(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162475
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】車両用アンダーカバー
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20231101BHJP
【FI】
B62D25/20 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072803
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 陽介
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BB03
3D203BB08
3D203CA07
3D203CB09
3D203CB10
(57)【要約】
【課題】走行時に固定具が外れても路面と干渉を抑制することができる車両用アンダーカバーの提供にある。
【解決手段】複数の固定具により車体の下部に固定されるアンダーカバー本体41と、アンダーカバー本体41に設けられ、固定具が挿通される複数の通孔42と、を備える車両用アンダーカバーにおいて、アンダーカバー本体41は、車体側カバー面43を有し、車体側カバー面43には、固定具の脱落により下方に向けて傾斜する傾斜部46がアンダーカバー本体41に発生したとき、走行時の空気流によって傾斜部46を原位置へ復帰させる方向の揚力を発生する揚力発生機構80が備えられた。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の固定具により車体の下部に固定されるアンダーカバー本体と、
前記アンダーカバー本体に設けられ、前記固定具が挿通される複数の通孔と、を備える車両用アンダーカバーにおいて、
前記アンダーカバー本体は、車体側カバー面と路面側カバー面とを有し、
前記車体側カバー面又は前記路面側カバー面の少なくとも一方には、前記固定具の脱落により下方に向けて傾斜する傾斜部が前記アンダーカバー本体に発生したとき、走行時の空気流によって前記傾斜部を原位置へ復帰させる方向の揚力を発生する揚力発生機構が備えられることを特徴とする車両用アンダーカバー。
【請求項2】
前記揚力発生機構は、
前記揚力を発生させる翼部材と、
前記アンダーカバー本体に前記翼部材を支持する翼部材支持部と、を有することを特徴とする請求項1記載の車両用アンダーカバー。
【請求項3】
前記揚力発生機構は、前記車体の前後方向に対して複数配設されることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用アンダーカバー。
【請求項4】
前記アンダーカバー本体は、
開口部と、
前記開口部を開閉可能とする蓋部と、を有し、
前記揚力発生機構は、前記蓋部に備えられることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用アンダーカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用アンダーカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用アンダーカバーの従来技術として、例えば、特許文献1に開示されたフロアアンダーカバーが知られている。特許文献1において開示された車両は、空気抵抗を極力低減することを目的として、車体下面のほぼ全てが、エンジンルームアンダーカバーおよびフロアアンダーカバーで覆われている。フロアアンダーカバーは、フロアトンネルを境に左右に二分割されている。これらのアンダーカバーは、フレーム側に設けられたステーに対し、ボルトおよび公知のプラスティックファスナを用いてその周縁部の要所が止められている。フロアアンダーカバーは、ポリプロピレン樹脂材のスタンピングモールド成型にて形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたフロアアンダーカバーでは、例えば、走行中にフロアアンダーカバーの前部とフレームとを固定する固定具(プラスティックファスナ)が脱落することがある。この場合、車両が走行し続けると、走行時の空気流によってフロアアンダーカバーの前部が下方へ向かうように、アンダーカバーの一部が折れ曲がり、さらに垂れ下がって路面と干渉してフロアアンダーカバーが大きく損傷してしまうという問題がある。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、走行時に固定具が外れたとしても路面と干渉を抑制することができる車両用アンダーカバーの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、複数の固定具により車体の下部に固定されるアンダーカバー本体と、前記アンダーカバー本体に設けられ、前記固定具が挿通される複数の通孔と、を備える車両用アンダーカバーにおいて、前記アンダーカバー本体は、車体側カバー面と路面側カバー面とを有し、前記車体側カバー面又は前記路面側カバー面の少なくとも一方には、前記固定具の脱落により下方に向けて傾斜する傾斜部が前記アンダーカバー本体に発生したとき、走行時の空気流によって前記傾斜部を原位置へ復帰させる方向の揚力を発生する揚力発生機構が備えられることを特徴とする。
【0007】
本発明では、車体側カバー面又は路面カバー面の少なくとも一方に揚力発生機構が備えられる。このため、アンダーカバー本体の前部と車体下部とを固定する固定具が脱落し、走行時の空気流によってアンダーカバー本体において前部を下方へ向けて傾斜する傾斜部が発生しても、揚力発生機構は、傾斜部を原位置へ復帰させる方向の揚力を発生する。その結果、アンダーカバー本体の前部が原位置へ戻るように変位し、アンダーカバー本体の前部と路面との干渉が妨げられ、アンダーカバー本体の損傷が抑制できる。
【0008】
また、上記の車両用アンダーカバーにおいて、前記揚力発生機構は、前記揚力を発生させる翼部材と、前記アンダーカバー本体に前記翼部材を支持する翼部材支持部と、を有する構成としてもよい。
この場合、翼部材が走行時の空気流によってアンダーカバー本体における傾斜部を原位置へ復帰させる方向の揚力を発生させることができる。また、翼部材支持部は、翼部材をアンダーカバー本体に支持することができる。
【0009】
また、上記の車両用アンダーカバーにおいて、前記揚力発生機構は、前記車体の前後方向に対して複数配設される構成としてもよい。
この場合、複数の揚力発生機構が車体の前後方向に対して配設されることで、アンダーカバー本体の前部だけでなく、前後方向における中心部や後部で下方に向けて傾斜しても、揚力発生機構によって原位置へ復帰させる方向の揚力を発生させることが可能である。
【0010】
また、上記の車両用アンダーカバーにおいて、前記アンダーカバー本体は、開口部と、前記開口部を開閉可能とする蓋部と、を有し、前記揚力発生機構は、前記蓋部に備えられる構成としてもよい。
この場合、走行時にアンダーカバー本体が有する開閉部の前部が下方へ向けて傾斜しようとしても、揚力発生機構により揚力により開閉部が原位置へ戻るように変位することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、走行時に固定具が外れても路面と干渉を抑制することができる車両用アンダーカバーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1の実施形態の車両用アンダーカバーが適用された自動車を下方から見た斜視図である。
【
図2】第1の実施形態に係る車両用アンダーカバーとしての右フロントフロアアンダーカバーの平面図である。
【
図4】クリップが外れてアンダーカバー本体の一部が折れ曲がっている状態を例示した右フロントフロアアンダーカバーの縦断面図である。
【
図5】第2の実施形態に係る車両用アンダーカバーとしての右フロントフロアアンダーカバーの縦断面図である。
【
図6】クリップが外れてアンダーカバー本体の一部が折れ曲がっている状態を例示した右フロントフロアアンダーカバーの縦断面図である。
【
図7】(a)は変形例としての蓋部に折れ曲がりのないエンジンアンダーカバーを示す縦断面図であり、(b)は同変形例としての蓋部に折り曲げが生じた状態のエンジンアンダーカバーを示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係る車両用アンダーカバーについて図面を参照して説明する。本実施形態では、自動車に適用した車両用アンダーカバーを例示して説明する。なお、方向を特定する「前後」、「左右」および「上下」については、自動車の運転手が運転席に着座して、自動車の前進側を向いた状態を基準として示す。
【0014】
図1に示すように、自動車10の車体11の前部には、左右一対の前輪12が備えられている。車体11の後部には左右一対の後輪13が備えられている。車体11の下面には複数の車両用アンダーカバーが固定されている。車両用アンダーカバーは、具体的には、エンジンアンダーカバー14と、右フロントフロアアンダーカバー15、左フロントフロアアンダーカバー16と、右リヤフロアアンダーカバー17と、左リヤフロアアンダーカバー18と、である。車体11の幅方向の中心には、排気系部品(図示せず)が収容されるフロアトンネル19が前後方向に延在している。
【0015】
車体11の下面における前部には、エンジンアンダーカバー14が固定されている。エンジンアンダーカバー14は、エンジンルーム(図示せず)の下方に位置し、エンジンルームに収容されているエンジンおよび補機類の保護のほか、車体11の空力性能の向上のために設けられている。エンジンアンダーカバー14は、アンダーカバー本体21と、複数の通孔(図示せず)が備えられている。エンジンアンダーカバー14は樹脂製であり、例えば、ポリプロピレン樹脂やポリエステル樹脂を材料とし、プレス加工により成形される。アンダーカバー本体21は、車体側カバー面(図示せず)と路面側カバー面23と、有する。アンダーカバー本体21は、開口部25と、開口部25を開閉可能する蓋部26と、を有している。開口部25は、車体11の下面からエンジンルームへ通じる点検口である。アンダーカバー本体21には、車体側カバー面が高くなる複数の台座部(図示せず)が形成されている。
【0016】
右フロントフロアアンダーカバー15は、車体11のフロアトンネル19より右側であってエンジンアンダーカバー14の後端に隣接するように固定されている。右フロントフロアアンダーカバー15は、車体11におけるフロアトンネル19よりも右側の下面の保護のほか、車体11の空力性能の向上のために設けられている。
図2に示すように、右フロントフロアアンダーカバー15は、アンダーカバー本体41と、複数の通孔42を備えている。
図3に示すように、アンダーカバー本体41は、車体側カバー面43と路面側カバー面44と、有する。アンダーカバー本体41には、車体側カバー面43が高くなる複数の台座部45が形成されている。
【0017】
通孔42は、台座部45に形成されており、エンジンアンダーカバー14を固定するための固定具が挿通される。固定具は、樹脂製のクリップ31である。樹脂製のクリップ31は頭部32と軸部33とを有する。クリップ31の軸部33を通孔42に挿通し、車体11に備えられているステー34の固定孔35に保持させることで、エンジンアンダーカバー14が車体11に固定される。なお、クリップ31のほかに、ボルト(図示せず)が固定具として用いられている。また、アンダーカバー本体41には、空力性能の向上のための多数のスリット孔(図示せず)が備えられている。車体側カバー面43と路面側カバー面44を貫通するスリット状の小孔である。
【0018】
左フロントフロアアンダーカバー16は、車体11のフロアトンネル19より左側であってエンジンアンダーカバー14の後端に隣接するように固定されている。左フロントフロアアンダーカバー16は、車体11におけるフロアトンネル19よりも左側の下面の保護のほか、車体11の空力性能の向上のために設けられている。左フロントフロアアンダーカバー16は、アンダーカバー本体51と、複数の通孔(図示せず)を備えている。アンダーカバー本体51は、車体側カバー面(図示せず)と路面側カバー面52と、有する。アンダーカバー本体51には、車体側カバー面が高くなる複数の台座部(図示せず)が形成されている。
【0019】
右リヤフロアアンダーカバー17は、車体11のフロアトンネル19より右側であって右フロントフロアアンダーカバー15の後端に隣接するように固定されている。右リヤフロアアンダーカバー17は、車体11におけるフロアトンネル19よりも右側の下面の保護のほか、車体11の空力性能の向上のために設けられている。右リヤフロアアンダーカバー17は、アンダーカバー本体61と、複数の通孔(図示せず)を備えている。アンダーカバー本体61は、車体側カバー面(図示せず)と路面側カバー面62と、有する。アンダーカバー本体61には、車体側カバー面が高くなる複数の台座部(図示せず)が形成されている。
【0020】
左リヤフロアアンダーカバー18は、車体11の下面における左側であって左フロントフロアアンダーカバー16の後端に隣接するように固定されている。左リヤフロアアンダーカバー18は、車体11におけるフロアトンネル19よりも左側の下面の保護のほか、車体11の空力性能の向上のために設けられている。左リヤフロアアンダーカバー18は、アンダーカバー本体71と、複数の通孔(図示せず)を備えている。アンダーカバー本体71は、車体側カバー面(図示せず)と路面側カバー面72と、有する。アンダーカバー本体71には、車体側カバー面が高くなる複数の台座部(図示せず)が形成されている。
【0021】
ところで、本実施形態の各アンダーカバーの車体側カバー面には、揚力発生機構が備えられている。揚力発生機構は、アンダーカバー本体の前部が下方に向けて傾斜したとき、走行時の空気流によってアンダーカバー本体を原位置へ復帰させる方向の揚力を発生する機構である。揚力発生機構は、具体的には、揚力を発生させる翼部材と、アンダーカバー本体に前記翼部材を支持する翼部材支持部と、を有する。
【0022】
本実施形態では、エンジンアンダーカバー14と、右フロントフロアアンダーカバー15と、左フロントフロアアンダーカバー16と、右リヤフロアアンダーカバー17と、左リヤフロアアンダーカバー18と、に揚力発生機構がそれぞれ備えられている。本実施形態では、右フロントフロアアンダーカバー15に備えられている揚力発生機構80を説明する。エンジンアンダーカバー14と、左フロントフロアアンダーカバー16と、右リヤフロアアンダーカバー17と、左リヤフロアアンダーカバー18と、に備えられる揚力発生機構(図示せず)については、揚力発生機構80の説明を援用する。
【0023】
図2に示すように、揚力発生機構80は、アンダーカバー本体41の車体側カバー面43に備えられている。そして、複数の揚力発生機構80が、アンダーカバー本体41の前後方向に配設されている。揚力発生機構80は、揚力を発生させる翼部材81と、アンダーカバー本体41に翼部材81を支持する翼部材支持部82と、を有する。
【0024】
翼部材81は、航行機の翼構造とほぼ同じであり樹脂製である。翼部材81は、車体11と干渉しない位置にて翼部材支持部82により支持されている。翼部材81の前後方向の長さ、左右方向の長さ(幅)は、車体11やアンダーカバー本体41と干渉しない範囲であれば自由である。また、翼部材81が支持される位置は、アンダーカバー本体41において、走行時に空気が翼部材81の前方から後方へ流れることが可能な位置である。また、翼部材81はクリップ31が挿通されている通孔42の後方に配置される。
【0025】
図3に示すように、翼部材81における前縁LEと後縁TEとを結ぶ線は翼弦線Cである。翼弦線Cと車体側カバー面43との角度θ1は、例えば、クリップ31の脱落でアンダーカバー本体41の前部が下方に近づくように傾斜する時の傾斜角θ2が10°で走行時の空気流により揚力が発生する角度である。具体的には、
図4に示すように、アンダーカバー本体41の前部の傾斜角θ2が10°であって、かつ、自動車10が時速80km以上で高速走行する場合、傾斜された前部を原位置へ持ち上げる揚力Lを発生するように、空気流Fに対する迎え角θ3が設定される。つまり、迎え角θ3は角度θ1から傾斜角θ2を差し引いた角度である(θ3=θ1―θ2)。翼部材81の表面における空気の層(境界層)の剥離が発生しない範囲では迎え角が大きいほど揚力Lが大きくなる。
図4では空気流Fを矢印に示し、揚力Lを白抜き矢印により示す。
【0026】
翼部材支持部82は、アンダーカバー本体41の車体側カバー面43に立設されている樹脂製の部位である。翼部材支持部82の先端に翼部材81が取り付けられている。翼部材支持部82と翼部材81との取り付けは、接着剤または溶着による。本実施形態では、翼部材支持部82は、翼部材81の左右方向の中心付近で翼部材81を支持する。
【0027】
次に、本実施形態の車両用アンダーカバーとしての右フロントフロアアンダーカバー15の作用について説明する。エンジンアンダーカバー14、右フロントフロアアンダーカバー15、左フロントフロアアンダーカバー16、右リヤフロアアンダーカバー17および左リヤフロアアンダーカバー18は、車体11の下部を保護する。自動車10の走行中に、例えば、冠水した道路や積雪のある道路を通り、水や雪が車体11と車両用アンダーカバーとの間に勢いよく入り込むと、車両用アンダーカバーにおけるクリップ31が外れる場合がある。
【0028】
例えば、右フロントフロアアンダーカバー15の前部を固定するクリップ31が外れると、アンダーカバー本体41の自重や走行時の振動、あるいはアンダーカバー本体41と車体11との間に走行時の空気が入り込むことでアンダーカバー本体41が折れ曲がる場合がある。アンダーカバー本体41では、折れ曲がりにより傾斜する傾斜部46が生じる。例えば、アンダーカバー本体41に生じた傾斜部46は、走行時に走行時の空気流を受けて路面に向かうように折れ曲がって傾斜しようとする。本実施形態では、クリップ31の脱落でアンダーカバー本体41の前部が下方に近づくように傾斜する時の傾斜角θ2が10°以内であれば、揚力発生機構80の翼部材81が走行時の空気流Fに対して揚力を発生する迎え角θ3の姿勢となる(
図4を参照)。なお、クリップ31の脱落後のアンダーカバー本体41の折れ曲がりの起点Pの位置は条件によって異なる。
【0029】
この状態で、自動車10の走行速度が時速80km以上の高速であれば、翼部材81に生じる揚力Lは、アンダーカバー本体41における傾斜部46が翼部材81の揚力Lによって持ち上げられる。なお、翼部材81の前縁で分離し、翼部材81を通過した空気流Fは後縁で合流し、後方へ流れる。翼部材81の後方へ流れる空気流Fは、アンダーカバー本体41に備えられた多数のスリット孔(図示せず)へ流れたり、後方の揚力発生機構80へ流れたりする。したがって、翼部材81を通過する空気流Fは十分な速さを有する。自動車10が時速80km以上の走行速度で高速走行を継続する限り、アンダーカバー本体41における傾斜部46が路面と干渉することはない。したがって、路面との干渉よりアンダーカバー本体41の損傷を防止できる。
【0030】
右フロントフロアアンダーカバー15の作用について説明したが、他の右フロントフロアアンダーカバー15以外の車両用アンダーカバーについても、右フロントフロアアンダーカバー15と同様の作用を生じる。つまり、クリップ31が外れた車両用アンダーカバーにおける前部が下方へ傾斜し傾斜部が発生する場合には、揚力発生機構80による揚力によって、アンダーカバー本体と路面との干渉が防止される。
【0031】
本実施形態の車両用アンダーカバーは以下の作用効果を奏する。
(1)右フロントフロアアンダーカバー15の車体側カバー面43に揚力発生機構80が備えられる。このため、アンダーカバー本体41を固定するクリップ31が脱落し、走行時の空気の流れによってアンダーカバー本体41における傾斜部46が下方へ向かおうとしても、揚力発生機構80は、傾斜部46を原位置へ復帰させる方向の揚力を発生する。その結果、アンダーカバー本体41における傾斜部46が原位置へ戻るように変位し、アンダーカバー本体41の前部と路面との干渉が妨げられ、アンダーカバー本体41の損傷が抑制できる。右フロントフロアアンダーカバー15以外の車両用アンダーカバーでも同様の効果を奏する。
【0032】
(2)揚力発生機構80は、揚力を発生させる翼部材81と、アンダーカバー本体41に翼部材81を支持する翼部材支持部82と、を有する。このため、翼部材81が走行時の空気流によってアンダーカバー本体41を原位置へ復帰させる方向の揚力を発生させることができる。また、翼部材支持部82は、翼部材81をアンダーカバー本体41に支持することができる。
【0033】
(3)複数の揚力発生機構80が車体11の前後方向に配設される。このため、アンダーカバー本体41の前部だけでなく、アンダーカバー本体41の前後方向における中心部や後部で下方に向けて傾斜しても、揚力発生機構80によって傾斜部46を原位置へ復帰させる方向の揚力を発生させることが可能である。
【0034】
(4)自動車10が時速80km以上の走行速度で高速走行を継続する限り、路面との干渉よるアンダーカバー本体41の損傷を防止できる。したがって、アンダーカバー本体41において外れたクリップ31を再び装着することで、アンダーカバー本体41の修理を完了することができる。
【0035】
(5)揚力発生機構80は、車体11とアンダーカバー本体41との間に位置するため、クリップ31が外れてアンダーカバー本体41が折れ曲がらない限り、露出されることはない。したがって、揚力発生機構80は、路面との干渉あるいは路面から飛来する飛来物との衝突により損傷するおそれは殆どない。また、露出されない状態の揚力発生機構80は走行時における自動車10の空気抵抗の増大を助長することはない。
【0036】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る車両用アンダーカバーについて説明する。第2の実施形態の車両用アンダーカバーは、路面側カバー面に揚力発生機構が備えられている点で、第1の実施形態と相違する。本実施形態では、第1の実施形態と同じ構成については、第1の実施形態の説明を援用し、共通の符号を用いる。
【0037】
図5に示すように、本実施形態の車両用アンダーカバーとしての右フロントフロアアンダーカバー90では、アンダーカバー本体41の路面側カバー面44に揚力発生機構91が備えられている。そして、複数の揚力発生機構91がアンダーカバー本体41の前後方向に配設されている。揚力発生機構91は、揚力を発生させる翼部材92と、アンダーカバー本体41に翼部材92を支持する翼部材支持部93と、を有する。
【0038】
翼部材92は、航行機の翼構造と同じであり樹脂製である。翼部材92は、路面と干渉しない位置にて翼部材支持部93により支持されている。翼部材92の前後方向の長さ、左右方向の長さ(幅)は、車体11による制約を受けないので比較的自由に設定できる。また、翼部材92はクリップ31が挿通されている通孔42の後方に配置される。
【0039】
翼部材92における翼弦線Cと路面側カバー面44との角度θ4は、例えば、クリップ31の脱落でアンダーカバー本体41の前部が下方に近づくように傾斜する時の傾斜部46の傾斜角θ5が10°で走行時の空気流により揚力が発生する角度である。具体的には、
図6に示すように、アンダーカバー本体41における傾斜部46の傾斜角θ5が10°で自動車10が時速80km以上で高速走行する場合、傾斜部46を原位置へ持ち上げる揚力Lを発生するように、空気流に対する迎え角θ6が設定される。つまり、迎え角θ6は角度θ4から傾斜角θ5を差し引いた角度である(θ6=θ4―θ5)。翼部材92の表面における空気の層(境界層)の剥離が発生しない範囲では迎え角が大きいほど揚力Lが大きくなる。
図6では空気流Fを矢印に示し、揚力Lを白抜き矢印により示す。
【0040】
本実施形態では、例えば、右フロントフロアアンダーカバー90の前部を固定するクリップ31が外れると、アンダーカバー本体41の自重や走行時の振動、あるいはアンダーカバー本体41と車体11との間に空気が入り込むことでアンダーカバー本体41が折れ曲がる場合がある。例えば、アンダーカバー本体41における傾斜部46が路面に向かうように折れ曲がって傾斜しようとする。本実施形態では、クリップ31の脱落でアンダーカバー本体41の前部が下方に近づくように傾斜する時の角度が約10°以内であれば、揚力発生機構91の翼部材92が走行時の空気流に対して揚力を発生する迎え角の姿勢となる。なお、クリップ31の脱落後のアンダーカバー本体41の折れ曲がりの起点Pの位置は条件によって異なる。
【0041】
本実施形態の車両用アンダーカバーによれば、第1の実施形態の効果(1)~(3)と同等の効果を奏する。また、揚力発生機構91がアンダーカバー本体41の路面側カバー面44に備えられているので、車体11によるスペース制約を受けることがなく、設計自由度が高い。また、アンダーカバー本体41の後部が下方へ向けて折れ曲がり、折れ曲がりの起点が傾斜部の前方である場合でも、揚力発生機構91は、傾斜部を原位置へ復帰させることができる。
【0042】
(変形例)
次に、変形例について説明する。
図7(a)に示す車両用アンダーカバーとしてのエンジンアンダーカバー14のアンダーカバー本体21は、車体側カバー面24と路面側カバー面23と、有する。開口部25を塞ぐ蓋部26は、エンジンアンダーカバー14の車体側カバー面24の一部でもある車体側蓋面27とエンジンアンダーカバー14の路面側カバー面23の一部でもある路面側蓋面28とを有する。本変形例では、車体側蓋面27に揚力発生機構80が備えられている。蓋部26を固定するクリップ31(図示せず)が外れ、
図7(a)に示すように、蓋部26の前部が下方へ向かうように傾斜し傾斜部29が発生すると、揚力発生機構80において発生する揚力により蓋部26における傾斜部29が原位置へ戻る方向へ変位する。
【0043】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0044】
〇 上記の実施形態では、翼部材と翼部材支持部を別部材としたが、これに限らない。例えば、翼部材と翼部材支持部とを一体成形により一体化してもよい。あるいは、アンダーカバー本体と翼部材支持部とを一体化してもよい。いずれの場合も車両用アンダーカバーの部品点数を抑制することができる。また、アンダーカバー本体に、補強用のリブが前後方向に延在する場合、リブの頂部に翼部材を取り付けてもよく、この場合、補強用のリブが翼部材支持部を兼用することができる。
〇 上記の実施形態では、翼部材の形状を平面視で長方形とし、材料を樹脂製としたが、これに限定されない。翼部材の形状や材料は特に限定されない。また、翼部材の大きさについてもスペース等の条件を満たす範囲内で自由に設定できる。
〇 上記の実施形態では、アンダーカバー本体における車体側カバー面又は路面カバー面の一方にのみ揚力発生機構を備えたが、これに限らない。揚力発生機構は、例えば、アンダーカバー本体における車体側カバー面および路面カバー面のそれぞれに備えられてもよい。この場合、アンダーカバー本体に備えられる揚力発生機構の小型化や軽量化といった効果が期待できる。
〇 上記の実施形態では、アンダーカバー本体の前部が下方へ向けて傾斜する傾斜部が発生する場合について説明したが、これに限らない。例えば、アンダーカバー本体の中央付近や後部付近でクリップが外れ、アンダーカバー本体において外れたクリップの前方が破断し、折り曲げの起点が外れたクリップの箇所よりも後方であるような傾斜部が生じる場合でもよい。そして、アンダーカバー本体における傾斜部の車体側カバー面又は路面側カバー面の少なくとも一方に揚力発生機構が備えられていればよい。
〇 上記の実施形態では、クリップの脱落でアンダーカバー本体の前部が下方に近づくように傾斜する時の傾斜部の角度が約10°以内であれば、揚力発生機構の翼部材が走行時の空気流に対して揚力を発生する迎え角の姿勢となるとしたが、この限りではない。翼部材の取り付け状態によっては、傾斜部の傾斜角が10°以上であっても揚力を発生する迎え角の姿勢となる。
〇 上記の実施形態では、車両としての自動車に適用した車両用アンダーカバーを例示したが、これに限らない。車両は、アンダーカバーを備える車両であれば、制限はなく本発明の車両用カバーを適用できる。
〇 上記の第2の実施形態では、アンダーカバー本体の路面側カバー面に全ての翼部材支持部を取り付けるようにしたが、これに限らない。例えば、一部の翼部材支持部をクリップの頭部に取り付け、クリップと揚力発生機構を一体化してもよい。この場合、アンダーカバー本体の路面側カバー面に備えられた揚力発生機構が備えられてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10 自動車
11 車体
12 前輪
13 後輪
14 エンジンアンダーカバー
15、90 右フロントフロアアンダーカバー
16 左フロントフロアアンダーカバー
17 右リヤフロアアンダーカバー
18 左リヤフロアアンダーカバー
19 フロアトンネル
21、41、51、61、71 アンダーカバー本体
23、43 車体側カバー面
24、44、52、62、72 路面側カバー面
25 開口部
26 蓋部
27 車体側蓋面
28 路面側蓋面
31 クリップ
42 通孔
29、46 傾斜部
80、91 揚力発生機構
81、92 翼部材
82、93 翼部材支持部
F 空気流
L 揚力
P 起点(折れ曲がり)