(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162681
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】油脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C11B 9/00 20060101AFI20231101BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20231101BHJP
A23C 9/152 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
C11B9/00 Z
A23D9/00 518
A23C9/152
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073202
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】591040144
【氏名又は名称】太陽油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】泉井 美幸
(72)【発明者】
【氏名】東倉 誓哉
【テーマコード(参考)】
4B001
4B026
4H059
【Fターム(参考)】
4B001AC16
4B001BC01
4B001BC08
4B001BC99
4B001EC01
4B001EC02
4B001EC99
4B026DC01
4B026DC02
4B026DG02
4B026DG03
4B026DG05
4B026DL02
4B026DP01
4B026DP03
4B026DP10
4B026DX01
4H059BA26
4H059BB03
4H059BC23
4H059EA24
(57)【要約】
【課題】3-MCPD及びグリシドールの濃度が十分に低く、かつビタミンKが低減された、育児用調製乳に用いられる油脂組成物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】脱色工程を含む、油脂組成物の製造方法であって、前記脱色工程が塩酸処理されていない活性炭を用いて行なわれることを特徴とする、上記製造方法により解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱色工程を含む油脂組成物の製造方法であって、前記脱色工程が塩酸処理されていない活性炭を用いて行なわれることを特徴とする、上記製造方法。
【請求項2】
前記油脂組成物が、育児用調製乳用油脂組成物である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
塩酸処理されていない前記活性炭を、前記脱色工程に用いる油脂組成物質量100質量部に対し、0.01~10質量部の範囲で用いる、請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
塩酸処理されていない前記活性炭が、ガス賦活活性炭、及び薬品賦活活性炭からなる群より選択され、塩酸処理されていない前記活性炭中の塩素濃度が200μg/g以下である、請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
前記脱色工程前の油脂組成物100g中のビタミンKの含有量に対し、前記脱色工程後の油脂組成物100g中のビタミンKの含有量が、10μg以上減少する、請求項1~4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
前記脱色工程に続き、脱臭工程を行なう、請求項1記載の製造方法。
【請求項7】
脱臭工程後の油脂組成物の3-MCPD濃度が、0.42ppm以下である、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
脱臭工程後の油脂組成物のグリシドール濃度が、0.17ppm以下である、請求項6記載の製造方法。
【請求項9】
3-MCPD濃度が0.42ppm以下、グリシドール濃度が0.17ppm以下、ビタミンK濃度が20~100μg/100gである、育児用調製乳用油脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油脂組成物の製造方法、特に育児用調製乳に用いられる油脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食用油脂に含まれる3-MCPD(3-モノクロロプロパン-1,2-ジオール)の脂肪酸エステルが体内で代謝されて生じる3-MCPDには、発がん性や毒性が疑われている。また、高濃度にDAG(ジアシルグリセロール)を含む油脂にはグリシドール脂肪酸エステルが含まれていることが報告されており、グリシドール脂肪酸エステルが体内で代謝されて生じるグリシドールも同様に発がん性や毒性が懸念されている。従って、食用油脂、特に育児用調製乳に用いられる油脂組成物から3-MCPD、グリシドール及びそれらの脂肪酸エステルを低減することが望まれている。
ビタミンKは脂溶性ビタミンの1つであり、血液凝固や骨の形成に関する作用を有していることが知られている。ビタミンKは腸内細菌により腸内でも合成され、また食品からも摂取が可能である。ビタミンKが不足すると、血液凝固能の低下がおこるため、鼻血や胃腸からの出血といった症状が現われる。新生児では、腸内細菌が未発達であり、また母乳中のビタミンKの含有量が少ないため、ビタミンK欠乏性出血症を起こしやすいことが知られている。そこで新生児には出生直後にビタミンK投与が実施されており、また育児用調製乳においてはビタミンK製剤添加等によりビタミンK含有量の調整が行われている。
また、乳児用調製乳では、乳児用調製乳たる表示の許可基準(消費者庁)、リノール酸、α-リノレン酸の含有量が定められており、その基準を満たすために食用油脂としては大豆油や菜種油を使用する必要がある。
大豆油や菜種油にはビタミンKも多く含まれている。しかし、原料の産地や収穫等によりビタミンK含有量は大きく変動する。そのため、乳児用調製乳に必要なリノール酸、α-リノレン酸を一定量含有するように大豆油、菜種油を配合すると、ビタミンKを一定の範囲に管理することは困難である。
油脂中のビタミンKを除去する方法としては、例えば、油脂の脱色工程において、活性白土:活性炭=4:1にて処理を実施するとビタミンKが減少することが記載されている(非特許文献1)。
また、エステル交換の原料として大豆油、菜種油のうち少なくとも一つの油脂を含むエステル交換油を用いることにより、ビタミンKの含有量を低下させた調製粉乳用油脂を製造する方法が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本油化学会誌 第48巻 第11号(1999) 1271-1274
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、育児用調製乳に用いられる油脂組成物であって、3-MCPD及びグリシドールの濃度が十分に低く、かつビタミンKが低減された油脂組成物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、油脂組成物の脱色工程において、ビタミンKを低減させるため、活性炭を用いて処理した場合に、処理中に3-MCPDが増えてしまうこと、さらにこの現象が特定の活性炭を用いた場合に生じることを見いだした。すなわち、活性炭の中でも塩酸処理がなされている活性炭を使用すると精製過程で3-MCPD濃度が上昇してしまうことを見出し、本発明を完成させたものである。
【0007】
本発明の実施態様は以下のとおりであってもよい。
〔1〕脱色工程を含む油脂組成物の製造方法であって、前記脱色工程が塩酸処理されていない活性炭を用いて行なわれることを特徴とする、上記製造方法。
〔2〕前記油脂組成物が、育児用調製乳用油脂組成物である、前記〔1〕記載の製造方法。
〔3〕塩酸処理されていない前記活性炭を、前記脱色工程に用いる油脂組成物質量100質量部に対し、0.01~10質量部の範囲で用いる、前記〔1〕または〔2〕記載の製造方法。
〔4〕塩酸処理されていない前記活性炭が、ガス賦活活性炭及び薬品賦活活性炭からなる群より選択され、塩酸処理されていない前記活性炭の塩素濃度(遊離残留塩素および結合塩素の合計)が200μg/g以下である前記〔1〕~〔3〕のいずれか1に記載の製造方法。
〔5〕前記脱色工程前の油脂組成物100g中のビタミンKの含有量に対し、前記脱色工程後の油脂組成物100g中のビタミンKの含有量が、10μg以上減少する、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1に記載の製造方法。
〔6〕前記脱色工程に続き、脱臭工程を行なう、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1に記載の製造方法。
〔7〕脱臭工程後の油脂組成物の3-MCPD濃度が、0.42ppm以下である、前記〔6〕記載の製造方法。
〔8〕脱臭工程後の油脂組成物のグリシドール濃度が、0.17ppm以下である、前記〔6〕または〔7〕記載の製造方法。
〔9〕3-MCPD濃度が0.42ppm以下、グリシドール濃度が0.17ppm以下、ビタミンK濃度が20~100μg/100gである、育児用調製乳用油脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により、油脂組成物中のビタミンK含有量を低減することができ、その一方で、安全性の観点から摂取を低減したい3-MCPD及びグリシドール及びそれらの脂肪酸エステル濃度が十分に低下した油脂組成物の製造方法を提供することができる。前記方法は特に、育児用調製乳用油脂組成物の製造方法として適しており、ビタミンK含有量の調整がされ、安全性の観点から摂取を低減したい3-MCPD及びグリシドール及びそれらの脂肪酸エステル濃度が十分に低下した、育児用調製乳用油脂組成物を製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<油脂組成物の製造方法>
本発明の油脂組成物の製造方法は、脱色工程を含み、前記脱色工程が塩酸処理されていない活性炭を用いて行なわれることを特徴とする方法である。
より具体的には、油脂組成物を任意に混合する工程を経た油脂組成物を、塩酸処理されていない活性炭を用いて脱色処理に付す。脱色工程後、脱臭処理を行なってもよい。前記油脂組成物は脱酸処理された油脂組成物であってもよい。
【0010】
<脱色工程>
本発明の方法における油脂組成物の脱色工程は、塩酸処理されていない活性炭を用いることが必要である。塩酸処理されている活性炭を用いると、脱色工程後に3-MCPD及びそれらの脂肪酸エステル濃度が増加してしまうためである。
【0011】
活性炭の製造方法は、ガス賦活法と薬品賦活法に大別される。賦活(処理)とは、原料となる炭素材料の内部にnmオーダーの微細孔を生成する反応や操作を言い、当該処理により、微細孔の生成により内部表面積が増大し、炭素材料に吸着能力を付与することができる(安部郁夫、「活性炭の製造方法」、炭素、No.225、373-381頁(2006))。
ガス賦活法とは、各種炭素原料、好ましくは有機性原料を炭化して得られた炭化物を、賦活ガスを用いて処理する方法であり、賦活ガスとして工業的には水蒸気や二酸化炭素が用いられている。水蒸気賦活された水蒸気賦活活性炭がより好ましい。ガス賦活された活性炭は、市販品を用いてもよく、また、公知の方法(例えば、安部郁夫、「活性炭の製造方法」、炭素、No.225、373-381頁(2006))により賦活された活性炭を用いてもよい。
薬品賦活法とは賦活剤に塩化亜鉛やリン酸などの薬品を使用する方法である。通常、炭化と賦活が同時に進行させるため、出発原料は炭化物ではなく木質原料である。例えば、濃厚な塩化亜鉛水溶液を鋸屑に含浸し、不活性ガス雰囲気中で550~750℃で焼成すると薬品賦活された活性炭を製造することができる。薬品賦活法には、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどを用いたアルカリ賦活法もある。
【0012】
ガス賦活法あるいは薬品賦活法による活性炭の製造においては、賦活処理後に、水あるいは希塩酸等を用いて洗浄を行ない、その後乾燥して篩い分けを行なうプロセスが知られている(安部郁夫、「活性炭の製造方法」、炭素、No.225、373-381頁(2006))。塩酸を用いる処理は、賦活後の活性炭がアルカリ性を示すため、このpH調整のために行なわれるとされている。
本発明の「塩酸処理されていない活性炭」とは、活性炭の製造方法の賦活工程後において塩酸を用いた処理をされていない活性炭を意味する。より好ましくは、本発明の「塩酸処理されていない活性炭」は、ガス賦活法あるいは薬品賦活法で製造されたものであって、賦活工程後の洗浄処理が行なわれていないもの、あるいは洗浄処理において希塩酸あるいは塩酸を用いていないものが挙げられる。さらに、その他の工程においても塩酸を使用していない活性炭がより好ましい。好ましくは、「塩酸処理されていない活性炭」は、活性炭中の塩素濃度が200μg/g以下、より好ましくは500μg/g以下、さらに好ましくは1000μg/g以下である。
本発明の活性炭の製造は、原料の炭化処理後、任意に破砕・整粒を行ない、これを賦活後、任意に洗浄と乾燥を経て、ふるい分けや粉砕などを含む方法により行なわれる。
【0013】
本発明の「塩酸処理されていない活性炭」を用いる油脂組成物の脱色工程は、例えば、バッチ式で行ない、その後濾過等を行なってもよく、あるいはカラム等に活性炭を充填して油脂組成物と接触させる方法で行なってもよい。効率よく、短時間で脱色処理を行うために、90~120℃程度の温度に加熱してもよい。また減圧下(一般に6.7kPa以下)で混合攪拌を行うことが好適であり、処理量などによって異なるが、10~60分、一般に30分間程度、混合攪拌を行えばよい。
【0014】
塩酸処理されていない活性炭の使用量は、脱色工程に用いる油脂組成物質量100質量部に対し、0.01~10質量部の範囲であることが好ましい。かかる範囲において、ビタミンK含有量を大きく低減することができ、その一方で、3-MCPDを増加させることがないからである。より好ましくは0.05~5.0質量部であり、さらに好ましくは0.1~3.0質量部である。
【0015】
上記脱色工程を行なったとき、脱色工程前の油脂組成物100g中のビタミンKの含有量に対する、脱色工程後の油脂組成物100g中のビタミンKの含有量は、10μg以上減少していることが好ましい。すなわち、脱色工程前の油脂組成物中のビタミンKの含有量に対する、脱色工程により減少するビタミンKの油脂組成物100gあたりの量は、好ましくは10μg以上であり、さらに好ましくは20μg以上であり、より好ましくは30μg以上であり、よりさらに好ましくは50μg以上である。脱色工程により減少するビタミンKの、油脂組成物100gあたりの量の上限は特に限定されるものではないが、例えば200μg、150μgあるいは100μg程度である。
【0016】
塩酸処理されていない活性炭を用いる脱色工程においては、活性炭に加えて白土をさらに用いてもよい。白土を用いる場合には、活性炭と白土とを予め混合しておき、油脂組成物と接触させてもよく、あるいは活性炭と白土を順に油脂組成物と接触させてもよい。
白土の種類としては、活性白土、酸性白土が挙げられる。
白土の量としては、脱色工程に用いる油脂組成物質量100質量部に対し、0.01~10質量部であることが好ましく、0.05~7.0質量部であることがより好ましく、0.1~5.0質量部であることがさらに好ましく、1.0~3.0質量部であることがよりさらに好ましい。
活性炭と白土の使用量の質量比は、例えば、1:0~20であってもよく、1:0.01~15.0であってもよい。1:0.1~10.0程度が好ましい。
効率よく、短時間で脱色処理を行うために、90~120℃程度の温度に加熱し且つ減圧下(一般に6.7kPa以下)で混合攪拌を行うことが好適であり、処理量などによって異なるが、一般に30分間程度、混合攪拌を行えばよい。
【0017】
<脱臭工程>
上述の脱色工程の後、脱臭工程を行なってもよい。脱臭工程は、温度条件(180~230℃)以外に特に制限はなく、食用油脂の脱臭に通常用いられている減圧水蒸気蒸留脱臭法でよい。
本発明においては、通常の油脂精製時の温度よりは低温、即ち好ましくは180℃以上230℃以下、より好ましくは200℃以上220℃以下、さらに好ましくは210℃以上220℃以下で脱臭工程を行なう。脱臭温度は、180℃未満であれば更にグリシドールを低減できるが、油脂の風味を考慮すると180℃未満で脱臭を行うと十分に有臭成分を除去できず、商品性がなくなるので180℃未満にするのは好ましくない。
一方、脱臭温度が230℃を超えると、グリシドールが増加するので好ましくない。特に、260℃以上にするとこれらの成分が著しく増加するので極めて好ましくない。
【0018】
上記の製造方法により得られる本発明の油脂組成物は、脱臭処理工程の後においても3-MCPD及びグリシドール及びそれらの脂肪酸エステル濃度が低い。脱色及び脱臭処理後の3-MCPD濃度が好ましくは0.42ppm以下であり、さらに好ましくは0.35ppm以下である。脱色及び脱臭処理後のグリシドール濃度が好ましくは0.17ppm以下であり、さらに好ましくは0.10ppm以下である。
脱臭工程後の上記油脂組成物のビタミンKの濃度は、好ましくは20~100μg/100gであり、さらに好ましくは30~95μg/100gであり、より好ましくは30~91μg/100gであり、よりさらに好ましくは35~75μg/100gであり、なお好ましくは35~50μg/100gである。また、70~95μg/100g程度であることも好ましい。
なお、油脂組成物中には、3-MCPD及びグリシドールはそれぞれ3-MCPD脂肪酸エステル及びグリシドール脂肪酸エステルの形態で存在しているが、本明細書では、これらを3-MCPD及びグリシドールとして測定した値を用いて、油脂組成物中の「3-MCPD濃度」、「グリシドール濃度」と表現している。
【0019】
<育児用調製乳に用いられる油脂組成物>
本発明の油脂組成物は育児用調製乳に特に適して用いられるものである。
育児用調製乳とは、母乳の代替品として用いられる粉乳または液体ミルクであり、出来る限り母乳の成分に近似させることが多い。ヒトの乳汁の主な成分としては、蛋白質、脂肪、糖質などがあり、脂肪には、乳児の発育に必要なリノール酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸等の必須脂肪酸が一定量含まれている。
消費者庁では、乳児用調製乳たる表示の許可基準において、100kcal当たりの組成として、脂質が4.4~6.0g、リノール酸が0.3~1.4gであり、α-リノレン酸が0.05g以上であることを示している。本発明における「育児用調製乳に用いられる油脂組成物」とは、このような栄養基準を満たすための油脂組成物を意味している。
【0020】
本発明の油脂組成物の原料油脂としては、製造された油脂組成物が上述した特性を満たすように選択して用いることができる。特に、リノール酸及びα-リノレン酸を上述の許可基準において含むように様々な油脂を組み合わせて用いることが好ましい。
例えば、パーム油、パームオレイン、パームダブルオレイン、パームステアリン、パームミッドフラクション等のパーム油の分別油、パーム核油、パーム核オレイン、パーム核ステアリン等のパーム核油の分別油、ヤシ油等のラウリン系油脂、大豆油、菜種油、コーン油、ヒマワリ油、サフラワー油、エゴマ油、アマニ油、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイック菜種油、ハイオレイックサフラワー油、綿実油、米糠油、ゴマ油、オリーブ油、落花生油等の液体油脂を例とする植物油や、魚油、牛脂、豚脂等の動物油等が挙げられ、又、これら油脂の分別油も使用することができる。
本発明の油脂組成物の原料油脂は、例えば、パーム油あるいはその分別油を20~80質量部(好ましくは30~70質量部)、ラウリン系油脂を20~80質量部(好ましくは25~65質量部)、その他の油脂、好ましくは液体油脂、を0~45質量部(好ましくは10~35質量部)を含む。
【0021】
本発明の油脂組成物を製造するための原料油脂としては、脱酸処理されたパーム油およびその分別油から選択されてもよい。
脱酸処理では後述するようにアルカリ水溶液を使用することが通常であるが、アルカリ脱酸では、酸価の高いパーム油やラウリン酸を多く含むヤシ油、パーム核油は、多量の石けんが生成し、油も石けんと共にアルカリフーツとして除去されてしまうので、収量が低下するという問題があるため、蒸留法による精製などを用いることが多く、これらの油脂は通常脱酸処理がなされていない。
【0022】
本明細書において原料油脂に関して「脱酸処理されたパーム油」という場合には、少なくとも脱酸処理されていればよく、脱酸処理を行った後、公知の方法により脱色処理および/または脱臭処理が更になされていてもよい。好ましくは脱酸処理後、脱色処理及び脱臭処理を行った油脂である。本明細書では、原料油脂における脱酸処理後の脱色処理及び脱臭処理を、後の工程で行なわれる本発明の活性炭存在下で行なわれる脱色処理及びその後に行なわれてもよい脱臭処理と区別するために、前者を「第1脱色処理」及び「第1脱臭処理」と呼び、後者を「第2脱色処理」及び「第2脱臭処理」と呼ぶ場合がある。
【0023】
「脱酸処理」は、当該技術分野において公知の方法により行なうことができ、例えば、粗油を水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液により処理することにより行なうことができる。より具体的には、例えば約5%~30%程度の濃度のアルカリ水溶液を添加して処理してもよい。アルカリ添加量は、混入している遊離脂肪酸の量などによって適宜決定することができる。アルカリ水溶液で処理する時間は、アルカリ濃度や処理温度にもよるが10~30分程度である。アルカリ水溶液で処理する温度は60~80℃程度で行うことができるが、出来る限り低い温度で行うことが好ましい。例えば、70~75℃で20分程度撹拌することができる。あるいは80~90℃程度の高温で行い、処理時間を短縮してもよい。
【0024】
本発明の他の態様では、本発明の油脂組成物は、脱酸処理されたパーム油およびその分別油から選択される油脂及び任意に含まれる一または複数の他の油脂の混合物からなる混合油脂から製造され、これらの混合油脂または各々の油脂として、脱色処理及び脱臭処理される。脱臭処理は180℃以上230℃以下で行なうことが好ましい。
【0025】
<育児用調製乳>
本発明の育児用調製乳は、上述した本発明の油脂組成物を含み、その他、育児用調製乳に含まれる任意の成分を含む。
任意の成分としては、例えば、たんぱく源、炭水化物源、ビタミン、ミネラル及びその他滋養要素等が挙げられる。
本発明の油脂組成物は、育児用調製乳中に、例えば10~30質量%含有させることができるがこれに限定されるものではない。
【実施例0026】
(実施例1)
脱酸パームオレイン45質量部、パーム核オレイン35質量部、及び大豆油25質量部を混合し、油脂100質量部に水蒸気賦活活性炭(活性炭A(塩酸処理無(塩素濃度130μg/g))、活性炭B(塩酸処理有(塩素濃度1600μg/g))(塩素濃度は後述するイオンクロマトグラフ法にて測定した)を0.4質量部及び活性白土(商品名:ガレオンアースV2(水澤化学工業社製))を1.0質量部添加し、常圧下で、100℃、60分間、撹拌しながら脱色処理を行った。活性炭と活性白土は、ろ紙(商品名:東洋ろ紙No.2、アドバンテック製)及びろ過助剤(商品名:シリカ#600H、中央シリカ株式会社製)を用いて減圧ろ過により取り除き脱色油を得た。この脱色油15kgを210℃、75分、真空度0.4kPa以下、吹込み水蒸気量3.0%(対油重量%)の条件で脱臭処理を行い冷却時に25ppmのクエン酸を添加し、脱臭油を得た。
【0027】
(実施例2、3)
表1の記載に従った組成の油脂を表1に記載した点を変えた他は実施例1と同様の条件で脱色、脱臭を行って、各油脂組成物を製造した。
【0028】
(比較例1、2)
表1の記載に従った組成の油脂を表1に記載した点を変えた他は実施例1と同様の条件で脱色、脱臭を行って、各油脂組成物を製造した。
【0029】
実施例及び比較例で得られた各油脂について、ビタミンK濃度、3-MCPD濃度及びグリシドール濃度を後述する分析方法で測定した。分析結果を表1に示す。
【0030】
(ビタミンKの分析法)
「食品表示基準について(別添:栄養表示関係『ビタミンK (1)高速液体クロマトグラフ法』」および森 光昭「日本における食品のビタミン分析法」に従い測定した。
1.標準試薬
1)フィロキノン標準品(異性体混合物)(和光純薬製、99%)イソオクタンにて溶解
フィロキノン標準原液(約100ppm)
2)メナキノン-7標準品(和光純薬製、98%)エタノールにて溶解
メナキノン-7標準原液(約100ppm)
2. 標準溶液 フィロキノン標準原液およびメナキノン-7標準原液を合わせてそれぞれ10,40,400ng/mLとなるように2-プロパノールにて希釈
【0031】
3. 試薬
1) 2,2,4-トリメチルペンタン(イソオクタン)(和光、HPLC用)
2)エタノール(和光純薬製、HPLC用)
3)2-プロパノール(和光純薬製、LC/MS用)
4)メタノール(和光純薬製、HPLC用)
【0032】
5.分析方法
1)油脂1.0g(±0.02g)を10mLのメスフラスコに採取し2-プロパノールにてメスアップを行う。
2)溶解した油脂1.0mLをフィルターろ過した後HPLCにて測定を行った。
【0033】
5.装置・分析条件
装置:HPLC(島津製作所製)
カラム:L-colums ODS 内径4.6mm×250mm(一般財団法人化学物質評価研究機構製)
還元カラム:白金カラム RC-10 内径4.0mm×15mm(大阪ソーダ製)
カートリッジ式ガードカラム:L-column ODS Cat.No.652050(一般財団法人化学物質評価研究機構製)
注入量:20μL
カラム温度:40℃
流量:1.0mL/min
測定波長:励起240nm、蛍光430nm移動相:メタノール:エタノール(7:3,v/v)
【0034】
(3-MCPD等の分析法)
「DFG Standard Methods Section C-Fats C-IV 18(10)」に従って測定した。
1.標準溶液
下記標準原液及び溶液は全て溶媒としてトルエンを用いた。
1)3-MCPD-1,2-パルミトイルエステル(和光純薬製、≧98%)
3-MCPD-1,2-パルミトイルエステル標準原液(約1000ppm)
3-MCPD-1,2-パルミトイルエステル標準溶液(約40ppm)
2)d5-3-MCPD-1,2-パルミトイルエステル(和光純薬製、≧98%)
*サロゲートとして使用
d5-3-MCPD-1,2-パルミトイルエステル標準原液(約1000ppm)
d5-3-MCPD-1,2-パルミトイルエステル標準溶液(約40ppm)
3)グリシジルステアレート(TCI製、96%≧)
グリシジルステアレート標準原液(約1000ppm)
グリシジルステアレート標準溶液(約40ppm)
【0035】
2.試薬
1)超純水
2)トルエン(関東化学製、残農用、5000倍濃縮)
3)t-ブチルメチルエーテル(t-BME) (関東化学製、残農用、5000倍濃縮)
4)メタノール(関東化学製、残農用、5000倍濃縮)
5)ヘキサン(関東化学製、残農用、5000倍濃縮)
6)酢酸エチル(関東化学製、残農用、5000倍濃縮)
7)ジエチルエーテル(関東化学製、残農用、5000倍濃縮)
8)イソオクタン
9)ナトリウムメトキシド
10)ナトリウムメトキシド-メタノール溶液(25g/L):0.25gをメタノールで10mLに定溶〈*用事調製(水分により分解しやすいので長期保存は不可)〉
11)塩化ナトリウム(関東化学製、特級)
12)塩化ナトリウム溶液(NaCl 200g/L溶液):塩化ナトリウム 50gを超純水で溶解し250mLとする
13)臭化ナトリウム(関東化学製、特級)
14)臭化ナトリウム水溶液(NaBr 600g/L溶液)
15)硫酸(25%、6N):硫酸(96%、36N)を6倍に希釈
ex)超純水50mLに硫酸(96%、36N)を10mL加えた後60mLに定容
16)酸性塩化ナトリウム水溶液(200g/L):塩化ナトリウム水溶液1Lに硫酸(25%)35mLを加える
ex)塩化ナトリウム水溶液20mL+硫酸(25%)700μL
17)酸性臭化ナトリウム水溶液(塩化物を含まない食塩水):臭化ナトリウム水溶液(600g/L)1Lに硫酸(25%)35mLを加える
ex)臭化ナトリウム水溶液20mL+硫酸(25%)700μL
18)フェニルボロン酸(PBA,フェニルほう酸)
19)誘導体化試薬:フェニルボロン酸をジエチルエーテルに溶解し、沈殿のある飽和状態〈*用事調製〉
【0036】
3.器具
1)パスツールピペット
2)メスシリンダー 25mL、50mL、100mL
3)メスフラスコ 5mL、10mL
4)ピペットマン P-5000、P-1000、P-200
5)スクリューバイアル(ガラス製、1.5mL容)
6)シリンジ
7)フィルター(疎水性)
【0037】
4.分析方法
1)試料100mg(±0.5mg)を1.5mLスクリューバイアルに採取した。
2)サロゲートとしてd5-3-MCPD-1,2-パルミトイルエステル標準溶液(約50ppm)を100μL、t-ブチルメチルエーテルを100μL添加し攪拌した。
※コンタミ確認のため、3-MCPD等が検出しない試料(ex.エクストラバージンオリーブ油)を分析した。また、スパイク試料にはサロゲートとともに3-MCPD-1,2-パルミトイルエステル標準溶液(約40ppm)を100μL添加し回収率を確認した。
3)ナトリウムメトキシド-メタノール溶液を200μL加え、攪拌した後、常温で3.5~5.5分反応させた。
4)(A)3)の反応を止めるため、酸性塩化ナトリウム水溶液を600μLを加えた(分析[A])。この後、下記5)~8)を行った。
(B)3)の反応を止めるため、酸性臭化ナトリウム水溶液を600μL加えた(分析[B])。この後、下記5)~8)を行った。
5)ヘキサン600μLを加え攪拌した後、5分以上静置し、ヘキサン層を除去する。再びへキサン600μLを加え、同操作を繰り返した。
6)ジエチルエーテル/酢酸エチル(6:4)混液を600μL加え、攪拌した後、硫酸ナトリウム(無水)入りのバイアルに溶媒層を回収した。同操作を更に2回繰り返した。
7)PBA溶液を100μL添加し誘導体化した後、窒素ガスを吹き付け乾固させた。
8)イソオクタン1mLで再溶解し、フィルターろ過した後、GC/MSにて測定を行った。
【0038】
5.装置・分析条件
装置:GC/MS(Agilent製5975C/7890A)
カラム:DB-17MS,内径0.25mm×30m,膜厚 0.25μm
注入量:2μL
注入口温度:240℃
スプリットレス時間:1.5分
スプリット流量:20mL/min
キャリアガス:ヘリウム,1.2mL/min,定流量
オーブン温度:85℃(0.5min)→6℃/min→150℃→12℃/min→180℃→25℃/min→280℃(7min)
イオン化:EI(positive)
測定イオン:3-MCPD m/z=147(定量用)、146・196・198(確認用)
3-MCPD-d5 m/z=150(サロゲート)、149・201・203(確認用)
イオン源温度:250℃
四重極:150℃
【0039】
6.定量方法
[内部標準法]
サロゲートとして添加したd5-3-MCPD-1,2-パルミトイルエステルをd5-3-MCPD濃度に換算し、3-MCPDの面積値をサロゲートの面積値で割った面積比にサロゲート濃度を乗じて3-MCPD濃度を算出した。
定量値=サロゲート濃度×3-MCPD面積値/サロゲート面積値
上記で得られた定量値を試料採取量で除して、試料中濃度を求めた。
3-MCPD濃度[ppm]=定量値[μg/L]/試料採取量[mg]
※分析[A]では3-MCPD-FS濃度(3-MCPD脂肪酸エステルとグリシドール脂肪酸エステルから遊離した3-MCPD当量)を測定でき、分析[B]では3-MCPD濃度(3-MCPD脂肪酸エステルから遊離した3-MCPD当量)のみを測定できる。
分析[A]・分析[B]それぞれの測定結果を用いて、3-MCPD-FS濃度より3-MCPD濃度を減じ、グリシドール変換係数を乗じてグリシドール濃度を算出した。
グリシドール濃度[ppm]=(3-MCPD-FS濃度[A] - 3-MCPD濃度[B])×グリシドール変換係数t
【0040】
〈グリシドール変換係数の算出〉
グリシドールから3-MCPDへの変換係数は塩化物存在下、分析[A]で検量線を作成して算出される。コンタミしていない油脂試料にグリシドール(グリシドールエステルとして)を複数濃度添加し、分析[A]に従って処理した。結果として得られる検量線y=mx+nの傾きの逆数はグリシドール変換係数tと等しい。
グリシドール変換係数t=1/m
【0041】
(塩素濃度の測定方法)
標準試薬:塩化物イオン標準液1000mg/L(JCSS化学分析用)(関東化学)
【0042】
1)活性炭を酸素気流中で1350℃の燃焼炉にて燃焼し、その際に発生した塩素ガスを吸収液である水酸化ナトリウム溶液に吸収させた。
2)吸収した水酸化ナトリウム溶液を水で定容した後、下記装置を用いてイオンクロマトグラフ法にて塩化物イオンを分離した。
【0043】
装置
燃焼炉:吉田製作所 製 1091-II
イオンクロマトグラフ: Thermo Scientific Dionex Integrion
カラム:Dionex Ion Pac AS20 (0.4mm×250mm)
ガードカラム:Dionex Ion Pac AG20(0.4mm×50mm)
【0044】
(結果)
実施例1~3の油脂はいずれもビタミンKの濃度が、脱色工程前と比べて10μg/100g以上の割合で減少しており、さらに、3-MCPD及びグリシドール濃度は十分に低い値となった。
これに対し、比較例1の方法では、ビタミンKの減少量は高かったが、3-MCPDの濃度が原料と比べて大きく上昇してしまった。
【0045】