(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162774
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】電気化学反応器用の電極及び電気化学反応器用の電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/052 20210101AFI20231101BHJP
C25B 11/031 20210101ALI20231101BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20231101BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20231101BHJP
C25B 11/075 20210101ALI20231101BHJP
C25B 11/055 20210101ALI20231101BHJP
C25B 11/02 20210101ALI20231101BHJP
【FI】
C25B11/052
C25B11/031
C25B11/065
C25B11/081
C25B11/075
C25B11/055
C25B11/02 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073400
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 涼
(72)【発明者】
【氏名】坂本 淑幸
(72)【発明者】
【氏名】西村 友作
(72)【発明者】
【氏名】水野 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹田 康彦
【テーマコード(参考)】
4K011
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA20
4K011AA23
4K011AA29
4K011AA30
4K011AA48
4K011AA68
4K011DA10
4K011DA11
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成する電気化学反応器を作動させた際に、高い電流密度が得られる電気化学反応器用の電極を提供する。
【解決手段】二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成する電気化学反応器用の電極1であって、導電性多孔質基板2と、導電性多孔質基板2上に設けられる電極触媒層3とを備え、電極触媒層3の比表面積が10m
2/g以上であることを特徴とする電気化学反応器用の電極1である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成する電気化学反応器用の電極であって、
導電性多孔質基板と、前記導電性多孔質基板上に設けられる電極触媒層とを備え、
前記電極触媒層の比表面積が10m2/g以上であることを特徴とする電気化学反応器用の電極。
【請求項2】
二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成する電気化学反応器用の電極であって、
導電性多孔質基板と、前記導電性多孔質基板上に設けられる電極触媒層とを備え、
前記電極触媒層は、前記導電性多孔質基板上に設けられる下層と、前記下層上に設けられる上層とを有し、
前記上層の比表面積は10m2/g以上であり、前記下層の比表面積より大きいことを特徴とする電気化学反応器用の電極。
【請求項3】
前記電気化学反応器用の電極は、カソード電極であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気化学反応器用の電極。
【請求項4】
前記導電性多孔質基板は、炭素材料、及びポリテトラフルオロエチレンを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気化学反応器用の電極。
【請求項5】
前記導電性多孔質基板の厚みは、100μm~400μmの範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気化学反応器用の電極。
【請求項6】
前記電極触媒層は、Au、Ag、Zn、Fe、Co、Ni、Cu、Sn、Bi、Mo、Pb、Pt、Pdから選択される少なくとも1種の金属を含み、炭素元素を含まないことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気化学反応器用の電極。
【請求項7】
前記電極触媒層の厚みは、10nm~5μmの範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気化学反応器用の電極。
【請求項8】
二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成する電気化学反応器用の電極の製造方法であって、
導電性多孔質基板上に、比表面積が10m2/g以上である電極触媒層を形成する電極触媒層形成工程を備え、
前記電極触媒層形成工程は、導電性多孔質基板上に触媒及び前記触媒とは異なる元素を同時に成膜する第1工程と、
前記第1工程の成膜により得られた成膜物から前記触媒とは異なる元素を除去して、前記電極触媒層を形成する第2工程と、を備えることを特徴とする電気化学反応器用の電極の製造方法。
【請求項9】
二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成する電気化学反応器用の電極の製造方法であって、
導電性多孔質基板上に設けられる下層と、前記下層上に設けられる上層とを有し、前記上層の比表面積が10m2/g以上であり、前記下層の比表面積より大きい電極触媒層を形成する電極触媒層形成工程を備え、
前記電極触媒層形成工程は、導電性多孔質基板上に触媒を成膜して、前記下層を形成す第1工程と、
前記下層上に触媒及び前記触媒とは異なる元素を同時に成膜する第2工程と、
前記第2工程の成膜により得られた成膜物から前記触媒とは異なる元素を除去して、前記上層を形成する第3工程と、を備えることを特徴とする電気化学反応器用の電極の製造方法。
【請求項10】
前記成膜の方法は、気相成長法又は液相成長法であり、前記気相成長法は、蒸着、スパッタリング又はプラズマCVDであり、前記液相成長法は、電解めっき又は無電解めっきである、請求項8又は9に記載の電気化学反応器用の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学反応器用の電極及び電気化学反応器用の電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー問題と環境問題の両方の観点から、太陽光などの再生可能エネルギーを電気エネルギーに変換して利用するだけでなく、それを貯蔵し且つ運搬可能な状態に変換することが望まれている。この要望に対して、植物による光合成のように太陽光を用いて化学物質を生成する人工光合成技術の研究開発が進められている。この技術により、再生可能エネルギーを貯蔵可能な燃料として貯蔵する可能性もでき、また、工業原料となる化学物質を生成することにより、価値を生み出すことも期待される。
【0003】
太陽光などの再生可能エネルギーを用いて化学物質を生成する装置として、例えば、二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成する電気化学反応器が知られている(例えば、特許文献1~3)。このような電気化学反応器は、例えば、二酸化炭素(CO2)を還元するカソード電極(還元側電極)と、水(H2O)を酸化するアノード電極(酸化側電極)とを備える。
【0004】
例えば、非特許文献1,2には、多孔質導電性基板に電極触媒をスパッタリングにより成膜して、多孔質導電性基板上に電極触媒層を形成したカソード電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/204938号
【特許文献2】国際公開第2021/207857号
【特許文献3】国際公開第2020/223804号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】C. T. Dinh et al., “High Rate, Selective, and Stable Electroreduction of CO2 to CO in Basic and Neutral Media”, ACS Energy Letter, 2018, 3(11), 2835-2840
【非特許文献2】C. P. O’Brien et al., “Single Pass CO2 Conversion Exceeding 85% in the Electrosynthesis of Multicarbon Products via Local CO2 Regeneration”, ACS Energy Letter, 2021, 6(8), 2952-2959
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来のスパッタリングによる電極触媒の成膜方法では、基板に電極触媒を担持させるためのバインダーが不要となるため、バインダーによる電極触媒の被毒や、電極内での反応物や生成物の拡散阻害が起き難い。しかしながら、従来のスパッタリングによる電極触媒の成膜方法により得られた触媒層では高い比表面積を得ることが困難である。そのため、電気化学反応器を作動させた際に、電極の反応過電圧が大きく、大きな電流密度が得られない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成する電気化学反応器を作動させた際に、高い電流密度が得られる電気化学反応器用の電極及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成する電気化学反応器用の電極であって、導電性多孔質基板と、前記導電性多孔質基板上に設けられる電極触媒層とを備え、前記電極触媒層の比表面積が10m2/g以上であることを特徴とする電気化学反応器用の電極である。
【0010】
また、本発明は、二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成する電気化学反応器用の電極であって、導電性多孔質基板と、前記導電性多孔質基板上に設けられる電極触媒層とを備え、前記電極触媒層は、前記導電性多孔質基板上に設けられる下層と、前記下層上に設けられる上層とを有し、前記上層の比表面積は10m2/g以上であり、前記下層の比表面積より大きいことを特徴とする電気化学反応器用の電極である。
【0011】
また、前記電気化学反応器用の電極は、カソード電極であることが好ましい。
【0012】
また、前記電気化学反応器用の電極において、前記導電性多孔質基板は、炭素材料、及びポリテトラフルオロエチレンを含むことが好ましい。
【0013】
また、前記電気化学反応器用の電極において、前記導電性多孔質基板の厚みは、100μm~400μmの範囲であることが好ましい。
【0014】
また、前記電気化学反応器用の電極において、前記電極触媒層は、Au、Ag、Zn、Fe、Co、Ni、Cu、Sn、Bi、Mo、Pb、Pt、Pdから選択される少なくとも1種の金属を含み、炭素元素を含まないことが好ましい。
【0015】
また、前記電気化学反応器用の電極において、前記電極触媒層の厚みは、10nm~5μmの範囲であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成する電気化学反応器用の電極の製造方法であって、導電性多孔質基板上に、比表面積が10m2/g以上である電極触媒層を形成する電極触媒層形成工程を備え、前記電極触媒層形成工程は、導電性多孔質基板上に触媒及び前記触媒とは異なる元素を同時に成膜する第1工程と、前記第1工程の成膜により得られた成膜物から前記触媒とは異なる元素を除去して、前記電極触媒層を形成する第2工程と、を備えることを特徴とする電気化学反応器用の電極の製造方法である。
【0017】
また、本発明は、二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成する電気化学反応器用の電極の製造方法であって、導電性多孔質基板上に設けられる下層と、前記下層上に設けられる上層とを有し、前記上層の比表面積が10m2/g以上であり、前記下層の比表面積より大きい電極触媒層を形成する電極触媒層形成工程を備え、前記電極触媒層形成工程は、導電性多孔質基板上に触媒を成膜して、前記下層を形成す第1工程と、前記下層上に触媒及び前記触媒とは異なる元素を同時に成膜する第2工程と、前記第2工程の成膜により得られた成膜物から前記触媒とは異なる元素を除去して、前記上層を形成する第3工程と、を備えることを特徴とする電気化学反応器用の電極の製造方法である。
【0018】
また、前記電気化学反応器用の電極の製造方法において、前記成膜の方法は、気相成長法又は液相成長法であり、前記気相成長法は、蒸着、スパッタリング又はプラズマCVDであり、前記液相成長法は、電解めっき又は無電解めっきであることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成する電気化学反応器を作動させた際に、高い電流密度が得られる電気化学反応器用の電極及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係る電気化学反応器用の電極の一例を示す断面図である。
【
図2】本実施形態に係る電気化学反応器用の電極の他の一例を示す断面図である。
【
図3】本実施形態に係る電気化学反応器の一例を示す概略構成図である。
【
図4】実施例及び比較例の印加電圧に対するCO部分電流密度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0022】
[電気化学反応器用の電極]
図1は、本実施形態に係る電気化学反応器用の電極の一例を示す断面図である。電気化学反応器は、二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成することができる装置である。そして、本実施形態に係る電気化学反応器用の電極は、電気化学反応器に使用されるアノード電極及びカソード電極のうちの少なくともいずれか一方に使用される。
【0023】
図1に示す電気化学反応器用の電極1は、導電性多孔質基板2と、導電性多孔質基板2上に設けられる電極触媒層3とを備え、電極触媒層3の比表面積は10m
2/g以上である。
【0024】
導電性多孔質基板2は、例えば、炭素材料とポリテトラフルオロエチレンを含むことが好ましく、具体的には、ポリテトラフルオロエチレンで撥水処理されたカーボンペーパー等が挙げられる。但し、導電性多孔質基板2は上記に限定されるものではなく、その他に、例えば、チタン、チタン合金、またはステンレス鋼等から構成される金属多孔質体や金属メッシュ等でもよい。導電性多孔質基板2の厚みは、例えば、100μm~400μmの範囲であることが好ましい。
【0025】
電極触媒層3は、触媒を含む。電気化学反応器用の電極1が、アノード電極として使用される場合には、触媒は、例えば、水の酸化反応を促す金属触媒が使用される。また、電気化学反応器用の電極1が、カソード電極として使用される場合には、触媒は、例えば、二酸化炭素の還元反応を促す金属触媒が使用される。各触媒の具体例については後述する。電極触媒層3の厚みは、例えば、10nm~5μmの範囲であることが好ましい。
【0026】
図1に示す電気化学反応器用の電極1の製造方法の一例について説明する。当該方法は、導電性多孔質基板2上に、比表面積が10m
2/g以上である電極触媒層3を形成する電極触媒層形成工程を備える。当該電極触媒層形成工程は、導電性多孔質基板2上に触媒及び前記触媒とは異なる元素を同時に成膜する第1工程と、前記第1工程の成膜により得られた成膜物から前記触媒とは異なる元素を除去して、比表面積が10m
2/g以上である電極触媒層3を形成する第2工程と、を備える。
【0027】
第1工程における成膜方法は、気相成長法又は液相成長法である。気相成長法は、例えば、蒸着、スパッタリング、プラズマCVD等である。また、液相成長法は、電解めっき、無電解めっき等である。
【0028】
カソード電極を作製する場合、第1工程で導電性多孔質基板2上に成膜される触媒は、例えば、Au、Ag、Zn、Fe、Co、Ni、Cu、Sn、Bi、Mo、Pb、Pt、Pdから選択される少なくとも1種の金属が好ましい。また、アノード電極を作製する場合、第1工程で導電性多孔質基板2上に成膜される触媒は、例えば、Ni、Fe、Co、Mn、Ru、Ir、Pt、Rhから選択される少なくとも1つの金属が好ましい。
【0029】
また、第1工程で導電性多孔質基板2上に成膜される触媒とは異なる元素は、第1工程で得られる成膜物中に触媒として残したい元素より、酸溶液に対して溶解し易い元素又は電気化学ポテンシャルの高い元素等であれば特に限定されない。例えば、成膜物中にAuを触媒として残したい場合、Auより酸溶液に対して溶解し易い元素又は電気化学ポテンシャルの高い元素等であればよい。
【0030】
第1工程において、導電性多孔質基板2上に成膜する触媒及び前記触媒とは異なる元素の比率は、原子比で、1:9~4:6の範囲が好ましい。触媒とは異なる元素の比率が少な過ぎると、第2工程で、成膜物から除去する元素が少なく、比表面積の高い電極触媒層3が得られない場合がある。
【0031】
第2工程では、例えば、第1工程の成膜により得られた成膜物を酸溶液に浸漬して又は硝酸や硫酸等の酸性水溶液中で電圧を印加し、電気化学的に溶出させることで、成膜物から触媒とは異なる元素を除去して、比表面積が10m2/g以上である電極触媒層3を形成する。酸溶液は特に限定されないが、濃硝酸や濃硫酸等が挙げられる。
【0032】
このようにして、導電性多孔質基板2上に比表面積が10m2/g以上である電極触媒層3が形成された電気化学反応器用の電極1が得られる。このような高い比表面積の電極触媒層を有する電極を、二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成する電気化学反応器に使用することで、当該電気化学反応器を作動させた際に、高い電流密度が得られる。これにより、二酸化炭素還元において高い活性が得られるため、例えば、電気化学反応に印加する電圧が低減でき、反応エネルギー変換効率を向上させることが可能となる。また、当該電気化学反応器を作動させた際に、高い電流密度が得られるため、電気化学反応器の体格の低減、低コスト化が可能となる。
【0033】
ところで、従来のように、触媒及びバインダーを含むスラリーを導電性多孔質基板上に塗布することにより電極触媒層を作製する場合、当該電極触媒層には、スラリー中に含まれるバインダー由来の炭素元素が含まれる。しかし、本実施形態の電気化学反応器用の電極は、気相成長法又は液相成長法により電極触媒層が形成されるため、当該電極触媒層には、バインダー由来の炭素元素等の炭素元素は含まれない。したがって、本実施形態の電気化学反応器用の電極では、バインダーによる触媒の被毒は起きないし、電極内での反応物や生成物の拡散阻害も起きにくい。
【0034】
電極触媒層3の比表面積は、電気化学反応器を作動させた際に、より高い電流密度が得られる点で、20m2/g以上であることが好ましく、30m2/g以上であることがより好ましい。なお、高い電流密度が得られる点では、電極触媒層3の比表面積の上限は特に限定されないが、比表面積が大きすぎると、導電性多孔質基板2から電極触媒層3が剥離し易くなるため、その点では、100m2/g以下であることが好ましい。
【0035】
電極触媒層3の比表面積は、電極1全体の比表面積と、導電性多孔質基板2の比表面積を求め、得られた値から、以下の式(1)を用いて求められる。電極1全体の比表面積及び導電性多孔質基板2の比表面積はBET法により測定した値である。
電極触媒層の比表面積(m2/g)=(電極全体の比表面積(m2/g)×電極全体の重量(g)-導電性多孔質基板の比表面積(m2/g)×導電性多孔質基板の重量(g))÷触媒層の重量(g) ・・・(1)
【0036】
図2は、本実施形態に係る電気化学反応器用の電極の他の一例を示す断面図である。
図2に示す電気化学反応器用の電極1は、導電性多孔質基板2と、導電性多孔質基板2上に設けられる電極触媒層3とを備え、電極触媒層3は複数層から構成される。具体的には、電極触媒層3は、導電性多孔質基板2上に設けられる下層4と、下層4上に設けられる上層5とを有し、上層5の比表面積は10m
2/g以上であり、下層4の比表面積より大きい。
【0037】
導電性多孔質基板2は、前述と同様であり、その説明を省略する。
【0038】
電極触媒層3を構成する下層4及び上層5は、触媒を含む。触媒は、前述の通り、アノード電極として使用される場合にはアノード電極用の触媒が使用され、カソード電極として使用される場合にはカソード電極用の触媒が使用される。但し、下層4に含まれる触媒と上層5に含まれる触媒は異なるものを使用してもよい。
【0039】
図2に示す電気化学反応器用の電極1の製造方法の一例について説明する。当該方法は、導電性多孔質基板2上に設けられる下層4と、下層4上に設けられる上層5とを有し、上層5の比表面積が10m
2/g以上であり、下層4の比表面積より大きい電極触媒層3を形成する電極触媒層形成工程を備える。当該電極触媒層形成工程は、導電性多孔質基板2上に触媒を製膜して、下層4を形成する第1工程と、下層4上に触媒及び前記触媒とは異なる元素を同時に成膜する第2工程と、前記第2工程の成膜により得られた成膜物から前記触媒とは異なる元素を除去して、比表面積が10m
2/g以上であり、下層4の比表面積より大きい上層5を形成する第3工程と、を備える。
【0040】
第1工程及び第2工程における成膜方法は、気相成長法又は液相成長法である。気相成長法は、例えば、蒸着、スパッタリング、プラズマCVD等である。また、液相成長法は、電解めっき、無電解めっき等である。
【0041】
カソード電極を作製する場合、第1工程で導電性多孔質基板2上に成膜される触媒及び第2工程で下層4上に成膜される触媒は、例えば、触媒活性の点で、Au、Ag、Zn、Fe、Co、Ni、Cu、Sn、Bi、Mo、Pb、Pt、Pdから選択される少なくとも1種の金属が好ましい。また、アノード電極を作製する場合、第1工程で導電性多孔質基板2上に成膜される触媒及び第2工程で下層4上に成膜される触媒は、例えば、触媒活性の点で、Ni、Fe、Co、Mn、Ru、Ir、Pt、Rhから選択される少なくとも1つの金属が好ましい。
【0042】
また、第2工程で下層4上に成膜される触媒とは異なる元素は、第2工程で得られる成膜物中に触媒として残したい元素より、酸溶液に対して溶解し易い元素又は電気化学ポテンシャルの高い元素等であれば特に限定されない。例えば、成膜物中にAuを触媒として残したい場合、Auより酸溶液に対して溶解し易い元素又は電気化学ポテンシャルの高い元素等であればよい。
【0043】
第2工程において、下層4上に成膜する触媒及び前記触媒とは異なる元素の比率は、原子比で、1:9~4:6の範囲が好ましい。触媒とは異なる元素の比率が少な過ぎると、第3工程で、成膜物から除去する元素が少なく、比表面積の高い上層5が得られない場合がある。
【0044】
第3工程では、例えば、第1工程の成膜により得られた成膜物を酸溶液に浸漬して又は硝酸や硫酸等の酸性水溶液中で電圧を印加し、電気化学的に溶出させることで、成膜物から触媒とは異なる元素を除去して、比表面積が10m2/g以上である上層5を形成する。酸溶液は特に限定されないが、濃硝酸や濃硫酸等が挙げられる。
【0045】
このようにして、導電性多孔質基板2上に比表面積が10m2/g以上である上層5を有する電極触媒層3が形成された電気化学反応器用の電極1が得られる。したがって、前述したように、当該電気化学反応器を作動させた際に、高い電流密度が得られ、ひいては、電気化学反応に印加する電圧が低減でき、反応エネルギー変換効率を向上させることが可能となり、さらには、電気化学反応器の体格の低減や低コスト化が可能となる。また、本実施形態の電気化学反応器用の電極は、気相成長法又は液相成長法により下層及び上層が形成されるため、上層及び下層には、バインダー由来の炭素元素等の炭素元素は含まれない。そして、本実施形態の電気化学反応器用の電極では、バインダーによる触媒の被毒は起きないし、電極内での反応物や生成物の拡散阻害も起きにくい。
【0046】
上層5の比表面積は、電気化学反応器を作動させた際に、より高い電流密度が得られる点で、20m2/g以上であることが好ましく、30m2/g以上であることがより好ましい。なお、高い電流密度が得られる点では、上層5の比表面積の上限は特に限定されないが、比表面積が大きすぎると、導電性多孔質基板2から上層5が剥離し易くなるため、その点では、100m2/g以下であることが好ましい。下層4の比表面積は、例えば、10m2/g未満であることが好ましい。なお、本実施形態において、電極触媒層が3層以上の層から構成される場合、最表面の層が上層5に相当し、上層5の下にある全ての層(複数層)が下層4に相当する。
【0047】
上層5の比表面積及び下層4の比表面積は、・・・を求め、得られた値から、以下の式(2)又は式(3)を用いて求められる。
上層の比表面積(m2/g)=電極触媒層全体の比表面積(m2/g)×上層の触媒層重量(g)÷電極触媒層全体の重量(g) ・・・(2)
下層の比表面積(m2/g)=電極触媒層全体の比表面積(m2/g)×下層の触媒層重量(g)÷電極触媒層全体の重量(g) ・・・(3)
【0048】
以下に、本実施形態の電気化学反応器用の電極を使用した電気化学反応器について説明する。
【0049】
図3は、本実施形態に係る電気化学反応器の一例を示す概略構成図である。
図3に示す電気化学反応器10は、アノード部12、カソード部14、イオン伝導性ポリマー膜16を備えている。
【0050】
アノード部12は、アノード電極18、アノード側流路20、アノード集電板22を備えている。アノード電極18は、イオン伝導性ポリマー膜16とアノード側流路20との間に、それらと接するように配置されている。
【0051】
アノード側流路20は、アノード電極18にアノード流体を供給する流路であり、アノード集電板22に設けられたピット(溝部又は凹部)により形成されている。アノード流体は、例えば、水、純水等である。アノード流体は、アノード電極18による水の酸化反応を高める点で、電解質を含むことが好ましく、例えば、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、硫酸カリウム(K2SO4)、四ホウ酸カリウム(K2B4O7)、リン酸水素二カリウム(K2HPO4)、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)、水酸化カリウム(KOH)等が挙げられる。
【0052】
カソード部14は、カソード電極24、カソード側流路26、カソード集電板28を備えている。カソード電極24は、カソード側流路26とイオン伝導性ポリマー膜16との間に、それらと接するように配置されている。
【0053】
カソード側流路26は、カソード電極24にカソード流体を供給する流路であり、カソード集電板28に設けられたピット(溝部又は凹部)により形成されている。カソード流体は、例えば、二酸化炭素ガスである。二酸化炭素ガスとは、二酸化炭素を含むガスであり、好ましくは二酸化炭素及び水蒸気を含むガスである。
【0054】
イオン伝導性ポリマー膜16は、アノード電極18とカソード電極24により挟持されている。すなわち、アノード電極18とカソード電極24とはイオン伝導性ポリマー膜16により分離されている。イオン伝導性ポリマー膜16としては、例えばナフィオンやフレミオンのようなカチオン交換膜、ネオセプタやセレミオン、サステニオンのようなアニオン交換膜を使用することができる。
【0055】
アノード電極18は、例えば、アノード流体中の水(H2O)の酸化反応を促し、酸素(O2)や水素イオン(H+)を生成する電極(酸化電極)である。アノード電極18は、例えば、導電性多孔質基板と、導電性多孔質基板上に設けられるアノード触媒層とを有する。アノード電極18では、イオン伝導性ポリマー膜16側から順に、アノード触媒層、導電性多孔質基板が配置される。また、カソード電極24は、例えば、二酸化炭素の還元反応を促し、一酸化炭素やメタン等の二酸化炭素還元生成物を生成する電極(還元電極)である。カソード電極24は、例えば、導電性多孔質基板と、導電性多孔質基板上に設けられるカソード触媒層とを有する。カソード電極24では、イオン伝導性ポリマー膜16側から順に、カソード触媒層、導電性多孔質基板が配置される。
【0056】
ここで、アノード電極18及びカソード電極24のうちの少なくともいずれか一方は、前述した電気化学反応器用の電極が適用される。すなわち、アノード電極18やカソード電極24に前述した電気化学反応器用の電極を適用する場合には、アノード触媒層やカソード触媒層が、前述の電極触媒層3に相当する。導電性多孔質基板、電極触媒層の構成については前述の通りであり、その説明を省略する。
【0057】
アノード集電板22は、化学反応性が高く、導電性が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。
【0058】
カソード集電板28は、アノード集電板22と同様に、化学反応性が低く、導電性が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。
【0059】
図3に示す符号30は、アノード電極18とカソード電極24との間を電気的に接続し、電力を供給する電源である。電源30は、特に限定されるものではなく、化学的電池(一次電池、二次電池等を含む)、定電圧源、太陽電池セル等が挙げられる。電源30として太陽電池セルを用いることにより、電気化学反応器10と、アノード電極18とカソード電極24に供給される電力を生成する太陽電池セルと、を備える人工光合成装置とすることができる。人工光合成装置は、電気化学反応器10のアノード電極18とカソード電極24が太陽電池セルを介して接続され、太陽光をエネルギー源として駆動される。
【0060】
次に、
図3に示す電気化学反応器10の動作例について説明する。
【0061】
アノード流体として、例えば炭酸水素カルシウム等の電解質を含む水溶液が、アノード側流路20を通り、アノード電極18に供給される。また、カソード流体として、例えば、二酸化炭素ガスが、カソード側流路26を通り、カソード電極24に供給される。ここで、電源30により、カソード電極24とアノード電極18との間に電圧が印加されると、アノード電極18側では、電解質を含む水溶液が、アノード触媒層に接触した際に、例えば、水溶液中の水が酸化されて、酸素(O2)と水素イオン(H+)とが生成される。また、カソード電極24側では、二酸化炭素ガス中の二酸化炭素が、イオン伝導性ポリマー膜16を通してカソード電極24側に移動してきた水素イオン、電源30から供給された電子等により還元されて、炭素化合物が生成される。生成する炭素化合物としては、例えば、一酸化炭素(CO)、蟻酸(HCOOH)、メタン(CH4)、メタノール(CH3OH)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、エタノール(C2H5OH)、プロパノール(C3H7OH)等である。また、カソード電極24では、水の還元反応により水素(H2)が生成される。
【0062】
「本願発明の構成」
構成1:
二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成する電気化学反応器用の電極であって、
導電性多孔質基板と、前記導電性多孔質基板上に設けられる電極触媒層とを備え、
前記電極触媒層の比表面積が10m2/g以上であることを特徴とする電気化学反応器用の電極。
構成2:
二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成する電気化学反応器用の電極であって、
導電性多孔質基板と、前記導電性多孔質基板上に設けられる電極触媒層とを備え、
前記電極触媒層は、前記導電性多孔質基板上に設けられる下層と、前記下層上に設けられる上層とを有し、
前記上層の比表面積は10m2/g以上であり、前記下層の比表面積より大きいことを特徴とする電気化学反応器用の電極。
構成3:
前記電気化学反応器用の電極は、カソード電極であることを特徴とする構成1又は2に記載の電気化学反応器用の電極。
構成4:
前記導電性多孔質基板は、炭素材料、及びポリテトラフルオロエチレンを含むことを特徴とする構成1~3のいずれか1つに記載の電気化学反応器用の電極。
構成5:
前記導電性多孔質基板の厚みは、100μm~400μmの範囲であることを特徴とする構成1~4のいずれか1つに記載の電気化学反応器用の電極。
構成6:
前記電極触媒層は、Au、Ag、Zn、Fe、Co、Ni、Cu、Sn、Bi、Mo、Pb、Pt、Pdから選択される少なくとも1種の金属を含み、炭素元素を含まないことを特徴とする構成1~5のいずれか1つに記載の電気化学反応器用の電極。
構成7:
前記電極触媒層の厚みは、10nm~5μmの範囲であることを特徴とする構成1~6のいずれか1つに記載の電気化学反応器用の電極。
構成8:
二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成する電気化学反応器用の電極の製造方法であって、
導電性多孔質基板上に、比表面積が10m2/g以上である電極触媒層を形成する電極触媒層形成工程を備え、
前記電極触媒層形成工程は、導電性多孔質基板上に触媒及び前記触媒とは異なる元素を同時に成膜する第1工程と、
前記第1工程の成膜により得られた成膜物から前記触媒とは異なる元素を除去して、前記電極触媒層を形成する第2工程と、を備えることを特徴とする電気化学反応器用の電極の製造方法。
構成9:
二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成する電気化学反応器用の電極の製造方法であって、
導電性多孔質基板上に設けられる下層と、前記下層上に設けられる上層とを有し、前記上層の比表面積が10m2/g以上であり、前記下層の比表面積より大きい電極触媒層を形成する電極触媒層形成工程を備え、
前記電極触媒層形成工程は、導電性多孔質基板上に触媒を成膜して、前記下層を形成す第1工程と、
前記下層上に触媒及び前記触媒とは異なる元素を同時に成膜する第2工程と、
前記第2工程の成膜により得られた成膜物から前記触媒とは異なる元素を除去して、前記上層を形成する第3工程と、を備えることを特徴とする電気化学反応器用の電極の製造方法。
構成10:
前記成膜の方法は、気相成長法又は液相成長法であり、前記気相成長法は、蒸着、スパッタリング又はプラズマCVDであり、前記液相成長法は、電解めっき又は無電解めっきである、構成8又は9に記載の電気化学反応器用の電極の製造方法。
【実施例0063】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
<実施例>
[カソード電極]
ポリテトラフルオロエチレンで撥水処理したカーボンペーパー(SGL Carbon社製、SIGRACET 39BB)上に、スパッタリング法によりAuを50nmの厚さで成膜して下層を形成した。成膜条件としては、成膜速度を2Å/s、圧力を3.0×10-2Paに設定した。次に、下層上に、スパッタリング法により、AuとAgを同時に、1μmの厚さで成膜して上層を形成した。成膜条件としては、Auの成膜速度を2Å/s、Agの成膜速度を6Å/s、圧力を3.0×10-2Paに設定した。この電極を、70%の濃度の濃硝酸に10分間浸漬して、上層からAgを溶出させた。
【0065】
前述の式(1)から算出した電極触媒層の比表面積は39.7m2/gであった。また、前述の式(2)から算出した上層の比表面積は33.1m2/gであり、前述の式(3)から算出した下層の比表面積は6.62m2/gであった。
【0066】
[アノード電極]
アノード電極は、Tiメッシュ上に、スパッタリング法によりIrを50μmの厚さで成膜して電極触媒層を形成した。
【0067】
[電気化学反応器]
デュポン製の陽イオン交換膜 Nafion N115を、上記アノード電極及び上記カソード電極とで挟持した。この膜/電極接合体を、カソード流路が形成されたステンレス製のカソード集電板とアノード流路が形成されたチタン製のアノード集電板とで挟持した。カソード集電板及びアノード集電板は、カソード流路及びアノード流路が膜/電極接合体に接するように配置した。これを電気化学反応器とした。
【0068】
[二酸化炭素電解]
上記電気化学反応器を用いて、二酸化炭素電解を行った。具体的には、カソード流路に二酸化炭素ガスを100mL/min、アノード流路に0.5mol/Lの水酸化カリウム水溶液を100mL/minの流速で供給した。そして、カソード電極とアノード電極の間に2V、2.25V、2.5V、2.75V、3V、3.25Vの電圧を印加し、各電圧印加時の電流を測定した。この電解処理の間、カソード電極で生成したガスをガスクロマトグラフィによって分析し、CO濃度とH2濃度を測定した。
【0069】
<比較例>
[カソード電極]
ポリテトラフルオロエチレンで撥水処理したカーボンペーパー(SGL Carbon社製、SIGRACET 39BB)上に、スパッタリング法によりAuを300nmの厚さで成膜して電極触媒層を形成した。成膜条件としては、成膜速度を2Å/s、圧力を3.0×10-2Paに設定した。前述の式(1)から算出した電極触媒層の比表面積は5.93m2/gであった。
【0070】
上記作製したカソード電極を用いたこと以外は、実施例と同様に、電気化学反応器を作製し、二酸化炭素電解を行った。
【0071】
図4は、実施例及び比較例の印加電圧に対するCO部分電流密度を示すグラフである。
図4の横軸は、実施例及び比較例の電気化学反応器に印加した電圧であり、縦軸は、電圧印加時のCO部分電流密度である。CO部分電流密度は、測定した電圧印加時の電流、CO濃度、及びH
2濃度から算出した。
図4に示すように、いずれの印加電圧においても、実施例の方が、比較例より、高いCO部分電流密度を示した。すなわち、実施例の方が、比較例より、二酸化炭素の還元反応の活性が高いと言える。
1 電気化学反応器用の電極、2 導電性多孔質基板、3 電極触媒層、4 下層、5 上層、10 電気化学反応器、12 アノード部、14 カソード部、16 イオン伝導性ポリマー膜、18 アノード電極、20 アノード側流路、22 アノード集電板、24 カソード電極、26 カソード側流路、28 カソード集電板、30 電源。