(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162649
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】球面研削方法および球面研削装置
(51)【国際特許分類】
B24B 11/10 20060101AFI20231101BHJP
B24B 49/12 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
B24B11/10
B24B49/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073131
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲田 仁太
【テーマコード(参考)】
3C034
3C049
【Fターム(参考)】
3C034AA19
3C034BB93
3C034CA08
3C034CB08
3C034DD20
3C049AA02
3C049AA12
3C049AC02
3C049BA09
3C049BB09
3C049BC02
3C049CA02
3C049CB01
(57)【要約】
【課題】ワークを高精度に研削することができる球面研削方法および球面研削装置を提供すること。
【解決手段】球面研削方法は、砥石を、砥石を旋回させるための旋回中心軸に対して傾斜させない状態において、砥石の形状を形状測定機構によって測定する第一の工程と、砥石を旋回中心軸に対して傾斜させた状態において、砥石の形状を形状測定機構によって測定する第二の工程と、第一の工程で取得した砥石の形状データと、第二の工程で取得した砥石の形状データとを合成することにより、砥石を旋回中心軸に対して傾斜させた場合における推定形状データを取得する第三の工程と、推定形状データをもとに、砥石と所望の曲率のワークとの接触点を算出する第四の工程と、接触点をもとに、実際の加工において設定する、旋回中心軸に対する砥石の傾斜角度を算出する第五の工程と、砥石を傾斜角度に設定して、ワークの球面研削を行う第六の工程と、を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップ型の砥石を、前記砥石を旋回させるための旋回中心軸に対して傾斜させない状態において、前記砥石の形状を形状測定機構によって測定する第一の工程と、
前記砥石を前記旋回中心軸に対して傾斜させた状態において、前記砥石の形状を前記形状測定機構によって測定する第二の工程と、
前記第一の工程で取得した前記砥石の形状データと、前記第二の工程で取得した前記砥石の形状データとを合成することにより、前記砥石を前記旋回中心軸に対して傾斜させた場合における推定形状データを取得する第三の工程と、
前記推定形状データをもとに、前記砥石と所望の曲率のワークとの接触点を算出する第四の工程と、
前記接触点をもとに、実際の加工において設定する、前記旋回中心軸に対する前記砥石の傾斜角度を算出する第五の工程と、
前記砥石を前記傾斜角度に設定して、前記ワークの球面研削を行う第六の工程と、
を含む球面研削方法。
【請求項2】
前記第三の工程は、
前記第一の工程で取得した前記砥石の形状データと、前記第二の工程で取得した前記砥石の形状データとに共通する特徴点を抽出する特徴点抽出工程と、
前記特徴点をもとに、前記第一の工程で取得した前記砥石の形状データと、前記第二の工程で取得した前記砥石の形状データとを合成し、前記推定形状データを取得する推定形状データ取得工程と、
を含む請求項1に記載の球面研削方法。
【請求項3】
前記第二の工程は、前記砥石を前記旋回中心軸に対して、複数の異なる角度にそれぞれ傾斜させた状態において、前記砥石の形状を前記形状測定機構によって測定し、
前記第一の工程で測定した前記砥石の形状データと、前記第二の工程で測定した複数の前記砥石の形状データとをもとに、真の旋回中心軸を推定する旋回中心軸推定工程を更に含み、
前記第五の工程は、前記真の旋回中心軸を更に用いて、前記傾斜角度を算出する、
請求項1または請求項2に記載の球面研削方法。
【請求項4】
ワークを保持するワーク保持機構と、
前記ワーク保持機構をワーク回転軸回りに回転させるワーク回転機構と、
カップ型の砥石を保持する砥石保持機構と、
前記砥石を砥石回転軸回りに回転させる砥石回転機構と、
前記砥石回転軸と垂直な旋回中心軸回りに、前記砥石回転機構を旋回させる砥石旋回機構と、
前記ワーク回転軸と平行な軸を光軸とする形状測定機構と、
前記形状測定機構を三次元方向に移動させるNC移動機構と、
前記ワーク保持機構を、前記砥石回転軸から離れた位置に退避させる退避機構と、
前記砥石保持機構を前記旋回中心軸に対して傾斜させない状態における前記砥石の形状と、前記砥石保持機構を前記旋回中心軸に対して傾斜させた状態における前記砥石の形状とをそれぞれ測定するために、前記形状測定機構および前記NC移動機構を制御する測定制御機構と、
前記測定制御機構によって取得した前記砥石の形状データを合成し、前記砥石保持機構を、前記旋回中心軸に対して所望の角度に傾斜させた際の前記ワークと前記砥石との接触点のデータから、所望の曲率のワークとするための前記砥石保持機構の傾斜角度を算出するデータ処理装置と、
前記データ処理装置の出力結果をもとに、前記砥石旋回機構を制御する加工制御機構と、
を備える球面研削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球面研削方法および球面研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、カップ型の砥石を用いて、加工対象のワークの球面研削を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワークの球面研削では、砥石を所定の角度に傾斜させた状態でワークに接触させ、砥石およびワークの双方を回転させることにより加工を行う。その際、高精度な研削を実現するためには、砥石とワークとの接触点を把握し、双方の位置関係を適切に設定することが重要となる。
【0005】
しかしながら、特許文献1をはじめとする従来の技術では、砥石とワークとの正確な接触点を把握することが困難であり、高精度な研削を行うことができないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ワークを高精度に研削することができる球面研削方法および球面研削装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る球面研削方法は、カップ型の砥石を、前記砥石を旋回させるための旋回中心軸に対して傾斜させない状態において、前記砥石の形状を形状測定機構によって測定する第一の工程と、前記砥石を前記旋回中心軸に対して傾斜させた状態において、前記砥石の形状を前記形状測定機構によって測定する第二の工程と、前記第一の工程で取得した前記砥石の形状データと、前記第二の工程で取得した前記砥石の形状データとを合成することにより、前記砥石を前記旋回中心軸に対して傾斜させた場合における推定形状データを取得する第三の工程と、前記推定形状データをもとに、前記砥石と所望の曲率のワークとの接触点を算出する第四の工程と、前記接触点をもとに、実際の加工において設定する、前記旋回中心軸に対する前記砥石の傾斜角度を算出する第五の工程と、前記砥石を前記傾斜角度に設定して、前記ワークの球面研削を行う第六の工程と、を含む。
【0008】
また、本発明に係る球面研削方法は、上記発明において、前記第三の工程が、前記第一の工程で取得した前記砥石の形状データと、前記第二の工程で取得した前記砥石の形状データとに共通する特徴点を抽出する特徴点抽出工程と、前記特徴点をもとに、前記第一の工程で取得した前記砥石の形状データと、前記第二の工程で取得した前記砥石の形状データとを合成し、前記推定形状データを取得する推定形状データ取得工程と、を含む。
【0009】
また、本発明に係る球面研削方法は、上記発明において、前記第二の工程が、前記砥石を前記旋回中心軸に対して、複数の異なる角度にそれぞれ傾斜させた状態において、前記砥石の形状を前記形状測定機構によって測定し、前記第一の工程で測定した前記砥石の形状データと、前記第二の工程で測定した複数の前記砥石の形状データとをもとに、真の旋回中心軸を推定する旋回中心軸推定工程を更に含み、前記第五の工程が、前記真の旋回中心軸を更に用いて、前記傾斜角度を算出する。
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る球面研削装置は、ワークを保持するワーク保持機構と、前記ワーク保持機構をワーク回転軸回りに回転させるワーク回転機構と、カップ型の砥石を保持する砥石保持機構と、前記砥石を砥石回転軸回りに回転させる砥石回転機構と、前記砥石回転軸と垂直な旋回中心軸回りに、前記砥石回転機構を旋回させる砥石旋回機構と、前記ワーク回転軸と平行な軸を光軸とする形状測定機構と、前記形状測定機構を三次元方向に移動させるNC移動機構と、前記ワーク保持機構を、前記砥石回転軸から離れた位置に退避させる退避機構と、前記砥石保持機構を前記旋回中心軸に対して傾斜させない状態における前記砥石の形状と、前記砥石保持機構を前記旋回中心軸に対して傾斜させた状態における前記砥石の形状とをそれぞれ測定するために、前記形状測定機構および前記NC移動機構を制御する測定制御機構と、前記測定制御機構によって取得した前記砥石の形状データを合成し、前記砥石保持機構を、前記旋回中心軸に対して所望の角度に傾斜させた際の前記ワークと前記砥石との接触点のデータから、所望の曲率のワークとするための前記砥石保持機構の傾斜角度を算出するデータ処理装置と、前記データ処理装置の出力結果をもとに、前記砥石旋回機構を制御する加工制御機構と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る球面研削方法および球面研削装置では、砥石を旋回中心軸に対して傾斜させた場合における、当該砥石の形状データを推定することにより、砥石とワークとの正確な接触点のデータを取得することができる。これにより、ワークを高精度に研削することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、ワークの球面研削において、形状測定時およびワーク加工時における砥石の位置を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、砥石を傾けた状態における形状測定の様子を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態に係る球面研削装置の構成の一例を示す正面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態に係る球面研削装置の構成の一例を示す側面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態に係る球面研削方法の流れを示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態に係る球面研削方法において、第一の形状測定工程で取得した砥石の形状データと、第二の形状測定工程で取得した砥石の形状データとを合成する様子を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、傾斜前の砥石とワークとの接触点を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、傾斜後の砥石を模式的に示す図である。
【
図9】
図9は、傾斜後の砥石とワークとの接触点を模式的に示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施の形態に係る球面研削方法において、真の旋回中心軸の推定方法を説明するための図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施の形態に係る球面研削方法において、真の旋回中心軸の推定方法を説明するための図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施の形態に係る球面研削方法において、真の旋回中心軸の推定方法を説明するための図である。
【
図13】
図13は、旋回中心軸回りの砥石の旋回軌道にうねりがない場合を模式的に示す図である。
【
図14】
図14は、旋回中心軸回りの砥石の旋回軌道にうねりがある場合を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る球面研削方法および球面研削装置の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、以下の実施の形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものも含まれる。
【0014】
ここで、ガラスレンズ等の球面研削では、加工対象のワークと、当該ワークに線接触させたカップ型の砥石とをそれぞれ回転させることにより、ワークの加工を行う。その際、砥石の傾きを変えることにより、加工するワークの曲率を変化させることができるが、ワークを連続加工すると、摩耗により砥石の形状が変化するため、ワークの出来栄えを見ながら砥石の傾きを調整する必要があった。
【0015】
そこで、従来は、ワークの回転軸(以下、「ワーク回転軸」という)と平行な軸を光軸とする形状測定機構を用いて、ワークを加工するたびに砥石の形状を測定することにより、砥石とワークとの接触点を把握し、砥石の傾斜角度および切り込み量等のワークの移動量を調整していた。
【0016】
砥石の形状を測定する場合、例えば
図1のA部で示すように、砥石14の上方から形状測定機構22によって測定することになる。一方、ワークWの加工を行う場合は、同図のB部で示すように、砥石14を旋回中心軸Acに対して傾斜させて用いることになる。そのため、例えば設備精度の限界等により、理論上(シミュレーション上)の旋回中心軸Acと、実際の旋回中心軸(真の旋回中心軸)Acとの間に誤差が生じる場合がある。その結果、形状測定機構22によって測定した砥石およびワークの接触点と、実際の接触点とが異なってしまう。
【0017】
そこで、例えば実際にワークWを加工する際の角度に砥石14を傾けた状態(
図1のB参照)で、当該砥石14の形状を形状測定機構22によって測定することが考えられる。しかしながら、このように砥石14を傾けた状態であると、例えば
図2に示すように、カップ型の砥石14における一方(同図では紙面左側)の端部の形状しか測定できず、他方の端部の形状を測定できない場合がある。そのため、測定した砥石14の形状が、砥石中心からどの位置の情報であるのかが不明となり、装置全体の座標系における砥石14の絶対位置を把握することができなくなる。つまり、砥石14を傾けて加工する際の、加工領域全体の形状および位置が把握できなくなる。
【0018】
このように、砥石の形状を上方から測定する場合、所定の角度に傾斜させた際の砥石の想定位置に対する誤差が生じ、一方、ワークの加工時を想定して、砥石を傾斜させた状態で測定しようとすると、砥石全体の形状および位置が不明となる。その結果、いずれの場合も、砥石を所定の角度に傾斜させた際の接触点を把握することができないという問題が生じる。
【0019】
そこで、本発明に係る球面研削方法および球面研削装置では、このような問題を解消し、砥石の研削状態(傾斜させた状態)における、当該砥石の正確な接触点のデータを取得することにより、高精度な研削を実現する。
【0020】
(球面研削装置)
本発明の実施の形態に係る球面研削装置について、
図3および
図4を参照しながら説明する。球面研削装置は、ワークWの球面研削を行うためのものである。球面研削装置は、ワークWに対して凹面加工、凸面加工のいずれも行うことが可能である。本実施の形態では、凸面加工を行う場合を主に想定して説明を行う。
【0021】
図3は、実施の形態に係る球面研削装置1の正面図であり、
図4は球面研削装置1の側面図である。球面研削装置1は、ワーク保持機構11と、ワーク回転機構12と、退避機構13と、砥石(第一の砥石)14と、砥石保持機構15と、砥石回転機構16と、砥石旋回機構17と、砥石(第二の砥石)18と、砥石保持機構19と、砥石回転機構20と、砥石旋回機構21と、形状測定機構22と、NC移動機構23と、測定制御機構24と、データ処理装置25と、加工制御機構26と、リファレンス面27と、を備えている。
【0022】
ワーク保持機構11は、加工対象のワークWを保持するための機構である。ワークWとしては、例えばΦ1~3mm程度のガラスレンズが挙げられる。ワーク回転機構12は、ワーク保持機構11をワーク回転軸Aw回りに回転させるための機構である。退避機構13は、ワーク保持機構11を、砥石14,18の回転軸(以下、「砥石回転軸」という)At1,At2から離れた位置に退避させるための機構である。この退避機構13は、ワーク保持機構11を三次元方向(X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向)に移動させることが可能である。
【0023】
砥石14は、ワークWを研削するための工具である。この砥石14は、カップ型の砥石であり、例えば粗研削の際に用いられる。砥石保持機構15は、砥石14を保持するための機構である。砥石回転機構16は、砥石保持機構15によって保持された砥石14を、砥石回転軸At1回りに回転させるための機構である。砥石旋回機構17は、砥石回転軸At1と垂直な旋回中心軸Ac回りに、砥石回転機構16を旋回(揺動)させるための機構である。
【0024】
砥石18は、ワークWを研削するための工具である。この砥石18は、カップ型の砥石であり、例えば精研削の際に用いられる。砥石保持機構19は、砥石18を保持するための機構である。砥石回転機構20は、砥石保持機構19によって保持された砥石18を、砥石回転軸At2回りに回転させるための機構である。砥石旋回機構21は、砥石回転軸At2と垂直な旋回中心軸Ac回りに、砥石回転機構20を旋回させるための機構である。
【0025】
形状測定機構22は、砥石14,18の形状を測定するための機構である。この形状測定機構22としては、例えばレーザ変位計等が挙げられる。また、形状測定機構22は、ワーク回転軸Awと平行な軸を光軸Aoとしている。NC移動機構23は、形状測定機構22を三次元方向(X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向)に移動させるための機構である。
【0026】
測定制御機構24は、砥石保持機構15,19を旋回中心軸Acに対して傾斜させない状態(傾斜前)における砥石14,18の形状と、砥石保持機構15,19を旋回中心軸Acに対して傾斜させた状態(傾斜後)における砥石14,18の形状とをそれぞれ測定するために、形状測定機構22およびNC移動機構23を制御する機構である。
【0027】
データ処理装置25は、測定制御機構24によって取得した砥石14,18の形状データを合成し、砥石保持機構15,19を所望の角度に傾斜させた際のワークWと砥石14,18との接触点のデータから、所望の曲率のワークWとするための砥石保持機構15,19の傾斜角度を算出するための機構である。このデータ処理装置25は、例えばパーソナルコンピュータやワークステーション等の汎用の情報処理装置によって実現される。
【0028】
加工制御機構26は、データ処理装置25の出力結果をもとに、砥石旋回機構17,21を制御するための機構である。リファレンス面27は、形状測定機構22の測定値のリファレンスを取るための面である。なお、
図3において、符号Oは球面研削装置1の設備原点を、符号St1は砥石14の基準点(砥石基準)を、符号St2は砥石18の基準点(砥石基準)を、それぞれ示している。
【0029】
(球面研削方法)
本発明の実施の形態に係る球面研削方法について、
図5~
図14を参照しながら説明する。実施の形態に係る球面研削方法では、
図5に示すように、第一の形状測定工程(ステップS1)と、第二の形状測定工程(ステップS2)と、形状データ取得工程(ステップS3)と、接触点算出工程(ステップS4)と、傾斜角度算出工程(ステップS5)と、加工工程(ステップS6)と、を実施する。
【0030】
<第一の形状測定工程>
第一の形状測定工程では、傾斜前の砥石14,18の形状を測定する(ステップS1)。第一の形状測定工程では、具体的には、カップ型の砥石14,18を、当該砥石14,18を旋回させるための旋回中心軸Acに対して傾斜させない状態(
図1のA参照)において、砥石14,18の形状を形状測定機構22によって測定する。また、第一の形状測定工程では、上向きに配置された砥石14,18の形状を、形状測定機構22によって上から測定する。
【0031】
<第二の形状測定工程>
第二の形状測定工程では、傾斜後の砥石14,18の形状を測定する(ステップS2)。第二の形状測定工程では、具体的には、砥石14,18を旋回中心軸Acに対して傾斜させた状態において、砥石14,18の形状を形状測定機構22によって測定する。また、第二の形状測定工程では、所定の角度に傾斜して配置された砥石14,18の形状を、形状測定機構22によって上から測定する。また、第二の形状測定工程では、砥石14,18を、実際の加工時の傾斜角度に近い状態に傾けて、形状データの測定を行うことが好ましい。
【0032】
<形状データ取得工程>
形状データ取得工程では、
図6に示すように、第一の形状測定工程で取得した砥石14,18の形状データと、第二の形状測定工程で取得した砥石14,18の形状データとを合成することにより、当該砥石14,18を旋回中心軸Acに対して傾斜させた場合における推定形状データを取得する(ステップS3)。なお、「形状データ」とは、砥石14,18の形状を示す点列データのことを示している。また、この形状データには、各点の位置データ(座標データ)も含まれる。
【0033】
形状データ取得工程には、具体的には、特徴点抽出工程および推定形状データ取得工程が含まれる。特徴点抽出工程では、例えば
図6のC部で示すように、第一の形状測定工程で取得した砥石14,18の形状データと、第二の形状測定工程で取得した砥石14,18の形状データとに共通する特徴点を抽出する。続いて、推定形状データ取得工程では、この特徴点をもとに、第一の形状測定工程で取得した砥石14,18の形状データと、第二の形状測定工程で取得した砥石14,18の形状データとを合成することにより、推定形状データを取得する。
【0034】
ここで、第二の形状測定工程で得られる砥石14,18の形状データは、当該砥石14,18を傾けて測定したものであるため、砥石14,18の一部(一方の端部)の形状のみのデータであり、砥石14,18の全体の形状および位置が不明である。一方、形状データ取得工程では、第一の形状測定工程で得た形状データに第二の形状測定工程で得た形状データをフィッティングさせるため、砥石14,18の全体の形状および位置を正確に把握することが可能となる。
【0035】
また、第一の形状測定工程では、例えば
図7のD部で示すように、傾斜前の砥石14の両端部の上面の形状データと、その中心位置(砥石回転軸At1)とを測定することができる。また、第二の形状測定工程では、例えば
図8のE部で示すように、傾斜後の砥石14の一方の端部(紙面左側)の上面の形状データを測定することができる。そして、形状データ取得工程では、それらの形状データを合成することにより、
図9に示すように、傾斜後の砥石14の推定形状データと、その中心位置(砥石回転軸At1)を取得することができる。なお、
図7~
図9では、砥石14の形状データを測定および合成する場合の例を挙げたが、砥石18の形状データについても同様の測定および合成を行う。
【0036】
また、例えば
図7に示すように、砥石14(および砥石18)とワークWとの接触点付近は、傾斜している場合が多く、形状測定の誤差が大きくなる傾向も強い。そのため、第二の形状測定工程では、砥石14,18を、実際の加工時の傾斜角度に近い状態に傾けて形状データの測定を行うことが好ましい。このように測定した形状データと、第一の形状測定工程で取得した形状データと合成することにより、砥石14,18の全体の形状データを高精度に取得することができる。その結果、後記する接触点算出工程において、加工時における接触点を高精度に算出することができる。
【0037】
<接触点算出工程>
接触点算出工程では、形状データ取得工程で取得した推定形状データをもとに、砥石14,18と所望の曲率のワークWとの接触点を算出する(ステップS4)。なお、「接触点」とは、具体的には、砥石14,18を旋回中心軸Ac回りに旋回させてワークWを加工する際の、両者の接触点の軌道(旋回軌道ともいう)のことを示している。
【0038】
<傾斜角度算出工程>
傾斜角度算出工程では、接触点算出工程で算出した接触点をもとに、実際の加工において設定する、旋回中心軸Ac回りにおける砥石14,18の傾斜角度を算出する(ステップS5)。
【0039】
<加工工程>
加工工程では、砥石14,18を、傾斜角度算出工程で算出した傾斜角度に設定して、ワークWの球面研削を行う(ステップS6)。
【0040】
ここで、ワークWの球面研削では、前記したように、例えば設備精度の限界等により、理論上(シミュレーション上)の旋回中心軸Acと、実際の旋回中心軸(真の旋回中心軸)Acとの間に誤差が生じる場合がある。そこで、実施の形態に係る球面研削方法において、真の旋回中心軸Acを求めてもよい。
【0041】
この場合、第二の形状測定工程において、砥石14,18を旋回中心軸Acに対して、複数の異なる角度にそれぞれ傾斜させた状態において、当該砥石14,18の形状を形状測定機構22によって測定する。そして、第一の形状測定工程で測定した傾斜前の砥石14,18の形状データと、第二の形状測定工程で測定した複数の砥石14,18の形状データとをもとに、真の旋回中心軸Acを推定する旋回中心軸推定工程を実施する。なお、この旋回中心軸推定工程は、第二の形状測定工程の後、かつ傾斜角度算出工程の前に実施すればよい。
【0042】
続いて、第五の工程において、旋回中心軸推定工程で推定した真の旋回中心軸Acを更に用いて、実際の加工において設定する、旋回中心軸Acに対する砥石14,18の傾斜角度を算出する。
【0043】
旋回中心軸推定工程における真の旋回中心軸Acの推定方法について、
図10~
図12を参照しながら説明する。以下では、同図に示すように、理論上の旋回中心軸(「旋回中心軸(Sim)」と表記)と、真の旋回中心軸(「旋回中心軸(実際)」と表記)との間に誤差が存在することを前提に説明を行う。また、
図11は、砥石の傾斜角度θを「20°」とした場合を示しており、
図12は、砥石の傾斜角度θを「40°」とした場合を示している。
【0044】
まず、
図10に示すように、旋回中心軸(Sim)から砥石の端部(角部)までの半径rtの円と、旋回中心軸(実際)から砥石の端部までの半径rfの円とをそれぞれ描く。続いて、傾斜前の砥石の、旋回中心軸(Sim)および旋回中心軸(実際)から砥石の端部までの角度θt0,θf0と、
図11に示した砥石の傾斜角度θ=20°とをもとに、円の方程式を応用して、理論上の砥石位置(「砥石位置(Sim)」と表記)の座標(yct1,zct1)と、実際の砥石位置(「砥石位置(実際)」と表記)の座標(yft1,zft1)とを求める。そして、これらの座標をもとに、砥石位置(Sim)に対する砥石位置(実際)のずれ量Δy1,Δz1を求める。
【0045】
続いて、傾斜前の砥石の、旋回中心軸(Sim)および旋回中心軸(実際)から砥石の端部までの角度θt0,θf0と、
図12に示した砥石の傾斜角度θ=40°とをもとに、円の方程式を応用して、理論上の砥石位置(「砥石位置(Sim)」と表記)の座標(yct2,zct2)と、実際の砥石位置(「砥石位置(実際)」と表記)の座標(yft2,zft2)とを求める。そして、これらの座標をもとに、砥石位置(Sim)に対する砥石位置(実際)のずれ量Δy2,Δz2を求める。以上のように求めたずれ量Δy1,Δz1,Δy2,Δz2を用いて、真の旋回中心軸Acを推定する。
【0046】
このように、理論上の旋回中心軸Acで砥石14,18を傾けた際の形状データと、真の旋回中心軸Acで砥石14,18を傾けた際の形状データとを比較することにより、真の旋回中心軸Acの座標を求めることができる。これにより、真の旋回中心軸Acの座標を用いて、砥石14,18の形状と正確な軌道を把握することができるため、ワークWと砥石14,18との接触点とその軌道(旋回軌道)を正確に把握することができる。その結果、所望の曲率に研削するために必要な、砥石14,18の傾斜角度を高精度に求めることができる。また、ワークWの曲率および研削量において、より高精度な加工品質を得ることができる。
【0047】
なお、例えば
図13に示すように、砥石14,18の旋回中心軸Ac回りの旋回軌道にうねりがない場合、上記のように、接触点算出工程で接触点を算出、または旋回中心軸推定工程で真の旋回中心軸Acを推定することにより、砥石14,18の傾斜角度を高精度に求めることができる。一方、例えば
図14に示すように、砥石14,18の旋回中心軸Ac回りの旋回軌道にうねりがある場合、接触点算出工程で接触点を算出、または旋回中心軸推定工程で真の旋回中心軸Acを推定するだけでは、砥石14,18の傾斜角度を高精度に求めることができない場合も想定される。
【0048】
この場合、上記のように、第二の形状測定工程において、砥石14,18を、実際の加工時の傾斜角度に近い状態に傾けて取得した形状データを用いることにより、旋回軌道にうねりがある場合であっても、砥石14,18の傾斜角度を高精度に求めることができる。
【0049】
また、第二の形状測定工程における測定時の傾斜角度から、実際のワークWを加工する際の傾斜角度をわずかに変更(補正)する場合も想定される。この場合、上記のように、旋回中心軸推定工程で真の旋回中心軸Acを推定することにより、砥石14,18の傾斜角度を高精度に求めることができる。
【0050】
以上説明した本実施の形態に係る球面研削方法および球面研削装置によれば、砥石14,18を旋回中心軸Acに対して傾斜させた場合における、当該砥石14,18の形状データを推定することにより、砥石14,18とワークWとの正確な接触点のデータを取得することができる。これにより、ワークWを高精度に研削することができる。
【0051】
また、本実施の形態に係る球面研削方法および球面研削装置によれば、例えば1μm以下の高精度が求められる内視鏡向けΦ1mm等の微小径レンズを加工する場合においても、出来栄え評価と繰り返し調整加工とによる追い込み作業を繰り返すことなく、研削を一度で完了することができる。従って、生産性の向上および大幅なコストダウンに繋げることができる。
【0052】
また、本実施の形態に係る球面研削方法および球面研削装置では、光学的に測定誤差が生じやすい、砥石14,18とワークWとの接触点付近の形状データを、複数の傾斜角度における測定データによって合成および補正することにより、より正確な砥石形状を取得することができる。この結果、砥石14,18とワークWとの接触点の推定誤差が低減され、高精度な加工が実現される。
【0053】
また、本実施の形態に係る球面研削方法および球面研削装置を用いることにより、ワークWを加工した後の砥石14,18の形状、すなわち砥石14,18の摩耗量を算出することができる。そのため、例えばワークWを連続加工する際の曲率の補正を自動化および高精度化することができる。
【0054】
すなわち、従来は、ワークの加工後に品質検査を行い、その品質検査結果に基づいて、次のワークの曲率をその都度補正していた。一方、本実施の形態に係る球面研削方法および球面研削装置では、ワークWの加工前に実施する形状測定結果に基づいて砥石14,18の摩耗量を算出し、その摩耗量に基づいて、当該ワークWの曲率を自動的に補正することができる。
【0055】
また、従来は、例えば砥石のスイベル角度を調整することにより、ワークの曲率を補正していたが、本実施の形態に係る球面研削方法および球面研削装置では、ワークWをY軸方向に移動させることにより、ワークWの曲率を高精度に補正することができる。すなわち、ワーク保持機構11によって、ワークWをY軸方向(例えば
図1参照)にシフトさせることにより、ワークWの曲率を微調整することができる。
【0056】
また、従来は、ワークの加工のたびに砥石の形状を測定していたが、本実施の形態に係る球面研削方法および球面研削装置では、例えばいくつかのワークWを加工した後に砥石14,18の形状を測定し、ワークWの曲率の補正が必要であれば補正を行う、という処理が可能となる。
【0057】
以上、本発明に係る球面研削方法および球面研削装置について、発明を実施するための形態により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【0058】
例えば本実施の形態では、
図3に示すように、粗研削用の砥石14と、精研削用の砥石18とを備えた球面研削装置1を一例として紹介したが、粗研削用の砥石14および精研削用の砥石18のいずれか一方のみを備えた構成、あるいは三種類以上の砥石を備えた構成であってもよい。
【0059】
また、本実施の形態におけるワーク保持機構11(
図3参照)は、ワークWをZ軸方向に制御することにより、当該ワークWの厚みを調整してもよい。また、本実施の形態では、加工対象のワークWが主にレンズである場合を想定して説明を行ったが、球面研削が可能な対象であれば、レンズ以外であってもよい。また、ワークWの素材も適宜選択可能であり、例えばガラスは当然として、サファイヤまたはセラミック等の研削加工可能なものを選択してもよい。
【0060】
また、本実施の形態では、形状測定機構22(
図3参照)としてレーザ変位計を例示したが、レーザ変位計以外にも、光学的、機械的、面的、帯状または線状に測定可能な様々な測定機構を用いることができる。また、本実施の形態では、砥石14,18としてカップ型の研削用砥石を用いているが、砥石の粒度および種類は、要求されるワークWの品質に応じて適宜選択可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 球面研削装置
11 ワーク保持機構
12 ワーク回転機構
13 退避機構
14 砥石(第一の砥石)
15 砥石保持機構
16 砥石回転機構
17 砥石旋回機構
18 砥石(第二の砥石)
19 砥石保持機構
20 砥石回転機構
21 砥石旋回機構
22 形状測定機構
23 NC移動機構
24 測定制御機構
25 データ処理装置
26 加工制御機構
27 リファレンス面
Ac 旋回中心軸
Ao 光軸
At1 砥石回転軸
At2 砥石回転軸
O 設備原点
St1,St2 砥石基準
W ワーク