(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162464
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】水処理用組成物、水処理方法、水処理用組成物の製造方法、および冷却水系処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/50 20230101AFI20231101BHJP
C07D 275/06 20060101ALI20231101BHJP
C07D 249/18 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
C02F1/50 531P
C07D275/06
C07D249/18
C02F1/50 531J
C02F1/50 532D
C02F1/50 532J
C02F1/50 532C
C02F1/50 540B
C02F1/50 520K
C02F1/50 510C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020166187
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大森 千晴
(72)【発明者】
【氏名】都司 雅人
(72)【発明者】
【氏名】吉川 浩
【テーマコード(参考)】
4C033
【Fターム(参考)】
4C033AA12
(57)【要約】
【課題】液体で保存安定性が良好であり、殺菌性能が高い水処理用組成物、その水処理用組成物を用いる水処理方法、その水処理用組成物の製造方法、その水処理用組成物を用いる冷却水系処理方法を提供する。
【解決手段】サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つと、アルカリ金属の水酸化物と、を含み、pHが12.5以上である水処理用組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つと、アルカリ金属の水酸化物と、を含み、pHが12.5以上であることを特徴とする水処理用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の水処理用組成物であって、
前記次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つの有効塩素に対する前記サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つのモル比が、1.0~2.0の範囲であることを特徴とする水処理用組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水処理用組成物であって、
前記水処理用組成物中の前記次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つの有効塩素配合量が、1~4.8重量%asCl2の範囲であることを特徴とする水処理用組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の水処理用組成物であって、
さらにアゾール系化合物を含むことを特徴とする水処理用組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の水処理用組成物を用いて水を処理することを特徴とする水処理方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の水処理用組成物の製造方法であって、
サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つと、アルカリと、を混合して混合物を調製する混合工程と、
前記混合工程の後に、前記混合物を少なくとも1~7日間撹拌または静置する撹拌静置工程と、
を含むことを特徴とする水処理用組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の水処理用組成物を冷却水系の水に添加することを特徴とする冷却水系処理方法。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載の水処理用組成物と、アゾール系化合物とを冷却水系の水に添加することを特徴とする冷却水系処理方法。
【請求項9】
請求項8に記載の冷却水系処理方法であって、
前記冷却水系の水に、前記水系処理用組成物を0.1~100mgCl/Lの量で添加し、前記アゾール系化合物を0.1~10mg/Lの量で添加することを特徴とする冷却水系処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除濁膜や逆浸透膜等を用いる膜処理等の水処理に適用することができる水処理用組成物、その水処理用組成物を用いる水処理方法、その水処理用組成物の製造方法、および、その水処理用組成物を用いる冷却水系処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、除濁膜や逆浸透膜等を用いる膜処理、冷却水系、その他の水系等における生物付着等を抑制するための殺菌剤として、有機系スライム抑制剤や、有機系スライム抑制剤よりも酸化力がある、すなわち即効効果の高い、無機系スライム抑制剤が用いられている。無機系スライム抑制剤としては、主に次亜塩素酸ナトリウム等の次亜塩素酸塩や、次亜臭素酸塩等が使用される。
【0003】
膜処理や冷却水系等の水処理において殺菌剤を添加する場合、液体で、かつ有効成分の保存安定性が高い薬剤であることが望まれる。固形物が析出する薬剤であると、ポンプが閉塞してしまい殺菌剤の注入が困難となる場合がある。また、保存安定性が低い薬剤であると、殺菌剤の注入中に殺菌成分の有効成分の量が低下し、殺菌力が低下する。その結果、水処理系内にバイオフィルムが形成され、例えば、膜を閉塞したり、熱交換器の熱効率が低下するという問題が発生する。
【0004】
特許文献1には、水中で次亜塩素酸または次亜臭素酸を発生する化合物と、サッカリン、サッカリンナトリウム、サッカリンカリウムおよびこれらの水和物から選ばれる一種以上を有効成分として含有するカビ汚れ洗浄剤が記載されている。
【0005】
しかし、特許文献1のカビ汚れ洗浄剤では、サッカリンに次亜塩素酸塩を混合すると室温でも固形物が析出して液体の薬剤が得られ難い、また保存安定性が低く、有効成分である有効塩素が低減し、殺菌性能に持続性がないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、液体で保存安定性が良好であり、殺菌性能が高い水処理用組成物、その水処理用組成物を用いる水処理方法、その水処理用組成物の製造方法、その水処理用組成物を用いる冷却水系処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つと、アルカリ金属の水酸化物と、を含み、pHが12.5以上である、水処理用組成物である。
【0009】
前記水処理用組成物において、前記次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つの有効塩素に対する前記サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つのモル比が、1.0~2.0の範囲であることが好ましい。
【0010】
前記水処理用組成物において、前記水処理用組成物中の前記次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つの有効塩素配合量が、1~4.8重量%asCl2の範囲であることが好ましい。
【0011】
前記水処理用組成物において、さらにアゾール系化合物を含むことが好ましい。
【0012】
本発明は、前記水処理用組成物を用いて水を処理する、水処理方法である。
【0013】
本発明は、前記水処理用組成物の製造方法であって、サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つと、アルカリと、を混合して混合物を調製する混合工程と、前記混合工程の後に、前記混合物を少なくとも1~7日間撹拌または静置する撹拌静置工程と、を含む、水処理用組成物の製造方法である。
【0014】
本発明は、前記水処理用組成物を冷却水系の水に添加する、冷却水系処理方法である。
【0015】
本発明は、前記水処理用組成物と、アゾール系化合物とを冷却水系の水に添加する冷却水系処理方法である。
【0016】
前記冷却水系処理方法において、前記冷却水系の水に、前記水処理用組成物を0.1~100mgCl/Lの量で添加し、前記アゾール系化合物を0.1~10mg/Lの量で添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、液体で保存安定性が良好であり、殺菌性能が高い水処理用組成物、その水処理用組成物を用いる水処理方法、その水処理用組成物の製造方法、その水処理用組成物を用いる冷却水系処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<水処理用組成物>
本発明の実施形態に係る水処理用組成物は、サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つと、アルカリ金属の水酸化物と、を含み、組成物のpHが12.5以上である。
【0020】
本発明者らは、サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つとに、pHが12.5以上になるようにアルカリ金属の水酸化物を配合することによって、液体で保存安定性が良好であり、殺菌性能が高い水処理用組成物が得られることを見出した。本実施形態に係る水処理用組成物は、室温(25±5℃)でも固形物がほとんど析出することのない液体の製剤であり、殺菌能力の持続性のある保存安定性が良好な製剤である。
【0021】
なお、本明細書において、「サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つとを含む」とは、「サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つとの混合物を含む」場合の他に、「サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つとの反応生成物を含む」場合を包含する。
【0022】
本実施形態に係る水処理用組成物のpHは、12.5以上であり、好ましくはpH13.0以上である。組成物のpHが12.5以上であることによって、有効塩素の保存安定性が著しく向上する。水処理用組成物のpHが12.5未満であると、組成物中の有効塩素の保存安定性が著しく低下する。
【0023】
サッカリンは、o-安息香酸スルフィミドとも呼ばれる化合物であり、本実施形態に係る水処理用組成物において塩素の安定化剤として作用する。サッカリンの塩としては、例えば、サッカリンナトリウム、サッカリンカリウム等のサッカリンアルカリ金属塩、サッカリンカルシウム等のサッカリンアルカリ土類金属塩等が挙げられる。サッカリンおよびその塩は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。サッカリンおよびその塩としては、食品添加物リストに記載されている化合物である等の点から、サッカリン、サッカリンナトリウムが好ましい。
【0024】
次亜塩素酸の塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム等の次亜塩素酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。次亜塩素酸およびその塩は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。次亜塩素酸およびその塩としては、取り扱い性等の点から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0025】
アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0026】
水処理用組成物において、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つの有効塩素に対するサッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つのモル比が、1.0~2.0の範囲であることが好ましく、1.1~1.5の範囲であることがより好ましい。次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つの有効塩素に対するサッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つのモル比が1.0未満であると、組成物中の有効塩素の保存安定性が低下する場合があり、2.0を超えると、配合量に見合うほどの製剤安定化効果が得られず不経済になる場合がある。
【0027】
水処理用組成物において、水処理用組成物中の次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つの有効塩素配合量が、1~6重量%asCl2の範囲であることが好ましく、1~4.8重量%asCl2の範囲であることがより好ましい。水処理用組成物中の次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つの有効塩素配合量が1重量%asCl2未満であると、殺菌効果が不十分となる場合があり、6重量%asCl2を超えると、製剤直後または保存中に固形物が析出する場合がある。
【0028】
水処理用組成物において、pH調整剤であるアルカリ金属の水酸化物の含有量は、組成物の最終pHが12.5以上となる量であればよく、好ましくは組成物の最終pHが13.0以上となる量であればよい。
【0029】
水処理用組成物は、水等の溶媒を含んでもよい。水処理用組成物において、水分を所定量含有しないと固形物が析出し、保管中に沈殿が生じる場合がある。水処理用組成物において、水処理用組成物中の水分の配合量は、水処理用組成物の全質量に対して30~99質量%の範囲であることが好ましく、45~90質量%の範囲であることがより好ましい。水処理用組成物中の水分量が30質量%未満であると、固形分が析出する場合があり、99質量%を超えると、有効塩素濃度が低濃度となり、添加薬剤量が増えて薬剤の添加効率が低下する場合がある。
【0030】
水処理用組成物は、前述した成分に加えて、スケール分散剤を含んでもよい。スケール分散剤は、スケール発生に関与するカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の硬度成分等をキレート化して水中における当該イオンの溶解度を高めることにより、スケールの発生を抑制するためのものである。
【0031】
このスケール分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸、アクリル酸とアクリルアミドの共重合体、ポリマレイン酸、ホスフィン酸、ホスフィノカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸や、これらの塩等が挙げられる。スケール分散剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
スケール分散剤を含有する場合、スケール分散剤の含有量は、例えば、水処理用組成物の全質量に対して1~50質量%の範囲である。
【0033】
本発明の実施形態に係る水処理用組成物は、サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つと、アルカリと、アゾール系化合物と、を含み、組成物のpHが12.5以上であるものであってもよい。
【0034】
次亜塩素酸またはその塩を冷却塔等の冷却水系に適用する場合、銅合金等の銅系金属用の防食剤としてアゾール系化合物を添加することがあるが、本発明者らの検討により、アゾール系化合物と次亜塩素酸またはその塩とが混合した水中に日光が照射されると有効塩素が残存し難いことが判明した。原理については不明であるが、日光によりアゾール系化合物の形態が変わり、形態が変わったアゾール系化合物によって次亜塩素酸またはその塩の有効塩素を消費してしまうことが考えられる。
【0035】
本発明者らは、サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つと、アゾール系防食剤とに、pHが12.5以上になるようにアルカリ金属の水酸化物を配合することによって、液体で保存安定性が良好であり、殺菌性能が高く、防食性能を有する水処理用組成物が得られることを見出した。本実施形態に係る水処理用組成物は、室温(25±5℃)でも固形物がほとんど析出することのない液体の製剤であり、殺菌能力の持続性のある保存安定性が良好な製剤である。本実施形態に係る水処理用組成物は、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つとアゾール系化合物とを含み、水中に添加された後に日光が照射されても、有効塩素が消失されにくい。
【0036】
アゾール系化合物としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、アミノトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、ニトロベンゾトリアゾール等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。アゾール系化合物としては、銅の腐食抑制性能等の点から、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾールが好ましい。
【0037】
アゾール系化合物の含有量は、例えば、水処理用組成物の全質量に対して0.1~30質量%の範囲であり、0.1~10質量%の範囲であることが好ましい。アゾール系化合物の含有量が水処理用組成物の全質量に対して0.1質量%未満であると、銅の腐食抑制効果が不十分となる場合があり、30質量%を超えると、製剤直後または保存中に固形物が析出する場合がある。
【0038】
<水処理用組成物の製造方法>
本実施形態に係る水処理用組成物の製造方法は、サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つと、アルカリ金属の水酸化物と、を混合して混合物を調製する混合工程を含む。本実施形態に係る水処理用組成物の製造方法は、サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つと、アルカリ金属の水酸化物と、を混合して混合物を調製する混合工程と、混合工程の後に、混合物を少なくとも1~7日間撹拌または静置する撹拌静置工程と、を含むことが好ましい。
【0039】
本実施形態に係る水処理用組成物の製造方法は、サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つと、アルカリ金属の水酸化物と、アゾール系化合物と、を混合して混合物を調製する混合工程を含んでもよい。本実施形態に係る水処理用組成物の製造方法は、サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つと、アルカリ金属の水酸化物と、アゾール系化合物と、を混合して混合物を調製する混合工程と、混合工程の後に、混合物を少なくとも1~7日間撹拌または静置する撹拌静置工程と、を含むことが好ましい。
【0040】
混合工程の後に、混合物を少なくとも1~7日間撹拌または静置することによって、サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つとの結合反応による結合塩素の生成を十分に行うことができると考えられる。
【0041】
水処理用組成物は、例えば、水等に、サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つと、必要に応じてアゾール系化合物と、pHが12.5以上になるようにアルカリ金属の水酸化物と、を混合し、所定の温度(例えば、0~40℃)で所定の時間(例えば、1~7日間)、撹拌または静置して得られる。サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つの添加順序はどちらでもよいが、ガス発生が少ない等の点から、水等に、サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つを添加した後、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つを添加することが好ましい。
【0042】
<水処理方法および冷却水系処理方法>
本発明の実施形態に係る水処理方法は、上記水処理用組成物を用いて水を処理する方法である。すなわち、本実施形態に係る水処理方法は、サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つと、アルカリ金属の水酸化物と、を含み、pHが12.5以上である水処理用組成物を用いて水を処理する方法である。例えば、上記水処理用組成物を、スライム等が付着した水系に添加して、スライム付着部位等と接触させればよい。
【0043】
本発明の実施形態に係る冷却水系処理方法は、アゾール系化合物を含む上記水処理用組成物を用いて冷却水系を処理する方法である。すなわち、本実施形態に係る冷却水系処理方法は、サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つと、アルカリ金属の水酸化物と、アゾール系化合物と、を含み、pHが12.5以上である水処理用組成物を用いて冷却水系を処理する方法である。例えば、上記水処理用組成物を、冷却水系の水に添加すればよい。
【0044】
また、本発明の実施形態に係る冷却水系処理方法は、上記水処理用組成物とアゾール系化合物とを用いて冷却水系を処理する方法である。すなわち、本実施形態に係る冷却水系処理方法は、サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと、次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つと、アルカリ金属の水酸化物と、を含み、pHが12.5以上である水処理用組成物と、アゾール系化合物と、を用いて冷却水系を処理する方法である。例えば、上記水処理用組成物とアゾール系化合物とを、冷却水系の水に添加すればよい。
【0045】
本発明者らは、本実施形態に係る冷却水系処理方法によって、冷却水系の水に次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つとアゾール系化合物とを添加し、日光が照射されても、有効塩素が消失されにくいことを見出した。
【0046】
本実施形態に係る水処理方法では、水系の被処理水等の中に、薬注ポンプ等により、上記水処理用組成物を添加すればよい。
【0047】
本実施形態に係る冷却水系処理方法では、冷却水系の水中に、薬注ポンプ等により、アゾール系化合物を含む上記水処理用組成物、または上記水処理用組成物とアゾール系化合物とを添加すればよい。薬注ポンプ等により、「アゾール系化合物を含む水処理用組成物」を冷却水系の水に添加してもよいし、「水処理用組成物」と「アゾール系化合物」とを別々に冷却水系の水に添加してもよいし、または、薬注ポンプ等により、「水処理用組成物」と「アゾール系化合物」とを原液同士で混合してから冷却水系の水に添加してもよい。
【0048】
水系として、各種工場のボイラ水系、給水系等の水系流路内、逆浸透膜等の分離膜等に付着したスライムの生成を抑制することができる。また、各種工場の冷却水系におけるスライムの生成を抑制することができる。
【0049】
水系の被処理水または冷却水系の水への上記水処理用組成物の添加量としては、対象となる水の種類等に応じて決めればよく、特に制限はないが、例えば、水系の被処理水または冷却水系の水において全塩素濃度として0.5~500mgCl/Lの範囲となるように添加すればよく、5~200mgCl/Lの範囲となるように添加することが好ましい。添加量が全塩素濃度として0.5mgCl/L未満であると、スライムの抑制効果が十分ではない場合があり、500mgCl/Lを超えると、系内の金属材質を腐食させる場合がある。
【0050】
冷却水系の水に、サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つとアルカリ金属の水酸化物とアゾール系化合物とを含む上記水処理用組成物を0.1~100mgCl/Lの量で添加したときに、冷却水系の水中にアゾール系化合物が0.1~10mg/Lの量で存在することが好ましく、0.1~5mg/Lの量で存在することがより好ましい。アゾール系化合物が0.1mg/L未満であると、銅の腐食抑制効果が不十分となる場合があり、10mg/Lを超えると、配合量に見合うほどの製剤安定化効果が得られず不経済になる場合がある。
【0051】
また、冷却水系の水に、サッカリンおよびその塩のうちの少なくとも1つと次亜塩素酸およびその塩のうちの少なくとも1つとアルカリ金属の水酸化物とを含む上記水処理用組成物を0.1~100mgCl/Lの量で添加し、アゾール系化合物を0.1~10mg/Lの量で添加することが好ましく、0.1~5mg/Lの量で添加することがより好ましい。アゾール系化合物が0.1mg/L未満であると、銅の腐食抑制効果が不十分となる場合があり、10mg/Lを超えると、配合量に見合うほどの製剤安定化効果が得られず不経済になる場合がある。
【0052】
水系の被処理水または冷却水系の水のpHは、例えば、6~14の範囲であり、8~13の範囲であることが好ましい。水系の被処理水または冷却水系の水のpHが6未満であると、系内の金属材質を腐食させる場合があり、14を超えると、逆浸透膜のスライム抑制においては逆浸透膜を劣化させる場合がある。
【0053】
水系の被処理水または冷却水系の水の温度としては、スライム抑制効果を発揮することができる温度であればよく、特に制限はないが、例えば、5~60℃の範囲であり、10~40℃の範囲であることが好ましい。
【0054】
上記水処理用組成物は、水系の被処理水または冷却水系の水に対して、連続的に添加してもよいし、間欠的に添加してもよい。
【0055】
逆浸透膜等の分離膜に用いる場合、上記水処理用組成物は、分離膜の被処理水等に対して、連続的に添加してもよいし、間欠的に添加してもよい。
【0056】
分離膜としては、特に制限はないが、逆浸透膜(RO膜)、ナノろ過膜(NF膜)、精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)等が挙げられる。これらのうち、特に分離膜として逆浸透膜(RO膜)を用いる場合に、本実施形態に係る水処理用組成物を好適に適用することができる。
【実施例0057】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
実施例、比較例において、遊離ハロゲン濃度および全ハロゲン濃度は、試料を2万倍希釈し、HACH社の多項目水質分析計DR/4000を用いて、有効塩素測定法(DPD(ジエチル-p-フェニレンジアミン)法)により測定した。なお、遊離臭素濃度および全臭素濃度は、遊離塩素濃度、全塩素濃度として値を求めた後、塩素と臭素の分子量から算出した値を用いた。
【0059】
実施例中の次亜塩素酸塩の有効塩素に対するサッカリンまたはその塩のモル比とは、次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素量(モル:A)に対してサッカリンまたはその塩の物質量(モル:B)を算出した値であり、Bの値をAで割った値(B/A)である。
【0060】
<実施例1,2,3、比較例1:組成物のpHの検討>
実施例1では、純水:15重量%(wt%)に水酸化ナトリウムを2.2重量%混合し、サッカリンナトリウム・2水和物を15.5重量%添加し、溶解した後、12重量%次亜塩素酸ナトリウムを30.0重量%混合し、純水:37.3重量%を加えて100重量%とし、室温(25±5℃)で4日間静置して製剤化を行った。4日間静置した後に組成物のpH、有効ハロゲン濃度(有効塩素換算濃度)を測定した。組成物のpHは13.5、有効ハロゲン濃度(有効塩素換算濃度)は3.6重量%asCl2であった。また、室温(25±5℃)で4日間静置した後の製剤の性状を目視にて確認し、下記基準で判定した。さらに、保存安定性試験として組成物を40℃で保管して14日後の残留塩素の分解率(%)を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
(製剤化直後性状)
〇:沈殿物なし
×:沈殿物あり
【0062】
実施例2では、実施例1の水酸化ナトリウムの量を0.5重量%とした以外は同様の方法で製剤化し、最終的に100重量%となるように純水を配合した。実施例1と同様にして評価を行った。組成物のpHは13.0、有効ハロゲン濃度(有効塩素換算濃度)は3.6重量%asCl2であった。結果を表1に示す。
【0063】
実施例3では、実施例2のサッカリンナトリウム二水和物の量を18.4重量%とした以外は同様の方法で製剤化し、最終的に100重量%となるように純水を配合した。実施例1と同様にして評価を行った。組成物のpHは12.5、有効ハロゲン濃度(有効塩素換算濃度)は3.6重量%asCl2であった。結果を表1に示す。
【0064】
比較例1では、実施例2の配合で水酸化ナトリウムを添加せずに塩酸(35重量%)を添加して、最終的に100重量%となるように純水を配合した。実施例1と同様にして評価を行った。組成物のpHは12.0、有効ハロゲン濃度(有効塩素換算濃度)は3.6重量%asCl2であった。結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
実施例1、実施例2および実施例3の組成物は、40℃14日保管後の保存安定性は良好であったが、比較例1の組成物では、保存安定性が著しく低下したため、組成物のpHを12.5以上にすることが保存安定性を保つために必要であることがわかる。また、実施例1、実施例2および実施例3の組成物は、いずれも製剤化直後に液体品となり、沈殿物はほとんど見られなかった。
【0067】
<実施例4~9、比較例2~6:サッカリンのモル比の検討>
表2の組成になるように組成物を調製した。調製方法は、水を総和数が100重量%になるように混合した後、水酸化ナトリウムを混合し、安定化剤としてサッカリンまたはサッカリンナトリウム・2水和物を表2の通り混合した後、12重量%次亜塩素酸ナトリウムを表2の通り混合した。室温(25±5℃)で4日間静置した後、組成物のpH、有効ハロゲン濃度(有効塩素換算濃度)を測定し、製剤の性状を目視にて確認し、上記基準で判定した。さらに、保存安定性試験として組成物を40℃で保管して14日後の残留塩素の分解率(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0068】
なお、比較例2~4は、特許文献1の実施例1~3の配合率に従って室温で製剤化を行い、比較例5,6は、特許文献1の実施例41,43の配合率に従って室温で製剤化を行った。
【0069】
【0070】
実施例4~9の組成物は、いずれも製剤化直後に液体品となり、沈殿物はほとんど見られず、40℃14日保管後の保存安定性も良好であった。
【0071】
一方、比較例2,6の組成物は、有効成分の安定性が著しく低下し、40℃14日保管後の保存安定性が悪かった。比較例3~5の組成物は、製剤後に沈殿物が生じて液体品とならず製剤化できなかった。
【0072】
<殺菌試験>
脱塩ろ過をした相模原井水に普通ブイヨンを添加し、一般細菌数が106CFU/mLとなるように模擬水を調製した。300mLビーカに調製した模擬水300mLを入れ、表1に記載の実施例3および比較例1の40℃14日保管後の組成物をそれぞれ全塩素換算の添加濃度が合計0.6mg/LasCl2になるように添加し、デジタルスターラにより250rpmで撹拌した。全ての組成物を添加してから24時間後、72時間後に、処理した水を所定量採取するとともに、有効塩素を失活させるためにチオ硫酸ナトリウムを添加後、スリーエム株式会社製ペトリフィルム(商標)培地大腸菌群数測定用ACプレートにより一般細菌数(CFU/mL)の測定を行った。殺菌試験の評価を下記基準で行った。結果を表3に示す。
【0073】
(殺菌試験の評価)
〇:72時間後の一般細菌数が1000(CFU/mL)未満
×:72時間後の一般細菌数が1000(CFU/mL)以上
【0074】
【0075】
比較例1の組成物のように組成物のpHが12.5未満と低く、保存安定性が低い組成物で有効塩素がほとんど残存していない組成物を添加しても殺菌力がほとんどなく、実施例3のようなpHが12.5以上の組成物は持続性のある殺菌力があることがわかった。
【0076】
<実施例10~12、比較例7~9:アゾール系化合物の併用>
[組成物Aの調製]
純水:31.45重量%に水酸化ナトリウム:6.4重量%を混合した後、サッカリン:22.2重量%を混合した。溶解後、12重量%次亜塩素酸ナトリウム:40.0重量%を混合し、室温(25±5℃)で4日間静置した。4日間静置した後の組成物のpHは13.5、有効ハロゲン濃度(有効塩素換算濃度)は4.8重量%asCl2であった。
【0077】
相模原井水をガラス瓶に測り入れ、さらに表4の通りベンゾトリアゾールを所定量になるように添加し、水処理用組成物として組成物Aまたは12重量%次亜塩素酸ナトリウムを1mgCl/L添加後、蓋をして日光が照射される場所に静置した。2時間日光を照射後、残存する有効塩素量を測定した。残存有効塩素の評価を下記基準で行った。結果を表4に示す。
【0078】
(残存有効塩素の評価の評価)
〇:有効塩素残存量が50%以上
△:有効塩素残存量が10%以上50%未満
×:有効塩素残存量が10%未満
【0079】
【0080】
実施例10~12では、組成物Aとベンゾトリアゾールとを水中で混合し、日光が照射された場合でも、有効塩素の消失が少なかった。一方、比較例7~9では、次亜塩素酸塩とベンゾトリアゾールとを水中で混合した場合、有効塩素が消失しやすく、特に次亜塩素酸塩と1mg/L以上のベンゾトリアゾールとを水中で混合した場合、有効塩素がより消失しやすいことがわかった。実施例10~12では、日光の照射下で組成物Aとベンゾトリアゾールとを併用しても、有効塩素の消失が少ないため殺菌性能を維持することができ、かつ、防食性能を発揮することがわかった。比較例7~9では、日光の照射下で次亜塩素酸塩とベンゾトリアゾールとを併用すると、有効塩素が消失するため殺菌性能を維持することができないことがわかった。
【0081】
このように、実施例の組成物によって、液体で保存安定性が良好であり、殺菌性能が高い水処理用組成物が得られた。また、実施例の組成物によって、冷却水系の水に次亜塩素酸塩とアゾール系化合物とを添加し、日光が照射されても、有効塩素が消失されにくいことがわかった。