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特開2023-162457アルガン抽出物の製造方法、アルガン抽出物、発毛促進剤、脱毛予防剤、及び毛周期調節剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162457
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】アルガン抽出物の製造方法、アルガン抽出物、発毛促進剤、脱毛予防剤、及び毛周期調節剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20231101BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020151267
(22)【出願日】2020-09-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、「国際科学技術共同研究推進事業 地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム」「エビデンスに基づく乾燥地生物資源シーズ開発による新産業育成研究」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】礒田 博子
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 光敏
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 雅子
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC37
4C083EE22
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、発毛促進効果を有する新規なアルガン抽出物を提供することである。
【解決手段】本発明は、アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁に対し、有機溶剤を含む溶媒による抽出を行う工程を含み、前記溶媒中の有機溶剤濃度が20質量%超100質量%以下である、アルガン抽出物の製造方法を提供する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁に対し、有機溶剤を含む溶媒による抽出を行う工程を含み、
前記溶媒中の有機溶剤濃度が20質量%超100質量%以下である、
アルガン抽出物の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶剤のSP値が、4.0以上25.0以下の範囲内である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶剤が、アルコール系溶剤である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記アルガン抽出物が発毛促進のために用いられる、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記アルガン抽出物が脱毛予防のために用いられる、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記アルガン抽出物が毛周期の調節のために用いられる、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁に対する、有機溶剤を含む溶媒による抽出物であり、かつ、
前記溶媒中の有機溶剤濃度が20質量%超100質量%以下である、
アルガン抽出物。
【請求項8】
請求項7に記載のアルガン抽出物を含む発毛促進剤。
【請求項9】
請求項7に記載のアルガン抽出物を含む脱毛予防剤。
【請求項10】
請求項7に記載のアルガン抽出物を含む毛周期調節剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルガン抽出物の製造方法、アルガン抽出物、発毛促進剤、脱毛予防剤、及び毛周期調節剤に関する。
【背景技術】
【0002】
頭部の脱毛は、加齢等の様々な原因によって生じる症状であり、それ自体は危険な症状ではない。しかし、頭部の脱毛が外見に与える重要性を考慮すると、個人の生活の質に大きな影響を与え得るため、種々の治療方法が研究されている。
【0003】
現在利用可能な脱毛治療としては、合成化学成分を用いた方法が主に知られる。例えば、アメリカ食品医薬品局(FDA)により、脱毛治療薬として、「ミノキシジル」及び「フィナステリド」が承認されている。
【0004】
また、特許文献1では、アルガニア・スピノーザの種子の抽出物から得られる天然タンパク質を毛髪ケアに用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本特許第4601251号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ミノキシジル等には、多くの重篤な副作用(インポテンス、めまい、意図しない髪の成長、脱力感、頭痛、皮膚発疹等)が生じてしまうことや、一時的な作用に留まっていることが知られる。
【0007】
また、アルガニア・スピノーザの種子の抽出物が発毛促進効果等に対して及ぼす影響は明らかではない。
【0008】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、発毛促進効果を有する新規なアルガン抽出物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁を、所定の濃度範囲の有機溶剤を含む抽出溶媒を用いて抽出された抽出物によれば、上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0010】
(1) アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁に対し、有機溶剤を含む溶媒による抽出を行う工程を含み、
前記溶媒中の有機溶剤濃度が20質量%超100質量%以下である、
アルガン抽出物の製造方法。
【0011】
(2) 前記有機溶剤のSP値が、4.0以上25.0以下の範囲内である、(1)に記載の製造方法。
【0012】
(3) 前記有機溶剤が、アルコール系溶剤である、(1)又は(2)に記載の製造方法。
【0013】
(4) 前記アルガン抽出物が発毛促進のために用いられる、(1)から(3)のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
(5) 前記アルガン抽出物が脱毛予防のために用いられる、(1)から(4)のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
(6) 前記アルガン抽出物が毛周期の調節のために用いられる、(1)から(5)のいずれかに記載の製造方法。
【0016】
(7) アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁に対する、有機溶剤を含む溶媒による抽出物であり、かつ、
前記溶媒中の有機溶剤濃度が20質量%超100質量%以下である、
アルガン抽出物。
【0017】
(8) (7)に記載のアルガン抽出物を含む発毛促進剤。
【0018】
(9) (7)に記載のアルガン抽出物を含む脱毛予防剤。
【0019】
(10) (7)に記載のアルガン抽出物を含む毛周期調節剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、発毛促進効果を有する新規なアルガン抽出物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例におけるMTTアッセイの結果(APC 0%)を示す図である。
図2】実施例におけるMTTアッセイの結果(APC 20%)を示す図である。
図3】実施例におけるMTTアッセイの結果(APC 50%)を示す図である。
図4】実施例におけるMTTアッセイの結果(APC 80%)を示す図である。
図5】実施例におけるMTTアッセイの結果(APC 100%)を示す図である。
図6】実施例における遺伝子解析の結果(ALPL)を示す図である。
図7】実施例における遺伝子解析の結果(CTNNB1)を示す図である。
図8】実施例における網羅的遺伝子解析の結果(APC 50%)を示す図である。
図9】実施例における網羅的遺伝子解析の結果(APC 80%)を示す図である。
図10】実施例における網羅的遺伝子解析の結果(APC 50%)を示す図である。
図11】実施例における網羅的遺伝子解析の結果(APC 80%)を示す図である。
図12】実施例における遺伝子解析の結果(ALPL)を示す図である。
図13】実施例における遺伝子解析の結果(RBbj)を示す図である。
図14】実施例における遺伝子解析の結果(FGF1)を示す図である。
図15】実施例における遺伝子解析の結果(FGF2)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0023】
<アルガン抽出物の製造方法>
本発明のアルガン抽出物の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)は、アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁に対し、有機溶剤を含む溶媒による抽出を行う工程を含み、該溶媒中の有機溶剤濃度が20質量%超100質量%以下である。
【0024】
本発明者らの検討の結果、上記工程を含む方法から得られるアルガン抽出物は、毛の成長サイクルを加速させるという意外な知見が見出された。
このような効果は、アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁に対する抽出工程において、上記要件を満たさない抽出溶媒(有機溶剤濃度が20質量%以下である溶媒や、水のみからなる溶媒)を用いて得られたアルガン抽出物には認められなかった。
【0025】
本発明の製造方法から得られるアルガン抽出物は、毛の成長サイクルを加速させることにより、発毛促進効果のほか、脱毛予防効果や、毛周期調節効果を奏し得る。したがって、本発明の製造方法から得られるアルガン抽出物は、これらの効果を奏するために好適に利用できる。
【0026】
本発明において「毛の成長サイクル」とは、「毛周期」とも呼ばれ、毛包(hair follicle)における成長期、退行期、及び休止期という3つのフェーズからなる。
成長期においては、毛包の近位端にある真皮乳頭細胞(dermal papilla cell)が、毛周期の誘導と毛幹の形成を調節する。次いで、毛包は、退行期(カタジェン)を経て、毛が抜ける休息期(休止期)に移行する。
頭部の脱毛の原因としては、毛の成長サイクルの変化(成長期から休止期への急速な移行、休止期の長期化等)等が知られる。毛の成長サイクルを加速させることは、このような変化を正常化させたり、抑制させたりし得る。
【0027】
本発明において「毛の成長サイクルを加速させる」とは、本発明の製造方法から得られるアルガン抽出物の作用によって、該アルガン抽出物を作用させない場合と比較して、毛の成長サイクルを構成する各フェーズの期間が短縮することを意味する。
【0028】
毛の成長サイクルが加速されているかどうかは、実施例に示した方法による、ヒト毛包真皮乳頭細胞の生存率や、発毛マーカーの発現量を特定することで判定できる。
【0029】
本発明において「発毛促進効果」とは、毛の成長サイクルが加速されることによる、毛髪の成長機能の向上効果(例えば、毛の成長サイクルが繰り返される回数の増加等)を意味する。
【0030】
本発明において「脱毛予防効果」とは、毛の成長サイクルが加速されることによる、抜毛や薄毛の予防効果を意味する。
【0031】
本発明において「毛周期調節効果」とは、毛の成長サイクルが加速されることによる、毛の成長サイクルを正常化又は改善させる効果を意味する。
「毛の成長サイクルの正常化又は改善」としては、成長期から休止期への急速な移行の抑制、長期化した休止期の正常化又は改善等が挙げられる。
【0032】
以下、本発明の製造方法の詳細について説明する。
【0033】
(抽出対象)
本発明の製造方法における抽出対象は、アルガン(学名:Argania spinosa(アルガニア・スピノーザ))の種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁である。
【0034】
「アルガンの種子の仁の搾油残渣」とは、アルガンの種子の仁から、従来知られる任意の搾油方法(機械プレス等を用いた方法)でアルガンオイルを抽出した後に得られる残渣を意味し、「アルガンプレスケーキ」とも呼ばれる。
該搾油残渣は、通常、茶色又は淡黄色を呈している。搾油残渣の形態は、搾油法により異なり、粉末状、粉末が圧縮された形状(スティック状、板状等)、ペースト状等が挙げられる。これらのうち、搾油残渣は、抽出効率の観点から、粉末状が好ましい。
該搾油残渣は、典型的には、約50%のタンパク質、約40%の炭水化物(約20%の繊維を含む)、約7%の残留油、約0.5%のサポニン(グルクロン酸型サポニン、非グルクロン酸型サポニン等)を含む。
【0035】
本発明において、「アルガンの種子の仁」とは、仁中の組成に影響を及ぼす加工(搾油等)を施していないものを意味し、通常、胚及び胚乳を含む。
本発明においてアルガンの種子の仁が抽出対象である場合、仁はそのまま(すなわち未加工のまま)使用してもよいが、細かく粉砕して、微細化してもよい。
【0036】
抽出効率の高さや、環境配慮(仁の搾油残渣の有効活用等)の観点から、本発明における抽出対象は、アルガンの種子の仁の搾油残渣が好ましい。
【0037】
(抽出溶媒)
本発明の製造方法においては、有機溶剤濃度が20質量%超100質量%以下である溶媒を抽出溶媒として用いて、アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁からの抽出を行う。
【0038】
本発明において抽出工程で用いられる「溶媒」とは、抽出作用を有する溶媒であり、少なくとも有機溶剤を含む。
【0039】
本発明における溶媒は、所望の抽出物が得られやすいという観点から、好ましくは、有機溶剤及び水を含む混合物、又は、有機溶剤からなる溶媒であり、より好ましくは、有機溶剤及び水からなる混合物、又は、有機溶剤からなる溶媒である。
【0040】
溶媒中の有機溶剤濃度の下限値は、毛髪の成長を良好に促進できる抽出物が得られやすいという観点から、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらにより好ましくは50質量%以上、最も好ましくは70質量%以上である。
【0041】
溶媒中の有機溶剤濃度の上限値は、毛髪の成長を良好に促進できる抽出物が得られやすく、さらには抽出物の製造コストを抑える観点から、好ましくは100質量%以下、より好ましくは99.5質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下、さらにより好ましくは90質量%以下、最も好ましくは85質量%以下である。
【0042】
有機溶剤は1種又は2種以上の組み合わせを用いてもよい。2種以上の有機溶剤を用いる場合、その総量が上記の範囲内であればよい。
【0043】
本発明の組成物に用いることができる有機溶剤としては、以下のものに大別できる。有機溶剤の種類によっては、以下の分類のうち2以上に該当し得る。
(1)25℃大気圧下で液体である有機溶剤
(2)親水性有機溶剤
(3)SP値が4.0以上25.0以下の範囲内である有機溶剤
以下にそれぞれの分類に含まれ得る有機溶剤について例示する。
【0044】
(25℃大気圧下で液体である有機溶剤)
25℃大気圧下で液体である有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、アミド系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族系溶剤、含ハロゲン系溶剤等が挙げられる。
【0045】
アルコール系溶剤としては、水酸基を有する溶剤であれば特に限定されず、例えば、以下が挙げられる。
メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、iso-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ペンタノール、iso-ペンタノール、2-メチルブタノール、sec-ペンタノール、tert-ペンタノール、3-メトキシブタノール、n-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、sec-ヘキサノール、2-エチルブタノール、sec-ヘプタノール、ヘプタノール-3、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、sec-オクタノール、n-ノニルアルコール、2,6-ジメチルヘプタノール-4、n-デカノール、sec-ウンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec-テトラデシルアルコール、sec-ヘプタデシルアルコール、フルフリルアルコール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール、及びジアセトンアルコール等の脂肪族モノアルコール、並びに、ベンジルアルコール、及びフェノール等の芳香族モノアルコール等のモノアルコール系溶剤;
エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ペンタンジオール-2,4、2-メチルペンタンジオール-2,4、ヘキサンジオール-2,5、ヘプタンジオール-2,4、2-エチルヘキサンジオール-1,3、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール系溶剤;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等の多価アルコール部分エーテル系溶剤等。
【0046】
アルコール系溶剤は、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ヘキシルエーテル、エトキシトリグリコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等でもよい。
上記のアルコール系溶剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、メチル-n-ブチルケトン、ジエチルケトン、メチル-iso-ブチルケトン、メチル-n-ペンチルケトン、エチル-n-ブチルケトン、メチル-n-ヘキシルケトン、ジ-iso-ブチルケトン、トリメチルノナノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、2-ヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2,4-ペンタンジオン、アセトニルアセトン、アセトフェノン、フェンチョン等を挙げることができる。
これらのケトン系溶剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
アミド系溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロピオンアミド、N-メチルピロリドン等を挙げることができる。
これらのアミド系溶剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
エーテル系溶剤としては、例えば、エチルエーテル、iso-プロピルエーテル、n-ブチルエーテル、n-ヘキシルエーテル、2-エチルヘキシルエーテル、エチレンオキシド、1,2-プロピレンオキシド、ジオキソラン、4-メチルジオキソラン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、テトラエチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール等を挙げることができる。
これらのエーテル系溶剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
エステル系溶剤としては、例えば、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、酢酸n-プロピル、酢酸iso-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸iso-ブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸n-ペンチル、酢酸sec-ペンチル、酢酸3-メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2-エチルブチル、酢酸2-エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸n-ノニル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノプロピルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノブチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジ酢酸グリコール、酢酸メトキシトリグリコール、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-ブチル、プロピオン酸iso-アミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ-n-ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル、乳酸n-アミル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル等を挙げることができる。
これらのエステル系溶剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、n-ペンタン、iso-ペンタン、n-ヘキサン、iso-ヘキサン、n-ヘプタン、iso-ヘプタン、n-オクタン、iso-オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、3-メチルヘキサン、2,3-ジメチルペンタン、3-エチルペンタン、1,6-ヘプタジエン、5-メチル-1-ヘキシン、ノルボルナン、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1-メチル-1,4-シクロヘキサジエン、1-ヘプチン、2-ヘプチン、シクロヘプタン、シクロヘプテン、1,3-ジメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、1-メチル-1-シクロヘキセン、3-メチル-1-シクロヘキセン、メチレンシクロヘキサン、4-メチル-1-シクロヘキセン、2-メチル-1-ヘキセン、2-メチル-2-ヘキセン、1-ヘプテン、2-ヘプテン、3-ヘプテン、2,2-ジメチルヘキサン、2,3-ジメチルヘキサン、2,4-ジメチルヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン、3,3-ジメチルヘキサン、3,4-ジメチルヘキサン、3-エチル-2-メチルペンタン、3-エチル-3-メチルペンタン、2-メチルヘプタン、3-メチルヘプタン、4-メチルヘプタン、2,2,3-トリメチルペンタン、2,2,4-トリメチルペンタン、シクロオクタン、シクロオクテン、1,2-ジメチルシクロヘキサン、1,3-ジメチルシクロヘキサン、1,4-ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、イソプロピルシクロペンタン、2,2-ジメチル-3-ヘキセン、2,4-ジメチル-1-ヘキセン、2,5-ジメチル-1-ヘキセン、2,5-ジメチル-2-ヘキセン、3,3-ジメチル-1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、2-エチル-1-ヘキセン、2-メチル-1-ヘプテン、1-オクテン、2-オクテン、3-オクテン、4-オクテン、1,7-オクタジエン、1-オクチン、2-オクチン、3-オクチン、4-オクチン、n-ノナン、2,3-ジメチルヘプタン、2,4-ジメチルヘプタン、2,5-ジメチルヘプタン、3,3-ジメチルヘプタン、3,4-ジメチルヘプタン、3,5-ジメチルヘプタン、4-エチルヘプタン、2-メチルオクタン、3-メチルオクタン、4-メチルオクタン、2,2,4,4-テトラメチルペンタン、2,2,4-トリメチルヘキサン、2,2,5-トリメチルヘキサン、2,2-ジメチル-3-ヘプテン、2,3-ジメチル-3-ヘプテン、2,4-ジメチル-1-ヘプテン、2,6-ジメチル-1-ヘプテン、2,6-ジメチル-3-ヘプテン、3,5-ジメチル-3-ヘプテン、2,4,4-トリメチル-1-ヘキセン、3,5,5-トリメチル-1-ヘキセン、1-エチル-2-メチルシクロヘキサン、1-エチル-3-メチルシクロヘキサン、1-エチル-4-メチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、1,1,3-トリメチルシクロヘキサン、1,1,4-トリメチルシクロヘキサン、1,2,3-トリメチルシクロヘキサン、1,2,4-トリメチルシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルシクロヘキサン、アリルシクロヘキサン、ヒドリンダン、1,8-ノナジエン、1-ノニン、2-ノニン、3-ノニン、4-ノニン、1-ノネン、2-ノネン、3-ノネン、4―ノネン、n-デカン、3,3-ジメチルオクタン、3,5-ジメチルオクタン、4,4-ジメチルオクタン、3-エチル-3-メチルヘプタン、2-メチルノナン、3-メチルノナン、4-メチルノナン、tert-ブチルシクロヘキサン、ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、4-イソプロピル-1-メチルシクロヘキサン、ペンチルシクロペンタン、1,1,3,5-テトラメチルシクロヘキサン、シクロドデカン、1-デセン、2-デセン、3-デセン、4-デセン、5-デセン、1,9-デカジエン、デカヒドロナフタレン、1-デシン、2-デシン、3-デシン、4-デシン、5-デシン、1,5,9-デカトリエン、2,6-ジメチル-2,4,6-オクタトリエン、リモネン、ミルセン、1,2,3,4,5-ペンタメチルシクロペンタジエン、α-フェランドレン、ピネン、テルピネン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、5,6-ジヒドロジシクロペンタジエン、1,4-デカジイン、1,5-デカジイン、1,9-デカジイン、2,8-デカジイン、4,6-デカジイン、n-ウンデカン、アミルシクロヘキサン、1-ウンデセン、1,10-ウンデカジエン、1-ウンデシン、3-ウンデシン、5-ウンデシン、トリシクロ[6.2.1.02,7]ウンデカ-4-エン、n-ドデカン、2-メチルウンデカン、3-メチルウンデカン、4-メチルウンデカン、5-メチルウンデカン、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン、1,3-ジメチルアダマンタン、1-エチルアダマンタン、1,5,9-シクロドデカトリエン、1,2,4-トリビニルシクロヘキサン、イソパラフィン等を挙げることができる。
これらの脂肪族炭化水素系溶剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、n-プロピルベンゼン、iso-プロピルベンゼン、ジエチルベンゼン、iso-ブチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ジ-iso-プロピルベンゼン、n-アミルナフタレン、テトラリン、アニソール、クメン、1,2,3-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン、スチレン、αメチルスチレン、ブチルベンゼン、sec-ブチルベンゼン、シメン、2-エチル-p-キシレン、2-プロピルトルエン、3-プロピルトルエン、4-プロピルトルエン、1,2,3,5-テトラメチルトルエン、1,2,4,5-テトラメチルトルエン、テトラヒドロナフタレン、4-フェニル-1-ブテン、tert-アミルベンゼン、アミルベンゼン、2-tert-ブチルトルエン、3-tert-ブチルトルエン、4-tert-ブチルトルエン、5-イソプロピル-m-キシレン、3-メチルエチルベンゼン、tert-ブチル-3-エチルベンゼン、4-tert-ブチル-o-キシレン、5-tert-ブチル-m-キシレン、tert-ブチル-p-キシレン、1,2-ジ-iso-プロピルベンゼン、1,3-ジ-iso-プロピルベンゼン、1,4-ジ-iso-プロピルベンゼン、ジプロピルベンゼン、ペンタメチルベンゼン、ヘキサメチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、1,3,5-トリエチルベンゼン等を挙げることができる。
これらの芳香族炭化水素系溶剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
含ハロゲン系溶剤としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、フロン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等を挙げることができる。これらの含ハロゲン系溶剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
(親水性有機溶剤)
親水性有機溶剤としては、任意の比率において水と均一に混合可能な有機溶剤であることが好ましい。親水性有機溶剤としては、具体的には、アミド系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤等が挙げられ、これらのうち、所望の抽出物が得られやすいという観点から、例えば、アルコール系溶剤が好ましい。
【0055】
アルコール系溶剤に含まれるアルコールとしては特に限定されないが、所望の抽出物が得られやすいという観点から、好ましくは炭素数が1以上40以下であるアルコール、より好ましくは炭素数が1以上30以下であるアルコール、さらに好ましくは炭素数が1以上20以下であるアルコール、さらにより好ましくは炭素数が1以上10以下であるアルコール、最も好ましくは炭素数が2であるアルコール(エタノール)である。
【0056】
アルコール系溶剤としては、モノアルコール系溶剤、多価アルコール系溶剤、多価アルコール部分エーテル系溶剤等が挙げられる。これらのうち、所望の抽出物が得られやすいという観点から、モノアルコール系溶剤、多価アルコール系溶剤等が好ましく、モノアルコール系溶剤がより好ましい。
【0057】
親水性有機溶剤は、アルコール性水酸基を有する溶剤、フェノール性水酸基を有する溶剤のうちのいずれでもよい。これらのうち、所望の効果をより発揮する観点から、アルコール性水酸基を有する溶剤が好ましい。
【0058】
親水性有機溶剤は、芳香族環を有しないアルコール系溶剤である脂肪族アルコール、芳香族環を有するアルコール系溶剤である芳香族アルコールのうちのいずれでもよい。これらのうち、所望の効果をより発揮する観点から、脂肪族アルコールが好ましい。
【0059】
(SP値が4.0以上25.0以下の範囲内である有機溶剤)
本発明における有機溶剤の種類は、所望の抽出物が得られやすいという観点から、SP値が、4.0以上25.0以下の範囲内であるものが好ましい。
【0060】
有機溶剤のSP値の下限値は、所望の抽出物が得られやすいという観点から、好ましくは6.0以上、より好ましくは8.0以上である。
【0061】
有機溶剤のSP値の上限値は、所望の抽出物が得られやすいという観点から、好ましくは20.0以下、より好ましくは18.0以下である。
【0062】
SP値が4.0以上25.0以下の範囲内である有機溶剤としては、下記を例示できる:モノアルコール系(メタノール(SP値14.5~14.8)、エタノール(SP値12.7)、プロパノール(SP値11.5~12.0)等)、
多価アルコール系(エチレングリコール(SP値14.2)、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン(SP値16.5)等)、
エステル系(酢酸エチル(SP値9.1)、酢酸ブチル(SP値8.5)、プロピオン酸メチル(SP値17.9)等)、
ケトン系(アセトン(SP値10)、メチルエチルケトン(SP値9.3)等)、
エーテル系(エチルエーテル(SP値7.3)、iso-プロピルエーテル(SP値7.8)、エチレングリコールモノメチルエーテル(SP値10.8)等)、
炭化水素系(n-ヘキサン(SP値7.3)、シクロヘキサン、トルエン(SP値8.9)、スクワレン(SP値8.0)、スクワラン(SP値16.2)等)、
含ハロゲン系(クロロホルム(SP値9.3)等)、
固形状又は液状の油脂系(サラダ油、白絞油、コーン油、大豆油、ごま油、菜種油(キャノーラ油)、榧油、こめ油(米糠油)、椿油、サフラワー油(ベニバナ油)、ヤシ油(パーム核油)、綿実油、ひまわり油、エゴマ油(荏油)、アマニ油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、ヘーゼルナッツオイル、ウォルナッツオイル、グレープシードオイル、マスタードオイル、アルガンオイル等の植物油(SP値6~8)、ラード(豚脂)、ヘット(牛脂)、鶏油、兎脂、羊脂、馬脂、シュマルツ、乳脂(バター、ギー等)、魚油、鯨油、鮫油、肝油等の食用に用いられる油脂等の動物油、シアバター、カカオバター、ピーナッツバター、パーム油、硬化油(マーガリン、ショートニング等)のその他の食用油脂等)、
ワックス類(ろう(流動パラフィン(SP値16.4)等)、蜜蝋、ホホバオイル等)。
【0063】
なお、本発明において「SP値」とは、「溶解パラメーター」とも呼ばれ、溶媒の溶解挙動を示す値であり、以下のように算出される(「プラスチック加工技術ハンドブック」、1995年6月12日、高分子学会編、日刊工業新聞社発行、1474頁を参照。)。
(SP値)=CEO=ΔE/V=(ΔH-RT)/V=d(CE)/M
(ΔE:蒸発エネルギー(kcal/mol)、V:モル体積(cm/mol)、ΔH(kcal/mol)、R:ガス定数、M:グラム分子量(g/mol)、T:絶対温度(K)、d:密度(g/cm)、CE:凝集エネルギー(kcal/mol))
【0064】
(本発明において最も好ましい溶媒)
本発明において最も好ましい溶媒は、本発明の効果を特に奏する抽出物が得られやすいという観点から、エタノール濃度が20質量%超(好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらにより好ましくは50質量%以上、最も好ましくは70質量%以上)、かつ、100質量%以下(より好ましくは99.5質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下、さらにより好ましくは90質量%以下、最も好ましくは85質量%以下)であるエタノール水溶液、又は、エタノールからなる溶媒である。
【0065】
本発明における溶媒がエタノール水溶液である場合、エタノールと水との質量比は、好ましくは、エタノール:水=20:80超~100:0以下である。
エタノール水溶液に対するエタノールの質量比が高いほど、抽出効率が高まりやすい傾向にある。
【0066】
本発明における溶媒がエタノール水溶液である場合、該水溶液は、好ましくはエタノール及び水からなる。
【0067】
(抽出条件)
抽出溶媒を用いた、アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁からの抽出は、従来知られる任意の条件を採用できる。
【0068】
抽出方法としては、アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁と、溶媒とを接触させることができる任意の方法を採用できる。例えば、固液抽出等が挙げられ、より具体的には、浸漬、再浸漬、撹拌、浸出、再浸出、ソックスレー抽出器で行われる連続還流下での固液抽出等が挙げられる。
【0069】
抽出温度(アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁と、溶媒とを接触させる温度)としては、例えば、室温(例えば、10℃以上30℃以下)が挙げられる。
溶媒が凍結したり、蒸発したりすることを防ぐ観点から、抽出温度の下限は、水及び溶媒の凝固点以上が好ましく、抽出温度の上限は、溶媒が蒸発・沸騰する温度以下が好ましい。
【0070】
抽出時間(アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁と、溶媒とを接触させる総時間)は、採用する抽出方法や、抽出対象の量に対する溶媒の量の比率等に応じて適宜設定できる。
抽出時間としては、効率的に抽出する観点から、例えば、1時間以上4時間以下が挙げられる。ただし、アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁と、溶媒とを接触させることで抽出可能であるため、抽出時間は特に限定されない。
【0071】
抽出濃度は、特に限定されないが、抽出濃度=(アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁の質量/(アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁の質量、及び溶媒の質量の合計))と定義した場合、効率的に抽出する観点から、1/25~1/2が好ましい。
【0072】
抽出は、連続的に行ってもよく、断続的に行ってもよい。
【0073】
(その他の工程)
本発明の製造方法の上記抽出工程のほか、本発明が属する分野において採用され得る任意の1以上の工程を任意のタイミングで含んでいてもよく、含んでいなくともよい。
【0074】
抽出工程の前に行われ得る工程としては、以下が挙げられる:
アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁を有機溶媒(ヘキサン、クロロホルム等の低極性有機溶媒や、エタノール等の高極性有機溶媒等)等を用いて脱脂して残留オイルを除去する工程、
アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁を乾燥する工程、
アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁を粉砕する工程(例えば、乳鉢や高速ミキサー等を用いて粒子サイズを好ましくは1cm径未満、より好ましくは1mm径以下に破砕する工程)等。
なお、破砕する工程や、粉砕する工程(粉末化工程等)は必須の工程ではない。
【0075】
抽出工程の前に、アルガンの種子の仁の搾油残渣、又はアルガンの種子の仁を粉砕する工程を行うと、仁又は仁の搾油残渣の粒子と、溶媒との間の接触面積を増加させることができ、効率的に抽出を行える観点から好ましい。
【0076】
抽出工程の後に行われ得る工程としては、以下が挙げられる:遠心分離、ろ過、溶媒の除去・濃縮(エバポレーター等の減圧蒸留装置を用いた方法等)、乾燥(凍結乾燥、温風乾燥、スプレードライ、自然乾燥等の水分を除去する工程等)等。
【0077】
<アルガン抽出物>
本発明のアルガン抽出物(以下、「本発明の抽出物」ともいう。)は、上述の本発明の製造方法から得られる抽出物である。
【0078】
本発明の抽出物の形態は、本発明の製造方法から得られる抽出物を含んでいれば特に限定されず、固形状(粒子状、粉末状等)、液状(エタノール等の溶媒に溶解したもの)等であってもよい。
【0079】
本発明の抽出物は、例えば、下記の成分を含み得る:サポニン類(アルガニンA、アルガニンB、アルガニンC、アルガニンD、アルガニンE、アルガニンF、ミサポニンA、及び、その他の化合物(1251、1237、1235、又は1221g/molの分子量を有する化合物等))、5-ヒドロキシメチルフルフラール、ポリフェノール類、タンパク質、ミネラル、スクワレン、トコフェロール、ステロール類(α-スピナステロール及びショッテノール等)等。所定濃度の有機溶剤を用いて得られる本発明の抽出物は、極性の低い成分を含む。
【0080】
本発明の抽出物は、上記のとおり、毛の成長サイクルを加速させることができるため、例えば、発毛促進剤、脱毛予防剤、毛周期調節剤等として利用できる。
また、本発明の抽出物は美白効果も有し得るため、化粧料等としても利用できる。
【0081】
本発明の抽出物を発毛促進剤、脱毛予防剤、毛周期調節剤等として利用する場合、例えば、脱毛を生じた部位に適量塗布することで所望の効果を得ることができる。
塗布量としては特に限定されないが、例えば、本発明の抽出物(乾燥重量)が2.5~40μg/mlとなるように塗布してもよい。
塗布する対象としては特に限定されず、毛髪や被毛を有する任意の生物(ヒト、非ヒトである哺乳類等)が挙げられる。
【0082】
本発明の抽出物を上記の各種の剤等に利用する場合、本発明の効果を損なわない範囲において、本発明の抽出物とともに、医薬品等の成分として従来知られる各種成分を配合できる。
【実施例0083】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
<試験1:アルガン抽出物の作製>
以下の方法に基づき、アルガンの種子の仁の搾油残渣(アルガンプレスケーキ)からアルガン抽出物を得た。
(1)アルガン(学名:Argania spinosa(アルガニア・スピノーザ))の種子の仁(アルガンアーモンド)に対して圧搾式の搾油機を用いて搾油を行い、搾油残渣を得た。該搾油残渣がアルガンプレスケーキに相当する。以下、アルガンプレスケーキを「APC」ともいう。
(2)高速ミキサーを使用し、アルガンプレスケーキを小さな粒子状(1mm径以下)となるまで粉砕し、APC粉末を得た。
(3)次に、APC粉末(100g)を、抽出溶媒(500mL)に加え、室温(25℃)、抽出溶媒温度(22℃)で2時間撹拌しながら抽出を行った。抽出は同じ操作を2回繰り返した。
抽出溶媒としては、水のみ(エタノール濃度=0質量%)、又は、エタノール水溶液若しくはエタノール溶液(エタノール濃度=20、50、80、又は100質量%)を用いた。
抽出濃度(アルガンの種子の仁の搾油残渣/(アルガンの種子の仁の搾油残渣+溶媒))は、1/6であった。
(4)抽出物に対して、遠心分離(3000rpm、30分間)、及び、ろ過(Whatman紙を使用)を行い、固体粒子を除去した後、抽出溶媒のエタノールを減圧蒸留装置(水浴温度40℃)で除去し、粘度の高いシロップ状の水溶液(残留物)を得た。
(5)得られた残留物を-80℃、5Paで3日間凍結乾燥させ、白色からやや黄色味かかった粉末(凍結乾燥物)を得た。収量は2回抽出で合計10~20%であった。得られた凍結乾燥物を室温保存し、アルガン抽出物として、以下の各種試験に供した。
【0085】
なお、エタノール水溶液(エタノール濃度80質量%)を用いて得られたアルガン抽出物は、サポニン類、5-ヒドロキシメチルフルフラール、ポリフェノール類、タンパク質、ミネラル、スクワレン、トコフェロール、ステロール類(α-スピナステロール及びショッテノール等)等が含まれていることを確認した。ただし、該アルガン抽出物には、アルガンオイルは含まれていなかった。
【0086】
<試験2:ヒト毛包真皮乳頭細胞の生存率の検討>
以下の方法に基づき、各アルガン抽出物の存在下又は非存在下で、ヒト毛包真皮乳頭細胞(Human Follicle Dermal Papilla Cells、HFDPC)の培養を行い、アルガン抽出物がヒト毛包真皮乳頭細胞の生存率に及ぼす影響を検討した。
なお、ヒト毛包真皮乳頭細胞は、正常なヒトの頭皮毛包の乳頭から分離された間葉系細胞である。ヒト毛包真皮乳頭細胞は、毛周期及び成長期の誘導やその持続時間を調節する細胞であり、ヒト毛包真皮乳頭細胞の生存率が高いことは、毛の成長サイクルの加速と相関する。
したがって、高いHFDPC生存率をもたらすアルガン抽出物は、脱毛の予防効果等や、発毛の促進効果が良好であることを意味する。
【0087】
(ヒト毛包真皮乳頭細胞の準備)
ヒト毛包真皮乳頭細胞は、成長因子を補充した乳頭細胞成長培地(ウシ胎児血清、インスリントランスフェリントリヨードサイロニン、ウシ下垂体抽出物、及びシプロテロンを含む溶液)で維持培養した。
細胞培養は、5%COの加湿雰囲気中、75cmフラスコ内で37℃の無菌条件下で行った。
細胞の生存率を、トリパンブルー排除法に基づき測定し、下記の培養試験に供することができるほどの生細胞数を確認した。
【0088】
(アルガン抽出物を用いた培養)
ヒト毛包真皮乳頭細胞を、培地を入れた96ウェルプレートに、3×10細胞/ウェルとなるように播種した。
播種から24時間(37℃)経過後、ウェル中の培地を、各アルガン抽出物を添加した培地に置き換え、37℃で48時間インキュベートした。
各アルガン抽出物の培地中濃度は、0、5、10、20、又は40μg/mlに設定した。
【0089】
(MTTアッセイ)
以下の方法に基づき、MTT(3-(4,5-ジメチル-チアゾール-2-イル)2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)試薬を用いて、ヒト毛包真皮乳頭細胞の生存率、及び、ヒト毛包真皮乳頭細胞への毒性の有無を特定した。
上記「(アルガン抽出物を用いた培養)」の項における48時間のインキュベート完了後、MTT試薬(5mg/ml)を各ウェルに添加し、さらに8時間インキュベートした後、10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を添加し、一晩インキュベートした。
その後、マイクロプレートリーダーを使用して、吸光度(570nm)を測定し、HFDPCの生存率を、未処理細胞に対する生細胞の割合(%)として定量化した。
【0090】
(結果)
MTTアッセイの結果を図1~5に示す。
【0091】
図中、「APC n%」とは、いずれの抽出溶媒を用いたアルガン抽出物であるかを意味する。
「n」はエタノール濃度を示し、例えば、「APC 0%」とは、水のみである抽出溶媒を用いたアルガン抽出物を意味し、「APC 80%」とは、エタノール水溶液(エタノール濃度80質量%)である抽出溶媒を用いたアルガン抽出物を意味する。また、「APC 100%」とは、エタノール水溶液(無水エタノール、エタノール濃度99.5質量%以上)である抽出溶媒を用いたアルガン抽出物を意味する(以下の試験においても同様)。
図中、横軸の数値は、培地中のアルガン抽出物濃度(単位:μg/ml)を意味する。
【0092】
図中、縦軸の数値は、HFDPCの生存率を、「control」に対する相対値として示した。
本結果において、縦軸の数値が高いほど、毛の成長サイクルを加速し、脱毛の予防効果等や、発毛の促進効果が良好であることを意味する。
【0093】
なお、図1~5の結果において、p値は、「control」に対する有意差(対応のあるt検定)を示す。
p値は小さいほど有意であり、特にp値が0.05未満を統計的に有意とみなした(「*」:p<0.05で有意差あり、「**」:p<0.01で有意差あり)。
【0094】
図1~5に示した結果において、いずれの条件でも、ヒト毛包真皮乳頭細胞への細胞毒性は認められなかった。
したがって、アルガン抽出物はヒト毛包真皮乳頭細胞への細胞毒性を有さないことがわかった。
【0095】
図3~5に示されるとおり、エタノール濃度が20質量%超であるエタノール水溶液又はエタノール溶液を用いて得られたアルガン抽出物は、ヒト毛包真皮乳頭細胞の生存率を高めることがわかった。
この効果は、エタノール濃度が高いほど、かつ/又は、培地中のアルガン抽出物濃度が高いほど、顕著になる傾向にあった。
【0096】
他方で、図1~2に示されるとおり、水のみ、又は、エタノール濃度が20質量%であるエタノール水溶液を用いて得られたアルガン抽出物は、培地中のアルガン抽出物濃度にかかわらず、ヒト毛包真皮乳頭細胞の生存率に影響が認められなかった。
【0097】
以上から、エタノール濃度が20質量%超であるエタノール水溶液又はエタノール溶液を用いて得られたアルガン抽出物は、毛の成長サイクルを加速し、脱毛の予防効果等や、発毛の促進効果が良好であり得ることがわかった。
【0098】
<試験3:発毛マーカーの発現の検討>
以下の方法に基づき、各アルガン抽出物等の存在下又は非存在下で、ヒト毛包真皮乳頭細胞の培養を行い、アルガン抽出物が発毛マーカーの発現に及ぼす影響を検討した。
ヒト毛包真皮乳頭細胞の成長段階では、真皮乳頭遺伝子マーカーが増大する。したがって、真皮乳頭遺伝子マーカーは発毛マーカーとして機能し、このようなマーカーの発現量の多寡を特定することで、アルガン抽出物による毛の成長サイクルの加速効果等の機序を確認することができる。
本例では、発毛マーカーとして、アルカリ性ホスファターゼ(ALP)、及びβ-カテニンを採用した。
【0099】
(ヒト毛包真皮乳頭細胞の準備)
上記試験2と同様に準備したヒト毛包真皮乳頭細胞を用いた。
【0100】
(アルガン抽出物等を用いた培養)
ヒト毛包真皮乳頭細胞を、培地を入れた6ウェルプレートに、5×10細胞/ウェルとなるように播種した。
播種から24時間(37℃)経過後、ウェル中の培地を、各アルガン抽出物を2.5μg/ml若しくは20μg/ml添加した培地、又は、既存の育毛剤である「Minox」(MESOMEDICA社製)を0.1μM添加した培地に置き換え、37℃で48時間インキュベートした。
「control」として、アルガン抽出物及び「Minox」のいずれも含まない培地でのインキュベートも行った。
各アルガン抽出物若しくは「Minox」の存在下又は非存在下でのインキュベート開始から24時間後、及び48時間後の各時点で培養物を回収し、以下のマーカー遺伝子解析に供した。
【0101】
なお、「Minox」は、ミノキシジル誘導体を有効成分とする溶液状の育毛剤である。
【0102】
(マーカー遺伝子解析)
回収した各培養物中の細胞を冷PBSで洗浄した後、「ISOGEN」キット(株式会社ニッポンジーン製)を使用して、全RNA抽出を行った。
「NanoDrop 2000分光光度計」(サーモフィッシャーサイエンティフィック ライフテクノロジーズジャパン製)を使用して、全RNAを定量化し、定量的リアルタイムPCR分析を実施した。
cDNAは、抽出されたRNAから、所定のサイクリングプロトコール(95℃で10分間、95℃で15秒間40サイクル、60℃で1分間)を備えた「SuperScript III逆転写キット」(サーモフィッシャーサイエンティフィック ライフテクノロジーズジャパン製)を使用して合成した。
リアルタイムPCRは、「7500 Fast Real-Time PCR Software 1.3.1」(アプライドバイオシステムズ製)、並びに、「TaqManプローブ」(サーモフィッシャーサイエンティフィック ライフテクノロジーズジャパン製)を使用して行った。「TaqManプローブ」は、ALPL(アルカリ性ホスファターゼをコードする遺伝子)及びCTNNB1(β-カテニンをコードする遺伝子)にそれぞれ固有のものを使用した。
内因性対照としてGAPDHを使用し、2-ΔΔCt法を適用して、各マーカーについて、GAPDHと比較した相対的mRNA量を計算し、マーカー発現量を特定した。
【0103】
(結果)
マーカー遺伝子解析の結果を図6~7に示す。
図中、「APC n%」とは、いずれの抽出溶媒を用いたアルガン抽出物であるかを意味する。「n」はエタノール濃度を示し、例えば、「APC 0%」とは、水のみである抽出溶媒を用いたアルガン抽出物を意味し、「APC 80%」とは、エタノール水溶液(エタノール濃度80質量%)である抽出溶媒を用いたアルガン抽出物を意味する。
図中、縦軸の数値は、マーカー発現量を、「control」に対する相対値として示した。
【0104】
図6は、ALPL(アルカリ性ホスファターゼをコードする遺伝子)の発現解析結果である。この試験例では、上記「(アルガン抽出物を用いた培養)」において、インキュベート開始から48時間後の時点で回収した培養物について解析した。
なお、図6の結果において、p値は、「control」に対する有意差(対応のあるt検定)を示す。
p値は小さいほど有意であり、特にp値が0.05未満を統計的に有意とみなした(「**」:p<0.01で有意差あり)。
【0105】
図6から理解されるとおり、エタノール濃度が20質量%超であるエタノール水溶液を用いて得られたアルガン抽出物は、ALPLの発現量を顕著に高めることがわかった。この傾向は、上記「(アルガン抽出物を用いた培養)」において、インキュベート開始から24時間後に回収した培養物においても同様だった。
【0106】
他方で、図6に示されるとおり、アルガン抽出物であっても、水のみを抽出溶媒として用いて得られたものではALPLの発現量の増加は認められなかった。この傾向は、エタノール濃度が20質量%以下であるエタノール水溶液を用いて得られたアルガン抽出物においても同様だった。
このことから、本発明の効果を奏するには、エタノール濃度が20質量%超であるエタノール水溶液を抽出溶媒としてアルガン抽出物を得る必要があることがわかった。
【0107】
また、図6に示されるとおり、既存の育毛剤である「Minox」(MESOMEDICA社製)ではALPLの発現量の増加は認められなかった。
このことから、エタノール濃度が20質量%超であるエタノール水溶液を用いて得られたアルガン抽出物と「Minox」とは、発毛の促進効果等の機序が異なると推察された。
【0108】
図7は、CTNNB1(β-カテニンをコードする遺伝子)の発現解析結果である。この試験例では、上記「(アルガン抽出物を用いた培養)」において、各アルガン抽出物の存在下又は非存在下でのインキュベート開始から24時間後、及び48時間後のそれぞれの時点で回収した培養物について解析した。
【0109】
図7から理解されるとおり、いずれのアルガン抽出物も、CTNNB1の発現量に影響を及ぼさないことがわかった。
このことから、アルガン抽出物による発毛の促進効果等の機序は、β-カテニンが関与する経路(Wnt/β-カテニン経路)ではなく、その他の経路(FGF、Notch等が関与する経路)の活性化によると推察された。
【0110】
<試験4:マイクロアレイによる網羅的遺伝子解析>
以下の方法に基づき、各アルガン抽出物等の存在下又は非存在下で、ヒト毛包真皮乳頭細胞の培養を行い、アルガン抽出物が遺伝子発現に及ぼす影響を網羅的に検討した。
【0111】
(ヒト毛包真皮乳頭細胞の準備)
上記試験2と同様に準備したヒト毛包真皮乳頭細胞を用いた。
【0112】
(アルガン抽出物等を用いた培養)
ヒト毛包真皮乳頭細胞を、培地を入れた6ウェルプレートに、5×10細胞/ウェルとなるように播種した。
播種から24時間(37℃)経過後、ウェル中の培地を、各アルガン抽出物を5μg/ml添加した培地、又は、既存の育毛剤である「Minox」(MESOMEDICA社製)を0.1μM添加した培地に置き換え、37℃で48時間インキュベートした。
「control」として、アルガン抽出物及び「Minox」のいずれも含まない培地でのインキュベートも行った。
インキュベート後の培養物を回収し、以下の網羅的遺伝子解析に供した。
【0113】
(網羅的遺伝子解析)
回収した各培養物中の細胞を冷PBSで洗浄した後、「ISOGEN」キット(株式会社ニッポンジーン製)を使用して、全RNA抽出を行った。
得られたmRNA(100ng)から、「Gene Atlas 3’IVT Express Kit」(Affymetrix Inc.,Santa Clara,CA,USA)を用いて、二本鎖cDNAを合成した。さらに、「Gene Chip 3’IVT Express Kit」(Affymetrix Inc.,Santa Clara,CA,USA)を用いて、ビオチン標識増幅RNA(aRNA)を合成した。
得られたaRNAを、「Gene Atlas 3’IVT Express Kit」を用いて断片化した後、「Gene Chip MG-430 PM microarray」(Affymetrix Inc.,Santa Clara,CA,USA)を用いて、45℃で16時間のハイブリダイゼーションを行った。
ハイブリダイゼーション後、チップを、「Gene Atlas Fluidics Station 400」(Affymetrix Inc.,Santa Clara,CA,USA)を用いて洗浄及び染色した。
染色後、「Gene Atlas Imaging Station」(Affymetrix Inc.,Santa Clara,CA,USA)を用いてイメージ画像をスキャンした。
得られたイメージ画像に基づき、「control」の結果に対する、各アルガン抽出物又は「Minox」による処理群の遺伝子発現の変化を、「fold-change」として算出した。なお、「fold-change」とは、倍率変化を意味し、対照である「control」のシグナル値で測定対象(各アルガン抽出物又は「Minox」による処理群)のシグナル値を割った相対比に相当する。
また、DAVID(URL: https://david.ncifcrf.gov)を用いて、パスウェイ解析を行った。
【0114】
(結果)
網羅的遺伝子解析の結果を図8~11、及び表1に示す。
網羅的遺伝子解析の結果は、「control」のシグナル値に対する相対値(倍率変化(fold-change))として示した。
図8~11の縦軸は、解析対象の遺伝子を機能ごとに分類したものである。
図中、「APC n%」とは、いずれの抽出溶媒を用いたアルガン抽出物であるかを意味する。「n」はエタノール濃度を示し、例えば、「APC 80%」とは、エタノール水溶液(エタノール濃度80質量%)である抽出溶媒を用いたアルガン抽出物を意味する。
【0115】
図8及び9は、アルガン抽出物によって上方制御された遺伝子に関する結果である。
各アルガン抽出物は、特に、「mTOR signaling」に関連する遺伝子(mTOR、SESN2、NFR2)、「Notch signaling」に関連する遺伝子(RBpj、Cor、DDL、RGMA、PHF15)、「MAPK pathway」に関連する遺伝子(RAS、RAF、MEK1、MEK2)を上方制御することがわかった。
他方で、「Minox」は、これらの遺伝子を上方制御しなかった。
【0116】
図8及び9の結果から、本例におけるアルガン抽出物は、いずれも、「Notch signaling」等の発毛に関連する経路を上方制御することがわかった。この効果は、「APC 50%」と比較して「APC 80%」においてより高い傾向にあった。
【0117】
図10及び11は、アルガン抽出物によって下方制御された遺伝子に関する結果である。
各アルガン抽出物は、特に、「DNA damage」に関連する遺伝子(CHK1、CHK2)、免疫反応に関連する遺伝子(「Interleukine signaling」に関連する遺伝子(IL8、IL6)、ATP8A1、TNFα、INF、AK1、CDKN1C、DDIT等)を下方制御することがわかった。
他方で、「Minox」は、これらの遺伝子を下方制御しなかった。
【0118】
表1に示されるとおり、「APC 80%」の方が、「APC 50%」よりも、各種遺伝子の発現量について、倍率変化が大きい傾向にあった。このことから、「APC 80%」の方が、「APC 50%」よりも活性がより高い可能性が示唆された。
【0119】
【表1】
【0120】
<試験5:Validation by Real time PCRによる網羅的遺伝子解析>
以下の方法に基づき、各アルガン抽出物等の存在下又は非存在下で、ヒト毛包真皮乳頭細胞の培養を行い、アルガン抽出物が発毛マーカーの発現に及ぼす影響を検討した。
ヒト毛包真皮乳頭細胞の成長段階では、真皮乳頭遺伝子マーカーが増大する。したがって、真皮乳頭遺伝子マーカーは発毛マーカーとして機能し、このようなマーカーの発現量の多寡を特定することで、アルガン抽出物による毛の成長サイクルの加速効果等の機序を確認することができる。
本例では、発毛マーカーとして、アルカリ性ホスファターゼ(ALP)、RBbj、FGF1、FGF2を採用した。
【0121】
(ヒト毛包真皮乳頭細胞の準備)
上記試験2と同様に準備したヒト毛包真皮乳頭細胞を用いた。
【0122】
(アルガン抽出物等を用いた培養)
ヒト毛包真皮乳頭細胞を、培地を入れた6ウェルプレートに、5×10細胞/ウェルとなるように播種した。
播種から24時間(37℃)経過後、ウェル中の培地を、各アルガン抽出物を5μg/ml添加した培地、又は、既存の育毛剤である「Minox」(MESOMEDICA社製)を0.1μM添加した培地に置き換え、37℃で48時間インキュベートした。
「control」として、アルガン抽出物及び「Minox」のいずれも含まない培地でのインキュベートも行った。
各アルガン抽出物若しくは「Minox」の存在下又は非存在下でのインキュベート開始から24時間後、及び48時間後の各時点で培養物を回収し、以下のマーカー遺伝子解析に供した。
【0123】
なお、「Minox」は、ミノキシジル誘導体を有効成分とする溶液状の育毛剤である。
【0124】
(マーカー遺伝子解析)
回収した各培養物中の細胞を冷PBSで洗浄した後、「ISOGEN」キット(株式会社ニッポンジーン製)を使用して、全RNA抽出を行った。
「NanoDrop 2000分光光度計」(サーモフィッシャーサイエンティフィック ライフテクノロジーズジャパン製)を使用して、全RNAを定量化し、定量的リアルタイムPCR分析を実施した。
cDNAは、抽出されたRNAから、所定のサイクリングプロトコール(95℃で10分間、95℃で15秒間40サイクル、60℃で1分間)を備えた「SuperScript III逆転写キット」(サーモフィッシャーサイエンティフィック ライフテクノロジーズジャパン製)を使用して合成した。
リアルタイムPCRは、「7500 Fast Real-Time PCR Software 1.3.1」(アプライドバイオシステムズ製)、並びに、「TaqManプローブ」(サーモフィッシャーサイエンティフィック ライフテクノロジーズジャパン製)を使用して行った。「TaqManプローブ」は、ALPL(ALPをコードする遺伝子)、RBbj、FGF1、FGF2にそれぞれ固有のものを使用した。
内因性対照としてGAPDHを使用し、2-ΔΔCt法を適用して、各マーカーについて、GAPDHと比較した相対的mRNA量を計算し、マーカー発現量を特定した。
【0125】
(結果)
Validation by Real time PCRの結果を図12~15に示す。
図中、「APC n%」とは、いずれの抽出溶媒を用いたアルガン抽出物であるかを意味する。「n」はエタノール濃度を示し、例えば、「APC 0%」とは、水のみである抽出溶媒を用いたアルガン抽出物を意味し、「APC 80%」とは、エタノール水溶液(エタノール濃度80質量%)である抽出溶媒を用いたアルガン抽出物を意味する。
図中、縦軸の数値は、マーカー発現量を、「control」に対する相対値として示した。
【0126】
図12~15は、ALPL、RBbj、FGF1、FGF2の発現解析結果である。この試験例では、上記「(アルガン抽出物を用いた培養)」において、インキュベート開始から48時間後の時点で回収した培養物について解析した。
なお、図12~15の結果において、p値は、「control」に対する有意差(対応のあるt検定)を示す。
p値は小さいほど有意であり、特にp値が0.05未満を統計的に有意とみなした(「*」:p<0.05で有意差あり、「**」:p<0.01で有意差あり)。
【0127】
図12~15に示されるとおり、ALPL、RBbj、FGF1、FGF2の発現量は、「APC 50%」及び「APC 80%」において、「Minox」に対して有意に高かった。
【0128】
図12~15から理解されるとおり、エタノール濃度が20質量%超であるエタノール水溶液を用いて得られたアルガン抽出物は、5μg/mlでALPL、RBbj、FGF1、FGF2の発現量を顕著に高めることがわかった。この傾向は、上記「(アルガン抽出物を用いた培養)」において、インキュベート開始から24時間後に回収した培養物においても同様だった。
【0129】
図12~15に示されるとおり、エタノール濃度が20質量%超であるエタノール水溶液を用いて得られたアルガン抽出物は、既存の育毛剤である「Minox」(MESOMEDICA社製)よりも、ALPL、RBbj、FGF1、FGF2の発現量を顕著に高めることがわかった。
【0130】
上記の結果から、本例におけるアルガン抽出物と、「Minox」とは、異なる機序で発毛の促進効果等をもたらすことがわかった。したがって、アルガン抽出物と、「Minox」とを併用することで、より有効な発毛の促進効果等を奏することができる可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15