(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162764
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂製多重ボトル、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/26 20060101AFI20231101BHJP
C23C 16/511 20060101ALI20231101BHJP
B65D 1/02 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
C23C16/26
C23C16/511
B65D1/02 111
B65D1/02 221
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073376
(22)【出願日】2022-04-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼販売日 令和3年9月7日 ▲2▼販売した場所 キッコーマンフードテック株式会社中野台工場(千葉県野田市中野台693)
(71)【出願人】
【識別番号】505440295
【氏名又は名称】北海製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】上野 路男
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃広
【テーマコード(参考)】
3E033
4K030
【Fターム(参考)】
3E033AA02
3E033BA17
3E033BB08
3E033CA15
3E033CA20
3E033DA03
3E033DB01
3E033DC03
3E033DD06
3E033EA05
3E033FA03
4K030AA09
4K030AA10
4K030BA27
4K030BB05
4K030CA07
4K030CA11
4K030FA01
4K030JA05
4K030JA09
4K030LA24
(57)【要約】
【課題】生産性を維持しつつ、アモルファス炭素含有被膜を適切に形成することができるポリエステル樹脂製多重ボトル、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂製多重ボトル10は、外口部112と外殻ボトル本体とを有する外殻ボトル111と、内口部122と内容器体本体124とを有する内容器体121と、通気路131とを備え、外殻ボトル本体は、肩部と、胴部と、ヒール部210と、接地部と底面部を備える。ポリエステル樹脂製多重ボトル10の外殻ボトル111のヒール部210に連接する少なくとも胴部下方部と、外殻ボトル111の胴部下方部の内面側に沿う内容器体121の部位には、ポリエステル樹脂製多重ボトル10の全周にわたり、間隔を置いて複数の縦リブ220が設けられており、内容器体本体124の内面にはアモルファス炭素含有被膜が形成されている。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の外口部と、該外口部に連接する外殻ボトル本体とを有し、外圧に対して原形復帰可能なポリエステル樹脂製の外殻ボトルと、
前記外殻ボトルの前記外口部内に配設される円筒状の内口部と、該内口部に連接し前記外殻ボトルの内面形状に沿う初期形状の内容器体本体とを有し、前記外殻ボトル本体よりも薄肉に形成され、外圧により減容変形するポリエステル樹脂製の内容器体と、
前記外口部と前記内口部との間に形成されて前記外殻ボトルと前記内容器体との間に外気を導入する通気路とを備え、
前記外殻ボトルと前記内容器体本体との間に離型剤が介在し、
前記外殻ボトル本体は、前記外口部に連接する肩部と、該肩部に連接する胴部と、該胴部の下方のヒール部と、該ヒール部に連接する接地部と、該接地部の内周側でボトル内方に凹入する底面部を備えたポリエステル樹脂製多重ボトルであって、
該ポリエステル樹脂製多重ボトルの外殻ボトルのヒール部と、前記ヒール部の内面側に沿う内容器体部位には、前記ポリエステル樹脂製多重ボトルの全周にわたり、間隔を置いて複数の縦リブが設けられており、
前記内容器体本体の内面にはアモルファス炭素含有被膜が形成されていることを特徴とするポリエステル樹脂製多重ボトル。
【請求項2】
前記縦リブは、外殻ボトル及び内容器体にボトル軸心から容器周方向に向けて15~45度の中心角間隔で、前記ボトル軸心方向に沿って形成された複数の凹入縦リブであることを特徴とする請求項1記載のポリエステル樹脂製多重ボトル。
【請求項3】
外殻ボトル用ポリエステル樹脂製外プリフォームと内容器体用ポリエステル樹脂製内プリフォームを積重し、両プリフォームを同時に二軸延伸ブロー成形して得られたポリエステル樹脂製多重ボトルの内容器体内面にアモルファス炭素含有被膜を形成したポリエステル樹脂製多重ボトルの製造方法であって、
円筒状の外口部と、該外口部に連接する外殻ボトル本体とを有し、外圧に対して原形復帰可能なポリエステル樹脂製の外殻ボトルと、
前記外殻ボトルの前記外口部内に配設される円筒状の内口部と、該内口部に連接し前記外殻ボトルの内面形状に沿う初期形状の内容器体本体とを有し、前記外殻ボトル本体よりも薄肉に形成され、外圧により減容変形するポリエステル樹脂製の内容器体と、
前記外口部と前記内口部との間に形成されて前記外殻ボトルと前記内容器体との間に外気を導入する通気路とを備え、
前記外殻ボトル本体は、前記外口部に連接する肩部と、該肩部に連接する胴部と、該胴部の下方のヒール部と、該ヒール部に連接する接地部と、該接地部の内周側でボトル内方に凹入する底面部を備え、
前記外殻ボトルと前記内容器体本体の間に離型剤が介在し、
前記外殻ボトルのヒール部と、前記ヒール部の内面側に沿う内容器体部位には、ボトルの全周にわたり、間隔を置いて複数の縦リブが積重して設けられているポリエステル樹脂製多重ボトルを、アモルファス炭素含有被膜形成用の処理室に収容し、
前記ポリエステル樹脂製多重ボトルの外部、外殻ボトルと内容器体との間の間隙部、及び内容器体内部を所定の真空度に保持するとともに、前記内容器体内部に、アモルファス炭素含有被膜を形成する出発原料を供給し、マイクロ波を照射することにより、前記内容器体の内部にプラズマを発生させて、前記内容器体本体内面に、アモルファス炭素含有被膜を形成することを特徴とするポリエステル樹脂製多重ボトルの製造方法。
【請求項4】
前記所定の真空度は、前記内容器体の内部の真空度である第1真空度と、前記外殻ボトルと内容器体との間の空間の真空度である第2真空度と、前記外殻ボトルの外側の真空度である第3真空度に設定し、
前記第3真空度は、前記外殻ボトルの外でのプラズマの発生を抑えつつ、前記内容器体の内部でプラズマを発生させることができる範囲の圧力であり、且つ、前記第1真空度及び前記第2真空度に対して前記外殻ボトルが潰れない程度の圧力に設定されており、
前記第1真空度及び前記第2真空度は1Pa~50Paの範囲内の圧力であり、且つ、第1真空度と第2真空度との差は30Pa以下に設定されていることを特徴とする請求項3記載のポリエステル樹脂製多重ボトルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外殻ボトルと内容器体からなる多重ボトルの内容器体の内面側にアモルファス炭素含有被膜を形成したポリエステル樹脂製多重ボトル、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外圧に対して原形復帰可能な外殻ボトルの内部に、外圧による減容により変形する(以下、「減容変形」ということがある)内容器体を配置し、外殻ボトルと内容器体との間に外気が導入されるようにしたポリエステル樹脂製多重ボトルが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
外殻ボトルと内容器体から構成されるポリエステル樹脂製多重ボトルにおいては、内容器体に内容物を充填後、逆止弁付きキャップを装着し、使用時には、キャップを下方に向けて、外殻ボトルの胴部を押圧することにより、内容器体を減容変形させて、内容器体に収容されている内容物を注出する。押圧が解除されると、キャップに設けられた逆止弁の作用により外殻ボトルと内容器体との間に外気が導入される。この結果、減容変形した外殻ボトルは外気と等圧となることにより外殻ボトルが原形復帰する一方、内容器体は減容変形された状態で維持される。このことにより、内容器体の口部から内容器体内への外気の侵入を防ぐことができるので、内容器体内に収容されている内容物が使用中に酸化等により変質することを継続的に防止することができる。
【0004】
また、外殻ボトルと内容器体からなるポリエステル樹脂製多重ボトルにおいて、内容器体側壁からの酸素透過を抑えるべく、内容器体の内面にガスバリア性を付加するためのアモルファス炭素含有被膜を形成したポリエステル樹脂製多重ボトルも開示されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-128383号公報
【特許文献2】特許第3866949号公報
【特許文献3】特開2020-007612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
外殻ボトルと内容器体から構成されるポリエステル樹脂製多重ボトルにおいては、外殻ボトルは、内容器体内の内容物の注出後に原形に戻るスクイズ性を良好にするために厚肉化され、一方、内容器体は、内容物の注出のための減容変形を容易とするために、通常のペットボトルの厚みの1/2~1/3以下程度に薄肉化せざるを得ない。この場合、スクイズ動作時における外殻ボトルと内容器体の離間性向上のため、外殻ボトルと内容器体本体との間には、離型剤が介在することが望ましい。
【0007】
しかし、このようなポリエステル樹脂製多重ボトルでは、外殻ボトルに比べ薄肉化された内容器体において、ボトル胴部下方のヒール部の延伸ブロー成型時の延伸比率がヒール部以外の他の部位の延伸比率よりも大きくなるため、ヒール部がより一層薄肉となる。
【0008】
このようなポリエステル樹脂製多重ボトルの内容器体内面に、マイクロ波プラズマCVD(以下、単に「CVD」ということがある。)を用いたアモルファス炭素含有被膜(以下、単に「炭素被膜」ということがある。)を形成する際には、二軸延伸ブロー成形後のポリエステル樹脂製多重ボトルを炭素被膜形成用の処理室に収容し、外殻ボトル外部側、外殻ボトルと内容器体との間隙部、及び内容器体内部を、ボトル口部からCVD処理に必要な所定真空度にまで脱気後、その真空状態を保持するとともに、内容器体内面部に、炭素被膜を形成する出発原料を供給し、続いてマイクロ波を照射し、前記内容器体の内部にマイクロ波プラズマを発生させ、内容器体内面にアモルファス炭素含有被膜を形成する。以下、この一連のCVD処理工程を「多重ボトル内CVD加工工程」という。
【0009】
ところが、この多重ボトル内CVD加工工程において、ブロー成型工程で密着している外殻ボトルと内容器体の、特に口部から離れた胴部下方のヒール部においては、CVD処理時のマイクロ波照射による、発熱の影響を特に強く受け、内容器体のヒール部に、微小膨出部位や、皺状部が形成される不具合が生じた。
【0010】
このようなポリエステル樹脂製多重ボトルへのCVD加工時における特有の問題を生ずる原因として考えられるのが、一般的に、単層の合成樹脂製ボトルに対し、CVD炭素被膜形成を行う場合、照射するマイクロ波のエネルギーにより、ボトル自体や残留気体が加熱される。これが、多重ボトルの場合、外殻ボトルに比べ薄肉である内容器体の、とりわけヒール部の内容器体内面においては、さらに薄肉であるため、熱容量がヒール部以外の他の部位に比べて相対的に低く、CVD処理時に発生する発熱の影響がより大きくなるとともに、塗布した離型剤に起因する要因として、重力の影響で、離型剤はヒール部以外の他の塗布部位に比べ、相対的にヒール部付近で高密度で存在し、CVD処理時の減圧に伴い、液状、或いはミスト状の離型剤中に存在する比較的低分子量の成分から、揮発が促進され、あるいは、プラズマのエネルギーによる分解などにより発生する気化成分がより多く存在することにより、所望する加工時間内では、真空処理室内を適正真空度まで脱気しきれず、プラズマによる残留気体成分の発熱の影響も大きくなる。
【0011】
炭素被膜を形成された薄肉の内容器は、硬質のアモルファス炭素含有被膜と熱軟化したPET内容器薄肉部の線膨張係数等の違いから、内容器ヒール部に微膨出部位や、皺状部が形成され、これにより当該部位に所望する性能の炭素被膜を形成できないものと考えられる。
【0012】
また、その対策として、真空引き条件(脱気時間延長等)や、マイクロ波照射条件を緩和する等を行うと、上記問題は軽減されるものの、今度は、CVD加工処理時間が長くなり、生産性が著しく低下するという問題があった。
【0013】
本発明は、以上の点に鑑み、生産性を維持しつつ、ヒール部周辺の残留気体や、離型剤由来の気化成分の影響を排し、生産性を保ちながら、アモルファス炭素含有被膜が適切に形成することができるポリエステル樹脂製多重ボトル、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
[1]上記目的を達成するため、本発明は、
円筒状の外口部と、該外口部に連接する外殻ボトル本体とを有し、外圧に対して原形復帰可能なポリエステル樹脂製の外殻ボトルと、
前記外殻ボトルの前記外口部内に配設される円筒状の内口部と、該内口部に連接し前記外殻ボトルの内面形状に沿う初期形状の内容器体本体とを有し、前記外殻ボトル本体よりも薄肉に形成され、外圧により減容変形するポリエステル樹脂製の内容器体と、
前記外口部と前記内口部との間に形成されて前記外殻ボトルと前記内容器体との間に外気を導入する通気路とを備え、
前記外殻ボトルと前記内容器体本体との間に離型剤が介在し、
前記外殻ボトル本体は、前記外口部に連接する肩部と、該肩部に連接する胴部と、該胴部の下方のヒール部と、該ヒール部に連接する接地部と、該接地部の内周側でボトル内方に凹入する底面部を備えたポリエステル樹脂製多重ボトルであって、
該ポリエステル樹脂製多重ボトルの前記外殻ボトルの前記ヒール部と、前記ヒール部の内面側に沿う内容器体部位には、前記ポリエステル樹脂製多重ボトルの全周にわたり、間隔を置いて複数の縦リブが設けられており、
前記内容器体本体の内面にはアモルファス炭素含有被膜が形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、ポリエステル樹脂製多重ボトルの胴部下方のヒール部とヒール部の内面側に沿う内容器体部位との全周に亘り、間隔を置いて複数の縦リブが設けられているため、プラズマCVD法により、アモルファス炭素含有被膜を形成するために、所定の真空度にする工程で、当該部位に残留或いは気化した成分が、縦リブを設けることによって、真空引きの時間を延ばす等、生産性を低下せずに、良好に吸引排除することができるとともに、ボトルヒール部周辺において、特に、前記外殻ボトルと前記内容器体本体の間隙において、広い間隙が形成される縦リブ形成部に対し、狭い間隙が形成される縦リブが存在しない縦リブ非形成部から、残留気体が高速流入することで、熱伝搬性が向上するとともに、狭い間隙である縦リブ非形成部から広い間隙の縦リブ形成部に残留気体が流入する際の急激な体積変化による断熱膨張による断熱冷却効果も期待され、結果、マイクロ波照射により、ポリエステル樹脂製多重ボトルが過熱した際、微少膨出部位が形成されなくなり、皺状部の発生もなく、アモルファス炭素含有被膜の均一膜が内容器体内面に形成され、ガスバリア性の優れたポリエステル樹脂製多重ボトルが得られる。
【0016】
また、離型剤は、ブロー成型後に密着状態となる外殻ボトルと前記内容器体の、ボトル底部を除く、肩部からヒール部にわたる部位に介在させることにより、スクイズ動作時において、外殻ボトルと内容器体の密着部位における層離間が一層容易となる。これに伴い、ヒール部の残留空気や、離型剤由来等の気化成分を、ヒール部から肩部にわたる部位を介してボトル口部より、更に容易に速やかに真空引きで吸引除去することができる。離型剤としては、例えば、流動パラフィンやシリコン系化合物を用いることができる。
【0017】
[2]また、本発明においては、前記縦リブは、外殻ボトル及び内容器体にボトル軸心から容器周方向に向けて15~45度の中心角間隔で、前記ボトル軸心方向に沿って形成された複数の凹入縦リブであることが好ましい。
【0018】
かかる構成によれば、ヒール部に残留、或いは発生した気化成分を、より短時間に効率よく真空引きすることができ、ヒール部周辺において、特に、外殻ボトルと内容器体本体の間隙において、比較的広い間隙の縦リブ形成部に対し、比較的狭い間隙周囲の非縦リブ形成部から、介在する離型剤由来の気化成分や分解物、空気等の残留気体が縦リブ形成部に向けて高速流入することで、熱伝搬性が向上するとともに、比較的狭い間隙部から、比較的広い間隙部の縦リブ形成部に残留気体が流入する際の急激な体積変化による断熱膨張による断熱冷却効果や、離型剤由来気化成分の気化熱も相まって、外殻ボトルと内容器体の間隙部と、内容器体内側部との間の真空度差が低減し、CVD処理による発熱の影響が緩和され、微小膨出変形が解消されて、所定条件で炭素被膜を形成することができる。また、熱膨出変形の発生を無くし、当該部位における亀裂発生等に繋がる懸念が解消される。
【0019】
ここで、前記記載範囲を下回り、縦リブの形成数が少ないと、前記効果が得られず、また前記記載範囲を超えて多すぎると、ボトルの胴部の強度が低下し、ボトルの搬送適性が低下するので好ましくない。本発明においては、前記縦リブは、幅2~10mm、好適には4~6mm、深さ0.2~1.2mm、好適には0.4~0.9mmであることが好ましい。
【0020】
前記縦リブが、前記構成であれば真空引きにより、残留気体成分が除去されやすく、冷却効果を得易いが、前記範囲を下回り幅が狭かったり、深さが浅いと、そのような効果が期待できず、また、前記範囲を超えて幅が広かったり、深さが深くても同様に効果が得られなかった。また、ヒール部と縦リブとは深さ、幅を適切に設定して気流を妨げないよう滑らかに連接するのが好ましい。
【0021】
さらに、本発明の縦リブは、実施例図のような縦軸方向の凹入リブに限定されず、真空引きする口部方向に向かう縦方向のリブであればよく、また突出リブであっても良いが、凹入リブがボトルの搬送適性が良いので好ましい。
【0022】
[3]また、本発明のポリエステル樹脂製多重ボトルの製造方法は、
外殻ボトル用ポリエステル樹脂製外プリフォームと、内容器体用ポリエステル樹脂製内プリフォームを積重し、両プリフォームを同時に二軸延伸ブロー成形して得られたポリエステル樹脂製多重ボトルの内容器体内面にプラズマCVD法によりアモルファス炭素含有被膜を形成したポリエステル樹脂製多重ボトルの製造方法であって、
円筒状の外口部と、該外口部に連接する外殻ボトル本体とを有し、外圧に対して原形復帰可能なポリエステル樹脂製の外殻ボトルと、
前記外殻ボトルの前記外口部内に配設される円筒状の内口部と、該内口部に連接し前記外殻ボトルの内面形状に沿う初期形状の内容器体本体とを有し、前記外殻ボトル本体よりも薄肉に形成され、外圧により減容変形するポリエステル樹脂製の内容器体と、
前記外口部と前記内口部との間に形成されて前記外殻ボトルと前記内容器体との間に外気を導入する通気路とを備え、
前記外殻ボトルと前記内容器体本体の間に離型剤が介在し、
前記外殻ボトル本体は、前記外口部に連接する肩部と、該肩部に連接する胴部と、該胴部の下方のヒール部と、該ヒール部に連接する接地部と、該接地部の内周側でボトル内方に凹入する底面部を備え、
前記外殻ボトルのヒール部と、前記ヒール部の内面側に沿う内容器体部位には、ボトルの全周にわたり、間隔を置いて複数の縦リブが積重して設けられているポリエステル樹脂製多重ボトルを、アモルファス炭素含有被膜形成用の処理室に収容し、
前記ポリエステル樹脂製多重ボトルの外部、外殻ボトルと内容器体との間の間隙部、及び内容器体内部を所定の真空度に保持するとともに、前記内容器体内部にアモルファス炭素含有被膜を形成する出発原料を供給し、マイクロ波を照射することにより、前記内容器体の内部にプラズマを発生させて、前記内容器体本体内面にアモルファス炭素含有被膜を形成することを特徴とする。
【0023】
外殻ボトル用ポリエステル樹脂製外プリフォームの内側に内容器体用ポリエステル樹脂製内プリフォームを積重し、両プリフォームを同時に二軸延伸ブロー成形して得られたポリエステル樹脂製多重ボトルは、外殻ボトル内面側と内容器体外面側とが密接して形成される。かかる容器形状の多重ボトルの内容器体内面に炭素被膜を形成する方法としては、ポリエステル樹脂製多重ボトルを、炭素被膜形成用の処理室に収容し、ポリエステル樹脂製多重ボトルの外殻ボトル外側部、外殻ボトルと内容器体との間の間隙部、及び内容器体内部を所定の真空度に保持し、ポリエステル樹脂製多重ボトルの内容器体内部に、炭素被膜を形成する出発原料を供給し、マイクロ波を照射して、内容器体の内部にプラズマを発生させて、内容器体本体内面に炭素被膜を形成するという被膜形成方法をとるが、当該工程において、多重ボトルの各部位の真空度を炭素被膜形成に適した真空度に高めて行くと、外殻ボトルと内容器体との間の間隙部、特に胴部の間隙部は、ブロー成形工程で密着しやすいため、口部から真空引きをしても、口部から離れたボトルのヒール部や該ヒール部に連接する胴部下方部における外殻ボトルと内容器体との間の気体成分が排除しきれず、微少の気体成分が残り、真空引きの際、当該間隙部と内容器体内部との間に圧力差が生じ、またマイクロ波照射によって、当該部位が加熱され、相対的に薄肉となっているヒール部と連接する胴部下方部において、微量残留気体成分が膨張し、内容体内面側に微小膨出変形部が生じ、炭素被膜形成処理後にボトル各部を常圧に戻すと、炭素被膜が形成された微小膨出変形部に皺が形成され、所望の均一な炭素被膜を形成することができないという問題があった。また、真空引きによる微量気体成分の残留を防止するために、製造条件的に、真空引き時間を長くする等の製造条件を変更すると、種々な条件設定変更が必要となり生産性が著しく低下するという問題があった。
【0024】
しかし、本発明のポリエステル樹脂製多重ボトルの製造方法により製造されたポリエステル樹脂製多重ボトルによれば、ポリエステル樹脂製多重ボトルの胴部下方の外殻ボトルと内容器体からなるヒール部に連接する胴部下方部の全周にわたり、間隔を置いて複数の縦リブが設けられているため、所定の真空度にする工程で、当該部位に残留する、或いは新たに発生した気体成分が、縦リブにより、良好に吸引排除されるとともに、気流による冷却効果や、表面積の拡大に伴う放熱効果と相まって、残留気体、及び発熱の影響を緩和し、その結果、微小膨出部の発生や、それに基づく皺の形成が無くなり、炭素被膜の所望の均一膜が形成され、その生産効率を落とさず、ガスバリア性が改善された内容器体の内面側にアモルファス炭素含有被膜を形成したポリエステル樹脂製多重ボトルが得られる。
【0025】
[4]また、本発明においては、
前記所定の真空度は、前記内容器体の内部の真空度である第1真空度と、前記外殻ボトルと内容器体との間の空間の真空度である第2真空度と、前記外殻ボトルの外側の真空度である第3真空度に設定し、
前記第3真空度は、前記内容器体の内部でプラズマが発生し、前記外殻ボトルの外でのプラズマの発生を抑えることができる範囲の真空度であり、且つ、前記第1真空度及び前記第2真空度に対して前記外殻ボトルが潰れない程度の真空度に設定されており、
前記第1真空度及び前記第2真空度は1Pa~50Paの範囲内の真空度であり、且つ、第1真空度と第2真空度との差は30Pa以下に設定されていることが好ましい。
【0026】
本発明によれば、内容器体の中の第1真空度と、内容器体と外殻ボトルの間の第2真空度は1Pa~50Paの範囲内の真空度であり、両者の差を30Pa以下に設定することにより、内容器体の内面に良好な酸素バリア性を備えるアモルファス炭素含有被膜を形成することができる。これは、第2真空度を第1真空度に近く設定することにより、内容器体と外殻ボトルの間に存在する気体によって内容器体が内側に膨らむことを防止して、均一なアモルファス炭素含有被膜を形成することができたためと考えられる。
【0027】
また、第1真空度と第2真空度とはいずれも、1Pa未満では、当該真空度に達するまでの時間が掛かり過ぎ、被膜形成処理に時間が掛かり過ぎて、実質的に商業的な範囲での処理が困難である。また、第1真空度と第2真空度とはいずれも、50Paを超えると、酸素バリア性の良いアモルファス炭素含有被膜の形成性が悪くなり、内容器体への被膜密着性も低下する。
【0028】
本発明においては、前記第3真空度は、前記1真空度及び前記第2真空度以上6000Pa以下、好ましくは1000Pa以上6000Pa(60mbar)以下、より好ましくは3000Pa以上6000Pa以下の真空度に設定することが好ましい。
【0029】
かかる被膜形成方法によれば、内容器体の内面に適切な酸素バリア性を備えるアモルファス炭素含有被膜を形成することができる。第3真空度が6000Paを超える場合(即ち、低真空度の場合)には、外殻ボトルが高真空度の内側に凹んでしまうことにより、内容器体本体も内側へ凹んでしまう虞があり、アモルファス炭素含有被膜を内容器体の内面に適切に形成できない。また、第3真空度が第1真空度及び第2真空度に近い数値になると、プラズマが外殻ボトルの外側でも発生してしまい、内容器体本体の内面におけるアモルファス炭素含有被膜の形成性が低下する傾向にあるため、3000Pa以上が好ましい。
【0030】
前記内容器体の中に供給するガス状の炭化水素化合物を含む出発原料は、表面積当り0.1sccm/cm2の範囲の流量で供給し、合成樹脂製多重ボトルに150~600Wの範囲のエネルギーのマイクロ波を0.3~2.0秒の範囲の時間内で照射することが好ましい。
【0031】
また、本発明においては、前記内容器体の中に、ガス状の炭化水素化合物を含む出発原料を、表面積当り0.8~0.1sccm/cm2の範囲の流量で供給し、前記合成樹脂製多重ボトルに150~600Wの範囲のエネルギーのマイクロ波を0.3~2.0秒の範囲の時間内で照射することが好ましい。
【0032】
本発明においては、出発原料としてガス化可能な炭化水素を用いることができ、アセチレンを主成分とする原料を用いることが適しており、内容器体の内面に良好なアモルファス炭素含有被膜を形成することができる。
【0033】
本発明の前記ポリエステル樹脂製多重ボトルにおいては、外殻ボトルの筒状胴部の肉厚が0.20~0.40mmに、胴部形状に沿う内容器体本体の部分の肉厚が0.04~0.20mmに、アモルファス炭素含有被膜の厚さが100~800オングストロームに設定されることが適している。かかる被膜形成方法によれば、内容器体の内面に適切な酸素バリア性を備えるアモルファス炭素含有被膜を形成することができる。
【0034】
ポリエステル樹脂製多重ボトルにおいては、外殻ボトルの肉厚が0.4mmを超えると、使用者が外殻ボトルを押圧しても変形し難くなり、内容器体内の内容物を取り出し難くなる。また、外殻ボトルの肉厚が0.20mm未満であると、使用者が外殻ボトルを押圧した後、押圧を解除しても原形復帰することができず、スクイズ性が得られない。また、内容器体本体の肉厚が0.20mmを超えると、内容器体本体が減容変形し難くなり、逆に、内容器体本体の肉厚が0.04mm未満であると、内容器体本体を成形する際にピンホールが発生し易く、歩留まりが悪くなってしまう。
【0035】
また、上述の範囲内の肉厚の外殻ボトルと内容器体本体とを用いる場合には、アモルファス炭素含有被膜の厚さが800オングストロームを超えると、内容器体本体が減容変形したときに形成された被膜に亀裂が生じ、外観やガスバリア性能が損なわれる虞がある。また、アモルファス炭素含有被膜の厚さが100オングストローム未満であると適切なガスバリア性が得られない。
【0036】
本発明の製造方法に用いる製造装置の実施態様を
図4に示す。
【0037】
図4の製造装置は、該多重ボトルを収容する被膜形成処理室と、前記処理室内にマイクロ波を照射させるマイクロ波発生部と、前記処理室内の合成樹脂製多重ボトルの外殻ボトルの外側、外殻ボトルと内容器体との間の空間、及び内容器体の内側の真空度を制御する真空装置と、ガス状の炭化水素化合物を含む出発原料を供給する出発原料供給部と、を備えるプラズマCVD装置の前記処理室に収容し、前記真空装置で前記処理室内の前記合成樹脂製多重ボトルの外殻ボルトの外側、外殻ボトルと内容器体との間の空間、及び内容器体の内側を所定の真空度に保持して、前記合成樹脂製多重ボトルの前記内容器体内に、前記出発原料供給部から出発原料を供給し、前記マイクロ波発生部から前記処理室内にマイクロ波を照射することにより、前記内容器体の内側にプラズマを発生させて、前記内容器体の内面にアモルファス炭素含有被膜を形成する合成樹脂製多重ボトルの被膜形成装置であって、
前記処理室内であって、前記内容器体の内部の気体を排出する第1排気路と、前記処理室内であって、前記外殻ボトルの外側に存在する気体を排出する第2排気路と、前記通気路を介して前記外殻ボトルと前記内容器体との間の気体を排出する第3排気路とを備える装置構成としている。
【0038】
なお、
図4においては、前記内容器体の内部の真空度である第1真空度と、前記外殻ボトルと内容器体との間の間隙部の真空度である第2真空度は1つの真空装置によって1つの排気路から気体が排気される装置構成としているが、第1真空度と第2真空度を得るために、夫々に専用の真空装置を別々に設ける構成としても良い。
【0039】
本発明の被膜形成装置によれば、第1真空度と第2真空度とが1つの第1排気路を介して1つの真空装置により調整されることにより、第1真空度と第2真空度を得るために、真空装置を別々に設ける場合と比較して、より少ない数の真空装置で第1真空度と第2真空度の圧力の差を小さくすることができる。これにより、より低コストで内容器体の内面に均一なアモルファス炭素含有被膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1A】発明の実施形態の縦リブを備えた多重ボトルの側面図。
【
図1B】比較例の縦リブを備えない多重ボトルの側面図。
【
図2】本実施形態の縦リブを備えた多重ボトルの縦断面図。
【
図3】本実施形態の積重プリフォームを示す説明図。
【
図4】本実施形態のアモルファス炭素含有被膜形成装置を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図を参照しながら、発明の実施形態のポリエステル樹脂製多重ボトル及びその製造方法について説明する。
【0042】
本実施形態のポリエステル樹脂製多重ボトル10は次のような方法で製造することができる。まず、
図3を参照して、本実施形態の外殻ボトル111の元となる有底筒状の外殻ボトル用の外プリフォーム31(
図3の外側部に相当)と、外プリフォーム31よりも薄肉であり内容器体121の元となる有底筒状の内容器体用の内プリフォーム33(
図3の内側部に相当)を積重して、外殻ボトル形状が転写された二軸延伸用金型(図示省略)にセットし、外プリフォーム31及び内プリフォーム33を所定の延伸温度に加熱した状態で、外プリフォーム31及び内プリフォーム33の口部に配置した延伸ロッド(図示省略)を延伸して内プリフォーム33の底部を押圧し、外プリフォーム31及び内プリフォーム33を延伸しながら、内圧をかけ、外プリフォーム31と内プリフォーム33を同時にブロー成形して、外殻ボトル111と内容器体121とが見かけ上密接し、外殻ボトル111のヒール部210(後述)に連接する部位に金型に対応する縦リブ220が形成されたポリエステル樹脂製多重ボトル(
図1A、
図2)を形成することができる。
【0043】
なお、好適には、外プリフォーム31と内プリフォーム33を積重する段階で、外プリフォーム31の胴部の外面、或いは内プリフォーム33の胴部の外面に離型剤、例えば流動パラフィン等を塗布、介在させ、外プリフォーム31と内プリフォーム33を積重して成形ことにより、外殻ボトル111と内容器体121の離型性がより優れたポリエステル樹脂製多重ボトル10を得ることが出来る。得られたポリエステル樹脂製多重ボトル10を、
図4に示すアモルファス炭素含有被膜を形成するためのプラズマCVD装置1に配置して内容器体121の内面にアモルファス炭素含有被膜を形成することにより、本実施形態のアモルファス炭素含有被膜が形成されたポリエステル樹脂製多重ボトル10が得られる。
【0044】
本実施形態によれば、厚肉の外プリフォーム31と薄肉の内プリフォーム33を用い、外殻ボトル111と内容器体121とを同時にブロー成形することで、厚肉の外殻ボトル111の内面側に薄肉の内容器体121を同時に容易に形成することができる。また、本実施形態のヒール部210に連接して形成された縦リブ220により、ボトルへの熱影響を排し、アモルファス炭素含有被膜を良好に形成することができる。
【0045】
縦リブ220は、外殻ボトル111及び内容器体121に外殻ボトル111の軸心(ボトル軸心)から容器周方向に向けて15~45度の中心角間隔で、外殻ボトル111の縦軸方向に凹入させて複数形成されている。このように、ヒール部210に縦リブ220を形成することにより、ヒール部210に残留、或いは離型剤から発生した気体成分を、より短時間に効率よく真空引きすることができ、外殻ボトル111と内容器体121の間隙部と、内容器体121の内側部との間の真空度の差が低減し、また、CVD処理における発熱に対する冷却効果と相まって、微少膨出変形が解消されて、所定条件内で、良好なアモルファス炭素含有被膜を形成することができる。また、膨出変形部の亀裂等に繋がる懸念が解消される。
【0046】
外殻ボトル111及び内容器体121に軸心から容器周方向に向けて15~45度の中心角間隔の範囲を外れ、縦リブの形成数が少ないと、膨出変形抑制の効果が得られず、また多すぎると、胴部の強度が低下し、ボトルの搬送適性が低下するので好ましくない。本実施形態においては、縦リブ220は、幅2~10mm、好適には4~6mm、深さ0.2~1.2mm、好適には0.4~0.9mmであることが好ましい。また、外殻ボトル111及び内容器体121の周方向における縦リブ220の両側壁の傾斜角度(両側壁が成す角)は、110度から140度が好ましい。110度未満だと成形が困難であり、縦リブ220が適切に形成できず、140度を超えると、縦リブ220の深さが深い場合には、外殻ボトル111の外面に装着されるラベルの外観が低下してしまう。逆に縦リブ220の深さが浅い場合には、CVD処理加工排気時の縦リブ220による通気性、冷却効果が低下して良好な真空度が得られなくなってしまう。
【0047】
次に、図面を参照しながら、本実施形態のアモルファス炭素含有被膜の形成方法について詳細に説明する。
図4は本実施形態の二軸延伸ブローで成形されるポリエステル樹脂製多重ボトル10にアモルファス炭素含有被膜を形成するプラズマCVD装置1を示す説明的断面図である。
【0048】
図4に示すプラズマCVD装置1によって、本実施形態のポリエステル樹脂製多重ボトル10の内面にはアモルファス炭素含有被膜が形成される。
【0049】
ポリエステル樹脂製多重ボトル10は、押圧変形可能な外殻ボトル111と、外殻ボトル111内に配置される内容器体121とを備えている。
【0050】
外殻ボトル111は、円筒状の外口部112と、外口部112の下端に連接する有底筒状の筒状胴部114(発明の外殻ボトル本体に該当)とを備える。筒状胴部114(外殻ボトル本体)は、外口部112の下端に連接されととともに外口部112に向かって次第に縮径するように構成された肩部と、肩部の下端に連設し、スクイズ動作をし易いように縦溝が複数形成された胴部中央(発明の胴部に該当)と、胴部中央(胴部)の下端に連設されたヒール部210と、ヒール部210に連接する接地部と、接地部の内周側で外殻ボトル111内方に凹入する底面部と、で構成されている。内容器体121は、外殻ボトル111の外口部112の内側に配置される円筒状の内口部122と、内口部122の下端に連接し、筒状胴部114(外殻ボトル本体)の内面形状に沿う形状で、筒状胴部114の肉厚よりも薄肉で、押圧により変形する内容器体本体124とを備える。
【0051】
外口部112と内口部122との間には、筒状胴部114(外殻ボトル本体)と内容器体本体124との間に外気を導入する通気路131が形成されている。
【0052】
プラズマCVD装置1は、パイレックス(登録商標)ガラスで形成された側壁2と、底板3とにより画成された処理室4を備え、側壁2に臨む位置にマイクロ波発生部としてのマイクロ波発生装置5を備える。処理室4の上方には、側壁6と上壁7とにより画成された排気室8が備えられ、処理室4と排気室8との間には隔壁9が設けられている。
【0053】
隔壁9の中央には処理室4と排気室8とを連通させる排気孔12が設けられている。ポリエステル樹脂製多重ボトル10の外口部112には、貫通孔11aを備える口部保持具11が外嵌されている。口部保持具11は、ボール11cと、ボール11cを径方向外側から締め付けて径方向内側へボール11cを押圧する環状弾性部材11eとを備える。
【0054】
ポリエステル樹脂製多重ボトル10は、口部保持具11に外口部112が装着された状態で、貫通孔11aを介して内容器体121の内部が排気孔12を通って排気室8と連通するように処理室4に配置される。口部保持具11は、隔壁9に気密に固定されている。排気室8には真空ポンプからなる真空装置21が接続され、真空装置21で排気室8内の気体を排出する。本実施形態においては、貫通孔11a、排気孔12、排気室8の真空装置21までの経路で第1排気路が構成されている。また、真空装置とは、真空ポンプに限らず、例えば、真空ポンプを用いて真空度を適切に制御する手段を含む減圧手段であってもよい。
【0055】
また、口部保持具11と外口部112との間は、内容器体121の内部と処理室4内とが連通しないようにOリング14で気密にシールされている。また、口部保持具11には、ポリエステル樹脂製多重ボトル10の通気路131と第1排気路としての貫通孔11aとを連通させるように、外口部112及び内口部122に対して気体が通過できる程度の隙間ができるように貫通孔11aの下方部が拡径された拡径部11bが設けられている。
この拡径部11bによって、1つの真空装置21で、内容器体121の中の真空度である第1真空度と、外殻ボトル111と内容器体121との間の真空度である第2真空度とを同時に且つ同一に調整することができる。
【0056】
なお、本実施形態のプラズマCVD装置1及びポリエステル樹脂製多重ボトル10の被膜形成方法は、1つの真空装置21で、内容器体121の中の真空度である第1真空度と、外殻ボトル111と内容器体121との間の真空度である第2真空度とを同時に且つ同一に調整するものに限らない。例えば、第2真空度を調節するための専用の第3排気路及び真空ポンプからなる真空装置を別個に設けて、第1真空度と第2真空度とを個別に調整できるように構成してもよい。
【0057】
図4に示すプラズマCVD装置1では、まず、処理室4内にポリエステル樹脂製多重ボトル10を収納する。次に、真空装置21を作動して、排気室8内を排気し、これにより排気孔12を介して、ポリエステル樹脂製多重ボトル10の内部の第1真空度及び第2真空度を1~50Paの真空度に減圧する。更にこれと同時に、真空ポンプからなる真空装置22を作動して、通気口16及びバルブ17を介して処理室4内を排気し、これにより処理室4を3000~6000Paの所定の真空度(第3真空度)に減圧し、バルブ17を閉弁して所定の真空度(第3真空度)を維持する。
【0058】
内容器体121内の第1真空度と、外殻ボトル111と内容器体121との間の第2真空度とは、1Pa未満の設定では、当該1Pa未満の圧力にするための時間が掛かり過ぎ、被膜形成処理に時間が掛かり過ぎて好ましくない。また、第1真空度と第2真空度とは、50Paを超えるとアモルファス炭素含有被膜の被膜形成性及び内容器体121の表面への密着性が低下する。
【0059】
次に、ガス導入管20からポリエステル樹脂製多重ボトル10内に、ガス状の炭化水素化合物を含む出発原料(以下、「原料ガス」と略記する)を供給する。プラズマCVD装置1では、原料ガスを連続的に供給するとともに、真空ポンプからなる真空装置21により連続的に排気し、真空度を保持する。また、原料ガスの供給量は、対象となるポリエステル樹脂製多重ボトル10の表面積、形成される被膜の厚さに応じて適切な量に設定されるが、内容積200ml~2000mlのサイズのポリエステル樹脂製多重ボトル10に、100~800オングストロームの厚さの被膜を形成するには、多重ボトル表面積当たり0.1~0.8sccm/cm2の範囲とすることが適している。
【0060】
原料ガスとしては、メタン、エタン、プロパン等の脂肪族飽和炭化水素、エチレン、アセチレン等の脂肪族不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、含酸素炭化水素類、含窒素炭化水素類を用いることができるが、より短時間で本発明の特性を有するアモルファスポリマー性薄膜を形成するためには、アセチレンを主体として使用することが好ましい。原料ガスは、単独で用いてもよく、または必要に応じて2種以上混合して用いてもよく、被膜改質剤として少量の水素、酸素、有機珪素化合物、その他の被膜形成性有機化合物を併用してもよい。また、原料ガスは、アルゴン、ヘリウム等の希ガスで希釈して用いるようにしてもよい。
【0061】
そして、原料ガスが供給されている間、マイクロ波発生装置5を作動して、例えば2.45GHz、150~600Wのマイクロ波を、0.3~2.0秒間、好ましくは0.4~1.5秒間照射することにより、原料ガスを電磁励起してプラズマを発生せしめ、ポリエステル樹脂製多重ボトル10の内面にアモルファス炭素被膜(図示省略)を形成する。
【0062】
このとき、原料ガスを連続的に供給するとともに、真空装置21により連続的に排気し、ポリエステル樹脂製多重ボトル10の内部の真空度を保持することにより、安定したアモルファス炭素含有被膜を形成することができる。また、マイクロ波の照射時間が0.3秒未満のときには被膜において所望の膜厚が得られないことがあり、2.0秒を超えると被膜の膜厚が大になり、着色が多くなり外観を損ねることがある。
【0063】
次に、被膜蒸着工程が終了したならば、マイクロ波発生装置5を停止するとともに、処理室4及びポリエステル樹脂製多重ボトル10内を常圧(大気圧)に戻し、ポリエステル樹脂製多重ボトル10を口部保持具11から外して処理室4から取り出すことにより、処理を終了する。マイクロ波発生装置5は、原料ガスの供給が終了と同時に停止してもよいが、短時間延長して照射するようにしてもよい。このようにすることにより、容器中に残存している原料ガス成分を完全に被膜化することができる。
【0064】
ポリエステル樹脂製多重ボトル10の口部保持具11への装着、口部保持具11からの取り外しは、製造工程の利便性を勘案した適宜な方法、装置で行うことができる。
【0065】
本実施形態で得られるポリエステル樹脂製多重ボトル10は、その内容器体121の内面に形成されたアモルファス炭素含有被膜が、酸素や炭酸ガス等に対するガスバリア性に優れているとともに、ポリエステル樹脂製多重ボトル10の内面に対する密着性に優れ、酸素の影響を受け易い内容物の保存性に優れたポリエステル樹脂製多重ボトル10を得ることができ、酸素の影響を受け易い内容物、食用油、化粧品類等の容器として用いることができる。
【0066】
また、内容器体121の内面に形成されたアモルファス炭素含有被膜は、酸素、炭酸ガス等のバリア性に優れる他、内容器体121に収容された内容物中の微量成分を吸着、或は収着し難いという特性も有しているので、かかる特性を生かし、香味や色調が重要な各種内容物や、有効成分の酸化分解や、容器壁への吸着などによるロスが問題となる内容物向け容器として好適に用いることができる。
【0067】
なお、本実施形態では、原料ガスを電磁励起する手段としてマイクロ波発生装置5を用いているが、処理室4に収容されたポリエステル樹脂製多重ボトル10の内外面に電極を配置し、当該電極に高周波を印加するようにしてもよい。但し、ポリエステル樹脂製多重ボトル10に対する密着性、加工性、ガスバリア性に優れた被膜を形成するためには、マイクロ波発生装置5を用いるプラズマCVD装置1が適している。
【0068】
次に、本実施形態の実施例と比較例とについて説明する。なお、実施例及び比較例の筒状胴部114(外殻ボトル本体)の肉厚は0.20~0.40mmの範囲内で全て同一に設定している。同様にして、実施例及び比較例の内容器体本体124の肉厚は、0.04~0.20mmの範囲内で全て同一に設定している。
【0069】
筒状胴部114(外殻ボトル本体)の肉厚が0.4mmを超えると使用者が筒状胴部114(外殻ボトル本体)を押圧しても変形し難くなり、内容器体121内の内容物を取り出し難くなる。また、筒状胴部114(外殻ボトル本体)の肉厚が0.20未満であると、使用者が筒状胴部114(外殻ボトル本体)を押圧した後、押圧を解除しても原形復帰することができず、スクイズ性が得られない。また、内容器体本体124の肉厚が0.20mmを超えると、内容器体本体124が減容変形し難くなり、逆に、内容器体本体124の肉厚が0.04mm未満であると、内容器体本体124を成形する際にピンホールが発生し易く、歩留まりが悪くなってしまう。
【0070】
[実施例]
次に実施例を説明する。本実施形態の外殻ボトル111の元となる有底筒状の外殻ボトル111用の外プリフォーム31の胴部の内面側に離型剤として流動パラフィンを薄膜状に塗布し、外殻ボトル111用の外プリフォーム31よりも薄肉であり内容器体121の元となる有底筒状の内容器体121用の内プリフォーム33を外プリフォーム31に挿入して積重し、外殻ボトル111の形状が転写された二軸延伸用金型(図示省略)にセットした。その際、金型(図示省略)としては、内容積500mlで、外殻ボトル111に
図1に示す縦リブ220が形成される金型(図示省略)を用いた。次に、外プリフォーム31及び内プリフォーム33を所定の延伸温度に加熱した状態で、外プリフォーム31及び内プリフォーム33の口部に配置した延伸ロッド(図示省略)を延伸して内プリフォーム33と外プリフォーム31を延伸しながら、内プリフォーム33の内部にブロー圧をかけ、外プリフォーム31及び内プリフォーム33を同時にブロー成形し、外殻ボトル111と内容器体本体124とが見かけ上密接し、ヒール部210に連接する部位に金型(図示省略)に対応する縦リブ220が形成された500mlのポリエステル樹脂製多重ボトル10を形成した。
【0071】
次に、縦リブ220が形成されたポリエステル樹脂製多重ボトル10を、
図4に示すプラズマCVD装置1の処理室4内に開閉自在な挿入口(図示省略)から収納した。
【0072】
次に、処理室4及びポリエステル樹脂製多重ボトル10の内部を減圧するとともに、ポリエステル樹脂製多重ボトル10内に原料ガスとして多重ボトル表面積当たり0.4sccm/cm2のアセチレンガスを供給し、第1真空度及び第2真空度を10Paの真空度に維持しつつ、第3真空度を5000Paの真空度に維持しつつ、2.45GHz、380Wのマイクロ波を、0.6秒間照射することにより、内面にアモルファス炭素含有被膜の形成したポリエステル樹脂製多重ボトル10を製造し、処理室4の真空度を常圧(大気圧)に戻してポリエステル樹脂製多重ボトル10を取り出した。
【0073】
このようにして得られたアモルファス炭素含有被膜が形成されたポリエステル樹脂製多重ボトル10の被膜状態は正常で、ヒール部210及びその近傍に、微小膨出部や皺部の発生は無く、被膜厚さは450オングストロームであった。
【0074】
[比較例]
次いで、
図1Bを参照して、比較例を説明する。比較例のポリエステル樹脂製多重ボトルは、実施例のポリエステル樹脂製多重ボトル10と比較して、縦リブ220を形成していない以外は、同じ形状、及び同じ構成のボトルであり、実施例と同様の条件で内容器体の内面へのアモルファス炭素含有被膜形成を行い、処理室を常圧(大気圧)に戻して取り出した。
【0075】
その結果、比較例における100本の処理ボトルを観察したところ、そのうちの3本に、ヒール部から、該ヒール部に連接する胴部にかけての内容器体に、微小膨出部が収縮して形成したと推定される縦方向長さ3~5mm、横方向幅1~2mmのアモルファス炭素含有被膜が不均一に形成された皺状部が発生していた。
【0076】
以上、本実施形態のポリエステル樹脂製多重ボトル10について説明したが、実施例に示す如く、本実施形態の製造方法により得られたアモルファス炭素含有被膜が形成されたポリエステル樹脂製多重ボトル10は、CVD処理に伴う発熱の悪影響を排するための優れた縦リブ効果を備えていることが分かった。
【0077】
本実施形態の縦リブ220は、ヒール部210に連接して、外口部112の方向に、縦軸方向で形成されているが、リブが傾斜していても、また、複数のリブが交差するように形成されていても良く、縦リブが、連続、或いは断続して、外口部112の近傍の肩部まで続いていても良い。
【符号の説明】
【0078】
1 プラズマCVD装置
2 側壁
3 底板
4 処理室
5 マイクロ波発生装置
6 側壁
7 上壁
8 排気室
9 隔壁
10 ポリエステル樹脂製多重ボトル
11 口部保持具
11a 貫通孔
11b 拡径部
11c ボール
11e 環状弾性部材
12 排気孔
14 Oリング
16 通気口
17 バルブ
20 ガス導入管
21 真空装置
31 外プリフォーム
33 内プリフォーム
111 外殻ボトル
112 外口部
114 筒状胴部(外殻ボトル本体)
121 内容器体
122 内口部
124 内容器体本体
131 通気路
210 ヒール部
220 縦リブ