(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001625
(43)【公開日】2023-01-06
(54)【発明の名称】柱とプレキャスト梁の接合構造及び柱とプレキャスト梁の接合方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20221226BHJP
E04B 1/21 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
E04B1/58 508A
E04B1/21 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021102458
(22)【出願日】2021-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田所 敏弥
(72)【発明者】
【氏名】中田 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AA13
2E125AB12
2E125AC02
2E125AC04
2E125AF01
2E125AG03
2E125AG29
(57)【要約】
【課題】大部分がプレキャスト化されて施工性に優れているうえに、損傷したとしても修復などが容易に行える柱とプレキャスト梁の接合構造を提供する。
【解決手段】鉄筋コンクリートによって形成される柱とプレキャスト梁の接合構造である。
梁の本体となるプレキャスト梁部31と、柱2の上端部21に埋設されてプレキャスト梁部に向けて延伸される接合鉄筋22と、柱の上端部の側面とプレキャスト梁部の端面との間に高強度コンクリートによって形成される高強度接続部4とを備えている。
そして、接合鉄筋は、太径又は高強度の鉄筋によって形成されて端部が高強度接続部に配置されるとともに、梁主筋32の端部321も高強度接続部に配置され、外力を受けた際に、高強度接続部よりもプレキャスト梁部の端部の方が先に損傷するように設定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリートによって形成される柱とプレキャスト梁の接合構造であって、
梁の本体となるプレキャスト梁部と、
前記柱の上端部に埋設されて前記プレキャスト梁部に向けて延伸される接合鉄筋と、
前記柱の上端部の側面と前記プレキャスト梁部の端面との間に高強度コンクリートによって形成される高強度接続部とを備え、
前記接合鉄筋は、前記プレキャスト梁部の軸方向鉄筋よりも太径又は高強度の鉄筋によって形成されて端部が前記高強度接続部に配置されるとともに、前記軸方向鉄筋の端部も前記高強度接続部に配置され、
外力を受けた際に、前記高強度接続部よりも前記プレキャスト梁部の端部の方が先に損傷するように設定されていることを特徴とする柱とプレキャスト梁の接合構造。
【請求項2】
前記高強度接続部には帯鉄筋が配筋されずに、前記高強度コンクリートとして高強度繊維コンクリートが充填されていて、
前記プレキャスト梁部には帯鉄筋が配筋されて、普通コンクリートによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の柱とプレキャスト梁の接合構造。
【請求項3】
前記高強度接続部には帯鉄筋が配筋されて、前記高強度コンクリートとして繊維が含まれないコンクリートが充填されていて、
前記プレキャスト梁部には帯鉄筋が配筋されて、普通コンクリートによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の柱とプレキャスト梁の接合構造。
【請求項4】
前記高強度接続部の梁高は、前記プレキャスト梁部の梁高より高いことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の柱とプレキャスト梁の接合構造。
【請求項5】
鉄筋コンクリートによって形成される柱とプレキャスト梁の接合方法であって、
上端部に梁に向けて延伸される接合鉄筋が埋設された柱を、間隔を置いて構築する工程と、
前記柱間の間隔より短いプレキャスト梁部を柱間に架け渡す工程と、
前記柱の上端部の側面と前記プレキャスト梁部の端面との間に高強度コンクリートを充填することで高強度接続部を構築する工程とを備え、
前記プレキャスト梁部に取り付けられる架台は、前記高強度接続部より長く張り出されていて、前記架台の端部を前記柱の上端面に載せることで前記プレキャスト梁部は柱間に架け渡され、
前記高強度接続部の下方から装着される吊型枠を前記架台に取り付けることで、前記高強度コンクリートの充填が可能となることを特徴とする柱とプレキャスト梁の接合方法。
【請求項6】
前記高強度接続部には帯鉄筋が配筋されずに、前記プレキャスト梁部の軸方向鉄筋よりも太径又は高強度の鉄筋によって形成された前記接合鉄筋の端部と前記軸方向鉄筋の端部が配置されて、前記高強度コンクリートとして高強度繊維コンクリートが充填されることを特徴とする請求項5に記載の柱とプレキャスト梁の接合方法。
【請求項7】
前記高強度接続部には帯鉄筋が配筋されて、前記プレキャスト梁部の軸方向鉄筋よりも太径又は高強度の鉄筋によって形成された前記接合鉄筋の端部と前記軸方向鉄筋の端部が配置されて、前記高強度コンクリートとして繊維が含まれないコンクリートが充填されることを特徴とする請求項5に記載の柱とプレキャスト梁の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリートによって形成される柱とプレキャスト梁の接合構造及び柱とプレキャスト梁の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1-3に開示されているように、鉄筋コンクリート造の柱と梁の接合部において、梁の降伏時に形成される塑性ヒンジを、梁端部と接合部との境界面ではなく、境界面よりも梁の軸方向の中心側に寄った位置に発生させるようにした接合構造が知られている。
【0003】
例えば特許文献1では、柱の内部にまで連続する梁主筋を配筋するとともに、その梁主筋に沿って、柱の上端部から梁側に張り出すように添え筋を配筋することで、柱と梁の接合部の鉄筋量を増加させ、塑性ヒンジの発生位置を梁の中心側に移行させている。
【0004】
また、特許文献2では、柱と梁の接合部内と梁端部における梁主筋を太径化することで、接合部周辺の鉄筋量を増加させて、その結果として塑性ヒンジの発生位置を梁の中心側に移行させている。
【0005】
同様に特許文献3では、柱と梁の接合部内と梁端部において、鋼管内充填式の継手となる梁主筋より太径のスリーブを配置することで、接合部周辺の強度を増加させて塑性ヒンジの発生位置を梁の中心側に移行させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-214803号公報
【特許文献2】特許第2757060号公報
【特許文献3】特開2005-155058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1-3では、いずれも梁主筋を柱上部にまで延伸させて配筋しているので、柱も梁もすべて建設現場において構築することになるが、生産性を向上させる観点からは、可能な限りプレキャスト化されることが望まれている。
【0008】
また、特許文献2,3では、接合部の梁主筋のみ太径化したり、スリーブなどの機械式継手が用いられたりしているが、この方法では施工精度、コスト、時間などに課題がある。さらに大規模な地震時には、部材端となる接合部付近には、大きな応力が発生して損傷が生じることがあるので、復旧などの対応のしやすさが求められる。
【0009】
そこで、本発明は、大部分がプレキャスト化されて施工性に優れているうえに、損傷したとしても修復などが容易に行える柱とプレキャスト梁の接合構造及び柱とプレキャスト梁の接合方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の柱とプレキャスト梁の接合構造は、鉄筋コンクリートによって形成される柱とプレキャスト梁の接合構造であって、梁の本体となるプレキャスト梁部と、前記柱の上端部に埋設されて前記プレキャスト梁部に向けて延伸される接合鉄筋と、前記柱の上端部の側面と前記プレキャスト梁部の端面との間に高強度コンクリートによって形成される高強度接続部とを備え、前記接合鉄筋は、前記プレキャスト梁部の軸方向鉄筋よりも太径又は高強度の鉄筋によって形成されて端部が前記高強度接続部に配置されるとともに、前記軸方向鉄筋の端部も前記高強度接続部に配置され、外力を受けた際に、前記高強度接続部よりも前記プレキャスト梁部の端部の方が先に損傷するように設定されていることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記高強度接続部には帯鉄筋が配筋されずに、前記高強度コンクリートとして高強度繊維コンクリートが充填されていて、前記プレキャスト梁部には帯鉄筋が配筋されて、普通コンクリートによって形成されている構成とすることができる。また、前記高強度接続部には帯鉄筋が配筋されて、前記高強度コンクリートとして繊維が含まれないコンクリートが充填されていて、前記プレキャスト梁部には帯鉄筋が配筋されて、普通コンクリートによって形成されている構成とすることもできる。さらに、前記高強度接続部の梁高は、前記プレキャスト梁部の梁高より高くすることができる。
【0012】
また、柱とプレキャスト梁の接合方法の発明は、鉄筋コンクリートによって形成される柱とプレキャスト梁の接合方法であって、上端部に梁に向けて延伸される接合鉄筋が埋設された柱を、間隔を置いて構築する工程と、前記柱間の間隔より短いプレキャスト梁部を柱間に架け渡す工程と、前記柱の上端部の側面と前記プレキャスト梁部の端面との間に高強度コンクリートを充填することで高強度接続部を構築する工程とを備え、前記プレキャスト梁部に取り付けられる架台は、前記高強度接続部より長く張り出されていて、前記架台の端部を前記柱の上端面に載せることで前記プレキャスト梁部は柱間に架け渡され、前記高強度接続部の下方から装着される吊型枠を前記架台に取り付けることで、前記高強度コンクリートの充填が可能となることを特徴とする。
【0013】
ここで、前記高強度接続部には帯鉄筋が配筋されずに、前記プレキャスト梁部の軸方向鉄筋よりも太径又は高強度の鉄筋によって形成された前記接合鉄筋の端部と前記軸方向鉄筋の端部が配置されて、前記高強度コンクリートとして高強度繊維コンクリートが充填される構成とすることができる。また、前記高強度接続部には帯鉄筋が配筋されて、前記プレキャスト梁部の軸方向鉄筋よりも太径又は高強度の鉄筋によって形成された前記接合鉄筋の端部と前記軸方向鉄筋の端部が配置されて、前記高強度コンクリートとして繊維が含まれないコンクリートが充填される構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0014】
このように構成された本発明の柱とプレキャスト梁の接合構造は、梁の本体がプレキャスト梁部であるとともに、柱の上端部に埋設されて梁に向けて延伸される接合鉄筋が、太径又は高強度の鉄筋によって形成されている。そして、柱の上端部の側面とプレキャスト梁部の端面との間には、高強度コンクリートによって高強度接続部が形成される。
【0015】
このように大部分がプレキャスト化されているので施工性に優れている。また、外力を受けた際に、高強度接続部よりもプレキャスト梁部の端部の方が先に損傷することになるが、プレキャスト梁部は損傷したとしても、公知の技術で修復や補強などを容易に行うことができる。
【0016】
また、高強度接続部に帯鉄筋を配筋しないのであれば、構築時に繊維が混入された高強度繊維コンクリートを容易に充填することができる。一方、繊維が含まれない高強度コンクリートを使用する場合は、高強度接続部に帯鉄筋を配筋することもできる。そして、プレキャスト梁部が、帯鉄筋が配筋されて普通コンクリートによって形成される周知の構造であれば、修復を従来の工法で容易に行うことができる。
【0017】
また、高強度接続部の梁高をプレキャスト梁部の梁高より高くすることで、高強度接続部内での過密配筋を避けることができるようになる。過密配筋にならなければ、繊維が混入された高強度繊維コンクリートであっても、容易に充填することができる。
【0018】
また、柱とプレキャスト梁の接合方法の発明は、プレキャスト梁部の上面に沿って取り付けられる架台の端部を、柱の上端面に載せることでプレキャスト梁部を柱間に架け渡し、架台に吊型枠を取り付けるだけで、高強度接続部の高強度コンクリートを充填することができる。このため、梁を下方から支える支保工を設ける必要がなく、短期間にコストを抑えて柱と梁の接合を行うことができる。
【0019】
さらに、高強度接続部において、太径又は高強度の接合鉄筋とプレキャスト梁部の軸方向鉄筋とを重ねて、高強度繊維コンクリートを充填するだけであれば、充填性を低下させる要因となり得る帯鉄筋がなく、品質の高い高強度接続部を構築することができる。一方、繊維が含まれない高強度コンクリートを使用する場合は、高強度接続部に帯鉄筋を配筋することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施の形態の柱とプレキャスト梁の接合構造の構成を例示した説明図である。
【
図2】高強度接続部とプレキャスト梁部の構成を説明する図であって、(a)は
図1のA-A矢視方向で見た断面図、(b)は
図1のB-B矢視方向で見た断面図である。
【
図3】実施例1の柱とプレキャスト梁の接合方法を説明するフローチャートである。
【
図4】実施例1のプレキャスト梁部を架け渡す工程を例示した説明図である。
【
図5】実施例1の吊型枠を設置する工程を例示した説明図である。
【
図6】実施例1の高強度繊維コンクリートを充填する工程を例示した説明図である。
【
図7】実施例2の柱とプレキャスト梁の接合構造の構成を例示した説明図である。
【
図8】実施例2のプレキャスト梁部を架け渡す工程を例示した説明図である。
【
図9】実施例2の吊型枠を設置する工程を例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の柱とプレキャスト梁の接合構造を説明する図である。本実施の形態では、鉄筋コンクリートによって形成される柱とプレキャスト梁の接合構造を、RCラーメン高架橋1を例にして説明する。
【0022】
RCラーメン高架橋1は、例えば10mから12m程度のスパンで間隔を置いて構築される鉄筋コンクリート造の柱2,2と、その柱2,2の上端間に架け渡される鉄筋コンクリート造の梁3とによって、主に構成される。
【0023】
RCラーメン高架橋1では、柱2の上端部と梁3の端部とは、剛接合されることになる。すなわち、柱とプレキャスト梁の接合構造とは、鉛直方向に向けて延伸される柱2と、それに直交する水平方向が軸方向となる梁3とが、剛接合される接合部周辺の構造をいう。
【0024】
本実施の形態の柱とプレキャスト梁の接合構造は、柱2の上端部21と、その上端部21に埋設されて梁3に向けて延伸される接合鉄筋22と、梁3の本体となるプレキャスト梁部31と、柱2の上端部21とプレキャスト梁部31との間に形成される高強度接続部4とによって、主に構成される。
【0025】
本実施の形態では、鉄筋コンクリートによって構築される柱2の本体部24とは別に、その上に配置される上端部21が製作される場合について説明する。本体部24については、工場などで製作されたプレキャスト柱であっても、建設現場で現場打ちコンクリートによって構築される鉄筋コンクリート柱であっても、いずれでもよい。なお、本体部24から上端部21までが一体の柱2を、建設現場で設置面G上に直接構築することもできる。
【0026】
上端部21を別に製作する場合は、まず柱2の本体部24を建設現場の設置面G上に構築又は設置する。本体部24の上端面からは、上方に向けて柱主筋25の上端を突出させておく。柱主筋25の上端は、定着力を高めるためにフック形状などに加工される。
【0027】
一方、直方体に製作される上端部21は、別途、工場や建設現場の製作ヤードで製作することになる。上端部21は、ポルトランドセメントなどを使った普通コンクリート(一般構造用コンクリート)によって形成される。
【0028】
上端部21には、柱2の軸方向に延伸される接合鉄筋231と、梁3の軸方向に延伸される接合鉄筋22とが配筋される。柱2の本体部24との接合に使用される接合鉄筋231は、上部が上端部21に埋設されて、下端は下方に向けて突出される。この接合鉄筋231の下端も、定着力を高めるためにフック形状などに加工される。
【0029】
上端部21から下方に突出する接合鉄筋231と、柱2の本体部24から上方に突出される柱主筋25の上端とは、上端部21と本体部24との間に設けられる柱側接続部23において、例えば重ね継手となるように配置される。ここで、接合鉄筋231には、柱主筋25よりも太径又は高強度のものが使用される。
【0030】
そして、柱側接続部23に充填されるコンクリートを高強度繊維コンクリートなどの高強度コンクリートにすることで、RCラーメン高架橋1が大きな外力を受けても、柱側接続部23は損傷せずに、本体部24の上端部が塑性ヒンジ領域241となるように誘導することができるようになる。
【0031】
また、上端部21には、梁3の本体との接合に使用される接合鉄筋22の一部も埋設される。梁用の接合鉄筋22は、上端部21の両側にそれぞれ梁3が接続される場合は、両側に端部が突出されるように埋設され、上端部21の片側にのみ梁3が接続される場合は、梁3が接続される側にのみ端部が突出される。
【0032】
図1は、上端部21の両側に端部(221,222)を突出させた例を示している。また、定着力を高めるための形状としては、端部221はフック形状で例示し、反対側は閉合端部222として例示している。閉合端部222は、側面視U字状(コ字状)に形成される。
【0033】
上側の接合鉄筋22は、プレキャスト梁部31の上側の軸方向鉄筋となる梁主筋32と重ね継手できる位置に配置される。また、下側の接合鉄筋22は、プレキャスト梁部31の下側の軸方向鉄筋となる梁主筋32と重ね継手できる位置に配置される。
【0034】
ここで、接合鉄筋22には、プレキャスト梁部31の梁主筋32よりも太径又は高強度の鉄筋が配筋される。例えば梁主筋32の直径が、異形鉄筋の呼び名でD32のときに、接合鉄筋22には、1ランクから2ランク上のD38の異形鉄筋が使用される。
【0035】
一方、梁3のスパンの大半を占めることになるプレキャスト梁部31は、工場などで普通コンクリート33によって製作される。
図2(b)は、プレキャスト梁部31の断面の一例を示している。このプレキャスト梁部31には、上側と下側にそれぞれ複数の梁主筋32が配筋され、その周囲が帯鉄筋34によって囲まれている。
【0036】
そして、梁主筋32の端部321は、
図1に示すように、プレキャスト梁部31の端面から柱2の上端部21に向けて突出している。梁主筋32の端部321は、定着力を高めるためにフック形状などに加工される。
【0037】
上端部21から梁3に向けて突出された接合鉄筋22の端部221と、プレキャスト梁部31から突出される梁主筋32の端部321とは、上端部21とプレキャスト梁部31との間に設けられる高強度接続部4において、例えば重ね継手となるように配置される。
【0038】
すなわち高強度接続部4は、柱2の上端部21の側面とプレキャスト梁部31の端面との間に設けられる。そして、高強度接続部4に充填されるコンクリートには、高強度コンクリートである高強度繊維コンクリート41が使用される。
【0039】
例えば、鋼繊維が混入された繊維補強コンクリートである高強度繊維コンクリート41が使用できる。高強度繊維コンクリート41を使用することで、接合鉄筋22の端部221及び梁主筋32の端部321の定着力が増加するとともに、高強度接続部4のせん断補強にもなる。
【0040】
図2(a)は、高強度接続部4の断面の一例を示している。この高強度接続部4には、上側と下側において、柱2の上端部21から突出された接合鉄筋22の端部221と、プレキャスト梁部31の梁主筋32の端部321とが交互に配筋され、重ね継手となっている。
【0041】
プレキャスト梁部31は、柱2の上端部21と接続されるまでは、支保工Hによって支持させておくことができる。また、後述する実施例のように、支保工Hを設置しなくてもよい施工方法も考えられる。
【0042】
そして、プレキャスト梁部31と柱2の上端部21とが、高強度接続部4によって一体化されると、RCラーメン高架橋1が完成する。このように構成されるRCラーメン高架橋1は、大規模地震などによって大きな外力を受けても、高強度接続部4は損傷せずに、プレキャスト梁部31の端部が塑性ヒンジ領域311となって先に破壊することになる。
【0043】
次に、本実施の形態の柱とプレキャスト梁の接合構造の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の柱とプレキャスト梁の接合構造は、梁3の本体がプレキャスト梁部31であるとともに、柱2の上端部21に埋設されて梁3に向けて延伸される接合鉄筋22が、太径又は高強度の鉄筋によって形成されている。
【0044】
そして、柱2の上端部21の側面とプレキャスト梁部31の端面との間には、高強度繊維コンクリート41によって高強度接続部4が形成される。このように上端部21やプレキャスト梁部31などの大部分がプレキャスト化できるので、建設現場での作業が削減されて施工性に優れている。さらに、プレキャスト化によって、品質の向上を図ることができる。
【0045】
また、想定外の大規模地震などの大きな外力を受けた際に、高強度接続部4よりもプレキャスト梁部31の端部が塑性ヒンジ領域311になって、先に損傷することになる。しかしながらプレキャスト梁部31は、損傷したとしても上述したような帯鉄筋34が配筋されて普通コンクリート33によって製作されているので、樹脂モルタルを充填したり鋼板などの被覆材を巻いたりする公知の技術の適用によって、修復や補強などを容易に行うことができる。
【0046】
また、高強度接続部4に帯鉄筋を配筋しないのであれば、過密配筋を避けることができ、流動性が低い繊維が混入された高強度繊維コンクリート41であっても、容易に充填することができる。要するに、建設現場で作業を行う必要がある高強度接続部4の構築についても、効率的に行うことができる。
【0047】
また、高強度接続部4に高強度繊維コンクリート41を使用することで、接合鉄筋22及び梁主筋32の端部221,321の定着力が増加するので、高強度接続部4の長さ(梁3の軸方向長さ)を短くすることができる。この結果、材料費などを抑えることができる。
【実施例0048】
以下、前記した実施の形態とは別の形態の実施例1について、
図3-
図6を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0049】
前記実施の形態では、RCラーメン高架橋1を例にして柱とプレキャスト梁の接合構造について説明した。本実施例1では、そのRCラーメン高架橋1の柱とプレキャスト梁の接合構造を構築するのに適した施工方法の一例について説明する。
【0050】
図3は、実施例1の柱とプレキャスト梁の接合方法を説明するフローチャートである。
まずステップS1では、工場や作業ヤードなどで、予めプレキャスト梁部31や柱2の上端部21などを製作しておく。例えば、長さが10m-12m程度のプレキャスト梁部31を製作する。
【0051】
一方、建設現場においては、ステップS1の製作作業と並行するなどして、
図4に示すように、梁3のスパンに合わせた間隔で、設置面Gに柱2の本体部24を設置又は構築する(ステップS2)。すなわち、本体部24が工場などで製作されたプレキャスト柱の場合は設置を行い、現場打ちコンクリートによる場合は構築が行われる。
【0052】
この本体部24の上方には、工場などで製作されて建設現場に搬送されてきた上端部21を吊り降ろし、柱側接続部23を介して一体化させる。ここで、上端部21は、柱側接続部23よりも梁3側に張り出される突出部211を備えている。この突出部211は、後述する吊型枠6のかかり代になる部分で、20mm程度あればよい。
【0053】
ステップS3では、建設現場まで搬送されてきたプレキャスト梁部31の両側の端部に、鋼材などによって製作された桁状の架台5を取り付ける。例えば、架台5のプレキャスト梁部31の上面に載った部分に、簡易に脱着可能な高強度繊維製などの取付ベルト51を巻き付けることで、架台5をプレキャスト梁部31に固定する。
【0054】
また、架台5を張り出させる長さ(梁3の軸方向長さ)は、高強度接続部4の長さより長くして、端部を柱2の上端部21に載せられるようにする。前記実施の形態で説明したように、高強度繊維コンクリート41の使用によって高強度接続部4の長さを短くできれば、架台5の規模を小さくするなどして材料費などを抑えることができるようになる。
【0055】
ステップS4では、両端に架台5,5が取り付けられたプレキャスト梁部31をクレーンによって吊り上げ、柱2,2間に移動させる。そして、プレキャスト梁部31をゆっくりと降下させ、両側の架台5,5の端部を柱2の上端面に載せることで、プレキャスト梁部31を柱2,2間に架け渡す(ステップS5)。
【0056】
続いてステップS6では、
図5及び
図6に示すように、高強度接続部4を設ける箇所の下方から、吊型枠6を上方に移動させ、架台5に取り付ける。この作業もクレーンを使って行うことができる。
【0057】
吊型枠6は、
図6に示すように、底板6aとその両側縁に直交するように設けられる側壁6b,6bとによって、断面視U字状に形成される。吊型枠6は、鋼板やコンクリートなどによって製作することができる。
【0058】
吊り上げられた吊型枠6には、例えば上縁に複数の穴が開いており、その上縁の穴を架台5の下面部52のボルト穴に重ねて、ボルト61をねじ込むことによって、架台5に吊型枠6を取り付けることができる。
【0059】
すなわち、吊型枠6は、架台5に支持されることになるので、下方からの支保工を必要としない。この吊型枠6の上面開口は、架台5の下面部52によって塞ぐことができる。この場合は、下面部52に、高強度繊維コンクリート41を充填するための打設孔521と、空気抜き用の排出孔522とを設けておく。
【0060】
吊型枠6の梁3の軸方向の両側の縁部は、それぞれ柱2の突出部211とプレキャスト梁部31の端縁とに密着されるので、高強度繊維コンクリート41を吊型枠6の内部に充填することができる(ステップS7)。
【0061】
そして、高強度繊維コンクリート41が所定の強度を発揮するまで養生して硬化させた後に、吊型枠6の脱型を行う(ステップS8)。なお、吊型枠6がコンクリート製で、そのまま本体として利用する場合は、脱型は省略できる。
【0062】
このようにしてプレキャスト梁部31が高強度接続部4を介して柱2と一体化されて、架台5によるプレキャスト梁部31の支持が不要になったことを確認した後に、取付ベルト51を外して、架台5を撤去する。撤去された架台5や吊型枠6は、別のプレキャスト梁部31の設置に再利用することができる。
【0063】
このように構成された実施例1の柱とプレキャスト梁の接合方法は、プレキャスト梁部31の上面に沿って取り付けられる架台5の端部を、柱2の上端面に載せることでプレキャスト梁部31を柱2,2間に架け渡し、架台5に吊型枠6を取り付けるだけで、高強度接続部4の高強度コンクリートを充填することができる。
【0064】
これらの作業は、いずれも梁3を下方から支える支保工Hなどを設けなくても、クレーンなどを使って実施することが可能で、短期間にコストを抑えて柱2と梁3の接合を行うことができる。
【0065】
また、高強度接続部4において、太径又は高強度の接合鉄筋22とプレキャスト梁部31の梁主筋32とを重ねて、高強度繊維コンクリート41を充填するだけであれば、充填性を低下させる要因となり得る帯鉄筋がなく、品質の高い高強度接続部4を構築することができる。
【0066】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
実施例2の上端部21Aは、前記実施の形態及び実施例1で説明した上端部21よりも、上下に拡大された形状になっている。すなわち実施例2の上端部21Aは、部材高さが大きくなっていて、接合鉄筋22が配筋しやすくなっている。また拡大によって、構造耐力も増加する。さらに、上端部21Aは、梁3の軸直交方向となる水平方向にも拡幅させることもできる。
そして、この拡大された上端部21Aに接続される高強度接続部4Aも、上端部21Aと同様に梁高が拡大される。すなわち高強度接続部4Aの梁高は、プレキャスト梁部31の梁高よりも高くなる。
このように高強度接続部4Aの梁高を増加させることで、接合鉄筋22の端部221と梁主筋32の端部321とが、上下に配筋されることになって、高強度接続部4A内における過密配筋を避けることができるようになる。また、梁高が高くなることによって、高強度接続部4Aの構造耐力も増加する。
続いて、実施例2のRCラーメン高架橋1の柱とプレキャスト梁の接合構造を構築するのに適した施工方法の一例について説明する。本実施例2の施工方法は、大部分が実施例1で説明した施工方法と同じであるため、以下では実施例1と異なる点を中心に説明する。
このように構成された実施例2の柱とプレキャスト梁の接合構造及び柱とプレキャスト梁の接合方法は、柱2の上端部21A及び高強度接続部4Aが拡大されているので、接合鉄筋22や梁主筋32の端部321が、過密配筋にならず、高強度繊維コンクリート41などを容易に充填することができる。
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
例えば、前記実施の形態及び実施例1,2では、高強度コンクリートとして高強度繊維コンクリート41を使用する例について説明したが、これに限定されるものではなく、高強度接続部より先にプレキャスト梁部31の端部が先に損傷するように設定できるのであれば、繊維が含まれない高強度コンクリートを適用することもできる。この場合は、高強度接続部に帯鉄筋を配筋することができる。
また、前記実施の形態及び実施例1,2では、柱2の柱側接続部23にも高強度繊維コンクリートを使用する例について説明したが、これに限定されるものではなく、柱側接続部23には帯鉄筋が容易に配置できるので、帯鉄筋を配筋して流動性の高いコンクリートを打設することで柱側接続部を構築することもできる。