(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016236
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】多接点リレー装置
(51)【国際特許分類】
H01H 37/32 20060101AFI20230126BHJP
【FI】
H01H37/32 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120422
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001225
【氏名又は名称】日本電産コパル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 信宏
【テーマコード(参考)】
5G041
【Fターム(参考)】
5G041AA07
5G041AA13
5G041CA02
5G041CA13
5G041CC04
5G041CE02
(57)【要約】
【課題】小型かつ長寿命の多接点リレー装置を低コストで実現する。
【解決手段】多接点リレー装置1は、形状記憶合金によって形成され、独立して通電可能な複数の支持部材10と、複数の固定接点20と、複数の支持部材10によって複数の固定接点20に対して移動可能に支持されるともに、いずれかの固定接点20と導通可能な位置に選択的に移動される可動接点30と、を有する。それぞれの支持部材10は、ジュール熱による加熱によって温度が所定温度を上回ると、長手方向に収縮して可動接点30を移動させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶合金によって形成され、独立して通電可能な複数の支持部材と、
複数の固定接点と、
複数の前記支持部材によって複数の前記固定接点に対して移動可能に支持されるともに、いずれかの前記固定接点と導通可能な位置に選択的に移動される可動接点と、を有し、
それぞれの前記支持部材は、ジュール熱による加熱によって温度が所定温度を上回ると、長手方向に収縮して前記可動接点を移動させる、多接点リレー装置。
【請求項2】
前記可動接点は、前記固定接点に接触して導通する接点部と、前記接点部の周囲に設けられた保持部と、から構成され、
複数の前記支持部材が前記保持部の異なる位置にそれぞれ連結されている、請求項1に記載の多接点リレー装置。
【請求項3】
複数の前記固定接点を含む固定接点群と対向する第1共通接点板を有し、
前記可動接点は、前記固定接点群と前記第1共通接点板との間に配置されるとともに、前記第1共通接点板と常に導通しており、
前記固定接点群に含まれるいずれかの前記固定接点と前記可動接点とが接触すると、当該固定接点と前記第1共通接点板とが前記可動接点を介して導通する、請求項1又は2に記載の多接点リレー装置。
【請求項4】
前記第1共通接点板を付勢する弾性部材を有し、
前記第1共通接点板は、前記固定接点群に近接する方向と前記固定接点群から離反する方向とに移動可能とされ、
前記弾性部材は、前記第1共通接点板を前記固定接点群に向けて付勢する、請求項3に記載の多接点リレー装置。
【請求項5】
前記第1共通接点板と対向する第2共通接点板を有し、
前記弾性部材は、前記第1共通接点板と前記第2共通接点板との間に配置され、前記第1共通接点板と前記第2共通接点板とを常に導通させる、請求項4に記載の多接点リレー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的に開閉される多数の接点を備える多接点リレー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
形状記憶合金を使って接点を開閉させるリレー装置や、スイッチを開閉させるスイッチ機構が知られている。特許文献1には、形状記憶合金を含む感熱変形板を用いて可動接点を固定接点に接触させる多接点リレー装置が記載されている。また、特許文献2には、形状記憶合金を用いて押ボタンを操作してスイッチを開閉させるスイッチ機構が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭61-740号公報
【特許文献2】実開平3-13645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている多接点リレー装置は、複数の接点群を備えており、それぞれの接点群は、一対の可動接点および固定接点から構成されている。また、特許文献1に記載されている多接点リレー装置では、1つの接点群に対して1つの感熱変形板が設けられている。この結果、接点群を増設して接点数を増やすためには、感熱変形板も増設する必要があり、装置が大型化してしまう。
【0005】
特許文献2に記載されているスイッチ機構では、形状記憶合金の形状回復力を押ボタンに伝達するために、ギアやラチェットレバー等の可動部品が多数用いられている。したがって、高コストである一方、寿命が短い。
【0006】
本発明の目的は、小型かつ長寿命の多接点リレー装置を低コストで実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態の多接点リレー装置は、形状記憶合金によって形成され、独立して通電可能な複数の支持部材と、複数の固定接点と、複数の前記支持部材によって複数の前記固定接点に対して移動可能に支持されるともに、いずれかの前記固定接点と導通可能な位置に選択的に移動される可動接点と、を有する。それぞれの前記支持部材は、ジュール熱による加熱によって温度が所定温度を上回ると、長手方向に収縮して前記可動接点を移動させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、小型かつ長寿命の多接点リレー装置を低コストで実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(a)~(d)は、多接点リレー装置の概要を示す模式図である。
【
図3】多接点リレー装置の構造を模式的に示す断面図である。
【
図4】多接点リレー装置内の回路構成を模式的に示す平面図である。
【
図5】多接点リレー装置における接点開閉の過程を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の一例について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全ての図面において、同一又は実質的に同一の構成や要素には同一の符号を用い、原則として繰り返しの説明は行わない。
【0011】
<多接点リレー装置の概要>
図1(a),(b),(c)および(d)は、本実施形態の多接点リレー装置1の概要を示す模式図である。多接点リレー装置1は、複数の支持部材10a~10dと、複数の固定接点20a~20iと、1つの可動接点30と、を有する。以下の説明では、支持部材10a~10dを特に区別しない場合や区別する必要がない場合には、これらを“支持部材10”と呼ぶ場合がある。また、固定接点20a~20iを特に区別しない場合や区別する必要がない場合には、これらを“固定接点20”と呼ぶ場合がある。
【0012】
<支持部材>
それぞれの支持部材10は、形状記憶合金(SMA/Shape Memory Alloy)によって線状又は帯状に形成されている。より特定的には、それぞれの支持部材10は、Ni-Ti系の形状記憶合金によって線状又は帯状に形成されている。
【0013】
支持部材10a,10b,10c,10dの一端は、共通の端子を介してグランドに接続されている。一方、支持部材10a,10b,10c,10dの他端は、別々の端子を介して電源に接続されている。より特定的には、それぞれの支持部材10の一端は、共通のグランド端子11(
図3,
図4)に接続され、それぞれの支持部材10の他端は、別々の電源端子12(
図3)に接続されている。つまり、支持部材10a,10b,10c,10dに、独立して通電可能な回路が形成されている。
【0014】
<固定接点>
固定接点20a,20b,20c,20d,20e,20f,20g,20hおよび20iは、3×3の格子状(マトリクス状)に配置されている。別の見方をすると、多接点リレー装置1は、9個の固定接点20を含む固定接点群21を備えている。
【0015】
<可動接点>
可動接点30は、固定接点群21の上方に配置され、それぞれの固定接点20に対して移動可能に支持されている。より特定的には、可動接点30は、4本の支持部材10a,10b,10c,10dによって固定接点群21の上方に吊られている。
【0016】
<多接点リレー装置の作動原理>
支持部材10に通電すると、ジュール熱によって支持部材10が加熱され、温度が上昇する。別の見方をすると、支持部材10に通電することにより、支持部材10を抵抗加熱することができる。
【0017】
形状記憶合金によって形成されている支持部材10は、温度が所定温度(変態点)を上回ると、元の形状(記憶形状)に復帰する。より特定的には、支持部材10は、温度が所定温度を上回ると長手方向に収縮し、温度が所定温度を下回ると長手方向に弛緩する。つまり、支持部材10に通電することにより、支持部材10を伸縮させることができる。
【0018】
なお、本実施形態の支持部材10の全長は約14.0mmである。支持部材10は、温度が所定温度を上回ると、長手方向に約5.0%収縮する。
【0019】
4本の支持部材10によって固定接点群21上に吊られている可動接点30は、いずれかの支持部材10が収縮すると、収縮した支持部材10に引っ張られて移動する。別の見方をすると、支持部材10は、長手方向に収縮することにより、可動接点30を固定接点群21上で移動させる。
【0020】
つまり、1本または2本以上の支持部材10を収縮させることにより(1本または2本以上の支持部材10に通電することにより)、可動接点30を固定接点群21上で所望の方向に移動させることができる。より特定的には、可動接点30を固定接点群21中のいずれかの固定接点20と導通可能(接触可能)な位置に移動させることができる。
【0021】
図1(a)では、支持部材10a,10b,10c,10dのいずれもが弛緩している。このとき、可動接点30は、固定接点群21の中央に位置する。つまり、いずれの支持部材10にも通電しなければ、可動接点30と固定接点20eとを導通させることができる。以下の説明では、
図1(a)に示されている可動接点30の位置を“ホームポジション”と呼ぶ場合がある。
【0022】
図1(b)では、支持部材10aは収縮し、支持部材10b,10c,10dは弛緩している。このとき、可動接点30は、収縮した支持部材10aに引っ張られ、ホームポジションから固定接点20aと接触可能な位置へ移動する。つまり、支持部材10aに通電する一方、支持部材10b,10c,10dに通電しなければ、可動接点30と固定接点20aとを導通させることができる。
【0023】
図1(c)では、支持部材10a,10bは収縮し、支持部材10c,10dは弛緩している。このとき、可動接点30は、収縮した支持部材10a,10bに引っ張られ、ホームポジションから固定接点20bと接触可能な位置へ移動する。つまり、支持部材10a,10bに通電する一方、支持部材10c,10dに通電しなければ、可動接点30と固定接点20bとを導通させることができる。
【0024】
図1(d)では、支持部材10bは収縮し、支持部材10a,10c,10dは弛緩している。このとき、可動接点30は、収縮した支持部材10bに引っ張られ、ホームポジションから固定接点20cと接触可能な位置へ移動する。つまり、支持部材10bに通電する一方、支持部材10a,10c,10dに通電しなければ、可動接点30と固定接点20bとを導通させることができる。
【0025】
図示は省略するが、通電する支持部材10と通電しない支持部材10との組み合わせを変更すれば、可動接点30を他の固定接点20と接触可能な位置に移動させることができる。つまり、多接点リレー装置1は、可動接点30を9つの固定接点20のうちの任意の1つと接触可能な位置に移動させ、これら2つの接点を導通させることができる。
【0026】
なお、可動接点30は、ホームポジションを経由させることなく、ある固定接点20から他の固定接点20へ直接移動させることもできる。
【0027】
<可動接点の構造>
図2Aは、可動接点30の平面図である。
図2Bは、
図2Aに示されているX-X線に沿う可動接点30の断面図である。可動接点30は、接点部31および保持部32から構成されており、全体として略球形の外観を呈する。接点部31は、導電性に優れた材料(例えば、銅やアルミニウムなど)によって円柱状に形成されている。一方、保持部32は、絶縁性に優れた材料(例えば、セラミックス)によって球状に形成されている。
【0028】
接点部31は、保持部32に埋設され、保持部32を貫通している。別の見方をすると、接点部31の端面31a,31bは、保持部32の外に露出している。露出している接点部31の端面31a,31bは、保持部32の表面と同一又は略同一の曲率を有する円弧面である。この結果、接点部31の端面31a,31bは、保持部32の表面と面一または略面一となっている。以下の説明では、接点部31の一方の端面31aを“上端面31a”と呼び、接点部31の他方の端面31bを“下端面31b”と呼ぶ場合がある。
【0029】
保持部32には、4つの連結部33が一体成形されている。4つの連結部33は、保持部32の赤道上に等間隔で設けられている。それぞれ連結部33には、支持部材10が連結されている。つまり、4本の支持部材10が保持部32の異なる位置にそれぞれ連結されている。もっとも、4つの連結部33は保持部32上に等間隔で配置されている。よって、保持部32を含む可動接点30は、4本の支持部材10によって均等に支持されている。なお、それぞれ支持部材10は、連結部33に形成されている貫通孔33aの一端を通して貫通孔33aに引き入れられ、貫通孔33aの他端を通して貫通孔33aから引き出されている。
【0030】
<多接点リレー装置の構造>
図3は、多接点リレー装置1の構造を模式的に示す断面図である。
図4は、多接点リレー装置1内の回路構成を模式的に示す平面図である。
【0031】
多接点リレー装置1は、支持部材10,固定接点20,可動接点30に加えて、第1共通接点板40,第2共通接点板50,基板60,ガイド部材70および弾性部材80などを有する。
【0032】
第1共通接点板40は、基板60の上方に配置され、基板60と対向している。第2共通接点板50は、第1共通接点板40の上方に配置され、第1共通接点板40と対向している。つまり、基板60,第1共通接点板40および第2共通接点板50は、この順で重なっている。
【0033】
ガイド部材70は、第1共通接点板40の移動を案内するとともに、第1共通接点板40の移動量(移動ストローク)を所定の範囲内に制限する。弾性部材80は、コイルスプリングであって、第1共通接点板40を基板60に向けて付勢する。
【0034】
<基板>
既述の固定接点群21は、基板60に設けられている。より特定的には、複数の固定接点20が基板60上に格子状に配置されている。それぞれの固定接点20は、基板60を貫通している。別の見方をすると、それぞれの固定接点20は、基板60に埋設されたプラグであって、共通端子22に接続されている。
【0035】
それぞれの固定接点20の上部は基板60の表面から突出している。基板60から突出している固定接点20の上部の端面(上端面)は、可動接点30と接触する接触面23を形成している。より特定的には、固定接点20の上端面は、可動接点30の接点部31の下端面31bと接触する接触面23を形成している。
【0036】
そこで、接触面23は、接点部31の下端面31bに倣う円弧面とされている。もっとも、固定接点20の接触面23と接点部31の下端面31bとの曲率は同一ではない。この結果、本実施形態では、接触面23の周縁が下端面31bに接触する。
【0037】
但し、接触面23と下端面31bの曲率が同一である実施形態も、本発明の実施形態の1つである。他の実施形態では、接触面23と下端面31bとが面接触することもある。
【0038】
<第1共通接点板>
第1共通接点板40は、導電性に優れた材料(例えば、銅やアルミニウムなど)によって形成された板であって、少なくとも固定接点群21を覆うことが可能な大きさ(面積)を有する。よって、基板60と対向している第1共通接点板40は、同時に固定接点群21とも対向している。
【0039】
固定接点群21と対向している第1共通接点板40の裏面には、それぞれの固定接点20の接触面23と対向する9個の凹部が形成されている。それぞれの凹部の表面は、可動接点30と接触する接触面41を形成している。より特定的には、凹部の表面は、可動接点30の接点部31の上端面31aと接触する接触面41を形成している。そこで、接触面41は、接点部31の上端面31aに倣う円弧面とされている。
【0040】
第1共通接点板40の接触面41は、可動接点30の接点部31と接触する点において、固定接点20の接触面23と共通する。そこで、本実施形態では、接触面41の形状,寸法,曲率などを接触面23のそれらと同一としてある。この結果、本実施形態では、接触面41の周縁が上端面31aに接触する。
【0041】
もっとも、接触面41と上端面31aの曲率が同一である実施形態が本発明の実施形態から除外されるものでない。別の実施形態では、接触面41と上端面31aとが面接触することもある。
【0042】
<ガイド部材>
ガイド部材70は、絶縁性に優れた材料によって形成されている。ガイド部材70は、第1共通接点板40の周囲に配置され、第1共通接点板40の上下動を案内する。
【0043】
ガイド部材70は、第1共通接点板40の少なくとも二辺が差し入れられる2つの保持溝71を備えている。第1共通接点板40の第1の辺は、一方の保持溝71に差し入れられ、第1の辺と対向する第1共通接点板40の第2の辺は、他方の保持溝71に差し入れられている。
【0044】
それぞれの保持溝71の幅(高さ)は、第1共通接点板40の厚みよりも広い(高い)。したがって、第1共通接点板40は、自身の厚みと保持溝71の幅との差分の範囲内で上下に移動可能である。別の見方をすると、第1共通接点板40は、自身の厚みと保持溝71の幅との差分の範囲内で、固定接点群21に近接する方向(下方)と、固定接点群21から離反する方向(上方)と、に移動可能である。
【0045】
もっとも、固定接点群21と第1共通接点板40との間には可動接点30が介在している。よって、第1共通接点板40の最大移動量(最大移動ストローク)は、自身の厚みと保持溝71の幅との差分よりも小さい(短い)。
【0046】
<第2共通接点板>
第2共通接点板50は、導電性に優れた材料(例えば、銅やアルミニウムなど)によって形成された板であって、少なくとも第1共通接点板40を覆うことが可能な大きさ(面積)を有している。
【0047】
本実施形態の第2共通接点板50の面積は、第1共通接点板40の面積よりも大きい。また、第2共通接点板50の厚みは、第1共通接点板40の厚みよりも薄い。しかし、第2共通接点板50の大きさや厚みに特に制限はない。例えば、第2共通接点板50の面積は、第1共通接点板40の面積より小さくてもよい。また、第2共通接点板50の厚みは、第1共通接点板40の厚みより厚くてもよい。
【0048】
<弾性部材>
弾性部材80は、対向する第1共通接点板40と第2共通接点板50との間に配置されている。より特定的には、第1共通接点板40と第2共通接点板50との間に、4つの弾性部材80が配置されている。
【0049】
それぞれの弾性部材80は、導電性に優れた材料(例えば、銅やアルミニウムなど)によって形成されている。よって、第1共通接点板40と第2共通接点板50とは、弾性部材80を介して常に導通している。別の見方をすると、弾性部材80は、第1共通接点板40と第2共通接点板50とを常に導通させている。
【0050】
それぞれの弾性部材80は、第1共通接点板40を基板60(固定接点群21)に向けて常に付勢している。この結果、可動接点30は、第1共通接点板40と基板60とによって挟まれている。別の見方をすると、第1共通接点板40は可動接点30に押し付けられ、可動接点30は基板60に押し付けられている。
【0051】
可動接点30に押し付けられている第1共通接点板40は、可動接点30と常に接触している。より特定的には、第1共通接点板40の裏面は、接点部31の上端面31aと常に接触している。つまり、第1共通接点板40と可動接点30とは常に導通している。
【0052】
基板60に押し付けられている可動接点30は、いずれかの固定接点20と接触可能な位置に移動されると、当該固定接点20と接触する。より特定的には、可動接点30がいずれかの固定接点20と接触可能な位置に移動されると、接点部31の下端面31bが当該固定接点20の接触面23と接触する。すると、可動接点30と固定接点20とが導通する。つまり、2つの接点が閉じられる。この結果、第2共通接点板50⇒弾性部材80⇒第1共通接点板40⇒可動接点30⇒固定接点20という一連の通電経路が形成される。
【0053】
<多接点リレー装置における接点開閉>
図5は、多接点リレー装置1における接点開閉の過程を模式的に示す断面図である。
図3に示されている可動接点30は、ホームポジションに位置している。言い換えれば、
図3に示されている可動接点30は、固定接点20eと導通している。
【0054】
図3に示されている支持部材10aおよび不図示の支持部材10cに通電すると、これら支持部材10a,10cが収縮する。一方、通電されていない支持部材10b,10dは、弛緩したままである。すると、可動接点30は、通電によって収縮した支持部材10a,10cに引っ張られ、ホームポジションから固定接点20dと接触可能な位置へ向かって移動する。このとき、第1共通接点板40は、弾性部材80の付勢に抗して僅かに上方に移動する。別の見方をすると、第1共通接点板40が可動接点30によって押し上げられる。
【0055】
可動接点30が固定接点20dと接触可能な位置まで移動した後に、支持部材10a,10cに対する通電を停止すると、可動接点30が固定接点20dに接触し、両者が導通する。同時に、可動接点30は、弾性部材80の付勢によって固定接点20dに押し付けられる。つまり、支持部材10a,10cに対する通電を停止した後も可動接点30と固定接点20dとの接触が維持される。別の見方をすると、可動接点30と固定接点20dとの導通を維持するための電力は必要ない。
【0056】
なお、第1共通接点板40と可動接点30との導通は、第1共通接点板40の凹部(接触面41)と可動接点30の接点部31(上端面31a)とが対向していないときにも維持される。言い換えれば、第1共通接点板40と可動接点30との導通は、可動接点30がある固定接点20から別の固定接点20に移動している最中も維持され続ける。
【0057】
例えば、
図5に示されている接点部31の上端面31aは、第1共通接点板40の接触面41ではなく、その周囲に接触している。しかし、第1共通接点板40は、その全体が導電性を備えている。したがって、
図5に示されている接触状態であっても、第1共通接点板40と可動接点30との導通は維持されている。
【0058】
以上のように、本実施形態の多接点リレー装置1では、1本または2本以上の支持部材10に通電することにより、可動接点30を任意の固定接点20と導通させることができる。言い換えれば、通電される支持部材10の組み合わせによって、9個の接点を選択的に開閉させることができる。したがって、多数の接点を少ない電力で迅速に開閉させることができる。
【0059】
さらに、ギアやラチェットレバー等を用いて可動接点30に駆動力を伝達する構造と比較した場合、部品点数が少なく、機械的な故障が発生する可能性も低い。別の見方をすると、本実施形態の多接点リレー装置1は、低コストかつ長寿命である。また、支持部材10の増減のみで接点数の増減に対応することが可能であり、接点数の増加に伴って装置全体が比例的に大型化する虞もない。
【0060】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、固定接点20は適宜増減させることができる。また、固定接点20の増減に応じて支持部材10も適宜増減させることができる。
【0061】
固定接点20を支持部材10のグランドや電源と同一のグランドや電源に接続する場合には、共通端子22をグランド端子11や電源端子12と短絡させてもよい。弾性部材80とは異なる部材や配線を用いて第2共通接点板50と第1共通接点板40とを導通させてもよい。また、第2共通接点板50と可動接点30とをフレキシブル配線などを介して相互接続させれば、第1共通接点板40を省略したり、第1共通接点板40を絶縁材料によって形成したりすることもできる。
【0062】
第1共通接点板40や第2共通接点板50は、通電経路を形成するために必要な範囲で導電性を備えていればよい。例えば、第1共通接点板40や第2共通接点板50は、表面に導体層が形成された樹脂基板などに置換することもできる。
【符号の説明】
【0063】
1…多接点リレー装置、10,10a~10d…支持部材、11…グランド端子、12…電源端子、20,20a~20i…固定接点、21…固定接点群、22…共通端子、23…接触面、30…可動接点、31…接点部、31a…端面(上端面)、31b…端面(下端面)、32…保持部、33…連結部、33a…貫通孔、40…第1共通接点板、41…接触面、50…第2共通接点板、60…基板、70…ガイド部材、71…保持溝、80…弾性部材