(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162821
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】光学式ガスセンサ装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/61 20060101AFI20231101BHJP
【FI】
G01N21/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073483
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】岡本 光弘
(72)【発明者】
【氏名】江原 正人
(72)【発明者】
【氏名】中村 明
(72)【発明者】
【氏名】古河 憲一
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059CC04
2G059EE01
2G059FF02
2G059HH01
(57)【要約】
【課題】3次元的に自在に光路を形成し、検出対象のガスの検出精度を向上することである。
【解決手段】光学式ガスセンサ装置100は、赤外線を検出対象のガスに出射する光源2と、検出対象のガスの吸収波長に対応する波長の赤外線を透過する光学フィルタ3と、光学フィルタ3を介して入射された赤外線を検出して検出信号を生成する受光部4と、光源2、光学フィルタ3及び受光部4を覆うカバー1と、を備える。カバー1は、光源2から入射された赤外線を内面の反射により光学フィルタ3を介して受光部4に導き、パイプ形状であり、軸方向に垂直な断面が円形又は楕円形である導光部13を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を検出対象のガスに出射する光源と、
前記検出対象のガスの吸収波長に対応する波長の赤外線を透過する光学フィルタと、
前記光学フィルタを介して入射された赤外線を検出して検出信号を生成する受光部と、
前記光源、前記光学フィルタ及び前記受光部を覆うカバーと、を備え、
前記カバーは、
前記光源から入射された赤外線を内面の反射により前記光学フィルタを介して前記受光部に導き、パイプ形状であり、軸方向に垂直な断面が円形又は楕円形である導光部を有する光学式ガスセンサ装置。
【請求項2】
前記カバーは、前記検出対象のガスを前記導光部に導入するガス導入部を有する請求項1に記載の光学式ガスセンサ装置。
【請求項3】
前記ガス導入部は、前記光源及び前記受光部の少なくとも一方の周囲の空間に導通され、当該空間を介して前記導光部に導通されている請求項2に記載の光学式ガスセンサ装置。
【請求項4】
前記ガス導入部は、前記導光部に直接的に導通されている請求項2に記載の光学式ガスセンサ装置。
【請求項5】
前記導光部は、前記断面の断面積が軸方向に一定である請求項1に記載の光学式ガスセンサ装置。
【請求項6】
前記カバーは、前記導光部の軸方向の断面により分割された複数のカバー部を有し、
前記複数のカバー部は、前記導光部の内面に赤外線反射膜を有する請求項1に記載の光学式ガスセンサ装置。
【請求項7】
前記カバーは、金属により一体造形されている請求項1に記載の光学式ガスセンサ装置。
【請求項8】
前記光源、前記受光部及び前記カバーが実装される基板を備え、
前記導光部は、少なくとも一部が前記基板から離間された位置に配置され、
前記カバーは、前記離間された位置の導光部の下方の前記基板上に、空間部を有する請求項1から7のいずれか一項に記載の光学式ガスセンサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学式ガスセンサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、NDIR(Non Dispersive Infrared:非分散赤外線吸収方式)によるガスセンサが知られている。NDIRのガスセンサは、多くのガスが各々固有の赤外線波長を吸収する性質を利用して、検出対象のガスに赤外線を放射した時、どの波長がどれくらい吸収されたかを検出して、検出対象のガスの濃度を測るセンサである。例えば、赤外線の発光部及び受光部を備え、発光部及び受光部の光路上にある被検出ガスの濃度を検出するガスセンサである。
【0003】
原理的には検出対象のガスにより吸光された赤外線を受光部で感知し前後の差分から、ガス濃度を算出するため、光路長を長くしたほうが吸光量による差分が明確となりガスの濃度の検出精度(測定精度)が上がる。
【0004】
ここで、
図7(a)~
図7(c)を参照して、光路長を長くした従来のNDIRの光学式ガスセンサ装置を説明する。
図7(a)は、従来の光学式ガスセンサ装置100aを示す側面概略図である。
図7(b)は、従来の光学式ガスセンサ装置100aを示す上面概略図である。
図7(c)は、従来の光学式ガスセンサ装置100bを示す側面概略図である。
図7(a)~
図7(c)において、3次元のx軸、y軸、z軸をとる。
【0005】
図7(a)、
図7(b)に示すように、従来の光学式ガスセンサ装置100aは、xy平面に配置された基板6a上に、赤外線を出射する光源2aと、側面(xz平面)から見て、xy平面上で光源2aと光軸が略対向して配置されて赤外線を検出する受光部4aと、光源2a、受光部4a及び検出対象のガスを覆うカバー1aと、を備える。光源2a、受光部4aは、DIP(Dual Inline Package)部品である。DIP部品とは、プラスチック製又はセラミック製の本体の両側面から複数の金属製の接続端子が出て下方へ伸びた外形をしている部品である。
【0006】
受光部4aから出射されてカバー1aの内面で反射されて受光部4aで受光される光路Laは、z方向ではなくxy方向での反射となる。このため、基板6aの平面のサイズが大きくなり、基板サイズに制約がある。
【0007】
図7(c)に示すように、従来の光学式ガスセンサ装置100bは、xy平面に配置された基板6b上に、赤外線を出射する光源2bと、側面(xz平面)から見て、光源2aと光軸が略平行に配置されて赤外線を検出する受光部4bと、光源2b、受光部4b及び検出対象のガスを覆うカバー1bと、を備える。光源2b、受光部4bは、DIP部品である。
【0008】
受光部4aから出射されてカバー1bの内面及び基板6bで反射されて受光部4aで受光される赤外線の光路Lbは、略z方向での反射となる。このため、カバー1bの内面のz方向に距離が必要となる。
【0009】
光学式ガスセンサ装置100a,100bにおいて、光源~受光部間の距離が短い場合や面積の都合上基板を小さくしたい場合には、光路の反射回数を多くして距離を稼ぐ。しかし、光を効率よく反射させるためには反射面の角度や曲率などを計算してカバーを作る必要があり、設計には熟練を要する。
【0010】
また、光学式ガスセンサ装置100a,100bのハイブリッドの構成(光源と受光部とを基板に対して3次元的に傾けて実装)の場合、光源と受光部との傾きをコントロールする必要があることから実装が困難である。現実的には、内部に傾きを設けたカバーにDIP部品としての光源及び受光部を装着後、基板にカバーとともに実装することが考えられるが、これは表面実装部品がある基板の場合ははんだ工程が増えるためコストダウンしにくい。
【0011】
このため、発光ダイオードと、矩形断面で辺の1つの軸の周囲に湾曲可能な曲線部を含み、発光ダイオードから出射された近赤外線を案内する環状放射線ガイドと、環状放射線ガイドから出射された近赤外線を検出する中赤外線発光フォトダイオードと、を備える光吸収ガスセンサが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献1に記載の光吸収ガスセンサは、湾曲する方向(角度)が2次元上であり、低背化が難しく、3次元に自在に光路を形成する要請がある。また、特許文献1に記載の光吸収ガスセンサは、環状放射線ガイドの軸方向に垂直な断面が矩形であるため、光路における赤外線の反射角度に偏りがあり、光源、受光部の実装ずれで赤外線の光量のロスが発生し、検出対象のガスの検出精度が低下するおそれがあった。
【0014】
本発明の課題は、3次元的に自在に光路を形成し、検出対象のガスの検出精度を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の光学式ガスセンサ装置は、
赤外線を検出対象のガスに出射する光源と、
前記検出対象のガスの吸収波長に対応する波長の赤外線を透過する光学フィルタと、
前記光学フィルタを介して入射された赤外線を検出して検出信号を生成する受光部と、
前記光源、前記光学フィルタ及び前記受光部を覆うカバーと、を備え、
前記カバーは、
前記光源から入射された赤外線を内面の反射により前記光学フィルタを介して前記受光部に導き、パイプ形状であり、軸方向に垂直な断面が円形又は楕円形である導光部を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、3次元的に自在に光路を形成でき、検出対象のガスの検出精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態の光学式ガスセンサ装置の概略図である。
【
図2】光学式ガスセンサ装置の外観の斜視図である。
【
図3】
図2の光学式ガスセンサ装置のIII-III線の断面図である。
【
図4】
図2の光学式ガスセンサ装置のIV-IV線の断面図である。
【
図5】光学式ガスセンサ装置の一部透過斜視図である。
【
図7】(a)は、従来の光学式ガスセンサ装置を示す側面概略図である。(b)は、従来の光学式ガスセンサ装置を示す上面概略図である。(c)は、従来の別の光学式ガスセンサ装置を示す側面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明に係る実施の形態を詳細に説明する。ただし、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0019】
図1~
図6を参照して、本発明に係る実施の形態を説明する。まず、
図1を参照して、本実施の形態の光学式ガスセンサ装置100の概略構成を説明する。
図1は、本実施の形態の光学式ガスセンサ装置100の概略図である。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態の光学式ガスセンサ装置100は、カバー1と、光源2と、光学フィルタ3と、受光部4と、信号処理部5と、を含む。光学式ガスセンサ装置100は、光源2から赤外線を放射(出射、発光)し、カバー1内の光路を介して、当該赤外線をカバー1内の検出対象(計測対象)のガスGに出射し、光路中に存在する検出対象のガスGの分子が赤外線を吸収することで受光部4に届く光量が減少し、検出対象のガスGにより一部吸収された赤外線を光学フィルタ3を介して受光部4により検出し、その検出信号を信号処理部5により信号処理し、検出対象のガスGの濃度を検出(計測)して出力するNDIR方式のガスセンサである。カバー1は、検出対象のガスGの導出入口であるガス導入部としてのガス導入ポート11を有する。ガス導入ポート11には、外部からの異物侵入を防止するために、ガスフィルタ12(例えば、金属製のメッシュフィルタや樹脂製の多孔質フィルムなど)が貼付される。
【0021】
特に、光学式ガスセンサ装置100は、光源2から検出対象のガスGに出射された赤外線を、光学フィルタ3でフィルタリングして受光部4により受光する。光学フィルタ3は、受光部4の上流の光路上で受光部4の近傍の位置に配置されている。この構成は、光源2から放射された赤外線を光学フィルタでフィルタリングしてから検出対象のガスGに出射する構成に比べて、受光部4の受光面でフィルタリングすればよいため、光学フィルタ3の面積を小さくすることができ、コストの低減になる。更には、光源2以外からの放射されるフィルタリング前の赤外線を受光することがなく、センサとしてのSN比(Signal to Noise ratio)が向上する。ただし、光学式ガスセンサ装置100は、光源2から放射された赤外線を光学フィルタ3でフィルタリングして検出対象のガスGに出射する構成としてもよい。本実施の形態では、光学フィルタ3を介して受光部4が受光する赤外線は、光源2から直接到達する光路でなく、カバー1の内面を反射して到達するように光路が設計されるものとする。カバー1の内面は反射率が高いほうが光(赤外線)の利用効率が高くなり望ましい。
【0022】
光学式ガスセンサ装置100は、検出対象のガスGとして、一酸化炭素、プロパン、メタン、ブタン、アンモニア、二硫化酸素、二酸化窒素、一酸化窒素、オゾン、六フッ化硫黄、ジフルオロメタン、ハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)類、パーフルオロカーボン(PFC)類、エチレンなどの検出に用いることができる。
【0023】
その場合、光学式ガスセンサ装置100は、検出対象のガスの複数の吸収波長のうち、最も吸収が大きい波長の赤外線の吸収を検出するのが好ましい。例えば、濃度の検出対象のガスGとして二酸化炭素(CO2)を検出する場合は複数の吸収波長のうち、一番吸収が大きい4.26[μm]の波長の赤外線の吸収を検出する。
【0024】
光学式ガスセンサ装置100は、検出したガスGのガス濃度に基づく各種の状態信号(例えば、光学式ガスセンサ装置100の故障の状態を示す故障信号、検出したガスGの濃度が警報が必要な異常状態(警報状態)であることを示す警報信号、検出したガスGの濃度が正常の状態であることを示す監視信号(正常信号))と、検出したガスGの濃度又は濃度に対応した値を、故障などの光学式ガスセンサ装置100の状態、検出したガスGの濃度又は濃度に対応した値に基づいて処理を行う機器に出力する。当該機器が警報器である場合に、光学式ガスセンサ装置100から受信した各種信号に応じて、各種警報(例えば、故障信号に基づく光学式ガスセンサ装置100の故障の警報、警報信号に基づく検出したガスGの濃度の異常の警報)を報知する。当該機器に、光学式ガスセンサ装置100を備えてもよい。
【0025】
上記機器としては、家庭用空調機器、家庭用給湯器、産業用空調機器、自動車用空調機器、冷凍機、冷蔵機器、冷蔵ショーケース、空気清浄機、家庭用可燃性ガス漏れ警報器、家庭用毒性ガス警報器、家庭用環境モニタリング機器、産業用可燃性ガス漏れ警報器、産業用毒性ガス警報器、産業用ガスプロセス監視装置、施設園芸用CO2濃度計測器、植物工場用CO2計測器、食品包装用CO2封入装置、食品倉庫用エチレンガス濃度計測装置などが挙げられる。例えば、脱炭素の燃料である水素のキャリアとして、又は燃料そのものとしてのアンモニアを貯蔵するアンモニアタンクのアンモニアの監視装置、ガス漏れ警報装置を適用できる。
【0026】
特に、家庭用環境モニタリング機器、施設園芸用CO2濃度計測器、植物工場用CO2計測器、食品倉庫用エチレンガス濃度計測装置など、検出したガスGの濃度そのものを管理する機器については、光学式ガスセンサ装置100が、検出したガスGの濃度又は濃度に対応した値の信号を当該機器に出力する。
【0027】
ついで、
図2~
図6を参照して、光学式ガスセンサ装置100の具体的な装置構成を説明する。
図2は、光学式ガスセンサ装置100の外観の斜視図である。
図3は、
図2の光学式ガスセンサ装置100のIII-III線の断面図である。
図4は、
図2の光学式ガスセンサ装置100のIV-IV線の断面図である。
図5は、光学式ガスセンサ装置100の一部透過斜視図である。
図6は、光源2の斜視図である。
【0028】
図2に示すように、光学式ガスセンサ装置100は、例えば、カバー1と、光源2と、光学フィルタ3と、受光部4と、信号処理部5と、基板6と、コネクタ7と、回路素子部8と、を備える。また、
図2において、x軸、y軸、z軸をとり、図示する。これらの3軸は、
図3~
図5でも同様に図示されるものとする。なお、
図2、
図4、
図5において、ガスフィルタ12の図示を省略している。
【0029】
図3において、
図2の光学式ガスセンサ装置100のIII-III線の断面図(xz平面を断面とした図)を示す。
図4において、
図2の光学式ガスセンサ装置100のIV-IV線の断面図(xy平面を断面とした図)を示す。
図5において、光学式ガスセンサ装置100のうち、カバー1を透過した斜視図を示す。
【0030】
カバー1は、基板6の+z側の面上に実装され、光源2、光学フィルタ3及び受光部4を覆い(包含し)、内部に検出対象のガスGを収容可能な空洞部を形成し、ガス導入ポート11を介して検出対象のガスGが当該空間に導出入されるカバーである。カバー1の基体は、例えば樹脂製である。
【0031】
図2に示すように、カバー1は、カバー部110A,110Bを有する。カバー部110Aは、上側(+z方向側)のパーツであり、カバー部110Bに嵌合される。カバー部110Bは、下側(-z方向側)のパーツであり、カバー部110Aに嵌合される。
【0032】
また、
図3に示すように、カバー1は、検出対象のガスGが内部に導入される空洞部としての導光部13を有する。導光部13は、パイプ形状であり、軸方向に垂直な断面が円形である。カバー部110Aは、半パイプ部118Aを有する。カバー部110Bは、半パイプ部118Bを有する。半パイプ部118A,118Bが合わさることにより、導光部13が形成されている。このように、カバー1は、導光部13の軸方向の断面により分割されたカバー部110A,110Bを有する。
図4、
図5に示すように、導光部13は、上面(+z方向の面)から見て、3次元的な略U字形状をしている。
【0033】
導光部13の内面には、赤外線反射膜が覆われている。本実施の形態では赤外線反射膜として、金を用いるものとするが、これに限定されるものではない。赤外線反射膜として、銀、アルミニウム又は誘電体多層膜を用いてもよい。さらに、必要に応じて赤外線反射膜の金属膜の腐食を防止するために、酸化シリコン又は窒化シリコンなどの保護膜を赤外線反射膜上に成膜してもよい。赤外線反射膜、保護膜の成膜方法は、メッキ法、スパッタリング法、真空蒸着法などを用いることができる。
【0034】
また、
図5の太線矢印に示すように、導光部13は、光源2から入射された赤外線を内面の赤外線反射膜で反射して光学フィルタ3が受光面に貼付された受光部4に出射する。このように、カバー1は、光源2から出射された赤外線を赤外線反射膜により反射することにより、少なくとも反射光の一部が光学フィルタ3を介して受光部4へ到達するように、光路として光源2からの赤外線を受光部4に効率よく導く役割を担う。
【0035】
本実施の形態では、カバー1内部の光路を断面が円形のパイプ形状の導光部13とすることにより、導光部13の断面の径や経路によらず、3次元(x軸、y軸、z軸)のいずれの方向にも赤外線の反射角度を一定に保ち、光源2から出た赤外線は導光部13内部を反射し、効率よく受光部4に入光することができる。例えば、従来の反射鏡タイプの光学式ガスセンサ装置100a,100bであると、決められた角度の光だけしか任意の場所に反射できず、光源、受光部の実装ずれで赤外線のロスが発生する。
【0036】
また、光源2から受光部4までの赤外線の光路長は、導光部13の断面の径を変えることで比較的簡単に変更できる。
【0037】
また、カバー1は、導光部13の軸方向がx軸方向の一部分の下方(-z方向)の基板6上に空間部S1(
図2、
図3)ができるように、3次元的に設計、形成されている。空間部S1に、信号処理部5及び回路素子部8の少なくとも一部が配置されて基板6上に実装されている。
【0038】
また、導光部13の軸方向に垂直な断面の断面積は、軸方向に一定である。断面積が一定のため、導光部13に入ってきた検出対象のガスGに対し単位体積当たりのガス濃度は均一化しやすく、且つ赤外線が特定の経路を通らずランダムに通過するため、ガスGのガス濃度の変化に反応しやすい。例えば、従来の反射鏡タイプの光学式ガスセンサ装置100a,100bは、カバー内容積に対し、主光路が決まっているため検出対象のガスが主光路まで入らないと(カバー全体に行き渡るまで)反応しにくい。
【0039】
また、
図3及び
図4に示すように、カバー部110Aは、肉抜き(肉盗み)用の空間として、中空部115,116,117A,121,122を有する。カバー部110Bは、肉抜き(肉盗み)用の空間として、中空部117Bを有する。中空部117Bは、中空部117Aに対応する中空部である。中空部115,116,117A,121,122,117Bにより、カバー1(光学式ガスセンサ装置100)の軽量化を実現できる。
【0040】
また、
図4に示すように、カバー部110Bは、固定ピン123,124を有する。固定ピン123,124は、+z方向に延在する凸部であり、カバー部110Aの凹部(メス穴)(図示略)に嵌合される。カバー部110Aの凹部への固定ピン123,124の嵌合により、カバー部110A,110Bが位置決めおよび固定化され、一体の部品にされる。
【0041】
また、
図2に示すように、カバー部110Aは、ガス導入ポート11として、ガス取入れ口(ガス導入孔)111,112を有する。カバー部110Bは、ガス導入ポート11として、ガス取入れ口(ガス導入孔)113,114を有する。ガス取入れ口111,112は、カバー部110Aの上面から-z方向にあけられ、導光部13まで貫通された孔である。ガス取入れ口113は、カバー部110Bの-y方向の側面から+y方向にあけられ、光源2の周囲(脇)の空間まで貫通された孔である。光源2の周囲の空間は、導光部13に導通されている。ガス取入れ口114は、カバー部110Bの-y方向の側面から+y方向にあけられ、光学フィルタ3及び受光部4の周囲(脇)の空間まで貫通された孔である。光学フィルタ3及び受光部4の周囲の空間は、導光部13に導通されている。
【0042】
ガス取入れ口111,112は、導光部13に直接的に導通され、導光部13の内面の一部を削除するため、赤外線の利用効率が低くなる。これに対し、ガス取入れ口113は、光源2の周囲の空間を介して、導光部13に間接的に導通されるため、導光部13の内面の一部を損なう(削除する)ことなく、赤外線の利用効率が高くなる。同様に、ガス取入れ口114は、光学フィルタ3及び受光部4の周囲の空間を介して、導光部13に間接的に導通されるため、導光部13の内面の一部を損なうことなく、赤外線の利用効率が高くなる。
【0043】
なお、
図2のカバー1のガス導入ポート11(ガス取入れ口111,112,113,114)の形状、大きさ及び位置は、一例であって、これに限定されるものではない。例えば、カバー1が、ガス取入れ口113,114のみを有し、ガス取入れ口111,112を有さない構成としたり、ガス取入れ口113をカバー部110Bの-x側の面に配置し、ガス取入れ口114をカバー部110Bの+x側の面に配置する構成としてもよい。
【0044】
図6に示すように、光源2は、基板6の上面(+z側の面)上に実装されたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)型光源であり、例えばメンブレン構造のメンブレンMを有するものとする。光源2は、シリコンチップ21と、薄膜ヒータ22と、ワイヤボンディング用パッド23と、を有する。シリコンチップ21は、主としてシリコン製の半導体チップであり、その平面(xy平面)の中央部にメンブレンMを有する。薄膜ヒータ22は、通電による加熱により赤外線を放射する光源であり、メンブレンMの平面の略中央部に形成されている。ワイヤボンディング用パッド23は、基板6上の配線とワイヤボンディングされる。
【0045】
MEMS型光源としての光源2は、小型・低背であり、センサモジュールとしての小型化、特に従来の白熱光源やLED(Light Emitting Diode)と比較して低背化を実現することができる。
【0046】
また、MEMS型光源としての光源2は、従来の光源と比較して、長寿命、低消費電力、応答時間が短いなどの特徴(特長)があり、センサモジュール全体としての消費電流に対して支配的である光源の消費電力を下げることでセンサモジュールとしての低消費電力を図ることができる。MEMS型光源の応答時間が短い特徴は、間欠駆動を行う場合に、通電後の待機時間を短くすることを可能とし、平均消費電力を低減できる。
【0047】
また、MEMS型光源としての光源2は、従来の光源と比較して、高温部表面からの放射光を直接利用できるため、高波長に吸収帯を持つガスの検出への応用も可能になる。光源2の赤外線を放射する領域は、メンブレンMのSi基板の平面上に高精度にパターニングされており、フィラメントをコイル状に巻いた従来の白熱光源とは異なり、放射方向の個体ばらつきが非常に小さい。このため、光源2でセンサモジュールを構成した時の受光量のばらつきが低減され製品歩留まりの向上に寄与する。また、光源2は、シリコンウエハーを元にMEMS技術によって一括生産されるため、量産性に優れる。
【0048】
光源2は、表面実装部品とするが、これに限定されるものではなく、DIP部品(CANパッケージなど)としてもよい。
【0049】
光学フィルタ3は、受光部4の受光面を覆うように設けられた、検出対象のガスGに固有の吸収波長に対応する波長域(バンド)の光(赤外線)を透過するフィルタである。このように、光学フィルタ3の透過波長は、検出対象のガスGの固有の吸収波長に一致するように設計されており、これによって検出対象のガスG以外のガスによる光量変化が抑制され、受光部4の検出信号のSN比が向上する。より具体的には、光学フィルタ3は、光源2から入射されガスG(二酸化炭素)を通過した波長域の広い赤外線をフィルタリングして、ガスGの吸収波長(4.26[μm])に対応する波長域の赤外線を透過する。
【0050】
光学フィルタ3は、例えば、基板としてのシリコン基板と、誘電体多層膜と、を有する。シリコン基板は、平面状のシリコン製の基板である。基板の材質はシリコンに限らず、Ge(ゲルマニウム)、石英、アルミナ、BaF2(フッ化バリウム)、CaF2(フッ化カルシウム)、などを用いることができる。誘電体多層膜は、シリコン基板の両面に設けられた複数の誘電体の層状の膜である。なお、光学フィルタ3の平面形状は、矩形とするが、これに限定されるものではなく、円形など、他の形状としてもよい。
【0051】
受光部4は、基板6の+z側の面上に実装され、複数の熱電対を有するサーモパイル方式の光センサ(赤外線センサ)であり、入射された赤外線の光量を検出してアナログの電気信号としての検出信号を出力する。ただし、受光部4は、サーモパイル方式の赤外線センサに限定されるものではなく、次表Iに示す各種方式の赤外線センサとしてもよい。
【0052】
【0053】
また、受光部4は、表面実装部品とするが、この構成に限定されるものではなく、DIP部品(CANパッケージなど)としてもよい。また、導光部13は、光源2及び受光部4について、表面実装部品、DIP部品など部品の向きを問わず効率良く光量を得ることができる。
【0054】
信号処理部5は、基板6の+z側の面上の平面領域に実装され、受光部4の検出信号に関する信号処理を行う電子部品(プロセッサ)としてのAFE(Analog Front End)-IC(Integrated Circuit)である。信号処理部5は、受光部4のアナログの検出信号を増幅してAD変換し、光学式ガスセンサ装置100の個体ばらつきの補正などを行い、当該増幅されたデジタルの検出信号を用いて信号処理(ガス濃度又はガス濃度に対応した値、光学式ガスセンサ装置100の状態の算出及びこれらの各種信号の生成)を行い、デジタルの各種信号を生成して出力する。
【0055】
基板6は、ガラスエポキシ樹脂などの板上に、導体の配線がプリントされたPCB(Printed Circuit Board)である。基板6は、上面(+z側の面)上に、カバー1、光源2、光学フィルタ3が貼付された受光部4、信号処理部5、コネクタ7、回路素子部8が実装されている。
【0056】
コネクタ7は、基板6の+z側の面上のカバー1及び信号処理部5以外の平面領域に実装され、信号処理部5から出力されたデジタルの各種信号を、後段の機器(警報器など)の情報処理部に出力するためのコネクタである。コネクタ7は、プラグを有するケーブルを介して機器の情報処理部に接続される。
【0057】
回路素子部8は、基板6の+z側の面上の平面領域に実装された、スイッチ、チップ抵抗、チップコンデンサなどの回路素子である。
【0058】
ここで、カバー1の製造方法について簡単に説明する。まず、カバー1のカバー部110Aと、カバー部110Bとを、別々に、金型を用いた樹脂射出成型により形成する。このとき、カバー部110Aの半パイプ部118Aの内面と、カバー部110Bの半パイプ部118Bの内面とは、射出成型によりなめらかであるので、研磨は不要となる。
【0059】
次に、メッキ法(樹脂メッキ)、スパッタリング法、真空蒸着法などにより、半パイプ部118A,118Bの内面に、赤外線反射膜(、保護膜)を成膜する。その後、カバー部110Bの固定ピン123,124をカバー部110Aの凹部に嵌合することにより、カバー部110A,110Bを一体化してカバー1の製造を完了する。
【0060】
以上、本実施の形態によれば、光学式ガスセンサ装置100は、赤外線を検出対象のガスGに出射する光源2と、検出対象のガスGの吸収波長に対応する波長の赤外線を透過する光学フィルタ3と、光学フィルタ3を介して入射された赤外線を検出して検出信号を生成する受光部4と、光源2、光学フィルタ3及び受光部4を覆うカバー1と、を備える。カバー1は、光源2から入射された赤外線を内面の反射により光学フィルタ3を介して受光部4に導き、パイプ形状であり、軸方向に垂直な断面が円形である導光部13を有する。
【0061】
このため、3次元的に自在に光路を形成でき、検出対象のガスGの検出精度を向上できる。より具体的には、導光部13の断面が円形のパイプ形状であるので、3次元(x軸、y軸、z軸)のいずれの方向にも赤外線の光路を形成できることで狭い空間でも光路長を長くでき、検出対象のガスGの検出精度を向上できる。また、導光部13により光路を3次元のいずれの方向にも自在に変えられるため、効率よく空間が使用でき基板6の小面積化が可能となる。また、導光部13により光路を3次元のいずれの方向にも自在に変えられるため、光源2、受光部4が、表面実装部品、DIP部品を問わず、効率良く赤外線の光量を得ることができる。また、導光部13の断面が円形のパイプ形状であるので、導光部13の内面のどこに赤外線が当たっても反射角度が一定なため、全ての赤外線が反射でき、光源2、受光部4の実装ずれに強くすることができ、検出対象のガスGの検出精度を向上できる。また、導光部13の断面の円形の径を変えることで、比較的容易に光路長を変更できる。
【0062】
また、カバー1は、検出対象のガスGを導光部13に導入するガス取入れ口111,112,113,114を有する。ガス取入れ口113は、光源2の周囲の空間に導通され、当該空間を介して導光部13に導通されている。ガス取入れ口114は、受光部4の周囲の空間に導通され、当該空間を介して導光部13に導通されている。このため、ガス取入れ口113,114により、導光部13の内面を損なうことなく導光部13に検出対象のガスGを導入でき、検出対象のガスGの検出精度をより向上できる。
【0063】
ガス取入れ口111,112は、導光部13に直接的に導通されている。このため、導光部13に検出対象のガスGを直接的に導入でき、検出対象のガスGの検出精度を向上できる。
【0064】
また、導光部13は、断面の断面積が軸方向に一定である。このため、導光部13内の検出対象のガスGのガス濃度を均一化でき、且つ赤外線が導光部13の特定の経路を通らずランダムに通過するため、ガスGの(ガス濃度の)変化に反応しやすくできる。
【0065】
また、カバー1は、導光部13の軸方向の断面により分割されたカバー部110A,110Bを有する。カバー部110A,110Bは、導光部13の内面に赤外線反射膜を有する。このため、カバー部110A,110Bの樹脂射出成型により、導光部13(半パイプ部118A,118B)の内面の研磨を不要にでき、この点で、カバー1(光学式ガスセンサ装置100)を容易に製造でき、またコストを低減できる。
【0066】
また、光学式ガスセンサ装置100は、光源2、受光部4及びカバー1が実装される基板6を備える。導光部13は、一部(軸方向がx軸に平行な部分)が基板6から離間された位置に配置されている。カバー1は、離間された位置の導光部13の下方の基板6上に、空間部S1を有する。このため、空間部S1に実装部品としての信号処理部5、回路素子部8を配置でき、信号処理部5、回路素子部8上に導光部13を通すことも可能となり、効率よく空間が使用でき基板6を小面積化できる。
【0067】
なお、上記実施の形態における記述は、本発明に係る光学式ガスセンサ装置の一例であり、これに限定されるものではない。
【0068】
例えば、上記実施の形態では、カバー1を樹脂射出成型して製造する構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、金属3Dプリンタを用いて、カバー1が、アルミニウムなどの金属により一体造形されている構成としてもよい。この構成では、カバー1の導光部13の内面の研磨が必要であるが、赤外線反射膜(、保護層)の成膜を不要にでき、この点で、カバー1(光学式ガスセンサ装置100)を容易に製造できる。カバー1の導光部13の内面の研磨方法は、電解研磨、ビーズによる研磨などがある。
【0069】
また、上記実施の形態では、カバー1の導光部13が、軸方向に垂直な断面が円形のパイプ形状である構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、導光部13が、軸方向に垂直な断面が楕円形のパイプ形状である構成としてもよい。導光部13の断面が楕円形である構成も、当該断面が円形である構成と同様に、光路における赤外線の反射角度の偏りを低減して、光源2、受光部4の実装ずれでも赤外線の光量のロスを低減して実装ずれに強く、検出対象のガスGの検出精度を向上できる。
【0070】
また、上記実施の形態では、光学式ガスセンサ装置100が、一組の光源2、光学フィルタ3、受光部4及び導光部13を備える構成としたが、これに限定されるものではない。光学式ガスセンサ装置は、複数組の光源2、光学フィルタ3、受光部4及び導光部13を備える構成としてもよい。
【0071】
その他、上記実施の形態における光学式ガスセンサ装置100の細部構成及び詳細動作に関しても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0072】
100,100a,100b 光学式ガスセンサ装置
G ガス
1,1a,1b カバー
110A,110B カバー部
11 ガス導入ポート
111,112,113,114 ガス取入れ口
13 導光部
118A,118B 半パイプ部
115,116,117A,121,122,117B 中空部
123,124 固定ピン
12 ガスフィルタ
2,2a,2b 光源
21 シリコンチップ
22 薄膜ヒータ
23 ワイヤボンディング用パッド
M メンブレン
3 光学フィルタ
4,4a,4b 受光部
5 信号処理部
6,6a,6b 基板
7 コネクタ
8 回路素子部