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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162859
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】アルミニウム積層体
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20231101BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20231101BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20231101BHJP
   B32B 27/06 20060101ALI20231101BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20231101BHJP
   B32B 15/09 20060101ALI20231101BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20231101BHJP
   C22C 21/00 20060101ALN20231101BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20231101BHJP
   C22F 1/04 20060101ALN20231101BHJP
【FI】
H05K9/00 Q
B32B15/08 D
B32B15/20
B32B27/06
B32B7/12
B32B15/09 Z
B32B27/36
C22C21/00 M
C22F1/00 622
C22F1/00 627
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 660Z
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686Z
C22F1/04 A
C22F1/00 630F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073545
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】松本 真輝
(72)【発明者】
【氏名】新宮 享
(72)【発明者】
【氏名】大八木 光成
【テーマコード(参考)】
4F100
5E321
【Fターム(参考)】
4F100AB02B
4F100AB10B
4F100AB33B
4F100AK42A
4F100AR00D
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10D
4F100CB00C
4F100EH46D
4F100GB32
4F100HB31D
4F100JD08B
4F100JK02
4F100JK06C
4F100JK08B
4F100JK17
4F100JL11C
4F100YY00B
4F100YY00C
5E321AA23
5E321BB21
5E321BB44
5E321BB53
5E321CC16
5E321GG05
(57)【要約】
【課題】本発明は、優れた電磁波シールド特性及び繰り返し曲げに対する屈曲特性を有する金属積層体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、少なくとも樹脂フィルムおよびアルミニウム箔が積層されているアルミニウム積層体において、前記アルミニウム箔の厚みtはアルミニウム積層体の厚みtに対して40%以上60%以下であり、アルミニウム積層体のロール加工方向の0.2%耐力が50.0N/mmよりも大きく、アルミニウム積層体のロール加工方向の破断伸びが30.0%以上とし、そしてアルミニウム積層体のロール加工幅方向の幅ひずみ比が0.60以上であることを特徴とする電磁波シールドテープ用アルミニウム積層体が提供される。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも樹脂フィルムおよびアルミニウム箔が積層されているアルミニウム積層体において、
前記アルミニウム箔の厚みtはアルミニウム積層体の厚みtに対して40%以上60%以下であり、
アルミニウム積層体のロール加工方向の0.2%耐力が50.0N/mmよりも大きく、
アルミニウム積層体のロール加工方向の破断伸びが30.0%以上であり、そして
アルミニウム積層体のロール加工幅方向の幅ひずみ比が0.60以上であることを特徴とする
電磁波シールドテープ用アルミニウム積層体。
【請求項2】
前記アルミニウム箔は、X線回折において(111)面、(200)面、(220)面および(311)面のそれぞれを示す各回折強度の合計である合計回折強度Iに対する(200)面を示す回折強度I200の比率P200が30%以上60%以下であり、且つ前記合計回折強度Iに対する(220)面を示す回折強度I220の比率P220が10%以上40%以下である請求項1に記載のアルミニウム積層体。
【請求項3】
前記樹脂フィルムと前記アルミニウム箔は接着剤を介して積層されており、前記樹脂フィルムと前記アルミニウム箔の剥離強度が3.0N/15mm以上である請求項2に記載のアルミニウム積層体。
【請求項4】
前記アルミニウム箔は、0.4質量%以上1.7質量%以下の鉄を含有している請求項3に記載のアルミニウム積層体。
【請求項5】
一層の前記アルミニウム箔の厚みが5μm以上300μm以下である請求項4に記載のアルミニウム積層体。
【請求項6】
前記樹脂フィルムは、少なくともポリエステル系樹脂を含んでいる請求項5に記載のアルミニウム積層体。
【請求項7】
前記樹脂フィルムは、少なくともポリエチレンテレフタレート系樹脂を含んでいる請求項6に記載のアルミニウム積層体。
【請求項8】
印刷層または塗工層がさらに積層されている請求項1から7のいずれか1項に記載のアルミニウム積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲性に優れたアルミニウム積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報通信技術の発展に伴い、様々な分野で電磁波を発生する機器が利用されている。例えばAI技術の発展により、ロボットによる機器の操作や自動車分野における自動運転に代表されるように、各種センサーの搭載と制御が多用されるようになっている。
【0003】
一方で、例えば電気自動車のように交流モーターを動力源として駆動させるなど、ノイズとなる電磁波の発生も増加している。このため、各種制御機器やセンサー、それらを繋ぐケーブルには電磁波を受けることによる誤作動を防止することが重要であり、各種電線ケーブルにも電磁波シールドを施す必要性が生じている。
【0004】
例えば、電線ケーブルに電磁波シールドを施す手段としては、特開2019-176022号公報(特許文献1)や特開2013-065675号公報(特許文献2)などに記載されている電磁波シールド材が知られている。
【0005】
特許文献1に記載されているような電磁波シールド材は、電線ケーブルなどに巻き付けて電磁波シールドを施すものであるが、高い電磁波シールド性を発揮させるために銅箔やアルミニウム箔といった金属箔からなる層を構成体の全部または一部として含むものである。しかし、特許文献1に記載のような電磁波シールド材は、電磁波シールド性に優れるものの、特に繰り返し曲げに対する屈曲性に劣り、使い勝手が悪いという問題があった。
【0006】
一方、引用文献2に記載されている電磁波シールド材は、フラットケーブルに施されるシート状の電磁波シールド材であるが、金属箔からなる層を含まないものであるため、繰り返し曲げに対する屈曲性に優れるものの、高度な電磁波シールド性を得られないという問題があった。
【0007】
さらに、近年では、上述したように様々な分野の機器にセンサーや制御機器類が装着されるため、それらを繋ぐ電線ケーブルは、例えばロボットであれば腕の関節部分、例えば車載用途の機器であればドアミラーや扉開閉部などのように過酷な繰り返し曲げを伴う可動部に使用されることが多くなっている。
【0008】
このため、電線ケーブルに施される電磁波シールド材は、従来にも増して繰り返し曲げに耐え得る高い屈曲特性が求められている。ところが、電磁波シールド材は、上述したように繰り返し曲げに対する屈曲性を向上させようとすれば、電磁波シールド層を蒸着による金属層としたり、導電性粒子を含む樹脂層とすることで薄く又は粗にしなければならず、十分な電磁波シールド特性を得らないという本質的な問題があり、他方、電磁波シールド層に金属箔を用いることで優れた電磁波シールド特性を確保しようとすると、繰り返し曲げに対する高度な屈曲性が得られないという本質的な問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-176022号公報
【特許文献2】特開2013-065675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、軽量で且つ電磁波シールド特性に優れ、ケーブルに巻き付けることが可能な金属箔を含む金属積層体であり、それでいて繰り返し曲げに対する優れた屈曲特性を示す電磁波シールドテープ用の金属積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、高度な電磁波シールド特性を示す材料と、繰り返し曲げに対する高度な屈曲特性を示す材料およびそれらの材料の組み合わせなどについて鋭意検討を重ねた。その結果、電磁波シールド材の主材としてアルミニウム箔を用いたものに樹脂フィルムをラミネートした積層体において、その積層体中のアルミニウム箔の厚み比率を特定の範囲内とし、且つ積層体のロール加工方向の0.2%耐力、破断伸び、幅ひずみ比が特定の値よりも高い時に著しく繰り返し曲げに対する屈曲特性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明によれば、少なくとも樹脂フィルムおよびアルミニウム箔が積層されているアルミニウム積層体において、アルミニウム箔の厚みtはアルミニウム積層体の厚みtに対して40%以上60%以下であり、アルミニウム積層体のロール加工方向の0.2%耐力が50.0N/mmよりも大きく、アルミニウム積層体のロール加工方向の破断伸びが30.0%以上であり、そしてアルミニウム積層体のロール加工幅方向の幅ひずみ比が0.60以上であることを特徴とする電磁波シールドテープ用アルミニウム積層体が提供される。
【0013】
本発明のアルミニウム積層体は、アルミニウム箔に少なくとも1層以上の樹脂フィルムがラミネートされているという基本構成を有している。また、本発明において、アルミニウム積層体の厚みtに対するアルミニウム箔の厚みtの比率およびアルミニウム積層体のロール加工方向の0.2%耐力を限定しているのは、これらの値が上記の範囲から外れてしまうと、アルミニウム積層体を屈曲させた時或いは繰り返し屈曲させた時、積層体中のアルミニウム箔の一部が変形に耐えられなくなる結果、早期に破断を起こし良好な電磁波シールド性が得られなくなるからである。そのため、本発明のアルミニウム積層体は、高い電磁波シールド特性を維持しながら、繰り返し曲げに対する高度な屈曲特性を達成するという相反する2つの特性を両立させている。
【0014】
本発明のアルミニウム積層体では、アルミニウム箔は、X線回折において(111)面、(200)面、(220)面および(311)面のそれぞれを示す各回折強度の合計である合計回折強度Iに対する(200)面を示す回折強度I200の比率P200が30%以上60%以下であり、且つ合計回折強度Iに対する(220)面を示す回折強度I220の比率P220が10%以上40%以下であることが好ましい。
【0015】
アルミニウム箔の(200)面を示す回折強度I200の比率P200と(220)面を示す回折強度I220の比率P220を上記の範囲内に限定することにより、繰り返し曲げに対する優れた屈曲特性をアルミニウム積層体に付与することができる。
【0016】
本発明のアルミニウム積層体では、アルミニウム箔は、0.4質量%以上1.7質量%以下の鉄を含有していることが好ましい。
【0017】
アルミニウム箔中の鉄の含有量が0.4質量%未満となると、アルミニウム箔中の結晶粒を微細化することが困難となり、その結果アルミニウム箔の強度が不十分となり、冷間圧延後にピンホールが発生するケースも増加する。他方、鉄の含有量が1.7質量%よりも多くなると、粗大な金属間化合物が発生し易くなり、加工性が低下すると共に、この場合もピンホールが発生し易くなる。
【0018】
本発明のアルミニウム積層体は、各層のアルミニウム箔の厚みが5μm以上300μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上150μm以下であり、さらに好ましくは6μm以上80μm以下である。
【0019】
アルミニウム箔の厚みが上述の範囲内にあると、本発明のアルミニウム積層体は、ケーブルのような極めて小さな曲率半径を有するものであっても破断を起こすことなく容易に巻き付けることができ、また、繰り返し曲げに対する屈曲性を損なうことなく、電磁波シールド付きケーブルの成形を可能にする。
【0020】
本発明のアルミニウム積層体は、樹脂フィルムとアルミニウム箔は接着剤を介して積層されており、樹脂フィルムとアルミニウム箔の剥離強度が3.0N/15mm以上であることが好ましい。
【0021】
樹脂フィルムとアルミニウム箔の剥離強度が3.0N/15mmよりも小さいと、繰り返し曲げによる屈曲変形を受けた場合、樹脂フィルムの変形に対してアルミニウム箔の変形が十分に追従できず、局所的にアルミニウム箔自体が過度に変形を起こして破断を起こしてしまう場合があるからである。
【0022】
本発明において、アルミニウム箔による電磁波シールド効果を保持しつつ、その屈曲特性を効果的に向上させるのに適した樹脂フィルムとしては、少なくともポリエチレンテレフタレート系樹脂などのポリエステル系樹脂を含んでいることが好ましい。
【0023】
また、本発明のアルミニウム積層体は、利便性、装飾性を向上させる観点から、さらに印刷層または塗工層が積層されていてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明のアルミニウム積層体は、アルミニウム箔を樹脂フィルムでラミネートし、アルミニウム箔の厚みtをアルミニウム積層体の厚みtに対して40%以上60%以下とし、アルミニウム積層体のロール加工方向の0.2%耐力を50.0N/mmよりも大きく、アルミニウム積層体のロール加工方向の破断伸びを30.0%以上とし、そしてアルミニウム積層体のロール加工幅方向の幅ひずみ比を0.60以上とすることにより、高度な電磁波シールド特性を維持しながら、繰り返し曲げに対する極めて優れた屈曲特性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1の実施形態に係るアルミニウム積層体の積層構造を模式的に表した断面図である。
図2】本発明の第2の実施形態に係るアルミニウム積層体の積層構造を模式的に表した断面図である。
図3】本発明の第3の実施形態に係るアルミニウム積層体の積層構造を模式的に表した断面図である。
図4】本発明の第4の実施形態に係るアルミニウム積層体の積層構造を模式的に表した断面図である。
図5】本発明の第5の実施形態に係るアルミニウム積層体の積層構造を模式的に表した断面図である。
図6】本発明の第6の実施形態に係るアルミニウム積層体の積層構造を模式的に表した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係るアルミニウム積層体について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示される実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【0027】
<アルミニウム積層体の基本構成>
図1には、本発明の第1の実施形態として、1つのアルミニウム箔(層)2に対して接着剤(層)4を介して1つの樹脂フィルム(層)3が積層されたアルミニウム積層体1aの断面図が示されている。
【0028】
本実施形態のアルミニウム積層体1aは、図1に示されるように少なくとも樹脂フィルム(層)3とアルミニウム箔(層)2が積層される。アルミニウム箔(層)2が単体であれば、繰り返し曲げに対する屈曲特性は著しく低下するため、アルミニウム箔(層)2と少なくとも1層以上の樹脂フィルム(層)3を積層することにより、屈曲特性の低下を抑止ないし向上させている。
【0029】
また、アルミニウム積層体1aは、アルミニウム箔(層)2と樹脂フィルム(層)3との間にさらに接着剤(層)4を有していることが好ましい。かかる態様であれば、アルミニウム箔(層)2と樹脂フィルム(層)3とが接着剤(層)4を介して強固に接着されるため、曲率半径が極めて小さな電線ケーブル等を被覆する電磁波シールド材としてより好適に使用するこができる。なお、本実施形態のアルミニウム箔(層)2と樹脂フィルム(層)3は、必ずしも接着剤(層)4を介して積層されている必要はなく、例えば熱融着などにより、アルミニウム箔(層)2と樹脂フィルム(層)3とが直接積層されていてもよい。
【0030】
図2には、第2の実施形態として、第1の実施形態の積層体1aのアルミニウム箔(層)2の上に印刷層5または塗工層5が積層されたアルミニウム積層体1bの断面図が示されており、図3には、第3の実施形態として、第1の実施形態の積層体1aの樹脂フィルム(層)3の上に印刷層5または塗工層5が積層されたアルミニウム積層体1cの断面図が示されている。また、図4には、第4の実施形態として第1の実施形態の積層体1aのアルミニウム箔(層)2の上に、さらに接着剤(層)4を介して第2の樹脂フィルム(層)3が積層されたアルミニウム積層体1dの断面図が示されている。
【0031】
本発明では、第2、第3の実施形態のアルミニウム積層体1b、1cのように、第1の実施形態のアルミニウム積層体1aを基本構成として、そのアルミニウム箔(層)2の上または樹脂フィルム(層)3の上にさらに印刷層5または塗工層5を積層させてもよい。また、図示しないが、印刷層5または塗工層5は、第1の実施形態の積層体1aのアルミニウム箔(層)2の上および樹脂フィルム(層)3の上の両面上に積層させてもよい。
【0032】
本発明では、第4の実施形態のアルミニウム積層体1dのように、第1の実施形態のアルミニウム積層体1aを基本構成として、そのアルミニウム箔(層)2の上にさらに接着剤(層)4を介して第2の樹脂フィルム(層)3を積層させてもよい。別言すれば、第4の実施形態のアルミニウム積層体1dは、アルミニウム箔(層)2の一方面と他方面のそれぞれの上に樹脂フィルム(層)3を有する態様である。なお、第2~4の実施形態において、アルミニウム箔(層)2と樹脂フィルム(層)3は必ずしも接着剤(層)4を介して積層されている必要がないことは、第1の実施形態と同様である。
【0033】
図5には、第5の実施形態として、第1の実施形態の積層体1aの樹脂フィルム(層)3の上に、さらに接着剤(層)4を介して第2のアルミニウム箔(層)2が積層されたアルミニウム積層体1eの断面図が示されており、図6には第6の実施形態として、第5の実施形態の積層体1eの2つのアルミニウム箔(層)2のいずれか一方の面の上に、さらに接着剤(層)4を介して第2の樹脂フィルム(層)3が積層されたアルミニウム積層体1fの断面図が示されている。
【0034】
本発明では、第5の実施形態のアルミニウム積層体1eのように、第1の実施形態のアルミニウム積層体1aを基本構成として、その樹脂フィルム(層)3の上にさらに接着剤(層)4を介して第2のアルミニウム箔(層)2を積層させてもよい。別言すれば、第5の実施形態のアルミニウム積層体1eは、アルミニウム箔(層)2が樹脂フィルム(層)3の一方面の上に積層されるだけでなく、アルミニウム箔(層)2が積層されていない樹脂フィルム(層)3の他方面の上にも、さらに第2のアルミニウム箔(層)2を積層させた態様である。
【0035】
本発明では、第6の実施形態のアルミニウム積層体1fのように第1の実施形態のアルミニウム積層体1aを基本構成として、さらにその上に同じ材料層が重なり合わないように、他の第1の実施形態のアルミニウム積層体1aを繰り返し積層させてもよい。なお、第5、第6の実施形態において、アルミニウム箔(層)2と樹脂フィルム(層)3が必ずしも接着剤(層)4を介して積層されている必要がないことは、第1~4の実施形態と同様である。
【0036】
<アルミニウム積層体のロール加工方向の0.2%耐力>
本実施形態のアルミニウム積層体1a~1fは、ロール加工方向の0.2%耐力が50.0N/mmよりも大きいという特性を有している。ロール加工方向の0.2%耐力が50.0N/mm以下であると、アルミニウム積層体1a~1fが屈曲を伴う繰り返し曲げを受けた時に早期に破断を起こし、良好な電磁波シールド性が得られなくなる。
【0037】
この詳細なメカニズムは定かではないが、以下のように推察される。例えばテープ状に成形された本実施形態のアルミニウム積層体1a~1fは、通常、ケーブル等に(螺旋状に巻き付けられるのではなく)U字形からO字形を形成するように変形させて被覆されるため、ケーブル等の屈曲が繰り返されると、曲率半径が小さい側で生じる圧縮応力と曲率半径が大きい側で生じる引張応力を交互に受けることになる。他方、本実施形態のアルミニウム積層体1a~1fは、金属材料と樹脂材料とからなる複合材料であるため、上述の屈曲が繰り返されると、樹脂フィルム(層)3は基本的に積層体中で弾性変形を繰り返すが、アルミニウム箔(層)2は早期段階から弾性限界を超えて塑性変形を繰り返しているものと考えられる。
【0038】
そうすると、アルミニウム積層体1a~1fのロール加工方向の0.2%耐力が小さい場合、アルミニウム積層体1a~1f中のアルミニウム箔(層)2が弾性変形から塑性変形に容易に転じるために塑性変形域での屈曲の割合が高くなり、いわゆる金属疲労を起こし容易に破断するものと考えられる。
【0039】
なお、本発明において「ロール加工方向」とは、ロールtoロール方式によりアルミニウム箔へ樹脂フィルムをラミネートする際の加工方向を意味している。本実施形態では、アルミニウム積層体1a~1fは、特に断りがなければ長手方向の機械的強度を向上させるため、圧延する際のアルミニウム箔2の圧延方向および樹脂フィルム3を成形する際の樹脂材料が流れる方向とを上記ロール加工方向と一致させて積層している。
【0040】
<アルミニウム積層体中に占めるアルミニウム箔(層)の厚み比率>
本実施形態のアルミニウム積層体1a~1fは、アルミニウム箔(層)2の厚みtがアルミニウム積層体の厚みtに対して40%以上60%以下であるという特徴を有している。アルミニウム箔(層)2の厚みtの比率が40%より小さくなると、アルミニウム積層体中に占めるアルミニウム箔(層)2の断面積(断面係数)が不足するばかりでなく、屈曲変形を受けた時、アルミニウム積層体1a~1fの中立面から外れたアルミニウム箔(層)2が大きな変形を受けることになるので、樹脂フィルム(層)3により許容される大きな変形の中で、アルミニウム箔(層)2が先に破断強度に到達して破断を起こしてしまい、その結果良好な電磁波シールド性を得られなくなる。
【0041】
一方、アルミニウム箔(層)2の厚みtの比率が60%より大きくなると、アルミニウム積層体中に占めるアルミニウム箔(層)2の厚みが過度となるため、アルミニウム積層体1a~1fは、屈曲された時、アルミニウム箔(層)2の内部において曲率半径が小さい側で圧縮応力を受ける面と、曲率半径が大きい側で引張応力を受ける面とを生じるので、特に屈曲が繰り返されると、アルミニウム箔(層)2が早期に金属疲労を起こし、小さな応力、小さな変形(ひずみ)においても容易に破断し、良好な電磁波シールド性が得られなくなる。
【0042】
<アルミニウム積層体のロール加工方向の破断伸び>
本実施形態のアルミニウム積層体1a~1fは、ロール加工方向の引張試験における破断伸びが30.0%以上であるという特性を有している。ロール加工方向の破断伸びが30.0%未満であると、アルミニウム積層体1a~1fが屈曲を伴う繰り返し曲げを受けた時に早期に破断を起こし、良好な電磁波シールド性が得られなくなる。そのため、アルミニウム積層体1a~1fの上記の破断伸びは、30.0%以上であることが好ましく、35.0%以上であることがより好ましく、40.0%以上であることがさらに好ましい。アルミニウム積層体1a~1fの破断伸びが上記の範囲にあると、より破断し難くなる。
【0043】
<アルミニウム積層体のロール加工幅方向の幅ひずみ比>
本実施形態のアルミニウム積層体1a~1fは、ロール加工幅方向の幅ひずみ比rが0.60以上であるという特性を有している。ロール加工幅方向の幅ひずみ比rは、引張変形前のアルミニウム積層体の幅をW、引張変形後のアルミニウム積層体の幅をW、引張変形前のアルミニウム積層体の長さをL、引張変形後のアルミニウム積層体の長さをLとしたとき、下記(1)式によって算出され、材料に引張変形を加えた際の異方性を表す指標である。
r=log(W/W)/log[(W×L)/(W×L)]・・・(1)
r:幅ひずみ比
(mm):引張変形前の幅,W(mm):引張変形後の幅
(mm):引張変形前の長さ,L(mm):引張変形後の長さ
【0044】
アルミニウム積層体1a~1fのロール加工幅方向の幅ひずみ比が0.60未満である場合、屈曲を繰り返すとアルミニウム積層体1a~1fのアルミニウム箔(層)2中に早期にピンホールが多発し、良好な電磁波シールド性が得られなくなる。
【0045】
この詳細なメカニズムは定かではないが、以下のように推察される。屈曲が繰り返されると上述の通り、アルミニウム積層体1a~1fはロール加工方向に引っ張りと圧縮変形が交互に加わる。すなわち、この力によるアルミニウム積層体1a~1fの変形は厚み方向と幅方向の変形に別れるが、幅ひずみ比が高い、つまり幅方向に変形しやすい状態であるとアルミニウム箔(層)2のピンホールの発生を抑えながらの変形が容易になり、良好な電磁波シールド性が得られるようになるものと考えられる。
【0046】
<アルミニウム箔の特性(回折強度比率)>
本実施形態のアルミニウム積層体1a~1fでは、アルミニウム箔2は、X線回折において(111)面、(200)面、(220)面および(311)面のそれぞれを示す各回折強度の合計である合計回折強度Iに対する(200)面を示す回折強度I200の比率P200が30%以上60%以下であり、且つ合計回折強度Iに対する(220)面を示す回折強度I220の比率P220が10%以上40%以下であることが好ましい。
【0047】
アルミニウム箔2の(200)面を示す回折強度I200の比率P200と(220)面を示す回折強度I220の比率P220を上記の範囲内とすることにより、繰り返し曲げに対する優れた屈曲特性をアルミニウム積層体1a~1fに付与することができる。
【0048】
X線回折における(200)面を示す回折強度I200の比率P200は、X線回折装置で、回折チャート上の(111)面、(200)面、(220)面および(311)面のそれぞれを示す各回折強度を、バックグラウンド(BG)除去後の積分強度として測定し、上記の各回折強度の合計である合計回折強度Iに対する比率P200として、以下の(式2)により算出される。実際の積分強度の測定は、使用したX線回折装置の解析ソフトウエアである積分強度計算プログラムを用いて読取ることによって行う。
200=[{(200)面の回折強度I200}/{(111)面、(200)面、(220)面および、(311)面の各回折強度の合計I}]×100[%]・・・(式2)
【0049】
X線回折における(220)面を示す回折強度I220の比率P220も同様に求めることができる。すなわち、(式2)の分子を「(220)面の回折強度I220」に置き換えればよい。なお、X線回折強度を測定する面は、アルミニウム箔2の圧延面、すなわち、アルミニウム箔2を製造する際の冷間圧延時に圧延ロールと接する面であり、アルミニウム積層体1a~1fのアルミニウム箔(層)2の表面でもある。
【0050】
本発明者等は、X線回折で検出される回折強度において、上記の合計回折強度Iに対して、(200)面を示す回折強度I200の比率P200を30%以上60%以下とし、且つ(220)面を示す回折強度I220の比率P220を10%以上40%以下とすれば、繰り返し曲げに対する優れた屈曲特性をアルミニウム積層体1a~1fに付与できることを見出した。この理由は、(200)面と(220)面を示す回折強度I200、I220の各比率P200、P220が上記の範囲を外れると、各結晶方位のバランスが崩れて、結果として繰り返し曲げに対する屈曲特性が低下するからであると考えられる。繰り返し曲げに対する屈曲特性の観点からは、各回折強度の合計である合計回折強度Iに対する(200)面を示す回折強度I200の比率P200が30%以上50%以下であることがより好ましい。
【0051】
(200)面と(220)面を示す回折強度I200、I220の各比率P200、P220を所定の範囲に収めるためには、特に制限されるものではないが、後述するアルミニウム箔2の組成の鋳塊を均質化熱処理するために、該均質化熱処理温度を、従来、一般的に実施されている温度(500~540℃程度)、またはそれよりも高い温度(例えば570℃~630℃)で均質化熱処理すればよく、その後の製板工程(熱間圧延、冷間圧延、中間焼鈍)の作業条件と製箔工程(冷間圧延)の作業条件は一般的な条件に設定すればよい。また、得られたアルミニウム箔を最終焼鈍してもしなくてもよい。このようにして製造された厚みが5~300μmのアルミニウム箔2を少なくとも1層以上の樹脂フィルム3でラミネートすることにより、繰り返し曲げに対する優れた屈曲性を示すアルミニウム積層体1a~1fを得ることができる。
【0052】
<アルミニウム箔の特性(厚み)>
本実施形態で用いられるアルミニウム箔2の厚みは、5μm以上300μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上150μm以下であり、さらに好ましくは6μm以上80μm以下である。
【0053】
アルミニウム箔2の厚みが5μm未満であると、成形時に破断したり、ピンホールが発生または拡大するおそれがある。またアルミニウム箔2の厚みが300μmを超えると、本実施形態で規定する範囲のX線回折強度を得ることが困難となるばかりでなく、アルミニウム積層体1a~1fに成形した時の重量が増加し、ケーブル等への被覆性が低下することになる。
【0054】
このため、本実施形態では、アルミニウム箔2の厚みを上述の範囲内に制御することにより、アルミニウム積層体1a~1fは、ケーブルのような極めて小さな曲率半径を有するものであっても破断を起こすことなく容易に巻き付けることができ、また、繰り返し曲げに対する屈曲性を損なうことなく、電磁波シールド付きケーブルへの成形が可能になる。
【0055】
<アルミニウム箔の特性(組成)>
本実施形態で用いられるアルミニウム箔2は、鉄(Fe)を0.4質量%以上1.7質量%以下含んでいる。アルミニウム箔2のFeの含有量は、0.7質量%以上1.7質量%以下であることがより好ましく、1.1質量%以上1.7質量%以下であることがさらに好ましい。
【0056】
Feの含有量が0.4質量%未満であると、アルミニウム箔2の結晶粒を微細化する効果が不十分となり、箔の強度が低下し、冷間圧延後にピンホールが比較的多く発生する傾向がある。他方、Feの含有量が1.7質量%を超えると、粗大な金属間化合物が発生し易くなり、加工性(圧延性、成形性)が低下すると共に、この場合もピンホールが発生し易くなる。
【0057】
このため、本実施形態では、Feの含有量を0.4質量%以上1.7質量%以下に制御することで、アルミニウム箔2の結晶粒を微細化し、粗大な金属間化合物の発生を抑制すると共に、アルミニウム箔2の適度な強度と伸びを確保している。
【0058】
本実施形態で用いるアルミニウム箔2において、シリコン(Si)の含有量は、好ましくは0.30質量%以下であり、さらに好ましくは0.15質量%以下であればよい。Siの含有量が0.30質量%を超えると、粗大な晶出物が発生し易くなり、アルミニウム箔2の結晶粒を微細化する効果が低減すると共に、強度と加工性も低下する傾向がある。なお、Siは工業用アルミニウム中に不可避的に存在するので、Si含有量の下限値を0.01質量%としてもよい。
【0059】
本実施形態で用いるアルミニウム箔2において、銅(Cu)の含有量は、好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以下であればよい。Cuの含有量が0.05質量%を超えると、加工性と耐食性が低下するおそれがある。なお、Cuは工業用アルミニウム中に不可避的に存在するので、Cu含有量の下限値を0.001質量%としてもよい。
【0060】
本実施形態で用いられるアルミニウム箔2において、上述した組成(元素)以外の残部はアルミニウム(Al)である。ここで該アルミニウム箔2は、上記のFe、Si、Cu以外の微量元素をそれぞれ0.05質量%以下含んでいてもよい。微量元素としては、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ガリウム(Ga)、クロム(Cr)、バナジウム(V)などが挙げられる。これらの元素は、アルミニウム箔2中に微量、不可避不純物元素として存在する場合がある。
【0061】
上述したように、本実施形態で用いられるアルミニウム箔2の組成を説明したが、該アルミニウム箔2の組成は、例えば工業的に市販されている、JISH4160-1994で規定された合金番号8021または8079に相当する組成であることが好ましい。従って、該アルミニウム箔2は、高価な添加元素を必要としない、8000系または8000系に近い組成を有する汎用性のアルミニウム箔であり、且つ成形加工性に優れ、樹脂フィルム3と積層した時、アルミニウム積層体1a~1fへ繰り返し曲げに対する優れた屈曲性を付与するものである。
【0062】
<アルミニウム積層体の剥離強度>
本実施形態のアルミニウム積層体1a~1fでは、アルミニウム箔(層)2と樹脂フィルム(層)3との間の剥離強度は、アルミニウム積層体1a~1fを180°曲げながら、樹脂フィルム(層)3からアルミニウム箔(層)2を剥離する時の剥離強度が3.0N/15mm以上であることが好ましい。剥離強度が3.0N/15mmよりも小さくなると、繰り返し屈曲変形が加えられた際、樹脂フィルム(層)3の変形に対してアルミニウム箔(層)2の変形が十分に追従できず、局所的にアルミニウム箔(層)2自体が過度に変形を起こして破断を起こしてしまう場合があるからである。
【0063】
<接着剤(層)>
本実施形態のアルミニウム積層体1a~1fは、例えば熱融着などにより、アルミニウム箔(層)2と樹脂フィルム(層)3とを直接接着させてもよいが、剥離強度(接着強度)を向上させる観点から、反応型の接着剤(層)4を介してアルミニウム箔(層)2と樹脂フィルム(層)3を接着させてもよい。
【0064】
接着剤(層)4を用いてアルミニウム箔(層)2と樹脂フィルム(層)3とを積層する場合、接着剤(層)4を構成する接着剤の主剤としては、ポリエステル系、ポリエステルウレタン系などの接着剤を用いるのが好ましく、その塗布量は0.5~10.0g/m程度である。塗布量が0.5g/m未満となると接着力が不十分となるおそれがある一方、10.0g/mを超えてもさらなる接着力の向上が見られず、耐湿性、経済性の観点からも望ましくないからである。また、硬化剤として、脂肪族又は芳香族イソシアネートを使用することができる。
【0065】
特に本実施形態のアルミニウム積層体1a~1fでは、2液以上からなる熱反応タイプのポリエステルポリオール接着剤で、その重量平均分子量が3万以上で、且つその塗膜硬化後軟化点が180℃以上であるものを用いることが好ましい。なお、接着方法としては、特に限定されるものではないが、ドライ・ラミネーション法によるのが好ましい。
【0066】
<樹脂フィルム(層)>
本実施形態で用いられる樹脂フィルム3は、特に限定されるものではないが、少なくともポリエステル樹脂を含んでいることが好ましい。ポリエステル系樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートを好適に用いることができるが、ポリエチレンナフタレートやポリブチレンテレフタレートからなるフィルムを用いてもよい。
【0067】
樹脂フィルム3は、インフレーション法、キャスティング法、押出法など、いずれの公知の製造方法によって製造されたものも使用することができる。一例としては、ナイロンをベースにポリエステル樹脂やエチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂を共押し出しした複層フィルムなども使用することができる。また、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる樹脂フィルム3の場合は、一般的な二軸延伸によって製造されたフィルムを用いればよく、無延伸のフィルムを用いてもよい。樹脂フィルム3の厚みは、アルミニウム積層体1a~1fの繰り返し曲げに対する屈曲性や取り扱いのし易さなどを考慮すると、例えば10μm以上30μm以下であることが好ましく、12μm以上20μm以下であることがより好ましい。樹脂フィルム3の引張強度比(RD/TD)は屈曲時の圧縮応力及び引張応力による幅ひずみを考慮すると、例えば1.15以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましい。また、樹脂フィルム3に添加物や不純物が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、硬化剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、潤滑剤等が挙げられる。
【0068】
<印刷層、コーティング層>
本実施形態のアルミニウム積層体1a~1fは、利便性、装飾性などの観点からさらに、コーティングや印刷が施されていてもよい。コーティング層としては、例えば絶縁層、粘着層、防水層、腐食防止層などを積層することが挙げられる。印刷層としては、公知の印刷インキを使用することができ、含まれる樹脂成分としては、セルロース、ポリビニルブチラール、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン- ビニルアルコール共重合体及びエチレン-アクリル酸エチル共重合体の少なくとも1種を含むものなどが挙げられる。また、印刷インキに含まれる着色成分としては、有機顔料、無機顔料、染料の少なくとも1種を含むものなどが挙げられる。
【0069】
<利用の形態>
本実施形態のアルミニウム積層体1a~1fは、電磁波シールド材、特に電磁波シールドケーブル用の電磁波シールドテープとして好適に用いることができる。とりわけ、繰り返し曲げに対する高い屈曲性が要求される、自動車のドアミラー部やロボットアームの関節部など通過するワイヤーハーネスなどに好適に用いられる。一例としては、本実施形態のアルミニウム積層体1a~1fを円柱(UOパイプ)を形成するようにケーブルに巻き付け、接合することにより、該ケーブルを被覆することができる。
【実施例0070】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明の特徴を一層明確にする。
【0071】
<アルミニウム箔の作製>
先ず、以下に説明するように本発明の実施例と、比較例に用いるアルミニウム箔の試料を作製した。表1に示すアルミニウム箔A~Dを作製し、実施例用試料と比較例用試料のアルミニウム箔の試料として用いた。なお、表1において「その他元素計」とは、JIS(例えばJIS H4160)で規定される元素以外の不可避不純物元素(B、Bi、Pb、Naなど)の合計含有量を示している。
【0072】
【表1】
【0073】
アルミニウム箔の製造工程は、DC鋳造によって得られたアルミニウム合金の鋳塊を加熱炉にて所定の温度と時間で均質化熱処理を行った。その後、熱間圧延を行った後、複数回の冷間圧延を行い、冷間圧延の途中で所定の温度と時間で中間焼鈍を実施し、アルミニウム箔Aについては7μm、アルミニウム箔Bについては7、12、15、20μm、アルミニウム箔Cについては7μm、およびアルミニウム箔Dについては7μmの厚みになるまで冷間圧延を行った。さらに、アルミニウム箔A、B、Dについては、所定の温度と時間で最終焼鈍を行った。
【0074】
なお、均質化熱処理温度は高温であることから、鋳塊の温度が均質化熱処理温度に達すれば、その後、熱間圧延が開始可能な温度まで鋳塊を冷却してもよい。さらに、均質化熱処理時間は一般的な処理時間内であればよく、必ずしも表1に示される時間に限定されるものではない。また、中間焼鈍条件は、本発明の実施例および比較例に特性に大きな影響を及ぼさないことから、熱処理温度と熱処理時間は一般的な操業条件の範囲内であればよい。
【0075】
<アルミニウム箔のX線回折強度の測定>
得られたアルミニウム箔A~Dの各試料について、(200)面を示す回折強度I200の比率P200と(220)面を示す回折強度I220の比率P220を算出するためにX線回折強度を測定した。X線回折強度の測定は、全自動多目的水平型X線回折装置(株式会社リガク製Smart Lab)を用い、解析ソフトウエアはRINT2000PC(Ver,3.0.0.0)を用いて、CuKα線、40kV、30mAの条件でX線回折を行い、X線回折で(111)面、(200)面、(220)面および、(311)面のX線回折強度(バックグラウンド除去後の積分強度)を測定することによって行った。得られた各面のX線回折強度の値を用いて、その相対的な回折強度比率を上述した(式1)により算出した。なお、アルミニウム箔のX線回折強度は、上述のようにアルミニウム箔A~D単体を測定しても、アルミニウム積層体中のアルミニウム箔A~Dを測定しても略同じ結果(測定値)が得られることが判った。
【0076】
<アルミニウム箔の組成の測定>
アルミニウム箔の組成は、得られたアルミニウム箔A~Dから測定用サンプルをそれぞれ1.00g測り取り、誘導結合プラズマ発光分析法(装置名:株式会社島津製作所製ICPS-8100)により分析を行うことにより測定した。
【0077】
<アルミニウム箔の機械的強度の測定>
アルミニウム箔の引張強度、0.2%耐力および破断伸びの測定は、室温(20℃)中で引張試験機(株式会社東洋精機 ストログラフVES5D、歪速度20mm/分、試料幅7mm、チャック間距離100mm)を用いて行った。なお、0.2%耐力は、得られた荷重変位曲線から、弾性変形領域の弾性率直線と同じ傾きをもち、弾性率交点より初期試料長より0.2%だけ離れた点を通る直線が荷重変位曲線と交わる点を耐力点の荷重とし、その荷重から試料断面積を割った値とした。
【0078】
<樹脂フィルム>
上述されたアルミニウム箔に積層する樹脂フィルムO、P、Q、R及びSとして、厚み12μmのナイロン樹脂フィルムO(ユニチカ株式会社製「ONBC84W#」)、厚み12μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂フィルムP(ユニチカ株式会社製「PTM」)、厚み12μmのPET樹脂フィルムQ(東洋紡株式会社製「ET510」)、厚み16μmのPET樹脂フィルムR(東洋紡株式会社製「T4100」)および厚み15μmのPBT(ポリブチレンテレフタラート)樹脂フィルムS(東洋紡株式会社製「DE048」)を準備した。
【0079】
<樹脂フィルムの機械的強度の測定>
上記樹脂フィルムO~Sの引張強度、0.2%耐力および伸びの測定は、室温(20℃)中で引張試験機(株式会社東洋精機 ストログラフVES5D、歪速度20mm/分、試料幅7mm、チャック間距離100mm)を用いて行った。なお、0.2%耐力は、得られた荷重変位曲線から、弾性変形領域の弾性率直線と同じ傾きをもち、弾性率交点より初期試料長より0.2%だけ離れた点を通る直線が荷重変位曲線と交わる点を耐力点の荷重とし、その荷重から試料断面積を割った値とした。その結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
<アルミニウム積層体の作製>
<アルミニウム積層体の作製>
上記のアルミニウム箔A~Dおよび樹脂フィルムO~Sを用いて、実施例1~4および比較例1~10に示されるアルミニウム積層体を作製した。具体的には、表3に示される組み合わせ及び接着剤の塗布量(g/m)により、アルミニウム箔A~Dの一方面にポリウレタン系ドライラミネート用接着剤を用いて樹脂フィルムO~Sを積層することで実施例2、3および比較例2、4のアルミニウム積層体を作製した。また、実施例1、4および比較例1、3、5~10については、アルミニウム箔の他方面にポリウレタン系ドライラミネート用接着剤(乾燥後重量2.5g/m)を用いてアルミニウム箔A~Dを積層することにより、実施例および比較例のアルミニウム積層体を作製した。
【0082】
<アルミニウム積層体のロール加工方向の0.2%耐力>
実施例1~4および比較例1~10のアルミニウム積層体の耐力は、東洋精機製ストログラフVES5Dを用い、以下の方法によりアルミニウム積層体を引張試験することで測定した。アルミニウム積層体を、該アルミニウム積層体中のアルミニウム箔の圧延方向(RD)に200mm、該圧延方向(RD)と直行する幅方向(TD)に7mm切り出した。チャック間距離は100mmとし、引張速度は20mm/minで行った。ここで得られた荷重変位曲線から、弾性変形領域の弾性率直線と同じ傾きをもち、弾性率交点より初期試料長より0.2%だけ離れた点を通る直線が荷重変位曲線と交わる点を耐力点の荷重とし、その荷重から試料断面積を割った値をロール加工方向の0.2%耐力の値とした。
【0083】
<アルミニウム積層体の繰り返し曲げに対する屈曲性の評価>
実施例1~4および比較例1~10のアルミニウム積層体の繰り返し曲げに対する屈曲性は、ユアサシステム機器株式会社製多機能版小型卓上型耐久試験機にφ150mm面板を使った屈曲試験冶具を取り付け、左右90°の屈曲試験を行うことにより測定した。
【0084】
先ず、アルミニウム積層体を、該アルミニウム積層体中のアルミニウム箔の圧延方向(RD)に100mm、該圧延方向(RD)と直行する幅方向(TD)に7mm切り出した。導体が軟銅線でその外側に発泡ポリエチレンで絶縁被覆された外径1.6mmΦのケーブル線の外側に、上記の切り出したアルミニウム積層体を、ケーブル線の長手方向がアルミニウム積層体中のアルミニウム箔の圧延方向(RD)と一致するように縦沿いに巻き付け、さらにその外側に、外径2.0mmの銅編素線を巻きつけたものを外径3.6mmのポリオレフィン樹脂チューブに入れ、温度120℃で2分保持してポリオレフィン樹脂チューブをシュリンクさせることで、実施例および比較例のアルミニウム積層体で被覆されたケーブル線を作製した。
【0085】
得られた上記のケーブル線を屈曲半径5mmのマンドレルで左側に90°に屈曲させて元の状態に戻し、続いて右側に90°に屈曲させて元の状態に戻すサイクルを1サイクル(回)とし、複数回屈曲させた。ケーブル線を屈曲中、アルミニウム積層体の両端部の電気抵抗値を株式会社テクシオテクノロジー製のデジタルマルチメーターGDM-9061で連続的に測定を行い、電気抵抗値が1.0Ω以上になるまでの屈曲回数nを測定し、アルミニウム積層体の繰り返し曲げに対する屈曲性を示す指標とした。すなわち、アルミニウム積層体の電気抵抗値が1.0Ω以上に上昇するのは、アルミニウム積層体中のアルミニウム箔(層)の全部または一部が破断等の損傷を受けたことによるものと考えられるため、破断等に至る上記の屈曲回数nが高ければ高いほど繰り返し曲げに対する屈曲性に優れていることになる。なお、上記の屈曲試験は、各試料について3回ずつ行い、その平均値を表3に示した。
【0086】
<アルミニウム積層体の剥離強度の測定>
アルミニウム積層体の剥離強度は、室温(20℃)中で引張試験機(株式会社東洋精機 ストログラフVES5D)を用い、積層体のアルミニウム箔を180°曲げ、残りの積層体は曲げずに、積層界面が180°で剥がれる状態で、剥離速度200mm/分、試料幅7mm、チャック間距離100mmにて行った。なお、本願明細書で意味するところの剥離強度(N/15mm)は、上記の試料幅7mmの短冊状の試料で剥離強度を測定し、その値を試料幅15mmとした時の剥離強度に換算(15/7倍)したものである。
【0087】
<アルミニウム積層体の機械的強度の測定>
アルミニウム積層体の引張強度、0.2%耐力および破断伸びの測定は、室温(20℃)中で引張試験機(株式会社東洋精機 ストログラフVES5D、歪速度20mm/分、試料幅7mm、チャック間距離100mm)を用いて行った。なお、0.2%耐力は、得られた荷重変位曲線から、弾性変形領域の弾性率直線と同じ傾きをもち、弾性率交点より初期試料長より0.2%だけ離れた点を通る直線が荷重変位曲線と交わる点を耐力点の荷重とし、その荷重から試料断面積を割った値とした。
【0088】
<単位断面積あたりの抵抗値の変化の評価>
上記引張試験の測定と同時に、株式会社テクシオテクノロジー製デジタルマルチメーターGDM-9061を用い、以下の方法により引張試験中のアルミニウム積層体の抵抗値を測定した。これは電磁波シールド性の代替評価として取り入れている。アルミニウム積層体を上記記載の大きさに切り出して引張試験を行う際に、試験片の両端を10mm折り曲げてリード線に接続することで、長さ200mm×幅7mmのアルミニウム積層体における片側のアルミニウム箔の抵抗値を測定した。測定した抵抗値は伸び30mmまでの差分をアルミニウム箔の断面積で割り、単位断面積あたりの抵抗値の変化として算出した。破断伸びが30.0mmより小さいアルミニウム積層体については、伸び30.0mm時には既に破断していることから抵抗値は無限大(∞)とした。
【0089】
<アルミニウム積層体の幅ひずみ比の評価>
アルミニウム積層体の幅ひずみ比は上記記載の引張試験機を用い、以下の方法によりアルミニウム積層体を引張試験することで測定した。アルミニウム積層体を機械流れ方向(RD)に150mm、幅方向(TD)に7mm切り出した。チャック間距離は50mmとし、引張速度は20mm/minで行い、伸び20.0%でのアルミニウム積層体の幅を測定し、幅ひずみ比を算出した。
【0090】
アルミニウム積層体のロール加工方向の0.2%耐力、破断伸び、ロール加工幅方向の幅ひずみ比、単位断面積あたりの抵抗値の変化および剥離強度の測定結果を、下記表3に示す。
【表3】
【0091】
<考察>
表3より、実施例のアルミニウム積層体と比較例のアルミニウム積層体を比較すると、実施例1~4のアルミニウム積層体は、比較例1~10のアルミニウム積層体では到達し得ない、好ましくは20000回以上、より好ましくは25000回以上という極めて高い屈曲回数nを達成しており、繰り返し曲げに対する極めて優れた屈曲性に優れていることが判った。また、実施例1~4のアルミニウム積層体は、単位断面積あたりの電気抵抗値の変化が600mΩ/mm以下であることから、アルミニウム積層体中のアルミニウム箔(層)が殆ど損傷を受けておらず、アルミニウム箔特有の高い電磁波シールド特性を保持していることが推察される。
【0092】
また、実施例1~4のアルミニウム積層体のように高い電磁波シールド特性を保持ながら、繰り返し曲げに対する極めて高い屈曲性を得るためには、アルミニウム箔(層)に少なくとも1層以上の樹脂フィルム(層)を積層し、そしてアルミニウム箔(層)の厚みtをアルミニウム積層体の厚みtに対して40%以上60%以下とし、アルミニウム積層体のロール加工方向の0.2%耐力を50.0N/mmよりも高くし、アルミニウム積層体のロール加工方向の破断伸びを30.0%以上とし、アルミニウム積層体のロール加工幅方向の幅ひずみ比を0.60以上とすることが極めて重要であることが判った。
【0093】
さらに、上述の特性を得るためには、表1及び3より、アルミニウム積層体に用いられるアルミニウム箔は、X線回折において(111)面、(200)面、(220)面および(311)面のそれぞれを示す各回折強度の合計である合計回折強度Iに対する(200)面を示す回折強度I200の比率P200を30%以上60%以下とし、且つ合計回折強度Iに対する(220)面を示す回折強度I220の比率P220を10%以上40%以下とすること、アルミニウム箔中の鉄の含有量を0.4質量%以上1.7質量%以下とすること、または一層のアルミニウム箔(層)の厚みを5μm以上300μm以下とすることが有効であることが判った。
【0094】
また、樹脂フィルムについては、表2及び3より、ポリエチレンテレフタレート系樹脂を含んでいることが有効であり、さらに、アルミニウム積層体については、樹脂フィルム(層)とアルミニウム箔(層)の剥離強度が3.0N/15mm以上であることが好ましいことが判った。
【符号の説明】
【0095】
1a、1b、1c、1d、1e、1f・・・アルミニウム積層体
2・・・アルミニウム箔(層)
3・・・樹脂フィルム(層)
4・・・接着剤(層)
5・・・印刷層、塗工層

図1
図2
図3
図4
図5
図6