「A new B7:CD28 family checkpoint target for cancer immunotherapy: HHLA2」Clin Cancer Res.2015年5月15日;21(10):2201~2203)。
【0089】
CD137リガンド(CD137L;4-1BBL及びTNFSF9としても公知)は、樹状細胞、単球/マクロファージ及びB細胞等、プロフェッショナル抗原提示細胞(APC)表面に主に発現され、その発現は、これらの細胞の活性化において上方調節される。しかし、その発現は、種々の造血細胞及び非造血細胞において実証された。一般に、4-1BBL/CD137Lは、多くの細胞型表面に構成的に発現されるが、その発現レベルは、いくつかの細胞型を除いて低い。興味深いことに、4-1BBL/CD137Lは、様々な細胞型表面にCD137(4-1BB及びTNFRSF9としても公知)と共発現されるが、CD137/4-1BBの発現は、当該2分子の間のシス相互作用により、4-1BBL/CD137Lの発現を強力に下方調節し、4-1BBL/CD137Lのエンドサイトーシスをもたらす(Byungsuk Kwonら、「Is CD137 Ligand (CD137L) Signaling a Fine Tuner of Immune Responses?」Immune Netw.2015年6月;15(3):121~124を参照)。
【0090】
最後に、本発明に係る他の免疫チェックポイント分子は、CD244(又は2B4)及びSIRPαも含む。
【0091】
2B4/CD244は、シグナル伝達リンパ球活性化分子(SLAM)関連受容体ファミリーのメンバーであり、SLAMF4及びCD244としても公知である。SLAMファミリーの全メンバーは、細胞外ドメイン、膜貫通領域及びチロシンリッチ細胞質領域を含む同様の構造を共有する。2B4&CD48免疫チェックポイント経路は、両方の受容体を介したシグナル伝達をもたらすことができる。B細胞におけるCD48/SLAMF2シグナル伝達は、ホモタイプ接着、増殖及び/又は分化、炎症性エフェクター分子の放出、並びにアイソタイプクラススイッチングをもたらす。その上、これらのプロセスは全て、それらの活性化及び/又は細胞傷害性の促進を加えて、CD48/SLAMF2ライゲーションを介してT細胞においても誘発される。2B4シグナル伝達は、シグナル伝達リンパ球活性化分子(SLAM)関連タンパク質(SAP)又はEWS活性化転写物2(EAT-2;SH2D1Bとも呼ばれる)を要求する。CD8 T細胞及びNK細胞において、2B4/CD244は、正及び負の調節の両方を発揮すると報告された(Sebastian Stark.「2B4 (CD244), NTB-A and CRACC (CS1) stimulate cytotoxicity but no proliferation in human NK cells」Int. Immunol.2006 18(2):241~247も参照されたい)。
【0092】
CD47は、マクロファージ及び樹状細胞特異的タンパク質シグナル調節性タンパク質アルファ(SIRPアルファ)への結合によるファゴサイトーシスの調節を含む、種々の機能を有する細胞表面糖タンパク質である。SIRPアルファ&CD47免疫チェックポイント経路としての、CD47へのSIRPアルファの結合は、ファゴサイトーシスを阻害するためのシグナル伝達を惹起することにより、マクロファージに「私を食べないで」メッセージを基本的に送る。CD47の発現増加は、がん細胞が免疫検出及びファゴサイトーシスを逃れる機構であると提案される。抗CD47遮断抗体による、がん細胞表面のCD47の標的化は、in vitroでマクロファージによるファゴサイトーシスを促進することができる。更に、in vitroでファゴサイトーシスを促進し、非ホジキンリンパ腫のin vivo異種移植モデルにおけるがん細胞を排除するための、リツキシマブ処置と協同した抗CD47遮断抗体による処置。更なる結果は、CD47発現が、種々のヒト固形腫瘍型において増加すること、また、抗CD47抗体によるSIRPアルファ&CD47免疫チェックポイント経路の遮断が、in vitroで固形腫瘍細胞のファゴサイトーシスを促進し、in vivoで固形腫瘍の成長を低下させることができることを実証する(Martina Seiffertら「Signal-regulatory protein α (SIRPα) but not SIRPβ is involved in T-cell activation, binds to CD47 with high affinity, and is expressed on immature CD34+CD38-hematopoietic cells」2001;Blood:97(9)を参照)。
【0093】
本明細書において、表現「免疫チェックポイントタンパク質のモジュレーター」又は「
チェックポイント調節因子がん免疫療法剤」(両方の表現は、本発明の意味において互換的に使用することができる)は、当技術分野におけるその一般の意義を有し、免疫阻害性チェックポイントタンパク質の機能を阻害する(以前に記載された阻害性免疫チェックポイント阻害剤又は免疫チェックポイント阻害剤)、又は刺激性チェックポイントタンパク質の機能を刺激する(互換的に使用される刺激性免疫チェックポイントアゴニスト又は免疫チェックポイントアゴニスト)、いずれかの化合物を指す。阻害は、機能の低下及び完全遮断を含む。
【0094】
免疫チェックポイントモジュレーターは、ペプチド、抗体、融合タンパク質、核酸分子及び小分子を含む。ある特定の免疫チェックポイントタンパク質(即ち、免疫経路遺伝子産物)に関して、かかる遺伝子産物の小分子モジュレーターのように、かかる遺伝子産物のアンタゴニスト又はアゴニストのいずれかの使用も考慮される。
【0095】
好まれる免疫チェックポイント阻害剤又はアゴニストは、以前に記載された通り、免疫チェックポイントタンパク質又はそのリガンドを特異的に認識する抗体又は融合タンパク質である。
【0096】
免疫チェックポイントモジュレーターとしての使用のための融合タンパク質は、免疫グロブリンの結晶化可能断片(Fc)領域と上述のチェックポイント分子との融合によって作製することができる。抗体は、モノクローナル抗体であることが好ましい。
【0097】
多数の免疫チェックポイント阻害剤及びアゴニストが、当技術分野で公知であり、このような公知免疫チェックポイントタンパク質モジュレーターに類似して、代替免疫チェックポイントモジュレーターを(近い)将来に開発し、本発明に係るSUV39H1の阻害剤と組み合わせて使用することができる。
【0098】
本発明に係る免疫チェックポイントモジュレーターは、免疫系の活性化を生じ、特に、抗原特異的T細胞応答の増幅をもたらす。特に、本発明の免疫チェックポイントモジュレーターは、対象におけるCD8+T細胞の増殖、遊走、持続及び/又は細胞傷害(cytoxic)活性、特に、対象のCD8+T細胞の腫瘍浸潤を増強するために投与される。本明細書において、「CD8+T細胞」は、当技術分野におけるその一般の意義を有し、その表面にCD8を発現するT細胞のサブセットを指す。これは、MHCクラスI制限され、細胞傷害性T細胞として機能する。「CD8+T細胞」は、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)、Tキラー細胞、細胞溶解性T細胞、CD8+T細胞又はキラーT細胞とも呼ばれる。CD8抗原は、免疫グロブリンスーパー遺伝子ファミリーのメンバーであり、主要組織適合複合体クラスI制限相互作用における連合性認識エレメントである。T CD8細胞死滅活性を増強する免疫チェックポイントモジュレーターの能力は、当技術分野で周知のいずれかのアッセイによって決定することができる。典型的に、前記アッセイは、CD8+T細胞が標的細胞(例えば、CD8+T細胞によって認識及び/又は溶解される標的細胞)と接触させられるin vitroアッセイである。
【0099】
例えば、本発明の免疫チェックポイントモジュレーターは、CD8+T細胞による特異的溶解を、本発明の免疫チェックポイント阻害剤によって接触されるCD8+T細胞又はCD8 T細胞株による同じエフェクター:標的細胞比で得られる特異的溶解の約20%超、好ましくは少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%以上増加させる能力のため選択することができる。古典的細胞傷害性アッセイのためのプロトコールの例は、従来のものである。
【0100】
本発明に係る少なくとも1種の免疫チェックポイントモジュレーターは、阻害性免疫チェックポイント分子及び/又は刺激性免疫チェックポイント分子のモジュレーターであり得る。
【0101】
例えば、チェックポイント調節因子がん免疫療法剤は、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4)及びプログラム細胞死1(PDCD1、PD-1として最もよく知られる)等、活性化Tリンパ球によって若しくはキラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)ファミリーの様々なメンバーのようにNK細胞によって発現される免疫抑制性受容体(即ち、阻害性免疫チェックポイント)を遮断する(そのアンタゴニスト)薬剤、又はPD-1リガンドCD274(PD-L1又はB7-H1として最もよく知られる)等、これらの受容体の主要リガンドを遮断する薬剤であり得る。
【0102】
一部の実施形態では、チェックポイント遮断がん免疫療法剤は、抗CTLA4抗体、抗PD1抗体、抗PDL1抗体、抗PDL2抗体、抗TIM-3抗体、抗LAG3抗体、抗IDO1抗体、抗TIGIT抗体、抗B7H3抗体、抗B7H4抗体、抗BTLA抗体、抗B7H6抗体、抗CD86抗体、抗Gal9抗体、抗HVEM抗体、抗CD28抗体、抗A2aR抗体、抗CD80抗体、抗KIR(複数可)抗体、A2aR薬物(とりわけアデノシンアナログ)、抗DCIR(C型レクチン表面受容体)抗体、抗ILT3抗体、抗ILT4抗体、抗CD31(PECAM-1)抗体、抗CD39抗体、抗CD73抗体、抗CD94/NKG2抗体、抗GP49b抗体、抗KLRG1抗体、抗LAIR-1抗体、抗CD305抗体、及びこれらの組合せからなる群から選択される。ある特定の実施形態では、チェックポイント遮断がん免疫療法剤は、抗PD-1又は抗PD-L1抗体である。
【0103】
抗CTLA-4抗体の例は、米国特許第5,811,097号;同第5,811,097号;同第5,855,887号;同第6,051,227号;同第6,207,157号;同第6,682,736号;同第6,984,720号;及び同第7,605,238号に記載されている。抗CDLA-4抗体の1種は、トレメリムマブ(チシリムマブ(ticilimumab)、CP-675,206)である。一部の実施形態では、抗CTLA-4抗体は、CTLA-4に結合する完全ヒトモノクローナルIgG抗体であるイピリムマブ(10D1、MDX-D010としても公知)である。
【0104】
PD-1及びPD-L1抗体の例は、米国特許第7,488,802号;同第7,943,743号;同第8,008,449号;同第8,168,757号;同第8,217,149号、並びにPCT公開特許出願番号、国際公開第03042402号、国際公開第2008156712号、国際公開第2010089411号、国際公開第2010036959号、国際公開第2011066342号、国際公開第2011159877号、国際公開第2011082400号及び国際公開第2011161699号に記載されている。一部の実施形態では、PD-1遮断薬は、抗PD-L1抗体を含む。ある特定の他の実施形態では、PD-1遮断薬は、抗PD-1抗体、並びにPD-1に結合し、そのリガンドPD-Ll及びPD-L2によるPD-1の活性化を遮断する完全ヒトIgG4抗体であるニボルマブ(MDX 1106、BMS 936558、ONO 4538);PD-1に対するヒト化モノクローナルIgG4抗体であるランブロリズマブ(MK-3475又はSCH 900475);PD-1に結合するヒト化抗体であるCT-011;B7-DCの融合タンパク質であるAMP-224;抗体Fc部分;PD-L1(B7-H1)遮断のためのBMS-936559(MDX-1105-01)等の同様の結合タンパク質を含む。
【0105】
他の免疫チェックポイント阻害剤は、可溶性Ig融合タンパク質であるIMP321等、リンパ球活性化遺伝子-3(LAG-3)阻害剤を含む(Brignoneら、2007、J.Immunol.179:4202~4211)。
【0106】
他の免疫チェックポイント阻害剤は、B7-H3及びB7-H4阻害剤等、B7阻害剤、とりわけ、抗B7-H3抗体MGA271を含む(Looら、2012、Clin. Cancer Res.7月、15(18)3834)。
【0107】
TIM3(T細胞免疫グロブリンドメイン及びムチンドメイン3)阻害剤も含まれる(Fourcadeら、2010、J.Exp.Med.207:2175~86及びSakuishiら、2010、J.Exp.Med.207:2187~94)。本明細書において、用語「TIM-3」は、当技術分野におけるその一般の意義を有し、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有分子3を指す。従って、用語「TIM-3阻害剤」は、本明細書において、TIM-3の機能を阻害することができる化合物、物質又は組成物を指す。例えば、阻害剤は、TIM-3の発現若しくは活性を阻害する、TIM-3シグナル伝達経路をモジュレート若しくは遮断する、及び/又はその天然リガンドであるガレクチン-9へのTIM-3の結合を遮断することができる。TIM-3に対する特異性を有する抗体は、当技術分野で周知であり、典型的に、国際公開第2011155607号、国際公開第2013006490号及び国際公開第2010117057号に記載されている抗体である。
【0108】
一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)阻害剤、好ましくは、IDO1阻害剤である。IDO阻害剤の例は、国際公開第2014150677号に記載されている。IDO阻害剤の例は、1-メチル-トリプトファン(IMT)、β-(3-ベンゾフラニル)-アラニン、β-(3-ベンゾ(b)チエニル)-アラニン)、6-ニトロ-トリプトファン、6-フルオロ-トリプトファン、4-メチル-トリプトファン、5-メチルトリプトファン、6-メチル-トリプトファン、5-メトキシ-トリプトファン、5-ヒドロキシ-トリプトファン、インドール3-カルビノール、3,3’-ジインドリルメタン、没食子酸エピガロカテキン、5-Br-4-Cl-インドキシル1,3-ジアセテート、9-ビニルカルバゾール、アセメタシン、5-ブロモ-トリプトファン、5-ブロモインドキシルジアセテート、3-アミノ-ナフトエ酸(naphtoic acid)、ピロリジンジチオカルバメート、4-フェニルイミダゾール、ブラシニン誘導体、チオヒダントイン誘導体、β-カルボリン誘導体又はブラシレキシン(brassilexin)誘導体を限定することなく含む。IDO阻害剤は、1-メチル-トリプトファン、β-(3-ベンゾフラニル)-アラニン、6-ニトロ-L-トリプトファン、3-アミノ-ナフトエ酸及びβ-[3-ベンゾ(b)チエニル]-アラニン、又はこれらの誘導体若しくはプロドラッグから選択されることが好ましい。
【0109】
一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、抗TIGIT(T細胞免疫グロブリン(immunoglobin)及びITIMドメイン)抗体である。
【0110】
一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、抗VISTA抗体、好ましくは、モノクローナル抗体である(Lines JL、Sempere LF、Wang Lら、VISTA is an immune checkpoint molecule for human T cells.Cancer research.2014;74(7):1924~1932.doi:10.1158/0008-5472.CAN-13-1504)。
【0111】
好まれる実施形態では、チェックポイントモジュレーターがん免疫療法剤は、イピリムマブ等のCTLA4遮断抗体、ニボルマブ若しくはペムブロリズマブ等のPD-1遮断抗体、PDL-1遮断抗体、又はこれらの組合せである。典型的に、チェックポイントモジュレーターがん免疫療法剤は、ニボルマブ若しくはペムブロリズマブ等のPD-1遮断抗体、又はPDL-1遮断抗体である。
【0112】
チェックポイントモジュレーターがん免疫療法剤は、活性化Tリンパ球若しくはNK細胞によって発現される刺激性免疫チェックポイント受容体を活性化する薬剤、又はこれらの受容体の主要リガンドを模倣し、抗原特異的T細胞応答の増幅を同様にもたらす薬剤となることもできる。
【0113】
よって、チェックポイントモジュレーターがん免疫療法剤は、典型的に、例えば、アゴニスト抗4-1BB、OX40、GITR、CD27、ICOS、CD40L、TMIGD2、CD226、TNFSF25、2B4(CD244)、CD48、B7-H6 Brandt(NKリガンド)、CD28H、LIGHT(CD258、TNFSF14)及びCD28抗体からなる群から選択される、アゴニスト抗体、とりわけ、上述の刺激性免疫チェックポイント分子に対するモノクローナルアゴニスト抗体であり得る。
【0114】
チェックポイントアゴニストがん免疫療法剤は、融合タンパク質、例えば、4-1BB-Fc融合タンパク質、Ox40-Fc融合タンパク質、GITR-Fc融合タンパク質、CD27-Fc融合タンパク質、ICOS-Fc融合タンパク質、CD40L-Fc融合タンパク質、TMIGD2-Fc融合タンパク質、CD226-Fc融合タンパク質、TNFSF25-Fc融合タンパク質、CD28-Fc融合タンパク質、2B4(CD244)融合タンパク質、CD48融合タンパク質、B7-H6 Brandt(NKリガンド)融合タンパク質、CD28H融合タンパク質、及びLIGHT(CD258、TNFSF14)融合タンパク質となることもできる。
【0115】
4-1BBアゴニストのうちいくつかは、ヒトがんへの適用に対する大きい潜在力を示す。例えば、4-1BBに対する完全ヒト化mAbであるBMS-666513は、メラノーマ、腎細胞癌及び卵巣がん患者におけるその抗がん特性に関する第I及びII相治験を完了した(Sznol M、Hodi FS、Margolin K、McDermott DF、Ernstoff MS、Kirkwood JMら、Phase I study of BMS-663513,a fully human anti-CD137 agonist monoclonal antibody,in patients (pts) with advanced cancer(CA).J Clin Oncol 26:2008(5月20日追補;要旨3007)。
【0116】
7種のOX40アゴニストが現在開発中であり、そのうち6種は、マウス抗体問題に取り組むために完全ヒトモノクローナル抗体の形態を取る。OX40L-Fc融合タンパク質の1種、MEDI6383も、臨床評価を受けている;これは、2個のOX40L分子を、免疫グロブリンの結晶化可能断片(Fc)領域の部分に連結する。前臨床試験において、融合タンパク質は、おそらく、T細胞に加えて樹状細胞及び血管内皮細胞を活性化することもできるため、OX40抗体よりも強い効果を有すると思われる。Ox40アゴニストの例として、MEDI6469、MEDI6383、MEDI0652、PF-04515600、MOXP0916、GSK3174998、INCAGNO1949が挙げられる。
【0117】
ヒト化抗ヒトGITR mAb等、GITRに対するアゴニスト抗体が開発された(TRX518.Tolerx Inc.Agonistic antibodies to human glucocorticoid-induced tumor necrosis factor receptor as potential stimulators of T cell immunity for the treatment of cancer and viral infections.Expert Opin Ther Patents.2007;17:567~575、Schaer DA、Murphy JT、Wolchok JD.Modulation of GITR for cancer immunotherapy.Curr Opin Immunol.2012年4月;24(2):217~24も参照されたい)。
【0118】
TNFファミリーの別のメンバーであるCD27に対するアゴニスト抗体の例として、現在、CDX-1127(バルリルマブ(varlilumab))としてB細胞悪性腫瘍、メラノーマ及び腎細胞癌において第I相臨床試験中の、完全ヒト1F5 mAbが挙げられる(現在臨床治験中の抗CD27モノクローナル抗体(mAb)の特性の解析)(Vitale LA、He L-Z、Thomas LJら、2012、Development of a human monoclonal antibody for potential therapy of CD27-expressing lymphoma and leukemia.Clin.Cancer Res.18(14)3812~3821)。
【0119】
アゴニストCD40 mAbの初期臨床治験は、単剤研究において身体障害性の毒性の非存在下で非常に有望な結果を示した。現在まで、臨床治験において4種のCD40 mAbが調査された:CP-870,893(Pfizer及びVLST)、ダセツズマブ(Seattle Genetics)、Chi Lob 7/4(サザンプトン大学)及びルカツムマブ(lucatumumab)(Novartis)(Vonderheide RH、Flaherty KT、Khalil M、Stumacher MS、Bajor DL、Hutnick NAら、Clinical activity and immune modulation in cancer patients treated with CP-870,893,a novel CD40 agonist monoclonal antibody.J Clin Oncol.2007;25:876~83;Khubchandani S、Czuczman MS、Hernandez-Ilizaliturri FJ.Dacetuzumab, a humanized mAb against CD40 for the treatment of hematological malignancies.Curr Opin Investig Drugs.2009;10:579~87;Johnson PW、Steven NM、Chowdhury F、Dobbyn J、Hall E、Ashton-Key Mら、A Cancer Research UK phase I study evaluating safety,tolerability,and biological effects of chimeric anti-CD40 monoclonal antibody (MAb), Chi Lob 7/4.J Clin Oncol.2010;28:2507;Bensinger W、Maziarz RT、Jagannath S、Spencer A、Durrant S、Becker PSら、A phase 1 study of lucatumumab,a fully human anti-CD40 antagonist monoclonal antibody administered intravenously to patients with relapsed or refractory multiple myeloma.Br J Haematol.2012;159:58~66)。
【0120】
チェックポイントアゴニストがん免疫療法剤は、抗ICOSアゴニストモノクローナル抗体(Kutlu Elpek、Christopher Harvey、Ellen Duong、Tyler Simpson、Jenny Shu、Lindsey Shallberg、Matt Wallace、Sriram Sathy、Robert Mabry、Jennifer Michaelson及びMichael Briskin、要旨A059:Efficacy of anti-ICOS agonist monoclonal antibodies in preclinical tumor models provides a rationale for clinical development as cancer immunotherapeutics;要旨:CRI-CIMT-EATI-AACR Inaugural International Cancer Immunotherapy Conference:Translating Science into Survival;2015年9月16~19日;New York、NY)、又は抗CD28アゴニスト抗体(とりわけ、抗PD-1免疫療法と組み合わせた使用のため、T細胞共刺激性受容体CD28は、PD-1媒介性阻害のための一次標的である)となることもでき、概説については、Melero I、Hervas-Stubbs S、Glennie M、Pardoll DM、Chen L.Nat Rev Cancer.2007年2月;7(2):95~106も参照されたい。
【0121】
本発明において、免疫チェックポイントタンパク質の2種以上のモジュレーターは、本発明に係るSUV39H1の阻害剤と組み合わせて使用することができる。例えば、阻害性免疫チェックポイント阻害剤の少なくとも1種のモジュレーター(抗PD-1又は抗PD-L1等)は、上述されている少なくとも1種の刺激性免疫チェックポイントアゴニストと組み合わせて使用することができる。共刺激性及び共阻害性免疫チェックポイント分子は、Chen L&Flies Bの概説(上述されているNat rev Immuno.2013)にとりわけ記載されている。
【0122】
患者
典型的に、本発明に係る患者は、哺乳動物、好ましくは、ヒトである。
【0123】
典型的に、前記患者は、がんを患う、又は緩解期にある、又はがんのリスクがある。
【0124】
がん処置後の無腫瘍生存の促進は、本分野における大きな懸念の1つを表すため、緩解期の患者(典型的に、例えば、腫瘍の外科的除去後にいかなる検出可能な腫瘍もない患者)の標的化が特に興味深い。
【0125】
がんは、固形がん又は血液に罹患するがん(即ち、白血病)であり得る。白血病は、例えば、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ球性白血病(ALL)及び慢性リンパ球性白血病(マントル細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫等の様々なリンパ腫、腺腫、扁平上皮癌、喉頭癌、胆嚢及び胆管がん、網膜芽細胞腫等の網膜のがんを含む)を含む。
【0126】
固形がんは、結腸、直腸、皮膚、子宮内膜、肺(非小細胞肺癌を含む)、子宮、骨(骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、線維肉腫、巨細胞腫瘍、アダマンチノーマ及び脊索腫等)、肝臓、腎臓、食道、胃、膀胱、膵臓、子宮頸部、脳(髄膜腫、グリオブラストーマ、低悪性度アストロサイトーマ、オリゴデンドロサイトサイトーマ(Oligodendrocytoma)、下垂体腫瘍、シュワン腫及び転移性脳がん等)、卵巣、乳房、頭頸部領域、精巣、前立腺及び甲状腺からなる群から選択される臓器のうちの1種に罹患するがんをとりわけ含む。
【0127】
投薬量
SUV39H1の阻害剤及び免疫チェックポイントモジュレーターは、有効用量であることが好ましい。
【0128】
典型的に、本発明の併用処置レジメン(即ち、SUV39H1の阻害剤、及び少なくとも1種の免疫チェックポイントモジュレーター)は、治療上有効である。現在利用できる治療法及びその投薬量、投与経路、並びに推奨される用法は、当技術分野で公知であり、Physician’s Desk Reference(第60版、2006)等の文献に記載されている。投与経路は、非経口的、静脈内、皮下、頭蓋内、肝内、結節内(intranodally)、尿管内(intraureterally)、尿管下(subureterally)、皮下及び腹腔内を含む。
【0129】
本発明の1種又は複数の薬剤(例えば、SUV39H1阻害剤及び免疫チェックポイントモジュレーター)の投薬量は、当業者によって決定することができ、いずれかの合併症の場合、個々の医師によって調整することもできる。
【0130】
併用療法
特異的な実施形態では、療法のサイクリングは、ある期間にわたる第1のがん治療薬の投与と、それに続く、ある期間にわたる第2のがん治療薬の投与と、任意選択で、それに続く、ある期間にわたる第3のがん治療薬の投与、等々、並びにこの逐次投与の反復、即ち、がん治療薬のうちの1種に対する抵抗性の発生を低下させるための、がん治療薬のうちの1種の副作用を回避若しくは低下させるための、及び/又はがん治療薬の有効性を改善するためのサイクルが関与する。
【0131】
本発明に係る2種の併用処置が、典型的に治療有効レジメンで同時発生的に患者に投与される場合、用語「同時発生的に」は、正確に同時でのがん治療薬の投与に限定されないが寧ろ、一緒に作用し得るように(例えば、他の形で投与された場合よりも増加した利益をもたらすように相乗的に)、順次に且つ時間間隔内に対象に投与されることを意味するものである。例えば、2種の治療薬は、同時に、又はいずれかの順序で異なる時点にて逐次に投与することができる;しかし、同時に投与されない場合、所望の治療効果をもたらすように十分に近い時間で、好ましくは相乗的方法で投与されるべきである。併用がん治療薬は、いずれか適切な形態で、いずれか適した経路によって、別々に投与することができる。併用がん治療薬の構成成分が、同じ医薬組成物において投与されない場合、それを必要とする対象にいずれかの順序で投与され得ることが理解される。例えば、第1の治療有効レジメンは、それを必要とする患者への本発明に従った第2のがん治療薬の投与に先立ち(例えば、5分間、15分間、30分間、45分間、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間又は12週間前に)、それに付随して、又はその後に(例えば、5分間、15分間、30分間、45分間、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間又は12週間後に)投与することができる。
【0132】
本発明に係る免疫チェックポイントモジュレーターとSUV39H1の阻害剤の併用投与は、相乗的抗がん効果をもたらすことが好ましい。
【0133】
キットオブパーツ(Kit of parts)調製物
本願は、がん処置における同時、別々の又は逐次使用のための併用調製物として、以前に記載されたSUV39H1の阻害剤、及び同様に上に記載された少なくとも1種の免疫チェックポイントモジュレーターを含有する調製物も包含する。「キットオブパーツ」の形態でのかかる調製物において、個々の活性化合物(即ち、SUV39H1の阻害剤、及び少なくとも1種の免疫チェックポイントモジュレーター)は、治療剤を表し、物理的に分離されているが、但し、同時、別々又は逐次のいずれかでのこれらの化合物の使用により、互いに独立した化合物では達成されない、本明細書に記載されている新たな且つ予想外の共同治療効果を生じることを条件とする。実際に、下の結果によって実証される通り、活性成分の請求される組合せは、公知薬剤の単なる集合体を表さず、寧ろ、組み合わせた抗腫瘍がもたらす驚くべき有用な特性との新たな組合せは、これらの活性成分が別々に使用される場合に観察される抗腫瘍効果の単純な付加よりもはるかに重要である。
【0134】
よって、両方の活性成分は、別々の組成物又は唯一(unique)の組成物へと製剤化することができる。
【0135】
本発明に従った治療剤は、適宜製剤化し、かかる送達に認識されるいずれかの手段によって対象又は細胞の環境に導入することができる。
【0136】
かかる組成物は典型的に、薬剤及び薬学的に許容できる担体を含む。本明細書において、言葉「薬学的に許容できる担体」は、医薬品投与と適合性の、生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌及び抗真菌剤、等張及び吸収遅延剤その他を含む。補足的活性化合物は、組成物に取り込むこともできる。
【0137】
医薬組成物は、その意図される投与経路と適合性となるように製剤化される。投与経路の例として、非経口的、例えば、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入)、経皮(外用)、経粘膜及び直腸投与が挙げられる。
【0138】
処置方法
本発明はまた、がんを患う患者を処置するための方法であって、以前に記載された通り、SUV39H1阻害剤及び少なくとも1種の免疫チェックポイントモジュレーターの併用投与を含む方法に関する。典型的に、前記併用投与は、治療有効レジメンに従って投与される。
【0139】
本発明は、次の実施例を考慮しつつ更に例証されるであろう。
【実施例0140】
材料と方法
Suv39h1 KO及び同腹仔WT雄マウスの外側の側腹部に、0.5×106個のB16-OVAメラノーマ細胞を皮下注射した。
【0141】
腫瘍が触知できるようになったら、通常1週間以内に、マウスに、2回/週、用量あたり7.5mg/Kg体重の用量で投与される抗PD1(Bio X Cell、RMP-14)を腹腔内注射した。冷PBSを対照群に注射した。
【0142】
手作業でノギスを使用して、腫瘍成長を1週間に3回測定した。
【0143】
細胞性免疫応答(即ち、抗OVA免疫応答)は、腫瘍確立13日後に抗PD-1免疫療法で処置した又は処置しなかった、腫瘍を有するマウスの血液中のIFNγに関する酵素免疫スポット(ELISPOT)アッセイを使用して試験した。
【0144】
クラスI MHC OVAペプチド(257~264)による一晩のin vitro再刺激の後に、Elispotを行った。
【0145】
結果
抗PD-1処置は、Suv39h1-KOにおいてSuv39h1-WTマウスよりも有効である
本発明者らは、同一遺伝子メラノーマ腫瘍細胞株B16が、SUV39H1-野生型(WT)同腹仔と比較して、SUV39H1-ノックアウトマウス(KO)において僅かに少なく成長したことを観察し、この酵素が、腫瘍発生の制御に関与することを示す。WTマウスにおける抗PD-1処置(
図1、左パネル)は、腫瘍成長に僅かな遅延を誘導する。興味深いことに、
図1に観察される通り、触知できるB16腫瘍を有するマウスへの抗PD-1 Abの投与は、Suv39h1-野生型(WT)同腹仔と比較して、Suv39h1-ノックアウトマウス(KO)における腫瘍成長の制御において印象的に効率的であった。実際に、WTマウスにおける抗PD1処置は、腫瘍拒絶を誘導しない一方、KOマウスにおいては、僅か1/4の腫瘍成長及び動態遅延を伴った。
【0146】
この結果は、がんの処置のためのSUV39H1遮断剤への抗PD1遮断の組合せの相乗作用を強調する。
【0147】
抗PD-1処置は、Suv39h1 KOマウスにおける増強された抗腫瘍免疫応答を誘導する
代用腫瘍抗原としてOVAを使用して、WT及びSuv39h1 KOマウスにおける抗腫瘍免疫応答を解析した。B16-OVA腫瘍を有するマウスの血液中のIFNg-Elispotを試験した(
図2を参照)。
【0148】
本発明者らは、Suv39h1欠損マウスが、抗PD-1を使用した免疫療法の後に、より有効な抗腫瘍免疫応答を開始すると結論する。
前記H3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1遺伝子発現の阻害剤が、アンチセンスオリゴヌクレオチド構築物、siRNA、shRNA及びリボザイムから選択される、請求項1に記載の医薬組成物。