(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162779
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】副室式エンジンの副室形成部材の製造方法および副室式エンジンの副室形成部材
(51)【国際特許分類】
F02B 19/16 20060101AFI20231101BHJP
H01T 13/54 20060101ALN20231101BHJP
F02P 13/00 20060101ALN20231101BHJP
【FI】
F02B19/16 C
F02B19/16 B
H01T13/54
F02P13/00 302B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073410
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】390003665
【氏名又は名称】株式会社日進製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 照章
(72)【発明者】
【氏名】松本 輝正
【テーマコード(参考)】
3G019
3G023
5G059
【Fターム(参考)】
3G019KA16
3G023AA06
3G023AB03
3G023AC03
3G023AD10
3G023AD25
3G023AE01
5G059KK23
(57)【要約】
【課題】混合気の燃焼効率を高めることができる副室式エンジンの副室形成部材の製造方法および副室式エンジンの副室形成部材を提供する。
【解決手段】副室式エンジンの副室形成部材の製造方法は、円筒状の第1基材1031の外側に有底円筒状の第2基材1032を外嵌させる外嵌工程と、第1基材1031の外壁と第2基材1032の内壁との間に形成された隙間に、固体の金属を充填する充填工程と、充填工程の後、第1基材1031、第2基材1032および金属を、金属の融点温度以上の温度まで昇温させることにより金属を溶融させる溶融工程と、溶融工程の後、第1基材1031、第2基材1032および金属を冷却することにより金属を固化させる冷却工程と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の本体部と前記本体部の外側を覆う外殻体と前記本体部と前記外殻体との間に介在し前記本体部と前記外殻体とに接合された伝熱部材とを有し、前記本体部の内側から前記外殻体の外壁に連通する少なくとも1つの噴孔が設けられるとともに、主燃焼室に連通する副室を形成するための副室式エンジンの副室形成部材の製造方法であって、
筒状であり前記本体部の基となる第1基材の外側に、有底筒状であり少なくとも底壁側とは反対側の端部の内側の筒軸方向に直交する断面の面積が、前記第1基材の筒軸方向に直交する断面の面積よりも大きい前記外殻体の基となる第2基材を外嵌させる外嵌工程と、
前記第1基材の外壁と前記第2基材の内壁との間に形成された隙間に、前記伝熱部材の基となる固体の金属を充填する充填工程と、
前記充填工程の後、前記第1基材、前記第2基材および前記金属を、前記金属の融点温度以上の温度まで昇温させることにより前記金属を溶融させる溶融工程と、
前記溶融工程の後、前記第1基材、前記第2基材および前記金属を冷却することにより前記金属を固化させる冷却工程と、を含む、
副室式エンジンの副室形成部材の製造方法。
【請求項2】
前記溶融工程において、前記第1基材、前記第2基材および前記金属を、前記第1基材および前記第2基材それぞれの融点温度未満の温度まで昇温させる、
請求項1に記載の副室式エンジンの副室形成部材の製造方法。
【請求項3】
前記第2基材は、
筒状であり筒軸方向における一端部が閉塞された第2基材本体と、
筒状であり前記第2基材本体の筒軸方向における他端部に連続するとともに、前記第2基材本体側とは反対側に向かうほど内側の前記第2基材の筒軸方向に直交する面積が大きい形状を有する第2基材開拡部と、を有する、
請求項1または2に記載の副室式エンジンの副室形成部材の製造方法。
【請求項4】
前記第1基材は、
筒状の第1基材本体と、
筒状であり前記第1基材本体の筒軸方向における一端部に連続するとともに、前記第1基材本体側とは反対側に向かうほど内側の前記第1基材の筒軸方向に直交する面積が大きい形状を有する第1基材開拡部と、を有し、
前記第1基材本体の外壁と前記第1基材開拡部の外壁と前記第2基材本体の内壁と第2基材開拡部の内壁とは、それぞれ、筒軸方向に並ぶ少なくとも1つの面から形成され、
前記第1基材本体の外壁と前記第1基材開拡部の外壁と前記第2基材本体の内壁と第2基材開拡部の内壁とにおける、隣接する2つの面の境界部分には、前記境界部分の内側に向かって湾曲した湾曲面が形成されている、
請求項3に記載の副室式エンジンの副室形成部材の製造方法。
【請求項5】
前記第1基材および前記第2基材は、NiおよびCrを含む合金から形成され、
前記金属は、CuまたはCuを含む合金である、
請求項1または2に記載の副室式エンジンの副室形成部材の製造方法。
【請求項6】
前記第1基材の外壁および前記第2基材の内壁には、Ni層が形成されている、
請求項5に記載の副室式エンジンの副室形成部材の製造方法。
【請求項7】
副室式エンジンの主燃焼室に連通する副室を形成するための副室式エンジンの副室形成部材であって、
筒状の本体部と、
前記本体部の外側を覆う外殻体と、
前記本体部と前記外殻体との間に介在し前記本体部と前記外殻体とに接合された伝熱部材と、を備え、
前記本体部の内側から前記外殻体の外壁に連通する少なくとも1つの噴孔が設けられている、
副室形成部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副室式エンジンの副室形成部材の製造方法および副室式エンジンの副室形成部材に関する。
【背景技術】
【0002】
筒状のハウジングの筒軸方向における一方の端部を覆うようにハウジングに固定され、複数の殻をそれらの厚さ方向に重ねた構造を有するとともに、内側に点火用の電極が配置される点火室キャップを備え、点火室キャップに複数のオリフィスが設けられたプレチャンバ点火プラグが提案されている(例えば特許文献1参照)。ここで、点火室キャップは、複数の殻におけるハウジングの端部に対向する一部分で互いに溶接された状態でハウジングに固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された点火室キャップでは、複数の殻同士が一部分でのみ溶接されているため、その他の部分では厚さ方向で隣り合う殻の間に空隙が形成される場合がある。この場合、空隙が形成された分だけ殻同士の接触面積が小さくなり点火室キャップの放熱性能が低下してしまう。そうすると、点火室キャップ内部の温度が上昇してしまい、点火室キャップの内側に存在する混合気が早期着火したり、或いは、温度上昇に伴いオリフィスが変形したりしてしまい、燃焼が不安定となり混合気の燃焼効率が低下してしまう虞がある。
【0005】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、混合気の燃焼効率を高めることができる副室式エンジンの副室形成部材の製造方法および副室式エンジンの副室形成部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る副室式エンジンの副室形成部材の製造方法は、
筒状の本体部と前記本体部の外側を覆う外殻体と前記本体部と前記外殻体との間に介在し前記本体部と前記外殻体とに接合された伝熱部材とを有し、前記本体部の内側から前記外殻体の外壁に連通する少なくとも1つの噴孔が設けられるとともに、主燃焼室に連通する副室を形成するための副室式エンジンの副室形成部材の製造方法であって、
筒状であり前記本体部の基となる第1基材の外側に、有底筒状であり少なくとも底壁側とは反対側の端部の内側の筒軸方向に直交する断面の面積が、前記第1基材の筒軸方向に直交する断面の面積よりも大きい前記外殻体の基となる第2基材を外嵌させる外嵌工程と、
前記第1基材の外壁と前記第2基材の内壁との間に形成された隙間に、前記伝熱部材の基となる固体の金属を充填する充填工程と、
前記充填工程の後、前記第1基材、前記第2基材および前記金属を、前記金属の融点温度以上の温度まで昇温させることにより前記金属を溶融させる溶融工程と、
前記溶融工程の後、前記第1基材、前記第2基材および前記金属を冷却することにより前記金属を固化させる冷却工程と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第1基材の外壁と第2基材の内壁との間に形成された隙間に伝熱部材の基となる固体の金属を充填した後、第1基材、第2基材および金属を、金属の融点温度以上の温度まで昇温させることにより金属を溶融させた後、金属を固化させる。これにより、第1基材と第2基材とが固化した金属を介して隙間無く接合されるので、第2基材から第1基材への伝熱効率を高めることができる。従って、第1基材と第2基材とを用いて形成された副室形成部材の放熱性能を高めることができるので、副室形成部材の内側に形成される副室内の過度の温度上昇を抑制することができ、燃焼効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態に係る副室式エンジンの概略断面図である。
【
図2】実施の形態に係るシリンダヘッドの概略断面図である。
【
図3】(A)は実施の形態に係る第1基材の断面図であり、(B)は実施の形態に係る第2基材の断面図である。
【
図4】実施の形態に係る第1基材および第2記載の斜視図である。
【
図5】(A)は実施の形態に係る第1基材に第2基材を外嵌させた状態の斜視図であり、(B)は実施の形態に係る第1基材に第2基材を外嵌させた状態の断面図である。
【
図6】(A)は実施の形態に係る第2基材が外嵌された第1基材における第1基材と第2基材との間の隙間に金属を充填した状態の断面図であり、(B)は実施の形態に係る副室形成部材の断面図である。
【
図7】(A)は変形例に係る第1基材の斜視図であり、(B)は変形例に係る第1基材を他の方向から見た斜視図である。
【
図8】(A)は変形例に係る第1基材に第2基材を外嵌させた状態を示す断面図であり、(B)は変形例に係る第1基材に第2基材を外嵌させた状態を他の方向から見たときの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係る副室式エンジンの副室形成部材の製造方法について、図面を参照しながら説明する。本実施の形態に係る副室式エンジンの副室形成部材の製造方法は、有底筒状の本体部と本体部の外側を覆う外殻体と本体部と外殻体との間に介在する伝熱部材とを有し、本体部の内側から外殻体の外壁に連通する少なくとも1つの噴孔が設けられるとともに、主燃焼室に連通する副室を形成するための副室式エンジンの副室形成部材の製造方法である。この副室式エンジンの副室形成部材の製造方法は、外嵌工程と、充填工程と、充填工程の後行われる溶融工程と、溶融工程の後行われる冷却工程と、を含む。外嵌工程では、筒状であり本体部の基となる第1基材の外側に、有底筒状であり少なくとも底壁側とは反対側の端部の内側の筒軸方向に直交する断面の面積が第1基材の底壁側とは反対側の一端部の第1基材の筒軸方向に直交する断面の面積よりも大きい外殻体の基となる第2基材を外嵌させる。充填工程では、第1基材の外壁と第2基材の内壁との間に形成された隙間に、伝熱部材の基となる固体の金属を充填する。溶融工程では、第1基材、第2基材および金属を、金属の融点温度以上の温度まで昇温させることにより金属を溶融させる。冷却工程では、第1基材、第2基材および金属を冷却することにより金属を固化させる。
【0010】
図1に示すように、本実施の形態にかかる副室式エンジン1は、自動車、コジェネレーションシステム(熱電併給装置)、ガス燃料機関式ヒートポンプ等で使用されるものであり、シリンダ11と、シリンダ11内に収納され往復運動するピストン12と、を備える。シリンダ11は、内側にピストン12が配置されるシリンダライナ113が設けられたシリンダブロック111と、シリンダブロック111のシリンダライナ113を閉塞するように配置されたシリンダヘッド112と、を備える。そして、シリンダライナ113の内側においてシリンダヘッド112とピストン12とにより主燃焼室S1が画定されている。また、シリンダヘッド112には、シリンダブロック111の主燃焼室S1に連通し主燃焼室S1へ空気と燃料とを含む混合気を導入するための吸気ポート151と、主燃焼室S1の気体を主燃焼室S1外へ排気するための排気ポート152と、が設けられている。更に、シリンダヘッド112には、吸気ポート151を開閉する吸気弁13と、排気ポート152を開閉する排気弁14と、が開閉自在に設けられている。
【0011】
また、副室式エンジン1は、シリンダヘッド112におけるシリンダブロック111のシリンダライナ113が設けられた部分に対向する位置に固定された点火プラグ2と、点火プラグ2に固定された副室形成部材3と、を備える。そして、副室式エンジン1の動作状態において、吸気弁13が開いて主燃焼室S1内へ混合気を導入された後、ピストン12がシリンダヘッド112側へ移動して主燃焼室S1内で混合気が圧縮される。その後、点火プラグ2により混合気が点火されると、混合気が燃焼してそれに伴いピストン12がシリンダヘッド112から遠ざかる方法へ押し出される。次に、排気弁14が開いて主燃焼室S1内に発生した燃焼生成物を含む気体が排気ポート152へ放出される。
【0012】
点火プラグ2は、
図2に示すように、長尺の円筒状のハウジング21と、ハウジング21の内側に配設されたインシュレータ24と、インシュレータ24により保持された中心電極22と、L字状であり先端部が中心電極22と対向配置された接地電極23と、を有する。ハウジング21は、低炭素鋼のような金属から形成され、シリンダヘッド112に固定されている。インシュレータ24は、セラミックのような電気的絶縁性材料から形成され、中心電極22とハウジング21との電気的絶縁性を維持した状態でハウジング21に固定されている。
【0013】
副室形成部材3は、有底筒状の本体部31と、本体部31の外側を覆う外殻体32と、本体部31と外殻体32との間に介在する伝熱部材33と、を有し、本体部31の内側から外殻体32の外壁に連通する複数の噴孔32aが設けられている。本体部31と外殻体32とは、NiとCrとを含む合金、例えばNiCr鋼のような金属から形成されている。また、伝熱部材33は、例えばCuのように本体部31、外殻体32を形成する金属に比べて熱伝導率が高い金属から形成されている。伝熱部材33の一部は、副室形成部材3の外壁に露出している。そして、本体部31の内側には、主燃焼室S1に噴孔32aを通じて連通する副室S2が形成されている。ここで、主燃焼室S1内で混合気が圧縮される際に主燃焼室S1から副室S2に流入し、副室S2内において点火プラグ2により混合気が点火される。
【0014】
また、シリンダヘッド112の内部には、副室形成部材3を冷却するための冷却水が流れる流路112aが設けられている。流路112aは、副室形成部材3が固定された点火プラグ2がシリンダヘッド112に固定された状態で副室形成部材3の一部を囲繞するように形成されている。ここで、副室形成部材3の外壁における伝熱部材33が露出した露出部分P1が、流路112a内に露出しており、流路112a内を通る冷却水と熱交換することにより伝熱部材33が冷却されるようになっている。
【0015】
次に、本実施の形態に係る副室形成部材3の製造方法について説明する。本実施の形態に係る副室形成部材3の製造方法では、まず、
図3(A)に示すような副室形成部材3の本体部31の基となる第1基材1031と、
図3(B)に示すような副室形成部材3の外殻体32の基となる第2基材1032と、を準備する準備工程を行う。ここで、第1基材1031は、
図3(A)に示すように、全体として円筒状であり、円筒状の第1基材本体1311と、円筒状であり筒軸J1方向の一端部で第1基材本体1311に連続し他端部に向かって拡径している第1基材開拡部1312と、円筒状であり第1基材開拡部1312の他端部から筒軸J1に沿って延出する延出部1314と、を有する。第1基材1031は、NiとCrとを含む合金、例えばNiCr鋼のような合金から形成されている。また、第1基材本体1311の筒軸J1方向における第1基材開拡部1312に連続する一端部とは反対側の他端部には、筒軸J1と直交し且つ筒軸J1から離れる方向へ張り出した外鍔部1313が設けられている。更に、延出部1314は、その内側に前述の点火プラグ2のハウジング21の端部が嵌入された状態でハウジング21の端部に当接する段部314aが形成されている。
【0016】
また、第1基材本体1311の外壁は、1つの外面1311aから構成され、第1基材開拡部1312の外壁は、筒軸J1方向に並ぶ3つの外面1312a、1312b、1312cから構成されている。そして、第1基材本体1311の外面1311aと第1基材開拡部1312における第1基材本体1311に隣接する部分の外面1312aとは、角度de11で交差し、第1基材開拡部1312における外面1312aと外面1312aと筒軸J1方向で隣接する外面1312bとは、角度de12で交差し、第1基材開拡部1312における外面1312bと外面1312bと筒軸J1方向で隣接する外面1312cとは、角度de13で交差している。角度de11、de12、de13は、例えば30度以下となるように設定されている。また、外面1311a、1312aの境界部分、外面1312a、1312bの境界部分、外面1312b、1312cの境界部分には、それぞれ、各境界部分の内側に向かって緩やかに湾曲した湾曲面(図示せず)が形成されている。更に、第1基材1031の外壁における少なくとも第1基材本体1311、第1基材開拡部1312の外壁には、Ni層が形成されている。このNi層は、メッキ法、蒸着法、スパッタリング法等の周知の成膜方法により形成することができる。
【0017】
また、第2基材1032は、
図3(B)に示すように、全体として有底円筒状であり、円筒状の第2基材本体1321と、円筒状であり筒軸J2方向の一端部で第2基材本体1321に連続し他端部に向かって拡径している第2基材開拡部1322と、円筒状であり第2基材開拡部1322の他端部から筒軸J2に沿って延出する延出部1324と、を有する。第2基材1032は、第1基材1031と同様に、NiとCrとを含む合金、例えばNiCr鋼のような合金から形成されている。また、第2基材本体1321の筒軸J2方向における第2基材開拡部1322に連続する一端部とは反対側の他端部には、略半球状であり第2基材開拡部1322側とは反対側に向かって凸となる形で第2基材本体1321の他端部を閉塞する底壁1323が第2基材本体1321と連続一体に設けられている。また、底壁1323における第2基材本体1321の内側に対向する部分には、窪み部1323aが穿設されている。ここで、第2基材1032は、底壁1323側とは反対側の端部の内側の筒軸方向に直交する断面の面積が、第1基材1031の筒軸J1方向に直交する断面の面積よりも大きい。即ち、
図3(A)および(B)に示すように、第2基材1032の延出部1324の第2基材開拡部1322側とは反対側の端部の内径寸法D21は、第1基材1031の延出部1314の外径寸法D11よりも大きい。また、第2基材1032の第2基材本体1321の内径寸法D22は、第1基材1031の第1基材本体1311の外径寸法D12よりも大きい。更に、第1基材1031の外鍔部1313の外径寸法D13は、第2基材1032の第2基材本体1321の内径寸法D22よりも若干小さくなるように設定されている。
【0018】
また、第2基材本体1321の内壁は、1つの内面1321aから構成され、第2基材開拡部1322の内壁は、筒軸J1方向に並ぶ2つの面1322a、1322bから構成されている。そして、第2基材本体1321の内面1321aと第2基材開拡部1322における第2基材本体1321に隣接する部分の内面1322aとは、角度de21で交差し、第2基材開拡部1322における内面1322aと内面1322aと筒軸J1方向で隣接する内面1322bとは、角度de22で交差している。角度de21、de22は、例えば30度以下となるように設定されている。また、内面1321a、1322aの境界部分、内面1322a、1322bの境界部分には、それぞれ、各境界部分の内側に向かって緩やかに湾曲した湾曲面(図示せず)が形成されている。更に、第2基材1032の内壁における少なくとも第2基材本体1321、第2基材開拡部1322の内壁には、第1基材1031の外壁と同様に、Ni層が形成されている。このNi層は、メッキ法、蒸着法、スパッタリング法等の周知の成膜方法により形成することができる。
【0019】
次に、
図4の矢印AR1に示すように、第1基材1031の外側に第2基材1032を外嵌させる外嵌工程を行う。これにより、
図5(A)および(B)に示すように、第1基材1031の外側に第2基材1032が外嵌された状態となる。このとき、
図5(B)に示すように、第1基材1031の外鍔部1313が第2基材1032の第2基材本体1321に嵌入されて第2基材1032の底壁1323に当接した状態となる。そして、第1基材1031の外壁と第2基材1032の内壁との間には隙間S11が形成される。
【0020】
続いて、
図6(A)に示すように、第1基材1031の外壁と第2基材1032の内壁との間に形成された隙間S11に、伝熱部材33の基となる固体の金属M1を充填する充填工程を行う。ここで、固体の金属M1としては、Cuのような第1基材1031、第2基材1032を形成する金属よりも熱伝導率が高い金属の個片または粒状物を採用することができる。
【0021】
その後、第1基材1031、第2基材1032および金属M1を、金属M1の融点温度以上の温度であり且つ第1基材1031および第2基材1032それぞれの融点温度未満の温度まで昇温させることにより金属M1を溶融させる溶融工程を行う。例えば第1基材1031、第2基材1032が、融点温度が約1400℃であるNiCr鋼から形成されている場合、金属M1として融点温度が約1084℃のCuを採用した場合、第1基材1031、第2基材1032および金属M1を、1084℃以上1400℃未満の温度まで昇温させて金属M1のみを溶融させる。
【0022】
ここで、金属M1がCuである場合、第1基材1031の外鍔部1313と第2基材1032の第2基材本体1321の内壁および底壁1323との当接部分において、第1基材1031、第2基材1032に含まれるCrとCuとが反応してクロム炭化物が生成される。これにより、金属M1の第1基材1031の外鍔部1313と第2基材1032の第2基材本体1321の内壁および底壁1323との当接部分への浸透が阻害され、金属M1の第2基材1032の底壁1323の窪み部1323aの内側への侵入を抑制できる。一方、第1基材1031の第1基材本体1311および第1基材開拡部1312の外壁と、第2基材1032の第2基材本体1321の内壁および第2基材開拡部1322の内壁と、にはNi層が形成されている。これにより、第1基材1031の第1基材本体1311および第1基材開拡部1312の外壁と、第2基材1032の第2基材本体1321の内壁および第2基材開拡部1322の内壁と、の間では、CuとCrとの反応が抑制され、クロム炭化物の生成が抑制される。これにより、第1基材1031の第1基材本体1311および第1基材開拡部1312の外壁と、第2基材1032の第2基材本体1321の内壁および第2基材開拡部1322の内壁と、に対する溶融した金属M1の濡れ性が維持される。
【0023】
次に、第1基材1031、第2基材1032および金属M1を冷却することにより金属M1を固化させる冷却工程を行う。これにより、第1基材1031と第2基材1032とが固化した金属M1を介して互いに接合された状態となる。続いて、副室形成部材3が固定されるシリンダヘッド112の取付部分の構造に合わせて、第1基材1031、第2基材1032および固化した金属M1から構成される構造体を切削加工する切削加工工程と、第2基材1032の底壁1323にその外面から窪み部1323aの内側に連通する複数の噴孔32aを穿設する噴孔形成工程と、を行うことにより、
図6(B)に示すような副室形成部材3を得る。
【0024】
以上説明したように、本実施の形態に係る副室式エンジン1の副室形成部材3の製造方法によれば、第1基材1031の内壁と第2基材1032の外壁との間に形成された隙間S11に伝熱部材33の基となる固体の金属M1を充填した後、第1基材1031、第2基材1032および金属M1を、金属M1の融点温度以上の温度まで昇温させることにより金属M1を溶融させた後、金属M1を固化させる。これにより、第1基材1031と第2基材1032とが固化した金属M1を介して隙間無く接合されるので、第2基材1032から第1基材1031への伝熱効率を高めることができる。従って、第1基材1031と第2基材1032とから形成された副室形成部材3の放熱性能を高めることができるので、副室形成部材3の内側に形成される副室S2内の過度の温度上昇を抑制することができ、燃焼効率を高めることができる。
【0025】
また、本実施の形態に係る副室形成部材3の製造方法によれば、第1基材1031の外側に第2基材1032を外嵌させるだけで、金属M1を充填するための隙間S11を形成することができるので、微細な加工が不要となり、その分、製造コストを低減できる。また、本実施の形態に係る副室形成部材3は、副室S2を囲繞するように伝熱部材33が形成されているので、副室S2全体の冷却効果を高めることができる。
【0026】
更に、本実施の形態に係る第2基材1032は、円筒状の第2基材本体1321と、円筒状であり第2基材本体1321の端部に連続するとともに、第2基材本体1321側とは反対側に向かうほど拡径し、第2基材本体1321側とは反対側に向かうほど内壁が第1基材1031の外壁から離れる形状を有する第2基材開拡部1322と、を有する。これにより、第1基材1031の外側に第2基材1032を外嵌させた状態で隙間S11に連通する開口部分の面積を広げることができるので、第1基材1031と第2基材1032との間の隙間S11への金属M1の充填を効率的に行うことができる。
【0027】
また、本実施の形態に係る第1基材本体1311の外壁と第1基材開拡部1312の外壁と第2基材本体1321の内壁と第2基材開拡部1322の内壁とにおける、隣接する外面1311a、1312a、1312b、1312c、内面1321a、1322a、1322bの境界部分には、境界部分の内側に向かって湾曲した湾曲面が形成されている。これにより、充填工程において、金属M1が円滑に隙間S11の奥側へ流れていくので、第1基材1031と第2基材1032との間に金属M1を充填した状態で、金属M1が充填された部分の一部にいわゆるエア溜まりが発生することを抑制できる。
【0028】
更に、本実施の形態に係る第1基材1031および第2基材1032は、NiおよびCrを含む合金から形成され、金属M1は、CuまたはCuを含む合金の個片または粒状物である。これにより、前述のように、第1基材1031の外鍔部1313と第2基材1032の第2基材本体1321の内壁および底壁1323との当接部分においてクロム炭化物が形成されることに起因して、金属M1の前述の当接部分への浸透が阻害されるので、金属M1の第2基材1032の底壁1323の窪み部1323aの内側への侵入を抑制できる。
【0029】
また、本実施の形態に係る第1基材1031の外壁および第2基材1032の内壁には、Ni層が形成されている。これにより、第1基材1031の第1基材本体1311および第1基材開拡部1312の外壁と、第2基材1032の第2基材本体1321の内壁および第2基材開拡部1322の内壁と、に対する溶融した金属M1の濡れ性が維持される。従って、第1基材1031の第1基材本体1311および第1基材開拡部1312の外壁と、第2基材1032の第2基材本体1321の内壁および第2基材開拡部1322の内壁と、を、金属M1を介して隙間無く堅固に接合することができる。
【0030】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は前述の実施の形態の構成に限定されるものではない。例えば
図7(A)および(B)に示すように、第1基材2031が、円筒状であり筒軸J2001方向に沿って延在する複数の溝2311aが形成された第1基材本体2311と、円筒状であり筒軸J2001方向の一端部で第1基材本体2311に連続し他端部に向かって拡径している第1基材開拡部2312と、円筒状であり第1基材開拡部2312の他端部から筒軸J2001に沿って延出する延出部2314と、外鍔部2313と、を有するものであってもよい。ここで、第1基材開拡部2312の外壁には、第1基材開拡部2312の筒軸方向に沿って延在し、第1基材本体2311側の端部で複数の溝2311aそれぞれに連通する複数の溝2312aが形成されている。
【0031】
ここで、本変形例に係る第1基材2031に第2基材1032を外嵌させた場合、
図8(A)に示すように、第1基材開拡部2312における溝2312aが形成された部分では、第1基材2031の外壁と第2基材1032の内壁との間に隙間S21が形成されている。一方、
図8(B)に示すように、第1基材開拡部2312における溝2312aが形成されていない面2312bは、第2基材1032の内壁に当接しており隙間が形成されていない。
【0032】
本構成によれば、第1基材2031と第2基材1032との間に充填する金属M1の量を低減することができるので、副室形成部材の軽量化を図ることができる。
【0033】
以上、本発明の実施の形態および変形例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、実施の形態および変形例が適宜組み合わされたもの、それに適宜変更が加えられたものを含む。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、副室式エンジンの副室形成部材に好適である。
【符号の説明】
【0035】
1:副室式エンジン、2:点火プラグ、3:副室形成部材、11:シリンダ、12:ピストン、13:吸気弁、14:排気弁、21:ハウジング、22:中心電極、23:接地電極、24:インシュレータ、31:本体部、32:外殻体、32a:噴孔、33:伝熱部材、111:シリンダブロック、112:シリンダヘッド、112a:流路、113:シリンダライナ、151:吸気ポート、152:排気ポート、314a:段部、1031,2031:第1基材、1032:第2基材、1311,2311:第1基材本体、1311a,1312a,1312b,1312c:外面、1312,2312:第1基材開拡部、1313,2313:外鍔部、1314,1324,2314:延出部、1321:第2基材本体、1321a,1322a,1322b:内面、1322:第2基材開拡部、1323:底壁、1323a:窪み部、2311a,2312a:溝、2312b:面、J1,J2,J2001:筒軸、M1:金属、P1:露出部分、S1:主燃焼室、S2:副室、S11,S21:隙間