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特開2023-162619発電プラント制御装置、発電プラント制御方法、及び、発電プラント制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162619
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】発電プラント制御装置、発電プラント制御方法、及び、発電プラント制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/36 20060101AFI20231101BHJP
【FI】
G05B11/36 505A
G05B11/36 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073068
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 健文
(72)【発明者】
【氏名】濱田 昌輝
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004GA03
5H004GB04
5H004HA14
5H004HB14
5H004JA03
5H004JA12
5H004JA14
5H004JA29
5H004KB02
5H004KB05
(57)【要約】
【課題】発電プラントの負荷追従制御において負荷要求値に対する実負荷値のオーバーシュートを好適に調整する。
【解決手段】発電プラント制御装置は、負荷要求値取得部、実負荷値取得部、バイアス値算出部、及び、制御信号生成部を備える。負荷要求値取得部は、発電プラントに対する負荷要求値を取得する。実負荷値取得部は、発電プラントの実負荷値を取得する。バイアス値算出部は、負荷要求値と実負荷値との第1偏差に基づいて、負荷要求値に対するバイアス値を算出する。制御信号生成部は、負荷要求値にバイアス値が加算された加算後負荷要求値と実負荷値との第2偏差に基づいて、発電プラントに対する制御信号を生成する。バイアス値算出部は、第1偏差がゼロを含む第1範囲において、負荷要求値の絶対値を増加するようにバイアス値を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電プラントに対する負荷要求値を取得するための負荷要求値取得部と、
前記発電プラントの実負荷値を取得するための実負荷値取得部と、
前記負荷要求値と前記実負荷値との第1偏差に基づいて、前記負荷要求値に対するバイアス値を算出するためのバイアス値算出部と、
前記負荷要求値に前記バイアス値が加算された加算後負荷要求値と前記実負荷値との第2偏差に基づいて、前記発電プラントに対する制御信号を生成するための制御信号生成部と、
を備え、
前記バイアス値算出部は、前記第1偏差がゼロを含む第1範囲において、前記負荷要求値の絶対値を増加するように前記バイアス値を算出する、発電プラント制御装置。
【請求項2】
前記バイアス値算出部は、前記第1偏差の絶対値が第1閾値未満になった場合に、前記バイアス値をデフォルト値に切り替えるように構成される、請求項1に記載の発電プラント制御装置。
【請求項3】
前記バイアス値は、前記第1範囲において一定の絶対値を有する、請求項1又は2に記載の発電プラント制御装置。
【請求項4】
前記バイアス値は、前記第1偏差の絶対値が前記第1範囲より大きな第2範囲において、前記バイアス値の絶対値が前記第1範囲より大きい、請求項1又は2に記載の発電プラント制御装置。
【請求項5】
前記バイアス値は、前記第2範囲において一定の絶対値を有する、請求項4に記載の発電プラント制御装置。
【請求項6】
前記制御信号生成部は、前記負荷要求値の変化レートを制限した制限後負荷要求値に前記バイアス値を加算した前記加算後負荷要求値と前記実負荷値との差分として、前記第2偏差を算出する、請求項1又は2に記載の発電プラント制御装置。
【請求項7】
発電プラントに対する負荷要求値を取得する工程と、
前記発電プラントの実負荷値を取得する工程と、
前記負荷要求値と前記実負荷値との第1偏差に基づいて、前記負荷要求値に対するバイアス値を算出する工程と、
前記負荷要求値に前記バイアス値が加算された加算後負荷要求値と前記実負荷値との第2偏差に基づいて、前記発電プラントに対する制御信号を生成する工程と、
を備え、
前記バイアス値を算出する工程では、前記第1偏差がゼロを含む第1範囲において、前記負荷要求値の絶対値を増加するように前記バイアス値が算出される、発電プラント制御方法。
【請求項8】
コンピュータに、
発電プラントに対する負荷要求値を取得する工程と、
前記発電プラントの実負荷値を取得する工程と、
前記負荷要求値と前記実負荷値との第1偏差に基づいて、前記負荷要求値に対するバイアス値を算出する工程と、
前記負荷要求値に前記バイアス値が加算された加算後負荷要求値と前記実負荷値との第2偏差に基づいて、前記発電プラントに対する制御信号を生成する工程と、
を実行可能であり、
前記バイアス値を算出する工程では、前記第1偏差がゼロを含む第1範囲において、前記負荷要求値の絶対値を増加するように前記バイアス値を設定する関数に基づいて、前記バイアス値が算出される、発電プラント制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発電プラント制御装置、発電プラント制御方法、及び、発電プラント制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
発電した電力を電力系統に対して供給する発電プラントでは、電力系統のコントロールを行う中央給電指令所から、電力系統の需給状態に応じた給電指令として負荷要求値を受信する。中央給電指令所からの負荷要求値は電力系統の需給状態に応じて変化するため、発電プラントでは、負荷要求値の変化に基づく発電状態の制御が行われる。
【0003】
この種の発電プラントの制御は、例えば、中央給電指令所から受信した負荷要求値と、発電プラントで得られる実負荷値との偏差に基づいて、所定のゲインや時定数が設定されたPI制御によって、発電プラントの実負荷値が負荷要求値に追従するように行われる。例えば特許文献1では、PI制御の入力となる中央給電指令所から受信した負荷要求値と、発電プラントで得られる実負荷値との偏差に対して、当該偏差に比例するバイアス値を加算することで、負荷要求値の変化に対応する実負荷値の応答性を改善した発電プラントの制御技術に関する開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1-257704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
負荷要求値の変化に対して発電プラントの実負荷値をPI制御によって良好に追従させるためには、PI制御に関するゲインや時定数等のパラメータ調整が有効である。しかしながら、これらの制御パラメータは発電プラントの構成機器の特性に依存するため、変更するためにはプラント全体の制御設計の大幅な見直しが必要であり、容易ではない。そこで上記特許文献1では、このようなパラメータ調整ではなく、PI制御器に入力される偏差に対してバイアス値を加算するという解決手段を採用している。しかしながら特許文献1では、偏差に比例するバイアス値を用いるため、例えば、実負荷値が負荷要求値に近づいた場合(言い換えると、変化推移する負荷要求値の目標負荷値に、発電プラントの実負荷値が到達する近傍)では偏差が小さくなるため、バイアス値もまた小さくなり、バイアス値による恩恵が得られにくくなってしまう。
【0006】
また発電プラントの制御では、実負荷値を負荷要求値の目標負荷値に確実に到達させるために、負荷要求値の推移に対して実負荷値がある程度の大きさのオーバーシュートを有することが要求される場合がある。このような場合、オーバーシュートの大きさを調整するためにバイアス値を適切に設定することが望ましいが、特許文献1のように偏差に比例するバイアス値では、前述のように発電プラントの実負荷値が負荷要求値の目標負荷値に到達する近傍ではバイアス値が小さくなってしまうため、このような要求に応えることが難しい。
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、発電プラントの負荷追従制御において負荷要求値に対する実負荷値のオーバーシュートを好適に調整可能な発電プラント制御装置、発電プラント制御方法、及び、発電プラント制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態に係る発電プラント制御装置は、上記課題を解決するために、
発電プラントに対する負荷要求値を取得するための負荷要求値取得部と、
前記発電プラントの実負荷値を取得するための実負荷値取得部と、
前記負荷要求値と前記実負荷値との第1偏差に基づいて、前記負荷要求値に対するバイアス値を算出するためのバイアス値算出部と、
前記負荷要求値に前記バイアス値が加算された加算後負荷要求値と前記実負荷値との第2偏差に基づいて、前記発電プラントに対する制御信号を生成するための制御信号生成部と、
を備え、
前記バイアス値算出部は、前記第1偏差がゼロを含む第1範囲において、前記負荷要求値の絶対値を増加するように前記バイアス値を算出する。
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態に係る発電プラント制御方法は、上記課題を解決するために、
発電プラントに対する負荷要求値を取得する工程と、
前記発電プラントの実負荷値を取得する工程と、
前記負荷要求値と前記実負荷値との第1偏差に基づいて、前記負荷要求値に対するバイアス値を算出する工程と、
前記負荷要求値に前記バイアス値が加算された加算後負荷要求値と前記実負荷値との第2偏差に基づいて、前記発電プラントに対する制御信号を生成する工程と、
を備え、
前記バイアス値を算出する工程では、前記第1偏差がゼロを含む第1範囲において、前記負荷要求値の絶対値を増加するように前記バイアス値が算出される。
【0010】
本開示の少なくとも一実施形態に係る発電プラント制御プログラムは、上記課題を解決するために、
コンピュータに、
発電プラントに対する負荷要求値を取得する工程と、
前記発電プラントの実負荷値を取得する工程と、
前記負荷要求値と前記実負荷値との第1偏差に基づいて、前記負荷要求値に対するバイアス値を算出する工程と、
前記負荷要求値に前記バイアス値が加算された加算後負荷要求値と前記実負荷値との第2偏差に基づいて、前記発電プラントに対する制御信号を生成する工程と、
を実行可能であり、
前記バイアス値を算出する工程では、前記第1偏差がゼロを含む第1範囲において、前記負荷要求値の絶対値を増加するように前記バイアス値を設定する関数に基づいて、前記バイアス値が算出される。
【発明の効果】
【0011】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、発電プラントの負荷追従制御において負荷要求値に対する実負荷値のオーバーシュートを好適に調整可能な発電プラント制御装置、発電プラント制御方法、及び、発電プラント制御プログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る発電プラント制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図2図1のバイアス値算出部が有する関数を示す図である。
図3】一実施形態に係る発電プラント制御方法を示すフローチャートである。
図4】中央給電指令所から受信する負荷要求値が特定の振る舞いをした場合に、発電プラント制御装置の各種信号の推移を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0014】
図1は一実施形態に係る発電プラント制御装置100の概略構成を示すブロック図である。発電プラント制御装置100は、発電プラント(不図示)に対して制御信号を送信することにより発電プラントの運転状態を制御するための装置であり、制御対象である発電プラントは、限定されない。
【0015】
発電プラント制御装置100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。尚、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0016】
図1では、発電プラント制御装置100の構成が、プログラムを実行することにより実現される各種機能に対応するように示されている。発電プラント制御装置100は、負荷要求値取得部102と、レート制限部103と、実負荷値取得部104と、バイアス値算出部106と、制御信号生成部108と、を備える。
尚、図1に示す構成は後述の機能説明に対応するように例示的に示したものであり、複数の機能ブロックが統合されていてもよいし、特定の機能ブロックが更に細分化されていてもよい。
【0017】
負荷要求値取得部102は、発電プラントに対する負荷要求値Lrを取得するための構成である。負荷要求値取得部102は、発電プラントが発電した電力の供給先である電力系統をコントロールする中央給電指令所から、電力系統の需給状態に応じた給電指令を受信するための構成である。
【0018】
負荷要求値取得部102で取得された負荷要求値Lrは、レート制限部103に入力される。レート制限部103は、負荷要求値Lrの変化がレート制限値を超える場合には、その変化がレート制限値になるようにリミット制御を行うための構成である。これにより、図4を参照して後述するように、負荷要求値Lrの変化が急激である場合においても、制御信号の急変を防止し、発電プラントの状態を安定的に維持することができる。
【0019】
実負荷値取得部104は、発電プラントの実負荷値Lmを取得するための構成である。実負荷値Lmの取得は、例えば、発電プラントに設置された各種センサ、又は、発電プラントに対する制御パラメータを検出した結果、或いは、その結果を利用した演算結果に基づいて行われる。
【0020】
バイアス値算出部106は、負荷要求値Lrと実負荷値Lmとの第1偏差ΔL1に基づいて、負荷要求値Lrに対するバイアス値Lbを算出するための構成である。本実施形態では、第1偏差ΔL1とバイアス値Lbとの関係を規定する関数fxに関する情報がメモリ等の記憶装置(不図示)に予め記憶されており、バイアス値算出部106は当該記憶装置から読み出された関数fxに対して、第1偏差ΔL1を入力することにより、対応するバイアス値Lbを算出する。
【0021】
図2図1のバイアス値算出部106が有する関数fxを示す図である。図2では、横軸に第1偏差ΔL1、縦軸にバイアス値Lbが示されている。
【0022】
関数fxは、第1偏差ΔL1がゼロを含む第1範囲R1において、負荷要求値Lrの絶対値を増加するように規定される。第1範囲R1は、第1偏差ΔL1の絶対値がゼロを含み、且つ、基準値ΔLref以下(|ΔL1|≦ΔLref)で規定される。本実施形態では、第1範囲R1において関数fxは、一定のバイアス値Lbを有するように規定されており、具体的には、第1範囲R1のうち第1偏差ΔL1が正の範囲(0≦ΔL1≦ΔLref)では、バイアス値Lbは、第1偏差ΔL1に関わらず、一定の第1値「+Lb1」を有する(尚、「Lb1」は正の値)。一方、第1範囲R1のうち第1偏差ΔL1が負の範囲(-ΔLref≦ΔL1<0)では、バイアス値Lbは、第1偏差ΔL1に関わらず、一定の第1値「-Lb1」を有する。
【0023】
また関数fxは、第1範囲R1より第1偏差ΔL1の絶対値が大きな第2範囲R2(ΔLref<|ΔL1|)において、第1範囲R1より負荷要求値Lrの絶対値が大きくなるようにバイアス値Lbを規定される。本実施形態では、第2範囲R2において関数fxは、一定のバイアス値Lbを有するように規定されており、具体的には、第2範囲R2のうち正の範囲(ΔLref<ΔL1)では、バイアス値Lbは、第1偏差ΔL1に関わらず、一定の第2値「+Lb2」を有する(尚、「Lb2」は第1値「Lb1」より大きな正の値)。一方、一方、第2範囲R2のうち第1偏差ΔL1が負の範囲(ΔL1<-ΔLref)では、バイアス値Lbは、第1偏差ΔL1に関わらず、一定の第2値「-Lb2」を有する。
【0024】
またバイアス値算出部106は、第1偏差ΔL1に基づいて、バイアス値の出力結果を切り替えるための切替部107を有する。切替部107は、バイアス値算出部106の出力結果として、関数fxによる演算結果と、予め設定されたデフォルト値SG(例えばゼロ)とを切り替えるためのスイッチTとして構成される。スイッチTは、第1偏差ΔL1の絶対値が閾値以上である場合に関数fxによる演算結果が選択され、第1偏差ΔL1の絶対値が閾値未満である場合にデフォルト値SGが選択されるように切り替えられる。図1では、このようなスイッチTの切替動作を実現するための構成として、第1偏差ΔL1が正である場合の条件判定を行うための正側条件判定部109aと、第1偏差ΔL1が負である場合の条件判定を行うための負側条件判定部109bとが示されている。
【0025】
図1に戻って、このようにバイアス値算出部106で算出されたバイアス値Lbは、レート制限部103の出力に対して加算されることで、加算後負荷要求値Laとなる。制御信号生成部108は、バイアス値Lbが加算された加算後負荷要求値Laと実負荷値Lmとの第2偏差ΔL2に基づいて、発電プラントに対する制御信号を生成するための構成である。制御信号生成部108は、例えばPI制御器として構成され、第2偏差ΔL2に対応する制御信号を発電プラントに送信することにより、発電プラントを制御する。
【0026】
続いて上記構成を有する発電プラント制御装置100によって実施される発電プラント制御方法について説明する。図3は一実施形態に係る発電プラント制御方法を示すフローチャートである。
【0027】
まず発電プラント制御装置100は、負荷要求値取得部102によって、中央給電指令所から受信した負荷要求値Lrを取得する(ステップS1)。負荷要求値取得部102は、取得した負荷要求値Lrをレート制限部103に入力することで、負荷要求値Lrの変化レートが、予め設定された基準値以下になるように制限される(ステップS2)。
【0028】
続いて実負荷値取得部104は、発電プラントの実負荷値Lmを取得する(ステップS3)。バイアス値算出部106は、ステップS1で取得された負荷要求値Lrと、ステップS3で取得された実負荷値Lmとの第1偏差ΔL1を算出し(ステップS4)、第1偏差ΔL1に基づいてバイアス値Lbを算出する(ステップS5)。バイアス値算出部106から出力されるバイアス値Lbは、レート制限部103の出力に対して加算されることで、加算後負荷要求値Laが算出される(ステップS6)。
【0029】
続いて制御信号生成部108は、ステップS6で算出された加算後負荷要求値Laと、ステップS3で取得された実負荷値Lmとの第2偏差ΔL2を算出し(ステップS7)、第2偏差ΔL2に基づいて制御信号を生成する(ステップS8)。制御信号は発電プラントに送信されることで、発電プラントの制御が実施される(ステップS9)。
【0030】
続いて具体例な発電プラント制御装置100の動作について説明する。図4は中央給電指令所から受信する負荷要求値Lrが特定の振る舞いをした場合に、発電プラント制御装置100の各種信号の推移を示すタイムチャートである。具体的には、図4では、負荷要求値取得部102で取得される負荷要求値Lr、レート制限部103から取得される制限後負荷要求値Lr´、制限後負荷要求値Lr´にバイアス値算出部106で算出されたバイアス値Lbが加算された加算後負荷要求値La、及び、実負荷値取得部104で取得される発電プラントの実負荷値Lmについて、それぞれの時間的変化が示されている。
【0031】
この例では、中央給電指令所から受信する負荷要求値Lrが、時刻t1において急増した場合が示されている。このような負荷要求値Lrは、負荷要求値取得部102によって取得され、レート制限部103に入力されることによって、その変化レートが予め設定されたレート制限値に制限される。図4では、レート制限部103の出力値である制限後負荷要求値Lr´が、時刻t1から所定の変化レート(レート制限値)で次第に増加し、時刻t2において第2値Lr2に達する振る舞いが示されている。
【0032】
また図4では、レート制限部103から出力される制限後負荷要求値Lr´に対して、バイアス値算出部106によって算出されたバイアス値Lbが加算された加算後負荷要求値Laの推移が示されている。時刻t1では、負荷要求値Lrと実負荷値Lmとの第1偏差ΔL1が十分に大きく第2範囲R2にあるため(ΔL1>ΔLref)、バイアス値算出部106は、関数fxを用いて第1偏差ΔL1に対応する第2値Lb2を、バイアス値として算出する。図2を参照して前述したように、関数fxにおいて第2値Lb2は第1値Lb1より大きく設定されているため、このように第1偏差ΔL1が大きな場合にはバイアス値Lbを大きくすることで、負荷要求値Lrの変化に対して良好な応答性で追従することができる。
【0033】
時刻t2では、負荷要求値Lrと実負荷値Lmとの第1偏差Δ1が小さくなることにより(ΔL1≦ΔLref)、関数fxにおいて第2範囲R2から第1範囲R1に移行する。これにより、バイアス値算出部106は、関数fxに基づいて第1偏差ΔL1に対応する第1値Lb1を、バイアス値として算出する。図2を参照して前述したように、関数fxにおいて第1値Lb1は第2値Lb2より小さく設定されているため、時刻t2以降では時刻t2以前に比べて、バイアス値Lbが加算された加算後負荷要求値Laが減少している。このように第1偏差ΔL1が小さくなることで負荷要求値Lrに実負荷値Lmが近づくと、バイアス値Lbの大きさを減少させることで、実負荷値Lmが目標負荷値に収束するように、増加具合が調整される。
【0034】
そして時刻t3において実負荷値Lmが負荷要求値Lrに達すると、バイアス値算出部106は、バイアス値Lbとしてデフォルト値が出力されるようにスイッチTを切り替える。これにより、バイアス値算出部106から出力されるバイアス値Lbがデフォルト値(ゼロ)になるため、実負荷値Lmは、負荷要求値Lrに対して適度なオーバーシュートを示しながら、負荷要求値Lrに収束するように推移する。
【0035】
以上説明したように上記実施形態によれば、負荷要求値Lr及び実負荷値Lmの第1偏差ΔL1に基づいて算出されたバイアス値Lbが、負荷要求値に加算された結果に基づいて、発電プラントに対する制御信号が生成される。バイアス値Lbは、第1偏差ΔL1がゼロを含む第1範囲R1において、負荷要求値Lrの絶対値を増加するように算出される。これにより、発電プラントの実負荷値Lmが負荷要求値Lrに到達する近傍において第1偏差ΔL1が比較的小さくなる第1範囲R1であっても、有効な大きさを有するバイアス値Lbが得られる。そのため、このようなバイアス値Lbが加算されることで生成された制御信号に基づいて発電プラントを制御することで、発電プラントの実負荷値Lmが負荷要求値Lrに到達する近傍におけるオーバーシュートの大きさを好適に調整し、実負荷値Lmを負荷要求値Lrに的確に到達可能な発電プラント制御を実現できる。
【0036】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0037】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0038】
(1)一態様に係る発電プラント制御装置は、
発電プラントに対する負荷要求値(Lr)を取得するための負荷要求値取得部(102)と、
前記発電プラントの実負荷値(Lm)を取得するための実負荷値取得部(104)と、
前記負荷要求値と前記実負荷値との第1偏差(ΔL1)に基づいて、前記負荷要求値に対するバイアス値(Lb)を算出するためのバイアス値算出部(106)と、
前記負荷要求値に前記バイアス値が加算された加算後負荷要求値と前記実負荷値との第2偏差(ΔL2)に基づいて、前記発電プラントに対する制御信号を生成するための制御信号生成部(108)と、
を備え、
前記バイアス値算出部は、前記第1偏差がゼロを含む第1範囲(R1)において、前記負荷要求値の絶対値を増加するように前記バイアス値を算出する。
【0039】
上記(1)の態様によれば、負荷要求値及び実負荷値の第1偏差に基づいて算出されたバイアス値が、負荷要求値に加算された結果に基づいて、発電プラントに対する制御信号が生成される。バイアス値は、第1偏差がゼロを含む第1範囲において、負荷要求値の絶対値を増加するように算出される。これにより、発電プラントの実負荷値が負荷要求値に到達する近傍において第1偏差が比較的小さくなる第1範囲であっても、有効な大きさを有するバイアス値が得られる。そのため、このようなバイアス値が加算されることで生成された制御信号に基づいて発電プラントを制御することで、発電プラントの実負荷値が負荷要求値に到達する近傍におけるオーバーシュートの大きさを好適に調整し、実負荷値を負荷要求値に的確に到達可能な発電プラント制御を実現できる。
尚、発電プラントの実負荷値は、例えば発電プラントが備える発電機の出力値として取得可能である。
尚、発電プラントに対する制御信号の具体例としては、発電プラントで用いられるガスタービンの燃料投入量に関する制御信号であってもよいし、発電プラントで用いられる蒸気タービンの蒸気供給量に関する制御信号であってもよく、或いは、これらの両方を含んでもよい。
【0040】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記バイアス値算出部は、前記第1偏差の絶対値が閾値(ΔLref)未満になった場合に、前記バイアス値をデフォルト値に切り替えるように構成される。
【0041】
上記(2)の態様によれば、負荷要求値と実負荷値との偏差の絶対値が第1閾値未満になった場合には、バイアス値がデフォルト値(例えばゼロ)に切り替えられる。これにより、バイアス値が加算されていない本来の負荷要求値と実負荷値との偏差に基づいて算出される制御信号によって発電プラントを制御することで、負荷要求値の目標負荷値に対して実負荷値を適度なオーバーシュートを経て精度よく収束させることができる。
【0042】
(3)他の態様では、上記(1)又は(2)の態様において、
前記バイアス値は、前記第1範囲において一定の絶対値を有する。
【0043】
上記(3)の態様によれば、バイアス値の絶対値は、第1範囲において、負荷指令値と実負荷値との偏差の大きさに関わらず一定に算出される。これにより、バイアス値が偏差に対して比例する大きさを有する場合に比べて、発電プラントの実負荷値が負荷要求値に到達する近傍において第1偏差が比較的小さくなる第1範囲であっても、有効な大きさを有するバイアス値を得られる。
【0044】
(4)他の態様では、上記(1)から(3)のいずれか一態様において、
前記バイアス値は、前記第1偏差の絶対値が前記第1範囲より大きな第2範囲(R2)において、前記バイアス値の絶対値が前記第1範囲より大きい。
【0045】
上記(4)の態様によれば、負荷指令値と実負荷値との偏差の絶対値が比較的大きくなる第2範囲では、バイアス値の絶対値もまた大きくなるように算出される。これにより、負荷指令値と実負荷値との偏差が大きい場合(すなわち負荷指令値と実負荷値とが大きく乖離している場合)、大きな絶対値を有するバイアス値を加算することで、負荷要求値に対する発電プラントの追従制御の応答性を向上できる。
【0046】
(5)他の態様では、上記(4)の態様において、
前記バイアス値は、前記第2範囲において一定の絶対値を有する。
【0047】
上記(5)の態様によれば、バイアス値の絶対値は、第2範囲においても、負荷指令値と実負荷値との偏差の大きさに関わらず一定に算出される。これにより、バイアス値が偏差に対して比例する大きさを有する場合に比べて、第2範囲においても有効な大きさを有するバイアス値を得られる。
【0048】
(6)他の態様では、上記(1)から(5)のいずれか一態様において、
前記制御信号生成部は、前記負荷要求値の変化レートを制限した制限後負荷要求値(Lr´)に前記バイアス値を加算した前記加算後負荷要求値(La)と前記実負荷値との差分として、前記第2偏差を算出する。
【0049】
上記(6)の態様によれば、負荷要求値として、発電プラントに対する負荷指令の変化レートを制限することにより生成された信号を取り扱う発電プラントを好適に制御できる。
【0050】
(7)一態様に係る発電プラント制御方法は、
発電プラントに対する負荷要求値を取得する工程と、
前記発電プラントの実負荷値を取得する工程と、
前記負荷要求値と前記実負荷値との第1偏差に基づいて、前記負荷要求値に対するバイアス値を算出する工程と、
前記負荷要求値に前記バイアス値が加算された加算後負荷要求値と前記実負荷値との第2偏差に基づいて、前記発電プラントに対する制御信号を生成する工程と、
を備え、
前記バイアス値を算出する工程では、前記第1偏差がゼロを含む第1範囲において、前記負荷要求値の絶対値を増加するように前記バイアス値が算出される。
【0051】
上記(7)の態様によれば、負荷要求値及び実負荷値の第1偏差に基づいて算出されたバイアス値が、負荷要求値に加算された結果に基づいて、発電プラントに対する制御信号が生成される。バイアス値は、第1偏差がゼロを含む第1範囲において、負荷要求値の絶対値を増加するように算出される。これにより、発電プラントの実負荷値が負荷要求値に到達する近傍において第1偏差が比較的小さくなる第1範囲であっても、有効な大きさを有するバイアス値が得られる。そのため、このようなバイアス値が加算されることで生成された制御信号に基づいて発電プラントを制御することで、発電プラントの実負荷値が負荷要求値に到達する近傍におけるオーバーシュートの大きさを好適に調整し、実負荷値を負荷要求値に的確に到達可能な発電プラント制御を実現できる。
尚、発電プラントの実負荷値は、例えば発電プラントが備える発電機の出力値として取得可能である。
尚、発電プラントに対する制御信号の具体例としては、発電プラントで用いられるガスタービンの燃料投入量に関する制御信号であってもよいし、発電プラントで用いられる蒸気タービンの蒸気供給量に関する制御信号であってもよく、或いは、これらの両方を含んでもよい。
【0052】
(8)一態様に係る発電プラント制御プログラムは、
コンピュータに、
発電プラントに対する負荷要求値を取得する工程と、
前記発電プラントの実負荷値を取得する工程と、
前記負荷要求値と前記実負荷値との第1偏差に基づいて、前記負荷要求値に対するバイアス値を算出する工程と、
前記負荷要求値に前記バイアス値が加算された加算後負荷要求値と前記実負荷値との第2偏差に基づいて、前記発電プラントに対する制御信号を生成する工程と、
を実行可能であり、
前記バイアス値を算出する工程では、前記第1偏差がゼロを含む第1範囲において、前記負荷要求値の絶対値を増加するように前記バイアス値を設定する関数に基づいて、前記バイアス値が算出される。
【0053】
上記(8)の態様によれば、負荷要求値及び実負荷値の第1偏差に基づいて算出されたバイアス値が、負荷要求値に加算された結果に基づいて、発電プラントに対する制御信号が生成される。バイアス値は、第1偏差がゼロを含む第1範囲において、負荷要求値の絶対値を増加するように算出される。これにより、発電プラントの実負荷値が負荷要求値に到達する近傍において第1偏差が比較的小さくなる第1範囲であっても、有効な大きさを有するバイアス値が得られる。そのため、このようなバイアス値が加算されることで生成された制御信号に基づいて発電プラントを制御することで、発電プラントの実負荷値が負荷要求値に到達する近傍におけるオーバーシュートの大きさを好適に調整し、実負荷値を負荷要求値に的確に到達可能な発電プラント制御を実現できる。
尚、発電プラントの実負荷値は、例えば発電プラントが備える発電機の出力値として取得可能である。
尚、発電プラントに対する制御信号の具体例としては、発電プラントで用いられるガスタービンの燃料投入量に関する制御信号であってもよいし、発電プラントで用いられる蒸気タービンの蒸気供給量に関する制御信号であってもよく、或いは、これらの両方を含んでもよい。
【符号の説明】
【0054】
100 発電プラント制御装置
102 負荷要求値取得部
103 レート制限部
104 実負荷値取得部
106 バイアス値算出部
107 切替部
108 制御信号生成部
109a 正側条件判定部
109b 負側条件判定部
La 加算後負荷要求値
Lb バイアス値
Lm 実負荷値
Lr 負荷要求値
Lr´ 制限後負荷要求値
R1 第1範囲
R2 第2範囲
SG デフォルト値
T スイッチ
fx 関数
図1
図2
図3
図4