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特開2023-162776ハイブリッド車両の制御方法及び制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162776
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御方法及び制御システム
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/06 20060101AFI20231101BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20231101BHJP
   B60K 6/387 20071001ALI20231101BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20231101BHJP
   B60W 20/40 20160101ALI20231101BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20231101BHJP
【FI】
F16D28/00 A
B60K6/48 ZHV
B60K6/387
B60W10/02 900
B60W20/40
B60K6/547
F16D48/06 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073404
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】小林 素身
(72)【発明者】
【氏名】鍜冶 昌宏
【テーマコード(参考)】
3D202
3J057
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB00
3D202BB37
3D202BB64
3D202CC35
3D202CC37
3D202CC42
3D202DD05
3D202DD10
3D202DD38
3D202DD41
3D202FF07
3D202FF13
3J057AA03
3J057BB04
3J057GA67
3J057GB02
3J057GB09
3J057GB13
3J057GB14
3J057GB22
3J057GE07
3J057GE11
3J057GE13
3J057HH02
3J057JJ01
(57)【要約】
【課題】摩擦締結要素を解放状態から締結状態へと移行させる油圧制御を行うときに、油圧センサによって検出された実油圧に基づき学習を行うことで油圧制御を的確に行えるようにする。
【解決手段】ハイブリッド車両1においてコントローラ20は、第1クラッチCL1(摩擦締結要素)を解放状態から締結状態へと移行させる油圧制御を行う場合に、第1クラッチに付与された推定油圧を求め、この推定油圧に基づき、第1クラッチにおいて解放状態から締結状態への移行が開始する推定タイミングを求める一方、油圧センサSN4によって検出された実油圧の分散値を求め、この分散値に基づき、第1クラッチにおいて解放状態から締結状態への移行が開始する実タイミングを求め、これら推定タイミングと実タイミングとの差に基づき、油圧制御時において第1クラッチに付与する油圧を補正するための学習を行う。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、モータと、付与される油圧に応じて、前記エンジンと前記モータとの間でトルクを伝達する締結状態と、前記エンジンと前記モータとの間でのトルクの伝達を遮断する解放状態と、のいずれかの状態を取ることが可能な摩擦締結要素と、前記摩擦締結要素に付与される実油圧を検出する油圧センサと、を有するハイブリッド車両の制御方法であって、
前記摩擦締結要素を前記解放状態から前記締結状態へと移行させるように、前記摩擦締結要素に油圧を付与する油圧制御を行う第1工程と、
前記油圧制御時に、前記摩擦締結要素に付与された推定油圧を求める第2工程と、
前記油圧制御時に、前記油圧センサによって検出された実油圧の分散値を求める第3工程と、
前記推定油圧に基づき、前記摩擦締結要素において前記解放状態から前記締結状態への移行が開始する推定タイミングを求める第4工程と、
前記分散値に基づき、前記摩擦締結要素において前記解放状態から前記締結状態への移行が開始する実タイミングを求める第5工程と、
前記推定タイミングと前記実タイミングとの差に基づき、前記油圧制御時において前記摩擦締結要素に付与する油圧を補正するための学習を行う第6工程と、
を有する、ことを特徴とするハイブリッド車両の制御方法。
【請求項2】
前記第5工程では、前記分散値において変曲点が出現したタイミングを、前記実タイミングとして求める、請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項3】
前記摩擦締結要素は、オイルが導入される油圧室を有し、この油圧室に導入されるオイルに応じて前記締結状態と前記解放状態とのいずれかの状態を取るように構成され、
前記第1工程では、前記油圧制御の開始時に、前記摩擦締結要素の前記油圧室へオイルを充填するように、所定油圧を前記摩擦締結要素に所定時間付与し、
前記第6工程では、前記実タイミングが前記推定タイミングよりも早い場合には、前記油圧制御時において前記所定油圧を付与する前記所定時間を短くする補正を行い、前記実タイミングが前記推定タイミングよりも遅い場合には、前記油圧制御時において前記所定油圧を付与する前記所定時間を長くする補正を行う、
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項4】
前記第4工程では、更に、前記推定タイミングにおいて前記摩擦締結要素に付与された前記推定油圧を取得し、
前記第5工程では、更に、前記実タイミングにおいて前記油圧センサによって検出された前記実油圧を取得し、
前記第6工程では、更に、前記第4工程で取得された前記推定油圧と前記第5工程で取得された前記実油圧との差に基づき、前記油圧制御時に前記摩擦締結要素において前記解放状態から前記締結状態への移行が開始するときに前記摩擦締結要素に付与する油圧を補正する、
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項5】
前記第6工程では、前記油圧制御を行うときに、(i)ドライバから所定の加速要求がある場合、(ii)少なくとも前記摩擦締結要素に油圧を供給する油圧システム内の油圧が所定値以上である場合、(iii)前記ハイブリッド車両が始動する場合、(iv)前記モータに電力を供給するバッテリの充電量が所定値未満のために前記モータとは別のスタータにより前記エンジンを始動する場合、のうちの少なくともいずれか1以上の場合には、前記学習を禁止する、請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項6】
前記第6工程では、前記油圧制御により前記摩擦締結要素を前記解放状態から前記締結状態へと移行させた回数が所定値以上となった場合、又は、前記推定タイミングと前記実タイミングとの差が所定値未満となった前記油圧制御が所定回数連続して行われた場合には、前記学習を終了する、請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項7】
前記第6工程では、前記学習を終了してからの前記ハイブリッド車両の総走行距離が所定値以上になった場合、前記学習を再開する、請求項6に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項8】
前記摩擦締結要素は、オイルが導入される油圧室と、この油圧室に供給されるオイルに応じて動作するクラッチピストンと、このクラッチピストンが接触するクラッチプレートと、を有し、前記クラッチピストンが前記クラッチプレートに接触しているときには前記締結状態となり、前記クラッチピストンが前記クラッチプレートから離間しているときには前記解放状態となるように構成され、
前記第4工程及び前記第5工程では、前記油圧制御時に、離間している前記クラッチピストンが前記クラッチプレートに接触するタイミングを、それぞれ前記推定タイミング及び前記実タイミングとして求める、
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項9】
ハイブリッド車両の制御システムであって、
エンジン及びモータと、
付与される油圧に応じて、前記エンジンと前記モータとの間でトルクを伝達する締結状態と、前記エンジンと前記モータとの間でのトルクの伝達を遮断する解放状態と、のいずれかの状態を取ることが可能な摩擦締結要素と、
前記摩擦締結要素に付与される実油圧を検出する油圧センサと、
前記エンジン、前記モータ及び前記摩擦締結要素を制御するように構成された制御装置と、を有し、
前記制御装置は、
前記摩擦締結要素を前記解放状態から前記締結状態へと移行させるように、前記摩擦締結要素に油圧を付与する油圧制御を行い、
前記油圧制御時に、前記摩擦締結要素に付与された推定油圧を求め、
前記油圧制御時に、前記油圧センサによって検出された実油圧の分散値を求め、
前記推定油圧に基づき、前記摩擦締結要素において前記解放状態から前記締結状態への移行が開始する推定タイミングを求め、
前記分散値に基づき、前記摩擦締結要素において前記解放状態から前記締結状態への移行が開始する実タイミングを求め、
前記推定タイミングと前記実タイミングとの差に基づき、前記油圧制御時において前記摩擦締結要素に付与する油圧を補正するための学習を行う、
ように構成される、ことを特徴とするハイブリッド車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源としてのエンジン及びモータと、これらエンジンとモータとの間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替える摩擦締結要素(クラッチ)と、を有するハイブリッド車両の制御方法及び制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジン(内燃機関)と、車輪への動力伝達経路上においてエンジンの下流側に設けられたモータ(電動機)と、エンジンとモータとの間に断続可能に設けられたクラッチ(摩擦締結要素)と、を有するハイブリッド車両が知られている。このハイブリッド車両は、エンジンのトルクを用いずにモータのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる第1走行モード(EV走行モード)と、少なくともエンジンのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる第2走行モード(エンジン走行モード又はハイブリッド走行モード)と、を切り替え可能に構成されている。特に、このハイブリッド車両は、第1走行モードから第2走行モードへと切り替えるときに、停止しているエンジンを始動させるべく、解放状態にあるクラッチを締結状態へと移行させつつ、このクラッチを介してモータのトルクをエンジンに伝達させる(換言するとモータによってエンジンをクランキングする)ような制御を行っている。
【0003】
このようなハイブリッド車両に関連する技術が、例えば特許文献1に記載されている。具体的には、特許文献1には、第1走行モードから第2走行モードへと切り替えるためにエンジンを始動させるときに、予測始動時間と実始動時間との時間差に応じて、クラッチに付与すべきクラッチ締結圧を学習により補正することで、このクラッチ締結圧を最適化する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-31005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなハイブリッド車両では、第1走行モードから第2走行モードへと切り替えるときに、クラッチを解放状態から締結状態へと移行させるようにクラッチに油圧を付与する油圧制御を行うが、この場合、クラッチにおいて解放状態から締結状態への移行が開始するとき(基本的には、この移行が開始するタイミングにおいて、クラッチはトルクを伝達し始める状態となる)に発生するショックを抑制することが望ましい。例えば、クラッチは、クラッチピストンやクラッチプレートなどを備え、クラッチピストンがクラッチプレートに接触しているときに締結状態となり、クラッチピストンがクラッチプレートから離間しているときに解放状態となるように構成されており、上記のようなショックは、クラッチピストンがクラッチプレートに接触するときに生じ得る。このショックを抑制する方法として、クラッチにおいて解放状態から締結状態への移行が開始するまでの時間(以下では単に「移行時間」と呼ぶ。)を十分確保するように、油圧制御を行う方法が考えられる。但し、この移行時間を長くし過ぎると、エンジン始動の応答性が悪化し、ドライバに違和感(加速要求に応じた加速ができない等の違和感)を与えてしまうので、適切な時間(以下では「目標移行時間」と呼ぶ。)を設定して油圧制御を行うことが好ましい。
【0006】
このような目標移行時間を実現するように、油圧制御においてクラッチに付与する油圧(つまり指示油圧のプロファイルなど)が設定されるが、そのような油圧制御を行っても、部品における組み付け精度や経年変化や部品ばらつきなどにより、目標移行時間を実現できない場合がある。これに対処すべく、クラッチに付与される実油圧を油圧センサによって検出し、この実油圧に基づき実際の移行時間(以下では「実移行時間」と呼ぶ。)を求めて、実移行時間と目標移行時間との関係に応じて、油圧制御においてクラッチに付与する油圧を学習する方法が考えられる。この場合、実油圧に基づき、クラッチにおいて解放状態から締結状態への移行が開始するタイミングを特定して、実移行時間を求めることができる。しかしながら、クラッチにオイルを供給する油圧システムは、このクラッチ以外にも多数の構成要素にオイルを供給するために油路等が複雑に形成されているので、この油圧システム内にはいわゆる油振(油圧システム内でのオイルの圧力脈動などに起因する)が発生する傾向にある。そのため、上記の油圧センサによって検出される実油圧には比較的大きなノイズが含まれるため、クラッチにおいて解放状態から締結状態への移行が開始するタイミングを精度良く求めることが困難である。よって、実油圧に基づきクラッチの油圧制御に関する学習を的確に行うことは困難であると言える。
【0007】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、エンジンとモータとの間に設けられた摩擦締結要素を解放状態から締結状態へと移行させるように油圧制御を行うハイブリッド車両の制御方法及び制御システムにおいて、油圧センサによって検出された実油圧に基づき学習を行うことで摩擦締結要素の油圧制御を的確に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、エンジンと、モータと、付与される油圧に応じて、エンジンとモータとの間でトルクを伝達する締結状態と、エンジンとモータとの間でのトルクの伝達を遮断する解放状態と、のいずれかの状態を取ることが可能な摩擦締結要素と、摩擦締結要素に付与される実油圧を検出する油圧センサと、を有するハイブリッド車両の制御方法であって、摩擦締結要素を解放状態から締結状態へと移行させるように、摩擦締結要素に油圧を付与する油圧制御を行う第1工程と、油圧制御時に、摩擦締結要素に付与された推定油圧を求める第2工程と、油圧制御時に、油圧センサによって検出された実油圧の分散値を求める第3工程と、推定油圧に基づき、摩擦締結要素において解放状態から締結状態への移行が開始する推定タイミングを求める第4工程と、分散値に基づき、摩擦締結要素において解放状態から締結状態への移行が開始する実タイミングを求める第5工程と、推定タイミングと実タイミングとの差に基づき、油圧制御時において摩擦締結要素に付与する油圧を補正するための学習を行う第6工程と、を有する、ことを特徴とする。
【0009】
このように構成された本発明では、摩擦締結要素を解放状態から締結状態へと移行させるように油圧制御を行うときに、摩擦締結要素に付与された推定油圧を求め、この推定油圧に基づき、摩擦締結要素において解放状態から締結状態への移行が開始する推定タイミングを求める一方、油圧センサによって検出された実油圧の分散値を求め、この分散値に基づき、摩擦締結要素において解放状態から締結状態への移行が開始する実タイミングを求め、これら推定タイミングと実タイミングとの差に基づき、油圧制御時において摩擦締結要素に付与する油圧を補正するための学習を行う。つまり、本発明では、油圧センサによって検出された実油圧そのものを用いるのではなく、この実油圧の分散値に基づき実タイミングを求め、この実タイミングに基づき摩擦締結要素の指示油圧を補正するための学習を行う。
ここで、上述したような油振の影響により油圧センサによって検出される実油圧には比較的大きなノイズが含まれるため、油圧制御中に実油圧のばらつきが大きくなる、つまり分散値が大きくなる傾向にあるが、摩擦締結要素において解放状態から締結状態への移行が開始するタイミングにおいては、油振の影響が小さくなることで、実油圧のばらつきが一時的に抑えられ、分散値が小さくなる傾向にある。よって、このような実油圧の分散値の傾向を考慮することで、この分散値から、摩擦締結要素において解放状態から締結状態への移行が開始する実タイミングを精度良く求めることができる。したがって、本発明によれば、この実タイミングと推定タイミングとに基づき、上記の目標移行時間を実現するように、油圧制御時において摩擦締結要素に付与する油圧を的確に学習することができる。その結果、このように学習された油圧制御によって摩擦締結要素を解放状態から締結状態へと移行させることで、移行時に摩擦締結要素おいて発生するショックの抑制と、移行の遅延によりドライバに与える違和感の抑制とを確実に実現することができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、第5工程では、分散値において変曲点が出現したタイミングを、実タイミングとして求める。
このように構成された本発明によれば、実タイミングをより精度良く求めることができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、摩擦締結要素は、オイルが導入される油圧室を有し、この油圧室に導入されるオイルに応じて締結状態と解放状態とのいずれかの状態を取るように構成され、第1工程では、油圧制御の開始時に、摩擦締結要素の油圧室へオイルを充填するように、所定油圧を摩擦締結要素に所定時間付与し、第6工程では、実タイミングが推定タイミングよりも早い場合には、油圧制御時において所定油圧を付与する所定時間を短くする補正を行い、実タイミングが推定タイミングよりも遅い場合には、油圧制御時において所定油圧を付与する所定時間を長くする補正を行う。
このように構成された本発明では、実タイミングと推定タイミングとの大小関係に応じて、摩擦締結要素の油圧室にオイルを充填するために所定油圧を付与する所定時間を補正する学習を行う。これにより、摩擦締結要素に付与する油圧の学習により、目標移行時間を的確に実現できるようになる。
【0012】
本発明において、好ましくは、第4工程では、更に、推定タイミングにおいて摩擦締結要素に付与された推定油圧を取得し、第5工程では、更に、実タイミングにおいて油圧センサによって検出された実油圧を取得し、第6工程では、更に、第4工程で取得された推定油圧と第5工程で取得された実油圧との差に基づき、油圧制御時に摩擦締結要素において解放状態から締結状態への移行が開始するときに摩擦締結要素に付与する油圧を補正する。
このように構成された本発明では、推定タイミングでの推定油圧と実タイミングでの実油圧との差に基づき、摩擦締結要素において解放状態から締結状態への移行が開始するときに付与する油圧を補正する。これにより、摩擦締結要素が解放状態から締結状態への移行を開始するまでの期間において、油圧を適切な傾きにて変化させることができる。よって、移行時に摩擦締結要素おいて発生するショックの抑制と、移行の遅延によりドライバに与える違和感の抑制とをより確実に実現することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、第6工程では、油圧制御を行うときに、(i)ドライバから所定の加速要求がある場合、(ii)少なくとも摩擦締結要素に油圧を供給する油圧システム内の油圧(ライン圧)が所定値以上である場合、(iii)ハイブリッド車両が始動する場合、(iv)モータに電力を供給するバッテリの充電量が所定値未満のためにモータとは別のスタータによりエンジンを始動する場合、のうちの少なくともいずれか1以上の場合には、学習を禁止する。
このように構成された本発明によれば、摩擦締結要素の挙動が安定しにくい状況での学習を禁止することができ、学習の精度を確保することが可能となる。
【0014】
本発明において、好ましくは、第6工程では、油圧制御により摩擦締結要素を解放状態から締結状態へと移行させた回数が所定値以上となった場合、又は、推定タイミングと実タイミングとの差が所定値未満となった油圧制御が所定回数連続して行われた場合には、学習を終了する。
このように構成された本発明によれば、学習が不要となった状況で学習を終了することができ、これ以降、学習に関係する処理や制御の負荷を軽減することが可能となる。
【0015】
本発明において、好ましくは、第6工程では、学習を終了してからのハイブリッド車両の総走行距離が所定値以上になった場合、学習を再開する。
このように構成された本発明によれば、学習終了後に生じたずれを、再開した学習により的確に補正することができる。
【0016】
本発明において好適な例では、摩擦締結要素は、オイルが導入される油圧室と、この油圧室に供給されるオイルに応じて動作するクラッチピストンと、このクラッチピストンが接触するクラッチプレートと、を有し、クラッチピストンがクラッチプレートに接触しているときには締結状態となり、クラッチピストンがクラッチプレートから離間しているときには解放状態となるように構成され、第4工程及び第5工程では、油圧制御時に、離間しているクラッチピストンがクラッチプレートに接触するタイミングを、それぞれ推定タイミング及び実タイミングとして求める。
【0017】
他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、ハイブリッド車両の制御システムであって、エンジン及びモータと、付与される油圧に応じて、エンジンとモータとの間でトルクを伝達する締結状態と、エンジンとモータとの間でのトルクの伝達を遮断する解放状態と、のいずれかの状態を取ることが可能な摩擦締結要素と、摩擦締結要素に付与される実油圧を検出する油圧センサと、エンジン、モータ及び摩擦締結要素を制御するように構成された制御装置と、を有し、制御装置は、摩擦締結要素を解放状態から締結状態へと移行させるように、摩擦締結要素に油圧を付与する油圧制御を行い、油圧制御時に、摩擦締結要素に付与された推定油圧を求め、油圧制御時に、油圧センサによって検出された実油圧の分散値を求め、推定油圧に基づき、摩擦締結要素において解放状態から締結状態への移行が開始する推定タイミングを求め、分散値に基づき、摩擦締結要素において解放状態から締結状態への移行が開始する実タイミングを求め、推定タイミングと実タイミングとの差に基づき、油圧制御時において摩擦締結要素に付与する油圧を補正するための学習を行う、ように構成される、ことを特徴とする。
このように構成された本発明によっても、実油圧の分散値に基づき、摩擦締結要素において解放状態から締結状態への移行が開始する実タイミングを精度良く求めることができ、この実タイミングと推定タイミングとに基づき、上記の目標移行時間を実現するように、油圧制御時において摩擦締結要素に付与する油圧を的確に学習することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エンジンとモータとの間に設けられたクラッチを解放状態から締結状態へと移行させるように油圧制御を行うハイブリッド車両の制御方法及び制御システムにおいて、油圧センサによって検出された実油圧に基づき学習を行うことで、クラッチの油圧制御を的確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態によるハイブリッド車両の概略構成図である。
図2】本発明の実施形態による第1クラッチの概略構成図である。
図3】本発明の実施形態によるハイブリッド車両の電気的構成を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態による油圧制御の基本概念を説明するためのタイムチャートである。
図5】本発明の実施形態による油圧学習制御を説明するためのタイムチャートである。
図6】本発明の実施形態による油圧学習制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御方法及び制御システムを説明する。
【0021】
[装置構成]
図1は、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御方法及び制御システムが適用されるハイブリッド車両の概略構成図である。
【0022】
図1に示すように、ハイブリッド車両1は、主に、ハイブリッド車両1を駆動するためのトルクを発生するエンジン2(例えばガソリンエンジン)と、エンジン2を始動させるためのモータであるスタータ3と、ハイブリッド車両1の動力伝達経路上においてエンジン2よりも下流側に設けられ、ハイブリッド車両1を駆動するためのトルクを発生するモータ4と、図示しないインバータ等を介してモータ4との間で電力の授受を行うバッテリ5と、ハイブリッド車両1の動力伝達経路上においてモータ4よりも下流側に設けられ、エンジン2及び/又はモータ4による回転速度を変速する変速機6と、変速機6からのトルクを下流側に伝達する動力伝達系8と、動力伝達系8からのトルクによって車輪12を駆動するドライブシャフト10と、当該車輪(駆動輪)12と、を有する。
【0023】
エンジン2の出力軸とモータ4の回転軸とは、断続(断接)可能な第1クラッチCL1を介して軸AX1によって同軸状に連結されている。この第1クラッチCL1により、エンジン2とモータ4との間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えられるようになっている。例えば、第1クラッチCL1は、図示しないモータやソレノイドにより、クラッチ作動油流量及び/又はクラッチ作動油圧を連続的又は段階的に制御して、伝達トルク容量を変更可能な乾式多板クラッチや湿式多板クラッチなどによって構成されている。
【0024】
ここで、図2を参照して、第1クラッチCL1の具体的構成について説明する。図2は、第1クラッチCL1の一例を示す概略構成図である。図2に示すように、第1クラッチCL1は、オイルが導入される油圧室15aと、油圧室15aにオイルを供給する油路15bと(矢印A1参照)、油圧室15aに供給されるオイル(つまり油圧)に応じて動作するクラッチピストン15cと(矢印A2参照)、クラッチピストン15cが接触する第1クラッチプレート15dと、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触したときに、第1クラッチプレート15dとの間でトルクを伝達するようになる第2クラッチプレート15eと、油路15b上に設けられ、油圧室15aに供給される油圧を調整可能なソレノイド15fと、油圧室15aに供給される油圧(実油圧)を検出する油圧センサSN4と、を備える。
【0025】
第1クラッチCL1は、付与する油圧を制御することで、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dから離間した解放状態と、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触した締結状態とを切り替えられるようになっている。第1クラッチCL1の解放状態では、エンジン2とモータ4との間におけるトルク伝達が遮断され、第1クラッチCL1の締結状態では、エンジン2とモータ4との間においてトルクが伝達される。この締結状態は、上記したようにクラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触した状態であるが、この状態には、第1クラッチプレート15dと第2クラッチプレート15eとがスリップするスリップ状態(典型的には第1クラッチプレート15dと第2クラッチプレート15eとが離間し、これらの間のオイルを介してトルクが伝達される状態)と、第1クラッチプレート15dと第2クラッチプレート15eとの間で完全にトルクが伝達される完全締結状態(基本的には第1クラッチプレート15dと第2クラッチプレート15eとがしっかり当接した状態)とが含まれる。なお、このような第1クラッチCL1は、本発明における「摩擦締結要素」の一例である。
【0026】
図1に戻ると、モータ4の回転軸と変速機6の回転軸とは、軸AX2によって同軸状に連結されている。変速機6は、典型的には、サンギヤS1、リングギヤR1、ピニオンギヤP1(遊星歯車)及びキャリアC1を含む1つ以上のプラネタリギヤセットと、クラッチやブレーキ等の摩擦締結要素とを内部に備えており、車速やエンジン回転数などに応じてギヤ段(変速比)を自動的に切り替える機能を備えた自動変速機である。リングギヤR1はサンギヤS1と同心円上に配置され、ピニオンギヤP1はサンギヤS1及びリングギヤR1に噛み合うようにサンギヤS1とリングギヤR1との間に配置されている。キャリアC1は、ピニオンギヤP1を自転可能且つサンギヤS1の周りを公転可能に保持する。
【0027】
また、変速機6は、断続(断接)な第2クラッチCL2を内部に備え、この第2クラッチCL2により、変速機6の上流側(エンジン2及びモータ4)と変速機6の下流側(車輪12など)との間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えられるようになっている。例えば、第2クラッチCL2は、図示しないモータやソレノイドにより、クラッチ作動油流量及び/又はクラッチ作動油圧を連続的又は段階的に制御して、伝達トルク容量を変更可能な乾式多板クラッチや湿式多板クラッチなどによって構成されている。また、第2クラッチCL2も、付与する油圧を制御することで、解放状態と締結状態(スリップ状態又は完全締結状態)とのいずれかの状態とを切り替えられるようになっている。
なお、第2クラッチCL2は、実際には、変速機6において種々のギヤ段を切り替えるために用いられる多数のクラッチによって構成される。また、図1では単純化のためプラネタリギヤセットを1つだけ示しているが、実際には変速機6は複数のプラネタリギヤセットを備えている。第2クラッチCL2により代表される複数のクラッチや図示しない複数のブレーキ等の摩擦締結要素を選択的に締結して、各プラネタリギヤセットを経由する動力伝達経路を切り換えることにより、例えば複数の前進変速段と1段の後退速段とを実現可能となっている。
【0028】
動力伝達系8は、変速機6の出力軸AX3を介してトルクが入力される。動力伝達系8は、駆動力を左右一対の車輪12に対して分配するデファレンシャルギヤや、ファイナルギヤなどを含んで構成されている。
【0029】
上記のハイブリッド車両1は、第1クラッチCL1の締結と解放とを切り替えることで、走行モードを切り替えることができる。すなわち、ハイブリッド車両1は、第1クラッチCL1を解放状態に設定して、エンジン2のトルクを用いずにモータ4のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させる第1走行モードと、第1クラッチCL1を締結状態に設定して、少なくともエンジン2のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させる第2走行モードと、を有する。第1走行モードは、所謂EV走行モードであり、第2走行モードは、エンジン2のトルクのみを用いてハイブリッド車両1を走行させるエンジン走行モード、及び、エンジン2及びモータ4の両方のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させるハイブリッド走行モードを含む。
【0030】
次に、図3は、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の電気的構成を示すブロック図である。
【0031】
図3に示すように、コントローラ20には、エンジン2の回転数を検出するエンジン回転数センサSN1からの信号と、モータ4の回転数を検出するモータ回転数センサSN2からの信号と、ドライバによるアクセルペダルの踏込み量に対応するアクセル開度を検出するアクセル開度センサSN3からの信号と、油圧室15aに供給される実油圧を検出する油圧センサSN4(図2参照)からの信号と、ハイブリッド車両1を始動させるためのスタートスイッチSN5からの信号と、バッテリ5の充電量を示すSOC(State of Charge)を検知するSOCセンサSN6からの信号と、が入力されるようになっている。
【0032】
コントローラ20は、1つ以上のプロセッサ20a(典型的にはCPU)と、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)や各種のデータを記憶するROMやRAMなどのメモリ20bと、を備えるコンピュータにより構成される。コントローラ20は、本発明における「制御装置」に相当し、また、本発明における「ハイブリッド車両の制御方法」を実行する。
【0033】
具体的には、コントローラ20は、上述したセンサ(スイッチ含む)SN1~SN6からの信号に基づき、主に、エンジン2、スタータ3、モータ4、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2に対して制御信号を出力し、これらを制御する。例えば、コントローラ20は、エンジン2の点火時期、燃料噴射時期、燃料噴射量を調整する制御や、モータ4の回転数、トルクを調整する制御や、第1及び第2クラッチCL1、CL2の状態(解放状態、スリップ状態、完全締結状態)を切り替えるための油圧制御などを行う。実際には、コントローラ20は、エンジン2の点火プラグや燃料噴射弁やスロットル弁などを制御し、インバータを介してモータ4を制御し、油圧制御回路(モータやソレノイド15fなど)を介して第1及び第2クラッチCL1、CL2を制御する。
【0034】
[制御内容]
次に、本実施形態においてコントローラ20が行う制御内容について説明する。本実施形態では、コントローラ20は、主に、エンジン2のトルクを用いずにモータ4のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させる第1走行モードから、少なくともエンジン2のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させる第2走行モードへと切り替えるべく、停止しているエンジン2を始動させるために、第1クラッチCL1に油圧(以下では適宜「CL1油圧」と呼ぶ。)を付与する油圧制御を行って、第1クラッチCL1を解放状態から締結状態へと移行させつつ、モータ4及びエンジン2に対する制御を行って、モータ4のクランキングによってエンジン2を始動させる。なお、コントローラ20は、このような油圧制御を実現するに当たって、第1クラッチCL1の油圧制御回路(例えばソレノイド15fなど)を制御する。
【0035】
最初に、図4を参照して、本実施形態による油圧制御の基本概念について説明する。図4は、本実施形態による油圧制御を示すタイムチャートである。図4において、グラフG11は、油圧制御において適用されるCL1油圧の指令値(指示油圧)を示し、グラフG12は、このような指示油圧により油圧制御を行った場合に推定されるCL1油圧の推定値(推定油圧)を示し、グラフG2は、この油圧制御時に第1クラッチCL1の油圧室15aに流入するオイルの積算流量(これも推定値)を示している。これら推定油圧及び積算流量は、コントローラ20によって所定のモデルから求められるものである。
【0036】
時刻t1において、コントローラ20は、第1走行モードから第2走行モードへと切り替えるべく、第1クラッチCL1を解放状態から締結状態へと移行させるように油圧制御を開始する。具体的には、時刻t1より、コントローラ20は、第1クラッチCL1の油圧室15aへオイルを充填するために(プリチャージ)、指示油圧を比較的大きな油圧に設定する(期間T1)。以下では、この期間T1を「プリチャージ期間」と呼ぶ。そして、時刻t2より、コントローラ20は、指示油圧をプリチャージ期間T1から大きく低下させた後に徐々に上昇させることで、第1クラッチCL1において第1クラッチプレート15dから離間しているクラッチピストン15cを移動させて、このクラッチピストン15cを第1クラッチプレート15dに接触させるようにする(期間T2)。以下では、この期間T2を「ストローク期間」と呼ぶ。このストローク期間T2の長さについては、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触するときのショックを抑制しつつ、エンジン始動の応答性を確保する観点から、油圧制御において適用すべき最適な時間(以下では「目標ストローク時間」と呼ぶ。)が事前に定められている。
【0037】
そして、コントローラ20は、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触した時刻t3以降、指示油圧をストローク期間T2よりも大きく上昇させて、第1クラッチプレート15dと第2クラッチプレート15eとをスリップさせた状態(スリップ状態)に維持した後、これらを完全締結させるようにする(期間T3)。このような第1クラッチCL1のスリップ状態では、第1クラッチCL1を介してモータ4からエンジン2にトルクが伝達される。コントローラ20は、この状態において、モータ4のクランキングによってエンジン回転数を徐々に上昇させてエンジン2を始動させるように、モータ4及びエンジン2を制御する。そして、コントローラ20は、エンジン回転数とモータ回転数とが同期すると、第1クラッチCL1を完全締結状態に維持すべく指示油圧を一定に維持する(時刻t4)。
【0038】
他方で、コントローラ20は、上記したような油圧制御を行っているときに、所定のモデルを用いて、CL1油圧の推定値(推定油圧)及び油圧室15aに流入するオイルの積算流量を求める(グラフG12、G2参照)。具体的には、コントローラ20は、油圧室15aに流入するオイルの流量(指示油圧に対応する)や、事前に分かっている油圧室15aの容積などに基づき、推定油圧及び積算流量を求める。そして、コントローラ20は、こうして求めた積算流量が、油圧室15aの容積に対応する流量(以下では「上限流量」と呼ぶ。)Q1に達したタイミングを、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触した推定タイミング(以下では「推定タッチタイミング」と呼ぶ。)として求める。この推定タッチタイミングは、基本的には、上述したように指示油圧において適用するストローク期間T2の終了時刻t3に一致する。これは、推定油圧が油圧制御の指示油圧に応じて求められたものだからである。また、コントローラ20は、このような推定タッチタイミングt3での推定油圧P1(以下では「推定タッチ油圧」と呼ぶ。)も求める。
【0039】
ところで、上述したように、油圧制御では目標ストローク時間を実現するように指示油圧が設定されるが、そのような油圧制御を行っても、部品における組み付け精度や経年変化や部品ばらつきなどにより、目標ストローク時間を実現できない場合がある。これに対処すべく、第1クラッチCL1に付与される実油圧を油圧センサSN4によって検出し、この実油圧に基づき、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触した実タイミング(以下では「実タッチタイミング」と呼ぶ。)を求めて、この実タッチタイミングと上記の推定タッチタイミングとの差に応じて、油圧制御において適用する指示油圧を補正して学習する方法が考えられる。しかしながら、第1クラッチCL1にオイルを供給する油圧システムは、第1クラッチCL1以外にも多数の構成要素にオイルを供給するために油路等が複雑に形成されているので、この油圧システム内にはいわゆる油振(油圧システム内でのオイルの圧力脈動などに起因する)が発生する傾向にある。そのため、油圧センサSN4によって検出される実油圧には比較的大きなノイズが含まれるため、実タッチタイミングを精度良く求めることが困難である。よって、実油圧に応じた実タッチタイミングに基づき指示油圧を的確に学習するのは困難であると言える。
【0040】
したがって、本実施形態では、油圧センサSN4によって検出された実油圧から実タッチタイミングを精度良く求めて、この実タッチタイミングに基づき、目標ストローク時間を正確に実現するように、第1クラッチCL1の油圧制御において適用する指示油圧を的確に学習できるようにする。そのために、本実施形態では、コントローラ20は、油圧センサSN4によって検出された実油圧そのものを用いるのではなく、この実油圧の分散値に基づき実タッチタイミングを求め、この実タッチタイミングと推定タッチタイミングとの差に基づき、油圧制御において適用する指示油圧を補正するための学習(以下では「油圧学習制御」と呼ぶ。)を行う。
【0041】
詳しくは、コントローラ20は、実油圧の分散値において変曲点が出現したタイミングを、実タッチタイミングとして求める。上述したように油振の影響により油圧センサSN4によって検出される実油圧には比較的大きなノイズが含まれるため、油圧制御中に実油圧のばらつきが大きくなる、つまり分散値が大きくなる傾向にあるが、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触する瞬間においては、油振の影響が小さくなることで、実油圧のばらつきが一時的に抑えられ、分散値が小さくなる傾向にある。したがって、本実施形態では、コントローラ20は、こうして分散値が最小となる、分散値の変曲点が出現するタイミングを、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触するタイミング(実タッチタイミング)として用いる。これにより、実油圧から実タッチタイミングを精度良く求めることができ、第1クラッチCL1の油圧制御において適用する指示油圧を的確に学習することが可能となる。
【0042】
次に、図5を参照して、本実施形態による油圧学習制御について具体的に説明する。図5は、本実施形態による油圧学習制御を説明するためのタイムチャートである。図5において、グラフG11は、油圧制御において適用される指示油圧を示し、グラフG12は、この油圧制御を行った場合の推定油圧を示し、グラフG13は、この油圧制御中に油圧センサSN4によって検出された実油圧を示し、グラフG3は、この実油圧の分散値(以下では「油圧分散値」と呼ぶ。)を示している。なお、油圧センサSN4によって検出される実油圧は、実際にはノイズを含み、小刻みな変動を繰り返すが、図5では説明の便宜上、そのようなノイズを取り除いた簡略化した実油圧を示している(グラフG13)。また、図5において、図4と同一の符号を付した要素は、図4と同一の意味を有するものとして、その説明を適宜省略する。
【0043】
図5に示す例では、グラフG11に示す指示油圧により油圧制御を行った場合に、グラフG12に示す推定油圧からかけ離れた、グラフG13に示すような実油圧が油圧センサSN4により検出される。コントローラ20は、このような実油圧から、グラフG3に示すような油圧分散値を求める。この油圧分散値の求め方について、具体的に説明する。ここでは、時刻txでの油圧分散値の求め方を例に挙げる。なお、前提として、コントローラ20は、油圧センサSN4から送信される信号に応じて、所定時間ごとに実油圧を取得する、つまり油圧制御中に離散的な複数の実油圧を収集する。
【0044】
まず、コントローラ20は、t1~tx間に取得された複数の実油圧の合計値P_sumを算出し、この合計値P_sumをt1~tx間の時間で除算した値(平均値)P_ave_sumを算出し、この平均値P_ave_sumの2乗値P_sqr_ave_sumを算出する。これと同時に、コントローラ20は、t1~tx間に取得された複数の実油圧のそれぞれの2乗値P_sqrを算出し、これら2乗値P_sqrの合計値P_sum_sqrを算出し、この合計値P_sum_sqrをt1~tx間の時間で除算した値(平均値)P_ave_sum_sqrを算出する。そして、コントローラ20は、これら平均値P_ave_sum_sqrから2乗値P_sqr_ave_sumから減算した値を、時刻txでの油圧分散値として用いる。
【0045】
この場合、時刻t3aにおいて、油圧分散値の変曲点が出現するため(具体的には油圧分散値の二階微分の符号がマイナスからプラスに変化する)、換言すると時刻t2以降において油圧分散値が最小値となるため、コントローラ20は、この時刻t3aを実タッチタイミングとして決定する。そして、コントローラ20は、この実タッチタイミングt3aと上記の推定タッチタイミングt3との差dt(以下では「タッチタイミング差」と呼ぶ。)に応じて、油圧制御において適用する指示油圧を補正する。具体的には、コントローラ20は、実際の油圧制御において目標ストローク時間が実現されるように、タッチタイミング差dtに基づき、油圧制御時の指示油圧に含まれるプリチャージ期間T1の時間tp(以下では「プリチャージ時間」と呼ぶ。)を補正する。この場合、コントローラ20は、タッチタイミング差dtが大きいほど、プリチャージ時間tpの補正量を大きくする。また、コントローラ20は、実タッチタイミングt3aが推定タッチタイミングt3よりも早い場合には(図5に示す例)、プリチャージ時間tpを短くする補正を行う一方、実タッチタイミングt3aが推定タッチタイミングt3よりも遅い場合には、プリチャージ時間tpを長くする補正を行う。
【0046】
更に、コントローラ20は、上記のように実タッチタイミングt3aを決定したときに、この実タッチタイミングt3aにおいて油圧センサSN4によって検出された実油圧P2(以下では「実タッチ油圧」と呼ぶ。)を取得する。そして、コントローラ20は、この実タッチ油圧P2と上記の推定タッチ油圧P1との差dP(以下では「タッチ油圧差」と呼ぶ。)に応じて、油圧制御において適用する指示油圧を更に補正する。具体的には、コントローラ20は、ストローク期間において適切な傾きにて油圧を変化させるように、タッチ油圧差dPに基づき、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触するタイミングt3において適用する指示油圧P3(以下では「タッチ時指示油圧」と呼ぶ。)を補正する。より詳しくは、コントローラ20は、タッチ油圧差dPが大きいほど、タッチ時指示油圧P3の補正量を大きくする。また、コントローラ20は、実タッチ油圧P2が推定タッチ油圧P1よりも大きい場合には、タッチ時指示油圧P3を小さくする補正を行う一方、実タッチ油圧P2が推定タッチ油圧P1よりも小さい場合には(図5に示す例)、タッチ時指示油圧P3を大きくする補正を行う。
【0047】
次に、図6を参照して、本実施形態による油圧学習制御の全体的な流れについて説明する。図6は、本実施形態においてコントローラ20によって実行される油圧学習制御を示すフローチャートである。
【0048】
なお、このフローチャートに係る油圧学習制御は、第1クラッチCL1を解放状態から締結状態へと移行させるための油圧制御の実行要求が発せられた場合に開始される。特に、この油圧制御の実行要求は、第1走行モードから第2走行モードへと切り替えるためのエンジン2の始動要求に相当する。これは、第1走行モードから第2走行モードへと切り替えるときに、解放状態にある第1クラッチCL1を締結状態へと移行させつつ、モータ4のクランキングによってエンジン2を始動させるからである。例えば、エンジン2の始動要求は、ドライバがEVモードにおいて比較的大きな加速を要求している場合(つまり走行モードをEVモードからHVモードに切り替える必要があるような加速度をドライバが要求している場合)に発せられる。加えて、始動要求は、このようなドライバ要求以外に、パワートレイン等を含む制御システムから発せられる(以下では、この始動要求を「システム要求」と呼ぶ)。このシステム要求は、車速や負荷やバッテリ状態やエンジン温度などに応じて、ハイブリッド車両1の走行モードをEVモードからHVモードに切り替えるべきである場合に発せられる。例えば、目標駆動力を実現するためにはモータ4の駆動力だけでは不足する場合や、バッテリ5を充電すべき場合(バッテリ5のSOCが所定値未満である場合)や、減速時にエンジン2によるエンジンブレーキを付与すべき場合などにおいて、システム要求が発せられる。
【0049】
油圧学習制御が開始されると、まず、ステップS101において、コントローラ20は、各種情報を取得する。具体的には、コントローラ20は、少なくとも上記したセンサ(スイッチ含む)SN1~SN6から信号を取得する。
【0050】
次いで、ステップS102において、コントローラ20は、油圧制御の指示油圧を学習するための条件(学習条件)が成立したか否かを判定する。具体的には、コントローラ20は、学習条件として、以下のような条件を用いる。
(i)ドライバから所定の加速要求(迅速なエンジン始動要求に対応する)がないこと、つまりアクセル開度センサSN3によって検出されたアクセル開度が所定値未満であること
(ii)第1クラッチCL1などに油圧を供給する油圧システム内の油圧(当該油圧システム内に設けられた油圧センサによって検出される)が所定値未満であること、つまり当該油圧システム内のライン圧が高くないこと
(iii)ハイブリッド車両1が始動しないこと、つまりスタートスイッチSN5の信号がオンへと切り替わっていないこと
(iv)バッテリ5のSOC(SOCセンサSN6によって検出される)が所定値未満でのスタータ3によるエンジン2の始動時でないこと
【0051】
コントローラ20は、油圧制御を行うときに、(i)~(iv)の全条件が成立する場合、学習条件が成立すると判定し(ステップS102:Yes)、ステップS103に進む。これに対して、コントローラ20は、油圧制御を行うときに、(i)~(iv)の少なくともいずれか1以上の条件が成立しない場合、すなわち、(i)ドライバから所定の加速要求がある場合、つまりアクセル開度センサSN3によって検出されたアクセル開度が所定値以上である場合、(ii)油圧システム内のライン圧が所定値以上である場合、(iii)ハイブリッド車両1が始動する場合、つまりスタートスイッチSN5の信号がオンに切り替わった場合、(iv)バッテリ5のSOCが所定値未満のため、スタータ3によりエンジン2を始動する場合、のうちの少なくともいずれか1以上の場合には、学習条件が成立していないと判定する(ステップS102:No)。この場合には、コントローラ20は、第1クラッチCL1の挙動が安定しにくい状況での指示油圧の学習を禁止すべく、油圧学習制御を終了する。
【0052】
次いで、ステップS103において、コントローラ20は、油圧制御の指示油圧の学習が不要か否かを判定する。具体的には、コントローラ20は、油圧制御により第1クラッチCL1を解放状態から締結状態へと移行させた回数(つまり第1走行モードから第2走行モードへと切り替えた回数)が所定値以上となった場合、又は、推定タッチタイミングと実タッチタイミングとのタッチタイミング差が所定値未満となった油圧制御が所定回数(例えば2回)連続して行われた場合には、油圧制御の指示油圧の学習を終了すべく、当該学習が不要であると判定する(ステップS103:Yes)。この場合、コントローラ20は、ステップS104に進む。他方で、コントローラ20は、油圧制御により第1クラッチCL1を解放状態から締結状態へと移行させた回数が所定値未満で、推定タッチタイミングと実タッチタイミングとのタッチタイミング差が所定値未満となった油圧制御が所定回数連続して行われていない場合には、油圧制御の指示油圧の学習が必要であると判定する(ステップS103:No)。この場合には、コントローラ20は、学習を行うべく、ステップS105、S108に進む。なお、ステップS103において学習が不要か否かを判定するに当たって、実タッチ油圧と推定タッチ油圧とのタッチ油圧差が所定値未満となった油圧制御が所定回数(例えば2回)連続して行われたという条件を追加してもよい。
【0053】
次いで、ステップS104において、コントローラ20は、ステップS103で学習不要と判定されて終了した学習を再開するか否かを判定する。具体的には、コントローラ20は、学習を終了してからのハイブリッド車両1の総走行距離が所定値(例えば5000km)以上になった場合、学習を再開すると判定する(ステップS104:Yes)。この場合には、コントローラ20は、学習を行うべく、ステップS105、S108に進む。これに対して、コントローラ20は、学習を終了してからのハイブリッド車両1の総走行距離が所定値未満である場合、学習を再開しないと判定し(ステップS104:No)、油圧学習制御を終了する。
【0054】
コントローラ20は、ステップS103で学習が必要と判定した場合(ステップS103:No)、又は、ステップS104で学習を再開すると判定した場合(ステップS104:Yes)、ステップS105、S108に進む。この場合、コントローラ20は、ステップS105~S107の処理と、ステップS108~S110の処理を並行して行う。
【0055】
最初に、ステップS105~S107の処理について説明する。ステップS105において、コントローラ20は、所定のモデルを用いて、第1クラッチCL1の油圧室15aに流入するオイルの流量(指示油圧に対応する)や、事前に分かっている油圧室15aの容積などに基づき、CL1油圧の推定値(推定油圧)及び油圧室15aに流入するオイルの積算流量を求める。次いで、ステップS106において、コントローラ20は、ステップS105で求めた積算流量が、油圧室15aの容積に対応する上限流量に達したか否かを判定する。その結果、コントローラ20は、積算流量が上限流量に達していない場合(ステップS106:No)、ステップS105に戻る。この場合、コントローラ20は、積算流量が上限流量に達するまで、ステップS105、S106を繰り返す。これに対して、コントローラ20は、積算流量が上限流量に達した場合(ステップS106:Yes)、ステップS107に進み、積算流量が上限流量に達したタイミングを推定タッチタイミングとして決定すると共に、このタイミングでの推定油圧を推定タッチ油圧として取得する。そして、コントローラ20は、ステップS111に進む。
【0056】
次いで、上記のステップS105~S107と並行して行われる、ステップS108~S110の処理について説明する。ステップS108において、コントローラ20は、油圧センサSN4により検出された実油圧から油圧分散値を求める。油圧分散値の算出方法は、上述した通りである(図5参照)。次いで、ステップS109において、コントローラ20は、ステップS108で求めた油圧分散値において変曲点が出現したか否かを判定する。その結果、コントローラ20は、油圧分散値の変曲点が出現してない場合(ステップS109:No)、ステップS108に戻る。この場合、コントローラ20は、変曲点が出現するまで、ステップS108、S109を繰り返す。これに対して、コントローラ20は、油圧分散値の変曲点が出現した場合(ステップS109:Yes)、ステップS110に進み、油圧分散値の変曲点が出現したタイミングを実タッチタイミングとして決定すると共に、このタイミングにおいて油圧センサSN4によって検出された実油圧を実タッチ油圧として取得する。そして、コントローラ20は、ステップS111に進む。
【0057】
次いで、ステップS111において、コントローラ20は、上記のように取得された推定タッチタイミングと実タッチタイミングとからタッチタイミング差(絶対値)を求めると共に、上記のように取得された実タッチ油圧と推定タッチ油圧とからタッチ油圧差(絶対値)を求める。そして、コントローラ20は、タッチタイミング差が所定値以上又はタッチ油圧差が所定値以上であるか否かを判定する。ここでは、学習を行うのが望ましいようなタッチタイミング差やタッチ油圧差が生じているか否かを判定している。その結果、コントローラ20は、タッチタイミング差が所定値未満且つタッチ油圧差が所定値未満である場合(ステップS111:No)、学習は不要と判断し、油圧学習制御を終了する。
【0058】
これに対して、コントローラ20は、タッチタイミング差が所定値以上又はタッチ油圧差が所定値以上である場合(ステップS111:Yes)、学習を行うべく、ステップS112に進む。ステップS112において、コントローラ20は、実際の油圧制御において目標ストローク時間が実現されるように、実タッチタイミングと推定タッチタイミングとのタッチタイミング差に基づき、油圧制御において適用するプリチャージ時間を補正する。具体的には、コントローラ20は、実タッチタイミングが推定タッチタイミングよりも早い場合には、プリチャージ時間をタッチタイミング差の大きさに応じて短くする補正を行う一方、実タッチタイミングが推定タッチタイミングよりも遅い場合には、プリチャージ時間をタッチタイミング差の大きさに応じて長くする補正を行う。
【0059】
次いで、ステップS113において、コントローラ20は、ストローク期間において適切な傾きにて油圧を変化させるように、実タッチ油圧と推定タッチ油圧とのタッチ油圧差に基づき、油圧制御において適用するタッチ時指示油圧を補正する。具体的には、コントローラ20は、実タッチ油圧が推定タッチ油圧よりも大きい場合には、タッチ時指示油圧をタッチ油圧差の大きさに応じて小さくする補正を行う一方、実タッチ油圧が推定タッチ油圧よりも小さい場合には、タッチ時指示油圧をタッチ油圧差の大きさに応じて大きくする補正を行う。この後、コントローラ20は、油圧学習制御を終了する。
【0060】
[作用及び効果]
次に、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御方法及び制御システムの作用及び効果について説明する。
【0061】
本実施形態では、コントローラ20は、第1クラッチCL1を解放状態から締結状態へと移行させるように、第1クラッチCL1に油圧を付与する油圧制御を行う場合に、第1クラッチCL1に付与された推定油圧を求め、この推定油圧に基づき、第1クラッチCL1において解放状態から締結状態への移行が開始する推定タイミング(推定タッチタイミング)を求める一方、油圧センサSN4によって検出された実油圧の分散値を求め、この分散値に基づき、第1クラッチCL1において解放状態から締結状態への移行が開始する実タイミング(実タッチタイミング)を求め、これら推定タイミングと実タイミングとの差(タッチタイミング差)に基づき、油圧制御時において第1クラッチCL1に付与する油圧を補正するための学習を行う。つまり、本実施形態では、コントローラ20は、油圧センサSN4によって検出された実油圧そのものを用いるのではなく、この実油圧の分散値に基づき実タイミングを求め、この実タイミングに基づき第1クラッチCL1の指示油圧を補正するための学習を行う。
【0062】
ここで、上述したような油振の影響により油圧センサSN4によって検出される実油圧には比較的大きなノイズが含まれるため、油圧制御中に実油圧のばらつきが大きくなる、つまり分散値が大きくなる傾向にあるが、第1クラッチCL1において解放状態から締結状態への移行が開始するタイミングにおいては、油振の影響が小さくなることで、実油圧のばらつきが一時的に抑えられ、分散値が小さくなる傾向にある。したがって、このような実油圧の分散値の傾向を考慮することで、この分散値から、第1クラッチCL1において解放状態から締結状態への移行が開始する実タイミングを精度良く求めることができる。したがって、本実施形態によれば、この実タイミングと推定タイミングとに基づき、目標ストローク時間を実現するように、油圧制御時において第1クラッチCL1に付与する油圧を的確に学習することができる。その結果、このように学習された油圧制御によって第1クラッチCL1を解放状態から締結状態へと移行させれば、移行時に第1クラッチCL1おいて発生するショックの抑制と、移行の遅延によりドライバに与える違和感の抑制とを確実に実現することができる。
【0063】
また、本実施形態では、コントローラ20は、実油圧の分散値において変曲点が出現したタイミングを実タイミングとして求める。これにより、より精度良く実タイミングを求めることができる。
【0064】
また、本実施形態では、コントローラ20は、実タイミングが推定タイミングよりも早い場合には、第1クラッチCL1の油圧室15aへオイルを充填するためのプリチャージ時間を短くする補正を行う一方、実タイミングが推定タイミングよりも遅い場合には、プリチャージ時間を長くする補正を行う。これにより、第1クラッチCL1に付与する油圧の学習により、目標ストローク時間を的確に実現できるようになる。
【0065】
また、本実施形態では、コントローラ20は、推定タイミングでの推定油圧(推定タッチ油圧)と実タイミングでの実油圧(実タッチ油圧)との差に基づき、油圧制御時に第1クラッチCL1において解放状態から締結状態への移行が開始するときに付与する油圧を補正する。これにより、解放状態にある第1クラッチCL1が締結状態への移行を開始するまでの期間(ストローク期間)において、油圧を適切な傾きにて変化させることができる。よって、移行時に第1クラッチCL1おいて発生するショックの抑制と、移行の遅延によりドライバに与える違和感の抑制とを確実に実現することができる。
【0066】
また、本実施形態では、コントローラ20は、油圧制御を行うときに、(i)ドライバから所定の加速要求がある場合、(ii)第1クラッチCL1に油圧を供給する油圧システム内の油圧(ライン圧)が所定値以上である場合、(iii)ハイブリッド車両1が始動する場合、(iv)バッテリ5のSOCが所定値未満のためにスタータ3によりエンジン2を始動する場合、のうちの少なくともいずれか1以上の場合には、学習を禁止する。これにより、第1クラッチCL1の挙動が安定しにくい状況での学習を禁止することができ、学習の精度を確保することが可能となる。
【0067】
また、本実施形態では、コントローラ20は、油圧制御により第1クラッチCL1を解放状態から締結状態へと移行させた回数が所定値以上となった場合、又は、推定タイミングと実タイミングとの差が所定値未満となった油圧制御が所定回数連続して行われた場合には、学習を終了する。これにより、学習が不要となった状況で学習を終了することで、以後、学習に関係する処理や制御の負荷を軽減することができる。
【0068】
また、本実施形態では、コントローラ20は、学習を終了してからのハイブリッド車両1の総走行距離が所定値以上になった場合、学習を再開する。これにより、学習終了後に生じたずれを、再開した学習により的確に補正することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 ハイブリッド車両
2 エンジン
3 スタータ
4 モータ
5 バッテリ
6 変速機
8 動力伝達系
12 車輪
15a 油圧室
15c クラッチピストン
15d 第1クラッチプレート
15e 第2クラッチプレート
15f ソレノイド
20 コントローラ(制御装置)
CL1 第1クラッチ(摩擦締結要素)
CL2 第2クラッチ
SN4 油圧センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6