(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162680
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】検知装置、および、検知方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/486 20200101AFI20231101BHJP
G01S 7/484 20060101ALI20231101BHJP
G01N 21/49 20060101ALI20231101BHJP
G02B 26/08 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
G01S7/486
G01S7/484
G01N21/49 C
G02B26/08 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073195
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】中島 駿
(72)【発明者】
【氏名】蘆田 雄樹
【テーマコード(参考)】
2G059
2H141
5J084
【Fターム(参考)】
2G059AA03
2G059AA05
2G059BB08
2G059EE02
2G059FF01
2G059GG03
2G059JJ13
2G059KK01
2H141MA12
2H141MB29
2H141MC06
2H141MD04
2H141ME01
2H141ME18
2H141ME19
2H141ME24
2H141ME25
2H141MF01
5J084AB20
5J084AC02
5J084AD20
5J084BA05
5J084BA20
5J084BA22
5J084BA39
5J084BB04
5J084BB07
5J084BB14
5J084BB20
5J084BB21
5J084BB28
5J084BB40
5J084CA08
5J084CA31
5J084CA70
5J084DA01
5J084DA09
5J084EA40
(57)【要約】
【課題】光を用いて検知を行う検知装置あるいは検知方法において、さらなる高機能化を実現できる技術の提供。
【解決手段】検知装置100は、走査領域Aに光を送信する送信部1と、走査領域Aにある対象物Atで反射された光を受信する受信部2と、を備える。送信部1は、第1波長から連続的に波長が変化する第1測定光Laを生成する第1測定光生成部11aと、第1波長とは異なる第2波長から連続的に波長が変化する第2測定光Lbを生成する第2測定光生成部11bと、第1測定光Laおよび第2測定光Lbの少なくとも一方を含む光Lを誘導して走査領域Aを走査させる光誘導部13と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査領域に光を送信する送信部と、
前記走査領域にある対象物で反射された光を受信する受信部と、
を備え、
前記送信部が、
第1波長から連続的に波長が変化する第1測定光を生成する第1測定光生成部と、
前記第1波長とは異なる第2波長から連続的に波長が変化する第2測定光を生成する第2測定光生成部と、
前記第1測定光および前記第2測定光の少なくとも一方を含む光を誘導して前記走査領域を走査させる光誘導部と、
を備える、検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の検知装置であって、
前記送信部が、
前記第1測定光および前記第2測定光を合流させて集合光として、前記集合光を前記光誘導部に入射させる、合流部、
を備え、
前記受信部が、
前記対象物で反射された前記集合光を分岐させる分岐部と、
分岐された複数の集合光のうちの一つの集合光の光路上に配置され、前記第1測定光に相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させるとともに、前記第1測定光に相当する周波数帯を通過させる、第1フィルタと、
分岐された前記複数の集合光のうちの別の一つの集合光の光路上に配置され、前記第2測定光に相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させるとともに、前記第2測定光に相当する周波数帯を通過させる、第2フィルタと、
前記第1フィルタを通過した光を検出する第1光検出器と、
前記第2フィルタを通過した光を検出する第2光検出器と、
を備える、検知装置。
【請求項3】
請求項2に記載の検知装置であって、
前記第1光検出器での検出結果に基づいて、前記第1波長における前記対象物の反射率である第1反射率を特定する第1反射率特定部と、
前記第2光検出器での検出結果に基づいて、前記第2波長における前記対象物の反射率である第2反射率を特定する第2反射率特定部と、
前記第1反射率および前記第2反射率に基づいて、前記対象物の種別を識別する種別識別部と、
を備える、検知装置。
【請求項4】
請求項3に記載の検知装置であって、
1以上の候補種別の各々について、前記第1波長における該候補種別の反射率と、前記第2波長における該候補種別の反射率と、を記述した反射率データを記憶する記憶部、
を備え、
前記種別識別部が、
前記第1波長および前記第2波長の各々について、前記対象物の反射率と前記候補種別の反射率とを比較して、前記対象物が該候補種別であるか否かを判定する、
検知装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の検知装置であって、
前記光誘導部が、
複数の格子要素を有し、該複数の格子要素の各々を変位させることで入射した光の位相を変調して該光を誘導する、空間位相変調素子、
を備える、検知装置。
【請求項6】
走査領域に光を送信する送信工程と、
前記走査領域にある対象物で反射された光を受信する受信工程と、
を備え、
前記送信工程が、
第1波長から連続的に波長が変化する第1測定光を生成するとともに、前記第1波長とは異なる第2波長から連続的に波長が変化する第2測定光を生成する、測定光生成工程と、
前記第1測定光および前記第2測定光を合流させて集合光とする合流工程と、
前記集合光を誘導して前記走査領域を走査させる光誘導工程と、
を備え、
前記受信工程が、
前記対象物で反射された前記集合光を分岐させる分岐工程と、
分岐された複数の集合光のうちの一つの集合光を、前記第1測定光に相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させてから検出するとともに、分岐された複数の集合光のうちの別の一つの集合光を、前記第2測定光に相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させてから検出する、光検出工程と、
を備える、検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光を用いて検知を行う検知装置、および、検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光を用いた検知技術は様々に存在するが、その一つに、LiDAR(Light Detection And Ranging:光による検知と測距)技術がある(例えば、特許文献1)。LiDAR技術では、例えば、物体などに向けて光を照射して、物体で反射されて戻ってきた光を検出して、物体までの距離などを特定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
LiDAR技術は、近年、急速に発展しており、LiDAR装置の小型化、低コスト化などを目的とした技術開発も進んでいる。その一方で、LiDAR装置に、物体を検知して該物体までの距離を測定するという基本機能に加えて、これとは別の付加機能をもたせて高機能化できる技術の登場も期待されている。
【0005】
本開示は、光を用いて検知を行う検知装置あるいは検知方法において、さらなる高機能化を実現できる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、検知装置であって、走査領域に光を送信する送信部と、前記走査領域にある対象物で反射された光を受信する受信部と、を備え、前記送信部が、第1波長から連続的に波長が変化する第1測定光を生成する第1測定光生成部と、前記第1波長とは異なる第2波長から連続的に波長が変化する第2測定光を生成する第2測定光生成部と、前記第1測定光および前記第2測定光の少なくとも一方を含む光を誘導して前記走査領域を走査させる光誘導部と、を備える。
【0007】
第2の態様は、第1の態様に係る検知装置であって、前記送信部が、前記第1測定光および前記第2測定光を合流させて集合光として、前記集合光を前記光誘導部に入射させる、合流部、を備え、前記受信部が、前記対象物で反射された前記集合光を分岐させる分岐部と、分岐された複数の集合光のうちの一つの集合光の光路上に配置され、前記第1測定光に相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させるとともに、前記第1測定光に相当する周波数帯を通過させる、第1フィルタと、分岐された前記複数の集合光のうちの別の一つの集合光の光路上に配置され、前記第2測定光に相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させるとともに、前記第2測定光に相当する周波数帯を通過させる、第2フィルタと、前記第1フィルタを通過した光を検出する第1光検出器と、前記第2フィルタを通過した光を検出する第2光検出器と、を備える。
【0008】
第3の態様は、第2の態様に係る検知装置であって、前記第1光検出器での検出結果に基づいて、前記第1波長における前記対象物の反射率である第1反射率を特定する第1反射率特定部と、前記第2光検出器での検出結果に基づいて、前記第2波長における前記対象物の反射率である第2反射率を特定する第2反射率特定部と、前記第1反射率および前記第2反射率に基づいて、前記対象物の種別を識別する種別識別部と、を備える。
【0009】
第4の態様は、第3の態様に係る検知装置であって、1以上の候補種別の各々について、前記第1波長における該候補種別の反射率と、前記第2波長における該候補種別の反射率と、を記述した反射率データを記憶する記憶部、を備え、前記種別識別部が、前記第1波長および前記第2波長の各々について、前記対象物の反射率と前記候補種別の反射率とを比較して、前記対象物が該候補種別であるか否かを判定する。
【0010】
第5の態様は、第1から第4のいずれかの態様に係る検知装置であって、前記光誘導部が、複数の格子要素を有し、該複数の格子要素の各々を変位させることで入射した光の位相を変調して該光を誘導する、空間位相変調素子、を備える。
【0011】
第6の態様は、検知方法であって、走査領域に光を送信する送信工程と、前記走査領域にある対象物で反射された光を受信する受信工程と、を備え、前記送信工程が、第1波長から連続的に波長が変化する第1測定光を生成するとともに、前記第1波長とは異なる第2波長から連続的に波長が変化する第2測定光を生成する、測定光生成工程と、前記第1測定光および前記第2測定光を合流させて集合光とする合流工程と、前記集合光を誘導して前記走査領域を走査させる光誘導工程と、を備え、前記受信工程が、前記対象物で反射された前記集合光を分岐させる分岐工程と、分岐された複数の集合光のうちの一つの集合光を、前記第1測定光に相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させてから検出するとともに、分岐された複数の集合光のうちの別の一つの集合光を、前記第2測定光に相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させてから検出する、光検出工程と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
第1の態様によると、送信部が、それぞれが互いに異なる波長域の測定光を生成する複数の測定光生成部を備えるので、波長域が互いに異なる複数の測定光が走査領域を走査した反射光を、並行して、あるいは、択一的に、取得することができる。したがって、物体を検知して該物体までの距離を測定するという基本機能の他に付加機能をもたせることが可能となり、さらなる高機能化が実現される。例えば、同じ対象物について、波長域が互いに異なる複数の測定光のそれぞれでの検知結果を取得することで、対象物までの距離以外の情報(例えば、対象物の種別)を導出することができる。また例えば、検知装置の使用環境、装置内状況、などの変化に応じて、使用する測定光を切り替えることで、該変化に柔軟に対応することができる。
【0013】
第2の態様によると、簡易な構成で、波長域が互いに異なる複数の測定光が走査領域を走査した反射光を並行して取得することができる。
【0014】
第3の態様によると、互いに異なる複数の波長の各々における対象物の反射率に基づいて対象物の種別を識別するので、対象物の種別を十分な確度で識別することができる。
【0015】
第4の態様によると、対象物の種別を簡易に識別することができる。
【0016】
第5の態様によると、連続的に波長が変化する光を適切に誘導することができる。
【0017】
第6の態様によると、波長域が互いに異なる複数の測定光が走査領域を走査した反射光を並行して取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係る検知装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】制御部のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】グレーティングライトバルブの一部を模式的に示す平面図である。
【
図4】グレーティングライトバルブを模式的に示す側面図である。
【
図5】グレーティングライトバルブの動作を説明するための模式図である。
【
図6】ラインビームが誘導される方向に沿って見た検知装置の光学系を模式的に示す図である。
【
図7】ラインビームの延在方向に沿って見た検知装置の光学系を模式的に示す図である。
【
図8】種別の識別に係る構成を示すブロック図である。
【
図10】検知装置の動作の流れの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照しながら、実施形態について説明する。なお、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本開示の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。また、図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法または数が誇張または簡略化して図示されている場合がある。
【0020】
相対的または絶対的な位置関係を示す表現(例えば、「一方向に」、「一方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」、「同軸」、など)は、特に断らない限り、その位置関係を厳密に表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる範囲で相対的に角度または距離に関して変位された状態も表すものとする。また、等しい状態であることを示す表現(例えば、「同一」、「等しい」、「均質」、など)は、特に断らない限り、定量的に厳密に等しい状態を表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる差が存在する状態も表すものとする。また、形状を示す表現(例えば、「円形状」、「四角形状」、「円筒形状」、など)は、特に断らない限り、幾何学的に厳密にその形状を表すのみならず、同程度の効果が得られる範囲の形状を表すものとし、例えば凹凸または面取りなどを有していてもよい。また、構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、「有する」、といった各表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的表現ではない。また、「A、BおよびCのうちの少なくとも一つ」という表現には、「Aのみ」、「Bのみ」、「Cのみ」、「A、BおよびCのうち任意の2つ」、「A、BおよびCの全て」が含まれる。
【0021】
<1.検知装置の概略構成>
実施形態に係る検知装置100の概略構成について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、検知装置100の概略構成を示すブロック図である。
【0022】
検知装置100は、光を用いた検知と測距を行う装置(いわゆる、LiDAR装置)であり、検知装置100の周囲の領域(走査領域)Aに光(光ビーム)を送信する送信部1と、送信部1から走査領域Aに送信されて走査領域Aにある対象物Atで反射された光を受信する受信部2と、これら各部1,2を制御する制御部3と、を備える。
【0023】
(送信部1)
送信部1は、複数(図の例では3個)の測定光生成部11a,11b,11cと、合流部12と、光誘導部13と、を備える。
【0024】
第1測定光生成部11aは、第1波長λaから連続的に波長が変化する第1測定光ビームLaを生成する。第1波長λaは適宜に選択することができる。例えば、LiDAR装置において好適に用いられる波長(すなわち、太陽光の影響を受けにくい、人間の目に対する安全性が担保される、などといった要件を充足することができる波長)として、532nm、850nm、905nm、1064nm、1550nm、などが挙げられる。これらの波長のいずれかが、第1波長λaとして選択されてもよい。
【0025】
第2測定光生成部11bは、第1波長λaとは異なる第2波長λbから連続的に波長が変化する第2測定光ビームLbを生成する。第2波長λbも、適宜に選択することが可能であり、例えば、LiDAR装置において好適に用いられる波長であって、第1波長λaとは異なるものが、第2波長λbとして選択されてもよい。
【0026】
第3測定光生成部11cは、第1波長λaおよび第2波長λbとはいずれも異なる第3波長λcから連続的に波長が変化する第3測定光ビームLcを生成する。第3波長λcも、適宜に選択することが可能であり、例えば、LiDAR装置において好適に用いられる波長であって、第1波長λaおよび第2波長λbとは異なるものが、第3波長λcとして選択されてもよい。
【0027】
合流部12は、各測定光生成部11a,11b,11cから射出された各測定光ビームLa,Lb,Lcを合流させて集合光ビームLとして、該集合光ビームLを光誘導部13に入射させる。
【0028】
光誘導部13は、ここに入射した集合光ビームLを誘導して、走査領域Aを走査させる。光誘導部13は、具体的には例えば、位相変調型の空間光変調器の一種である空間位相変調素子131を含んで構成される。空間位相変調素子131は、複数の格子要素を有し、該複数の格子要素の各々を変位させることで入射した光ビームの位相を変調して、該光ビームを誘導する。
【0029】
(受信部2)
受信部2は、分岐部21と、複数(送信部1が備える測定光生成部11a,11b,11cと同数個であり、図の例では3個)の光検出器22a,22b,22cと、分岐部21と各光検出器22a,22b,22cの間に配置されたフィルタ23a,23b,23cと、を備える。
【0030】
分岐部21は、走査領域Aに照射されてここにある対象物Atで反射された集合光ビームLを、光検出器22a,22b,22cと同数個(すなわち、送信部1が備える測定光生成部11a,11b,11cと同数個であり、図の例では3個)に分岐させる。
【0031】
第1フィルタ23aは、分岐された集合光ビームLの一つ(第1集合光ビームL1)の光路上に配置され、第1測定光ビームLaに相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させるとともに、第1測定光ビームLaに相当する周波数帯を通過させて、第1光検出器22aに入射させる。一方、第1光検出器22aは、入射した光(すなわち、第1フィルタ23aを通過した光ビーム)を検出する。つまり、第1光検出器22aによって、走査領域Aに照射されてここにある対象物Atで反射された第1測定光ビームLaが検出される。
【0032】
同様に、第2フィルタ23bは、分岐された集合光ビームLの別の一つ(第2集合光ビームL2)の光路上に配置され、第2測定光ビームLbに相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させるとともに、第2測定光ビームLbに相当する周波数帯を通過させて、第2光検出器22bに入射させる。一方、第2光検出器22bは、入射した光(すなわち、第2フィルタ23bを通過した光ビーム)を検出する。つまり、第2光検出器22bによって、走査領域Aに照射されてここにある対象物Atで反射された第2測定光ビームLbが検出される。
【0033】
同様に、第3フィルタ23cは、分岐された集合光ビームLの残る一つ(第3集合光ビームL3)の光路上に配置され、第3測定光ビームLcに相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させるとともに、第3測定光ビームLcに相当する周波数帯を通過させて、第3光検出器22cに入射させる。一方、第3光検出器22cは、入射した光(すなわち、第3フィルタ23cを通過した光ビーム)を検出する。つまり、第3光検出器22cによって、走査領域Aに照射されてここにある対象物Atで反射された第3測定光ビームLcが検出される。
【0034】
(制御部3)
制御部3は、検知装置100が備える各部1,2の動作を制御するとともに、各種の演算処理を行う要素であり、例えば、電気回路を有する一般的なコンピュータ、あるいは、マイクロコンピュータ、などによって構成される。
【0035】
制御部3は、具体的には例えば、
図2に示されるように、データ処理を担う中央演算装置としてのCPU(Central Processor Unit)31といったプロセッサ、あるいは、FPGA(Field Programmable Gate Array)を備える。さらに、制御部3は、基本プログラムなどが格納されるROM(Read Only Memory)32、CPU31が所定の処理(データ処理)を行う際の作業領域として用いられるRAM(Random Access Memory)33、フラッシュメモリ、ハードディスク装置、などの不揮発性記憶装置によって構成される記憶装置34、これらを相互に接続するバスライン35、などを含んで構成される。
【0036】
記憶装置34には、制御部3が実行する処理を規定するプログラムPが格納されており、CPU31がこのプログラムPを実行することにより、制御部3がプログラムPによって規定された処理を実行することができる。もっとも、制御部3が実行する処理の一部または全部が、専用の論理回路などのハードウェア(例えば、専用プロセッサ)によって実行されてもよい。記憶装置34には、演算処理などに用いられる各種のデータも格納される。
【0037】
また、制御部3には、各種の情報を表示する表示部36、および、オペレータからの入力操作を受け付ける入力部37、などがさらに接続されてもよい。表示部36として、液晶ディスプレイなどの各種のディスプレイ装置を用いることができる。また、入力部37として、キーボード、マウス、タッチパネル、マイク、などを用いることができる。
【0038】
<2.検知装置の構成>
次に、検知装置100の具体的な構成例について説明する。以下においては、まず、光誘導部13が備える空間位相変調素子131の構成例について説明してから、空間位相変調素子131を含む検知装置100の全体の構成例を説明する。
【0039】
<2-1.空間位相変調素子>
空間位相変調素子131は、上記のとおり、複数の格子要素を有し、該複数の格子要素の各々を変位させることで入射した光ビームに対する位相変調を実行して、該光ビームを誘導する。この実施形態では、空間位相変調素子131は、光位相アレイ(光フェーズドアレイ)の一種であるグレーティングライトバルブ(Grating Light Valve)5を用いて実現される。
【0040】
グレーティングライトバルブ5について、
図3~
図5を参照しながら説明する。
図3は、グレーティングライトバルブ5の一部を模式的に示す平面図である。
図4は、グレーティングライトバルブ5を模式的に示す側面図である。
図5は、グレーティングライトバルブ5の動作を説明するための図である。
【0041】
グレーティングライトバルブ5は、ベース部51と、複数(例えば数千本程度)のリボン52と、を備える。
【0042】
ベース部51は、基板511と、電極(ベース電極)512とを備える。基板511は、板状の基材であり、例えばシリコン基板などを用いて構成される。一方、ベース電極512は、基板511に設けられる電極であり、例えば、基板511の上面(リボン52が設けられる側の主面)に形成された金属膜によって、実現される。
【0043】
複数のリボン52の各々は、グレーティングライトバルブ5において、格子要素としての役割を担う。複数のリボン52は、基板511の一方の主面に、一列に配列されて設けられる。各リボン52は、平面視にて細長い形状であり、長尺方向を配列方向と直交させるような向きで設けられる。なお、
図3~
図5においては、説明の便宜のために、複数のリボン52の配列方向を「Gx」とし、各リボン52の長尺方向を「Gy」とする座標系が示されている。
【0044】
各リボン52は、可撓性を有しており、長尺方向の中央部において基板511との間に隙間を設けつつ、長尺方向の両端部において基板511の主面に接続される。また、各リボン52は、その上面(基板511と対向する側の面と逆側の面)に設けられた、光ビームを正反射する反射面521を備える。反射面521は、例えば、リボン52の上面に形成された金属(例えばアルミニウム)の薄膜によって実現される。さらに、各リボン52は、電極(リボン電極)522を備える。リボン電極522は、例えば、反射面521を実現するための金属の薄膜によって実現される。いうまでもなく、反射面521を実現するための薄膜とは別に、リボン電極522を実現するための薄膜などが設けられてもよい。
【0045】
上記のとおり、各リボン52は可撓性を有している。したがって、ベース電極512とリボン電極522との間に電位差が付与されると、静電気力によって、リボン52が基板511に向けて撓み、基板511の法線方向に変位する(
図4において一点鎖線で示す状態)。また、両電極512,522の間の電位差がなくなると、静電気力がなくなり、リボン52は弾性復帰して、撓んでいない状態(
図4において実線で示す状態)に戻る。両電極512,522の間には、制御部3からの信号に応じた電位差が付与され、各リボン52は、付与された電位差に応じた量だけ、基板511に対して変位する。つまり、基板511に対するリボン52の変位量ΔGは、制御部3からの信号によって制御される。
【0046】
グレーティングライトバルブ5においては、複数のリボン52の各々の変位量ΔGが制御部3からの信号で制御されることによって、複数のリボン52が様々なモード(パターン)を形成することができる。例えば、グレーティングライトバルブ5は、複数のリボン52の変位量ΔGが、等しくゼロであるようなパターンを形成することができる(第1モードM1)。このとき、グレーティングライトバルブ5は、鏡として機能し、グレーティングライトバルブ5に入射した光は、鏡面反射される。また例えば、グレーティングライトバルブ5は、複数のリボン52の変位量ΔGがリボン52の配列方向に沿って周期的に変化するブレーズパターンを形成することもできる(第2モードM2、第3モードM3)。いうまでもなく、グレーティングライトバルブ5では、第2モードM2および第3モードM3として図に例示される以外にも、任意のブレーズ周期(変位の周期)B、および、任意のブレーズ角度(鋸歯形状の傾斜面が基板511に対してなす角度)のブレーズパターンを形成することができる。複数のリボン52が、配列方向に沿ってブレーズパターンを形成するとき、グレーティングライトバルブ5は、ブレーズド回折格子として機能する。すなわち、このときのグレーティングライトバルブ5は、ここに入射した光ビームの位相を変調して、該光ビームをブレーズ周期Bに応じた角度に反射する。したがって、複数のリボン52が形成するブレーズパターンのブレーズ周期Bを次々に変化させる(ブレーズ周期Bを循環させる)ことで、グレーティングライトバルブ5から光ビームが反射される角度を次々に変化させることが可能となる。このようにして、光ビームが射出される方向を次々に変化させることによって、光ビームを誘導して走査領域Aを走査させることができる。
【0047】
<2-2.検知装置の全体構成>
次に、検知装置100の全体構成について、
図6、
図7を参照しながら説明する。以下の説明で明らかになるように、検知装置100の送信部1は、光ビームを所定方向に広げるように成形して、走査領域Aにおける1次元に延在する線状の領域に、光ビームを照射する(所定方向に広がりを有し、該所定方向に延在する線状の領域に光を照射するような光ビームを、以下「ラインビーム」ともいう)。その一方で、送信部1は、ラインビームを、その延在方向と交差する方向(ここでは、延在方向と直交する方向)に誘導する。これによって、2次元の走査領域A(すなわち、ラインビームが誘導される方向とラインビームの延在方向とから規定される2次元の走査領域A)が、光ビームで走査される(いわゆる、1次元ラインスキャン方式)。
図6は、ラインビームが誘導される方向(以下「第1方向」ともいう)Axに沿って見た検知装置100の光学系を模式的に示す図であり、
図7は、ラインビームの延在方向(以下「第2方向」ともいう)Ayに沿って見た検知装置100の光学系を模式的に示す図である。
【0048】
複数の測定光生成部11a,11b,11cの各々は、例えば、レーザ光源などを含んで構成される光源と、光ビームの波長(周波数)を連続的に変化させる波長掃引部とを含んで構成され(いわゆる、波長掃引光源)、光源から出射された各光ビームが、波長掃引部にて波長掃引(周波数掃引)されることで、連続的に波長(周波数)が変化する測定光ビームLa,Lb,Lcが生成される。波長の変化幅(掃引幅)は、適宜に規定すればよく、例えば数nm程度とすることができる。
【0049】
上記のとおり、各測定光生成部11a,11b,11cは、互いに異なる各波長λa,λb,λcから連続的に波長が変化する測定光ビームLa,Lb,Lcを生成して射出する。すなわち、第1測定光生成部11aが備える光源は、第1波長λaの光ビームを出射するものであり、第1測定光生成部11aでは、該光源から出射される第1波長λaの光ビームに対して波長掃引が行われることで、第1波長λaから連続的に波長が変化する第1測定光ビームLaが生成される。同様に、第2測定光生成部11bが備える光源は、第2波長λbの光ビームを出射するものであり、第2測定光生成部11bでは、該光源から出射される第2波長λbの光ビームに対して波長掃引が行われることで、第2波長λbから連続的に波長が変化する第2測定光ビームLbが生成される。同様に、第3測定光生成部11cが備える光源は、第3波長λcの光ビームを出射するものであり、第3測定光生成部11cでは、該光源から出射される第3波長λcの光ビームに対して波長掃引が行われることで、第3波長λcから連続的に波長が変化する第3測定光ビームLcが生成される。
【0050】
第1方向Axに沿って見ると(
図6)、各測定光生成部11a,11b,11cから射出された各測定光ビームLa,Lb,Lcは、シリンドリカルレンズ101によって、第2方向Ayについてコリメートされる。シリンドリカルレンズ101の後段には、ビームスプリッタ102が設けられており、このビームスプリッタ102によって、コリメートされた各測定光ビームLa,Lb,Lcが、測定光ビームLa,Lb,Lcと基準光ビームL0a,L0b,L0cとに分割される。各基準光ビームL0a,L0b,L0cは、各測定光ビームLa,Lb,Lcと同様に連続的に波長が変化する光ビームであり、受信部2に送られてビート信号の取得に使用される。
【0051】
続いて、複数の測定光ビームLa,Lb,Lcは、例えばミラーなどを含んで構成される合流部12にて合流されて(すなわち、同一の光軸上に導かれて)、集合光ビームLとされる。なお、図の例では、各測定光ビームLa,Lb,Lcは、第2方向Ayから合流されているが、各測定光ビームLa,Lb,Lcは、第1方向Axから合流されてもよい。
【0052】
その後、集合光ビームLは、レンズ103によって、第2方向Ayについて空間位相変調素子131の中央に結像される。上記のとおり、空間位相変調素子131は、グレーティングライトバルブ5を用いて実現されており、グレーティングライトバルブ5は、リボン52の配列方向Gxが第1方向Axと平行となり、各リボン52の延在方向Gyが第2方向Ayと平行となるように配置されている。したがって、集合光ビームLは、レンズ103によって、各リボン52の延在方向Gyに集光されて、該延在方向Gyの中央に結像される。各リボン52の変位量ΔGは、リボン52の延在方向Gyの中央領域において特に高い精度で制御されるところ、該中央領域に集合光ビームLが入射するような構成とされることで、空間位相変調素子131から反射される集合光ビームLの角度(走査角度)を十分に高い精度で制御することが可能となる。
【0053】
空間位相変調素子131で反射された集合光ビームLは、レンズ104に入射し、該レンズ104によって第2方向Ayについてコリメートされた後に、レンズ105によって第2方向Ayについて結像される。レンズ105によって集合光ビームLが結像される結像点は、レンズ105と走査領域Aとの間に規定される。そのため、集合光ビームLは、第2方向Ayに広がりつつ、走査領域Aに入射する。つまり、一群のレンズ104,105を含んで構成される投影光学系は、集合光ビームLを第2方向Ayに広げるように成形して、走査領域Aに照射する。
【0054】
一方、第2方向Ayに沿って見ると(
図7)、各測定光生成部11a,11b,11cから射出された各測定光ビームLa,Lb,Lcは、シリンドリカルレンズ101に入射するものの、シリンドリカルレンズ101は、第1方向Axについてはパワーを有さない。したがって、各測定光生成部11a,11b,11cから射出された各測定光ビームLa,Lb,Lcは、シリンドリカルレンズ101によって第1方向Axについて屈折されることなく進行する。
【0055】
続いて、各測定光ビームLa,Lb,Lcは、合流部12にて合流されて集合光ビームLとされた後、レンズ103に入射し、レンズ103によって第1方向Axについてコリメートされてから空間位相変調素子131に入射する。つまり、集合光ビームLは、空間位相変調素子131を実現するグレーティングライトバルブ5の各リボン52の配列方向Gxに沿って細長く延在する帯状の領域に、入射する。上記のとおり、グレーティングライトバルブ5では、制御部3からの信号で複数のリボン52の各々の変位量ΔGが制御されることによって、集合光ビームLに対して位相変調が実行され、集合光ビームLは、複数のリボン52の変位態様(モード)に応じた角度(走査角度)で反射される。
図7では、2つの異なる角度へ反射された集合光ビームLが併記されている。
【0056】
空間位相変調素子131で反射された集合光ビームLは、レンズ104に入射し、該レンズ104によって第1方向Axについて結像された後に、レンズ105によって第1方向Axについてコリメートされる。つまり、一群のレンズ104,105を含んで構成される投影光学系は、空間位相変調素子131から射出された集合光ビームLを、第1方向Axに狭めるように成形して、走査領域Aに照射する。
【0057】
以上のとおり、走査領域Aには、第2方向Ayに広げられるとともに第1方向Axに狭められた集合光ビームL(すなわち、第2方向Ayに延在するラインビームに成形された集合光ビームL)が、照射される。その一方で、空間位相変調素子131が、集合光ビームLを反射する角度を次々に変更する。これによって、集合光ビームLが、その延在方向(第2方向Ay)と直交する方向(第1方向Ax)に誘導され、両方向Ax,Ayから規定される2次元の走査領域Aが集合光ビームLで走査される。走査領域Aの大きさ、すなわち、検知装置100の視野(FOV)は、ラインビームとされた集合光ビームLの延在方向の長さと、光誘導部13による集合光ビームLの誘導範囲(走査角度の範囲)とから規定される。
【0058】
引き続き、第2方向Ayに沿って見ると(
図7)、走査領域Aに照射されてここに存在する対象物Atで反射された集合光ビームLは、カメラレンズ201などを通じて受信されて、ビームスプリッタなどを含んで構成される分岐部21によって、複数個(受信部2が備える光検出器22a,22b,22cと同数個であり、図の例では3個)に分岐される。なお、図の例では、集合光ビームLは、第1方向Axについて複数に分岐されているが、集合光ビームLは、第2方向Ayについて複数に分岐されてもよい。
【0059】
分岐された複数の集合光ビームLのうちの一つである第1集合光ビームL1は、第1フィルタ23aを通って、第1光検出器22aに入射する。上記のとおり、第1フィルタ23aは、第1測定光ビームLaに相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させるとともに、第1測定光ビームLaに相当する周波数帯を通過させるフィルタであり、具体的には例えば、バンドパスフィルタによって構成される。したがって、複数の測定光ビームLa,Lb,Lcを含む第1集合光ビームL1は、第1フィルタ23aにおいて第1測定光ビームLaに相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰された上で、第1光検出器22aに入射する。つまり、第1光検出器22aには、第1フィルタ23aを通過した光ビーム、すなわち、走査領域Aに照射されてここで反射された第1測定光ビームLaが、入射する。
【0060】
同様に、分岐された複数の集合光ビームLのうちの別の一つである第2集合光ビームL2は、第2フィルタ23bを通って、第2光検出器22bに入射する。上記のとおり、第2フィルタ23bは、第2測定光ビームLbに相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させるとともに、第2測定光ビームLbに相当する周波数帯を通過させるフィルタであり、具体的には例えば、バンドパスフィルタによって構成される。したがって、複数の測定光ビームLa,Lb,Lcを含む第2集合光ビームL2は、第2フィルタ23bにおいて第2測定光ビームLbに相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰された上で、第2光検出器22bに入射する。つまり、第2光検出器22bには、第2フィルタ23bを通過した光ビーム、すなわち、走査領域Aに照射されてここで反射された第2測定光ビームLbが、入射する。
【0061】
同様に、分岐された複数の集合光ビームLのうちの残りの一つである第3集合光ビームL3は、第3フィルタ23cを通って、第3光検出器22cに入射する。上記のとおり、第3フィルタ23cは、第3測定光ビームLcに相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させるとともに、第3測定光ビームLcに相当する周波数帯を通過させるフィルタであり、具体的には例えば、バンドパスフィルタによって構成される。したがって、複数の測定光ビームLa,Lb,Lcを含む第3集合光ビームL3は、第3フィルタ23cにおいて第3測定光ビームLcに相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰された上で、第3光検出器22cに入射する。つまり、第3光検出器22cには、第3フィルタ23cを通過した光ビーム、すなわち、走査領域Aに照射されてここで反射された第3測定光ビームLcが、入射する。
【0062】
第1方向Axに沿って見ると(
図6)、各光検出器22a,22b,22cは、例えば、複数のフォトディテクタ(受光素子)221が1次元(1列)に配列された、いわゆる1次元フォトディテクタアレイを含んで構成され、フォトディテクタ221の配列方向が、第2方向Ayと平行となるように配置される。上記のとおり、走査領域Aに照射される集合光ビームLは第2方向Ayに延在するラインビームであり、走査領域Aから戻ってくる集合光ビームL、ひいては、これがフィルタ23a,23b,23cを通過した後の各測定光ビームLa,Lb,Lcも、同様のラインビームである。つまり、第2方向Ayに延在するラインビームである各測定光ビームLa,Lb,Lcが、各光検出器22a,22b,22cにおいて第2方向Ayに配列された複数のフォトディテクタ221に、入射する。したがって、各フォトディテクタ221は、各測定光ビームLa,Lb,Lcにおける第2方向Ayの各位置の光の強度を検出することになる。
【0063】
複数の光検出器22a,22b,22cの各々での検出結果は、制御部3に送信され、制御部3は、該検出結果を用いて各種の演算処理を行う。
【0064】
例えば、制御部3は、複数の光検出器22a,22b,22cの中から選択された少なくとも1個の光検出器での検出結果に基づいて、走査領域Aにある対象物Atに関する各種の測定データ(例えば、対象物Atまでの距離、対象物Atの位置、など)を算出する。具体的には例えば、制御部3は、周波数変調連続波(FMCW:Frequency Modulation Continuous Wave)方式の測距技術を用いて、測定データを算出する。この場合、制御部3は、選択された少なくとも1個の光検出器(例えば、第1光検出器22a)で取得された第1測定光ビームLaの検出信号と、走査領域Aに照射される前の第1測定光ビームLaから分岐された基準光ビームL0aの検出信号とを重ね合わせて、両光ビームLa,L0aの合成波の検出信号を取得する。この合成波は、第1測定光ビームLaとその基準光ビームL0aとの干渉によって生じるビート信号を含み、制御部3はこのビート信号に基づいて、両光ビームLa,L0aの周波数差を特定し、該周波数差から、対象物Atまでの距離を算出する。また例えば、制御部3は、対象物Atで反射された第1測定光ビームLaが走査領域Aに投射されたときの走査角度(光誘導部13による集合光ビームLの誘導位置)に基づいて、第1方向Axについての対象物Atの位置を特定する。また例えば、制御部3は、対象物Atで反射された第1測定光ビームLaを検出したフォトディテクタ221の配列位置に基づいて、第2方向Ayについての対象物Atの位置を特定する。
【0065】
また例えば、制御部3は、複数の光検出器22a,22b,22cでの検出結果に基づいて、対象物Atの種別を識別(認識)する。この点については、次に説明する。
【0066】
<3.種別の識別>
上記のとおり、検知装置100では、制御部3が、複数の光検出器22a,22b,22cでの検出結果に基づいて、走査領域Aに存在する対象物Atの種別を識別する。ここでは、多くの物体がその種別ごとに固有の反射率特性を有するという性質を利用して、対象物Atの種別を識別する。ここでいう「反射率特性」とは、波長ごとの反射率(波長に対する反射率の推移の態様)である。
図9には、一例として、「植物」の反射率特性(T1)、「コンクリート」の反射率特性(T2)、および、「アスファルト」の反射率特性(T3)が、いずれも模式的に示されている。この図に例示されるように、反射率特性は、物体の種別ごとに固有のものであり、種別によって異なるものとなる。そこで、検知装置100は、複数の光検出器22a,22b,22cでの検出結果から、複数の波長λa,λb,λcの各々における対象物Atの反射率Ra,Rb,Rcを特定し、該複数の反射率Ra,Rb,Rcから推定される反射率特性から、該対象物Atの種別を識別する。
【0067】
検知装置100が備える、種別の識別に係る構成について、
図8を参照しながら説明する。
図8は、種別の識別に係る構成を示すブロック図である。
【0068】
種別の識別に係る構成として、制御部3は、複数(送信部1が備える測定光生成部11a,11b,11cと同数個であり、図の例では3個)の反射率特定部301a,301b,301cと、種別識別部302と、を備える。これら各部301a,301b,301c,302は、例えば、CPU31が記憶装置34に格納されたプログラムPを実行することによって実現される。また、記憶装置34には、対象物Atの種別の識別に用いられるデータである反射率データDが格納される。
【0069】
第1反射率特定部301aは、第1光検出器22aでの検出結果に基づいて、第1波長λaにおける対象物Atの反射率である第1反射率Raを特定する。第1反射率Raは、対象物Atで反射される前後での第1測定光ビームLaの強度の比から特定される値であり、第1光検出器22aから得られる検出信号に基づいて適宜の方法で取得することができる。例えば、第1反射率特定部301aは、第1測定光ビームLaとその基準光ビームL0aとの合成波の検出信号に含まれるビート信号に基づいて(例えばビート信号の振幅量から)、第1反射率Raを特定してもよいし、第1光検出器22aでの検出信号と基準光ビームL0aの検出信号の比から第1反射率Raを特定してもよい。
【0070】
同様に、第2反射率特定部301bは、第2光検出器22bでの検出結果に基づいて、第2波長λbにおける対象物Atの反射率である第2反射率Rbを特定する。第2反射率Rbは、対象物Atで反射される前後での第2測定光ビームLbの強度の比から特定される値であり、第2光検出器22bから得られる検出信号に基づいて適宜の方法で取得することができる。
【0071】
同様に、第3反射率特定部301cは、第3光検出器22cでの検出結果に基づいて、第3波長λcにおける対象物Atの反射率である第3反射率Rcを特定する。第3反射率Rcは、対象物Atで反射される前後での第3測定光ビームLcの強度の比から特定される値であり、第3光検出器22cから得られる検出信号に基づいて適宜の方法で取得することができる。
【0072】
上記のとおり、検知装置100では、光誘導部13が、グレーティングライトバルブ5を用いて実現される空間位相変調素子131を含んで構成される。グレーティングライトバルブ5に入射した光は、複数のリボン52の変位態様に応じた角度(走査角度)で反射されるところ、該角度は、厳密にいうと、入射する光の波長に応じて僅かに異なるものとなる。このため、グレーティングライトバルブ5に集合光ビームLが入射した場合、該集合光ビームLに含まれている各測定光ビームLa,Lb,Lcが、互いに僅かにずれた方向に誘導されることとなる。したがって、ある位置にある対象物Atについて、第1測定光ビームLaの反射光が第1光検出器22aで取得される時刻t1と、第2測定光ビームLbの反射光が第2光検出器22bで取得される時刻t2と、第3測定光ビームLcの反射光が第3光検出器22cで取得される時刻t3とは、互いに僅かにずれた時刻となる。つまり、単純に、同時刻に各光検出器22a,22b,22cで取得された検出結果から導出された反射率同士を、同じ対象物At(同じ位置)に係る反射率として紐づけてしまうと、正しい紐づけがなされない虞がある。したがって、各波長λa,λb,λcの差に由来する走査角度のずれを加味して、互いにずれた時刻t1,t2,t3に各光検出器22a,22b,22cで取得された検出結果から導出された反射率Ra,Rb,Rc同士を、同じ対象物Atに係る反射率Ra,Rb,Rcとして紐づけることが好ましい。これによって、同じ対象物Atについての各反射率Ra,Rb,Rcが、正しく紐づけられることになる。
【0073】
種別識別部302は、各反射率特定部301a,301b,301cによって特定された、対象物Atに係る複数の反射率Ra,Rb,Rcに基づいて、該対象物Atの種別を識別する。具体的には、種別識別部302は、対象物Atに係る複数の反射率Ra,Rb,Rcと、反射率データDに記述される候補種別Tiに係る複数の反射率Tia,Tib,Ticとを用いて、対象物Atが候補種別Tiであるか否かを判定することによって、該対象物Atの種別を識別する。
【0074】
ここで、反射率データDについて、
図9を参照しながら説明する。反射率データDには、予め選定された1以上の候補種別Ti(i=1,2,・・)の各々について、複数の測定光ビームLa,Lb,Lcの各波長λa,λb,λcにおける反射率Tia,Tib,Ticが、例えばテーブル形式で記述される。
【0075】
例えば、「植物」、「コンクリート」および「アスファルト」の3個が、候補種別T1,T2,T3とされているとする。この場合、反射率データDには、「第1候補種別T1:植物」と紐づけて、第1波長λa(図では一例として532nm)における植物の反射率T1a、第2波長λb(図では一例として1064nm)における植物の反射率T1b、および、第3波長λc(図では一例として1550nm)における植物の反射率T1cが、記述される。同様に、「第2候補種別T2:コンクリート」と紐づけて、第1波長λaにおけるコンクリートの反射率T2a、第2波長λbにおけるコンクリートの反射率T2b、および、第3波長λcにおけるコンクリートの反射率T2cが、記述される。同様に、「第3候補種別T3:アスファルト」と紐づけて、第1波長λaにおけるアスファルトの反射率T3a、第2波長λbにおけるアスファルトの反射率T3b、および、第3波長λcにおけるアスファルトの反射率T3cが、記述される。
【0076】
候補種別Tiの個数および種類は、任意に規定することができるが、検知装置100の使用環境などに鑑みて、識別する必要性が高いと想定される種別を、候補種別Tiとして選定することが好ましい。例えば、検知装置100が自動車用に搭載されるLiDARである場合、運転中の視野に現れる可能性が高い種別、例えば、アスファルト、コンクリート、植物、布、土、肌、レンガ、石、水、などのうちの少なくとも1個が、候補種別Tiとして選択されることが好ましい。
【0077】
種別識別部302は、各波長λa,λb,λcについて、対象物Atの反射率Ra,Rb,Rcと、候補種別Tiの反射率Tia,Tib,Ticとを比較して、対象物Atが該候補種別Tiであるか否かを判定する。
【0078】
例えば、対象物Atが「第1候補種別T1:植物」であるか否かの判定は、次のように行うことができる。すなわち、この判定を行うにあたって、種別識別部302は、第1波長λaにおける対象物Atの反射率Raと、第1波長λaにおける植物の反射率T1aとの差d1aを算出する。同様に、第2波長λbにおける対象物Atの反射率Rbと、第2波長λbにおける植物の反射率T1bとの差d1bを算出する。さらに、第3波長λcにおける対象物Atの反射率Rcと、第3波長λcにおける植物の反射率T1cとの差d1cを算出する。そして、すべての差d1a,d1b,d1cの総和、平均値などを、代表差分値d1として取得する。この代表差分値d1が小さいほど、対象物Atの反射率特性と「第1候補種別T1:植物」の反射率特性との一致度が高い、すなわち、対象物Atが「第1候補種別T1:植物」である可能性が高いといえる。そこで、種別識別部302は、例えば、代表差分値d1を所定の閾値と比較して、代表差分値d1が所定の閾値以下である場合に、一致度が十分に高い、すなわち、対象物Atが「第1候補種別T1:植物」であると判定する。一方、代表差分値d1が該閾値よりも大きい場合に、一致度が十分に高くない、すなわち、対象物Atは「第1候補種別T1:植物」ではないと判定する。
【0079】
このように、異なる波長λa,λb,λcにおける複数の反射率Ra,Rb,Rcを用いて、対象物Atが候補種別Tiであるか否かの判定が行われることによって、誤判定が生じる可能性を十分に低減して、対象物Atの種別を十分な確度で識別することができる。例えば、第1波長λaの反射率Raだけを用いて判定が行われる場合、
図9に例示されるような反射率Raが得られていると、実際は「植物」である対象物Atが、「アスファルト」であると誤判定される虞がある。しかしながら、第2波長λbの反射率Rbをさらに加味して判定が行われることで、対象物Atが「アスファルト」であると誤判定される可能性が低減される。いうまでもなく、第3波長λcの反射率Rcをさらに加味して判定が行われることで、誤判定が生じる可能性がさらに低減される。
【0080】
種別識別部302は、例えば、一致度が十分に高いと判定される候補種別Tiが見つかった時点で、対象物Atが該候補種別Tiであると判断して、識別に係る処理を終了してもよい。あるいは、種別識別部302は、反射率データDに反射率が記述される1以上の候補種別Ti(i=1,2,・・)の全てについて判定を行って、一致度が最も高い候補種別Tiを対象物Atの種別であると判断してもよい。また、反射率データDに反射率が保持される1以上の候補種別Ti(i=1,2,・・)の全てについて、一致度が十分に高くないと判定された場合、種別識別部302は、対象物Atは候補種別Ti(i=1,2,・・)以外の種別であると判断してもよいし、何らかのエラーが生じていると判断してもよい。
【0081】
<4.動作の流れ>
検知装置100の動作の流れの一例について、
図10を参照しながら説明する。
図10は、検知装置100の動作の流れの一例を示す図である。
【0082】
検知装置100の動作には、走査領域Aに光を送信する送信工程(ステップS101:ステップS1~ステップS3)と、走査領域Aにある対象物Atで反射された光を受信する受信工程(ステップS102:ステップS4~ステップS5)と、受信工程で取得された検出結果に基づく演算処理などを行う演算工程(ステップS103:ステップS6~ステップS7)と、が含まれる。送信工程および受信工程は、制御部3が送信部1および受信部2を制御することによって進行する。以下において、これらの各工程について具体的に説明する。
【0083】
ステップS1:測定光生成工程
まず、第1測定光生成部11aが、光源から出射される第1波長λaの光ビームに対して波長掃引を行って、第1波長λaから連続的に波長が変化する第1測定光ビームLaを生成して、これを射出する(ステップS1a)。これと並行して、第2測定光生成部11bが、光源から出射される第2波長λbの光ビームに対して波長掃引を行って、第2波長λbから連続的に波長が変化する第2測定光ビームLbを生成して、これを射出する(ステップS1b)。これらと並行して、第3測定光生成部11cが、光源から出射される第3波長λcの光ビームに対して波長掃引を行って、第3波長λcから連続的に波長が変化する第3測定光ビームLcを生成して、これを射出する(ステップS1c)。
【0084】
ステップS2:合流工程
続いて、合流部12が、各測定光生成部11a,11b,11cから射出された各測定光ビームLa,Lb,Lcを合流させて集合光ビームLとして、該集合光ビームLを光誘導部13に入射させる。
【0085】
ステップS3:光誘導工程
続いて、光誘導部13が、複数の測定光ビームLa,Lb,Lcを含む集合光ビームLを誘導して、走査領域Aを走査させる。具体的には、空間位相変調素子131によって、集合光ビームLを、その延在方向(第2方向Ay)と直交する方向(第1方向Ax)に誘導することによって、2次元の走査領域Aを集合光ビームLで走査させる。
【0086】
ステップS4:分岐工程
続いて、分岐部21が、走査領域Aに照射されてここにある対象物Atで反射された集合光ビームLを複数に分岐させる。
【0087】
ステップS5:光検出工程
続いて、分岐された複数の集合光ビームLのうちの一つである第1集合光ビームL1が、第1フィルタ23aにおいて第1測定光ビームLaに相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰された上で、第1光検出器22aに入射する。第1光検出器22aは、第1フィルタ23aを通過した光ビーム、すなわち、走査領域Aで反射された第1測定光ビームLaを受光し、その強度を検出する(ステップS5a)。これと並行して、分岐された複数の集合光ビームLのうちの別の一つである第2集合光ビームL2が、第2フィルタ23bにおいて第2測定光ビームLbに相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰された上で、第2光検出器22bに入射する。第2光検出器22bは、第2フィルタ23bを通過した光ビーム、すなわち、走査領域Aで反射された第2測定光ビームLbを受光し、その強度を検出する(ステップS5b)。これらと並行して、分岐された複数の集合光ビームLのうちの残りの一つである第3集合光ビームL3が、第3フィルタ23cにおいて第3測定光ビームLcに相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰された上で、第3光検出器22cに入射する。第3光検出器22cは、第3フィルタ23cを通過した光ビーム、すなわち、走査領域Aで反射された第3測定光ビームLcを受光し、その強度を検出する(ステップS5c)。
【0088】
ステップS6:測定データ算出工程
制御部3は、例えば、ステップS5aにおいて、第1光検出器22aで取得された検出結果に基づいて、走査領域Aにある対象物Atに関する各種の測定データ(例えば、対象物Atまでの距離、対象物Atの位置、など)を算出する。
【0089】
ステップS7:種別識別工程
また、制御部3は、ステップS5a,5b,5cにおいて複数の光検出器22a,22b,22cで取得された検出結果に基づいて、対象物Atの種別を識別する。
【0090】
ステップS71
具体的には、まず、第1反射率特定部301aが、第1光検出器22aでの検出結果に基づいて、第1波長λaにおける対象物Atの反射率である第1反射率Raを特定する。また、第2反射率特定部301bが、第2光検出器22bでの検出結果に基づいて、第2波長λbにおける対象物Atの反射率である第2反射率Rbを特定する。また、第3反射率特定部301cが、第3光検出器22cでの検出結果に基づいて、第3波長λcにおける対象物Atの反射率である第3反射率Rcを特定する。
【0091】
ステップS72
続いて、種別識別部302が、ステップS71で特定された、対象物Atに係る複数の反射率Ra,Rb,Rcに基づいて、該対象物Atの種別を識別する。具体的には例えば、種別識別部302は、各波長λa,λb,λcについて、対象物Atの反射率Ra,Rb,Rcと、反射率データDに記述される候補種別Tiの反射率Tia,Tib,Ticとを比較して、対象物Atが該候補種別Tiであるか否かを判定することによって、該対象物Atの種別を識別する。
【0092】
<5.効果>
上記の実施形態に係る検知装置100は、走査領域Aに光を送信する送信部1と、走査領域Aにある対象物Atで反射された光を受信する受信部2と、を備える。そして、送信部1が、第1波長λaから連続的に波長が変化する第1測定光ビームLaを生成する第1測定光生成部11aと、第1波長λaとは異なる第2波長λbから連続的に波長が変化する第2測定光ビームLbを生成する第2測定光生成部11bと、第1波長λaおよび第2波長λbとは異なる第3波長λcから連続的に波長が変化する第3測定光ビームLcを生成する第3測定光生成部11cと、第1測定光ビームLa、第2測定光ビームLb、および、第3測定光ビームLcを含む光である集合光ビームLを誘導して走査領域Aを走査させる光誘導部13と、を備える。
【0093】
この構成によると、送信部1が、それぞれが互いに異なる波長域の測定光ビームLa,Lb,Lcを生成する複数の測定光生成部11a,11b,11cを備えるので、波長域が互いに異なる複数の測定光ビームLa,Lb,Lcが走査領域Aを走査した反射光を、並行して取得することができる。したがって、物体を検知して該物体までの距離を測定するという基本機能の他に付加機能をもたせることが可能となり、さらなる高機能化が実現される。例えば、同じ対象物Atについて、波長域が互いに異なる複数の測定光ビームLa,Lb,Lcのそれぞれでの検知結果を取得することで、対象物Atまでの距離以外の情報(例えば、対象物Atの種別)を導出することができる。
【0094】
また、上記の実施形態に係る検知装置100は、送信部1が、第1測定光ビームLa、第2測定光ビームLb、および、第3測定光ビームLcを合流させて集合光ビームLとして、集合光ビームLを光誘導部13に入射させる、合流部12、を備える。そして、受信部2が、対象物Atで反射された集合光ビームLを分岐させる分岐部21と、分岐された複数の集合光ビームLのうちの一つの集合光ビームL1の光路上に配置され、第1測定光ビームLaに相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させるとともに、第1測定光ビームLaに相当する周波数帯を通過させる、第1フィルタ23aと、分岐された複数の集合光ビームLのうちの別の一つの集合光ビームL2の光路上に配置され、第2測定光ビームLbに相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させるとともに、第2測定光ビームLbに相当する周波数帯を通過させる、第2フィルタ23bと、分岐された複数の集合光ビームLのうちの別の一つの集合光ビームL3の光路上に配置され、第3測定光ビームLcに相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させるとともに、第3測定光ビームLcに相当する周波数帯を通過させる、第3フィルタ23cと、第1フィルタ23aを通過した光ビームを検出する第1光検出器22aと、第2フィルタ23bを通過した光ビームを検出する第2光検出器22bと、第3フィルタ23cを通過した光ビームを検出する第3光検出器22cと、を備える。
【0095】
この構成によると、簡易な構成で、波長域が互いに異なる複数の測定光ビームLa,Lb,Lcが走査領域Aを走査した反射光を並行して取得することができる。
【0096】
また、上記の実施形態に係る検知装置100は、第1光検出器22aでの検出結果に基づいて、第1波長λaにおける対象物Atの反射率である第1反射率Raを特定する第1反射率特定部301aと、第2光検出器22bでの検出結果に基づいて、第2波長λbにおける対象物Atの反射率である第2反射率Rbを特定する第2反射率特定部301bと、第3光検出器22cでの検出結果に基づいて、第3波長λcにおける対象物Atの反射率である第3反射率Rcを特定する第3反射率特定部301cと、第1反射率Ra、第2反射率Rb、および、第3反射率Rcに基づいて、対象物Atの種別を識別する種別識別部302と、を備える。
【0097】
この構成によると、互いに異なる複数の波長λa,λb,λcの各々における対象物Atの反射率Ra,Rb,Rcに基づいて対象物Atの種別を識別するので、対象物Atの種別を十分な確度で識別することができる。
【0098】
また、上記の実施形態に係る検知装置100は、1以上の候補種別Ti(i=1,2,・・)の各々について、第1波長λaにおける該候補種別Tiの反射率Tiaと、第2波長λbにおける該候補種別Tiの反射率Tibと、第3波長λcにおける該候補種別Tiの反射率Ticと、を記述した反射率データDを記憶する記憶部(記憶装置34)、を備える。そして、種別識別部302が、第1波長λa、第2波長λb、および、第3波長λcの各々について、対象物Atの反射率Ra,Rb,Rcと候補種別Tの反射率Tia,Tib,Ticとを比較して、対象物Atが該候補種別Tであるか否かを判定する。
【0099】
この構成によると、対象物Atの種別を簡易に識別することができる。例えば、候補種別Tiを、検知装置100の使用環境などに鑑みて識別する必要性が高いと想定される種別に絞っておくことで、対象物Atの種別の識別を必要十分な程度に行えるように担保しつつ、種別の識別に係る処理の負担を十分に低減することができる。
【0100】
また、上記の実施形態に係る検知方法は、走査領域Aに光(光ビーム)を送信する送信工程(ステップS101)と、走査領域Aにある対象物Atで反射された光ビームを受信する受信工程(ステップS102)と、を備える。ここにおいて、送信工程が、第1波長λaから連続的に波長が変化する第1測定光ビームLaを生成するとともに、第1波長λaとは異なる第2波長λbから連続的に波長が変化する第2測定光ビームLbを生成し、これらとともに、第1波長λaおよび第2波長λbとは異なる第3波長λcから連続的に波長が変化する第3測定光ビームLcを生成する、測定光生成工程(ステップS1)と、第1測定光ビームLa、第2測定光ビームLb、および、第3測定光ビームLcを合流させて集合光ビームLとする合流工程(ステップS2)と、集合光ビームLを誘導して走査領域Aを走査させる光誘導工程(ステップS3)と、を備える。また、受信工程が、対象物Atで反射された集合光ビームLを分岐させる分岐工程(ステップS4)と、分岐された複数の集合光ビームLのうちの一つの集合光ビームL1を、第1測定光ビームLaに相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させてから検出するとともに、分岐された複数の集合光ビームLのうちの別の一つの集合光ビームL2を、第2測定光ビームLbに相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させてから検出し、これらとともに、分岐された複数の集合光ビームLのうちの別の一つの集合光ビームL3を、第3測定光ビームLcに相当する周波数帯以外の周波数帯を減衰させてから検出する、光検出工程(ステップS5)、を備える。
【0101】
この構成によると、波長域が互いに異なる複数の測定光ビームLa,Lb,Lcが走査領域Aを走査した反射光を並行して取得することができる。
【0102】
<6.変形例>
<6-1.第1変形例>
上記の実施形態に係る検知装置100は、光誘導部13が、複数の測定光ビームLa,Lb,Lcを含む集合光ビームLを誘導して走査領域Aを走査させるものとしたが、必ずしも集合光ビームLで走査領域Aを走査させる必要はない。例えば、制御部3が、複数の測定光生成部11a,11b,11cのいずれかを選択して、該選択された測定光生成部のみに測定光ビームを生成させ、光誘導部13が、該生成された1種類の測定光ビームだけを誘導して走査領域Aを走査させするものとしてもよい。すなわち、光誘導部13は、複数の測定光ビームLa,Lb,Lcのいずれかを択一的に誘導して走査領域Aを走査させるものであってもよい。
【0103】
このように、送信部1が、それぞれが互いに異なる波長域の測定光ビームLa,Lb,Lcを生成する複数の測定光生成部11a,11b,11cを備える検知装置100においては、波長域が互いに異なる複数の測定光ビームLa,Lb,Lcが走査領域Aを走査した反射光を、択一的に取得することも可能である。したがって、例えば、検知装置100の使用環境、装置内状況、などの変化(例えば、天候の変化、故障の発生)に応じて、使用する測定光ビームLa,Lb,Lcを切り替えることで、該変化に柔軟に対応することができる。このように、物体を検知して該物体までの距離を測定するという基本機能の他に付加機能をもたせることが可能となり、さらなる高機能化が実現される。
【0104】
なお、この変形例においては、受信部2は1個の光検出器を備えるものとし、対象物Atで反射された測定光ビームがそのまま該1個の光検出器に入射されるような構成としてもよい。すなわち、受信部2において、分岐部21、第2光検出器22b、第3光検出器22c、および、各フィルタ23a,23b,23cを省略してもよい。
【0105】
<6-2.第2変形例>
上記の実施形態において、制御部3は、算出された測定データ、対象物Atの種別の識別結果、などを出力する出力部をさらに備えてもよい。出力部は、具体的には例えば、算出された測定データに基づいて、走査領域Aを表現した出力画像を生成し、該出力画像を表示部36に表示させるものであってもよい。このとき、出力部が、出力画像に現れる各物体(すなわち、対象物Atとして検知された物体)などを、その種別に応じて異なる態様で表示してもよい。具体的には例えば、各物体を、識別された種別ごとに色分けをして表示してもよいし、識別された種別ごとに異なる模様で表示してもよい。また例えば、特定の種別と識別された物体について、該物体を強調させるような態様(例えば、マークを付与する)で表示してもよい。
【0106】
<6-3.第3変形例>
上記の実施形態に係る送信部1は、互いに異なる波長域の測定光ビームを生成する測定光生成部11a,11b,11cを、3個備えるものであったが、送信部1は、互いに異なる波長域の測定光ビームを生成する測定光生成部を、2個、あるいは、4個以上、備えるものであってもよい。
【0107】
また、送信部1が、互いに異なる波長域の測定光ビームを生成する測定光生成部を、N個(「N」は、2以上の整数)備える場合に、種別識別部302は、該N個の測定光生成部で生成されるN個の測定光ビームのうち、M個(「M」は、2以上かつN以下の任意の整数)の測定光ビームの検出結果から特定されるM個の反射率を用いて(すなわち、互いに異なるM個の波長における対象物Atの反射率を用いて)、対象物Atの種別の識別を行うことができる。少なくとも2個の反射率を用いて識別を行うことで、識別の確度を十分に担保することができ、使用する反射率の個数が増加するにつれて、識別の確度がさらに高まる。逆に、使用する反射率の個数が減るにつれて、識別に係る処理の負担が小さくなる。
【0108】
<6-4.第4変形例>
上記の実施形態に係る送信部1において、光誘導部13は、光ビームを誘導できる様々な構成を用いて実現することができる。例えば、光誘導部13は、直交する2個の軸のそれぞれの周りで回動できるように構成されたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーを含むものであってもよい。また、光誘導部13は、グレーティングライトバルブ5以外の各種の空間位相変調素子131を含むものであってもよく、例えば平面ライトバルブ(PLV:Planar Light Valve)を含んで構成されてもよい。平面ライトバルブは、具体的には例えば、複数の格子要素(例えば、平面視にて円形状の格子要素)が、基板上にマトリクス状に配列されて設けられた構成を備えており、該複数の格子要素の各々を基板に対して変位させることで、入射した光ビームの位相を変調して該光ビームを誘導するものである。
【0109】
ただし、連続的に波長が変化する光ビーム(すなわち、波長掃引される光ビーム)を、MEMSミラーを用いて誘導する場合、光ビームの波長が変化される間もMEMSミラーが動き続けることで、走査領域Aに投射される光ビームの波形が崩れる、光ビームを誘導する方向(走査角度)がずれる、などといった事態が生じる虞がある。これに対し、連続的に波長が変化する光ビームを、グレーティングライトバルブ5、平面ライトバルブなどといった空間位相変調素子131を用いて誘導する場合、例えば、1周期分の波長掃引が実行されている間は、光ビームの走査角度が変化しないように、空間位相変調素子131の格子要素(グレーティングライトバルブ5の場合はリボン52)を静止させ、1周期分の波長掃引が終了して次の1周期分の波長掃引が開始されるタイミングで、格子要素の変位態様を変更する(すなわち、走査角度を変更する)ことができる。したがって、上記のような事態が生じにくい。つまり、光誘導部13が空間位相変調素子131を備えるものとすることで、連続的に波長が連続的に変化する測定光ビームLa,Lb,Lcを、走査領域Aに適切に誘導することができる。また、空間位相変調素子131では、格子要素を高速で動作させることができる(例えばグレーティングライトバルブ5の場合、リボン52を100kHz以上の高速で動作させることができる)。したがって、格子要素の変位態様を瞬時に変更することが可能であり、これによって、測定光ビームLa,Lb,Lcを走査領域Aに適切に誘導しつつも、走査領域Aの走査に要する時間を十分な短時間に抑えることが可能となる。以上の理由から、測定光ビームLa,Lb,Lcとして、連続的に波長が変化する光ビームが用いられる場合には、光誘導部13は空間位相変調素子131を含んで構成されることが特に好ましい。
【0110】
<6-5.第5変形例>
上記の実施形態では、反射率データDにおいて、各候補種別Tiについて各波長λa,λb,λcの反射率Tia,Tib,Ticがテーブル形式で記述されていたが、反射率データDはこのような構成に限られるものではない。例えば、反射率データDとして、各候補種別Tiの反射率特性を表す関数を保持しておき、これを用いて、各波長λa,λb,λcの反射率Tia,Tib,Ticを特定するものとしてもよい。このような構成であれば、測定光ビームの波長としてどのようなものが採用されても、その波長における各候補種別Tiの反射率を特定することができる。
【0111】
<6-6.他の変形例>
上記の実施形態に係る検知装置100の光学的な構成はあくまで例示であり、これは適宜に変更することができる。
【0112】
例えば、送信部1の投影光学系は、空間位相変調素子131による集合光ビームLの反射角を大きくして、集合光ビームLの誘導範囲(走査角度の範囲)を広げる機能を備えるものであってもよい。この機能は、例えば上記の実施形態のように集合光ビームLを走査領域Aよりも前の位置で結像することによって実現することができる他、複数のレンズの組み合わせによって実現することもできる。
【0113】
また、送信部1において、偏光ビームスプリッタおよび1/4波長板をさらに設けてもよい。具体的には例えば、レンズ103から射出された集合光ビームLを、偏光ビームスプリッタによって直角に曲げて、1/4波長板を通過させた上で、空間位相変調素子131に入射させ、さらに、空間位相変調素子131で反射された集合光ビームLを、再び1/4波長板を通過させた上で、偏光ビームスプリッタに入射させるような構成としてもよい。この場合、集合光ビームLは、1回目の1/4波長板の通過に伴って1/4波長回転してから、空間位相変調素子131に入射してここで反射された後、2回目の1/4波長板の通過に伴ってさらに1/4波長回転してから、偏光ビームスプリッタに入射する。ここで偏光ビームスプリッタに入射した集合光ビームLは、2回の1/4波長板の通過によって1/2波長回転しているため、偏光ビームスプリッタを通過して、投影光学系に向かうことになる。
【0114】
また、受信部2の各光検出器22a,22b,22cは、例えば、フォトディテクタ221が2次元に配列された2次元フォトディテクタアレイを含んで構成されてもよい。
【0115】
また、受信部2において、例えば各フィルタ23a,23b,23cと各光検出器22a,22b,22cとの間に、複数のマイクロレンズが1次元に配列されたマイクロレンズアレイを、各マイクロレンズが各フォトディテクタ221と対応するように設けて、各マイクロレンズが、ここに入射した各測定光ビームLa,Lb,Lcを、対応する各フォトディテクタ221に結像するような構成としてもよい。
【0116】
また、受信部2において、例えば各フィルタ23a,23b,23cと各光検出器22a,22b,22cとの間(マイクロレンズが設けられる場合には、マイクロレンズと各光検出器22a,22b,22cとの間)に、複数の光合成素子が1次元に配列された光合成素子アレイを、各光合成素子が各フォトディテクタ221と対応するように設けるとともに、各光合成素子に、ここに入射する各測定光ビームLa,Lb,Lcと対応する基準光ビームL0a,L0b,L0cが入射するようにしてもよい。このような構成においては、各測定光ビームLa,Lb,Lcと、これに対応する各基準光ビームL0a,L0b,L0cとが、各光合成素子で重ね合わされて、各フォトディテクタ221に入射する。したがって、各光検出器22a,22b,22cの各フォトディテクタ221では、各測定光ビームLa,Lb,Lcと対応する基準光ビームL0a,L0b,L0cとの合成波が検出されることになる。
【0117】
上記の実施形態に係る検知装置100の制御部3の機能および動作はあくまで例示であり、これは適宜に変更することができる。
【0118】
例えば、上記の実施形態において、制御部3が取得する測定データは、対象物Atまでの距離、および、対象物Atの位置の一方であってもよいし、それ以外の各種のデータ(例えば、対象物Atの速度)が測定データとして取得されてもよい。また、制御部3が測定データを取得する方式は、必ずしもFMCW方式である必要はなく、例えば、ToF(Time of Flight)方式、AMCW方式、などであってもよい。
【0119】
以上のように、検知装置100および検知方法は詳細に説明されたが、上記の説明は、全ての局面において、例示であって、これらがそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この開示の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。また、上記の実施形態および各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り、適宜に組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0120】
100 検知装置
1 送信部
11a 第1測定光生成部
11b 第2測定光生成部
11c 第3測定光生成部
12 合流部
13 光誘導部
131 空間位相変調素子
2 受信部
21 分岐部
22a 第1光検出器
22b 第2光検出器
22c 第3光検出器
23a 第1フィルタ
23b 第2フィルタ
23c 第3フィルタ
3 制御部
301a 第1反射率特定部
301b 第2反射率特定部
301c 第3反射率特定部
302 種別識別部
D 反射率データ
La 第1測定光(光ビーム)
Lb 第2測定光(光ビーム)
Lc 第3測定光(光ビーム)
L,L1,L2,L3 集合光(光ビーム)