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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162657
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】画像形成システム及び画像形成方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/097 20060101AFI20231101BHJP
   G03G 5/147 20060101ALI20231101BHJP
   G03G 15/02 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
G03G9/097 374
G03G9/097 372
G03G5/147 503
G03G5/147 502
G03G15/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073145
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 啓司
(72)【発明者】
【氏名】茂木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】飯岡 淳
(72)【発明者】
【氏名】門馬 実乃里
【テーマコード(参考)】
2H068
2H200
2H500
【Fターム(参考)】
2H068AA03
2H068AA04
2H068BB07
2H068BB08
2H068BB59
2H068BB60
2H068CA37
2H068FA03
2H068FC01
2H200FA09
2H200GA12
2H200GA16
2H200GA23
2H200GA44
2H200GA46
2H200GA47
2H200GB12
2H200HA02
2H200HB12
2H200HB22
2H200JA02
2H200JC03
2H200MA03
2H200MA12
2H200MA14
2H200MB04
2H200NA06
2H500AA09
2H500AA10
2H500BA16
2H500CA01
2H500CA06
2H500CA27
2H500CA36
2H500CB05
2H500CB07
2H500EA52D
2H500EA58A
2H500EA62D
2H500EA65D
2H500FA02
(57)【要約】
【課題】有機感光体の減耗抑制と有機感光体上付着物の低減とを両立する画像形成システム及び画像形成方法を提供することである。
【解決手段】本発明の画像形成システムは、有機感光体と、トナー粒子を含む静電荷像現像用トナーとを用いた画像形成システムであって、前記有機感光体が、硬化樹脂を含有する保護層を有し、前記トナー粒子が、表面に複数の凸部を有するトナー母体粒子の前記複数の凸部表面上又は複数の凸部の間の表面上に、少なくとも一種の滑剤粒子と、少なくとも一種の非滑剤粒子とを含有又は付着させた形状を有し、前記トナー母体粒子表面における前記凸部の平均間隔D1と、メジアン径が最も小さい前記滑剤粒子のメジアン径D2と、メジアン径が最も大きい前記非滑剤粒子のメジアン径D3とが、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする。
式(1) D3≦D1≦D2
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機感光体と、トナー粒子を含む静電荷像現像用トナーとを用いた画像形成システムであって、
前記有機感光体が、硬化樹脂を含有する保護層を有し、
前記トナー粒子が、表面に複数の凸部を有するトナー母体粒子の前記複数の凸部表面上又は複数の凸部の間の表面上に、少なくとも一種の滑剤粒子と、少なくとも一種の非滑剤粒子とを含有又は付着させた形状を有し、
前記トナー母体粒子表面における前記凸部の平均間隔D1と、メジアン径が最も小さい前記滑剤粒子のメジアン径D2と、メジアン径が最も大きい前記非滑剤粒子のメジアン径D3とが、下記式(1)の関係を満たす
ことを特徴とする画像形成システム。
式(1) D3≦D1≦D2
【請求項2】
前記凸部が、ビニル系重合セグメントと非晶性ポリエステル系重合セグメントとが両反応性単量体を介して結合したハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成システム。
【請求項3】
前記滑剤粒子が、脂肪酸金属塩粒子である
ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成システム。
【請求項4】
前記非滑剤粒子のうち少なくとも一種が、モース硬度が8以上の粒子である
ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成システム。
【請求項5】
前記保護層が、金属酸化物粒子を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成システム。
【請求項6】
ローラー帯電方式である帯電手段を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成システム。
【請求項7】
前記トナー粒子において、下記の条件による超音波処理法で求められる、前記脂肪酸金属塩粒子の前記トナー母体粒子からの遊離率Rが、20~60%の範囲内である
ことを特徴とする請求項3に記載の画像形成システム。
〔超音波処理法の条件〕
手順1:トナー粒子における、脂肪酸金属塩粒子に由来する金属元素のNET強度W1を、蛍光X線分析により測定する。
手順2:トナー粒子の水系分散液を調製する。
手順3:調製した水系分散液に対して超音波処理を行う。
手順4:超音波処理によりトナー母体粒子から遊離した脂肪酸金属塩粒子を、除去する。
手順5:遊離した脂肪酸金属塩粒子が除去されたトナー粒子における、脂肪酸金属塩粒子に由来する金属元素のNET強度W2を、蛍光X線分析により測定する。
手順6:下記式(2)から遊離率R[%]を求める。
式(2) R=(W1-W2)/W1×100
【請求項8】
有機感光体と、トナー粒子を含む静電荷像現像用トナーとを用いた画像形成方法であって、
前記有機感光体が、硬化樹脂を含有する保護層を有し、
前記トナー粒子が、表面に複数の凸部を有するトナー母体粒子の前記複数の凸部表面上又は複数の凸部の間の表面上に、少なくとも一種の滑剤粒子と、少なくとも一種の非滑剤粒子とを含有又は付着させた形状を有し、
前記トナー母体粒子表面における前記凸部の平均間隔D1と、メジアン径が最も小さい前記滑剤粒子のメジアン径D2と、メジアン径が最も大きい前記非滑剤粒子のメジアン径D3とが、下記式(1)の関係を満たす
ことを特徴とする画像形成方法。
式(1) D3≦D1≦D2
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成システム及び画像形成方法に関する。
より詳しくは、有機感光体の減耗抑制と有機感光体上付着物の低減とを両立する画像形成システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成で用いられる有機感光体を長寿命化するために、感光体表面層への硬化樹脂の適用が検討されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。表面の保護層が硬化樹脂を含有する硬化型感光体では、減耗が抑制され、耐久性は向上する。しかしながら、減耗が抑制されることによって、感光体表面がリフレッシュされにくくなるため、感光体表面にトナー由来の異物が付着しやすくなるという問題が新たに生じる。感光体上付着物は、成長して記録媒体に転写されてしまったり、感光体の帯電不良を引き起こしたりすることで、画質低下の原因となり得る。
【0003】
感光体上付着物の問題を解決するための方法として、感光体上に十分な滑剤粒子を供給し、異物と感光体の付着性を低減する方法がある。感光体上への滑剤供給手段としては、滑剤供給装置を具備する手段もあるが、装置構成の簡素化や小型化の観点から、トナー母体粒子表面に滑剤を外添する手段が採用されることが多い。トナー母体粒子表面に外添された滑剤粒子は、感光体上でトナー母体粒子から遊離し、感光体上に供給される。
【0004】
しかしながら、硬化型感光体を用いた画像形成において、従来の滑剤含有トナーを用いた滑剤供給だけでは、十分に付着物を低減できておらず、有機感光体の減耗抑制と有機感光体上付着物の低減とを両立する新たな技術が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-84078号公報
【特許文献2】特開2019-95700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、有機感光体の減耗抑制と有機感光体上付着物の低減とを両立する画像形成システム及び画像形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記課題の原因等について検討した結果、硬化樹脂を含有する保護層を有する有機感光体と、トナー母体粒子表面の凸部の平均間隔、滑剤粒子のメジアン径、及び非滑剤粒子のメジアン径の関係を規定したトナーとを用いることで、有機感光体の減耗抑制と有機感光体上付着物の低減とを両立できることを見いだし、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0008】
1.有機感光体と、トナー粒子を含む静電荷像現像用トナーとを用いた画像形成システムであって、
前記有機感光体が、硬化樹脂を含有する保護層を有し、
前記トナー粒子が、表面に複数の凸部を有するトナー母体粒子の前記複数の凸部表面上又は複数の凸部の間の表面上に、少なくとも一種の滑剤粒子と、少なくとも一種の非滑剤粒子とを含有又は付着させた形状を有し、
前記トナー母体粒子表面における前記凸部の平均間隔D1と、メジアン径が最も小さい前記滑剤粒子のメジアン径D2と、メジアン径が最も大きい前記非滑剤粒子のメジアン径D3とが、下記式(1)の関係を満たす
ことを特徴とする画像形成システム。
式(1) D3≦D1≦D2
【0009】
2.前記凸部が、ビニル系重合セグメントと非晶性ポリエステル系重合セグメントとが両反応性単量体を介して結合したハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を含有する
ことを特徴とする第1項に記載の画像形成システム。
【0010】
3.前記滑剤粒子が、脂肪酸金属塩粒子である
ことを特徴とする第1項に記載の画像形成システム。
【0011】
4.前記非滑剤粒子のうち少なくとも一種が、モース硬度が8以上の粒子である
ことを特徴とする第1項に記載の画像形成システム。
【0012】
5.前記保護層が、金属酸化物粒子を含有する
ことを特徴とする第1項に記載の画像形成システム。
【0013】
6.ローラー帯電方式である帯電手段を備える
ことを特徴とする第1項に記載の画像形成システム。
【0014】
7.前記トナー粒子において、下記の条件による超音波処理法で求められる、前記脂肪酸金属塩粒子の前記トナー母体粒子からの遊離率Rが、20~60%の範囲内である
ことを特徴とする第3項に記載の画像形成システム。
〔超音波処理法の条件〕
手順1:トナー粒子における、脂肪酸金属塩粒子に由来する金属元素のNET強度W1を、蛍光X線分析により測定する。
手順2:トナー粒子の水系分散液を調製する。
手順3:調製した水系分散液に対して超音波処理を行う。
手順4:超音波処理によりトナー母体粒子から遊離した脂肪酸金属塩粒子を、除去する。
手順5:遊離した脂肪酸金属塩粒子が除去されたトナー粒子における、脂肪酸金属塩粒子に由来する金属元素のNET強度W2を、蛍光X線分析により測定する。
手順6:下記式(2)から遊離率R[%]を求める。
式(2) R=(W1-W2)/W1×100
【0015】
8.有機感光体と、トナー粒子を含む静電荷像現像用トナーとを用いた画像形成方法であって、
前記有機感光体が、硬化樹脂を含有する保護層を有し、
前記トナー粒子が、表面に複数の凸部を有するトナー母体粒子の前記複数の凸部表面上又は複数の凸部の間の表面上に、少なくとも一種の滑剤粒子と、少なくとも一種の非滑剤粒子とを含有又は付着させた形状を有し、
前記トナー母体粒子表面における前記凸部の平均間隔D1と、メジアン径が最も小さい前記滑剤粒子のメジアン径D2と、メジアン径が最も大きい前記非滑剤粒子のメジアン径D3とが、下記式(1)の関係を満たす
ことを特徴とする画像形成方法。
式(1) D3≦D1≦D2
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記手段により、有機感光体の減耗抑制と有機感光体上付着物の低減とを両立する画像形成システム及び画像形成方法を提供することができる。
【0017】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推測している。
【0018】
本発明の画像形成システムが用いる有機感光体は、硬化樹脂を含有する保護層を有することを特徴とする。これによって、感光体の減耗は抑制される。一方、上述のとおり、減耗が抑制されることによって、感光体表面がリフレッシュされにくくなるため、感光体表面に異物が付着しやすくなる。
【0019】
硬化樹脂を含有する保護層を有する有機感光体を用いた画像形成において、感光体上への滑剤供給だけでは十分に付着物を低減できない原因としては、トナー母体粒子から遊離して感光体上に付着した非滑剤粒子が異物付着の核物質となってしまうことが考えられる。この非滑剤粒子は、トナーの帯電性、耐熱性、流動性等を向上させるためにトナー母体粒子に外添されるものである。非滑剤粒子は、滑剤粒子のように異物と感光体の付着性を低減する機能はなく、逆に異物付着の核物質となり得る。
【0020】
帯電性等のために非滑剤粒子の添加量を維持しつつ、感光体上付着物を低減させるためには、非滑剤粒子がトナー母体粒子から遊離しにくいことが好ましい。トナー母体粒子から遊離しなかった非滑剤粒子は、トナー母体粒子とともに記録媒体に転写されるか、クリーニング工程で除去される可能性が高いため、異物付着の核物質とはなりにくい。
【0021】
一方、上述のとおり、滑剤粒子は、トナー母体粒子と遊離して感光体上に供給されることで異物と感光体の付着性を低減する機能を有するため、トナー母体粒子から遊離しやすいことが好ましい。
【0022】
このような事情を考慮し、本発明では、「滑剤粒子はトナー母体粒子から遊離しやすく、非滑剤粒子はトナー母体粒子から遊離しにくいトナー」を実現させ、さらに、このようなトナーを、硬化樹脂を含有する保護層を有する有機感光体とともに用いることで、有機感光体の減耗抑制と有機感光体上付着物の低減とを両立させることを可能にした。
【0023】
「滑剤粒子はトナー母体粒子から遊離しやすく、非滑剤粒子はトナー母体粒子から遊離しにくいトナー」は、表面に複数の凸部を有するトナー母体粒子を用い、さらに下記式(1)の関係を満たすようにトナーの構成を設計することで実現させた。
【0024】
式(1) D3≦D1≦D2
D1:トナー母体粒子表面における凸部の平均間隔
D2:メジアン径が最も小さい滑剤粒子のメジアン径
D3:メジアン径が最も大きい非滑剤粒子のメジアン径
【0025】
トナー母体粒子表面に凸部がある場合、凸部の間隔(≒凹部)より小さい外添剤粒子は、外添時に凹部に入り込み、トナー母体粒子表面に強く固定化されることで、遊離しにくい状態となる。一方、凸部の間隔より大きい外添剤粒子は、外添時に凹部に入り込むことができず、凸部表面に付着することで、トナー母体粒子との接触面積が減り、遊離しやすい状態となる。
【0026】
式(1)のD1≦D2の部分は、メジアン径が最も小さい滑剤粒子のメジアン径D2が、トナー母体粒子表面における凸部の平均間隔D1以上であることを示している。「メジアン径が最も小さい滑剤粒子」とは、滑剤粒子の種類が一種のみであればその種類の滑剤粒子のことをいい、滑剤粒子の種類が複数種であればその中でメジアン径が最も小さい種類の滑剤粒子のことをいう。D1≦D2を満たす場合、滑剤粒子の多くがトナー母体粒子の凸部の間隔より大きい粒子で構成されるため、「滑剤粒子はトナー母体粒子から遊離しやすいトナー」となる。
【0027】
式(1)のD3≦D1の部分は、メジアン径が最も大きい非滑剤粒子のメジアン径D3が、トナー母体粒子表面における凸部の平均間隔D1以下であることを示している。「メジアン径が最も大きい非滑剤粒子」とは、非滑剤粒子の種類が一種のみであればその種類の非滑剤粒子のことをいい、非滑剤粒子の種類が複数種であればその中でメジアン径が最も大きい種類の非滑剤粒子のことをいう。D3≦D1を満たす場合、非滑剤粒子の多くがトナー母体粒子の凸部の間隔より小さい粒子で構成されるため、「非滑剤粒子はトナー母体粒子から遊離しにくいトナー」となる。
【0028】
したがって、式(1)の関係を満たすようにトナーの構成を設計することで、「滑剤粒子はトナー母体粒子から遊離しやすく、非滑剤粒子はトナー母体粒子から遊離しにくいトナー」が実現できる。
【0029】
このような機構により、本発明の画像形成システムは有機感光体の減耗抑制と有機感光体上付着物の低減とを両立することができると推察している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】表面に複数の凸部を有するトナー母体粒子のSEM画像
図2】トナー母体粒子前駆体表面の凸部の平均間隔を説明するための説明図
図3】画像形成装置の構成の一例を示す説明用断面図
図4】画像形成装置の要部の構成の一例を示す説明用断面図
図5】帯電手段の構成の一例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の画像形成システムは、有機感光体と、トナー粒子を含む静電荷像現像用トナーとを用いた画像形成システムであって、前記有機感光体が、硬化樹脂を含有する保護層を有し、前記トナー粒子が、表面に複数の凸部を有するトナー母体粒子の前記複数の凸部表面上又は複数の凸部の間の表面上に、少なくとも一種の滑剤粒子と、少なくとも一種の非滑剤粒子とを含有又は付着させた形状を有し、前記トナー母体粒子表面における前記凸部の平均間隔D1と、メジアン径が最も小さい前記滑剤粒子のメジアン径D2と、メジアン径が最も大きい前記非滑剤粒子のメジアン径D3とが、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする。
式(1) D3≦D1≦D2
【0032】
この特徴は、下記実施形態に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0033】
本発明の画像形成システムの実施形態としては、前記凸部が、ビニル系重合セグメントと非晶性ポリエステル系重合セグメントとが両反応性単量体を介して結合したハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。凸部にポリエステル系重合セグメントとポリエステル系重合セグメントより帯電性の低いビニル系重合セグメントとが共存することにより、トナー粒子の過剰帯電が抑制され、トナー粒子と有機感光体との静電的な付着力が低下するため、有機感光体上へのトナー由来の異物付着を更に低減することができる。また、凸部にビニル系重合セグメントが存在することにより、トナー母体粒子と滑剤粒子との静電的な付着力が低下することで、滑剤粒子が有機感光体上に供給されやすくなる。
【0034】
本発明の画像形成システムの実施形態としては、前記滑剤粒子が、脂肪酸金属塩粒子であることが好ましい。滑剤粒子に正帯電性である脂肪酸金属塩粒子を用いることにより、トナーの過剰帯電が抑制され、トナー粒子と感光体との静電的な付着力が低下することで、感光体上へのトナー由来の異物付着を更に低減することができる。
【0035】
本発明の画像形成システムの実施形態としては、前記非滑剤粒子のうち少なくとも一種が、モース硬度が8以上の粒子であることが好ましい。感光体上付着物の核物質となる非滑剤粒子のトナー母体粒子に対する付着力が上がり、遊離量が低減することで、感光体上付着物をより低減することができる。
【0036】
本発明の画像形成システムの実施形態としては、前記保護層が、金属酸化物粒子を含有することが好ましい。これによって、減耗が抑制され耐久性が更に向上する。
【0037】
本発明の画像形成システムの実施形態としては、ローラー帯電方式である帯電手段を備えることが好ましい。帯電手段が、ローラー帯電方式のものであることにより、オゾンの発生量を大きく低減させることができ、またコロナ帯電方式に比べ印加電圧を低減可能なことによる消費電力の抑制効果や、省スペース化も可能となる。
【0038】
本発明の画像形成システムの実施形態としては、前記トナー粒子において、上記の条件による超音波処理法で求められる、前記脂肪酸金属塩粒子の前記トナー母体粒子からの遊離率Rが、20~60%の範囲内であることが好ましい。遊離率Rが20%以上であれば、トナー付着を低減できる適度な量の滑剤粒子を感光体上に供給することができる。また、遊離率が60%以下であれば、滑剤粒子の極度な遊離が抑えられ、感光体上に過度な滑剤粒子が供給されなくなることで、滑剤メモリなどの画像不良を抑制できる。
【0039】
本発明の画像形成方法は、有機感光体と、トナー粒子を含む静電荷像現像用トナーとを用いた画像形成方法であって、前記有機感光体が、硬化樹脂を含有する保護層を有し、前記トナー粒子が、表面に複数の凸部を有するトナー母体粒子の前記複数の凸部表面上又は複数の凸部の間の表面上に、少なくとも一種の滑剤粒子と、少なくとも一種の非滑剤粒子とを含有又は付着させた形状を有し、前記トナー母体粒子表面における前記凸部の平均間隔D1と、メジアン径が最も小さい前記滑剤粒子のメジアン径D2と、メジアン径が最も大きい前記非滑剤粒子のメジアン径D3とが、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする。
式(1) D3≦D1≦D2
【0040】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0041】
<1 画像形成システムの概要>
本発明の画像形成システムは、有機感光体と、トナー粒子を含む静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ともいう。)とを用いた画像形成システムであって、前記有機感光体が、硬化樹脂を含有する保護層を有し、前記トナー粒子が、表面に複数の凸部を有するトナー母体粒子の前記複数の凸部表面上又は複数の凸部の間の表面上に、少なくとも一種の滑剤粒子と、少なくとも一種の非滑剤粒子とを含有又は付着させた形状を有し、前記トナー母体粒子表面における前記凸部の平均間隔D1と、メジアン径が最も小さい前記滑剤粒子のメジアン径D2と、メジアン径が最も大きい前記非滑剤粒子のメジアン径D3とが、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする。
式(1) D3≦D1≦D2
【0042】
本発明の画像形成システムにおいて、装置部を特に「画像形成装置」といい、本発明の画像形成システムは、当該画像形成装置及び本発明に係るトナーを用いることによって、画像を形成する。
【0043】
以下、トナー及び画像形成装置の各構成について説明する。
【0044】
<2 トナー>
本発明において、「トナー」とは、トナー粒子の集合体のことをいう。また、「トナー粒子」とは、トナー母体粒子に外添剤を添加したものをいう。本発明においては、トナー母体粒子とトナー粒子とを区別する必要がない場合には、単にトナー粒子と称することがある。
【0045】
本発明に係るトナー粒子は、表面に複数の凸部を有するトナー母体粒子の複数の凸部表面上又は複数の凸部の間の表面上に、少なくとも一種の滑剤粒子と、少なくとも一種の非滑剤粒子とを含有又は付着させた形状を有することを特徴とする。
【0046】
図1は、本発明に係るトナー母体粒子のSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)画像である。図1のSEM画像は、トナー母体粒子がトナー母体粒子前駆体1とその表面にある複数の凸部2で構成されている様子を示している。
【0047】
本発明に係るトナー粒子は、図1のSEM画像のようなトナー母体粒子の、複数の凸部表面上又は複数の凸部の間の表面上に、滑剤粒子や非滑剤粒子といった外添剤(不図示)を含有又は付着させた形状を有する。
【0048】
本発明において、トナー母体粒子表面に形成される凸部は、次のようにして特定される。すなわち、SEMにより倍率10000倍で撮影された画像に含まれるトナー粒子について、トナー母体粒子表面の曲面にそったプロファイルを抽出し、当該曲線にフィッティングする。その曲線が直線になるように断面プロファイルの補正を行い、得られた直線を、撮影画像面に直交する方向に拡張した面を基準面とする。得られた基準面に対して、トナー母体粒子の中心と反対側に向かう方向に30nm以上離間する部分に対応する箇所であって、かつ、当該箇所の輪郭を二本の平行線で挟んだときにその距離が最大となる部分の距離を長辺長さとして、当該長辺長さが30~2000nmのものを凸部とする。
【0049】
以下、本発明の課題を解決するための必須要件として規定されるトナー母体粒子表面の凸部の平均間隔、滑剤粒子のメジアン径、及び非滑剤粒子のメジアン径の関係(D3≦D1≦D2)や、トナーの好ましい実施形態について説明する。
【0050】
<2.1 D3≦D1≦D2>
本発明に係るトナー粒子は、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする。これによって、当該トナー粒子の集合体であるトナーは、滑剤粒子はトナー母体粒子から遊離しやすく、非滑剤粒子はトナー母体粒子から遊離しにくいトナーとなる。
【0051】
式(1) D3≦D1≦D2
D1:トナー母体粒子表面における凸部の平均間隔
D2:メジアン径が最も小さい滑剤粒子のメジアン径
D3:メジアン径が最も大きい非滑剤粒子のメジアン径
【0052】
(トナー母体粒子表面における凸部の平均間隔D1)
凸部の平均間隔D1は、SEM画像データを用いて求める値である。凸部の平均間隔D1の求め方を、図2を用いながら説明する。
【0053】
まず、トナー母体粒子の10000倍観察のSEM画像データにおいて、長辺長さが30nm以上である凸部をランダムに1個ピックアップする。ここでピックアップした凸部は、図2において凸部2aとして図示している。次いで、当該凸部2aを中心として、当該凸部2aから近い順に4個の凸部をピックアップする。ここでピックアップした4個の凸部は、図2において凸部2bとして図示している。ピックアップする4個の凸部2bの長辺長さXは問わない。中心となる凸部2aの外周からピックアップした4個の凸部2bの外周までの最短距離(Y1~Y4)をそれぞれ測定する。次いで、Y1~Y4の平均値である平均最短距離Yaveを求める。
【0054】
同一のトナー母体粒子において、最初にランダムにピックアップする凸部を変えて、合計20個の凸部を中心とした平均最短距離Yaveの測定を行う。さらに、トナー母体粒子を変えて、合計5個のトナー母体粒子において、それぞれ同様に、合計20個の凸部を中心とした平均最短距離Yaveの測定を行う。合計100個の平均最短距離Yaveを平均して、凸部の平均間隔D1とする。
【0055】
D1は、20~200nmの範囲内であることが好ましい。D1が20nm以上であれば、非滑剤粒子が凸部と凸部の間に入り込みやすくなる。また、D1が200nm以下であれば、非滑剤粒子が密に存在することでトナー母体粒子への付着力が高まり、遊離量を更に抑えることができる。
【0056】
(メジアン径が最も小さい滑剤粒子のメジアン径D2)
D2の「メジアン径が最も小さい滑剤粒子」とは、滑剤粒子の種類が一種のみであればその種類の滑剤粒子のことをいい、滑剤粒子の種類が複数種であればその中でメジアン径が最も小さい種類の滑剤粒子のことをいう。
【0057】
D2は、500~3000nmの範囲内であることが好ましい。D2が500nm以上であれば、滑剤粒子が凸部と凸部の間により付着しにくくなる。また、D2が3000nm以下であれば、極度な遊離が抑えられ、感光体上に滑剤粒子が過度に供給されなくなることで、滑剤メモリなどの画像不良を抑制できる。
【0058】
(メジアン径が最も大きい非滑剤粒子のメジアン径D3)
D3の「メジアン径が最も大きい非滑剤粒子」とは、非滑剤粒子の種類が一種のみであればその種類の非滑剤粒子のことをいい、非滑剤粒子の種類が複数種であればその中でメジアン径が最も大きい種類の非滑剤粒子のことをいう。
【0059】
D3は、50~200nmの範囲内であることが好ましい。D3が50nm以上であれば、非滑剤粒子同士の凝集が抑えられ、一次粒子として母体表面に付着しやすいため、凸部と凸部の間に入り込みやすくなる。また、D3が200nm以下であれば、トナー母体粒子表面への付着力が強まるため、遊離量を更に抑えることができる。
【0060】
(滑剤粒子及び非滑剤粒子のメジアン径の測定方法)
本発明における滑剤粒子及び非滑剤粒子のメジアン径は、JIS Z 8825-1(2001年)に準じて測定される。具体的には以下のとおりである。
【0061】
測定装置としては、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置「LA-920」(堀場製作所社製)を用いる。測定条件の設定及び測定データの解析は、LA-920に附属の専用ソフト「HORIBA LA-920 WET(LA-920) Ver.2.02」を用いる。また、測定溶媒としては、あらかじめ不純固形物などを除去したイオン交換水を用いる。測定手順は、以下のとおりである。
【0062】
(1)バッチ式セルホルダーをLA-920に取り付ける。
(2)所定量のイオン交換水をバッチ式セルに入れ、バッチ式セルをバッチ式セルホルダーにセットする。
(3)専用のスターラーチップを用いて、バッチ式セル内を撹拌する。
(4)「表示条件設定」画面の「屈折率」ボタンを押し、ファイル「110A000I」(相対屈折率1.10)を選択する。
(5)「表示条件設定」画面において、粒子径基準を体積基準とする。
(6)1時間以上の暖気運転を行った後、光軸の調整、光軸の微調整、ブランク測定を行う。
(7)ガラス製の100mL平底ビーカーに約60mLのイオン交換水を入れる。この中に分散剤として、「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で約3質量倍に希釈した希釈液を約0.3mL加える。
(8)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispension System Tetora150」(日科機バイオス社製)を準備する。超音波分散器の水槽内に約3.3Lのイオン交換水を入れ、この水槽中にコンタミノンNを約2mL添加する。
(9)前記(7)のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
(10)前記(9)のビーカー内の水溶液に超音波を照射した状態で、約1mgの検体(測定対象とする粒子)を少量ずつ前記ビーカー内の水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。なお、この際に検体が固まりとなって液面に浮く場合があるが、その場合はビーカーを揺り動かすことで固まりを水中に沈めてから60秒間の超音波分散を行う。また、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10~40℃となるように適宜調節する。
(11)前記(10)で調製した検体が分散した水溶液を、気泡が入らないように注意しながら直ちにバッチ式セルに少量ずつ添加して、タングステンランプの透過率が90~95%となるように調整する。そして、粒度分布の測定を行う。得られた体積基準の粒度分布のデータを元に、体積基準のメジアン径を算出する。
【0063】
<2.2 トナー母体粒子>
本発明に係るトナー母体粒子は、表面に複数の凸部を有することを特徴とする。
【0064】
凸部の平均間隔D1は、上述のとおり、メジアン径が最も大きい非滑剤粒子のメジアン径D3以上であり、かつ、メジアン径が最も小さい滑剤粒子のメジアン径D2以下であることを特徴とする。また、凸部の平均間隔D1は、上述のとおり、20~200nmの範囲内であることが好ましい。
【0065】
表面に複数の凸部を有するトナー母体粒子は、トナー母体粒子前駆体と、トナー母体粒子前駆体の表面に形成された複数の凸部とを含んで構成される。トナー母体粒子前駆体は、トナー母体粒子前駆体用樹脂、着色剤、離型剤、荷電制御剤等を含有して構成され得る。凸部は、凸部用樹脂を含有して構成され得る。
【0066】
(1)トナー母体粒子前駆体用樹脂
トナー母体粒子前駆体用樹脂としては、例えば、ビニル樹脂を含有することが好ましく、ビニル樹脂及び結晶性樹脂を含有することがより好ましい。
【0067】
本発明において、「結晶性樹脂」とは、示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning calorimetry)により得られる吸熱曲線において、融点、すなわち昇温時に明確な吸熱ピークを有する樹脂をいう。「明確な吸熱ピーク」とは、10℃/minの昇温速度で昇温したときの吸熱曲線において半値幅が15℃以内のピークをいう。一方、「非晶性樹脂」とは、上記と同様の示差走査熱量測定を行った際に得られる吸熱曲線において、ガラス転移が生じたことを示すベースラインのカーブは見られるが、上述した明確な吸熱ピークが見られない樹脂のことをいう。
【0068】
(1-1)ビニル樹脂
本発明に係るビニル樹脂は、少なくともビニル系単量体を用いた重合により得られる樹脂である。非晶性のビニル樹脂として、具体的には、アクリル樹脂、スチレン・アクリル共重合体樹脂等が挙げられる。中でも、非晶性のビニル樹脂としては、スチレン系単量体とアクリル系単量体が重合したスチレン・アクリル系樹脂であることが好ましい。これにより、フィルミングの発生をより確実に抑制できるという効果が得られる。
【0069】
上記スチレン・アクリル系樹脂に用いられる重合性単量体としては、例えば、芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体が挙げられ、ラジカル重合を行うことができるエチレン性不飽和結合を有するものが好ましい。
【0070】
芳香族系ビニル単量体としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-フェニルスチレン、p-クロロスチレン、p-エチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、3,4-ジクロロスチレン等、及びその誘導体が挙げられる。これらの芳香族系ビニル単量体は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、β-ヒドロキシアクリル酸エチル、γ-アミノアクリル酸プロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステル系単量体は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
上記の中でも、スチレン系単量体と、アクリル酸エステル系単量体又はメタクリル酸エステル系単量体と、を組み合わせて使用することが好ましい。
【0073】
上記重合性単量体としては、第三のビニル系単量体を使用することもできる。第三のビニル系単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、ビニル酢酸等の酸単量体、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、エチレン、プロピレン、ブチレン塩化ビニル、N-ビニルピロリドン、ブタジエン等が挙げられる。
【0074】
上記重合性単量体としては、さらに多官能ビニル系単量体を使用しても良い。多官能ビニル単量体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール等のジアクリレート、ジビニルベンゼン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三級以上のアルコールのジメタクリレート及びトリメタクリレート等が挙げられる。多官能ビニル系単量体の重合性単量体全体に対する共重合比は通常、0.001~5質量%の範囲内、好ましくは0.003~2質量%の範囲内、より好ましくは0.01~1質量%の範囲内である。多官能ビニル系単量体の使用により、テトラヒドロフランに不溶のゲル成分が生成するが、ゲル成分の重合物全体に占める割合は通常40質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
【0075】
(1-2)結晶性樹脂
本発明に係るトナー母体粒子前駆体に含有される結晶性樹脂は、例えば、トナー母体粒子に含まれる樹脂全体の質量に対して、3~20質量%の範囲内で含有されていることが好ましく、特に5~15質量%の範囲内が好ましい。3質量%以上であると、定着性が良好で、20質量%以下であると、トナー母体粒子前駆体表面、及びトナー母体粒子表面での存在量が増えすぎることによる耐熱性の低下を防止でき、また、電気抵抗の低下に伴う転写不良も防止できる。
【0076】
本発明に係るトナー母体粒子前駆体に含有される結晶性樹脂は、公知の結晶性樹脂を使用できる。
【0077】
優れた低温定着性を得る観点からは、トナー母体粒子が、結晶性樹脂として結晶性ポリエステル樹脂を含有し、トナー母体粒子中の結晶性ポリエステル樹脂の含有率が、例えば、3~20質量%の範囲内にあることが好ましい。3質量%以上であると、十分な低温定着性がより確実に得られ、20質量%以下であると、帯電性の低下によるトナーの飛散をより確実に抑えることができる。
【0078】
結晶性ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)単量体と、2価以上のアルコール(多価アルコール)単量体との重合反応によって得られるポリエステル樹脂のうち、結晶性を示す樹脂をいう。
【0079】
結晶性ポリエステル樹脂の合成に使用できる多価カルボン酸単量体としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n-ドデシルコハク酸、1,10-デカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、1,12-ドデカンジカルボン酸(テトラデカン二酸)等の飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸;これらカルボン酸化合物の無水物、炭素数1~3のアルキルエステル等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0080】
結晶性ポリエステル樹脂の合成に使用できる多価アルコール単量体としては、例えば、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオール等の脂肪族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール等の3価以上の多価アルコール等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0081】
(1-3)トナー母体粒子前駆体用樹脂のガラス転移点及び軟化点
トナー母体粒子前駆体用樹脂のガラス転移点Tgは、例えば、40~60℃の範囲内であることが好ましい。また、トナー母体粒子前駆体用樹脂の軟化点Tspは、例えば、80~130℃の範囲内であることが好ましい。
【0082】
本発明において、トナー母体粒子前駆体用樹脂のガラス転移点Tgは、ASTM(米国材料試験協会規格)D3418-82に規定された方法(DSC法)によって測定することができる。
【0083】
具体的には、試料3.0mgを小数点以下二桁まで精秤し、アルミニウム製パンに封入して、示差走査カロリメーター「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)のサンプルホルダーにセットする。リファレンスは、空のアルミニウム製パンを使用し、測定温度0~200℃の範囲内、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分にて、昇温-降温-昇温の温度制御を行い、その2回目の昇温におけるデータを基に解析を行う。第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1の吸熱ピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間における最大傾斜を示す接線との交点の値をガラス転移点Tgとする。
【0084】
本発明において、トナー母体粒子前駆体用樹脂の軟化点Tspは、以下のようにして測定することができる。
【0085】
まず、20±1℃・50±5%RHの環境下において、樹脂1.1gをシャーレに入れ平らに均し、12時間以上放置した後、成型器「SSP-10A」(島津製作所社製)によって3820kg/cmの力で30秒間加圧し、直径1cmの円柱型の成型サンプルを作製する。次いで、この成型サンプルを、24±5℃・50±20%RHの環境下において、フローテスター「CFT-500D」(島津製作所社製)により、荷重196N(20kgf)、開始温度60℃、予熱時間300秒間、昇温速度6℃/分の条件で、円柱型ダイの穴(1mm径×1mm)より、直径1cmのピストンを用いて予熱終了時から押し出し、昇温法の溶融温度測定方法でオフセット値5mmの設定で測定したオフセット法温度Toffsetを、樹脂の軟化点Tspとする。
【0086】
(1-4)トナー母体粒子前駆体用樹脂の製造方法
本発明に係るトナー母体粒子前駆体用樹脂は、例えば、乳化重合法で調製されることが好ましい。乳化重合は、水系媒体中にスチレン、アクリル酸エステル等の重合性単量体を分散し重合することによって行うことができる。水系媒体に重合性単量体を分散するためには分散安定剤を用いることが好ましく、また、重合には重合開始剤、連鎖移動剤等を用いることができる。
【0087】
(1-4-1)分散安定剤
重合性単量体を水系媒体中に分散して乳化重合法によりトナー母体粒子前駆体用樹脂を調製する場合には、分散した液滴の凝集を防ぐため、通常、分散安定剤が添加される。分散安定剤としては、公知の界面活性剤が使用可能であり、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等の中から選択される分散安定剤を用いることができる。これらの界面活性剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。なお、分散安定剤は、着色剤やオフセット防止剤等の分散液にも使用できる。
【0088】
カチオン性界面活性剤の具体例としては、ドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルピリジニウムクロライド、ドデシルピリジニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。
【0089】
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ドデシルポリオキシエチレンエーテル、ヘキサデシルポリオキシエチレンエーテル、ノリルフェニルポリキオシエチレンエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンモノオレアートポリオキシエチレンエーテル、スチリルフェニルポリオキシエチレンエーテル、モノデカノイルショ糖等が挙げられる。
【0090】
アニオン性界面活性剤の具体例としては、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム等の脂肪族石鹸や、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0091】
(1-4-2)重合開始剤
トナー母体粒子前駆体用樹脂の重合に使用される重合開始剤としては、特に限定されるものではなく、公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化-tert-ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル、過酸化クロロベンゾイル、過酸化ジクロロベンゾイル、過酸化ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド、1-フェニル-2-メチルプロピル-1-ヒドロペルオキシド、過トリフェニル酢酸-tert-ヒドロペルオキシド、過ギ酸-tert-ブチル、過酢酸-tert-ブチル、過安息香酸-tert-ブチル、過フェニル酢酸-tert-ブチル、過メトキシ酢酸-tert-ブチル、過N-(3-トルイル)パルミチン酸-tert-ブチル等の過酸化物類;2,2′-アゾビス(2-アミノジプロパン)塩酸塩、2,2′-アゾビス-(2-アミノジプロパン)硝酸塩、1,1′-アゾビス(1-メチルブチロニトリル-3-スルホン酸ナトリウム)、4,4′-アゾビス-4-シアノ吉草酸、ポリ(テトラエチレングリコール-2,2′-アゾビスイソブチレート)等のアゾ化合物等が挙げられる。重合開始剤の添加量は、所望する分子量や分子量分布によって異なるが、具体的には重合性単量体に対して、例えば、0.1~5.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0092】
(1-4-3)連鎖移動剤
本発明に係るトナー母体粒子前駆体用樹脂の製造においては、上記の重合性単量体とともに連鎖移動剤を添加しても良い。連鎖移動剤を添加することによって重合体の分子量を制御できる。前述の芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合させる際に、スチレン・アクリル系重合体セグメントの分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、アルキルメルカプタン、メルカプト脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0093】
連鎖移動剤の添加量は、所望する分子量や分子量分布によって異なるが、具体的には重合性単量体に対して、例えば、0.1~5.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0094】
(2)離型剤
トナー母体粒子前駆体が含有し得る離型剤としては、ワックスが挙げられる。
【0095】
ワックスとしては、例えば、低分子量ポリエチレンワックス、低分子量ポリプロピレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックスのような炭化水素系ワックス類、カルナウバワックス、ペンタエリスリトールベヘン酸エステル、ベヘン酸ベヘニル、クエン酸ベヘニルなどのエステルワックス類などが挙げられる。
これらは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0096】
ワックスとしては、トナーの低温定着性及び離型性を確実に得る観点から、その融点が50~95℃の範囲内であるものを用いることが好ましい。
【0097】
本発明において、離型剤の融点は、トナーの示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning calorimetry)を行うことにより求めることができる。示差走査熱量測定には、例えば、示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いることができる。測定は、昇降速度10℃/minで0℃から200℃まで昇温し、5分間200℃で等温保持する1回目の昇温過程、冷却速度10℃/minで200℃から0℃まで冷却し、5分間0℃で等温保持する冷却過程、及び、昇降速度10℃/minで0℃から200℃まで昇温する2回目の昇温過程をこの順に経る測定条件(昇温・冷却条件)によって行う。上記測定は、離型剤3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」のサンプルホルダーにセットして行う。リファレンスとして空のアルミニウム製パンを使用する。上記測定において、1回目の昇温過程により得られた吸熱曲線から解析を行い、離型剤成分由来の吸熱ピークのトップ温度を、融点[℃]とする。
【0098】
ワックスの含有率は、トナー母体粒子前駆体用樹脂全量に対して2~20質量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3~18質量%の範囲内、更に好ましくは4~15質量%の範囲内である。
【0099】
(3)着色剤
トナー母体粒子前駆体が含有し得る着色剤としては、例えば、カーボンブラック、磁性体、染料、顔料等を任意に使用することができる。
【0100】
カーボンブラックとしては、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックなどを用いることができる。
【0101】
磁性体としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルトなどの強磁性金属、これらの金属を含む合金、フェライト、マグネタイトなどの強磁性金属の化合物などを用いることができる。
【0102】
顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、同3、同5、同7、同15、同16、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同123、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同208、同209、同222、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー3、同9、同14、同17、同35、同36、同65、同74、同83、同93、同94、同98、同110、同111、同138、同139、同153、同155、同180、同181、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同15:4、同60、中心金属が亜鉛、チタン、マグネシウムなどであるフタロシアニン顔料などが挙げられ、また、これらの混合物も用いることができる。
【0103】
染料としては、例えば、C.I.ソルベントレッド1、同3、同14、同17、同18、同22、同23、同49、同51、同52、同58、同63、同87、同111、同122、同127、同128、同131、同145、同146、同149、同150、同151、同152、同153、同154、同155、同156、同157、同158、同176、同179、ピラゾロトリアゾールアゾ染料、ピラゾロトリアゾールアゾメチン染料、ピラゾロンアゾ染料、ピラゾロンアゾメチン染料、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95などが挙げられ、また、これらの混合物も用いることができる。
【0104】
着色剤の含有率は、トナー母体粒子前駆体用樹脂の全量に対して1~30質量%の範囲内が好ましく、2~20質量%の範囲内がより好ましい。
【0105】
(4)荷電制御剤
トナー母体粒子前駆体が含有し得る荷電制御剤としては、種々の公知のものを使用することができる。
【0106】
荷電制御剤としては、例えば、水系媒体中に分散することができる公知の種々の化合物を用いることができ、具体的には、ニグロシン系染料、ナフテン酸又は高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩化合物、アゾ系金属錯体、サリチル酸金属塩又はその金属錯体などが挙げられる。
【0107】
荷電制御剤の含有率は、トナー母体粒子前駆体用樹脂の全量に対して0.1~10.0質量%の範囲内が好ましく、0.5~5.0質量%の範囲内がより好ましい。
【0108】
(5)その他添加剤
トナー母体粒子前駆体は、必要に応じてその他添加剤を含有することができる。その他添加剤としては、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、クリーニング性向上剤等が挙げられる。
【0109】
(6)トナー母体粒子前駆体の平均円形度
トナー母体粒子前駆体の平均円形度は、0.890以上であることが好ましい。
【0110】
トナー母体粒子前駆体の平均円形度は、各トナー母体粒子前駆体の円形度を足し合わせ、測定した全粒子数で割った、円形度の算術平均値である。
【0111】
トナー母体粒子前駆体の円形度は、フロー式粒子像分析装置「FPIA-2100」(Sysmex社製)を用いて測定することができる。具体的には、トナー母体粒子前駆体を界面活性剤水溶液に湿潤させ、超音波分散を1分間行い、分散した後、「FPIA-2100」を用い、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3000~10000個の範囲内の適正濃度で、円形度の測定を行う。この範囲であれば、再現性のある測定値が得られる。なお、乳化凝集法でトナー母体粒子を製造する場合には、湿式で作製していることから、上述の界面活性剤水溶液に湿潤させ、超音波分散を1分間行い、分散する工程を省略することができる。
【0112】
円形度は下記式で計算される。
円形度=(粒子像と同じ投影面積を持つ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
【0113】
(7)凸部用樹脂
凸部用樹脂としては、例えば、トナー母体粒子前駆体用樹脂にポリエステル樹脂が用いられる場合にはビニル樹脂等を含有することが好ましく、トナー母体粒子前駆体用樹脂にビニル樹脂が用いられる場合には、ビニル系重合セグメントとポリエステル系重合セグメントとが両反応性単量体を介して結合したハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂等を含有することが好ましい。
【0114】
(7-1)ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂
「ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂」とは、スチレン・アクリル系重合体等から構成されるビニル系重合セグメントと、非晶性ポリエステル樹脂から構成されるポリエステル系重合セグメントとが、両反応性単量体を介して結合した樹脂である。
【0115】
凸部用樹脂は、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。凸部にポリエステル系重合セグメントとポリエステル系重合セグメントより帯電性の低いビニル系重合セグメントとが共存することにより、トナー粒子の過剰帯電が抑制され、トナー粒子と感光体との静電的な付着力が低下するため、感光体上へのトナー由来の異物付着を更に低減することができる。また、凸部にビニル系重合セグメントが存在することにより、トナー母体粒子と滑剤粒子との静電的な付着力が低下することで、滑剤粒子が感光体上に供給されやすくなる。
【0116】
ビニル系重合セグメントとは、ビニル系単量体を重合して得られる重合体部分のことをいい、芳香族ビニル系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合して得られる重合体部分であることが好ましい。
【0117】
本発明においては、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂におけるビニル系重合セグメントの含有率は、例えば、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の総質量に対して、5~30質量%の範囲内であることが好ましく、特に、10~20質量%の範囲内であることが好ましい。また、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂は、ポリエステル系重合セグメントを、例えば、50~95質量%の範囲内で含有することが好ましい。
【0118】
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂が、5~30質量%の範囲内でビニル系重合セグメントを含有することで、トナー母体粒子からの凸部の脱離を起きにくくすることができ、トナー母体粒子の耐久性を向上させることができる。また、トナー調製時に、凸部同士での合一を起こりにくくさせることができるとともに、トナー母体粒子前駆体表面に結晶性樹脂を露出させにくくすることができ、凸部としての効果を十分に得ることができる。
【0119】
なお、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂におけるビニル系重合セグメントの含有率とは、具体的には、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を合成するために用いられる樹脂材料の全質量、すなわち、ポリエステル系重合セグメントとなる未変性のポリエステル樹脂を形成する重合性単量体と、ビニル系重合セグメントとなるビニル系単量体と、これらを結合させるための両反応性単量体との全質量に対する、ビニル系重合セグメントとなるビニル系単量体の質量の比率をいう。
【0120】
また、トナー母体粒子中のハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の含有率は、例えば、全樹脂量中、5~20質量%の範囲内であることが、定着性を阻害せずに、凸部としての効果を得ることができる点で好ましい。
【0121】
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂は、低温定着性の観点から、例えば、ガラス転移点Tgが50~70℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは50~65℃の範囲内であり、軟化点Tspが80~110℃の範囲内であることが好ましい。
【0122】
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点Tgは、ASTM(米国材料試験協会規格)D3418-12elに規定された方法(DSC法)によって測定された値であり、前述のトナー母体粒子前駆体用樹脂と同様の測定方法で測定することができる。
【0123】
また、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の軟化点Tspは、前述のトナー母体粒子前駆体用樹脂の軟化点Tspと同様の測定方法で測定することができる。
【0124】
(7-2)ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の製造方法
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を製造する方法としては、既存の一般的なスキームを使用することができる。代表的な方法としては、例えば、次の(A)~(D)の四つが挙げられる。なお、以下の例では、ビニル系重合セグメントが、芳香族ビニル系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合して得られる重合体部分である場合を例にしている。
【0125】
(A)ポリエステル系重合セグメントをあらかじめ重合しておき、当該ポリエステル系重合セグメントに両反応性単量体を反応させ、さらに、ビニル系重合セグメントを形成するための芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体を反応させることにより、ビニル系重合セグメントを形成する方法。すなわち、ビニル系重合セグメントを形成するための芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体を、ポリエステル系重合セグメントを形成するための多価カルボン酸単量体又は多価アルコール単量体と反応し得る基と重合性不飽和基とを有する両反応性単量体、及び未変性のポリエステル樹脂の存在下で重合させる方法。
【0126】
(B)ビニル系重合セグメントをあらかじめ重合しておき、当該ビニル系重合セグメントに両反応性単量体を反応させ、さらに、ポリエステル系重合セグメントを形成するための多価カルボン酸単量体及び多価アルコール単量体を反応させることにより、ポリエステル系重合セグメントを形成する方法。
【0127】
(C)ポリエステル系重合セグメント及びビニル系重合セグメントをそれぞれあらかじめ重合しておき、これらに両反応性単量体を反応させることにより、両者を結合させる方法。
【0128】
(D)ポリエステル系重合セグメントをあらかじめ重合し、そのポリエステル系重合セグメントの重合性不飽和基にビニル系重合性単量体を付加重合、又はビニル系重合セグメント中のビニル基と反応させ両者を結合する方法。
【0129】
ここで、両反応性単量体とは、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂のポリエステル系重合セグメントを形成するための多価カルボン酸単量体又は多価アルコール単量体と反応し得る基と、重合性不飽和基とを有する単量体である。
【0130】
(A)の方法について具体的に説明すると、ポリエステル系重合セグメントを形成するための未変性のポリエステル樹脂と、芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体と、両反応性単量体とを混合する混合工程、芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体を、両反応性単量体と未変性のポリエステル樹脂の存在下で重合させる重合工程、を経ることにより、ポリエステル系重合セグメントの末端にビニル系重合セグメントを形成させることができる。この場合、ポリエステル系重合セグメントの末端のヒドロキシ基と両反応性単量体のカルボキシ基とがエステル結合を形成し、両反応性単量体のビニル基が芳香族系ビニル単量体又は(メタ)アクリル酸系単量体のビニル基と結合することによってビニル系重合セグメントが結合される。上記合成法の中で(A)の方法が最も好ましい。
【0131】
上記混合工程においては、加熱することが好ましい。加熱温度としては、未変性のポリエステル樹脂、芳香族系ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及び両反応性単量体を混合させることができる範囲であれば良い。具体的には、それらの材料を良好に混合でき、かつ重合制御が容易となる観点から、例えば、80~120℃の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは85~115℃の範囲内、さらに好ましくは90~110℃の範囲内である。
【0132】
また、芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体の相対的な割合は、下記式(i)で表されるFOX式で算出されるガラス転移点Tgが35~80℃の範囲内、好ましくは40~60℃の範囲内となるような割合とすることが好ましい。
式(i):1/Tg=Σ(Wx/Tgx)
(上記式(i)中、Wxは、単量体xの質量分率を表し、Tgxは、単量体xの単独重合体のガラス転移点を表す。)
【0133】
なお、本発明においては、両反応性単量体はガラス転移点の計算に用いないものとする。
【0134】
上記の芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合させる重合工程における重合温度は、特に限定されず、芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体間の重合及びポリエステル樹脂への結合が進行する範囲において適宜選択することができる。例えば、85~125℃の範囲内であることが好ましく、90~120℃の範囲内であることがより好ましく、95~115℃の範囲内であることがさらに好ましい。
【0135】
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の製造においては、上記重合工程後の残留単量体等の乳化物からの揮発性有機物質が、1000ppm以下に抑制されることが実用上好ましく、500ppm以下に抑制されることがより好ましく、200ppm以下に抑制されることがさらに好ましい。
【0136】
(7-2-1)ポリエステル系重合セグメント
本発明に係るハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を構成するポリエステル系重合セグメントを調製するために用いる樹脂は、多価カルボン酸単量体(誘導体)及び多価アルコール単量体(誘導体)を原料として適宜の触媒の存在下で重縮合反応によって得られるものであることが好ましい。
【0137】
多価カルボン酸単量体としては、例えば、多価カルボン酸単量体のアルキルエステル、酸無水物及び酸塩化物を用いることができ、多価アルコール単量体としては、例えば、多価アルコール単量体のエステル及びヒドロキシカルボン酸を用いることができる。
【0138】
多価カルボン酸単量体としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、メサコン酸、アジピン酸、β-メチルアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、フマル酸、シトラコン酸、ジグリコール酸、シクロヘキサン-3,5-ジエン-1,2-ジカルボン酸、リンゴ酸、クエン酸、ヘキサヒドロテレフタール酸、マロン酸、ピメリン酸、酒石酸、粘液酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p-カルボキシフェニル酢酸、p-フェニレン二酢酸、m-フェニレンジグリコール酸、p-フェニレンジグリコール酸、o-フェニレンジグリコール酸、ジフェニル酢酸、ジフェニル-p,p′-ジカルボン酸、ナフタレン-1,4-ジカルボン酸、ナフタレン-1,5-ジカルボン酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ドデセニルコハク酸等の2価のカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、ピレンテトラカルボン酸等の3価以上のカルボン酸等を挙げることができる。
【0139】
中でも、多価カルボン酸単量体としては、フマル酸、マレイン酸、メサコン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸を用いることが好ましく、特に、上記一般式(A)で表される不飽和脂肪族ジカルボン酸を用いることが好ましい。また、本発明においては無水マレイン酸等のジカルボン酸の無水物を用いることもできる。
【0140】
多価アルコール単量体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物等の2価のアルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン、テトラメチロールベンゾグアナミン、テトラエチロールベンゾグアナミン等の3価以上のポリオール等を挙げることができる。
【0141】
本発明に係るハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を構成するポリエステル系重合セグメントを形成するためには、多価カルボン酸及び多価アルコールとして直鎖アルキル基を含まない単量体を使用することが好ましい。
【0142】
上記の多価カルボン酸単量体と多価アルコール単量体の比率は、例えば、多価アルコール単量体のヒドロキシ基[OH]と多価カルボン酸のカルボキシ基[COOH]との当量比[OH]/[COOH]が、好ましくは1.5/1~1/1.5の範囲内、さらに好ましくは1.2/1~1/1.2の範囲内である。
【0143】
ポリエステル系重合セグメントを合成するために用いられる触媒としては、従来公知の種々の触媒を使用することができる。
【0144】
ポリエステル系重合セグメントを構成する非晶性ポリエステル樹脂は、例えば、ガラス転移点Tgが40~70℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは50~65℃の範囲内である。当該非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点Tgが40℃以上であると、当該非晶性ポリエステル樹脂について高温領域における凝集力が適切なものとなり、定着の際にホットオフセット現象を生じることが抑制される。また、非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点が70℃以下であると、定着の際に十分に溶融させることができ、十分な最低定着温度を確保することができる。
【0145】
また、当該非晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量Mwは、例えば、1500~60000の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3000~40000の範囲内である。重量平均分子量が1500以上であると、トナー母体粒子全体として好適な凝集力が得られ、定着の際に高温オフセット現象を生じることが抑制される。また、重量平均分子量が60000以下であると、十分な溶融粘度を得ることができ、十分な最低定着温度を確保することができるので定着の際に低温オフセット現象を生じることが抑制される。
【0146】
当該非晶性ポリエステル樹脂は、用いられる多価カルボン酸単量体又は多価アルコール単量体として、カルボン酸価数又はアルコール価数を選択すること等によって、一部枝分かれ構造や架橋構造等が形成されていても良い。
【0147】
(7-2-2)両反応性単量体
ビニル系重合セグメントを形成するための両反応性単量体としては、ポリエステル系重合セグメントを形成するための多価カルボン酸単量体又は多価アルコール単量体と反応し得る基と重合性不飽和基とを有する単量体であれば良い。具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸等を用いることができる。本発明においては、両反応性単量体として、アクリル酸又はメタクリル酸を用いることが好ましい。
【0148】
両反応性単量体の使用割合は、例えば、用いられる樹脂材料の全質量、すなわち、未変性のポリエステル樹脂、芳香族系ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及び両反応性単量体の全質量を100質量%としたとき、0.1~5.0質量%の範囲内であることが好ましく、0.5~3.0質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0149】
(7-2-3)ビニル系重合セグメント
ビニル系重合セグメントを形成するための芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体は、ラジカル重合を行うことができるエチレン性不飽和結合を有するものである。
【0150】
芳香族系ビニル単量体としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-フェニルスチレン、p-クロロスチレン、p-エチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、3,4-ジクロロスチレン等、及びその誘導体が挙げられる。これらの芳香族系ビニル単量体は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0151】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、β-ヒドロキシアクリル酸エチル、γ-アミノアクリル酸プロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステル系単量体は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0152】
ビニル系重合セグメントを形成するための芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、優れた帯電性、画質特性等を得る観点から、スチレン又はその誘導体を多く用いることが好ましい。具体的には、スチレン又はその誘導体の使用量が、例えば、スチレン・アクリル系重合体セグメントを形成するために用いられる全単量体(芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体)中の50質量%以上であることが好ましい。
【0153】
(7-2-4)重合開始剤
上記した芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合させる重合工程においては、ラジカル重合開始剤の存在下で重合を行うことが好ましい。ラジカル重合開始剤の添加タイミングは、特に制限されないが、ラジカル重合の制御が容易であるという点で、混合工程の後であることが好ましい。
【0154】
重合開始剤としては、公知の種々の重合開始剤が好適に用いられる。具体的には、例えば、過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化-tert-ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル、過酸化クロロベンゾイル、過酸化ジクロロベンゾイル、過酸化ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド、1-フェニル-2-メチルプロピル-1-ヒドロペルオキシド、過トリフェニル酢酸-tert-ヒドロペルオキシド、過ギ酸-tert-ブチル、過酢酸-tert-ブチル、過安息香酸-tert-ブチル、過フェニル酢酸-tert-ブチル、過メトキシ酢酸-tert-ブチル、過N-(3-トルイル)パルミチン酸-tert-ブチル等の過酸化物類;2,2′-アゾビス(2-アミノジプロパン)塩酸塩、2,2′-アゾビス-(2-アミノジプロパン)硝酸塩、1,1′-アゾビス(1-メチルブチロニトリル-3-スルホン酸ナトリウム)、4,4′-アゾビス-4-シアノ吉草酸、ポリ(テトラエチレングリコール-2,2′-アゾビスイソブチレート)等のアゾ化合物等が挙げられる。重合開始剤の添加量は、所望する分子量や分子量分布によって異なるが、例えば、重合性単量体に対して、0.1~5.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0155】
(7-2-5)連鎖移動剤
上記した芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合させる重合工程においては、スチレン・アクリル系重合体セグメントの分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、アルキルメルカプタン、メルカプト脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0156】
連鎖移動剤は、上記の混合工程において樹脂形成材料とともに混合させておくことが好ましい。
【0157】
連鎖移動剤の添加量は、所望するスチレン・アクリル系重合体セグメントの分子量や分子量分布によって異なるが、例えば、芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体、並びに両反応性単量体の全質量に対して、0.1~5.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0158】
(8)凸部の平均長辺長さ
凸部の平均長辺長さは、他の部材との付着性を低減して耐フィルミング性を向上させる観点から、100~500nmの範囲内が好ましく、100~300nmの範囲内がより好ましい。
【0159】
本発明において、凸部の長辺長さ、及び凸部の平均長辺長さは、以下のようにして測定することができる。走査型電子顕微鏡により倍率10000倍で撮影された画像データにおいて、凸部を目視で確認し、個々の凸部について輪郭線を描き、この輪郭線を二本の平行線で挟んだとき、二本の平行線の距離が最大となる部分の距離(図2のX)を、「凸部の長辺長さ」とする。この測定を、長辺長さが30~2000nmの範囲内である凸部100個について行い、その平均値を「凸部の平均長辺長さ」とする。
【0160】
(9)凸部の平均密度分布
凸部の平均密度分布は、20~50個/μmの範囲内が好ましく、25~45個/μmの範囲内がより好ましい。これにより、トナーの他の部材への付着性を低減できるとともに、感光体表面とクリーニングブレードとの間で凸部が引っ掛かることでトナー粒子のすり抜けをより確実に抑制することができる。
【0161】
本発明において、凸部の密度分布、及び凸部の平均密度分布は、以下のようにして測定することができる。走査型電子顕微鏡により倍率10000倍で撮影された画像データにおいて、各トナー母体粒子の単位表面積あたりの、長辺長さが30~2000nmの凸部の個数を、「凸部の密度分布」とする。この測定を、長辺長さが30~2000nmの範囲内である凸部20個について行い、その平均値を「凸部の平均密度分布」とする。
【0162】
<2.3 滑剤粒子>
本発明に係るトナー粒子は、外添剤として、少なくとも一種の滑剤粒子を有し、メジアン径が最も小さい滑剤粒子のメジアン径D2が、トナー母体粒子表面における凸部の平均間隔D1以上であることを特徴とする。
【0163】
「メジアン径が最も小さい滑剤粒子」とは、上述のとおり、滑剤粒子の種類が一種のみであればその種類の滑剤粒子のことをいい、滑剤粒子の種類が複数種であればその中でメジアン径が最も小さい種類の滑剤粒子のことをいう。
【0164】
本発明に用いられる滑剤粒子としては、脂肪酸金属塩粒子であることが好ましい。滑剤粒子に正帯電性である脂肪酸金属塩粒子を用いることにより、トナーの過剰帯電が抑制され、トナー粒子と感光体との静電的な付着力が低下することで、感光体上へのトナー由来の異物付着を更に低減することができる。
【0165】
脂肪酸金属塩粒子を構成する脂肪酸金属塩としては、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、リチウムから選ばれる金属の塩が好ましい。この中でも脂肪酸亜鉛、脂肪酸リチウム又は脂肪酸マグネシウムが特に好ましい。また、脂肪酸金属塩の脂肪酸としては、炭素数12~22の高級脂肪酸が好ましい。炭素数12以上の脂肪酸を用いると遊離脂肪酸の発生を抑えることができ、また、脂肪酸の炭素数が22以下であれば、脂肪酸金属塩の融点が高くなりすぎず、良好な定着性を得ることができる。脂肪酸としては、ステアリン酸が特に好ましい。
【0166】
本発明に用いられる脂肪酸金属塩粒子としては、ステアリン酸亜鉛粒子又はステアリン酸アルミニウム粒子が好ましい。また、この中でもステアリン酸亜鉛粒子は、トナー母体粒子との付着力が小さいため、特に好ましい。
【0167】
さらに、滑剤粒子として脂肪酸金属塩粒子を用いる場合、トナー粒子において、下記の条件による超音波処理法で求められる、脂肪酸金属塩粒子のトナー母体粒子からの遊離率Rが、20~60%の範囲内であることが好ましい。
【0168】
遊離率Rが20%以上であれば、トナー付着を低減できる適度な量の滑剤粒子を感光体上に供給することができる。また、遊離率が60%以下であれば、滑剤粒子の極度な遊離が抑えられ、感光体上に過度な滑剤粒子が供給されなくなることで、滑剤メモリなどの画像不良を抑制できる。
【0169】
〔超音波処理法の条件〕
手順1:トナー粒子における、脂肪酸金属塩粒子に由来する金属元素のNET強度W1を、蛍光X線分析により測定する。
手順2:トナー粒子の水系分散液を調製する。
手順3:調製した水系分散液に対して超音波処理を行う。
手順4:超音波処理によりトナー母体粒子から遊離した脂肪酸金属塩粒子を、除去する。
手順5:遊離した脂肪酸金属塩粒子が除去されたトナー粒子における、脂肪酸金属塩粒子に由来する金属元素のNET強度W2を、蛍光X線分析により測定する。
手順6:下記式(2)から遊離率R[%]を求める。
式(2) R=(W1-W2)/W1×100
【0170】
手順1及び手順5における、脂肪酸金属塩粒子に由来する金属元素のNET強度W1、W2の測定には、例えば、蛍光X線分析装置「XRF-1700」(島津製作所社製)を用いることができる。NET強度の具体的な測定方法としては、トナー粒子2gを荷重15tにて10秒間、加圧してペレット化し、定性定量分析にて下記条件で測定を行うことができる。測定には、2θテーブルより測定したい元素(脂肪酸金属塩粒子に由来する金属元素)のKαピーク角度を決定して、用いることができる。
【0171】
-測定条件-
スリット:標準
アッテネータ:なし
分光結晶(Ti=LiF、Si=PET)
検出器(Ti=SC、Si=FPC)
【0172】
手順2における、トナー粒子の水系分散液の調製は、例えば、トナー粒子3gを、ポリオキシエチルフェニルエーテルの0.2質量%水溶液40gに湿潤させることでできる。
【0173】
手順3における、超音波処理は、例えば、超音波式ホモジナイザー「US-1200」(日本製機社製)を用い、超音波エネルギーを本体装置に附属の振動指示値を示す電流計の値が60μA(50W)を示すように調整し、手順2で調製した水系分散液に2分間印加することでできる。
【0174】
手順4における、トナー母体粒子から遊離した脂肪酸金属塩粒子の除去は、例えば、目開き1μmのフィルターを使用して濾過を行い、純水を用いて洗浄することでできる。
【0175】
滑剤粒子としては、脂肪酸金属塩粒子の他に、フッ化カルシウム、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、タルク、カオリン、モンモリロナイト、マイカ等で構成される粒子を用いることができる。
【0176】
滑剤粒子の含有率は、特に限定されないが、トナー母体粒子の全量に対して0.01~5.0質量%の範囲内が好ましく、0.05~2.0質量%の範囲内がより好ましい。
【0177】
<2.4 非滑剤粒子>
本発明に係るトナー粒子は、外添剤として、少なくとも一種の非滑剤粒子を有し、メジアン径が最も大きい非滑剤粒子のメジアン径D3が、トナー母体粒子表面における凸部の平均間隔D1以下であることを特徴とする。
【0178】
「メジアン径が最も大きい非滑剤粒子」とは、上述のとおり、非滑剤粒子の種類が一種のみであればその種類の非滑剤粒子のことをいい、非滑剤粒子の種類が複数種であればその中でメジアン径が最も大きい種類の非滑剤粒子のことをいう。
【0179】
非滑剤粒子としては、以下に例示する無機微粒子や有機微粒子を用いることができる。
【0180】
無機微粒子としては、例えば、シリカ粒子、酸化チタン粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、酸化亜鉛粒子、酸化クロム粒子、酸化セリウム粒子、酸化アンチモン粒子、酸化タングステン粒子、酸化スズ粒子、酸化テルル粒子、酸化マンガン粒子、酸化ホウ素粒子、チタン酸ストロンチウム粒子等が挙げられる。中でも、シリカ粒子、酸化チタン粒子、アルミナ粒子、チタン酸ストロンチウム粒子等が好ましく、コストの観点からアルミナ粒子が特に好ましい。
【0181】
無機微粒子は、その表面が疎水化処理されていることが好ましく、当該疎水化処理には、公知の表面処理剤が用いられる。表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、シリコーンオイル、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、脂肪酸、脂肪酸金属塩、そのエステル化物及びロジン酸が含まれる。これらの表面処理剤は、一種単独で用いられても良いし、複数種類が併用されても良い。
【0182】
上記シランカップリング剤としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、メチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等が挙げられる。上記シリコーンオイルとしては、例えば、環状化合物や、直鎖状又は分岐状のオルガノシロキサン等が挙げられ、より具体的には、例えば、オルガノシロキサンオリゴマー、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。
【0183】
有機微粒子としては、例えば、スチレンやメチルメタクリレート等の単独重合体やこれらの共重合体を含有する有機微粒子を使用することができる。
【0184】
本発明に係るトナー粒子においては、非滑剤粒子のうち少なくとも一種が、モース硬度が8以上の粒子であることが好ましい。これによって、感光体上付着物の核物質となる非滑剤粒子のトナー母体粒子に対する付着力が上がり、遊離量が低減することで、感光体上付着物をより低減することができる。モース硬度が8以上であれば、その効果には大きな差はない。
【0185】
モース硬度は、F.Mohsにより案出されたものである。粒子のモース硬度は、公知のモース硬度計を用いて測定できる。具体的には、粒子を加圧成形機により固めてペレットを準備する。次の10種の鉱物と、準備した粒子のペレットとを、順次すり合わせて、傷がつけば、その鉱物よりも硬度が低いとする。傷の有無の判定は目視で行う。鉱物は硬度の低い順から1:滑石、2:石膏、3:方解石、4:蛍石、5:りん灰石、6:正長石、7:水晶、8:黄玉、9:鋼玉、10:ダイヤモンドである。なお、モース硬度は、0.5刻みの数値で評価される。例えば、モース硬度が7とは、ペレットを水晶とすり合わせたときに両方に傷がつく場合であり、7.5とは、ペレットと水晶をすり合わせたときに水晶のみに傷がつき、測定対象と黄玉をすり合わせたときにペレットのみに傷がつく場合をいう。
【0186】
非滑剤粒子の含有率は、特に限定されないが、トナー母体粒子の全量に対して0.01~10.0質量%の範囲内が好ましく、0.05~5.0質量%の範囲内がより好ましい。
【0187】
<2.5 トナー粒子のその他のパラメータ>
(トナー粒子の平均円形度)
トナー粒子の平均円形度は、例えば、0.940~0.980の範囲内であることが好ましい。
【0188】
トナー粒子の平均円形度は、各トナー粒子の円形度を足し合わせ、測定した全粒子数で割った、円形度の算術平均値である。
【0189】
トナー粒子の円形度は、フロー式粒子像分析装置「FPIA-2100」(Sysmex社製)を用いて測定することができる。具体的には、トナー粒子を界面活性剤水溶液に湿潤させ、超音波分散を1分間行い、分散した後、「FPIA-2100」を用い、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3000~10000個の範囲内の適正濃度で、円形度の測定を行う。この範囲であれば、再現性のある測定値が得られる。
【0190】
円形度は下記式で計算される。
円形度=(粒子像と同じ投影面積を持つ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
【0191】
(トナー粒子の粒径)
トナー粒子の粒径は、例えば、体積基準のメジアン径で3~10μmの範囲内であることが好ましい。
【0192】
体積基準のメジアン径を上記範囲内とすることにより、例えば、1200dpiレベルの非常に微小なドット画像を忠実に再現することが可能になる。
【0193】
トナー粒子の体積基準のメジアン径は、例えば、コールターマルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用のコンピュータシステムを接続した装置を用いて測定、算出することができる。
【0194】
測定手順としては、トナー粒子0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)で馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、トナー粒子分散液を調製する。このトナー粒子分散液を、サンプルスタンド内のISOTONII(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定濃度5~10質量%の範囲内になるまでピペットにて注入し、測定機カウントを25000個に設定して測定する。なお、コールターマルチサイザー3のアパチャー径は100μmのものを使用する。測定範囲1~30μmの範囲を256分割しての頻度数を算出し、体積積算分率が大きい方から50%の粒子径を体積基準のメジアン径とする。
【0195】
(トナー粒子の軟化点)
トナー粒子の軟化点Tspは、例えば、90~115℃の範囲内であることが好ましい。トナーの軟化点Tspがこの範囲内であると、好ましい低温定着性が得られる。
【0196】
トナー粒子の軟化点Tspは、フローテスター「CFT-500D」(島津製作所社製)を用いて、前述のトナー母体粒子前駆体用樹脂の軟化点Tspと同様の測定方法で測定することができる。
【0197】
<2.6 トナーの製造方法>
本発明に係るトナーは、トナー母体粒子を製造し、更に外添剤を添加することで製造できる。
【0198】
トナー母体粒子の製造方法としては、例えば、懸濁重合法、乳化凝集法、その他の公知の方法などを挙げることができるが、乳化凝集法を用いることが好ましい。この乳化凝集法によれば、製造コスト及び製造安定性の観点から、トナー粒子の小粒径化を容易に図ることができる。
【0199】
ここに、乳化凝集法とは、乳化によって製造された、トナー母体粒子前駆体用樹脂の粒子の分散液を、必要に応じて、着色剤の粒子(以下、「着色剤粒子」ともいう)の分散液と混合し、所望の粒子径となるまで凝集させ、更に樹脂粒子間の融着を行うことにより形状制御を行って、トナー母体粒子を製造する方法である。ここで、トナー母体粒子前駆体用の樹脂の粒子は、任意に離型剤、荷電制御剤などを含有していてもよい。
【0200】
本発明に係るトナー母体粒子を乳化凝集法によって製造する場合の製造例を具体的に示す。
第1工程:トナー母体粒子前駆体用樹脂分散液、凸部用樹脂分散液、着色剤粒子分散液などを調製する工程
第2工程:トナー母体粒子前駆体を形成する工程
第3工程:トナー母体粒子前駆体の表面に凸部を形成する工程
第4工程:トナー母体粒子を洗浄し、乾燥する工程
第5工程:トナー母体粒子に外添剤を添加する工程
【0201】
(1)第1工程
第1工程では、トナー母体粒子前駆体用樹脂分散液、着色剤分散液、凸部用樹脂分散液などを調製する。
【0202】
(1-1)トナー母体粒子前駆体用樹脂分散液の調製
トナー母体粒子前駆体用樹脂及び必要に応じて離型剤が含有されたトナー母体粒子前駆体用樹脂粒子の分散液を調製する。
【0203】
トナー母体粒子前駆体用樹脂粒子分散液は、水系媒体で乳化重合することにより、調製することができる。
【0204】
トナー母体粒子前駆体用樹脂粒子は、組成の異なる樹脂よりなる2層以上の多層構造を有するものであってもよい。このような構成の樹脂粒子は、例えば2層構造を有するものは、常法に従った乳化重合処理(第1段重合)によって樹脂粒子の分散液を調製し、この分散液に重合開始剤と重合性単量体とを添加し、この系を重合処理(第2段重合)する手法によって得ることができる。また、必要に応じて、更に重合性単量体を加えて、第3段重合を行い3層構成とすることもできる。
【0205】
本発明に係るトナー母体粒子中には、必要に応じて、着色剤、荷電制御剤又は磁性粉などの内添剤が含有されていてもよく、このような内添剤は、例えば、このトナー母体粒子前駆体用樹脂の重合工程において、あらかじめ、トナー母体粒子前駆体用樹脂を形成するための単量体溶液に溶解又は分散させておくことによってトナー母体粒子中に導入することができる。
【0206】
また、このような内添剤は、別途内添剤のみよりなる内添剤粒子の分散液を調製し、第2工程でトナー母体粒子前駆体用樹脂粒子及び着色剤粒子とともに当該内添剤粒子を凝集させることにより、トナー母体粒子中に導入することもできるが、トナー母体粒子前駆体用樹脂の重合工程において、あらかじめ導入しておく方法を採用することが好ましい。
【0207】
分散液中のトナー母体粒子前駆体用樹脂粒子の粒径は、体積基準のメジアン径が50~500nmの範囲内であることが、凸部の平均長辺長さ及び平均間隔を上述した範囲に制御できる点で好ましい。当該体積基準のメジアン径は、コールターマルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)を用いて測定できる。
【0208】
(1-2)凸部用樹脂粒子分散液の調製
凸部用樹脂粒子の分散液を調製する方法としては、具体的には、例えば、凸部用樹脂粒子を機械的方法により粉砕し、界面活性剤を用いて水系媒体中で分散する方法、有機溶媒に溶解した凸部用樹脂溶液を水系媒体中に投入、分散し、水系媒体分散液とする方法、凸部用樹脂を溶融状態で水系媒体中と混合し、機械的分散方法により水系媒体分散液とする方法及び転相乳化法等が挙げられるが、本発明においてはいずれの方法を用いてもよい。
【0209】
分散液中の凸部用樹脂粒子の粒径は、体積基準のメジアン径で、50~500nmの範囲内にあることが好ましい。当該体積基準のメジアン径は、コールターマルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)を用いて測定できる。
【0210】
(1-3)着色剤粒子分散液の調製
トナー母体粒子に、着色剤が含有される場合、着色剤粒子分散液を調製する。着色剤粒子分散液は、着色剤を水系媒体中に分散することにより調製することができる。着色剤の分散処理は、着色剤が均一に分散されることから、水系媒体中において界面活性剤濃度を臨界ミセル濃度(CMC)以上にした状態で行われることが好ましい。着色剤の分散処理に使用する分散機としては、公知の種々の分散機を用いることができる。
【0211】
分散液中の着色剤粒子の粒径は、体積基準のメジアン径で10~300nmの範囲内とされることが好ましい。当該体積基準のメジアン径は、コールターマルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)を用いて測定できる。
【0212】
(2)第2工程
第2工程では、トナー母体粒子前駆体を形成する。具体的には、トナー母体粒子前駆体用樹脂粒子の分散液に含有される樹脂粒子を凝集することでトナー母体粒子前駆体を形成する。
【0213】
第2工程においては、トナー母体粒子前駆体用樹脂粒子に、必要に応じて、荷電制御剤及び着色剤粒子などのその他のトナー構成成分の粒子を凝集させることもできる。したがって、第2工程において、必要に応じて着色剤粒子分散液などを、トナー母体粒子前駆体用樹脂粒子分散液に混合させてもよい。
【0214】
なお、第1工程では、トナー母体粒子前駆体用樹脂粒子分散液が離型剤を含有し得るものとしたが、第1工程において離型剤をトナー母体粒子前駆体用樹脂粒子に含有させずに、離型剤のみを含有する離型剤粒子分散液を別途調製し、第2工程において、離型剤粒子分散液を、トナー母体粒子前駆体用樹脂粒子分散液に混合させてもよい。
【0215】
トナー母体粒子前駆体用樹脂粒子の分散液に含有される樹脂粒子を凝集することでトナー母体粒子前駆体を形成する具体的な方法としては、特に限定されないが、水系媒体中に凝集剤を臨界凝集濃度以上となるよう添加し、次いで、トナー母体粒子前駆体用樹脂粒子のガラス転移点以上であって、かつ、これら混合物の融解ピーク温度以下の温度に加熱することによって、トナー母体粒子前駆体用樹脂粒子及び着色剤粒子などの粒子の塩析を進行させると同時に融着を並行して進める方法が挙げられる。
【0216】
この方法においては、凝集剤を添加した後に放置する時間をできるだけ短くして、速やかにトナー母体粒子前駆体用樹脂粒子のガラス転移点Tg以上であって、かつ、これら混合物の融解ピーク温度以下の温度に加熱することが好ましい。この理由は明確ではないが、塩析した後の放置時間によっては粒子の凝集状態が変動して粒径分布が不安定になったり、融着させた粒子の表面性が変動したりする問題が発生することが懸念されるためである。
【0217】
この昇温開始までの時間としては、通常30分間以内であることが好ましい。また、昇温速度としては1℃/分以上であることが好ましい。昇温速度の上限は特に規定されるものではないが、急速な融着の進行による粗大粒子の発生を抑制する観点から、10℃/分以下とすることが好ましい。さらに、反応系がガラス転移点以上の温度に到達した後、当該反応系の温度を一定時間保持することにより、融着を継続させることが肝要である。これにより、トナー母体粒子前駆体の成長と、融着とを効果的に進行させることができ、最終的に得られるトナー粒子の耐久性を向上することができる。
【0218】
トナー母体粒子前駆体は、結晶性ポリエステル樹脂粒子と非晶性樹脂粒子を金属イオンの存在下で凝集、融着させて生成されることが好ましい。結晶性ポリエステル樹脂はトナー内部に微分散させることで低温定着性を効果的に発揮することができる。また、結晶性ポリエステル樹脂はトナー母体粒子前駆体表面及びトナー母体粒子表面に存在しないことが好ましい。そのため、結晶性ポリエステル樹脂は、凝集剤添加前後、又は反応系が所望の温度に達した時点、といったトナー母体粒子前駆体が成長する前に投入することが好ましい。
【0219】
第2工程において使用する凝集剤としては、特に限定されるものではないが、金属塩から選択されるものが好適に使用される。金属塩としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の塩などの一価の金属塩、カルシウム、マグネシウム、マンガン、銅などの二価の金属塩、鉄、アルミニウムなどの三価の金属塩などが挙げられる。具体的な金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガンなどを挙げることができ、これらの中で、より少量で凝集を進めることができることから、二価の金属塩を用いることが特に好ましい。これらは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0220】
第2工程において得られるトナー母体粒子前駆体の粒径は、例えば体積基準のメジアン径が3~10μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは4~7μmの範囲内である。当該体積基準のメジアン径は、コールターマルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)を用いて測定できる。
【0221】
(3)第3工程
第3工程では、トナー母体粒子前駆体の表面に凸部を形成する。
【0222】
具体的には、第2工程にて所望の粒子径となるまで成長させたトナー母体粒子前駆体の水系媒体(反応液)中に凸部用樹脂粒子分散液を投入し、凸部用樹脂粒子をトナー母体粒子前駆体に付着させる。その後、pH調整剤により水系媒体(反応液)のpHを調整して融着させる。
【0223】
具体的な方法としては、まず、水系媒体中に凝集剤を臨界凝集濃度以上となるよう添加し、次いで、凸部用樹脂粒子のガラス転移点Tg以上であって、かつ、これら混合物の融解ピーク温度以下の温度に加熱する。
【0224】
次に、水系媒体の上澄みが透明になった時点で凝集停止剤を添加して粒子成長を停止させる。さらに、昇温を行い、80~90℃の範囲内の状態で加熱撹拌する。
【0225】
これにより、トナー母体粒子前駆体の表面に複数の凸部を形成でき、トナー母体粒子を形成できる。次いで、20~30℃の範囲内に冷却することで、トナー母体粒子前駆体表面に凸部を有するトナー母体粒子の分散液を得る。
【0226】
第3工程において、トナー母体粒子前駆体に凸部用樹脂を融着させる融着時間は、10~180分の範囲内が好ましく、30~120分の範囲内であることが、凸部の平均長辺長さ及び平均間隔を上述の範囲内に制御できる点でより好ましい。
【0227】
(4)第4工程
第4工程では、トナー母体粒子を洗浄し、乾燥する。トナー母体粒子の洗浄及び乾燥は、公知の種々の方法を採用して行うことができる。すなわち、トナー母体粒子の分散液を、例えば遠心分離器などの公知の方法により、固液分離して洗浄を行い、減圧乾燥にて有機溶媒を除去し、更にフラッシュジェットドライヤー及び流動層乾燥装置など公知の乾燥装置にて水分及び微量の有機溶媒を除去する。乾燥温度は、トナーが融着しない範囲であればよい。
【0228】
(5)第5工程
第5工程では、トナー母体粒子に外添剤を添加する。具体的には、乾燥処理したトナー母体粒子に外添剤を添加、混合することにより、トナー粒子を形成する。本発明においては、外添剤として少なくとも一種の滑剤粒子と、少なくとも一種の非滑剤粒子とを用いる。
【0229】
外添剤の添加方法としては、乾燥されたトナー母体粒子に外添剤を粉体で添加する乾式法が挙げられ、混合装置としては、ヘンシェルミキサー及びコーヒーミルなどの機械式の混合装置が挙げられる。
【0230】
<2.7 現像剤>
本発明に係るトナーは、磁性又は非磁性の1成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して2成分現像剤として使用してもよい。
【0231】
キャリアとしては、例えば鉄、フェライト及びマグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム又は鉛などの金属との合金などの従来公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、これらの中ではフェライト粒子を用いることが好ましい。また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂などの被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散してなる樹脂分散型キャリアなどを用いてもよい。
【0232】
キャリアとしては、体積平均粒径が15~100μmの範囲内のものが好ましく、25~80μmの範囲内のものがより好ましい。
【0233】
<3 有機感光体>
本発明の画像形成システムで用いられる有機感光体は、硬化樹脂を含有する保護層を有することを特徴とする。
【0234】
本発明に係る有機感光体の構成は、硬化樹脂を含有する保護層を有していればそれ以外は特に限定されないが、例えば、導電性支持体上に、中間層を有し、この中間層上に、電荷発生物質を含有する電荷発生層及び電荷輸送物質を含有する電荷輸送層がこの順に積層されてなる感光層を有し、この感光層上に、最外層として保護層を有する構成であり得る。なお、感光層は、電荷発生物質及び電荷輸送物質を含有する単層構造の層構成を有するものであってもよい。以下、このような構成を有する有機感光体について詳細に説明する。
【0235】
<3.1 導電性支持体>
導電性支持体は、感光層を支持し、かつ導電性を有する部材である。導電性支持体の好ましい例としては、金属製のドラム又はシート、ラミネートされた金属箔を有するプラスチックフィルム、蒸着された導電性物質の膜を有するプラスチックフィルム、導電性物質、又は導電性物質とバインダー樹脂とからなる塗料を塗布してなる導電層を有する金属部材やプラスチックフィルム、紙等が挙げられる。上記金属の好ましい例としては、アルミニウム、銅、クロム、ニッケル、亜鉛及びステンレス鋼等が挙げられ、上記導電性物質の好ましい例としては、上記金属、酸化インジウム及び酸化スズ等が挙げられる。
【0236】
<3.2 感光層>
感光層は、露光手段により、所期の画像の静電潜像を感光体の表面に形成するための層である。当該感光層は、単層でもよいし、積層された複数の層で構成されていてもよい。感光層の好ましい例としては、電荷輸送物質と、電荷発生物質とを含有する単層、及び電荷輸送物質を含有する電荷輸送層と、電荷発生物質を含有する電荷発生層との積層物等が挙げられる。
【0237】
<3.3 保護層>
保護層は、硬化樹脂を含有することを特徴とする。これによって、感光体表面の機械的強度を向上させ、耐傷性や耐摩耗性を向上させる。
【0238】
(1)硬化樹脂
保護層が含有する「硬化樹脂」とは、紫外線、可視光線、電子線等の活性エネルギー線の照射により、又は加熱等のエネルギーの付加により、重合性モノマーが重合(硬化)した化合物のことをいう。
【0239】
硬化されて硬化樹脂となる重合性モノマーが有する重合性基の種類は、特に制限されないが、ラジカル重合性基が好ましい。ここで、ラジカル重合性基は、炭素-炭素二重結合を有するラジカル重合可能な基を表す。ラジカル重合性基の例としては、ビニル基及び(メタ)アクリロイル基等が挙げられ、(メタ)アクリロイル基が好ましい。重合性基が(メタ)アクリロイル基であると、保護層の耐摩耗性及びかぶり抑制効果が向上する。保護層の耐摩耗性の向上の理由は、少ない光量又は短い時間での効率的な硬化が可能となるからであると推測される。
【0240】
硬化されて硬化樹脂となる重合性モノマーの例としては、スチレン系モノマー、(メタ)アクリル系モノマー、ビニルトルエン系モノマー、酢酸ビニル系モノマー、N-ビニルピロリドン系モノマー等が挙げられる。これら重合性モノマーは、単独でも又は2種以上混合しても用いることができる。
【0241】
重合性モノマーが有する1分子中の重合性基の数は、特に制限されないが、2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。この範囲であると、保護層の耐摩耗性が向上する。この理由は、保護層の架橋密度が増加し、膜強度がより向上するからであると推測される。また、重合性モノマーが有する1分子中の重合性基の数は、特に制限されないが、6個以下であることが好ましく、5個以下であることがより好ましく、4個以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、保護層の均一性が高まり、かぶりの抑制効果が向上する。この理由は、架橋密度が一定以下となり、硬化収縮が起こりにくくなるからであると推測される。これらの観点から、重合性モノマーが有する1分子中の重合性基の数は、3個であることが最も好ましい。
【0242】
重合性モノマーの具体例としては、特に制限されないが、下記の化合物M1~M11が挙げられ、これらの中でも、下記の化合物M2が特に好ましい。下記の各式中、Rは、アクリロイル基(CH=CHCO-)を表し、R’は、メタクリロイル基(CH=C(CH)CO-)を表す。
【0243】
【化1】
【0244】
また、保護層が含有する硬化樹脂を形成する重合性モノマーとして、重合性基を有する電荷輸送化合物を用いることもできる。これにより、有機感光体の耐摩耗性を向上させつつ、電荷輸送性も向上させることができる。
【0245】
重合性基を有する電荷輸送化合物の例としては、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル誘導体、ヒドラゾン誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、ベンジジン誘導体等の電荷輸送性を有する構造を基本骨格として有し、重合性基として上記のラジカル重合性基等を有する化合物が挙げられる。中でもトリアリールアミン誘導体を基本骨格として有し、(メタ)アクリロイル基を重合性基として有する化合物が好ましい。
【0246】
重合性モノマーは、単独でも又は2種以上組み合わせて用いてもよい。また、重合性モノマーは、合成品であってもよいし市販品であってもよい。
【0247】
(2) 金属酸化物粒子
保護層は、金属酸化物粒子を含有することが好ましい。これによって、減耗が抑制され耐久性が更に向上する。
【0248】
本発明において、「金属酸化物粒子」とは、少なくともその表面が金属酸化物から構成される粒子をいう。金属酸化物粒子を構成する金属酸化物の例としては、特に制限されないが、酸化ケイ素(シリカ)、酸化スズ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉛、酸化タンタル、酸化インジウム、酸化ビスマス、酸化イットリウム、酸化コバルト、酸化銅、酸化マンガン、酸化セレン、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化ゲルマニウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化バナジウム、銅アルミ酸化物、アンチモンイオンをドープした酸化スズ等が挙げられる。これら金属酸化物粒子は、単独でも又は2種以上を組み合わせても用いることができる。また、金属酸化物粒子は合成品であってもよいし、市販品であってもよい。
【0249】
これらの中でも、酸化ケイ素粒子及び酸化スズ粒子がより好ましく、酸化ケイ素粒子がさらに好ましい。
【0250】
金属酸化物粒子の数平均一次粒子径は、50~500nmの範囲内が好ましく、65~400nmの範囲内がより好ましく、80~300nmの範囲内がさらに好ましい。金属酸化物粒子の数平均一次粒子径が50nm以上であると、金属酸化物粒子による凹凸が適度に付与されるため、クリーニングの際にクリーニングブレードの姿勢が安定し、クリーニング性が向上する。また、金属酸化物粒子の数平均一次粒子径が500nm以下であると、凸部が大きすぎてクリーニングブレードに引っかかることがないため、ブレードのスティックスリップの発生に伴うクリーニング性の低下の恐れが少ない。
【0251】
なお、金属酸化物粒子の数平均一次粒子径は、以下の方法で測定される数平均一次粒子径と定義する。
【0252】
まず、走査型電子顕微鏡(日本電子社製)により撮影された10000倍の拡大写真をスキャナーに取り込む。次いで、得られた写真画像から、凝集粒子を除く300個の粒子像を、ランダムに自動画像処理解析システム ルーゼックス(登録商標)AP ソフトウエアVer.1.32(ニレコ社製)を使用して2値化処理して、当該粒子像のそれぞれの水平方向フェレ径を算出する。そして、当該粒子像のそれぞれの水平方向フェレ径の平均値を算出して数平均一次粒子径とする。ここで、水平方向フェレ径とは、上記粒子像を2値化処理したときの外接長方形の、x軸に平行な辺の長さをいう。また、金属酸化物粒子の数平均一次粒子径の測定は、表面処理剤由来の化学種(被覆層)を含まない金属酸化物粒子について行うものとする。
【0253】
金属酸化物粒子は、表面処理剤で表面処理されていることが好ましい。表面処理剤で表面処理された金属酸化物粒子は、表面処理剤由来の化学種(被覆層)及び金属酸化物粒子を含む被覆粒子となると考えられる。なお、表面処理された金属酸化物粒子は、その表面上の少なくとも一部に表面処理剤由来の化学種(被覆層)を有していればよい。
【0254】
表面処理剤は特に制限されないが、シリコーン鎖を有するシリコーン表面処理剤、重合性官能基を有する表面処理剤などが挙げられ、シリコーン鎖を有する表面処理剤(以下、しばしば、シリコーン表面処理剤とも呼ぶ)が好ましい。
【0255】
シリコーン表面処理剤としては、特に制限されないが、高分子主鎖の側鎖にシリコーン鎖を有するものが好ましく、さらに反応性官能基を有するものが好ましい。反応性官能基としては、カルボキシ基、ヒドロキシ基、-R-COOH(Rは、2価の炭化水素基)、アルキルシリル基、ハロゲン化シリル基、及びアルコキシシリル基等の金属酸化物粒子と結合しうる基が挙げられる。これらの中でもカルボキシ基、ヒドロキシ基又はアルコキシシリル基が好ましい。
【0256】
上記シリコーン表面処理剤が有する高分子主鎖は、ポリ(メタ)アクリレート主鎖又はシリコーン主鎖であることが好ましく、シリコーン主鎖であることがより好ましい。主鎖及び側鎖の両方にシリコーン鎖を有する表面処理剤により表面処理された金属酸化物粒子は、シリコーン鎖をより多く有することから、保護層中での分散性がより高まり、保護層の耐摩耗性がより向上する。
【0257】
側鎖及び主鎖のシリコーン鎖は、ジメチルシロキサン構造を繰り返し単位として有することが好ましく、その繰り返し単位数は3~100個であるものが好ましく、3~50個であるものがより好ましく、3~30個であるものがさらに好ましい。
【0258】
シリコーン表面処理剤の重量平均分子量は、特に制限されないが、1000~50000の範囲内が好ましい。なお、シリコーン表面処理剤の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0259】
シリコーン表面処理剤は、単独でも又は2種以上組み合わせても用いることができる。また、シリコーン表面処理剤は、合成品であってもよいし、市販品であってもよい。ポリ(メタ)アクリレート主鎖の側鎖にシリコーン鎖を有する表面処理剤の市販品の具体例としては、サイマック(登録商標)US-350(以上、東亞合成社製)、KP-541、KP-574、及びKP-578(以上、信越化学工業社製)等を挙げることができる。また、シリコーン主鎖の側鎖にシリコーン鎖を有する表面処理剤の市販品の具体例としては、KF-9908、KF-9909(以上、信越化学工業社製)等を挙げることができる。
【0260】
また、上記した金属酸化物粒子は、金属酸化物からなる芯(コア)と、表面処理剤からなる外殻(シェル)と、を有する、コア-シェル構造を有する粒子(複合粒子)であることが好ましい。コア-シェル構造を有さない、単一粒子の粒子径を大きくすると、重合性モノマーとの屈折率の差が大きくなって、保護層の硬化に用いられる活性エネルギー線(特には紫外線)の透過性が低下する。その結果、硬化後の保護層の膜強度が不十分になる場合がある。そこで芯材を設けることで、分散性の向上による海部面積の低減、及び光透過向上による膜強度の確保が可能となる。
【0261】
当該複合粒子の芯材(コア)を構成する材料は、特に制限されないが、硫酸バリウム、アルミナ、酸化ケイ素等が挙げられる。これらの中でも、保護層の光透過性を確保する観点から、硫酸バリウムを芯材とした粒子が好ましい。また、当該複合粒子の外殻(シェル)を構成する材料は、上記金属酸化物粒子を構成する金属酸化物の例として挙げたものと同様である。コア-シェル構造の複合粒子の好ましい例としては、硫酸バリウムからなる芯材と、酸化スズからなる外殻と、を有する複合粒子が挙げられる。なお、芯材の数平均一次粒子径と、外殻の厚みとの比率は、使用する芯材及び外殻の種類、及びこれらの組み合わせに応じて、適宜設定すればよい。
【0262】
表面処理剤による表面処理方法は、特に制限されず、金属酸化物粒子の表面上に表面処理剤を付着(又は結合)することができる方法であればよい。このような方法としては、一般的に、湿式処理方法と乾式処理方法との二通りに大別されるが、いずれを用いてもよい。
【0263】
なお、後述する反応性表面処理後の金属酸化物粒子を表面処理する場合は、金属酸化物粒子の表面上又は反応性表面処理剤上に、表面処理剤が付着(又は結合)する。
【0264】
湿式処理方法とは、金属酸化物粒子と、表面処理剤とを溶剤中で分散することによって、表面処理剤を金属酸化物粒子の表面上に付着(又は結合)させる方法である。当該方法としては、金属酸化物粒子と、表面処理剤とを溶剤中で分散させ、得られた分散液を乾燥し溶剤を除去する方法が好ましく、その後さらに加熱処理を行い、表面処理剤と金属酸化物粒子とを反応させることによって、表面処理剤を金属酸化物粒子の表面上に付着(又は結合)させる方法がより好ましい。また、表面処理剤と金属酸化物粒子とを溶剤中で分散した後、得られた分散液を湿式粉砕することにより、金属酸化物粒子を微細化すると同時に表面処理を進行させてもよい。
【0265】
金属酸化物粒子及び表面処理剤を溶剤中で分散させる手段としては、特に制限されず公知の手段を用いることができ、その例としては、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル等の一般的な分散手段を挙げることができる。
【0266】
溶剤としては、特に制限されず公知の溶剤を用いることができ、その好ましい例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール(2-ブタノール)、tert-ブタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶剤や、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤等が挙げられる。これらは単独でも又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、メタノール、2-ブタノール、トルエン、及び2-ブタノールとトルエンとの混合溶剤がより好ましい。
【0267】
分散時間は、特に制限されないが、例えば、1~600分の範囲内が好ましく、10~360分の範囲内がより好ましく、30~120分の範囲内がより好ましい。
【0268】
溶剤の除去方法としては、特に制限されず公知の方法を用いることができ、その例としては、エバポレーターを用いる方法、室温下で溶剤を揮発させる方法等が挙げられる。
【0269】
加熱温度としては、特に制限されないが、50~250℃の範囲内が好ましく、70~200℃の範囲内がより好ましく、90~150℃の範囲内がさらに好ましい。また、加熱時間としては、特に制限されないが、1~600分の範囲内が好ましく、10~300分の範囲内がより好ましく、30~90分の範囲内がさらに好ましい。なお、加熱方法は、特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
【0270】
乾式処理方法とは、溶剤を用いず、表面処理剤と金属酸化物粒子とを混合し混練を行うことによって、表面処理剤を導電性金属酸化物の表面上に付着(又は結合)させる方法である。当該方法としては、表面処理剤と、金属酸化物粒子とを混合し混練した後、さらに加熱処理を行い、表面処理剤と金属酸化物粒子とを反応させることによって、表面処理剤を金属酸化物粒子の表面上に付着(又は結合)させる方法であってもよい。また、金属酸化物粒子と、表面処理剤とを混合し混練する際に、これらを乾式粉砕することにより、金属酸化物粒子を微細化すると同時に表面処理を進行させてもよい。
【0271】
表面処理剤の使用量は、処理前の金属酸化物粒子(後述する反応性表面処理後の金属酸化物粒子を表面処理する場合は、反応性表面処理後の金属酸化物粒子)100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることがさらに好ましい。この範囲であれば、保護層の耐摩耗性及びかぶり抑制効果がより向上する。
【0272】
また、表面処理剤の使用量は、表面処理前の金属酸化物粒子(後述する反応性表面処理後の金属酸化物粒子を表面処理する場合は、反応性表面処理後の金属酸化物粒子)100質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、未反応の表面処理剤による保護層の膜強度の低下が抑制され、保護層の耐摩耗性が向上する。
【0273】
未処理の金属酸化物粒子や反応性表面処理後の金属酸化物粒子に表面処理が施されたことは、熱重量・示差熱(TG/DTA)測定、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過電子顕微鏡(TEM)による観察、エネルギー分散型X線分光法(EDX)による分析等によって確認することができる。
【0274】
表面処理粒子は、重合性基由来の基を有することが好ましい。表面処理粒子が重合性基由来の基を有することにより、保護層の耐摩耗性が向上する。この理由は、保護層を構成する硬化物中で、表面処理粒子と重合性モノマーとが化学結合した状態となり、保護層の膜強度が向上するからであると推測される。重合性基の種類は、特に制限されないが、ラジカル重合性基が好ましい。重合性基の導入方法としては、特に制限されないが、金属酸化物粒子に対して重合性基を有する表面処理剤で表面処理を行う方法が好ましい。
【0275】
表面処理粒子が重合性基を有することや、保護層中の表面処理粒子が重合性基由来の基を有することは、熱重量・示差熱(TG/DTA)測定、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過電子顕微鏡(TEM)による観察、エネルギー分散型X線分光法(EDX)による分析、質量分析等によって確認することができる。
【0276】
上述した表面処理(シリコーン表面処理)が施された金属酸化物粒子は、反応性表面処理剤でさらに表面処理されることが好ましい。重合性基は、反応性表面処理によって、金属酸化物粒子の表面に担持され、その結果、表面処理粒子は、さらに重合性基を有することとなる。そして、保護層中で、当該表面処理粒子が重合性基を介して重合性モノマーと重合することになり、膜強度がより高い保護層が形成され、保護層の耐摩耗性がさらに向上する。このとき、シリコーン表面処理粒子は、保護層中で重合性基由来の基を有する構造として存在することとなる。
【0277】
反応性表面処理剤は、重合性基及び反応性官能基を有する。重合性基の種類は、特に制限されないが、ラジカル重合性基が好ましい。ここで、ラジカル重合性基は、炭素-炭素二重結合を有するラジカル重合可能な基を表す。ラジカル重合性基の例としては、ビニル基及び(メタ)アクリロイル基等が挙げられ、これらの中でもメタクリロイル基が好ましい。また、反応性官能基とは、金属酸化物粒子の表面に存在するヒドロキシ基などの極性基への反応性を有する基を表す。反応性官能基の例としては、カルボキシ基、ヒドロキシ基、-R’-COOH(R’は、二価の炭化水素基)、アルキルシリル基、ハロゲン化シリル基、アルコキシシリル基等が挙げられ、これらの中でもアルキルシリル基、ハロゲン化シリル基、アルコキシシリル基が好ましい。
【0278】
反応性表面処理剤は、ラジカル重合性基を有するシランカップリング剤が好ましく、その例としては、下記式S-1~S-32で表される化合物等が挙げられる。
S-1: CH=CHSi(CH)(OCH
S-2: CH=CHSi(OCH
S-3: CH=CHSiCl
S-4: CH=CHCOO(CHSi(CH)(OCH
S-5: CH=CHCOO(CHSi(OCH
S-6: CH=CHCOO(CHSi(OC)(OCH
S-7: CH=CHCOO(CHSi(OCH
S-8: CH=CHCOO(CHSi(CH)Cl
S-9: CH=CHCOO(CHSiCl
S-10: CH=CHCOO(CHSi(CH)Cl
S-11: CH=CHCOO(CHSiCl
S-12: CH=C(CH)COO(CHSi(CH)(OCH
S-13: CH=C(CH)COO(CHSi(OCH
S-14: CH=C(CH)COO(CHSi(CH)(OCH
S-15: CH=C(CH)COO(CHSi(OCH
S-16: CH=C(CH)COO(CHSi(CH)Cl
S-17: CH=C(CH)COO(CHSiCl
S-18: CH=C(CH)COO(CHSi(CH)Cl
S-19: CH=C(CH)COO(CHSiCl
S-20: CH=CHSi(C)(OCH
S-21: CH=C(CH)Si(OCH
S-22: CH=C(CH)Si(OC
S-23: CH=CHSi(OCH
S-24: CH=C(CH)Si(CH)(OCH
S-25: CH=CHSi(CH)Cl
S-26: CH=CHCOOSi(OCH
S-27: CH=CHCOOSi(OC
S-28: CH=C(CH)COOSi(OCH
S-29: CH=C(CH)COOSi(OC
S-30: CH=C(CH)COO(CHSi(OC
S-31: CH=CHCOO(CHSi(CH(OCH
S-32: CH=C(CH)COO(CHSi(OCH
【0279】
反応性表面処理剤は、単独でも又は2種以上を組み合わせても用いることができる。また、反応性表面処理剤は、合成品であってもよいし市販品であってもよい。市販品の具体例としては、KBM-502、KBM-503、KBE-502、KBE-503、KBM-5103(以上、信越化学工業社製)等を挙げることができる。
【0280】
シリコーン表面処理及び反応性表面処理の両方を行う場合、反応性表面処理を行った後にシリコーン表面処理を行うことが好ましい。この順序で表面処理を行うことにより、保護層の耐摩耗性がより向上する。この理由は、撥油効果を有するシリコーン鎖によって、反応性表面処理剤の金属酸化物粒子表面への接触が妨げられることがないため、金属酸化物粒子への重合性基の導入がより効率よく行われるからである。
【0281】
反応性表面処理の方法は、特に制限されず、反応性表面処理剤を用いる以外は、シリコーン表面処理で説明した方法と同様の方法を採用することができる。また、公知の金属酸化物粒子の表面処理技術を用いてもよい。
【0282】
湿式処理方法により反応性表面処理を用いる場合、溶剤としては、メタノール、エタノール、トルエンが好ましく、メタノール、トルエンがより好ましい。
【0283】
反応性表面処理剤の使用量は、反応性表面処理前の金属酸化物粒子100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、1.5質量部以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、保護層の耐摩耗性及びかぶり抑制効果がより向上する。また、反応性表面処理剤の使用量は、処理前の金属酸化物粒子100質量部に対して、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、8質量部以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、粒子表面のヒドロキシ基数に対して反応性表面処理剤の量が過剰とはならずより適切な範囲となり、未反応の反応性表面処理剤による保護層の膜強度の低下が抑制され、保護層の耐摩耗性がより向上する。
【0284】
(3)電荷輸送物質
保護層は、有機感光体の電荷輸送性の観点から、電荷輸送物質を含有することが好ましい。
【0285】
電荷輸送物質としては、特に制限されず、公知のものを用いることができる。その例としては、カルバゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、ピラゾリン化合物、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、ベンジジン誘導体等が挙げられる。これらの中でも、トリアリールアミン誘導体が好ましい。トリアリールアミン誘導体としては、下記一般式(1)で表される構造を有するものが好ましい。
【0286】
【化2】
【0287】
上記一般式(1)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~7のアルキル基、又は炭素数1~7のアルコキシ基を表す。k,l及びnは、それぞれ独立して、0~5の整数を示し、mは0~4の整数を示す。ただし、k、l、m又はnが2以上である場合においては、複数存在するR、R、R及びRは、互いに同一のものであっても、異なるものであってもよい。これらの中でも、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基であることが好ましい。また、k、l、m及びnは、それぞれ独立して、0~1の整数であることが好ましい。
【0288】
上記一般式(1)で表される構造を有する化合物としては、例えば、特開2015-114454号公報に記載のものを使用でき、また、公知の合成方法、例えば、特開2006-143720号公報で開示されている方法などで合成することができる。
【0289】
(4)他の成分
保護層は、上記成分以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分の例としては、特に制限されないが、潤滑剤等が挙げられる。潤滑剤は、特に制限されず公知のものを用いることができ、その例としては、重合性シリコーン化合物及び重合性パーフルオロポリエーテル化合物等が挙げられる。
【0290】
<3.4 有機感光体の製造方法>
有機感光体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法によって製造することができる。
【0291】
中でも、導電性支持体上に形成された感光層の表面に、保護層形成用の樹脂組成物を含有する塗布液を塗布する工程と、塗布された保護層形成用の樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して、又は塗布された保護層形成用の樹脂組成物を加熱して、保護層形成用の樹脂組成物の硬化物を得る工程と、を含む方法によって製造することが好ましい。
【0292】
保護層形成用の樹脂組成物は、例えば、硬化樹脂を形成するための重合性モノマーと重合開始剤を含有し、さらに金属酸化物粒子や電荷輸送物質などを含有し得る。また、保護層形成用の樹脂組成物は、分散媒を含有し得る。
【0293】
重合開始剤は、重合性モノマーを重合反応させるために使用されるものである。重合開始剤は、熱重合開始剤であっても、光重合開始剤であってもよいが、光重合開始剤であることが好ましい。また、重合性モノマーがラジカル重合性モノマーである場合、ラジカル重合開始剤であることが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、特に制限されず公知のものを用いることができ、その例としては、アルキルフェノン系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物等が挙げられる。これらの中でも、α-アミノアルキルフェノン構造又はアシルホスフィンオキサイド構造を有する化合物が好ましく、アシルホスフィンオキサイド構造を有する化合物がより好ましい。アシルホスフィンオキサイド構造を有する化合物の一例としては、IRGACURE(登録商標)819(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド)(BASFジャパン社製)が挙げられる。重合開始剤は、単独でも又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0294】
保護層形成用の樹脂組成物に用いられる分散媒としては、重合性モノマー等を溶解又は分散させることができれば、いずれのものでも使用できる。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール(sec-ブタノール)、tert-ブタノール、ベンジルアルコール、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、ピリジン及びジエチルアミン等が挙げられる。分散媒は、単独でも又は2種以上混合しても用いることができる。
【0295】
保護層形成用の樹脂組成物の総質量に対する分散媒の含有率は、特に制限されないが、1~99質量%の範囲内が好ましく、40~90質量%の範囲内がより好ましく、50~80質量%の範囲内がさらに好ましい。
【0296】
保護層形成用の樹脂組成物中の重合性モノマーの含有率は、特に制限されないが、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、保護層の架橋密度が増加し、保護層の耐摩耗性がより向上する。また、保護層形成用の樹脂組成物中の重合性モノマーの含有率は、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。
【0297】
保護層形成用の樹脂組成物中の金属酸化物粒子の含有率は、特に制限されないが、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、保護層の架橋密度が増加し、機械的強度がより向上し、保護層の耐摩耗性がより向上する。また、保護層形成用の樹脂組成物中の金属酸化物粒子の含有率は、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0298】
保護層形成用の樹脂組成物の重合開始剤の含有率は、特に制限されないが、重合性モノマー100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、保護層の耐摩耗性が向上する。この範囲であると、保護層の架橋密度が増加し、機械的強度がより向上し、保護層の耐摩耗性がより向上する。また、保護層形成用の樹脂組成物の重合開始剤の含有率は、重合性モノマー100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。
【0299】
保護層形成用の樹脂組成物の調製方法も、特に制限はなく、重合性モノマー等の成分を分散媒に加えて、溶解又は分散するまで撹拌混合すればよい。
【0300】
本発明に係る有機感光体が有する保護層は、上記方法で調製した保護層形成用の樹脂組成物を、感光層の上に塗布した後、乾燥及び硬化させることにより形成することができる。
【0301】
上記塗布、乾燥、及び硬化の過程で、重合性モノマー間の反応、重合性モノマーと反応性表面処理された金属酸化物粒子との間の反応、反応性表面処理された金属酸化物粒子同士の反応等が進行し、保護層形成用の樹脂組成物の硬化物を含む保護層が形成される。
【0302】
保護層形成用の樹脂組成物の塗布方法は、特に制限されず、例えば、浸漬塗布法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ブレードコーティング法、ビームコーティング法、スライドホッパー塗布法、円形スライドホッパー塗布法などの公知の方法を用いることができる。
【0303】
上記塗布液を塗布した後は、自然乾燥又は熱乾燥を行い、塗膜を形成した後、活性エネルギー線を照射して塗膜を硬化させる。活性エネルギー線としては紫外線や電子線が好ましく、紫外線がより好ましい。
【0304】
紫外線光源としては、紫外線を発生する光源であれば制限なく使用できる。例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、フラッシュ(パルス)キセノンランプ等を用いることができる。照射条件はそれぞれのランプによって異なるが、紫外線の照射量(積算光量)は、好ましくは5~5000mJ/cmであり、より好ましくは10~2000mJ/cmである。また、紫外線の照度は、好ましくは5~500mW/cmであり、より好ましくは10~100mW/cmである。
【0305】
必要な活性エネルギー線の照射量(積算光量)を得るための照射時間としては、0.1秒~10分が好ましく、作業効率の観点から0.1秒~5分がより好ましい。
【0306】
保護層を形成する過程においては、活性エネルギー線を照射する前後や、活性エネルギー線を照射中に乾燥を行うことができ、乾燥を行うタイミングはこれらを組み合わせて適宜選択できる。
【0307】
乾燥の条件は、溶媒の種類、厚さなどによって適宜選択できる。乾燥温度は、好ましくは20~180℃の範囲内であり、より好ましくは80~140℃の範囲内であり、乾燥時間は、好ましくは1~200分の範囲内であり、より好ましくは5~100分の範囲内である。
【0308】
保護層の厚さは、1~10μmの範囲内が好ましく、1.5~5μmの範囲内がより好ましい。
【0309】
保護層が含有する成分は、熱分解GC-MS、核磁気共鳴(NMR)、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)、元素分析などの公知の分析方法によって確認することができる。
【0310】
<4 画像形成装置>
上述のとおり、本発明の画像形成システムにおいて、装置部を特に「画像形成装置」という。
【0311】
図3は、本発明に係る画像形成装置の構成の一例を示す説明用断面図である。また、図4は、本発明に係る画像形成装置の要部の構成の一例を示す説明用断面図である。
【0312】
図3に示す画像形成装置100は、タンデム型カラー画像形成装置と称せられるもので、4組の画像形成ユニット110Y、110M、110C、及び110Bkと、給紙搬送手段150と、定着手段170とを有する。
【0313】
画像形成装置100の本体の上部には、原稿画像読み取り装置SCが配置されている。
【0314】
画像形成ユニット110Y、110M、110C、及び110Bkは、鉛直方向に並んで配置されている。
【0315】
画像形成ユニット110Y、110M、110C、及び110Bkは、回転されるドラム状の有機感光体111Y、111M、111C、及び111Bkと、この外周面領域において有機感光体の回転方向に沿って順次配置された、帯電手段113Y、113M、113C、113Bkと、露光手段115Y、115M、115C、及び115Bkと、現像手段117Y、117M、117C、及び117Bkと、一次転写ローラー(一次転写手段)133Y、133M、133C、及び133Bkと、クリーニング手段119Y、119M、119C、119Bkとを有する。
【0316】
有機感光体111Y、111M、111C、及び111Bk上に、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(Bk)のトナー画像がそれぞれ形成される構成とされている。
【0317】
以下、画像形成装置の有機感光体以外の各構成について説明する。なお、図を用いて説明する際は、画像形成ユニット110Yの例で説明する。
【0318】
<4.1 帯電手段>
帯電手段は、感光体の表面を一様に帯電させる手段である。
【0319】
本発明においては、帯電手段は、接触式又は非接触式のローラー帯電方式のものであることが好ましい。帯電手段が、ローラー帯電方式のものであることにより、オゾンの発生量を大きく低減させることができ、またコロナ帯電方式に比べ印加電圧を低減可能なことによる消費電力の抑制効果や、省スペース化も可能となる。
【0320】
図3及び図4に示す帯電手段113Yは、接触式のローラー帯電方式である。この例の帯電手段113Yは、有機感光体111Yの表面に接触して配設された帯電ローラーと、帯電ローラーに電圧を印加する電源とからなる。
【0321】
接触式のローラー帯電方式である帯電手段の例を説明する。図5に示す帯電ローラー11は、芯金11aの表面上に積層された、帯電音を低減させるとともに弾性を付与して有機感光体111Yに対する均一な密着性を得るための弾性層11bの表面上に、必要に応じて帯電ローラー11が全体として高い均一性の電気抵抗を得るための抵抗制御層11cが積層され、当該抵抗制御層11c上に表面層11dが積層されたものが、押圧バネ11eによって有機感光体111Yの方向に付勢されて有機感光体111Yの表面に対して所定の押圧力で圧接されて帯電ニップ部が形成された状態とされる構成とされており、有機感光体111Yの回転に従動して回転される。
【0322】
芯金11aは、例えば鉄、銅、ステンレス、アルミニウム及びニッケルなどの金属、又はこれらの金属の表面に、防錆性や耐付傷性を得るために導電性を損なわない範囲においてメッキ処理したものからなり、その外径は例えば3~20mmの範囲内とされる。
【0323】
弾性層11bは、例えばゴムなどの弾性材料中にカーボンブラック、カーボングラファイトなどよりなる導電性微粒子やアルカリ金属塩、アンモニウム塩などよりなる導電性微粒子などが添加されたものからなる。
【0324】
弾性材料の具体例としては、例えば天然ゴム、エチレンプロピレンジエンメチレンゴム(EPDM)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)及びクロロプレンゴム(CR)などの合成ゴムや、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂などの樹脂、又は発泡スポンジなどの発泡体などを挙げることができる。弾性の大きさは、プロセス油、可塑剤などを弾性材料中に添加することにより調整することができる。
【0325】
弾性層11bの体積抵抗率は、1×10~1×1010Ω・cmの範囲内であることが好ましい。弾性層11bの体積抵抗率は、JIS K 6911に準拠して測定された値である。
【0326】
弾性層11bの厚さは、500~5000μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは500~3000μmの範囲内である。
【0327】
抵抗制御層11cは、帯電ローラー11を全体として均一な電気抵抗を有する目的などにより設けられるものであるが、なくてもよい。抵抗制御層11cは、適度な導電性を有する材料を塗工すること、又は適度な導電性を有するチューブを被覆させることによって設けることができる。
【0328】
抵抗制御層11cを構成する具体的な材料としては、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂;エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム及びアクリロニトリル系ゴムなどのゴム類などの基礎材料中に、カーボンブラック、カーボングラファイトなどよりなる導電性微粒子;導電性酸化チタン、導電性酸化亜鉛、導電性酸化スズなどよりなる導電性金属酸化物微粒子;アルカリ金属塩、アンモニウム塩などよりなる導電性微粒子などの導電剤が添加されたものが挙げられる。
【0329】
抵抗制御層11cの体積抵抗率は、1×10-2~1×1014Ω・cmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1×10~1×1010Ω・cmの範囲内である。抵抗制御層11cの体積抵抗率は、JIS K 6911に準拠して測定された値である。
【0330】
抵抗制御層11cの厚さは、0.5~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1~50μmの範囲内、さらに好ましくは1~20μmの範囲内である。
【0331】
表面層11dは、弾性層11b中の可塑剤などの得られる帯電ローラーの表面へのブリードアウトを防止する目的や帯電ローラーの表面の滑り性や平滑性を得る目的、又は有機感光体111Y上にピンホールなどの欠陥があった場合にもリークの発生を防止する目的などにより設けられるものであって、適度な導電性を有する材料を塗工すること、又は適度な導電性を有するチューブを被覆させることによって設けられる。
【0332】
表面層11dを材料の塗工により設ける場合は、具体的な材料としては、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂及びシリコーン樹脂などの樹脂、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム及びアクリロニトリル系ゴムなどの基礎材料中に、カーボンブラック、カーボングラファイトなどよりなる導電性微粒子;導電性酸化チタン、導電性酸化亜鉛、導電性酸化スズなどよりなる導電性金属酸化物微粒子などの導電剤が添加されたものが挙げられる。塗工方法としては、浸漬塗工法、ロール塗工法及びスプレー塗工法などが挙げられる。
【0333】
また、表面層11dをチューブの被覆により設ける場合は、具体的なチューブとしては、ナイロン12、4フッ化エチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)、ポリフッ化ビニリデン、4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合樹脂(FEP);ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系及びポリアミド系などの熱可塑性エラストマーなどに上記の導電剤が添加されたものがチューブ状に成形されたものが挙げられる。このチューブは熱収縮性のものでもよく、非熱収縮性のものでもよい。
【0334】
表面層11dの体積抵抗率は、1×10~1×10Ω・cmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1×10~1×10Ω・cmである。表面層11dの体積抵抗率は、JIS K 6911に準拠して測定された値である。
【0335】
表面層11dの厚さは、0.5~100μmの範囲内であることが好ましく、1~50μmの範囲内であることがより好ましく、1~20μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0336】
表面層11dの表面粗さは、1~30μmの範囲内のものが好ましく、2~20μmの範囲内であることがより好ましく、5~10μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0337】
以上のような帯電ローラー11においては、帯電ローラー11の芯金11aに電源S1より帯電バイアス電圧が印加されることにより、有機感光体111Yの表面が所定の極性の所定の電位に帯電される。
【0338】
ここに、帯電バイアス電圧は、例えば直流電圧のみとしてもよいが、帯電の均一性に優れることから、直流電圧に交流電圧が重畳された振動電圧とすることが好ましい。
【0339】
<4.2 露光手段>
露光手段は、帯電手段により一様な電位を与えられた感光体上に、画像信号に基づいて露光を行い、画像に対応する静電潜像を形成する手段である。
【0340】
露光手段としては、例えば、感光体の軸方向にアレイ状に発光素子を配列したLEDと結像素子からなるもの、レーザー光学系のものが挙げられる。
【0341】
<4.3 現像手段>
現像手段は、感光体の表面にトナーを供給して、感光体の表面に形成された静電潜像を現像し、トナー画像を形成する手段である。
【0342】
図3に示す現像手段117Yは、具体的には、マグネットを内蔵し現像剤を保持して回転する現像ローラー118Y、及び有機感光体111Yと現像ローラー118Yとの間に直流及び/又は交流バイアス電圧を印加する電圧印加装置(図示しない)により構成されている。
【0343】
現像ローラー118Yの回転によって、有機感光体111Yにトナーを搬送する。そして、現像ローラー118Y上のトナー薄層が、有機感光体111Yに当接して有機感光体111Y上の静電潜像を現像する。
【0344】
現像ローラー118Yは、電圧印加装置に接続されている。この電圧印加装置により、現像ローラー118Yには直流及び/又は交流バイアス電圧が印加される。現像ローラー118Yに印加する電圧を制御することで、現像バイアスが所望の値に調整できるように構成されている。
【0345】
現像ローラー118Yと有機感光体111Yにより担持された静電潜像の電位との間の電位差(現像電位差)によって、現像ローラー118Yと有機感光体111Yが相互に対向している現像部に電界が形成される。
【0346】
現像ローラー118Yの回転により現像部に搬送された現像剤中のトナーは、電界から受ける力の作用によって移動し、有機感光体111Y上の静電潜像に吸着する。有機感光体111Yに担持されていた静電潜像が顕像化されることによって、有機感光体111Yの表面には、静電潜像の形状に対応したトナー像が形成される。
【0347】
<4.4 転写手段>
転写手段とは、有機感光体上のトナー像を、転写体(中間転写体又は転写材)に転写する手段である。中間転写体を用いる場合は、一次転写ローラーが転写手段となる。本発明における「転写手段」は、「感光体上のトナー像」を転写する手段であるため、中間転写体から転写材に転写する際に用いる二次転写ローラーは「転写手段」に含まない。
【0348】
図3に示す一次転写ローラー133Yは、有機感光体111Y上に形成されたトナー画像を無端ベルト状の中間転写体131に転写する。一次転写ローラー133Yは、中間転写体131と当接して配置される。
【0349】
図3に示す画像形成装置100においては、有機感光体111Y、111M、111C、111Bk上に形成されたトナー画像を一次転写ローラー(一次転写手段)133Y、133M、133C、133Bkによって中間転写体131に転写し、中間転写体131上に転写された各トナー画像を二次転写ローラー(二次転写手段)217によって転写材Pに転写する中間転写方式が採用されているが、感光体上に形成されたトナー画像を転写手段によって直接転写材Pに転写する直接転写方式が採用されてもよい。
【0350】
<4.5 クリーニング手段>
クリーニング手段119Yは、有機感光体111Y表面に残存したトナーを除去する手段である。この例のクリーニング手段119Yは、クリーニングブレードにより構成される。このクリーニングブレードは、支持部材と、この支持部材上に接着層を介して支持されたブレード部材とにより構成される。ブレード部材は、その先端が、有機感光体111Y表面との当接部分における当該有機感光体111Yの回転方向と反対方向(カウンター方向)に向く状態で配置されている。
【0351】
支持部材としては、特に限定されず、従来公知のものを使用することができ、例えば、剛体の金属、弾性を有する金属、プラスチック、セラミックなどから製造されたものが挙げられる。中でも、剛体の金属が好ましい。
【0352】
ブレード部材としては、例えば、ベース層とエッジ層とが積層されてなる多層構造のものを用いることができる。ベース層及びエッジ層は、それぞれポリウレタンにより構成されることが好ましい。ポリウレタンとしては、ポリオール、ポリイソシアネート及び必要に応じて架橋剤を反応させて得られるものなどが挙げられる。
【実施例0353】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」及び「部」は、それぞれ、「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0354】
[ビニル樹脂粒子分散液SA(1)の調製]
(第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部及びイオン交換水3000質量部を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた溶液を添加し、再度液温を80℃として、下記単量体の混合液を1時間かけて滴下した。
【0355】
スチレン 480.0質量部
n-ブチルアクリレート 250.0質量部
メタクリル酸 68.0質量部
n-オクチルメルカプタン 16.4質量部
【0356】
滴下後、80℃にて2時間加熱、撹拌することにより重合を行い、ビニル樹脂粒子分散液Aを調製した。
【0357】
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム7質量部をイオン交換水3000質量部に溶解させた溶液を仕込み、98℃に加熱した。加熱後、上記第1段重合により調製したビニル樹脂粒子分散液Aを固形分換算で300質量部と、下記単量体、連鎖移動剤及び離型剤を90℃にて溶解させた混合液と、を添加した。
【0358】
スチレン 243.0質量部
n-ブチルアクリレート 45.5質量部
2-エチルヘキシルアクリレート 45.5質量部
メタクリル酸 33.1質量部
n-オクチルメルカプタン 5.5質量部
ベヘン酸ベヘネート(離型剤、融点73℃) 130.0質量部
【0359】
循環経路を有する機械式分散機CLEARMIX(エム・テクニック社製)により、1時間の混合分散処理を行い、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。この分散液に、過硫酸カリウム6質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた重合開始剤の溶液を添加し、この系を78℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行って、ビニル樹脂粒子分散液Bを調製した。
【0360】
(第3段重合)
上記第2段重合により得られた非晶性ビニル樹脂粒子分散液Bにさらにイオン交換水400質量部を添加し、よく混合した後、過硫酸カリウム6.0質量部をイオン交換水400質量部に溶解させた溶液を添加した。さらに、81℃の温度条件下で、下記単量体及び連鎖移動剤の混合液を1時間かけて滴下した。
【0361】
スチレン 354.8質量部
n-ブチルアクリレート 143.2質量部
メタクリル酸 52.0質量部
n-オクチルメルカプタン 8.0質量部
【0362】
滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、ビニル樹脂粒子分散液SA(1)を調製した。
【0363】
[ビニル樹脂粒子分散液SA(2)の調製]
前記ビニル樹脂粒子分散液SA(1)の調製における第1段重合で使用された単量体混合液を以下のものに変更した以外は同様にして、重合反応及び反応後の処理を行い、ビニル樹脂粒子分散液SA(2)を調製した。
【0364】
スチレン 624.0質量部
n-ブチルアクリレート 120.0質量部
メタクリル酸 56.0質量部
n-オクチルメルカプタン 16.4質量部
【0365】
[結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液CPの調製]
下記モノマーを、窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
【0366】
テトラデカン二酸 440質量部
1,6-ヘキサンジオール 173質量部
【0367】
次いで、エステル化触媒としてTi(OBu)を0.8質量部投入し、235℃まで昇温、常圧下(101.3kPa)にて5時間、更に減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
【0368】
次いで、200℃まで冷却した後、減圧下(20kPa)にて1時間反応させることにより、結晶性ポリエステル樹脂1を得た。
【0369】
得られた結晶性ポリエステル樹脂1は、重量平均分子量Mwが20500、酸価が22.1mgKOH/g、融点Tmが75.2℃、であった。
【0370】
次に、100質量部の結晶性ポリエステル樹脂1を、400質量部の酢酸エチル(関東化学社製)に溶解し、あらかじめ調製しておいた0.26質量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム溶液638質量部と混合した。混合液を撹拌しながら、超音波式ホモジナイザーUS-150T(日本精機製作所社製)によりV-LEVEL 300μAで30分間の超音波分散処理を行った。その後、40℃に加温した状態で、ダイヤフラム真空ポンプV-700(BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去して、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液CPを調製した。分散液中の結晶性ポリエステル樹脂粒子は、体積基準のメジアン径が160nmであった。
【0371】
[ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液HAPの調製]
下記ビニル樹脂の単量体、非晶性ポリエステル樹脂とビニル樹脂のいずれとも反応する置換基を有する単量体及び重合開始剤の混合液を滴下ロートに入れた。
【0372】
スチレン 80.0質量部
n-ブチルアクリレート 20.0質量部
アクリル酸 10.0質量部
ジ-t-ブチルパーオキサイド(重合開始剤) 16.0質量部
【0373】
また、下記非晶性ポリエステル樹脂の単量体を、窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を備えた四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
【0374】
ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物 59.1質量部
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 281.7質量部
テレフタル酸 63.9質量部
コハク酸 48.4質量部
【0375】
撹拌下で、滴下ロートに入れた混合液を四つ口フラスコへ90分かけて滴下し、60分間熟成を行った後、減圧下(8kPa)にて未反応の単量体を除去した。その後、エステル化触媒としてTi(OBu)を0.4質量部投入し、235℃まで昇温して、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間、反応を行った。
【0376】
次いで200℃まで冷却し、減圧下(20kPa)にて反応を行った後、脱溶剤を行い、ビニル樹脂により変性されたハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂(A1)を得た。
【0377】
得られたハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂(A1)は、重量平均分子量Mwが24000、酸価が16.2mgKOH/g、ガラス転移点Tgが60℃であった。
【0378】
次に、100質量部のハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂(A1)を、400質量部の酢酸エチル(関東化学社製)に溶解し、あらかじめ調製しておいた0.26質量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム溶液638質量部と混合した。混合液を撹拌しながら、超音波式ホモジナイザーUS-150T(日本精機製作所社製)によりV-LEVEL 400μAで30分間の超音波分散処理を行った。その後、40℃に加温した状態で、ダイヤフラム真空ポンプV-700(BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去して、固形分量が13.5質量%のハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液HAPを調製した。分散液中のハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子は、体積基準のメジアン径が98nmであった。
【0379】
[非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液APの調製]
下記非晶性ポリエステル樹脂の単量体を、窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を備えた四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
【0380】
ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物 59.1質量部
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 281.7質量部
テレフタル酸 63.9質量部
コハク酸 48.4質量部
【0381】
撹拌下で、エステル化触媒としてTi(OBu)を0.4部投入した。窒素ガス気流下、235℃で6時間反応させた後、200℃まで冷却し、減圧下(20kPa)にてさらに5時間反応を行った後、脱溶剤を行い、非晶性ポリエステル樹脂(B)を得た。
【0382】
得られた非晶性ポリエステル樹脂(B)は、重量平均分子量Mwが27000、酸価が18.0mgKOH/g、ガラス転移点Tgが60℃であった。
【0383】
100質量部の非晶性ポリエステル樹脂(B)を、400質量部の酢酸エチル(関東化学社製)に溶解し、あらかじめ調製しておいた0.26質量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム溶液638質量部と混合した。混合液を撹拌しながら、超音波式ホモジナイザーUS-150T(日本精機製作所社製)によりV-LEVEL 400μAで30分間の超音波分散処理を行った。その後、40℃に加温した状態で、ダイヤフラム真空ポンプV-700(BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去して、固形分量が13.5質量%の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液APを調製した。分散液中の非晶性ポリエステル樹脂粒子は、体積基準のメジアン径が99nmであった。
【0384】
[着色剤粒子分散液の調製]
下記成分を混合し、ホモジナイザー(ウルトラタラックス、IKA社製)により10分間予備分散した後、高圧衝撃式分散機アルティマイザー(スギノマシン製)を用い、圧力245MPaで30分間分散処理を行った。
【0385】
カーボンブラック(キャボット社製、リーガル330) 100質量部
アニオン性界面活性剤(第一工業製薬製ネオゲンSC) 15質量部
イオン交換水 400質量部
【0386】
得られた分散液にさらに、イオン交換水を添加して、固形分を15質量%に調整することにより着色剤粒子分散液を調製した。
【0387】
得られた着色剤粒子分散液の分散液中の着色剤粒子の体積基準のメジアン径を、コールターマルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)を用いて測定したところ、110nmであった。
【0388】
[トナー1の作製]
撹拌装置、温度センサー及び冷却管を取り付けた反応容器に、ビニル樹脂粒子分散液SA1を441質量部(固形分換算)、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液CPを45質量部(固形分換算)、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩を樹脂比で1質量%(固形分換算)及びイオン交換水200質量部を投入した。室温下(25℃)下で、5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを11に調整した。
【0389】
さらに、着色剤粒子分散液40質量部(固形分換算)を投入し、塩化マグネシウム40質量部をイオン交換水40質量部に溶解させた溶液を、撹拌下、30℃において15分間かけて添加した。5分間放置した後、90分かけて85℃まで昇温し、85℃に到達後、粒子径の成長速度が0.02μm/分となるように撹拌速度を調整して、コールターマルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)により測定した体積基準のメジアン径が6.0μmになるまで成長させた。6.0μmに到達したところで撹拌速度を調整して、粒子径の成長を止めつつ、トナー粒子の平均円形度が0.945になるまで粒子の融着を進行させた。これにより、トナー母体粒子前駆体を得た。
【0390】
次いで、凸部用樹脂の分散液として、54質量部(固形分換算)のハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液HAPを90分間かけて投入し、反応液の上澄みが透明になった時点で、粒子径の再成長抑制のために塩化ナトリウム15質量部をイオン交換水60質量部に溶解させた水溶液を添加し、トナー粒子の平均円形度が0.961になるまで粒子の融着を進行させた。その後、2.5℃/minの冷却速度で30℃に冷却した。
【0391】
次いで、固液分離し、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し固液分離する操作を3回繰り返して洗浄した。洗浄後、35℃で24時間乾燥させることにより、表面に複数の凸部が形成されたトナー母体粒子を得た。
【0392】
得られたトナー母体粒子100質量部に、非滑剤粒子として、疎水性シリカ粒子(体積基準のメジアン径:12nm、疎水化度:68)0.75質量部、疎水性アルミナ粒子(体積基準のメジアン径:20nm、疎水化度:63、モース硬度:8.5)0.5質量部、ゾルゲルシリカ粒子(1)(体積基準のメジアン径:82nm)0.4質量部を添加した。また、滑剤粒子として、ステアリン酸亜鉛粒子StZn(1)(体積基準のメジアン径:1210nm)0.4質量部を添加し、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機社製)により回転翼周速40mm/sec、32℃で20分間混合した。混合後、45μmの目開きのふるいを用いて粗大粒子を除去し、トナー1を作製した。トナー1におけるトナー母体粒子の凸部の平均間隔D1は103nmであった。
【0393】
[トナー2の作製]
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液HAP投入時の温度を適宜変更した以外はトナー1と同様にして、トナー2を作製した。トナー2におけるトナー母体粒子の凸部の平均間隔D1は198nmであった。
【0394】
[トナー3の作製]
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液HAP投入時の温度を適宜変更し、また、非滑剤粒子としてゾルゲルシリカ粒子(1)の代わりにゾルゲルシリカ粒子(2)(体積基準のメジアン径:48nm)を添加した以外はトナー1と同様にして、トナー3を作製した。トナー3におけるトナー母体粒子の凸部の平均間隔D1は57nmであった。
【0395】
[トナー4の作製]
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液HAP投入時の温度を適宜変更し、また、非滑剤粒子としてゾルゲルシリカ粒子(1)の代わりにゾルゲルシリカ粒子(3)(体積基準のメジアン径:15nm)を添加した以外はトナー1と同様にして、トナー4を作製した。トナー4におけるトナー母体粒子の凸部の平均間隔D1は20nmであった。
【0396】
[トナー5の作製]
滑剤粒子としてステアリン酸亜鉛粒子StZn(1)の代わりにステアリン酸亜鉛粒子StZn(2)(体積基準のメジアン径:5370nm)を添加した以外はトナー1と同様にして、トナー5を作製した。
【0397】
[トナー6の作製]
滑剤粒子としてステアリン酸亜鉛StZn(1)の代わりにステアリン酸亜鉛StZn(3)(体積基準のメジアン径:369nm)を添加した以外はトナー1と同様にして、トナー6を作製した。
【0398】
[トナー7の作製]
非滑剤粒子として疎水性アルミナ粒子の代わりに疎水性チタニア粒子(体積基準のメジアン径:20nm、疎水化度:61、モース硬度:6.5)を添加した以外はトナー1と同様にして、トナー7を作製した。
【0399】
[トナー8の作製]
トナー母体粒子の凸部用樹脂の分散液としてハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液HAPの代わりに非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液APを投入した以外はトナー1と同様にして、トナー8を作製した。トナー8におけるトナー母体粒子の凸部の平均間隔D1は146nmであった。
【0400】
[トナー9の作製]
トナー母体粒子の凸部用樹脂の分散液としてハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液HAPの代わりにビニル樹脂粒子分散液SA(2)を投入した以外はトナー1と同様にして、トナー9を作製した。トナー9におけるトナー母体粒子の凸部の平均間隔D1は292nmであった。
【0401】
[トナー10の作製]
滑剤粒子としてステアリン酸亜鉛粒子StZn(1)の代わりにステアリン酸アルミニウム粒子StAl(体積基準のメジアン径:1580nm)を添加した以外はトナー1と同様にして、トナー10を作製した。
【0402】
[トナー11の作製]
滑剤粒子としてステアリン酸亜鉛粒子StZn(1)の代わりにフッ化カルシウム粒子CaF(1)(体積基準のメジアン径:210nm)を添加した以外はトナー1と同様にして、トナー11を作製した。
【0403】
[トナー12の作製]
トナー母体粒子の凸部用樹脂の分散液としてハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液HAPを投入せず、凸部を形成しなかった以外はトナー1と同様にして、トナー12を作製した。
【0404】
[トナー13の作製]
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液HAP投入時の温度を適宜変更した以外はトナー1と同様にして、トナー2を作製した。トナー2におけるトナー母体粒子の凸部の平均間隔D1は57nmであった。
【0405】
[トナー14の作製]
滑剤粒子としてステアリン酸亜鉛粒子StZn(1)の代わりにフッ化カルシウム粒子CaF(2)(体積基準のメジアン径:105nm)を添加した以外はトナー2と同様にして、トナー14を作製した。
【0406】
[各トナーにおける脂肪酸金属塩粒子のトナー母体粒子からの遊離率R]
下記の条件による超音波処理法によって、各トナーにおける脂肪酸金属塩粒子のトナー母体粒子からの遊離率Rを求めた。
【0407】
〔超音波処理法の条件〕
手順1:トナー粒子における、脂肪酸金属塩粒子に由来する金属元素のNET強度W1を、蛍光X線分析により測定する。
手順2:トナー粒子の水系分散液を調製する。
手順3:調製した水系分散液に対して超音波処理を行う。
手順4:超音波処理によりトナー母体粒子から遊離した脂肪酸金属塩粒子を、除去する。
手順5:遊離した脂肪酸金属塩粒子が除去されたトナー粒子における、脂肪酸金属塩粒子に由来する金属元素のNET強度W2を、蛍光X線分析により測定する。
手順6:下記式(2)から遊離率R[%]を求める。
式(2) R=(W1-W2)/W1×100
【0408】
手順1及び手順5における、脂肪酸金属塩粒子に由来する金属元素のNET強度W1、W2の測定には、蛍光X線分析装置「XRF-1700」(島津製作所社製)を用いた。NET強度の具体的な測定方法としては、トナー粒子2gを荷重15tにて10秒間、加圧してペレット化し、定性定量分析にて下記条件で測定を行った。測定には、2θテーブルより測定したい元素(脂肪酸金属塩粒子に由来する金属元素)のKαピーク角度を決定して、用いた。
【0409】
-測定条件-
スリット:標準
アッテネータ:なし
分光結晶(Ti=LiF、Si=PET)
検出器(Ti=SC、Si=FPC)
【0410】
手順2における、トナー粒子の水系分散液の調製は、トナー粒子3gを、100mLのプラスチックカップ中で、ポリオキシエチルフェニルエーテルの0.2質量%水溶液40gに湿潤させることで行った。
【0411】
手順3における、超音波処理は、超音波式ホモジナイザー「US-1200」(日本製機社製)を用い、超音波エネルギーを本体装置に附属の振動指示値を示す電流計の値が60μA(50W)を示すように調整し、手順2で調製した水系分散液に2分間印加することで行った。
【0412】
手順4における、トナー母体粒子から遊離した脂肪酸金属塩粒子の除去は、目開き1μmのフィルターを使用して濾過を行い、60mLの純水を用いて洗浄することで行った。さらに、手順5の測定に備えて、トナー粒子を乾燥させた。
【0413】
上記の方法で求めた各トナーにおける脂肪酸金属塩粒子のトナー母体粒子からの遊離率Rは、下記表に示すとおりである。
【0414】
【表1】
【0415】
[現像剤の作製]
(キャリア芯材粒子の作製)
MnO:35mol%、MgO:14.5mol%、Fe:50mol%及びSrO:0.5mol%になるように原料を秤量し、水と混合した後、湿式のメディアミルで5時間粉砕してスラリーを得た。
【0416】
得られたスラリーをスプレードライヤーにて乾燥し、真球状の粒子を得た。この粒子を粒度調整した後、950℃で2時間加熱し、仮焼成を行った。直径0.3cmのステンレスビーズを用いて湿式ボールミルで1時間粉砕したのち、さらに直径0.5cmのジルコニアビーズを用いて4時間粉砕した。バインダーとしてPVAを固形分に対して0.8質量%添加し、次いでスプレードライヤーにより造粒、乾燥し、電気炉にて、温度1350℃、5時間保持し、本焼成を行った。
【0417】
その後、解砕し、さらに分級して粒度調整し、その後磁力選鉱により低磁力品を分別し、キャリア芯材粒子を得た。キャリア芯材粒子の粒径は35μmであった。
【0418】
(被覆材の作製)
0.3質量%のベンゼンスルホン酸ナトリウムの水溶液中に、メタクリル酸シクロヘキシルおよびメタクリル酸メチルを「質量比=5:5」(共重合比)で添加し、単量体総量の0.5質量%にあたる量の過硫酸カリウムを添加して乳化重合を行い、スプレードライで乾燥することで、「被覆材」を作製した。得られた被覆材における重量平均分子量は50万であった。
【0419】
(キャリアの作製)
水平撹拌羽根付き高速撹拌混合機に、芯材粒子として上記で準備した「キャリア芯材粒子」100質量部と、「被覆材」を4.5質量部投入し、水平回転翼の周速が8m/secとなる条件で、22℃で15分間混合撹拌した後、120℃で50分間混合して機械的衝撃力(メカノケミカル法)の作用で芯材粒子の表面に被覆材を被覆させて、「キャリア」を作製した。
【0420】
(トナーとキャリアの混合)
上記作製した各トナーとキャリアを、トナー濃度が6.5質量%となるようにして30分間混合し、各トナーを含む現像剤をそれぞれ作製した。混合機はV型混合機を用いた。
【0421】
[有機感光体1の作製]
(導電性支持体の準備)
円筒形アルミニウム支持体の表面を切削加工し、導電性支持体を準備した。
【0422】
(中間層の形成)
下記成分を下記の分量で混合し、分散機としてサンドミルを用いて、バッチ式で10時間の分散を行い、中間層形成用塗布液を調製した。当該塗布液を浸漬塗布法によって導電性支持体の表面に塗布し、110℃で20分間乾燥し、厚さ2μmの中間層を導電性支持体上に形成した。なお、ポリアミド樹脂としてX1010(ダイセル・エボニック社製)を使用し、酸化チタン粒子としてSMT-500SAS(テイカ社製、数平均一次粒子径:0.035μm)を使用した:
【0423】
ポリアミド樹脂 10質量部
酸化チタン粒子 11質量部
エタノール 200質量部
【0424】
(電荷発生層の形成)
下記成分を下記分量で混合し、循環式超音波ホモジナイザー(RUS-600TCVP、日本精機製作所社製)を用いて、19.5kHz、600Wにて循環流量40L/時間で0.5時間にわたって分散することにより、電荷発生層形成用塗布液を調製した。得られた塗布液を浸漬塗布法によって中間層の表面に塗布し、風乾することにより、厚さ0.3μmの電荷発生層を中間層上に形成した。なお、電荷発生物質は、Cu-Kα特性X線回折スペクトル測定で8.3°、24.7°、25.1°、及び26.5°に明確なピークを有するチタニルフタロシアニン、並びに(2R,3R)-2,3-ブタンジオールの1:1付加体と、未付加のチタニルフタロシアニンとの混晶を使用した。また、ポリビニルブチラール樹脂としてエスレック(登録商標)BL-1(積水化学工業社製)を使用した。また、混合溶媒として、3-メチル-2-ブタノン/シクロヘキサノン=4/1(体積比)を使用した。
【0425】
電荷発生物質 24質量部
ポリビニルブチラール樹脂 12質量部
混合溶媒 400質量部
【0426】
(電荷輸送層の形成)
下記成分を下記分量で混合した電荷輸送層用の塗布液を、浸漬塗布法によって電荷発生層の表面に塗布し、120℃で70分間乾燥することにより、厚さ24μmの電荷輸送層を電荷発生層上に形成した。なお、ポリカーボネート樹脂としてユーピロン(登録商標)Z300(三菱ガス化学社製、ビスフェノールZ型ポリカーボネート)を使用した。また、酸化防止剤として、IRGANOX(登録商標)1010(BASFジャパン社製)を使用した。
【0427】
下記のCTM-(1)で示される電荷輸送物質 60質量部
ポリカーボネート樹脂 100質量部
THF(テトラヒドロフラン) 800質量部
トルエン 200質量部
酸化防止剤 4質量部
【0428】
【化3】
【0429】
(保護層の形成)
下記成分を下記分量で混合した保護層形成用塗布液を、電荷輸送層の表面に、円形スライドホッパー塗布機を用いて塗布した。得られた塗布液の膜に、メタルハライドランプを用いて紫外線(主波長:365nm)を1分間照射して(紫外線照度:16mW/cm、積算光量:960mJ/cm)、当該膜を硬化させることにより、厚さ3.0μmの保護層を電荷輸送層上に形成した。なお、重合開始剤は、IRGACURE(登録商標)819(BASFジャパン株式会社製)を使用した。
【0430】
上記の化学式M2で示される重合性モノマー 120質量部
酸化スズ粒子 100質量部
重合開始剤 10質量部
2-ブタノール 400質量部
THF(テトラヒドロフラン) 100質量部
上記のCTM-(1)で示される電荷輸送物質 30質量部
【0431】
これにより、有機感光体1を作製した。
【0432】
[有機感光体2の作製]
保護層形成用塗布液に混合させる金属酸化物粒子を、酸化スズ粒子から酸化ケイ素粒子に変更した以外は有機感光体1の作製と同様にして、有機感光体2を作製した。
【0433】
[有機感光体3の作製]
保護層形成用塗布液に酸化スズ粒子を混合させなかった以外は有機感光体1の作製と同様にして、有機感光体3を作製した。
【0434】
[有機感光体4の作製]
保護層形成用塗布液に重合開始剤を混合させず、また、保護層形成用塗布液の膜に紫外線の代わりに電子線を照射して膜を硬化させた以外は有機感光体1の作製と同様にして、有機感光体4を作製した。
【0435】
[有機感光体5の作製]
保護層の作製を以下のように変更した以外は有機感光体1の作製と同様にして、有機感光体5を作製した。
【0436】
(有機感光体5における保護層の作製)
下記成分を下記分量で混合した保護層形成用塗布液を、電荷輸送層の表面に、円形スライドホッパー塗布機を用いて塗布し、120℃で70分間乾燥することにより、厚さ3.0μmの保護層を電荷輸送層上に形成した。なお、ポリカーボネート樹脂としてユーピロン(登録商標)Z300(三菱ガス化学社製、ビスフェノールZ型ポリカーボネート)を使用した。また、酸化防止剤として、IRGANOX(登録商標)1010(BASFジャパン社製)を使用した。
【0437】
上記のCTM-(1)で示される電荷輸送物質 60質量部
ポリカーボネート樹脂 100質量部
THF(テトラヒドロフラン) 1600質量部
トルエン 400質量部
酸化防止剤 4質量部
【0438】
[画像形成システム]
市販のフルカラー複合機で接触式のローラー帯電方式を採用している「bizhub C650i」(コニカミノルタ社製)を用い、シアン位置に上記作製した有機感光体と現像剤を下記表の組み合わせで搭載し、各画像形成システムとした。以下、各画像形成システムの評価について記載する。
【0439】
[減耗量α値の評価]
常温常湿環境(20℃、湿度50%RH)で、5%の印字チャートにて、A4版中性紙に、30万枚プリントの耐久試験を実施した。耐久試験前後における有機感光体の保護層の厚さを測定し、減耗量を算出し評価した。保護層の厚さは均一厚さ部分(塗布の先端部及び後端部の厚さ変動部分を除く。)を膜厚測定器によってランダムに10ケ所測定し、その平均値を保護層の厚さとした。膜厚測定器は、渦電流方式の膜厚測定器「EDDY560C」(HELMUT FISCHER GMBTE CO社製)を用いた。耐久試験前後の保護層の厚さの差を減耗量とした。100krot(10万回転)あたりの減耗量(μm)をα値と定義し記載した。測定結果は下記表に示すとおりである。α値が1.2以下であれば実用上問題なく、0.7以下であればさらに良好であると判断した。
【0440】
[有機感光体上付着物の評価]
常温常湿環境(20℃、湿度50%RH)で、5%の印字チャートにて、A4版中性紙に、5000枚プリントの耐久試験を実施した。耐久試験後、顕微鏡で有機感光体表面を観察し、奥、中央、手前3か所の20mm×40mmの視野における現像剤由来の付着物の合計個数を測定した。測定結果は下記表に示すとおりである。付着物の合計個数は、10個以下を品質上問題ないと判断した。
【0441】
[画像評価]
10℃、湿度15%RHの環境下において、紙の搬送方向の前方部がハーフトーン部、後方部が白地部であるカバレッジ率80%の画像を、A3版中性紙に20000枚プリントした。20000枚目の紙の白地部を目視により観察し、下記基準に基づいて、トナーのすり抜けによる汚れを評価した。評価結果は下記表に示すとおりである。評価結果が「◎」及び「○」の場合を合格と判定した。
【0442】
◎:白地部に汚れが発生しなかった。
○:白地部に軽微なスジ状の汚れが発生したが、実用上の問題がない。
×:白地部に明らかなスジ状の汚れが発生し、実用上の問題がある。
【0443】
【表2】
【0444】
実施例の結果から、本発明の画像形成システムは、有機感光体の減耗抑制と有機感光体上付着物の低減との両立を可能にすることが分かる。
【符号の説明】
【0445】
1 トナー母体粒子前駆体
2 凸部
11 帯電ローラー
11a 芯金
11b 弾性層
11c 抵抗制御層
11d 表面層
11e 押圧バネ
100 画像形成装置
110Y、110M、110C、110Bk 画像形成ユニット
111Y、111M、111C、111Bk 感光体
113Y、113M、113C、113Bk 帯電手段(帯電ローラー)
115Y、115M、115C、115Bk 露光手段
117Y、117M、117C、117Bk 現像手段
118Y、118M、118C、118Bk 現像ローラー
119Y、119M、119C、119Bk クリーニング手段
133Y、133M、133C、133Bk 転写手段(一次転写ローラー)
図1
図2
図3
図4
図5