IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162543
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】車両状態模擬装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/06 20060101AFI20231101BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20231101BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
G01M17/06
B62D5/04
B62D6/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072917
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】椿 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】小磯 貴之
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC03
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA15
3D232DA23
3D232DD02
3D232DD10
3D232DD17
3D232EA01
3D232EB12
3D232EC23
3D232EC37
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB15
3D333CB29
3D333CE02
3D333CE07
(57)【要約】
【課題】実走行により近いシミュレーションを実現することができる車両状態模擬装置を提供すること。
【解決手段】車両状態模擬装置300は、車両モデルのピニオンラック機構44に付与するラックフォースを生成するラックフォース生成部330と、ピニオンラック機構44の軸方向変位DPに基づき、ラックフォースの目標値であるラックフォース目標値RF_refを生成するラックフォース目標値生成部310と、ラックフォース目標値RF_refに基づき、ラックフォース生成部330のラックフォース生成用モータに供給する電流の目標値であるモータ電流指令値Ir_refを生成するラックフォース制御部320と、を備える。ラックフォース制御部320は、ピニオンラック機構44に付与する実ラックフォースRF_actがラックフォース目標値RF_refに追従するように、モータ電流指令値Ir_refを制御する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両モデルのシミュレーション評価に用いる車両状態模擬装置であって、
前記車両モデルのピニオンラック機構に付与するラックフォースを生成するラックフォース生成部と、
前記ピニオンラック機構の軸方向変位に基づき、前記ラックフォースの目標値であるラックフォース目標値を生成するラックフォース目標値生成部と、
前記ラックフォース目標値に基づき、前記ラックフォース生成部のラックフォース生成用モータに供給する電流の目標値であるモータ電流指令値を生成するラックフォース制御部と、
を備え、
前記ラックフォース制御部は、
前記ピニオンラック機構に付与するラックフォースが前記ラックフォース目標値に追従するように、前記モータ電流指令値を制御する、
車両状態模擬装置。
【請求項2】
前記ラックフォース目標値生成部は、前記ピニオンラック機構の軸方向変位の増加に伴い、前記ラックフォース目標値を増加させる、
請求項1に記載の車両状態模擬装置。
【請求項3】
前記ラックフォース目標値生成部は、シミュレーション評価における前記車両モデルの模擬車速の増加に伴い、前記ラックフォース目標値を増加させる、
請求項1又は2に記載の車両状態模擬装置。
【請求項4】
前記ラックフォース目標値生成部は、シミュレーション評価において前記車両モデルを模擬走行させる路面の摩擦抵抗の増加に伴い、前記ラックフォース目標値を増加させる、
請求項1から3の何れか一項に記載の車両状態模擬装置。
【請求項5】
前記ラックフォース制御部は、シミュレーション評価において前記車両モデルを模擬走行させる路面の状況を模擬した路面状況模擬成分を前記ラックフォース目標値に加算する、
請求項1から4の何れか一項に記載の車両状態模擬装置。
【請求項6】
前記ラックフォース生成部は、弾性体を介して前記ピニオンラック機構にラックフォースを付与する、
請求項1から5の何れか一項に記載の車両状態模擬装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両状態模擬装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用操向システムの1つとして、運転者が操作するハンドルを有する操舵機構(FFA:Force Feedback Actuator)と、転舵輪を転舵する転舵機構(RWA:Road Wheel Actuator)とが機械的に分離されているステアバイワイヤ(SBW:Steer By Wire)システムがある。SBWシステムでは、操舵機構と転舵機構とが制御装置(ECU:Electronic Control Unit)を介して電気的に接続され、ハンドルの操作を電気信号によって転舵機構に伝えて転舵輪を転舵すると共に、運転者に適切な操舵感を与えるための操舵反力を操舵機構で生成する。操舵機構は、反力用モータを備える反力アクチュエータにより操舵反力を生成し、転舵機構は、転舵用モータを備える転舵アクチュエータにより転舵輪を転舵する。反力アクチュエータとハンドルとは、コラム軸を介して機械的に接続されており、反力アクチュエータが生成した反力(トルク)が、コラム軸とハンドルを介して運転者に伝達される。
【0003】
操舵機構と転舵機構とが機械的に分離されているSBWシステムでは、例えば、凍結路面や、雨天時のハイドロプレーニング現象等によって路面の摩擦抵抗が著しく減少した低μ路を走行する際のオーバーステア状態やアンダーステア状態を、適切に操舵反力として反力装置に伝達するために、車両の挙動特性を客観的に評価する必要がある。下記特許文献1では、車両モデルをシミュレーション走行させ、車両モデルの挙動に基づく操舵反力をラック&ピニオンに付与し、ドライバに実走行に近いハンドルフィーリングを与える評価システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-212706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、仮想車両の速度等の挙動がシミュレーションコンピュータによって算出され、算出結果に応じてアクチュエータが駆動される。しかしながら、アクチュエータによってラック&ピニオンに付与された実際の操舵反力がシミュレーションコンピュータによって与えられた指令値と乖離した場合、適切なシミュレーション結果が得られない可能性がある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、実走行により近いシミュレーションを実現することができる車両状態模擬装置を提供すること、を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の一態様に係る車両状態模擬装置は、車両モデルのシミュレーション評価に用いる車両状態模擬装置であって、前記車両モデルのピニオンラック機構に付与するラックフォースを生成するラックフォース生成部と、前記ピニオンラック機構の軸方向変位に基づき、前記ラックフォースの目標値であるラックフォース目標値を生成するラックフォース目標値生成部と、前記ラックフォース目標値に基づき、前記ラックフォース生成部のラックフォース生成用モータに供給する電流の目標値であるモータ電流指令値を生成するラックフォース制御部と、を備え、前記ラックフォース制御部は、前記ピニオンラック機構に付与するラックフォースが前記ラックフォース目標値に追従するように、前記モータ電流指令値を制御する。
【0008】
上記構成によれば、ラックフォース目標値に追従した実ラックフォースを評価対象となる車両モデルに付与することができ、実走行により近いシミュレーションを実現することができる。
【0009】
車両状態模擬装置の望ましい態様として、前記ラックフォース目標値生成部は、前記ピニオンラック機構の軸方向変位の増加に伴い、前記ラックフォース目標値を増加させることが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、ピニオンラック機構の軸方向変位の増加に応じたラックフォースをピニオンラック機構に付与することができる。
【0011】
車両状態模擬装置の望ましい態様として、前記ラックフォース目標値生成部は、シミュレーション評価における前記車両モデルの模擬車速の増加に伴い、前記ラックフォース目標値を増加させることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、ピニオンラック機構に車両モデルの模擬車速に応じたラックフォースを付与することができる。これにより、車両の走行時における挙動によって路面から受ける反力を模擬した評価をシミュレーションにより実現することができる。
【0013】
車両状態模擬装置の望ましい態様として、前記ラックフォース目標値生成部は、シミュレーション評価において前記車両モデルを模擬走行させる路面の摩擦抵抗の増加に伴い、前記ラックフォース目標値を増加させることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、ピニオンラック機構に車両モデルを模擬走行させる路面の摩擦抵抗に応じたラックフォースを付与することができる。これにより、路面の摩擦抵抗を模擬した評価をシミュレーションにより実現することができる。
【0015】
車両状態模擬装置の望ましい態様として、前記ラックフォース制御部は、シミュレーション評価において前記車両モデルを模擬走行させる路面の状況を模擬した路面状況模擬成分を前記ラックフォース目標値に加算することが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、実ラックフォースをラックフォース目標値と路面状況模擬成分とを加算した値に追従させる制御を行うことができる。これにより、実際の路面状況を模したラックフォースをピニオンラック機構に付与することができ、実際の路面状況を模擬した評価をシミュレーションにより実現することができる。
【0017】
車両状態模擬装置の望ましい態様として、前記ラックフォース生成部は、弾性体を介して前記ピニオンラック機構にラックフォースを付与することが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、シミュレーション評価における各評価項目での周波数成分よりも高い評価帯域外振動成分を抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ラックフォース目標値に追従した実ラックフォースを評価対象となる車両モデルに付与することができるため、実走行により近いシミュレーションを実現することができる車両状態模擬装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本開示に係る車両状態模擬装置の評価対象であるSBWシステムの概略構成の一例を示す図である。
図2図2は、ECUのハードウェア構成を示す模式図である。
図3図3は、SBWシステムの制御装置の制御ブロック構成の一例を示す図である。
図4図4は、実施形態1に係る車両状態模擬装置を適用した評価システムの一例を示す概念図である。
図5図5は、実施形態1に係るラックフォース目標値生成部の構成例を示すブロック図である。
図6A図6Aは、実施形態1に係るラックフォースマップの特性例を示す線図である。
図6B図6Bは、実施形態1に係るラックフォース目標値RF_refの特性例を示す線図である。
図7図7は、実施形態1に係るラックフォース制御部の構成例を示すブロック図である。
図8図8は、ラックフォース生成部の構成例を示すブロック図である。
図9A図9Aは、ピニオンラック機構の軸方向変位とラックフォースとの時間変化の一例を示す図である。
図9B図9Bは、ピニオンラック機構の軸方向変位とラックフォースとの時間変化の一例を示す図である。
図10図10は、実施形態1の変形例に係るラックフォース目標値生成部の構成例を示すブロック図である。
図11図11は、実施形態2に係る車両状態模擬装置を適用した評価システムの一例を示す概念図である。
図12図12は、実施形態2に係るラックフォース目標値生成部の構成例を示すブロック図である。
図13A図13Aは、実施形態2に係るラックフォースマップの特性例を示す線図である。
図13B図13Bは、実施形態2に係るラックフォース目標値RF_refの特性例を示す線図である。
図14図14は、実施形態2の変形例に係るラックフォース目標値生成部の構成例を示すブロック図である。
図15図15は、実施形態3に係る車両状態模擬装置を適用した評価システムの一例を示す概念図である。
図16図16は、実施形態3に係るラックフォース制御部の構成例を示すブロック図である。
図17A図17Aは、ラックフォース目標値に加える路面状況模擬成分の時間変化の一例を示す図である。
図17B図17Bは、ラックフォース目標値に加える路面状況模擬成分の時間変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施形態という)につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0022】
(実施形態1)
図1は、本開示に係る車両状態模擬装置の評価対象であるSBWシステムの概略構成の一例を示す図である。SBWシステムは、運転者が操作するハンドルを有する操舵機構を構成する反力装置30、転舵輪を転舵する転舵機構を構成する転舵装置40、及び両装置の制御を行う制御装置50を備える。
【0023】
SBWシステムには、一般的な電動パワーステアリング装置が備える、コラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2と機械的に結合されるインターミディエイトシャフトがなく、運転者によるハンドル1の操作を電気信号によって、具体的には、反力装置30から出力される操舵角θhを電気信号として伝える。
【0024】
反力装置30は、反力用モータ31及び反力用モータ31の回転速度を減速する減速機構32を備える。反力装置30は、転舵輪5L,5Rから伝わる車両の運動状態を操舵反力として運転者に伝達する。反力用モータ31は、減速機構32を介して、操舵反力をハンドル1に付与する。
【0025】
反力装置30は、舵角センサ33及びトルクセンサ34を更に備えている。舵角センサ33は、ハンドル1の操舵角θhを検出する。トルクセンサ34は、ハンドル1の操舵トルクThを検出する。以下、舵角センサ33によって検出される操舵角θhを、「実操舵角θh_act」とも称し、トルクセンサ34によって検出される操舵トルクThを、「実操舵トルクTh_act」とも称する。
【0026】
本開示において、コラム軸2には、操舵可能な限界となる操舵終端を物理的に設定するストッパ(回転制限機構)35が設けられている。すなわち、操舵角θhの大きさ(絶対値)は、ストッパ35によって制限される。
【0027】
転舵装置40は、転舵用モータ41、転舵用モータ41の回転速度を減速する減速機構42、及び転舵用モータ41の回転運動を直線運動に変換するピニオンラック機構44を備える。転舵装置40は、操舵角θhに応じて転舵用モータ41を駆動し、その駆動力を、減速機構42を介してピニオンラック機構44に付与し、タイロッド3a,3bを経て、転舵輪5L,5Rを転舵する。ピニオンラック機構44の近傍には角度センサ43が配置されており、転舵輪5L,5Rの転舵角θtを検出する。転舵輪5L,5Rの転舵角θtに代えて、例えば、転舵用モータ41のモータ角、あるいは、ラックの位置等を検出し、当該検出値を用いる態様であっても良い。以下、角度センサ43によって検出される転舵角θtを、「実転舵角θt_act」とも称する。
【0028】
制御装置50は、反力装置30及び転舵装置40を協調制御するために、両装置から出力される操舵角θhや転舵角θt等の情報に加え、車速センサ10で検出される車速Vs等を基に、反力用モータ31を駆動制御するための電圧制御指令値Vref1及び転舵用モータ41を駆動制御するための電圧制御指令値Vref2を生成する。
【0029】
制御装置50には、バッテリ12から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。また、制御装置50には、車両の各種情報を授受するCAN(Controller Area Network)20が接続されており、車速VsはCAN20から受信することも可能である。更に、制御装置50には、CAN20以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN21も接続可能である。
【0030】
具体的に、制御装置50は、例えば、車両に搭載されるECU(Electronic Control Unit)である。ECUは、主としてCPU(MCU、MPU等も含む)で構成される。図2は、ECUのハードウェア構成を示す模式図である。図2に示すように、制御装置50は、制御用コンピュータ(Electronic Control Unit、以下、「ECU」とも称する)110を含む。
【0031】
ECU110は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)104等を備え、これらがバス105に接続されている。CPU101は、ROM102に格納された制御プログラムを実行する。反力装置30及び転舵装置40は、主としてECU110が実行する制御プログラムにより協調制御される。なお、制御装置50は、1つのECUで構成される態様であっても良いし、反力装置30を制御する反力制御用ECUと転舵装置40を制御する転舵制御用ECUとを含む構成であっても良い。
【0032】
ROM102は、制御プログラム及び制御プログラムを実施する際に使用する制御データを記憶するためのメモリとして使用される。また、RAM103は、制御プログラムを動作させるためのワークメモリとして使用される。
【0033】
EEPROM104は、電源遮断後においても記憶内容を保持可能な不揮発性メモリであり、CPU101が制御プログラムを実行するために使用する制御データ等が格納される。EEPROM104に格納された各種データは、ECU110に電源が投入された後にRAM103に展開された制御プログラム上で使用され、所定のタイミングでEEPROM104に上書きされる。なお、ここでは、不揮発性メモリとしてEEPROMを使用することとしたが、本発明はこれに限られるものではなく、FLASH-ROM(登録商標)、SDRAM等の他の不揮発性メモリを使用することにしてもよい。
【0034】
図3は、SBWシステムの制御装置の制御ブロック構成の一例を示す図である。図3において、反力装置30は、反力用モータ31及び上述した構成に加え、PWM(パルス幅変調)制御部37、インバータ38、及びモータ電流検出器39を含む。また、転舵装置40は、転舵用モータ41及び上述した構成に加え、PWM制御部47、インバータ48、及びモータ電流検出器49を含む。制御装置50は、反力装置30の制御を行う反力制御系60、及び、転舵装置40の制御を行う転舵制御系70の各制御ブロックを実現する。反力制御系60と転舵制御系70とが協調して、反力装置30及び転舵装置40を制御する。なお、制御装置50が反力制御用ECUと転舵制御用ECUとを含む構成である場合、反力制御系60を反力制御用ECUにより実現し、転舵制御系70を転舵制御用ECUにより実現する態様であっても良い。この場合、以下の説明における反力制御系60を反力制御用ECUと読み替え、転舵制御系70を転舵制御用ECUと読み替えれば良い。
【0035】
反力制御系60における各制御ブロックは、ECU110において実行される反力制御プログラムによって実現される。また、転舵制御系70における各制御ブロックは、ECU110において実行される転舵制御プログラムによって実現される。なお、制御装置50の各制御ブロックの一部又は全部をハードウェアで実現しても良い。また、制御装置50がPWM制御部37、インバータ38、モータ電流検出器39、PWM制御部47、インバータ48、及びモータ電流検出器49を具備した態様であっても良い。
【0036】
図3に示すように、制御装置50は、各制御ブロックとして、操舵トルク目標値生成部200、路面反力適応トルク補償値生成部220、操舵トルク制御部400、電流制御部500、転舵角目標値生成部600、転舵角制御部700、及び電流制御部800を備えている。操舵トルク目標値生成部200、路面反力適応トルク補償値生成部220、操舵トルク制御部400、及び電流制御部500は、反力制御系60を構成する制御ブロックである。転舵角目標値生成部600、転舵角制御部700、及び電流制御部800は、転舵制御系70を構成する制御ブロックである。
【0037】
反力制御系60は、トルクセンサ34によって検出される実操舵トルクTh_actが反力装置30の操舵トルクの目標値である操舵トルク目標値Th_refに追従するような制御を行う。
【0038】
操舵トルク目標値生成部200は、操舵トルク目標値Th_refを生成する。
【0039】
操舵トルク制御部400は、反力用モータ31を駆動するための反力モータ電流指令値Ih_refを生成する。操舵トルク制御部400では、操舵トルク目標値Th_refと実操舵トルクTh_actとの偏差Th_errがゼロに近づくような電流指令値を生成し、当該電流指令値の上下限値を出力制限部により出力制限して、反力モータ電流指令値Ih_refを演算する。
【0040】
電流制御部500は、反力用モータ31の電流制御を行う。電流制御部500は、操舵トルク制御部400から出力される反力モータ電流指令値Ih_refとモータ電流検出器39で検出される反力用モータ31の実電流値(モータ電流値)Ih_actとの偏差Ih_errがゼロに近づくような電圧制御指令値Vh_refを演算する。
【0041】
反力装置30では、電圧制御指令値Vh_refに基づいて、PWM制御部37及びインバータ38を介して反力用モータ31が駆動制御される。
【0042】
転舵制御系70は、角度センサ43によって検出される実転舵角θt_actが転舵角目標値θt_refに追従するような制御を行う。
【0043】
転舵角目標値生成部600は、操舵角θhに基づき転舵角目標値θt_refを生成する。
【0044】
転舵角制御部700は、転舵用モータ41を駆動するための転舵モータ電流指令値It_refを生成する。具体的に、転舵角制御部700では、転舵角目標値θt_refと実転舵角θt_actとの偏差θt_errがゼロに近づくような転舵モータ電流指令値It_refを演算する。
【0045】
電流制御部800は、転舵用モータ41の電流制御を行う。電流制御部800は、転舵角制御部700から出力される転舵モータ電流指令値It_refとモータ電流検出器49で検出される転舵用モータ41の実電流値(モータ電流値)It_actとの偏差It_errがゼロに近づくような電圧制御指令値Vt_refを演算する。
【0046】
転舵装置40では、電圧制御指令値Vt_refに基づいて、PWM制御部47及びインバータ48を介して転舵用モータ41が駆動制御される。
【0047】
本実施形態において、操舵トルク制御部400、電流制御部500、転舵角目標値生成部600、転舵角制御部700、及び電流制御部800は、それぞれ反力制御系60又は転舵制御系70における各制御を実現可能な構成であれば良く、これら各制御ブロックの構成により限定されない。
【0048】
以下、上述したSBWシステムのような車両モデルにおいて、例えば反力装置30と転舵装置40との協調制御の妥当性評価等のシミュレーション評価を行うための車両状態模擬装置について説明する。
【0049】
(実施形態1)
図4は、実施形態1に係る車両状態模擬装置を適用した評価システムの一例を示す概念図である。なお、本開示における車両モデルのシミュレーション評価としては、例えば、図1に示したSBWシステムにおける反力装置30と転舵装置40との協調制御の妥当性評価における操舵フィーリングや転舵角目標値に対する実転舵角の追従性等を含む。
【0050】
本実施形態に係る車両状態模擬装置300は、車両の挙動によって路面から受ける反力を模擬し、タイロッドを介してピニオンラック機構44に付与するための装置である。以下、車両状態模擬装置300によってピニオンラック機構44に付与する力を「ラックフォース」とも称する。
【0051】
図4に示すように、本実施形態に係る車両状態模擬装置300は、主要な構成部として、ラックフォース目標値生成部310、ラックフォース制御部320、及びラックフォース生成部330を備える。
【0052】
車両状態模擬装置300は、連結部材301を介してSBWシステム等の車両モデルに接続され、タイロッド3b(3a)を介してピニオンラック機構44にラックフォースを付与する。連結部材301を、例えばコイルバネのような弾性体で構成することで、本開示のシミュレーション評価における各評価項目での周波数成分よりも高い評価帯域外振動成分を抑制することができる。なお、図4では、タイロッド3bの端部に連結部材301を介してラックフォース生成部330が機械的に接続され、ピニオンラック機構44の一方端にラックフォースが付与される例を示したが、タイロッド3aの端部にラックフォース生成部330が接続される態様であっても良いし、ピニオンラック機構44の両端からラックフォースが付与される態様であっても良い。
【0053】
車両状態模擬装置300は、変位センサ302及び荷重センサ303を更に備えている。荷重センサ303は、ピニオンラック機構44に付与される軸方向のラックフォースRF_actを検出する。以下、荷重センサ303によって検出される軸方向のラックフォースRF_actを、「実ラックフォースRF_act」とも称する。変位センサ302は、実ラックフォースRF_actによるピニオンラック機構44の軸方向変位DPを検出する。本開示では、図4に示す軸方向左向きのラックフォースRF_actを正値(+)、軸方向右向きのラックフォースRF_actを負値(-)とする。また、本開示では、図4に示す左向きの軸方向変位DPを正値(+)、右向きの軸方向変位DPを負値(-)とする。
【0054】
本実施形態において、車両状態模擬装置300には、評価対象となる車両モデルの模擬車速Vs_simが入力される。模擬車速Vs_simは、例えばPC等のコンピュータで構成される模擬状態制御装置350において所定のシミュレーション評価プログラムが実行されることにより出力される。
【0055】
まず、本実施形態に係るラックフォース目標値生成部310について、図5図6A及び図6Bを参照して説明する。図5は、実施形態1に係るラックフォース目標値生成部の構成例を示すブロック図である。
【0056】
本開示において、図5に示す符号抽出部313は、軸方向変位DPの符号を抽出する。具体的には、例えば、軸方向変位DPの値を、軸方向変位DPの絶対値で除算する。これにより、符号抽出部313は、軸方向変位DPの符号が「+」の場合には「1」を出力し、軸方向変位DPの符号が「-」の場合には「-1」を出力する。具体的に、符号抽出部313は、例えば軸方向変位DPの符号関数Sgn(DP)を生成する。
【0057】
図6Aは、実施形態1に係るラックフォースマップの特性例を示す線図である。ラックフォースマップ部311には、絶対値演算部312において絶対値処理された軸方向変位|DP|及び模擬車速Vs_simが入力される。ラックフォース目標値生成部310は、図6Aに示すラックフォースマップを用いて、模擬車速Vs_simをパラメータとするラックフォース目標値|RF_ref|を生成する。
【0058】
ラックフォース目標値|RF_ref|は、軸方向変位|DP|に応じて増減する変位感応型の特性を有している。より具体的に、ラックフォース目標値|RF_ref|は、図6Aに示すように、軸方向変位|DP|が増加するに従い増加する。また、ラックフォース目標値|RF_ref|は、模擬車速Vs_simに応じて増減する車速感応型の特性を有している。より具体的に、ラックフォース目標値|RF_ref|は、図6Aに示すように、模擬車速Vs_simが増加するに従い増加する。つまり、図6Aに示すラックフォースマップによって導出されるラックフォース目標値|RF_ref|によって得られるラックフォースは、軸方向変位|DP|が大きいほど大きくなり、また模擬車速Vs_simが速いほど大きくなる。
【0059】
図6Bは、実施形態1に係るラックフォース目標値RF_refの特性例を示す線図である。ラックフォースマップ部311から出力されるラックフォース目標値|RF_ref|に対し、符号抽出部313から出力される符号関数Sgn(DP)を乗算部314にて乗じることで、図6Bに示すラックフォース目標値RF_refが得られる。なお、符号抽出部313を有さない構成とし、図6Bに示されるように、正負の軸方向変位DPに応じたラックフォースマップを用いてラックフォース目標値RF_refを得る態様としても良い。なお、図6A又は図6Bに示すラックフォースマップは、予め評価対象となる車両モデルの実走行時に取得したデータを用いて作成することができる。
【0060】
次に、本実施形態に係るラックフォース制御部320について、図7を参照して説明する。図7は、実施形態1に係るラックフォース制御部の構成例を示すブロック図である。
【0061】
図7に示すように、本実施形態に係るラックフォース制御部320は、入力制限部321、変化率制限部322、FF(フィードフォワード)補償部323、PID制御部324、出力制限部325、及び加算部326を備える。
【0062】
入力制限部321は、ラックフォース目標値生成部310から出力されるラックフォース目標値RF_refの上下限値を制限するための構成部である。入力制限部321は、ラックフォース目標値RF_refに対する上限値及び下限値が予め設定されている。
【0063】
変化率制限部322は、ラックフォース目標値RF_refの変化率を制限するための構成部である。変化率制限部322は、ラックフォース目標値RF_refに対する変化率の上限値が予め設定されている。
【0064】
入力制限部321及び変化率制限部322により、後段のPID制御部に異常値や不連続値が入力されることを防ぐことができる。なお、上述した入力制限部321及び変化率制限部322は、必ずしも必要な構成部ではなく、例えば、入力制限部321及び変化率制限部322の何れか一方あるいは双方を具備しない態様であっても良い。
【0065】
FF補償部323は、ラックフォース目標値RF_refに対する実ラックフォースRF_actの追従性向上のためのフィルタ(FFフィルタ)で構成される。FF補償部123は、ラックフォース目標値RF_refに対してフィルタ処理を行う。具体的には、例えば1次遅れ又は2次遅れの伝達関数を有するLPFを使用し、そのLPFによるフィルタ処理により生じる時間遅れがラックフォース目標値RF_refに対する実ラックフォースRF_actの追従遅れと同等となるようにLPFを設計する。なお、FF補償部323は必ずしも必要な構成部ではなく、FF補償部323を具備しない態様であっても良い。
【0066】
PID制御部324は、加算部326の演算結果であるラックフォース目標値RF_refと実ラックフォースRF_actとの偏差RF_err(=RF_ref-RF_act)がゼロに近づくようにPID制御を行う。具体的に、PID制御部324は、実ラックフォースRF_actがラックフォース目標値RF_refに追従するような電流指令値Ir_ref0を生成する。
【0067】
出力制限部325は、PID制御部324の出力値である電流指令値Ir_ref0に対して出力制限処理を行い、モータ電流指令値Ir_refを出力する。出力制限部325は、電流指令値Ir_ref0に対する上限値及び下限値が予め設定されている。出力制限部325は、電流指令値Ir_ref0の上下限値を制限して、モータ電流指令値Ir_refを出力する。
【0068】
次に、ラックフォース生成部330について、図8を参照して説明する。図8は、ラックフォース生成部の構成例を示すブロック図である。
【0069】
ラックフォース生成部330は、電流制御部331及び直動装置332を備える。
【0070】
直動装置332は、ラックフォース制御部320から出力されるモータ電流指令値Ir_refに追従した直動運動を行うサーボアクチュエータである。具体的に、直動装置332の機構的な構成としては、例えば、ボールネジやピニオンギヤとモータとの組み合わせや、油圧シリンダとモータとの組み合わせ、リニアモータ等が例示される。直動装置332の機構的な構成により本開示が限定されるものではない。
【0071】
電流制御部331は、RF(ラックフォース)生成用モータ335の電流制御を行う。電流制御部331は、ラックフォース制御部320から出力されるモータ電流指令値Ir_refとモータ電流検出器336で検出されるRF生成用モータ335の実電流値(モータ電流値)Ir_actとの偏差Ir_errがゼロに近づくような電圧制御指令値Vr_refを演算する。
【0072】
直動装置332では、電圧制御指令値Vr_refに基づいて、PWM制御部333及びインバータ334を介してRF生成用モータ335が駆動制御される。
【0073】
図9A及び図9Bは、ピニオンラック機構の軸方向変位とラックフォースとの時間変化の一例を示す図である。図9Aは、軸方向変位DPの時間変化を示し、図9Bは、ラックフォースの時間変化を示している。図9Bに示す実線は実ラックフォースRF_actを示し、破線はラックフォース目標値を示している。
【0074】
本開示では、ラックフォース目標値生成部310において、図9Aに示す軸方向変位DPの変化に応じて、図9Bに破線で示すラックフォース目標値RF_refを生成し、ラックフォース制御部320において、実ラックフォースRF_actをラックフォース目標値RF_refに追従させる制御を行う。これにより、図9Bに実線で示すように、ラックフォース目標値RF_refに追従した実ラックフォースRF_actを評価対象となる車両モデルに付与することができ、実走行により近いシミュレーションを実現することができる。
【0075】
また、本実施形態では、ラックフォース目標値生成部310において、模擬車速Vs_simに応じたラックフォース目標値RF_refを生成し、ラックフォース制御部120における追従制御によって、車速に応じたラックフォースをピニオンラック機構44に付与することができる。これにより、車両の走行時における挙動によって路面から受ける反力を模擬した評価をシミュレーションにより実現することができる。
【0076】
(変形例)
図10は、実施形態1の変形例に係るラックフォース目標値生成部の構成例を示すブロック図である。実施形態1の変形例では、車両の動力学特性を反映することにより、図5に示す実施形態1の構成よりも実際の車両の運動に近い特性が得られるようにしている。
【0077】
図10に示す実施形態1の変形例に係るラックフォース目標値生成部310_1において、車両運動モデル315は、軸方向変位DP及び模擬車速Vs_simに基づき、車両の動力学特性を反映したタイヤの横滑り角βfを演算する。
【0078】
ラックフォースマップ部311_1には、車両運動モデル315において演算されたタイヤの横滑り角βfが入力される。ラックフォース目標値生成部310_1は、図10に示すラックフォースマップを用いて、タイヤの横滑り角βfをパラメータとするセルフアライニングトルクSATを生成する。
【0079】
変換部316は、ラックフォースマップ部311_1において生成されたセルフアライニングトルクSATをラックフォース目標値RF_refに変換する。
【0080】
上述した実施形態1の変形例に係るラックフォース目標値生成部310_1の構成により、実施形態1よりも実際の車両の運動に近い特性が得られる。
【0081】
(実施形態2)
以下、実施形態2に係る車両状態模擬装置について説明する。図11は、実施形態2に係る車両状態模擬装置を適用した評価システムの一例を示す概念図である。図12は、実施形態2に係るラックフォース目標値生成部の構成例を示すブロック図である。
【0082】
本実施形態に係る車両状態模擬装置300aは、車両の挙動によって路面から受ける反力に加え、路面の摩擦抵抗をシミュレーションし、タイロッドを介してピニオンラック機構44に付与する。図11に示すように、本実施形態に係る車両状態模擬装置300aには、評価対象となる車両モデルの模擬車速Vs_simに加え、シミュレーション評価において車両モデルを模擬走行させる路面の摩擦抵抗の大きさを示す模擬路面摩擦係数μ_simが入力される。模擬路面摩擦係数μ_simは、模擬車速Vs_simと同様に、例えば、模擬状態制御装置350において所定のシミュレーション評価プログラムが実行されることにより出力される。
【0083】
図13Aは、実施形態2に係るラックフォースマップの特性例を示す線図である。ラックフォース目標値生成部310aのラックフォースマップ部311aには、絶対値演算部312において絶対値処理された軸方向変位|DP|、模擬車速Vs_simに加え、模擬路面摩擦係数μ_simが入力される。ラックフォース目標値生成部310aは、図13Aに示すラックフォースマップを用いて、模擬車速Vs_sim及び模擬路面摩擦係数μ_simをパラメータとするラックフォース目標値|RF_ref|を生成する。
【0084】
本実施形態において、ラックフォース目標値|RF_ref|は、実施形態1における変位感応型の特性及び速度感応型の特性に加え、模擬路面摩擦係数μ_simに応じて増減する特性をさらに有している。より具体的に、ラックフォース目標値|RF_ref|は、図13Aに示すように、模擬路面摩擦係数μ_simが増加するに従い増加する。つまり、図13Aに示すラックフォースマップによって導出されるラックフォース目標値|RF_ref|によって得られるラックフォースは、軸方向変位|DP|が大きいほど大きくなり、また模擬車速Vs_simが速いほど大きくなり、模擬路面摩擦係数μ_simが大きいほど大きくなる。
【0085】
図13Bは、実施形態2に係るラックフォース目標値RF_refの特性例を示す線図である。ラックフォースマップ部311aから出力されるラックフォース目標値|RF_ref|に対し、符号抽出部313から出力される符号関数Sgn(DP)を乗算部314にて乗じることで、図13Bに示すラックフォース目標値RF_refが得られる。なお、符号抽出部313を有さない構成とし、図13Bに示されるように、正負の軸方向変位DPに応じたラックフォースマップを用いてラックフォース目標値RF_refを得る態様としても良い。
【0086】
上述したように、本実施形態では、ラックフォース目標値生成部310aにおいて、模擬路面摩擦係数μ_simに応じたラックフォース目標値RF_refを生成し、ラックフォース制御部320における追従制御によって、路面の摩擦抵抗に応じたラックフォースをピニオンラック機構44に付与することができる。これにより、車両の走行時における挙動によって路面から受ける反力に加え、路面の摩擦抵抗を模擬した評価をシミュレーションにより実現することができる。
【0087】
(変形例)
図14は、実施形態2の変形例に係るラックフォース目標値生成部の構成例を示すブロック図である。実施形態2の変形例では、実施形態1の変形例と同様に、車両の動力学特性を反映することにより、図11に示す実施形態2の構成よりも実際の車両の運動に近い特性が得られるようにしている。
【0088】
図14に示す実施形態2の変形例に係るラックフォース目標値生成部310a_1のラックフォースマップ部311a_1には、車両運動モデル315において演算されたタイヤの横滑り角βfに加え、模擬路面摩擦係数μ_simが入力される。ラックフォース目標値生成部310a_1は、図14に示すラックフォースマップを用いて、タイヤの横滑り角βf及び模擬路面摩擦係数μ_simをパラメータとするセルフアライニングトルクSATを生成する。
【0089】
実施形態2の変形例において、セルフアライニングトルクSATは、模擬路面摩擦係数μ_simに応じて増減する特性を有している。より具体的に、セルフアライニングトルクSATは、図14に示すように、模擬路面摩擦係数μ_simが増加するに従い増加する。つまり、図14に示すラックフォースマップによって生成されるセルフアライニングトルクSATを変換部316により変換して得られるラックフォース目標値RF_refは、模擬路面摩擦係数μ_simが大きいほど大きくなる。
【0090】
上述した実施形態2の変形例に係るラックフォース目標値生成部310a_1の構成により、実施形態2よりも実際の車両の運動に近い特性が得られる。
【0091】
(実施形態3)
以下、実施形態3に係る車両状態模擬装置について説明する。図15は、実施形態3に係る車両状態模擬装置を適用した評価システムの一例を示す概念図である。図16は、実施形態3に係るラックフォース制御部の構成例を示すブロック図である。
【0092】
本実施形態に係る車両状態模擬装置300bは、車両が走行する路面のより詳細な状況をシミュレーションし、タイロッドを介してピニオンラック機構44に付与する。図15に示すように、本実施形態に係る車両状態模擬装置300bには、シミュレーション評価において車両モデルを模擬走行させる路面の状況を模擬した路面状況模擬成分RF_simが入力される。路面状況模擬成分RF_simは、模擬車速Vs_sim及び模擬路面摩擦係数μ_simと同様に、例えば、模擬状態制御装置350において所定のシミュレーション評価プログラムが実行されることにより出力される。
【0093】
図17Aは、ラックフォース目標値に加える路面状況模擬成分の時間変化の一例を示す図である。図17Bは、ラックフォース目標値に加える路面状況模擬成分の時間変化の一例を示す図である。図17Aでは、車両が走行する路面のより詳細な状況として、路面が平坦ではなく凹凸のある悪路を想定した路面状況模擬成分RF_simを例示している。具体的に、図17Aに示す例では、正弦波状の路面状況模擬成分RF_simを例示している。図17Bでは、車両が走行する路面のより詳細な状況として、図15に示すピニオンラック機構44を車両モデルの前方から見た図としたとき、路面が左側(図15では右側)に傾斜したカント路であることを想定した路面状況模擬成分RF_simを例示している。具体的に、図17Bに示す例では、正値で一定となる路面状況模擬成分RF_simを例示している。路面が右側(図15では左側)に傾斜したカント路であることを想定した場合、負値で一定となる路面状況模擬成分RF_simが例示される。なお、図17A及び図17Bに示す路面状況模擬成分RF_simの態様は一例であって、例えば、予め評価対象となる車両モデルの実走行時に取得したデータを用いて作成することができる。
【0094】
ラックフォース制御部320aは、加算部326aにおいてラックフォース目標値RF_refに路面状況模擬成分RF_simを加算する。PID制御部324は、ラックフォース目標値RF_refと路面状況模擬成分RF_simとを加算した値(RF_ref+RF_sim)と、実ラックフォースRF_actとの偏差RF_err(=(RF_ref+RF_sim)-RF_act)がゼロに近づくようにPID制御を行う。具体的に、本実施形態において、PID制御部324は、実ラックフォースRF_actがラックフォース目標値RF_refと路面状況模擬成分RF_simとを加算した値に追従するような電流指令値Ir_ref0を生成する。
【0095】
上述したように、本実施形態では、ラックフォース制御部320aにおいて、実ラックフォースRF_actをラックフォース目標値RF_refと路面状況模擬成分RF_simとを加算した値に追従させる制御を行う。これにより、例えば、凹凸のある悪路やカント路のような実際の路面状況を模したラックフォースをピニオンラック機構44に付与することができ、実際の路面状況を模擬した評価をシミュレーションにより実現することができる。なお、ラックフォース目標値生成部310aに代えて、実施形態2の変形例において説明したラックフォース目標値生成部310a_1を具備した構成とすることで、実施形態3よりも実際の車両の運動に近い特性が得られる。
【0096】
なお、上述した実施形態で使用した図は、本開示に関して定性的な説明を行うための概念図であり、これらに限定されるものではない。また、上述の実施形態は本開示の好適な実施の一例ではあるが、これに限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 ハンドル
2 コラム軸
3a,3b タイロッド
5L,5R 転舵輪
10 車速センサ
11 イグニションキー
12 バッテリ
30 反力装置
31 反力用モータ
32 減速機構
33 舵角センサ
34 トルクセンサ
35 ストッパ(回転制限機構)
40 転舵装置
41 転舵用モータ
42 減速機構
43 角度センサ
44 ピニオンラック機構
50 制御装置
60 反力制御系
70 転舵制御系
101 CPU(Central Processing Unit)
102 ROM(Read Only Memory)
103 RAM(Random Access Memory)
104 EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)
105 バス
110 ECU
200 操舵トルク目標値生成部
300,300a,300b 車両状態模擬装置
301 連結部材
302 変位センサ
303 荷重センサ
310,310_1,310a,310a_1 ラックフォース目標値生成部
311,311_1,311a,311a_1 ラックフォースマップ部
312 絶対値演算部
313 符号抽出部
314 乗算部
315 車両運動モデル
316 変換部
320,320a ラックフォース制御部
321 入力制限部
322 変化率制限部
323 FF(フィードフォワード)補償部
324 PID制御部
325 出力制限部
326,326a 加算部
330 ラックフォース生成部
331 電流制御部
332 直動装置
333 PWM制御部
334 インバータ
335 RF(ラックフォース)生成用モータ
336 モータ電流検出器
350 模擬状態制御装置
400 操舵トルク制御部
500 電流制御部
600 転舵角目標値生成部
700 転舵角制御部
800 電流制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17A
図17B