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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162850
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】昇降機用電磁ブレーキ制御装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 1/32 20060101AFI20231101BHJP
【FI】
B66B1/32
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073534
(22)【出願日】2022-04-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】廣畑 圭司朗
(72)【発明者】
【氏名】梁 金挙
【テーマコード(参考)】
3F502
【Fターム(参考)】
3F502NA15
3F502NA28
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で、エレベータのかごの停止時にかご内の乗客に与える衝撃が抑制されるように電磁ブレーキを制御することができる昇降機用電磁ブレーキ制御装置を提供する。
【解決手段】本発明の電磁ブレーキ制御装置は、交流電源8の電圧を全波整流する整流器11と、全波整流された交流電源8の電圧の電磁ブレーキのブレーキコイル4への印加をオンオフするスイッチング手段14と、ブレーキコイル4に印加される実効電圧の目標値が、交流電源8の電圧のブレーキコイル4への印加のオンオフのデューティ比として設定される電圧設定手段17と、電圧設定手段17から送られる実効電圧の目標値に基づいて、交流電源8の電圧波形のゼロクロス点でスイッチング手段13a-bをオンオフする演算処理手段15とを備えており、演算処理手段15は、交流電源8の半周期毎にスイッチング手段14をオンにするか否かを判断する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降機で使用される電磁ブレーキを制御する電磁ブレーキ制御装置において、
交流電源の電圧を全波整流する整流器と、
全波整流された前記交流電源の電圧の前記電磁ブレーキのブレーキコイルへの印加をオンオフするスイッチング手段と、
前記電磁ブレーキのブレーキコイルに印加される実効電圧の目標値が、前記交流電源の電圧の前記ブレーキコイルへの印加のオンオフのデューティ比として設定される電圧設定手段と、
前記電圧設定手段から送られる前記実効電圧の目標値に基づいて、前記交流電源の電圧波形のゼロクロス点で前記スイッチング手段をオンオフする演算処理手段と、
を備えており、
前記演算処理手段は、前記交流電源の半周期毎に前記スイッチング手段をオンにするか否かを判断する、電磁ブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記演算処理手段は、
ある目標値に基づいて前記スイッチング手段のオンオフが開始されてからの前記スイッチング手段のオン回数と前記交流電源の半周期の繰り返し回数とを記憶しており、
(1)前記交流電源の半周期の繰り返し回数に対する前記スイッチング手段のオン回数の比が前記ある目標値以下であるか否かを判定する第1ステップと、
(2)第1ステップにおいて前記交流電源の半周期の繰り返し回数に対する前記スイッチング手段のオン回数の比が前記ある目標値以下であると判定される場合、前記スイッチング手段をオンにして、前記スイッチング手段のオン回数と前記交流電源の半周期の繰り返し回数とをインクリメントする第2ステップと、
(3)第1ステップにおいて前記交流電源の半周期の繰り返し回数に対する前記スイッチング手段のオン回数の比が前記ある目標値以下ではないと判定される場合、前記スイッチング手段をオフにして、前記交流電源の半周期の繰り返し回数をインクリメントする第3ステップと、
を実行するように構成されている、請求項1に記載の電磁ブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記実効電圧の目標値が変更されると、前記演算処理手段は、
(1)変更前の目標値が変更後の目標値よりも小さいか否かを判定する第1ステップと、
(2)第1ステップにおいて前記変更前の目標値が前記変更後の目標値よりも小さいと判定される場合、前記スイッチング手段をオンにして、記憶している前記スイッチング手段のオン回数と前記交流電源の半周期の繰り返し回数とをインクリメントする第2ステップと、
(3)第1ステップにおいて前記変更前の目標値が前記変更後の目標値よりも小さいと判定されない場合、前記スイッチング手段をオフにして、前記交流電源の半周期の繰り返し回数をインクリメントする第3ステップと、
(4)第2ステップ又は第3ステップの後、前記交流電源の半周期の繰り返し回数に対する前記スイッチング手段のオン回数の比が前記変更後の目標値以下であるか否かを判定する第4ステップと、
(5)第4ステップにおいて前記交流電源の半周期の繰り返し回数に対する前記スイッチング手段のオン回数の比が前記変更後の目標値以下であると判定される場合、前記スイッチング手段をオンにして、前記スイッチング手段のオン回数と前記交流電源の半周期の繰り返し回数とをインクリメントする第5ステップと、
(6)第4ステップにおいて前記交流電源の半周期の繰り返し回数に対する前記スイッチング手段のオン回数の比が前記変更後の目標値以下ではないと判定される場合、前記スイッチング手段をオフにして、前記交流電源の半周期の繰り返し回数をインクリメントする第6ステップと、
(7)第5ステップ又は第6ステップの後、前記電圧設定手段から送られる目標値が変更されたか否かを判定する第7ステップと、
を実行し、
第7ステップにおいて前記電圧設定手段から送られる目標値が変更されたと判定されない場合、第4ステップ以降のステップを再度実行し、
第7ステップにおいて前記電圧設定手段から送られる目標値が変更されたと判定される場合、前記スイッチング手段のオン回数と前記交流電源の半周期の繰り返し回数とをリセットして、第1ステップ以降のステップを再度実行するように構成されている、請求項1に記載の電磁ブレーキ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータやエスカレータのような昇降機で使用される電磁ブレーキを制御するための電磁ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータでは、一般的に、かごを停止させるためにディスク式又はドラム式の電磁ブレーキが使用されている。例えば、ディスク式の電磁ブレーキでは、駆動する電動機の回転軸に連結されたディスクの両側を一対のブレーキパッドによって挟み付けることで制動力を発生させて、電動機、ひいてはかごを停止させる。ブレーキパッドは制動ばねによってディスク側に付勢されており、電磁石を構成するブレーキコイルに電磁石の力が制動ばねの力に打ち勝つような電圧が印加されると、ブレーキパッドがディスクから引き離されて、電磁ブレーキが解除される。また、ブレーキコイルに印加するブレーキ電圧をゼロ又は所定の値以下にすることで、電磁ブレーキが締結される。
【0003】
エレベータでは、かごを停止させる場合、特に、異常が生じて過速度で移動しているかごを停止させる場合には、かご内の乗客に与える衝撃を抑制することが求められる。例えば、特開2006-315823号公報には、かごの速度に応じて、電動機のトルク制御による制動とブレーキによる制動とを併用することで乗客に与える衝撃を緩和するエレベータ制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-315823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2006-315823号公報に記載のエレベータ制御装置では、電動機のトルク制御による制動とブレーキによる制動とを併用させるために、実行される制御が複雑になっている。また、電動機のトルク制御を行うためにはブレーキで得られるブレーキトルクを推定する必要があるが、使用されるブレーキの仕様毎にこのような推定が適切に行われるようにすることは面倒である。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するものであり、簡単な構成で、エレベータのかごの停止時にかご内の乗客に与える衝撃が抑制されるように電磁ブレーキを制御することができる昇降機用電磁ブレーキ制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の昇降機用電磁ブレーキ制御装置は、昇降機で使用される電磁ブレーキを制御する電磁ブレーキ制御装置において、交流電源の電圧を全波整流する整流器と、全波整流された前記交流電源の電圧の前記電磁ブレーキのブレーキコイルへの印加をオンオフするスイッチング手段と、前記電磁ブレーキのブレーキコイルに印加される実効電圧の目標値が、前記交流電源の電圧の前記ブレーキコイルへの印加のオンオフのデューティ比として設定される電圧設定手段と、前記電圧設定手段から送られる前記実効電圧の目標値に基づいて、前記交流電源の電圧波形のゼロクロス点で前記スイッチング手段をオンオフする演算処理手段と、を備えており、前記演算処理手段は、前記交流電源の半周期毎に前記スイッチング手段をオンにするか否かを判断する。
【0008】
更に、本発明の昇降機用電磁ブレーキ制御装置では、前記演算処理手段は、ある目標値に基づいて前記スイッチング手段のオンオフが開始されてからの前記スイッチング手段のオン回数と前記交流電源の半周期の繰り返し回数とを記憶しており、(1)前記交流電源の半周期の繰り返し回数に対する前記スイッチング手段のオン回数の比が前記ある目標値以下であるか否かを判定する第1ステップと、(2)第1ステップにおいて前記交流電源の半周期の繰り返し回数に対する前記スイッチング手段のオン回数の比が前記ある目標値以下であると判定される場合、前記スイッチング手段をオンにして、前記スイッチング手段のオン回数と前記交流電源の半周期の繰り返し回数とを1だけインクリメントする第2ステップと、(3)第1ステップにおいて前記交流電源の半周期の繰り返し回数に対する前記スイッチング手段のオン回数の比が前記ある目標値以下ではないと判定される場合、前記スイッチング手段をオフにして、前記交流電源の半周期の繰り返し回数を1だけインクリメントする第3ステップと、を実行するように構成されている。
【0009】
また、本発明の昇降機用電磁ブレーキ制御装置では、前記実効電圧の目標値が変更されると、前記演算処理手段は、(1)変更前の目標値が変更後の目標値よりも小さいか否かを判定する第1ステップと、(2)第1ステップにおいて前記変更前の目標値が前記変更後の目標値よりも小さいと判定される場合、前記スイッチング手段をオンにして、記憶している前記スイッチング手段のオン回数と前記交流電源の半周期の繰り返し回数とをインクリメントする第2ステップと、(3)第1ステップにおいて前記変更前の目標値が前記変更後の目標値よりも小さいと判定されない場合、前記スイッチング手段をオフにして、前記交流電源の半周期の繰り返し回数をインクリメントする第3ステップと、(4)第2ステップ又は第3ステップの後、前記交流電源の半周期の繰り返し回数に対する前記スイッチング手段のオン回数の比が前記変更後の目標値以下であるか否かを判定する第4ステップと、(5)第4ステップにおいて前記交流電源の半周期の繰り返し回数に対する前記スイッチング手段のオン回数の比が前記変更後の目標値以下であると判定される場合、前記スイッチング手段をオンにして、前記スイッチング手段のオン回数と前記交流電源の半周期の繰り返し回数とをインクリメントする第5ステップと、(6)第4ステップにおいて前記交流電源の半周期の繰り返し回数に対する前記スイッチング手段のオン回数の比が前記変更後の目標値以下ではないと判定される場合、前記スイッチング手段をオフにして、前記交流電源の半周期の繰り返し回数をインクリメントする第6ステップと、(7)第5ステップ又は第6ステップの後、前記電圧設定手段から送られる目標値が変更されたか否かを判定する第7ステップと、を実行し、第7ステップにおいて前記電圧設定手段から送られる目標値が変更されたと判定されない場合、第4ステップ以降のステップを再度実行し、第7ステップにおいて前記電圧設定手段から送られる目標値が変更されたと判定される場合、前記スイッチング手段のオン回数と前記交流電源の半周期の繰り返し回数とをリセットして、第1ステップ以降のステップを再度実行するように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の昇降機用電磁ブレーキ制御装置では、交流電圧を全波整流してブレーキコイルに印加し、ゼロクロス点でスイッチング手段をオンオフしてブレーキ電圧を制御することで、オンオフのデューティ比に基づいてブレーキ電圧を細かく設定することが可能とされる。そして、このような昇降機用電磁ブレーキ制御装置を用いることで、電磁ブレーキを作動させる際にブレーキ電圧を段階的に変化させて電磁ブレーキによる制動を徐々に行うことができ、これにより、かごの停止時に乗客に与える衝撃が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態である昇降機用電磁ブレーキ制御装置を示す説明図である。
図2図2a-eは、図1に示す昇降機用電磁ブレーキ制御装置に関連した電圧及び制御信号の例を示す説明図である。
図3図3は本発明の一実施形態である昇降機用電磁ブレーキ制御装置で実行されるブレーキ電圧制御を示すフローチャートである。
図4図4は、図3のフローチャートに示すブレーキ電圧制御の具体例を示す説明図である。
図5図5は、図3のフローチャートに示すブレーキ電圧制御の具体例を示す説明図である。
図6図6は、図3のフローチャートに示すブレーキ電圧制御の具体例を示す説明図である。
図7図7は、ブレーキ電圧制御の比較例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態である昇降機用電磁ブレーキ制御装置1(以下、電磁ブレーキ制御装置1)を示す説明図である。本実施例では、電磁ブレーキ制御装置1は、エレベータ用の電磁ブレーキを制御するために使用される。電磁ブレーキは、例えば、上述したような構成を有するディスク式の電磁ブレーキであって、電動機3の回転軸に連結されたディスク(図示せず)と、ブレーキパッド(図示せず)を動作させるためのブレーキコイル4とを備えている。電動機3の回転軸(図示せず)は、ロープが掛けられたシーブ5に連結されており、ロープの一端にはかご6が連結されており、ロープの他端には釣り合い重り7が連結されている。
【0013】
ブレーキコイル4に供給される電力は、交流電源8からもたらされる。交流電源8は、例えば、50Hz又は60Hzの周波数を有する単相交流の電源である。電磁ブレーキ制御装置1は、交流電源8の交流電圧を全波整流する整流器である混合ブリッジ整流回路11を備えており、混合ブリッジ整流回路11は、周知のように2つのサイリスタ13a-bと2つのダイオード13c-dとで構成されている。混合ブリッジ整流回路11の出力側にブレーキコイル4が接続される。図2aは、交流電源8の電圧波形を示す説明図であり、図2bは、混合ブリッジ整流回路11によって全波整流された電圧波形を示す説明図である。例えば、交流電源8の周波数が50Hzである場合、電圧波形の半周期は10msとなる。
【0014】
電磁ブレーキ制御装置1は、混合ブリッジ整流回路11の出力電圧のブレーキコイル4への印加をオンオフするスイッチング手段を備えている。本実施形態では、スイッチング手段は、混合ブリッジ整流回路11のサイリスタ13a-bである。電磁ブレーキ制御装置1は更に、スイッチング手段のオンオフを制御する演算処理手段と、ブレーキコイル4に印加されるブレーキ電圧の実効電圧が設定される電圧設定手段とを備えている。本実施形態では、演算処理手段は、サイリスタ13a-bのゲートに印加されるゲート信号を制御する演算処理部15であり、電圧設定手段は、エレベータの運行状況に応じて実効電圧の目標値を設定して演算処理部15に送る電圧設定部17である。
【0015】
電磁ブレーキ制御装置1では、スイッチング手段のオンオフはゼロクロス制御を用いて制御され、スイッチング手段は、交流電源8の電圧波形のゼロクロスでオンオフされる。電磁ブレーキ制御装置1は、交流電源8の電圧波形のゼロクロス点を検知するゼロクロス検出手段を備えており、本実施形態では、ゼロクロス検知手段は、交流電源8の両出力側に設けられたダイオード19a-bと、これらダイオード19a-bを介して印加された電圧に基づいてゼロクロス点検出信号を生成して演算処理部15に送るゼロクロス検出部21とで構成されている。ゼロクロス検出部21は、交流電源8の電圧がゼロになった状態、つまりゼロクロス点を検知して、ゼロクロス点に応じた短時間パルスを、交流電圧の半周期のパルス間隔で有するゼロクロス点検出信号を生成する。図2cは、図2aの電圧波形に基づいて生成されるゼロクロス点検出信号を示す説明図である。
【0016】
ブレーキコイル4と並列にダイオード23が設けられている。ダイオード23は、ブレーキコイル4の印加電圧に対して逆極性になるように配置されている。サイリスタ13a-bがオフになってブレーキコイル4に印加される電圧がゼロになるとバックサージがブレーキコイル4に還流されることで、ブレーキ電圧がゼロになった際におけるブレーキコイル4に流れる電流の急激な変化が避けられている。
【0017】
電圧設定部17、演算処理部15及びゼロクロス検出部21は、マイクロコンピュータ及びIC等を用いて構成される。演算処理部15では、交流電源8の半周期毎に、つまり、ゼロクロス検出部21からゼロクロス点検出信号を受信すると、電圧設定部17から送られる実効電圧の目標値に基づいてサイリスタ13a-bをオンにするか否か、つまり混合ブリッジ整流回路11の出力電圧をブレーキコイル4に印加するか否かが判断される。サイリスタ13a-bをオンにすると判断されると、演算処理部15は、ゲート信号を生成してサイリスタ13a-bをオンにする。これにより、全波整流された交流電圧における(0Vから0Vに至る)半波形分の電圧がブレーキコイル4に印加されて、ブレーキ電圧がオン状態になる。電圧が0Vになるとサイリスタ13a-bがオフになることから、ブレーキコイル4への電圧の印加が、つまりオン状態が継続する場合には、次のゼロクロス点に応じて演算処理部15がゲート信号を生成することになる。このようにして、ブレーキコイル4に印加されるブレーキ電圧は、全波整流された交流電圧の半波形分のオンオフにより変化する。
【0018】
本実施形態では、電圧設定部17で設定されて演算処理部15に送られる実効電圧の目標値は、目標となる実効電圧の最大実効電圧に対する比で特定され、この比は、スイッチング手段又はブレーキ電圧のオンオフのデューティ比、つまり、交流電圧の半周期の整数倍である所定のサイクルにおけるブレーキコイル4のブレーキ電圧がオンになる期間の比に相当する。つまり、当該サイクルが半周期のM倍(Mは正の整数)であって、その間にブレーキ電圧がN回オンになるとすると(Nは0以上M以下の整数)、設定又は選択可能な実効電圧又はデューティ比の目標値は、百分率でN/M×100%となる。
【0019】
図3は、電磁ブレーキ制御装置1の演算処理部15で実行されるブレーキ電圧制御を示すフローチャートである。この処理は、電圧設定部17から演算処理部15に目標値を変更する電圧指令信号が送られると開始する。この処理が実行されることで、ブレーキコイル4に印加される混合ブリッジ整流回路11の出力電圧が新たな目標値になるように制御される。
【0020】
目標値の変更がなされると、演算処理部15は、変更前の目標値が変更後の目標値よりも小さいか否かを判定する(ステップS1)。ステップS1にて、変更前の目標値が変更後の変更後の目標値よりも小さいと判定される場合、演算処理部15は、交流電源の電圧波形のゼロクロス点を示すゼロクロス検出部21からのゼロクロス点検出信号に基づいてゲート信号を生成して、検出されたゼロクロス点にてサイリスタ13a-bをオンにし、全波整流された交流電圧の半波形分をブレーキコイル4に印加する(ステップS3)。演算処理部15では、全波整流された交流電圧の半波形分の出力回数n(以下、オン回数n)と、ゼロクロス点検出信号の受信回数、即ちゼロクロス点の出現回数mとが記憶されており、ステップS3では、オン回数nと出現回数mとが共にインクリメントされる。ゼロクロス点の出現回数mは、交流電源8の半周期の繰り返し回数に対応する。
【0021】
ステップS1にて、変更前の目標値が変更後の目標値よりも大きいと判定される場合、演算処理部15は、ゼロクロス点検出信号を受信してもゲート信号を生成せず、サイリスタ13a-bをオフにし、そのゼロクロス点からの交流電圧の半周期の間、ブレーキ電圧はオフ状態となる(ステップS5)。ステップS5では、ゼロクロス点の出現回数mはインクリメントされるが、オン回数nは変更されない。
【0022】
ステップS3又はステップS5の後、演算処理部15は、n/m×100の値が変更後の目標値以下であるか否かを判定する(ステップS7)。ステップS7にて、n/m×100の値が変更後の目標値以下であると判定される場合、演算処理部15は、ステップS3又はS5で送られたゼロクロス点検出信号の次のゼロクロス点検出信号に基づいてゲート信号を生成してサイリスタ13a-bをオン状態にし、全波整流された交流電圧の半波形分をブレーキコイル4に印加する(ステップS9)。ステップS9では更に、オン回数nと出現回数mとが共にインクリメントされる。
【0023】
ステップS7にて、n/m×100の値が変更後の目標値を超えていると判定される場合、演算処理部15は、ステップS3又はS5で送られたゼロクロス点検出信号の次のゼロクロス点検出信号を受信してもゲート信号を生成せず、サイリスタ13a-bはオフ状態にされ、交流電圧の半周期の間、ブレーキ電圧はオフ状態となる(ステップS11)。また、ステップS11では、ゼロクロス点の出現回数mがインクリメントされるが、オン回数nは変更されない。
【0024】
ステップS9又はステップS11の後、演算処理部15は、電圧設定部17から新たな目標値が送られたか否かを判定する(ステップS13)。ステップS13にて、目標値が変更されていないと判定される場合、ステップS7以降の処理が再度実行される。ステップS13にて、目標値が変更されたと判定される場合、オン回数nの値と出現回数mの値が共にゼロにリセットされた後(ステップS15)、ステップS1以降のステップが再度実行される。
【0025】
例えば、電磁ブレーキ制御装置1の電源がオフにされた場合に図3に示す処理は終了する。電磁ブレーキ制御装置1の電源が投入されると図3に示す処理が再開されるが、電源投入後に最初に実行されるステップS1では、変更前の目標値は0%とされる。
【0026】
図4は、図3のフローチャートに示すブレーキ電圧制御の実行例を示したものである。図4に示す例では、デューティ比は、交流電圧の半周期の20倍の期間(M=20)を基礎として規定されている(図5乃至7についても同様)。交流電源8の周波数が50Hzである場合、この期間は200msの期間となる。
【0027】
図4に示す表は、目標値(デューティ比)を0%から20乃至100%の何れかに変更した場合におけるブレーキ電圧の状態が示されている。この例では、M=20であることから、目標値は、1/M×100%=5%刻みで設定されることとなる。図4に示す表の第1列には、変更後の目標値が示されており、第2列には各目標値に対応するオン期間とオフ期間の比が示されている。表の第3列は、ステップS3又はS5が実行された結果のブレーキ電圧の状態がオン(ON)とオフ(OFF)とで示されている。表の第4列以降は、ステップS9又はS11が実行された結果のブレーキ電圧の状態がオン(ON)とオフ(OFF)とで示されている。表の第1行に示された1乃至20の数字は、図3のブレーキ電圧制御開始後の交流電源の半周期の繰り返し回数mに対応している。
【0028】
例えば、目標値が20%にされる場合、ステップS1にて、変更前の目標値である0%が20%より小さいと判定されて、ステップS3が実行され、全波整流された交流電圧の半波形分がブレーキコイル4に印加される。また、m=1、n=1とされる。その後、n/m×100>今回の目標値であることから、ステップS7の後、ステップS11が実行され、演算処理部15は、次のゼロクロス点検出信号を受信してもゲート信号を生成せず、次の交流電圧の半周期の間、ブレーキ電圧はオフ状態となる。更に、m=2とされる。その後、デューティ比の目標値が20%に維持される場合には、ステップS13、ステップS7及びステップS11がm=5となるまで3回繰り返される。これにより、交流電圧の半周期の更に3回分、ブレーキ電圧のオフ状態が維持される。その後、ステップS13からステップS7が実行されると、n/m×100=20%であることから、その後、ステップS9が実行されて、次の交流電圧の半周期の間、ブレーキ電圧がオンにされ、m=6、n=2とされる。その後、ステップS13、ステップS7及びステップS11がm=10となるまで4回繰り返され、交流電圧の半周期の更に3回分、ブレーキ電圧のオフ状態が維持される。目標値の変更がなされない場合、ステップS13から、ステップS7に戻るループが実行され続け、図3の表に示すように、交流電圧の半周期にブレーキ電圧がオンにされ、その後、交流電圧の半周期の4回分の期間ブレーキ電圧がオフにされることが繰り返される。図2dは、目標値が20%にされる場合におけるゼロクロス点検出信号を示しており、図2eは、この場合における混合ブリッジ整流回路11の出力電圧を示している。
【0029】
例えば、目標値が100%にされる場合、ステップS1の後、ステップS3、更には、ステップS7、S9及びS13が実行される。目標値が100%であることから、ステップS7では常に「n/m×100≦今回の目標値」なる条件が満たされて、ステップS7の後ステップS9が実行される。これにより、目標値が0%から100%に変更されると、ブレーキ電圧のオン状態が維持されて、その実効電圧は最大にされる。
【0030】
例えば、目標値が85%にされる場合、ステップS1の後、ステップS3(m=1、n=1)、更には、ステップS7(n/m×100>85%)、ステップS11(m=2、n=1)及びステップS13が実行される。「n/m×100≦今回の目標値」となることから、ステップS7の後、ステップS9(m=3、n=2)が実行される。目標値が85%に変更された後、2+20×p回目、8+20×p回目、又は15+20×p回目(pは0以上の整数)の交流電圧の半周期のブレーキ電圧のオンオフの判定をするために実行されるステップS7では、「n/m×100≦今回の目標値」なる条件が満たされないことから、その後、ステップS11が実行されて、当該の半周期のブレーキ電圧がオフにされる。これらの期間を除いた期間では、「n/m×100≦今回の目標値」なる条件がステップS7にて満たされることで、ステップS9が実行されて、ブレーキ電圧がオンにされる。
【0031】
図4の例では、目標値である20乃至100%の各デューティ比について、制御開始から、当該チューディ比に対応したブレーキ電圧のオンオフパターンが実現されている。
【0032】
図5は、目標値が50%から変更される場合における図3のブレーキ電圧制御の実行例を示している。図6は、目標値が80%から変更される場合における図3のブレーキ電圧制御の実行例を示している。図4図5及び図6に示す例の何れにおいても、(目標値が変更されなければ)21回目の半周期以後、図4に示した1~20回目のブレーキ電圧のオンオフパターンが、0%を除く各目標値について繰り返される。
【0033】
上記の例では、原理的には、実効電圧又はデューティ比の目標値を5%間隔で0乃至100%の間の任意の値に設定できるが、図4乃至図6には、5%、10%、及び15%の目標値は示されていない。所定の目標値(本実施例では20%)以下においてブレーキコイル4に電圧を印加しても、制動ばね(図示せず)の付勢に打ち勝つ程の力は発生されず、ブレーキパッド(図示せず)は動作しないことから、これらの値にプレーキ電圧を設定する必要はないからである。
【0034】
上述の例では、M=20としているが、Mの値は2以上の整数であれば、図3のブレーキ電圧制御は実行可能である。しかしながら、Mの値が小さくなるにつれて、目標値の選択の幅が狭くなるので、Mの値はある程度の大きさにする必要があろう。
【0035】
例えば、図1に示した電磁ブレーキ制御装置1において一般的なゼロクロス制御の手法が採用される場合、先に例示した20%乃至100%の各目標値に対して、図7に示すようなオンオフパターンが設定されて演算処理部15に記憶され、演算処理部15は、電圧設定部17から送られた目標値に対応するパターンに基づいてサイリスタ13a-bをオンオフして、ブレーキ電圧を制御するであろう。図7に示すパターンに基づいた制御が行われると、例えば、目標値45%の場合、オフ状態が交流電圧の半周期の11倍の期間継続することになる。このようにブレーキ電圧のオフ期間が長くなると、電磁ブレーキが意図せず締結してしまうことが起こり得る。
【0036】
一方、本発明の実施例である電磁ブレーキ制御装置1では、図3に示すブレーキ電圧制御がなされることで、図4乃至図6から理解できるように、各目標値に対応したブレーキ電圧のオンオフパターンにおいてオンとオフの少なくとも一方について連続する事態が避けられており、オフ状態の割合が高いパターンにおいてオフ状態を分散させることが可能とされている。これによって、ブレーキの締結状態に対応した0%を除いた制御上設定される目標値について、オフ状態が長々と継続するような図7に示した事態が発生する事態が避けられる。
【0037】
説明した実施例では、原理的には5%、10%、及び15%の目標値を設定することは可能である。目標値が5%である場合、図4乃至図6に示した例では、交流電源の半周期の20回中、オフが19回、オンが1回となってブレーキ電圧のオフ期間が長くなる事態が生じるであろう。しかしながら、先に述べた理由により、このような0%に近い目標値は設定されない。
【0038】
以上のように、本発明の電磁ブレーキ制御装置1は、上記のような構成及び特徴を有することで、ブレーキ電圧を細かな間隔で任意に設定することができる。故に、かご6を静止させる際に、ブレーキ電圧の目標値を段階的に下げていくことで(例えば、40%から20%に5%刻みで下げる)、電磁ブレーキを緩やかに作動させて、かご6内の乗客に与える衝撃を抑制することができる。
【0039】
更に、本発明の電磁ブレーキ制御装置1は、ブレーキ電圧を細かな間隔で任意に設定できるので、ブレーキコイル4の仕様や個体差に合わせた適切なブレーキ電圧をブレーキコイル4に印加することができる。例えば、かご6が停止状態から走行する場合、ブレーキ電圧を100%にして電磁ブレーキをフルオープンにした後に、電磁ブレーキが締結しない程度にブレーキ電圧を低下させてその状態を維持するという省電力制御を行う場合、本発明によれば、使用しているブレーキコイル4に合った適切な値にブレーキ電圧を下げて維持することが可能となる。
【0040】
図1から理解できるように、本発明の電磁ブレーキ制御装置1は、スイッチングレギュレーターのような複雑な回路を使用することなく上述したブレーキ電圧制御を可能としており、安価で実施することができる。図1に示した回路構成はあくまで例示であって、例えば、混合ブリッジ整流回路11の代わりにダイオードブリッジやIGBTを用いた回路構成が採用されてよく、本発明の電磁ブレーキ制御装置は、図1の回路構成に限定されるものではない。
【0041】
位相制御方式を採用することでブレーキ電圧の制御を行うことが考えられるが、本発明の電磁ブレーキ制御装置は、ゼロクロス制御方式を用いていることで、位相制御方式で問題となる電磁音や高調波電流が発生しないことから、エレベータで使用される電磁ブレーキの電圧制御に適したものになっている。
【0042】
本発明の昇降機用電磁ブレーキ制御装置について、エレベータの電磁ブレーキのブレーキ電圧制御を例として説明してきたが、本発明の昇降機用電磁ブレーキ制御装置は、エレベータ以外の昇降機、例えばエスカレータに使用されてもよい。
【0043】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を減縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0044】
1 昇降機用電磁ブレーキ制御装置
4 ブレーキコイル
6 かご
8 交流電源
11 混合ブリッジ整流回路
13a サイリスタ
13b サイリスタ
15 演算処理部
17 電力設定部
21 ゼロクロス検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7