IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立製作所の特許一覧

特開2023-16252光化学反応システム及び光化学反応方法
<>
  • 特開-光化学反応システム及び光化学反応方法 図1
  • 特開-光化学反応システム及び光化学反応方法 図2
  • 特開-光化学反応システム及び光化学反応方法 図3
  • 特開-光化学反応システム及び光化学反応方法 図4
  • 特開-光化学反応システム及び光化学反応方法 図5
  • 特開-光化学反応システム及び光化学反応方法 図6
  • 特開-光化学反応システム及び光化学反応方法 図7
  • 特開-光化学反応システム及び光化学反応方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016252
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】光化学反応システム及び光化学反応方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/04 20060101AFI20230126BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20230126BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20230126BHJP
   C02F 1/70 20230101ALI20230126BHJP
   C02F 1/72 20230101ALI20230126BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20230126BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230126BHJP
   C25B 1/55 20210101ALI20230126BHJP
   C25B 15/023 20210101ALI20230126BHJP
   C25B 15/00 20060101ALI20230126BHJP
   C25B 9/19 20210101ALI20230126BHJP
   C25B 9/67 20210101ALI20230126BHJP
   H01M 14/00 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
C01B3/04 A
C01B13/02 B
B01J35/02 J
C02F1/70 Z
C02F1/72 Z
C02F1/72 101
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B1/55
C25B15/023
C25B15/00 302Z
C25B9/19
C25B9/67
H01M14/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120450
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高松 大郊
(72)【発明者】
【氏名】籔内 真
(72)【発明者】
【氏名】米山 明男
(72)【発明者】
【氏名】深谷 直人
【テーマコード(参考)】
4D050
4G042
4G169
4K021
5H032
【Fターム(参考)】
4D050AA20
4D050AB31
4D050BA10
4D050BA20
4D050BB03
4D050BB20
4D050BC04
4D050BC09
4D050BD01
4D050BD02
4D050BD04
4D050BD08
4D050CA01
4D050CA10
4G042BA08
4G042BA11
4G042BA44
4G042BB04
4G169CB02
4G169CB07
4G169CB81
4G169DA06
4G169EA11
4G169HA01
4G169HC01
4G169HE09
4G169HF01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC05
4K021BC09
4K021CA12
4K021CA15
4K021DB05
4K021DB31
4K021DB36
4K021DC01
4K021DC03
4K021EA05
4K021EA06
5H032AA07
5H032AA08
5H032CC06
5H032EE08
(57)【要約】
【課題】レドックス化合物の追加投入や電解液の入れ替えなどの処置を行うことなく、水素・酸素生成反応の効率を回復させることを可能にする。
【解決手段】
水素生成系光触媒とレドックス化合物を含む水媒体と電解液とを収容する水素生成セルと、酸素生成系光触媒とレドックス化合物を含む水媒体と電解液とを収容する酸素生成セルとを備えた光化学反応システムにおいて、水素生成セルに光を照射して水素生成セルから水素ガスを発生させることにより発生するレドックス化合物の濃度分極と酸素生成セルに光を照射して酸素生成セルから酸素ガスを発生させることにより発生するレドックス化合物の濃度分極とを解消させるレドックス化合物濃度分極解消部を備えた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素生成系光触媒とレドックス化合物を含む水媒体と電解液とを収容する水素生成セルと、
酸素生成系光触媒とレドックス化合物を含む水媒体と電解液とを収容する酸素生成セルと、
を備えた光化学反応システムであって、
前記水素生成セルに光を照射して前記水素生成セルから水素ガスを発生させることにより発生する前記レドックス化合物の濃度分極と前記酸素生成セルに光を照射して前記酸素生成セルから酸素ガスを発生させることにより発生する前記レドックス化合物の濃度分極とを解消させるレドックス化合物濃度分極解消部を備えることを特徴とする光化学反応システム。
【請求項2】
請求項1記載の光化学反応システムであって、
前記水素生成セルと前記酸素生成セルとの間を、イオン交換膜で分離していることを特徴とする光化学反応システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光化学反応システムであって、
前記レドックス化合物濃度分極解消部は、前記水素生成セルと前記酸素生成セルとの間に温度差を発生させる温度差発生部を備え、前記温度差発生部で前記水素生成セルの側と前記酸素生成セルの側との間に温度差を発生させることにより前記水素生成セルと前記酸素生成セルで発生した前記レドックス化合物の濃度分極を解消させることを特徴とする光化学反応システム。
【請求項4】
請求項3記載の光化学反応システムであって、
前記水素生成セルに収容された第1の電極と、前記酸素生成セルに収容された第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間の電気的な接続を開閉するスイッチとを更に備え、前記レドックス化合物濃度分極解消部の前記温度差発生部で前記第1の電極と前記第2の電極との間に温度差を発生させた状態で前記スイッチを閉じて前記第1の電極と前記第2の電極との間を電気的に接続して検出される電圧で、前記レドックス化合物の濃度分極の解消状態をモニタすることを特徴とする光化学反応システム。
【請求項5】
請求項4記載の光化学反応システムであって、
制御部を更に備え、前記制御部は、前記温度差発生部で前記第1の電極と前記第2の電極との間に温度差を発生させた状態で前記スイッチを閉じて前記第1の電極と前記第2の電極との間を電気的に接続して検出される電圧が予め設定した値になったときに前記スイッチを切って前記第1の電極と前記第2の電極との間を電気的に切断することを特徴とする光化学反応システム。
【請求項6】
請求項5記載の光化学反応システムであって、
前記制御部は、液交換指示表示部を備え、前記温度差発生部で前記第1の電極と前記第2の電極との間に温度差を発生させた状態で前記スイッチを閉じて前記第1の電極と前記第2の電極との間を電気的に接続することにより検出される電圧が予め設定した時間内に予め設定した値まで低下しない場合には、前記液交換指示表示部で液交換の指示を表示することを特徴とする光化学反応システム。
【請求項7】
水素生成系光触媒とレドックス化合物を含む水媒体と電解液と第1の電極とを収容する水素生成セルと、
酸素生成系光触媒とレドックス化合物を含む水媒体と電解液と第2の電極とを収容する酸素生成セルと、
前記水素生成セルと前記酸素生成セルとの間を分離するイオンが透過可能なイオン交換膜と
を備えた光化学反応システムであって、
前記水素生成セルに光を照射して前記水素生成セルから水素ガスを発生させることにより前記水素生成セルの内部において発生する前記レドックス化合物の濃度分極と前記酸素生成セルに光を照射して前記酸素生成セルから酸素ガスを発生させることにより前記酸素生成セルの内部において発生する前記レドックス化合物の濃度分極とを前記水素生成セルと前記酸素生成セルとの間の温度差発電により解消させるレドックス化合物濃度分極解消部を備えることを特徴とする光化学反応システム。
【請求項8】
請求項7記載の光化学反応システムであって、
前記レドックス化合物濃度分極解消部は、前記第1の電極と前記第2の電極との間に温度差を発生させる温度差発生部を備え、前記温度差発生部で前記第1の電極と前記第2の電極との間に温度差を発生させた状態で前記イオン交換膜を介して前記第1の電極と前記第2の電極との間で温度差発電を発生させることを特徴とする光化学反応システム。
【請求項9】
請求項8記載の光化学反応システムであって、
前記温度差発生部は、前記第1の電極の温度を上昇させる加熱部と、前記第2の電極の温度を下降させる冷却部とを備えていることを特徴とする光化学反応システム。
【請求項10】
水素生成系光触媒とレドックス化合物を含む水媒体と電解液とを収容する水素生成セルに光を照射して前記水素生成セルから水素ガスを発生させ、
酸素生成系光触媒とレドックス化合物を含む水媒体と電解液とを収容する酸素生成セルに光を照射して前記酸素生成セルから酸素ガスを発生させる
光化学反応方法であって、
前記水素生成セルの側の第1の電極と前記酸素生成セルの側の第2の電極との間に温度差を発生させて前記第1の電極と前記第2の電極との間に温度差発電を発生させることにより、前記水素生成セルに光を照射して前記水素生成セルから水素ガスを発生させることにより発生する前記レドックス化合物の濃度分極と前記酸素生成セルに光を照射して前記酸素生成セルから酸素ガスを発生させることにより発生する前記レドックス化合物の濃度分極とを解消させることを特徴とする光化学反応方法。
【請求項11】
請求項10記載の光化学反応方法であって、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に温度差を発生させた状態で前記第1の電極と前記第2の電極との間の電圧を検出し、前記検出した電圧に基づいて前記レドックス化合物の濃度分極の解消状態をモニタすることを特徴とする光化学反応方法。
【請求項12】
請求項10記載の光化学反応方法であって、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に温度差を発生させた状態で前記第1の電極と前記第2の電極との間の電圧を検出し、前記検出した電圧が予め設定した時間内に予め設定した値まで低下しない場合には、前記水素生成セルに収容した前記レドックス化合物を含む水媒体と前記電解液と前記酸素生成セルに収容した前記レドックス化合物を含む水媒体と前記電解液との交換を指示することを特徴とする光化学反応方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を光で分解して水素ガスと酸素ガスとを発生させる光化学反応システム及び光化学反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光エネルギーを利用したエネルギー変換技術として、光触媒を用いた水分解反応による水素と酸素の製造技術の実用化が求められている。実用的なエネルギー変換効率を得るには可視光活用が必要であり、可視光応答型光触媒の開発が進められている。可視光での水の完全分解技術として、二種類の光半導体(水素生成側と酸素生成側)とメディエータ(レドックス系)を組わせた二段階励起(Zスキーム)方式が報告されている。
【0003】
Zスキーム型可視光水分解のレドックスに関して、下記の特許文献1乃至3がある。
【0004】
特許文献1には、隔膜で隔てられた二室セル型の水素生成セルにおいて、導線とレドックス対で電子授受を行いながら水素と酸素を分離生成する技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、Fe3+/Fe2+レドックスを用いたZスキーム型可視光活性光触媒系に関するもので、吸着量の差で逆反応を抑制すること、pH2.4の酸性条件で有効であることが記載されている。
【0006】
特許文献3には、ヨウ素化合物(IO3-/I-)レドックスを用いたアルカリ条件下で使用可能な可視光による水の完全分解について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-89336号公報
【特許文献2】特開2005-199187号公報
【特許文献3】特開2002-255502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されている水素と酸素を分離生成する技術においては、水素生成反応がレドックス対の[Red]/[Ox]に依存し、レドックス対が偏ってしまう。これにより、逆反応が起こりやすくなるため、水素生成反応が効率良く進行しなくなる。
【0009】
このように、レドックス化合物を用いたZスキーム型可視光水分解では、初期投入したレドックス対の濃度分極が大きくなると逆反応が進行し、水素・酸素生成反応が停止する懸念があるが、特許文献2及び特許文献3に何れにおいても、この課題については触れられていない。
【0010】
本発明は、上記した従来技術の課題を解決して、レドックス化合物の追加投入や電解液の入れ替えなどの処置を行うことなく、水素・酸素生成反応の効率を回復させることを可能にする光化学反応システム及び光化学反応方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するために、本発明では、水素生成系光触媒とレドックス化合物を含む水媒体と電解液とを収容する水素生成セルと、酸素生成系光触媒とレドックス化合物を含む水媒体と電解液とを収容する酸素生成セルとを備えた光化学反応システムにおいて、水素生成セルに光を照射して水素生成セルから水素ガスを発生させることにより発生するレドックス化合物の濃度分極と酸素生成セルに光を照射して酸素生成セルから酸素ガスを発生させることにより発生するレドックス化合物の濃度分極とを解消させるレドックス化合物濃度分極解消部を備えた。
【0012】
また、上記した課題を解決するために、本発明では、水素生成系光触媒とレドックス化合物を含む水媒体と電解液と第1の電極とを収容する水素生成セルと、酸素生成系光触媒とレドックス化合物を含む水媒体と電解液と第2の電極とを収容する酸素生成セルと、水素生成セルと酸素生成セルとの間を分離するイオンが透過可能なイオン交換膜とを備えた光化学反応システムにおいて、水素生成セルに光を照射して水素生成セルから水素ガスを発生させることにより水素生成セルの内部において発生するレドックス化合物の濃度分極と酸素生成セルに光を照射して酸素生成セルから酸素ガスを発生させることにより酸素生成セルの内部において発生するレドックス化合物の濃度分極とを水素生成セルと酸素生成セルとの間に温度差発電を発生させることにより解消させるレドックス化合物濃度分極解消部を備えた。
【0013】
更に、上記した課題を解決するために、本発明では、水素生成系光触媒とレドックス化合物を含む水媒体と電解液とを収容する水素生成セルに光を照射して前記水素生成セルから水素ガスを発生させ、酸素生成系光触媒とレドックス化合物を含む水媒体と電解液とを収容する酸素生成セルに光を照射して前記酸素生成セルから酸素ガスを発生させる光化学反応方法において、水素生成セルの側の第1の電極と酸素生成セルの側の第2の電極との間に温度差を発生させて第1の電極と第2の電極との間に温度差発電を発生させることにより、水素生成セルに光を照射して水素生成セルから水素ガスを発生させることにより発生するレドックス化合物の濃度分極と酸素生成セルに光を照射して酸素生成セルから酸素ガスを発生させることにより発生するレドックス化合物の濃度分極とを解消させるようにした。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、可視光を用いて水素および酸素を生成する光化学反応システムにおいて、温度差により逆反応の要因であるレドックス濃度分極を解消できるようにしたので、レドックス化合物の追加投入や電解液の入れ替えなどの処置を行うことなく、水素・酸素生成反応の効率を回復させることを可能にし、光化学反応システムの稼働率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1に係る光化学反応システムの概略の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施例1に係る光化学反応システムにおいて水素と酸素を製造している状態の水素・酸素製造部の構成を示す斜視図である。
図3】本発明の実施例1に係る光化学反応システムにおいて温度差発電を行っている状態の水素・酸素製造部の構成を示す斜視図である。
図4】本発明の実施例1に係る光化学反応システムにおいて水素と酸素を製造している状態と温度差発電を行っている状態を説明する酸素生成セルと水素生成セルの断面図である。
図5】本発明の実施例1に係る光化学反応システムにおいて水素と酸素の製造と温度差発電を行う処理の流れを示すフロー図である。
図6】本発明の実施例2に係る光化学反応システムにおいて水素と酸素を製造している状態の水素・酸素製造部の構成を示す斜視図である。
図7】本発明の実施例2に係る光化学反応システムにおいて温度差発電を行っている状態の水素・酸素製造部の構成を示す斜視図である。
図8】本発明の実施例3に係る光化学反応システムにおいて水素と酸素を製造している状態の水素・酸素製造部の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、Zスキーム型人工光合成システムに関するものであり、可視光を用いて水素および酸素を生成する水素生成セルにおいて、温度差により逆反応の要因であるレドックス化合物の濃度分極を解消でき、水素および酸素の生成効率を向上でき、システム稼働率を向上させることを可能にする水素生成セル及び水素生成セルの制御システムを提供するものである。
【0017】
すなわち、本発明では、水素生成系光電極、酸素生成系光電極、及び、前記水媒体中に酸化還元するイオンであるレドックス化合物(メディエータ)を含む水媒体を有し、可視光を用いて水素を生成する水素生成セルにおいて、前記水媒体に対して、温度差を設ける電極が複数個、対に配置されていることを特徴とする水素生成セル及び水素生成セルの制御システムを提供するものである。
【0018】
また、本発明は、太陽光が照射されない夜間に温度差を印加する運転制御により濃度分極を解消することにより、レドックス化合物の追加投入や電解液の入れ替えなどの処置を行うことなく、水素・酸素生成反応の効率を回復させることで長期間の運転を可能にする光化学反応システム及び光化学反応方法に関するものである。
【0019】
更に、本発明は、複数の電極の電流のON/OFFを切り替えるスイッチを有し、可視光の照射有無に応じて前記スイッチを切り替える切替部を備えることを特徴とする水素生成セル及び水素生成セルの制御システムに関するものである。
【0020】
また、本発明は、水素生成系光電極と酸素生成系光電極、および水媒体とメディエータとなるレドックス化合物を存在させたZスキーム型可視光水分解システムを用いて水素及び酸素を製造する方法において、反応器内に温度差を印加することを特徴とするものである。
【0021】
そして、このZスキーム型可視光水分解システムにおいて、反応器内の水素生成系光電極近傍、および酸素生成系光電極近傍に導線で接続した一対の導電性電極を配置し、一方を高温に、もう一方を低温にして、反応器内の対電極間に温度差をかけられるように構成した。
【0022】
さらに、このZスキーム型可視光水分解システムにおいて、レドックス化合物がN型(熱起電力α>0)の場合、水素生成系光電極近傍を高温に、酸素生成系光電極近傍を低温にする温度差を印加して、水素生成極近傍を[Ox]>[Red]に、酸素生成極側を[Red]>[Ox]にすることで、それぞれの光電極での逆反応を抑制するようにした。
【0023】
さらに、このZスキーム型可視光水分解システムにおいて、レドックス化合物がP型(熱起電力α<0)の場合、水素生成系光電極近傍を低温に、酸素生成系光電極近傍を高温にする温度差を印加して、水素生成極近傍を[Ox]>[Red]に、酸素生成極側を[Red]>[Ox]にすることで、それぞれの光電極での逆反応を抑制することを特徴とする。
【0024】
さらに、このZスキーム型可視光水分解システムにおいて、反応器はレドックス対の電荷と反対符号のイオンのみを透過できるイオン選択透過性隔膜(陽イオン透過膜、または陰イオン透過膜)を設置することを特徴とする。
【0025】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施の形態を説明するための全図において同一機能を有するものは同一の符号を付すようにし、その繰り返しの説明は原則として省略する。
【0026】
ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【実施例0027】
図1に、本実施例に係るZスキーム型可視光水分解システムの例として、光化学反応システム100の構成を示す。
【0028】
本実施例に係る光化学反応システム100は、水を原料として光化学反応により水素と酸素とを生成する水素・酸素製造部110と、水素・酸素製造部110での水素と酸素の製造を制御する水素製造・効率再生制御システム120、水素・酸素製造部110の温度を制御してレドックス化合物の濃度差を解消する温度差印加機構部130、水素・酸素製造部110の電気回路をオン・オフするスイッチ140を備えて構成されている。
【0029】
水素・酸素製造部110は、温度差印加機構付光化学反応装置111を備え、温度差印加機構付光化学反応装置111の内部に導入した水112に太陽光113を照射して光化学反応を発生させることにより、酸素ガス(O)114と水素ガス(H)115を発生させる。
【0030】
水素製造・効率再生制御システム120は、照度・天候情報取得部121と、水素製造量・STH効率算出部122,酸素製造量・STO効率算出部123,電圧電流計測 (モニター) 部124、温度差印加部125、液交換指示表示部126,制御部127を備えている。
【0031】
照度・天候情報取得部121は、温度差印加機構付光化学反応装置111に入射する太陽光113の照度や温度差印加機構付光化学反応装置111が設置されている周辺の天候に関する情報を入力する。
【0032】
水素製造量・STH効率算出部122は,温度差印加機構付光化学反応装置111で発生させた水素ガス115の発生量の情報を取得し、酸素製造量・STO効率算出部123は、温度差印加機構付光化学反応装置111で発生させた酸素ガス114の発生量の情報を取得する。
【0033】
電圧電流計測 (モニター) 部124は、温度差印加機構付光化学反応装置111の後述する電極間を流れる電流と電圧を計測する。温度差印加部125は、温度差印加機構付光化学反応装置111に装着した熱源を加熱または冷却する。
【0034】
液交換指示表示部126は、温度差印加機構付光化学反応装置111に供給したレドックス化合物の交換時期を知らせ、制御部127は、水素製造・効率再生制御システム120を含む光化学反応システム100全体を制御する。
【0035】
水素・酸素製造部110の温度を制御してレドックス化合物の濃度差を解消する温度差印加機構部130は、温度差印加機構付光化学反応装置111の後述する酸素生成セルと水素生成セルとの間に温度差を付ける温度差印加装置131と、温度差印加機構付光化学反応装置111の後述する電極間の電圧を計測する電圧計測装置132とを備えている。
【0036】
本実施例に係る水素・酸素製造部110における温度差印加機構付光化学反応装置111の詳細な構成について、図2図3を用いて、説明する。
【0037】
図2は、昼間における温度差印加機構付光化学反応装置111の状態で、太陽光が照射されることにより水を分解して水素と酸素とを発生させている状態を示している。
【0038】
図3は、夜間における温度差印加機構付光化学反応装置111の状態で、太陽光が閉ざされた状態で、レドックス化合物の濃度分極を解消している状態を示している。
【0039】
図2及び図3に示した構成において、1は酸素生成セル、2は水素生成セル、3は電極、4は酸素生成セル1及び水素生成セル2の内部に供給された電解液、5は酸素生成セル1及び水素生成セル2の内部に供給されたレドックス化合物、7aは陽イオン交換膜又は陰イオン交換膜で形成されたイオン選択透過隔膜(イオン交換膜)、8aは可視光応答酸素生成光触媒、9aは可視光応答水素生成光触媒である。
【0040】
イオン選択透過隔膜7aは、レドックス化合物5は透過しないが、対イオンは透過するイオン交換膜である。このようなイオン選択透過隔膜7aを酸素生成セル1と水素生成セル2との間の隔膜として使用することにより、酸素生成セル1と水素生成セル2とにおいて、酸素と水素を分離して生成できる。
【0041】
レドックス化合物5は、酸化還元準位が0から+1.23V (vs NHE, pH=0)の間にあることが望ましい。例えば、Fe3+/Fe2+系、IO3-/I-系を用いることができる。
【0042】
酸素生成セル1で生成された酸素、および水素生成セル2で生成された水素は、夫々図示していない回収装置により回収される。
【0043】
酸素生成セル1の外部には、低温側熱源11とこの低温側熱源11の内部に冷却水を循環させる循環水パイプ13が埋設されている。また、水素生成セル2の外部には、高温側熱源10とこの高温側熱源10の内部に高温水を循環させる循環水パイプ12が埋設されている。
【0044】
また、酸素生成セル1側の電極3と水素生成セル2側の電極3とは、スイッチ140に繋がっている導線6で接続されている。
【0045】
このような構成において、図2に示したような、スイッチ140を開いた状態でhvで表されている太陽光113を照射すると、酸素生成セル1の内部では、可視光応答酸素生成光触媒8aの表面近傍でレドックス化合物5による還元反応が起こり、酸素Oが発生する。この還元反応が進行することに伴い、酸素生成セル1の内部における還元体の濃度が上昇する。
【0046】
一方、水素生成セル2の内部では、可視光応答水素生成光触媒9aの表面近傍でレドックス化合物5による酸化反応が起こり、水素Hが発生する。この酸化反応が進行することに伴い、水素生成セル2の内部における可視光応答水素生成光触媒9aの表面近傍の酸化体の濃度が上昇する。
【0047】
この時、循環水パイプ12及び13には、高温水又は冷却水が循環しておらず、高温側熱源10と低温側熱源11とは、室温の状態にある。
【0048】
一方、図3に示したように、例えば夜間などの太陽光113が照射されていない状態では、スイッチ140を閉じて酸素生成セル1側の電極3と水素生成セル2側の電極3とを電気的に接続する。この状態で循環水パイプ12で高温側熱源10の内部に高温水を循環させて水素生成セル2側の電極3を加熱し、循環水パイプ13で低温側熱源11の内部に冷却水を循環させて酸素生成セル1側の電極3を冷却する。
【0049】
これにより、水素生成セル2側の電極3の温度が上昇する。この状態で、水素生成セル2の内部では還元反応が起こり、酸化体が還元体に変換される。これにより、太陽光113が照射されたことにより減少した水素生成セル2の内部のレドックスの割合が増加する。
【0050】
一方、酸素生成セル1側の電極3は温度が低下する。この状態では、酸素生成セル1の内部で酸化反応が起こり、還元体の割合が減少して酸化体の割合が増加する。
【0051】
この状態では、熱化学電池の原理に基づいて、酸化還元対がイオン選択透過隔膜7aを透過して温度差が生じた酸素生成セル1側の電極3と水素生成セル2側の電極3との間で電解液4の内部を移動することにより熱起電力が発生する。これにより、スイッチ140が閉じて電気的に接続された酸素生成セル1側の電極3と水素生成セル2側の電極3とを介して、酸素生成セル1と電極3と水素生成セル2との間で、連続的に発電される。
【0052】
上記に説明した太陽光の照射による酸素と水素の発生と、水素生成セル2側の電極3の加熱と酸素生成セル1側の電極3の冷却による酸化および還元反応の状態を、図4を用いて説明する。図4の(a)と(b)とは図2の状態に対応して、太陽光が照射されている状態を示している。図4の(c)と(d)とは図3の状態に対応して、夜間で太陽光の照射がない状態で、高温側熱源10と低温側熱源11とが作動している状態を示している。
【0053】
図4において(a)は昼間で太陽光の照射開始直後の状態を示している。この状態で、スイッチ140は、開(オフ)の状態である。酸素生成セル1及び水素生成セル2の何れにおいても、[Ox]/[Red]で表されている酸化体([Ox])401と還元体([Red])402の割合(レドックス濃度比)が1になっている。
【0054】
図4の(b)は、昼間で太陽光の照射を開始してから長い時間が経過した時点における状態を示している。酸素生成セル1の側においては還元反応が進行して酸素が発生し、可視光応答酸素生成光触媒8aの近傍では還元体([Red])402の割合が増えて酸化体([Ox])401の割合が減少している。このとき、[Ox]/[Red]で表されている酸化体([Ox])401と還元体([Red])402の割合は、1よりも十分に小さくなっている。
【0055】
一方、図4の(b)で水素生成セル2の側においては酸化反応が進行して水素が発生し、可視光応答水素生成光触媒9aの近傍では酸化体([Ox])401の割合が増えて還元体([Red])402の割合が減少している。このとき、[Ox]/[Red]で表されている酸化体([Ox])401と還元体([Red])402の割合は、1よりも十分に大きくなって、レドックス濃度分極が進んだ状態になっている。
【0056】
図4の(c)は、夜間で太陽光の照射が途絶えた初期の状態を示している。この状態でスイッチ140を閉(オン)の状態にすることにより、図3に示したように、酸素生成セル1の側の電極3と水素生成セル2の側の電極3とが、導線6で電気的に接続される。
【0057】
図4の(c)は、高温側熱源10と低温側熱源11とが作動し始めて間もない状態を示している。この状態で、熱化学電池の原理に基づいて、酸化還元対がイオン選択透過隔膜7aを透過して温度差が生じた酸素生成セル1の側の電極3と水素生成セル2の側の電極3との間で電解液4の内部を移動することにより熱起電力が発生して、連続的に発電される。
【0058】
これにより、酸素生成セル1の側においては酸化反応により可視光応答酸素生成光触媒8aの近傍では(b)の状態と比べて酸化体([Ox])401の割合が増えて還元体([Red])402の割合が減る。その結果、[Ox]/[Red]で表される還元体([Red])402に対する酸化体([Ox])401の割合は1よりも小さいが、(b)の場合と比べて大きくなる。
【0059】
また、図4の(c)において、水素生成セル2の側においては、還元反応により可視光応答水素生成光触媒9aの近傍では(b)の状態と比べて還元体([Red])402の割合が増えて酸化体([Ox])401の割合が減少している。このとき、[Ox]/[Red]で表される還元体([Red])402に対する酸化体([Ox])401の割合は、1よりも大きいが(b)の場合と比べて小さくなっている。
【0060】
図4の(d)は、夜間で(c)の状態から時間が経過した時点の状態を示している。この状態では、酸素生成セル1の側における酸化反応と水素生成セル2の側における還元反応とが十分に進んで、起電力が小さくなり、酸素生成セル1の側の電極3と水素生成セル2の側の電極3との間の電圧はほぼゼロになる。この状態で、酸素生成セル1及び水素生成セル2の何れにおいても、[Ox]/[Red]で表されている酸化体([Ox])401と還元体([Red])402の割合が1になって、レドックス濃度分極が解消されている。
【0061】
この状態で(a)に戻り、スイッチ140を開いた状態で太陽光を照射して、水素と酸素を発生させる。
【0062】
図4の(a)及び(b)に示したように、昼間のZスキーム反応により、[Ox]/[Red]で表されるレドックス濃度比は、酸素生成セル1の側では還元体([Red])402がリッチに、水素生成セル2の側では酸化体([Ox])401がリッチになり、レドックス濃度分極が起こる。
【0063】
このように、酸素生成セル1の側で還元体([Red])402が増加した場合、ならびに水素生成セル2の側で酸化体([Ox])401が増加した場合に、それぞれのセルでレドックス濃度分極が進んで逆反応が起こり、酸素の生成及び水素の生成が止まってしまう可能性がある。
【0064】
これに対して本実施例では、図4の(c)および(d)で説明したように、照度が減って水素ガスが生成されなくなる夜間は、酸素生成セル1及び水素生成セル2の外部に設けた加熱・冷却手段により酸素生成セル1の内部に設置した電極(可視光応答酸素生成光触媒8a)と水素生成セル2の内部に設置した電極(可視光応答水素生成光触媒9a)との間に温度差を印加してそれぞれのセルでのレドックス濃度分極を解消するようにした。これにより、昼間の水素生成反応効率を再生するようにして、繰り返して使用できるようにした。
【0065】
ここで、酸素生成セル1及び水素生成セル2の外部から電極間に温度差を印加してそれぞれのセルでのレドックス濃度分極を解消する場合、図3に示したようにスイッチ140を閉じて酸素生成セル1の側の電極3と水素生成セル2の側の電極3とを電気的に接続すると、熱化学電池の原理に基づいて熱起電力αが発生する。この状態で、電圧計測装置132により酸素生成セル1の側の電極3と水素生成セル2の側の電極3間の電圧(平衡電位E)が計測される。
【0066】
ネルンスト式から平衡電位Eは、レドックス濃度比[Ox]/[Red]であらわされる
【0067】
【数1】
【0068】
【数2】
【0069】
【数3】
【0070】
【数4】
【0071】
【数5】
【0072】
【数6】
【0073】
上記した(数5)のΔEと(数6)のΔEは、同じ意味の式である。
【0074】
電圧計測装置132で計測される電圧が(数5)又は(数6)に従って一定電圧になれば、濃度差が解消されたことになる。
【0075】
温度差発電で生じた微小電力は、蓄電池に充電しバイアス電圧アシスト、補器電源にも利用することができる。
【0076】
レドックス種により異なる熱起電力αの符号によって、酸素生成セル1と水素生成セル2とのどちらを高温側にするかは決まる。N型(α>0)の場合、水素生成セル2の側において過剰な酸化体([Ox])401を還元体([Red])402にして濃度差を解消し、濃度比を1に近づけることで逆反応を抑制するためには、図3で説明したように、水素生成セル2の側を高温に設定する。
【0077】
一方、P型(α<0)の場合、酸素生成セル1の側において過剰な還元体([Red])402を酸化体([Ox])401にして濃度差を解消し、濃度比を1に近づけることで逆反応を抑制するためには、図3で説明したのと反対に、酸素生成セル1の側を高温に設定する。
【0078】
(数5)又は(数6)において、酸素生成セル1の側の電極3と水素生成セル2の側の電極3との温度差ΔTを設定(入力)し、ΔEを計測(出力)する。αはレドックス種で決まる固有値のため、温度差ΔTによって右辺第一項のαΔTは決まる。濃度比は右辺第二項を規定する。濃度比の解消は、実測する起電力ΔEがαΔTからの差異が無くなるかどうかで判断することが可能である。濃度比が大きいほどΔEは大きくなり、濃度比が小さくなるほどΔEは小さくなる。
【0079】
ここで、高温極と低温極のレドックス濃度比が10変化する毎に、起電力Eの値が約60mV変化する。
【0080】
次に、図2及び図3に示したような温度差印加機構付光化学反応装置111を備えた光化学反応システム100を操作する手順を、図5のフロー図を用いて説明する。
【0081】
まず、図示していない照度計で温度差印加機構付光化学反応装置111に入射する光を計測して水素製造・効率再生制御システム120の照度・天候情報取得部121に格納された照度・天候情報を制御部127に入力する(S501)。
【0082】
次に、図示していない水素検出器で検出して水素製造量・STH効率算出部122に格納された水素・酸素製造部110で製造した水素の製造量の情報を制御部127に入力する(S502)。
【0083】
次に、制御部127では、S502で入力された水素製造量の情報に基づいて、水素・酸素製造部110から水素が発生しているか否かを判定する(S503)。
【0084】
水素・酸素製造部110から水素が発生していると判定した場合(S503でYes)には、S501で入力された照度の情報に基づいて、水素・酸素製造部110で発生させる水素量を推定し、S502で入力された水素・酸素製造部110で製造した水素の製造量と比較して、水素・酸素製造部110において照度から推定される量の水素が発生しているかを判定する(S504)。
【0085】
S504で水素・酸素製造部110において照度から推定される量の水素が発生していると判定した場合(S504でYes)、光化学反応を維持するか否かを判定し(S505)、維持する場合には(S505でYes)S501に戻って、水素生成のプロセスを継続する。
一方、光化学反応を継続しないと判定した場合(S505でNo)には、水素発生の処理を終了する。
【0086】
また、S503において水素・酸素製造部110から水素が発生していないと判定した場合(S503でNo)には、図3で説明したように、制御部127からの指令でスイッチ140を閉じて酸素生成セル1の側の電極3と水素生成セル2の側の電極3と電気的に接続する。更に、循環水パイプ12で高温側熱源10の内部に高温水を循環させて水素生成セル2側を加熱し、循環水パイプ13で低温側熱源11の内部に冷却水を循環させて酸素生成セル1側を冷却する。これにより、水素生成セル2側の電極3の温度が上昇し、酸素生成セル1側の電極3の温度が低下する。
【0087】
これにより、水素生成セル2の内部では還元反応により酸化体が還元体に変換されてレドックスの割合が増加し、水素生成セル2の内部における酸化体と還元体との濃度差を解消させる。一方、酸素生成セル1の内部では酸化反応により還元体の割合が減少して酸化体の割合が増加し、酸素生成セル1の内部における酸化体と還元体との濃度差を解消させる(S506)。
【0088】
循環水パイプ12で高温側熱源10の内部に高温水を循環させて水素生成セル2側を加熱し、循環水パイプ13で低温側熱源11の内部に冷却水を循環させて酸素生成セル1側を冷却している状態で、酸素生成セル1と水素生成セル2との間には温度差発電が発生して、酸素生成セル1の側の電極3と水素生成セル2の側の電極3との間に電位差(電圧)が発生するする。この電位差の情報は、電圧計測装置132で計測して電圧電流計測(モニター)部124に格納される。上記した(数1)乃至(数5)または(数6)で求められるΔEは、この電圧電流計測(モニター)部124に格納された電位差に相当する。制御部127では、ΔEで表される酸素生成セル1の側の電極3と水素生成セル2の側の電極3との間の電位差が所定の値になったかを判定する(S507)。
【0089】
ΔEが所定の値になったと判定したら(S507でYes)、制御部127からの指令でスイッチ140を開いて酸素生成セル1の側の電極3と水素生成セル2の側の電極3と電気的に切断し、S501に戻る。
【0090】
一方、ΔEが所定の値になっていない判定したら(S507でNo)、S506に進んでから予め設定した一定の時間が経過したかを判定する(S508)。その結果、まだ予め設定した一定の時間が経過していないと判定した場合(S508でNo)には、S506及びS507のステップを継続する。
【0091】
一方、予め設定した一定の時間が経過したと判定した場合には(S508でYes)、水素製造・効率再生制御システム120の液交換指示表示部126で、酸素生成セル1と水素生成セル2の内部に収容されている電解液4とレドックス化合物5の交換を促して、処理を終了する。
【0092】
また、S504で、水素・酸素製造部110において照度から推定される量の水素が発生していないと判定した場合(S504でNo)、水素製造量・STH効率算出部122に格納された温度差印加機構付光化学反応装置111で発生させた水素ガス115の発生量の情報と、酸素製造量・STO効率算出部123に格納された温度差印加機構付光化学反応装置111で発生させた酸素ガス114の発生量の情報とに基づいて、温度差印加機構付光化学反応装置111で発生させた水素ガス115と酸素ガス114の割合が2:1になっているかを判定する。
【0093】
その結果、水素ガス115と酸素ガス114の割合が2:1になっていると判定した場合(S510でYes)には、S505に進んで光化学反応を継続する。
【0094】
一方、水素ガス115と酸素ガス114の割合が2:1になっていないと判定した場合(S510でNo)には、S506の進んで酸素生成セル1の内部及び水素生成セル2の内部における酸化体と還元体との濃度差を解消させるとともに、酸化体と還元体との濃度差を解消させる。それ以降の処理は、先に説明したものと同じであるので、説明を省略する。
【0095】
なお、図2及び図3に示した構成においては、板状に形成した可視光応答酸素生成光触媒8aと可視光応答水素生成光触媒9aとを用いた例を示したが、これらを、後述する実施例2において説明する可視光応答酸素生成光触媒粒子8b及び可視光応答水素生成光触媒粒子9bに置き換えてもよい。
【0096】
また、図2及び図3に示した構成では、酸素生成セル1と水素生成セル2との間をイオン選択透過隔膜7aだけで分離している構成を示したが、イオン選択透過隔膜7aと他の材料とを組み合わせて酸素生成セル1と水素生成セル2との間を分離することで、イオン選択透過隔膜7aの面積を減らすように構成してもよい。
【0097】
本実施例によれば、太陽光水分解で水素・酸素を製造する方法において、レドックス化合物の濃度分極を解消する手段を設けたことにより、水分解を続けていくと電極周辺のレドックス化合物の濃度に偏りが生じて水分解が進まなくなってしまうのを防止することができる。これにより、レドックス化合物を交換することなく比較的長い期間継続して使用することが可能になり、太陽光水分解で水素・酸素を製造することを毎日繰り返して実施することができる。
[変形例]
図2及び図3には、酸素生成セル1と水素生成セル2との間をイオン選択透過隔膜7a
で分離する構成を示したが、イオン選択透過隔膜7aを用いずに、樹脂などの絶縁物で分離壁を形成して、酸素生成セル1と水素生成セル2との間を分離するようにしてもよい。この場合、高温側熱源10及び低温側熱源11は用いすに、水分解を継続することにより生じるレドックス化合物の濃度分極が進行した状態の酸素生成セル801の側の液体と水素生成セル802の側の液体とを、半分ずつ入れ替えるようにしてもよい。
【実施例0098】
本発明の第2の実施例を、図6及び図7を用いて説明する。実施例1で説明したものと同じ構成については同じ番号を付して、その説明を省略する。
【0099】
図6及び図7に示した温度差印加機構付光化学反応装置111―1の構成は、実施例1で説明した図2及び図3で説明した温度差印加機構付光化学反応装置111に相当する。
【0100】
図6及び図7に示した温度差印加機構付光化学反応装置111―1の構成においては、実施例1で説明した図2及び図3で説明した温度差印加機構付光化学反応装置111の構成に対して、イオン選択透過隔膜7aを仕切板7bに、可視光応答酸素生成光触媒8aを可視光応答酸素生成光触媒粒子8bに、可視光応答水素生成光触媒9aを可視光応答水素生成光触媒粒子9bに置き換えた点が異なる。
【0101】
但し、実施例1において記載したように、可視光応答酸素生成光触媒粒子8bを実施例1で説明した板状に形成された可視光応答酸素生成光触媒8aと置き換え、可視光応答水素生成光触媒粒子9bを可視光応答水素生成光触媒9aと置き換えてもよい。
【0102】
実施例1においては、酸素生成セル1と水素生成セル2との間をイオン選択透過隔膜7aで完全に分離して2室であったのに対して、本実施例においては、酸素生成セル1-1と水素生成セル2-1との間が完全には分離されておらず、実質的には1室で構成されている点が異なる。
【0103】
本実施例における酸素生成セル1-1と水素生成セル2-1との間は、実施例1のイオン選択透過隔膜7aと比べて高さが低い仕切板7bで仕切られている。仕切板7bは、酸素生成セル1-1側の可視光応答酸素生成光触媒粒子8bと水素生成セル2-1側の可視光応答水素生成光触媒粒子9bとが混じらないように仕切る役割を持っている。
【0104】
高さが低い仕切板7bで仕切られていることにより、酸素生成セル1-1の上部と水素生成セル2-1の上部とには仕切がなく、酸素生成セル1-1に収容された電解液4とレドックス化合物5は、水素生成セル2-1に収容された電解液4とレドックス化合物5と混合される。
【0105】
図6に示した状態において、太陽光113を照射することにより酸素生成セル1-1で発生した酸素ガスと水素生成セル2-1で発生した水素ガスとは混合した状態で取り出されるが、この混合ガスを、図示していない水素ガスと酸素ガスとを分離するガス分離手段(例えば、水素分離膜など)により分離することで、酸素ガスと水素ガスとを分離して回収することができる。
【0106】
すなわち、本実施例のように、酸素生成セル1-1と水素生成セル2-1とが完全に分離されておらず、実質的には1室構成であっても、酸素ガスと水素ガスとを発生させ、それらを分離して回収することができる。
【0107】
このような構成において、図7に示すように、実施例1で図3を用いて説明したのと同じ方法で、太陽光が照射されていない時間帯(夜間)に、水素生成セル2―1側の電極3の温度を上昇させ酸素生成セル1-1の側の電極3の温度を低下させることにより温度差発電を発生させる。これにより水素生成セル2―1側では還元反応を発生させ、酸化体を還元体に変換して、太陽光113が照射されたことにより減少した水素生成セル2―1の内部のレドックスの割合を増加させる。また、酸素生成セル1-1の側では酸化反応を発生させ、還元体の割合を減少させて酸化体の割合を増加させて、太陽光113が照射されたことにより減少した酸素生成セル1-1の内部の酸化体の割合を増加させる。
【0108】
本実施例における操作手順は、実施例1において図5を用いて説明した手順と同じであるので、説明を省略する。
【0109】
本実施例においても、実施例1の場合と同様に、太陽光水分解で水素・酸素を製造する方法において、レドックス化合物の濃度分極を解消する手段を設けたことにより、水分解を続けていくと電極周辺のレドックス化合物の濃度に偏りが生じて水分解が進まなくなってしまうのを防止することができる。これにより、レドックス化合物を交換することなく比較的長い期間継続して使用することが可能になり、太陽光水分解で水素・酸素を製造することを毎日繰り返して実施することができる。
[変形例]
上記した実施例においては、高温側熱源10と低温側熱源11とを用いて酸素生成セル1-1の側の電極3と水素生成セル2―1側の電極3との間に温度差を設けることでレドックス加工物の濃度分極を解消する方法について記載したが、高温側熱源10と低温側熱源11とを用いずに、水分解を継続することにより生じるレドックス化合物の濃度分極が進んだ酸素生成セル1-1側の液体と水素生成セル2-1側の液体とをスクリューなどを用いて拡散させるようにしてもよい。
【実施例0110】
本発明の第3の実施例を、図8を用いて説明する。
【0111】
図8に示した構成は、実施例1で説明した図2で説明した温度差印加機構付光化学反応装置111に相当する。実施例1と異なるのは、可視光応答酸素生成光触媒と可視光応答水素生成光触媒の配置と、酸素生成セル及び水素生成セルに対する太陽光の入射方向である。使用する電解液やレドックス化合物は、実施例1の場合と同じである。
【0112】
図8に示した構成において、801は酸素生成セル、802は水素生成セル、803は分離壁、804は酸素生成セル801及び水素生成セル802の内部に供給された電解液、805は酸素生成セル801及び水素生成セル802の内部に供給されたレドックス化合物、807は陽イオン交換膜又は陰イオン交換膜で形成されたイオン選択透過隔膜、808は可視光応答酸素生成光触媒、809は可視光応答水素生成光触媒である。
【0113】
810は高温側熱源で内部に高温水を循環させる循環水パイプ(図示省略)が埋設されている。811は低温側熱源で内部に冷却水を循環させる循環水パイプ(図示省略)が埋設されている。
【0114】
813は酸素生成セル側電極で、透明導電性材料で形成されている。814は水素生成側電極で、透明導電性材料で形成されている。840はスイッチ、806はスイッチ840を介して酸素生成セル側電極813と水素生成側電極814とを接続する電線である。
【0115】
イオン選択透過隔膜807は、レドックス化合物805は透過しないが、対イオンは透過するイオン交換膜である。
【0116】
このように、酸素生成セル801と水素生成セル802との間を分離壁803とイオン選択透過隔膜807とで分離することにより、実施例1の場合と同様に、酸素生成セル801と水素生成セル802とにおいて、酸素ガスと水素ガスを分離して生成することができる。
【0117】
酸素生成セル801で生成された酸素ガス、および水素生成セル802で生成された水素は、夫々図示していない回収装置により回収される。
【0118】
このような構成において、図8に示したように、スイッチ840を開いた状態でhvで表されている太陽光113を両側から透明な酸素生成セル側電極813を通して酸素生成セル801の内部に照射すると、酸素生成セル801の内部では、可視光応答酸素生成光触媒808の表面近傍でレドックス化合物805による還元反応が起こり、酸素Oが発生する。この還元反応が進行することに伴い、酸素生成セル801の内部における還元体の濃度が上昇する。
【0119】
一方、hvで表されている太陽光113を透明な水素生成側電極814を通して水素生成セル802の内部に照射すると、水素生成セル802の内部では、可視光応答水素生成光触媒809の表面近傍でレドックス化合物5による酸化反応が起こり、水素Hが発生する。この酸化反応が進行することに伴い、水素生成セル802の内部における可視光応答水素生成光触媒809の表面近傍の酸化体の濃度が上昇する。
この時、高温側熱源810と低温側熱源811とは、室温の状態にある。
【0120】
一方、例えば夜間などの太陽光113が照射されていない状態では、実施例1において図3を用いて説明したのと同様に、スイッチ840を閉じて酸素生成セル側電極813と水素生成セル側電極823とを電気的に接続し、高温側熱源810の内部に高温水を循環させて水素生成セル802側を加熱し、低温側熱源811の内部に冷却水を循環させて酸素生成セル801側を冷却する。
【0121】
これにより、水素生成セル802側の水素生成セル側電極823の温度が上昇し、酸素生成セル801側の酸素生成セル側電極813の温度が加工する。この状態で、水素生成セル802の内部では還元反応が起こり、酸化体が還元体に変換される。これにより、太陽光113が照射されたことにより減少した水素生成セル802の内部のレドックス化合物の割合が増加する。その結果、水素生成セル802の内部では酸化体と還元体とがほぼ同じ割合で存在するようになる。
【0122】
一方、酸素生成セル801の内部では酸化反応が起こり、還元体の割合が減少して酸化体の割合が増加する。これにより、太陽光113が照射されたことにより減少した水素生成セル802の内部のレドックス化合物の割合が増加する。その結果、水素生成セル802の内部では酸化体と還元体とがほぼ同じ割合で存在するようになる。
【0123】
本実施例においても、実施例1の場合と同様に、太陽光水分解で水素・酸素を製造する方法において、レドックス化合物の濃度分極を解消する手段を設けたことにより、水分解を続けていくと電極周辺のレドックス化合物の濃度に偏りが生じて水分解が進まなくなってしまうのを防止することができる。これにより、レドックス化合物を交換することなく比較的長い期間継続して使用することが可能になり、太陽光水分解で水素・酸素を製造することを毎日繰り返して実施することができる。
[変形例]
図8には、酸素生成セル801と水素生成セル802との間を分離壁803とイオン選択透過隔膜807とで分離する構成を示したが、イオン選択透過隔膜807を用いずに、分離壁803だけで酸素生成セル801と水素生成セル802との間を分離して、水分解を継続することにより生じるレドックス化合物の濃度分極が進行した状態の酸素生成セル801の側の液体と水素生成セル802の側の液体とを、半分ずつ入れ替えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0124】
1、801 酸素生成セル
2、802 水素生成セル
3 電極
4,804 電解液
5,805 レドックス化合物
6,806 導線
7a,807 イオン選択透過隔膜
7b 仕切板
8a、808 可視光応答酸素生成光触媒
8b 可視光応答酸素生成光触媒粒子
9a、809 可視光応答水素生成光触媒
9b 可視光応答水素生成光触媒粒子
10,810 高温側熱源
11,811 低温側熱源
100 光化学反応システム
110 水素・酸素製造部
111 温度差印加機構付光化学反応装置
120 水素製造・効率再生制御システム
121 照度・天候情報取得部
122 水素製造量・STH効率算出部
123 酸素製造量・STO効率算出部
124 電圧電流計測(モニター)部
125 温度差印加部
126 液交換指示表示部
127 制御部
130 温度差印加機構部
131 温度差印加装置
132 電圧計測装置
140 スイッチ
813 酸素生成セル側電極
823 水素生成セル側電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8