(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162477
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】フロート式逆流防止弁
(51)【国際特許分類】
E03F 7/04 20060101AFI20231101BHJP
E03F 5/042 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
E03F7/04
E03F5/042
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072805
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(72)【発明者】
【氏名】藤田 智行
(57)【要約】
【課題】フロート及びガイド部材の損傷の発生を低減することを目的とするフロート式逆流防止弁を提供する。
【解決手段】フロート式逆流防止弁は、環状弁座、フロート、ガイド部材及び規定部材を備えている。環状便座は、上下方向に開口し、排水系統の上流側と下流側とを連通する。フロートは、環状弁座下方の下流側において上下方向に移動可能に位置し、排水の水位上昇に伴って浮上して開口を閉じることで環状弁座を閉栓し、排水の水位低下に伴って降下して開口を開放することで環状弁座を開栓する。ガイド部材は、フロートの上下方向の移動をガイドする。規定部材は、少なくとも排水の一部が流れ込む水溜部を有し、フロートの移動の下限位置を規定する。また、規定部材は、水溜部である半球形状の凹部を有する碗状体である。水溜部は、下限位置においてフロートの少なくとも下半分を収容可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流から下流に排水を行う排水系統中に配設されるフロート式逆流防止弁であって、
上下方向に開口し、前記排水系統の上流側と下流側とを連通する環状弁座と、
前記環状弁座下方の下流側において上下方向に移動可能に位置し、排水の水位上昇に伴って浮上して前記開口を閉じることで該環状弁座を閉栓し、排水の水位低下に伴って降下して該開口を開放することで該環状弁座を開栓するフロートと、
前記フロートの上下方向の移動をガイドするガイド部材と、
少なくとも排水の一部が流れ込む水溜部を有し、前記フロートの移動の下限位置を規定する規定部材と、
を備え、
前記規定部材は、前記水溜部である半球形状の凹部を有する碗状体であり、
前記水溜部は、前記下限位置において前記フロートの少なくとも下半分を収容可能であることを特徴とするフロート式逆流防止弁。
【請求項2】
前記碗状体は、前記水溜部と前記排水系統の下流側とを連通する貫通孔を有することを特徴とする請求項1に記載のフロート式逆流防止弁。
【請求項3】
前記ガイド部材は、前記フロート及び前記水溜部の周囲に配設された3以上の棒状体であることを特徴とする請求項1に記載のフロート式逆流防止弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工場などの敷地内や建屋内等で発生する排水を、河川や海、公共排水施設などに排出する排水系統中に配設されるフロート式逆流防止弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、工場などの敷地内や建屋内等で発生する排水を河川や海、公共排水施設などに排出する排水系統では、上流から下流への順方向に排水を行うべく、逆流を防止するフロート式逆流防止弁が配設されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般的に、フロート式逆流防止弁は、排水系統の上流側と下流側とを連通する環状弁座、環状弁座の下方に位置するフロート及びこのフロートを上下方向にガイドする複数のガイド棒(ガイド部材)等を備えている。フロートは、排水の水位に伴って浮上及び降下して環状弁座を開閉する。平常時においては水位が低いため、フロートは、降下して環状弁座の下方の底板に載った(着地した)状態となり、環状弁座は開栓された状態となる。したがって、環状弁座を通過して上流から下流へ順方向に排水が行われる。一方、逆流時においては水位が上昇するため、フロートは、浮上した状態となり、環状弁座は閉栓された状態となる。これにより、環状弁座より上流側への逆流が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のフロート式逆流防止弁では、平常時において、排水が上部からフロートに作用するので、ガイド部材とフロートとのこすれ(摩擦)等が生じる場合がある。例えば、排水が底板上のフロートに当たってフロートが左右に揺れ、この揺れによってフロートとガイド部材との間に摩擦が生じる。そのため、ガイド部材又はフロートが損傷してしまう虞がある。
【0006】
この発明は、フロート及びガイド部材の損傷の発生を低減することを目的とするフロート式逆流防止弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって提供される上流から下流に排水を行う排水系統中に配設されるフロート式逆流防止弁は、環状弁座、フロート、ガイド部材及び規定部材を備えている。環状便座は、上下方向に開口し、排水系統の上流側と下流側とを連通する。フロートは、環状弁座下方の下流側において上下方向に移動可能に位置し、排水の水位上昇に伴って浮上して開口を閉じることで環状弁座を閉栓し、排水の水位低下に伴って降下して開口を開放することで環状弁座を開栓する。ガイド部材は、フロートの上下方向の移動をガイドする。規定部材は、少なくとも排水の一部が流れ込む水溜部を有し、フロートの移動の下限位置を規定する。また、規定部材は、水溜部である半球形状の凹部を有する碗状体である。水溜部は、下限位置においてフロートの少なくとも下半分を収容可能である。
【0008】
上記碗状体は、水溜部と排水系統の下流側とを連通する貫通孔を有していてもよい。
【0009】
上記ガイド部材は、フロート及び水溜部の周囲に配設された3以上の棒状体であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、平常時において、フロートの少なくとも下半分は、規定部材の半球形状の水溜部に収容された状態となるので、フロートの左右方向(水平方向)への揺れ等が抑制される。また、排水が水溜部に流れ込んだ際、水溜部に排水が溜まる。これにより、フロートは少し浮上した状態となって、溜まった排水が緩衝材となって左右方向(水平方向)の揺れ等が抑制される。したがって、排水がフロートに作用した場合であってもフロートがガイド部材に接触することを低減でき、フロート及びガイド部材の損傷の発生を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】この発明の実施形態に係る逆流防止弁の断面図である。
【
図2】この発明の実施形態に係る逆流防止弁の本体に環状弁座及び弁座押えを取り付けた状態を下流側から見た図である。
【
図3】この発明の実施形態に係る逆流防止弁の碗状体の平面図及び断面図である。
【
図4】この発明の実施形態に係る逆流防止弁の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照してこの発明の実施形態であるフロート式逆流防止弁(以下、逆流防止弁という)について説明する。なお、この発明の構成は、実施形態に限定されるものではない。
【0013】
図1は、この発明の実施形態に係る逆流防止弁1の断面図である。
図2は、逆流防止弁1の本体5に環状弁座6及び弁座押え14を取り付けた状態を下流側から見た図であり、
図3は、逆流防止弁1の碗状体8の平面図及び断面図である。
【0014】
図1に示すように、この実施形態の逆流防止弁1は、建屋の床面2に発生する排水を河川や海などに排出する排水系統中に配設され、河川等から床面2に水が逆流してくるのを防止する。排水系統は、床面2に形成された凹部H、凹部Hの底面から下方に延びる排水管3等から構成されている。逆流防止弁1は、この排水管3の上端部に配設されている。
【0015】
逆流防止弁1は、本体5、本体5に取り付けられた環状弁座6及び4本のガイド棒7、ガイド棒7に取り付けられた碗状体8、環状弁座6とガイド棒7と碗状体8との内方に配置されたフロート9等を備えている。本体5は、上下方向に貫通した断面が円形状の上流口11を有する略円筒形状を呈する。また、本体5上部の外周には、取付具10がねじ結合されている。取付具10は、溶接4によって凹部Hに固定支持されている。
【0016】
環状弁座6は、例えばゴム製であり、中央に連通開口6Aを有している。環状弁座6は、弁座押え14を介して本体5の下端に押圧固定されている。環状弁座6は、連通開口6Aを介して、上流側の上流口11と下流側の排水管3とを連通する。
【0017】
弁座押え14は、
図2に示すように、環状構造を有している。弁座押え14は、環状弁座6を固定する小ネジ13(
図1参照)を挿入するための小ネジ孔12、及び、ガイド棒7を挿入するためのネジ孔15を有している。なお、弁座押え14は、
図1に示すように、小ネジ13によって、本体5に固定される。
【0018】
4本のガイド棒7は、ステンレス鋼等の金属製であり、上端部が本体5下端に等間隔に設けられたネジ孔15とねじ結合し、本体5に固定支持されている。この4本のガイド棒7は、フロート9を上下方向に案内する。本実施形態では、4本のガイド棒7が設けられているが、4本のうちの1本のガイド棒7の図示は省略する。なお、ガイド棒7は、少なくとも3本設けられていればよい。
【0019】
また、ガイド棒7の下端部は、
図1に示すように、碗状体8のガイド棒孔16(
図3参照)に貫通した状態でナット17とねじ結合することで、碗状体8を固定支持している。ガイド棒孔16は、
図3に示すように、碗状体8の開口周縁部に形成されている。すなわち、4つのガイド棒7は、フロート9及び水溜部81の周囲に等間隔に配設されている。
【0020】
碗状体8は、
図1に示すように、フロート9側(上部)が開口した半球形状の凹部を有する。また、碗状体8は、例えば樹脂製である。凹部は、上流からの排水の少なくとも一部が流れ込む水溜部81である。水溜部81には、流れ込んだ排水が一時的に溜まる。溜まった排水は、水溜部81から貫通孔82を通過して下流側の排水管3に流れていく。貫通孔82は、水溜部81と下流側の排水管3とを連通する。本実施形態の碗状体8には、4の貫通孔82が形成されている。
【0021】
水溜部81は、4本のガイド棒7の内側に位置し、径がフロート9の径(外径)よりも大きい。そのため、水溜部81は、
図1に示すように、降下したフロート9の下半分を収容可能である。
図1に示すフロート9の位置が、フロート9の移動の下限位置となる。すなわち、碗状体8は、フロート9の移動の下限位置を規定する規定部材に該当する。なお、水溜部81は、精密な半球形状でなくてもよく、略半球形状であればよい。
【0022】
フロート9は、
図1に示すように、ステンレス鋼等の金属で形成され、中空の球形状を呈する。また、フロート9は、排水よりも比重が軽く形成されている。例えば、フロート9の略下半分が水没した状態で浮力によって浮上する。そのため、下流側から上流側へ水が流れ込む逆流時、フロート9は、排水管3内の水位上昇により浮上して、一部が環状弁座6の連通開口6Aと嵌合する。これにより、連通開口6Aが閉じられて環状弁座6が閉栓される。その後、フロート9は、水位低下により降下して環状弁座6の連通開口6Aと嵌合しなくなる。これにより、連通開口6Aが開放されて環状弁座6が開栓される。
【0023】
また、平常時において、水溜部81に水が溜まってない状態では、フロート9は、
図1に示すように水溜部81に収容された(着座した)状態となる。一方、水溜部81に一時的に排水が溜まった状態では、フロート9は、
図4に示すように水溜部81内で少し浮上した状態となる。なお、フロート9は、精密な球形状でなくてもよく、環状弁座6を閉栓できる程度の略球形状であればよい。
【0024】
次に、平常時及び逆流時の逆流防止弁1の動作について説明する。
【0025】
順方向に排水が流れる平常時において、排水管3内の水位は、一般的に碗状体8の配置位置よりも低いので、フロート9は、
図1に示すように、自重などによって降下して水溜部81に収容された状態となる。したがって、環状弁座6は開栓された状態にある。これにより、排水が床面2(上流)から上流口11、環状弁座6の連通開口6A、ガイド棒7間、水溜部81及び貫通孔82を通過して下流口19に流れ、最終的に河川等(下流)に排出される。
【0026】
なお、平常時において排水が発生している場合、排水の一部がフロート9に当たる場合がある。このように排水がフロート9に作用した場合であっても、フロート9の少なくとも下半分が水溜部81に収容された状態であるので、フロート9の左右方向(水平方向)への揺れ等が抑制される。しかも、水溜部81は4本のガイド棒7よりも内側に位置しているので、水溜部81に収容された状態のフロート9はガイド棒7に接触し難い。また、排水の一部が水溜部81に流れ込んだ場合、水溜部81には一時的に排水が溜まる。これにより、フロート9は
図4に示すように少し浮上した状態となる。この場合にも、溜まった排水が緩衝材となって左右方向(水平方向)への揺れ等が抑制される。なお、水溜部81に一時的に溜まった排水が貫通孔82を通過して下流側に流出した場合、フロート9は、再び
図1に示すように水溜部81に着座した状態となる。
【0027】
次に、下流側からの水の逆流時においては、排水管3内の水位は下流側から環状弁座6に向かって上昇する。そのため、フロート9は、例えば、略下半分が水没した状態で浮力によって浮上する。そして、水位が更に上昇すると、フロート9は連通開口6Aを閉じることになるので、環状弁座6が閉栓された状態となる。これにより、環状弁座6よりも上流側に水が逆流して床面2などに溢れ出すことを確実に防止する。その後、逆流が解消して水位が低下した場合には、フロート9は自重により降下して連通開口6Aが開放されることになるので、環状弁座6が開栓された状態に戻る。降下してきたフロート9は、水溜部81に着座した状態となる。この場合、碗状体8は樹脂製であるので、降下による衝撃を吸収することができ、フロート9の変形が抑制される。
【0028】
以上のように、平常時において、フロートの少なくとも下半分は、規定部材(碗状体)の半球形状の水溜部に収容された状態となるので、フロートの左右方向(水平方向)への揺れ等が抑制される。また、排水が水溜部に流れ込む際、水溜部に排水が溜まる。これにより、フロートは少し浮上した状態となって、溜まった排水が緩衝材となって左右方向(水平方向)の揺れ等が抑制される。これにより、排水がフロートに作用した場合であってもフロートがガイド部材(ガイド棒)に接触することを低減でき、フロート及びガイド部材(ガイド棒)の損傷の発生を低減できる。
【0029】
また、水溜部がガイド部材よりも内側に位置しているので、排水がフロートに作用した場合であってもフロートがガイド部材に接触し難い。
【0030】
なお、本実施形態では、碗状体の水溜部(凹部)は、下限位置においてフロートの下半分が収容される(覆われる)深さであったが、特にこれに限定されるものではない。下限位置においてフロートの少なくとも下半分が収容される深さであればよい。
【0031】
また、本実施形態の碗状体(規定部材)の高さ方向の配置位置は、平常時、水溜部に一時的に排水が溜まった状態でフロートが環状弁座を閉栓しない位置であればよい。
【0032】
さらに、本実施形態では、碗状体の水溜部(凹部)に貫通孔が設けられているが、貫通孔はなくてもよい。また、貫通孔の数、位置、形状、大きさは、
図3に示す構成に限定されるものではない。一時的に排水が水溜部に溜まる構成であれば任意の構成を採用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
この発明は、工場などの敷地内や建屋内で発生する排水を河川や海、公共排水施設などに排出したり、一般家庭などで浴槽や洗面所などで使用した水を公共排水施設などに排水したりする排水系統などを施工、販売、運用する産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 フロート式逆流防止弁
5 本体
6 環状弁座
7 ガイド棒(ガイド部材)
8 碗状体(規定部材)
9 フロート
81 水溜部