(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162796
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】炭素材料-硫黄複合材料、蓄電デバイス用電極材料、及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
C01B 32/21 20170101AFI20231101BHJP
C01B 32/342 20170101ALI20231101BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20231101BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231101BHJP
H01G 11/26 20130101ALI20231101BHJP
H01G 11/24 20130101ALI20231101BHJP
H01G 11/32 20130101ALI20231101BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20231101BHJP
【FI】
C01B32/21
C01B32/342
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01G11/26
H01G11/24
H01G11/32
H01G11/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073440
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 拓也
【テーマコード(参考)】
4G146
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA02
4G146AA06
4G146AA15
4G146AA19
4G146AC04A
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4G146AC05A
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4G146AC07B
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4G146AC17B
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4G146AC27B
4G146AD02
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4G146BA01
4G146BA02
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4G146BB04
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4G146BD10
4G146BD17
4G146BD18
5E078AA02
5E078AA05
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5E078HA05
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA11
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050HA06
5H050HA07
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】蓄電デバイスの充放電時におけるサイクル特性の劣化を抑制することができる、炭素材料-硫黄複合材料を提供する。
【解決手段】グラファイト構造を有する炭素材料と、硫黄とを含む、複合材料であって、前記炭素材料は、細孔径が0.4nm以上、10nm以下の多孔質構造を有し、前記複合材料のX線回折測定をしたときに、硫黄S8由来のピークとグラファイト構造由来のピークとのピーク強度比(硫黄S8由来のピーク/グラファイト構造由来のピーク)が、0.8以下である、炭素材料-硫黄複合材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイト構造を有する炭素材料と、硫黄とを含む、複合材料であって、
前記炭素材料は、細孔径が0.4nm以上、10nm以下の多孔質構造を有し、
前記複合材料のX線回折測定をしたときに、硫黄S8由来のピークとグラファイト構造由来のピークとのピーク強度比(硫黄S8由来のピーク/グラファイト構造由来のピーク)が、0.8以下である、炭素材料-硫黄複合材料。
【請求項2】
前記炭素材料の窒素吸着等温線及び窒素脱着等温線が、ヒステリシスを有さない、請求項1に記載の炭素材料-硫黄複合材料。
【請求項3】
前記炭素材料のBET比表面積が、100m2/g以上である、請求項1又は2に記載の炭素材料-硫黄複合材料。
【請求項4】
前記炭素材料が、グラファイト構造を有する炭素材料と、アモルファスカーボンとの複合体である、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素材料-硫黄複合材料。
【請求項5】
前記グラファイト構造を有する炭素材料が、黒鉛又は薄片化黒鉛である、請求項4に記載の炭素材料-硫黄複合材料。
【請求項6】
前記グラファイト構造を有する炭素材料が、エッジ部においてグラファイトが部分的に剥離されている構造を有する、部分剥離型薄片化黒鉛である、請求項4又は5に記載の炭素材料-硫黄複合材料。
【請求項7】
前記アモルファスカーボンが、前記多孔質構造を構成している、請求項4~6のいずれか1項に記載の炭素材料-硫黄複合材料。
【請求項8】
前記硫黄が、環状構造及び直鎖構造のうちの少なくとも一方を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の炭素材料-硫黄複合材料。
【請求項9】
前記硫黄が、硫黄と、Li、Na、K、Ca、Mg、及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の金属とを含む化合物である、請求項1~8のいずれか1項に記載の炭素材料-硫黄複合材料。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の炭素材料-硫黄複合材料を含む、蓄電デバイス用電極材料。
【請求項11】
請求項10に記載の蓄電デバイス用電極材料により構成されている電極を備える、蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイト構造を有する炭素材料と、硫黄とを含む、炭素材料-硫黄複合材料、並びに該炭素材料-硫黄複合材料を用いた蓄電デバイス用電極材料及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話やノートパソコンなどの小型通信機器、及び情報端末用途や、電気自動車等の車載用途において、リチウムイオン二次電池が広く用いられている。リチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度を有するので、機器の小型化や軽量化を実現することができる。もっとも、今後さらなる利用拡大が見込まれる中で、より一層の高容量化が求められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の高容量化には、正極及び負極の活物質による容量拡大が不可欠である。このうち正極については、従来の金属酸化物系の活物質では容量に限界があることから、画期的な容量拡大が可能な新しい活物質として硫黄系の活物質が提案され、検討が進められている。
【0004】
例えば、下記の非特許文献1には、グラフェンと硫黄との複合体により構成される正極を備える、リチウム-硫黄二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ACS NANO, VOL.8, NO. 5, 5208-5215, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1のリチウム-硫黄二次電池では、充放電時においてサイクル特性が劣化することがあり、十分な電池特性を確保することが難しいという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、蓄電デバイスの充放電時におけるサイクル特性の劣化を抑制することができる、炭素材料-硫黄複合材料、該炭素材料-硫黄複合材料を用いた蓄電デバイス用電極材料及び蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る炭素材料-硫黄複合材料は、グラファイト構造を有する炭素材料と、硫黄とを含む、複合材料であって、前記炭素材料は、細孔径が0.4nm以上、10nm以下の多孔質構造を有し、前記複合材料のX線回折測定をしたときに、硫黄S8由来のピークとグラファイト構造由来のピークとのピーク強度比(硫黄S8由来のピーク/グラファイト構造由来のピーク)が、0.8以下である。
【0009】
本発明に係る炭素材料-硫黄複合材料のある特定の局面では、前記炭素材料の窒素吸着等温線及び窒素脱着等温線が、ヒステリシスを有さない。
【0010】
本発明に係る炭素材料-硫黄複合材料の他の特定の局面では、前記炭素材料のBET比表面積が、100m2/g以上である。
【0011】
本発明に係る炭素材料-硫黄複合材料のさらに他の特定の局面では、前記炭素材料が、グラファイト構造を有する炭素材料と、アモルファスカーボンとの複合体である。
【0012】
本発明に係る炭素材料-硫黄複合材料のさらに他の特定の局面では、前記グラファイト構造を有する炭素材料が、黒鉛又は薄片化黒鉛である。
【0013】
本発明に係る炭素材料-硫黄複合材料のさらに他の特定の局面では、前記グラファイト構造を有する炭素材料が、エッジ部においてグラファイトが部分的に剥離されている構造を有する、部分剥離型薄片化黒鉛である。
【0014】
本発明に係る炭素材料-硫黄複合材料のさらに他の特定の局面では、前記アモルファスカーボンが、前記多孔質構造を構成している。
【0015】
本発明に係る炭素材料-硫黄複合材料のさらに他の特定の局面では、前記硫黄が、環状構造及び直鎖構造のうちの少なくとも一方を有する。
【0016】
本発明に係る炭素材料-硫黄複合材料のさらに他の特定の局面では、前記硫黄が、硫黄と、Li、Na、K、Ca、Mg、及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の金属とを含む化合物である。
【0017】
本発明に係る蓄電デバイス用電極材料は、本発明に従って構成される炭素材料-硫黄複合材料を含む。
【0018】
本発明に係る蓄電デバイスは、本発明に従って構成される蓄電デバイス用電極材料により構成されている電極を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、蓄電デバイスの充放電時におけるサイクル特性の劣化を抑制することができる、炭素材料-硫黄複合材料、該炭素材料-硫黄複合材料を用いた蓄電デバイス用電極材料及び蓄電デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、部分剥離型薄片化黒鉛の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施例1で得られた炭素材料の窒素吸脱着等温線を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例1で得られた炭素材料-硫黄複合材料の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図4】
図4(a)は、実施例1で得られた炭素材料-硫黄複合材料の断面におけるCの元素マッピング結果であり、
図4(b)は、実施例1で得られた炭素材料-硫黄複合材料の断面におけるSの元素マッピング結果である。
【
図5】
図5は、実施例1で得られた炭素材料-硫黄複合材料のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図6】
図6は、比較例1で得られた炭素材料-硫黄複合材料のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図7】
図7は、実施例1及び比較例1で得られた炭素材料-硫黄複合材料の示差熱分析結果を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例1及び比較例1で作製したセル(全固体電池)の構造を示す模式図である。
【
図9】
図9は、実施例1で得られた全固体電池の充放電測定の結果を示す図である。
【
図10】
図10は、比較例1で得られた全固体電池の充放電測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0022】
[炭素材料-硫黄複合材料]
本発明の炭素材料-硫黄複合材料は、グラファイト構造を有する炭素材料と、硫黄とを含む。上記炭素材料は、細孔径が0.4nm以上、10nm以下の多孔質構造を有する。また、上記複合材料のX線回折測定をしたときに、硫黄S8由来のピークとグラファイト構造由来のピークとのピーク強度比(硫黄S8由来のピーク/グラファイト構造由来のピーク)が、0.8以下である。
【0023】
本明細書において、炭素材料がグラファイト構造を有するか否かは、炭素材料のX線回折測定をしたときに、2θ=26°付近のピーク(グラファイト構造由来のピーク)が観察されるか否かにより確認することができる。
【0024】
X線回折測定は、広角X線回折法によって行なうことができる。X線としては、CuKα線(波長1.541Å)を用いることができる。X線回折装置としては、例えば、SmartLab(リガク社製)を用いることができる。
【0025】
炭素材料が多孔質構造を有するか否かは、炭素材料の細孔容量をガス吸着法により測定することで確認することができる。また、炭素材料の細孔径は、細孔構造の解析手法であるNLDFT/GCMC法により算出することができる。NLDFTは、Non Localized Density Functional Theory(非局在化密度汎関数法)である。また、GCMCは、Grand Canonical Monte Carlo Methedである。ガス吸着量測定装置としては、例えば、BELSORP MINI(MICROTRAC MRB社製)を用いることができる。
【0026】
複合材料のX線回折測定は、広角X線回折法によって行なうことができる。X線としては、CuKα線(波長1.541Å)を用いることができる。X線回折装置としては、例えば、SmartLab(リガク社製)を用いることができる。
【0027】
上記X線回折測定により得られたX線回折スペクトルにおいて、硫黄S8由来のピークとしては、2θ=23°付近に最もピーク強度の強い、S8(222)が現れる。従って、硫黄S8由来のピークは、例えば、2θが、22°以上、24°以下の範囲における最も高いピークの高さから求めることができる。
【0028】
上記X線回折測定により得られたX線回折スペクトルにおいて、グラファイト構造由来のピークとしては、2θ=26°付近に最もピーク強度の強い、黒鉛(002)が現れる。従って、グラファイト構造由来のピークは、例えば、2θが、24°以上、28°以下の範囲における最も高いピークの高さから求めることができる。
【0029】
本発明の炭素材料-硫黄複合材料は、上記の構成を備えるので、蓄電デバイスの充放電時におけるサイクル特性の劣化を抑制することができる。
【0030】
従来、炭素材料と硫黄との複合体により構成される正極を備える、リチウム-硫黄二次電池では、充放電時においてサイクル特性が劣化することがあり、十分な電池特性を確保することが難しいという問題があった。この点については、充放電時に正極から硫黄の反応中間体が電解液中に溶出し、その結果、正極活物質として作用する硫黄が減少してサイクル特性の低下が生じるものと考えられる。
【0031】
本発明者は、特定の炭素材料と、硫黄とを含む、複合材料において、特に複合材料のX線回折測定におけるピーク強度比(硫黄S8由来のピーク/グラファイト構造由来のピーク)に着目し、上記ピーク強度比を0.8以下とすることにより、蓄電デバイスの充放電時におけるサイクル特性の劣化を抑制し得ることを見出した。
【0032】
上記のように、多孔質構造を有する特定の炭素材料と、硫黄とを含む、複合材料において、上記ピーク強度比(硫黄S8由来のピーク/グラファイト構造由来のピーク)が小さくなるのは、多孔質構造の細孔中に硫黄が保持されているためであると考えられる。その結果、正極から硫黄の反応中間体が電解液中に溶出するのを抑制することができ、サイクル特性の劣化を抑制できるものと考えられる。
【0033】
本発明においては、上記複合材料のX線回折測定におけるピーク強度比(硫黄S8由来のピーク/グラファイト構造由来のピーク)が、好ましくは0.8以下であり、より好ましくは0.6以下である。この場合、蓄電デバイスの充放電時におけるサイクル特性の劣化をより一層抑制することができる。また、上記複合材料のX線回折測定におけるピーク強度比(硫黄S8由来のピーク/グラファイト構造由来のピーク)の下限値は、例えば、0.001とすることができる。
【0034】
本発明においては、上記炭素材料の多孔質構造における細孔径0.4nm~10nmの細孔の容積が、好ましくは0.1mL/g以上、より好ましくは0.3mL/g以上であり、好ましくは0.8mL/g以下、より好ましくは0.6mL/g以下である。上記細孔の容積が上記範囲内にある場合、蓄電デバイスの容量をより一層大きくすることができる。なお、上記細孔の容積は、細孔構造の解析手法であるNLDFT/GCMC(Non Localized Density Functional Theory/Grand Canonical Monte Carlo Methed)法により算出することができる。なお、上記炭素材料は、細孔径が0.4nm以上、10nm以下の多孔質構造を少なくとも有していればよく、さらにミクロンオーダーの多孔質構造を有していてもよい。
【0035】
本発明においては、炭素材料の窒素吸着等温線及び窒素脱着等温線(以下、窒素吸脱着等温線ともいう)が、ヒステリシスを有さないことが好ましい。ヒステリシスを有さないということは細孔構造がシリンダー形状のような分岐のない単純構造であることを表しており、この場合、電解質層との硫黄の授受が容易に行えることにより電池の充放電時のレート容量がより一層高くなると考えられる。逆に、ヒステリシスのある多孔性材料では、細孔の構造が複雑で、分岐や連通孔があったり、細孔の入り口から細孔の深端部までルートが長かったりするため圧損が発生する。この構造は細孔の入り口付近では電解質との硫黄の授受が可能だが、分岐構造の先の方や、細孔の深端部では電解質との硫黄の授受が困難であり、電池の充放電時のレート容量が低くなりやすくなると考えられる。なお、窒素吸脱着等温線は、例えば、高精度ガス吸着量測定装置(MICROTRAC MRB社製、「BELSORP-MINI」、窒素ガス(77K)、1.0×10-6<相対圧P/P0<0.99)により測定することができる。
【0036】
本発明において、炭素材料のBET比表面積は、好ましくは100m2/g以上、より好ましくは500m2/g以上であり、好ましくは2500m2/g以下、より好ましくは2000m2/g以下である。炭素材料のBET比表面積が上記範囲内にある場合、蓄電デバイスの体積あたりの容量をより一層大きくすることができる。
【0037】
上記BET比表面積は、BET法に準拠して、窒素吸着等温線から算出することができる。測定装置としては、例えば、MICROTRAC MRB社製、「BELSORP-MINI」を用いることができる。
【0038】
本発明において、炭素材料-硫黄複合材料中に含まれる炭素材料の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上、特に好ましくは50重量%以上であり、好ましくは80重量%以下、より好ましくは70重量%以下である。この場合、蓄電デバイスの充放電時におけるサイクル特性の劣化をより一層抑制することができる。
【0039】
本発明において、炭素材料-硫黄複合材料中に含まれる硫黄の含有量は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、好ましくは90重量%以下、より好ましくは80重量%以下、さらに好ましくは70重量%以下、特に好ましくは50重量%以下である。この場合、蓄電デバイスの容量をより一層大きくすることができる。
【0040】
本発明において、炭素材料-硫黄複合材料中に含まれる炭素材料と硫黄の含有量比(炭素材料/硫黄)は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.25以上、好ましくは4以下、より好ましくは2.5以下である。この場合、蓄電デバイスの容量をより一層大きくしつつ、蓄電デバイスの充放電時におけるサイクル特性の劣化をより一層抑制することができる。
【0041】
以下、本発明の炭素材料-硫黄複合材料を構成する各材料の詳細について説明する。
【0042】
(炭素材料)
本発明に用いる炭素材料は、例えば、グラファイト構造を有する炭素材料と、アモルファスカーボンとの複合体により構成することができる。この場合、アモルファスカーボンが、上述の多孔質構造を構成していることが望ましい。
【0043】
グラファイト構造を有する炭素材料としては、黒鉛又は薄片化黒鉛が挙げられる。
【0044】
黒鉛とは、複数のグラフェンシートの積層体である。黒鉛のグラフェンシートの積層数は、通常、10万層~100万層程度である。黒鉛としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛又は膨張黒鉛などを用いることができる。膨張黒鉛は、通常の黒鉛よりもグラフェン層同士の層間距離が大きくなっている割合が高い。従って、黒鉛としては、膨張黒鉛を用いることが好ましい。
【0045】
薄片化黒鉛とは、元の黒鉛を剥離処理して得られるものであり、元の黒鉛よりも薄いグラフェンシート積層体をいう。薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、元の黒鉛より少なければよい。なお、薄片化黒鉛は、酸化薄片化黒鉛であってもよい。
【0046】
薄片化黒鉛において、グラフェンシートの積層数は、特に限定されないが、好ましくは2層以上、より好ましくは5層以上、好ましくは1000層以下、より好ましくは500層以下である。グラフェンシートの積層数が上記下限値以上である場合、液中で薄片化黒鉛がスクロールしたり、薄片化黒鉛同士がスタックしたりすることが抑制されるため、薄片化黒鉛の導電性をより一層高めることができる。グラフェンシートの積層数が上記上限値以下である場合、薄片化黒鉛の比表面積をより一層大きくすることができる。
【0047】
また、グラファイト構造を有する炭素材料は、エッジ部において部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛であってもよい。
【0048】
より具体的に、「エッジ部において部分的にグラファイトが剥離されている」とは、グラフェンの積層体において、端縁からある程度内側までグラフェン層間が開いており、すなわち端縁にてグラファイトの一部が剥離していることをいう。また、中央側の部分ではグラファイト層が元の黒鉛又は一次薄片化黒鉛と同様に積層していることをいうものとする。従って、端縁にてグラファイトの一部が剥離している部分は、中央側の部分に連なっている。さらに、上記部分剥離型薄片化黒鉛には、端縁のグラファイトが剥離され薄片化したものが含まれていてもよい。
【0049】
このように、部分剥離型薄片化黒鉛は、中央側の部分において、グラファイト層が元の黒鉛又は一次薄片化黒鉛と同様に積層している。そのため、従来の酸化グラフェンやカーボンブラックより黒鉛化度が高く、導電性に優れている。
【0050】
図1は、部分剥離型薄片化黒鉛の一例を示す模式図である。
図1に示すように、部分剥離型薄片化黒鉛10では、エッジ部11が剥離されている構造を有する。一方、中央部12は、グラファイト構造を有する。また、エッジ部11において、剥離されているグラフェン層間に樹脂又は樹脂炭化物13が配置されている。なお、樹脂又は樹脂炭化物13は、完全除去されていてもよい。
【0051】
なお、「エッジ部において部分的にグラファイトが剥離されている」か否かは、例えば、国際公開第2014/034156号に記載の薄片化黒鉛・樹脂複合材料と同様に、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察や、X線回折スペクトルにより確認することができる。
【0052】
アモルファスカーボンは、樹脂炭化物により構成することができる。X線回折法において、アモルファスカーボンでは、2θが26°付近のピークが検出されず、アモルファスのハローが検出される。従って、X線回折法によって、グラファイト構造を有する炭素材料とアモルファスカーボンとの複合体を測定した場合、2θが26°付近のピークは、グラファイト構造を有する炭素材料とアモルファスカーボンとの配合比に応じても強度が変わることとなる。
【0053】
本発明に用いる炭素材料は、炭化されずに残存する樹脂を含んでいてもよい。なお、上記樹脂は、樹脂炭化物(アモルファスカーボン)を形成する目的で使用するものなので、蓄電デバイスの電極材料に用いられるバインダーとは区別されるものとする。
【0054】
上記樹脂又は上記樹脂炭化物に用いられる樹脂としては、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、スチレンポリマー(ポリスチレン)、酢酸ビニルポリマー(ポリ酢酸ビニル)、ポリグリシジルメタクリレート、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、ポリイミド樹脂、ポリエステルポリオール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系ポリマーなどが挙げられる。なお、上記樹脂は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。好ましくは、ポリエチレングリコール又はポリ酢酸ビニルが挙げられる。なお、これらのうち炭化されずに残存する樹脂は、樹脂分解物の状態であってもよい。
【0055】
なお、樹脂及び/又は樹脂炭化物の含有量は、例えば熱重量分析(以下、TG)によって加熱温度に伴う重量変化を測定し、算出することができる。
【0056】
本発明に用いる炭素材料は、複数の凹部及び複数の凸部を備えていてもよい。この場合、複数の凹部及び複数の凸部による孔構造は、よりマクロな構造であり、細孔径が10nm以下の多孔質構造とは異なるものである。
【0057】
上記複数の凹部の平面形状が、それぞれ、略円状である場合、凹部の直径は、0.1μm以上、1000μm以下とすることが好ましい。複数の凹部の平面形状が、それぞれ、略楕円状である場合、凹部の長径は、0.1μm以上、1000μm以下とすることが好ましい。複数の凹部の平面形状が、それぞれ、略矩形状である場合、凹部の長辺は、0.1μm以上、1000μm以下とすることが好ましい。また、複数の凹部の深さは、0.1μm以上、1000μm以下とすることが好ましい。
【0058】
また、複数の凸部の平面形状が、それぞれ、略円状である場合、凸部の直径は、0.1μm以上、1000μm以下とすることが好ましい。複数の凸部の平面形状が、それぞれ、略楕円状である場合、凸部の長径は、0.1μm以上、1000μm以下とすることが好ましい。複数の凸部の平面形状が、それぞれ、略矩形状である場合、凸部の長辺は、0.1μm以上、1000μm以下とすることが好ましい。また、凸部における突出部の高さは、0.1μm以上、1000μm以下とすることが好ましい。
【0059】
炭素材料の製造方法;
炭素材料は、例えば、以下の製造方法により製造することができる。
【0060】
まず、黒鉛又は一次薄片化黒鉛と、樹脂とを混合し第1の混合物を得る(混合工程)。なお、混合方法としては、特に限定されず、例えば、超音波による混合、ミキサーによる混合、撹拌子による混合、密閉可能な容器内に黒鉛又は一次薄片化黒鉛と樹脂とを入れ、容器を振とうするなどの方法を用いることができる。
【0061】
また、この混合工程では、さらに溶媒等を添加してもよい。溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール、THF(テトラヒドロフラン)、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)等を用いることができる。この混合工程で得られる第1の混合物は、混合液であることが望ましい。また、混合工程において、さらにカルボキシメチルセルロース(CMC)やドデシル硫酸ナトリウム(SDS)のような分散剤を混合してもよい。また、第1の混合物は乾燥させてもよい。乾燥方法としては、特に限定されず、例えば、風乾、ホットプレート、真空乾燥、凍結乾燥などの方法を用いることができる。なお、混合液の乾燥物も液体であることが好ましい。
【0062】
なお、上記黒鉛としては、後述する加熱工程においてより一層容易にグラファイトを剥離することが可能であるため膨張黒鉛を使用することが好ましい。また、上記一次薄片化黒鉛とは、各種方法により黒鉛を剥離することにより得られた薄片化黒鉛を広く含むものとする。一次薄片化黒鉛は、部分剥離型薄片化黒鉛であってもよい。一次薄片化黒鉛は、黒鉛を剥離することにより得られるものであるため、その比表面積は、黒鉛よりも大きいものであればよい。
【0063】
上記樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリグリシジルメタクリレート、酢酸ビニルポリマー(ポリ酢酸ビニル)、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸、スチレンポリマー(ポリスチレン)、スチレンブタジエンゴム、ポリイミド樹脂、ポリエステルポリオール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系ポリマーなどが挙げられる。
【0064】
次に、得られた第1の混合物に、さらに炭素材料とは異なる粒子を添加し混合する。それによって、第1の混合物を構成する炭素材料のマトリックス内に炭素材料とは異なる粒子を配置して、第2の混合物を形成する。また、第2の混合物を構成する炭素材料により、炭素材料とは異なる粒子を被覆して第2の混合物を形成してもよい。なお、混合方法としては、特に限定されず、例えば、超音波による混合、ミキサーによる混合、撹拌子による混合、密閉可能な容器内に第1の混合物の乾燥物と粒子とを入れ、容器を振とうするなどの方法等を挙げることができる。
【0065】
上記炭素材料とは異なる粒子は賦活剤であってもよい。上記炭素材料とは異なる粒子としては、特に限定されないが、例えば、水酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硫化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、硫化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫化カリウム、炭酸カリウム、リン酸、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ポリマー粒子を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0066】
上記炭素材料とは異なる粒子の粒子径は、0.1μm以上、1000μm以下であることが好ましい。なお、粒子径は、乾式レーザー回折法により、体積基準分布で算出した平均粒子径をいう。平均粒子径は、例えば、MICROTRAC MRB社製、MT3300EXIIを用いて測定することができる。
【0067】
次に、上記第2の混合物を加熱する(加熱工程)。上記加熱工程における加熱の温度としては、例えば、200℃~1000℃とすることができる。上記加熱は、大気中で行ってもよく、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。この加熱工程により、樹脂の少なくとも一部を炭化させることが望ましい。樹脂は、完全に炭化させてもよい。また、この加熱工程により、第2の混合物に含まれる第1の混合物が固化し、炭素材料とは異なる粒子と固体/固体マトリックスとを形成することが望ましい。また、この加熱工程において、黒鉛又は一次薄片化黒鉛のグラファイトの一部が部分的に剥離され、上述した部分剥離型薄片化黒鉛を得てもよい。なお、この加熱工程の後に、さらに薬品賦活法やガス賦活法により賦活処理を行ってもよい。
【0068】
次に、加熱後の第2の混合物から上記粒子を除去する。それによって、炭素材料を得ることができる。この際、第2の混合物のマトリックス内に配置された粒子が除去された部分が、例えば、上記複数の凹部及び複数の凸部となる。なお、粒子の除去方法としては、特に限定されず、例えば、水などの溶媒により洗浄し乾燥させる方法が挙げられる。また、上記粒子を除去した後に粉砕を施してもよい。また、上記粒子を除去した後、もしくはさらに粉砕処理を行った後に、さらに薬品賦活法やガス賦活法により賦活処理を行ってもよい。
【0069】
(硫黄)
上記硫黄は、単体硫黄であってもよく、硫黄化合物であってもよい。
【0070】
上記硫黄は、環状構造を有していてもよく、直鎖構造を有していてもよい。また、環状構造及び直鎖構造の双方を有していてもよい。
【0071】
硫黄化合物は、金属硫化物であることが好ましい。金属硫化物としては、硫黄と、Li、Na、K、Ca、Mg、及びMnからなる群から選択される1種の金属との化合物が挙げられる。このような硫黄化合物としては、例えば、チオ硫酸ナトリウム、硫化リチウム、リチウムポリスルフィドが挙げられる。
【0072】
(炭素材料-硫黄複合材料の製造方法)
本発明の炭素材料-硫黄複合材料は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0073】
まず、硫黄原料としてチオ硫酸ナトリウム五水和物を純水に加え、よく撹拌して硫黄含有水溶液を用意する。この際、チオ硫酸ナトリウム五水和物の添加量は、例えば、1重量%以上、5重量%以下とすることができる。
【0074】
次に、上述の炭素材料を硫黄含有水溶液に添加し、混合する。なお、炭素材料と硫黄の混合比は、例えば、重量比で、5:95~80:20とすることができる。よく撹拌したのち、減圧脱気する(例えば、真空度:-0.1MPa)。加圧と減圧を交互に繰り返してもよい。そうすることで、硫黄S8由来のピークとグラファイト構造由来のピークとのピーク強度比(硫黄S8由来のピーク/グラファイト構造由来のピーク)を小さくすることができる。なお、この理由については、上記減圧(ないし加圧)処理により、炭素材料の細孔中における空気層を除去し、細孔内に硫黄を確実に保持できるためであると考えられる。
【0075】
続いて、混合液を加熱及び撹拌する。加熱温度としては、例えば、40℃以上、80℃以下とすることができる。この状態で、硫黄添加量に応じた塩酸等の酸を加えることで、チオ硫酸ナトリウムから硫黄を還元析出させる。この際の撹拌時間としては、例えば、1秒以上、24時間以下とすることができる。硫黄析出後、副反応で生成する水に溶けている塩化ナトリウムや亜硫酸を水洗除去する。
【0076】
次に、炭素材料と硫黄と水との混合物を真空乾燥する。それによって、炭素材料-硫黄複合材料を得ることができる。真空乾燥の温度としては、例えば、60℃以上、120℃以下とすることができる。また、真空乾燥の時間は、例えば、8時間以上、48時間以下とすることができる。
【0077】
[蓄電デバイス用電極材料及び蓄電デバイス]
本発明の蓄電デバイス用電極材料は、上述した本発明の炭素材料-硫黄複合材料を含む。本発明の蓄電デバイスは、上記蓄電デバイス用電極材料により構成されている電極を備える。なお、上記電極は、正極であることが好ましい。もっとも、上記電極は、負極であってもよい。
【0078】
蓄電デバイスとしては、特に限定されないが、非水電解質一次電池、水系電解質一次電池、非水電解質二次電池、水系電解質二次電池、全固体一次電池、全固体二次電池、コンデンサ、電気二重層キャパシタ、又はリチウムイオンキャパシタなどが例示される。
【0079】
本発明の蓄電デバイス用電極材料及び蓄電デバイスは、上記の構成を備えるので、蓄電デバイスの充放電時におけるサイクル特性の劣化を抑制することができる。
【0080】
以下、本発明の炭素材料-硫黄複合材料を全固体二次電池(以下、単に全固体電池という)の正極に用いた例について説明する。
【0081】
上記全固体電池の正極は、本発明の炭素材料-硫黄複合材料と、固体電解質と、必要に応じて導電助剤とを含む。
【0082】
固体電解質としては、例えば、LPS(Li7P3S11)、LGPS(Li10GeP2S12)等の硫化物系固体電解質や、LATP(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3)、LLZO(LiLa3Zr2O12)等の酸化物系固体電解質などを用いることができる。
【0083】
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラックや、人造黒鉛・天然黒鉛などの黒鉛系材料、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバー、グラフェンなどを用いることができる。
【0084】
上記正極は、乾式法により作製したペレットのような成型体であってもよい。乾式法としては、例えば、活物質、固体電解質、及び必要に応じて導電助剤を含む電極部材を乳鉢もしくはミキサーで混合した後、プレス成形などを施すことにより電極を得る方法が挙げられる。なお、プレス成形の方法は、特に限定されず、例えば、ロールプレスや金型によるプレスが挙げられる。
【0085】
また、上記正極は、湿式法により、電極部材を含む電極合材層を集電体上に塗工したものであってもよい。湿式法としては、例えば、活物質、固体電解質、必要に応じて導電助剤、及びバインダー樹脂を含む電極部材を溶媒に分散させることでスラリーを作製し、該スラリーを集電体の表面に塗工し、乾燥させる方法が挙げられる。
【0086】
バインダー樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系ポリマー、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルブチラール、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂などから選択することができる。
【0087】
溶媒としては、特に限定されないが、例えば、酪酸ブチル、酪酸ヘキシル、アニソール等が挙げられる。
【0088】
上記全固体電池は、上記正極と、負極と、正極及び負極の間に存在する固体電解質層とを有する。負極に含まれる負極活物質としては、例えば、黒鉛などの炭素系材料や、シリコン若しくはその化合物、金属リチウム、あるいはこれらの複合体からなる活物質を用いることができる。固体電解質層は、上述した固体電解質により構成することができる。
【0089】
上記全固体電池では、正極と、負極と、正極及び負極の間に存在する固体電解質層とからなる積層体を倦回、又は複数積層した後に、ラミネートフィルムで外装してもよいし、角形、楕円形、円筒形、コイン形、ボタン形、又はシート形の金属缶で外装してもよい。なお、外装には発生したガスを放出するための機構が備わっていてもよい。また、上記積層体の積層数は、特に限定されず、所望の電圧値、電池容量を発現するまで積層させることができる。
【0090】
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0091】
(実施例1)
炭素材料の調製;
膨張黒鉛(東洋炭素社製、商品名「PF8」、BET比表面積=22m2/g)1gと、ポリエチレングリコール(三洋化成工業社製、商品名「PEG600」)234gとを、ミキサーにて11,000rpmで30分間混合し、ポリエチレングリコールが膨張黒鉛に吸着されている組成物を用意した。
【0092】
次に、用意した組成物235gに賦活剤として炭酸カリウム(K2CO3、和光純薬工業社製、平均粒子径:5μm)を470g添加し、ミルを用いて均一に混合した。得られた混合物を窒素雰囲気下で、25℃から400℃まで2時間かけて昇温し、400℃にてさらに1時間加熱処理を行った後に放冷し、炭化物を得た。得られた炭化物をミル粉砕し、さらに賦活処理を施した。該賦活処理においては、窒素雰囲気下で、賦活温度850℃、賦活時間20分間として保持した。最後に、賦活処理後の炭化物を熱水で中性になるまで洗浄することにより、炭素材料を得た。
【0093】
得られた炭素材料について、高精度ガス吸着量測定装置(MICROTRAC MRB社製、品番「BELSORP-MINI」、窒素ガス(77K)、1.0×10
-6<相対圧P/P
0<0.99)を用いて窒素吸脱着等温線の測定を行った。結果を
図2に示した。
図2に示すように、得られた炭素材料の窒素吸着等温線及び窒素脱着等温線は、ほぼ重なっており、ヒステリシスを有していないことがわかる。
【0094】
また、得られた窒素吸着等温線より、BET法に準拠して、BET比表面積を算出したところ、BET比表面積は、853m2/gであった。また、得られた窒素吸着等温線より、NLDFT/GCMC(Non Localized Density Functional Theory/Grand Canonical Monte Carlo Methed)法により算出された細孔径は、0.44nm以上、5.87nm以下であり、多孔質構造が形成されていることが確認できた。上記の細孔径が0.44nm以上、5.87nm以下の細孔の容積を解析したところ、0.5mL/gであった。
【0095】
炭素材料-硫黄複合材料の作製;
チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3・5H2O)1.6gを水100ml中に溶解分散させた硫黄含有水溶液を用意した。これに、上記で得られた炭素材料0.1gを添加し、よく撹拌したのち、室温にて減圧・常圧を繰り返したのち、1日間減圧脱気した(真空度:-0.1MPa)。脱気後の混合液を60℃に加熱し、撹拌しながら所定量の塩酸を滴下し、更に10分加熱撹拌した。加熱撹拌した溶液を吸引ろ過し、純水にて3回以上洗浄を行った。その後、真空乾燥機を用いて100℃で1日間、真空乾燥させた(真空度:-0.1MPa)。それによって、炭素材料-硫黄複合材料を得た。なお、炭素材料-硫黄複合材料中に含まれる炭素材料の含有量は60重量%であり、硫黄の含有量は40重量%であった。
【0096】
(比較例1)
炭素材料-硫黄複合材料を作製する際に、減圧脱気を行わないこと以外は、実施例1と同様にして炭素材料-硫黄複合材料を得た。
【0097】
[評価]
(SEM観察)
図3は、実施例1で得られた炭素材料-硫黄複合材料の走査型電子顕微鏡写真である。また、
図4(a)は、実施例1で得られた炭素材料-硫黄複合材料の断面におけるCの元素マッピング結果である。また、
図4(b)は、実施例1で得られた炭素材料-硫黄複合材料の断面におけるSの元素マッピング結果である。この結果より、炭素材料の内部まで硫黄を含有できていることが確認できる。
【0098】
なお、走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)は日立ハイテク社製S-4300SE/Nを用いて倍率2000倍~10000倍で観察し、元素マッピングには、サーモフィッシャー社製、「NORAN SYSTEM7」を用いて倍率10000倍で観察した。
【0099】
図3及び
図4(a),(b)より、実施例1の炭素材料-硫黄複合材料では、炭素材料の内部に硫黄が含有されていることが確認できた。
【0100】
(X線回折測定)
実施例1及び比較例1で得られた炭素材料-硫黄複合材料について、X線回折測定を行った。具体的には、X線回折装置(リガク社製、品番「Smart Lab」)に炭素材料-硫黄複合材料のサンプルを設置し、X線源:CuKα(波長1.541Å)、測定範囲:5°~80°、スキャンスピード:5°/分の条件で、広角X線回折法によりX線回折スペクトルを測定した。
【0101】
図5は、実施例1で得られた炭素材料-硫黄複合材料のX線回折スペクトルを示す図である。また、
図6は、比較例1で得られた炭素材料-硫黄複合材料のX線回折スペクトルを示す図である。
【0102】
図5に示すように、実施例1で得られた炭素材料-硫黄複合材料では、グラファイト構造由来のピーク(2θ=26°付近)は観察されたものの、硫黄S
8由来のピーク(2θ=23°付近)はほぼ観察されなかった。一方、
図6に示すように、比較例1で得られた炭素材料-硫黄複合材料では、グラファイト構造由来のピーク(2θ=26°付近)及び硫黄S
8由来のピーク(2θ=23°付近)の双方が観察された。
【0103】
また、硫黄S8由来のピークとグラファイト構造由来のピークとのベースライン補正後のピーク強度比(硫黄S8由来のピーク/グラファイト構造由来のピーク)を求めたところ、実施例1では、0.53(硫黄S8由来のピーク:23.88°で3866カウント、グラファイト構造由来のピーク:26.55°で7248カウント)であった。一方、比較例1では、2.99(硫黄S8由来のピーク:23.05°で24634カウント、グラファイト構造由来のピーク:26.68°で8243カウント)であった。
【0104】
(熱分析)
実施例1及び比較例1で得られた炭素材料-硫黄複合材料について、熱分析を行った。具体的には、示差熱熱重量同時測定装置(日立ハイテクサイエンス社製、品番「STA7300」)を用い、炭素材料-硫黄複合材料2mgを白金パンに設置し、大気雰囲気下において昇温速度10℃/分で、40℃から1000℃までの測定を実施した。
【0105】
図7は、実施例1及び比較例1で得られた炭素材料-硫黄複合材料の示差熱分析結果を示す図である。
図7の示差熱分析結果から、炭素材料-硫黄複合材料中に含まれる硫黄含有率を測定したところ、実施例1では、35重量%~40重量%であり、比較例1では、60重量%~65重量%であった。
【0106】
(電池評価)
正極の作製;
上記のようにして得られた炭素材料-硫黄複合材料57.1重量%と、固体電解質75Li2S-25P2S5を42.9重量%とを乳鉢を用いて混合して正極(正極材料)を作製した。
【0107】
全固体電池の作製;
続いて、
図8に示すセル(全固体電池)20を作製した。具体的には、固体電解質22(80mg)としてLi
2S-P
2S
5、さらにその上に、上記で混合した正極材料3mgを均一に載せ、更に正極側集電体を載せて330MPaにてプレス成型を行った。その後、Li金属とIn金属とをそれぞれ円柱状に成型し、貼り合わせることで負極21(Li-In、電極面積:0.785cm
2(直径10mm)を作製した。この負極21を、固体電解質22(80mg)の正極の反対側に載せ、負極側集電体とともに負極側から約110MPaにてプレス成型をすることで、負極集電体、負極、固体電解質、正極、正極集電体が一体化した、セル(全固体電池)20を作製した。セル(全固体電池)20の組み立ては、露点が-70℃以下のアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で行った。
【0108】
サイクル特性の評価;
実施例及び比較例で得られた全固体電池について、Li-In対比で0.5V~3.0Vの電圧範囲にて、充放電評価装置(北斗電工社製、品番「HJ1001 SD8」)を用いて、充放電測定を行った。本測定では、0.05Cで20サイクル及び0.5Cで20サイクルの充放電測定を行った。
【0109】
図9は、実施例1で得られた全固体電池の充放電測定の結果を示す図である。また、
図10は、比較例1で得られた全固体電池の充放電測定の結果を示す図である。
【0110】
図9及び
図10に示すように、実施例1で得られた全固体電池では、比較例1で得られた全固体電池と比較して、充放電時におけるサイクル特性の劣化を抑制できていることが確認できた。
【符号の説明】
【0111】
10…部分剥離型薄片化黒鉛
11…エッジ部
12…中央部
13…樹脂又は樹脂炭化物
20…全固体電池
21…負極
22…固体電解質
23…正極