(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162270
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】細胞内細菌感染症治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/06 20060101AFI20231031BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20231031BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231031BHJP
A61K 31/409 20060101ALI20231031BHJP
A61K 31/7036 20060101ALI20231031BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20231031BHJP
A61K 38/14 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
A61K45/06
A61P31/04
A61P43/00 121
A61K31/409
A61K31/7036
A61K31/7048
A61K38/14
A61P31/04 171
【審査請求】有
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132991
(22)【出願日】2023-08-17
(62)【分割の表示】P 2020544142の分割
【原出願日】2018-11-09
(31)【優先権主張番号】1718631.3
(32)【優先日】2017-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】512038148
【氏名又は名称】ピーシーアイ バイオテック エイエス
(71)【出願人】
【識別番号】520161160
【氏名又は名称】アカデミス メディス セントリュム
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ホッグセット、アンダース
(72)【発明者】
【氏名】ザート、セバスチャン アー.イェー.
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、シャオリン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】細胞内細菌感染症を治療または予防する方法を提供する。
【解決手段】感染が起きている細胞を抗菌剤および光感作性薬剤と接触させることと、光感作性薬剤を活性化するのに有効な波長の光を細胞に照射することとを含み、抗菌剤は、細胞のサイトゾルに放出され、細胞において細菌を死滅もしくは損傷させる、または細菌の複製を防止する、方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内細菌感染症を治療または予防する方法であって、感染が起きている細胞を抗菌剤および光感作性薬剤と接触させることと、前記光感作性薬剤を活性化するのに有効な波長の光を前記細胞に照射することとを含み、前記抗菌剤は、前記細胞のサイトゾルに放出され、前記細胞において細菌を死滅もしくは損傷させる、または細菌の複製を防止する、方法。
【請求項2】
前記方法は、インビボにおいて行われ、前記細胞は、被験体内に存在している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接触ステップは、15分~4時間、好ましくは1~2時間、行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記光感作性薬剤は、両親媒性のポルフィリン、クロリン、バクテリオクロリン、またはフタロシアニンである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記光感作性薬剤は、TPCS2a、AlPcS2a、TPPS2a、およびTPBS2aから選択され、好ましくはTPCS2aである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
局所送達の場合の前記光感作性薬剤の用量は、0.0025~250であり、好ましくは1~250μgであり、好ましくは2.5~40μgであり、好ましくは10~30μgであり、例えば25μgである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞は、5~60分間、好ましくは10~20分間、好ましくは15分間、照射される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
局所送達の場合の前記抗菌剤の用量は、25~10000μgであり、好ましくは50~5000μgであり、好ましくは1mgである、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記抗菌剤は、アミノグリコシド(好ましくはゲンタマイシン)、糖ペプチド(好ましくはバンコマイシン)、またはマクロライドである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記細菌感染症は、スタフィロコッカス属、マイコバクテリウム属、シュードモナス属、またはエシェリヒア属の細菌が原因である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記細菌感染症は、生体材料に起因する感染症であり、前記生体材料は、好ましくは、医療用の装置、機器、器具、または用具や、補綴物または材料、組織用または創傷用の被覆材である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記細菌感染症は、骨髄炎、菌血症、結核、Q熱、心内膜炎、皮膚(皮下)組織または粘膜の感染症/損傷(好ましくは、慢性創傷、潰瘍、膿瘍、もしくは糖尿病性足感染症)、口および鼻の感染症(好ましくは、慢性副鼻腔炎もしくは歯周炎)、あるいはインプラント周囲炎である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞は、生体材料、好ましくは、医療用の装置、機器、器具、または用具や、補綴物または材料、組織用または創傷用の被覆材の上、または近傍に存在している、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記抗菌剤および/または前記光感作性薬剤は、前記生体材料上または前記生体材料内に供給されている、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記被験体は、哺乳類であり、好ましくは、サル、ネコ、イヌ、ウマ、ロバ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、マウス、ラット、ウサギ、またはモルモットであり、最も好ましくは、前記被験体は、ヒトである、請求項2~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記被験体は、ウシであり、前記細菌感染症は、黄色ブドウ球菌による乳腺炎である、請求項2~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞は、前記抗菌剤および光感作性薬剤に、同時に、または別々に、または順次に、接触させられ、前記方法がインビボにおいて行われる場合には、前記接触は、前記抗菌剤および前記光感作性薬剤を局所投与、皮内投与、皮下投与、または静脈内投与することによって行われる、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
細胞において細菌を死滅もしくは損傷させる、または細菌の複製を防止する、インビトロにおける方法であって、該方法は、前記細胞を抗菌剤および光感作性薬剤と接触させることと、光感作性薬剤を活性化するのに有効な波長の光を前記細胞に照射することとを含み、前記抗菌剤は、前記細胞のサイトゾルに放出され、前記細胞において細菌を死滅もしくは損傷させる、または細菌の複製を防止する、ものであり、好ましくは、前記接触ステップは、請求項3または16で定義されたものであり、前記光感作性薬剤は請求項4、5、または6で定義されたものであり、前記照射は、請求項7で定義されたものであり、前記抗菌剤は、請求項8または9で定義されたものであり、前記細菌感染症は、請求項10、11、または12で定義されたものであり、および/または前記細胞は、請求項13で定義されたものである、方法。
【請求項19】
抗菌性物質としての抗菌剤および光感作性薬剤の使用であって、好ましくは、前記光感作性薬剤は請求項4、5、または6で定義されたものであり、および/または前記抗菌剤は、請求項8または9で定義されたものであり、好ましくは、前記使用は、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法を含む、使用。
【請求項20】
抗菌剤と光感作性薬剤とを含み、好ましくは治療に用いられる組成物であって、好ましくは、前記光感作性薬剤は請求項4、5、または6で定義されたものであり、および/または前記抗菌剤は、請求項8または9で定義されたものである、組成物。
【請求項21】
被験体における細胞内細菌感染症の治療に使用するための、抗菌剤および光感作性薬剤、または請求項20で定義される抗菌剤と光感作性薬剤とを含む組成物であって、好ましくは、前記光感作性薬剤は請求項4、5、または6で定義されたものであり、前記抗菌剤は、請求項8または9で定義されたものであり、前記細菌感染症は、請求項10、11、または12で定義されたものであり、および/または前記被験体は、請求項15で定義されたものであり、好ましくは、前記使用は、請求項1~17のいずれか1項で定義された方法を含む、抗菌剤および光感作性薬剤、または抗菌剤と光感作性薬剤とを含む組成物。
【請求項22】
被験体における細胞内細菌感染症を治療するための医薬品の製造における、抗菌剤および/または光感作性薬剤の使用であって、好ましくは、前記光感作性薬剤は請求項4、5、または6で定義されたものであり、前記抗菌剤は、請求項8または9で定義されたものであり、前記細菌感染症は、請求項10、11、または12で定義されたものであり、および/または前記被験体は、請求項15で定義されたものであり、好ましくは、前記使用は、請求項1~17のいずれか1項で定義された方法を含む、使用。
【請求項23】
被験体における細胞内細菌感染症の治療に、同時に、別々に、または順次に使用するための複合製剤として、抗菌剤と光感作性薬剤とを含む、製品であって、好ましくは、前記光感作性薬剤は請求項4、5、または6で定義されたものであり、前記抗菌剤は、請求項8または9で定義されたものであり、前記細菌感染症は、請求項10、11、または12で定義されたものであり、および/または前記被験体は、請求項15で定義されたものであり、好ましくは、前記使用は、請求項1~17のいずれか1項で定義された方法を含む、製品。
【請求項24】
被験体における細胞内細菌感染症の治療に使用するためのキットであって、該キットは、
光感作性薬剤を含む第1容器と、
抗菌剤を含む第2容器と、を含み、
好ましくは、前記光感作性薬剤は請求項4、5、または6で定義されたものであり、前記抗菌剤は、請求項8または9で定義されたものであり、前記細菌感染症は、請求項10、11、または12で定義されたものであり、および/または前記被験体は、請求項15で定義されたものであり、好ましくは、前記使用は、請求項1~17のいずれか1項で定義された方法を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光化学的内在化法を用いて抗菌剤を導入して、細菌を死滅させる、細胞内細菌感染症の治療方法に関する。本方法は、生体材料に起因する感染において生じるような、治療の困難な感染症を治療するのに特に有用である。
【背景技術】
【0002】
細菌性病原体(例えば、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli)、および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)など)が細胞内で生存することが、多くの感染症の原因であるということが周知されている(アベド(Abed)およびクーヴルール(Couvreur),2014,インターナショナル・ジャーナル・オブ・アンチマイクロバイアル・エージェンツ(Int. J. Antimicrob. Ag.),43(6),485~496頁;ション(Xiong)ら,2014,アドバンスド・ドラッグ・デリバリー・レビュー(Adv. Drug Deliver. Rev.),7,63~76頁;ブリオーンズ(Briones)ら,2008,ジャーナル・オブ・コントロールド・リリース(J. Control Release),125(3),210~227頁)。例えば、黄色ブドウ球菌は、多種多様な皮膚感染症または組織感染症だけでなく、菌血症、生体材料に起因する感染症、糖尿病性足感染症、心内膜炎、および骨髄炎などの命に関わる侵襲性疾患の原因となる場合もある(ルー(Lew)およびワルドフォーゲル(Waldvogel),2004,ランセット(Lancet),364(9431),369~379頁;ビュッシェ(Busscher)ら,2012,サイエンス・トランスレーショナル・メディシン(Sci. Transl. Med.),4(153);フォン・アイフ(von Eiff)ら,ランセット・インフェクシャス・ディジーズ(Lancet Infect. Dis.),2(11),677~685頁;リプスキー(Lipsky)ら,2004,クリニカル・インフェクシャス・ディジーズ(Clin. Infect. Dis.),39(7),885~910頁;サギニュール(Saginur)およびスー(Suh),2008,インターナショナル・ジャーナル・オブ・アンチマイクロバイアル・エージェンツ,32補遺1,S21~25頁;ダーワン(Dhawan)ら,1998,インフェクション・アンド・イミュニティ(Infect. Immun.),66(7),3476~3479頁)。
【0003】
マクロファージおよび好中球が、黄色ブドウ球菌が生き延び、宿主の免疫防御を回避するための適所となっているかもしれないということが、インビトロにおける研究、インビボにおける研究、および臨床研究のいくつかによって明らかにされてきている(プライスナー(Prajsnar)ら,2008,セルラー・マイクロバイオロジー(Cell Microbiol.),10(11),2312~2325頁;タン(Tan)ら,2013,インターナショナル・フォーラム・オブ・アレルギー・アンド・ライノロジー(Int. Forum Allergy Rh.),3(4),261~266頁;シュアワード(Surewaard)ら,2016,ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン(J. Exp. Med.),213(7),1141~1151頁;およびセラール(Seral)ら,2003,アンチマイクロバイアル・エージェンツ・アンド・ケモセラピー(Antimicrobial agents and chemotherapy),47(7),2283~2292頁)。また、医療装置を埋め込んだ後など、ある条件下においては、通常は病原性の低い、共生的な表在性ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)であっても、マクロファージの細胞内に生き残り続け、健常細胞や非感染性組織にコロニーを形成することがある(リオール(Riool)ら,2014,アクタ・バイオマテリアリア(Acta Biomater.),10(12),5202~5212頁;ブルクハイゼン(Broekhuizen)ら,2008,クリティカル・ケア・メディシン(Crit. Care Med.),36(8),2395~2402頁;ブルクハイゼンら、2010、インフェクション・アンド・イミュニティ,78(3),954~962頁;およびザート(Zaat)ら,2010,フューチャー・マイクロバイオロジー(Future Microbiol.),5(8),1149~1151頁)。その結果、このような、黄色ブドウ球菌や表在性ブドウ球菌、またはその他の細菌種の細胞内貯蔵所が、細胞内感染に起因する疾患の発症または再発の原因となる場合がある。
【0004】
さらには、ある種の細菌は、ファゴソームにとどまってファゴソームとリソソームとの融合を妨げるということが知られている。このような戦略をとる細菌としては、結核菌(壊滅的で広域に広がる結核症の原因)やコキシエラ・バーネッティイ(Coxiella burnetti)(Q熱の原因)が挙げられる。
【発明の概要】
【0005】
通常、細胞内感染症は、現存する抗生物質の大多数において細胞内活性が限定的であるため、治療が非常に困難である(アベドおよびクーヴルール,2014,上記;ションら,2014,上記;ブリオーンズら,2008,上記;タルケンス(Tulkens),1991,ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・クリニカル・マイクロバイオロジー(Eur. J. Clin. Microbiol.),10(2),100~106頁;およびキャリン(Carryn)ら,2003,インフェクシャス・ディジーズ・クリニクス・オブ・ノース・アメリカ(Infect. Dis. Clin. N. Am.),17(3),615~634頁)。ベータラクタム系抗生物質およびアミノグリコシドは、真核細胞への浸透力が低く(アベドおよびクーヴルール,2014,上記;タルケンス,1991,上記;キャリンら,2003,上記;セラールら,2003,ジャーナル・オブ・アンチマイクロバイアル・ケモセラピー(J. Antimicrob. Chemoth.),51(5),1167~1173頁;およびキャリンら,2002,アンチマイクロバイアル・エージェンツ・アンド・ケモセラピー,46(7),2095~2103頁)、フルオロキノロンおよびマクロライドは、真核細胞の細胞膜を通過することができるが、細胞内残留率は低い(セラールら,2003,上記;およびセラールら,2003,アンチマイクロバイアル・エージェンツ・アンド・ケモセラピー,47(3),1047~1051頁)。リファンピシンは、細胞内への浸透能は良好であるが、単一の抗生物質として用いると、耐性発現の頻度が非常に高くなる。したがって、リファンピシンを他の抗生物質と用いる併用療法が必須である(フォレスト(Forrest)およびタムラ(Tamura),2010,クリニカル・マイクロバイオロジー・レビューズ(Clin. Microbiol. Rev.),23(1),14~34頁)。しかし、このような併用療法でも、細胞内感染を排除できない場合がある(バーンズ(Burns),2006,スカンジナビアン・ジャーナル・オブ・インフェクシャス・ディジーズ(Scand. J. Infect. Dis.),38(2),133~136頁)。細胞内病原体は、ある特定の抗生物質に対して耐性を発現する場合もあるが、これは、細胞内濃度が低いために、細菌細胞の感受性を低下させる選択条件がもたらされるからである(バハログル(Baharoglu)ら,2013,PLOSジェネティクス(Plos Genet.),9(4),e1003421)。
【0006】
リポソーム、ポリマー製マイクロ/ナノ粒子、および生物学的輸送手段に基づいた、細胞内活性が低い抗生物質のための送達システムが、いくつか開発されてきている(アベドおよびクーヴルール,2014,上記;ションら,2014,上記;レハール(Lehar)ら,2015,ネイチャー(Nature),527(7578),323~328頁;ランダワ(Randhawa)ら,2016,アプライド・マイクロバイオロジー・アンド・バイオテクノロジー(Appl. Microbiol. Biotechnol.),100(9),4073~4083頁;およびブレズデン(Brezden)ら,2016,ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(J. Am. Chem. Soc.),138(34),10945~10949頁)。しかし、このようなシステムと抗生物質との抱合体の開発は、非常に複雑である。
【0007】
多耐性細菌に対して可能性のある戦略として、抗菌光線力学療法(antibacterial photodynamic therapy)(PDT)が、感染が起こった皮膚創傷などの局所的感染症において用いられている(マイシュ(Maisch)ら,2004,フォトケミカル・アンド・フォトバイオロジカル・サイエンス(Photoch. Photobio. Sci.),3(10),907~917頁;リュウ(Liu)ら,2015,ジャーナル・オブ・クリニカル・アンド・トランスレーショナル・リサーチ(J. Clin. Transl. Research),1(3),140~167頁)。
【0008】
PDT療法は、感光性薬剤(光増感剤、PS)を光と共に用いることに基づく。PSは、細菌の細胞質膜に蓄積し、治療箇所へ光照射した際に誘導される活性酸素反応によって、細菌を能動的に死滅させることができる。しかし、死滅するのは光増感剤直近の細菌のみである。
【0009】
したがって、細胞内細菌を死滅させるための新規の抗生物質および/または新規の技術が至急必要とされている。
【0010】
本発明は、光化学的内在化(PCI)および抗菌剤の使用を含む、細胞内細菌を死滅させるための新規の方法を提供する。PCIは、例えば、いくつかの種類の腫瘍を治療するための分子を内在化させるために開発された(セルボ(Selbo)ら,2010,ジャーナル・オブ・コントロールド・リリース,148(1),2~12頁);およびホグセット・A(Hogset A)ら,2004,アドバンスド・ドラッグ・デリバリー・レビュー,56(1),95~115頁)。PCIにおいては、光増感剤がエンドサイトーシス小胞の膜に特異的に局在し、光照射した際にこれらの膜を(部分的に)破壊して、分子をサイトゾルへと放出させる。
【0011】
驚くべきことに、細胞内細菌を死滅させる単純な機構が、抗菌剤のPCIによって提供されるということがすでに見出されている。
【0012】
例えば光照射時間または光増感剤の投与量を低減することによって、毒性種の過剰な産生が回避されるように手順が適切に調整される場合に、広範な細胞破壊または細胞死をもたらさない様式で細胞のサイトゾルへと分子を導入する機構が、PCI法によって提供される。基本的な光化学的内在化(PCI)の方法は、WO96/07432およびWO00/54802で説明されており、これらは参照により本明細書に援用される。このような方法においては、内在化しようとしている分子(本発明においては、抗菌剤である)および光感作性薬剤を細胞と接触させる。光感作性薬剤および内在化しようとしている分子は、細胞内において、細胞膜に囲まれた亜区画に取り込まれる。すなわち、細胞内小胞(例えば、リソソームまたはエンドソーム)へとエンドサイトーシスされる。細胞が、適切な波長の光に暴露されると、細胞内小胞の膜を破壊する活性酸素種を直接的または間接的に生じる光感作性薬剤が活性化される。これによって、内在化された分子がサイトゾルへと放出される。このような方法では、大多数の細胞において、その機能性または生存率は有害な影響を受けないことが見出された。
【0013】
本発明の方法は、複雑でなく、様々な抗菌剤および異なる標的細菌に用いることができるので、特に有利である。また、本方法では、効果的な抗生物質効果を実現しつつ、従来の方法で必要とされる濃度よりも低い濃度で抗菌剤を用いることができる。これによって、耐性発現が防止される。さらに、分子を放出するための照射のタイミングおよび位置は、必要とされる効果の実現が望まれる時間および位置においてのみ放出が行われるように、制御され得る。したがって、各種成分への細胞の暴露は最小限に抑えられ、望ましくない副作用が最小限に抑えられる。これは、各種成分を放出するタイミングおよび位置を制御することができず、各種成分および/またはその担体が高濃度であることが必要とされる標準的な抗菌処理技術とは、対照的である。
【0014】
細菌性病原体が細胞内で生き延びることに起因する感染症は、人体の異なる箇所(例えば、皮膚、深組織、尿路、および肺)において発症または再発することがある。プロフェッショナルなファゴサイトに加えて、上皮細胞、内皮細胞、および線維芽細胞などのノンプロフェッショナルな食細胞も、細胞内細菌の適所となることがある。感染症が起こっている箇所に光を当てることで、本発明のPCI法を特定の位置で実行してもよいし、細胞内細菌が存在している細胞の位置に光を当てることで、本発明のPCI法を特定の位置で実行してもよい。このように、本方法は、感染症が起こっている箇所が比較的光が届きやすい場合には、慢性創傷や潰瘍、膿瘍、糖尿病性足感染症などの皮膚(皮下)組織または粘膜の感染症/損傷の治療だけでなく、慢性副鼻腔炎や歯周炎などの口および鼻の感染症の治療にも用いられてもよい。内部器官(例えば、肺)または深組織領域における感染症が、例えば、光ファイバー装置によって与えられる光を用いて治療されてもよい。
【0015】
本明細書の実施例で説明されているように、PCIを用いる場合および用いない場合における細胞内のブドウ球菌に対する抗菌剤の抗菌効果を、インビトロではマウスマクロファージにおいて、インビボではブドウ球菌の感染を研究するのに適している全動物体システムであるゼブラフィッシュの胚モデルを用いて、評価した(プライスナーら,2008,上記;ベネマン(Veneman)ら,2013,BMCジェノミクス(BMC Genomics),14,255頁;およびプライスナーら,2012,セルラー・マイクロバイオロジー,14(10),1600~1619頁)。我々が知る限り、これは、完全に新規の応用分野に、すなわち(細胞内)感染症の抗生物質による治療に、PCIを用いることについての初めての教示である。
【0016】
理論に拘束されることを望むものではないが、細胞内細菌に対処するための抗菌剤の光化学的内在化(PCI)の考えられる機構は、最初のステップにおいて、抗菌剤と、光増感剤(PS)と、場合によっては細菌とが細胞に取り込まれることに依拠する。PSは、抗菌剤を含むエンドソーム/ファゴソームの形成中に、小胞膜に局在する。抗菌剤は、PSの活性化によって(光照射した際にエンドソーム/ファゴソームの膜が破壊されることによって)サイトゾルへ放出され、そこで、細菌(細胞内に共内在化によって存在する、または以前から存在している)と接触し得る。また、PSは、光照射期間中に、膜から解離して、抗菌剤および/または細菌を含み得る他のエンドソーム/ファゴソームに再局在化し得、それによって、そのようなエンドソーム/ファゴソーム内の細菌/抗菌剤をサイトゾルへと放出させる。また、PCIを行っている間に、光増感剤の光活性化によって破壊された小胞が細胞内において他の無傷の小胞と融合し、さらなる光照射を行わずとも、無傷の小胞においても漏出/破壊を起こさせる可能性もある。サイトゾルにおいて抗菌剤が細菌と接触することによって、抗菌剤が細胞内抗菌作用を発揮することが可能となる。
【0017】
したがって、第1の態様において、本発明は、細胞内細菌感染症を治療または予防する方法であって、感染が起きている細胞を抗菌剤および光感作性薬剤と接触させることと、光感作性薬剤を活性化するのに有効な波長の光を前記細胞に照射することとを含み、前記抗菌剤は、前記細胞のサイトゾルに放出され、前記細胞において細菌を死滅もしくは損傷させる、または細菌の複製を防止する、方法を提供する。
【0018】
本方法は、インビトロにおいて行われてもよいが、好ましくは、インビボにおいて行われ、前記細胞は、被験体内に存在している。
【0019】
好ましくは、本方法(または本明細書で説明する使用)は、細菌の耐性が発現されるのを防止する。これらは、抗菌耐性細菌または抗生物質耐性細菌に対して用いられ得る。
【0020】
このような方法において、前記光感作性薬剤および抗菌剤は、それぞれ細胞内小胞に取り込まれ、前記細胞に照射を行った場合に、前記細胞内小胞の膜が破壊され、前記分子が前記細胞のサイトゾルへと放出される。
【0021】
異なる成分は、同じ細胞内小胞に取り込まれてもよいし、互いに異なる細胞内小胞に取り込まれてもよい。光増感剤によって産生された活性種は、それらが含まれる小胞を越えて広がり得ること、および/または小胞は合体し得、そのため、破壊された小胞と合体することによって小胞の内容物が放出される、ということが、見出された。本明細書で言及される「取り込まれる」とは、取り込まれた分子が小胞内に完全に包含されることを意味する。細胞内小胞は、膜に囲まれており、例えば、エンドソームやリソソーム、ファゴソームなど、エンドサイトーシス/ファゴサイトーシスの結果生じる小胞であれば、どのようなものであってもよい。
【0022】
本明細書で用いられる「破壊された」区画とは、区画の膜の完全性が、恒久的または一時的に、区画内に含まれた分子が放出されるほど十分に破壊されていることをいう。
【0023】
本明細書において定義される「治療」(または治療すること)とは、治療を行う前と比較して、治療中の細菌感染症の症状のうちの1つ以上を低減、緩和、または解消することをいう。このような症状は、治療を受ける細胞および/または治療を受ける患者もしくは被験体に存在している細菌の量と相関する場合がある。インビトロでの方法における治療は、細胞において細菌を死滅もしくは損傷させる、または細菌の複製を防止することを含み、細胞における生細菌の量を評価することによって判定されてもよい。「防止」(または防止することもしくは予防すること)とは、細菌感染症の症状の発症を遅延または防止させることをいう。防止は、(細菌感染症が起こらないように)完全なものであってもよいし、ある個体または細胞においてのみ有効であってもよいし、限られた時間のみ有効であってもよい。
【0024】
本明細書で言及される「細菌感染症」とは、細胞または体組織において増殖し、その結果、細胞または組織の損傷をもたらし得る細菌による細胞または体組織の侵襲である。「感染が起きている」細胞は、その細胞内で生き延び、潜在的に複製が可能である細胞内細菌を1つ以上含む。好ましくは、細菌感染症は、以下で述べる細菌に起因するものであり、好ましくは、マイコバクテリウム属、シュードモナス属、エシェリヒア属、およびスタフィロコッカス属から選択される細菌に起因するものである。また、コキシエラ属、リステリア属、フランキセラ属、およびリケッチア属から選択される細菌による細胞内細菌感染症が好ましい。好ましい態様において、細菌は、芽胞を産生しない。さらに好ましい態様において、細胞内に現れる細菌は、バイオフィルムにも存在するということはないが、別の選択肢においてはバイオフィルムに現れてもよい。
【0025】
好ましくは、本発明の方法および使用において、感染症は、骨、血液、心臓、尿路、肺、皮膚、または粘膜表面の細胞、あるいはこれらに関連する細胞に存在する。したがって、一態様において、治療されるべき細菌感染症としては、骨髄炎、菌血症、結核、Q熱、および心内膜炎、ならびに慢性創傷や潰瘍、膿瘍、糖尿病性足感染症などの皮膚(皮下)組織または粘膜の感染症/損傷だけでなく、慢性副鼻腔炎や歯周炎などの口および鼻の感染症が挙げられる。
さらに好ましい態様において、本方法または使用は、生体材料に起因する感染症を治療するためのものであって、治療されるべき細胞は、被験体に導入された生体材料上または生体材料近傍に存在している。例えば、生体材料に起因する感染症は、インプラント周囲炎(歯科インプラント周辺の感染症)であってもよい。被験体から生体材料を取り除いた後に残る細胞内細菌感染症も、治療され得る。感染症は、医療装置などの生体材料をしかるべき注意を払って挿入し管理した場合であっても、それらを使用する際によく見られる合併症である。黄色ブドウ球菌および表在性ブドウ球菌による感染症は、特に蔓延している。生体材料の感染症は、治療に対して非常に抵抗性が高い。長期にわたる抗体の投与が必要とされ、多くの場合、生体材料は、取り除かなければならなくなるが、これは、例えば、人工関節や人工心臓弁などの永久インプラントが関わる場合では、患者/被験体において劇的な結果に至ることがある。取り除いた後であっても、感染領域に存在している細菌の根絶には、長期にわたる抗生物質による治療(これは6ヶ月にも及ぶことがある)が必要となる。研究によると、生体材料周辺の組織に細菌が生き残り続けるということが示されている。マクロファージは、細胞内細菌の宿主として関与し続け、再発する感染症において細菌の貯蔵所を維持する。本発明の方法および使用によって、このような「隠れた」細菌を標的とすることができる。
【0026】
本明細書で言及される「生体材料」とは、治療目的で被験体に導入され得る人工材料または人工装置である。このような生体材料としては、医療用の装置、機器、器具、または用具や、補綴物または材料、組織用または創傷用の被覆材(例えば、整形外科用、心臓血管用、尿路用、外科用、婦人科用、または歯科用の用途として)が挙げられる。医療装置としては、ペースメーカー、心臓弁、およびステントが挙げられ、医療器具としては、カテーテルが挙げられ、補綴物または材料としては、人工関節、インプラント(胸部インプラントおよび歯科インプラントを含む)、骨固定用のプレートおよびねじ、ならびに骨格材料(例えば、外科用メッシュ)が挙げられる。創傷被覆材としては、硬膏および包帯、ならびに創傷の治療に用いられ得るセメント、接着剤、および基材が挙げられる。本明細書において説明されるように、抗菌剤および/または光感作性薬剤は、生体材料上に供給されてもよいし、生体材料の内部に供給されてもよい(例えば、生体材料内に埋め込まれていてもよいし、生体材料に含浸されていてもよい)。
【0027】
「細胞内」細菌感染症とは、細菌が細胞に取り込まれ、その細胞内で生き延び、複製することが可能となっている感染症のことをいう。細菌は、さらに、細胞外に存在して複製してもよい。このような細胞内細菌は、細胞内のいずれの位置に存在していてもよく、例えば、サイトゾル、または膜に囲まれたリソソームやエンドソーム、ファゴソームなどの亜区画などに存在していてもよい。本発明によって治療または予防され得る細胞内細菌感染症としては、マイコバクテリウム属(例えば、結核菌)、シュードモナス属(例えば、緑膿菌)、エシェリヒア属(例えば、大腸菌)、およびスタフィロコッカス属(例えば、黄色ブドウ球菌および表在性ブドウ球菌)による感染症が挙げられる。ある特定の実施形態において、治療されるべき被験体は、ウシであり、細菌感染症は、黄色ブドウ球菌による乳腺炎である。対象となる他の細胞内細菌感染症としては、リステリア属(例えば、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes))、フランキセラ属(例えば、野兎病菌(Francisella tularensis))、コキシエラ属(例えば、コキシエラ・バーネッティイ)、およびリケッチア属による感染症が挙げられる。
【0028】
本発明において、「細胞(cell)」または「複数の細胞(cells)」は、培養されているものであってもよいし、組織内、器官内、または体内に存在するものであってもよい。したがって、細胞は、インビトロで提供されてもよいし、エキソビボで提供されてもよいし、被験体内または生物体内に存在する、例えばインビボの細胞であってもよい。「細胞」なる語は、すべての真核細胞(昆虫細胞および真菌細胞を含む)を含む。したがって、代表的な「細胞」としては、哺乳類動物細胞および非哺乳類動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、真菌細胞、ならびに原生動物のすべての種類が挙げられる。しかし、好ましくは、細胞は、例えば哺乳類、は虫類、鳥類、昆虫、または魚類に由来する真核細胞である。好ましくは、細胞は、哺乳類由来であり、特に、霊長類、飼育動物、家畜、または実験動物に由来するものである。特に好ましくは、細胞は、哺乳類細胞であり、例えば、サル、ネコ、イヌ、ウマ、ロバ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、マウス、ラット、ウサギ、モルモットに由来する細胞であるが、最も好ましくはヒト由来の細胞である。
【0029】
感染が起きている細胞は、マクロファージ、樹状細胞、または好中球などの食細胞であってもよいし、上皮細胞や内皮細胞、ケラチン生成細胞、骨芽細胞、線維芽細胞などの「ノンプロフェッショナルな」食細胞であってもよい。
【0030】
「抗菌剤」は、インビトロの条件下、例えば、培養条件下で直接的に接触した場合などに、細菌を死滅もしくは損傷させる、または細菌の複製を防止する能力を有する実体物(例えば、分子)である。細菌は、好ましくは、本明細書で説明されるものである(本明細書で言及されるように、細菌(bacteria)は、単数および複数のどちらとしても言及される。特に、標的とする細菌の種類(すなわち、各細菌に適用できる種などの種類)を定義する場合には、単数として言及され、細菌が受け得る処理(すなわち、複数の微生物の処理)について言及する場合には、複数として言及される。)。特に、抗菌活性は、1つ以上の細菌、例えばスタフィロコッカス属の細菌に対するMIC値またはMBC値を求めることで評価される。抗菌活性は、MIC値を参照して求められてもよい。MIC値とは、最小発育阻止濃度(minimum inhibition concentration)(MIC)のことであり、特定の液体培地中で一晩インキュベートした後、微生物が目視可能なほど増殖するのを阻害する抗菌性薬剤の最小濃度として定義される。あるいは、抗菌活性は、このインキュベーション期間中に細菌を99.9%死滅させる最小濃度である、最小殺菌濃度(minimum bactericidal concentration)(MBC)によって求められてもよい。好ましくは、抗菌剤のMIC値は、好ましくは本明細書で説明される細菌に対して、50μg/ml未満であり、好ましくは30μg/ml未満であり、特に好ましくは10μg/ml未満、5μg/ml未満、または1μg/ml未満である。
【0031】
好ましい態様において、抗菌剤は、抗生物質であり、すなわち、特定の細菌(属または種)を選択的に処理するものである。
【0032】
抗菌剤は、アミノグリコシド(例えば、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、トブラマイシン、パロモマイシン、ストレプトマイシン、またはスペクチノマイシン);アンサマイシン(例えば、ゲルダナマイシン、ハービマイシン、またはリファキシミン);カルバセフェム(例えば、ロラカルベフ);カルバペネム(例えば、エルタペネム、ドリペネム、イミペネム、メロペネム);セファロスポリン(例えば、セファドロキシル、セファゾリン、セファレキシン、セファクロル、セフプロジル、セフロキシム、セフィキシム、セフジニル、セフジトレン、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジダイム、セフチアキソン、セフェピム、セフタロリンフォサミル、またはセフトビプロール)、糖ペプチド(例えば、テイコプラニン、バンコマイシン、テラバンシン、ダルババンシン、またはオリタバンシン);リンコサミド(例えば、クリンダマイシンまたはリンコマイシン);リポペプチド(例えば、ダプトマイシン);マクロライド(例えば、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、テリスロマイシン、フィダキソマイシン、またはスピラマイシン);モノバクタム(例えば、アズトレオナム);ニトロフラン(例えば、フルゾリドンまたはニトロフラントイン);オキサゾリジノン(例えば、リネゾリド、ポジゾリド、ラデゾリド、またはトレゾリド);ペニシリン(例えば、アモキシシリン、アンピシリン、アズロシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、メズロシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリン(GまたはV)、ピペラシリン、テモシリン、またはチカルシリン);ポリペプチド(バシトラシン、コリスチン、ポリミキシンB);キノロン(例えば、シプロフロキサシン、エンフロキサシン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ナリジクス酸、ノルフロキサシン、オフロキサシン、トロバフロキサシン、グレパフロキサシン、スパルフロキサシン、またはテマフロキサシン);スルホンアミド(例えば、マフェニド、スルファセタミド、スルファジアジン、スルファジアジン銀、スルファジメトキシン、スルファメチゾール、スルファメトキサゾール、スルファニルイミド、スルファサラジン、スルフィソキサゾール、トリメトプリム-スルファメトキサゾール、またはスルフォンアミドクリソイジン);テトラサイクリン(例えば、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン、またはテトラサイクリン);およびクロファジミン、ダプソン、カプレオマイシン、サイクロセリン、エタンブトール、エチオナミド、イソニアジド、ピラジンアミド、リファンピシン、リファブチン、リファペンチン、ストレプトマイシン、アルスフェナミン、コラムフェニコール、ホスホマイシン、フシジン酸、メトロニダゾール、ムピロシン、プラテンシマイシン、キヌプリスチン/ダルホプリスチン、チアムフェニコール、チゲサイクリン、チニダゾール、またはトリメトプリムなどのその他の抗菌剤;あるいはこれらの任意の組み合わせから選択され得る。
【0033】
好ましい特徴において、抗菌剤は、アミノグリコシド(好ましくはゲンタマイシン)、糖ペプチド(好ましくはバンコマイシン)、またはマクロライド(好ましくは上述したもの)である。本明細書で説明する方法および使用において、場合によっては、抗菌剤が2つ以上用いられてもよく、例えば、ゲンタマイシンおよびリファンピシンである。2つ以上(例えば、2つまたは3つ)の薬剤を用いる場合、本発明の方法および使用について本明細書で説明するように、同時に、または順次に、または別々に、これらの薬剤を用いることができる。
【0034】
本明細書で言及される「光感作性薬剤」は、該薬剤が適切な波長および強度で光照射されて活性化する際に、吸収した光のエネルギーを化学反応へと転換することで、活性種を生成することができる化合物である。これらのプロセスにおける高反応性最終生成物は、細胞毒性および血管毒性を生じることができる。好都合には、このような光感作性薬剤は、細胞内区画、特に、エンドソーム、ファゴソーム、またはリソソームに局在するものであってもよい。
【0035】
光感作性薬剤は、各種機構によって、その効果を直接的または間接的に発揮してもよい。したがって、例えば、光感作性薬剤の中には、光によって活性化された際に、直接的に毒性を有するものもあるが、その一方、細胞物質や脂質、タンパク質、および核酸などの生体分子に対して極めて有害な一重項酸素またはその他の活性酸素種といった酸化剤などの毒性種を生成するように作用するものもある。
【0036】
このような光感作性薬剤として、各種薬剤が当該技術分野において公知であって、参照により本明細書に援用されるWO96/07432などの文献で説明されており、本発明の方法および使用に用いられ得る。多くの光感作性薬剤が公知であり、ポルフィリン、フタロシアニン、およびクロリンが挙げられる(ベルク(Berg)ら,1997,ジャーナル・オブ・フォトケミストリー・アンド・フォトバイオロジー(J. Photochemistry and Photobiology),65,403~409頁;参照により本明細書に援用される)。他の光感作性薬剤としては、バクテリオクロリンが挙げられる。
【0037】
ポルフィリンは、最も広く研究されている光感作性薬剤である。これらの分子構造は、メチン架橋を介して連結された4つのピロール環を含む。金属錯体を形成可能であることが多い、天然化合物である。例えば、酸素輸送タンパク質であるヘモグロビンの場合、ヘムBのポルフィリン中心に、鉄原子が導入されている。
【0038】
クロリンは、巨大な複素芳香族環であって、その中心は、4つのメチン結合によって連結された3つのピロールと1つのピロリンからなる。したがって、クロリンは、ポルフィリンとは異なり、おおむね芳香族性であるが、環の外周全体で見ると、芳香族性ではない。
【0039】
細胞のエンドソーム、ファゴソーム、またはリソソームに局在する光感作性薬剤が特に好ましい。したがって、光感作性薬剤は、好ましくは、リソソーム、ファゴソーム、またはエンドソームの内部区画に取り込まれる薬剤である。好ましくは、光感作性薬剤は、エンドサイトーシスまたはファゴサイトーシスによって、細胞内区画に取り込まれる。好ましい光感作性薬剤は、両親媒性のフタロシアニン、ポルフィリン、クロリン、および/またはバクテリオクロリンなどの両親媒性光増感剤(例えば、ジスルホン化光感作性薬剤)であり、特に、スルホン化(好ましくは、ジスルホン化)メソテトラフェニルクロリン、スルホン化(好ましくは、ジスルホン化)メソテトラフェニルポルフィリン、スルホン化(好ましくは、ジスルホン化)メソテトラフェニルフタロシアニン、およびスルホン化(好ましくは、ジスルホン化)メソテトラフェニルバクテリオクロリンが挙げられる。好ましい態様において、光感作性薬剤は、ポルフィリン、フタロシアニン、プルプリン、クロリン、ベンゾポルフィリン、リソソーム作用性弱塩基、ナフタロシアニン、カチオン系染料、テトラサイクリン、5-アミノレブリン酸および/またはそのエステル、あるいはこれらの薬剤のうちのいずれかの誘導体から選択され、好ましくは、TPPS4、TPPS2a、AlPcS2a、TPCS2a、5-アミノレブリン酸もしくは5-アミノレブリン酸のエステル、またはこれらの薬学的に許容される塩から選択される。TPPS2a(テトラフェニルポルフィンジスルホン酸)、AlPcS2a(フタロシアニンジスルホン酸アルミニウム)、TPCS2a(テトラフェニルクロリンジスルホン酸)、およびTPBS2a(テトラフェニルバクテリオクロリンジスルホン酸)、またはこれらの薬学的に許容される塩が、特に好ましい。好ましくは、光感作性薬剤は、TPCS2a(ジスルホン化テトラフェニルクロリン、例えばアンフィネックス(Amphinex)(登録商標))である。
【0040】
本明細書で用いられる「および/または」とは、列挙された選択肢がある場合に、そのうちの1つまたは両方(またはそれ以上)を指し、例えば、Aおよび/またはBは、i)A、ii)B、またはiii)AおよびB、という選択肢を含む。
【0041】
好ましい光感作性薬剤の構造を以下に示す。
【0042】
【化1】
矢印は、この2つの分子の構造上の相違を示す。
【0043】
場合によっては、光感作性薬剤は、光感作性薬剤の取り込みを促進または向上させるように作用することができる1つ以上の担体分子または標的指向性分子に付着、会合、または結合されていてもよい。したがって、光感作性薬剤は、担体に連結されていてもよい。例えば、光感作性薬剤は、例えば参照により本明細書に援用されるWO2013/189663に開示されている抱合体である、キトサン系抱合体などの抱合体の形態で提供されてもよい。
【0044】
本明細書で用いられる「接触させる」とは、例えば25~39℃の適切な栄養培地中またはインビボにおいて、好ましくは例えば37℃で、細胞への内在化に適した条件で、細胞と本方法で用いられる各種成分(または薬剤)を物理的に互いに接触させることをいう。本明細書で定義される方法で用いられる光感作性薬剤および抗菌剤に、順次に、または同時に、細胞を接触させてもよい。好都合には、これらの成分を同時に細胞に接触させ、好ましくは、以下でより詳細に説明する通り、これらの成分を一緒に細胞に投与する。異なる成分は、細胞によって、同じ細胞内区画に取り込まれてもよいし、異なる細胞内区画に取り込まれてもよい(例えば、共転移してもよい)。しかし、別の実施形態において、これらの成分は、一緒に投与されない。すなわち、異なる時刻に、および/または異なる投与経路によって、投与される。
【0045】
その後、細胞は、適切な波長の光に暴露されて、光感作性化合物が活性化される。これは、ひいては細胞内区画の膜の破壊へとつながる。
【0046】
WO02/44396(これは参照により本明細書に援用される)には、例えば、内在化しようとしている分子(この場合、抗菌剤)を細胞と接触させる前に、光感作性薬剤を細胞と接触させて、照射により活性化させるような順序で、本方法のステップを並べ得る方法が記載されている。この方法は、内在化しようとしている分子は、照射時に、光感作性薬剤と同じ細胞亜区画に存在している必要がないという事実を利用している。
【0047】
したがって、一実施形態において、本明細書で定義される該光感作性薬剤および該抗菌剤は、一緒に細胞に投与されるか、または相互に独立して細胞に投与される。その後、光感作性薬剤および抗菌剤が同じ細胞内区画に現れた時に、照射を行う。これを「後照射」法という。
【0048】
別の実施形態において、該方法は、該細胞をまず光感作性薬剤に接触させ、次いで本明細書で定義される抗菌剤と接触させることで行うことができ、照射は、光感作性薬剤が細胞内区画に取り込まれた後、抗菌剤が細胞によって該光感作性薬剤を含む細胞内区画に取り込まれる前(例えば、露光時に異なる細胞内区画に存在していてもよい)、好ましくは細胞によっていずれかの細胞内区画に取り込まれる前、例えばいずれかの細胞による取り込みの前に行われる。したがって、例えば、光感作性薬剤を投与した後に照射を行い、その後、抗菌剤を投与してもよい。これが、いわゆる「前照射」法である。
【0049】
本明細書で用いられる「内在化」とは、細胞内、例えばサイトゾルへの分子の送達のことをいう。この場合、「内在化」は、細胞内区画/膜に囲まれた区画から、細胞のサイトゾルへ分子を放出するステップを含んでいてもよい。
【0050】
本明細書で用いられる「細胞による取り込み」または「転移」とは、細胞膜外にある分子が、例えば小胞体、ゴルジ体、リソソーム、エンドソーム、ファゴソームなどの細胞内の膜制限区画への、またはこれら細胞内の膜制限区画に会合する、エンドサイトーシス、ファゴサイトーシス、または他の適切な取り込み機構によって、周辺の細胞膜よりも内側に見出されるように細胞に取り込まれる内在化のステップの1つをいう。
【0051】
一般に、本方法は、細菌が既に感染している細胞に対して行われる。しかし、本方法は、細菌がまだ感染していない細胞に対して行われてもよいし、細菌の感染が進行中である細胞に対して行われてもよい(この場合、本方法は予防法である)。細胞への感染が進行中である場合、細菌は、PCI法の間に、光感作性薬剤および/または抗菌剤と共に取り込まれてもよい。細胞への感染がまだである場合、細胞は、感染のリスクがあると同定される(例えば、ある装置を用いようとする際に、例えば生体材料に起因する感染症などの細胞内感染症の可能性がある位置に存在する)細胞であってもよい。この場合、本方法は、装置を設置する直前に、対象となる位置において行われてもよい。
【0052】
細胞を異なる薬剤に接触させるステップは、都合のよい方法で行われてもよいし、所望の方法で行われてもよい。したがって、接触ステップがインビトロで行われる場合、好都合には、細胞は、例えば適切な細胞培養培地などの水性培地中に維持されてもよく、適切な時点において、適切な条件下、例えば適切な濃度で適切な期間、各種薬剤を培地に容易に加えることができる。例えば、細胞は、血清を含まない培地の存在下で薬剤と接触させてもよいし、血清を含む培地とともに薬剤と接触させてもよい。
【0053】
以下のコメントでは、異なる薬剤を細胞に別々に投与することを論じている。しかし、上述したように、これらの薬剤は、細胞に一緒に与えられてもよいし、別々に与えられてもよいし、同時に与えられてもよいし、順次与えられてもよい。本明細書で言及されるように、本発明の方法および使用で用いられる薬剤は、インビトロで細胞に投与されてもよいし、インビボで細胞に投与されてもよい。後者の場合、以下でより詳細に説明するように、直接投与(すなわち、局部的投与または局所的投与)によって投与されてもよいし、間接投与(すなわち、全身投与または非局部的投与)によって投与されてもよい。
【0054】
常用の技術を用いて当業者が容易に決定することができ、用いられる特定の光感作性薬剤や、投与形態、治療行程、患者/被験体の年齢および体重、医学的適応、治療するべき体または体の領域などの要因に依存し、かつ、選択に応じて変更または調整され得る、適切な濃度および適切な期間にしたがって、光感作性薬剤を細胞に接触させる。好都合には、光感作性薬剤の濃度は、光感作性薬剤が、例えば1つ以上の細胞内区画に取り込まれる、またはこれら細胞内区画に会合するなど、細胞に一旦取り込まれて、照射によって活性化した際に、例えば1つ以上の細胞内区画が溶解または破壊されるなど、1つ以上の細胞構造が破壊されるような濃度である。
【0055】
例えば、本明細書で説明される光感作性薬剤は、例えば0.1~50μg/mlの濃度で用いられてもよい。インビトロでの使用では、その範囲はより広く、例えば0.0005~500μg/mlとすることができる。インビボでのヒトの治療では、光感作性薬剤は、全身投与の場合、体重1kgあたり0.05~20mgの範囲で用いられてもよい。あるいは、全身投与では、体重1kgあたり0.005~20mgの範囲で用いられてもよい。全身送達では、与えられる総用量は、1~5000μgほどであってもよく、例えば、10~2500、25~1000、50~500、10~300、25~200、または100~300μgであってもよい。好ましくは、用量は、100μg、150μg、200μg、および250μgから選択される。好ましくは、用量は、75~125μgであり、例えば100μgである。例えば、局所投与、皮内投与、または皮下投与などによって局部的に投与される場合には、用量は、およそ0.001~500μgまたは0.1~500μgであってもよく、例えば、およそ0.001~0.1、0.0025~1、0.01~50、0.0025~250、1~250、2.5~100、2.5~40、5~50、1~30、または10~30μgであってもよい。局部送達では、用量は、好ましくは10μg、15μg、20μg、および25μgから選択される。好ましくは、用量は、7.5~12.5μgであり、例えば10μgである。与えられる用量は、平均体重(すなわち、70kg)のヒト用である。皮内注射では、光増感剤の用量は、100μl~1mlに溶解されてもよい。すなわち、濃度は、0.01~50000μg/mlまたは1~50000μg/mlの範囲であってもよい。より小型の動物では、濃度範囲は異なっていてもよく、それなりに調整することができるが、局部的に投与する場合には、異なる動物に対して投与を変更する必要はほとんどない。
【0056】
本明細書で定義される抗菌剤の濃度も、用いられる特定の分子や、投与形態、治療行程、患者/被験体の年齢および体重、医学的適応、治療するべき体または体の領域に依存し、選択に応じて変更または調整され得る。
【0057】
例えば、本明細書で定義される抗菌剤は、例えば0.01~50μg/mlの濃度で用いられてもよい。インビトロでの使用では、その範囲はより広く、例えば0.0005~500μg/mlとすることができる。インビボでのヒトの治療では、抗菌剤は、全身投与の場合、体重1kgあたり0.05~100mgの範囲で用いられてもよい。あるいは、全身投与では、体重1kgあたり0.005~100mgの範囲で、好ましくは0.1~50mg/kgの範囲で、用いられてもよい。例えば、局所投与、皮内投与、または皮下投与などによって局部的に投与される場合には、用量は、およそ1~50000μgであってもよく、例えば、およそ10~25000、25~10000、50~5000、10~3000、または100~3000μgであってもよい。好ましくは、用量は、1mg、1.5mg、2mg、および2.5mgから選択される。好ましくは、用量は、0.75~1.25mgであり、例えば1mgである。与えられる用量は、平均体重(すなわち、70kg)のヒト用である。皮内注射では、抗菌剤の用量は、100μl~1mlに溶解されてもよい。すなわち、濃度は、1~50000μg/mlの範囲であってもよい。より小型の動物では、濃度範囲は異なっていてもよく、それなりに調整することができるが、局部的に投与する場合には、異なる動物に対して投与を変更する必要はほとんどない。
【0058】
たいていの場合、光感作性薬剤および抗菌剤は、一緒に投与されるが、これは変更されてもよい。したがって、異なる成分に対して、異なる時間、異なる形態、または異なる位置で投与(または細胞との接触)を行うことが意図され、このような方法は、本発明の範囲に含まれる。
【0059】
一実施形態において、本明細書で定義される抗菌剤は、例えば別処方として、または経口投与などにより全身投与として、光感作性薬剤とは別に投与される。したがって、一実施形態において、抗菌剤または光感作性薬剤は、それぞれ、光増感剤または抗菌剤の投与よりも先に投与されてもよく、例えば、最大で24時間または48時間前に投与されてもよい。好ましくは、別個の投与は、48時間、24時間、12時間、8時間、4時間、または2時間未満だけ離れている。例えば、光増感剤が最初に投与され(例えば、皮膚の光感受性を避けるために局部的に投与される)、その後、抗菌剤が全身投与されてもよい。
【0060】
好都合には、細胞と、本明細書で定義される光感作性薬剤および/または抗菌剤との接触は、15分から24時間(または48時間)行われる(15分または30分~4時間、例えば1~2時間など)。接触は、同時に行われてもよいし、順次行われてもよいし、別々の成分を接触させるタイミングが重なっていてもよい。接触ステップは、細胞が件の薬剤と接触している総接触時間に言及し、その接触時間は、多数の別個の異なる接触ステップからなるものであってもよい。薬剤は、照射ステップの前のある期間、細胞との接触から取り除かれてもよい。インビトロにおける方法では、好ましい態様において、各薬剤に対する接触ステップは、15分(または30分)~120分であってもよい。インビボでは、同様の接触時間が用いられてもよいが、細胞は、投与直後に薬剤と接触させられなくてもよい(例えば、全身投与が用いられる場合)。このような場合、以下でより詳細に説明するように、薬剤が標的細胞に到着し、必要な接触時間だけその細胞と接触するように、薬剤を投与してから十分な時間が経過した後に光照射を行う必要がある。
【0061】
好ましい実施形態において、細胞の最初のインキュベーションは、光感作性薬剤とともに行う。一実施形態において、光感作性薬剤の投与と抗菌剤の投与との間隔は、数時間である。例えば、光感作性薬剤は、光照射の16~20時間(または40~44時間)前、例えば18時間前に投与されてもよく、抗菌剤は、光照射の1~3時間前、例えば2時間前に投与されてもよい。したがって、光感作性薬剤の投与と抗菌剤の投与との間隔は、15~23(または47)時間の範囲であってもよい。どの薬剤が最初に投与されるかにかかわらず、このタイミングが適用される。
【0062】
好都合には、光増感剤/抗菌剤との接触後、光照射を行う前に、光増感剤および抗菌剤とのインキュベーションのタイミングに応じて、細胞を、光増感剤/抗菌剤を含まない培地に例えば30分~4時間入れてもよく、例えば1.5~2.5時間入れてもよい。
【0063】
インビボでは、各種薬剤を標的細胞に接触させる適切な方法およびインキュベーション時間は、用いられる薬剤の投与形態およびその種類などの要因に依存する。例えば、治療/照射を受けるべき組織または器官に薬剤を注射または局所投与する場合には、注射または投与を行う箇所近辺の細胞は、より遅い時点においてより低濃度で薬剤と接触すると思われる、注射または投与を行う箇所から大きく離れたところに位置する細胞よりも、速やかに薬剤と接触し、それ故、速やかに薬剤を取り込む傾向がある。好都合には、時間として、6~24時間(または6~48時間)が用いられる。
【0064】
さらに、静脈内注射または経口投与によって投与された薬剤は、標的細胞に到着するまでいくらか時間がかかる場合があるため、十分量または最適量の薬剤が標的細胞または標的組織に蓄積するためには、投与後により長い時間、例えば数日、かかる場合がある。したがって、インビボにおいて個々の細胞に必要とされる投与時間は、これらのパラメータやその他のパラメータに応じて変化しやすい。
【0065】
インビボでの状況は、インビトロよりも複雑ではあるけれども、本発明の基本的概念は依然として同じである。すなわち、分子が標的細胞(すなわち、感染細胞)と接触する時間は、照射が行われる前に、適切な量の光感作性薬剤が標的細胞によって取り込まれ、かつ(i)照射前または照射中に、細胞内の、例えば光感作性薬剤と同じまたは異なる細胞内区画などに、抗菌剤がすでに取り込まれているか、または標的細胞と十分に接触した後に取り込まれる、あるいは(ii)照射後に、抗菌剤が細胞に取り込まれるのに十分な期間、細胞と接触する、ような時間でなければならない。
【0066】
本明細書で説明する薬剤のインビボでの投与では、当該技術分野において一般的な投与形態または標準的な投与形態であれば、例えば、経口投与、非経口投与(例えば、筋肉内投与、経皮(transdermal)投与、皮下投与、経皮(percutaneous)投与、腹腔内投与、脊髄内投与、または静脈内投与)、腸内投与、口内投与、直腸内投与、または体内面および体外面両方への局所投与など、どのような形態を用いてもよい。インビボでの使用では、本発明は、光感作性薬剤を含む化合物または抗菌剤が局在化する細胞を含む組織であれば、体液部および固形組織など、どのような組織に対しても用いることができる。標的細胞によって光増感剤が取り込まれ、かつ光を適切に届けることができる限り、全ての組織を治療することができる。好ましい投与形態は、皮内投与または皮内注射、皮下投与または皮下注射、局所的投与または局所的注射である。好ましくは、局所投与(以下、局部投与ともいう)である。
【0067】
投与は、治療法/予防法(例えば、患者/被験体への投与)を行う時に、必要な薬剤を細胞に加えることによって行われてもよいし、必要な薬剤のうちの1つ以上を、持続放出または制御放出(必要に応じた放出)を可能にする処方で提供し、その後、治療ステップ/予防ステップを行ってもよい。例えば、抗菌剤および/または光感作性薬剤は、患者/被験体の表面または内部で用いられる生体材料上に供給されてもよいし、そのような生体材料の内部に供給されてもよい(例えば、生体材料内に埋め込まれていてもよいし、生体材料に含浸されていてもよい)。このような薬剤は、経時的に徐々に放出されてもよいし、要求に応じて放出されてもよい。また、治療ステップ/予防ステップは、照射によって(場合によっては、必要な薬剤のうちの1つが生体材料の内部/表面に存在していない場合は、これを投与することによって)開始されてもよい。好都合には、タイミングおよび用量を評価する際、このような投与は局部投与とみなされる。
【0068】
所望の結果、すなわち細菌感染症の治療または予防を達成するために、本方法またはその一部が繰り返されてもよい。したがって、適切な間隔を空けた後、本方法の全体を複数回(例えば、2回、3回、またはそれ以上)行ってもよいし、例えば本明細書で定義される抗菌剤および/または光感作性薬剤のさらなる投与、または照射ステップの追加を行うなど、本方法の一部を繰り返してもよい。例えば、本方法または本方法の一部を、最初に行ってから、数日後、例えば5~60日後(7日後、14日後、15日後、21日後、22日後、42日後、または51日後など)や7~20日後、好ましくは14日後に再び行ってもよいし、数週間後、例えば1~5週間後(1週間後、2週間後、3週間後、または4週間後など)に、再び行ってもよい。適切な間隔を空けて、例えば2週間毎、つまり14日毎に、本方法の全てまたは一部を複数回繰り返してもよい。好ましい実施形態において、本方法は、少なくとも1回繰り返される。別の実施形態において、本方法は2回繰り返される。
【0069】
光感作性薬剤を活性化する「照射」とは、以下で説明するように、直接的または間接的に光をあてることをいう。したがって、細胞(被験体に存在していてもよい)は、例えば、直接的に(例えばインビトロで細胞それぞれに)光源を用いて光照射されてもよいし、例えば、インビボにおいて、細胞が皮膚の表面下にある場合、または全ての細胞が直接的に光照射されるわけではない、すなわち全ての細胞が他の細胞に遮蔽されているわけではない細胞層の形態である場合などでは、間接的に光源から照射されてもよい。細胞または被験体の光照射は、本明細書で定義される方法において用いる各種成分が投与されてから、約15分~24時間(または48時間)後に行われてもよい。インビトロにおける方法では、光照射は、例えば投与から15~120分後に行われてもよいが、インビボにおける方法では、被験体の内部の標的細胞との接触時間が即時ではない(投与経路による)場合には、例えば投与後により長い時間が必要となる場合がある。例えば、投与後、15分~24時間(または48時間)が必要となる場合がある。
【0070】
光感作性薬剤を活性化する光照射工程は、当該技術分野において周知である技術および手順にしたがって行われてもよい。光照射の用量、波長、および期間は、光感作性薬剤を活性化させる、すなわち活性種を生成するのに十分でなければならない。
【0071】
用いられる光の波長は、用いられる光感作性薬剤に応じて選択される。当該技術分野において、適切な人工光源がよく知られており、例えば青色波長光(400~475nm)または赤色波長光(620~750nm)を用いる。例えば、TPCS2aでは、400~500nmの波長、より好ましくは400~450nm、例えば430~440nmの波長、さらに好ましくは約435nmの波長または435nmの波長が用いられてもよい。適切である場合は、ポルフィリンまたはクロリンなどの光増感剤は、緑色光によって活性化されてもよく、例えば、キラーレッド(KillerRed)(エブロゲン社(Evrogen)、モスクワ、ロシア)光増感剤は、緑色光で活性化されてもよい。
【0072】
当該技術分野において適切な光源がよく知られており、例えば、PCIバイオテクAS社(PCI Biotech AS)のルミソース(LumiSource)(登録商標)ランプが挙げられる。あるいは、調節可能な出力電力が60mW以下であり、発光スペクトルが430~435nmであるLED系照明装置を用いてもよい。赤色光では、適切な光照射源は、PCIバイオテクAS社の652nmレーザーシステムSN576003ダイオードレーザーであるが、適切な赤色光源であればどのようなものを用いてもよい。
【0073】
本発明の方法において、細胞を光に暴露する時間は、様々であってもよい。そこを超えると細胞障害、ひいては細胞死が増加する最大限までは、光に暴露する時間を増加させるにつれて、分子のサイトゾルへの内在化の効率が上昇する。
【0074】
照射ステップの好ましい時間は、標的、光増感剤、標的細胞または標的組織に蓄積される光増感剤の量、および光増感剤の吸収スペクトルと光源の発光スペクトルとの重なりなどの要因に依存する。一般的には、照射ステップの時間は、秒から分のオーダー、または数時間以下(さらには12時間以下)であり、例えば、好ましくは60分以下であり、例えば0.25分または1分~60分であり、例えば5~60分であり、好ましくは10~20分であり、好ましくは15分である。例えば、光感作性薬剤をより高用量で用いる場合は、より短い照射時間が用いられてもよく、例えば1~60秒であり、10~50秒、20~40秒、または25~35秒などである。
【0075】
当業者であれば、適切な光照射量を選択することができ、あらためて、光照射量は、用いられる光増感剤、および標的細胞または標的組織に蓄積される光増感剤の量に依存している。可視スペクトルの吸光係数(例えば、赤色領域における吸光係数、または青色光を用いる場合は青色領域における吸光係数;用いられる光増感剤による)の高い光増感剤を用いる場合は、光照射量は通常低い。例えば、調節可能な出力電力が60mW以下であり、発光スペクトルが430~435nmであるLED系照明装置を用いる場合、フルエンスが0.05~20mW/cm2の範囲、例えば2.0mW/cm2で、0.24~7.2J/cm2の範囲の光照射量が用いられてもよい。あるいは、例えばルミソース(登録商標)ランプを用いる場合には、フルエンスが0.1~20mW/cm2(例えば、ルミソース(登録商標)では13mW/cm2)の範囲で、0.1~6J/cm2の範囲の光照射量が適切である。赤色光では、フルエンスが0.1~5mW/cm2の範囲、例えば0.81mW/cm2で、0.03~1J/cm2の範囲、例えば0.3J/cm2の光照射量が用いられてもよい。
【0076】
さらに、細胞の生存率を維持しようとする場合には、過剰なレベルの毒性種の生成は避けられるべきであり、関連するパラメータがそれに応じて調整されてもよい。
【0077】
本発明の方法は、光化学的処理によって、すなわち、光感作性薬剤が活性化する際に毒性種が生成することによる光力学的な治療効果によって、不可避的にいくらかの細胞障害を引き起こす場合がある。提案された使用によっては、この細胞死は重大ではないかもしれず、いくらかの細菌感染細胞を除去するのに実際のところ有利であるかもしれない。しかし、たいていの実施形態において、例えば抗菌効果を生じさせるために、細胞死は回避される。本発明の方法は、生存細胞の割合または比率が、光感作性薬剤の濃度または用量に対応して光照射量を選択することによって調節されるように、変更されてもよい。あらためて、当該技術分野において、このような技術は公知である。
【0078】
好ましくは、実質的に全ての細胞、またはかなり大多数の細胞(例えば、少なくとも75%の細胞、より好ましくは、少なくとも、80%、85%、90%、または95%の細胞)(処理に供した細胞のうちで)が死滅しない。インビトロでは、MTS試験などの、当該技術分野において公知の標準的な技術によって、PCI処理後の細胞の生存率を測定することができる。インビボでは、1種類以上の細胞の細胞死を、投与地点の半径1cm以内で(または組織のある深さにおいて)、例えば顕微鏡によって評価してもよい。細胞死は、直ちには起こらない場合があるので、%細胞死は、照射後数時間以内(例えば照射後4時間以内)に生き残っている細胞の割合をいうが、好ましくは照射から4時間以上経過後の%生存細胞をいう。
【0079】
PCIによって、抗菌剤が細胞のサイトゾルへと放出される。その後、薬剤は、細菌と相互作用することで、細菌を死滅または損傷させてもよいし、細菌の複製を防止してもよい。
【0080】
「死滅させる」とは、さらなる複製を行うことができなくなるまで、細菌を破壊することをいう。「損傷させる」とは、細菌が死ぬ、または複製できなくなるように、細菌が正常に機能する能力に影響を及ぼすことをいう。「複製を防止する」とは、例えば以下で説明する割合の通りに、細菌の複製を部分的に、または完全に、防止することをいう。好ましくは、本明細書で説明される方法、治療、または使用によって、処理された細菌のうち少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも75%、または少なくとも90%が死滅または損傷するか、あるいは、処理されていないコントロールと比べて、例えば少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%だけ、細菌感染症が防止または低減されるように、複製が防止される。
【0081】
本方法は、インビボで行われてもよいし、インビトロで行われてもよいし、エキソビボで行われてもよい。好ましくは、本方法は、インビボにおいて用いられる。
【0082】
インビトロにおける方法で用いられる場合、本発明の方法は、細胞内の細菌を死滅もしくは損傷させる、または細胞内の細菌の複製を防止する、インビトロにおける方法と称されてもよく、該方法は、細胞を抗菌剤および光感作性薬剤と接触させることと、光感作性薬剤を活性化するのに有効な波長の光を細胞に照射することとを含み、抗菌剤は、細胞のサイトゾルへと放出されて、該細胞内の細菌を死滅もしくは損傷させるか、あるいは細菌の複製を防止する。上述した好ましい態様は、この方法においても同様である。
【0083】
インビボにおいて用いられる場合、「被験体」は、哺乳類、は虫類、鳥類、昆虫、または魚類のことをいう。好ましくは、被験体は哺乳類であり、特に、霊長類(好ましくは、ヒト)、飼育動物もしくは愛玩動物、家畜、または実験動物である。したがって、好ましい動物としては、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ネコ、イヌ、サル、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、およびウマが挙げられる。
【0084】
好都合には、光感作性薬剤および抗菌剤は、組成物に含まれた状態で提供されてもよい。あるいは、これらは、別々の溶液または組成物に含まれて、異なる機構またはタイミングで投与または適用されてもよい。本明細書で言及されるように、「同時投与」および「同時適用」とは、同時に使用することではなく(タイミングが同じこと、および同じ組成物に含まれることのいずれでもない)、両方の成分が同じ方法において使用されることをいう。
【0085】
本発明の別の一面において、本発明は、被験体における細胞内細菌感染症の治療に使用するための、上記で定義された抗菌剤および上記で定義された光感作性薬剤、または抗菌剤と光感作性薬剤とを含む以下で定義されるような組成物も提供するものであって、好ましくは、該使用は、上記で定義された方法を含む。また、本発明は、好ましくは上記で定義された方法を用いて被験体における細胞内細菌感染症を治療するための医薬品の製造における、上記で定義された抗菌剤および/または上記で定義された光感作性薬剤の使用も提供する。
【0086】
抗菌物質としての抗菌剤及び光感作性薬剤の使用も提供され、好ましくは、薬剤は上記で定義されたものであり、本明細書で定義される方法にしたがって用いられる。
【0087】
本発明は、上記で定義された抗菌剤と上記で定義された光感作性薬剤とを含み、好ましくは治療に用いられる組成物をさらに提供する。組成物は、1つ以上の薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤をさらに含む医薬組成物の形態であってもよい。
【0088】
これらの組成物(および以下で説明する本発明の製品)は、例えば1つ以上の薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤を用いて、医薬分野で公知の技術および手順にしたがって好都合な様式で処方されてもよい。組成物は、徐放性組成物または緩効性組成物として処方されてもよい。本明細書で言及される「薬学的に許容される」とは、組成物(または製品)の他の成分と共存し、さらに受容者に生理学的に許容される成分をいう。組成物および担体または賦形剤材料の性質や、用量などは、その選択や所望の投与経路、治療目的などに応じて、常用の様式で選択されてもよい。用量は、同様に、常用の様式で決定されてもよいし、分子(あるいは、組成物または製品の成分)の性質、治療目的、患者/被験体の年齢、投与形態などに応じて決定されてもよい。光感作性薬剤に関しては、照射時に膜を破壊する効力/能力も考慮されるべきである。
【0089】
また、本発明は、被験体における細胞内細菌感染症の治療に、同時に、別々に、または順次に使用するための複合製剤として、上記で定義された抗菌剤と上記で定義された光感作性薬剤とを含む製品も提供する。
【0090】
最後に、本発明は、被験体における細胞内細菌感染症の治療に使用するためのキットであって、該キットは、
上記で定義された光感作性薬剤を含む第1の容器と、
上記で定義された抗菌剤を含む第2の容器と、を含む、キットを提供する。
【0091】
本発明の製品およびキットは、上記で定義された細胞内細菌感染症を治療または予防するのに用いられてもよい。
【0092】
実施例で説明される方法は、本発明のさらに好ましい態様を形成する。特に実施例で説明されるように、上述した好ましい特徴の全ての組み合わせが検討される。ここで、図面を参照し、限定されない実施例を用いて、本発明を説明する。図面は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【
図1】
図1は、Raw264.7細胞における細胞内表在性ブドウ球菌に対するゲンタマイシン処理の効力に及ぼすPCIの影響を示す。ファゴサイトーシス直後の当初の細胞内表在性ブドウ球菌数は、1ウエルあたり10
6CFUと決定された(取り込み)。ファゴサイトーシス後、0.25μg/mlのTPPS
2aのみ、または1μg/ml、10μg/ml、もしくは30μg/mlのゲンタマイシン(GEN)のみ(-)、または各ゲンタマイシンとTPPS
2aとの組み合わせ(+)を用いて、2時間、細胞を処理した。その後、10分間または15分間、細胞に光照射を行った。光照射を行わなかった細胞(光照射なし)および未処理かつ照射を行った細胞(GENなし、TPPS
2a「-」)をコントロールとして用いた。処理後、細胞外細菌の増殖を抑えるために、培地を、1μg/mlのゲンタマイシンを含む新しい培地と交換し、細胞を一晩インキュベートした。GENのみによる処理群と、GEN+TPPS
2aの各群との差異を、シダックの多重比較検定を用いて解析した。データは、平均±標準偏差を表す(n=3)。***はp<0.001である。独立した実験を2回行い、そのうちの1回をこの図に示す。各実験のデータおよび統計的有意性は、類似性が高かった。
【
図2】
図2は、光増感剤を活性化する2分間の光照射を行った場合および行わなかった場合の、Raw264.7細胞におけるゲンタマイシンおよびTPCS
2aの細胞内分布を示す。光照射を行う前に、10μg/mlのゲンタマイシン(GEN、青色蛍光)と1μg/mlのTPCS
2a(赤色蛍光)とを含む培地中で、細胞を一晩インキュベートした。合成画像において、ゲンタマイシンおよびTPCS
2aの細胞内共局在が、マゼンタで見られた。スケールバーは20μmである。
【
図3】
図3は、ゼブラフィッシュの胚に感染させる黄色ブドウ球菌の用量決定と、黄色ブドウ球菌およびゼブラフィッシュの食細胞の共局在を視覚化したものとを示す。A)異なる接種原を注入したゼブラフィッシュ胚における黄色ブドウ球菌のCFU数。胚に、1nlあたり100~6000CFUの黄色ブドウ球菌懸濁液を1nl注入し、注入直後に破砕し、得られた懸濁液を定量的に培養して、注入した黄色ブドウ球菌のCFU数を定量した。CFU数の中央値を線で示す。B)異なる黄色ブドウ球菌の接種原がゼブラフィッシュ胚の生存に及ぼす影響。PBSを注入したものをコントロールとして用いた。各群の当初の規模は、胚の数が26個から38個の範囲であった。C)注入から2時間後の2日齢のゼブラフィッシュ胚における黄色ブドウ球菌および食細胞の共局在。枠は、共局在が記録された領域を示し、
図3Dおよび
図3Eにおいて高倍率で示す。スケールバーは500μmである。緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する黄色ブドウ球菌と、mCherryタンパク質を発現するマクロファージまたはDsREDタンパク質を発現する好中球との共局在を記録したものを、それぞれ
図3Dおよび
図3Eに示す。
図3Dおよび
図3E中の矢印は、共局在を示す。スケールバーは100μmである。
【
図4】
図4は、0.4ngのゲンタマイシン(GEN)で処理した場合、または0.1ngおよび0.05ngのGENのみで処理した場合、または0.1ngおよび0.05ngのGENを2.5×10
-3ngのTPCS
2a(T)と組み合わせて処理した場合の、黄色ブドウ球菌を感染させた胚の生存割合を示す。PBSによるモック処理をコントロールとして用いた。各群の当初の規模は、胚の数が31個から33個の範囲であった。ゲンタマイシンのみで処理した群またはゲンタマイシンおよびTPCS
2aで処理した群の生存率と、PBSモック処理群の生存率との差異、さらにはゲンタマイシンおよびTPCS
2aで処理した群と、ゲンタマイシンのみで処理した各群との差異を、ログ・ランク検定を用いて解析した。**はp<0.01である。***はp<0.001である。
【
図5】
図5は、PCIによって、マクロファージ細胞株のエンドサイトーシス小胞からサイトゾルへとバンコマイシンが再局在化したところを示す。光照射前(
図5A)および光照射後(
図5B)における、TPCS
2aおよびBODIPY(登録商標) FLバンコマイシンの細胞内局在を、蛍光顕微鏡を用いて解析した。
【
図6】
図6は、PCIによって、マクロファージ内部におけるバンコマイシンの脱凝集が誘導されたところを示す。Raw264.7細胞を、
図5の細胞と同様に処理した。この実験では、検鏡時の光励起時間を、PCI前後の試料に対して同じとした。その結果、蛍光強度を定量的に比較することができる。
【
図7】
図7は、0.4ngのバンコマイシン(Vanco)のみで処理した場合、または0.4ngのバンコマイシンを2.5×10
-3ngのTPCS
2aおよび光照射と組み合わせて処理した場合(T)の、黄色ブドウ球菌を感染させた胚の生存割合を示す。PBSによるモック処理をコントロールとして用いた。バンコマイシンのみで処理した群の生存率と、バンコマイシンおよびTPCS
2aを用いて光照射を行った群の生存率との差異を、ログ・ランク検定を用いて解析した。*はp<0.05である。
【実施例0094】
実施例1:細胞内ブドウ球菌感染に対するゲンタマイシンの抗菌効力のPCIによる増強
以前は、テトラフェニルポルフィリンジスルホン酸(TPPS2a)およびその誘導体であるテトラフェニルクロリンジスルホン酸(TPCS2a)が、PCI用途に適した両親媒性光増感剤として用いられていた。TPPS2aおよびTPCS2aは、非常によく似た物理化学的性質を有しているが、赤色光で活性化することができるのは、TPCS2aのみである。赤色光は、組織を良好に透過するので、TPCS2aは、広範な臨床用途に適している。本研究では、抗生物質(抗菌剤)と組み合わせたPCIによって、光照射時に抗生物質のサイトゾルへの送達が増強されることで、細胞内細菌感染症に対処することができるかどうかを評価することを目的とした。ゲンタマイシンは、細胞内抗菌効力が低いので、PCIの潜在的な効果を調べるために、これを選択した。
【0095】
材料および方法
細菌株および接種原の調製
表在性ブドウ球菌O-47株(リオールら,2014,上記)を、Raw264.7マウスマクロファージ(Raw264.7細胞)を用いたインビトロの研究に用いた(シャー(Xia)ら,2008,ACSナノ(Acs Nano),2(10),2121~2134頁)。5%の牛胎児血清(FCS)を添加したRPMI培地(ギブコ(Gibco)社、ペイズリー、英国)(本明細書ではRPMIと称する)中での表在性ブドウ球菌に対するゲンタマイシン(セントラファームB.V.社、オランダ)の最小発育阻止濃度および最小殺菌濃度は、それぞれ、0.04μg/mlおよび0.33μg/mlと求められた。黄色ブドウ球菌ATCC49230株を用いて、ゼブラフィッシュの胚に感染させた。以前に説明されている手順(リオールら,2014,上記;およびリオールら,2017,ヨーロピアン・セルズ・アンド・マテリアルズ(European Cells & Materials),33,143~157頁)にしたがい、GFPを含む黄色ブドウ球菌RN4220株を発現するプラスミド、WVW189(黄色ブドウ球菌RN4220-GFP)を構築して、ゼブラフィッシュ胚における細胞と細菌との相互作用をインビボで視覚化するのに用いた。以前に説明されている手順(リオールら,2014,上記;およびリオールら,2017,上記)にしたがって、異なる実験のために、所望の濃度の細菌懸濁液(PBSまたはRPMI中)を調製した。
【0096】
単独で用いた場合または表在性ブドウ球菌と組み合わせた場合のゲンタマイシンおよび光増感剤TPPS2aのRaw264.7細胞に対する細胞毒性
Raw264.7細胞を、1ウエルあたり1×105個の濃度で96ウエルプレート(ポリスチレン製ヌンクロン(Nunclon)(商標)クリアTCプレート、平底;グライナー(Greiner)社、オランダ)播種し、5%のCO2を含む加湿雰囲気中、37℃のRPMI中で一晩インキュベートした(特に指定しない限りこの条件である)。次いで、ゲンタマイシン(15.6~1000μg/ml)を含む200μlのRPMI中で、細胞を一晩インキュベートした。または、細胞を、光増感剤TPPS2a(0.1~0.4μg/ml)(PCIバイオテクAS社、ノルウェー)を含むRPMI中で2時間インキュベートし、結合しなかったTPPS2aを除去するために、この培地を新しいRPMIと交換して、さらに2時間インキュベートした。ずっとRPMI中でインキュベートしたRaw264.7細胞をコントロールとして用いた。ルミソース(PCIバイオテックAS社、ノルウェー)を用いた15分の光照射時以外は、アルミニウムホイルを用いて細胞を光から保護した。光照射後、新しいRPMI中で細胞を24時間インキュベートした。Raw264.7細胞の代謝活性に及ぼすゲンタマイシンおよびTPPS2aの影響を、製造者の取扱説明書にしたがって、それぞれ、インキュベーションの24時間後にMTTアッセイを用いて、または光照射の直後もしくは24時間後にWST-1アッセイによって、調べた(セルMTT(Cell MTT)アッセイキットまたはWST-1アッセイキット、シグマ-アルドリッチ(Sigma-Aldrich)社、オランダ)。TPPS2aを単独で用いた場合、または表在性ブドウ球菌と組み合わせて用いた場合のRaw264.7細胞の生存率に及ぼす影響を調べるため、45分間、細胞に細菌をファゴサイトーシスさせた後(ファゴサイトーシスアッセイについては、以下で詳細に説明する)、0.25μg/mlのTPPS2aを含む200μlのRPMI中で2時間インキュベートした。または、TPPS2aのみを含む200μlのRPMI中でずっと、細胞をインキュベートした(細菌なし)。その後、新しいRPMIで細胞を洗浄し、次いで、光照射を5分間、または10分間、または15分間、行った。あるいは、洗浄後、光照射を行わなかった。処理として光照射のみを行った細胞をコントロールとして用いた。ヨウ化プロピジウムの流入を測定して、光照射直後または24時間後の細胞生存率の低下を定量化した。
【0097】
Raw264.7細胞による表在性ブドウ球菌のファゴサイトーシス
培養後、表在性ブドウ球菌細菌を沈殿させ、0.5mlのヒト血清(H1血清、Cat N13-402E、バイオ・フィッテイカー(Bio Whittaker)社、オランダ)と混合した1.5mlのPBSに再懸濁し、オプソニン化のために20分間インキュベートした。接種原は、RPMIを用いて1.8×108CFU/mlに調整した。細胞の培地を、細菌の接種原(細胞に対する細菌の比率は40:1)と交換し、ファゴサイトーシスを45分間進めた。その後、Raw264.7細胞を、60μlの予熱したPBS(37℃)で穏やかに4回洗浄し、浮遊性の表在性ブドウ球菌の持ち越しを防止するために、200μlの予熱したPBS(37℃)で最終洗浄した。このような洗浄ステップ後に見られた浮遊性の表在性ブドウ球菌は、常に、回収された細胞内細菌数の0.5%未満であった。0.5mMのEDTAを含む100μlのRPMI中でインキュベートすることによって、Raw264.7細胞を剥離した。剥離した細胞をバイアルに移し、水浴超音波処理器(トランスソニック(Transsonic)460、エルマー・シュミットバウアー(Elma Schmldbaur GmbH)社、ドイツ)中で5分間、40μlの1%サポニンとインキュベートすることによって溶解した。超音波処理物を遠心分離し、沈殿した細菌を繰り返し洗浄し、PBSに再懸濁した後、連続的に10倍希釈したものを定量培養した。Raw264.7細胞中で生存している細胞内の表在性ブドウ球菌を、1ウエルあたりのCFU数として表した。
【0098】
細胞内抗菌活性アッセイ
ファゴサイトーシス後、ゲンタマイシン(1μg/ml、10μg/ml、または30μg/ml)を単独で含む200μlのRPMI、またはゲンタマイシン(1μg/ml、10μg/ml、または30μg/ml)とTPPS2a(0.25μg/ml)との組み合わせを含む200μlのRPMIのいずれかで、Raw264.7細胞をインキュベートした。RPMI中でインキュベートした未処理の細胞、またはTPPS2aのみを含むRPMI中でインキュベートした未処理の細胞をコントロールとした。TPPS2aとインキュベートした細胞について、結合しなかったTPPS2aを除去するために、培地を、同じ濃度のゲンタマイシンを含む新しいRPMIと交換した後、さらに2時間インキュベートした。その後、1μg/mlのゲンタマイシンを含む新しいRPMI中で細胞をインキュベートし、10分間または15分間、光照射を行った。光照射を行わなかった細胞をコントロールとした。光照射後、細胞を一晩インキュベートし、溶解した後、生き残っている細菌の定量培養を行った。
【0099】
蛍光ラベル化ゲンタマイシンの調製
個々のゲンタマイシン分子が1つ以上のアレクサフルオロ(Alexa Fluor)405分子でラベルされる可能性を最小化するために、過剰量のゲンタマイシン(K2CO3、pH9中)(シグマ-アルドリッチ社)をアレクサフルオロ405サクシニミジルエステル(ライフ・テクノロジー(Life Technologies)社)と混合した。抱合後、C-18カラムを用いた逆相クロマトグラフィーにより、反応混合物を分離して、抱合しなかったゲンタマイシンおよびアレクサフルオロ405分子から抱合体を精製した。単離されたアレクサフルオロ405ラベル化ゲンタマイシンを分取し、凍結乾燥し、使用時まで-20℃の暗所で保存した。
【0100】
Raw264.7細胞におけるゲンタマイシンおよび光増感剤の細胞内分布の共焦点蛍光顕微鏡検査法
一晩培養を行った後、培養皿(マットテック・ガラス・ボトム・カルチャー・ディッシュ(MatTek Glass Bottom Culture Dish)、米国)の底に、1ウエルあたり3.0×105個のRaw264.7細胞を播種し、10μg/mlのゲンタマイシンを単独で含む1mlのRPMI、または10μg/mlのゲンタマイシンと1μg/mlのTPCS2a(PCIバイオテクAS社、ノルウェー)との組み合わせを含む1mlのRPMI中でインキュベートした。その後、細胞を、PBSを用いて穏やかに繰り返し洗浄し、2分間光照射を行い、共焦点顕微鏡法(SP5、ライカ(Leica)社、オランダ)のために、プロロング(登録商標)・ゴールド・アンチフェード・リージェント(Prolong Gold antifade reagent)(ライフ・テクノロジー社、オランダ)で覆った。
【0101】
ゼブラフィッシュの管理および維持
成体の野生型(WT)ゼブラフィッシュおよびトランスジェニック(Tg)ゼブラフィッシュを、国内の動物福祉委員会(DEC)によって認可された国内の動物福祉規約にしたがって管理した。成体のゼブラフィッシュおよび胚の維持については、以前に説明されている(ザング(Zhang)ら,2017,ジャーナル・オブ・バイオメディカル・マテリアルズ・リサーチ・パートA(J. Biomed. Mater. Res. A),105(9),2522~2532頁)。
【0102】
ゼブラフィッシュ胚の血液循環への注入
以前に説明されている注入手順(ザングら,2017,上記)にしたがって、血島またはキュビエ管を介してゼブラフィッシュ胚の血液循環への注入を行った(ベナルド(Benard)ら,2012,ジャーナル・オブ・ビジュアライズド・エクスペリメンツ(Journal of visualized experiments):JoVE,61)。注入1回あたりの液体の体積を、本研究のすべての注入に対して1nlに調整した。
【0103】
ゲンタマイシン単独またはゲンタマイシンとTPCS2aとの組み合わせのゼブラフィッシュ胚における毒性試験
ゲンタマイシン溶液またはTPCS2a溶液(どちらもPBSに溶解)またはその混合物を、受精から32時間後(32hpf(hours post fertilization))に、WTゼブラフィッシュ胚に注入した。コントロール胚にはPBSを注入した。34hpfにルミソースを用いて10分間の光照射を行う時以外は、アルミニウムホイルを用いて胚を光から保護した。胚の生存(心拍、動き)を、6dpiまで毎日モニターした。
【0104】
ゼブラフィッシュ胚感染のための黄色ブドウ球菌用量の知見
30hpfに、黄色ブドウ球菌ATCC49230の段階的接種原を野生型ゼブラフィッシュ胚に注入し、個別に200μlのE3培地中で維持した。培地を毎日新しく交換した。1群あたり5~6個の胚を定量培養し、マグナライザー(MagNA lyser)(ロシュ(Roche)社、オランダ)を用いて破砕することで、注入用量を確認した。4dpiまで毎日、生存を確認した。
【0105】
ゼブラフィッシュ胚におけるファゴサイトおよび細菌の共局在の視覚化
受精から2日後(2dpf(2 days post fertilization))に、好中球が赤色蛍光でラベルされているという特徴を有するTg系統(lyzc:DsRed)のゼブラフィッシュ胚(ホール(Hall)ら,2007,BMCデベロップメンタル・バイオロジー(BMC Dev. Biol.),7,42頁)、またはマクロファージが赤色蛍光でラベルされているという特徴を有するTg系統(fms:Gal4:mCherry)のゼブラフィッシュ胚(グレイ(Gray)ら,2011,トロンボシス・アンド・ヘモスタシス(Thromb. Haemostasis),105(5),811~819頁)に、黄色ブドウ球菌RN4220-GFPの接種原を、キュビエ管を介して静脈より注入した。注入から2時間後、蛍光顕微鏡(LM80、ライカ社、オランダ)を用い、FITCフィルターおよびmCherryフィルターを通して明視野で画像を記録した。
【0106】
黄色ブドウ球菌感染ゼブラフィッシュ胚のゲンタマイシン単独またはゲンタマイシンとTPCS2aとの組み合わせによる処理
30hpfに、適切な用量の黄色ブドウ球菌ATCC49230を、野生型ゼブラフィッシュ胚に血島を介して静脈より注入し、異なる処理を行うため、無作為に群分けした。32hpfに、ゲンタマイシン(0.05μg/ml、0.1μg/ml、または0.4μg/ml)を単独で含む1nlのPBS溶液、またはゲンタマイシン(0.05μg/ml、0.1μg/ml、または0.4μg/ml)と0.25μg/mlのTPCS2a(2.5×10-3ngを含むことになる)との組み合わせを含む1nlのPBS溶液を、静脈より注入した。コントロール胚にはPBSを注入した。34hpfに10分間の光照射を行う時以外は、アルミニウムホイルを用いて胚を光から保護し、E3培地中で個別に維持した。培地は毎日新しく交換した。6dpiまで生存をモニターした。
【0107】
統計解析
インビトロにおける毒性試験およびRaw264.7細胞における細胞内細菌の死滅については、複数群と比較用の同一群との差異を、ダネットの多重比較検定を用いて解析した。対比較用に指定された群間の差異を、シダックの多重比較検定を用いて解析した。胚の生存割合は、カプラン-マイヤー法を用いて評価した。一対の生存曲線間の差異を、ログランク検定を用いて解析した。P値<0.05の場合に、差異が有意であるとみなした。解析はすべて、グラフパッド・プリズム(Graphpad Prism)7.0を用いて行った。
【0108】
結果
Raw264.7細胞の代謝活性に及ぼすゲンタマイシンおよびTPPS2aの影響
細胞内死滅アッセイを行うために、Raw264.7細胞に対するゲンタマイシンおよびTPPS2aの許容濃度を、それぞれMTTアッセイおよびWST-1アッセイによって評価した。ゲンタマイシンの細胞外濃度が250μg/ml以下であれば、24時間インキュベートした後、Raw264.7細胞の代謝活性が低下することはなかったので、これをさらなる実験におけるゲンタマイシンの最大濃度として選択した。
【0109】
光増感剤TPPS2aによるRaw264.7細胞の代謝活性の阻害の可能性を、15分間の光照射を行った直後(T=0)または24時間後(T=24)に評価した。TPPS2aは、0μg/ml、0.1μg/ml、0.2μg/ml、0.25μg/ml、0.3μg/ml、および0.4μg/mlで試験を行った。光照射を行わなかった場合、試験したTPPS2aの最高濃度である0.4μg/mlでは、いずれの時点においても、代謝活性は低下しなかった。光照射後、TPPS2aの濃度が0.25μg/ml以下では、いずれの時点においても、Raw264.7細胞の代謝活性は低下しなかった(データは示さない)。したがって、さらなる実験におけるTPPS2aの最大濃度として、0.25μg/mlを選択した。
【0110】
PCI処理単独、またはPCI処理と感染との組み合わせが細胞生存率に及ぼす潜在的な負の影響を調べるために、TPPS2aを単独(0.25μg/ml)で用いて、または表在性ブドウ球菌存在下でTPPS2aを用いて(TPPS2a+表在性ブドウ球菌)(細胞に対する細菌の比率は40:1)、Raw264.7細胞を処理し、5分間、または10分間、または15分間、光照射を行った。未処理だが光照射は行った細胞を、コントロールとして用いた。ヨウ化プロピジウムの流入を測定して、光照射直後(T=0)および1時間後(T=1)の細胞生存率の低下を定量化した。光照射自体は、細胞生存率に影響しなかった。TPPS2aを用いた処理を行うと、5分間、または10分間、または15分間、光照射を行った際に、細胞生存率は有意に低下した(データは示さない)。TPPS2a+表在性ブドウ球菌で処理した細胞に、10分間、または15分間、光照射を行った場合、同様の結果が得られた(データは示さない)。TPPS2a+表在性ブドウ球菌で処理し、5分間、光照射を行った細胞の生存率の低下も観察したが、光照射を行わなかったコントロール群と統計的な差異はなかった(データは示さない)。
【0111】
Raw264.7細胞における細胞内表在性ブドウ球菌のゲンタマイシンによる死滅のPCIによる増強
TPPS
2a-PCIが、ゲンタマイシンによる細胞内表在性ブドウ球菌の死滅を増強したかどうかを調べるために、表在性ブドウ球菌感染Raw264.7細胞を、TPPS
2aのみ(0.25μg/ml)、またはゲンタマイシンのみ(1μg/ml、10μg/ml、または30μg/ml)、または各ゲンタマイシンとTPPS
2aとの組み合わせ、に暴露した(
図1)。ゲンタマイシンとTPPS
2aとの組み合わせは、光照射を5分間行った際は、細胞内細菌の死滅に影響しなかった(データは示さない)。したがって、10分間または15分間、細胞の光照射を行い、光照射を行わなかった細胞および未処理かつ光照射を行った細胞をコントロールとした。光照射を行わなかった場合、どの処理によっても、Raw264.7細胞における細胞内細菌の数は、未処理群と比較して減少しなかった。光照射を行った場合、TPPS
2aのみを用いた処理は、未処理かつ光照射を行った群と比較して、表在性ブドウ球菌の細胞内生存に影響しなかった。このことは、光で誘導されるTPPS
2aの活性化自体では、細胞内細菌を死滅させることはなかったということを示している。ゲンタマイシンのみを用いた処理でも、ゲンタマイシンの濃度および光照射時間に関係なく、細胞内表在性ブドウ球菌を死滅させることはなかった。10分間の光照射を行った場合、30μg/mlのゲンタマイシンによる死滅は、TPPS
2a-PCIによって有意に増強された(細胞内細菌数が1ログ低下した)が、10μg/mlのゲンタマイシンではそうではなかった。15分間の光照射を行った場合、10μg/mlのゲンタマイシンとTPPS
2aとの組み合わせおよび30μg/mlのゲンタマイシンとTPPS
2aとの組み合わせを用いて処理したRaw264.7細胞における細胞内表在性ブドウ球菌の死滅は、それぞれ1ログ低下および2.5ログ低下と有意に増強された。
【0112】
光照射を行った場合および行わなかった場合のRaw264.7細胞におけるゲンタマイシンおよびTPCS
2aの細胞内分布
光照射を行った際に、PCIがゲンタマイシンのサイトゾル内への放出を誘導したかどうかを調べるために、光照射を行った場合および行わなかった場合のRaw264.7細胞におけるゲンタマイシンおよび光増感剤TPCS
2aの細胞内分布細胞内分布を視覚化した(
図2)。TPCS
2aは赤色光を吸収するので、インビボにおける使用に適している。したがって、この細胞を用いた研究およびゼブラフィッシュ胚を用いたインビボにおける研究に、TPCS
2aを選択した。光照射を行わなかった場合、ゲンタマイシンおよびTPCS
2aのどちらも、エンドサイトーシス小胞のような、細胞周縁にある細胞区画内に局在していた。光照射を行った後は、どちらの薬剤もサイトゾルへと放出されていた。ゲンタマイシンは、Raw264.7細胞の核に蓄積しているように思われた。
【0113】
ゲンタマイシンおよびTPCS2aをそれぞれ単独で用いた場合またはこれらを組み合わせた場合のゼブラフィッシュ胚に対する毒性
ゼブラフィッシュ胚に対する毒性を試験するために、段階的用量のゲンタマイシン(胚1つあたり、1nlのPBS中0.16~16ngの範囲の用量を注入し、1nlのPBSをコントロールとした)、TPCS2a(胚1つあたり、1nlのPBS中2.5×10-2ng、2.5×10-3ng、および2.5×10-4ngの用量を注入し、1nlのPBSをコントロールとした)、およびゲンタマイシンとTPCS2aとの組み合わせ(1.6ngおよび0.8ngのGENをそれぞれ単独で、または1.6ngおよび0.8ngのGENを2.5×10-3ngのTPCS2aと組み合わせたもの(1nlのPBS中)を注入し、1nlのPBS注入をコントロールとした)を注入することが生存に及ぼす影響を評価した。ゲンタマイシンおよびTPCS2aは、どちらも、用量依存的な毒性を示し、最大非毒性濃度は、それぞれ、胚1つあたり2ngおよび2.5×10-3ngであった(データは示さない)。胚1つあたり1.6ngまたは0.8ngのゲンタマイシンと胚1つあたり2.5×10-3ngのTPCS2aの組み合わせは、胚の生存を低下させることはなかった(データは示さない)。各群の当初の規模は、胚の数が33~36個の範囲であった。
【0114】
ゼブラフィッシュ胚感染のための黄色ブドウ球菌用量の知見およびインビボにおける細胞と病原菌との相互作用の視覚化
ゼブラフィッシュ胚を用いた感染実験に適した黄色ブドウ球菌の用量を評価するために、受精から30時間後に、段階的接種原を血液循環に注入した。注入した黄色ブドウ球菌の中央CFU数は、意図された投与用量が胚1つあたり100CFU、500CFU、3000CFU、および6000CFUである群に対して、それぞれ、胚1つあたり150CFU、500CFU、2750CFU、および7500CFUであった。各群に回収されたCFU数のばらつきは、小さかった(
図3A)。黄色ブドウ球菌感染胚の死滅数は、接種原の用量に比例していた(
図3B)。胚1つあたり3000CFUの用量では、注入から4日後に胚の約50%が死滅したが(
図3B)、これは、抗生物質処理の効力を評価するのに適しているので、この用量をさらなる実験のために選択した。
【0115】
ゲンタマイシン単独またはゲンタマイシンとTPCS
2aとの組み合わせで処理した黄色ブドウ球菌感染胚の生存
インビボにおけるブドウ球菌感染に対するゲンタマイシンの抗菌効力をPCIが増強したかどうかを調べるために、黄色ブドウ球菌感染ゼブラフィッシュ胚を、ゲンタマイシン単独またはゲンタマイシンとTPCS
2aとの組み合わせを用いて処理した。注入した黄色ブドウ球菌の中央CFU数は、胚1つあたり2850CFUと決定された(データは示さない)。ゲンタマイシンを用いた処理はすべて(TPCS
2aを含む含まないにかかわらず)、PBSによるモック処理と比較して、生存を有意に改善させた(
図4)。0.1ngのゲンタマイシンにTPCS
2aを添加すると、0.1ngのゲンタマイシンを単独で用いた処理と比較して、処理結果は有意に改善され、0.4ngのゲンタマイシン処理で得られたものと同様の生存レベルとなった。このことは、PCIが、黄色ブドウ球菌感染に対するゲンタマイシンの抗菌活性を増強し、その効力を得るのに必要な用量を低減させるということを示す。しかし、胚を0.05ngのゲンタマイシンで処理した場合の効力は、TPCS
2aによって改善しなかったので、TPCS
2aの増強効果を観察するには、最低限のゲンタマイシンの投与が必要である(
図4)。
【0116】
結論
細胞内部での抗菌効力が限定的な抗生物質であるゲンタマイシンのブドウ球菌に対する細胞内活性は、インビトロおよびインビボのどちらにおいても、PCIによって増強されることが示された。Raw264.7細胞においては、PCIは、光照射を行った後に、ゲンタマイシンのサイトゾルへの放出を誘導し、ファゴサイトーシスされた表在性ブドウ球菌の根絶を向上した。ファゴサイトによって内在化された黄色ブドウ球菌を用いたゼブラフィッシュ胚モデルでは、PCIは、(細胞内)黄色ブドウ球菌感染に対するゲンタマイシン処理の効力を増強し、必要な用量を低減させた。これらの結果は、PCIが、細胞内細菌に関連した感染症に対する抗生物質の細胞内活性を増強するということを初めて証明するものである。
【0117】
本研究では、光照射時に、Raw264.7細胞に対する細胞毒性がいくらか観察されたが、PCIとゲンタマイシンとの組み合わせを用いたゼブラフィッシュ胚の処理では、処理後の胚の生存に悪影響は及ぼさなかった。これらの結果は、PCIは、インビトロにおいて、細胞にある程度の損傷を引き起こすが、インビボにおける抗生物質増強活性に必要なレベルにおいては、ゼブラフィッシュ胚を殺さないということを示す。
【0118】
これによって、PCIを介した(細胞内)感染症の治療を、感染が起きている領域に光照射を行った際に、位置特異的に適用することが可能となる。その結果、光照射を行わない領域の正常組織および正常細胞に対する光増感剤の潜在的な副作用を、強力に抑えることができる。
【0119】
ここで報告した実験において、Raw264.7細胞を用いたインビトロにおけるアッセイでは、処理後に細胞内での死滅が起こるようにするために、細胞は、細菌をファゴサイトーシスした後、生き続ける必要がある。したがって、表在性ブドウ球菌を用いた。なぜなら、この細菌は、インビトロにおけるマクロファージ内で生き延びることができるが、活発に増殖することはないからである(ルメール(Lemaire)ら,2010,アンチマイクロバイアル・エージェンツ・アンド・ケモセラピー,54(6),2549~2559頁)。しかし、ゼブラフィッシュ胚モデルでは、抗菌処理によって、胚を急死から救わなければならないので、胚を殺すことができる細菌病原体が必要であった。表在性ブドウ球菌は、胚1つあたりのCFUが約3.8×104という非常に高い接種原を静脈より注入した後でも、胚を殺すことはなかった(データは示さない)。したがって、ゼブラフィッシュ胚に急速に広く感染する能力を有することが知られている黄色ブドウ球菌(プライスナーら,2008,上記)を、本インビボ研究に用いた。ゼブラフィッシュ胚の発達段階の初期において、黄色ブドウ球菌の除去は、主にマクロファージおよび好中球によるファゴサイトーシスに依存しており(プライスナーら,2008,上記)、これらはどちらも、受精から30時間後の胚において機能している(トレド(Trede)ら,2004,イミュニティ(Immunity),20(4),367~379頁)。ゼブラフィッシュ胚を用いる他の研究(プライスナーら,2008,上記;プライスナーら,2012,上記)と同様に、本研究において、注入後2時間という速さで、黄色ブドウ球菌および食細胞の共局在が観察されたが、これは、この期間に効率的なファゴサイトーシスが生じたことを示唆している。このことは、抗生物質の細胞内活性を試験することに対するゼブラフィッシュ胚感染モデルの妥当性を強調するものである。
【0120】
細胞内部に蓄積する抗生物質の量は、細胞内細菌を死滅させる効率においてきわめて重要である(セラールら,2003,上記;およびバルシア-マッケイ(Barcia-Macay)ら,2006,アンチマイクロバイアル・エージェンツ・アンド・ケモセラピー,50(3),841~851頁)。したがって、表在性ブドウ球菌を飲み込んだRaw264.7細胞のインビトロモデルにおいては、比較的高濃度のゲンタマイシン(10μg/mlおよび30μg/ml)に2時間、細胞を暴露させた。このように細胞外濃度が高い場合であっても、ゲンタマイシンは、細胞内細菌の表在性ブドウ球菌を死滅させることはなかった。顕著には、処理をPCIの使用と組み合わせることで、ゲンタマイシンの抗菌効力が有意に向上した(
図1)。PCIの同様の効力増強効果は、ゼブラフィッシュ胚黄色ブドウ球菌感染モデルにおいて、インビボで観察された。PCIは、黄色ブドウ球菌感染胚のゲンタマイシン処理の結果を有意に増強し、必要な用量を低減した(
図4)。しかし、インビトロおよびインビボのいずれにおいても、最低用量のゲンタマイシンの効力に対するPCIの効果は観察されず、このことは、十分量の細胞内ゲンタマイシンが必要条件であることを示している。抗生物質が低用量の場合に効力をPCIで増強するには、ゲンタマイシンの取り込み期間を延ばすことが期待される。
【0121】
興味深いことに、遊離したゲンタマイシン分子は、光照射を行った後、Raw264.7細胞の核に蓄積しているようであった(
図2)。この観察は、既に報告されている、ゲンタマイシンが腎臓細胞の核に結合することができるという結果(ミュルダール(Myrdal)ら,2005,ヒアリング・リサーチ(Hearing Res.),204(1-2),156~159頁)と一致する。理論的には、このような結合によって、サイトゾルにおける遊離ゲンタマイシン量は低下し得るが、PCIによるゲンタマイシンの効力の増強が、なお観察された。したがって、核へ結合しない抗生物質の細胞内活性は、PCIによってさらに大きく増強されるであろう。
【0122】
細菌および抗生物質分子が細胞内で異なる位置に存在するということも、抗生物質の細胞内活性に潜在的に影響を及ぼす(キャリン,2003,上記)。ファゴサイトーシス後、ブドウ球菌を含むいくつかの細菌種は、主にファゴソームに捕捉されており、他の小胞に取り込まれた抗生物質によって、効率的に根絶することはできない(セラールら,2003,上記;バルシア-マッケイら,2006,上記;およびベルナルド(Bernardo)およびシモンズ(Simons),2009,サイトメトリー・パートA(Cytom. Part A),77A(3),10頁)。本研究では、抗生物質を含むエンドソームを破壊した後、解離した光増感剤(の一部)が、細菌を含むファゴソームの膜に再局在化し、光照射期間にこれらの膜も破壊すると推測している。したがって、ファゴソームに存在している細菌の少なくとも一部がサイトゾルへと放出され、より速く、ゲンタマイシンによって死滅させられるのかもしれない。また、PCIを行っている間に、光増感剤の光活性化によって破壊された小胞が細胞内において他の無傷の小胞と融合し、さらなる光照射を行わずとも、無傷の小胞においても漏出/破壊を起こさせる可能性もある。したがって、このような融合も、細菌および抗生物質の両方のサイトゾルへの放出に(部分的に)寄与し、細胞内抗菌作用を促進し得る。よって、これらの実験に基づいて、PCIが、バンコマイシンやオリタバンシン、各種マクロライドなどの他の抗生物質の細胞内活性を向上することも、期待することができる。このため、結果として、細胞内部におけるこのような抗生物質の低い許容濃度のために、耐性発現が防止され得る。したがって、PCIは、細胞内感染症を首尾よく治療することができる抗生物質の数を増やすことができる。さらに、PCIを用いて、抗生物質の必要用量を低減し得る。
【0123】
本実験は、PCIを用いることで、細胞内感染症の抗生物質による治療を改善し得、かつ、耐性発現を防止するのに役立ち得るということを示している。
【0124】
実施例2:細胞内ブドウ球菌感染に対するバンコマイシンの抗菌効力のPCIによる増強
実施例1の実験と比較して、抗菌剤としてバンコマイシンを用いたこと以外は、同様の実験を行った。
【0125】
方法及び結果
PCIは、マクロファージにおいて、エンドサイトーシス小胞からサイトゾルへとバンコマイシンを再局在化させる
マクロファージにおいて、PCI処理によって、バンコマイシンをエンドサイトーシス小胞から放出できるかを調べるために、Raw264.7マクロファージ細胞株を用いて実験を組み立て、蛍光ラベル化バンコマイシンおよびTPCS2aの光照射前後の細胞内局在を調べた。
【0126】
1μg/mlのTPCS
2aおよび50μg/mlのBODIPY(登録商標) FL-バンコマイシン(Vanco-FL)(ライフ・テクノロジー社)とともに、マクロファージ細胞株Raw264.7を18時間インキュベートした。薬剤を含まない培地で細胞を2回洗浄し、薬剤を含まない培地中で4時間インキュベートした後、ルミソースを用いて120秒間、光照射を行った。光照射を行う前(A)および行った後(B)に、TPCS
2aおよびBODIPY(登録商標) FL-バンコマイシンの細胞内局在を、以下のフィルター設定を用いて蛍光顕微鏡検査法によって解析した。
TPCS
2a:励起:バンドパス:395~440nm、二色性ビームスプリッター 460nm
発光:ロングパス 620nm
BODIPY:励起:バンドパス:450~490nm
発光:バンドパス:500~550nm
結果を
図5に示す。
【0127】
光照射を行う前は(
図5A)、バンコマイシンおよびTPCS
2aはいずれも、エンドサイトーシス小胞に相当する細胞内の小さな地点に局在し、かつ、バンコマイシンおよびTPCS
2aは、高確率で同じ小胞内に共局在していた(「合成」パネルの明るい点)ということがわかる。光照射を行った後は、バンコマイシンおよびTPCS
2aは、エンドサイトーシス小胞から放出された。これは、細胞内の個別の点が消失し、蛍光化合物の局在が細胞体全体に拡散していることより、
図5Bから明確にわかることである。このことは、PCIが、細胞内小胞から細胞のサイトゾルへとバンコマイシンを放出することができるということを示す。
【0128】
PCIの効果は、
図6においてさらに明確に見られる。同図でも、バンコマイシン-BODIPYの蛍光を、PCIを行う前後で定量的に比較することができる。PCIは、エンドサイトーシス小胞から細胞のサイトゾルへのバンコマイシンの細胞内再局在化を誘導するだけでなく、バンコマイシン-BODIPYからの蛍光シグナルの顕著な上昇を誘導しているようでもあるということがわかる。この理由は、恐らく、バンコマイシン分子は、エンドソーム内に蓄積し、放出されると、脱凝集して、サイトゾルにおける分布容積がかなり大きくなるためである。蛍光分子の凝集によって蛍光の消光が起こり、脱凝集すると、凝集体の蛍光物質からの蛍光が実質的に増加するということがよく知られている。一般に、凝集した分子は、治療標的と相互作用することができないので、PCIを行った後に見られる脱凝集によって、PCIで達成することができる抗菌活性が、さらに増強される。
【0129】
PCIはゼブラフィッシュ胚におけるバンコマイシンの抗菌効果を増強する
バンコマイシン(Vanco)を単独で用いた場合、またはバンコマイシンをTPCS2aおよび光照射と組み合わせて用いた場合(T)の、感染を起こしていないゼブラフィッシュ胚に対する毒性を調べた。1つの胚あたり、バンコマイシン(1nlのPBSあたり0.4ng、1.6ng、または6.4ng)、または1nlのPBSあたり2.5×10-3ngのTPCS2aとバンコマイシンを組み合わせたものを、1回の投与につき注入した。注入後、E3培地を含むペトリディッシュにおいて、ゼブラフィッシュ胚を群分けして維持した。光照射を行うペトリディッシュをルミソース照明装置に設置し、胚の光照射を10分間行った。各群の当初の規模は、胚の数が27~29個であった。
未感染胚1つあたり0.4~6.4ngの用量のバンコマイシンを注入すると、ゼブラフィッシュ胚に対する毒性は用量依存性を示し、注入後6日(6dpi(days post injection))で、胚のうちの約5%~20%が死に至った(データは示さない)。バンコマイシンとTPCS2a/光照射を組み合わせて用いると、より強い毒性が生じ、胚のうちの約20~40%が6dpiで死に至った(データは示さない)。
【0130】
黄色ブドウ球菌に対するバンコマイシンの抗菌効力がPCIによって増強されるかどうかを調べるためにバンコマイシン単独(0.4ng)またはバンコマイシンとTPCS2a(2.5×10-3ng)の組み合わせを用いて、黄色ブドウ球菌感染ゼブラフィッシュ胚を処理した。PBSによるモック処理をコントロールとして用いた。注入後、E3培地を含むペトリディッシュにおいて、ゼブラフィッシュ胚を群分けして維持した。ペトリディッシュをルミソース照明装置に設置し、胚の光照射を10分間行った。各群の当初の規模は、胚の数が29個または30個であった。バンコマイシン単独群の生存率とバンコマイシン-TPCS2a/光照射群の生存率との差異を、ログ・ランク検定を用いて解析した。*はp≦0.033である。
【0131】
注入した黄色ブドウ球菌の中央CFU数は、胚1つあたり4300CFUと求められた。バンコマイシン単独では、感染胚の生存率に対して何も影響はなかったが、感染による生存率の低下は、バンコマイシンとTPCS
2a/光照射(T)との組み合わせによって有意に遅延されたということがわかる(
図7)。なお、毒性試験(上述、データは示さない)によると、バンコマイシンとTPCS
2a/光照射(T)との組み合わせ自体、バンコマイシン単独の場合よりも死ぬ胚が多く(少なくとも15%高い)、このことは、PCIがバンコマイシンの抗菌効果を増強する効果は、おそらく、
図7から明らかな分よりも、さらに大きいということを意味する。