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特開2023-162637遮音材、遮音シートおよび航空機用遮音材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162637
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】遮音材、遮音シートおよび航空機用遮音材
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/162 20060101AFI20231101BHJP
【FI】
G10K11/162
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073109
(22)【出願日】2022-04-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、委託期間:令和3年5月12日から令和4年3月18日まで、開発項目「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/空飛ぶクルマ・大型ドローン用途向け超軽量吸音・遮音材料の開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願)
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100121636
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌靖
(72)【発明者】
【氏名】上野 智永
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061AA06
5D061AA22
(57)【要約】
【課題】優れた遮音性および難燃性を有し、かつ、軽量化を図ることができる遮音材、遮音シートおよび航空機用遮音材を提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態による遮音材は、炭素材料と、芳香環含有難燃材とを含み、密度が0.5mg/cm~20mg/cmである多孔質材料を含んでいる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料と、芳香環含有難燃材とを含み、密度が0.5mg/cm~20mg/cmである、多孔質材料を含む、遮音材。
【請求項2】
前記炭素材料は、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェンおよびグラファイトからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の遮音材。
【請求項3】
前記炭素材料は、カーボンナノチューブである、請求項2に記載の遮音材。
【請求項4】
前記芳香環含有難燃材は、リグニン系難燃材である、請求項1に記載の遮音材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の遮音材から構成される、遮音シート。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の遮音材から構成される、航空機用遮音材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮音材、遮音シートおよび航空機用遮音材に関する。
【背景技術】
【0002】
人を乗せて移動する乗り物(移動体)では、乗り心地の向上を図るために、人を乗せる内部空間に遮音性が要求される。そのため、自動車、航空機などの乗り物に遮音材を設けることが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような遮音材は、外部からの音を反射するか、あるいは、吸収することによって遮音する。遮音材は、使用量を増やすことで遮音性能を全体的に向上させられることが可能であるが、乗り物の質量の増加を招くため、高い遮音性能を維持しつつ、より軽量なものが望まれている。また、このような遮音材には、乗り物の安全性の観点から、難燃性を付与することが切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-43388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、優れた遮音性および難燃性を有し、かつ、軽量化を図ることができる遮音材、遮音シートおよび航空機用遮音材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本発明の実施形態による遮音材は、炭素材料と、芳香環含有難燃材とを含み、密度が0.5mg/cm~20mg/cmである、多孔質材料を含んでいる。
【0006】
[2]一つの実施形態は、上記炭素材料が、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェンおよびグラファイトからなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記項目[1]に記載の遮音材である。
【0007】
[3]一つの実施形態は、上記炭素材料がカーボンナノチューブである、上記項目[2]に記載の遮音材である。
【0008】
[4]一つの実施形態は、上記芳香環含有難燃材がリグニン系難燃材である、上記項目[1]から[3]のいずれかに記載の遮音材である。
【0009】
[5]本発明の別の局面による遮音シートは、上記項目[1]から[4]のいずれかに記載の遮音材から構成されている。
【0010】
[6]本発明のさらに別の局面による航空機用遮音材は、上記項目[1]から[4]のいずれかに記載の遮音材から構成されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた遮音性および難燃性を有し、かつ、軽量化を図ることができる遮音材、遮音シートおよび航空機用遮音材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪遮音材≫
本発明の実施形態による遮音材は、炭素材料と、芳香環含有難燃材とを含有する多孔質材料であって、密度が0.5mg/cm~20mg/cmである多孔質材料を含んでいる。本発明の実施形態による遮音材では、炭素材料と芳香環含有難燃材とを含有しているので、軽量化できながら、優れた遮音性および難燃性を確保することができる。上記した遮音材は、代表的には音を吸収することにより遮音できる。JIS-A-1405-2による吸音率測定において、遮音材の周波数1000Hzにおける吸音率は、例えば0.05以上、好ましくは0.19以上、より好ましくは0.20以上、さらに好ましくは0.22以上であり、代表的には1.0以下である。遮音材の周波数2000Hzにおける吸音率は、例えば0.20以上、好ましくは0.38以上、より好ましくは0.50以上、さらに好ましくは0.65以上であり、代表的には1.5以下である。
【0013】
<多孔質材料>
多孔質材料に含有される炭素材料は、遮音材に優れた弾性回復性能を付与し得る。多孔質材料に含まれる炭素材料としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な炭素材料を採用し得る。炭素材料として、例えば、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイトが挙げられる。炭素材料は、単独でまたは組み合わせて使用できる。炭素材料のなかでは、好ましくは、カーボンナノチューブおよびグラフェンが挙げられ、より好ましくは、カーボンナノチューブが挙げられる。カーボンナノチューブは、シングルウォールカーボンナノチューブであってもよく、マルチウォールカーボンナノチューブであってもよい。一つの実施形態において、カーボンナノチューブは、シングルウォールカーボンナノチューブである。
【0014】
カーボンナノチューブの直径は、好ましくは1nm~1000nmであり、より好ましくは1nm~500nmであり、さらに好ましくは1nm~100nmであり、特に好ましくは2nm~50nmである。ここで直径とは、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡で繊維を観察し、その幅を多数測定したものの平均値を指す。カーボンナノチューブの直径が上記範囲内にあれば、遮音材を軽量化でき、かつ、遮音材の遮音性能(代表的には吸音率)の向上を図ることができる。
【0015】
カーボンナノチューブの長さについては、特に限定されないが、好ましくは、直径の200~250000倍である。カーボンナノチューブの長さが直径に対して上記の範囲である場合、後述するクラスター構造の形成が促進され、遮音材の遮音性能(代表的には吸音率)が向上する傾向にある。
【0016】
グラフェンは、酸化グラフェンであってもよいし、還元型酸化グラフェン、ナノグラフェンであってもよい。
【0017】
多孔質材料における上記炭素材料の含有割合は、例えば10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、例えば60質量%以下、好ましくは50質量%以下である。多孔質材料における炭素材料の含有割合が上記範囲内にあれば、多孔質材料が炭素材料と芳香環含有難燃材とをバランスよく含有できる。そのため、遮音材を安定して軽量化でき、かつ、遮音材に優れた弾性回復性能を安定して発現できる。
【0018】
多孔質材料に含有される芳香環含有難燃材は、炭素材料と併用されることで、遮音材に優れた弾性回復性能および遮音性能をバランスよく付与し得る。芳香環含有難燃材は、芳香族環を含有する化合物であって、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な芳香環含有難燃材を採用し得る。芳香環含有難燃材の具体例として、リグニン系難燃材、ナフタレン系難燃材、フェノール系難燃材が挙げられる。
【0019】
リグニン系難燃材として、例えば、リグニン抽出物;リグニンスルホン酸ナトリウム塩、リグニンスルホン酸カルシウム塩、リグニンスルホン酸マグネシウム塩などのリグニンスルホン酸アルカリ(土類)金属塩;クラフトリグニン;リグニンアルカリが挙げられる。リグニンスルホン酸塩は、例えば木材を亜硫酸ナトリウムで処理して得られる。リグニンスルホン酸塩を酸化、加水分解、脱メチル化した後、pHをアルカリ性に調整して水溶性を改善したものをリグニンアルカリと称することがある。
【0020】
ナフタレン系難燃材として、例えば、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物などのナフタレンスルホン酸縮合物が挙げられる。
【0021】
フェノール系難燃材として、例えば、フェノールとホルムアルデヒドとの反応生成物であるレゾールが挙げられる。
【0022】
これら芳香環含有難燃材は、単独でまたは組み合わせて使用できる。芳香環含有難燃材のなかでは、好ましくはリグニン系難燃材およびナフタレン系難燃材が挙げられ、より好ましくはリグニン系難燃材が挙げられる。芳香環含有難燃材がリグニン系難燃材であると、芳香環含有難燃材がナフタレン系難燃材である場合よりも、遮音材における弾性回復性能の向上を図ることができる。
リグニン系難燃材のなかでは、好ましくはリグニンスルホン酸アルカリ(土類)金属塩が挙げられ、より好ましくはリグニンスルホン酸アルカリ金属塩が挙げられ、さらに好ましくはリグニンスルホン酸ナトリウム塩が挙げられる。リグニン系難燃材がリグニンスルホン酸アルカリ金属塩を含んでいると、遮音材の遮音性能(吸音率)のさらなる向上を図ることができる。
【0023】
芳香環含有難燃材の含有割合は、炭素材料および芳香環含有難燃材の総和を100質量%としたときに、例えば40質量%以上、好ましくは50質量%以上であり、例えば90質量%以下、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。多孔質材料における芳香環含有難燃材の含有割合は、例えば20質量%~90質量%であり、好ましくは40質量%~80質量%であり、より好ましくは50質量%~70質量%である。芳香環含有難燃材の含有割合が上記範囲内にあれば、遮音材を安定して軽量化でき、かつ、遮音材の難燃性のさらなる向上を図ることができる。
【0024】
多孔質材料において、炭素材料および芳香環含有難燃材の総和の含有割合は、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上であり、代表的には100質量%以下である。多孔質材料は、炭素材料および芳香環含有難燃材からなってもよく、さらに他の成分を含むこともできる。多孔質材料が他の成分をさらに含む場合、多孔質材料における炭素材料および芳香環含有難燃材の総和の含有割合は、例えば10質量%以上50質量%以下である。
【0025】
多孔質材料が含み得る他の成分には、芳香族環を含有しない有機バインダ(芳香族環不含バインダ)が含まれない。芳香族環を有しない有機バインダとして、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸などのカルボキシ基含有単量体の(共)重合体;カルボキシメチルセルロース(CMC)などの水酸基含有(共)重合体;リン酸基含有(共)重合体;が挙げられる。上記(共)重合体は、含まれる酸基が中和されていなくても、一部または全部が中和されていてもかまわない。上記共重合体における共重合体成分としては、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アミド基含単量体等のノニオン性単量体などが挙げられる。多孔質材料は、これら芳香族環不含バインダを実質的に含有しない。多孔質材料における芳香族環不含バインダの含有割合は、代表的には0質量%以上10質量%以下であり、好ましくは0質量%である。多孔質材料が芳香族環不含バインダを実質的に含有しなければ、遮音材の難燃性を安定して確保できる。
【0026】
多孔質材料は、必要に応じて、粒子状物質を含んでいてもよい。多孔質材料に粒子状物質を適切に含ませることにより、多孔質材料の細孔を微小化することができ、多孔質材料の密度を調整することができる。粒子状物質としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な粒子状物質を採用し得る。このような粒子状物質としては、例えば、有機材料、無機材料、有機無機複合材料などが挙げられる。このような粒子状物質としては、例えば無機材料が挙げられ、好ましくは、金属、金属酸化物が挙げられ、より好ましくは、空隙を持つ無機多孔質材料が挙げられる。このような無機多孔質材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粉末、或いはゾルを用いることができる。多孔質材料における粒子状物質の含有割合は、好ましくは20質量%以下であり、例えば0質量%以上である。
【0027】
多孔質材料における炭素原子(C)の含有割合は、例えば10質量%~95質量%であり、好ましくは20質量%~90質量%であり、より好ましくは25質量%~85質量%であり、さらに好ましくは30質量%~80質量%である。多孔質材料における炭素原子(C)の含有割合が上記範囲内にあれば、遮音材の吸音率のさらなる向上を図ることができる。
【0028】
多孔質材料は、代表的には、スポンジ状の凍結乾燥体(凍結乾燥ゲル)である。本明細書では、スポンジ状の凍結乾燥体(凍結乾燥ゲル)を、エアロゲルと称する場合がある。凍結乾燥体(凍結乾燥ゲル)の内部は、網目状の微細構造となっており、2~20nm程度のゲル粒子が結合したクラスター構造を有している。このクラスターにより形成される骨格間には、200nmに満たない微細な細孔が存在し、三次元的に微細な多孔性の構造をしている。
【0029】
多孔質材料は、代表的には、所定方向に厚みを有する板形状(例えば、円板形状、平板形状)を有している。多孔質材料の厚みは、遮音材として配置する場所や環境などに応じて、任意の適切な厚みを採用し得る。多孔質材料の厚みは、例えば0.5mm以上、好ましくは1mm以上、より好ましくは5mm以上、さらに好ましくは10mm以上、より好ましくは20mm以上であり、例えば80mm以下、好ましくは60mm以下である。多孔質材料の厚みは、多孔質材料の全体にわたって一定である必要はない。
【0030】
多孔質材料の面密度は、例えば0.1mg/cm~40mg/cmであり、好ましくは0.5mg/cm~30mg/cmであり、より好ましくは1.0mg/cm~20mg/cmであり、さらに好ましくは5.0mg/cm~20mg/cmである。
【0031】
多孔質材料の密度は、0.5mg/cm~20mg/cmであり、好ましくは1.0mg/cm~20mg/cmであり、より好ましくは1.0mg/cm~18mg/cmであり、さらに好ましくは1.5mg/cm~18mg/cmであり、特に好ましくは2.0mg/cm~15mg/cmである。多孔質材料の密度が上記範囲内にあれば、遮音材を安定して軽量化できながら、遮音性能(吸音率)の向上を安定して図ることができる。また、多孔質材料の密度が上記範囲内にあれば、遮音材に優れた断熱性を付与することができる。
【0032】
多孔質材料は、1つの層からなってもよく、2つ以上の層の積層体であってもよい。多孔質材料が積層体であると、優れた吸音率を安定して発現できる。多孔質材料が積層体である場合、2つ以上の層の中の少なくとも2つの層の密度が互いに異なる。各層の厚みは、多孔質材料の厚みが上記の範囲となるように、任意の適切な厚みを採用し得る。多孔質材料において、3つ以上の密度の異なる層が積層される場合、密度が小さいものから大きいものに、もしくは密度が大きいものから小さいものに順に積層されていてもよく、密度が大きいものと小さいものとが交互に積層されていてもよい。本発明の一つの実施形態における多孔質材料は、例えば、含まれる炭素材料、芳香族環含有難燃剤などの材質や組成が異なる層が積層されている形態であってもよい。
【0033】
一つの実施形態において、遮音材は、上記した多孔質材料からなる。遮音材は、用途に応じて任意の適切な形状であり得る。多孔質材料が上記した板形状を有する場合、遮音材は、シート状であってもよい。言い換えれば、遮音材は、遮音シートを構成してもよい。遮音シートの厚みの範囲は、上記した多孔質材料の厚みの範囲と同様である。
また、遮音材は、上記した多孔質材料に加えて、種々の添加剤を含むこともできる。遮音材が添加剤を含む場合、添加剤に応じた種々の性能を遮音材に付与し得る。添加剤として、例えばシランカップリング剤が挙げられる。
【0034】
≪遮音材の製造≫
本発明の実施形態における遮音材の製造方法としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な方法によって製造し得る。例えば、まず、上記炭素材料と、上記芳香環含有難燃材と、好ましくはアルカリ成分と、必要に応じて粒子状物質とを、水系溶媒に分散して、分散液を調製する。
【0035】
アルカリ成分を添加すると、遮音材の強度を改善できる。アルカリ成分として、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が挙げられる。アルカリ成分は、単独でまたは組み合わせて使用できる。アルカリ成分のなかでは、好ましくは水酸化ナトリウムが挙げられる。アルカリ成分の添加割合は、芳香環含有難燃材1質量部に対して、例えば0質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、例えば1質量部以下、好ましくは0.6質量部以下である。
【0036】
水系溶媒として、例えば、水、水およびアルコールの混合溶媒が挙げられる。混合溶媒に含まれるアルコールとしては、例えば、炭素数1~4の低級アルコールが挙げられ、より好ましくは、エタノールが挙げられる。混合溶媒におけるアルコールの含有割合は、例えば0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上であり、例えば5質量%以下、好ましくは3質量%以下である。水系溶媒の使用量は、各成分を分散できれば特に制限されず、任意の適切な量が設定される。水系溶媒のなかでは、好ましくは水が挙げられる。各成分の分散には、代表的には超音波処理が実施される。これによって、各成分(特に炭素材料、芳香環含有難燃材)を水系溶媒に十分に分散できる。分散液における固形分濃度は、代表的には0.1質量%以上5質量%以下である。
【0037】
次いで、分散液を容器に入れて凍結乾燥する。容器の内部空間は、代表的には、多孔質材料の所望形状に対応する。分散液の凍結乾燥は、任意の適切な手段が採用され得る。例えば、分散液を0℃~10℃に予備冷却した後、-100℃~-60℃で凍結し、続いて、-55℃~-40℃、圧力1Pa~30Paで凍結乾燥する。これによって、多孔質材料(エアロゲル)が形成される。その後、多孔質材料を容器から取り出す。なお、多孔質材料が密度の異なる複数の層を有する積層体である場合、濃度の異なる複数の分散液を逐次凍結乾燥すればよい。
【0038】
その後、必要に応じて多孔質材料を上記した添加剤で処理する。以上によって、軽量で、優れた遮音性、弾性回復性能および難燃性を有する遮音材が製造される。このような遮音材は、難燃性が求められる各種分野製品に好適に用いることができる。遮音材の用途として、代表的には、移動体用遮音材が挙げられ、より具体的には、自動車用遮音材、航空機用遮音材、電車用遮音材、ドローン用遮音材が挙げられる。
【0039】
特に航空機用途は、他の用途よりも軽量化および難燃性が厳しく求められており、さらには断熱性も求められる。このような航空機用途の厳しい要望は、従来の遮音材または吸音材では満足することが困難である一方、本発明の一つの実施形態による遮音材であれば満足し得る。そのため、上記遮音材は、航空機用遮音材として特に好ましい。言い換えれば、遮音材は、特に好ましくは、航空機用遮音材を構成する。
【実施例0040】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0041】
<圧縮強度の測定方法>
各実施例および比較例で得られた遮音材を、直径28mm×厚み13mmの円板形状に切り出してサンプルを調製した。当該サンプルの圧縮強度(歪み80%のときの圧縮強度)を、島津製作所社製のオートグラフAGS-Xにより、試験速度1mm/minで測定した。その結果を表1に示す。
【0042】
<弾性回復力の評価方法>
各実施例および比較例で得られた遮音材を、直径40mm×厚み20mmの円板形状に切り出してサンプルを調製した。当該サンプル上に300gの荷重を印加した後、荷重を除去して、弾性回復力を下記の基準で評価した。その結果を表1に示す。
〇:サンプルの厚みが1分以内に元の厚みの90%以上に戻る。
△:サンプルの厚みが1分以内に元の厚みの50%以上90%未満に戻る。
×:サンプルの厚みが1分以上経っても元の厚みの50%未満である。
【0043】
<吸音率の測定方法>
各実施例および比較例で得られた遮音材から、表1に示す厚みを有するサンプルを切り出した。サンプルの吸音率を、背後空気層のない剛壁密着条件における垂直入射吸音率として、JIS-A-1405-2に従い、日本音響エンジニアリング社製のWinZacMTXを用いて測定した。1000Hzまたは2000Hzの音波における遮音材(サンプル)の吸音率を表1に示す。
【0044】
<難燃性の評価方法>
各実施例および比較例で得られた遮音材を炎に接触させ、接炎後の残炎状態を観察して下記の基準で評価した。その結果を表1に示す。
〇:残炎しない。
×:数秒間残炎する。
【0045】
<実施例1~4>
シングルウォールカーボンナノチューブ(CNT、名城ナノカーボン社製、Meijo eDIPS EC2.0)と、表1に示す芳香環含有難燃材と、水酸化ナトリウム(NaOH)とを表1に示す処方で、純水と混合し、超音波ホモジナイザー(BRANSON SFX550)を用いて、CNTおよび芳香環含有難燃材の分散液(固形分濃度1質量%)を調製した。
この分散液200mLをシャーレ(直径約100mm×深さ13mm)に入れ、5℃で予備冷却の後、-80℃で凍結した。これをさらに-50℃~-45℃、圧力10Pa~20Paで凍結乾燥した。その後、常圧室温下でシャーレから、多孔質材料(エアロゲル)を取り出して、遮音材を得た。遮音材(多孔質材料)の密度を表1に示す。
【0046】
<比較例1>
芳香環含有難燃材に代えて、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC、富士フィルム和光純薬社製、分子量:100,000~110,000、Na含有率:6.5質量%~8.5質量%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、遮音材を得た。
【0047】
【表1】
なお、表における芳香環含有難燃材の詳細を下記する。
リグニンA:リグニンスルホン酸ナトリウム塩、メルク社製、Sigma-Aldrich(登録商標)試薬
リグニンB:リグニン、アルカリ、メルク社製、Sigma-Aldrich(登録商標)試薬
ナフタレンスルホン酸:ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、花王社製、デモールNL
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の実施形態による遮音材および遮音シートは、優れた遮音性および難燃性が求められる各種分野製品に用いることができ、特に、航空機に好適に利用できる。