(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162551
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】Mn-Zn系フェライト、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/38 20060101AFI20231101BHJP
H01F 1/34 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
C04B35/38
H01F1/34 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072945
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】山上 航輝
(72)【発明者】
【氏名】村井 健一
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AB02
5E041NN02
5E041NN06
5E041NN14
(57)【要約】
【課題】広い周波数帯域で高いインピーダンスを有するMn-Zn系フェライト、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】100mol%中、Fe2O3が48.0~51.0mol%、ZnOが20.0~25.0mol%、残部がMnOからなる主成分と、前記主成分100質量部に対し、0.015質量部以下のCaOと、0.005質量部以下のSiO2とを含む、Mn-Zn系フェライトである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
100mol%中、Fe2O3が48.0~51.0mol%、ZnOが20.0~25.0mol%、残部がMnOからなる主成分と、
前記主成分100質量部に対し、0.015質量部以下のCaOと、0.005質量部以下のSiO2とを含む、Mn-Zn系フェライト。
【請求項2】
平均結晶粒径が12μm以上である、請求項1に記載のMn-Zn系フェライト。
【請求項3】
10kHzにおける複素比透磁率の実部μ’が6200以上である、請求項1又は2に記載のMn-Zn系フェライト。
【請求項4】
10MHzにおける複素比透磁率の実部μ’が200以上である、請求項3に記載のMn-Zn系フェライト。
【請求項5】
1MHzにおけるインピーダンスが1100Ω以上である、請求項1又は2に記載のMn-Zn系フェライト。
【請求項6】
10MHzにおけるインピーダンスが1850Ω以上である、請求項5に記載のMn-Zn系フェライト。
【請求項7】
キュリー温度Tcが100℃以上である、請求項1又は2に記載のMn-Zn系フェライト。
【請求項8】
前記主成分が、更に、0.2~2mol%のCoOを含む、請求項1又は2に記載のMn-Zn系フェライト。
【請求項9】
10kHzにおける複素比透磁率の実部μ’が6200以上であり、
10MHzにおける複素比透磁率の実部μ’が200以上である、Mn-Zn系フェライト。
【請求項10】
請求項1又は9に記載のMn-Zn系フェライトの製造方法であって、
100mol%中、Fe2O3が48.0~51.0mol%、ZnOが20.0~25.0mol%、残部がMnOからなる主成分と、前記主成分100質量部に対し、0.015質量部以下のCaOと、0.005質量部以下のSiO2とを含むように原料を混合し、混合粉末を準備する工程と、
前記混合粉末を解砕する工程と、
解砕後の粉末を焼結する工程と、を有する、Mn-Zn系フェライトの製造方法。
【請求項11】
前記混合粉末のメジアン径d50が1.5μm以下である、請求項10に記載のMn-Zn系フェライトの製造方法。
【請求項12】
前記解砕後の粉末のメジアン径d50が0.8μm以下である、請求項10に記載のMn-Zn系フェライトの製造方法。
【請求項13】
前記主成分が、更に、0.2~2mol%のCoOを含む、請求項10に記載のMn-Zn系フェライトの製造方法。
【請求項14】
酸素濃度が5%以上の雰囲気中で焼結を行う、請求項10に記載のMn-Zn系フェライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Mn-Zn系フェライト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト材は電気抵抗が高く、高周波の電流に対しても渦電流損失が抑制されることから、トランスやコイル等のコア材やノイズフィルタなどとして広く用いられている。フェライト材としては、Ni-Znフェライト、Mn-Znフェライトが広く知られている。
【0003】
例えばノイズフィルタでは、ノイズを遮断するためノイズの周波数帯域で高いインピーダンスをもつフィライト材が用いられる。現状、Mn-Znフェライトと、Ni-Znフェライトとを比較すると、Mn-Znフェライトは高周波数に対してインピーダンスが低くなる傾向があり、Ni-Znフェライトは低周波数に対してインピーダンスが低くなる傾向があり、用途等に応じて使い分けがなされている。
【0004】
特許文献1には、低周波領域での高い規格化インピーダンスを保持したまま、高周波領域での規格化インピーダンスを向上する手法として、SrO及び/又はBaOを特定量添加した特定のMn-Co-Zn系フェライトが開示されている。
【0005】
また特許文献2には、10MHzで100以上の高い初透磁率をもつMn-Znフェライトとして、特定の副成分を添加して結晶粒の成長を促進する手法が開示されている。しかしながら当該手法は、異常粒成長とそれに伴う孔の発生が起こりやすく、結晶粒内に生じた孔により磁壁の移動が抑制され比透磁率の向上が抑制されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-213531号公報
【特許文献2】特開2001-220221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
広い周波数帯域で使用可能なノイズフィルタが求められており、低周波数帯域から高周波数帯域まで広い周波数帯域において高いインピーダンス特性を有するフェライト材が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は上記実情に鑑みてなされたものであり、広い周波数帯域で高いインピーダンスを有するMn-Zn系フェライト、及びその製造方法を提供する。
【0009】
本開示に係るMn-Zn系フェライトは、100mol%中、Fe2O3が48.0~51.0mol%、ZnOが20.0~25.0mol%、残部がMnOからなる主成分と、
前記主成分100質量部に対し、0.015質量部以下のCaOと、0.005質量部以下のSiO2とを含む。
【0010】
上記Mn-Zn系フェライトの一態様は、平均結晶粒径が12μm以上である。
【0011】
上記Mn-Zn系フェライトの一態様は、10kHzにおける複素比透磁率の実部μ’が6200以上である。
【0012】
上記Mn-Zn系フェライトの一態様は、10MHzにおける複素比透磁率の実部μ’が200以上である。
【0013】
上記Mn-Zn系フェライトの一態様は、1MHzにおけるインピーダンスが1100Ω以上である。
【0014】
上記Mn-Zn系フェライトの一態様は、10MHzにおけるインピーダンスが1850Ω以上である。
【0015】
上記Mn-Zn系フェライトの一態様は、キュリー温度Tcが100℃以上である。
【0016】
上記Mn-Zn系フェライトの一態様は、前記主成分が、更に、0.2~2mol%のCoOを含む。
【0017】
本開示に係るMn-Zn系フェライトは、10kHzにおける複素比透磁率の実部μ’が6200以上であり、10MHzにおける複素比透磁率の実部μ’が200以上である。
【0018】
本開示に係るMn-Zn系フェライトの製造方法は、
100mol%中、Fe2O3が48.0~51.0mol%、ZnOが20.0~25.0mol%、残部がMnOからなる主成分と、前記主成分100質量部に対し、0.015質量部以下のCaOと、0.005質量部以下のSiO2とを含むように原料を混合し、混合粉末を準備する工程と、
前記混合粉末を解砕する工程と、
解砕後の粉末を焼結する工程と、を有する。
【0019】
上記Mn-Zn系フェライトの製造方法の一態様は、前記混合粉末のメジアン径d50が1.5μm以下である。
【0020】
上記Mn-Zn系フェライトの製造方法の一態様は、前記解砕後の粉末のメジアン径d50が0.8μm以下である。
【0021】
上記Mn-Zn系フェライトの製造方法の一態様は、前記主成分が、更に、0.2~2mol%のCoOを含む。
【0022】
上記Mn-Zn系フェライトの製造方法の一態様は、酸素濃度が5%以上の雰囲気中で焼結を行う。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、広い周波数帯域で高いインピーダンスを有するMn-Zn系フェライト、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、Mn-Zn系フェライト及びその製造法について説明する。
なお、数値範囲を示す「~」は特に断りがない限り、その下限値及び上限値を含むものとする。
【0025】
[Mn-Zn系フェライト]
本開示のMn-Zn系フェライトは、100mol%中、Fe2O3が48.0~51.0mol%、ZnOが20.0~25.0mol%、残部がMnOからなる主成分と、
前記主成分100質量部に対し、0.015質量部以下のCaOと、0.005質量部以下のSiO2とを含むことを特徴とする。
【0026】
本Mn-Zn系フェライトは、低周波数帯域でμ’の高いMn-Zn系フェライトをベースとしている。更に、主成分中のFe2O3の割合を低くすることで、比抵抗を大きく、誘電率εを小さくし、高周波数帯域でのμ’を向上する。その結果、例えば1kHz~1GHz、特に10kHz~10MHzの広い周波数帯域で高いインピーダンス特性を有するMn-Zn系フェライトとなる。
【0027】
複素比透磁率μは下記式(1)で表される。
式(1): μ = μ’-jμ”
ここで、μ’は複素比透磁率の実部(インダクタンス成分)であり、μ”は複素比透磁率の虚部(抵抗成分)であり、jは虚数単位である。
【0028】
インピーダンスZ(Ω)は下記式(2)で表される。
式(2): Z = (R2+X2)1/2
ここで、R及びXは各々式(3)及び(4)で表される。
【0029】
式(3): R = (μ”・2πfn2Aeμ0)/Le
式(4): X = (μ’・2πfn2Aeμ0)/Le
ここで、fは周波数(kHz)、nはコイルの巻数、Aeはフェライトの実効断面積(mm2)、Leはフェライトの磁路長(mm)、μ0は真空透磁率(4π×10-7(H/m))を表す。
【0030】
なお、本開示においてインピーダンスZは、測定対象のフェライト材を外径25mm、内径10mm、厚み5mm、断面形状が長方形(7.5mm×5mm)の環状鉄心を用い、コイルの巻数を10回として測定した値とする。
【0031】
本Mn-Zn系フェライトは広い周波数帯域で高いμ’を備えることで、広い周波数帯域で高いインピーダンス特性を有する。
【0032】
次に、本Mn-Zn系フェライトの組成について説明する。
本Mn-Zn系フェライトはFe2O3とZnOとMnOを主成分とし、更にCoOを含んでいてもよい。主成分の割合は、当該主成分100mol%中、Fe2O3が48.0~51.0mol%、ZnOが20.0~25.0mol%、CoOを含む場合は当該CoOが0.2~2mol%であることが好ましく、残部がMnOである。
【0033】
Fe2O3を51.0mol%以下、好ましくは50.0mol%以下とすることで、高周波数帯域でのμ’が向上する。また、Fe2O3を48.0mol%以上、好ましくは49.0mol%以上とすることで、低周波数帯域でのμ’が向上する。
【0034】
ZnOを25.0mol%以下、好ましくは24.0mol%以下とすることで、キュリー温度Tcを高くすることができる。また、ZnOを20.0mol%以上、好ましくは22.0mol%以上とすることで、低周波数帯域でのμ’が向上する。
【0035】
また主成分としてCoOを含んでいてもよい。CoOを含む場合、0.2~2mol%が好ましく、1.0~1.5mol%がより好ましい。CoOを上記範囲内で含むことで低周波数帯域でのμ’が向上する。
【0036】
また本Mn-Zn系フェライトは前記主成分100質量部に対し、副成分として、CaOを0超過0.015質量部以下、SiO2を0超過0.005質量部以下含む。
【0037】
CaOを含むことで、高い比抵抗を有する結晶粒界を形成でき、高周波数帯域における渦電流の発生を抑制して高周波数帯域におけるμ’を向上する。低周波数帯域でのμ’の低下を抑制する点から、CaOの含有量は、主成分100質量部に対し、0.015質量部以下であり、0.012質量部以下が好ましい。CaOの含有量は、高い比抵抗を得る点から、0.001質量部以上が好ましく、0.002質量部以上がより好ましい。
【0038】
SiO2を含むことで、高い比抵抗を有する結晶粒界を形成することができ、高周波数帯域におけるμ’を向上する。低周波数帯域でのμ’の低下を抑制する点から、SiO2の含有量は、主成分100質量部に対し、0.005質量部以下であり、0.004質量部以下がより好ましい。SiO2の含有量は、高い比抵抗を得る点から、0.0001質量部以上が好ましく、0.0005質量部以上がより好ましい。
【0039】
本Mn-Zn系フェライトは、本発明の効果を奏する範囲で更に他の成分を含有してもよい。他の成分としては、必要に応じて添加される他の金属酸化物や、不可避的に含まれる元素などが挙げられる。
他の金属酸化物としては、例えば、ZrO2、TiO2、Ta2O5、Nb2O5、Bi2O3、MoO3などが挙げられる。また、不可避的に含まれる元素としては、C(炭素原子)、P(リン原子)、B(ホウ素原子)などが挙げられる。
他の成分の合計の含有量は、主成分100質量部に対して0.1質量部以下が好ましく、0.01質量部以下がより好ましく、0.001質量部以下が更に好ましい。
【0040】
本Mn-Zn系フェライトの平均結晶粒径は、12μm以上が好ましく、14μm以上がより好ましく、15μm以上が更に好ましい。平均結晶粒径を12μm以上とすることで、特に低周波数帯域におけるμ’を向上することができる。一方、平均結晶粒径は100μm以下が好ましく、80μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。また、100μm以上の結晶粒径を有する結晶粒は、結晶粒全体の1%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましい。
結晶粒径は、測定対象のフェライトを鏡面研磨した後、エッチングにて粒界相を溶解し、顕微鏡にて観察した画像から画像解析により測定することができる。結晶粒径は長径を用いるものとし、平均結晶粒径は100個の結晶粒の粒径の平均値とする。
【0041】
本Mn-Zn系フェライトの10kHzにおける複素比透磁率の実部μ’は、6200以上とすることができ、中でも6500以上が好ましい。
本Mn-Zn系フェライトの10MHzにおける複素比透磁率の実部μ’は、200以上とすることができ、240以上が好ましく、250以上がより好ましい。
【0042】
本Mn-Zn系フェライトは、1MHzにおけるインピーダンスの絶対値を1100Ω以上とすることができ、1200Ω以上が好ましく、1500Ω以上がより好ましい。
本Mn-Zn系フェライトは、10MHzにおけるインピーダンスの絶対値を1850Ω以上とすることができ、2000Ω以上が好ましく、2200Ω以上がより好ましい。
なお、上記インピーダンスは、一例として、本Mn-Zn系フェライトを外径25mm、内径10mm、厚み5mm、断面形状が長方形(7.5mm×5mm)の環状鉄心の形状とすることで達成することができるが、この形状に限られず、これを参考に別の形状としてもよい。
【0043】
本Mn-Zn系フェライトは、高温環境下でも好適に用いることができる点から、キュリー温度Tcが100℃以上であることが好ましく、110℃以上がより好ましく、115℃以上が更に好ましい。なお、キュリー温度とは、強磁性体が常磁性体に変わる温度である。
【0044】
また、本開示は、10kHzにおける複素比透磁率の実部μ’が6200以上で、且つ10MHzにおける複素比透磁率の実部μ’が200以上のMn-Zn系フェライトを提供することができる。
【0045】
本Mn-Zn系フェライトは、広い周波数帯域で高いインピーダンスを有するため、広い周波数帯域で使用可能なノイズフィルタ等の電磁気ノイズ対策部品として好適に用いることができる。
【0046】
[Mn-Zn系フェライトの製造方法]
次に、Mn-Znフェライトの製造方法(以下、本製造方法ともいう)の一実施形態について説明する。本製造方法は上記本Mn-Zn系フェライトの製造に適した製造方法であり、
100mol%中、Fe2O3が48.0~51.0mol%、ZnOが20.0~25.0mol%、残部がMnOからなる主成分と、前記主成分100質量部に対し、0.015質量部以下のCaOと、0.005質量部以下のSiO2とを含むように原料を混合し、混合粉末を準備する工程と、
前記混合粉末を解砕する工程と、
解砕後の粉末を焼結する工程と、を有し、更に他の工程を有していてもよい。
【0047】
上記混合粉末を準備する工程では、一例として、まず、焼結後の主成分が前記本Mn-Znフェライトの組成となるように主成分を混合する。主成分の混合前の形態は特に限定されないが、取り扱いが容易で均一に混合できる点から、粉末状のものを用いることが好ましい。主成分の原料粉末は混合して、必要に応じて解砕することで混合粉末とする。混合及び解砕方法は、公知の方法の中から適宜選択すればよい。具体的には例えば、アトライタやビーズミルなどが挙げられる。混合粉末の粒子径は、均一性などの点から、メジアン径d50が好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1.0μm以下、更に好ましくは0.6μm以下となるように調整する。d50の下限値は特に限定されないが、通常0.1μm以上であり、0.2μm以上が好ましい。なお、混合粉末及びその他の粉末の粒度分布は粒度分布測定装置で測定することができ、累計頻度が50%となる粒径をd50とする。
必要に応じて上記主成分の混合粉末に対して、乾燥・造粒工程を実施してもよい。乾燥・造粒工程では、例えば、上記混合粉末に、混合粉末の全質量を100質量部としたときに0.5~1質量部のポリビニルアルコールなどのバインダーを加え、スプレードライヤーなどを用いて噴霧することで顆粒を得ることができる。得られた顆粒は、例えば空気雰囲気下750℃で1時間程度仮焼して仮焼物としてもよい(仮焼工程)。
【0048】
次いで、焼結後の副成分が前記本Mn-Znフェライトの組成となるように上記混合粉末に副成分を添加する。副成分の添加前の形態は特に限定されないが、取り扱いが容易で均一に混合できる点から、粒子状であることが好ましい。中でも均一性などの点から、メジアン径d50が好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1.0μm以下、更に好ましくは0.6μm以下である。d50の下限値は特に限定されないが、通常0.1μm以上であり、0.2μm以上が好ましい。
【0049】
副成分を添加した後、得られた混合粉末を解砕して解砕粉末を得る。具体的には、解砕工程において、解砕後の粒径のメジアン径D50が0.8μm以下とすることが好ましく、0.1μm以上0.7μm以下とすることがより好ましい。
【0050】
解砕後の粉末に対し、造粒工程を実施してもよい。例えば、解砕粉末に当該解砕粉末の全質量を100質量部としたときに、0.5~1.0質量部のポリビニルアルコールなどのバインダーを加え、スプレードライヤーなどで噴霧することで顆粒を得ることができる。
【0051】
次いで、得られた顆粒を所定の形状に成形する。所定の形状とは用途等に応じて設計すればよい。例えば、外径25mm、内径10mm、厚み5mmの環状に成形する。
【0052】
成形後の顆粒を焼成することで、焼結体(本Mn-Zn系フェライト)が得られる。焼成温度は、例えば1300℃程度とすることができる。また焼成時間は、例えば1~24時間とすることができ、所望の平均結晶粒径となるように調整すればよい。本製造方法においては、酸素濃度が5%以上の雰囲気中で焼結を行うことが好ましい。酸素濃度が5%以上の雰囲気中で焼結することにより、原料粉末表面のZnの揮発を抑制して低周波数帯域でのμ’の低下を抑制するとともに、原料粉末表面の酸化を促進することで焼結体の比抵抗が上昇して高周波数帯域でのμ’が上昇する。当該酸素濃度は8%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。
【0053】
上記の製造方法によれば、広い周波数帯域で高いインピーダンスを有するMn-Zn系フェライトを好適に製造することができる。
【実施例0054】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、これらの記載により本発明を制限するものではない。
【0055】
[例1]
焼結後の主成分組成がFe2O3 52.5mol%、ZnO 18.0mol%、MnO 29.5mol%となるように各原料粉末を秤量して混合し、アトライタで解砕した。混合粉末のメジアン径d50は0.8μmであった。次に、上記混合物の全質量100質量部に対して0.5質量部相当のポリビニルアルコールを加え、スプレードライヤーで噴霧することで顆粒を得た。次に、当該顆粒を空気雰囲気中750℃で1時間仮焼して仮焼物を得た。
次いで主成分の全質量100質量部に対し、SiO2 0.003質量部、CaO 0.010質量部となるようにSiO2とCa(OH)2を添加した。なお、SiO2、Ca(OH)2は、各々平均粒子径が0.1μm以上の粒子を用いた。
次に、解砕工程として上記混合粉末を、解砕後の粒径のメジアン径d50が0.7μmになるように解砕機で解砕して解砕粉末を得た。次に乾燥・造粒工程としてこの解砕物に、解砕物の全質量を100質量部としたときに、1質量部のポリビニルアルコールを加え、スプレードライヤーで噴霧することで顆粒を得た。次に当該顆粒を外径25mm、内径10mm、厚み5mmの環状に成形し、酸素濃度10%の雰囲気下で、1300℃、10時間焼成を行い、焼結体(フェライト)を得た。
【0056】
<測定>
(1)インピーダンス、複素比透磁率
例1で得られた焼結体に、巻き線を10回巻き付け、インピーダンスアナライザーにより、周波数を変更しながらインピーダンス及びインダクタンスを測定し、複素比透磁率を算出した。25℃における測定結果を表1に示す。
(2)キュリー温度
例1で得られた焼結体に、巻き線を10回巻き付け、20℃から250℃の温度範囲でインダクタンスを測定し、各温度における比初透磁率を算出した。次いで、得られた温度と比初透磁率の関係より、比初透磁率が1となる温度をキュリー温度とした。
(3)平均結晶粒径
例1で得られた焼結体の表面を鏡面研磨し、エッチングにて粒界相を溶解し、顕微鏡にて観察した画像から画像解析に100個の結晶粒の粒径を求めその平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0057】
[例2~例33]
例1において、組成、製造工程における混合粉末の粒径、解砕粉末の粒径、焼成時の酸素濃度を表1のように変更した以外は、例1と同様にして、焼結体を製造した。
また、例1と同様にインピーダンス、複素比透磁率、キュリー温度、平均結晶粒径を測定した。結果を表1に示す。
【0058】
【0059】
Fe2O3を多く含む例1及び例4のMn-Zn系フェライトは高周波数帯域でのμ’が低い値となっている。例2のNi-Zn系フェライトは低周波数帯域でのμ’が低い値となっている。ZnOが少ない例9のMn-Zn系フェライトは低周波数帯域でのμ’が低い値となっている。ZnOが多い例10のMn-Zn系フェライトは広い周波数帯域でμ’が良好であるが、キュリー温度が低下している。副成分であるCaO又はSiO2を多く含む例17~18、例21~22のMn-Zn系フェライトは低周波数帯域でのμ’が低い値となっている。これらに対し、100mol%中、Fe2O3が48.0~51.0mol%、ZnOが20.0~25.0mol%、残部がMnOからなる主成分と、前記主成分100質量部に対し、0.015質量部以下のCaOと、0.005質量部以下のSiO2とを含む、例5~例8、例11~例16、例19~例20、例23~例33(実施例)のMn-Zn系フェライトは、μ’が10kHzで6200以上、10MHzで200以上を達成し、広い周波数帯域で高いμ’を備えることが示された。また、広い周波数帯域で高いμ’を備える結果、インピーダンスが1MHzでは1100Ω以上、10MHzでは1850Ω以上と広い周波数帯域で高いインピーダンス特性が得られていることが示された。更に、実施例のMn-Zn系フェライトはキュリー温度Tcが100℃以上であり高いキュリー温度を有することも示された。
次に実施例内で比較する。例26、例27及び例32の比較から結晶粒の平均粒径が大きいほど低周波数帯域でのμ’が高くなる傾向が見られた。また例28~例30及び例32の比較からは原料の混合粉末のメジアン系が小さいほど得られるMn-Zn系フェライトのμ’が高くなる傾向が見られた。また、例31~33の比較から焼成時の酸素濃度が高いほど得られるMn-Zn系フェライトのμ’が高くなる傾向が見られた。