(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162285
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】金属表面を洗浄するための、ポリオキシアルキレン非イオン性界面活性剤の混合物を含有する洗浄溶液
(51)【国際特許分類】
C11D 1/722 20060101AFI20231031BHJP
C23G 1/10 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C11D1/722
C23G1/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023134285
(22)【出願日】2023-08-21
(62)【分割の表示】P 2019572604の分割
【原出願日】2018-07-04
(31)【優先権主張番号】17179457.1
(32)【優先日】2017-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】300081877
【氏名又は名称】アトテック ドイチュラント ゲー・エム・ベー・ハー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Atotech Deutschland GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Erasmusstrasse 20, D-10553 Berlin, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】エッカート クルースマン
(72)【発明者】
【氏名】ヤーノシュ ハンチック
(57)【要約】 (修正有)
【課題】金属表面を洗浄しかつ/または濡らすための洗浄溶液を提供する。
【解決手段】洗浄溶液は、少なくとも1つの酸、第1の界面活性剤であって、曇点が≦25℃であるアルキルポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)エーテルである第1の界面活性剤、以下のものからなる群から選択される第2の界面活性剤:i)曇点が≧30℃であるアルキルポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)エーテル、ii)曇点が≧45℃であるアルキルポリエチレングリコールエーテルを含み、ここで、前記曇点は、ドイツ語版の欧州規格EN 1890:2006、第8.2項に対し、溶媒として10重量%のH
2SO
4を使用し、かつ界面活性剤の濃度を1000mg/Lとするという修正を加えたものに従って求めたものである、洗浄溶液。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面を洗浄しかつ/または濡らすための洗浄溶液であって、前記洗浄溶液は、
- 少なくとも1つの酸、
- 第1の界面活性剤であって、曇点が≦25℃であるアルキルポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)エーテルである第1の界面活性剤、ならびに
- 以下のものからなる群から選択される第2の界面活性剤:
i)曇点が≧30℃であるアルキルポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)エーテル、および
ii)曇点が≧45℃であるアルキルポリエチレングリコールエーテル
を含み、
ここで、前記曇点は、ドイツ語版の欧州規格EN 1890:2006、第8.2項の手順Aに対し、溶媒として10重量%のH2SO4を使用し、かつ界面活性剤の濃度を1000mg/Lとするという修正を加えたものに従って求めたものである、洗浄溶液。
【請求項2】
前記第1の界面活性剤と前記第2の界面活性剤との重量比は、1:0.5~1:10の範囲にある、請求項1記載の洗浄溶液。
【請求項3】
前記第1の界面活性剤の濃度は、50~5000mg/Lである、請求項1または2記載の洗浄溶液。
【請求項4】
前記第2の界面活性剤の濃度は、50~20000mg/Lである、請求項1から3までのいずれか1項記載の洗浄溶液。
【請求項5】
前記第1の界面活性剤において、アルキル基は6~30個の炭素原子を有し、前記第1の界面活性剤は、異なるアルキル基を有する分子の混合物を含み得る、請求項1から4までのいずれか1項記載の洗浄溶液。
【請求項6】
前記第2の界面活性剤i)において、アルキル基は6~22個の炭素原子を有し、前記第2の界面活性剤i)は、異なるアルキル基を有する分子の混合物を含み得る、請求項1から5までのいずれか1項記載の洗浄溶液。
【請求項7】
前記第2の界面活性剤ii)において、前記ポリエチレングリコール部分は、5~22個のエチレングリコール単位からなる、請求項1から6までのいずれか1項記載の洗浄溶液。
【請求項8】
前記第2の界面活性剤ii)において、アルキル基は、1以上の分岐アルキル基であるか、またはアルキル基は、主に1以上の分岐アルキル基からなる、請求項1から7までのいずれか1項記載の洗浄溶液。
【請求項9】
前記少なくとも1つの酸は、無機酸および/またはメタンスルホン酸である、請求項1から8までのいずれか1項記載の洗浄溶液。
【請求項10】
アルキルグリコールエーテルをさらに含む、請求項1から9までのいずれか1項記載の洗浄溶液。
【請求項11】
金属表面を濡らしかつ/または洗浄する方法であって、請求項1から10までのいずれか1項記載の洗浄溶液で金属表面を処理する工程を含む、方法。
【請求項12】
金属表面を洗浄しかつ/または濡らすための、請求項1から10までのいずれか1項記載の洗浄溶液の使用。
【請求項13】
金属表面上に金属層を析出させる方法であって、
(a)金属表面を提供する工程と、
(b)請求項1から10までのいずれか1項記載の洗浄溶液で前記金属表面を処理する工程と、
(c)前記金属表面を金属析出溶液で処理して、前記金属表面上に前記金属層を析出させる工程と
を含む、方法。
【請求項14】
(d)前記金属表面をレジスト材に結合させて、前記レジスト材を画像化する、さらなるステップ
を含む、請求項13記載の金属表面上に金属層を析出させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、金属表面を洗浄するための洗浄溶液、および前記洗浄溶液を使用して金属表面を洗浄する方法に関する。
【0002】
プリント回路板(PCB)のめっきを成功させるための重要な前提条件は、表面前処理を効率的に行うことである。PCBの製造時に表面の洗浄が行われ、その後、PCBの表面に金属層が析出される。洗浄によって、析出金属層が表面により良好に密着し、欠陥が存在しないかまたはほぼ存在しない析出層が得られる。
【0003】
発明の背景
従来技術から、多数の洗浄溶液が知られている。
【0004】
例えば米国特許出願公開第2008/0200360号明細書には、ソルダーレジストマスクおよび表面上部層を有する被加工物の表面からイオン性汚染物を除去するための水溶液であって、a)エタノールアミン化合物およびその塩から選択される少なくとも1つの第1の化合物と、b)アルコール系溶媒を含む群から選択される少なくとも1つの第2の化合物とを含む溶液が開示されている。
【0005】
洗浄溶液は、界面活性剤を含むことが多い。洗浄溶液は、表面の良好な濡れ性を示すことが望ましい。
【0006】
界面活性剤の曇点とは、界面活性剤が比較的大きなミセルを形成するかまたはさらには相分離を生じて溶液の曇りを生じさせる温度を示す。曇点以下または曇点近傍の温度で溶液を適用した場合、溶液の洗浄性は良好である。溶液の温度が曇点よりわずかに高い場合、洗浄性は最良である。良好な洗浄結果を得るには、高温で洗浄溶液を使用することが望ましい。そして、この高温が曇点に相当するかまたはそれよりもわずかに高い場合に、有益である。曇点が低い場合、処理温度が曇点を過度に超え、曇りによって溶液が有効性を失って、その洗浄性が低下する。そのため、曇点が高く、処理温度とほぼ同じ温度であることが望ましい。
【0007】
本発明の目的
したがって、本発明の目的は、良好な洗浄性を特に高温で有する洗浄溶液を提供することである。
【0008】
本発明のさらなる目的は、良好な濡れ性を特に高温で有する洗浄溶液を提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、良好な洗浄性および高い曇点を有する洗浄溶液を提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、良好な濡れ性および高い曇点を有する洗浄溶液を提供することである。
【0011】
発明の概要
本目的の解決策は、請求項1に記載の洗浄溶液によって達成される。従属請求項の主題は、さらなる実施形態である。
【0012】
本発明は、金属表面を洗浄しかつ/または濡らすための洗浄溶液であって、前記洗浄溶液は、
- 少なくとも1つの酸、好ましくは無機酸および/またはメタンスルホン酸、
- 第1の界面活性剤であって、曇点が≦25℃、好ましくは≦23℃であるアルキルポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)エーテルである第1の界面活性剤、ならびに
- 以下のものからなる群から選択される第2の界面活性剤:
i)曇点が≧30℃、好ましくは≧35℃であるアルキルポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)エーテル、および
ii)曇点が≧45℃、好ましくは≧50℃、より好ましくは≧55℃、さらにより好ましくは≧60℃であるアルキルポリエチレングリコールエーテル
を含み、
ここで、前記曇点は、ドイツ語版の欧州規格EN 1890:2006、第8.2項に対し、溶媒として10重量%のH2SO4を使用し、かつ界面活性剤の濃度を1000mg/Lとするという修正を加えたものに従って求めたものである、洗浄溶液を提供する。
【0013】
本発明の洗浄溶液を用いることで、良好かつ迅速な濡れおよび洗浄、溶液の高い曇点、使用後の溶液の良好かつ迅速な除去、ならびに低発泡を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の界面活性剤混合物の動的表面張力を、個々の界面活性剤と比較して示す。
【
図2】本発明の界面活性剤混合物の動的表面張力を、個々の界面活性剤と比較して示す。
【
図3】界面活性剤混合物(比較例)の動的表面張力を、個々の界面活性剤と比較して示す。
【
図4】本発明の洗浄溶液および比較洗浄溶液を使用して得られた洗浄結果を示す。
【
図5】スルーホールの断面であり、(1)スルーホール内のはんだ、(2)ガラス繊維を含むベース材料、(3)スルーホールの壁に析出させた銅層のスタック、(4)銅内層を示す。
【0015】
発明の詳細な説明
本発明の洗浄溶液により、全般的または特定の実施形態において、以下の利点のうちの1つまたは複数が得られることが判明した。
【0016】
- 金属表面の良好かつ迅速な洗浄。有機汚染物および無機汚染物は、本発明の洗浄溶液により金属表面から非常に良好かつ迅速に除去される。有機汚染物の例としては、フォトレジストの残留粒子、指紋、手袋跡、手袋の原料の構成要素に起因する手袋跡または潤滑グリースなどの、先行する製造工程に起因する有機材料が挙げられる。無機汚染物は、金属酸化物である場合があり、これは、金属表面と、例えば空気に起因する酸素とがしばらくの間接触した際に金属表面上に形成される。無機汚染物は、フォトレジストの現像時に形成される炭酸塩残留物など、先行する製造工程に起因する場合もある。
【0017】
洗浄により、金属表面上に析出させた金属層の密着性が向上し、欠陥が存在しないかまたはほぼ存在しない析出層が得られる。
【0018】
- 良好な濡れ性。良好な濡れ性は、表面の効果的かつ均一な洗浄につながる。次の工程で表面を水ですすぐと、洗浄後に、特にブラインドマイクロビア(via:vertical interconnect access)およびスルーホールの領域で、表面全体に水がより均一に分散し、水に対する濡れが改善される。さらに、例えば銅析出浴の化学物質など、さらに別の処理工程で使用される化学物質が、より良好かつより均一に表面に到達可能となる。さらに、迅速な濡れが得られ、これによって本発明の洗浄溶液は、例えばPCBなどの工業製造プロセスにおける適用に特に適したものとなる。
【0019】
- 溶液の高い曇点。したがって、洗浄溶液は、高温で効果的に使用できる。
【0020】
- 使用後の洗浄溶液の良好かつ迅速な除去。金属表面に界面活性剤が残留していると、さらなる処理工程において金属の密着性が低下するため、除去は重要である。さらに、プロセス全体の速度を改善するために、短時間で溶液を除去できることが望ましい。
【0021】
- 低発泡。泡は、処理における欠点である。まず、泡が原因で溶液のレベルが低下するが、これは洗浄プロセスにおける欠点である。第二に、メタライゼーションなどの後続の処理工程での欠点を回避するために、泡を除去する必要がある。しかし、泡の除去は時間がかかるとともに、洗浄水が消費されるという点から煩雑である。
【0022】
さらに、驚くべきことに、濡れ性における相乗効果、すなわち表面張力に対する相乗効果が洗浄溶液で得られることが判明した。上記の界面活性剤を組み合わせて添加すると、組み合わせた界面活性剤の表面張力から予想または予測し得るものよりも低い表面張力が混合物において得られる。これについては、添付の実施例にて詳説する。
【0023】
洗浄溶液は、好ましくは水性洗浄溶液であり、すなわち溶媒としての水をベースとする。好ましくは、洗浄溶液の組成物において残分は水であり、これとさらなる成分との合計で100重量%となる。
【0024】
上述のとおり、金属表面を洗浄しかつ/または濡らすための洗浄溶液は、少なくとも1つの酸を含む。好ましくは、少なくとも1つの酸の濃度は、本発明の洗浄溶液の1~50重量%、より好ましくは5~30重量%、さらにより好ましくは5~20重量%の範囲にある。
【0025】
少なくとも1つの酸は、好ましくは無機酸および/またはメタンスルホン酸である。無機酸として、硫酸、塩酸、スルファミン酸(H3NSO3)またはリン酸を使用することができるが、硫酸が好ましい。本発明の洗浄溶液における少なくとも1つの酸によって、同時に金属表面を活性化するかまたは金属表面の不動態化を防ぐため、有利である。銅表面のような金属表面が、例えば空気に由来する酸素に長時間曝されると、金属表面に金属酸化物、例えばCuOが形成される。金属酸化物層は、下にある金属表面を不動態化する。このことは、金属表面へのさらなる金属層の析出および密着が損なわれるかまたは妨げられることを意味する。有利には、本発明の洗浄溶液における少なくとも1つの酸によって、金属表面から金属酸化物および炭酸塩が除去されると同時に、洗浄溶液によって金属表面から有機汚染物が除去される。
【0026】
さらに、少なくとも1つの酸によって、金属表面を洗浄しかつ/または濡らすための洗浄溶液のpHが、低pH値に調整される。好ましくは、本発明の洗浄溶液のpH値は、2.0未満、より好ましくは0~2.0、さらにより好ましくは0~1.5である。本発明の洗浄溶液のpH値を低くすることで、金属表面の少なくとも一部に存在し得るフォトレジストが攻撃を受けるかまたは金属表面から除去されることが防がれるという理由からも、こうした低いpH値は有利である。
【0027】
本発明の洗浄溶液の特定の実施形態を以下に示す。本実施形態は、単独でもいずれの組み合わせでも実施できる。本明細書に開示される比率および範囲の限界は、いずれの組み合わせでも組み合わせ可能である。
【0028】
特定の一実施形態では、洗浄溶液における第1の界面活性剤と第2の界面活性剤との重量比は、1:0.5~1:10、好ましくは1:1~1:8、より好ましくは1:2~1:6、さらにより好ましくは1:2~1:4、最も好ましくは1:3~1:4の範囲にある。
【0029】
さらなる実施形態では、洗浄溶液における第1の界面活性剤の濃度は、50~5000mg/L、好ましくは100~1500mg/L、より好ましくは100~1000mg/L、さらにより好ましくは150~750mg/Lである。
【0030】
さらに別の実施形態では、洗浄溶液における第2の界面活性剤の濃度は、50~20000mg/L、好ましくは100~4000mg/L、より好ましくは300~2800mg/L、さらにより好ましくは300~2400mg/L、最も好ましくは500~2000mg/Lである。
【0031】
以下、第1および第2の界面活性剤の好ましい実施形態について説明する。
【0032】
上述のとおり、第1の界面活性剤は、アルキルポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)エーテルである。アルキル基は、6~30個の炭素原子、好ましくは6~22個の炭素原子、より好ましくは8~15個の炭素原子を有することができる。第1の界面活性剤には、異なるアルキル基を有する分子の混合物が存在し得る。好ましくは、アルキル基は、直鎖の非分岐アルキル基である。
【0033】
さらなる実施形態において、アルキル基は、(異なるアルキル基が存在する場合)好ましくは1つ以上の分岐アルキル基である。別の実施形態では、アルキル基は主に1つ以上の分岐アルキル基からなり、これは、非分岐アルキル基が少量存在し得ることを意味する。非常に好ましい第1の界面活性剤は、イソデシルポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)エーテルを含むか、またはそれからなる。第1の界面活性剤がイソデシルポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)エーテルを含む場合、該化合物は主要化合物であり、すなわち、第1の界面活性剤は主に該化合物を含む。
【0034】
第1の界面活性剤のポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)部分は、統計的な長さおよび重量分布を有し得る。したがって、第1の界面活性剤には、ポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)部分の長さが異なる分子の混合物が存在し得る。上述のとおり、これを異なるアルキル基と組み合わせることができる。したがって、第1の界面活性剤は、アルキル部分とポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)部分との双方が異なり得る。
【0035】
したがって、第1の界面活性剤は、好ましくは、異なる分子量、換言すれば、モル重量の統計的分布を有する分子の混合物である。好ましくは、第1の界面活性剤は、350~950g/モルの範囲の分子量を有する。分子量分布曲線の最大値は、好ましくは500~600g/モル、より好ましくは500~560g/モルである。
【0036】
第1の界面活性剤は、好ましくはMarlox MO 154(Sasol Germany GmbH、CAS 68439-51-0)、Marlox FK 64(Sasol Germany GmbH、CAS 68154-97-2)、Antarox B12DF(Solvay Solutions Nederland B.V.、CAS 37311-00-5)、Propetal 120、Propetal 105(CAS 155683-77-5またはCAS 154518-36-2)およびDehypon 2574(BASF)から選択され、より好ましくは、Propetal 120およびPropetal 105から選択される。
【0037】
上述のとおり、第2の界面活性剤は、
i)アルキルポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)エーテル、または
ii)アルキルポリエチレングリコールエーテル
であってよい。
【0038】
界面活性剤i)において、アルキル基は、好ましくは6~22個の炭素原子、より好ましくは8~18個の炭素原子を有する。該界面活性剤には、異なるアルキル基を有する分子の混合物が存在し得る。好ましくは、アルキル基は、直鎖の非分岐アルキル基である。
【0039】
界面活性剤i)のポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)部分は、統計的な長さおよび重量分布を有し得る。したがって、界面活性剤i)には、ポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)部分の長さが異なる分子の混合物が存在し得る。上述のとおり、これを異なるアルキル基と組み合わせることができる。したがって、界面活性剤i)は、アルキル部分とポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)部分との双方が異なり得る。
【0040】
したがって、界面活性剤i)は、好ましくは、異なる分子量、換言すれば、モル重量の統計的分布を有する分子の混合物である。好ましくは、第2の界面活性剤i)は、500~1200g/モルの範囲の分子量を有する。分子量分布曲線の最大値は、好ましくは700~900g/モル、より好ましくは750~880g/モルである。
【0041】
第2の界面活性剤i)は、好ましくは、Propetal 140、Propetal 150、Simulsol DR 301およびImbentin PPFから選択される。
【0042】
界面活性剤ii)において、アルキル基は、好ましくは8~18個の炭素原子、より好ましくは10~15個の炭素原子を有する。界面活性剤には、異なるアルキル基を有する分子の混合物が存在し得る。アルキル基は、(異なるアルキル基が存在する場合)1つ以上の分岐アルキル基であってもよい。別の実施形態では、アルキル基は主に1つ以上の分岐アルキル基からなり、これは、非分岐アルキル基が少量存在し得ることを意味する。非常に好ましい界面活性剤ii)は、イソトリデシルポリエチレングリコールエーテルを含むか、またはそれからなる。界面活性剤ii)がイソトリデシルポリエチレングリコールエーテルを含む場合、該化合物は主要化合物であり、すなわち、界面活性剤ii)は主に該化合物を含む。
【0043】
界面活性剤ii)のポリエチレングリコール部分は、統計的な長さおよび重量分布を有し得る。好ましくは、界面活性剤ii)のポリエチレングリコール部分は、5~22個のエチレングリコール単位、より好ましくは6~15個のエチレングリコール単位からなる。統計的分布の最大値は、好ましくは9~11個のエチレングリコール単位にある。したがって、界面活性剤ii)には、ポリエチレングリコール部分の長さが異なる分子の混合物が存在し得る。上述のとおり、これを異なるアルキル基と組み合わせることができる。したがって、界面活性剤ii)は、アルキル部分とポリエチレングリコール部分の双方が異なり得る。
【0044】
したがって、界面活性剤ii)は、好ましくは、異なる分子量、換言すれば、モル重量の統計的分布を有する分子の混合物である。好ましくは、第2の界面活性剤ii)は、400~1000g/モルの範囲の分子量を有する。分子量分布曲線の最大値は、好ましくは650~750g/モル、より好ましくは680~720g/モルである。
【0045】
第2の界面活性剤ii)は、好ましくはMulsifan RT 203/80、Marlipal O13/90、Surfaline OX 1006 L、Surfaline OX 1309 LおよびGenapol UD 079から選択される。
【0046】
分子量は、高速液体クロマトグラフィーと質量分析とを組み合わせて(HPLC-MS)測定される。質量分析は、好ましくはエレクトロスプレーイオン化飛行時間型(ESI TOF)質量分析である。
【0047】
洗浄溶液は、さらなる成分としてアルキルグリコールエーテルを含んでもよい。アルキルグリコールエーテルは、ポリマーではない。好ましいアルキルグリコールエーテルは、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルまたはジエチレングリコールモノブチルエーテルである。好ましくは、本発明の洗浄溶液におけるアルキルグリコールエーテルの濃度は、100~5000mg/L、より好ましくは500~2000mg/Lの範囲にある。アルキルグリコールエーテルは、ポリマー成分の可溶化に寄与して、先行製造工程に由来するフォトレジストの粒子、手袋跡または潤滑グリースといった有機汚染物の除去の一助となる。
【0048】
洗浄溶液は、さらなる成分としてグリコール化合物を含んでもよい。グリコール化合物は、ポリマーではない。好ましくは、グリコール化合物は、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコールおよびネオペンチルグリコールから選択される。
【0049】
洗浄溶液は、さらなる成分として少なくとも1つのカルボン酸を含むことができるが、ただし、少なくとも1つのカルボン酸が、既に上述した少なくとも1つの酸と異なることを条件とする。好ましいカルボン酸は、ギ酸、酢酸、クエン酸、グリコール酸、酒石酸、マレイン酸またはフマル酸である。少なくとも1つのカルボン酸は、指紋などの有機汚染物の除去に寄与する。好ましくは、本発明の洗浄溶液における少なくとも1つのカルボン酸の濃度は、0.1~5重量%、より好ましくは0.2~2重量%の範囲にある。洗浄溶液に複数のカルボン酸が含まれる場合、すべてのカルボン酸の合計濃度は、0.1~10重量%、より好ましくは0.2~5重量%の範囲にある。
【0050】
さらなる成分、すなわち、アルキルグリコールエーテル、グリコール化合物、カルボン酸は、本発明による洗浄溶液内にいかなる組み合わせで含まれてもよく、すなわち、さらなる成分の1つ、さらなる成分の2つまたは3つが、いかなる組み合わせで含まれてもよい。
【0051】
本発明のさらなる主題は、金属表面を濡らしかつ/または洗浄する方法であって、上記の洗浄溶液で金属表面を処理する工程を含む方法である。
【0052】
本方法は、金属表面、例えば銅、ニッケル、金、鉄、スズ、パラジウム、ルテニウムの表面または前述の金属の合金の表面、好ましくは銅または銅合金の表面の処理に特に適している。
【0053】
好ましくは、金属表面は、基材の構成要素であってよい。基材は、ベース材料、例えば可撓性材料、例えばポリイミド、テフロン、セラミック、プリプレグまたはシリコンウェーハをさらに含み得る。基材は、プリント回路板(PCB)、銅張プリプレグおよびチップキャリアといった電気回路キャリアの群から選択できる。
【0054】
処理は、表面と洗浄溶液とのどのような種類の接触によっても行うことができ、例えば吹付け、ディッピング、イマージョン、すすぎによって行ってもよいし、沈めたスパージャーノズルによるフラッディングによって行ってもよい。好ましい手法は、ディッピングである。処理は、好ましくは20~70℃、より好ましくは30~60℃、さらにより好ましくは35~50℃の温度で行われる。処理は、好ましくは10秒~10分の期間にわたって行われる。表面の濡れのみが望ましい場合には、処理時間は短くてよく、例えば10秒~1分でよい。洗浄が望ましい場合には、より長い処理時間が選択され、例えば2~10分、好ましくは5~10分が選択される。
【0055】
さらなる工程として、本発明の方法は、金属表面を、好ましくは水ですすぐことを含むことができる。すすぎは、本発明の洗浄溶液で金属表面を処理した後に行われる。すすぎにより、金属表面から洗浄溶液および汚染物が除去される。すすぎの利点は、後続のプロセス工程に悪影響を及ぼし得る望ましくない界面活性剤が除去されることである。さらに、溶液の除去は短時間で可能であるため、プロセス全体の速度が高まる。すすぎによって除去される洗浄溶液の特性は、すすぎ性と呼ばれる。したがって、本発明の洗浄溶液は、良好で迅速なすすぎ性を有する。
【0056】
金属表面をすすぐ場合、さらなる金属層の施与、分離層の施与またはマイクロビアなどの構造のエッチングといったさらなるプロセス工程が行われるまで、金属表面は濡れたままである。このことはさらなる利点であり、それというのも、後続の処理工程で使用される化学物質、例えば金属析出浴の化学物質に、すすぎ済み表面がより良好にかつより均一に到達可能になるためである。洗浄溶液を効率的に除去するために、過剰の水および強力な流れを用いてすすぎを行うことが好ましい。
【0057】
本発明のさらなる主題は、金属表面を洗浄しかつ/または濡らすための本発明の洗浄溶液の使用である。洗浄および/または濡れは、表面と洗浄溶液とのどのような種類の接触によっても行うことができ、例えば吹付け、ディッピング、イマージョン、すすぎによって行ってもよいし、沈めたスパージャーノズルによるフラッディングによって行ってもよい。好ましい手法は、ディッピングである。
【0058】
本発明のさらなる主題は、金属表面上に金属層を析出させる方法であって、
(a)金属表面を提供する工程と、
(b)上記の洗浄溶液で金属表面を処理する工程と、
(c)金属表面を金属析出溶液で処理して、金属表面上に金属層を析出させる工程と
を含む、方法である。
【0059】
好ましくは、金属表面は、基材の構成要素であってよい。基材は、ベース材料、例えば可撓性材料、例えばポリイミド、テフロン、セラミック、プリプレグまたはシリコンウェーハをさらに含み得る。基材は、プリント回路板(PCB)、銅張プリプレグおよびチップキャリアといった電気回路キャリアの群から選択できる。好ましくは、PCBまたはプリプレグのベース材料は、エポキシ系材料、例えばエポキシブレンド、例えばエポキシ・ベンゾトリアゾールブレンド、エポキシ・シアネートブレンド、エポキシ・プロピレンブレンド、またはエポキシ・ポリイミドブレンドから作製されており、これらの材料は、任意にガラス繊維や織りガラスマットのような繊維材料で強化されていてもよい。
【0060】
本方法は、金属表面、例えば銅、ニッケル、金、鉄、スズ、パラジウム、ルテニウムの表面または前述の金属の合金の表面、好ましくは銅または銅合金の表面の処理に特に適している。
【0061】
金属層の金属は、好ましくはスズ、金、銀、パラジウム、銅、ニッケル、亜鉛およびルテニウムまたはそれらの合金、より好ましくは金、パラジウム、銅、ニッケルまたはそれらの合金を含む群から選択される。
【0062】
用語「析出」および「めっき」は、本明細書では互換的に使用され得る。
【0063】
金属析出溶液は、好ましくは水溶液であり、換言すれば、溶媒としての水をベースとする。
【0064】
工程(c)について、湿式化学めっき法を適用することにより金属表面上に金属層を析出させるいくつかの方法が当業者に知られている。本発明によれば、湿式化学めっき法は、好ましくは、電気めっき法、無電解めっき法または浸漬めっき法である。
【0065】
電気めっき法または電解めっき法は、一般的には外部電流源を用いためっき法と説明される。無電解めっきとは、外部からの電子の供給の助けを借りずに金属の連続膜を自己触媒的に制御された様式で析出させることである。本発明では、無電解めっきとは、化学還元剤(本明細書では「還元剤」と称される)を用いた自己触媒的な析出と理解されるべきである。浸漬めっきまたは置換めっきとは、外部からの電子の供給の助けを借りず、化学還元剤も使用しない、金属のもう1つの析出である。この機序は、浸漬めっき液中に存在する金属イオンを、めっきする基材に由来する金属で置換することに依存している。
【0066】
電気めっき法または電解めっき法では、金属析出溶液または金属析出液体は、溶媒、水の他に、例えば析出させる少なくとも1つの金属のイオン、および液体の導電率を高める少なくとも1つの成分を含む。該液体は、少なくとも1つの酸/塩基調整剤ならびに/または金属析出物の機械的、電気的および/もしくは他の特性に影響を与え、かつ/もしくは金属析出物の厚さ分布に影響を与え、かつ/もしくは酸化などの分解に対するその安定性を含む電気めっき液のめっき性能に影響を与える少なくとも1つの添加剤をさらに含むことができる。少なくとも1つの金属のイオンは、水和イオンまたは錯イオンであってもよい。酸/塩基調整剤は、単に酸または塩基であってもよく、かつ/または緩衝剤であってもよい。液体の導電率を高める成分は、金属塩または酸または塩基であってよい。添加剤は、光沢剤、レベリング剤、酸化防止剤、キャリアなどであってよい。
【0067】
電気めっきは、直流、交流、もしくはパルス電流またはパルス電圧を用いることにより実施できる。
【0068】
例えば銅、ニッケル、スズ、金、銀、パラジウム、亜鉛およびルテニウムまたはそれらの合金を析出させるための電着には、いずれの金属析出溶液を使用してもよい。この種の電着溶液は、当業者に周知である。
【0069】
好ましい実施形態では、金属表面上への銅層の電着は、既に知られている電着法および電解銅析出溶液、例えばアルカリ金属シアン化物もしくはアルカリ金属非シアン化物系、ピロリン酸錯イオン系または酸性電解銅析出溶液により行われる。酸性電解銅析出溶液が好ましい。これらのうち、酸性硫酸塩およびフルオロホウ酸塩の銅析出溶液が好ましく、酸性硫酸塩の銅析出溶液がより好ましい。
【0070】
銅の電着は、好ましくは0.1~50A/dm2、より好ましくは0.5~40A/dm2、さらにより好ましくは1~25A/dm2、さらにより好ましくは1A/dm2~15A/dm2の範囲の平均電流密度を与えて行われる。金属表面とアノードとの間に直流電流が印加される場合、平均電流密度は、印加された直流電流密度に相当する。交流電流またはパルス電流が印加される場合、平均電流密度は、Chandrasekarら(M.S. Chandrasekar, Malathy Pushpavanam; Pulse and pulse reverse plating - Conceptual advantages and applications; Electrochimica Acta 53 (2008), 3313-3322; Chapter 5)によって説明されているように定義される。銅の電着は、好ましくは5~80℃、より好ましくは10~70℃、さらにより好ましくは15℃~60℃の範囲の温度で、所望の厚さの析出銅層を得るのに十分な時間にわたって行われる。
【0071】
別の好ましい実施形態では、金属表面上へのニッケル層の電着は、既に知られている電着法およびワットニッケル浴のような電解ニッケル析出溶液により行われる。ワットニッケル浴は通常は、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸および添加剤としてのサッカリンを含有する光沢ニッケル浴として使用される。
【0072】
電着法の全体的な手順は、任意の前処理工程および任意の後処理工程をさらに含んでもよい。前処理工程は、マイクロエッチングまたは酸洗であってよい。次に、本発明の洗浄溶液が使用される(工程(b))。その後、金属表面を1つまたは複数のすすぎ工程により水ですすぎ、乾燥、例えば風乾することができる。次いで、電着が行われる(工程(c))。後処理工程は、析出させた金属層の水中での洗浄、不動態化または乾燥であってよい。好ましくは、金属表面は、基材の構成要素である。
【0073】
金属の電着に代わるものは、その無電解析出である。無電解金属析出溶液の主成分は、析出させる金属の金属塩、錯化剤、還元剤、および任意成分として、アルカリ剤、ならびに添加剤、例えば安定剤である。
【0074】
例えば、銅、ニッケル、スズ、金、銀、パラジウムおよびルテニウムまたはそれらの合金を析出させるための無電解析出には、いずれの金属析出溶液を使用してもよい。そのような無電解金属析出溶液は、当業者に周知である。
【0075】
好ましい実施形態では、金属表面上への銅層の無電解析出は、当技術分野で既に知られている無電解析出法および無電解銅析出溶液により行われる。無電解銅析出溶液は、典型的には、銅塩、例えば硫酸銅または次亜リン酸銅;還元剤、例えばホルムアルデヒド、次亜リン酸塩、例えばアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、または次亜リン酸、またはジメチルアミンボラン;1つもしくは複数の錯化剤、例えば酒石酸、エチレンジアミン四酢酸、グリコール酸またはトリエタノールアミン;1つまたは複数の安定剤、例えば酸素、チオ尿素、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジエチルジチオカルバメートまたは五酸化バナジウム;ならびにpH調整剤、例えば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを含む。任意に、無電解銅析出溶液は、光沢剤および/または湿潤剤を含む。溶媒は、総じて水である。
【0076】
別の好ましい実施形態では、金属表面上へのニッケル層の無電解析出は、当技術分野で既に知られている無電解析出法および無電解ニッケル析出溶液により行われる。無電解ニッケル析出溶液は、多数の物質を含み、これには、ニッケル塩、例えば硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケルまたは次亜リン酸ニッケル;還元剤、例えば次亜リン酸塩、例えばナトリウムのようなアルカリ金属の次亜リン酸塩もしくはアンモニウム塩、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボランまたはヒドラジン;錯化剤、例えばアルキルアミン、アンモニア、カルボン酸、ヒドロキシルカルボン酸、アミノカルボン酸またはそれらの塩;安定化剤、例えば第VI属元素:S、Se、Teの化合物、酸素含有化合物:AsO2
-、IO3
-、MoO4
2-、重金属カチオン:Sn2+、Pb2+、Hg+、Sb3+または不飽和有機酸:マレイン酸、イタコン酸;およびpH調整剤(例えば、緩衝剤)が含まれる。ニッケル層の無電解析出は通常は、比較的高温で、つまり20℃~90℃の範囲の温度で行われる。
【0077】
無電解析出法の全体的な手順は、任意の前処理工程および任意の後処理工程をさらに含んでもよい。本発明の洗浄溶液を用いて金属表面が洗浄される(工程(b))。次に、スミア除去工程または活性化工程のような前処理工程を実施することができる。その後、金属表面を1回以上のすすぎ工程で水ですすぎ、乾燥させることができる。次いで、無電解析出が行われる(工程(c))。好ましくは、金属表面は、基材の構成要素である。
【0078】
さらに別の好ましい実施形態では、金属析出は、浸漬めっきまたは置換めっきによって行われる。達成される典型的な厚さは、10~200μmである。
【0079】
金属表面上への金属層の浸漬析出は、当技術分野で既に知られている浸漬析出法および浸漬金属析出溶液によって実施することができる。浸漬金属析出溶液は通常は、析出させる金属の金属塩、例えば金属のシアン化物、硫酸塩、塩化物または硝酸塩;錯化剤、例えばアルカリ金属のシアン化物、アンモニウム、酒石酸塩、アルカリ金属チオ硫酸塩またはチオ尿素;およびpH調整剤、例えばアルカリ金属の水酸化物、アンモニウム、炭酸塩、硫酸または塩酸を含む水性溶液である。例えば、スズ、金、銀およびニッケルまたはそれらの合金を析出させるための浸漬析出には、いずれの金属析出溶液を使用してもよい。析出温度は広範囲で様々であってよく、例えば10~150℃の範囲であってよく、析出させる金属に依存する。
【0080】
浸漬析出法の全般的な手順は、任意の前処理工程および任意の後処理工程をさらに含んでもよい。前処理工程は、金属表面の酸洗、水中での洗浄、ポリッシングによる光輝仕上げであってよい。次に、本発明の洗浄溶液が使用される(工程(b))。その後、金属表面を洗浄し、後で使用する浸漬析出溶液がアルカリ性シアン化物であるかまたは酸性であるかに応じて、シアン化物溶液または酸溶液にディッピングすることができる。次いで、浸漬析出が行われる(工程(c))。後処理工程は、析出させた金属層の水中での洗浄および乾燥であってよい。好ましくは、金属表面は、基材の構成要素である。
【0081】
本発明の洗浄溶液で金属表面を処理することにより、析出させた金属層の、金属表面への密着性が改善される。これを、
図5に示す。
図5に、多層PCBに存在するスルーホールの一部の断面を示す。この多層PCBは、少なくとも3層のベース材料(2)と少なくとも2層の銅回路線とを含み、銅回路線の各層は、2層のベース材料の間に存在する。これらの銅回路線の層を、銅内層(4)と呼ぶ。ベース材料(2)は、ガラス繊維で強化されている。ベース材料の外層の外表面には、銅箔張り(
図5には図示せず)が施されていてもよい。スルーホールは、これらの層を貫通する。スルーホールの壁に、無電解析出銅層と電着銅層とのスタック(3)が析出される。スルーホールの壁の直上に無電解析出銅層が施与され、この無電解銅層上に電着銅層がめっきされる。スルーホール内の残りの空間には、はんだ(1)が充填されている。電着銅層を析出させる前に、本明細書の実施例2.4に記載されているように、無電解析出銅層の表面を本発明の洗浄溶液で洗浄した。電着銅層を析出させた後、はんだ(1)は、同じ実施例2.4に記載されているはんだ衝撃試験中にスルーホールに浸透した。銅内層(4)と析出銅層のスタック(3)との接触領域を、相互接続または相互接続部と呼ぶ。
図5は、はんだ衝撃試験中に、無電解析出銅層と電着銅層との相互接続または接触領域に剥離やボイドなどの欠陥が発生しなかったことを示す。これは、本発明の金属析出方法の洗浄方法および洗浄工程が、優れた洗浄性および濡れ性ならびに優れたすすぎ性を有することを意味する。
【0082】
本発明による金属表面上に金属層を析出させる方法は、
(d)金属表面をレジスト材に結合させて、レジスト材を画像化する、さらなるステップ
を含んでよい。
【0083】
さらなる方法工程(d)は、方法工程(b)と(c)との間、または方法工程(c)の後、または方法工程(b)と(c)との間、および方法工程(c)の後に行われてよい。方法工程(b)、(c)および(d)を繰り返してもよいし、方法工程(b)および(c)を繰り返してもよい。
【0084】
本発明の洗浄溶液で金属表面を処理することにより、金属表面へのレジスト材の密着性も改善される。
【0085】
レジスト材は、写真現像型レジストまたはソルダーレジストであってよい。
【0086】
後で金属表面をレジスト材でコーティングするための該金属表面、例えば銅張プリント回路板材料の製造方法は、当技術分野で知られている。プリント回路板の製造プロセスの様々な段階で、プリント回路板材料の金属表面、例えば銅表面にレジストがコーティングされ、該レジストは金属表面に密着しなければならない。例えば、金属構造、つまり銅線の作製ならびにボンディングおよびパッドのはんだ付けでは、これらの構造を画定するために写真現像型レジストが使用される。さらに、これらの金属構造が作製された後、これらの構造の、はんだ付けが行われない領域に、ソルダーマスクが施与される。どちらの場合にも、金属表面にレジストが施与され、該レジストは、イメージングプロセス(露光および現像)中にも、(銅構造製造の過程での)銅などのさらなる金属層のめっきやはんだ付けといった後続のいずれのプロセス工程中にも、これに十分に密着しなければならない。レジスト材のイメージングプロセスは、当技術分野で知られている。この理由から、例えば金属表面に良好なレジスト受容性、したがって該金属表面への密着性を付与するためには、いずれにせよ金属表面の洗浄が行われるべきである。
【0087】
好ましい実施形態では、写真現像型レジストは、めっきレジストまたはエッチングレジストとも呼ばれ、これは通常はアクリル系レジストであり、すなわちこれは、アクリル系またはメタクリル系骨格を有する。これらのレジストは通常は、乾燥膜または液膜として金属表面に施与される。
【0088】
別の好ましい実施形態において、ソルダーレジストは、ソルダーマスクまたはソルダーストップマスクとも呼ばれ、これはポリマー層である。ソルダーマスク用のポリマーは、エポキシ樹脂系である。
【0089】
ソルダーマスクは、様々な様式で金属表面に結合させることができる。ソルダーマスクは液体として施与可能であり、これは金属表面にシルクスクリーン印刷される。他のタイプは、写真現像型液状ソルダーマスク(LPSM)インクおよびドライフィルム写真現像型ソルダーマスク(DFSM)である。LPSMを回路キャリアにシルクスクリーン印刷または噴霧して露光および現像することにより、金属パッドにはんだ付けする部品の導電性ラインパターンに開口部を設けることができる。DFSMは、金属表面に真空ラミネートされ、その後、露光および現像される。その後、ソルダーマスクのポリマー層が熱硬化される。
【0090】
ソルダーレジストは、高温のようなはんだ付け条件に耐えねばならず、回路キャリアの全寿命を通じて製造プロセス後に回路キャリアの金属表面上に残る。
【0091】
例
本発明を、例によりさらに説明する。
【0092】
1.材料および方法
1.1 界面活性剤
いわゆる第1の界面活性剤として、以下の界面活性剤を例全体で使用した。
【0093】
Propetal 120およびPropetal 105は、Zschimmer and Schwarz社(ドイツ、ラーンシュタイン)の製品および商標である。Propetal 120およびPropetal 105(CAS 154518-36-2または155683-77-5)は、エトキシ化/プロポキシ化脂肪アルコールである。
【0094】
Antarox B12DFは、Solvay Solutions Nederland B.V.の製品および商標である(CAS 37311-00-5)。Antarox B12DFは、エトキシ化/プロポキシ化ドデカノールである。Antarox B12DFは、以下でAntaroxと略記される。
【0095】
Marlox MO 154は、Sasol Germany GmbHの製品および商標である(CAS 68439-51-0)。Marlox MO 154は、エトキシ化/プロポキシ化アルコールであり、アルコール部分は、12~14の炭素原子を有する。Marlox MO 154は、以下でMarloxと略記される。
【0096】
いわゆる第2の界面活性剤の選択肢i)として、以下の界面活性剤を例全体で使用した。
【0097】
Propetal 140およびPropetal 150(CAS 154518-36-2)は、Zschimmer and Schwarz社の製品および商標である。Propetal 140およびPropetal 150は、エトキシ化/プロポキシ化脂肪アルコールである。
【0098】
Simulsol DR 301(CAS 68154-97-2)は、Seppic社(ドイツ、ケルン)の製品および商標である。Simulsol DR 301は、以下でSimulsol 301と略記される。Simulsol 301は、エトキシ化/プロポキシ化脂肪アルコールであり、該脂肪アルコールは、10~12個の炭素原子を有する(C10~C12アルコール)。
【0099】
Imbentin PPFは、Kolb社(スイス、ヘディンゲン)の製品および商標である。Imbentin PPFは、以下で「Imbentin」と略記される。Imbentinは、エトキシ化/プロポキシ化C8~C18アルコールである。CAS番号は、69013-18-9である。
【0100】
いわゆる第2の界面活性剤の選択肢ii)として、以下の界面活性剤を例全体で使用した。
【0101】
Mulsifan RT 203/80は、Zschimmer & Schwarz社の製品および商標である。Mulsifan RT 203/80は、以下でMulsifanと略記される。Mulsifanは、エトキシ化C12~C15脂肪アルコールである。
【0102】
Marlipal O13/90(CAS 69011-36-5)は、Sasol Germany GmbH(ドイツ、ハンブルク)の製品および商標である。Marlipal O13/90は、以下でMarlipalと略記される。Marlipalは、5~20個のエチレングリコール単位を有するエトキシ化イソトリデカノールである。
【0103】
Surfaline OX 1006 L(CAS 61827-42-7)およびSurfaline OX 1309 L(CAS 9043-30-5)は、CECA SA(フランス)の製品および商標である。Surfaline OX 1006 Lは、以下で「Surfaline 1006」と略記される。Surfaline 1006は、6個のエチレングリコール単位を有するエトキシ化C10脂肪アルコールである。Surfaline OX 1309 Lは、以下で「Surfaline 1309」と略記される。Surfaline 1309は、9個のエチレングリコール単位を有するエトキシ化イソトリデカノールである。
【0104】
Genapol UD 079は、Clariant Corporation(米国ノースカロライナ州)の製品および商標である。Genapol UD 079は、以下でGenapolと略記される。Genapolは、エトキシ化ウンデカノールである。
【0105】
1.2 洗浄溶液
洗浄溶液を、以下の成分を用いて製造した。
【0106】
- 硫酸:10重量%
- 任意に、1つ以上のカルボン酸
- エチレングリコールモノブチルエーテル:特に明記しない限り1000mg/l
- 1つまたは2つの界面活性剤
- 残部の水。
【0107】
界面活性剤の種類および濃度、ならびにカルボン酸の種類および濃度は、特定の実施例で使用される場合には該実施例の説明に示されている。濃度がppm単位で示されている場合、これはmg/lに等しい。
【0108】
1.3 曇点の測定
曇点を、ドイツ語版の欧州規格EN 1890:2006、第8.2項の手順Aに対し、溶媒として10重量%のH2SO4を使用し、かつ界面活性剤の濃度を1000mg/Lとするという修正を加えたものに従って求めた。界面活性剤の混合物を測定した場合、界面活性剤の濃度が1000mg/Lと異なる場合がある。混合物で使用した界面活性剤の濃度は、特定の実施例の説明に示されている。
【0109】
溶解させた100mlの界面活性剤をビーカーに満たし、マグネティックスターラー上でゆっくりと加熱した。溶液が混濁した後、ヒーターのスイッチを切った。界面活性剤溶液の温度を監視しながら、この溶液をゆっくりと冷却した。溶液が再度透明になった際に曇点に達し、この曇点の温度を記録した。
【0110】
1.4 静的表面張力の測定
静的表面張力の測定にはウィルヘルミープレート法を適用し、所定サイズの白金薄板を使用して、気液界面での界面張力を測定する。そのため、この板を所定の深さまで溶液に浸し、次いで溶液から引き抜きながら、引き抜きに必要な力を測定する。この力は、静的な表面張力と相関している。
【0111】
1.5 動的表面張力の測定
表面寿命に関連する表面張力は、動的表面張力と呼ばれる。界面活性物質(界面活性剤)を含む液体の場合、動的表面張力は、平衡状態での表面張力と異なる場合がある。表面が生成された直後には、この新たな表面と接触している界面活性剤溶液の動的表面張力は、純粋な液体と同じ値を有する。表面が老化する、すなわち界面活性剤と長時間接触すると、平衡に達するまで表面での界面活性剤の吸着により表面張力が低下する。平衡に達するのに要する時間は、界面活性剤の拡散速度および吸着速度に依存する。表面張力が低いほど、濡れ性および洗浄性は良好である。したがって、動的表面張力は、濡れおよび洗浄の程度および速度についての適切な指標である。
【0112】
動的表面張力を、泡圧張力計で測定した。形成過程にある表面、すなわち気泡表面の表面張力を測定する。張力計により、試験すべき界面活性剤の溶液中の気泡を生成する。気泡および界面活性剤溶液の界面のサイズおよび寿命は、測定中に変化する。発泡中に泡圧が最大値に達し、これを張力計で記録する。発泡の開始から最大圧力までの時間は、表面寿命と呼ばれる。表面張力は、表面寿命の関数として測定される。
【0113】
測定を、次のように行った。
【0114】
- Kruess社(ドイツ、ハンブルク)泡圧張力計BP2
- 温度23℃
- 界面活性剤を、水中で10重量%のH2SO4に可溶化させた。界面活性剤の濃度は、例に示されているか、または上記のとおりである。
【0115】
1.6 洗浄性能の測定
試料として標準的な銅張ベース材料のパネルに様々な人の3つの指紋を付与することによって、様々な洗浄剤の洗浄性能を試験した。洗浄後、板を銅でめっきした。
【0116】
試験手順:
1.3つの異なる指紋を、銅張材に付与した。
【0117】
2.指紋を付した試料を、本発明および比較の洗浄溶液を使用して、マグネティックスターラーでゆっくりと溶液を撹拌しながら35℃で3分間洗浄した。
【0118】
3.試料を、水道水で2分間すすいだ。
【0119】
4.試料を、酸性プレディップ(5重量%のH2SO4)で1分間処理した。
【0120】
5.酸性の銅電着浴(Cupracid TP、Atotech Deutschland GmbHの製品)中で、試料に1.5A/dm2で30分間銅めっきした。
【0121】
6.洗浄の性能を、目視検査で等級付けした。
【0122】
等級付けを、めっき後の指紋を1~5の等級で判定することにより行った。「5」は最良の結果であり、視認可能な指紋がごくわずかに残っている最大の洗浄効果を表し、「1」は、最低の洗浄性能であり、指紋がなおもはっきりと視認できることを表す。指紋は、完全に現存している。指紋の初期の弱まりもすすぎによる消失も検出できない。
【0123】
1.7 ICD試験
ICD試験(ICD=Interconnection Defect)は、通常、ポリマー材料上に析出させた銅層、すなわちプリント回路板(PCB)および相互接続の強度の品質管理として行われる。本明細書では、金属表面のメタライゼーション、洗浄の質およびすすぎの質を、ICD試験を用いて試験した。ICD試験の主な工程は、はんだ衝撃試験である。はんだ衝撃工程は、既に存在する銅層(無電解析出済み)上および既に存在する銅内層の露出部分上に電解めっきした銅層の密着性が十分であるか否かを試験するために用いられる。電解めっきした銅層と無電解析出させた銅層とのスタックと、銅内層の露出部分との接触領域は、相互接続と呼ばれる。既に存在する無電解銅層および銅内層の露出部分を洗浄溶液で洗浄した後に、はんだ衝撃工程が行われる。洗浄が不十分で、洗浄後に無電解銅層および銅内層の露出部分に有機汚染物がなおも存在している場合、電解めっきした銅層の密着性が悪くなり、はんだ衝撃工程により層間剥離やボイドなどの欠陥が発生することになる。洗浄後に行われるすすぎが十分でなく、洗浄溶液から生じる界面活性剤の残留物が無電解銅層および銅内層の露出部分になおも存在する場合、電解めっきした銅層の密着性も損なわれ、はんだ衝撃工程によって同様の欠陥が生じることになる。はんだ衝撃工程で欠陥が発生した場合、試験した洗浄溶液はICD試験に不合格となった。
【0124】
したがって、ICD試験は、本発明の洗浄溶液での既に存在する金属層の洗浄および濡れの質ならびに該洗浄溶液のすすぎ性の指標である。このような基材内のスルーホールの壁に析出させた金属層は、はんだ衝撃試験に特に敏感である。はんだ衝撃試験は、熱応力試験である。ポリマー基材上に析出させた金属層の試料を高温のはんだ上に(繰り返し)浮かせ、その後、マイクロセクション分析により検査した。ポリマー基材と金属の熱膨張係数の不一致によって機械的応力が大きくなり、これにより、金属めっきしたポリマー基材の損傷が引き起こされる場合がある。この手順は、IPC規格の修正版であるIPC-TM-650、Number 2.6.8, Revision E, Thermal Stress, Plated-Through Holesである。
【0125】
典型的な欠陥は、コーナークラック、バレルクラック、内層相互接続分離、レジンリセッション、引き抜き、パッドの回転、パッドの持ち上がり、剥離、レジンクラックおよび試料の極端な変形である。はんだ衝撃試験の適用後に試料にこのような欠陥が見られない場合、基材上にすでに存在する金属層の洗浄および/または濡れ、ならびに洗浄溶液のすすぎ性は最高品質であった。
【0126】
試料準備
スルーホールを有する標準的な銅張ベース材料(2つの銅内層を有し、双方の外表面に銅張が存在する多層基材)を試料として使用した。これらの試料はすでにスミア除去処理されており、銅張上およびスルーホールの壁上に厚さ1μmの銅層が無電解めっきされている。
【0127】
本発明の洗浄溶液および比較洗浄溶液を使用して、試料を、マグネティックスターラーでゆっくりと溶液撹拌しながら35℃で5分間洗浄した。洗浄溶液の概要を以下に示す。その後、試料を水道水で1分間すすぎ、脱イオン水で5秒間すすいだ。試料を室温(約21℃)で2時間風乾させた。その後、酸性銅電着浴(Cupracid BL R、Atotech Deutschland GmbHの製品、直流1.5A/dm2、136分間、室温)を使用して試料に銅めっきを施した。得られた銅層の厚さは、45μmであった。
【0128】
この手順でメタライゼーションを施したスルーホールの双方の開口部を、その後、粘着テープで覆って、エッチングレジストをシミュレートした(エッチングプロセス中にホール内の銅を保護する)。その後、基材上の銅層の、テープで覆われずにそのままである部分を、HNO3溶液(濃HNO3:水:1=1)でエッチングにより除去した。次いで、テープを試料から除去し、テープから生じた接着剤残留物を、有機溶媒により試料から除去した。最後に、試料を140℃で6時間アニール処理して電着銅層の応力を低減させた。はんだ衝撃試験前に、試料を室温まで放冷した。
【0129】
はんだ衝撃試験
電気めっきした試料をフラックスに浸漬して銅表面から酸化物層を完全に除去し、余分なフラックスを排出させた。試料を適温のはんだ浴に少なくとも10秒間浮かせた。その後、試料をはんだから除去し、少なくとも10分間放冷した。試料に、上記で概要を示した手順によって以下のように衝撃を与えた:試料1に、288℃で6回衝撃を与えた。試料2に、288℃で9回衝撃を与えた。試料3に、326℃で6回衝撃を与えた。最後に、試料をイソプロパノールで完全にすすぐことにより、余分なフラックス残留物を除去した。その後、試料を気流により乾燥させた。
【0130】
マイクロセクションの準備
試料を、スルーホールがその中心を通って切断されるように切断して単一のストリップとした。試料をエポキシ樹脂に埋め込み、得られた樹脂埋め込み試料のブロックに、スルーホールの中心を通る断面がはっきりと見えるようになるまでグラインド処理およびポリッシング処理を施した。上記のような欠陥を検出するために、試料を光学顕微鏡で検査した。いくつかの試料を、走査型電子顕微鏡(SEM)でさらに検査した。
【0131】
2. 実施例
2.1 曇点および静的表面張力
界面活性剤の溶液を準備し、その曇点および静的表面張力を、第1.3節および第1.4節で説明したように測定した。特に明記しない限り、それぞれの界面活性剤の濃度は、準備した溶液中の10重量%のH2SO4中で界面活性剤が1000ppmの濃度であった。結果を表1にまとめた。
【0132】
【0133】
Propetal 120の曇点は、Simulsol 301、MarlipalまたはMulsifanと混合した場合に増加した。混合物の静的表面張力は、単独の界面活性剤の性能と比較して同様の範囲にある。
【0134】
2.2 動的表面張力
動的表面張力に関して、界面活性剤混合物において相乗効果を定量化した。
【0135】
相乗効果の定量化に関して、異なる表面寿命での界面活性剤混合物の表面張力(動的測定)は、単独の界面活性剤の表面張力に比例するものと仮定した。例えばブラインドマイクロビア(via:vertical interconnect access)の洗浄などの用途では表面の迅速な濡れが不可欠であるため、選択された表面寿命は100ミリ秒であった。
【0136】
使用した各界面活性剤をAおよびBと呼び、Bが所与の表面寿命よりも低い表面張力を有するものと仮定した。溶解状態で単独の界面活性剤として使用した場合、濃度は、cA=ctotalおよびcB=ctotalである。単独の界面活性剤の表面張力は、σAおよびσBである。
【0137】
表面張力の差は、ΔA,B=σA-σB。界面活性剤Aと界面活性剤Bとの混合物を溶解状態で使用する場合、各界面活性剤の濃度の合計は、cA+cB=ctotalである。
【0138】
次に、AとBとの混合物におけるc
A+c
B=c
totalについての理論表面張力σ
theorは、
【化1】
である。
【0139】
相乗効果の計算のために、混合物の表面張力の実際に得られた値σ
A,Bと混合物の表面張力の予想理論値との差を、単独の界面活性剤の表面張力の差との関数として設定する:
【化2】
【0140】
結果が正の場合、混合物の表面張力は予想値よりも低く、濡れおよび洗浄の速度はより高い。表面張力が低いほど、濡れ性および洗浄性は良好になる。結果が負の場合、混合物の表面張力は予想値よりも高い。
【0141】
動的表面張力を、第1.5節で説明したとおりに測定した。特に明記しない限り、単独の界面活性剤を溶解状態で使用した場合、単独の界面活性剤AまたはBの濃度cAまたはcBは、動的表面張力の測定に用いた各界面活性剤について、1000ppmであった。特に明記しない限り、界面活性剤Aと界面活性剤Bとの混合物を溶解状態で使用した場合、個々の界面活性剤AまたはBの濃度cAまたはcBは500ppmであり、それぞれを合計すると、総界面活性剤濃度ctotalは1000ppmとなった。
【0142】
2.2.1 Propetal 120およびPropetal 150の動的表面張力
図1に、Propetal 120(界面活性剤A)とPropetal 150(界面活性剤B)との混合物の動的表面張力(σ)を、個々の界面活性剤と比較して示す。データを、表2にまとめる(
図1の「表面寿命」は、表2の「泡寿命」に相当する)。100msの表面張力値での上記式による算出によって、表3にまとめた結果が得られた。
【0143】
【0144】
【0145】
2.2.2 Propetal 120およびMarlipalの動的表面張力
Marlipal(界面活性剤A)とPropetal 120(界面活性剤B)との混合物の動的表面張力のデータを、個々の界面活性剤と比較して、表4にまとめた。100msの表面張力値での上記式による算出によって、表5にまとめた結果が得られた。
【0146】
【0147】
【0148】
2.2.3 Propetal 120およびSimulsol 301の動的表面張力
Simulsol 301(界面活性剤A)とPropetal 120(界面活性剤B)との混合物の動的表面張力のデータを、個々の界面活性剤と比較して、表6にまとめた。100msの表面張力値での上記式による算出によって、表7にまとめた結果が得られた。
【0149】
【0150】
【0151】
2.2.4Propetal 120およびMulsifanの動的表面張力
Mulsifan(界面活性剤A)とPropetal 120(界面活性剤B)との混合物の動的表面張力のデータを、個々の界面活性剤と比較して、表8にまとめた。100msの表面張力値での上記式による算出によって、表9にまとめた結果が得られた。
【0152】
【0153】
【0154】
2.2.5 Propetal 120およびPropetal 140の動的表面張力
図2に、Propetal 120(界面活性剤A)とPropetal 140(界面活性剤B)との混合物の動的表面張力(σ)を、個々の界面活性剤と比較して示す。動的表面張力データを、表10にまとめる(
図2の「表面寿命」は、表10の「泡寿命」に相当する)。100msの表面張力値での上記式による算出によって、表11にまとめた結果が得られた。
【0155】
【0156】
【0157】
実施例2.2.1~2.2.5の上記の結果は、本発明の洗浄溶液で使用される界面活性剤混合物における相乗効果を示している。本発明の界面活性剤混合物は、単独の界面活性剤よりも動的表面張力が低く、かつ濡れ速度が高い。
【0158】
2.2.6 Propetal 105およびSimulsol 301の動的表面張力
Propetal 105(界面活性剤B)とSimulsol 301(界面活性剤A)との混合物の動的表面張力のデータを、個々の界面活性剤と比較して表12にまとめた。混合物中のPropetal 105の濃度は500ppmであり、混合物中のSimulsol 301の濃度は1500ppmであった。単独の界面活性剤のみを含む界面活性剤溶液は、それぞれ2000ppmの界面活性剤濃度を有していた。100msの表面張力値での上記式による算出によって、表13にまとめた結果が得られた。
【0159】
【0160】
【0161】
2.2.7 Propetal 105およびPropetal 150の動的表面張力
Propetal 105(界面活性剤B)とPropetal 150(界面活性剤A)との混合物の動的表面張力のデータを、個々の界面活性剤と比較して表14にまとめた。100msの表面張力値での上記式による算出によって、表15にまとめた結果が得られた。
【0162】
【0163】
【0164】
2.2.8 Propetal 105およびMarlipalの動的表面張力
Propetal 105(界面活性剤B)とMarlipal(界面活性剤A)との混合物の動的表面張力のデータを、個々の界面活性剤と比較して表16にまとめた。100msの表面張力値での上記式による算出によって、表17にまとめた結果が得られた。
【0165】
【0166】
【0167】
実施例2.2.6~2.2.8の上記の結果は、本発明の洗浄溶液で使用される界面活性剤混合物における相乗効果を示している。本発明の洗浄溶液に使用される界面活性剤混合物は、単独の界面活性剤よりも動的表面張力が低く、かつ濡れ速度が高い。
【0168】
以下の例は比較例であり、相乗効果の欠如を示す。これらの事例では、相乗効果は負の値である。
【0169】
2.2.9 Surfaline 1309およびSurfaline 1006の動的表面張力
表18に、Surfaline 1309(界面活性剤A)とSurfaline OX 1006 L(界面活性剤B)との混合物の動的表面張力を示す。100msの表面張力値での上記式による算出によって、表19にまとめた結果が得られた。
【0170】
【0171】
【0172】
2.2.10 Surfaline 1309およびSimulsol 301の動的表面張力
図3に、Simulsol 301(界面活性剤A)とSurfaline 1309(界面活性剤B)との混合物の動的表面張力(σ)を示す。動的表面張力データを表20に示す(
図3の「表面寿命」は、表20の「泡寿命」に相当する)。100msの表面張力値での上記式による算出によって、表21にまとめた結果が得られた。
【0173】
【0174】
【0175】
2.2.11 Simulsol 301およびImbentinの動的表面張力
表22に、Simulsol 301(界面活性剤A)とImbentin(界面活性剤B)との混合物の動的表面張力を示す。100msの表面張力値での上記式による算出によって、表23にまとめた結果が得られた。
【0176】
【0177】
【0178】
2.2.12 Propetal 150およびPropetal 140の動的表面張力
表24に、Propetal 150(界面活性剤A)とPropetal 140(界面活性剤B)との混合物の動的表面張力を示す。100msの表面張力値での上記式による算出によって、表25にまとめた結果が得られた。
【0179】
【0180】
【0181】
2.2.13 AntaroxおよびPropetal 105の動的表面張力
表26に、Antarox(界面活性剤A)とPropetal 105(界面活性剤B)との混合物の動的表面張力を示す。100msの表面張力値での上記式による算出によって、表27にまとめた結果が得られた。
【0182】
【0183】
【0184】
2.2.14 Propetal 120およびPropetal 105の動的表面張力
表28に、Propetal 120(界面活性剤A)とPropetal 105(界面活性剤B)との混合物の動的表面張力を示す。100msの表面張力値での上記式による算出によって、表29にまとめた結果が得られた。
【0185】
【0186】
【0187】
2.3 金属表面の洗浄
第1.6節で説明した金属表面の試料を、本発明による洗浄溶液および2つの比較洗浄溶液で洗浄した。本発明によるある洗浄溶液(
図4の本発明の実施例1)は、Marlox(第1の界面活性剤、1000ppm)とSurfaline 1309 L(第2の界面活性剤ii)、2550ppm)との混合物を含んでいた。本発明による洗浄溶液のさらなる成分および該洗浄溶液中での濃度は、本洗浄溶液に含まれていなかったエチレングリコールモノブチルエーテルを除いて、本明細書の第1.2節で概説したとおりであった。本発明による別の洗浄溶液(
図4の本発明の実施例2)は、Propetal 105(第1の界面活性剤、500ppm)とGenapol UD 079(第2の界面活性剤ii)、1500ppm)との混合物を含んでいた。この洗浄溶液は、濃度0.48重量%のグリコール酸(カルボン酸)と、濃度0.1重量%のエチレングリコールモノブチルエーテルとをさらに含んでいた。ある比較洗浄溶液(
図4の比較例1)は、界面活性剤Tegotens EC 11(Evonik Industries AG;CAS番号67922-59-2;ブチレンオキシドでエンドキャップされた脂肪アルコールエトキシレート;350ppm)を含み、さらなる界面活性剤を含んでいなかった。この比較洗浄溶液は、約10重量%の硫酸、約0.5重量%のヒドロキシ酢酸および約0.075重量%のジエチレングリコールモノブチルエーテルをさらに含んでいた。別の比較洗浄溶液(
図4の比較例2)は、2つの界面活性剤、つまり700ppmのAmonyl 265 BA(Seppic GmbH;CAS番号68424-94-2;ココアルキルジメチルベタイン、両性界面活性剤)と、1000ppmのMarloxとを含んでいた。この比較洗浄溶液は、約10重量%の硫酸、約0.48重量%のヒドロキシ酢酸および約0.1重量%のエチレングリコールモノブチルエーテルをさらに含んでいた。
図4に、洗浄結果を示す。本発明の洗浄溶液を用いた場合に、最良の洗浄結果(等級4)が得られた。本発明による溶液で洗浄した試料では、指紋がもはやまったくまたはほとんど視認できなかった。試料を、完全に洗浄する。それとは対照的に、比較洗浄溶液で処理した試料は、明らかに指紋を示している。
【0188】
2.4 洗浄、すすぎおよびメタライゼーション
洗浄の質、界面活性剤の残留物が除去されるまでのすすぎの質、およびメタライゼーションの質を、ICD試験によって判定した。
【0189】
ボイドフリーの製造には(例えばブラインドマイクロビア充填には)、洗浄およびすすぎの後に銅表面上に汚染物も洗浄剤成分の残留物も残っていないことが非常に重要である。特に界面活性剤は、吸着により銅表面に密着して表面をブロックする場合がある。これは不動態化と同様の効果を招き、これによって銅めっき中にボイドが生じることがある。洗浄剤が良好な洗浄性を有し、かつ良好にすすぎ可能であるか否かを確認するために、異なる洗浄剤で洗浄した後メタライゼーションを施した試料について、第1.7節で説明したとおりにICD試験を行った。ある試料を、Propetal 105(第1の界面活性剤、500ppm)とGenapol UD 079(第2の界面活性剤ii)、1500ppm)との混合物を含む本発明による洗浄溶液で洗浄した。この洗浄溶液は、濃度0.48重量%のグリコール酸(カルボン酸)と、濃度0.1重量%のエチレングリコールモノブチルエーテルとをさらに含んでいた。別の試料を、第2.3節の比較例1(
図4)でも使用した比較洗浄溶液で洗浄した。除去されなかった汚染物や吸着された界面活性剤によって、電着銅層と洗浄して無電解析出させた銅表面との間の、特にスルーホールにおける密着性が減少し、それによって第1.7節で説明したような欠陥が生じる。ICD試験を、第1.7節で説明したとおりに行った。
【0190】
図5に、本発明の洗浄溶液を用いて洗浄した試料から得られたスルーホールの断面図を示す。326℃での6回のはんだ衝撃の後に、ボイドフリーの内層接続が得られる。電着銅層は、洗浄して無電解析出させた下方の銅層から剥離しなかった。無電解析出銅表面を本発明の洗浄溶液で処理した後に電着銅層と無電解析出銅層との間に得られる密着性は、優れている。
【0191】
ICD試験の結果を、表30にまとめた。比較例は、界面活性剤を1つのみ含む比較洗浄溶液を用いた場合の結果を示す。これらの結果は、検査した試料の相互接続エリアにて100箇所当たりで認められた欠陥の数として表されている(ICD/100の内層)。試料で発生した欠陥が少ないほど、洗浄およびすすぎ性が向上した。本発明の洗浄溶液で処理した試料を用いた場合に、最良の結果が得られた。
【0192】
【手続補正書】
【提出日】2023-09-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面を洗浄しかつ/または濡らすための洗浄溶液であって、前記洗浄溶液は、
- 少なくとも1つの酸、
- 第1の界面活性剤であって、曇点が≦25℃であるアルキルポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)エーテルである第1の界面活性剤、ならびに
- 以下のものからなる群から選択される第2の界面活性剤:
i)曇点が≧30℃であるアルキルポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)エーテル、および
ii)曇点が≧45℃であるアルキルポリエチレングリコールエーテル
を含み、
ここで、前記曇点は、ドイツ語版の欧州規格EN 1890:2006、第8.2項の手順Aに対し、溶媒として10重量%のH2SO4を使用し、かつ界面活性剤の濃度を1000mg/Lとするという修正を加えたものに従って求めたものである、洗浄溶液。
【外国語明細書】