(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162560
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】ラビリンスシール及びこれを用いたラビリンス隙間の調整方法
(51)【国際特許分類】
F03B 11/00 20060101AFI20231101BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
F03B11/00 B
F16J15/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072958
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】506099041
【氏名又は名称】田中水力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【弁理士】
【氏名又は名称】安形 雄三
(74)【代理人】
【識別番号】100121887
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 好章
(72)【発明者】
【氏名】國分 清
【テーマコード(参考)】
3H072
3J042
【Fターム(参考)】
3H072AA02
3H072BB06
3H072BB27
3H072CC68
3J042AA04
3J042BA01
3J042CA02
3J042CA11
3J042DA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ラビリンスシールのギャップが拡大しても、従来よりも短時間で、元のシール隙間に簡便にアジャストできるラビリンスシールを提供する。
【解決手段】主軸スリーブ100と、主軸スリーブ100を取り囲むように配置されるリング状のラビリンスライナ300とを備え、ラビリンスライナ300は、ケーシング700に、主軸Msと平行な方向に、シールする流体の低圧側から高圧側の方向に、進退可能なジャッキボルト500により配置され、主軸スリーブ100とラビリンスライナ300との相互の対向面が、主軸Msに対して同一の勾配を有するように設けられ、勾配は、主軸の低圧側から高圧側にかけて、主軸の中心からの距離が大きくなるように形成され、対向面の間隔を、ラビリンスシールからの流体の漏出量に応じて、ジャッキボルト500により主軸Msに沿った方向に、主軸Msの高圧側又は低圧側に位置をずらして固定することにより、調整可能とした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体機械の主軸に用いられるラビリンスシールにおいて、
前記ラビリンスシールは、前記主軸の外周面上の一部に、前記主軸廻りを取り囲むように配置されるリング状の主軸スリーブと、
前記主軸を囲むケーシングに、前記主軸スリーブを取り囲むように配置されるリング状のラビリンスライナと、を備え、
前記ラビリンスライナは、前記ケーシングに、前記主軸と平行な方向に、シールする流体の低圧側から高圧側の方向に、進退可能なジャッキボルトにより配置され、
前記主軸スリーブと前記ラビリンスライナとの相互の対向面が、前記主軸に対して同一の勾配を有するように設けられ、
前記勾配は、前記主軸の低圧側から高圧側にかけて、前記主軸の中心からの距離が大きくなるように形成され、
前記対向面の間隔を、前記ラビリンスシールからの流体の漏出量に応じて、前記ラビリンスライナを前記ジャッキボルトにより前記主軸に沿った方向に、前記主軸の高圧側又は低圧側に位置をずらして固定することにより、調整可能であることを特徴とする、
ラビリンスシール。
【請求項2】
前記主軸スリーブは外周面に硬質クロムメッキがされている、請求項1に記載のラビリンスシール。
【請求項3】
前記流体機械は水車である請求項1又は2に記載のラビリンスシール。
【請求項4】
前記ラビリンスライナのラビリンスの形態は、前記ラビリンスライナの代表面上に、前記主軸廻りを取り囲むように形成された断面が矩形状の凹部を前記主軸に沿った方向に複数配列することにより形成される、請求項3に記載のラビリンスシール。
【請求項5】
前記ラビリンスシールのフランジの付け根には、停止環が形成されており、前記停止環は、前記ケーシングに設けられた前記ラビリンスシールの摺動面に設けられた摺動凹部に対応する形態と寸法とを有し、前記ラビリンスシールの停止環と前記ケーシングの摺動凹部の停止部とが、前記ラビリンスライナが前記ケーシング内の摺動面に沿って入り込める範囲を確定する、請求項4に記載のラビリンスシール。
【請求項6】
前記ラビリンスライナは、円周方向に分割された複数の部分を組み合わせて構成される、請求項1又は2に記載のラビリンスシール。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のラビリンスシールを用いたラビリンス隙間の調整方法であって、
前記ジャッキボルトを緩めるステップと、
前記ジャッキボルトにより、前記ラビリンスライナを軸方向に移動して前記対向面の間隔を調整するステップと、
前記調整後に前記ジャッキボルトを締結するステップとからなる、ラビリンス隙間の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水車等の流体機械の主軸に用いられるラビリンスシールに関するものであり、更に詳細には、ラビリンスシールを構成するラビリンス隙間(ラビリンスギャップ)の調整を簡便に行うと共に、メンテナンスコストの低減が可能な、ラビリンスシール及びこれを用いたラビリンス隙間の調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水車などの流体機械では、羽根車(ランナ)等が接続された主軸を介して、動力の伝達が行われる。そして、当該ランナは使用される水に直接曝されるものであるために、主軸に接続された発電機等の方向へ、主軸を介してランナ側から一定量以上の漏水が生ずる事を防止するために、主軸の封水が行われている。
【0003】
近年、こうした水車などの流体機械の主軸封水にラビリンスシールあるいは、メカニカルシールが使用されるケースが多くなってきている。特に、
図1に示したようなラビリンスシールは、簡易な構造であることから安価であり、比較的寿命が長い、という特徴が有る。
【0004】
ここで、
図1は水車における従来のラビリンスシールLS100周辺のケーシング700の一部を例示した断面図である。
図1中で、導水管960により導かれた水は、固定羽根(ステイベーン)820と案内羽根(ガイドベーン)830とを通ってランナ羽根(ランナベーン)810を有するランナ800を回転させ、吸出し曲管970から排出される。
【0005】
そのため、このようなランナ800の回転により、先端にランナ800が接続された主軸Msが回転することになり、当該ランナ800から離間した主軸Msの周りには、回転する主軸Msのシールの為に、ラビリンスシールLS100が設けられている。
【0006】
ラビリンスシールLS100は、リング状の主軸スリーブ900とラビリンスライナ930とからなっている。このうち、主軸スリーブ900は主軸Msに接続されたランナ800から離間して、(図示しない)発電機寄りの主軸Msの廻りに配置されており、ラビリンスライナ930は、当該主軸スリーブ900の周囲を取り囲むように形成されたケーシング700の内側部分に配置されている。そして、これらの部分を保護するように、飛散防止カバー710が設けられている。
【0007】
このように形成されるラビリンスシールLS100では、主軸スリーブ900がリングの外表面側に作る面903とラビリンスライナ930がリングの内表面側に作る面931Sとを対向面と呼称するとすれば、かかる対向面の間には、僅かな隙間(ラビリンスギャップ)200が形成されており、この隙間を流路として、流入する流体に対してラビリンスライナ930に形成された流路空間(ラビリンス)950による膨張と流路による圧縮等が繰り返されて、流入する流体の圧力損失が生じ、回転する主軸Msの封水(シール)が行われる。
【0008】
上述のような、ラビリンスシールLS100には、主軸スリーブ900とラビリンスライナ930との対向面が接触しない利点が有るが、使用水に土砂が多い発電所等の場合には、ランナ800の背面から伝わる水に土砂が混入して主軸スリーブ900とラビリンスライナ930との間に入り込むことが有る。そのため、このような場合には、シール隙間(ラビリンスギャップ)200の間に土砂が滞留して、水車軸(主軸Ms)の回転による遠心力が加勢し、ラビリンスギャップ200を拡大させ、漏水量が増大し、メンテナンス料が嵩む、という問題がある。
【0009】
そこで、このようにラビリンスギャップに土砂が混入することを防止するために、例えば、特開2018-96315号公報(特許文献1)、特開平6-81761号公報(特許文献2)又は、特開平9-310672号公報(特許文献3)に記載された発明のように、軸受部分に清水を注水し、土砂の混入を防ぐことなどが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2018-96315号公報
【特許文献2】特開平6-81761号公報
【特許文献3】特開平9-310672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上述のように、ラビリンスギャップに土砂が混入することを防止するために、清水を注入する方式を採用した場合には、水ストレーナ等の設置が必要となるために、水ストレーナの管理や関連する機器のコストが高くなり経済性が悪化する。したがって、この事から、注水を不要とする構造が望ましい。
【0012】
そこで出願人は、長年の間こうした課題に取り組んできたが、例えば、主軸スリーブを耐摩耗性の高い部材に交換しても、静止部のラビリンスライナのほうが摩耗してしまうという問題があった。また、主軸スリーブに合わせて、ラビリンスライナの硬度も上げると、主軸スリーブとの硬度差がなくなり、かじりが生じて、機器の破損が起きる可能性があった。そのため、このような場合には、ラビリンスライナおよび主軸スリーブの交換が必要となるが、残念ながら、主軸スリーブは、吸出し曲管とランナとを吊り出さないと交換ができない構造であることが多いため、その作業にかかる日数が3日から4日間程度の相応の期間を要し、その期間中、水車は停止となってしまうという問題があった。
【0013】
そこで本発明は、上記のような問題の解決を目的としたものであり、従来の構造を保ちながら、土砂による摩耗等が生じて、ラビリンスシールのギャップが拡大しても、従来よりも短時間で、元のシール隙間に簡便にアジャスト(調節)できるラビリンスシール及びこれを用いたラビリンス隙間の調整方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明は、流体機械の主軸に用いられるラビリンスシールにおいて、前記ラビリンスシールは、前記主軸の外周面上の一部に、前記主軸廻りを取り囲むように配置されるリング状の主軸スリーブと、前記主軸を囲むケーシングに、前記主軸スリーブを取り囲むように配置されるリング状のラビリンスライナとを備え、前記ラビリンスライナは、前記ケーシングに、前記主軸と平行な方向であって、シールする流体の低圧側から高圧側の方向に、進退可能なジャッキボルトにより配置され、前記主軸スリーブと前記ラビリンスライナとの相互の対向面が、前記主軸に対して同一の勾配を有するように設けられ、前記勾配は、前記主軸の低圧側から高圧側にかけて、前記主軸の中心からの距離が大きくなるように形成され、前記対向面の間隔を、前記ラビリンスシールからの流体の漏出量に応じて、前記ラビリンスライナを前記ジャッキボルトにより前記主軸に沿った方向に、前記主軸の高圧側又は低圧側に位置をずらして固定することにより、調整可能であることを特徴とする、ラビリンスシールを提供する。
【0015】
また、上記課題の解決は、前記主軸スリーブは外周面に硬質クロムメッキがされていることにより、或いは、前記流体機械は水車であることにより、或いは、前記ラビリンスライナのラビリンスの形態は、前記ラビリンスライナの代表面上に、前記主軸廻りを取り囲むように形成された断面が矩形状の凹部を前記主軸に沿った方向に複数配列することにより形成される事により、或いは、前記ラビリンスシールのフランジの付け根には、停止環が形成されており、前記停止環は、前記ケーシングに設けられた前記ラビリンスシールの摺動面に設けられた摺動凹部に対応する形態と寸法とを有し、前記ラビリンスシールの停止環と前記ケーシングの摺動凹部の停止部とが、前記ラビリンスライナが前記ケーシング内の摺動面に沿って入り込める範囲を確定することにより、或いは、前記ラビリンスライナは、円周方向に分割された複数の部分を組み合わせて構成されることにより、更に効果的に達成される。
【0016】
また、上記課題の解決は、前記ラビリンスシールを用いたラビリンス隙間の調整方法であって、前記ジャッキボルトを緩めるステップと、前記ジャッキボルトにより、前記ラビリンスライナを軸方向に移動して前記対向面の間隔を調整するステップと、前記調整後に前記ジャッキボルトを締結するステップとからなる、ラビリンス隙間の調整方法により、更に効果的に達成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明では主軸スリーブとラビリンスライナとの対向面の間隔(シール隙間又はラビリンスギャップ)をジャッキボルトにより、極めて容易に調整することが可能である。そのため、比較的簡単な作業で、低コストにラビリンスギャップの調整が可能であり、漏水が生じた場合には、ラビリンスギャップの調整を行えば容易に漏水を停止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】水車における従来のラビリンスシール及びその周辺のケーシングの一部を例示した断面図である。
【
図2】本発明の例によるラビリンスシールの配置された主軸部分周辺について、その一部を拡大して例示した断面図である。
【
図3】(A)は本発明による主軸スリーブの側断面図、(B)は本発明によるラビリンスライナの側断面図、(C)はラビリンスライナの側方の一部を拡大して例示した一部断面図である。
【
図4】本発明による主軸スリーブとラビリンスライナとを組み合わせた状態の例を示す断面図である。(図中の点線はラビリンスギャップを示し、鎖線は主軸を仮想的に示したものである。)
【
図5】本発明によるラビリンスシールの配置された主軸部分について、その一部を拡大して例示した断面図であり、(A)はラビリンスギャップが摩耗等で拡大する前のジャッキボルトの初期の状態を一部半断面図で示し、(B)は、ラビリンスギャップが拡大したことにより、ジャッキボルトでラビリンスギャップを調整した後の状態を一部半断面図で示したものである。
【
図6】本発明によるラビリンスシールの配置された主軸部分について、その一部を拡大して例示した断面図であり、ジャッキボルトの他の構成例を
図5の場合と同様に示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明によるラビリンスシールは、基本的には、例えば、
図2に示したように、主軸Msの外周面上の一部に、当該主軸Msの廻りを取り囲むように配置されるリング状の主軸スリーブ100と、当該主軸スリーブ100を取り巻くようにケーシング700の内側に配置された、同じくリング状のラビリンスライナ300と、当該ラビリンスライナ300を主軸Msの軸線に沿った方向に移動可能なジャッキボルト500とから構成される。そこで、以下では、これらの構成要素について、添付図面を参照しつつ更に詳細に説明する。
【0020】
なお、以下の説明では、同一の構成要素については、他の形態を採り得るものについても同一の記号を用いる場合があり、重複する構成の説明や記号等については、一部省略する場合がある。また、図面に示す各構成要素の大きさや相互の比率などは、理解を容易にするためと説明の便宜のために、実際のものとは異なって拡大或いは強調している場合もあり、図面の一部については、表現を省略している場合もある。
【0021】
上記
図2は、本発明の例によるラビリンスシールLS200の配置された主軸Ms部分周辺について、その一部を拡大して例示した断面図であり、
図3(A)は本発明による主軸スリーブ100を構成するリングを当該リングの側方向から見た断面図、
図3(B)は本発明によるラビリンスライナ300を構成するリングを当該リングの側方向から見た断面図、
図3(C)はラビリンスライナの側方の一部を拡大して例示した一部断面図である。
【0022】
本発明の構成要素のうち、主軸スリーブ100は、例えば、
図2、
図3(A)に示すように、水車等の流体機械の主軸Msの外周面上の一部に、当該主軸Msの廻りを取り囲むように配置されるリング状に形成されており、その断面はテーパが設けられた四辺形状に形成され、外周面に傾斜(勾配)が形成されている。
【0023】
そして、当該主軸スリーブ100を構成するリングの内周面110は、例えば、
図3(A)、
図4に記載されるように、主軸Msの表面に直接配置できるように、主軸Msに配置された場合に、主軸Msと平行になるように、リングの中心軸Axからの距離が当該中心軸に沿って等しい円環状に構成されている。
【0024】
一方、主軸スリーブ100を構成するリングの外周面130は、主軸Msの軸線に対して、勾配130ψが設けられるように構成される。
【0025】
かかる勾配130ψは、
図3(A)、
図4に示すように、主軸Msに接続されるランナ800等の設けられた側である、シールする流体の流入側(高圧側)から、主軸Msに接続される(図示しない)発電機等の設けられた側である、シールする流体の流出側(低圧側)にかけて形成されており、主軸スリーブ100が主軸Msに配置された場合には、主軸Msの軸線に対して、シールする流体の高圧側から低圧側にかけて、リングの中心軸Axからの距離が当該中心軸Axに沿って、小さくなるように、傾斜が形成されている。
【0026】
そして、本発明で、かかる傾斜が設けられるのは、後述するラビリンスライナ300を主軸Msの軸線に沿った方向(言い換えれば、主軸Msと平行な方向)に移動させることでラビリンスギャップ200を調整するためである。
【0027】
そのため、主軸スリーブ100の外表面(外周面)は、ラビリンスライナ300の内周面(代表面)310Sに対する対向面となり、当該ラビリンスライナ300の代表面310Sと組み合わされて、後述するラビリンスギャップ200を形成する。
【0028】
また、主軸スリーブ100の勾配130ψの大きさは、特に限定を設けるものでは無いが、例えば、主軸Msの軸線方向の長さ25に対して主軸Msの法線方向の長さが1程度になるように構成(1/25)され、同様の勾配が、ラビリンスライナ300の代表面310Sにも形成されて、主軸スリーブ100の外周面130とラビリンスライナ300の内周面の代表面310Sとが作るラビリンスギャップ200が平行になるように構成される。
【0029】
また、主軸スリーブ100の材質については特に限定を設けるものでは無いが、一般的には、土砂による摩耗やキャビテーションによる浸食が少ない材質が用いられる。
【0030】
そして、本発明の場合には、少なくとも主軸スリーブ100の外周面130、若しくは、主軸スリーブ100の全面に硬質クロムメッキ(ハードクロムメッキ)による表面改質を行い、耐摩耗性を向上させることも可能である。
【0031】
次に、本発明の構成要素のうち、ラビリンスライナ300は、例えば、
図2、
図3(B)、(C)、
図4に示すように、水車等の流体機械の主軸Msを囲むケーシング700の内側に、上記主軸スリーブ100を取り囲むように配置されるリング状に形成されており、その断面を見た場合、テーパが設けられた四辺形状に形成され、内周面の代表面310Sに傾斜(勾配)310ψが形成されている。
【0032】
そして、当該ラビリンスライナ300はケーシング700に対して、ジャッキボルト500により配置されているが、当該ジャッキボルト500は、当該ラビリンスライナ300を上記水車等の主軸Msと平行な方向(言い換えれば、主軸Msに沿った方向)に当該主軸Msに沿って移動させるものであるために、主軸Msと平行な方向に、シールする流体の低圧側から高圧側の方向に、進退可能に螺進してラビリンスライナ300を固定できるように構成されている。
【0033】
そのため、ラビリンスライナ300の外周面330は、ケーシング700の内側に主軸Msと平行な方向に形成されたラビリンスシール摺動面730を摺動できるように、基本的には主軸Msと平行な面に形成されている。
【0034】
また、ラビリンスライナ300を構成するリングの端部のうち、主軸Msに配置された場合に低圧側に当たる一端側には、フランジ370が形成されており、当該フランジ370には、ラビリンスライナ300の外周面と平行な方向にジャッキボルト用孔371が形成されている。
【0035】
そして、かかるジャッキボルト用孔371は、リング状に形成されたラビリンスライナ300の外周に構成されたフランジ370に沿って、複数が配置されており、ラビリンスライナ300をケーシング700に固定する場合には、当該ジャッキボルト用孔371にジャッキボルト500を通してラビリンスライナ300が固定される。そして、ラビリンスギャップ200を調整する場合には、これらのジャッキボルト用孔371に螺入されているジャッキボルト500を介してラビリンスライナ300を主軸Msと平行な方向に主軸Msに沿って摺動してから、妥当な位置に固定できるように構成されている。
【0036】
また、当該ラビリンスライナ300のフランジ370の付け根部分には、ラビリンスライナ300の外周面から突出してリング状の停止環390が設けられている。
【0037】
かかる停止環390は、上記フランジ370の付け根部分から、上記フランジ370が設けられた一端側から他の一端側方向に延伸しており、ケーシング700のラビリンスシール摺動面730に設けられた摺動凹部731と嵌合可能な(言い換えれば、対応する)形態と寸法とを有している。そのため、ラビリンスライナ300がジャッキボルト500により主軸Msの高圧側に摺動された場合に、当該停止環390が、ケーシング700のラビリンスシール摺動凹部731に設けられた停止部733に当接することから、ラビリンスライナ300がケーシング700内の摺動面730に沿って入り込める範囲(限界)が確定(画定)されている。
【0038】
一方、ラビリンスライナ300を構成するリングの内周面のうち流路空間350として形成される凹部を含まない部分を代表面310Sとすれば、当該代表面310Sは主軸Msの軸線に対して勾配310ψが設けられるように構成されている。そして、かかる勾配310ψは、上述のように、主軸スリーブ100に設けられた勾配130ψと組み合わせることで、ラビリンスギャップ200を調整するために設けられている。
【0039】
そのため、かかる勾配は310ψは、主軸スリーブ100側に設けられた勾配130ψと対応させるために、主軸Msに接続される発電機等の設けられた側であるシールする流体の流出側(低圧側)から、主軸Msに接続されるランナ800等の設けられた側であるシールする流体の流入側(高圧側)にかけて形成されている。
【0040】
そして、ラビリンスライナ300が主軸Msに配置された場合には、主軸Msの軸線に対して、シールする流体の低圧側から高圧側にかけて、リングの中心軸Axからの距離が当該中心軸Axに沿って大きくなるように、傾斜が形成されている。
【0041】
また、ラビリンスライナ300の内周面には、上述のような基本形態を有する代表面310Sに対して、流路空間(ラビリンス)350を構成する凹部が形成されている。かかる流路空間350は、ラビリンスライナ300の内表面に設けることで、流入する流体の圧力損失を生じさせ、回転する主軸Msの封水(シール)を行うものである。
【0042】
そのため、かかる流路空間(ラビリンス)350の形態は、想定される流体の圧力等を考慮して決定することが可能であるが、例えば、
図2等に記載されたように、ラビリンスライナの代表面310S上に、主軸Msの廻りを取り囲むように形成された断面が矩形状の凹部を、主軸Msに沿った方向に複数配列することにより形成することが可能である。
【0043】
また、上記ラビリンスライナ300は、基本的にはリング状の形態を有しているが、主軸Msを取り囲むようにケーシング700の内部に固定できれば、複数の部分を組み合わせて構成することも可能である。そのため、ラビリンスライナ300は、例えば、ラビリンスライナ300を構成するリングの円周方向に分割された2つの半円状の形態、或いは、複数の扇状の形態等に分割した部分を組み合わせるなどして、構成することが可能である。
【0044】
以上のような構成を有する主軸スリーブ100とラビリンスライナ300とは、例えば、
図4のように組み合わせて主軸Ms廻りに配置することが可能である。
【0045】
ここで、
図4は、本発明による主軸スリーブとラビリンスライナとを組み合わせた状態の例を示す断面図であり、図中の点線はラビリンスギャップを示し、鎖線は主軸を仮想的に示したものである。
【0046】
そして、上述した例のように、勾配1/25と構成した場合には、主軸スリーブ100の外周面とラビリンスライナ300の内周面310Sとのギャップ(ラビリンスギャップ200)の間隔は、主軸スリーブ100の外径寸法によるが、例えば、200mm以下であれば、0.3mmを基準とする事が可能である。そのため、仮に、ギャップ0mmの状態から0.3mmのギャップを確保するには、ラビリンスライナ300の移動代は、7.5mmとなる。
【0047】
次に、上記ラビリンスライナ300をケーシング700に固定するジャッキボルト500について説明する。
【0048】
本発明ではラビリンスギャップ200の拡大による問題(流体の漏出量の増大等)が生じた場合には、ジャッキボルト500により上記ラビリンスライナ300を摺動させてラビリンスギャップ200の調整が容易にできるように構成されている。
【0049】
そして、かかるジャッキボルト500については、その機能が達成されれば、どのようなものでも良いが、例えば、
図5に記載したように、固定ボルト510と、調整ボルト530と、固定用ナット550との組み合わせをジャッキボルト500として、ラビリンスギャップ200の調整を行う事も可能である。
【0050】
ここで、
図5は、本発明によるラビリンスシールLS200の配置された主軸Ms部分について、その一部を拡大して例示した断面図であり、(A)はラビリンスギャップ200が摩耗等で拡大する前のジャッキボルト500の初期の状態を一部半断面図で示し、(B)は、ラビリンスギャップ200が拡大したことにより、ジャッキボルト500でラビリンスギャップ200を調整した後の状態を一部半断面図で示したものである。
【0051】
図5(A)に記載された例では、外周面に雄ネジを有する穴付き調整ボルト530が、ラビリンスライナ300のジャッキボルト用孔371に形成された雌ネジに螺入されており、当該穴付き調整ボルト530の先端がケーシング700に当接している。
【0052】
そして当該穴付き調整ボルト530の中心軸に沿って形成された穴には、六角穴付き無頭ボルトが挿通されており、当該六角穴付き無頭ボルトは、固定ボルト510として、ケーシング700に形成された、内部に雌ネジを有するケーシング側ジャッキボルト用孔750に螺入され、穴付き調整ボルト530の頭部側の軸方向に隣接して配置された固定用ナット550により、固定されている。
【0053】
そのため、上記のように構成されるジャッキボルト500によりラビリンスライナ300を移動させようとする場合には、固定用ナット550を緩めてから、穴付き調整ボルト530を回転させる。
【0054】
そうすると、穴付き調整ボルト530の回転に伴い、例えば、
図5(B)に示すように、ラビリンスライナ300が主軸Msに沿った高圧側方向に摺動するため、当該穴付き調整ボルト530とラビリンスライナ300のジャッキボルト用孔371に形成された雌ネジとの螺入位置が変更されることから、固定用ナット550を閉めて固定すれば、ラビリンスライナ300を主軸Msに沿った高圧側方向に保持することが可能である。そのため、このように、ラビリンスライナ300を摺動させることにより、ラビリンスギャップ200を簡単に調整する事が可能である。
【0055】
また、
図6に示した例は、ジャッキボルト500の固定ボルト510として、一端部を四角乃至六角に面取りした無頭ボルトを用いると共に、調整ボルト用固定ナット531と固定ボルト用固定ナット511とを設けた例を、
図5の場合と同様に例示したものである。
【0056】
図6に示した例の場合には、
図5の場合と同様に、外周面に雄ネジを有する穴付き調整ボルト530が、ラビリンスライナ300のフランジ側ジャッキボルト用孔371に形成された雌ネジに螺入されており、当該穴付き調整ボルト530の先端がケーシング700に当接している。
【0057】
そして、当該穴付き調整ボルト530には、一端側を四角乃至六角に面取りした無頭ボルト510が挿通されており、当該無頭ボルトは、固定ボルト510として、ケーシング700に形成され雌ネジの設けられたケーシング側ジャッキボルト用孔750に螺入されている。
【0058】
そして更に、穴付き調整ボルト530の頭部とラビリンスライナ300のフランジ370との間では、フランジ側ジャッキボルト用孔371の軸方向に隣接して配置された調整ボルト用固定ナット531により、穴付き調整ボルト530が締結されている。
【0059】
また、この際、固定ボルト510は、穴付き調整ボルト530の頭部側に隣接して配置された固定ボルト用固定ナット511により、固定されている。
【0060】
そのため、
図6に示したように構成されるジャッキボルト500によりラビリンスライナ300を移動させようとする場合には、最初に、調整ボルト用固定ナット531(若しくは調整ボルト用固定ナット531及び固定ボルト用固定ナット511)を緩めてから、穴付き調整ボルト530を回転させる。
【0061】
そうすると、穴付き調整ボルト530の回転に伴い、例えば、
図6(B)に示すように、ラビリンスライナ300が主軸Msに沿った高圧側方向に摺動するため、当該穴付き調整ボルト530とラビリンスライナ300のフランジ側ジャッキボルト用孔371に形成された雌ネジとの螺入位置が変更されることから、調整ボルト用固定ナット531(若しくは調整ボルト用固定ナット531及び固定ボルト用固定ナット511)を閉めれば、ラビリンスライナ300を主軸Msに沿った高圧側方向に保持することが可能である。そのため、このように、ラビリンスライナ300を摺動させることにより、ラビリンスギャップ200を簡単に調整する事が可能である。
【0062】
以上の例のように説明される本発明によれば、主軸スリーブとラビリンスライナとの対向面の間隔(ラビリンスギャップ)をジャッキボルトにより、極めて容易に調整することが可能である。そのため、比較的簡単な作業で、低コストにラビリンスギャップの調整が可能であり、漏水が生じた場合には、その漏出量に応じてラビリンスギャップの調整を行えば容易に漏水を停止できることから、定期点検の必要性が激減し、封水装置自体の価格の低減も可能である。
【0063】
したがって、従来は、土砂混入率にもよるが、土砂が多い発電所では、半年の運転でラビリンスシールのギャップが増大して、漏水が生じ、飛散防止カバーの軸貫通部から水が噴き出すことが多かったが、そのような場合でも、本発明によれば、ギャップを簡単に調整することが可能である。
【0064】
そして、かかるギャップの調整は、例えば、飛散防止カバーのみの分解で可能であるために、作業日数も半日程度の短期間で可能である。
【0065】
また、費用面では、封水装置自体の価格を100%とするならば、ラビリンスライナおよび主軸スリーブが占める価格が従来価格の25%であったが、本発明によるアジャストタイプのラビリンスシールにすることで、費用が激減される。また、交換費用として、従来は3日程度掛かっていたものが半日で済むことから、従来の約17%程度の工事費で済むようになるという利点が有る。
【0066】
また、通常、毎年行う定期点検は、例えば、水車部品の異常の有無を確認するのが主目的であるが、特に問題の無い発電所が多いことも確かである。そこで、本発明によるアジャストタイプのラビリンスシールによれば、漏水が生じたときに、適宜ラビリンスシールのギャップを調整できるので、毎年の定期点検の必要性が激減し、効率的である。
【0067】
なお、以上に説明した発明の構成例は、本発明の実施の一形態を示したものであり、本発明の趣旨の範囲で、各構成を適宜変更して用いることが可能である。
【0068】
そのため、例えば、ジャッキボルトの構成は、本発明の趣旨の範囲で、任意の形態の物や組み合わせを採用する事が可能であり、また、固定ボルトのケーシングへの固定等も、ケーシング側ジャッキボルト用孔の内側に雌ネジを設ける事ではなく、固定ナットをケーシングに溶接する等して行う事も可能である。
【0069】
また、ラビリンスライナのフランジに設けられたジャッキボルト用孔の数は、ラビリンスライナの固定(保持)に必要な強度を保てれば任意であり、フランジの根元に設けられた停止環の構成も特に限定を設けるものでは無い。そのため、その機能を発揮できれば、任意の構成を採用する事が可能である。
【0070】
また、同様に、ラビリンスギャップの勾配の大きさや、初期のラビリンスギャップの間隔の大きさ、ラビリンス(流路空間)の形態等も、使用する流体機械の性質や流水の状況に応じて、適切に設定して用いる事が可能である。
【符号の説明】
【0071】
100 900 主軸スリーブ
110 主軸スリーブの内周面
130 903 主軸スリーブの外周面
130ψ 主軸スリーブの外周面の勾配
200 ラビリンスギャップ
200d ラビリンスギャップの間隔
200ψ ラビリンスギャップの勾配
300 930 ラビリンスライナ
310S 931S ラビリンスライナの内周面の代表面
310ψ ラビリンスライナの内周面の代表面の勾配
330 ラビリンスライナの外周面
350 950 流路空間(ラビリンス)
370 フランジ
371 フランジ側ジャッキボルト用孔
390 停止環
500 ジャッキボルト
510 固定ボルト
511 固定ボルト用固定ナット
530 調整ボルト
531 調整ボルト用固定ナット
550 固定用ナット
700 ケーシング
710 飛散防止カバー
730 ラビリンスシール摺動面
731 摺動凹部
733 停止部
750 ケーシング側ジャッキボルト用孔
800 ランナ
810 ランナ羽根
820 ステイベーン
830 ガイドベーン
960 導水管
970 吸出し曲管
Ax 主軸スリーブ又はラビリンスライナを構成するリングの中心軸
Ms 主軸
LS100 LS200 ラビリンスシール