(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162469
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法、Vibrio sp. MA3検出用プライマー及びVibrio sp. MA3検出キット
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20231101BHJP
C12Q 1/689 20180101ALI20231101BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20231101BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12Q1/689 Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072792
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信雄
(72)【発明者】
【氏名】端野 開都
(72)【発明者】
【氏名】酒徳 昭宏
(72)【発明者】
【氏名】一色 正
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】他のVibrio属菌と区別してVibrio sp. MA3株のみを特異的に検出する方法を提供する。
【解決手段】MA3株の16S-23SrDNA遺伝子のスペーサー領域を特異的に増幅するプライマー作成した。さらに、該プライマーは、他のVibrio 属菌と区別してVibrio sp. MA3株のみを特異的に検出することができることを確認して、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法であって、
Vibrio sp. MA3のIGS領域の以下のいずれか1つの遺伝子群の塩基配列の全部又は一部を検出することである、
試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法。
1)tRNAGlu、tRNALys、tRNAVal をコードする IGSGLV
2)tRNA を含まない IGS0
3)tRNAGlu をコードする IGSG
4)tRNAIleをコードする IGSI
5)RNAIle と tRNAAla をコードする IGSIA
6)tRNAAla と tRNAGlu をコードする IGSAG
【請求項2】
前記IGS領域がIGSGLVである、請求項1に記載の試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法。
【請求項3】
前記IGS領域が配列番号1に記載の塩基配列中の連続する10~600個の塩基である、請求項1に記載の試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法。
【請求項4】
前記IGS領域が配列番号1に記載の塩基配列中の435番目~729番目である、請求項1に記載の試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法。
【請求項5】
前記遺伝子群の検出を、IGSGLVの塩基配列に相補な配列の少なくとも一部を含むオリゴヌクレオチドからなるプライマーを用いる、請求項2~4のいずれか1に記載の試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法。
【請求項6】
前記プライマーは、配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、請求項2~4のいずれか1に記載の試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法。
【請求項7】
さらに、配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーによるIGS領域の認識配列の3‘側から配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるリバースプライマーによるIGS領域の認識配列の5‘側までの連続する5~50の塩基配列を認識するプローブを有し、Vibrio sp. MA3を定量検出することを特徴とする、請求項2~4のいずれか1に記載の試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法。
【請求項8】
前記試料が、海水、海産動物又はアコヤガイである、請求項1~4のいずれか1に記載の試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法。
【請求項9】
Vibrio sp. MA3のIGS領域のIGSGLVの塩基配列に相補な配列の少なくとも一部を含むオリゴヌクレオチドからなるVibrio sp. MA3検出用プライマー。
【請求項10】
前記プライマーは、配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、請求項9に記載のVibrio sp. MA3検出用プライマー。
【請求項11】
配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマー及び配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマーを含む、Vibrio sp. MA3検出キット。
【請求項12】
配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマー、配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマー、及びプローブを含む、Vibrio sp. MA3定量検出キット。
【請求項13】
以下のいずれか1以上のプライマーセットを含む、Vibrio sp. MA3検出キット。
(1)プライマーセット2
配列番号5に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(2)プライマーセット3
配列番号7に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号8に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(3)プライマーセット4
配列番号9に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号10に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(4)プライマーセット5
配列番号11に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号12に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(5)プライマーセット6
配列番号13に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号14に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(6)プライマーセット7
配列番号15に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号16に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(7)プライマーセット8
配列番号17に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号18に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(8)プライマーセット9
配列番号19に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号20に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(9)プライマーセット10
配列番号21に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号22に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(10)プライマーセット11
配列番号23に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号24に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(11)プライマーセット12
配列番号25に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号26に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(12)プライマーセット13
配列番号27に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号28に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(13)プライマーセット14
配列番号29に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号30に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(14)プライマーセット15
配列番号31に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号32に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(15)プライマーセット16
配列番号33に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号34に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法、Vibrio sp. MA3検出用プライマー及びVibrio sp. MA3検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
アコヤガイ (Pinctada fucata martensii) は高品質の真珠を作るために最もよく用いられる二枚貝軟体動物であり、日本のアコヤ真珠は世界から高い評価を受けている(非特許文献1)。 しかし、2019年と2020年の夏にアコヤガイ大量死が起こり、日本のアコヤ真珠産業に深刻な影響をもたらした。 大量死が起こった三重県の英虞湾から採取された死亡アコヤガイからは、原因細菌と疑われるVibrio sp. MA3が検出された(非特許文献2)。 この細菌は健康なアコヤガイには含まれておらず、本疾病に特異的に見られる株である。 この株のキャラクタリゼーションの結果、この細菌はVibrio alginolyticusに近縁であり、宿主の血球細胞を破壊するヘモリシンの遺伝子も検出された(非特許文献2)。 2021年においても、アコヤガイの大量死が起こっており、MA3株によるアコヤガイ大量死の機構解明が切望されている。
【0003】
二枚貝養殖は、海洋に生息する細菌の感染による大量死によって絶えず脅かされている。 二枚貝は大量の海水を濾水することで餌を得ているため、二枚貝は体内に病原性細菌を蓄積することが知られている。
過去に報告されている細菌感染症による二枚貝大量死の症例としては、VibriotapetisによるアサリRuditapes philippinarumのbrown ring diseaseや、RoseovariuscrassostreaeによるカキCrassostrea virginicaのjuvenile oyster diseaseや、NocardiacrassostreaeによるPacific oyster (Crassostrea gigas)のnocardiosisなどがある。
過去に報告されているアコヤガイに対する細菌感染症はスピロヘータによるAkoya oyster disease (非特許文献3) とTenacibaculumsp.によるblack-spot shell disease (非特許文献4) の2例のみとなっている。これらのような細菌感染症による大量死は、宿主、環境要因、病原体の複雑な相互作用の結果であると考えられる。病気の蔓延を防ぐには、感染個体を速やかに発見し、早期に対処することが非常に重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A history of the cultured pearlindustry. Zool Sci 30: 783–793,2013
【非特許文献2】Arch Microbiol 203: 5267–5273,2021
【非特許文献3】PLoS ONE 12: e0182280,2017
【非特許文献4】Aquaculture 493: 61–67,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大量死が起こったアコヤガイの原因細菌はVibrio sp. MA3であることは特定されている。そこで、本発明者らは、他のVibrio 属菌と区別してVibrio sp. MA3株のみを特異的に検出する方法を課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
MA3株の16S-23S rDNA遺伝子のスペーサー領域を特異的に増幅するプライマー作成した。さらに、該プライマーは、他のVibrio 属菌と区別してVibrio sp. MA3株のみを特異的に検出することができることを確認して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0007】
1.試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法であって、
Vibrio sp. MA3のIGS領域の以下のいずれか1つの遺伝子群の塩基配列の全部又は一部を検出することである、
試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法。
1)tRNAGlu、tRNALys、tRNAVal をコードする IGSGLV
2)tRNA を含まない IGS0
3)tRNAGlu をコードする IGSG
4)tRNAIleをコードする IGSI
5)RNAIle と tRNAAla をコードする IGSIA
6)tRNAAla と tRNAGlu をコードする IGSAG
2.前記IGS領域がIGSGLVである、前項1に記載の試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法。
3.前記IGS領域が配列番号1(IGSGLV)に記載の塩基配列中の連続する10~600個の塩基である、前項1に記載の試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法。
4.前記IGS領域が配列番号1(IGSGLV)に記載の塩基配列中の435番目~729番目である、前項1に記載の試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法。
5.前記遺伝子群の検出を、IGSGLVの塩基配列に相補な配列の少なくとも一部を含むオリゴヌクレオチドからなるプライマーを用いる、前項2~4のいずれか1に記載の試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法。
6.前記プライマーは、配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、前項2~4のいずれか1に記載の試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法。
7.さらに、配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーによるIGS領域の認識配列の3‘側から配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるリバースプライマーによるIGS領域の認識配列の5‘側までの連続する5~50の塩基配列を認識するプローブを有し、Vibrio sp. MA3を定量検出することを特徴とする、前項2~4のいずれか1に記載の試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法。
8.前記試料が、海水、海産動物又はアコヤガイである、前項1~4のいずれか1に記載の試料中のVibrio sp. MA3を検出する方法。
9.Vibrio sp. MA3のIGS領域のIGSGLVの塩基配列に相補な配列の少なくとも一部を含むオリゴヌクレオチドからなるVibrio sp. MA3検出用プライマー。
10.前記プライマーは、配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、前項9に記載のVibrio sp. MA3検出用プライマー。
11.配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマー及び配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマーを含む、Vibrio sp. MA3検出キット。
12.配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマー、配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマー、及びプローブを含む、Vibrio sp. MA3定量検出キット。
13.以下のいずれか1以上のプライマーセットを含む、Vibrio sp. MA3検出キット。
(1)プライマーセット2
配列番号5に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(2)プライマーセット3
配列番号7に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号8に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(3)プライマーセット4
配列番号9に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号10に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(4)プライマーセット5
配列番号11に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号12に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(5)プライマーセット6
配列番号13に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号14に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(6)プライマーセット7
配列番号15に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号16に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(7)プライマーセット8
配列番号17に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号18に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(8)プライマーセット9
配列番号19に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号20に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(9)プライマーセット10
配列番号21に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号22に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(10)プライマーセット11
配列番号23に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号24に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(11)プライマーセット12
配列番号25に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号26に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(12)プライマーセット13
配列番号27に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号28に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(13)プライマーセット14
配列番号29に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号30に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(14)プライマーセット15
配列番号31に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号32に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(15)プライマーセット16
配列番号33に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
配列番号34に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
【発明の効果】
【0008】
本発明は、Vibrio sp. MA3株のみを特異的に検出、さらには定量検出する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】プライマーセットによる16S-23S遺伝子間スペーサー(IGS)領域の増幅によるPCR産物のゲル電気泳動の結果。レーンM:DNAラダーマーカー;レーン1
:Vibrio sp.MA3におけるIGS遺伝子のPCR産物。
【
図2】
Vibrio sp.MA3およびVibrio株4種由来のIGSヌクレオチド配列のマルチプルアラインメント。フォワードプライマー(MA3IGSLVF)とリバースプライマー(MA3IGSLVR)は、それぞれ435~457番及び707番~729番のIGS領域を認識するように設計されている。点は、3~4株のヌクレオチド配列が5株間で相同であることを示す。星印は、全株のヌクレオチド配列が5株間で相同であることを示す。
【
図3】MA3株の検出のために設計されたプライマーの特異性の確認。M: DNA ladder marker; Lane 1:
Vibrio sp. MA3; Lane 2:
V. alginolyticus NBRC15630; Lane 3:
V.alginolyticus NBRC15930; Lane 4:
V. harveyi NBRC15632; Lane 5:
V.harveyi NBRC15634; Lane 6:
V. harveyi NBRC101064; Lane 7:
V.harveyi NBRC113563; Lane 8:
V. parahaemolyticus NBRC12711; Lane 9:
V.proteolyticus NBRC13287; Lane 10:
V. aestuarianus NBRC15629; Lane11:
V. campbellii NBRC15631; Lane 12:
V. natriegens NBRC15636;Lane 13:
V. azureus NBRC104587; Lane 14:
V. sagamiensis NBRC104589;Lane 15:
V. sagamiensis NBRC110633; Lane 16:
V. jasicida NBRC110949
【
図4】定量的PCR増幅のためのプローブの位置。プローブ配列は、四角箱で囲まれている太字で示し、IGS領域631番~660番に対応している。
【
図5】
Vibrio sp.MA3検出のための定量PCRの標準曲線。Cq値とプラスミドコピー数との間には強い負の相関がある。
【
図6】
Vibrio sp.MA3および
VibrioalginolyticusのゲノムDNA(A:1pg/ml;B:1ng/ml)の検出のためのプライマーを用いたreal-time PCR法の結果。
【
図7】アコヤガイの解剖写真(A:非感染アコヤガイ; B:感染アコヤガイ)。実験群(感染アコヤガイ)は、非感染アコヤガイと比較して、鰓の黒色化及び外套膜の萎縮が観察された。
【
図8】感染実験における死亡個体の閉殻筋、鰓及び外套膜のIGS遺伝子のコピー数。定量的PCRでは、閉殻筋、鰓及び外套膜から抽出したDNAサンプル(10 ng)を用いた。非感染アコヤガイに関し、IGS遺伝子は検出されなかった。対照群:n=4;実験群:n=9。
【
図9】MA3株を添加した天然海水中のMA3株の特異的検出。各値は、三回の平均を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本発明の対象)
本発明は、試料中のVibrio sp. MA3を検出(特に、定量検出)する方法(以後、「本発明の方法(定量方法)」と称する場合がある)、Vibrio sp. MA3検出用プライマー(以後、「本発明のプライマー」と称する場合がある)、Vibrio sp. MA3検出キット(以後、「本発明の検出キット」と称する場合がある)及びVibrio sp. MA3定量検出キット(以後、「本発明の定量検出キット」と称する場合がある)に関する。
【0011】
( 遺伝子群の検出)
検出される遺伝子群の検出方法は、これら遺伝子群の発現の亢進を検出することができる限り制限はない。例えば、試料中に存在する遺伝子群を直接検出する方法、それら遺伝子群の相補配列からなる遺伝子を生成(増幅)させて間接的に検出する方法、タンパク質に翻訳して間接的に検出する方法等が挙げられる。
遺伝子群全体の検出であっても、その遺伝子の一部の検出であってもよい。さらに、その遺伝子のmRNAやcDNAを検出してもよい。
例えば、遺伝子群中の連続する10~600個、10~400個、15~300個等を検出すればよい。
また、検出される遺伝子の塩基配列は、各遺伝子およびその一部の遺伝子の塩基配列に1以上の塩基が欠失、置換、挿入、逆位もしくは付加された塩基配列であって80% 以上、好適には90% 以上、さらに好適には95% 以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有する塩基配列であってもよい。検出にはこれら遺伝子に結合するオリゴヌクレオチドを用いることが望ましい。
【0012】
( 遺伝子群)
本発明の「遺伝子群」とは、下記実施例で特定した、Vibrio sp. MA3のIGS領域の以下のいずれか1の遺伝子群を意味する。
1)tRNAGlu、tRNALys、tRNAVal をコードする IGSGLV(配列番号1)
2)tRNA を含まない IGS0(配列番号37、配列番号38)
3)tRNAGlu をコードする IGSG(配列番号39、配列番号40)
4)tRNAIleをコードする IGSI(配列番号41)
5)RNAIle と tRNAAla をコードする IGSIA(配列番号42-45)
6)tRNAAla と tRNAGlu をコードする IGSAG(配列番号2)
【0013】
Vibriosp. MA3のIGS領域の上記遺伝群は、他のVibrio 属の菌とは異なる塩基配列を有することをBLAST検索で確認している。
加えて、IGS領域がIGSGLV(配列番号1)であることが好ましく、IGSGLV(配列番号1)に記載の塩基配列中の連続する10~600、20~400又は30~300個の塩基であることがさらに好ましく、配列番号1(IGSGLV)に記載の塩基配列中の435番目~729番目の塩基であることが最も好ましい。
【0014】
(試料)
本発明の「試料」は、上記遺伝群が含まれていれば特に限定されず、海水、アコヤガイ(特に、閉殻筋、鰓)、2枚貝を含む海産動物等を例示することができる。
本発明の方法では、下記実施例の結果により、海水中の低濃度のVibrio sp. MA3を検出することができることを確認している。
【0015】
(オリゴヌクレオチドによる検出)
本発明の方法は、オリゴヌクレオチドを用いて前記遺伝子群を検出することができる。オリゴヌクレオチドは、前記遺伝子群の塩基配列の一部またはその相補塩基配列の一部からなり、前記遺伝子群のmRNAまたはそのcDNAと部位特異的塩基対を形成することができる。
【0016】
前記オリゴヌクレオチドとして、PCR用プライマーを挙げることができる。適切な位置と適切な配列を選択してセンスプライマーとアンチセンスプライマーを作成できる。これらプライマーセットにより、DNAを増幅して検出を可能にする。プライマーの大きさは、10~50bp、好ましくは、15~35bpである。例えば、バリアント(変異体)識別して検出する場合、欠損領域や置換領域に結合するプライマー、欠損領域の接続部分を含む(跨ぐ)領域に結合するプライマーおよび非変異部位に結合するプライマーを適宜組み合わせてバリアントを識別することができる。
また、前記オリゴヌクレオチドとして、標識化プローブを挙げることができる。標識物質は、例えば、放射性同位元素、酵素、または蛍光物質などであり、具体的な標識試薬は公知の試薬を用いることができる。プライマーやプローブは、通常公知の方法により(例えば汎用のDNA合成装置を用いて)化学的に合成して得ることができる。
【0017】
(本発明のプライマー)
本発明のプライマーは、Vibrio sp. MA3のIGS領域のIGSGLVの塩基配列に相補な配列の少なくとも一部を含むオリゴヌクレオチド(IGS領域のIGSGLVの塩基配列を特異的に増幅できるオリゴヌクレオチド)からなる。
具体的には、以下のプライマーセットを例示することができる。
〇プライマーセット1
フォワード:MA3IGSGLVF (5’-CAAGCAATTGATACTGGTTGGTG-3’:配列番号3)
リバース:MA3IGSGLVR (5’-GGAGTTTCGAGTTGATGAACAAG-3’: 配列番号4)
〇プライマーセット2
フォワード:5’-TGGGGTGAAGTCGTAACAAGG-3’: 配列番号5
リバース:5’-TCCTTCATCGCCTCTGACTG-3’: 配列番号6
〇プライマーセット3
フォワード:5’- GCAATTGATACTGGTTGGTG -3’: 配列番号7
リバース:5’- TTCGAGTTGATGAACAAG -3’: 配列番号8
〇プライマーセット4
フォワード:5’- CTAAGTATTTTTGGAATAGA-3’: 配列番号9
リバース:5’- CACTGTAAAAGTGATATTCT -3’: 配列番号10
〇プライマーセット5
フォワード:5’- CCATTCTCTAAGTATTTTTGGAATAG -3’: 配列番号11
リバース:5’- CGAATAATCACTGTAAAAGTGATATTCT -3’: 配列番号12
〇プライマーセット6
フォワード:5’- AAGCAATTGATACTGGTTGGTG -3’: 配列番号13
リバース:5’- GAATAATCACTGTAAAAGTGATATTCT -3’: 配列番号14
〇プライマーセット7
フォワード:5’- AGCAATTGATACTGGTTGGTG -3’: 配列番号15
リバース:5’- ATAATCACTGTAAAAGTGATATTCT -3’: 配列番号16
〇プライマーセット8
フォワード:5’- AACAAGCAATTGATACTGGTTGGTG -3’: 配列番号17
リバース:5’- AAGGAGTTTCGAGTTGATGAACAAG -3’: 配列番号18
〇プライマーセット9
フォワード:5’-GAACAAGCAATTGATACTGGTTGGTG -3’: 配列番号19
リバース:5’-GAAGGAGTTTCGAGTTGATGAACAAG -3’: 配列番号20
〇プライマーセット10
フォワード:5’- GAACAAGCAATTGATACTGGTTGGTG -3’: 配列番号21
リバース:5’- CGAAGGAGTTTCGAGTTGATGAACAAG -3’: 配列番号22
【0018】
本発明のプライマーは、Vibrio sp. MA3のIGS領域のIGS0の塩基配列に相補な配列の少なくとも一部を含むオリゴヌクレオチドからなる。
具体的には、以下のプライマーセットを例示することができる。
〇プライマーセット11
フォワード:5’- CTTGTAGCTAACATAGCTCT -3’: 配列番号23
リバース:5’- CACTTAACCATACAACCCGG -3’: 配列番号24
〇プライマーセット12
フォワード:5’- CCACACAGATTGATAGTTCT -3’: 配列番号25
リバース:5’- AATGAGCGAGAGACATTTCG -3’: 配列番号26
【0019】
本発明のプライマーは、Vibrio sp. MA3のIGS領域のIGSGの塩基配列に相補な配列の少なくとも一部を含むオリゴヌクレオチドからなる。
具体的には、以下のプライマーセットを例示することができる。
〇プライマーセット13
フォワード:5’- CATCTTTAAGTGTTCTTGAA -3’: 配列番号27
リバース:5’- TGAATGAGCGAGAGACATTC-3’: 配列番号28
〇プライマーセット14
フォワード:5’- TACCATCTTTAAGTGTTCTTGAAAAA -3’: 配列番号29
リバース:5’- CAAACATTGAGAAATTTACAAACAATC -3’: 配列番号30
【0020】
本発明のプライマーは、Vibrio sp. MA3のIGS領域のIGSIAの塩基配列に相補な配列の少なくとも一部を含むオリゴヌクレオチドからなる。
具体的には、以下のプライマーセットを例示することができる。
〇プライマーセット15
フォワード:5’- GAGCGTTCGCCTGATAAGCA-3’: 配列番号31
リバース:5’- AGAGCTAGATTTCTTTC-3’: 配列番号32
〇プライマーセット16
フォワード:5’-AGAGCTAGATTTCTTTCG -3’: 配列番号33
リバース:5’-CACTGTAAAAGTGATATTCT -3’: 配列番号34
【0021】
上記各プライマーは1以上の塩基が欠失、置換、挿入、付加されていてもよく、これら変異プライマーの塩基配列は、変異前のプライマーの塩基配列と96%以上の相同性を有する。好ましくは、97%以上、より好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の相同性を有する。
【0022】
(本発明の方法)
本発明の方法の一実施態様は、上記プライマーセットの少なくとも1つが使用される。試料中の標的とする遺伝子群をRT-PCRで増幅する際に本発明のプライマーセットは用いられる。標的とする遺伝子群が存在すれば、そのcDNAに本発明のプライマーは結合しDNAが増幅されて試料中のVibrio sp. MA3の存在が検出される。
具体的には、次の工程を例示することができる。
ア)試料からmRNAを抽出する工程、
イ)得られたRNAを鋳型として逆転写反応によりcDNAを合成する工程、
ウ)本発明のプライマーセットの少なくとも1種をcDNA試料中に加えてPCRを行う工程、
エ)増幅されたDNAを検出する工程
ア)~エ)の各工程は公知の方法により行うことができる。
さらに、Vibriosp. MA3に感染していない試料(例、アコヤガイ)を対照試料として、その対象試料を同様の工程により処理した後に比較する工程を含むこともできる。
【0023】
その他の遺伝子を検出する方法としては、該遺伝子に特異的に結合するプローブ用の標識化ヌクレオチド、標識化cDNAまたは標識化RNAを用いたノーザンブロット法、ドットブロット法、またはmRNAを直接測定する方法等を用いることができる。PCR法としては、リアルタイムPCR法、競合PCR法等も挙げることができる。
さらに、DNAマイクロアレイ、DNAチップ、または抗体アレイ等が挙げられる。DNAマイクロアレイ又はDNAチップには該遺伝子のヌクレオチド又はcDNAが少なくとも1つ以上固定化されているものを用いる。なお、ヌクレオチド又はcDNAは、該遺伝子の一部に相当する部分でもよい。
【0024】
本発明の方法は、下記の実施例により、Vibrio sp. MA3を15株のVibrio属(V. alginolyticus NBRC15630, V. alginolyticus NBRC15930,V. harveyi NBRC15632, V. harveyi NBRC15634, V. harveyiNBRC101064, V. harveyi NBRC113563, V. parahaemolyticus NBRC12711,V. proteolyticus NBRC13287, V. aestuarianus NBRC15629, V.campbellii NBRC15631, V. natriegens NBRC15636, V. azureusNBRC104587, V. sagamiensis NBRC104589, V. sagamiensis NBRC110633,V. jasicida NBRC110949)と判別することができる。
【0025】
(本発明の定量方法)
本発明の定量方法は、上記述べた、標識化プローブ、標識化ヌクレオチドを使用すれば、
Vibrio sp. MA3を定量することができる。
詳しくは、フォワードプライマーによるIGS領域の認識配列の3‘側からリバースプライマーによるIGS領域の認識配列の5‘側までの連続する5~50の塩基配列を認識するプローブを使用することが好ましい(参照:
図4の「TaqMan Probe sequence」)。
【0026】
(本発明の検出キット)
本発明の検出キットは、プライマーセット1~16のいずれか1以上のプライマーセットを含む。
【0027】
(本発明の定量検出キット)
本発明の定量検出キットは、プライマーセット1~16のいずれか1以上のプライマーセット並びにプローブを含む。
本発明の定量検出キットは、好ましくは、配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるライマー、配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマー、及びプローブを含む。
【0028】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明に係る技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0029】
<材料と方法>
〇菌株
2019年に起きたアコヤガイ大量死の死亡個体から単離されたMA3株を用いた(Arch Microbiol 203:5267–5273, 2021)。 15株のVibrio属の基準株 (V.alginolyticus NBRC15630, V. alginolyticus NBRC15930, V. harveyi NBRC15632,V. harveyi NBRC15634, V. harveyi NBRC101064, V. harveyiNBRC113563, V. parahaemolyticus NBRC12711, V. proteolyticusNBRC13287, V. aestuarianus NBRC15629, V. campbellii NBRC15631,V. natriegens NBRC15636, V. azureus NBRC104587, V. sagamiensisNBRC104589, V. sagamiensis NBRC110633, V. jasicida NBRC110949)は独立行政法人製品評価技術基盤機構から購入した。これらの基準株とMA3株を用いて、MA3株に特異的なプライマーの作成を行った。
【0030】
〇DNAの抽出
MA3株及び基準株は、液体培地(トリプトン0.5g, 酵母エキス0.5g, 肉エキス0.2g, 酢酸ナトリウム 0.2g, 水300ml, 海水700ml)(Arch Microbiol 203: 5267–5273, 2021)で25℃、12時間培養後、DNAの抽出を行った。培養した細菌はWizard® Genomic DNA Purification Kit (Promega Corporation, Wisconsin, UnitedStates) でDNA抽出を行った。抽出したゲノムDNAをPCR増幅の鋳型テンプレートとして用いた。抽出したゲノムDNAは使用まで冷蔵保存した。
【0031】
〇Intergenic spacer region (IGS)領域のシークエンス
IGS領域はIGSFプライマー (5’-TGGGGTGAAGTCGTAACAAGG-3’) とIGSRプライマー (5’-TCCTTCATCGCCTCTGACTG-3’) (DisAquat Organ 129: 71-83) を用いて、PCR(Mastercycler ® nexus, Eppendorf Japan, Tokyo, Japan)で増幅させた。 PCR産物をQIAquick PCR purification kit(PromegaCorporation) を用いて精製後、pGEM®-TEasy Vector (Promega Corporation) に挿入してE.coli DH5α (Takara BioInc., Shiga, Japan) に形質転換させた。 挿入したPCR産物を、M13Fプライマー (5’-GTAAAACGAC GGCCA GT-3’:配列番号35) とM13Rプライマー (5’-CAGGA AACAG CTATG AC-3’ :配列番号36)でPCR増幅後に2%ゲル電気泳動で確認した。挿入されたクローンは業者(Macrogen Japan Co., Tokyo, Japan)に委託して塩基配列を決定した。得られた配列について、tRNA領域の解析ソフト (Ver.12, GENETYX Co., Tokyo, Japan) を用いて行い、タイプごとに分類した。これらの配列に従い、MA3株に特異的なプライマーセット1~16を作成した。
【0032】
(MA3株のDNAを増幅するプライマーの特異性の検討)
15種類のVibrio属細菌から抽出したゲノムDNAをテンプレートとして用いて、プライマーの特異性を調べた。TAKARA Ex Taq®(Takara Bio Inc.)のマニュアルに従って、0.5μMのプライマー、テンプレートDNA(1ng)、buffer、dNTP及び水を加えて、反応液を調製した。反応サイクルは、95℃1分、続いて94℃1分と68℃1分のサイクルを30サイクル行い、その後72℃で1分インキュベートした。目的の産物が増幅されているかを2% ゲル電気泳動によって確認した。また、増幅産物を上記と同様の手法でクローニング後、業者(Macrogen Japan Co., Tokyo, Japan)に委託して塩基配列を決定した。
【0033】
(定量的PCR法の開発)
MA3株のIGSGLVA遺伝子を特異的なプライマーMA3IGSGLVF (5’-CAAGCAATTGATACTGGTTGGTG-3’ :配列番号3), MA3IGSGLVR (5’- GGAGTTTCGAGTTGATGAACAAG-3’: 配列番号4) を用いて増幅させた。そのPCR産物を前述の方法でpGEM®-T Easy Vector (Promega Corporation) に挿入した。このプラスミドを用いて、101~109copys/μlに希釈してPCRを行うことで、標準曲線を作成した。
MA3株のDNA断片のコピー数の算定は (FoodAnal. Methods 10: 2657–2666,2017) に従って行った。プローブは業者(Integrated DNA Technologies)に依頼して設計した。PCR反応は、LightCycler® 96 System (Roche Diagnostics K.K, Tokyo,Japan) で行い、同様の会社の解析ソフトを用いて解析した。すべてのqPCR反応はトリプリケーションで行った。Kitのマニュアルに従って反応液を調製して、反応サイクルは、95℃1分、続いて94℃1分と68℃1分のサイクルを60サイクル行った。
MA3株のゲノムDNAとVibrioalginolyticus NBRC15630のゲノムDNAのそれぞれ1 ng/ml, 1 pg/mlをテンプレートとして、上述の方法でPCRを行い、特異性を調べた。
【0034】
(感染させたアコヤガイ又は菌液を添加した海水からのMA3株の検出)
感染個体は酒徳ら (Arch Microbiol 203: 5267–5273,2021) の感染実験で用いたアコヤガイを使用した。実験群は閉殻筋にMA3株の培養液を注射して、28℃で14日間給餌せずに飼育した。対照群では、菌液の代わりに滅菌した液体培地を注射した。感染実験中に死亡した実験群10個体と生存した対照群4個体のそれぞれ閉殻筋、鰓、外套膜の組織25 mgからゲノムDNAをQIAampDNA Mini Kit (QIAGEN, Hilden, Germany) で抽出した。DNA濃度が10 ng/μlになるように希釈したものをテンプレートとして、定量PCRにより解析した。
血球計算盤 (Minato Medical Co., Saitama, Japan)を用いて、MA3株の菌体数を10⁶cells/mlの濃度になるように添加して、25℃で9 時間震とう培養した。その後、109 cells/mlのMA3株培養液を、10⁶,107, 108及び10⁹cells/mlに段階希釈を行い、能登半島の九十九湾で採取した天然海水50 mlにそれぞれの濃度のMA3株培養液1mlを添加して、懸濁した。その後、遠心分離により菌体を回収してゲノムDNAを採取した。続いて、DNA濃度が1 ng/μlになるように希釈したものをテンプレートとして、定量PCRにより解析した。一方、MA3株を含まない液体培地を同様に添加して、定量PCRにより解析したサンプルをネガティブコントロールとした。
【0035】
<結果>
〇MA3株のIGS領域のシークエンス解析の結果
MA3株のゲノムDNAを、IGSプライマーを用いたPCRにより、IGS遺伝子の増幅を行った。その後、PCR産物を電気泳動で確認した (
図1)。増幅したPCR産物をTAクローニングによりシーケンス解析を行った。その結果、35種類の配列が得られ、その配列内に含まれるtRNAの種類によって、6種類に分類された(表1:MA3株の遺伝子間スペーサー(IGS)領域の配列解析)。 得られた配列のタイプの内訳はtRNA を含まない IGS
0、tRNAGlu をコードする IGS
G、tRNAIleをコードする IGS
I、tRNAIle と tRNAAla をコードする IGS
IA、tRNAAla と tRNAGlu をコードする IGS
AG、tRNAGlu、tRNALys、tRNAVal をコードする IGS
GLVであった。
【0036】
【0037】
〇MA3株に特異的プライマーの設計
本実施例では、TAクローニングにより、325bp~743bpのIGS領域の配列が得られ、それらの配列から、プライマー設計のためのMA3株に特異的な配列を探索した。購入した
Vibrio属細菌のIGS領域の配列とMA3株のそれぞれのタイプのIGSの配列を比較した結果、MA3株のIGS
GLVの配列、さらには、IGS
0、IGS
G、IGS
I、IGS
IA及びIGS
AGが、特異的な配列を保有していることがわかった。
MA3株と
V. alginolyticusNBRC15630,
V. campbellii NBRC15631,
V.natriegens NBRC15636,
V. jasicida NBRC110949 のIGS
GLVの配列を
図2に示す。
設計したForwardプライマーであるMA3IGSGLVFは435~457番目までの配列に対応しており、ReverseプライマーであるMA3IGSSLVRは707~729番目の配列に対応している。プライマー設計をした部位の配列はBLAST検索を行っても、完全に一致する配列は存在しなかった(
図4)。
同様に、IGS
0、IGS
G(A、B)、IGS
I、IGS
IA 、IGS
B、IGS
IA及びIGS
AGでも完全に一致する配列は存在しなかった。
【0038】
〇PCRによる設計したプライマーの特異性の確認
設計したプライマーセット1を用いて、
Vibrio sp. MA3株と、購入した15種類の
Vibrio属細菌株の抽出したDNAをPCRして、その増幅をゲル電気泳動で確認した (
図3) 。
電気泳動結果に関し、MA3株でのみ増幅を確認することができ、設計したプライマーセットの特異性を確認することができた。
これにより、プライマーセット2~16でもMA3株を特異的に検出することができる。
【0039】
〇定量PCR法の開発とその特異性の確認
遺伝子を挿入したプラスミドを10
1~10
9コピーまで段階希釈を行い、標準曲線を作成するために特異的プライマーセットで増幅した。その結果、coefficient of determinationは0.9939になり、プラスミドのコピー数との間に強い負の相関がみられた(
図5)。また、検出限界は10
1コピーであり、高感度の定量PCR(本発明の定量方法)を開発することができた。
Vibriosp. MA3株と
Vibrio alginolyticus NBRC15630のゲノムDNAそれぞれ1pg/ml, 1ng/mlをテンプレートとして、上述と同様の手法で定量 PCRを行った。その結果、両方の濃度において、MA3株のDNAでは増幅できたが、
Vibrioalginolyticus NBRC15630のDNAでは、増幅できなかった (
図6) 。
【0040】
〇MA3株を感染させたアコヤガイの閉殻筋、鰓及び外套膜におけるMA3株の検出
感染させたアコヤガイはすべて死亡し、対照群の個体と比較して鰓の黒色化、外套膜の萎縮が観察された(
図7)。感染実験により死亡した個体から採取された閉殻筋、鰓、外套膜の組織中のMA3株を定量 PCRで解析した。組織ごとに定量されたMA3株のIGS
GLVコピー数をボックスプロットで表した。その結果、閉殻筋と鰓ではMA3株の定量ができたが、外套膜では1サンプルしか検出できなかった(
図8)。
【0041】
〇天然海水に添加したMA3株の検出
他の海洋細菌を含む天然海水にMA3株を添加して、MA3株の検出を行った。その結果、定量PCRにより試験した全ての細菌濃度の海水からMA3株が検出された(
図9)。添加した菌体の濃度と検出されたMA3株のコピー数との間に強い相関関係(coefficient of determination:0.9601)が得られた。一方、培養液の添加を行っていないネガティブコントロールでは、MA3株は、検出できなかった。
本発明の方法は、海水中のMA3株を検出することができる。
【0042】
<総論>
本実施例では、アコヤガイの大量死と関連性の高いMA3株の定量PCR法(本発明の定量方法)を開発した。詳しくは、IGS領域をターゲットにプライマーセットを設計し、近縁種であるVibrio alginolyticus NBRC15630とも区別して増幅できる特異的な定量 PCR法を開発した。
さらに、MA3株を実験的に感染させたアコヤガイの各組織からMA3株の検出ができ、MA3株の菌液を添加した海水からも検出することができた。したがって、本発明の定量方法は、アコヤガイへのMA3株の感染確認のみならず、予防にも貢献できる。
感染により死亡した個体において、閉殻筋、鰓及び外套膜を定量PCRで調べた結果、ほとんどの個体の閉殻筋と鰓からはMA3が検出されたが、外套膜から検出された個体は1個体のみであった。MA3株を閉殻筋に注射しているので、閉殻筋から検出されたのは、当然である。MA3株が鰓から検出されたことから、血液循環により、鰓にMA3株が集まったと考えられる。二枚貝が採餌、呼吸をする際に使われる主要なフィルターの役割をする鰓は、細菌やウイルスなどの病原体を蓄積する組織として知られていること (Int. J. Food Microbiol. 173: 14-20, 2014) からも、MA3株の検出に鰓を用いるのが好ましい。