(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162742
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】産業用ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
B25J 13/00 20060101AFI20231101BHJP
【FI】
B25J13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073341
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 大介
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707BS12
3C707LU10
3C707LV14
3C707LV15
3C707LW03
3C707MS05
3C707MS14
3C707MS15
3C707MS29
3C707MS30
3C707MT08
3C707NS02
(57)【要約】
【課題】負荷の増加を抑制しつつ安全性を確保することができる産業用ロボットシステムを提供する。
【解決手段】実施形態の産業用ロボットシステム1は、産業用ロボットが動作する際の速度の上限となる上限速度を、産業用ロボットの作業内容または作業環境の少なくとも一方に基づいて区分けされたシーンごとに設定する設定部20と、上限速度の範囲内で動作するように産業用ロボットを制御する動作制御部21と、産業用ロボットの作業内容または作業環境の少なくとも一方に応じてシーンを切り替える切替部22と、動作制御部21の制御に沿って産業用ロボットが動作しているか否かを監視する監視部23と、を備えている。そして、切替部22は、産業用ロボットが停止しているとき、シーンを切り替え可能にする。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業用ロボットが動作する際の速度の上限となる上限速度を、前記産業用ロボットの作業内容または作業環境の少なくとも一方に基づいて区分けされたシーンごとに設定する設定部と、
前記上限速度の範囲内で動作するように前記産業用ロボットを制御する動作制御部と、
前記産業用ロボットの作業内容または作業環境の少なくとも一方に応じてシーンを切り替える切替部と、
前記動作制御部の制御に沿って前記産業用ロボットが動作しているか否かを監視する監視部と、を備え、
前記切替部は、前記産業用ロボットが停止しているとき、シーンを切り替え可能にする産業用ロボットシステム。
【請求項2】
前記切替部は、前記産業用ロボットの速度がゼロのときのみ、シーンを切り替え可能にする請求項1記載の産業用ロボットシステム。
【請求項3】
前記切替部は、前記産業用ロボットの動作プログラムを読み込むことにより、前記産業用ロボットの移動経路に異なる上限速度が設定されているエリアが存在するか否かを判定し、異なる上限速度が設定されているエリアが存在する場合には、最も安全性が高い上限速度が設定されているエリアを特定してシーンを設定し、
前記動作制御部は、特定された最も安全性が高いエリアに設定されている上限速度の範囲内となる速度で、前記産業用ロボットを制御する請求項1または2記載の産業用ロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットは、例えば速度や加速度あるいはトルクといった動作に関するパラメータに対して、最大速度や最大加速度あるいは最大トルクといった安全性に基づく制限値を設定することがある。例えば、特許文献1では、産業用ロボットの速度や加速度に対して上限となる制限値を設けることにより、障害物と接触した場合の衝撃を緩和できるようにすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、産業用ロボットの動作に関するパラメータに対する制限値は、産業用ロボットの作業内容や作業環境によって変化すると考えられる。その場合、産業用ロボットの動作中に制限値が切り替えられると、例えば切り替え後の上限速度が現在の上限速度よりも低くなる場合には、上限速度を超えて異常と判定され、動作が停止するおそれがある。あるいは、切り替え後の上限速度が現在の上限速度よりも高い場合には、制限値が切り替えられてもそのまま上限速度まで加速するように動作すると考えられる。
【0005】
つまり、制限値を切り替える際の状況によって、産業用ロボットの挙動が異なるおそれがある。そして、安全性を確保するために速度を監視する場合において、意図通りの挙動を示すかの動作確認を行うためには、直前の動作も踏まえて検証を行う必要があることから、産業用ロボットの動作中に制限値が切り替えられると、検証のための負荷が膨大なものとなってしまう。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、負荷の増加を抑制しつつ安全性を確保することができる産業用ロボットシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載した発明では、産業用ロボットシステムは、産業用ロボットが動作する際の速度の上限となる上限速度を、産業用ロボットの作業内容または作業環境の少なくとも一方に基づいて区分けされたシーンごとに設定する設定部と、上限速度の範囲内で動作するように産業用ロボットを制御する動作制御部と、産業用ロボットの作業内容または作業環境の少なくとも一方に応じてシーンを切り替える切替部と、動作制御部21の制御に沿って産業用ロボットが動作しているか否かを監視する監視部と、を備えている。そして、切替部は、産業用ロボットが停止しているとき、シーンを切り替え可能にする。
【0008】
これにより、シーンを切り替えた直後における産業用ロボットの挙動を統一することができ、負荷の増加を抑制することができる。また、本実施形態では、制限値が異なるエリアを跨いでロボット2が動作する場合には、より安全性が高くなる制限値を選択している。これにより、作業者と万が一衝突したとしても衝撃が相対的に緩和されることから、安全性を向上させることができる。
【0009】
また、監視部を設けていることにより、産業用ロボットに何らかの動作の不具合が生じた場合における安全性を確保することができる。そして、シーンが切り替わるときには産業用ロボットの速度がゼロであることから、シーンが切り替え直後における産業用ロボットの挙動を統一でき、意図通りの挙動を示しているか否かの確認を常に同じ状況で行うことができるなど、処理の負荷が増加することを抑制することができる。
【0010】
したがって、負荷の増加を抑制しつつ安全性を確保することができる産業用ロボットシステムを提供することができる。
【0011】
請求項2に記載した発明では、切替部は、産業用ロボットの速度がゼロのときのみ、シーンを切り替え可能にする。これにより、シーンが切り替え直後における産業用ロボットの挙動を確実に統一することができる。
【0012】
また、請求項3に記載した発明では、切替部は、産業用ロボットの動作プログラムを読み込むことにより、産業用ロボットの移動経路に異なる上限速度が設定されているエリアが存在するか否かを判定し、異なる上限速度が設定されているエリアが存在する場合には、最も安全性が高い上限速度が設定されているエリアを特定してシーンを設定し、動作制御部は、特定された最も安全性が高いエリアに設定されている上限速度の範囲内となる速度で、産業用ロボットを制御する。
【0013】
これにより、予め動作プログラムに記述しておく必要が無くなるとともに、負荷の増加を抑制しつつ安全性を確保することができる産業用ロボットシステムを提供することができるなど、上記した効果を得ることができる。また、産業用ロボットが単体で動作するのではなく、例えばいわゆるAGV(Automatic Guided Vehicle)と称される無人搬送車に載置され、AGVの移動といった作業環境の変化に伴って産業用ロボットの作業環境や作業内容が変わるような状況にも対処することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態における産業用ロボットシステムの構成例を模式的に示す図
【
図6】作業環境、作業内容とシーンとの対応関係の一例を示す図
【
図8】他の手法によりシーンを設定する処理の流れを示す図
【
図9】他の手法による速度の変化態様を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態で想定している産業用ロボットシステム1は、ロボット2、ロボット2を制御するコントローラ3を備えている。ロボット2は、垂直多関節型のいわゆる6軸ロボットである。ただし、産業用ロボットとしては、垂直多関節型のいわゆる7軸ロボットや水平多関節型のいわゆる4軸ロボットを対象とすることもできる。
【0016】
ロボット2は、設置面に設置されるベース2a、ベース2aに対して相対回転可能に設けられているショルダ2b、ショルダ2bに対して相対回転可能に設けられている下アーム2c、下アーム2cに対して相対回転可能に設けられている第1上アーム2d、第1上アーム2dに対して相対回転可能に設けられている第2上アーム2e、第2上アーム2eの先端に設けられていて、第2上アーム2eに対して相対回転可能に設けられている手首2f、手首2fの先端に取り付けられているフランジ2gを有している。
【0017】
そして、ロボット2は、フランジ2gに図示しないハンドやツールが取り付けられ、コントローラ3により制御されることによって教示された動作を実行する。また、ロボット2への教示は、コントローラ3に接続され、作業者が操作する操作装置4によって行われる。また、後述するシーンの設定などは、操作装置4や管理装置5などによって行われる。
【0018】
コントローラ3は、ロボット2の動作を制御するものであり、
図2に示すように、制御部10、記憶部11、駆動部12、入出力部13、通信部14などを備えている。制御部10は、図示しないマイクロコンピュータで構成されており、記憶部11に記憶されているプログラムを実行することによりコントローラ3全体およびロボット2の動作を制御する。
【0019】
記憶部11は、半導体メモリやハードディスクドライブなどによって構成されており、上記したプログラムや教示された作業内容、後述するシーンの設定や、シーンを切り替える位置などの各種のデータを記憶している。駆動部12は、ロボット2に対して制御信号を出力する電気回路などによって構成されている。入出力部13は、ロボット2やその周辺環境のデータを取得する各種のセンサ類15からデータを入出力する電気回路によって構成されている。通信部14は、作業者がロボット2に対して動作を教示する操作装置4との間で通信を行う。
【0020】
また、制御部10には、設定部20、動作制御部21、切替部22、監視部23などが設けられている。本実施形態の場合、これらの各部は、制御部10でプログラムを実行することによってソフトウェアで構成されている。ただし、設定部20を操作装置4や外部装置を設け、設定した結果を記憶部11に記憶する構成とすることもできる。
【0021】
この設定部20は、ロボット2の動作に関するパラメータに対する安全性に基づく制限値を設定する。ロボット2の動作に関するパラメータとしては、例えばロボット2が動作する際の速度や加速度あるいはトルクなどが想定される。また、パラメータに対する制限値としては、最大速度や最大加速度あるいは最大トルクなどが、安全性に基づいて設定される。また、安全性としては、例えばロボット2が作業者や周辺の構造物等に接触した場合の衝撃を緩和できるようにすることなどが考えられる。
【0022】
また、設定部20は、パラメータに対する制限値を、ロボット2の作業内容または作業環境の少なくとも一方に基づいて区分けされたシーンごとに設定する。例えば
図3に示すように、ロボット2の周辺の作業環境として、作業者が立ち入らない禁止エリア(R1)と、作業者が立ち入る可能性のある許可エリア(R2)とが存在するとする。このとき、許可エリア(R2)には図示しないセンサ付きの扉が設けられており、許可エリア(R2)内に作業者が存在することを検出することができる。
【0023】
この場合、シーンとしては、例えば禁止エリア(R1)内でのみロボット2が動作する状況に対応するシーン(SC1)と、許可エリア(R2)内にロボット2の一部が進入する状況に対応したシーン(SC2)とを設定することができる。これらのシーンは、ロボット2に作業を行わせる前の時点で、作業者が設定するものである。
【0024】
動作制御部21は、ロボット2に対する制御指令値を生成し、駆動部12を介してロボット2に出力することにより、ロボット2が動作する際の速度や加速度あるはトルクなどを制御する。このとき、動作制御部21は、シーンに設定されている制限値に基づいて、各シーンにおけるパラメータが、そのシーンに設定されている制限値に収まるようにロボット2の動作を制御する。
【0025】
切替部22は、ロボット2の作業内容または作業環境の少なくとも一方に基づいてシーンを切り替える。例えば、切替部22は、ロボット2の例えばアームの先端位置が、
図3に示す作業者が立ち入らない禁止エリア(R1)から作業者が立ち入る許可エリア(R2)に移動する場合などにシーンを切り替える。また、詳細は後述するが、本実施形態の場合、切替部22は、ロボット2の速度がゼロの場合のみ、シーンを切り替える。
【0026】
監視部23は、ロボット2が動作制御部21の制御に沿って動作しているか否かを監視する。具体的には、監視部23は、ロボット2の実動作時におけるパラメータを制限値と比較することにより、各シーンにおけるロボット2の動作の安全性を監視する。そして、監視部23は、安全性が低下するおそれがあると判定すると、ロボット2への動力を遮断することによりロボット2を停止させる。なお、動作制御部21に対してロボット2を停止させるように指示する構成とすることもできる。
【0027】
このような産業用ロボットシステム1は、例えば
図3に示すような作業環境に適用される。この作業環境では、ロボット2は、禁止エリア(R2)内に設置されており、作業者が許可エリア(R2)においてパーツ30をフィーダ31に補充し、ロボット2が姿勢を変化させて許可エリア(R1)に設置されているフィーダ31の所定の把持位置(P1)からパーツ30をピックアップする。このとき、ロボット2は、禁止エリア(R1)と許可エリア(R2)との境界を、軌道上の経由位置(Pc)を通るものとする。
【0028】
また、ロボット2は、禁止エリア(R2)内においてコンベア32によって搬送されてくる対象物33にパーツ30を組み付ける作業を行う。なお、いわゆるコンベアトラッキング作業を行う構成であってもよい。また、パーツ30や対象物33などの部品は、ロボット2の作業対象物であり、いわゆるワークに相当するものである。
【0029】
このとき、ロボット2は、
図4に示す流れで作業を行う。なお、
図4では、作業の流れと、その作業を行う際の動作プログラムの一部であって、ロボット2が移動を伴う作業を行う際に実行されるコマンドとを対比させて示している。ロボット2は、作業を開始する前には、
図3に示す開始位置(P0)に位置している。ただし、ロボット2の位置とは、手先の位置を示すいわゆるツールセンターポイントを意図している。また、ロボット2の移動とは、ツールセンターポイントの移動を意図している。
【0030】
ロボット2は、作業を開始すると、開始位置(P0)からパーツ30を把持するために把持位置(P1)まで所定の軌道つまりは移動経路にそって移動する(S1)。この動作は、動作プログラムに記述されている例えばMove P0 to P1というコマンドを実行することで、開始位置(P0)から把持位置(P1)までの軌道が算出され、その軌道に沿ってロボット2が動作する。
【0031】
この把持位置(P1)は、フィーダ31から供給されるパーツ30が到着した位置の上方となる。なお、パーツ30が供給されているか否かは、例えばセンサ類15によって検出することができる。把持位置(P1)まで移動すると、ロボット2は、パーツ30を把持する(S2)。具体的には、ロボット2は、把持位置(P1)から図示しないハンドを下方に移動させてパーツ30を把持し、パーツ30を把持した状態でハンドを把持位置(P1)まで上方に移動させる。この動作は、動作プログラムに記述されている例えばPickupというコマンドを実行することによって実施される。
【0032】
パーツ30を把持すると、ロボット2は、対象物33を把持したまま開始位置(P0)まで移動する(S3)。この動作は、動作プログラムに記述されている例えばMove P1 to P0というコマンドを実行することによって実施される。続いて、ロボット2は、対象物33を把持したまま組み付け位置(P2)まで移動する(S4)。この動作は、動作プログラムに記述されている例えばMove P0 to P2というコマンドを実行することによって実施される。
【0033】
組付け位置(P2)まで移動すると、ロボット2は、ハンドを下方に移動させてパーツ30を対象物33に組付けた後、ハンドを組み付け位置(P2)まで上方に移動させる(S5)。この動作は、動作プログラムに記述されている例えばPlaceというコマンドを実行することによって実施される。その後、ロボット2は、組付け位置(P2)から開始位置(P0)まで移動する(S6)。この動作は、動作プログラムに記述されている例えばMove P2 to P1というコマンドを実行することによって実施される。
【0034】
そして、ロボット2は、これらステップS1からステップS6の動作を繰り返すことにより作業を行っている。また、これらステップS1からステップS6の一連の動作が完了するまでに要する時間がいわゆるタクトタイムに相当する。そのため、タクトタイムが短縮されれば、作業効率が向上することになる。
【0035】
このとき、監視部23は、
図5に示す監視処理を実行している。具体的には、監視部23は、ロボット2の動作が開示される際、上記したパラメータを含むロボット2の動作状態を取得し(S11)、ロボット2が制御指令値の通りに動作しているか否か、つまりは、挙動が正しいか否かを判定する(S12)。そして、監視部23は、挙動が正しい場合には(S12:YES)、堂坂南陵するまでの間(S13:NO)、挙動の監視を繰り返す。
【0036】
一方、監視部23は、例えば速度が上限速度を超えているなどのように挙動が正しくない場合には(S12:NO)、ロボット2の動作を停止させ(S14)、異常に対処するためにエラー処理へと移行する。本実施形態の場合、監視部23は、ステップS14において、ロボット2への動力を遮断することによって動作を停止させている。なお、動作制御部21に対してロボット2を停止させるように通知する構成とすることもできる。
【0037】
次に、産業用ロボットシステム1の作用について説明する。
前述のように、産業用ロボットは、例えば速度や加速度あるいはトルクといった動作に関するパラメータに対して、最大速度や最大加速度あるいは最大トルクといった安全性に基づく制限値が設定されている。このとき、動作に関するパラメータは複数種類が想定されることから、それぞれのパラメータに対して制限値を設定する必要があるとともに、その制限値は、産業用ロボットの作業内容や作業環境によって変化することが想定される。そのため、それららのパラメータを一括して変更できれば、負荷を低減することができると考えられる。
【0038】
ただし、そのような制限値は、産業用ロボットの作業内容や作業環境によって変化すると考えられる。そして、産業用ロボットの動作中に制限値が切り替えられると、例えば切り替え後の上限速度が現在の上限速度よりも低くなる場合には、上限速度を超えて異常と判定され、動作が停止するおそれがある。あるいは、切り替え後の上限速度が現在の上限速度よりも高い場合には、制限値が切り替えられてもそのまま上限速度まで加速するように動作すると考えられる。
【0039】
つまり、制限値を切り替える際の状況によって、産業用ロボットの挙動が異なるおそれがある。そして、安全性を確保するために速度を監視する場合において、意図通りの挙動を示すかの動作確認を行うためには、直前の動作も踏まえて検証を行う必要があり、負荷が膨大なものとなってしまう。そこで、本実施形態では、負荷の増加を抑制しつつ安全性を確保することができるようにしている。
【0040】
まず、例えば制限値が異なる状況としては、
図3に示すように禁止エリア(R1)と許可エリア(R2)とが設けられている場合において、各エリアにおける安全性を考慮して、それぞれのエリアに対して上限速度を設定することが考えられる。これは、禁止エリア(R1)内ではロボット2が動作しても人と接触するおそれが低いことから、禁止エリア(R1)での動作速度が許可エリア(R2)での動作速度よりも相対的に高くなっても安全性を確保できると考えられるためである。
【0041】
また、速度以外の制限値も、同様に安全性ン基づいてそれぞれ設定することができる。これは、動作に関するパラメータは、速度に限らず、加速度やトルクあるいは可動範囲なども想定されるためである。つまり、各パラメータを個別に変更することも可能であるが、状況に応じて一括して変更できれば利便性が高いと考えられるためである。
【0042】
そのため、産業用ロボットシステム1では、例えば
図4にエリア情報例として示すように、禁止エリア(R1)に対しては、速度に対する制限値として上限速度(V1)が設定されており、加速度に対する制限値として上限加速度(α1)が設定されており、トルクに対する制限値として上限速度(T1)が設定されている。
【0043】
また、許可エリア(R2)に対しては、速度に対する制限値として上限速度(V2)が設定されており、加速度に対する制限値として上限加速度(α2)が設定されており、トルクに対する制限値として上限速度(T2)が設定されている。なお、上限速度(V1)>上限速度(V2)、上限速度(α1)>上限速度(α2)、上限トルク(T1)>上限速度(T2)となっている。
【0044】
ところで、ロボット2は、例えば
図3に示すステップS1において禁止エリア(R1)から許可エリア(R2)まで移動することになるが、各エリアは、上限速度が異なっている。その場合、上記したように、制限値を切り替える際の状況によってロボット2の挙動が異なってしまう。また、例えば速度がゼロの状態から目標速度(Vm)まで加速するのに要するトルクや時間と、ある程度の速度が出ている状態から目標速度(Vm)まで加速するのに要するトルクや時間とが異なることから、正しい挙動であるか否かを監視するための判断基準も異なってくることも想定される。
【0045】
そこで、産業用ロボットシステム1では、
図4にシーン区分け例として示すように、ロボット2が禁止エリア(R1)内のみで動作する状況をシーン(SC1)とし、ロボット2が許可エリア(R2)内で動作する状況をシーン(SC2)として区分する。そして、
図4にシーン情報として示すように、それぞれのシーンについて、各パラメータの制限値が設定されている。換言すると、各パラメータに対する制限値は、シーンを切り替えることで一括して変更可能な状態にまとめられている。このシーン情報は、予め設定され、記憶部11に記憶されている。
【0046】
そして、産業用ロボットシステム1は、
図5に動作プログラム例として示すように、
図3に示す作業をするためのタスクにおいて、ロボット2の移動を伴うコメントを実行する前に、「Set SC1」や「Set SC2」といったシーンを設定するコマンドを実行する。つまり、産業用ロボットシステム1は、ロボット2の動作が停止して、速度がゼロのときのみ、シーンを切り替えている。
【0047】
本実施形態の場合には、ステップS1の作業が開始される前にシーンがSC2に設定され、ステップS4の終了後であってステップS5の作業が開始される前にシーンがSC1に切り替えられている。なお、
図3に示す作業は繰り返し実行されるため、ステップS6の作業が完了した後において、次のタスクが開始される際に、シーンが切り替えられるとも言える。
【0048】
このように、産業ロボットシステム1は、シーンという概念を導入することにより、産業用ロボットの作業内容や作業環境によって変化することが想定されるパラメータに対する制限値を、作業内容や作業環境に応じて一括して変更することを可能にしている。
【0049】
以上説明した産業用ロボットシステム1によれば、次のような効果を得ることができる。
産業用ロボットシステム1は、産業用ロボットが動作する際の速度の上限となる上限速度を、産業用ロボットの作業内容または作業環境の少なくとも一方に基づいて区分けされたシーンごとに設定する設定部20と、上限速度の範囲内で動作するように産業用ロボットを制御する動作制御部21と、産業用ロボットの作業内容または作業環境の少なくとも一方に応じてシーンを切り替える切替部22と、動作制御部21の制御に沿って産業用ロボットが動作しているか否かを監視する監視部23と、を備えている。そして、切替部22は、産業用ロボットが停止しているとき、シーンを切り替え可能にする。なお、本実施形態では、ロボット2の作業環境および作業内容の双方に基づいてシーンが設定されている。
【0050】
これにより、シーンを切り替えた直後におけるロボット2の挙動を統一することができ、負荷の増加を抑制することができる。また、本実施形態では、制限値が異なるエリアを跨いでロボット2が動作する場合には、より安全性が高くなる制限値を選択している。これにより、万が一ロボット2が作業者と衝突したとしても衝撃が相対的に緩和されることから、安全性を向上させることができる。
【0051】
また、産業用ロボットシステム1は、ロボット2の挙動が正しくない場合には、動作を停止させてエラー処理を実行する。これにより、ロボット2に何らかの動作の不具合が生じた場合における安全性を確保することができる。また、シーンが切り替わるときには産業用ロボットの速度がゼロであることから、シーンが切り替え直後における産業用ロボットの挙動を統一でき、意図通りの挙動を示しているか否かの確認を常に同じ状況で行うことができ、負荷が増加することを抑制することができる。
したがって、負荷の増加を抑制しつつ安全性を確保することができる産業用ロボットシステムを提供することができる。
【0052】
また、産業用ロボットシステム1では、設定部20は、パラメータとして産業用ロボットの速度を対象とし、制限値として許容される速度の上限値を設定する。産業用ロボットの速度は、接触時の損傷の大きさなどに深く関わるパラメータであるとともに、作業者が目視可能なものである。そのため、産業用ロボットの速度は、産業用ロボット側および作業者側の双方にとって、安全性や危険性を判断する目安として適切なパラメータ出ると考えられる。また、産業用ロボットの速度は、タクトタイムに大きく関与するパラメータでもある。そのため、パラメータとして産業用ロボットの速度を対象とすることにより、実際の現場において、安全性や生産性を考慮した上で、実効性の高い効果を得ることができる。
【0053】
また、切替部22は、産業用ロボットの速度がゼロのときのみ、シーンを切り替え可能にする。これにより、産業用ロボットシステム1をより安全に運用することができる。すなわち、速度が出ているときに上限速度が高くなると、ロボット2はその速度から加速を開始することになるが、その場合には、速度がゼロの状態から同じ上限速度まで加速する場合と比べると、相対的に短時間で最大速度に到達するためことになる。
【0054】
そして、最大速度に到達するまでの時間が短くなると、異常を感じた作業者がロボット2を回避するための猶予が相対的に少なくなる。これに対して、速度がゼロの状態から加速する場合には、最大速度に到達するまでに要する時間が相対的に長くなることから、作業者が回避するための猶予が相対的に大きくなる。これにより、産業用ロボットシステム1の安全性をさらに向上させることができる。
【0055】
本発明は、上記した、あるいは、図面に記載した実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲での種々の変形、拡張あるいは他の構成との組み合わせすることができ、それらは均等の範囲に含まれる。
【0056】
例えば、切替部22は、産業用ロボットの動作プログラムを読み込むことにより、産業用ロボットの移動経路に異なる上限速度が設定されているエリアが存在するか否かを判定し、異なる上限速度が設定されているエリアが存在する場合には、最も安全性が高い上限速度が設定されているエリアを特定してシーンを設定し、動作制御部21は、特定された最も安全性が高いエリアに設定されている上限速度の範囲内となる速度で、産業用ロボットを制御する構成とすることができる。
【0057】
具体的には、産業用ロボットシステム1は、
図8に示す先読み処理を、ロボット2の移動を伴うコマンドが実行される前、あるいは、ロボット2の速度がゼロであるときに実行する。この先読み処理では、産業用ロボットシステム1は、まず現在のシーンを特定し(S21)、動作プログラムを読み込むことにより(S22)、少なくとも次に実行されるロボット2の移動を伴うコマンドを把握する。
【0058】
そして、産業用ロボットシステム1は、エリア情報を参照して、ロボット2が移動する際の移動経路に異なる上限速度が設定されているエリアが存在するか否かを判定する(S23)。産業用ロボットシステム1は、異なるエリアが存在する場合には(S23:YES)、例えば上限速度が相対的に低いエリアを安全側のエリアとして選択し(S24)、現在のシーンの制限値を、選択したエリアの制限値で更新した後(S25)、更新した制限値でシーンを設定する(S26)。
【0059】
これにより、例えば
図3に示す作業環境において
図4に示す作業を実施する際、
図9に示すように、ワークを把持するために開始位置(P0)から把持位置(P1)に移動する際に上限速度が変わるものの、ロボット2は、安全側となる許可エリア(R2)に設定されている制限値に従って動作する。すなわち、安全側の制限値が選択されたシーン(SC3)が設定されることから、ロボット2の動作中にシーンの切り替えが発生しない。また、ロボット2は、ワークを把持して把持位置(P1)から開始位置(P0)に移動する際に上限速度が変わるものの、安全側となる許可エリア(R2)に設定されている制限値が選択されたシーン(SC4)が設定されることから、ロボット2の動作中にシーンの切り替えが発生しない。
【0060】
このように、ロボット2の作業環境および作業内容の双方に基づいてシーンを設定することにより、また、予め動作プログラムに記述するのではなく、ロボット2の作業環境や作業内容に応じて動的にシーンを設定可能とする構成によっても、負荷の増加を抑制しつつ安全性を確保することができる産業用ロボットシステムを提供することができるなど、実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0061】
また、エリアを跨ぐときにロボット2の動作が継続されるため、産業用ロボットの動作が不連続になることを抑制でき、作業を完了するまでに要するいわゆるタクトタイムが増加することを抑制できるとともに、異なるエリアを移動する場合であっても安全性を確実に確保することができる。
【0062】
また、ロボット2が単体で動作するのではなく、例えばいわゆるAGV(Automatic Guided Vehicle)と称される無人搬送車に載置され、AGVが移動した際の作業環境の変化、つまりは、ロボット2の設置位置の変化に伴って、ロボット2の作業環境や作業内容が変わるような状況に適用することもできる。この場合、ロボット2の動作の速度がゼロであって、且つ、AGVの速度もゼロである状況を、ロボット2が停止している状態とみなすことができる。あるいは、ロボット2の動作の速度がゼロであって、AGVが移動している状況を、ロボット2が単体で停止している状態とみなすこともできる。
【0063】
実施形態では主としてロボット2の移動に応じたシーンの設定例を示したが、例えば
図3に示すステップS4とステップS6のように、向きは異なるものの同じ経路を移動する際に、ワークを把持している状態とワークを把持していない状態とにおいて異なるシーンを設定することができる。
【0064】
また、実施形態では、ロボット2の動作に関するパラメータとして速度を主に対象として説明したが、加速度やトルクあるいは可動範囲などを対象とすることができる。その場合、実施形態で説明した処理の流れにおいて、速度を加速度や最大トルクあるいは可動範囲などに読み替え、上限速度を上限加速度や最大トルクあるいは最大可動範囲などに読み替え、加速を加速度増加量やトルク増加量あるいは可動範囲移動量などに読み替え、減速を加速度減少量やトルク減少量あるいは可動範囲減少量などに読み替えることで実現できる。また、速度以外の制限値が異なるような個別のシーンを設定することもできる。
【0065】
また、監視部23は、作業中の産業用ロボットの力及び速さの少なくとも何れかに相関のあるパラメータを含んだ安全関連入力信号及び予め記憶されている当該パラメータ用の判定基準に基づいて産業用ロボットの動きを判定する動作判定部としても機能する。また、制限値は、パラメータ用の判定基準、すなわち、安全性を判定する際の基準値としても扱われる。また、切替部22は、シーンを識別するシーン識別部、パラメータ用の判定基準をシーンに対応する判定基準に切り替える判定基準切替部としても機能する。
【符号の説明】
【0066】
図面中、1は産業用ロボットシステム、2はロボット、20は設定部、21は動作制御部、22は切替部、23は監視部を示す。