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特開2023-162456液体採取具、液体採取具の製造方法、及び検査キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162456
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】液体採取具、液体採取具の製造方法、及び検査キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/00 20060101AFI20231101BHJP
【FI】
G01N1/00 101K
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148604
(22)【出願日】2020-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】516079785
【氏名又は名称】セルスペクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142734
【弁理士】
【氏名又は名称】安 裕 希
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 尚志
(72)【発明者】
【氏名】江面 知彦
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA06
2G052AA30
2G052AD06
2G052AD26
2G052AD46
2G052BA02
2G052BA18
2G052CA04
2G052DA22
2G052HC27
2G052JA04
2G052JA24
(57)【要約】
【課題】作業の熟練度によらず、作業者が素早く且つ安全に微量の液体を定量採取して移送することができる、取り扱いが容易な液体採取具等を提供する。
【解決手段】血液採取具は、所定量の液体を採取する液体採取具であって、細長い筒状をなす把持部と、把持部と外径及び内径が等しい筒状をなす液体保持部と、把持部の一方の端部の一部と液体保持部の一方の端部の一部とを接続する接続部と、を備え、Tを表面張力、θを接触角、ρを液体の密度、gを重力加速度、rを液体保持部の内周の半径、hを液体保持部の高さとするとき、h<2Tcosθ/ρgrである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量の液体を採取する液体採取具であって、
細長い筒状をなす把持部と、
前記把持部と外径及び内径が等しい筒状をなす液体保持部と、
前記把持部の一方の端部の一部と前記液体保持部の一方の端部の一部とを接続する接続部と、
を備え、
Tを表面張力、θを接触角、ρを前記液体の密度、gを重力加速度、rを前記液体保持部の内周の半径、hを前記液体保持部の高さとするとき、h<2Tcosθ/ρgrである、液体採取具。
【請求項2】
前記把持部の長さは、前記液体保持部の高さhに対して十分に長い、請求項1に記載の液体採取具。
【請求項3】
前記液体保持部の少なくとも前記把持部側の端面は、前記液体保持部の中心軸に対して直交する、請求項1又は2に記載の液体採取具。
【請求項4】
前記把持部と前記液体保持部は、同心状に配置され、
前記接続部は、前記把持部及び前記液体保持部と同心の筒の側壁の一部であり、前記把持部の前記一方の端部側の端面の一部と、前記液体保持部の前記一方の端部側の端面の一部とを接続する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の液体採取具。
【請求項5】
前記把持部の中心軸と前記液体保持部の中心軸とが角度を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の液体採取具。
【請求項6】
前記把持部と、前記液体保持部と、前記接続部とは、同一の部材により一体的に形成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の液体採取具。
【請求項7】
前記把持部と外径及び内径が等しい筒状をなす第2の液体保持部と、
前記把持部の他方の端部の一部と前記第2の液体保持部の一方の端部とを接続する第2の接続部と、
をさらに備える請求項1~6のいずれか1項に記載の液体採取具。
【請求項8】
前記把持部、前記液体保持部、及び、前記接続部は、樹脂材料によって形成されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の液体採取具。
【請求項9】
前記液体は血液であり、簡易迅速検査において用いられる検査チップへの移送に用いられる、請求項1~8のいずれか1項に記載の液体採取具。
【請求項10】
所定量の液体を採取する液体採取具の製造方法であって、
筒状の部材の一方の端部から特定の長さを残す位置に切り欠き部を形成する工程を含み、
前記切り欠き部よりも前記一方の端部側の前記部材の部分を液体保持部とし、前記切り欠き部よりも前記一方の端部の反対側の前記部材の部分を把持部とし、前記切り欠き部を形成することにより残留した前記部材の側壁部分を、前記液体保持部と前記把持部とを接続する接続部とし、
Tを表面張力、θを接触角、ρを前記液体の密度、gを重力加速度、rを前記液体保持部の内周の半径、hを前記液体保持部の高さとするとき、h<2Tcosθ/ρgrとなるように前記切り欠き部を形成する、液体採取具の製造方法。
【請求項11】
前記切り欠き部は、前記筒状の部材の横断面と平行になるように形成される、請求項10に記載の液体採取具の製造方法。
【請求項12】
前記側壁を折り曲げる工程をさらに含む請求項10又は11に記載の液体採取具の製造方法。
【請求項13】
試験紙と、該試験紙を収容する筐体であって、検体が注入される開口が設けられた筐体と、を有する検査チップと、
前記開口に所定量の前記検体を移送するために用いられる液体採取具と、を備え、
前記液体採取具は、
細長い筒状をなす把持部と、
前記把持部と外径及び内径が等しい筒状をなす液体保持部と、
前記把持部の一方の端部の一部と前記液体保持部の一方の端部の一部とを接続する接続部と、を有し、Tを表面張力、θを接触角、ρを前記液体の密度、gを重力加速度、rを前記液体保持部の内周の半径、hを前記液体保持部の高さとするとき、h<2Tcosθ/ρgrであり、
前記液体保持部の外径は、前記開口の内径以下である、検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量の液体を採取する液体採取具、液体採取具の製造方法、及び検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、予め試薬等が配置された検査チップを用いて血液や唾液等の生体試料を検査する簡易迅速検査(Point of Care Testing:POCT)へのニーズが高まっている。例えば特許文献1には、イムノクロマトグラフィ用の試験キットが開示されている。
【0003】
一般的な検査チップにおいては、試験片を収容するチップケースの一部にすり鉢状又はお椀状に凹んだ領域が設けられ、この領域の底部が開口して、内部の試験片の一部が露出している。この開口が検体注入口(特許文献1においては図1に示す検体導入開口部62)となる。例えば血液を検査する場合には、指先等に穿刺することにより形成された血溜まりから必要量の血液を採取し、検査チップの上記検体注入口に移送する。
【0004】
微量の液体を採取して移送する器具として、スポイトや、毛細管現象を利用して液体を吸引する器具(例えば特許文献2参照)や、白金耳又はエーゼと呼ばれる、表面張力によって環状部に液体を保持する器具(例えば特許文献3参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-53869号公報
【特許文献2】特開2008-157783号公報
【特許文献3】実用新案登録第3150899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生体試料として血液を扱う場合、正確な検査結果を得るためには、凝血や溶血が生じないように微量の血液を定量採取し、移送することが重要である。そのためには、血液にできるだけ圧力変動や衝撃を与えず、且つ、異物との接触をできるだけ避けることが必要となる。また、大気に露出している時間をなるべく短くするために、簡単な操作で素早く血液を移送できることも重要となる。
【0007】
しかしながら、スポイトを用いる場合、ゴム製又はプラスチック製の尾部の押し具合によって吸引量を調節するため、微量の液体を定量することは非常に困難である。また、血液を排出する際、血液に大きな圧力変動を与えてしまう。
【0008】
また、毛細管を用いた血液採取具においては、血液の吸引及び排出に時間がかかる。具体的には、毛細管においては、管の高い位置まで血液が吸引されるので、1回に排出可能な血液の量はわずかであり、必要量の血液を移送するためには、何度も作業を繰り返す必要が生じてしまう。また、ピストンによって毛細管内の血液を急速に押し出す方式の場合、血液への圧力変動を抑制するために、ピストンを押す速度を調整しなければならず、熟練した作業者でないと取り扱いが難しい。
【0009】
これに対し、エーゼを用いる場合には、大気中に晒される血液の表面積が毛細管を用いる場合と比較して大きいため、凝血が生じやすい。このため、より素早く作業を行う必要があるが、一方で、エーゼにおいては血液が露出しているため、検査チップの検体注入口などの移送先以外の箇所にも付着し易く、衛生的も問題が生じ易い。
【0010】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、作業の熟練度によらず、作業者が素早く且つ安全に微量の液体を定量採取して移送することができる、取り扱いが容易な液体採取具及び液体採取具の製造方法と、そのような液体採取具を含む検査キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の一態様である液体採取具は、所定量の液体を採取する液体採取具であって、細長い筒状をなす把持部と、前記把持部と外径及び内径が等しい筒状をなす液体保持部と、前記把持部の一方の端部の一部と前記液体保持部の一方の端部の一部とを接続する接続部と、を備え、Tを表面張力、θを接触角、ρを前記液体の密度、gを重力加速度、rを前記液体保持部の内周の半径、hを前記液体保持部の高さとするとき、h<2Tcosθ/ρgrである。
【0012】
上記液体採取具において、前記把持部の長さは、前記液体保持部の高さhに対して十分に長いものであっても良い。
上記液体採取具において、前記液体保持部の少なくとも前記把持部側の端面は、前記液体保持部の中心軸に対して直交しても良い。
【0013】
上記液体採取具において、前記把持部と前記液体保持部は、同心状に配置され、前記接続部は、前記把持部及び前記液体保持部と同心の筒の側壁の一部であり、前記把持部の前記一方の端部側の端面の一部と、前記液体保持部の前記一方の端部側の端面の一部とを接続しても良い。
【0014】
上記液体採取具において、前記把持部の中心軸と前記液体保持部の中心軸とが角度を有しても良い。
上記液体採取具において、前記把持部と、前記液体保持部と、前記接続部とは、同一の部材により一体的に形成されていても良い。
【0015】
上記液体採取具は、前記把持部と外径及び内径が等しい筒状をなす第2の液体保持部と、前記把持部の他方の端部の一部と前記第2の液体保持部の一方の端部とを接続する第2の接続部と、をさらに備えても良い。
【0016】
上記液体採取具において、前記把持部、前記液体保持部、及び、前記接続部は、樹脂材料によって形成されていても良い。
上記液体採取具において、前記液体は血液であり、簡易迅速検査において用いられる検査チップへの移送に用いられても良い。
【0017】
本発明の別の態様である液体採取具の製造方法は、所定量の液体を採取する液体採取具の製造方法であって、筒状の部材の一方の端部から特定の長さを残す位置に切り欠き部を形成する工程を含み、前記切り欠き部よりも前記一方の端部側の前記部材の部分を液体保持部とし、前記切り欠き部よりも前記一方の端部の反対側の前記部材の部分を把持部とし、前記切り欠き部を形成することにより残留した前記部材の側壁部分を、前記液体保持部と前記把持部とを接続する接続部とし、Tを表面張力、θを接触角、ρを前記液体の密度、gを重力加速度、rを前記液体保持部の内周の半径、hを前記液体保持部の高さとするとき、h<2Tcosθ/ρgrとなるように前記切り欠き部を形成する。
【0018】
上記液体採取具の製造方法において、前記切り欠き部は、前記筒状の部材の横断面と平行になるように形成されても良い。
上記液体採取具の製造方法において、前記側壁を折り曲げる工程をさらに含んでも良い。
【0019】
本発明のさらに別の態様である検査キットは、試験紙と、該試験紙を収容する筐体であって、検体が注入される開口が設けられた筐体と、を有する検査チップと、前記開口に所定量の前記検体を移送するために用いられる液体採取具と、を備え、前記液体採取具は、細長い筒状をなす把持部と、前記把持部と外径及び内径が等しい筒状をなす液体保持部と、前記把持部の一方の端部の一部と前記液体保持部の一方の端部の一部とを接続する接続部と、を有し、Tを表面張力、θを接触角、ρを前記液体の密度、gを重力加速度、rを前記液体保持部の内周の半径、hを前記液体保持部の高さとするとき、h<2Tcosθ/ρgrであり、前記液体保持部の外径は、前記開口の内径以下である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、液体保持部の端面を液体に接触させることにより、所定量の液体を保持することができ、同じ端面を移送先に接触させることにより、所定量の液体を移送することができる。従って、作業の熟練度によらず、作業者が素早く且つ安全に微量の液体を採取して移送することができる、取り扱いが容易な液体採取具及び液体採取具の製造方法と、そのような液体採取具を含む検査キットを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1の実施形態に係る液体採取具を示す斜視図である。
図2図1に示す液体採取具の部分拡大図である。
図3図2のA-A断面拡大図である。
図4図1に示す液体採取具の使用例を説明するための模式図である。
図5】本発明の第2の実施形態に係る液体採取具の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態に係る液体採取具、液体採取具の製造方法、及び検査キットについて、図面を参照しながら説明する。なお、これらの実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、各図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0023】
以下の説明において参照する図面は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、及び位置関係を概略的に示しているに過ぎない。即ち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、及び位置関係のみに限定されるものではない。また、図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0024】
以下に説明する液体採取具は、所定の微量の液体を採取して移送するための器具である。採取される液体の種類は特に限定されず、血液、尿、唾液等の検体や、生化学実験において用いられる液体試料や薬液など、種々の液体に対して適用することができる。ここで、本明細書において微量とは、数μL~数十μL程度のことをいう。
【0025】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る液体採取具を示す斜視図である。図2は、液体採取具1の部分拡大図であり、一方の端部の近傍を示している。図3は、図2のA-A断面拡大図である。図1に示すように、本実施形態に係る液体採取具1は、細長い筒状をなす把持部11と、該把持部11と外径及び内径が等しい筒状をなす液体保持部12と、把持部11と液体保持部12とを接続する接続部13とを含む。
【0026】
なお、本実施形態においては、把持部11の両端に、接続部13を介して液体保持部12が設けられているが、液体保持部12は、把持部11の一方の端部にのみ設けることとしても良い。
【0027】
液体採取具1は、例えばボリプロピレン等の樹脂材料を用いて形成することができる。また、採取する液体に対する濡れ性の高い材料、或いは、濡れ性を向上させるコーティングを施した材料を用いても良い。液体採取具1を透明又は透過性を有する樹脂材料によって形成することにより、液体保持部12に保持される液体を視認し易くすることができる。
【0028】
本実施形態において、把持部11と液体保持部12は同心状に配置されており、液体採取具1が全体として、両端が開口した1本の筒状をなしている。即ち、把持部11、液体保持部12、及び接続部13は、同一の部材により一体的に形成されている。液体採取具1の端部近傍には切り欠き部14が形成されており、この切り欠き部14によって、筒状の部材が、把持部11の部分と、液体保持部12の部分とに分けられる。そして、切り欠き部14に対して残留している筒状の部材の側壁が、把持部11の端面の一部と液体保持部12の端面の一部とを接続する接続部13となる。
【0029】
把持部11は、液体採取具1によって液体を採取及び移送する際に作業者が手に持つ部分であり、端部に配置された液体保持部12の高さhよりも十分に(好ましくは数倍以上、より好ましくは十倍以上)長い。
【0030】
液体保持部12は、所定量の液体を保持する部分である。液体保持部12が空の状態で、図2に示す液体保持部12の下端面(把持部11とは反対側の端面)を液体に接触させることにより液体が保持され、液体保持部12に液体が保持されている状態で下端面を移送先の器具等に接触させることにより液体が当該移送先に移される。
【0031】
液体保持部12に保持される液体の量は、液体保持部12の内径φ1及び高さhにより定められる。液体保持部12に保持させる液体を定量するため、Tを表面張力、θを接触角、ρを採取する液体の密度、gを重力加速度、rを液体保持部12の内周の半径(r=φ1/2)とするときに、
h<2Tcosθ/ρgr …式(1)
となるように、液体の種類及び液体採取具1の材料(又は表面処理)に応じて、液体保持部12の内径φ1及び高さh(即ち、切り欠き部14の位置)が決められている。液体保持部12の高さhは、把持部11の長さと比較して十分に短いため、液体保持部12の図2に示す下端面を液体に接触させるだけで、所定量の液体で液体保持部12を素早く満たすことができ、同じ下端面を移送先の器具等に接触させるだけで、保持された液体のほぼ全量を素早く移し出すことができる。
【0032】
例えば、10μL程度の血液を採取するためには、内径φ1を1.8~2.8mm程度、高さhを1.5~3mm程度にすることができる。これにより、液体保持部12の端部を液体に接触させるだけで、規定量の液体を素早く保持することができると共に、液体保持部の内壁に対する液体の接触面積を低減し、液体に対する摺応力を抑制することができる。
【0033】
液体採取具1の外径φ2は、用途に応じて適宜設定することができる。例えば、指先に形成された血溜まりから血液を採取する場合、液体採取具1の端面全体を血溜まりに接触させる必要があるため、外径φ2を約4mm以下にすることが好ましい。また、例えば、簡易迅速検査に用いられるイムノクロマトグラフィ等の検査チップの検体注入口は、一般的に直径3~4mm程度であるので、液体採取具1の端面を検体注入口の底面に容易に接触させることができるように、液体採取具1の外径φ2を検体注入口の直径以下にすることが好ましい。具体的には、外径φ2を2~4mm程度にすることが好ましく、外径φ2を2~3mm程度にすることがより好ましい。この辺りのサイズについては、検査チップなど血液を移送する先の器具に応じて適宜設定すれば良い。
【0034】
液体採取具1の外径φ2をある程度細径化(例えば、2~4mm程度)しつつ、必要量の液体を採取するための内径φ1を確保するためには、液体採取具1の肉厚を薄くすれば良い。
【0035】
切り欠き部14の形状は特に限定されない。例えば、図2に示すように、切り欠き部14は、筒状の部材の側面に対して矩形状に切り込んだ形状であっても良い。または、切り欠き部14は、筒状の部材の側面に対して楔状に切り込んだ形状であっても良い。或いは、切り欠き部14は、筒状の部材の側面に対して円弧状に切り込んだ形状であっても良い。好ましくは、液体保持部12の把持部11側の端面が、液体保持部12の中心軸に対して直交するように、筒状の部材の横断面と平行となるように切り欠き部14を設けても良い。
【0036】
切り欠き部14の幅(液体採取具1の中心軸方向の長さ)dは特に限定されないが、液体採取具1の使用時に作業者が切り欠き部14を視認できるように、少なくとも0.2mmとすることが好ましい。切り欠き部14の幅dを2~3mm程度、或いはそれ以上とすることにより、液体保持部12に保持されている液体を切り欠き部14からさらに視認し易くなる。切り欠き部14の幅dの上限は、把持部11の長さを維持できる程度であれば、特に限定されない。
【0037】
切り欠き部14の深さxは、液体保持部12の上端面(把持部11側の端面)において内側の空洞の一部が露出する程度であれば特に限定されない。液体保持部12に保持されている液体を切り欠き部14から視認し易くするためには、深さxを液体保持部12の外径φ2の約1/2以上とすることが好ましい。
【0038】
次に、液体採取具1の製造方法について説明する。
まず、所定の内径φ1及び外径φ2を有し、両端が開口した細長い筒状(ストロー状)の部材を用意する。この筒状の部材の一方の端部から液体保持部12の高さhに相当する長さを残す位置に、切り欠き部14を形成する。切り欠き部14は、当該筒状の部材の横断面と平行に形成しても良い。これにより、切り欠き部14よりも上記一方の端部側の当該部材の部分が液体保持部12となり、切り欠き部14よりも上記一方の端部の反対側の当該部材の部分が把持部11となり、切り欠き部14を形成することにより残留した当該部材の側壁が接続部13となる。液体採取具1の両端に液体保持部12を設ける場合には、筒状の部材の他方の端部にも切り欠き部14を形成すれば良い。
【0039】
図4は、液体採取具1の使用例を説明するための模式図であり、被験者から採取した血液を、簡易迅速検査において使用されるイムノクロマトグラフィ用の検査チップ2に移送する様子を示している。検査チップ2は、試験紙を収容する筐体に、検体(例えば血液)を注入するための開口である検体注入口21が設けられたものであり、検体注入口21内には検体を受ける試験片22の一部が露出している。
【0040】
血液を採取する際には、まず、被験者の指先等を穿刺することにより、血溜まりを形成し、この血溜まりに液体採取具1(液体保持部12)の端面を接触させる。これにより、表面張力によって液体保持部12内に一定量の血液が保持される。続いて、血液を保持させた液体採取具1の端面を、検体注入口21の底部に接触させる。これにより、液体保持部12に保持された血液が試験片22に移送される。
【0041】
以上説明したように、本実施形態によれば、液体採取具1の端面を液体に接触させることにより、微量の液体を液体保持部12に定量採取し、液体採取具1の同じ端面を移送先に接触させることにより、液体を移送することができる。つまり、作業者は、スタンプを扱うような感覚で、液体採取具1を液体の採取元(例えば指先に形成された血溜まり)や移送先(例えば検査チップ2の検体注入口21)に接触させることにより、液体を移送することができる。液体は液体保持部12内に表面張力によって付着するので、液体の移送中に液体がこぼれて周囲を汚染してしまうこともない。従って、熟練した作業者でなくても、誰でも簡単に、微量の液体の定量採取及び移送を安全且つ素早くに行うことが可能となる。
【0042】
また、本実施形態においては、把持部11が筒状をなしていることから、線材とは異なり、ある程度の太さを有しているので、作業者にとって取り扱いが容易である。従って、作業を簡単且つ素早く行うことができる。また、把持部11と液体保持部12とが同心状に配置されているため、検査チップ2の検体注入口21のような窪んだ領域に対しても、把持部11を干渉させることなく、液体保持部12を接触させることができる。従って、検体注入口21の周辺の汚染を抑制することができ、作業の安全性を向上させることができる。
【0043】
また、本実施形態においては、液体保持部12内に液体を保持するので、毛細管を用いる場合と異なり、長い距離に渡って管内で液体を移動させることにより生じる摺応力や、毛細管からピストンで液体を押し出す際に生じる大きな圧力変動を抑制することができる。従って、血液を採取して移送する場合であっても、本実施形態に係る液体採取具1を用いることで、溶血や凝血を抑制することが可能となる。
【0044】
また、本実施形態においては、毛細管を用いる場合と比較して、保持する液体の量が同じであっても、液体が接触する容器の内壁面(本実施形態においては液体保持部12の内周面)の面積が小さいので、液体が排出された後の容器に残留する液体の量を低減することができる。従って、液体採取具1に採取された液体の量だけでなく、液体採取具1により移送された液体の量の定容性を向上させることができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、筒状の液体保持部12に液体を保持するので、エーゼを用いる場合と異なり、大気中に晒される表面積及び時間を抑制しつつ、液体を移送することができ、液体に移送先に移す際に落下などの大きな衝撃を与えることを防ぐこともできる。従って、血液を採取して移送する場合であっても、本実施形態に係る液体採取具1を用いることで、凝血を抑制することが可能となる。さらに、液体保持部12が筒状をなしていることから、線材からなるエーゼと比較して精度良く定量することができる。
【0046】
また、本実施形態においては、液体保持部12の高さ(即ち、切り欠き部14の位置)を調節することにより、保持する液体の量を任意に設定することができる。従って、検査チップ2の検体注入口21のような狭い領域に対しても、液体を必要量だけ移送することができる。
【0047】
また、本実施形態によれば、筒状の部材に切り欠き部14を形成するという簡単な工程で、液体採取具1を製造することができ、液体採取具1の部品点数も非常に少ない。従って、液体採取具1を低コストで提供することができ、使い捨ての用途にも適している。
【0048】
また、図1に示すように、液体採取具1の両端に液体保持部12が設けられている場合には、1つの液体採取具1を用いて液体の採取及び移送を2回行うことができる。
【0049】
本実施形態に係る液体採取具1と、図4に示す検査チップ2とを、所定の項目を迅速検査するための検査キットとして構成しても良い。この場合、液体保持部12の外径φ2を検体注入口21の内径以下にすることにより、液体保持部12によって採取した検体(例えば血液)を、素早く確実に検体注入口21に移送することができる。このような検査キットを利用することにより、ユーザは、液体採取のための特殊な器具を用意することなく、手軽に検査を実施することができる。
【0050】
(変形例)
上記第1の実施形態においては、切り欠き部14により把持部11と液体保持部12とを分けることとしたが、筒状の部材の側面に貫通孔を形成することにより、把持部と液体保持部とを分けても良い。この場合、貫通孔は、式(1)を満たし、且つ、液体保持部の高さ(筒状の部材の端部から貫通孔までの長さ)に対して把持部の長さが十分に長くなる位置に形成される。
【0051】
(第2の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態に係る液体採取具の部分拡大図である。図5に示すように、本実施形態に係る液体採取具3は、把持部31と、液体保持部32と、接続部33とを備える。把持部31及び液体保持部32の構成は、上記第1の実施形態における把持部11及び液体保持部12と同様であるが、本実施形態においては、接続部33を折り曲げることにより、把持部31の中心軸と液体保持部32の中心軸とに角度をつけている。
【0052】
このような液体採取具3は、所定の内径及び外径を有する細長い筒状(ストロー状)の部材の一方の端部から液体保持部32の高さhに相当する長さを残す位置に切り欠き部を形成し、切り欠き部を形成することにより残留した当該部材の側壁(接続部33)を所望の角度に折り曲げれば良い。
【0053】
本実施形態によれば、接続部33を折り曲げることにより、液体保持部32の上端面(把持部31側の端面)を露出させるので、液体保持部32に保持されている液体の視認性を向上させることができる。なお、把持部31と液体保持部32とのなす角度は、作業者にとって使い易い角度となるように調整することができる。
【0054】
本発明は、以上説明した第1及び第2の実施形態並びに変形例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、他の様々な形で実施することができる。例えば、上記第1及び第2の実施形態並びに変形例に示した全構成要素からいくつかの構成要素を除外して形成しても良いし、上記第1及び第2の実施形態並びに変形例に示した構成要素を適宜組み合わせて形成しても良い。
【符号の説明】
【0055】
1,3…液体採取具、2…検査チップ、11,31…把持部、12,32…液体保持部、13,33…接続部、14…切り欠き部、21…検体注入口、22…試験片
図1
図2
図3
図4
図5