(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162781
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】診断薬、薬効予測キット、薬効予測方法、及びマーカー
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6876 20180101AFI20231101BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20231101BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20231101BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
C12Q1/6876 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/6813 Z
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073419
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】501083643
【氏名又は名称】学校法人慈恵大学
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雄
(72)【発明者】
【氏名】門田 宰
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS28
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】肺がん患者における抗PD-1抗体の治療効果の予測に寄与する、診断薬、薬効予測キット、薬効予測方法、及びマーカーを提供する。
【解決手段】抗PD-1抗体を使用する肺がん患者に用いられるコンパニオン診断薬であって、miR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、miR-4534、及びmiR-6729-5からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを増幅するためのプライマーセット、及び/又は前記miRNA若しくはその増幅産物に結合するプローブを含む、診断薬。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗PD-1抗体を使用する肺がん患者に用いられるコンパニオン診断薬であって、
miR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、miR-4534、及びmiR-6729-5からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを増幅するためのプライマーセット、及び/又は前記miRNA若しくはその増幅産物に結合するプローブを含む、診断薬。
【請求項2】
請求項1に記載の診断薬を含む、肺がん患者における抗PD-1抗体薬効予測用キット。
【請求項3】
患者由来の検体中のmiR-6729-5を内在性コントロールとし、前記検体中のmiR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、及びmiR-4534からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現量をin vitroで測定し、前記miRNAの発現量を用いて患者に対する抗PD-1抗体の薬効を評価することを含む、抗PD-1抗体薬効予測方法。
【請求項4】
患者由来の検体中のmiR-6729-5を内在性コントロールとし、前記検体中のmiR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、及びmiR-4534からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現量をin vitroで測定し、
抗PD-1抗体に薬効のあった対照者由来の検体中の対応するmiRNAの対照発現量と、抗PD-1抗体に薬効の無かった対照者由来の検体中の対応するmiRNAの対照発現量とを教師データとして作成された、抗PD-1抗体の薬効の有無を判別する判別式に、前記患者由来の検体中の前記miRNAの発現量を代入し、抗PD-1抗体の薬効を評価することを含む、抗PD-1抗体薬効予測方法。
【請求項5】
肺がん患者における抗PD-1抗体の薬効予測マーカーであって、
生体から分離された被検試料中に含まれる、miR-6729-5を内在性コントロールとし、前記被検試料中に含まれる、miR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、及びmiR-4534からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを含む、マーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断薬、薬効予測キット、薬効予測方法、及びマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体は、一部のがん患者では著明な効果を示すものの、奏功率は、20~30%程度である。血清microRNA(以下、miRNAともいう。)は、がん診断や腫瘍免疫応答を反映する非常に有用なマーカーとして考えられている。
【0003】
食道がんにおいては、特定のmiRNAを用いてニボルマブの薬効を予測する方法が提案されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、肺がんにおいては、臨床現場では腫瘍PD-L1発現を測定しているものの、精度の観点から改良の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]抗PD-1抗体を使用する肺がん患者に用いられるコンパニオン診断薬であって、
miR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、miR-4534、及びmiR-6729-5からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを増幅するためのプライマーセット、及び/又は前記miRNA若しくはその増幅産物に結合するプローブを含む、診断薬。
[2][1]に記載の診断薬を含む、肺がん患者における抗PD-1抗体薬効予測キット。
[3]患者由来の検体中のmiR-6729-5を内在性コントロールとし、前記検体中のmiR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、及びmiR-4534からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現量をin vitroで測定し、前記miRNAの発現量を用いて患者に対する抗PD-1抗体の薬効を評価することを含む、抗PD-1抗体薬効予測方法。
[4]患者由来の検体中のmiR-6729-5を内在性コントロールとし、前記検体中のmiR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、及びmiR-4534からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現量をin vitroで測定し、抗PD-1抗体に薬効のあった対照者由来の検体中の対応するmiRNAの対照発現量と、抗PD-1抗体に薬効の無かった対照者由来の検体中の対応するmiRNAの対照発現量とを教師データとして作成された、抗PD-1抗体の薬効の有無を判別する判別式に、前記患者由来の検体中の前記miRNAの発現量を代入し、抗PD-1抗体の薬効を評価することを含む、抗PD-1抗体薬効予測方法。
[5]肺がん患者における抗PD-1抗体の薬効予測マーカーであって、生体から分離された被検試料中に含まれる、miR-6729-5を内在性コントロールとしmiR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、及びmiR-4534からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを含む、マーカー。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、肺がん患者における抗PD-1抗体の治療効果の予測に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例で用いたデータセットの詳細を示すフローチャートである。
【
図2】(A)実施例で用いた解析方法の詳細を示すフローチャートである。(B)学習データにおける20回分のROC曲線下面積(AUC)のヒストグラムである。(C)検証データにおける20回分のAUCのヒストグラムである。
【
図3】(A)Discovery setにおける、感度を縦軸に、1-特異度を縦軸に示したROC曲線である。(B)Validation setにおける、感度を縦軸に、1-特異度を縦軸に示したROC曲線である。(C)Discovery setにおける、各症例のmiRNAのindex scoreをドットプロットで表したグラフである。(D)Validation setにおける、各症例のmiRNAのindex scoreをドットプロットで表したグラフである。
【
図4】(A)学習データ(discovery set)におけるmiRNAのindex scoreのカットオフ値を0とした際のNon-responderとResponderとの比を表したグラフである。(B)検証データ(validation set)におけるmiRNAのindex scoreのカットオフ値を0とした際のNon-responderとResponderとの比を表したグラフである。(C)肺腺がんのみを抽出して分析した結果である。
【
図5】各miRNAにおける、感度を縦軸に、1-特異度を縦軸に示したROC曲線である。
【
図6】(A)Discovery setにおける、臨床で用いられている既存のPD-L1マーカーと本発明における5つのmiRNAの組み合わせとを比較したROC曲線である。(B)Validation setにおける、臨床で用いられている既存のPD-L1マーカーと本発明における5つのmiRNAの組み合わせとを比較したROC曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪薬効予測マーカー≫
本実施形態は、肺がん患者における抗PD-1抗体の薬効予測マーカーであって、miR-6729-5を内在性コントロールとし、miR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、及びmiR-4534からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNA、又は前記miRNAの相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる核酸を含む、マーカーを提供する。
実施例において後述するように、本発明者は、ニボルマブに対する薬効の有無によって、高い汎用性で発現量が変動するmiRNA、及びその組み合わせを見出した。
【0010】
本実施形態において、「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、5×SSC(20×SSCの組成:3M 塩化ナトリウム,0.3M クエン酸溶液,pH7.0)、0.1重量% N-ラウロイルサルコシン、0.02重量%のSDS、2重量%の核酸ハイブルダイゼーション用ブロッキング試薬、及び50%フォルムアミドから成るハイブリダイゼーションバッファー中で、55~70℃で数時間から一晩インキュベーションを行うことによりハイブリダイズさせる条件を挙げることができる。なお、インキュベーション後の洗浄の際に用いる洗浄バッファーとしては、好ましくは0.1重量%SDS含有1×SSC溶液、より好ましくは0.1重量%SDS含有0.1×SSC溶液である。
【0011】
本実施形態において、「薬効がある」とは、完全奏功又は部分奏功が認められることを意味し、「薬効が無い」とは、完全奏功及び部分奏功のいずれも認められないことを意味する。
【0012】
miR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、miR-4534、及びmiR-6729-5の塩基配列は、それぞれ順に配列番号1~6で表される。
本実施形態の薬効予測マーカーは、配列番号1~6のいずれかで表される塩基配列と95%以上の同一性を有する塩基配列を含む核酸であることが好ましい。同一性としては、95%以上が好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上が特に好ましく、99%以上が最も好ましい。
【0013】
本実施形態の薬効予測マーカーにおける標的核酸としては、miR-6729-5を内在性コントロールとし、miR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、及びmiR-4534からなる群から選択される1つのmiRNAが好ましく、2つがより好ましく、3つが更に好ましく、4つが更に好ましく、miR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、miR-4534、及びmiR-6729-5の5つの組み合わせが最も好ましい。
【0014】
本実施形態において、抗PD-1抗体としては、ニボルマブ、ペムブロリズマブ等が挙げられ、ニボルマブが好ましい。
【0015】
≪コンパニオン診断薬≫
本実施形態は、抗PD-1抗体を使用する肺がん患者に用いられるコンパニオン診断薬であって、miR-6729-5を内在性コントロールとし、miR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、及びmiR-4534からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを増幅するためのプライマーセット、及び/又は前記miRNA若しくはその増幅産物に結合するプローブを含む、診断薬を提供する。
【0016】
実施例において後述するように、本発明者は、上記マーカーは、抗PD-1抗体が、薬効があった患者と薬効が無かった患者との間において、検体中の発現量に大きな差が生じることを見出した。よって、本発明の診断薬は、抗PD-1抗体の薬効を予測するために有効に使用できる。
【0017】
≪薬効予測キット≫
本実施形態は、上記本発明の診断薬を含む、肺がん患者における抗PD-1抗体薬効予測用キットを提供する。
【0018】
本実施形態のキットは、体液、細胞、組織等から核酸(例えば、total RNA)を抽出するためのキット、標識用蛍光物質、核酸増幅用試薬等を含むことが好ましい。
【0019】
≪薬効予測デバイス≫
本実施形態は、肺がん患者における抗PD-1抗体の薬効予測デバイスであって、固相と、前記固相に結合したmiR-6729-5を内在性コントロールとし、miR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、及びmiR-4534からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAとハイブリダイズし得る核酸を含む、薬効予測デバイスを提供する。
【0020】
本実施形態のデバイスは、上記核酸が固相に結合したものである。固相としては、ガラス基板、シリコン基板、プラスチック基板、金属基板等が挙げられる。上記核酸が固相に結合したものとして、DNAアレイ、RNAアレイ等の核酸アレイが挙げられる。核酸アレイとしては、L-リジンやアミノ基、カルボキシル基等の官能基でコートされた固相表面に核酸が固定されたものが挙げられる。
【0021】
≪抗PD-1抗体薬効予測方法≫
患者由来の検体中のmiR-6729-5を内在性コントロールとし、miR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、及びmiR-4534からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現量をin vitroで測定し、前記miRNAの発現量を用いて患者に対する抗PD-1抗体の薬効を評価することを含む、抗PD-1抗体薬効予測方法を提供する。
例えば、患者由来の検体中の上記miRNAの発現量と、抗PD-1抗体に薬効の無いことが分かっている対照者の対照発現量とを用いて両発現量を比較して、検体中の上記miRNAの発現量が、抗PD-1抗体に薬効の無い対照者の対照発現量より有意に差がある場合、患者が、抗PD-1抗体に薬効があると予測できる。
また、例えば、患者由来の検体中の上記miRNAの発現量と、抗PD-1抗体に薬効の有ることが分かっている対照者の対照発現量とを用いて両発現量を比較して、検体中の上記miRNAの発現量が、抗PD-1抗体に薬効の有る対照者の対照発現量より有意に差がある場合、患者が、抗PD-1抗体に薬効が無いと予測できる。
【0022】
本実施形態において、検体としては、血液、尿、唾液、汗、組織浸出液等が挙げられ、血液が好ましい。血液の中でも、血清、血しょう等が挙げられ、血清が好ましい。検体からmiRNAを抽出する方法としては、酸性フェノールを含むRNA抽出用試薬を用いた方法等が挙げられ、定法に従う。
【0023】
患者由来の検体中のmiRNAの検出方法としては、プライマーを用いてPCRにより、特定のmiRNAの断片を増幅し、その増幅産物を解析してもよく、特定のmiRNAに相補的なプローブを用いて、ハイブリダイゼーションを用いた方法により、解析してもよい。
定量性の観点から、PCRにより特定のmiRNAの断片を増幅し、その増幅産物を解析することが好ましい。具体的な定量方法としては、次世代シークエンサー(NGS)法やリアルタイムPCR(RT-PCR)法が挙げられる。
【0024】
次世代シークエンサーでは、解析されたDNA断片をリードと呼び、リード数と1リード当たりに決定される塩基数(リード長)の積が出力データとなる。本実施形態において、miR-6729-5を内在性コントロールとし、miR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、及びmiR-4534からなる群から選択される少なくとも1つをsingleplex PCRまたはmultiplex PCRで増幅し、次世代シークエンサー(NGS)でその増幅産物の塩基配列を解析し、当該領域のリード数を計数することにより定量することが好ましい。multiplex PCRは、一つのPCR反応系に複数のプライマー対を同時に使用することで、複数の遺伝子領域を同時に増幅する方法である。上述した特定のmiRNAにアニールするプライマーの組み合わせの少なくとも一部を、一つのPCR反応系で使用してもよい。
【0025】
リアルタイムPCRでは、インターカレータ-法、プローブ法、サイクリングプローブ法等を用いて、蛍光強度を検出することにより、増幅産物の生成量をモニターすることができる。本実施形態において、miR-6729-5を内在性コントロールとし、miR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、及びmiR-4534からなる群から選択される少なくとも1つをsingleplexまたはmultiplexのリアルタイムPCR法により定量することが好ましい。multiplex PCRにおいては、上述した特定のmiRNAにアニールする様々なプライマーの組み合わせの少なくとも一部を、一つのPCR反応系で使用してもよい。
【0026】
また、リアルタイムPCRにおいては、特定のmiRNAに相補的な蛍光色素標識プローブを用いることが好ましい。
定量方法としては、ターゲットの実際のコピー数を決定する絶対定量法とサンプル間の相対値を決定する比較定量法が挙げられ、取得したいデータの質に応じて使い分けられる。
【0027】
本実施形態は、患者由来の検体中のmiR-6729-5を内在性コントロールとし、miR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、及びmiR-4534からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現量をin vitroで測定し、抗PD-1抗体に薬効のあった対照者由来の検体中の対応するmiRNAの対照発現量と、抗PD-1抗体に薬効の無かった対照者由来の検体中の対応するmiRNAの対照発現量とを教師データとして作成された、抗PD-1抗体の薬効の有無を判別する判別式に、前記患者由来の検体中の前記miRNAの発現量を代入し、抗PD-1抗体の薬効を評価することを含む、抗PD-1抗体薬効予測方法を提供する。
【0028】
本実施形態において、ROC曲線下面積(AUC)のヒストグラムにおいて、中央値に焦点を当て、LASSO回帰を用いて20回繰り返し10分割交差により判別式を作成した。これにより、miR-6729-5を内在性コントロールとしmiR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、及びmiR-4534の組み合わせによる汎用性がmiRNAの判別式を見出すことができた。
【0029】
本実施形態により、低侵襲的に、感度及び特異度の高い、抗PD-1抗体の薬効予測を可能とし、早期の治療、及び予後の改善をもたらすことができる。
【実施例0030】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
インフォームドコンセントを得たニボルマブを投与された肺がん患者143例(A病院118例、B病院25例)のうち、効果判定ができなかった5例を除いた138例の血清中のmiRNAを解析に用いた。この138例を2群に分け、111例を学習データ(discovery set)に用い、27例を検証データ(validation set)に用いて解析を行った(
図1参照)。
患者の背景を表1に示す。discovery set及びvalidation setの患者の年齢は、共に平均60代であり、両群で優位な差は認められなかった。
【0032】
【0033】
解析方法を
図2(A)に示す。患者の血清400μLからmiRNeasy Kits (QIAGEN社)を用いてRNAを抽出し、QIAseq miRNA Library Kit Kits (QIAGEN社)を用いてライブラリーを作成し,illmina NextSeqによる次世代シークエンサーを用いて、ニボルマブ奏功群と非奏功群の2250個のmiRNAプロファイルを網羅的に解析した。検出したmiRNAのリード数、及び設定した内在性コントロールの値を元に、LASSO回帰を用いて、20回繰り返し10分割交差検証を学習データと検証データで行い、汎用性能を評価した。
【0034】
学習データにおける20回分のROC曲線下面積(AUC)のヒストグラムを
図2(B)に示す。miR-452-3p、miR-3129-3p、miR-4304、miR-4492、miR-4534、及びmiR-6729-5の組み合わせを用いることにより、中央値は、0.75であった。次いで、検証データにおける20回分のAUCのヒストグラムを
図2(C)に示す。中央値は、0.66であった。
【0035】
図2(B)で示した学習データ(discovery set)における中央値0.75の内訳としては、感度が100%、特異度が約9%であった(
図3(A)参照。)。
図2(C)で示した検証データ(validation set)における中央値0.66の内訳としては、感度が100%、特異度が約13%であった(
図3(B)参照。)。
【0036】
本明細書において、「感度」は、(真陽性の数)/(真陽性の数+偽陽性の数)の値を意味する。感度が高ければニボルマブの薬効がある患者を予測することが可能となり、ニボルマブによる治療の選択につながる。
【0037】
本明細書において、「特異度」は、(真陰性の数)/(真陰性の数+偽陰性の数)の値を意味する。特異度が高ければニボルマブの薬効が無い患者を、ニボルマブの薬効が有る患者であると誤判別することによる無駄な治療を防ぎ、患者の負担の軽減や医療費の削減につながる。
【0038】
次いで、学習データ(discovery set)及び検証データ(validation set)それぞれにおける各症例のmiRNAのindex scoreをドットプロットで表した(
図3(C)及び(D)参照。)。
図3(C)及び(D)に示す様に、学習データ(discovery set)及び検証データ(validation set)ともに、Non-responderとResponderにおけるindex scoreに差が確認された。
【0039】
次いで、Non-responderとResponderにおけるmiRNAのindex scoreのカットオフ値を0とした際の学習データ(discovery set)と検証データ(validation set)の比を
図4(A)及び(B)に示す。学習データ(discovery set)及び検証データ(validation set)ともに、高い割合でNon-responderとResponderを識別することができた。
【0040】
上記データセットから肺腺がんのみを抽出して分析した結果を
図4(C)に示す。肺腺がんにおいても学習データ(discovery set)及び検証データ(validation set)ともに、Non-responderとResponderにおけるindex scoreに差が確認された。
【0041】
20回繰り返し10分割交差検証を行った際の各モデルの判定式の詳細を表2に示す。また、各miRNA個別の精度を
図5に示す。個別のmiRNAよりこれら5つを組み合わせた方が、精度が高いことが確認された。
【0042】
【0043】
本明細書において、「精度」は、(真陽性の数+真陰性の数)/(全症例数)の値を意味する。精度は、全検体に対しての判別結果が正しかった割合を示しており、検出性能を評価する第一の指標となる。
【0044】
更に、臨床で用いられている既存のPD-L1マーカーと本発明における5つのmiRNAの組み合わせとを比較した結果を
図6(A)、(B)に示す。既存のPD-L1マーカーと比較して、本発明における5つのmiRNAの組み合わせの方が、精度が高いことが確認された。
【0045】
以上、網羅的な血清miRNAプロファイルを用いることで、体液診断での免疫チェックポイント阻害剤の奏効予測を行えることが確認された。